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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61H
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61H
管理番号 1350682
異議申立番号 異議2019-700009  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-11 
確定日 2019-04-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6355073号発明「リハビリテーション支援装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6355073号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6355073号(以下「本件特許」という。)の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成29年10月17日(優先権主張 平成28年11月6日 日本国)に特許出願され、平成30年6月22日にその特許権の設定登録がされ、同年7月11日に特許掲載公報の発行がされたものである。
その後、その特許に対し、平成31年1月11日に特許異議申立人パラマウントベッド株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。


第2 本件発明
本件特許の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ請求項に対応して「本件発明1」などという。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、請求項1には、「(a)」等の符号が付されているが、各符号に対応する本件発明1の発明特定事項を、以下、それぞれ「構成(a)」などという。
「【請求項1】
以下の(a)?(d)の手段を備えたことを特徴とするリハビリテーション支援装置。
(a) リハビリテーションの対象となる部位の、リハビリテーション運動を評価するための評価基準を設定する対象部位評価設定手段
(b) リハビリテーション運動を検知して、リハビリテーションの対象となる部位の動きの量、動きの方向もしくは動きの速さを測定する動作検出手段
(c) 上記の評価基準と比較して、検出したリハビリテーション運動を評価して、そのリハビリテーション運動の達成度を求める動作評価手段
(d) 画像を複数のパーツ画像に区分して、上記リハビリテーション運動の達成度に応じて画像表示装置に表示するパーツ画像を追加もしくは変更し、パーツ画像はリハビリテーション運動の達成度に応じて態様を変化させて画面を更新する画像処理手段
【請求項2】
上記のリハビリテーション運動が複数のセット繰り返されるとき、上記動作評価手段が1セット毎にリハビリテーション運動の達成度を求めて、上記画像処理手段は、上記達成度に応じて態様を変化させたパーツ画像を生成して、このパーツ画像を表示画像に追加しもしくは既に表示した画像の一部のパーツを置き換えることを特徴とする請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項3】
上記の画像処理手段は、リハビリテーション運動の達成度に応じたパーツ画像を追加して、画像の追加が完了した後に、リハビリテーション運動の達成度に応じて画像の態様を変化させることを特徴とする請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項4】
上記の対象部位評価設定手段は、リハビリテーションの対象となる部位の、上記評価対象となるリハビリテーション運動の、最大移動可能距離または最大運動量を、動作を開始する前の準備処理で評価基準に設定し、上記動作評価手段は、この上記評価基準を100%として、動作検出手段により計測した該当部位の移動距離または運動量の評価基準に対する割合から達成度を求めることを特徴とする請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項5】
上記の対象部位評価設定手段は、動作評価を開始する前の準備処理で利用者自自身の上記評価対象となるリハビリテーション運動を検出することによって、リハビリテーション運動の評価基準を設定することを特徴とする請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項6】
上記の動作検出手段は、利用者が手を使用して表示画像上を移動する動作を繰り返すような上肢の動きを検知することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項7】
上記の動作検出手段は、利用者による椅子の立ち座りまたは膝の屈伸などの身体の上下運動を繰り返す運動を検知することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項8】
上記の動作検出手段は、空気を吹き出すエアポンプまたは呼気を吹き込む呼気センサからの空気の圧力、量、音または温度を検出するセンサを備え、この空気の圧力、量、音または温度の変化が一定値以上の場合に、画像の所定の変化を要求するように制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項9】
上記の動作検出手段は、請求項6乃至8に記載のいずれかの機能を任意に組み合わせたものであって、複数の部位のリハビリテーションを同時に行う請求項1乃至5のいずれかに記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項10】
上記の画像はアート画像であって、利用者が希望するアート画像を選択させる手段を備え、上記画像処理手段はそのアート画像を更新する処理を実行することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項11】
コンピュータを、請求項1乃至10のいずれかに記載の各手段として機能させるリハビリテーション支援プログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のコンピュータプログラムを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体。」


第3 申立ての理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証?甲第9号証(以下、甲各号証を付された数字に対応してそれぞれ「甲1」などという。)を提出し、本件特許を取り消すべき理由として次の理由1A?4を主張している。
(理由1A)
本件発明1?4、10?12は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1?4、10?12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(理由1B)
本件発明6は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件発明6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(理由2A)
本件発明1、3?5、11は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1、3?5、11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(理由2B)
本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて、本件発明2は、甲2に記載された発明及び甲1、5、6に記載された周知事項に基いて、本件発明3は、甲2に記載された発明に基いて、本件発明4は、甲2に記載された発明及び甲7?9に記載された周知事項に基いて、本件発明5は、甲2に記載された発明及び甲8?9に記載された事項に基いて、本件発明6は、甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、本件発明10、12は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件発明1?2、4?6、10、12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(理由3A)
本件発明1、3、6、11?12は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1、3、6、11?12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(理由3B)
本件発明2は、甲3に記載された発明及び甲1、5、6に記載された周知事項に基いて、本件発明4、10は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件発明2、4、10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(理由4)本件発明1?3、5?12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

[証拠方法]
甲1:特開2006-325740号公報
甲2:再公表特許第2012/039467号
甲3:特開2011-110215号公報
甲4:特開2007-185482号公報
甲5:特開2015-192694号公報
甲6:特開2004-81576号公報
甲7:特開2013-27629号公報
甲8:特開2004-129817号公報
甲9:特開平11-114088号公報


第4 当審の判断1(理由4について)
事案に鑑み、理由4をまず検討する。
1 申立人の主張
申立人は、理由4につき、次のように主張している。
(1)主張1
「・・・請求項1の「リハビリテーション運動を評価するための評価基準を設定する対象部位評価設定手段」との記載は広く、かかる広範な対象部位評価設定手段について、発明の詳細な説明に記載によりサポートがなされていない。
よって、上記構成を有する請求項1ないし3及び5ないし12の発明は、サポート要件に違反している。」(特許異議申立書第82?84頁)
(2)主張2
「請求項5の発明は、評価基準を「動作評価を開始する前の準備段階で利用者自身の上記評価対象となるリハビリテーション運動を検知すること」によって設定するものであり、利用者が事前にリハビリテーション運動を行った結果に基づき評価基準が作成される構成を有するが、・・・評価基準の設定を上記のような方法により設定する場合、評価基準の設定後に行ったリハビリテーション運動が評価基準を上回る場合もあり得るところ、このような場合にいかなる評価が行われるのかにつき、発明の詳細な説明には記載がない。
よって、請求項5の発明はサポート要件を欠く。」(特許異議申立書第84頁)

2 判断
(1)主張1について
請求項1の記載によれば、本件発明1では、構成(c)の「動作評価手段」は、「上記の評価基準と比較して、検出したリハビリテーション運動を評価」し、また、構成(b)の「動作検出手段」は、「リハビリテーション運動を検知して、リハビリテーションの対象となる部位の動きの量、動きの方向もしくは動きの速さを測定する」のであるから、構成(a)の「評価基準」は、構成(b)で測定された「リハビリテーションの対象となる部位の動きの量、動きの方向もしくは動きの速さ」のいずれかと互いに比較することのできる同一の物理量を表すものと解釈するのが相当である。
してみると、請求項1には、「評価基準」について特段の限定はないが、構成(a)の「対象部位評価設定手段」により設定される「評価基準」が、具体的には、測定された「動きの量」と比較されるべき基準となる量、測定された「動きの方向」と比較されるべき基準となる方向もしくは測定された「動きの速さ」と比較されるべき基準となる速さを意味することは、明らかといえる。
そこで、「リハビリテーションの対象となる部位の動きの量、動きの方向もしくは動きの速さ」に対応する「評価基準」に関し、明細書の発明の詳細な説明の記載を検討するに、明細書には、「対象部位評価設定手段32は、リハビリテーションの対象となる部位52、例えば、上肢の、リハビリテーション運動を評価するための評価基準、例えば、最大移動可能距離50を設定する機能を持つ。」(【0026】)とあるように、構成(a)の「評価基準」を裏付けるための一例として、「最大移動可能距離50」が記載されている。
なお、明細書には、構成(b)の「動きの方向もしくは動きの速さ」に対応する「評価基準」を設定する点について、具体的な実施例等の記載はないが、「さらに動作評価を開始する前の準備処理で利用者自身の動作を検出することによって、コンピュータに自動的にリハビリテーション運動の評価基準を設定することができる。」(【0031】)及び「動作検出手段34は、利用者23のリハビリテーション運動を検知して、リハビリテーションの対象となる部位の動きの量、動きの方向もしくは動きの速さを測定する機能を持つ。」(【0026】)等の各記載に接した当業者であれば、例えば、動作検出手段を活用して、「動きの方向もしくは動きの速さ」に対応する「評価基準」をも設定可能であることを、普通に認識、理解できるところである。
そうすると、請求項1には、「評価基準」について特段の限定はないものの、その具体的内容は、請求項1の記載自体から把握できるとともに、発明の詳細な説明の記載によって裏付けられてもいるのであって、しかも、本件発明1は、構成(a)?構成(c)に加えて構成(d)を備えており、発明の詳細な説明の記載により当業者が「利用者のモチベーションを高め、利用者の能動的な取り組みを促して、身体の早期機能回復を図ることができるリハビリテーション支援装置を提供する。」(【0004】)という発明の課題を解決できると認識できるものである。
また、請求項1を引用する発明である本件発明2?3、5?12についても同様である。
よって、本件発明1?3、5?12が、発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえない。

(2)主張2について
明細書【0042】には、「リハビリテーションの対象となる部位52の最大移動可能距離50を100%として評価基準に設定する。そして、最大移動可能距離50(図9)に対する計測した移動距離54の達成割合を算出して、これを達成度56とする。」と、また、【0033】には、「目標とする移動距離の90パーセント以上の動きと判定された場合には、評価がAランクとする。」との記載があることから、仮に、リハビリテーション運動が評価基準を上回る場合があったとしても、その場合は、上記の「目標とする移動距離の90パーセント以上の動きと判定された場合」に含まれるとして、「Aランク」の評価とすればよいことは、明細書及び図5等の記載内容からみて明らかである。
そうすると、「上記の対象部位評価設定手段は、動作評価を開始する前の準備処理で利用者自自身の上記評価対象となるリハビリテーション運動を検出することによって、リハビリテーション運動の評価基準を設定すること」を発明特定事項として含む本件発明5は、発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえない。。

3 小括
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、理由4によっては、本件発明1?3、5?12に係る特許を取り消すことはできない。


第5 当審の判断2(理由1A・1Bについて)
1 甲1発明
甲1には、【要約】、【請求項1】、【請求項2】、【0016】?【0018】、【0022】、【0025】、【0027】、【0041】の記載があり、【図1】、【図2】、【図4】、【図6】の図示がある。
これらの記載及び図示を参照すれば、甲1の記載内容につき次の事項を認めることができる。
ア)リハビリテーション支援システムは、以下の、撮影手段、抽出手段、タイマ、判定部、表示制御手段を備える(【請求項1】、【図2】)。また、リハビリテーション運動の対象は手である(【0016】)。
イ)特定物体は、画像表示手段に表示される画像中に重畳して表示される(【請求項1】)。
ウ)手の動きは撮影手段により撮影され、抽出手段により座標位置が抽出される(【請求項1】)
エ)抽出された手の座標位置が特定物体の座標位置と一致する時間をタイマにより計測する(【請求項1】、【0022】)。
オ)計測された時間が所定時間と比較され、所定時間連続したか否かを判定部により検出する(【0022】、【0027】)。また、該所定時間は、医師などにより設定される(【0041】)。
カ)表示制御手段は、ウ)の一致する時間が所定時間連続したと検出されると、特定物体の表示態様を変化させる(【要約】、【請求項1】、【0027】)。
キ)特定物体は、赤い丸であり、ウ)の一致する時間が所定時間連続したと検出されると、赤い丸は黒い丸に変化する(【0025】)。

以上によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「以下を備えたリハビリテーション支援装置。
リハビリテーション運動を撮影し、リハビリテーションの対象となる手の座標位置が赤い丸の座標位置に一致する時間を計測する、撮影手段、抽出手段及びタイマ
計測された時間を医師などにより設定される所定時間と比較して、上記の一致する時間が所定時間連続したか否かを検出する判定部
上記の一致する時間が所定時間連続したと検出されると、画像表示手段に表示する赤い丸を黒い丸に変化させる表示制御手段」

2 理由1A(新規性)について
2-1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1(前者)と甲1発明(後者)とを対比する。
ア)後者の「リハビリテーション支援システム」は、その文言、機能等からみて前者の「リハビリテーション支援装置」に相当する。また、以下同様に、「リハビリテーションの対象となる手」は「リハビリテーションの対象となる部位」に、「判定部」は「動作評価手段」に、「画像表示手段」は「画像表示装置」に、「表示制御手段」は「画像処理手段」に、それぞれ相当する。
イ)後者の「所定時間」は前者の「リハビリテーション運動を評価するための評価基準」に相当する。また、当該「所定時間」は「医師などにより設定される」というのであるから、後者が、手のリハビリテーションを行うに当たり、所定時間の設定を行うための適宜の手段を備えていることは明らかである。
よって、両者は、“リハビリテーションの対象となる部位の、リハビリテーション運動を評価するための評価基準を設定する対象部位評価設定手段”を備える点で一致する。
ウ)後者において、「リハビリテーション運動を撮影し」て、「計測」される「リハビリテーションの対象となる手の座標位置が赤い丸の座標位置の一致する時間」とは、手の動きを具体的に把握するための一指標といえるものであるから、後者の「撮影手段、抽出手段及びタイマ」は、“リハビリテーション運動を検知して、リハビリテーションの対象となる部位の動きを測定する”点で、前者の「動作検出手段」と共通する。
エ)後者における「手の座標位置が赤い丸の座標位置の」「一致する時間が所定時間連続したか否かを検出する」は、前者の「検出したリハビリテーション運動を評価して、そのリハビリテーション運動の達成度を求める」に相当する。
オ)後者の「赤い丸」は、それ自体が単独で一の画像を形成していることから、前者の「画像」に相当する。
また、後者における「赤い丸」の「黒い丸」への変化は画像の変更といえるので、後者の「表示制御手段」は、“上記リハビリテーション運動の達成度に応じて画像表示装置に表示する画像を追加もしくは変更し、画像はリハビリテーション運動の達成度に応じて態様を変化させて画面を更新する”点で後者の「画像処理手段」と共通する。

以上によれば、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
以下の手段を備えたリハビリテーション支援装置。
(a) リハビリテーションの対象となる部位の、リハビリテーション運動を評価するための評価基準を設定する対象部位評価設定手段
(b) リハビリテーション運動を検知して、リハビリテーションの対象となる部位の動きを測定する動作検出手段
(c) 上記の評価基準と比較して、検出したリハビリテーション運動を評価して、そのリハビリテーション運動の達成度を求める動作評価手段
(d) 上記リハビリテーション運動の達成度に応じて画像表示装置に表示する画像を追加もしくは変更し、画像はリハビリテーション運動の達成度に応じて態様を変化させて画面を更新する画像処理手段

<相違点1>
リハビリテーションの対象となる部位の動きを測定するに当たり、前者では、「リハビリテーションの対象となる部位の動きの量、動きの方向もしくは動きの速さを測定する」のに対し、後者では、リハビリテーションの対象となる部位の座標位置、又は、当該座標位置と赤い丸の座標位置との一致時間を測定するものの、動きの量、動きの方向もしくは動きの速さを測定するものではない点。

<相違点2>
リハビリテーション運動の達成度に応じて、追加もしくは変更され、また、態様の変化する画像に関し、前者では、当該画像が、画像を複数に区分した「パーツ画像」であるのに対し、後者では、赤い丸であって、当該赤い丸は特定の画像を複数に分割したパーツ画像ではない点。

(2)判断
上記(1)のとおりであるから、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。

2-2 本件発明2?4、10?12について
本件発明2?4、10?12は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記「2-1」で示した理由と同様の理由により、甲1発明ではない。

3 理由1B(進歩性)について
申立人は、甲3には、「患者がスクリーン上で手等を動かすような上肢の動き(腕、手、肩等)を検知する構成を有するリハビリテーション用システム」なる事項(以下「甲3事項」という。)が開示されており、本件発明6は、甲1発明及び甲3事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである旨の主張をしている(特許異議申立書第68?69頁)。
しかしながら、本件発明6と甲1発明とは、少なくとも上記の相違点1及び2で相違するところ、仮に、甲3に上記甲3事項が記載されていたとしても、当該事項は、相違点1に係る構成(b)及び相違点2に係る構成(d)に、それぞれ相当する事項ではないことから、本件発明6は、甲1発明及び甲3事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

4 小括
以上のとおり、理由1A、理由1Bに関し、本件発明1?4、6、10?12に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではなく、理由1A、理由1Bによっては、本件発明1?4、6、10?12に係る特許を取り消すことはできない。


第6 当審の判断3(理由2A・2Bについて)
1 甲2発明
甲2には、【0134】?【0135】、【0153】、【0157】?【0162】、【0165】?【0169】、【0174】、【0180】、の記載があり、【図11】?【図15】の図示がある。
これらの記載及び図示を参照すれば、甲2の記載内容につき次の事項を認めることができる。
ア)運動支援システムは、可動域訓練に用いられ(【0134】、【0135】)、以下の位置検出部、映像生成部、評価部、身長登録部を備える(【図11】)。
イ)位置検出部は、利用者の特定部位が実際に動いた範囲を検出する(【0165】)。
ウ)利用者の特定部位が動く過程で、表示面に表示される風船が、特定部位の所定位置と重なると、映像生成部は、風船が破裂する処理を実行する(【0157】、【0165】)。
エ)評価部は、獲得された点数のうちで最高の点数を利用者の得点とし、評価対象である腕部の可動域をこの得点で表す(【0166】)。
オ)評価部は、評価対象を標準情報と対比して相対的に評価する(【0167】)。
カ)標準情報は、利用者の身長等に応じて選択される(【0168】)。また、身長は、身長登録部に利用者によって入力される(【0153】)。
キ)訓練終了後、映像生成部は、評価結果を示すメッセージを表示する(【0174】、【図15】)。

以上によれば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「以下を備えた可動域訓練に用いられる運動支援システム。
利用者の特定部位の可動域を評価するための標準情報を入力する身長登録部
利用者の特定部位が実際に動いた範囲を検出する位置検出部
利用者の特定部位が実際に動いた範囲を得点で表し、標準情報と対比して評価する評価部
利用者の特定部位が動く過程で風船を破裂処理し、訓練終了後に評価結果を示すメッセージを表示面に表示する映像生成部」

2 理由2A(新規性)について
2-1 本件発明1について
(1)対比
本件発明2(前者)と甲2発明(後者)とを対比する。
ア)後者の「可動域訓練に用いられる運動支援システム」も、利用者によるリハビリテーションの支援に寄与するものであるから、前者の「リハビリテーション支援装置」に相当する。
イ)後者の「利用者の特定部位の可動域を評価する」、「標準情報」、「入力」、「身長登録部」は、その文言、機能等からみて、それぞれ前者の「リハビリテーションの対象となる部位の、リハビリテーション運動を評価する」、「評価基準」、「設定」、「対象部位評価設定手段」に相当する。
ウ)後者の「利用者の特定部位が実際に動いた範囲」は前者の「リハビリテーションの対象となる部位の動きの量」に相当するので、後者の「利用者の特定部位が実際に動いた範囲を検出を検出する位置検出部」は、前者の「リハビリテーション運動を検知して、リハビリテーションの対象となる部位の動きの量、動きの方向もしくは動きの速さを測定する動作検出手段」に含まれる。
エ)後者の「利用者の特定部位が動く過程で風船を破裂処理し」て「表示面に表示する映像生成部」は、“画像表示装置に表示する画像を変更し、画像は態様を変化させて画面を更新する画像処理手段”の点で後者の「画像処理手段」と共通する。
同様に、後者の「訓練終了後に評価結果を示すメッセージを表示する映像生成部」は、“リハビリテーション運動の達成度に応じて画像表示装置に表示する画像を追加する画像処理手段”の点で後者の「画像処理手段」と共通する。

以上によれば、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
以下の手段を備えたリハビリテーション支援装置。
(a) リハビリテーションの対象となる部位の、リハビリテーション運動を評価するための評価基準を設定する対象部位評価設定手段
(b) リハビリテーション運動を検知して、リハビリテーションの対象となる部位の動きの量、動きの方向もしくは動きの速さを測定する動作検出手段
(c) 上記の評価基準と比較して、検出したリハビリテーション運動を評価して、そのリハビリテーション運動の達成度を求める動作評価手段
(d) 画像を変更し、画像は態様を変化させて画面を更新し、また、リハビリテーション運動の達成度に応じて画像表示装置に表示する画像を追加する画像処理手段」

<相違点3>
前者では、画像処理手段は、「リハビリテーション運動の達成度に応じて画像表示装置に表示する画像を追加もしくは変更し、画像はリハビリテーション運動の達成度に応じて態様を変化させて画面を更新する」のに対し、
後者では、
i)画像処理手段が、風船の画像を破裂処理するものの、その破裂処理は、動作評価手段により求められた達成度に応じて行われる処理ではなく、さらに、当該風船の画像は特定の画像を複数に分割したパーツ画像でもなく、
ii)また、画像処理手段が、リハビリテーション運動の達成度に応じてメッセージを表示するものの、当該メーセージは、特定の画像を複数に分割したパーツ画像ではない、点。

(2)判断
上記(1)のとおりであるから、本件発明1が甲2発明であるとはいえない。

2-2 本件発明2?4、11について
本件発明2?4、11は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記「2-1」で示した理由と同様の理由により、甲2発明ではない。

3 理由2B(進歩性)について
3-1 本件発明1について
(1)申立人の主張
申立人は、上記相違点3に係る構成(d)は、甲4に記載されていることから、本件発明1は甲2発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである旨の主張をしている(特許異議申立書第71?72頁)。

(2)判断
そこで甲4を見るに、甲4における【請求項1】、【請求項3】、【請求項6】、【0129】?【0136】、【図21】?【図22】等の記載によれば、甲4には、“プレイヤに模擬動作を行わせる運動器具の動き情報に基づいて、表示装置に映像を表示し、プレイヤの運動を支援するに当たり、運動器具の前記動きを検出するたびに、特定画像の一部を表示し、前記運動器具の前記動きが所定の第1の回数検出されたときに、前記特定画像を完成させる事項”(以下「甲4事項」という。)が記載されているので、甲2発明と甲4事項との組み合わせに関し、甲2発明の「風船」、「メッセージ」のそれぞれについて、以下検討する。
ア)甲2発明の「風船」と甲4事項の組み合わせについて
甲2発明の風船は、訓練終了後の評価結果に基づいて破裂処理されるものではなく、利用者の特定部位が動く過程でその都度破裂処理されるものである。
そして、この処理により、「表示面30上で指標が動くと、この指標の位置と重なった図像131で風船が破裂する処理が実行されるので、利用者2は、表示面30に表示されている図像131を見ることにより特定部位の移動した範囲を、視覚的に認識することができる。本実施形態では特定部位は腕部であるから、利用者2は、自身の腕がどの程度まで上がっているのかを視覚的に認識することができる。」(甲2【0162】)という作用効果を奏し、甲2図14のような表示を得るというものである。
そうすると、訓練終了後の評価結果に基づいて初めて風船の破裂処理をしたのでは、上記の作用効果が期待できないのであるから、甲2発明における当該破裂処理を、「リハビリテーション運動の達成度を求め」た後に、その「達成度に応じて」行うように変更することについての動機付けはない。
よって、甲2発明の「風船」画像に甲4事項を適用したとしても、「リハビリテーション運動の達成度を求め」た後に、その「達成度に応じて」画像を追加することまでもが当業者にとって容易に想到できたことであるとはいえない。
イ)甲2発明の「メッセージ」と甲4事項の組み合わせについて
甲2発明の「メッセージ」画像は、訓練終了後に評価結果を示すものであるから、訓練終了後に1回限りで表示される画像であって、仮に、当該「メッセージ」画像を複数に区分し、その一部のみを「パーツ画像」で表示すると、評価結果の判読が困難になるのであるから、そもそも、当該「メッセージ」画像は、「複数のパーツ画像に区分する」ことのできない画像といえる。
そうすると、甲2発明の「メッセージ」画像に甲4事項を適用すべき動機付けはなく、相違点3に係る構成(d)は、甲2発明及び甲4事項に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(3)まとめ
よって、本件発明1は、甲2発明及び甲4事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

3-2 本件発明2?6、10、12について
(1)本件発明2について
申立人は、同種のリハビリテーション運動を複数回繰り返す場合に、各回ごとにリハビリテーション運動を評価して達成度を求めることは、甲1、5、6に開示されるように周知の事項(以下「甲156周知事項」という。)であり、本件発明2は、甲2発明及び甲156周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張をする(特許異議申立書第72頁)。
しかしながら、本件発明2と甲2発明とは、少なくとも上記相違点3で相違するところ、仮に、甲156周知事項が、甲1、5、6に開示されていたとしても、相違点3に係る構成(d)までもが周知であったとはいえない。
よって、本件発明2は、甲2発明及び甲156周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(2)本件発明3について
申立人は、本件発明3は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張をする(特許異議申立書第73頁)。
しかしながら、本件発明3と甲2発明とは、少なくとも上記相違点3で相違するところ、相違点3における甲2発明の特定事項を構成(d)に変更することが設計事項であるとはいえない。
よって、本件発明2は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)本件発明4について
申立人は、あるリハビリテーション運動における運動の最大値を評価基準として用いることは周知であり、本件発明4は、甲2発明及び甲7?9に記載された周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張をする(特許異議申立書第74頁)。
しかしながら、本件発明4と甲2発明とは、少なくとも上記相違点3で相違するところ、仮に、あるリハビリテーション運動における運動の最大値を評価基準として用いることが、甲7?9に基づく周知事項であったとしても、相違点3に係る構成(d)までもが周知であったとはいえない。
よって、本件発明4は、甲2発明及び甲7?9に記載された周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4)本件発明5について
申立人は、本件発明5は、甲2発明及び甲8?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張をする(特許異議申立書第74?75頁)。
しかしながら、甲8には、「下肢訓練装置」に係る事項が、また、甲9には、「リハビリテーション装置」に係る事項がそれぞれ記載されてはいるが、相違点3に係る構成(d)については、記載も示唆もない。
してみると、甲2発明と少なくとも上記相違点3で相違する本件発明5は、甲2発明及び甲8?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明6について
申立人は、本件発明6は、甲2発明及び上記甲3事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張をする(特許異議申立書第75頁)。
しかしながら、本件発明6と甲2発明とは、少なくとも上記の相違点3で相違するところ、仮に、甲3に上記甲3事項が記載されていたとしても、当該事項は、相違点3に係る構成(d)に相当する事項ではないことから、本件発明6は、甲2発明及び甲3事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(6)本件発明10について
申立人は、甲1には、「予め用意された画像を患者の姿が表示された画像の背景に合成させ、ゲームの進行と共に背景を変化させる手段」(以下「甲1事項A」という。)が開示されており、本件発明10は、甲2発明及び甲1事項Aに基づいて当業者が容易に発明することができた旨の主張をしている(特許異議申立書第75?76頁)。
しかしながら、本件発明10と甲2発明とは、少なくとも上記の相違点3で相違するところ、仮に、甲1に上記甲1事項Aが記載されていたとしても、当該事項は、相違点3に係る構成(d)に相当する事項ではないことから、本件発明10は、甲2発明及び甲1事項Aに基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(7)本件発明12について
申立人は、甲1には、「コンピュータプログラムを記録したコンピュータで読み取り可能なハードウェア」なる事項(以下「甲1事項B」という。)が開示されており、本件発明12は、甲2発明及び甲1事項Bに基づいて当業者が容易に発明することができた旨の主張をしている(特許異議申立書第76?77頁)。
しかしながら、本件発明12と甲2発明とは、少なくとも上記の相違点3で相違するところ、仮に、甲1に上記甲1事項Bが記載されていたとしても、当該事項は、相違点3に係る構成(d)に相当する事項ではないことから、本件発明12は、甲2発明及び甲1事項Bに基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

4 小括
以上のとおり、本件発明1?6、10?12に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではなく、理由2A、理由2Bによっては、本件発明1?6、10?12に係る特許を取り消すことはできない。


第7 当審の判断4(理由3A・3Bについて)
1 甲3発明
甲3には、【請求項1】?【請求項3】、【0033】?【0037】、【0040】?【0042】、【0076】、【0122】?【0127】、【0130】?【0131】の記載があり、【図1】?【図3】、【図10】、【図15】の図示がある。
これらの記載及び図示を参照すれば、甲3の記載内容につき次の事項を認めることができる。
ア)リハビリテーション用システムは、撮像手段、動作部特定手段、画像表示手段、比較手段、表示制御手段等を備える(【請求項1】)。
イ)撮像手段は、患者を撮像し、動作部特定手段は、撮像手段により取得された画像データから、動きがあった患者の動作部の位置を特定する(【請求項1】)。
ウ)リハビリ画像は、撮像画像に合成されて画像表示手段に表示され、反応画像部を含む【請求項1】。
エ)比較手段は、患者の動作部の位置とリハビリ画像の反応画像部の位置とを比較する(【請求項1】)。
オ)比較の結果、患者の動作部が反応画像部と干渉した状態か否かの判断する。この判断は、撮像画像中における患者の動作部と反応画像部との重なった部分の量に基づいて行われる(【0037】)。
カ)干渉した状態に基づいて、表示制御手段は、反応画像部の表示態様を変化させる(【請求項1】)。
キ)反応画像部は、鬼キャラクタであり、患者の動作部との干渉により画像表示手段から消失する(【0076】)。
ク)測定画像は、撮像画像に合成されて画像表示手段に表示され【請求項2】、また、測定画像は、患者の動作部と干渉することで反応する反応画像部としてスケール画像部を含む(【0131】)。
ケ)反応画像部(スケール画像部)は、画像表示手段に表示される一の背景であり、患者の動作部と干渉した範囲の色が変化する(【0127】、【図15】)

以上によれば、甲3には、次の発明(以下「甲3発明A」という。)が記載されている。
「以下を備えたリハビリテーション用システム。
患者を撮像し、動きがあった患者の動作部の位置を特定する撮像手段及び動作部特定手段
患者の動作部の位置と反応画像部の位置とを比較する比較手段、ここで、比較の結果、患者の動作部と反応画像部との重なった部分の量に基づいて、患者の動作部が反応画像部と干渉した状態か否かが判断される
反応画像部は鬼キャラクタであり、干渉した状態に基づいて、鬼キャラクタを画像表示手段から消失させる表示制御手段」

また、甲3には、次の発明(以下「甲3発明B」という。)も記載されている。
「以下を備えたリハビリテーション用システム。
患者を撮像し、動きがあった患者の動作部の位置を特定する撮像手段及び動作部特定手段
患者の動作部の位置と反応画像部の位置とを比較する比較手段、ここで、比較の結果、患者の動作部と反応画像部との重なった部分の量に基づいて、患者の動作部が反応画像部と干渉した状態か否かが判断される
反応画像部であるスケール画像部は画像表示手段に表示する背景であり、患者の動作部と干渉した範囲の色を変化させる表示制御手段」

2 甲3発明Aを主引用発明とした場合
2-1 理由3A(新規性)について
2-1-1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1(前者)と甲3発明A(後者)とを対比する。
ア)後者における「リハビリテーション用システム」、「患者の動作部」、「画像表示手段」は、その文言、機能等からみて、それぞれ、前者の「リハビリテーション支援装置」、「リハビリテーションの対象となる部位」、「画像表示装置」に、相当する。
イ)後者では、「患者の動作部と反応画像部との重なった部分の量に基づいて、患者の動作部が反応画像部と干渉した状態か否かが判断される」のであるから、「干渉した状態か否か」は、「患者の動作部と反応画像部との重なった部分の量」を求めた上で、その量の多寡により判断されるものといえる。
そして、後者においては、斯かる多寡を判断するための基準として、求められた「重なった部分の量」と対比される所定の基準量が存在することも明らかである。
そうすると、この「基準量」は、前者の「評価基準」に相当するものといえる。
ウ)後者では、上記の基準量と対比される対象は、「患者の動作部と反応画像部との重なった部分の量」であり、当該「重なった部分の量」は、「患者を撮像し、動きがあった患者の動作部の位置を特定する撮像手段及び動作部特定手段」、「患者の動作部の位置と反応画像部の位置とを比較する比較手段」等により求めれるのであるから、患者の動きを反映する指標といえる。
よって、後者の「撮像手段」、「動作部特定手段」及び「比較手段」は、“リハビリテーション運動を検知して、リハビリテーションの対象となる部位の動きを測定する”点で、前者の「動作検出手段」に相当する。
エ)後者では、上記の基準量と「患者の動作部と反応画像部との重なった部分の量」とが対比されて「干渉した状態か否かが判断され」るところ、この「干渉したか否か」の「判断」は、患者の動作部が、反応画像部の位置への移動を達成したか否かを求めることに他ならない。
そうすると、後者は、“評価基準と比較して、検出したリハビリテーション運動を評価して、そのリハビリテーション運動の達成度を求める動作評価手段”を備える点で前者と一致する。
オ)後者における「反応画像部」としての「鬼キャラクタ」は、それ自体が単独で一の画像を形成していることから、前者の「画像」に相当する。
また、後者における「鬼キャラクタ」の「消失」は画像の変更といえるので、後者の「表示制御手段」は、“上記リハビリテーション運動の達成度に応じて画像表示装置に表示する画像を追加もしくは変更し、画像はリハビリテーション運動の達成度に応じて態様を変化させて画面を更新する”点で前者の「画像処理手段」と共通する。

以上によれば、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
以下の手段を備えたリハビリテーション支援装置。
(b) リハビリテーション運動を検知して、リハビリテーションの対象となる部位の動きを測定する動作検出手段
(c) 評価基準と比較して、検出したリハビリテーション運動を評価して、そのリハビリテーション運動の達成度を求める動作評価手段
(d) 上記リハビリテーション運動の達成度に応じて画像表示装置に表示する画像を追加もしくは変更し、画像はリハビリテーション運動の達成度に応じて態様を変化させて画面を更新する画像処理手段

<相違点4>
前者は、「リハビリテーションの対象となる部位の、リハビリテーション運動を評価するための評価基準を設定する対象部位評価設定手段」を備えるのに対し、後者では「リハビリテーションの対象となる部位の、リハビリテーション運動を評価するための評価基準」として、リハビリテーションの対象となる部位と反応画像部とが重なった部分の量について、その基準量を設定するための手段を備えていない点。

<相違点5>
リハビリテーションの対象となる部位の動きを測定するに当たり、前者では、「リハビリテーションの対象となる部位の動きの量、動きの方向もしくは動きの速さを測定する」のに対し、後者では、リハビリテーションの対象となる部位の位置、又は、当該部位の位置と反応画像部との重なった部分の量を測定するものの、動きの量、動きの方向もしくは動きの速さを測定するものではない点。

<相違点6>
リハビリテーション運動の達成度に応じて、追加もしくは変更され、また、態様の変化する画像に関し、前者では、当該画像が、画像を複数に区分した「パーツ画像」であるのに対し、後者では、鬼キャラクタであって、当該鬼キャラクタは特定の画像を複数に分割したパーツ画像ではない点。

(2)判断
上記(1)のとおりであるから、本件発明1が甲3発明Aであるとはいえない。

2-1-2 本件発明3、6、11、12について
本件発明3、6、11、12は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記「2-1-1」で示した理由と同様の理由により、甲3発明Aではない。

2-2 理由3B(進歩性)について
(1)本件発明2について
申立人は、本件発明2は、甲3発明A及び甲156周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張をする(特許異議申立書第80頁)。
しかしながら、本件発明2と甲3発明Aとは、少なくとも上記相違点4で相違するところ、仮に、甲156周知事項が、甲1、5、6に開示されていたとしても、相違点4に関し、リハビリテーションの対象となる部位と反応画像部とが重なった部分の量について、その基準量を設定する事項までもが周知であったとはいえない。
よって、本件発明2は、他の相違点について検討するまでもなく、甲3発明A及び甲156周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(2)本件発明4について
申立人は、甲1には、「対象部位評価設定手段は、リハビリテーションの対象となる患者の手の動きの、最も長いパターンや最も難しいパターンを、動作を開始する前に医師の操作等基準に設定し、動作評価手段は、この基準をもとにした集計結果を点数化すること」(以下「甲1事項C」という。)が開示されており、本件発明4は、甲3発明A及び甲1事項Cに基づいて当業者が容易に発明することができた旨の主張をしている(特許異議申立書第81頁)。
しかしながら、本件発明4と甲3発明Aとは、少なくとも上記の相違点4で相違するところ、仮に、甲1に上記甲1事項Cが記載されていたとしても、当該事項は、リハビリテーションの対象となる部位と反応画像部とが重なった部分の量について、その基準量を設定することとは関連のない事項であるから、本件発明4は、他の相違点を検討するまでもなく、甲3発明A及び甲1事項Cに基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)本件発明10について
申立人は、甲1には、前記甲1事項Aが開示されており、本件発明10は、甲3発明A及び甲1事項Aに基づいて当業者が容易に発明することができた旨の主張をしている(特許異議申立書第82頁)。
しかしながら、本件発明10と甲3発明Aとは、少なくとも上記の相違点4で相違するところ、仮に、甲1に上記甲1事項Aが記載されていたとしても、当該事項は、リハビリテーションの対象となる部位と反応画像部とが重なった部分の量について、その基準量を設定することとは関連のない事項であるから、本件発明10は、他の相違点を検討するまでもなく、甲3発明A及び甲1事項Aに基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

3 甲3発明Bを主引用発明とした場合
3-1 理由3B(新規性)について
3-1-1 本件発明1について
(1)対比
上記「2-1-1」の「(1)対比」におけるア)?エ)の検討を踏まえつつ、本件発明1(前者)と甲3発明B(後者)とを対比する。
後者における「患者の動作部と干渉した範囲」に該当する部分は、「背景」の一部分といえるので、後者の「背景」、「患者の動作部と干渉した範囲」は、それぞれ、前者の「画像」、「画像を複数のパーツ画像に区分し」た「パーツ画像」に相当する。
そうすると、後者では、「患者の動作部と干渉した範囲の色を変化させる」というのであるから、後者の「表示制御手段」は、「リハビリテーション運動の達成度に応じて画像表示装置に表示するパーツ画像を」「変更し、パーツ画像はリハビリテーション運動の達成度に応じて態様を変化させて画面を更新する」点で前者の「画像処理手段」と一致する。

してみると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
以下の手段を備えたリハビリテーション支援装置。
(b) リハビリテーション運動を検知して、リハビリテーションの対象となる部位の動きを測定する動作検出手段
(c) 評価基準と比較して、検出したリハビリテーション運動を評価して、そのリハビリテーション運動の達成度を求める動作評価手段
(d) 画像を複数のパーツ画像に区分して、上記リハビリテーション運動の達成度に応じて画像表示装置に表示するパーツ画像を追加もしくは変更し、パーツ画像はリハビリテーション運動の達成度に応じて態様を変化させて画面を更新する画像処理手段

<相違点7>
前者は、「リハビリテーションの対象となる部位の、リハビリテーション運動を評価するための評価基準を設定する対象部位評価設定手段」を備えるのに対し、後者では「リハビリテーションの対象となる部位の、リハビリテーション運動を評価するための評価基準」として、リハビリテーションの対象となる部位と反応画像部とが重なった部分の量についての基準量を設定するための手段を備えていない点。

<相違点8>
リハビリテーションの対象となる部位の動きを測定するに当たり、前者では、「リハビリテーションの対象となる部位の動きの量、動きの方向もしくは動きの速さを測定する」のに対し、後者では、リハビリテーションの対象となる部位の位置、又は、当該部位の位置と反応画像部との重なった部分の量を測定するものの、動きの量、動きの方向もしくは動きの速さを測定するものではない点。

(2)判断
上記(1)のとおりであるから、本件発明1が甲3発明Bであるとはいえない。

3-1-2 本件発明3、6、11、12について
本件発明3、6、11、12は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記「3-1-1」で示した理由と同様の理由により、甲3発明Bではない。

3-2 理由3B(進歩性)について
(1)本件発明2について
申立人は、本件発明2は、甲3発明B及び甲156周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張をする(特許異議申立書第80頁)。
しかしながら、本件発明2と甲3発明Bとは、少なくとも上記相違点7で相違するところ、仮に、甲156周知事項が、甲1、5、6に開示されていたとしても、相違点7に関し、リハビリテーションの対象となる部位と反応画像部とが重なった部分の量について、その基準量を設定する事項までもが周知であったとはいえない。
よって、本件発明2は、他の相違点について検討するまでもなく、甲3発明B及び甲156周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(2)本件発明4について
申立人は、甲1には、前記甲1事項Cが開示されており、本件発明4は、甲3発明B及び甲1事項Cに基づいて当業者が容易に発明することができた旨の主張をしている(特許異議申立書第81頁)。
しかしながら、本件発明4と甲3発明Bとは、少なくとも上記の相違点7で相違するところ、仮に、甲1に上記甲1事項Cが記載されていたとしても、当該事項は、リハビリテーションの対象となる部位と反応画像部とが重なった部分の量について、その基準量を設定することとは関連のない事項であるから、本件発明4は、他の相違点を検討するまでもなく、甲3発明B及び甲1事項Cに基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)本件発明10について
申立人は、甲1には、前記甲1事項Aが開示されており、本件発明10は、甲3発明B及び甲1事項Aに基づいて当業者が容易に発明することができた旨の主張をしている(特許異議申立書第82頁)。
しかしながら、本件発明10と甲3発明Bとは、少なくとも上記の相違点7で相違するところ、仮に、甲1に上記甲1事項Aが記載されていたとしても、当該事項は、リハビリテーションの対象となる部位と反応画像部とが重なった部分の量について、その基準量を設定することとは関連のない事項であるから、本件発明10は、他の相違点を検討するまでもなく、甲3発明B及び甲1事項Aに基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

4 小括
以上のとおり、本件発明1?4、6、10?12に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではなく、理由3A、理由3Bによっては、本件発明1?4、6、10?12に係る特許を取り消すことはできない。


第8 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-03-27 
出願番号 特願2017-201007(P2017-201007)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61H)
P 1 651・ 113- Y (A61H)
P 1 651・ 537- Y (A61H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 芦原 康裕
関谷 一夫
登録日 2018-06-22 
登録番号 特許第6355073号(P6355073)
権利者 吉岡 聖美
発明の名称 リハビリテーション支援装置  
代理人 飯島 歩  
代理人 町野 静  

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