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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特174条1項  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1350681
異議申立番号 異議2018-700745  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-13 
確定日 2019-04-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6297848号発明「化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末ならびに化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6297848号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6297848号の請求項1?6に係る特許(以下、「本件特許」ということがある。)についての出願は、平成26年1月30日に出願されたものであって、平成30年3月2日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月20日に特許掲載公報が発行され、その後、同年9月13日に特許異議申立人 星正美(以下、「申立人」ともいう。)から特許異議の申立てがなされた。そして、当審において、平成30年12月5日付けで取消理由を通知したところ、平成31年1月30日付けで特許権者から意見書の提出がなされ、同年2月7日付けで申立人に審尋を通知したところ、同年3月1日付けで申立人から回答書の提出がなされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6297848号の請求項1?6に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりものである(以下、特許第6297848号の請求項1?6に係る発明を、その請求項に付された番号にしたがって、「本件特許発明1」?「本件特許発明6」のように記載し、また、これらをまとめて「本件特許発明」という。)。

「【請求項1】
平均長径が4?15μm、厚みが0.2?0.7μmで、かつアスペクト比が23以上の鱗片状をなす一次粒子の凝集体からなり、比表面積が2?8m^(2)/g、可溶性ホウ素量が100ppm以下であり、さらに光の透過度が80%以上、ヘーズ値が55以下、摩擦係数が0.10以下であることを特徴とする化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
粉末全体における粒径:0.8μm以下の微粉末の割合が0.2質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
金属不純物量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含有する化粧料。
【請求項5】
前記化粧料における前記六方晶窒化ホウ素粉末の含有量が0.1?70質量%であることを特徴とする請求項4に記載の化粧料。
【請求項6】
化粧料がメイクアップ用であることを特徴とする請求項4または5に記載の化粧料。」


第3 取消理由通知に記載した取消理由の概要
平成30年12月5日付けで通知した取消理由は、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に記載する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものであるというものであり、具体的な理由は、以下のとおりである。
本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末は、「光の透過度」及び「ヘーズ値」により規定されるものであり、当該「透過度」及び「ヘーズ値」の測定方法について、本件特許明細書には、それぞれ、「JIS K7105 『プラスチックの光学的特性試験方法』に準拠して行った。」及び「JIS K7136 『プラスチック透明材料のヘーズの求め方』に準拠して行った。」(【0039】)と記載されている。
ここで、上記JIS K7105及びK7136は、その表題から明らかなように、いずれも「プラスチック材料」の評価法に関するものであるが、「六方晶窒化ホウ素粉末」は「無機粉体」の一種であり、「プラスチック材料」には該当しないものである。そして、プラスチック材料の試験片の作成方法と同様の方法で、プラスチック材料ではない「六方晶窒化ホウ素粉末」の試験片が作成できるとは理解できず、この点についての説明等も何らなされていないから、上記のような本件特許明細書の記載のみからは、プラスチック材料の評価法により、プラスチック材料ではない「六方晶窒化ホウ素粉末」を評価するに際し当該評価法をどのように適用するのかが不明である。 したがって、上記本件特許明細書の記載からは、当業者といえども、本件特許発明1における「透過度」及び「ヘーズ値」を理解することができないから、本件特許発明1はその範囲が不明確である。また、本件特許発明2?6についても、同様の取消理由が存在する。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に記載する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり取り消されるべきものである。

第4 取消理由についての合議体の判断
上記取消理由に対し、特許権者は、平成31年1月30日付け意見書において、参考文献として特開2012-176910号公報を引用し、当該文献の【0047】には、「表1のNO.1の粉末(発明例1;SHP-8)をそれぞれ、(トリメチルシロキシケイ酸+シクロペンタシロキサン)と1:10の割合で分散させ、石英板上に塗布して作製した、20μM厚の塗布膜の透明性について調査」する方法、すなわち、原料である窒化ホウ素粉末を分散媒に対して1:10の割合で分散させ、この分散液を石英板上に塗布して20μm厚の薄膜とするという試験片の作成方法が記載されており、この試験片の作成方法は本件特許発明1においても同様であって、このように作成した試験片を用い、JIS K7105及びK7136に準拠して「透過度」及び「ヘーズ値」を測定した旨の主張をしている。
ここで、上記参考文献と本件特許との関係について検討するに、当該参考文献は、本件特許明細書において、「特許文献8」なる先行技術文献を示す文献として引用されており(【0007】)、さらに、本件特許発明は当該特許文献8に記載の窒化ホウ素粉末の改良に係るものであること(【0009】)や、当該特許文献8に開示の技術に従い得られた窒化ホウ素粉末のうち、最高の特性が得られたものを従来例として表1に例示したこと(【0038】)が記載され、当該従来例の窒化ホウ素粉末の特性と本件特許発明の窒化ホウ素粉末の特性との比較も具体的に示されている(表1)ことから、そのような本件特許明細書の記載からは、当業者は、当該特許文献8を先行技術文献の中でも特に着目すべき文献として認識するものといえる。
そして、その特許文献8には、上記の特許権者が説明する試験片作成方法が記載されており(【0047】)、さらに、本件特許明細書には、その特許文献8に基づく従来例の窒化ホウ素粉末と本件特許の窒化ホウ素粉末が、同一の表中に比較して記載されていることを併せると、本件特許発明の窒化ホウ素粉末が、上記特許文献8記載の試験片作成方法と同様の方法で作成された試験片を用いて測定されたと理解することは、極めて自然であるといえる。
そうすると、特許文献8(すなわち、平成31年1月30日付け意見書における「参考文献」)に記載の方法により作成された試験片を用い、「透過度」及び「ヘーズ値」を測定した旨の特許権者による上記主張は、合理的なものとして採用できる。
したがって、本件特許発明1で規定される「光の透過度」及び「ヘーズ値」は、上記特許文献8記載の方法により作成された試験片を用い、JIS K7105及びK7136に準拠して測定されるものであることが理解できるから、本件特許発明1における「透過度」及び「ヘーズ値」は明確であるといえ、本件特許発明1及び当該本件特許発明1を引用する本件特許発明2?6は、特許法第36条第6項第2号に係る取消理由が解消していることは明らかである。
よって、上記取消理由によっては、本件特許発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。

なお、申立人は、平成31年3月1日付け回答書において、「透過度」及び「ヘーズ値」の明確性に関し以下の主張をしているが、下記(1)?(4)のとおり、当該主張はいずれも採用できない。
(1)申立人は、本件特許明細書では、甲第1号証(当該甲第1号証は、上記平成31年1月30日付け意見書における「参考文献」と同じものである。なお、申立人は、特許権者が主張する上記参考文献記載の試験片の作成方法を「甲1試験片作成方法」と称していることから、以下、参考文献記載の試験片の作成方法を「甲1試験片作成方法」と記載する。)は、特許文献8として【背景技術】で参照されているのみであり、本件発明における試験片の作成方法と、甲1試験片作成方法との関連は何ら立証されておらず、甲1試験片作成方法が本件特許の出願時の技術常識であるともいえないから、本件特許発明1においても甲1試験片作成方法が使用されたとする特許権者の主張は裏付けがなく、採用すべきではない旨の主張をしている。
しかしながら、上記で述べたように、甲第1号証は、本件特許明細書において、単に先行技術文献の1つとして参照されているのみならず、本件特許発明の窒化ホウ素粉末にいたる基となり、本件特許発明の窒化ホウ素粉末と比較して示されている従来例の窒化ホウ素粉末を開示する文献として、特に言及されているものであるから、当該甲第1号証は、本件特許明細書に記載された数ある先行技術文献の中でも、本件特許に最も関連した文献であるといえる。
したがって、本件特許における試験片の作成方法と甲1試験片作成方法とに関連がないとすることはできず、むしろ、両者の作成方法は密接な関連があると解するのが相当であって、上記申立人の主張は採用できない。

(2)申立人は、甲1試験片作成方法にて作成した試験片は、甲第1号証の図3(a)、(b)の写真撮影時の試験片であって、これらの試験片を用いて「透過度」及び「ヘーズ値」を測定したとの記載はなく、甲第1号証の【0047】の記載順からみて、すでに「透過度」及び「ヘーズ値」を測定した後に、別途新たに、当該試験片を作成し、写真撮影を行ったと理解できるから、当該試験片にて、本件特許でも「透過度」及び「ヘーズ値」を測定したという特許権者の主張には何ら根拠がない旨の主張をしている。
確かに、甲第1号証には、甲1試験片作成方法にて作成した試験片を用いて「透過度」及び「ヘーズ値」を測定したとの明確な記載はないものの、当該試験片は、「透明性」の調査に用いられており(甲第1号証【0047】)、当該「透明性」は、試験片を通過する光の量により決定されるものと認められるところ、「透過度」も、その用語からみて明らかなように試験片を透過する光の量により決定されるものであるし、「ヘーズ値」も、試験片を透過する光を用いて決定されるものである(必要であれば、申立人が回答書に添付した参考資料2の【0028】参照。)。
そうすると、上記「透明性」、「透過度」及び「ヘーズ値」は、すべて、試験片を通過する光により決定されるものといえるから、「透明性」のみならず、「透過度」及び「ヘーズ値」についても、甲1試験片作成方法にて作成した試験片にて測定したという特許権者の主張が合理性に欠くものとは認められず、上記申立人の主張は採用できない。

(3)申立人は、仮に、甲1試験片作成方法で試験片を作成するとしても、試験片の塗膜のマトリックス組成や乾燥条件は、塗膜の性質に重大な影響を与えるものであるところ、甲第1号証には、分散媒であるトリメチルシロキシケイ酸とシクロペンタシロキサン混合液における当該二成分の配合比が記載されていないから、塗膜中の窒化ホウ素粉末の濃度が不明であり、また、塗膜の乾燥条件も記載されていないから、当業者には、試験片作成時に試行錯誤が求められ、本件特許の不明確性は解消されない旨の主張をしている。
ここで、甲第1号証の記載を検討するに、当該甲第1号証には、従来技術の窒化ホウ素粉末の中でも特許文献7(WO2008/99467号)なる先行技術文献に記載の窒化ホウ素粉末について、滑り性に優れるものの、透明感と適切な光沢の発現については必ずしも十分とはいえず、さらなる改善が求められていた(【0006】」)として言及し、それをうけて、甲第1号証は、仕上がりのツヤ感(光沢感)や透明感(素肌感)を格段に向上させた化粧料を提供するものであることが記載されている(【0007】)から、そのような甲第1号証の記載に接した当業者は、上記特許文献7の記載も参考にしつつ、試験片における窒化ホウ素粉末の濃度等、試験片の適切な作成条件を設定するものと認められ、甲第1号証の記載からは本件特許の不明確性は解消されないとする申立人の上記主張は採用できない。

(4)申立人は、本件特許明細書【0021】には、窒化ホウ素粉末のアスペクト比が透過度に影響を与える旨が記載されているから、アスペクト比が異なる窒化ホウ素粉末においては、透過度も異なるものになるはずであるところ、本件特許明細書の表1のNo.1の窒化ホウ素粉末と、甲第1号証の表1のNo.1の窒化ホウ素粉末とでは、アスペクト比が大きく異なるにもかかわらず、同一の透過度(75%)となっており、甲1試験片作成方法を考慮しても、当該方法で得られた試験片を用いての透過度測定は著しく精度に劣り、特許請求の範囲を画定できるものではない旨の主張をしている。
そこで、本件特許明細書【0021】の記載をみるに、当該【0021】には、本件特許発明において特に重要なのはアスペクト比であり、アスペクト比を20を超えて大きくなると表面がより平滑になり、光の透過度が増大することや、微粉(特に粒径が0.8μm以下の微粉)の量が透明性に影響を与えることが記載されており、当該記載からは、アスペクト比と共に微粉が透過度に影響を与えるものであることが理解できる。また、本件特許明細書【0031】及び【0032】には、素材となる窒化ホウ素粉末に対し加熱処理を施す際の昇温速度や最高温度も、透明度に影響を与えることも記載されている。
そうすると、本件特許明細書の記載からは、アスペクト比以外にも、微粉の量や、素材となる窒化ホウ素粉末に対し加熱処理を施す際の昇温速度や最高温度等、透過度に影響を与えるものが種々存在すると理解できるから、アスペクト比が異なるにもかかわらず、透過度は異ならない窒化ホウ素粉末の存在が、データの信憑性に疑義を与えるとはいえない。
したがって、甲1試験片作成方法で得られた試験片を用いての透過度測定は著しく精度に劣るものであるとの上記主張は採用できない。


第5 申立理由の概要及び提出した証拠
1 申立理由の概要
上記取消理由で通知した理由のほかに、申立人は、以下の理由により、本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(新規性欠如)
本件特許発明1?6は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するものであるから、本件特許発明1?6に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件特許発明1?6は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に規定する発明に該当するものであるから、本件特許発明1?6に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(3)申立理由3(明確性違反)
本件特許の請求項1に記載の「平均長径」、「厚み」、「アスペクト比」に関する規定は、算術的に成立しない範囲を含み不明確であるから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないものであって、同法第113条第4号に該当する。

(4)申立理由4(サポート要件違反)
ア 申立理由4-1
甲第1号証記載の試料No.1の六方晶窒化ホウ素粉末が、「平均長径」、「厚み」、「アスペクト比」、「比表面積」及び「可溶性ホウ素量」については、本件特許の請求項1に規定された値を満たすにもかかわらず、本件特許の請求項1に規定された「光の透過度」、「ヘーズ値」及び「摩擦係数」を満たさないとすれば、本件特許発明1?6は、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであって、同法第113条第4号に該当する。
イ 申立理由4-2
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1に規定された各種要件について、極めて狭い範囲の実施例が記載されているにすぎず、本件特許発明1?6の範囲にまで拡張ないし一般化できないから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであって、同法第113条第4号に該当する。
ウ 申立理由4-3
本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された製造条件を適用しても、本件特許発明1?6の六方晶窒化ホウ素粉末は得られないから、本件特許発明1?6が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであって、同法第113条第4号に該当する。

(5)申立理由5(実施可能要件違反)
ア 申立理由5-1
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1に規定された各種要件をすべて満たす六方晶窒化ホウ素粉末を得るための十分な記載がないから、当該発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件特許発明1?6を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないものであって、同法第113条第4号に該当する。
イ 申立理由5-2
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1に規定された各種要件について、極めて狭い範囲の実施例が記載されているにすぎず、例えば、透過度が85%、ヘーズ値が50%、摩擦係数が0.08の六方晶窒化ホウ素粉末を得るための具体的条件は何ら明らかにされていないから、
当該発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件特許発明1?6を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないものであって、同法第113条第4号に該当する。

(6)申立理由6(新規事項の追加)
本件特許の請求項1に規定された「ヘーズ値が55以下」という数値範囲は、本件の願書に最初に添付した明細書等に記載がなく、いわゆる新規事項を追加するものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第1号に該当する。


2 証拠方法
(1)甲第1号証:特開2012-176910号公報
(以下、「甲第1号証」を「甲1」という。)

第6 甲1に記載された事項
1 記載事項1-1(【特許請求の範囲】)
「【請求項1】
平均長径が2?20μmで厚みが0.05?0.5μmの扁平形状をなす一次粒子が積層した板状の凝集体からなり、比表面積が1?10m^(2)/gで、かつ目開き45μm篩下の凝集体の含有率が50質量%以上で、さらに可溶性ホウ素量が100ppm以下であることを特徴とする化粧料用の窒化ホウ素粉末。
・・・
【請求項3】
粉末全体における粒径:2.0μm以下の微粉末の割合が5質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の化粧料用の窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
金属不純物量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の化粧料用の窒化ホウ素粉末。
・・・
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含有する化粧料。
【請求項8】
前記化粧料における前記六方晶窒化ホウ素粉末の含有量が0.1?70質量%であることを特徴とする請求項7に記載の化粧料。
【請求項9】
化粧料がメイクアップ用であることを特徴とする請求項7または8に記載の化粧料。」

2 記載事項1-2(【0001】)
「本発明は、化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末およびその製造方法に関し、特に該粉体の潤滑性と透明性の向上を図り、もって化粧料使用時における塗擦動作においてスムーズな伸びの実現を図ろうとするものである。
また、本発明は、上記した六方晶窒化ホウ素粉末を用いた化粧料に関し、特に肌への展延性および付着性を向上させて、仕上がりのツヤ感と透明感の両者を達成しようとするものである。」

3 記載事項1-3(【0011】)
「そこで、発明者らは、上記したような扁平形状の一次粒子が弱いファンデルワールス力で積層した凝集体からなる窒化ホウ素粉末を開発すべく、種々の実験と検討を重ねた。
その結果、結晶成長促進剤として酸素を10?25質量%含有し、かつ生成したBN粉末を薄片化する成分として炭素を0.1?10質量%含有し、この時のO/Cのモル比が2.0以上の乱層構造になる窒化ホウ素粉末を、不活性ガス雰囲気中の加圧条件で1500?2300℃の高温で加熱したBNを、粉砕により適切な粒度に調整したのち、不純物の酸化ホウ素を洗浄除去して高純度化することにより、所望の積層体構造になる透明感のある窒化ホウ素粉末が得られることが究明されたのである。
また、透明性を低下させる原因は、微粉末であることも判明し、従って粒径が2.0μm以下の微粉末は極力排除する必要があることも併せて解明された。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。」

4 記載事項1-4(【0021】)
「本発明の窒化ホウ素粉末は、潤滑性に優れ、軽度の力で滑るように広がる作用があるため、化粧品の使用時における塗擦動作においてスムーズな伸びを達成することができる。
また、本発明の化粧料によれば、肌への展延性および付着性を向上させて、仕上がりのツヤ感および透明感(素肌感)の両者を格段に向上させることができる。」

5 記載事項1-5(【0024】)
「平均長径が2?20μmで厚みが0.05?0.5μmの扁平形状をなす一次粒子が積層した板状の凝集体
一次粒子の平均長径が2μmに満たないものは製造が困難であり、一方20μmを超えると配向性が出て、凝集体の密度が低下する(空隙率が増加する)ので、一次粒子の平均長径は2?20μmの範囲に限定した。好ましくは5?10μmの範囲である。
また、一次粒子の厚みが0.05μmに満たないと、潤滑性を発現できる5?10μmの化粧料に適した平板粒子が形成されず、一方0.5μmを超えると、肌に延ばして塗布した場合に透明感が低下するとともに平面が平滑に維持できないので、一次粒子の厚みは0.05?0.5μmの範囲に限定した。なお、かかる一次粒子のアスペクト比(長径/厚み)は10?25程度とすることが好ましい。
ここに「一次粒子」とは、鱗片状を形成する単一粒子と定義する。また、「一次粒子の凝集体」とは、一次粒子が2個以上化学結合した状態で存在する粒子と定義する。」

6 記載事項1-6(【0032】?【0033】)
「また、本発明において、粒径:2.0μm以下の微粉末の割合は、粉末全体に対する割合で5質量%以下とすることが好ましい。
というのは、粒径:2.0μm以下の微粉末の割合が5質量%を超えると、透明性の劣化が懸念されるからである。

そして、本発明に従い得られた高純度の窒化ホウ素粉末は、全透過率が65%以上という高い透過率を達成することができ、その結果、優れた透明感(素肌感)を得ることができる。」

7 記載事項1-7(【0038】)
「ついで、上記のようにして得た窒化ホウ素粉末に対し、不活性ガス雰囲気中にて、加圧力:0.1MPa以上、温度:1500?2300℃の条件下で加熱処理を施す。
処理雰囲気を不活性ガス雰囲気としたのは、生成したBNは容易に酸素と結びつくため、酸化性雰囲気で高温焼成すると所望のBNを生成できないためである。
また、加圧力を0.1MPa以上としたのは、加圧力が0.1MPaに満たないと粒子同士の十分な積層が望めないからである。ただし、0.9MPaを超える高圧は操業安全上の制約を受けるので、上限は0.9MPaとすることが好ましい。
さらに、加熱温度を1500?2300℃としたのは、処理温度が1500℃に満たないと十分に結晶が成長した粉末が得られず、一方2300℃を超えると欠陥を生じ易くなって透明感が低下するからである。」

8 記載事項1-8(【0043】)
「以下、本発明の実施例について説明する。
ホウ酸とメラミンそして炭化ホウ素を1:1:0.005の割合で混合し、蓋付きの黒鉛ルツボで窒素下で1000℃で5時間の処理を施して、酸素:13質量%、炭素:1.8質量%で金属不純物量が40ppmの乱層構造になる窒化ホウ素粉末を得た。ついで、この窒化ホウ素粉末:20kgを、窒化ホウ素被覆黒鉛製ルツボに種々の厚みで充填し、0.1?0.32MPaの窒素雰囲気中で2000℃まで加熱し、この温度に10h保持したのち、同じく窒素雰囲気下で室温まで冷却した。
得られた生成物をX線回折装置で同定したところ、高結晶の窒化ホウ素であることが確認された。
ついで、この窒化ホウ素を、ジェットミルで所定の粒径になるように粉砕したのち、20倍の純水で洗浄し、ついで脱水後、真空中で乾燥したのち、0.3mmのスクリーンを通すようにパワーミルで解砕して窒化ホウ素粉末とした。
かくして得られた窒化ホウ素粉末の諸元を表1に示す。
また、得られた窒化ホウ素粉末の透過度(透明度)、ヘーズ値(濁度)および摩擦係数について調べた結果を表1に併記する。
さらに、比較のため、種々の諸元になる既存の窒化ホウ素粉末についても、同様の調査を行った結果を、表1に併せて示す。」

9 記載事項1-9(【0044】)
「なお、窒化ホウ素粉末の透過度(透明度)、ヘーズ値(濁度)および摩擦係数はそれぞれ、次のようにして測定した。
(1)透過度(透明度)
JIS K7105 『プラスチックの光学的特性試験方法』に準拠して行った。
この透過度が65%以上であれば、透明性に優れていると言える。
(2)ヘーズ値(濁度)
JIS K7136 『プラスチック透明材料のヘーズの求め方』に準拠して行った。
このヘーズ値が70%以下であれば、曇り程度は小さいと言える。
(3)摩擦係数
カトーテック(株)の「摩擦感テスター」を用いて測定した。
すなわち、スライドグラスに両面テープを貼ったものに粉体試料を乗せて余分な粉体を振動を与えてふるい落とした後、試料台に固定する。ついで、試料上を1cm角のピアノワイヤーセンサーを0.5mm/sの速さで滑らせて測定した。
この摩擦係数の値が0.15以下であれば、潤滑性に優れていると言える。」

10 記載事項1-10(【0046】)




11 記載事項1-11(【0047】)
「表1に示したとおり本発明に従う発明例はいずれも、高い透明度と小さなヘーズ値、さらには低い摩擦係数を有し、透明性や潤滑性に優れていることが分かる。ここで、図3(a),(b)に、表1にNo.6で示す従来の窒化ホウ素粉末(比較例2;SHP-3)と本発明に従う表1のNo.1の粉末(発明例1;SHP-8)をそれぞれ、(トリメチルシロキシケイ酸+シクロペンタシロキサン)と1:10の割合で分散させ、石英板上に塗布して作製した、20μm 厚の塗布膜の透明性について調査した結果を、比較して示す。
同図に示したとおり、本発明の窒化ホウ素粉末は従来のものよりも透明性に優れていることが確認された。」

12 記載事項1-12(【0048】)
「次に、表1に示したNo.1の窒化ホウ素粉末(発明例1)を用いて、以下に示す実施例1?10、比較例11?16の各種化粧料を作製した。・・・」

13 記載事項1-13(【0059】?【0061】)
「上述した各化粧料について、その素肌感、滑らかなのび感、肌への密着感および仕上げのツヤ感について調べた結果を、表2に示す。
なお、上記の各種性質は、本発明品および比較品を、化粧品評価専門の調査パネル20名に使用してもらい、各調査パネルが5段階の評価基準に基づいて評価した。また、全調査パネルの評点の平均値を算出し、次の4段階の判定基準により判定した。
評価基準
5:非常に良好
4:良好
3:普通
2:やや不良
1:不良
判定基準
◎:4.5以上
○:3.5以上、4.5未満
△:2.5以上、3.5未満
×:2.5未満

【表2】


表2に示したとおり、化粧品用体質顔料として本発明に従う窒化ホウ素粉末を用いることにより、素肌感、滑らかなのび感、肌への密着感および仕上げのツヤ感の全てについて、従来よりも高い評価が得られている。」


第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての合議体の判断

1 申立理由3(明確性違反)について
申立理由3は、本件特許発明の明確性に係る事項であるため、他の申立理由に先立って、これについてまず検討する。
申立人は、本件特許発明1では、「平均長径が4?15μm、厚みが0.2?0.7μmで、かつアスペクト比が23以上」と規定されており、厚みの下限値が「0.2μm」であることから、アスペクト比が23以上を満足するためには、平均長径は4.6μm以上である必要があって、平均長径が4?4.6μm未満の範囲では、0.2?0.7μmの厚み範囲からいかなる値を選択してもアスペクト比を23以上とすることができないとし、本件特許発明1の規定は技術的にあり得ない範囲を含み、技術的不備があるから、特許・実用新案審査基準の第II部第2章第3節の2.2(2)に照らして、不明確である旨の主張をしている。
しかしながら、本件特許発明1における「平均長径が4?15μm、厚みが0.2?0.7μmで、かつアスペクト比が23以上」(下線は当合議体が付す。)なる規定は、その記載から明らかなように、「平均長径が4?15μmの範囲であり、厚みが0.2?0.7μmの範囲にあることを前提とし、その上で、アスペクト比は23以上である」ことを意味するものであって、これは、「平均長径が4?15μm」及び「厚みが0.2?0.7μm」という両数値範囲を、さらに「アスペクト比は23以上」を満たす数値範囲に限定したものと解される。
そうすると、本件特許発明1において、平均長径が4?15μmの範囲であり、厚みが0.2?0.7μmの範囲であるにもかかわらず、アスペクト比が23以上とならない六方晶窒化ホウ素粉末、例えば、申立人が技術的にあり得ない範囲として主張する平均長径が4?4.6μmの範囲である六方晶窒化ホウ素粉末は、本件特許発明1の「かつアスペクト比が23以上」なる記載により、そもそも本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末の範囲外であることが明確に理解できるから、本件特許発明1の規定は、申立人がいう「技術的にあり得ない範囲」を含むものとはいえない。
したがって、本件特許発明1は明確である。また、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2?6についても同様である。
よって、本件特許発明1?6に係る特許が特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものであるとする、申立理由3には理由がない。

2 申立理由1(新規性)について
(1)本件特許発明1について
ア 甲1に記載の発明
甲1には、記載事項1-1及び1-10(特に記載事項1-10のNo.1なる粉体)の記載からみて、「平均長径が10μm、厚みが0.2μmで、かつアスペクト比が16の扁平形状をなす一次粒子が積層した板状の凝集体からなり、当該凝集体は、比表面積が2m^(2)/g、平均粒径が11μm、可溶性ホウ素量が18ppm、金属不純物量が18ppmであって、かつその60%が比表面積1?10m^(2)/gで粒径が50μm以下である凝集体であり、光の透過度が75%、ヘーズ値が60%で、かつ摩擦係数が0.12であり、さらに1.0μm以下の微粉末の割合が1.3質量%である化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
イ 本件特許発明1と甲1発明の対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「平均長径が10μm」、「厚みが0.2μm」、「比表面積が2m^(2)/g」、及び「可溶性ホウ素量が18ppm」なる各値は、それぞれ、本件特許発明1における「平均長径が4?15μm」、「厚みが0.2?0.7μm」、「比表面積が2?8m^(2)/g」、及び「可溶性ホウ素量が100ppm以下」の数値範囲の範囲内である。また、甲1発明における「扁平形状をなす一次粒子が積層した板状の凝集体」は、当該一次粒子が鱗片状であることから(記載事項1-5)、本件特許発明1における「鱗片状をなす一次粒子の凝集体」に相当する。
したがって、両発明は、「平均長径が4?15μm、厚みが0.2?0.7μmで、鱗片状をなす一次粒子の凝集体からなり、比表面積が2?8m^(2)/g、可溶性ホウ素量が100ppm以下である化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末は、「光の透過度が80%以上、ヘーズ値が55以下、摩擦係数が0.10以下」であるのに対し、甲1発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、「光の透過度が75%、ヘーズ値が60%、摩擦係数が0.12」である点。

(相違点2)
本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末の一次粒子は、平均長径及び厚みの規定とともに「かつアスペクト比が23以上」と特定されているのに対し、甲1発明の六方晶窒化ホウ素粉末の一次粒子は、アスペクト比が16である点。

ウ 相違点1についての判断
甲1発明における「光の透過度が75%、ヘーズ値が60%、摩擦係数が0.12」は記載事項1-10から明確に把握できるものであるから、本件特許発明1と甲1発明とは、相違点1において相違するものである。

エ まとめ
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

オ 申立人の主張について
申立人は、上記相違点について下記のように主張しているが、下記(ア)及び(イ)のとおり、当該主張はいずれも採用できない。

(ア)申立人は、以下の理由から相違点1及び2は相違点とはならない旨主張している。
すなわち申立人は、まず、本件特許発明1を
a.平均長径が4?15μm、
b.厚みが0.2?0.7μmで、
c.かつアスペクト比が23以上の鱗片状をなす一次粒子の凝集体からなり、
d.比表面積が2?8m^(2)/g、可溶性ホウ素量が100ppm以下であり、
e.さらに光の透過度が80%以上、ヘーズ値が55以下、摩擦係数が0.10以下
のように文説し、上記要件a?dを「構造的要件」、上記要件eを「特性的要件」と称した上で、本件特許明細書の【0032】の記載及び本件特許の審査中に提出された平成29年2月2日付け意見書における「本願発明1においては、上記要件のうち、特に厚みを「0.2?0.7μm」とした上で、アスペクト比を「23以上」とすることが重要で、これにより、要件eを満足する「光透過度が大きく、ヘーズ値、摩擦係数の低い」、本願発明の目的とするBN粉末を得ることができます。」との本件特許権者の主張によれば、構造的要件a?dを満足すれば特性的要件eも必然的に充足されると理解できるところ、甲1発明のアスペクト比は、甲1の審査過程において、そのアスペクト比が「16」から「50」に補正されているとおり、16ではなく50であって、本件特許発明1で規定するアスペクト比を満足するから、甲1発明は、構造的要件a?dをすべて満足することとなり、その結果、特性的要件eを充足するはずであると主張している。
しかしながら、甲1発明が特性的要件eを満たさないことは、記載事項1-10から明らかである。それにもかかわらず、甲1発明で具体的に示されている特性的要件eをないものとして、構造的要件a?dの値から特性的要件eの充足を主張する上記申立人の採用は合理性に欠け採用できない。
なお、申立人は、本件特許明細書の記載や本件特許の審査における特許権者の主張によれば、構造的要件a?dを満足すれば特性的要件eも必然的に充足されると理解できると主張しているが、本件特許明細書の記載や本件特許の審査における特許権者の主張からは、厚みやアスペクト比は要件eを満足するための重要な要素であることは理解できるものの、構造的要件a?dを満足すれば特性的要件eも必然的に充足されるとまでは理解できない。

(イ)申立人は、本件特許明細書【0021】によれば、アスペクト比が粉体特性に重大な影響を及ぼすものであるところ、甲1の試料No.1の六方晶窒化ホウ素粉末は、甲1の審査過程において、そのアスペクト比が「16」から「50」に補正されているにもかかわらず、粉体特性(特性的要件e)は変更されていないから、甲1発明の粉体特性は、必ずしも信頼性の高い値とはいえず、甲1発明の粉体特性については重視すべきではない旨の主張をしている。
しかしながら、アスペクト比は、平均長径の値と厚みの値に基づいて算術的に求められた値である一方で、特性的要件eは、アスペクト比とは独立して、測定により得られた値であるから(【0039】)、アスペクト比の訂正に連動して当該特性的要件eが変更されないとしても、このことが当該No.1の粉体特性の信憑性に何ら疑義を抱かせるものではない。
さらに、当該甲1のNo.1の粉体特性は透過度が75%、ヘーズ値が60%、摩擦係数0.12であるところ、それらの値はいずれも、甲1で想定されている六方晶窒化ホウ素粉末の粉体特性である、「透過度が65%以上、ヘーズ値が70%以下、摩擦係数0.15以下」を満たすものであることからも、信頼性の高い値といえる。

(2)本件特許発明2?6について
本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2?6についても同様であるから、本件特許発明2?6は、甲1に記載された発明であるとはいえないとはいえない。

(3)小括
よって、本件特許発明1?6に係る特許が特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるとする、申立理由1には理由がない。

3 申立理由2(進歩性)について
(1)甲1発明と本件特許発明1の対比・判断
上記2(1)で述べたように、本件特許発明1と甲1発明とは、少なくとも相違点1において相違する。
相違点1について、甲1には、六方晶窒化ホウ素粉末の特性的要件eについて、透過度が65%以上であれば透明性に優れ、ヘーズ値が70%以下であれば曇り程度が少なく、摩擦係数が0.15以下であれば潤滑性に優れることが記載されている(記載事項1-9)。
しかしながら、記載事項1-7?1-10の記載からは、六方晶窒化ホウ素を製造する際に、素材となる窒化ホウ素粉末を窒化ホウ素被覆黒鉛製ルツボへ充填する厚さや加熱時の圧力を変化させることにより、透過度、ヘーズ値、及び摩擦係数の値が変化した粉末が得られることは理解できるものの、甲1において、具体的に製造されているのは、せいぜい、透明度75%、ヘーズ値60%及び摩擦係数0.12という粉体特性を有する粉末(試料No.1)にすぎず、他の甲1の記載をみても、透過度80%以上、ヘーズ値55以下、及び摩擦係数0.10という粉体特性を達成するために、どのような条件で製造すればよいのかは何ら記載も示唆もなされていない。
そうすると、そのような甲1の記載からは、当業者といえども、透過度80%以上、ヘーズ値55以下、摩擦係数0.10以下という粉末を想起し、当該粉末を得ることが容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本件特許明細書には、透過度80%以上、ヘーズ値55以下、及び摩擦係数0.10を満たす六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧品用体質顔料として用いることにより、滑らかなのび感、肌への密着感、仕上げのツヤ感及び透明感のいずれにおいても、従来の窒化ホウ素粉末と比較して優れていることが具体的に示されており(表1及び2)、この点は、甲1の記載から当業者が予測できない、格別顕著な効果であると認められる。
したがって、本件特許発明1は、甲1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(2)本件特許発明2?6について
本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2?6についても同様であるから、本件特許発明2?6は、甲1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(3)小括
よって、本件特許発明1?6に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとする、申立理由2には理由がない。

4 申立理由4(サポート要件違反)について
(1)当合議体によるサポート要件の判断
本件特許明細書には、
「上記した特許文献8に開示された窒化ホウ素粉末の開発により、従来に比べて「のび」や「もち」にも優れるだけでなく、透過度が向上して透明感にも優れた化粧料が得られるようになった。
しかしながら、上記の窒化ホウ素粉末は表面が比較的平滑であることから、光の反射率が高くなってテカリを生じ、かえって仕上がりが不自然になる場合があった。そのため、テカリが特に問題となる場合には、粉末表面に小さな凹凸を付与するなどの処理を必要としていた。」(【0008】)

「本発明は、前掲特許文献8に記載の窒化ホウ素粉末の改良に係るもので、「のび」や「もち」に優れるのはいうまでもなく、「テカリ」の発生を抑制して良好な仕上がりを得ることができ、さらには透過度を向上させて一層の透明感を達成できる化粧料用の窒化ホウ素粉末を提案することを目的とする。
また、本発明は、上記の窒化ホウ素粉末を使用することにより、テカリの発生なしに、仕上がりのツヤ感(光沢感)や透明感(素肌感)を格段に向上させた化粧料を提案することを目的とする。」(【0009】)

「本発明によれば、化粧料に使用した場合に「のび」や「もち」に優れるのはいうまでもなく、光の透過度を向上させて「テカリ」の発生を抑制できる窒化ホウ素粉末を得ることができる。
また、本発明の化粧料によれば、上記の窒化ホウ素粉末を用いることにより、「テカリ」発生を効果的に抑制した上で、仕上がりのツヤ感および透明感(素肌感)の両者を格段に向上させることができる。」(【0018】)

と記載されていることからみて、本件特許発明1の解決すべき課題は、「化粧料に使用した場合に「のび」や「もち」に優れ、「テカリ」の発生を抑制し、透過度を向上させて一層の透明感を達成できる窒化ホウ素粉末を提供すること」であると認められる。
ここで、本件特許明細書の実施例には、平均長径が7.0?9.0μm、厚みが0.3?0.4μmで、かつアスペクト比が23?27を満たす鱗片状の一次粒子の凝集体からなり、比表面積が4?5m^(2)/g、可溶性ホウ素量が16?17ppm以下であり、さらに透過度80?82%、ヘーズ値55、摩擦係数0.09?0.10の六方晶窒化ホウ素粉末を配合した化粧料について、透明感、なめらかなのび感、肌への密着感および仕上げのツヤ感を評価したところ、いずれも良好な結果が得られたことが具体的に示されている(表1及び2)。そして、化粧品の肌への密着が増すと当該化粧品が皮膚に塗られた状態が持続することは明らかであり、本件特許明細書の【0003】に、「もち(皮膚に塗った状態を持続させる性質)」と記載されていることからすると、上記実施例において「肌への密着感」が優れていることは、「もち」が優れていることを示すものであると理解できる。さらに、本件特許明細書【0018】の「光の透過度を向上させて「テカリ」の発生を抑制」との記載からは、80?82%という高い透過度を有する実施例の粉末は「テカリ」の発生が抑制されていることも理解できる。
そうすると、上記実施例の粉末は、「化粧料に使用した場合に「のび」や「もち」に優れ、「テカリ」の発生を抑制し、透過度を向上させて一層の透明感を達成」した窒化ホウ素粉末であることが具体的に裏付けられたものといえる。
加えて、本件特許明細書には、「窒化ホウ素粉末の鱗片厚みを適度に薄くし、アスペクト比を大きし、かつ表面をより平滑にすることにより、光の透過度が増して、テカリの発生が減少する」(【0010】)なる記載や、「・・・アスペクト比が20を超えて大きくなると、表面がより平滑になり、光の透過度が増大する結果、テカリの発生が抑制される・・・一次粒子の平均長径が4μmに満たないと、粒子同士の結合が強くなり潤滑性が低下する問題があるほか、微粉の量が増えて透明性が低下する。一方15μmを超えると配向性が出て、テカリが出やすくなるほか、凝集体の密度が低下する・・・一次粒子の厚みが、0.7μmを超えると、肌に延ばして塗布した場合に透明感が低下する。一方、一次粒子の厚みが0.2μmを下回ると、微粉(特に粒径が0.8μm以下の微粉)の量が増大して透明性が低下するので、一次粒子の厚みは0.2?0.7μmの範囲に限定した。」(【0021】)なる記載がなされると共に、粒子の厚みや微粉が光の透過度に影響を及ぼすことが模式図により論理的に説明され(図1)、さらに、「比表面積が2m^(2)/gに満たないと、粗粒を形成して潤滑性が低下して伸びがなくなり、一方8m^(2)/gを超えると、粒子同士の凝集力が強くなって平板状に伸びにくくなり、透明性が低下する他、球状になってザラツキ感が強くなる」(【0022】)なる記載もなされている。
そうすると、このような本件特許明細書の記載と、上記実施例の記載を考慮すれば、平均長径が4?15μm、厚みが0.2?0.7μmで、かつアスペクト比が23以上の鱗片状をなす一次粒子の凝集体からなり、比表面積が2?8m^(2)/g、可溶性ホウ素量が100ppm以下であり、さらに光の透過度が80%以上、ヘーズ値が55以下、摩擦係数が0.10以下の六方晶窒化ホウ素粉末であれば、上記本件特許発明1の解決すべき課題を解決できるものと当業者は理解できる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、上記本件特許発明1の解決すべき課題を解決できることが当業者に認識できるように記載されていると認められる。
本件特許発明2?6についても、同様の理由から、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明2?6の解決すべき課題を解決できることが当業者に認識できるように記載されていると認められる。

(2)サポート要件に関する申立人の主張
申立人は、以下ア?ウのように主張するが、いずれも採用できない。
ア 申立理由4-1について
申立人は、特許権者は本件特許の審査段階において、上記2(1)オ(ア)に記載の構造的要件a?d、特に構造的要件b及びcを満足すれば特性的要件eも充足される旨の主張をしているとし、甲1の試料No.1の六方晶窒化ホウ素粉末が、「平均長径」、「厚み」、「アスペクト比」、「比表面積」及び「可溶性ホウ素量」の構造的要件a?dについては、本件特許の請求項1に規定された値を満たすにもかかわらず、「光の透過度」、「ヘーズ値」及び「摩擦係数」の特性的要件eについては、本件特許の請求項1に規定された値を満たさないとすれば、これは特許権者による上記主張と矛盾することとなり、本件特許発明1?6は、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないことになると主張している。
しかしながら、本件特許明細書の【0031】及び【0032】には、本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末を製造するために、素材となる窒化ホウ素粉末を、不活性ガス雰囲気中、常圧または加圧下で、100?500℃/hの昇温速度で、最高温度1500?2300℃の温度で、加熱処理を施すことが記載され、さらに、加熱温度を1500?2300℃とすることにより、十分に結晶が成長した粉末が得られ透明感が低下しないこと、及び昇温速度を100?500℃/hとすることにより、「長径方向の粒成長」(すなわち「平均長径」)、「鱗片厚み方向の成長」(すなわち「厚み」)、「アスペクト比」、及び微粉割合の小ささが得られ、その結果として、光透過度が大きく、ヘーズ値及び摩擦係数の低い本件特許発明1の粉末(すなわち、特性的要件eを満足する粉末)が得られる旨記載されているから、このような記載からは、窒化ホウ素粉末を加熱処理する際の、不活性ガス雰囲気中の圧力、昇温速度、及び最高温度を調整することが、特性的要件eを充足する粉末を得るために重要であると理解できる。
そうすると、素材となる窒化ホウ素粉末を加熱処理する際の圧力、昇温速度、及び最高温度についての記載がなされていない甲1に、構造的要件a?dを満足する粉末であって、特性的要件eを満足しない粉末が記載されていたとしても、このことが本件特許発明と矛盾するとは認められない。
したがって、構造的要件a?dを満足する粉末であって、特性的要件eを満足しない粉末が存在することが本件特許発明と矛盾するとの認識を前提としてなされた申立人の上記主張は、その前提に誤りがあり採用できない。

イ 申立理由4-2について
申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明で、発明の課題を解決できることが具体的に示されているのは、発明例1の六方晶窒化ホウ素粉末を使用した化粧料についてのみであり、六方晶窒化ホウ素粉末の平均長径が15μmの場合や、アスペクト比が50の場合に、ツヤ感や透明感が向上すると推認するための技術的な根拠が本件特許明細書に記載されておらず、また、ツヤ感等がどの程度になるかということについての技術常識もない以上、【0021】等の平均長径、厚み、アスペクト比、比表面積、可溶性ホウ素量の一般的な記載のみをもって、本件特許で規定する平均長径、厚み、アスペクト比、比表面積、可溶性ホウ素量の全範囲において発明の課題を解決できることについての技術的な裏付けがあるとはいえない旨の主張をしている。
しかしながら、本件特許発明1の解決すべき課題は、「化粧料に使用した場合に「のび」や「もち」に優れ、「テカリ」の発生を抑制し、透過度を向上させて一層の透明感を達成できる窒化ホウ素粉末を提供すること」であるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当該解決すべき課題を解決できることが当業者に認識できるように記載されていることは上記4(1)で述べたとおりであるから、本件特許で規定する全範囲において発明の課題を解決できることを理解できないとする申立人の上記主張は採用できない。
なお、申立人の主張する、六方晶窒化ホウ素粉末の平均長径が15μmの場合やアスペクト比が50の場合の「ツヤ感」や「透明感」についても一応検討するに、当該場合の「透明感」については、本件特許明細書に、アスペクト比が大きくなると、表面がより平滑になり、光の透過度が増大する旨の記載や、平均長径が小さいと微粉の量が増えて透明性が低下する旨の記載(【0021】)がなされ、この点の論理的な説明もなされていることから(図1)、当業者であれば、平均長径が15μmの場合やアスペクト比が50の場合でも、「透明感」に優れていることが十分理解できる。
また、申立人がいう「ツヤ感」については、本件特許明細書の表2の「仕上げのつや感」を意図するものと解されるが、透明感が低い比較例9及び10の化粧料は「仕上げのつや感」が低く、一方で、透明感が高い実施例1?8の化粧料は「仕上げのつや感」も高い(表2)ことからすると、上記のように透明感が高いと理解される平均長径15μmや、アスペクト比が50の場合の六方晶窒化ホウ素粉末も、「仕上げのつや感」に優れているものと推認できる。
したがって、申立人の主張する、六方晶窒化ホウ素粉末の平均長径が15μmの場合や、アスペクト比が50の場合であっても、「ツヤ感」や「透明感」に優れていることが推認できるから、本件特許で規定する全範囲において発明の課題を解決できることを理解できないとする申立人の上記主張は採用できない。

ウ 申立理由4-3
申立人は、本件特許明細書の【0031】等の記載によれば、当業者は、素材である窒化ホウ素粉末の加熱処理に際し、昇温速度を100?500℃/hとすることで、構造的要件a?cを満足する六方晶窒化ホウ素粉末が得られると認識するところ、表1の試料No.5は、当該規定された昇温速度である450℃/hで熱処理したにもかかわらず、アスペクト比を満足せず、さらには、ヘーズ値や摩擦係数も満足しないことから、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された製造条件を適用しても得られず、発明の詳細な説明に記載されたものということはできない旨の主張をしている。
しかしながら、本件特許明細書の【0031】と共に【0032】の記載をみれば、六方晶窒化ホウ素粉末の特性は、素材である窒化ホウ素粉末の加熱処理における昇温速度のみならず、最高温度や圧力によっても、影響を受けることが理解できるから、昇温速度を100?500℃/hとすることに加え、最高温度や圧力を調整することにより、本件特許発明の粉末を得ることができると理解できる。

したがって、申立人の主張はいずれも採用できず、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであるとする、申立理由4-1?4-3には理由がない。

5 申立理由5(実施可能要件違反)について
(1) 当合議体による実施可能要件の判断
本件特許明細書の実施例には、平均長径が7.0?9.0μm、厚みが0.3?0.4μmで、かつアスペクト比が23?27を満たす鱗片状の一次粒子の凝集体からなり、比表面積が4?5m^(2)/g、可溶性ホウ素量が16?17ppm以下であり、さらに透過度80?82%、ヘーズ値55、摩擦係数0.09?0.10の六方晶窒化ホウ素粉末が具体的に記載され、加えて、【0031】及び【0032】には、本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末を製造するために、素材となる窒化ホウ素粉末を、不活性ガス雰囲気中、常圧または加圧下で、100?500℃/hの昇温速度で、最高温度1500?2300℃の温度で、加熱処理を施すことが記載され、さらに、加熱温度を1500?2300℃とすることにより、十分に結晶が成長した粉末が得られ透明感が低下しないこと、及び昇温速度を100?500℃/hとすることにより、「長径方向の粒成長」(すなわち「平均長径」)、「鱗片厚み方向の成長」(すなわち「厚み」)、「アスペクト比」、及び微粉割合の小ささが得られ、その結果として、光透過度が大きく、ヘーズ値及び摩擦係数の低い本件特許発明1の粉末が得られる旨記載されている。また、本件特許発明の明細書の【0041】には、粉末窒化ホウ素粉末を加熱処理する際、圧力が高いとアスペクト比の大きい粉末が得られることも記載されている(試料No.2及び3のデータの対比)。
このような記載からは、窒化ホウ素粉末を加熱処理する際の、不活性ガス雰囲気中の圧力、昇温速度、及び最高温度を調整することにより、本件特許発明1の粉末を製造できることが理解できるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件特許発明1を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。
同様の理由から、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明2?6を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものともいえる。

(2)実施可能要件に関する申立人の主張
申立人は、以下ア及びイのように主張するが、いずれも採用できない。
ア 申立理由5-1について
申立人は、本件特許明細書には、本件特許の請求項1に規定された各種要件をすべて満たす六方晶窒化ホウ素粉末を得るための十分な記載がない旨の主張をしている。
しかしながら、上記5(1)で述べたとおり、本件特許明細書には、本件特許の請求項1に規定された各種要件をすべて満たす六方晶窒化ホウ素粉末を製造したことが記載され、その製造条件も具体的に記載されているから、そのような本件特許明細書の記載からは、本件特許発明の六方晶窒化ホウ素粉末が製造できることが十分に理解できる。

イ 申立理由5-2について
申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1に規定された各種要件について、極めて狭い範囲の実施例が記載されているにすぎず、例えば、透過度が85%、ヘーズ値が50%、摩擦係数が0.08の六方晶窒化ホウ素粉末を得るための具体的条件は何ら明らかにされていないから、本件特許発明1?6に係る特許は、当業者が実施できない範囲を含むものである旨の主張をしている。
しかしながら、上記5(1)で述べたとおり、本件特許明細書の【0032】及び【0031】には、本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末を製造するために、素材となる粉末窒化ホウ素粉末を加熱処理する際の、不活性ガス雰囲気中の圧力、昇温速度、及び最高温度を調整することが記載され、そのような製造方法により得られた粉末の光透過度、ヘーズ値及び摩擦係数が本件特許の請求項1に規定された数値範囲を満たすことも記載されているから(表1)、当該圧力、昇温速度、及び最高温度を適宜調整することにより、光透過度、ヘーズ値及び摩擦係数が任意の値を有する本件特許発明の六方晶窒化ホウ素粉末を製造できることが十分に推認できるといえる。

したがって、申立人の主張はいずれも採用できず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないものであるとする、申立理由5-1及び5-2には理由がない。

6 無効理由6(新規事項の追加)について
申立人は、特許権者は、本件特許の当初明細書の【0041】の表1を根拠に、ヘーズ値が「55%以下」という発明特定事項を加入する補正を行ったが、当該表1には、ヘーズ値が55%の例が記載されているにすぎず、55%「以下」とする範囲は何ら記載されていないから、当該補正はいわゆる新規事項を追加するものである旨の主張している。
しかしながら、上記表1には、ヘーズ値55%の例のみが記載されているとはいえ、本件特許明細書の【0044】には、「このヘーズ値が70%以下であれば、曇り程度は小さいといえる。」と記載されていることから、本件特許明細書においては、当初から、ヘーズ値が「70%以下」であることを意図していたものと認められる。
そうすると、上記【0041】の表1と共に、【0044】の記載を併せみれば、ヘーズ値が「55%以下」であることは当業者が把握できる事項であるといえるから、上記申立人の主張は採用できない。
したがって、本件特許は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないものであるとする、申立理由6には理由がない。


第8 むすび
当審が通知した取消理由及び申立人が主張する取消理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-03-19 
出願番号 特願2014-15753(P2014-15753)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 55- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松村 真里團野 克也田中 則充  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 冨永 みどり
井上 明子
登録日 2018-03-02 
登録番号 特許第6297848号(P6297848)
権利者 水島合金鉄株式会社
発明の名称 化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末ならびに化粧料  
代理人 杉村 憲司  
代理人 川原 敬祐  

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