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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1350673
異議申立番号 異議2018-701027  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-19 
確定日 2019-04-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6350589号発明「植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6350589号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6350589号の請求項1?4に係る特許についての出願は,平成23年2月14日に出願した特願2011-28784号の一部を平成27年4月3日に新たな特許出願とした特願2015-77249号の一部をさらに平成28年4月28日に新たな特許出願としたものであって,平成30年6月15日にその特許権の設定登録がされ,平成30年7月4日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,平成30年12月19日に特許異議申立人土田裕介(以下「申立人A」という。)により,平成30年12月25日に特許異議申立人一條淳(以下「申立人B」という。)により,平成30年12月28日に特許異議申立人山田宏基(以下「申立人C」という。)により,それぞれ特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第6350589号の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリエチレン系樹脂からなるフィルムであって、
サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法により得られたサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を中間層とし、
外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成によるフィルム(但し、延伸したフィルムを除く。)をヒートシール性フィルムとする包装材用シーラントフィルムであって、
前記サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が80?100%を有するエチレン-α-オレフィン共重合体である該包装材用シーラントフィルム。
【請求項2】
前記α-オレフィンが、ブテン-1またはヘキセン-1またはこれらの混合物であって、前記サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の密度が0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレートが0.5?4.0g/10分の物性を有することを特徴とする請求項1に記載の包装材用シーラントフィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の包装材用シーラントフィルムを、基材フィルムと積層させたことを特徴とする包装材用積層フィルム。
【請求項4】
請求項3に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。」

第3 申立ての理由の概要
1.申立人Aの主張する取消理由の概要
申立人Aは,以下の甲第1?11号証を提出し,取消理由A1及び取消理由A2を主張している。

甲第1号証:特開2008-44356号公報(以下「甲A1」という。)
甲第2号証:杉山英路,外1名,“地球環境にやさしい「サトウキビ由来のポリエチレン」”,コンバーテック,株式会社加工技術研究会,2009年8月15日,第37巻,第8号,通巻437号,p.63-67(以下「甲A2」という。)
甲第3号証:「ポリ乳酸グリーンプラスチックの開発と応用-植物系樹脂の実用化-」,株式会社フロンティア出版,2005年7月20日,p.33-39(以下「甲A3」という。)
甲第4号証:「2009年版 機能性高分子フィルムの現状と将来展望」,株式会社富士キメラ総研,2008年12月1日,p.308-313(以下「甲A4」という。)
甲第5号証:「2011年版 機能性高分子フィルムの現状と将来展望」,株式会社富士キメラ総研,2011年3月2日,p.379-385(以下「甲A5」という。)
甲第6号証の1:“アイセロ化学 植物由来ポリエチレンを活用した包装材料の共同開発に合意”,[online],2009年2月9日,[平成30年12月7日検索],インターネット<URL:http://www.aicello.co.jp/news/>(以下「甲A6の1」という。)
甲第6号証の2:“アイセロ化学 植物由来ポリエチレン製ラミネート用フィルムの開発に成功”,[online],2011年1月28日,[平成30年12月7日検索],インターネット<URL:http://www.aicello.co.jp/news/>(以下「甲A6の2」という。)
甲第7号証の1:国際公開第2009/070858号(以下「甲A7の1」という。)
甲第7号証の2:特表2011-506628号公報(以下「甲A7の2」という。)
甲第8号証:「Grade List of Braskem Green Polyethylene」,TOYOTA TSUSHO CORPORATION(以下「甲A8」という。)
甲第9号証:「包装用フイルム概論」,株式会社東洋紡パッケージング・プラン・サービス,1997年3月30日,p.44-56(以下「甲A9」という。)
甲第10号証:特開2009-149013号公報(以下「甲A10」という。)
甲第11号証:特開2008-265115号公報(以下「甲A11」という。)

以下,甲A1に記載された発明を「甲A1発明」といい,甲A2等に記載された事項を「甲A2記載事項」等という。
なお,甲A5は,本件特許についての出願のもとの出願である特願2015-77249号のさらにもとの出願である特願2011-28784号の出願日(平成23年2月14日)後に公知になったものである。また,甲A8の公知日は不明であるが,右上に「2014年3月」と記載されていることから,同出願日(平成23年2月14日)後に公知になったものと推認される。
さらに,当審が職権で調査したところによれば,甲A6の1の2ページ目は,特許異議申立書に示されたURLではなく,同ページの左下に表示された<URL:http://www.aicello.co.jp/news/090209/>上の情報を印刷したものであり,甲A6の2の2ページ目は,特許異議申立書に示されたURLではなく,同ページの左下に表示された<URL:http://www.aicello.co.jp/news/110128/>上の情報を印刷したものである。

(1)取消理由A1
本件発明1?4は,甲A1発明,甲A2記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1?4に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

(2)取消理由A2
本件特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく,請求項1?4に係る特許は,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

2.申立人Bの主張する取消理由の概要
申立人Bは,以下の甲第1?3号証を提出し,取消理由B1を主張している。

甲第1号証:特許第3003996号公報(以下「甲B1」という。)
甲第2号証:杉山英路,外1名,“地球環境にやさしい「サトウキビ由来のポリエチレン」”,コンバーテック,株式会社加工技術研究会,2009年8月15日,第37巻,第8号,通巻437号,p.63-67(以下「甲B2」という。)
甲第3号証:特表2010-511634号公報(以下「甲B3」という。)

以下,甲B1に記載された発明を「甲B1発明」といい,甲B2等に記載された事項を「甲B2記載事項」等という。
なお,甲B2は甲A2と同じ文献の写しである。

(1)取消理由B1
本件発明1?4は,甲B1発明及び甲B2?甲B3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1?4に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

3.申立人Cの主張する取消理由の概要
申立人Cは,以下の甲第1?6号証を提出し,取消理由C1を主張している。

甲第1号証:特開平10-114037号公報(以下「甲C1」という。)
甲第2号証:杉山英路,外1名,“地球環境にやさしい「サトウキビ由来のポリエチレン」”,コンバーテック,株式会社加工技術研究会,2009年8月15日,第37巻,第8号,通巻437号,p.63-67(以下「甲C2」という。)
甲第3号証:国際公開第2009/070858号(以下「甲C3」という。)
甲第4号証:藤本省三,外3名,“L-LDPEのフィルム加工について”,東洋曹達研究報告,1983年,第27巻,第2号,p.87-98(以下「甲C4」という。)
甲第5号証:宇部丸善ポリエチレン株式会社 HP製品紹介(以下「甲C5」という。)
甲第6号証:特開平6-32946号公報(以下「甲C6」という。)

以下,甲C1に記載された発明を「甲C1発明」といい,甲C2等に記載された事項を「甲C2記載事項」等という。
なお,甲C2は甲A2と同じ文献の写しである。
また,当審が職権で調査したところによれば,甲C5の1ページ目は,同ページの左下に表示された<URL:https://www.ube-ind.co.jp/ump/products/ldpe/f120n.html>上の情報を印刷したものであり,甲C5の2ページ目は,同ページの左下に表示された<URL:https://www.ube-ind.co.jp/ump/products/umerit/1520f.html#header>上の情報を印刷したものである。いずれも公知日は不明である。

(1)取消理由C1
本件発明1?4は,甲C1発明及び甲C2?甲C6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1?4に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
1.申立人Aの主張する取消理由A1(特許法第29条第2項)について
(1)甲A1発明
甲A1の【請求項1】,段落【0001】,【0006】?【0007】,【0013】,【0022】,【0057】?【0058】,【0061】,【0070】,【0075】,【0077】等の記載を総合すると,甲A1には次の甲A1発明が記載されているといえる。

「第1層:生物由来成分を25%以上含むポリエステル系樹脂(a)と,ポリオレフィン系樹脂(b)とを含有する樹脂組成物Aからなる層と,
第3層:ポリオレフィン系樹脂(b)を主成分として含有する層と,
第4層:接着性樹脂(c)を主成分として含有する層と,を備え,
第3層/第4層/第1層/第4層/第3層の積層構成を有し,
外層にヒートシール性能が求められるPTP包装又はブリスター包装に熱成形して用いられる,
積層シート状物。」

(2)甲A2記載事項
甲A2には以下の記載がある。

ア 「ポリエチレン原料を従来の石油系原料から再生可能なサトウキビ(バイオマス系)に置き換えることは、植物の成育時のCO_(2)吸収と燃焼時の排出が同一(カーボンニュートラル)になり、地球上のCO_(2)を増やさないので地球環境にやさしく、また石油資源利用の節約にも貢献する。」(63頁左欄下から8行?末行)

イ 「サトウキビ由来ポリエチレンの製造フローを図1に示す。サトウキビ畑より刈り取ったサトウキビを圧延ローラーで糖液を取り出し、その糖液を加熱濃縮して結晶化する粗糖分(砂糖原料)と残糖液(廃糖蜜)を遠心分離器により分離する。この廃糖蜜を適切な濃度まで水で希釈して酵母菌により発酵させエタノールを作る。次にバイオエタノールを300?400℃に加熱してアルミナ等の触媒により分子内脱水反応させると高い収率でエチレンが生成される。生成物にはエチレン以外に水分、有機酸、一酸化炭素等の不純物が含まれるので必要な純度までエチレンを精製して、次の工程のポリエチレン重合プラントへ導入する。ポリエチレン重合プラントで重合触媒によりエチレンを高分子化(重合)してポリエチレンを生産する。」(63頁中央欄3行?下から6行)

ウ 「当社とBraskem社は共同でトリウンフォ工場内の研究開発センターで図2にある試験設備により同等性を評価した。
(1)エチレン
試験設備にバイオマス由来エタノールを導入し、出来上がったエチレンの成分分析を行った結果、従来の石油由来エチレンとの品質同等性を確認した。
(2)ポリエチレン
試験重合機に石油系エチレンとバイオマス系エチレンをそれぞれ投入し、同1条件でポリエチレン重合し、出来上がったポリマーの同等性を検討した。この結果を表1に示す。多少の数値上の差異はあるが、テスト重合機の条件設定に影響されていると考えられ、基本的にはいずれの用途グレードとも石油系、バイオマス系の品質は同等であることが確認できた。」(63頁右欄6行?末行)

エ 「サトウキビ由来ポリエチレンはBraskem社のトリウンフォ工場で、2011年から高密度ポリエチレン(HDPE)と直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を合わせて年間20万トン生産される計画である。」(64頁左欄4行?中央欄4行)

オ 「


」(64頁)

カ 「今回開発されたサトウキビ由来ポリエチレンは植物由来の樹脂であるが、従来から生産されてきた石油由来ポリエチレンと外観、物性が同じあり、バイオマス度(カーボンの由来比)を数値化することが重要であると考え、^(14)C(放射性炭素年代測定)による分析手法により判別を行った。図6は、Braskem社の試験プラントで試作したサトウキビ由来のHDPEを米国のベータアナリティック社においてASTM D6866^(2))測定法に基づいて炭素分析した結果であるが、100%バイオベースであることが確認された。」(65頁左欄下から3行?中央欄10行)

上記オの「コモノマー」欄の「C4」について,「C4」がブテン-1というα-オレフィンであることは当業者にとって明らかである。また,この「C4」についてバイオマス由来であるとの記載がないことから,この「C4」は,従来どおりの石油由来のものであると解するのが自然である。
そうすると,甲A2には,次の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(以下「甲A2樹脂」という。下記3.又は4.においては,「甲B2樹脂」又は「甲C2樹脂」ともいう。)が記載されているといえる。

「サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとを重合して得られたサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であって,α-オレフィンが,ブテン-1であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂。」

(3)対比
本件発明1と甲A1発明とを対比すると,両者は少なくとも以下の相違点A1及びA2で相違している。
(相違点A1)本件発明1のフィルムは,ポリエチレン系樹脂からなるものであるのに対し,甲A1発明の積層シート状物は,少なくとも生物由来成分を25%以上含むポリエステル系樹脂(a)を含有しており,ポリエチレン系樹脂からなるものではない点。
(相違点A2)本件発明1は,サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法により得られたサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であって,放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が80?100%を有するエチレン-α-オレフィン共重合体であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を中間層としたものであるのに対し,甲A1発明は,生物由来成分を25%以上含むポリエステル系樹脂(a)と,ポリオレフィン系樹脂(b)とを含有する樹脂組成物Aを第1層としたものである点。

(4)相違点A1及びA2についての判断
相違点A1は相違点A2と関連するものであるので,相違点A1及びA2についてあわせて検討する。
甲A1発明の「第1層」は,「生物由来成分を25%以上含むポリエステル系樹脂(a)と,ポリオレフィン系樹脂(b)とを含有する樹脂組成物Aからなる」ものであるところ,甲A1発明において,生物由来原料をできるだけ多く用いるという課題(段落【0007】を参照のこと)を考慮し,第1層のポリオレフィン系樹脂(b)を,ポリオレフィン系樹脂であり,生物由来原料である甲A2樹脂とすることは,当業者であれば容易に想到し得ることであるといえる。
しかしながら,甲A1の段落【0058】の「樹脂組成物Aは、生物由来成分を25%以上含むポリエステル系樹脂(a)とポリオレフィン系樹脂(b)を含有することが必要である。」との記載(下線は当審で付した。)からも明らかであるように,甲A1発明の生物由来成分を25%以上含むポリエステル系樹脂(a)は第1層の必須成分であり,必須成分である生物由来成分を25%以上含むポリエステル系樹脂(a)を第1層から取り除く動機付けを,甲A1記載事項から見いだすことはできない。
また,甲A1発明の生物由来成分を25%以上含むポリエステル系樹脂(a)とサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂である甲A2樹脂は,生物由来成分を含む樹脂であるという点で一応共通するものの,両者は樹脂の種類が異なり,当然に特性も異なるものであるから,生物由来成分を含む樹脂であるという共通性のみで,甲A1発明の生物由来成分を25%以上含むポリエステル系樹脂(a)に換えて,甲A2樹脂を用いることが動機付けられるともいえない。
加えて,甲A3?甲A11記載事項を考慮したとしても,甲A1発明の生物由来成分を25%以上含むポリエステル系樹脂(a)を第1層から取り除く動機付けや,甲A1発明の生物由来成分を25%以上含むポリエステル系樹脂(a)に換えて甲A2樹脂を用いる動機付けはやはり見いだせない。
なお,申立人Aが特許異議申立書(第23頁5?6行)において,証拠を挙げるまでもない周知技術として示した「無延伸フィルムはヒートシール性に優れ、これに比べて延伸フィルムはヒートシール性が劣ること」は,相違点A1及びA2についての判断に関連するものではない。
よって,甲A1発明において,第1層を,甲A2樹脂からなるものとすることが当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。

(5)効果の検討
本件発明1は,上記相違点A1及びA2に係る構成により,本件明細書の段落【0010】に記載の効果を奏するものである。

(6)小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲A1発明,甲2記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明1を引用する本件発明2?4も,甲A1発明と少なくとも上記相違点A1及びA2で相違するものであるから,本件発明1と同じ理由により,甲A1発明,甲2記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.申立人Aの主張する取消理由A2(特許法第36条第6項第2号)について
申立人Aは,特許異議申立書(第25頁1?9行)において、本件請求項1の記載について,「サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」が「サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法」により得られたものであり,「石油由来α-オレフィン」を原料として含むことを特定する一方, その「バイオマス度」の上限値を「100%」と特定している点で矛盾がある旨の主張をしている。そこで,サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂が石油由来α-オレフィンを原料として含む場合に,「バイオマス度」が「100%」という値をとり得るかについて,以下検討する。
本件明細書の段落【0031】には「このバイオマス度の測定は、測定対象試料を燃焼して二酸化炭素を発生させ、真空ラインで精製した二酸化炭素を、鉄を触媒として水素で還元し、グラファイトを生成させる。そして、このグラファイトをタンデム加速器をベースとした^(14)C-AMS専用装置(NEC社製)に装着して、^(14)Cの計数、^(13)Cの濃度(^(13)C/^(12)C)、^(14)Cの濃度(^(14)C/^(12)C)の測定を行い、この測定値から標準現代炭素に対する試料炭素の^(14)C濃度の割合を算出する。この測定では、米国国立標準局(NIST)から提供されたシュウ酸(HOxII)を標準試料とした。」との記載がされており,本件請求項1の「バイオマス度」も,この記載のとおり,NISTから提供されたシュウ酸を標準試料として測定されるものであると解される。そして,バイオマス度の測定に関して,NISTから提供されるシュウ酸が1950年代以前のものである一方,その後の大気圏核実験により大気中に人工的に^(14)Cが注入されたことにより,当該シュウ酸を標準試料としてバイオマス原料のバイオマス度を測定した場合,100%より大きな値が算出され得ることは当業者にとっての技術常識である(必要であれば,技術常識を示す文献の例として「国岡正雄,“加速器質量分析によるバイオマス炭素14の含有率の測定方法”,RADIOISOTOPES,2009年,第58巻,第11号,p.767-779」を参照されたい。)。
そうすると,サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂が石油由来α-オレフィンを原料として含むものであるとしても,サトウキビ由来エチレンに含まれる^(14)Cの割合や石油由来α-オレフィンの含量に応じて,直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の「バイオマス度」は「100%」という値をとり得るものであるといえるから,本件請求項1の記載に矛盾はない。

以上のとおりであるから,本件請求項1の記載は明確であり,本件特許請求の範囲の記載について,特許法第36条第6項第2号に適合しないとはいえない。

3.申立人Bの主張する取消理由B1(特許法第29条第2項)について
(1)甲B1発明
甲B1の【請求項1】,段落【0005】?【0008】,【0013】,【0017】?【0020】,【0026】?【0028】,【0030】?【0032】,【0059】等の記載を総合すると,甲B1には,次の甲B1発明が記載されているといえる。

「基層とヒートシール層とからなる包装・充填用フィルムとして使用される積層フィルムのヒートシール層であって,
エチレン・α-オレフィン共重合体とエチレン重合体を含有する樹脂組成物から形成され,樹脂組成物のMFRが5?25/10分,密度が0.87?0.932g/cm^(3),Q値が2?10,ME(3g)が1.2?2.3,MTが1.0以上であり,MEとMTの関係が
ME≧[0.2×MT+1]/g
を満たし,ヒートシール層同志をシール温度110℃;シール圧力2kg/cm^(2);シール時間1秒でヒートシールした時のシール強度が2.9?5.9kg/15mmであり,且つ3kg荷重ヒートシール温度が84?114℃であるヒートシール層。」

なお,申立人Bは,特許異議申立書(第13頁下から4行?第14頁4行)において,甲B1には,「ポリエチレン系樹脂からなるフィルムであって,石油由来α-オレフィンの気相重合法により得られた直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を基層とし,外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成によるフィルムをヒートシール性フィルムとする包装材用シーラントフィルムであって,エチレン-α-オレフィン共重合体である該包装材用シーラントフィルム。」が記載されている旨主張している。
しかしながら,甲B1には,エチレン・α-オレフィン共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂が,エチレン重合体と配合されることなしに,それ単独で基層を構成することについての記載はない上,包装材用シーラントフィルムが外層及び内層を備えた多層構成であることについての記載もないから,申立人Bの主張するとおりの包装材用シーラントフィルムが甲B1に記載されているとは認められない。

(2)甲B2記載事項
前述のとおり,甲B2は甲A2と同じ文献の写しである。甲B2には,上記1.(2)で示した甲A2樹脂と同様の甲B2樹脂が記載されている。

(3)対比
本件発明1と甲B1発明とを対比すると,両者は少なくとも以下の相違点B1及び相違点B2で相違している。
(相違点B1)本件発明1は,ヒートシール性フィルムである包装材用シーラントフィルムが,中間層と,石油由来ポリエチレン系樹脂からなる外層及び内層を有する多層構成によるフィルム(但し,延伸したフィルムを除く。)であるのに対し,甲B1発明は,ヒートシール層が,中間層と,石油由来ポリエチレン系樹脂からなる外層及び内層を有する多層構成を備えたものではない点。
(相違点B2)本件発明1は,サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法により得られたサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であって,放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が80?100%を有するエチレン-α-オレフィン共重合体であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を中間層としたものであるのに対し,甲B1発明は,ヒートシール層がエチレン・α-オレフィン共重合体とエチレン重合体を含有する樹脂組成物から形成されたものである点。

(4)相違点B1及びB2についての判断
ア 相違点B1について
甲B1には,ヒートシール層を多層構成とすることについての記載も示唆もない。
また,甲B1発明は,ヒートシール層同志をシール温度110℃;シール圧力2kg/cm^(2);シール時間1秒でヒートシールした時のシール強度が2.9?5.9kg/15mmであり,且つ3kg荷重ヒートシール温度が84?114℃であるヒートシール層を使用することにより,包装時のシールしやすさや包装後のシール性能に優れたものとしたものである(特に,段落【0005】,【0032】を参照のこと)ところ,甲B1発明において,石油由来ポリエチレン系樹脂からなる外層及び内層を付加してヒートシール層を中間層としてしまうと,ヒートシール層同志がヒートシールされることがなくなり,ヒートシール層の優れたヒートシール性能が発揮されることもなくなるから,甲B1発明において,石油由来ポリエチレン系樹脂からなる外層及び内層を付加してヒートシール層を中間層とすることが当業者であれば適宜なし得る設計的事項であるともいえない。

イ 相違点B2について
甲B1発明の「ヒートシール層」は,「エチレン・α-オレフィン共重合体とエチレン重合体を含有する樹脂組成物」から形成されたものであるところ,甲B1の段落【0002】?【0005】,【0026】等の記載を考慮すると,この「エチレン重合体」は,「エチレン・α-オレフィン共重合体」の乏しい加工性を改良するという発明の目的を達成するためにブレンドされる必須成分であるといえる。
そうすると,甲B1発明において,エチレン・α-オレフィン共重合体とエチレン重合体を含有する樹脂組成物に換えて,エチレン・α-オレフィン共重合体である甲B2樹脂を用いるということは,加工性を改良するという発明の目的に反して,必須成分であるエチレン重合体を除去するということにほかならず,甲B1発明には,エチレン・α-オレフィン共重合体とエチレン重合体を含有する樹脂組成物をエチレン・α-オレフィン共重合体である甲B2樹脂に置換する論理付けを妨げる要因(いわゆる阻害要因)があるというべきである。
なお,甲3記載事項を考慮しても,甲B1発明において,エチレン・α-オレフィン共重合体とエチレン重合体を含有する樹脂組成物をエチレン・α-オレフィン共重合体である甲B2樹脂に置換することが当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲B1発明及び甲B2?甲B3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明1を引用する本件発明2?4も,甲B1発明と少なくとも上記相違点B1及び相違点B2で相違するものであるから,本件発明1と同じ理由により,甲B1発明及び甲B2?甲B3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.申立人Cの主張する取消理由C1(特許法第29条第2項)について
(1)甲C1発明
甲C1の【請求項1】,段落【0001】,【0009】,【0011】等の記載を総合すると,甲C1には,次の甲C1発明が記載されているといえる。

「易引裂き性ラミネートフィルムの包装袋に用いられるシーラントフィルムであって,
外層及び内層を,引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレンフィルム層とし,
中間層を,通常の直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる引裂きの方向性があるフィルム層としてなる,
シーラントフィルム。」

(2)甲C2記載事項
前述のとおり,甲C2は甲A2と同じ文献の写しである。甲C2には,上記1.(2)で示した甲A2樹脂と同様の甲C2樹脂が記載されている。

(3)対比
本件発明1と甲C1発明とを対比すると,両者は少なくとも以下の相違点C1で相違している。
(相違点C1)本件発明1は,サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法により得られたサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であって,放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が80?100%を有するエチレン-α-オレフィン共重合体であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を中間層としたものであるのに対し,甲C1発明は,通常の直鎖状低密度ポリエチレンと,低密度ポリエチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性があるフィルム層を中間層としたものである点。

なお,申立人Cは,特許異議申立書(第8頁9行?第9頁11行)において,本件発明1の「サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を中間層とし」について,本件明細書の実施例4?7の記載に基づけば,“サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレンを少なくとも含む中間層とし”という意味に解釈するのが相応であり,本件発明1と甲C1発明は,中間層が直鎖状低密度ポリエチレンを少なくとも含む点では一致する旨の主張をしている。
しかしながら,本件発明1の「サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を中間層とし」については,サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を中間層とするのであるから,“中間層がサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなる”という意味に解釈すべきことが文理上明確であって,申立人Cの主張する“サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレンを少なくとも含む中間層とし”という意味に解釈する余地はない。そして,本件明細書の実施例4?7が,このように解釈される本件発明1に対応するものでないことは明らかである。
なお,このような解釈は,本件特許についての出願に対する拒絶査定不服審判の審判請求書(平成30年3月5日提出)の第7頁2?7行で「そして、本願発明の中間層は、サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法にて得られたサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなる層であって、該サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が80?100%を有するエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする発明です。」(下線は当審で付した。)と説明されていることとも整合するものである。
よって,申立人Cの上記主張は採用できない。

(4)相違点C1についての判断
甲C1発明の「中間層」は「通常の直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとからなる引裂きの方向性があるフィルム層」であるところ,甲C1の段落【0007】?【0010】等の記載を考慮すると,この「低密度ポリエチレン」は,ラミネートフィルムを易引裂き性とするという発明の目的を達成するために配合される必須成分であるといえる。
そうすると,甲C1発明において,中間層の材料として,通常の直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物に換えて,直鎖状低密度ポリエチレンである甲C2樹脂を用いるということは,ラミネートフィルムを易引裂き性とするという発明の目的に反して,必須成分である低密度ポリエチレンを除去するということにほかならず,甲C1発明には,通常の直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物を直鎖状低密度ポリエチレンである甲C2樹脂に置換する論理付けを妨げる要因(いわゆる阻害要因)があるというべきである。
また,甲C3?甲C6記載事項を考慮しても,甲C1発明において,通常の直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物を直鎖状低密度ポリエチレンである甲C2樹脂に置換することが当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲C1発明及び甲C2?甲C6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明1を引用する本件発明2?4も,甲C1発明と少なくとも上記相違点C1で相違するものであるから,本件発明1と同じ理由により,甲C1発明及び甲C2?甲C6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
したがって,申立人Aによる特許異議の申立ての理由及び証拠,申立人Bによる特許異議の申立ての理由及び証拠並びに申立人Cによる特許異議の申立ての理由及び証拠のいずれによっても,請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-03-25 
出願番号 特願2016-91088(P2016-91088)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B65D)
P 1 651・ 537- Y (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田口 傑遠藤 秀明  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 白川 敬寛
横溝 顕範
登録日 2018-06-15 
登録番号 特許第6350589号(P6350589)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋  
代理人 吉住 和之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 黒木 義樹  
代理人 結田 純次  
代理人 竹林 則幸  
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