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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G05D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G05D
管理番号 1350933
審判番号 不服2018-5751  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-25 
確定日 2019-04-18 
事件の表示 特願2015-28975「移動体制御装置および移動体制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年8月22日出願公開、特開2016-151897〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成27年2月17日の出願であって、平成29年11月8日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年2月28日付けで拒絶の査定(以下「原査定」という)がなされた。
これに対し、原査定を不服として、平成30年4月25日に審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出された。

第2 平成30年4月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年4月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の補正前の請求項9の記載は、補正後の請求項8として、次のとおり補正された(下線は補正箇所を示す)。
「 【請求項8】
監視領域内における障害物の有無に基づいて移動体の速度制御を行うことと、
前記移動体の速度に基づいて前記監視領域のサイズを変更することと
を含み、
前記監視領域は、
前記移動体を停止、減速または加速させる前記速度制御の対象となる第1領域、および、該第1領域の外周部に常に設けられ、前記速度制御に対する不感帯となる第2領域を含み、
前記速度制御を行うことは、
前記障害物が前記第2領域内に存在する場合に、前記移動体の速度を維持する制御を行い、
前記監視領域のサイズを変更することは、
前記速度制御によって前記移動体の速度が維持される場合に、前記監視領域のサイズを維持することを特徴とする移動体制御方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年12月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項9の記載は、次のとおりである。
「 【請求項9】
監視領域内における障害物の有無に基づいて移動体の速度制御を行うことと、
前記移動体の速度に基づいて前記監視領域のサイズを変更することと
を含み、
前記監視領域は、
前記移動体から遠ざかる順に、第1領域、および、不感帯となる第2領域を含み、
前記速度制御を行うことは、
前記障害物が前記第2領域内に存在する場合に、前記移動体の速度を維持する制御を行うことを特徴とする移動体制御方法。」

2 補正の適否
(1)新規事項・目的要件
ア 本件補正の、特許請求の範囲の補正後の請求項8において、「前記移動体を停止、減速または加速させる前記速度制御の対象となる」という記載を付加した補正は、当該請求項8に係る発明の「第1領域」について、どのような速度制御を対象とするかの具体的な限定を付加するものであって、補正前の請求項9に記載された発明と補正後の請求項8に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の段落【0029】には、「図2Cに示すように、本実施形態では、自走台車1から遠ざかる順に、速度制御の対象となる第1領域A1および不感帯となる第2領域A2を設けることとした。」と記載され、同段落【0030】には、「ここで、『速度制御の対象となる』とは、少なくとも自走台車1を停止、減速または加速させる速度制御の対象となることを指す。」と記載されており、「自走台車1」は「移動体」の例であることを踏まえると、この補正は、本願明細書の記載からみて新規事項を追加するものではないことが明らかである。

イ 本件補正の、特許請求の範囲の補正後の請求項8において、「該第1領域の外周部に常に設けられ」という記載を付加した補正は、当該請求項8に係る発明の「監視領域」内での「第1領域」及び「第2領域」の配置について、補正前の請求項9に「前記移動体から遠ざかる順に、第1領域、および、」「第2領域を含み」とされていたのを、補正後の請求項8では、第2領域の配置について、移動体から遠ざかる方向が「第1領域の外周部」全体であるという限定を付加するとともに、「常に設けられ」るという限定も付加したものであって、補正前の請求項9に記載された発明と補正後の請求項8に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の段落【0033】には、「このように、監視領域MAの外周部に不感帯となる維持領域A2を設ける」と記載されているとともに、同段落【0034】には、「このように、本実施形態では、監視領域MAは、自走台車1を中心に順に停止領域A1a、減速領域A1bおよび維持領域A2が取り囲んだ形状に形成される。」と記載され、さらに、図2C?2E、図4、図5A?5Dには、監視領域MAの外周部に維持領域が常に設けられていることも図示されているから、この補正は、本願明細書の記載からみて新規事項を追加するものではないことが明らかである。

ウ 本件補正の、特許請求の範囲の補正後の請求項8において、「前記速度制御に対する」という記載を付加した補正は、当該請求項8に係る発明の「不感帯となる第2領域」について、前記速度制御に対する不感帯となることを限定するものであって、補正前の請求項9に記載された発明と補正後の請求項8に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の段落【0032】には、「これに対し、『不感帯となる』とは、自走台車1の速度を維持する制御の対象となることを指す。」と記載されているから、この補正は、本願明細書の記載からみて新規事項を追加するものではない。

エ 本件補正の、特許請求の範囲の補正後の請求項8において、「前記監視領域のサイズを変更することは、前記速度制御によって前記移動体の速度が維持される場合に、前記監視領域のサイズを維持する」という記載を付加した補正は、当該請求項8に係る発明の「監視領域のサイズを変更すること」について、前記速度制御によって移動体の速度が維持されると監視領域のサイズを維持する動作を行うものであるとの限定を付加するものであって、補正前の請求項9に記載された発明と補正後の請求項8に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の段落【0061】には、「かかる場合において、障害物判定部21bが、維持領域A2に障害物OBが存在すると判定したならば、速度制御部21daは、図5Bの右図に示すように、自走台車1の速度を維持する。また、監視領域変更部21cは、自走台車1の速度が維持される場合に、監視領域MAを監視領域MA2のまま維持する。」と記載され、同段落【0062】には、「このように、自走台車1の速度および監視領域MAのサイズが維持される」と記載されており、「自走台車1」は「移動体」の例であることを踏まえると、この補正は、本願明細書の記載からみて新規事項を追加するものではないことが明らかである。

(2)独立特許要件
次に、本件補正後の請求項8に係る発明(以下「本件補正発明」という)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、つまり、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、について検討する。

ア 引用文献及びその記載事項
(ア)引用文献1
本件出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された特開平6-222834号公報(以下「引用文献1」という)には、次の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審で付し、以下同様)。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 遠近二段階以上の検出エリアの切り替えが可能な障害物検出センサーを無人搬送車の前面に設置し、一定の速度以下で走行する場合には、遠方の検出エリア内の障害物検出信号を無視し、近方の検出エリア内の障害物検出信号だけで無人搬送車を停止させるようにしたことを特徴とする無人搬送車の走行制御方法。」

b 「【0005】
【実施例】図1と図2に本発明の無人搬送車を示す。この無人搬送車1は上下一対の障害物検出センサー2,3を車体前面の左右にそれぞれ設置してある。これらセンサー2,3は超音波あるいは光を障害物に照射し、その反射波を捕らえて障害物を検出する方式のものを使用している。また、これらセンサー2,3は出力を所定のタイミグで切り替えてビーム4,5の到達距離を二段階に変化できるようにしてある。さらに、上方のセンサー2のビーム4は下方のセンサー3のビーム5よりも遠方まで達するようにしてある。この結果、センサー2,3から照射されるビーム4,5によって、4つの検出エリア6_(D) ,6_(L) ,7_(D) ,7_(L) が形成されることになる。
【0006】この無人搬送車1は、走行速度Vとセンサー2,3の障害物検出結果に基づいて、次のような走行速度の制御を行う。
(1)V≧V_(0) の場合
検出エリア6_(D) 内に障害物がある時:減速
検出エリア6_(L) ,7_(D) ,7_(L) 内に障害物がある時:停止
(2)V_(0) >V≧V_(1) の場合
検出エリア6_(D) は無視
検出エリア6_(L) 内に障害物がある時:減速
検出エリア7_(D) ,7_(L )内に障害物がある時:停止
(3)V_(1) >Vの場合
検出エリア6_(D) ,6_(L) は無視
検出エリア7_(D) 内に障害物がある時:減速
検出エリア7_(L) 内に障害物がある時:停止
なお、V_(0) ,V_(1) は次のように設定しなければならない。
V_(S) >V_(0) >V_(1) >V_(C)
ここで、V_(S) は定常の走行速度、V_(C) はカーブ走行時の速度
【0007】いま、この無人搬送車1を図3に示す走行路L上を走行させる場合を考える。無人搬送車1は、定常の走行速度でカーブに向かって直線状に走行してくる。この場合には、上記(1)の制御が行われる。そして、充分に減速した状態でカーブに進入する。このとき、上記(3)の制御に切り替わっているので、検出エリア6_(D) ,6_(L) 内に障害物Oが入っても、無人搬送車1は停止することなくカーブを通過する。その後、定常の走行速度まで加速して直線状に走行する。なお、定常の走行速度で走行している際に、前方に障害物を発見した場合には、制御状態が上記(1)(2)(3)の順に切り替わっていくので、無人搬送車1を緩やかに減速しながら停止させることができる。」

c 上記摘記事項bの段落【0006】の制御状態(1)ないし(3)からすると、それぞれの走行速度に応じて、検出エリアが制御状態(1)ないし(3)のいずれかに固定されていることになるから、速度が一定であれば制御状態(1)ないし(3)が他の制御状態に変化することはない。よって、「無人搬送車1の走行速度が維持される場合に、検出エリアの制御状態を維持する」制御を行うものと認められる。

d 上記摘記事項bの段落【0006】に記載された制御状態(2)及び(3)は、無人搬送車1の走行速度制御として「停止、減速」することが示されている。また、上記摘記事項bの段落【0007】には、カーブ通過等で減速した無人搬送車1が、「その後、定常の走行速度まで加速して直線状に走行する。」との記載によれば、無人搬送車1の走行速度制御には「加速」も含まれると解される。そうすると、引用文献1に記載された「無人搬送車1の走行速度制御」は、「無人搬送車1を停止、減速または加速させる」ものであると認められる。

e 引用文献1に記載された発明
上記摘記事項a及びb並びに認定事項c及びdを、技術常識を踏まえて整理すると、引用文献1には以下の発明が記載されていると認められる。
「検出エリア内における障害物検出結果に基づいて無人搬送車1の走行速度制御を行うことと、
前記無人搬送車1の走行速度に基づいて前記検出エリアの制御状態を切り替えることと
を含み、
前記検出エリアは、
前記無人搬送車1を停止、減速または加速させる前記走行速度制御の対象となる無人搬送車1の前面から近方の検出エリア、および、該近方の検出エリアより遠方に設けられ、前記走行速度制御に対する障害物検出信号を無視する遠方の検出エリアを含み、
前記走行速度制御を行うことは、
前記障害物が前記遠方の検出エリア内にある場合に、障害物検出信号を無視する制御を行い、
前記検出エリアの制御状態を切り替えることは、
前記走行速度制御によって前記無人搬送車1の走行速度が維持される場合に、前記検出エリアの制御状態を維持する無人搬送車1の走行制御方法。」(以下「引用発明」という)

(イ)引用文献2
本件出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で周知技術として示された特開平2-83713号公報(以下「引用文献2」という)には、次の事項が記載されている。
a 「第2図に示すように、前記移動車(A)の車体周囲には、設定距離内の障害物存否を検出する非接触式の障害物検出手段としての反射式の超音波センサ(S)の複数個が、各センサの水平方向での障害物検出範囲が互いに隣接する状態で、全体としての障害物検出範囲が車体全周囲を水平方向に取り囲む範囲となるように、車体の前後両端部、角部、及び、車体横側部の夫々に設けられている。」(3ページ右下欄5-13行)

b 「前記超音波センサ(S)の夫々は、検出した障害物に対する距離を遠近二段階に判別できるように構成されている。」(4ページ左上欄15-18行)

c 「上記実施例では、移動車(A)の走行中は、超音波センサ(S)を走行前方側のみの障害物存否を検出させるようにした場合を例示したが、超音波センサ(S)の全部を作動状態にして、車体全周囲における水平方向での障害物存否を検出させるようにしてもよい。」(5ページ左上欄下から5行-右上欄1行)

d 第2図


(ウ)引用文献3
本件出願日前に頒布され、原査定で周知技術として示された特開平11-259132号公報(以下「引用文献3」という)には、次の事項が記載されている。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 作業場所において通路を進行するモービルマシンの前記通路における障害物の検出に応答する方法であって、
前記通路において関連領域を走査し、
前記通路において障害物の存在を検出し、
前記モービルマシンと、前記検出された障害物と、前記作業場所の少なくとも1つの関数として、少なくとも1つのパラメータを求め、
前記モービルマシンの動作に対する前記検出障害物の動作の可能性のレベルを判断し、
前記モービルマシンが進行する前記通路の1セグメントに、前記予測可能性のレベルと少なくとも1つのパラメータの関数となっている複数のゾーンのそれぞれの範囲を定め、
前記障害物が配置される前記ゾーンの関数として前記モービルマシンによる応答反応を開始する、
段階からなる方法。
・・・
【請求項7】 パラメータは、前記モービルマシンの速度に対する前記検出された障害物の速度であることを特徴とする請求項6に記載の方法。」

b 「【0010】本発明の好ましい実施例では、3つのゾーン306、308、310を使用することを参照して記載する。しかし、本発明の精神は、使用されるゾーンはいくつでもよいとする。例えば、本発明は、2つのゾーン、4つのゾーン又は必要に応じて複数のゾーンであってもよい。図4は、図3に示した好ましい実施例の側面図を表す。3つのゾーン306、308、310は、遠距離および近距離走査パターン302、304を3つのセクションに分割する。第3のゾーンが第2のゾーンから走査パターン302の遠いほうの端部にまで延びているのが好ましい。従って、走査パターン302、304によりカバーされる全領域は、少なくとも一つのゾーン306、308、310に含まれている。」

c 「【0015】プランが立てられた障害物のヘッディングと速度が車両群マネージャ202から、もしくは障害物から直接モービルマシン102に伝えられなかった場合、障害物は予測不能な移動障害物208であると判断される。障害物の動作は、モービルマシン102が障害物のヘッディングを知り、障害物の速度を知るが、障害物のヘッディングまたは速度のいずれかのプランが立てられた変更を知らなかった場合に、予測不可能となる。図6を続けて参照すると、制御は、障害物の動作が予測できるものと判断された場合には、第4の制御ブロック610に進み、障害物の動作が予測できないものと判断された場合には、第5の制御ブロック611に進む。第4および5の制御ブロック610,612において、各ゾーン306、308、310の範囲が定められる。障害物の動作が予測不能である場合には、各ゾーン306、308、310の範囲が予測可能障害物206の範囲よりも大きいことが望ましい。範囲がより大きくなれば、障害物の予測不能なヘッディングと速度とのために、モービルマシン102による応答時間がより長くなる。各ゾーン306、308、310の範囲が、決定されたパラメータの関数として変り、障害物の検出範囲とモービルマシン102による停止距離を変化させることになる。
【0016】好ましい実施例において、3つのゾーンが使用される。モービルマシン102から、該モービルマシン102からの第1の距離までの第1のゾーン306は警告ゾーン306として知られている。モービルマシン102から、該モービルマシン102からの第2の距離までの第2のゾーン308は警戒ゾーン308として知られている。第2の距離から、モービルマシン102からの第3の距離までの第3のゾーン310は注意ゾーン310として知られている。3つのゾーン306、308、310のいずれにおいても、移動する障害物を検出することによって、以下に記載するように、モービルマシン102によって独特の応答が発生することになる。第2の判定ブロックにおいて、移動する障害物が注意ゾーン310において検出された場合には、制御は、第6の制御ブロック616に進む。第6の制御ブロック616において、モービルマシン102が、先に有していた速度を維持する。しかし、モービルマシン102は、移動障害物が注意ゾーン310から、他の2つのゾーン306、308の一方に入ろうとする際に、この移動する障害物を監視する。
【0017】第2の判定ブロック614において、移動する障害物が注意ゾーン310にないと判断されると、制御は、第3の判定ブロック618に進む。第3の判定ブロック618において、移動障害物が警戒ゾーン308にあると判断されると、制御は、第7の制御ブロック620に動き、モービルマシン102は、速度を落とす。好ましくは、モービルマシン102のヘッディングと速度に対する移動障害物のヘッディングと速度を分析することによって、モービルマシン102の所望の減速程度が判定され、モービルマシン102と、移動する障害物とが、相互の進行通路で妨害することなく、それら現在のヘッディングに沿って動き続けることができるのに十分に、モービルマシン102の速度を減速することになる。
【0018】そうでない場合には、本発明は、モービルマシン102を、動いている障害物の動作と衝突しないようにヘッディングを変更できる。例えば、移動している障害物が、通路104上のモービルマシン102に向かって直接動くように判定される場合には、モービルマシン102は、動いている障害物とモービルマシン102が相互に通過できるように、わずかに、一時的にコースを変更してもよい。第3の判定ブロック618において、動いている障害物が警戒ゾーン308にないと判断されると、制御は、第4の判定ブロック622に進む。第4の判定ブロック622において、動いている障害物は、警告ゾーン306にあると判断されると、制御は、第8の制御ブロック624に進み、モービルマシン102は、動いている障害物が警告ゾーン306に存在しなくなるまで停止している。動いている障害物が、警告ゾーン306にないと第4の判定ブロック622において判断されると、移動障害物が間連領域にはなく、制御は第1の制御ブロック602に戻る。」

d 図3

e 図4


イ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「検出エリア」は、本件補正発明の「監視領域」に相当し、同様に、「障害物検出結果」は「障害物の有無」に、「無人搬送車1」は「移動体」に、「走行速度」は「速度」に、「(障害物が)ある」ことは「(障害物が)存在する」ことに、「無人搬送車1の走行制御方法」は「移動体制御方法」に、それぞれ相当する。
引用発明の「無人搬送車1の前面から近方の検出エリア」は、無人搬送車1の停止、減速等の走行速度制御の対象となる検出エリアであり、本件補正発明の「第1領域」に相当する。
引用発明の「遠方の検出エリア」が、「前記走行速度制御に対する障害物検出信号を無視する」ことは、本件補正発明の「第2領域」が、「前記速度制御に対する不感帯となる」ことに相当するから、引用発明の「遠方の検出エリア」は本件補正発明の「第2領域」に相当する。
そして、引用発明の「遠方の検出エリア」が「該近方の検出エリアより遠方に設けられ」という記載と、本件補正発明の「第2領域」が「該第1領域の外周部に常に設けられ」という記載とを対比すると、両者は、「第2領域」が「該第1領域の外に設けられ」という事項を限度として一致する。
また、引用発明の「障害物検出信号を無視する制御」は、遠方の検出エリア内の「障害物検出信号を無視する」ことで、減速又は停止する制御を行わず、結果的に、「無人搬送車1の走行速度を維持する制御」を行うことになるから、本件補正発明の「移動体の速度を維持する制御」に相当することになる。
引用発明の「検出エリアの制御状態を切り替えること」は、引用文献1の段落【0006】に記載された制御状態(1)ないし(3)に示されるように、4つの検出エリア6_(D),6_(L),7_(D),7_(L)がそれぞれ無視、減速、停止のどの制御を行うかが変わることで、無視、減速、停止の制御を行う検出エリアのサイズが変更されることになる。したがって、引用発明の「検出エリアの制御状態を切り替えること」は、本件補正発明の「監視領域のサイズを変更すること」に相当する。
また、引用発明の「前記検出エリアの制御状態を維持する」ことは、上記の4つの検出エリア6_(D),6_(L),7_(D),7_(L)が行う制御が変わらず、無視、減速、停止の制御を行う検出エリアのサイズが変更されないから、本件補正発明の「前記監視領域のサイズを維持する」ことに相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「監視領域内における障害物の有無に基づいて移動体の速度制御を行うことと、
前記移動体の速度に基づいて前記監視領域のサイズを変更することと
を含み、
前記監視領域は、
前記移動体を停止、減速または加速させる前記速度制御の対象となる第1領域、および、該第1領域の外に設けられ、前記速度制御に対する不感帯となる第2領域を含み、
前記速度制御を行うことは、
前記障害物が前記第2領域内に存在する場合に、前記移動体の速度を維持する制御を行い、
前記監視領域のサイズを変更することは、
前記速度制御によって前記移動体の速度が維持される場合に、前記監視領域のサイズを維持する移動体制御方法。」
<相違点1>
第2領域の第1領域に対する配置が、本件補正発明では、「外周部」であるのに対し、引用発明の遠方の検出エリアは、近方の検出エリアより「遠方」に設けられるものではあるが、周囲を囲むことは不明である点。
<相違点2>
第2領域について、本件補正発明では「常に設けられ」ているのに対し、引用発明の障害物検出信号を無視する遠方の検出エリアは、無人搬送車1の走行速度が制御状態(1)の設定範囲の時には設けられない点。

ウ 判断
(ア)相違点1について
引用文献2に、自動走行移動車の車体周囲の障害物存否を検出するために、障害物検出手段としての超音波センサ(S)を、その検出範囲が、移動車(A)の車体全周囲を水平方向に取り囲む範囲となるように車体に設けた例が示されているように、移動体の外周部を囲むように二段階判別可能なセンサを設けることは、従来周知の事項である。
そして、引用文献2にも記載されているように、障害物の検出を移動体の前方のみで行うか、移動体の全周囲で行うかは、必要に応じて適宜選択する事項であり、当業者であれば、引用発明の無人搬送車1において前方の障害物だけでなく全周囲方向の障害物を検出する構成することは、走行方向等に応じて適宜設定する程度の事項であり、容易に想到するものと認められる。

(イ)相違点2について
引用発明では、無人搬送車1の走行速度が制御状態(1)のV≧V_(0)の場合は、検出エリア6_(D)内に障害物があれば減速するが、当該検出エリア6_(D)の外側では障害物検出信号の検出を行わない構成となっている。しかし、この検出エリア6_(D)の外側では、検出を行わないことで当然減速や停止等の走行速度制御を行うこともないから、障害物検出信号を無視するのと同じ作用効果を奏するものである。また、本件補正発明において、監視領域が最も広い場合に、監視領域に含まれる「速度制御に対する不感帯となる第2領域」でわざわざ検出を行わなければならないことの意味も理由も不明である。そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。
また、たとえ、本件補正発明において、監視領域が最も広い場合に「速度制御に対する不感帯となる第2領域」で検出を行うことに意義があるとしても、障害物の検出は行うが速度制御は行わない領域を最も外側に常に設けておく構成は、引用文献3にも、警告ゾーンである第1のゾーン306及び警戒ゾーンである第2のゾーン308の他に、注意ゾーンである第3ゾーン310も設けたモービルマシン102の構造として示されているように、従来周知の事項にすぎず、さらに、引用文献3には、上記3つのゾーンに限られることなく、必要に応じていくつでも複数のゾーンを設けてよいことも示唆されているから、当業者であれば、上記引用文献3にも示された従来周知の事項を考慮して、引用発明の検出エリア6_(D)のさらに遠方のエリアにもセンサーによる検出を行わせることで、不感帯となる第2領域を常に設けることも、容易に想到するものと認められる。

(ウ)効果について
上記の相違点1及び2を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する効果は、引用発明及び引用文献2及び3に記載された従来周知の事項が奏する効果から、予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 小結
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2及び3に記載された従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)補正の適否についてのむすび
上記のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし9に係る発明は、平成29年12月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項9に係る発明(以下「本願発明」という)は、上記第2の1(2)に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうちの理由1は、本件出願の請求項1ないし4及び9に係る発明は、その出願前に頒布された下記の文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。
文献1:特開平6-222834号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された文献1は、上記第2の2(2)アに記載した引用文献1であるから、その記載事項は上記第2の2(2)ア(ア)に記載したとおりである。

4 当審の判断
本願発明は、上記第2の2で検討した本件補正発明から、「前記移動体を停止、減速または加速させる前記速度制御の対象となる」、「該第1領域の外周部に常に設けられ」、「前記速度制御に対する」及び「前記監視領域のサイズを変更することは、前記速度制御によって前記移動体の速度が維持される場合に、前記監視領域のサイズを維持すること」という限定事項を削除したものである。
そして、本件補正発明と引用発明との相違点1及び2となった「該第1領域の外周部に常に設けられ」という発明特定事項は、本願発明は有しておらず、当該発明特定事項による限定を削除した、本願発明の「前記移動体から遠ざかる順に、第1領域、および、不感帯となる第2領域を含み」という構成は、引用発明も「無人搬送車1の前面から近方の検出エリア、および、該近方の検出エリアより遠方に設けられ、前記走行速度の制御を障害物検出信号を無視する遠方の検出エリアを含み」という構成を有しており、両発明の上記構成は一致するものと認められる。
そうすると、本願発明は、引用発明と発明特定事項が一致するから、引用発明と同一の発明であると認められる。

第4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-12 
結審通知日 2019-02-19 
審決日 2019-03-04 
出願番号 特願2015-28975(P2015-28975)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G05D)
P 1 8・ 121- Z (G05D)
P 1 8・ 572- Z (G05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒田 暁子  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 栗田 雅弘
中川 隆司
発明の名称 移動体制御装置および移動体制御方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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