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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1350942
審判番号 不服2018-9407  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-06 
確定日 2019-04-17 
事件の表示 特願2015-124426「光ファイバ切断装置及び光ファイバ切断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年1月12日出願公開、特開2017-9772〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年6月22日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 9月26日付け:拒絶理由通知書
平成29年11月20日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 3月28日付け:拒絶査定(同年4月9日送達)
平成30年 7月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年7月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年7月6日にされた手続補正についての補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「【請求項1】
光ファイバの長手方向に離間して配置され、当該光ファイバを固定する第1固定部材及び第2固定部材と、
前記光ファイバの長手方向に対して交差する方向へ進退可能に配設され、前記第1固定部材及び前記第2固定部材の間において光ファイバにキズを形成する刃と、
前記光ファイバを前記キズの反対側から押圧して切断する押圧部材と、
前記刃と共に進退可能なガイド部材とを備え、
前記押圧部材は、押圧部、及び押圧開始用ピンを有するとともに付勢機構を内蔵し、
前記ガイド部材の後端部が前記押圧開始用ピンの直下を通過していない位置では、前記押圧部及び前記押圧開始用ピンは、前記付勢機構によって下方に付勢され、前記押圧開始用ピンは前記ガイド部材に押圧され、前記ガイド部材の後端部が前記押圧開始用ピンの直下を通過した後の位置では、前記押圧部及び前記押圧開始用ピンは、前記付勢機構の弾性力によって下方に移動し、前記押圧部が前記光ファイバを押圧するよう構成され、
前記第1固定部材は、前記光ファイバを挟持する第1クランプ部及び第3クランプ部からなり、
前記第2固定部材は、前記光ファイバを挟持する第2クランプ部及び第4クランプ部からなり、
前記第1クランプ部及び前記第2クランプ部は、前記光ファイバの前記キズが形成される側を支持し、前記第3クランプ部及び前記第4クランプ部は、前記光ファイバの前記キズの反対側を支持し、
前記第3クランプ部と前記第4クランプ部の間隔W2が、前記第1クランプ部と前記第2クランプ部の間隔W1よりも小さく(W2<W1)、
クラッドが純石英からなるシングルモード光ファイバ(SMF)用に最適化された第1固定部材及び第2固定部材の間の間隔をX(mm)とした場合、前記間隔W2はX+1(mm)以下であり、且つ前記間隔W1はX+2(mm)以上であることを特徴とする、光ファイバ切断装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成29年11月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
光ファイバの長手方向に離間して配置され、当該光ファイバを固定する第1固定部材及び第2固定部材と、
前記光ファイバの長手方向に対して交差する方向へ進退可能に配設され、前記第1固定部材及び前記第2固定部材の間において光ファイバにキズを形成する刃と、
前記光ファイバを前記キズの反対側から押圧して切断する押圧部材とを備え、
前記第1固定部材は、前記光ファイバを挟持する第1クランプ部及び第3クランプ部からなり、
前記第2固定部材は、前記光ファイバを挟持する第2クランプ部及び第4クランプ部からなり、
前記第1クランプ部及び前記第2クランプ部は、前記光ファイバの前記キズが形成される側を支持し、前記第3クランプ部及び前記第4クランプ部は、前記光ファイバの前記キズの反対側を支持し、
前記第3クランプ部と前記第4クランプ部の間隔W2が、前記第1クランプ部と前記第2クランプ部の間隔W1よりも小さく(W2<W1)、
クラッドが純石英からなるシングルモード光ファイバ(SMF)用に最適化された第1固定部材及び第2固定部材の間の間隔をX(mm)とした場合、前記間隔W2はX+1(mm)以下であり、且つ前記間隔W1はX+2(mm)以上であることを特徴とする、光ファイバ切断装置。」

2 補正の適否
(1)本件補正が補正の目的要件を満たさないことについて
本件補正により、本件補正前の請求項1に対して、「前記刃と共に進退可能なガイド部材」とを備え、「前記押圧部材は、押圧部、及び押圧開始用ピンを有するとともに付勢機構を内蔵し、前記ガイド部材の後端部が前記押圧開始用ピンの直下を通過していない位置では、前記押圧部及び前記押圧開始用ピンは、前記付勢機構によって下方に付勢され、前記押圧開始用ピンは前記ガイド部材に押圧され、前記ガイド部材の後端部が前記押圧開始用ピンの直下を通過した後の位置では、前記押圧部及び前記押圧開始用ピンは、前記付勢機構の弾性力によって下方に移動し、前記押圧部が前記光ファイバを押圧するよう構成され」るという事項が付加された。

しかし、このような「刃と共に進退可能なガイド部材」は、本件補正前の請求項1に記載されていた発明特定事項ではないから、本件補正は、請求項に記載した発明特定事項の限定に該当せず、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)に該当しない。そして、本件補正後の請求項1に係る発明は、「刃と共に進退可能なガイド部材」及び押圧開始用ピンを用いてこのガイド部材の進退に基づき、人手による押圧力を用いずに光ファイバにキズをつける動作及び押圧部材による光ファイバを切断する動作とを簡単な構成で確実にこの順番でするという課題を解決するものであって、補正前の請求項1に係る発明の、光ファイバの種類によらず良好な端面を容易に形成するという課題との関係で、解決しようとする課題が同一であるとはいえず、この点からも、本件補正は限定的減縮に該当しない。そして、本件補正の目的は、特許法第17条の2第5項の他の各号に掲げる、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、上記補正の却下の結論の決定のとおり決定する。

(2)仮に本件補正が限定的減縮であると仮定した場合について
上記2(1)に記載したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものであるが、事案に鑑みて、以下、仮に、本件補正が限定的減縮に該当すると仮定した場合において、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

ア 引用文献
(ア)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2005-55479号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付したものである。以下同じ。)

a 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近年、光ファイバにおいて、被覆を除去した素線のクラッド外表面を保護するための恒久的な(すなわち容易には除去されない)樹脂製の皮膜を備えたものが開発されている。この保護皮膜は、前述した光ファイバ切断工程の準備段階において、光ファイバの被覆を除去する際やその後の素線清掃の際にクラッド外表面を擦過傷等から保護する機能を有する。しかし、このような保護皮膜付きの光ファイバを、前述した従来の切断装置で切断しようとすると、保護皮膜の存在により、刃部の刃先が素線のクラッドに必要十分な寸法の傷を付与することが困難になる傾向がある。
【0006】
ここで、光ファイバの分野では今日、素線の外径に関する標準寸法が規定されており、保護皮膜付きの光ファイバも、保護皮膜を含む素線の外径が標準寸法を有するように作製されている。したがって、同じ標準寸法で比較すると、保護皮膜付きの光ファイバは保護皮膜を有さない光ファイバよりも、クラッドの外径が小さくなり、それに伴い剛性が若干低くなる。このような同一標準寸法の異種光ファイバに対し、例えば前述した特許文献1に開示されるような、クランプ部と刃部との相対位置関係が特定標準寸法の光ファイバ専用に事前設定された切断装置では、刃部による傷付け作用が自ずと異なるものになる。具体的には、保護皮膜を有さない光ファイバ用に設定された切断装置で保護皮膜付きの光ファイバを切断しようとすると、一対のクランプ部の間に架け渡して支持された後者の光ファイバ素線は、その表面に刃部の刃先を当接したときに、受傷し難い硬質の保護皮膜が刃先に押されて、素線自体が各クランプ部に対し僅かに摺動しつつ容易に撓んでしまう。その結果、クラッドと刃先との間の距離が保護皮膜の厚みの分だけ拡大されていることと相俟って、刃先をクラッドに必要十分な量だけ切り込ませることが困難になる。
【0007】
クランプ部間に架け渡した光ファイバ素線の硬質の保護皮膜を刃部の刃先が確実に貫通できるようにするためには、素線の固定支点となる一対のクランプ部の相互間隔を縮減して、刃先から保護皮膜に加わる切込荷重を効果的に増加させることが有効である(荷重は支点間距離の3乗に反比例する)。したがって、特定標準寸法の光ファイバ専用の切断装置においても、一対のクランプ部の間隔を、光ファイバの種類(例えば保護皮膜の有無)に対応して調整できるようにすることが考えられる。しかしこの場合には、刃部による傷付け作用時の光ファイバ素線の撓みを所定量に精確に調整することが要求されるので、例えば前述した特許文献2に開示されるような切断装置のクランプ間隔調整機構では、作業者の高度な調整技術を要するだけでなく、高精度のクランプ案内/位置決め機構が必要となり、作業熟練度による歩留まりの悪化、切断装置の構造の複雑化及び価格の高騰、メンテナンス作業の煩雑化等の問題の発現が予測される。特に、切断対象の光ファイバの種類が変わる都度、そのような高精度のクランプ間隔調整作業を実施しなければならず、結果としてファイバ切断作業に手間と時間が浪費されることになる。
【0008】
また、前述した特許文献2の切断装置では、異なる外径寸法の光ファイバ素線に対する押圧劈開時の撓み曲率を最適化する目的でクランプ間隔調整機構が設けられており、刃部による傷付け作用時の素線の撓みは、別に設置した保持板を素線の傷付け部位の反対側に当接することによって直接的かつ強制的に排除している。このような構成では、傷付け作業の都度、刃部の刃先に過剰な摩擦負荷が掛かり、刃先寿命が低下することが懸念される。
【0009】
ここで、刃部の刃先から光ファイバ素線の保護皮膜に加わる切込荷重を増加させる他の手法として、クランプ部に対する刃先高さを高くすることが考えられる(荷重は変位に正比例する)。しかし、従来の切断装置に装備された刃部の刃先高さ調整機構は、一般にμm単位の微調整を主目的とするものである。したがって、保護皮膜を有さない光ファイバ用に設定された切断装置で保護皮膜付きの光ファイバを切断する際に、高さ調整機構により刃先高さを最大値に設定したとしても、刃先が保護皮膜を貫通してクラッドに所要寸法の傷を付け得る程の効果は得難い。逆に、所要の切込荷重増加を達成するまで刃先高さを高くできるように構成した場合には、最大刃先高さでの傷付け作業中に、素線が過大に屈曲してコア及びクラッドに損傷を与えることが危惧される。また、刃先高さ調整機構自体、作業熟練度による歩留まりの悪化、切断装置の構造の複雑化及び価格の高騰、メンテナンス作業の煩雑化等の問題を内包するものである。
【0010】
なお、上記した諸課題は、保護皮膜の有無により素線構造が相違する光ファイバだけでなく、コア及びクラッドの材質が異なる素線構造(石英コア/石英クラッド、石英コア/樹脂クラッド、多成分ガラスコア/多成分ガラスクラッド等)の光ファイバを、1つの切断装置で切断しようとする際にも、顕現することが予測される。
【0011】
本発明の目的は、クランプ部間に架け渡した光ファイバ素線を、その表面に刃部の刃先で傷を付けた後に押圧して劈開させることにより切断する光ファイバ切断装置において、異なる素線構造を有する光ファイバのそれぞれに対し、クランプ部と刃部との相対位置関係を変更することなく、素線の切断面を鏡面状の直交端面形態に形成するに必要十分な寸法の傷を素線表面に容易かつ確実に付けることができ、しかも刃部の刃先寿命が低下する懸念を排除できる、汎用性を有した光ファイバ切断装置を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、クランプ部間に架け渡した光ファイバ素線を、その表面に傷を付けた後に押圧して劈開させることにより切断する光ファイバ切断方法において、異なる素線構造を有する光ファイバのそれぞれに対し、クランプ部の相互間隔を変更することなく、素線の切断面を鏡面状の直交端面形態に形成するに必要十分な寸法の傷を素線表面に容易かつ確実に付けることができる光ファイバ切断方法を提供することにある。」

b 「【0021】
図1?図3に示すように、光ファイバ切断装置10は、基部12と、互いに予め定めた間隔を空けて基部12に固定的に設置される一対のクランプ部14と、基部12に移動可能に設置される刃部16と、刃部16から独立して基部12に移動可能に設置される押圧部18とを備える。基部12は、平面視略矩形の堅固なブロック体であって、ファイバ切断作業の基準となる水平面を規定するその表面(図で上面)12aに、互いに間隔を空けて固定的に配置される第1基台20及び第2基台22を有する。第1基台20は、その頂面の所定位置に水平方向へ延びる凹所20aを備え、凹所20aに、切断対象の光ファイバFを予め定めた位置に保持するためのファイバ保持部材24が、着脱自在に搭載される。第1基台20は、一方のクランプ部14の基部12上での位置を規定し、第2基台22は、他方のクランプ部14の基部12上での位置を規定する。それらクランプ部14は、基部12上で、第1基台20の凹所20aの延長方向に整列して、互いに同一高さに配置される。
【0022】
ファイバ保持部材24は、第1基台20の凹所20aに受容される矩形平板状の本体26と、本体26の長手方向へ延びる一縁に回動自在に連結される矩形平板状の挟持板28とを備える。本体26の表面には、所定径寸法の光ファイバFを位置決めして収容可能な保持溝(図示せず)が設けられ、挟持板28は、本体26に対し回動することにより保持溝を開閉する。ファイバ保持部材24は、挟持板28を本体26に重ね合わせた状態で、保持溝内に収容した光ファイバFを固定的に保持し、その状態で第1基台20の凹所20aに搭載されることにより、光ファイバFを基台12上で所定位置に位置決めする。なお、光ファイバFは後述するように、光ファイバ切断工程の準備段階で、末端の所望長さに渡り被覆が除去されて素線Uが露出され、素線Uを外方へ延出させた状態でファイバ保持部材24に保持される。
【0023】
光ファイバ切断装置10はさらに、基部12に開閉動作可能に連結される蓋部30をさらに備える。蓋部30は、平面視略矩形の堅固な板状体であり、その一縁に設けた蝶番部分32を介して、基部12の第1基台20に回動自在に支持される。一対のクランプ部14は、基部12に固定的に設置される一対の第1クランプ部材34と、蓋部30に固定的に設置される一対の第2クランプ部材36とを備える。一対の第1クランプ部材34は、基部12上で第1基台20と第2基台22とのそれぞれに固定されて、局所的な矩形突起を個々に構成する。他方、一対の第2クランプ部材36は、蓋部30上で、一対の第1クランプ部材34のそれぞれに衝合可能な対応位置に固定されて、同様に局所的な矩形突起を構成する。蓋部30には、一対の第2クランプ部材36の間に、板厚方向へ貫通するとともに蝶番部分32の反対側の縁に開口する切欠き38が形成される。
【0024】
各クランプ部14の第1クランプ部材34及び第2クランプ部材36は、略平坦なクランプ面34a及び36aをそれぞれの突出端に有する。それらクランプ面34a、36aは、蓋部30が基部12に対し基部12上方を覆う閉位置にあるときに、互いに密接状態で衝合可能な形状を有する。好ましくはそれらクランプ面34a、36aは、各クランプ部材34、36に固着されたゴム等の弾性片40によって形成される。一対の第1クランプ部材34のクランプ面34aは、基部12上で同一の仮想水平面内に配置される。また、一対の第2クランプ部材36のクランプ面36aは、蓋部30上で同一の仮想平面内に配置され、それにより、蓋部30の閉鎖動作に従って、対応の第1クランプ部材34のクランプ面34aにそれぞれの略全体で同時に面接触するようになっている。このようなクランプ部14の構成により、光ファイバFの素線Uは、光ファイバ切断工程に際して、一対のクランプ部14の間に、基部12上の所定高さ位置で水平方向へ正確に架け渡して支持される。
【0025】
刃部16は、中心軸線16aを有する円板状の形態を備え、その外周縁に沿って、例えば超鋼材料からなる鋭利な刃先42が円弧状に延長形成される。刃部16は、基部12上で第1及び第2基台20、22の間の空所に受容される移動台44に、刃先42を所定高さに露出させた状態で固定的に支持される。移動台44は、基部12上にリニアガイド46を介して、一対のクランプ部14の間に架け渡される光ファイバ素線Uに直交する水平方向Sへ直線往復移動自在に搭載される。刃部16は、その刃先42を移動台44の移動方向Sに平行に向けて配置され、それにより刃先42を、一対のクランプ部14の間(図では略中央)に規定されるファイバ切断位置Pに配置できるようになっている。つまりファイバ切断位置Pは、刃先42の直線移動経路内に規定される。
【0026】
光ファイバ切断工程に際して、刃部16は基部12上で、例えば手動操作により図2に示す初期位置から、クランプ部14に支持された光ファイバ素線Uに接近する水平方向へ連続移動させられる。そして刃部16の刃先42が、ファイバ切断位置Pを通過する瞬間に、素線Uのクラッド外表面に、素線Uの軸線に略直交する方向への傷(すなわち切込)を付ける(図3(a))。次いで刃部16は、素線Uに対し初期位置とは反対側に離隔配置され、その状態で押圧部18による素線押圧(切断)作業を行った後、初期位置に戻されて次の光ファイバ切断工程を待機する。なお刃部16は、刃先42を更新する等の目的で、軸線16aに関して回転可能な構成とすることができる。また、基部12上で各クランプ部14の第1クランプ部材34のクランプ面34aに対する刃先42の高さをμm単位で微調整するために、図示しない刃先高さ調整機構を装備することもできる。
【0027】
押圧部18は、回転軸線を有する揺動腕の形態を備え、その自由端に、回転方向に面する略平坦な押圧面48が形成される。押圧部18はその基端で、基部12の第1基台20に設けられる枢着台50に回転可能に支持される。枢着台50は、第1基台20上で蓋部30の蝶番部分32とは反対側の縁に沿って設置される取付腕52の先端に固定され、基部12上で移動台44の移動経路の上方に離間して配置される。押圧部18は、その回転軸線を刃部16の中心軸線16aに平行に向けて配置され、それにより押圧面48を、一対のクランプ部14の間に規定されるファイバ切断位置Pに配置できるようになっている。つまりファイバ切断位置Pは、押圧面48の円弧移動経路内に規定される。なお、押圧部18の揺動腕部分は、基部12上で閉位置にある蓋部30の切欠き38に非接触に受容されるように、予め寸法設定される。また、図示実施形態の構成に代えて、押圧部18を蓋部30に設置したり、押圧部18を刃部16や蓋部30と連動する構造としたりすることもできる。
【0028】
光ファイバ切断工程に際して、刃部16による素線傷付け作業の後に、押圧部18は基部12上で、例えば手動操作により図1に示す初期位置から、クランプ部14に支持されたままの光ファイバ素線Uに接近する方向へ揺動させられる。そして押圧部18の押圧面48が、ファイバ切断位置Pに到達して、刃部16による傷とは反対側の素線Uのクラッド外表面に対し、例えば人手による押圧力fを素線Uの軸線に略直交する方向へ負荷する。それにより光ファイバ素線Uに、傷を中心とした引張応力が生じ、素線Uが目標部位で劈開して切断されて、端面Eが形成される(図3(b))。この光ファイバ切断工程の完了後、押圧部18は初期位置に戻されて、次の光ファイバ切断工程を待機する。なお、押圧部18の押圧面48には、刃部16の刃先42との不注意による衝突を回避するとともに、切断直後の光ファイバ素線Uの端面Eを汚損しないようにするためのスロットを設けることができる。
【0029】
上記した光ファイバ切断装置10による切断工程を実施可能な光ファイバFは、図4(a)に示すように、コアC1及びクラッドC2のうち少なくともコアC1が石英又は多成分ガラスからなる素線Uを、樹脂製の被覆Sで覆ったものである。光ファイバ切断装置10では、このような光ファイバFに対し、素線Uの切断面に鏡面状の直交端面Eを形成できるように、クランプ部14と刃部16との相対位置関係が、素線Uの外径寸法(例えば国際標準寸法)に対応して予め設定されている。さらに光ファイバ切断装置10は、素線Uの外径寸法と同一の外径寸法を有する素線U´であって、被覆Sの除去時にクラッドC2の外表面を保護するための恒久的な(すなわち容易には除去されない)樹脂製の保護皮膜C3を有する素線U´を備えた光ファイバF´(図4(b))に対しても、クランプ部14と刃部16との相対位置関係の設定を変更することなく、鏡面状の直交端面Eを素線U´の切断面に形成できるように構成される。
【0030】
すなわち光ファイバ切断装置10は、本発明の特徴的構成として、刃部16及び押圧部18から独立して基部12に対し移動可能に設置される補助支持部54をさらに備える。補助支持部54は、基部12上で作用位置に配置でき、この作用位置で、保護皮膜C3を有する光ファイバ素線U´を一対のクランプ部14と協働して支持する。光ファイバ切断装置10は、互いに同一外径寸法の異種光ファイバ素線U、U´に対し、補助支持部54を作用位置と非作用位置との間で適宜移動させて切断工程を実施することにより、それら光ファイバ素線U、U´をいずれも高精度に切断することができる。
【0031】
補助支持部54は、図示実施形態では、シート、フィルム、箔等を含む薄板状の素材から所定輪郭に成形された薄板部材56から構成される。図5に示すように、薄板部材56は、補助支持部54の作用位置において一対のクランプ部14の間に局所的に延設されるようになっている一対のファイバ支持面58を、その一表面の所定領域に分散的に有する。それらファイバ支持面58は、薄板部材56が上記作用位置にあるときに、一対のクランプ部14の間に架け渡して支持される光ファイバ素線U´の、ファイバ切断位置Pから離れた一対の第1局所長さ部分L1(図7参照)に接触するように配置される。
【0032】
薄板部材56はまた、それらファイバ支持面58の間に隣接して形成される貫通穴からなる逃げ領域60と、両ファイバ支持面58の外側に隣接して形成される一対の被支持領域62とをさらに有する。逃げ領域60は、薄板部材56が作用位置にあるときに、ファイバ切断位置Pを通って延びる光ファイバ素線U´の第2局所長さ部分L2(図7参照)との接触を回避するように作用する。また、一対の被支持領域62は、薄板部材56が作用位置にあるときに、光ファイバ素線U´とともに一対のクランプ部14にそれぞれ支持されるように作用する。
【0033】
薄板部材56にはさらに、一方の被支持領域62の外側に延設される端部領域に、板厚方向へ貫通する取付孔64が形成される。取付孔64は、蓋部30の所望位置(図では一方の第2クランプ部材36の近傍)に突設した支柱66を摺動自在に受容するようになっており、それにより薄板部材56が、蓋部30に対し、支柱66を中心としてファイバ支持面58に平行な方向へ回転可能に取り付けられる。なお、蓋部30の支柱66には、蓋部30上で第2クランプ部材36のクランプ面36aと略同一高さの位置に、薄板部材56の取付孔64の縁を脱着可能に嵌着する周方向溝(図示せず)を形成することができる。また、薄板部材56を、蓋部30に取り付ける代わりに、基部12の例えば第2基台22に取り付けることもできる。
【0034】
上記した薄板部材56を有する補助支持部54の作用を、図7及び図8を参照して以下に説明する。
補助支持部54を構成する薄板部材56は、保護皮膜を有さない光ファイバFに対して前述した切断工程(図3)を実施する際には、蓋部30上で図1に示す非作用位置に置かれる。そして、薄板部材56が非作用位置にある状態で、保護皮膜付きの光ファイバF´に対し同様の切断工程を実施しようとすると、一対のクランプ部14の間に架け渡して支持した光ファイバ素線U´は、その表面に刃部16の刃先42を当接したときに、受傷し難い硬質の保護皮膜C3が刃先42に押されて、素線U´自体が各クランプ部14に対し僅かに摺動しつつ(矢印α)容易に撓んでしまう(図7(a))。その結果、クラッドC2と刃先42との間の距離が保護皮膜C3の厚みの分だけ拡大されている(図4)ことと相俟って、刃先42をクラッドC2に必要十分な量だけ切り込ませることが困難になる。
【0035】
そこで、光ファイバF´に対し切断工程を実施する際には、薄板部材56を、図1の非作用位置から蓋部30上で支柱66を中心に回転させて、一対の被支持領域62が、一対の第2クランプ部材36に重畳する位置に置く(図8)。この状態で、蓋部30を基部12に対し閉位置に動作させることにより、薄板部材56が作用位置に配置され、ファイバ保持部材24により基部12上で所定位置に位置決めされている光ファイバ素線U´が、それ自体と一対の第2クランプ部材36との間に薄板部材56を介在させて、両クランプ部14の間に架け渡して支持される(図7(b))。この作用位置で、薄板部材56の一対の被支持領域62は、光ファイバ素線U´と両第2クランプ部材36のクランプ面36aとの間に挟持され、一対のファイバ支持面58は、両クランプ部14に隣接する光ファイバ素線U´の一対の局所長さ部分L1にそれぞれ接触する。
【0036】
この状態で、刃部16を初期位置(図2)から移動させて刃先42を光ファイバ素線U´の表面に当接すると、薄板部材56の両ファイバ支持面58が、下方からの刃先42の当接力を上方で受け止める素線U´の一方向固定支点として作用するので、一対のクランプ部14の相互間隔が縮減されたと同等の効果を奏して、刃先42から保護皮膜C3に加わる切込荷重が効果的に増加する(荷重は支点間距離の3乗に反比例する)。それに伴い、光ファイバ素線U´の第2局所長さ部分L2の撓み量も低減する(図7(b))。その結果、刃部16の刃先42が、ファイバ切断位置Pにおいて、光ファイバ素線U´の保護皮膜C3を確実に貫通し、刃先42をクラッドC2に必要十分な量だけ切り込ませることができる。なお、この傷付け作業中、薄板部材56は逃げ領域60によって、光ファイバ素線U´の第2局所長さ部分L2との接触を回避しているから、傷付け作業を繰り返しても、刃部16の刃先42に過剰な摩擦負荷が掛かることは回避され、刃先寿命の低下が防止される。
【0037】
上記傷付け作業の後に、刃部16を素線Uに対し初期位置とは反対側に離隔配置した状態で、押圧部18を初期位置(図8)から、クランプ部14に支持されたままの光ファイバ素線U´に接近する方向へ揺動させる。ここで、押圧面48を有する押圧部先端の膨出部分は、光ファイバ素線U´と共に両クランプ部14に支持された薄板部材56の逃げ領域60を非接触に通り抜けるように、予め寸法設定される。それにより押圧面48は、ファイバ切断位置Pにおいて、刃部16による傷とは反対側の素線U´の表面に対し、例えば人手による押圧力fを素線U´の軸線に略直交する方向へ負荷することができる。その結果、光ファイバ素線U´に、傷を中心とした引張応力が生じ、素線U´が目標部位で劈開して切断されて、端面Eが形成される(図7(c))。
【0038】
補助支持部54を構成する薄板部材56は、上記した所要の支点間距離縮減作用を発揮できるように、予め選定した材質、形状、寸法を備えて作製される。この支点間距離縮減効果は、一対のクランプ部14の予め定めた相互間隔、切断対象となる光ファイバ素線U´のクラッドC2の外径及び保護皮膜C3の厚み、光ファイバ素線U´のヤング率等によって左右されるものである。薄板部材56の材料としては、金属、樹脂、ゴム、紙、布等の、所望厚みで所望外形に容易に成形可能な種々の材料を採用できる。また、薄板部材56のファイバ支持面58の寸法(特に光ファイバ素線U´の局所長さ部分L1に対応する寸法)は、薄板部材56の材料と素線U´に要求される撓み抑制量とを考慮して適宜設定できる。さらに、薄板部材56の望ましくない変形を排除するために、光ファイバ素線U´に当接されない部位で薄板部材56を局部的に折り曲げたりリブ状又はフレーム状の肉厚部分を局部的に形成したりして、薄板部材56の強度を増加させることもできる。なお、構成(素線の外径寸法等)の異なる多種類の光ファイバに対して、補助支持部54を用いた高精度の切断工程を実施できるようにするために、多様な材質、形状、寸法を備える多種類の薄板部材56を用意しておくことが有利である。
【0039】
さらに、薄板部材56の各被支持領域62は、薄板部材56が作用位置にあるときに、支持対象の光ファイバ素線U´の軸線に直交する方向において各クランプ部14の第1及び第2クランプ部材34、36に取着した弾性片40から食み出さない寸法を有することが望ましい(図9)。このような構成によれば、光ファイバ素線U´と薄板部材56の被支持領域62とが、第1及び第2クランプ部材34、36の弾性片40にそれぞれ食い込んで、両クランプ部材34、36のクランプ面34a、36aが互いに確実に密接し、結果として蓋部30を本体12に対し所定の閉位置に保持できるようになる。
【0040】
このように、上記構成を有する光ファイバ切断装置10によれば、保護皮膜を有さない一般的な光ファイバFに対し高精度の切断工程を実施できるようにクランプ部14と刃部16との相対位置関係が事前設定されている場合であっても、この事前設定を変更することなく、補助支持部54の薄板部材56を作用位置に置くだけで、素線Uと同一外径寸法の素線U´を有する保護皮膜付き光ファイバF´に対し、素線U´の切断面に鏡面状の直交端面Eを確実に形成することができる。補助支持部54は、単純構造で安価な薄板部材56から構成されるので、切断装置の構造の複雑化及び価格の高騰といった問題は生じない。特に薄板部材56は、その被支持領域62を両クランプ部14によって強固にクランプするだけで、基部12上でのファイバ支持面58の位置(高さ)を精密に規定できるので、従来構造の光ファイバ切断装置に高精度の補助支持部54を安価に追加することができる。また、ファイバ切断作業に際し、前述した所要の支点間距離縮減作用を発揮できるように予め選定した材質、形状、寸法を有する薄板部材56を、素線U´と共に両クランプ部14に挟持するだけで、通常の刃部操作により刃部16の刃先42を素線U´のクラッドC2に必要十分に切り込ませることができるので、作業者の熟練によらず高精度の切断作業を実施できる。さらに、薄板部材56の損耗に関し、蓋部30に装着される薄板部材56を容易に交換できる構成とすることにより、メンテナンス作業が煩雑化する懸念は無くなる。」

c 「【0061】
図20は、本発明の第3の実施形態による光ファイバ切断装置140を示す。光ファイバ切断装置140は、補助支持部の構成以外は、第1実施形態による光ファイバ切断装置10と実質的同一の構成を有する。したがって、対応する構成要素には共通の参照符号を付してその説明を省略する。なお、光ファイバ切断装置140では、保護皮膜を有さない光ファイバF(図4(a))に対し高精度の切断工程を実施できるように、クランプ部14と刃部16との相対位置関係が事前設定されている。
【0062】
光ファイバ切断装置140は、本発明の特徴的構成として、刃部16及び押圧部18から独立して基部12に対し移動可能に設置される補助支持部142を備える。補助支持部142は、基部12上で作用位置に配置でき、この作用位置で、保護皮膜C3を有する光ファイバ素線U´(図4(b))を一対のクランプ部14と協働して支持する。光ファイバ切断装置140は、互いに同一外径寸法の異種光ファイバ素線U、U´に対し、補助支持部142を作用位置と非作用位置との間で適宜移動させて切断工程を実施することにより、それら光ファイバ素線U、U´をいずれも高精度に切断することができる。
【0063】
図21に示すように、補助支持部142は、それぞれに回転軸線144aを有する一対の円板部材144から構成される。それら円板部材144は、図示しない枢軸を介して、回転軸線144aを中心にそれぞれ独立して回転可能に蓋部30に装着される。両円板部材144は、蓋部30の切欠き38内で、一対の第2クランプ部材36に隣接して配置される。図22に示すように、各円板部材144は、回転軸線144aを中心として扇形に区画された複数の扇形領域146を有する。それら扇形領域146は、互いに異なる厚み(軸線方向寸法)を有し、それにより個々の扇形領域146の径方向外端面(すなわち円板部材144の外周面)に、互いに軸線方向寸法の異なる略平坦なファイバ支持面148がそれぞれ形成される。それらファイバ支持面148は、例えばそれぞれの周方向中央部位で、回転軸線144aから互いに同一距離の位置に配置される。さらに、所望の1つの扇形領域146(図では最も薄い扇形領域146)の径方向外端面には、ファイバ支持面148よりも回転中心(すなわち軸線144a)に近い位置に偏倚して配置される非作用面150が形成される。
【0064】
両円板部材144の個々のファイバ支持面130は、円板部材144が上記作用位置にあるときに、一対のクランプ部14の間に架け渡して支持される光ファイバ素線U´の、ファイバ切断位置Pから離れた一対の局所長さ部分L1(図23参照)にそれぞれ接触するように配置される。また、蓋部30に装着された両円板部材144の間の空間は、円板部材144が作用位置にあるときに、ファイバ切断位置Pを通って延びる光ファイバ素線U´の第2局所長さ部分L2(図23参照)との接触を回避する逃げ領域として作用する。各円板部材144は、蓋部30上で例えば切欠き38の輪郭面に対する摩擦により、所望のファイバ支持面148が第2クランプ部材36のクランプ面36aに同一平面状に隣接する回転位置に保持される。なお、両円板部材144の間の空間は、蓋部30が基部12上で閉位置にあるときに、押圧部18の揺動腕部分を非接触に受容する。
【0065】
上記した円板部材144を有する補助支持部122の作用を、図23を参照して以下に説明する。
まず、保護皮膜を有さない光ファイバF(図4(a))に対して切断工程を実施する際には、図23(a)に示すように、各円板部材144を例えば手動で回転させることにより、蓋部30上で非作用面150が第2クランプ部材36のクランプ面36aに隣接する非作用位置に置かれる。この非作用位置では、蓋部30を基部12に対し閉位置に動作させたときに、各円板部材144の非作用面150は、一対のクランプ部14の間に架け渡された光ファイバ素線Uから離隔して配置される。この状態で、基部12上で刃部16を直動操作して、その刃先42により、ファイバ切断位置Pにある素線Uのクラッド外表面に、素線Uの軸線に略直交する方向への傷(すなわち切込)を付ける。次いで、押圧部18を揺動操作して、その押圧面48により、光ファイバ素線Uに押圧力を負荷し、目標部位で劈開させて切断する(図3(b)参照)。なお、刃部16及び押圧部18による作用は、前述した光ファイバ切断装置10による切断工程におけるものと同様である。
【0066】
他方、保護皮膜付きの光ファイバF´(図4(b))に対し切断工程を実施する際には、蓋部30を基部12上で閉位置に配置して一対のクランプ部14に光ファイバ素線U´を支持する前又は後に、各円板部材144を、図23(a)の非作用位置から蓋部30の切欠き38内で回転させて、所望のファイバ支持面148が第2クランプ部材36のクランプ面36aに隣接する位置に置く(図23(b))。それにより、両円板部材144は作用位置に配置され、それぞれの所望のファイバ支持面148が、一対のクランプ部14の間に架け渡された光ファイバ素線U´の、両クランプ部14に隣接する一対の局所長さ部分L1にそれぞれ接触する。
【0067】
この状態で、刃部16を基部12上で直動操作して刃先42を光ファイバ素線U´の表面に当接すると、両円板部材144のファイバ支持面148が、下方からの刃先42の当接力を上方で受け止める素線U´の一方向固定支点として作用して、刃先42から保護皮膜に加わる切込荷重を効果的に増加させるとともに、素線U´の第2局所長さ部分L2の撓み量を低減させる(図23(b))。その結果、刃部16の刃先42が、ファイバ切断位置Pにおいて、光ファイバ素線U´の保護皮膜を確実に貫通し、刃先42をクラッドに必要十分な量だけ切り込ませることができる。なお、この傷付け作業中、両円板部材144の間の空間が逃げ領域として作用して、光ファイバ素線U´の第2局所長さ部分L2との接触を回避しているから、傷付け作業を繰り返しても、刃部16の刃先42に過剰な摩擦負荷が掛かることは回避され、刃先寿命の低下が防止される。
【0068】
次いで、押圧部18を揺動操作して、その押圧面48により、光ファイバ素線Uに押圧力を負荷し、目標部位で劈開させて切断する(図7(c)参照)。なお、刃部16及び押圧部18による作用は、前述した光ファイバ切断装置10による切断工程におけるものと同様である。
【0069】
補助支持部142を構成する各円板部材144は、上記した所要の支点間距離縮減作用を発揮できるように、予め選定した材質、形状、寸法を備えて作製される。円板部材144の材料としては、金属、樹脂等の、切断工程中に少なくともファイバ支持面148の形状を維持可能な剛性を有する種々の材料を採用できる。また、各円板部材144の個々のファイバ支持面148の寸法(特に光ファイバ素線U´の局所長さ部分L1に対応する寸法)は、構成(素線の外径寸法等)の異なる多種類の光ファイバの素線に要求される撓み抑制量を考慮して、多様な寸法に適宜設定できる。
【0070】
このように、上記構成を有する光ファイバ切断装置140によっても、前述した光ファイバ切断装置10と同等の作用効果が奏されることは理解されよう。特に光ファイバ切断装置140によれば、それ自体に剛性を有する円板部材144から構成される補助支持部142を採用したから、前述した薄板部材56からなる補助支持部54に比べて、補助支持部142の保管、メンテナンス等の取り扱いが一層容易になる利点がある。さらに、1種類の円板部材144を用意するだけで、構成(素線の外径寸法等)の異なる多種類の光ファイバに対し、補助支持部142を用いた高精度の切断工程を実施できるようになる利点がある。
【0071】
以上、本発明の好適な実施形態を、保護皮膜の有無により素線構造が相違する光ファイバF、F´に関連して説明した。しかし本発明は、そのような適用に限定されるものではなく、コア及びクラッドの材質が異なる素線構造(石英コア/石英クラッド、石英コア/樹脂クラッド、多成分ガラスコア/多成分ガラスクラッド等)の光ファイバを、1つの切断装置で切断しようとする際にも適用できることは理解されよう。」

d 引用文献1の図7、図23は、次のとおりのものである。

引用文献1の図7において、押圧部は、光ファイバ素線を傷の反対側から押圧して切断していることが、図23において、補助支持部によって形成されるファイバ支持面の間の距離である第2局所長さ部分L2は、第1クランプ部材の間の間隔よりも小さくなっていることが見て取れる。

したがって、上記記載事項及び図面に示された事項から、引用文献1には、次の発明(以下「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

「基部と、
互いに予め定めた間隔を空け、基部に固定的に設置される一対の第1クランプ部材と、蓋部に固定的に設置される一対の第2クランプ部材とを備え、光ファイバ素線を水平方向へ架け渡して支持する、一対のクランプ部と、
基部上で、クランプ部に支持された光ファイバ素線に接近する水平方向へ連続移動させられ、一対のクランプ部の間に規定されるファイバ切断位置を通過する瞬間に、素線のクラッド外表面に、素線の軸線に略直交する方向への傷を付ける刃部と、
クランプ部に支持されたままの光ファイバ素線に接近する方向へ揺動させられ、光ファイバ素線を傷の反対側から押圧して切断する押圧部と、
独立して回転可能に蓋部に装着され、第2クランプ部材に隣接して配置され、回転軸線を中心として扇形に区画された複数の扇形領域を有することにより個々の扇形領域の径方向外端面に互いに軸線方向寸法の異なる略平坦なファイバ支持面をそれぞれ形成し、ファイバ支持面の間の距離である第2局所長さ部分L2は、第1クランプ部材の間の間隔よりも小さくなっている一対の円板部材から構成される補助支持部、とを備えた、
光ファイバ切断装置。」

(イ)引用文献2
新たに引用した引用文献2(特開2014-89272号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

a 「【0032】
つぎに、この光ファイバ切断装置100の使用方法および動作について説明する。
はじめに、図1に示すように光ファイバ切断装置100の蓋9を開き、図2に示すように光ファイバ素線Fが保持された光ファイバフォルダHを載置部3に載置する。なお、蓋9は載置部3に対して90度以上の開口角度で開くので、光ファイバフォルダHを載置部3に載置する作業がしやすくなっている。なお、光ファイバフォルダHを載置部3に載置、固定してから、光ファイバ素線Fを光ファイバフォルダHに載置するようにしてもよい。
【0033】
このとき、光ファイバFaが露出した部分は、クランプ15a、15b、送りローラ21に載置された状態となる。
【0034】
つぎに、図3に示すように蓋9を閉じる。ここで、蓋9は開閉作業をしやすくするために負荷を掛けずになめらかに開閉できるようになっている。そのために蓋9を閉じるときはその自重で勢い良く閉じる場合があり、その際に蓋9が切断部本体7に直接接触するとその衝撃で光ファイバ素線Fの位置がずれる場合がある。特に、蓋9が主に金属性の部材で構成されて重量がある場合にはその衝撃が大きくなる。
【0035】
ここで、光ファイバフォルダHや切断部6の各機構は、刃13がガラス光ファイバにキズを形成するときに光ファイバFaの中心軸に垂直な方向の線状のキズが形成されるように位置調整されている。したがって、光ファイバ素線Fの位置がずれるとキズが傾斜する等の問題が発生、良質な切断ができない場合がある。
【0036】
これに対して、光ファイバ切断装置100では、光ファイバ屑回収部2の本体から上方に突出するように設けられている衝撃緩和部材20が存在するため、蓋9が勢い良く閉じても蓋9が本体1(切断部本体7)に衝突する前に衝撃緩和部材20に衝突するため、蓋9を閉じるときに本体1に伝わる衝撃が緩和される。これによって、光ファイバ素線Fの位置ずれが防止される。従って、衝撃緩和部材20は、接触による衝撃を緩和できる樹脂等の材料で構成することが好ましい。さらに、衝撃緩和部材20は、不図示のバネ機構によって、外力で押下されると光ファイバ屑回収部2の本体に格納され、その後にその外力が除かれるともとの位置に復元するように構成されているため、よりいっそう衝撃が緩和される。
【0037】
その後、図5に示すように蓋9に負荷を掛けて蓋9を完全に閉じる。これによって、衝撃緩和部材20が押下され、衝撃緩和部材20が光ファイバ屑回収部2の本体に完全に格納される。また、蓋9を完全に閉じることによって、光ファイバFaはクランプ15a?15dによって挟持されるとともに、送りローラ21と従動ローラ23とによっても挟持される。これによって、光ファイバFaは固定される。
【0038】
つぎに、操作レバー4を押下する操作を行う。すると、軸部材10が軸回転し、これによって送りカム11が軸部材10の回りに軸回転する。送りカム11は転がり軸受11aを介して刃支持部材12を押すため、直動ガイド14に載置された刃支持部材12は直線運動をする。
【0039】
図13、14は、光ファイバにキズを形成する動作を説明する図である。図13は、操作レバー4を押下する前の状態を載置部3側から見た図である。光ファイバFaはクランプ15aに載置されている。
【0040】
操作レバー4を押下すると、送りカム11が軸回転し、転がり軸受11aを介して刃支持部材12を押すため、刃支持部材12は直線運動をする。その結果、図14に示すように、刃支持部材12は光ファイバFaの下を通過し、このとき刃13が光ファイバFaにキズを形成する。
【0041】
ここで、ガイドレール14aとスライドブロック14bとの間には片側だけでたとえば1μm?3μmのわずかな隙間があることがある。一方、光ファイバFaの直径はたとえば125μmであるが、キズがわずかに0.2μm程度ぶれただけでも、光ファイバFaの切断面が中心軸に対して2度?3度程度も傾斜する場合がある。
【0042】
これに対して、この光ファイバ切断装置100では、刃支持部材12は、図12でも示したように、ガイドレール14aがスライドブロック14bに押しつけられた状態で直線運動をするので、刃支持部材12はその軌道がぶれることなく直線運動をする。その結果、刃13が光ファイバFaに付けるキズはそのキズの方向が安定したものとなる。したがって、このキズをきっかけにして光ファイバFaを良質な切断面を有するように安定して切断することができる。
【0043】
また、この光ファイバ切断装置100では、送りカム11が軸回転すると、転がり軸受11aが軸受ガイド部材12b上を転がりながら刃支持部材12を押すことになる。その結果、送りカム11と刃支持部材12との接触抵抗は転がり抵抗であるため摩擦力が小さく、送りカム11と刃支持部材12との接触点で、摩耗やキズなどが発生しにくい。そのため、送りカム11が刃支持部材12を押す力の方向が安定し、刃支持部材12は安定して直線運動をすることができる。
【0044】
なお、軸受ガイド部材12bは円柱状であり、送りカム11と接触する側の外周が円弧状である。この場合は、転がり軸受11aと軸受ガイド部材12bとの接触が点接触または線接触となり、接触面積が小さくなるため、送りカム11が刃支持部材12を押す力の方向がさらに安定する。これによって、刃支持部材12はさらに安定して直線運動をすることができる。
【0045】
一方、図15、16は、光ファイバを押圧して切断する動作を説明する図である。
図15は、操作レバー4を押下する前の状態を光ファイバ屑回収部2側から見た図である。光ファイバFaはクランプ15aに載置されている。また、押圧部材16に内蔵された不図示のバネ機構によって、押圧部16aおよび押圧開始用ピン16cは下方に付勢されており、押圧開始用ピン16cはガイド部材12bに押しつけられている。
【0046】
操作レバー4を押下すると、送りカム11によって刃支持部材12は直線運動をする。その結果、上述したように、刃支持部材12は光ファイバFaの下を通過し、このとき刃13が光ファイバFaにキズをつける。さらに、図16に示すように、ガイド部材12bの紙面左方向端部が押圧開始用ピン16cの直下を通過した後、バネ機構の弾性力によって押圧部16aおよび押圧開始用ピン16cは下方に移動し、押圧部16aはキズが形成された光ファイバFaを押圧する。その結果、光ファイバFaは切断される。
【0047】
ここで、図11に示したように、押圧部材16は突起部16baの存在によって位置ずれなく安定した姿勢とされているため、光ファイバFaに対して好ましい方向、すなわち、光ファイバFaの中心軸に対して垂直方向に押圧力を掛けることができる。その結果、光ファイバFaを良質な切断面を有するように、さらに安定して切断することができる。なお、光ファイバFaの切断により切り離された部分(クランプ15aと送りローラ21とに載置されている部分)は光ファイバ屑となる。
【0048】
その後、操作レバー4をさらに押下すると、送りカム11が蓋9を押し上げて蓋9が跳ね上がり、蓋9によって押下されていた衝撃緩和部材20が初期位置に復元する。このとき、上述したように、ワンウェイクラッチを含むギヤ機構によって送りローラ21が回転し、従動ローラ23と協働して切断された光ファイバ屑を屑箱22へと送る。これによって光ファイバ屑は屑箱22に回収される。
【0049】
なお、操作レバー4の押下を解除すると、バネ15(図6参照)の復元力によって送りカム11と刃支持部材12および刃13は初期位置(図13)に示す位置に戻る。」

b 引用文献1の図12ないし16は、次のとおりのものである。
【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

引用文献2の図12ないし16において、光ファイバの押圧を開始するためのガイド部材12bは、光ファイバにキズを形成するための刃13とともに進退可能なものであることが見て取れる。

したがって、上記記載事項及び図面に示された事項から、引用文献2には、次の技術(以下「引用文献2技術」という。)が記載されていると認められる。

「光ファイバ切断装置において、光ファイバにキズを形成するための刃と共に進退可能なガイド部材を設け、バネ機構によって押圧部および押圧開始用ピンが下方に付勢され、押圧開始用ピンがガイド部材に押しつけられ、ガイド部材の端部が押圧開始用ピンの直下を通過した後、バネ機構の弾性力によって押圧部および押圧開始用ピンが下方に移動し、押圧部が、キズが形成された光ファイバを押圧し、その結果、光ファイバが切断される技術。」

イ 対比
本件補正発明と引用文献1発明を対比する。

(ア)引用文献1発明の「光ファイバ切断装置」、「光ファイバ素線」は、それぞれ本件補正発明の「光ファイバ切断装置」、「光ファイバ」に相当する。

(イ)引用文献1発明の「刃部」、「押圧部」は、それぞれ本件補正発明の「刃」、「押圧部」に相当する。

(ウ)引用文献1発明の「一対の第1クランプ部材」は、基部に設置され、光ファイバを支持するものであり、基部上にあって光ファイバ素線に傷をつける刃部の側にあるから、本件補正発明の「第1クランプ部」及び「第2クランプ部」に相当し、引用文献1発明は、本件補正発明の「前記第1クランプ部及び前記第2クランプ部は、前記光ファイバの前記キズが形成される側を支持」するという構成を有しているといえる。

(エ)引用文献1発明の「一対の第2クランプ部材」は、光ファイバ素線に傷をつける刃部がある基部とは反対側の蓋部に設置され、「補助支持部」は、蓋部に装着され、第2クランプ部材に隣接して配置されており、ともに光ファイバ素線を支持するものであるから、引用文献1発明の「一対の第2クランプ部材」及び「補助支持部」を合わせたものは、本件補正発明の「前記光ファイバを挟持する「第3クランプ部」及び「第4クランプ部」に相当する。引用文献1発明は、本件補正発明の「前記第3クランプ部及び前記第4クランプ部は、前記光ファイバの前記キズの反対側を支持」するという構成を有しているといえる。また、引用文献1発明において、補助支持部によって形成される「ファイバ支持面の間の距離である第2局所長さ部分L2は、第1クランプ部材の間の間隔よりも小さくなっている」から、引用文献1発明は、本件補正発明の「前記第3クランプ部と前記第4クランプ部の間隔W2が、前記第1クランプ部と前記第2クランプ部の間隔W1よりも小さく(W2<W1)」なっているという構成も有しているといえる。

(オ)上記c及びdの相当関係から、引用文献1発明における、「互いに予め定めた間隔を空け、基部に固定的に設置される一対の第1クランプ部材と、蓋部に固定的に設置される一対の第2クランプ部材とを備え、光ファイバの素線を水平方向へ架け渡して支持する、一対のクランプ部」及び「補助支持部」を合わせたものは、本件補正発明の「光ファイバの長手方向に離間して配置され、当該光ファイバを固定する第1固定部材及び第2固定部材」に相当する。

(カ)引用文献1発明において、「刃部」は、一対のクランプ部の間に規定されるファイバ切断位置において、光ファイバ素線に、軸線に略直交すなわち長手方向に交差する方向への傷を付けるものであるから、引用文献1発明は、本件補正発明の「前記光ファイバの長手方向に対して交差する方向へ進退可能に配設され、前記第1固定部材及び前記第2固定部材の間において光ファイバにキズを形成する刃」という構成を有しているといえる。

(キ)引用文献1発明において、「押圧部」は、光ファイバ素線を傷の反対側から押圧して切断するものであるから、引用文献1発明は、本件補正発明の「前記光ファイバを前記キズの反対側から押圧して切断する押圧部材」という構成を有しているといえる。

したがって、本件補正発明と引用文献1発明を対比したときの一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「光ファイバの長手方向に離間して配置され、当該光ファイバを固定する第1固定部材及び第2固定部材と、
前記光ファイバの長手方向に対して交差する方向へ進退可能に配設され、前記第1固定部材及び前記第2固定部材の間において光ファイバにキズを形成する刃と、
前記光ファイバを前記キズの反対側から押圧して切断する押圧部材と、
前記第1固定部材は、前記光ファイバを挟持する第1クランプ部及び第3クランプ部からなり、
前記第2固定部材は、前記光ファイバを挟持する第2クランプ部及び第4クランプ部からなり、
前記第1クランプ部及び前記第2クランプ部は、前記光ファイバの前記キズが形成される側を支持し、前記第3クランプ部及び前記第4クランプ部は、前記光ファイバの前記キズの反対側を支持し、
前記第3クランプ部と前記第4クランプ部の間隔W2が、前記第1クランプ部と前記第2クランプ部の間隔W1よりも小さく(W2<W1)なっている、
光ファイバ切断装置。」

【相違点1】
本件補正発明においては、「クラッドが純石英からなるシングルモード光ファイバ(SMF)用に最適化された第1固定部材及び第2固定部材の間の間隔をX(mm)とした場合、前記間隔W2はX+1(mm)以下であり、且つ前記間隔W1はX+2(mm)以上である」のに対し、引用文献1発明においては、このような構成が特定されていない点。

【相違点2】
本件補正発明においては、光ファイバ切断装置が、「前記刃と共に進退可能なガイド部材とを備え、前記押圧部材は、押圧部、及び押圧開始用ピンを有するとともに付勢機構を内蔵し、前記ガイド部材の後端部が前記押圧開始用ピンの直下を通過していない位置では、前記押圧部及び前記押圧開始用ピンは、前記付勢機構によって下方に付勢され、前記押圧開始用ピンは前記ガイド部材に押圧され、前記ガイド部材の後端部が前記押圧開始用ピンの直下を通過した後の位置では、前記押圧部及び前記押圧開始用ピンは、前記付勢機構の弾性力によって下方に移動し、前記押圧部が前記光ファイバを押圧するよう構成され」ているのに対し、引用文献1発明においては、このようなガイド部材、押圧開始用ピン及び付勢機構の構成が特定されていない点。

ウ 判断
(ア)上記相違点1について
上記相違点1について検討する。

引用文献1発明も、引用文献1の段落【0012】等に記載されているとおり、「素線の切断面を鏡面状の直交端面形態に形成する」という課題も考慮して、光ファイバ素線の傷をつける側とは反対側のファイバ支持面の間の距離である第2局所長さ部分L2を、第1クランプ部材の間の間隔よりも小さくしつつ、補助支持部により調整可能としたものであり、段落【0010】に「上記した諸課題は、保護皮膜の有無により素線構造が相違する光ファイバだけでなく、コア及びクラッドの材質が異なる素線構造(石英コア/石英クラッド、石英コア/樹脂クラッド、多成分ガラスコア/多成分ガラスクラッド等)の光ファイバを、1つの切断装置で切断しようとする際にも、顕現することが予測される」と記載され、段落【【0071】に「以上、本発明の好適な実施形態を、保護皮膜の有無により素線構造が相違する光ファイバF、F´に関連して説明した。しかし本発明は、そのような適用に限定されるものではなく、コア及びクラッドの材質が異なる素線構造(石英コア/石英クラッド、石英コア/樹脂クラッド、多成分ガラスコア/多成分ガラスクラッド等)の光ファイバを、1つの切断装置で切断しようとする際にも適用できることは理解されよう。」と記載されていることからしても、光ファイバとして最も一般的な純石英クラッドを有するシングルモード光ファイバとこれ以外の材料からなる光ファイバの間の材質の相違においても同様の課題があり得ること、及び、この同様の課題に対して引用文献1発明が適用され得ることが示唆されているといえる。

また、引用文献1の段落【0061】に、「光ファイバ切断装置140では、保護皮膜を有さない光ファイバF(図4(a))に対し高精度の切断工程を実施できるように、クランプ部14と刃部16との相対位置関係が事前設定されている。」と記載されているとおり、引用文献1発明においても、切断しようとする光ファイバの種類に応じて、クランプ部の間隔はあらかじめ設定されるものである。

すなわち、引用文献1発明の課題及び適用の示唆に基づき、石英以外のドーパントをクラッドに含む光ファイバにおいても良好な切断面を得るため、引用文献1発明において切断しようとするその光ファイバの種類に応じて一対のクランプ部の間の距離をあらかじめ設定するとともに、補助支持部の間の距離を調整して最適化することで、上記相違点1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)上記相違点2について
引用文献1発明は、ガイド部材、押圧開始用ピン及び付勢機構の構成が特定されていないが、引用文献1の段落【0027】において、「図示実施形態の構成に代えて、押圧部18を蓋部30に設置したり、押圧部18を刃部16や蓋部30と連動する構造としたりすることもできる」と記載され、引用文献1においても、押圧部の動作は人手に限られるものではなく、押圧部と刃部を連動させてもよいことが示唆されているから、引用文献1発明において、引用文献2技術のとおり、「光ファイバ切断装置において、光ファイバにキズを形成するための刃と共に進退可能なガイド部材を設け、バネ機構によって押圧部および押圧開始用ピンが下方に付勢され、押圧開始用ピンがガイド部材に押しつけられ、ガイド部材の端部が押圧開始用ピンの直下を通過した後、バネ機構の弾性力によって押圧部および押圧開始用ピンが下方に移動し、押圧部が、キズが形成された光ファイバを押圧し、その結果、光ファイバが切断される」という構成を採用し、上記相違点2に係る構成を備えたものとすることは当業者が容易になし得たことである。

このような組み合わせによる効果も、それぞれの引用文献から予想できたものである。

したがって、本件補正発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものであって、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

エ 以上のとおり、本件補正は、仮に、限定的減縮に該当すると仮定した場合であっても、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであることに変わりはない。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年7月6日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成29年11月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1:特開2005-55479号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記第2[理由]2(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]2(2)で検討した本件補正発明において、「前記刃と共に進退可能なガイド部材」とを備え、「前記押圧部材は、押圧部、及び押圧開始用ピンを有するとともに付勢機構を内蔵し、前記ガイド部材の後端部が前記押圧開始用ピンの直下を通過していない位置では、前記押圧部及び前記押圧開始用ピンは、前記付勢機構によって下方に付勢され、前記押圧開始用ピンは前記ガイド部材に押圧され、前記ガイド部材の後端部が前記押圧開始用ピンの直下を通過した後の位置では、前記押圧部及び前記押圧開始用ピンは、前記付勢機構の弾性力によって下方に移動し、前記押圧部が前記光ファイバを押圧するよう構成され」るという限定を除いたものである。

そうすると、本願発明と引用文献1発明の相違点は、上記第2[理由]2(2)イで記載した上記相違点1のみとなり、上記相違点1についての判断は上記第2[理由]2(2)ウで記載したとおりであって、本願発明は、引用文献1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-08 
結審通知日 2019-02-12 
審決日 2019-03-04 
出願番号 特願2015-124426(P2015-124426)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 572- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橿本 英吾林 祥恵  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 森 竜介
古田 敦浩
発明の名称 光ファイバ切断装置及び光ファイバ切断方法  
代理人 前川 純一  
代理人 上島 類  
代理人 住吉 秀一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  

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