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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08B
管理番号 1350652
異議申立番号 異議2018-700368  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-01 
確定日 2019-02-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6224712号発明「高分子量および均一性の新規エステル化セルロースエーテル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6224712号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6224712号の請求項1、4ないし10に係る特許を維持する。 特許第6224712号の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6224712号の請求項1?10に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2013年8月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年8月24日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成29年10月13日にその特許権の設定登録がされ、同年11月1日にその特許公報が発行され、その後、平成30年5月1日に信越化学工業株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成30年 7月12日付け 取消理由通知
同年10月11日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年11月13日付け 通知書
同年12月19日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成30年10月11日に訂正請求書を提出し、特許第6224712号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?10について訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。

1 訂正の内容
(1)訂正事項
特許請求の範囲の請求項1及び4?10の「エステル化セルロースエーテル」を「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」に訂正する(訂正事項1-1)。
特許請求の範囲の請求項1の、「i)エステル基として、脂肪族一価アシル基、または、脂肪族一価アシル基および式-C(O)-R-COOAの基の組み合わせを有し、ここで、Rは二価脂肪族または芳香族炭化水素基であり、Aは水素またはカチオンであり、」を削除し(訂正事項1-2)、「ii)」を「i)」に訂正し、「iv)」を「iii)」に訂正する(訂正事項1-3)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「iii)1.3?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)」を「ii)2.0?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)」に訂正し、「最大4.0mPa・sの粘度」を「2.4?4.0mPa・sの粘度」に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項2及び3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の「2.0?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)」を「3.1?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)および95,000ダルトン?305,000ダルトンのM_(w)」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4の「請求項1?3のいずれか1項」を「請求項1」に訂正する。
特許請求の範囲の請求項5?10の「請求項1?4のいずれか1項」を「請求項1又は4」に訂正する。

2 本件訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1-1で「エステル化セルロースエーテル」を「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」と具体的に限定したのに伴い、訂正事項1-2で不要となった特定事項を削除するとともに、訂正事項1-3で整理上の番号をずらして記載を明瞭にしたものである。
すなわち、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記アに記載したとおり、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

新規事項の追加について
本件の願書に添付した特許請求の範囲の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートである、請求項1または2に記載のエステル化セルロースエーテル。」(請求項3)なる記載から明らかであるように、また、不要となった特定事項を削除するとともに、整理上の番号をずらして記載を明瞭にしたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2に関し、訂正前の請求項1は、「iii)1.3?3.9の多分散性Mw/Mn」と規定している。これに対し、訂正後の請求項1は、(「ii)2.0?3.9の多分散性Mw/Mn」と規定する。
訂正事項2に関し、訂正前の請求項1は、「最大4.0mPa・sの粘度」と 規定している。これに対し、訂正後の請求項1は、「2.4?4.0mPa・sの粘度」と規定する。
いずれも数値範囲を限定するものである。
すなわち、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記アに記載したとおり、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

新規事項の追加について
訂正事項2はいずれも下限を訂正しているものであるところ、本件の願書に添付した明細書の、「本発明のエステル化セルロースエーテルは、…およびさらに好ましくは少なくとも2.0…の多分散性Mw/Mnを有する」(段落0037)、「一般的に粘度は、…少なくとも2.4mPa・s…である」(段落0042)なる下限についての記載があり、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項2及び3を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記アに記載したとおり、訂正事項3は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

新規事項の追加について
訂正事項3は、上記アに記載したとおり、訂正前の請求項2及び3を削除するものであることから明らかであるように、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4に関し、訂正前の請求項4は、「2.0?3.9の多分散性Mw/Mn」と規定している。これに対し、訂正後の請求項4は、「3.1?3.9の多分散性Mw/Mnおよび95,000ダルトン?305,000ダルトンのMw」と規定し、数値範囲を限定するものである。
すなわち、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記aに記載したとおり、訂正事項4は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

新規事項の追加について
本件の願書に添付した明細書の段落0110の表2の「(比較)実施例」の「1」?「10」における、「Mw」の項の値「95」(kDA)(実施例3)及び「305」(kDA)(実施例8)、並びに「Mw/Mn」の項の値「3.1」(実施例8)及び「3.9」(実施例2)、なる記載から明らかであるように、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項4の「請求項1?3のいずれか1項」を「請求項1」に、特許請求の範囲の請求項5?10の「請求項1?4のいずれか1項」を「請求項1又は4」に、それぞれ引用請求項の範囲を減少させるものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記アに記載したとおり、訂正事項5は引用請求項の範囲を減少させることにより特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

新規事項の追加について
訂正事項5は、引用請求項の範囲を減少させただけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

なお、訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1について、請求項2?10は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?10に対応する訂正後の請求項1?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(6)小括
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1?10について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1、4?10に係る発明は、平成30年8月22日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、4?10に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」、「本件発明4」?「本件発明10」ともいう。)である。

「【請求項1】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートであって、
i)80,000ダルトン?350,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有し、
ii)1.3?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)を有し、ならびに、
iii)DIN51562-1:1999-01にしたがうウベローデ測定にしたがって、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの2.0重量%溶液として測定される、2.4?4.0mPa・sの粘度を有し、
ここで、M_(w)およびM_(n)は、40体積部のアセトニトリル、ならびに、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含む60体積部の水性緩衝液の混合物を移動相として用いるSEC-MALLSによって測定される、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
3.1?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)および95,000ダルトン?305,000ダルトンのM_(w)を有する、請求項1に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。
【請求項5】
液体希釈剤、および、少なくとも1つの、請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、組成物。
【請求項6】
少なくとも1つの、請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートに、少なくとも1つの活性成分を含む、固体分散物。
【請求項7】
請求項6に記載の固体分散物を生産するプロセスであって、a)少なくとも1つの、請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、b)1つ以上の活性成分、およびc)任意に1つ以上の添加剤を混合する工程、ならびにその混合物を押出成型する工程を含む、前記プロセス。
【請求項8】
請求項6に記載の固体分散物を生産するプロセスであって、a)少なくとも1つの、請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、b)1つ以上の活性成分、c)任意に1つ以上の添加剤、およびd)液体希釈剤を混合して液体組成物を調製する工程、ならびに前記液体希釈剤を取り除く工程を含む、前記プロセス。
【請求項9】
請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートがコーティングされている、錠剤、顆粒剤、小錠剤、カプレット、舐剤、座剤、膣坐剤及び埋め込み型物品からなる群から選択される、物品。
【請求項10】
請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、カプセルシェル。」

第4 取消理由の概要
当審が平成30年7月12日付けの取消理由通知で通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は、以下に示すとおりである。

1 特許異議申立人が申し立てた取消理由
(1)特許法第29条第2項について
ア 本件特許の請求項1?5および9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、必要であれば甲第2?4号証を証拠として、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?5および9に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 本件特許の請求項6?8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明に甲第5号証に記載された事項を組み合わせて、必要であれば甲第2?4号証を証拠として、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項6?8に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 本件特許の請求項10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明に甲第6号証に記載された事項を組み合わせて、必要であれば甲第2?4号証を証拠として、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項10に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。

そして、甲第1?6号証として、以下のものが挙げられている。
甲第1号証:特開平5-339301号公報
甲第2号証:特表2015-526565号公報
甲第3号証:甲第2号証に係る特許出願の国際段階における特許協力条約第34条補正を含む応答書、平成26年11月13日
甲第4号証:ダウ・ケミカル社錠剤コーティング用水性系METHOCELセルロースエーテルカタログ(METHOCEL Cellulose Ethers in Aqueous Systems for Tablet Coating)の表紙、第6?7頁および裏表紙
甲第5号証:特表2008-501009号公報
甲第6号証:米国特許出願公開第2012/0161364号明細書

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア エステル化セルロースエーテルの種類について
本件明細書の実施例1?10に、エステル化セルロースエーテルとしてHPMCASが製造されているだけであり、本件発明1?10は、当業者がその課題を解決できると認識できる範囲を超えており、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合せず、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、請求項1?10に係る発明の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 90,000?350,000ダルトンの高い重量平均分子量M_(w)、1.3?4.1の適度に低いM_(w)/M_(n)、および、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、エステル化セルロースエーテルの2.0重量%溶液として測定される最大4.0mPa.sの低粘度の組み合わせと医薬剤形のための腸溶性ポリマーとの関係について
90,000?350,000ダルトンの高い重量平均分子量M_(w)、1.3?4.1の適度に低いM_(w)/M_(n)、および、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、エステル化セルロースエーテルの2.0重量%溶液として測定される最大4.0mPa.sの低粘度を有する本発明のエステル化セルロースエーテルは、医薬剤形のための腸溶性ポリマーとして非常に好適となる技術常識もないため、課題が解決されたかも不明であり、本件発明1?10は、当業者がその課題を解決できると認識できる範囲を超えており、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合せず、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、請求項1?10に係る発明の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)特許法第36条第4項第1号について
ア エステル化セルロースエーテルの種類について
上記(3)アで述べたのと同様の理由により、本件発明1?10について、発明の詳細な説明の記載は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1?10は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 90,000?350,000ダルトンの高い重量平均分子量M_(w)、1.3?4.1の適度に低いM_(w)/M_(n)、および、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、エステル化セルロースエーテルの2.0重量%溶液として測定される最大4.0mPa.sの低粘度の組み合わせと医薬剤形のための腸溶性ポリマーとの関係について
上記(3)イで述べたのと同様の理由により、本件発明1?10について、発明の詳細な説明の記載は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1?10は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 当審が平成30年7月12日付けの取消理由通知で通知した取消理由
理由1 特許法第36条第4項第1号について
どのようにして本件発明1で特定される全ての範囲のM_(w)、M_(w)/M_(n)、粘度を有するエステル化セルロースエーテルを製造することができるかは不明であり、また、きわめて広範な範囲を含む本件発明1で定義されるすべてのエステル化セルロースエーテルについて製造できると当業者が理解できないから、本件の請求項1?10に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

理由2 特許法第36条第6項第1号について
きわめて広範な範囲を含む本件発明1で定義されるすべてのエステル化セルロースエーテルについて製造できると当業者が理解できず、また、本件発明1で特定される全ての範囲のM_(w)、M_(w)/M_(n)、粘度を有する部分架橋結合型エステル化セルロースエーテルを当業者が理解できるということはできないから、本件の請求項1?10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1 平成30年7月12日付けの取消理由通知で通知した取消理由について
(1)特許法第36条第4項第1号について
ア はじめに
特許制度は、発明を公開する代償として、一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから、明細書には、当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。実施可能要件を定める趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには、明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。

イ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、請求項の内容の実質的な繰り返し記載の他、以下の記載がある。
「【0036】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、80,000?350,000ダルトン、好ましくは90,000?300,000ダルトン、さらに好ましくは90,000?275,000ダルトン、最も好ましくは100,000?250,000ダルトン、および特に110,000?200,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有する。
【0037】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、少なくとも1.3、好ましくは少なくとも1.5、およびさらに好ましくは少なくとも2.0または少なくとも2.3または少なくとも2.5の多分散性M_(w)/M_(n)を有する。さらに、本発明のエステル化セルロースエーテルは、最大4.1、好ましくは最大3.9、および最も好ましくは最大3.7の多分散性を有する。」
「【0042】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、エステル化セルロースエーテルの2.0重量%溶液として測定される、最大4.0mPa.s、好ましくは最大3.6mPa.s、さらに好ましくは最大3.2mPa.sの粘度を有する。一般的に粘度は、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、エステル化セルロースエーテルの2.0重量%溶液として測定される、少なくとも2.4mPa.s、通常少なくとも2.5mPa.sである。エステル化セルロースエーテルの2.0重量%溶液は、「Hypromellose Acetate Succinate,United States Pharmacopia and National Formulary、NF 29、pp.1548-1550」で記載される通りに調製され、次いで、DIN51562-1:1999-01(1999年1月)にしたがってウベローデ粘度測定を行う。」
「【0045】
さらに、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、エステル化セルロースエーテルの2.0重量%溶液として測定される最大4.0mPa.sの低粘度であるエステル化セルロースエーテルは、効率的に生産され得る。0.43重量%水性NaOHのエステル化セルロースエーテルの粘度は、エステル化セルロースエーテルを生産するための出発材料として有用なセルロースエーテルの粘度と実質的に対応することがわかっている。出発材料として使用される低粘度セルロースエーテルは、本発明のエステル化セルロースエーテルを生産するために使用される反応混合物の良好な混和性を可能にし、均質な反応混合物をもたらす。」
「【0047】
本発明のエステル化セルロースエーテルを生産するために、好ましくは、上記の通りのエーテル基の種類およびエーテル基の置換度(複数可)を有するセルロースエーテルを使用する。セルロースエーテルは好ましくは、ASTM D2363-79(再承認、2006)にしたがって20℃の2重量%水性溶液として測定される、2.4?5mPa.s、さらに好ましくは2.5?4mPa.s、および最も好ましくは2.5?3.8mPa.sの粘度を有するヒドロキシアルキルメチルセルロースが使用される。そのような粘度のセルロースエーテルは、より高い粘度のセルロースエーテルを部分的脱重合プロセスにかけることで、得ることができる。部分的脱重合プロセスは当該技術分野で公知であり、たとえば、欧州特許出願EP第1,141,029号;EP第210,917号;EP第1,423,433号;およびUS特許第4,316,982号で説明される。または、部分的脱重合は、たとえば酸素または酸化剤の存在によって、セルロースエーテルの生産の間に達成され得る。
【0048】
セルロースエーテルを、i)脂肪族モノカルボン酸無水物またはii)脂肪族モノカルボン酸無水物およびジカルボン酸無水物の組み合わせと反応させる。好ましい脂肪族モノカルボン酸無水物は、無水酢酸、無水酪酸および無水プロピオン酸から成る群から選択される。好ましいジカルボン酸無水物は、無水コハク酸、無水マレイン酸および無水フタル酸から成る群から選択される。脂肪族モノカルボン酸無水物およびジカルボン酸無水物を組み合わせて使用する場合は、2つの無水物は同時に反応容器内に導入してもよく、または、別々に次から次へ導入してもよい。反応容器内に導入される各無水物の量を、最終生成物で得られるエステル化の所望する度合いによって決定し、通常は、エステル化による無水グルコース単位の所望するモル置換度の計算量の1?10倍である。脂肪族モノカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は、一般的に0.9/1以上、および好ましくは1/1以上である。脂肪族モノカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は一般的に8/1以下、好ましくは6/1以下、さらに好ましくは4/1以下である。ジカルボン酸の無水物を使用する場合、ジカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は一般的に0.1/1以上、およびさらに好ましくは0.13以上である。ジカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は一般的に1.5/1以下、および好ましくは1/1以下である。本発明のプロセスで用いられるセルロースエーテルの無水グルコース単位のモル数を、DS(アルコキシル)およびMS(ヒドロキシアルコキシル)から置換無水グルコース単位の平均分子量を計算することで、出発材料として使用されるセルロースエーテルの重量から決定し得る。」
「【0050】
最も好ましくは、反応希釈剤は、脂肪族カルボン酸から成る。モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は通常、(4.9/1.0)?(11.5/1.0)、好ましくは(5.0/1.0)?(10.0/1.0)、および、さらに好ましくは(5.5/1.0)?(9.0/1.0)である。
【0051】
エステル化反応は通常エステル化触媒の存在下、好ましくは、酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウムといったアルカリ金属カルボン酸塩の存在下で行われる。モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は通常、(0.4/1.0)?(3.8/1.0)、および好ましくは(1.5/1.0)?(3.5/1.0)である。
【0052】
最も好ましくは、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は、(4.9/1.0)?(11.5/1.0)であり、モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は、(0.4/1.0)?(3.3/1.0)であり、モル比(脂肪族モノカルボン酸の無水物/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(0.9/1)?(3.0/1)であり、および、モル比(ジカルボン酸の無水物/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(0.1/1)?(0.6/1)である。
【0053】
特に好ましくは、モル比(脂肪族モノカルボン酸の無水物/ジカルボン酸の無水物)は、(3.5/1)?(8.8/1)であり、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(4.9/1.0)?(11.5/1.0)である。
【0054】
反応混合物は通常60℃?110℃、好ましくは70?100℃で、反応を完全にするのに十分な期間、すなわち、一般的に2?25時間、さらに一般的には2?8時間の間、加熱する。出発材料としてのセルロースエーテルは、必ずしも脂肪族カルボン酸に溶解性であるとは限らないが、特にセルロースエーテルの置換度が比較的小さいときは脂肪族カルボン酸によってのみ分散または膨潤し得る。しかし、反応混合物を徹底的に混合し、均質な反応混合物を提供すべきである。エステル化反応がすすむにつれて、反応下のセルロースエーテルは通常反応希釈剤に溶解する。」
「【0109】
【表1】

【0110】
【表2】



ウ 判断
(ア)本件発明1について
本件発明1は、「 ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートであって、
i)80,000ダルトン?350,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有し、
ii)2.0?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)を有し、ならびに、
iii)DIN51562-1:1999-01にしたがうウベローデ測定にしたがって、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの2.0重量%溶液として測定される、2.4?4.0mPa・sの粘度を有し、
ここで、M_(w)およびM_(n)は、40体積部のアセトニトリル、ならびに、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含む60体積部の水性緩衝液の混合物を移動相として用いるSEC-MALLSによって測定される、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。」である。
本件訂正により、本件発明1はエステル化セルロースエーテルがヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートなっている。
発明の詳細な説明には、どのようにして、本件発明1に係るヒドロキシアルキルメチルセルロースアセテートサクシネートの上記粘度を調整するかについては記載されているが(【0045】、【0047】、どのようにして、上記M_(w)、M_(w)/M_(n)を調整するかについての具体的な記載はない。
しかし、M_(w)の好ましい範囲(【0036】)、M_(w)/M_(n)の好ましい範囲(【0037】)、粘度の好ましい範囲(【0042】)、原料のHPMCの粘度の範囲(【0047】)、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)、エステル化触媒であるアルカリ金属カルボン酸塩についてのモル比(アルカリ金属カルボン酸塩/ヒドロキシアルキルメチルセルロースの無水グルコース単位)、モル比(無水酢酸/無水コハク酸)、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)、反応温度、反応時間等(以上をまとめて「物性、反応条件」という。)に関する記載がある(【0048】、【0051】?【0054】)。
さらに、発明の詳細な説明には、実施例1?10として、本件発明1のヒドロキシアルキルメチルセルロースアセテートサクシネートについての記載、比較実施例A?P-2として、本件発明1に該当しないヒドロキシアルキルメチルセルロースアセテートサクシネートについての記載があり(表1?3)、実施例1及び2から、他のパラメーターが同様であれば、酢酸/HPMCのモル比を増大させることによって、M_(w)、M_(w)/M_(n)を低減させることが可能であることが理解でき、実施例3及び4から、他のパラメーターが同様であれば、酢酸ナトリウム/HPMCのモル比を減少させることによって、M_(w)、M_(w)/M_(n)を低減させることが可能であることが理解できる。
そうすると、これらの記載に接した当業者であれば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートのM_(w)、M_(w)/M_(n)、粘度は、上記物性、反応条件を変更することによって変えることができることは理解できる。そして、実施例において、M_(w)が95,000ダルトン?305,000ダルトンであるもの、M_(w)/M_(n)が3.1?3.9であるもの、粘度が2.61?2.97であるものが得られていることを考慮すると、実施例・比較実施例として記載された具体的な物質を基準として、上記物性、反応条件を変更することによって、M_(w)が80,000ダルトン?350,000ダルトンであるもの、M_(w)/M_(n)が2.0?3.9であるもの、粘度が2.4?4.0である範囲内である本件発明1のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが得ることができるといえる。

(イ)本件発明4について
本件発明4のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートも、本件発明1のものと同様に得ることができるといえる。

(ウ)本件発明5?10について
本件発明5?10は、本件発明1、4を引用するものであり、M_(w)、M_(w)/M_(n)、粘度について、本件発明1、4と同じ特定がされているから、本件発明1、4と同様に、得ることができるものであるといえる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明5?10を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

エ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成30年12月19日付けの意見書において、M_(w)が80,000ダルトン?350,000ダルトンであり、M_(w)/M_(n)が2.0?3.9であり、任意のDOS_(AC)、DOS_(S)を有するHPMCASを製造する方法が依然として不明である旨、酢酸/HPMCのモル比を低減させることでM_(w)及びM_(w)/M_(n)を増大できるという仮説は採用できない旨主張する。
しかしながら、M_(w)が80,000ダルトン?350,000ダルトンであり、M_(w)/M_(n)が2.0?3.9であり、任意のDOS_(AC)、DOS_(S)を有するHPMCASを製造する方法が依然として不明である点については、DOS_(AC)、DOS_(S)は本件発明の特定事項ではないので、M_(w)が80,000ダルトン?350,000ダルトンであり、M_(w)/M_(n)が1.3?3.9であり、任意のDOS_(AC)、DOS_(S)を有するHPMCASまで要求されるものではない。
上記ウ(ア)で述べたとおり、発明の詳細な説明には、上記物性、反応条件についての記載があり、具体的な実施例の記載もあり、実施例1及び2から、酢酸/HPMCのモル比を増大させることでM_(w)及びM_(w)/M_(n)を低減できるといえるから、上記物性、反応条件を変更することによって、実施例に記載されたM_(w)、M_(w)/M_(n)の範囲内に基づいて、本件発明1のM_(w)が80,000ダルトン?350,000ダルトンであり、M_(w)/M_(n)が2.0?3.9であるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが得られるといえる。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
本件訂正により、本件発明1?10はいずれもエステル化セルロースエーテルがヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートなっている。
また、上記(1)で述べたとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、本件発明1?4のM_(w)が80,000ダルトン?350,000ダルトンであるもの、M_(w)/M_(n)が2.0?3.9であるもの、粘度が2.4?4.0である範囲内であるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを得ることができるといえるから、本件発明1?10は発明の詳細な説明に記載したものといえる。
特許異議申立人は、平成30年12月19日付けの意見書において、上記(1)エと同様の主張をするが、当該主張については、上記(1)エで述べたとおりであり、採用することができない。

2 特許異議申立人が申し立てた理由について
(1)特許法第29条第2項について
ア 引用刊行物等及びその記載事項
甲第1号証:特開平5-339301号公報
甲第2号証:特表2015-526565号公報
甲第3号証:甲第2号証の国際段階における特許協力条約第34条補正を含む応答書、平成26年11月13日
甲第4号証:ダウ・ケミカル社錠剤コーティング用水性系METHOCELセルロースエーテルカタログ(METHOCEl Cellulose Ethers in Aqueous Systems for Tablet Coating)の表紙、第6?7頁および裏表紙、2002年7月
甲第5号証:特表2008-501009号公報
甲第6号証:米国特許出願公開第2012/0161364号明細書

(ア)甲第1号証の記載事項
a1「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、固形医薬品の腸溶性コーティング剤、写真フィルムのアンチハレーション用バインダなどとして有用なカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法に関する。」
a2)「【0020】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。
実施例1?3
双軸撹拌機を有する51ニーダ型反応機にヒドロキシプロピルメチルセルロース400gと、表1に示す量の酢酸、無水フタル酸、酢酸ナトリウムを仕込み、85℃で3時間、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと無水フタル酸とを反応させた。ヒドロキシプロピルメチルセルロースには、グルコース単位1個当りのヒドロキシプロポキシル基置換数0.24、メトキシル基置換数1.87のヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた。
【0021】次いで、反応液にその約5倍重量の水を徐々に加えて反応生成物を析出させ、その析出物を十分に水洗、乾燥した。得られた析出物を分析した結果、生成物はグルコース1個当りの2-カルボキシ-ベンゾイル基の置換数がいずれも0.65のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートだった。酢酸、無水フタル酸、酢酸ナトリウムの各仕込み量と無水フタル酸の反応効率を表1に示す。酢酸の仕込量の減少に従い無水フタル酸の反応効率が高くなっていることが分かった。
【0022】
【表1】


a3)「【0024】実施例4?6
無水フタル酸の代りに無水コハク酸と無水酢酸との混酸を用い、表2に示す量でその混酸とヒドロキシプロピルメチルセルロースとのエステル反応を行った。グルコース単位1個当りの3-カルボキシ-プロピオニル基置換数0.30、アセチル基置換数0.53のカルボン酸エステル系セルロース誘導体を得た。
【0025】酢酸、無水コハク酸、無水酢酸、酢酸ナトリウムの仕込量及び、無水フタル酸の反応効率を表1に示す。酢酸の仕込量が減少するに従って無水コハク酸及び無水酢酸の反応効率が高くなっていることが分かった。
【0026】
【表2】



(イ)甲第2号証の記載事項
b1)「【0069】
実施例1?5のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)の生産
氷酢酸、無水酢酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、無水コハク酸および酢酸ナトリウム(水なし)を、下記表1で列挙される量で、徹底的な撹拌下で3L容積の反応容器内に導入した。
【0070】
HPMCは、下記表2に列挙されるメトキシル置換(DSM)およびヒドロキシプロポキシル置換(MSHP)、ならびに、ASTM D2363-79(再承認、2006)にしたがい、20℃の水中2%溶液として測定された約3mPa・sの粘度を有した。HPMCの重量平均分子量は、約20,000ダルトンであった。HPMCは、Methocel E3 LV Premiumセルロースエーテルとして、ダウ・ケミカル・カンパニー社から市販されている。
【0071】
混合物を3.5時間の撹拌を伴って、85℃で加熱し、エステル化をもたらした。実施例1?4では、2.3Lの水を撹拌下でリアクターに添加し、HPMCASを沈殿させた。5200rpmで運転するUltra-Turrax攪拌機S50-G45を用いた高せん断混合を利用することで、沈殿した生成物をリアクターから取り除き、16Lの水で洗浄した。生成物を濾過によって単離し、50℃で一晩乾燥した。実施例5を、2Lの水をリアクターに添加し、HPMCASを沈殿させ、沈殿した生成物を3Lの水で1回、3.5Lの水で4回洗浄した点を除き、実施例1?4のように実施した。」
b2「【0081】
【表2】



(ウ)甲第3号証の記載事項
c1 アネックスAに記載の比較例Dは、モル比(酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)5.6、モル比(無水コハク酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)0.34、モル比(無水酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)1.28、モル比(酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位)1.05の反応条件下、重量平均分子量Mw247,000ダルトン、多分酸性Mw/Mn2.81のHPMCASを得ている。

(エ)甲第4号証の記載事項(訳文で示す。)
d1「グレードの紹介
錠剤コーティング用途では、METHOCEL Eのセルロースエーテルのうちプレミアム(米国薬局方、欧州薬局方、日本薬局方)グレードのみを使用すべきである。このグレードの製品は、記載があれば、アメリカ食品薬品局、米国薬局方、欧州薬局方及び日本薬局方に要求される条件を満たす。表1を参照。」(第6頁第18?22行)
d2「表1 セレクトPremium METHOCEL セルロースエーテル^(1)の物性
(販売スペックではない)
製品記載^(2) METHOCEL
E3
Premium LV
・・・
粘度^(4) 2.0%水溶液、mPa・s 2.4-3.6 」(第7頁)

(オ)甲第5号証の記載事項
e1「【請求項1】
薬物と高分子とを含む組成物であって、該高分子はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)であり、かつ該HPMCASのアセチル基の置換度(DOS_(AC))とスクシノイル基の置換度(DOS_(S))が次の条件を満たすことを特徴とする組成物:
DOS_(S)≧約0.02、
DOS_(AC) ≧約0.65、および
DOS_(AC) + DOS_(S) ≧約0.85。」
e2「【0116】
非晶質固体分散体
別の実施形態では、難溶性薬物と高分子を組み合わせて非晶質固体分散体を形成させる。「非晶質固体分散体」は難溶性薬物の少なくとも一部分が非晶質体として高分子中に分散している固形物をいう。非晶質固体分散体が好ましいのは、非晶質固体分散体はしばしばin vitroおよびin vivo使用環境中で高溶出薬物濃度を実現しうるためである。」
e3「【0124】
薬物の融点が比較的低く、一般に約200℃未満好ましくは約160℃未満であるときは、熱および/または機械エネルギーをもたらす押出法または溶融-凝固法がしばしば、ほぼ完全に非晶質である分散体の形成に適する。たとえば薬物と高分子を、水を加えてまたは水を加えずに、混合し、混合物を2軸押出機に送る。処理温度は、高分子の置換度や水を加える場合は水の量により決定される薬物と高分子の融点次第で約50℃?約200℃の間でもよい。一般に薬物と高分子の融点が高くなるほど処理温度も高くなる。一般に処理温度は、満足な(ほぼ完全に非晶質であり、実質的に一様である)分散体を生成する限りで、最も低くする。」
e4「【0126】
非晶質固体分散体を調製する別の方法は「溶媒処理」法であり、薬物と高分子を共通溶媒で溶解させるものである。溶媒が「共通」であるとは、溶媒が、化合物の混合体でもよいが、薬物と高分子の両方を溶解させることを意味する。薬物と高分子の両方が溶解したら、溶媒は留去するか、または非溶媒と混合して除去する。例示的な方法にはスプレードライ、スプレーコート(パンコーティング、流動層コーティングなど)、高分子および薬物溶液とCO2、水、または他の何らかの非溶媒とを急速に混合して沈殿させる方法などがある。好ましくは、溶媒が除去されると実質的に一様な非晶質固体分散体が形成される結果となる。溶媒法が好ましいが、それは実質的に一様な非晶質固体分散体がしばしば形成されるためである。」
e5「【0173】
添加物と剤形
組成物を錠剤、カプセル剤、懸濁用粉末剤、クリーム剤、経皮パッチ剤、デポ剤などに製剤化するには、組成物に他の添加物を加えるのが有用な場合もあろう。薬物と高分子との組成物は、該薬物を実質的に変性させない限りどんな方法でも、他剤形の成分に加えることもできる。本発明の組成物が非晶質固体分散体の形をとる場合には、添加物は該分散体と物理的に混合してもおよび/または該分散体に含有させてもよい。」
e6「【0215】
分散体17
50wt%薬物1と50wt%高分子10の非晶質固体分散体を、スプレードライ法により次の要領で調製した。高分子10(6gm)を メタノール1000mLに加え、それにTHFを1000mL加えた。混合物をかき混ぜ、沸点近くまで約45分間加熱し、高分子を溶解させた。混合物は高分子を全量加えた後はやや濁った。混合物を室温に冷まし、6gmの薬物1を加え、かき混ぜながら溶解させた。このスプレー液を高圧ポンプで、高圧ノズル(Schlick 3.5)付きスプレードライヤー(NiroタイプXP Portable Spray-Dryer + Liquid-Feed Process Vessel(PSD-1))に送った。PSD-1は9インチの乾燥延長室を設けて、ドライヤー内滞留時間を延ばし、生成物がドライヤーの、角度の付いた部分に到達する前に乾燥してしまうようにした。スプレードライヤーはまた、1/16インチのドリルホールを設け開口面積1%とした316 SS円形拡散板を備えていた。この小開口面積は乾燥ガスの流れをスプレードライヤー内の生成物の再循環の抑制に振り向けた。作業中、ノズルは拡散板と同一平面にあった。スプレー液のノズルへの給送にはBran + Lubbe N-P31高圧ポンプを使用した。ポンプの後ろにはノズル部の脈動を抑制するためのパルセーションダンパーを設けた。スプレー液のスプレードライヤーへの送液圧力は300psig、送液量は約100g/分であった。拡散板越しに乾燥ガス(窒素ガスなど)を130℃の入口温度で循環させた。蒸発溶媒と乾燥ガスは65℃の出口温度でスプレードライヤーを出た。調製された非晶質固体分散体はサイクロンで回収し、真空デシケーターで事後乾燥した。」

(カ)甲第6号証の記載事項(訳文で示す)
f1「1.腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を含む腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
2.前記腸溶性基剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
・・・
11.腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を水に溶解させた後、常温で熟成させて水性組成物を製造する段階と、
前記水性組成物を前記水性組成物のゲル化温度より低い第1温度まで予熱させる段階と、
前記ゲル化温度より高い第2温度に加熱したモールドピンを、前記水性組成物内に浸漬する段階と、
前記モールドピンを前記水性組成物から回収し、前記モールドピン上に形成された膜を得る段階と、
前記膜を前記モールドピン上に固着させるため、前記ゲル化温度以上の温度である第3温度で第1時間維持し、第4温度で第2時間乾燥させてカプセル・シェルを得る段階と、を含む腸溶性硬質カプセルの製造方法。」(特許請求の範囲)

イ 引用発明
甲第1号証には、実施例1?3にヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートが記載されており(摘示a2)、実施例4?6として「無水フタル酸の代りに無水コハク酸と無水酢酸との混酸を用い、表2に示す量でその混酸とヒドロキシプロピルメチルセルロースとのエステル反応を行った。グルコース単位1個当りの3-カルボキシ-プロピオニル基置換数0.30、アセチル基置換数0.53のカルボン酸エステル系セルロース誘導体を得た。」ことが記載されており(摘示a3)、実施例4?6で得られたものはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートサクシネートであるといえる。
したがって、甲第1号証には、以下の2つの発明が記載されているといえる。

「ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート」(以下「甲1発明1」という。)」
「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートサクシネート」(以下「甲1発明2」という。)」

ウ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 甲1発明1に基づく進歩性
(a)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1のエステル化セルロースエーテルはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートであり、本件発明1のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートと、エステル化セルロースエーテルの限りにおいて一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
エステル化セルロースエーテルについて、本件発明1がヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートであるのに対し、甲1発明1はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートである点。

(相違点2)
エステル化セルロースエーテルについて、本件発明1が、
i)80,000ダルトン?350,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有し、
ii)1.3?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)を有し、ならびに、
iii)DIN51562-1:1999-01にしたがうウベローデ測定にしたがって、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの2.0重量%溶液として測定される、2.4?4.0mPa・sの粘度を有し、
ここで、M_(w)およびM_(n)は、40体積部のアセトニトリル、ならびに、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含む60体積部の水性緩衝液の混合物を移動相として用いるSEC-MALLSによって測定されるのに対し、
甲1発明1は、M_(w)、M_(w)/M_(n)、粘度が特定されていない点。

(b)判断
上記相違点について検討する。
相違点2について検討するに、甲第1号証には、重量平均分子量M_(w)、多分散性M_(w)/M_(n)、粘度については記載も示唆もない。
甲第2号証、甲第3号証には、重量平均分子量M_(w)について、甲第4号証には粘度について記載はあるものの、多分散性M_(w)/M_(n)については記載も示唆もない。
してみると、甲1発明1において、上記相違点に係る技術的事項を採用することを当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

b 甲1発明2に基づく進歩性
(a)対比
本件発明1と甲1発明2は「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートについて、本件発明1が、
i)80,000ダルトン?350,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有し、
ii)1.3?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)を有し、ならびに、
iii)DIN51562-1:1999-01にしたがうウベローデ測定にしたがって、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの2.0重量%溶液として測定される、2.4?4.0mPa・sの粘度を有し、
ここで、M_(w)およびM_(n)は、40体積部のアセトニトリル、ならびに、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含む60体積部の水性緩衝液の混合物を移動相として用いるSEC-MALLSによって測定されるのに対し、
甲1発明2は、M_(w)、M_(w)/M_(n)、粘度が特定されていない点。

(b)判断
上記相違点について検討する。
甲第1号証には、重量平均分子量M_(w)、多分散性M_(w)/M_(n)、粘度については記載も示唆もない。
甲第2号証、甲第3号証には、重量平均分子量M_(w)について、甲第4号証には粘度について記載はあるものの、多分散性M_(w)/M_(n)については記載も示唆もない。
してみると、甲1発明2において、上記相違点に係る技術的事項を採用することを当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
したがって、本件発明1が甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(イ)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1について、さらに、重量平均分子量M_(w)、多分散性M_(w)/M_(n)を限定するものであるところ、これらの事項を相違点として有する本件発明1が甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件発明4も甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(ウ)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1または4のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む組成物であるところ、上述のとおり、本件発明1、4が甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件発明5も甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(オ)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1または4のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む固体分散物である。
ここで、甲第5号証には、「50wt%薬物1と50wt%高分子10の非晶質固体分散体を、スプレードライ法により次の要領で調製した。」としてHPMCASの固体分散体を調製することが記載されているものの(摘示e6)、この記載は上記相違点2及び3についての事項を記載・示唆するものではない。
したがって、上述のとおり、本件発明1、4が甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件発明6も甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(カ)本件発明7について
本件発明7は、本件発明6の固体分散物を生産するプロセスであって、a)少なくとも1つの、本件発明1または4のエステル化セルロースエーテル、b)1つ以上の活性成分、およびc)1つ以上の添加剤を混合する工程、ならびにその混合物を押出成型する工程を含む、前記プロセスである。
ここで、甲第5号証には、「熱および/または機械エネルギーをもたらす押出法または溶融-凝固法がしばしば、ほぼ完全に非晶質である分散体の形成に適する。たとえば薬物と高分子を、水を加えてまたは水を加えずに、混合し、混合物を2軸押出機に送る。」と記載され(摘示e3)、当該高分子はHPMCASであり(摘示e1)、「本発明の組成物が非晶質固体分散体の形をとる場合には、添加物は該分散体と物理的に混合してもおよび/または該分散体に含有させてもよい。」と記載されているものの(摘示e4)、この記載は上記相違点2及び3についての事項を記載・示唆するものではない。
したがって、上述のとおり、本件発明6が甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件発明7も甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(キ)本件発明8について
本件発明8は、本件発明6の固体分散物を生産するプロセスであって、a)少なくとも1つの、本件発明1または4のいずれのエステル化セルロースエーテル、b)1つ以上の活性成分、c)1つ以上の添加剤、およびd)液体希釈剤を混合して液体組成物を調製する工程、ならびに前記液体希釈剤を取り除く工程を含む、前記プロセスである。
ここで、甲第5号証には、薬物と高分子を共通溶媒で溶解させた後、溶媒を留去する溶媒処理法が記載され(摘示e5)、当該高分子はHPMCASであり(摘示e1)、「本発明の組成物が非晶質固体分散体の形をとる場合には、添加物は該分散体と物理的に混合してもおよび/または該分散体に含有させてもよい。」と記載されているものの(摘示e4)、この記載は上記相違点2及び3についての事項を記載・示唆するものではない。
したがって、上述のとおり、本件発明6が甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件発明8も甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(ク)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1または4のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートがコーティングされている調製物である。
ここで、甲第1号証には、HPMCASの用途として固形医薬品の腸溶性コーティング剤が記載されているものの(摘示a1)、この記載は上記相違点2及び3についての事項を記載・示唆するものではない。
したがって、上述のとおり、本件発明1または4が甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件発明9も甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(ケ)本件発明10について
本件発明10は、本件発明1または4のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、カプセルシェルである。
ここで、甲第6号証には、「腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を水に溶解させた後、常温で熟成させて水性組成物を製造する段階と、
前記水性組成物を前記水性組成物のゲル化温度より低い第1温度まで予熱させる段階と、
前記ゲル化温度より高い第2温度に加熱したモールドピンを、前記水性組成物内に浸漬する段階と、
前記モールドピンを前記水性組成物から回収し、前記モールドピン上に形成された膜を得る段階と、
前記膜を前記モールドピン上に固着させるため、前記ゲル化温度以上の温度である第3温度で第1時間維持し、第4温度で第2時間乾燥させてカプセル・シェルを得る段階と、を含む腸溶性硬質カプセルの製造方法。」が記載され(摘示f1)、腸溶性基剤にはHPMCASが含まれるものの(摘示f1)、この記載は上記相違点2及び3についての事項を記載・示唆するものではない。
したがって、上述のとおり、本件発明1または4が甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件発明10も甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4、6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 特許異議申立人の主張について
甲第1号証の実施例6で使用した出発物質HPMCの種類は不明であるが、甲第2号証に記載の市販品をMethocel E3 LV Premiumセルロースを使用すれば、酢酸のモル比が比較例Dよりも増加した甲第1号証の実施例6は、比較例Dよりも重量平均分子量M_(w)が若干減少し、多分散性M_(w)/M_(n)は比較例Dとほぼ同じになり、i)80,000ダルトン?350,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有し、ii)1.3?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)を有する蓋然性が高く、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの2.0重量%溶液として測定される粘度も最大4.0mPa・sとなる蓋然性が高い旨主張している。
しかし、甲第1号証の実施例6で使用した出発物質HPMCの種類は不明であるし、甲第1号証と甲第2号証で反応条件等が異なる以上、実施例6のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量M_(w)、多分散性M_(w)/M_(n)、粘度の数値範囲が上記の範囲となる蓋然性が高いとはいえない。
したがって、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
90,000?350,000ダルトンの高い重量平均分子量M_(w)、2.0?4.1の適度に低いM_(w)/M_(n)、および、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、エステル化セルロースエーテルの2.0重量%溶液として測定される2.4?4.0mPa.sの低粘度の組み合わせと医薬剤形のための腸溶性ポリマーとの関係について
特許異議申立人の主張する理由は、(3)イのとおり、90,000?350,000ダルトンの高い重量平均分子量M_(w)、1.3?4.1の適度に低いM_(w)/M_(n)、および、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、エステル化セルロースエーテルの2.0重量%溶液として測定される2.4?4.0mPa.sの低粘度を有する本発明のエステル化セルロースエーテルは、医薬剤形のための腸溶性ポリマーとして非常に好適となる技術常識もないため、課題が解決されたかも不明であるというものである。
しかし、段落[0036]には、本発明のエステル化セルロースエーテルは80,000?350,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有すると記載され、段落[0043]には、本発明のエステル化セルロースエーテルは予測され得るよりも高い重量平均分子量M_(w)を有し、より高いこの分子量は、疎水性/親水性鎖結合および/または架橋結合反応によって作り出されていると考えられると記載され、段落[0044]には、「 90,000?350,000ダルトンの高い重量平均分子量M_(w)、1.3?4.1の適度に低いM_(w)/M_(n)、および、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、エステル化セルロースエーテルの2.0重量%溶液として測定される最大4.0mPa.sの低粘度の組み合わせにより、本発明のエステル化セルロースエーテルは、医薬剤形のための腸溶性ポリマーとして非常に好適である。エステル化セルロースエーテルの高分子量は、胃液に対して強化された体制を提供する。本発明のエステル化セルロースエーテルの適度に低いM_(w)/M_(n)は、エステル化セルロースエーテルの、非常に均一な分子量分布を意味する。適度に高い均一性は医薬剤形のための腸溶性ポリマーにとって好ましく、各剤形の特性の再現性を増大し、これは、剤形の効率の予測性を最大化する。」と記載され、80,000?350,000ダルトンの高い重量平均分子量M_(w)、1.3?4.1の適度に低いM_(w)/M_(n)、および、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、エステル化セルロースエーテルの2.0重量%溶液として測定される2.4?4.0mPa.sの低粘度を有する本発明のエステル化セルロースエーテルは課題を解決できるといえることから、本件発明1?10について、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。

(3)特許法第36条第4項第1号について
特許異議申立人が主張する理由は、上記(2)と同様の理由であるところ、当該理由が成り立たないのは上記(2)で述べたとおりであるから、発明の詳細な説明の記載が本件発明1、4?10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできない。

第6 むすび
したがって、本件発明1、4?10に係る特許は、平成30年6月12日付けの取消理由通知で通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件発明1、4?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2、3に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項2、3に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートであって、
i)80,000ダルトン?350,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有し、
ii)2.0?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)を有し、ならびに、
iii)DIN51562-1:1999-01にしたがうウベローデ測定にしたがって、20℃の0.43重量%水性NaOH中の、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの2.0重量%溶液として測定される、2.4?4.0mPa^(・)sの粘度を有し、
ここで、M_(w)およびM_(n)は、40体積部のアセトニトリル、ならびに、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含む60体積部の水性緩衝液の混合物を移動相として用いるSEC-MALLSによって測定される、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
3.1?3.9の多分散性M_(w)/M_(n)および95,000ダルトン?305,000ダルトンのM_(w)を有する、請求項1に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。
【請求項5】
液体希釈剤、および、少なくとも1つの、請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、組成物。
【請求項6】
少なくとも1つの、請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートに、少なくとも1つの活性成分を含む、固体分散物。
【請求項7】
請求項6に記載の固体分散物を生産するプロセスであって、a)少なくとも1つの、請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、b)1つ以上の活性成分、およびc)任意に1つ以上の添加剤を混合する工程、ならびにその混合物を押出成型する工程を含む、前記プロセス。
【請求項8】
請求項6に記載の固体分散物を生産するプロセスであって、a)少なくとも1つの、請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、b)1つ以上の活性成分、c)任意に1つ以上の添加剤、およびd)液体希釈剤を混合して液体組成物を調製する工程、ならびに前記液体希釈剤を取り除く工程を含む、前記プロセス。
【請求項9】
請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートがコーティングされている、錠剤、顆粒剤、小錠剤、カプレット、舐剤、座剤、膣坐剤及び埋め込み型物品からなる群から選択される、物品。
【請求項10】
請求項1又は4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、カプセルシェル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-02-08 
出願番号 特願2015-528529(P2015-528529)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08B)
P 1 651・ 537- YAA (C08B)
P 1 651・ 536- YAA (C08B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三原 健治  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 保
瀬下 浩一
登録日 2017-10-13 
登録番号 特許第6224712号(P6224712)
権利者 ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
発明の名称 高分子量および均一性の新規エステル化セルロースエーテル  
代理人 古賀 哲次  
代理人 胡田 尚則  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 三橋 真二  
代理人 出野 知  
代理人 胡田 尚則  
代理人 青木 篤  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 古賀 哲次  
代理人 出野 知  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 三橋 真二  
代理人 齋藤 都子  
代理人 松井 光夫  
代理人 齋藤 都子  
代理人 石田 敬  
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