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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1350999
審判番号 不服2018-2334  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-19 
確定日 2019-04-11 
事件の表示 特願2013-241298「熱硬化型ダイボンドフィルム,ダイシングシート付きダイボンドフィルム,及び,半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月 4日出願公開,特開2015-103578〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年11月21日の出願であって,平成29年5月16日付け拒絶理由通知に応答して同年7月13日に意見書,手続補正書が提出されたが,同年12月14日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成30年2月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出された。そして,同年5月30日に上申書が提出され,その後,当審において,平成30年11月7日付けで,平成30年2月19日の手続補正についての補正却下の決定をし,同日付けで拒絶理由を通知し,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,請求人からは何の応答もない。

第2 本願発明について
平成30年2月19日に提出された手続補正書による補正は,平成30年11月7日付けの補正の却下の決定により,却下されることとなったので,本願の請求項1ないし6に係る発明は,平成29年7月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導性粒子を含有しており,
前記熱伝導性粒子の含有量が,熱硬化型ダイボンドフィルム全体に対して75重量%以上であり,
前記熱伝導性粒子は,シランカップリング剤により前処理されており,
熱抵抗が30×10^(-6)m^(2)・K/W以下であり,
熱硬化型ダイボンドフィルムの厚さをCとし,前記熱伝導性粒子の平均粒径をDとしたときに,C/Dが4?30の範囲内であることを特徴とする熱硬化型ダイボンドフィルム。」

第3 当審の拒絶理由通知書の概要
当審の拒絶の理由である,平成30年11月7日付け拒絶理由通知の理由は,概略,次のとおりのものである。
1 理由1
特許請求の範囲の請求項1?6の記載は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に照らして,当業者が本願明細書に記載された本願発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきであり,本願は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 理由2
特許請求の範囲の請求項1?6の記載は,製造に関して経時的な要素の記載がある場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえ,また,特許を受けようとする発明の範囲を不明確とする記載であり,本願は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3 理由3
発明の詳細な説明の記載は,当業者が特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので,本願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
4 理由4
本願の請求項1?6に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1?6に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1.特開2011-23607号公報
引用文献2.特開2007-254527号公報
引用文献3.特開2012-12585号公報
引用文献4.特開2012-207222号公報
引用文献5.特開2003-193021号公報
引用文献6.特開2011-228642号公報

第4 当審の判断
1 前提となる事実関係等
(1)本願の特許請求の範囲の記載
本願発明は,以下のとおりである(上記第2から再掲)。
「熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導性粒子を含有しており,
前記熱伝導性粒子の含有量が,熱硬化型ダイボンドフィルム全体に対して75重量%以上であり,
前記熱伝導性粒子は,シランカップリング剤により前処理されており,
熱抵抗が30×10^(-6)m^(2)・K/W以下であり,
熱硬化型ダイボンドフィルムの厚さをCとし,前記熱伝導性粒子の平均粒径をDとしたときに,C/Dが4?30の範囲内であることを特徴とする熱硬化型ダイボンドフィルム。」

(2)本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。
ア 発明が解決しようとする課題
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ダイボンドフィルムを高熱伝導性にするには,例えば,高熱伝導性の熱伝導性粒子を高充填に配合する必要がある。しかしながら,ダイボンドフィルムの厚さに対して粒径の小さい熱伝導性粒子を使用すると,熱伝導性粒子と樹脂の相互作用によってダイボンドフィルムの粘度が高くなることで流動性が低下し,プリント配線基板などの基板の凹凸にダイボンドフィルムが十分に追従出来ないという問題が起こる。そして,ダイボンドフィルムが基板の凹凸に追従出来ない場合,ダイボンドフィルムと基板との間にボイドが生じる。
一方,ダイボンドフィルムの厚さに対して粒径の大きい熱伝導性粒子を使用すると,ダイボンドフィルムの表面の凹凸が大きくなり,プリント配線基板などの基板に貼り合わせた際に,ダイボンドフィルムと基板との間にボイドが生じる。ダイボンドフィルムと基板との間にボイドがあると,前述したように放熱性が低下する問題が起こる他,信頼性が低下し,リフロー工程で被着体との剥離が生じるなどの問題も起こり得るといった問題がある。
【0009】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり,その目的は,熱伝導性が高く,且つ,被着体に貼り合わせた際に被着体との間にボイドが生じることを抑制することが可能な熱硬化型ダイボンドフィルム,当該熱硬化型ダイボンドフィルムを用いたダイシングシート付きダイボンドフィルム,及び,当該ダイシングシート付きダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法を提供することにある。」

イ 課題を解決するための手段
「【0010】
本願発明者等は,前記従来の問題点を解決すべく,熱硬化型ダイボンドフィルムについて検討した。その結果,下記の構成を採用することにより,熱伝導性を高くし,且つ,被着体に貼り合わせた際に被着体との間にボイドが生じることを抑制することが可能であることを見出し,本発明を完成させるに至った。」
「【0012】
前記構成によれば,熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導性粒子を含有しているため,熱伝導性に優れる。また,熱抵抗が30×10^(-6)m^(2)・K/W以下であるため,半導体チップからの発熱を効率的に被着体側に放熱することができる。
また,前記熱硬化型ダイボンドフィルムの厚さをCとし,前記熱伝導性粒子の平均粒径をDとしたときに,C/Dが4以上であり,熱伝導性粒子の平均粒径は,熱硬化型ダイボンドフィルムの厚さに対して,一定より小さい。従って,硬化型ダイボンドフィルムの表面に大きな凹凸が生じることを抑制することができる。
また,前記C/Dが30以下であり,熱伝導性粒子の平均粒径は,熱硬化型ダイボンドフィルムの厚さに対して,ある程度の大きさを有する。従って,粘度の上昇が抑えられており,被着体に貼り合わせた際に被着体との間にボイドが生じることを抑制することができる。」
「【0018】
前記熱伝導性粒子の含有量が,熱硬化型ダイボンドフィルム全体に対して75重量%以上であると,当該熱硬化型ダイボンドフィルムを用いて製造される半導体装置は,より放熱性に優れる。」

ウ 発明を実施するための形態
「【0062】
前記熱伝導性粒子の含有量は,熱硬化型ダイボンドフィルム全体に対して75重量%以上であることが好ましく,80重量%以上であることがより好ましく,85重量%以上であることがさらに好ましい。また,前記熱伝導性粒子の含有量は,多いほどが好ましいが製膜性の観点から,例えば,93重量%以下である。熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導性粒子を,熱硬化型ダイボンドフィルム全体に対して75重量%以上含有すると,当該熱硬化型ダイボンドフィルムを用いて製造される半導体装置は,より放熱性に優れる。」
「【0077】
前記熱伝導性粒子の形状としては,特に限定されず,例えば,フレーク状,針状,フィラメント状,球状,鱗片状のものを使用することができるが,分散性,充填率の向上の点で球状のものが好ましい。」
「【0099】
また,ダイボンドフィルム3,3’には,その用途に応じて前記熱伝導性粒子以外のフィラーを適宜配合することができる。前記フィラーの配合は,弾性率の調節等を可能とする。前記フィラーとしては,無機フィラー,及び,有機フィラーが挙げられる。前記無機フィラーとしては,特に制限はなく,例えば,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,ケイ酸カルシウム,ケイ酸マグネシウム,酸化カルシウム,ほう酸アルミウィスカ,結晶質シリカ,非晶質シリカ等が挙げられる。これらは,単独で又は2種以上を併用して用いることができる。」

エ 実施例
「【0125】
(実施例1)
<熱硬化型ダイボンドフィルムの作製>
下記(a)?(f)をMEK(メチルエチルケトン)に溶解させ,粘度が室温で150mPa・sになるように濃度を調整し,接着剤組成物溶液を得た。
<途中省略>
(e)球状アルミナフィラーA((株)アドマテックス製,製品名:AO802,平均粒径:0.6μm,比表面積:7.5m^(2)/g,熱伝導率:36W/m・K)
5部
(f)球状アルミナフィラーC(電気化学工業(株)製,製品名:DAW-05,平均粒径:5μm,比表面積:0.5m^(2)/g,熱伝導率:36W/m・K)
70部」
「【0128】
(実施例2)
<熱硬化型ダイボンドフィルムの作製>
下記(a)?(f)をMEK(メチルエチルケトン)に溶解させ,粘度が室温で150mPa・sになるように濃度を調整し,接着剤組成物溶液を得た。
<途中省略>
(f)球状アルミナフィラーB((電気化学工業(株)製,製品名:DAW-07,平均粒径:9μm,比表面積:0.3m^(2)/g,熱伝導率:36W/m・K)
24部」
「【0154】
【表1】




2 理由1(特許法第36条第6項第1号違反)について
(1)検討
ア 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,出願人が証明責任を負うと解するのが相当である(知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)10042号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決を参照。) 。
以下,上記の観点に立って,本願のサポート要件について検討する。

イ 本願発明の課題について
発明の詳細な説明の記載(前記1(2)ア)から,本願発明の課題は,
「ダイボンドフィルムを高熱伝導性にするために,高熱伝導性の熱伝導性粒子を高充填に配合する際に,ダイボンドフィルムの厚さに対して粒径の小さい熱伝導性粒子を使用すると,熱伝導性粒子と樹脂の相互作用によってダイボンドフィルムの粘度が高くなることで流動性が低下し,プリント配線基板などの基板の凹凸にダイボンドフィルムが十分に追従出来なくなり,ダイボンドフィルムと基板との間にボイドが生じ,一方,ダイボンドフィルムの厚さに対して粒径の大きい熱伝導性粒子を使用すると,ダイボンドフィルムの表面の凹凸が大きくなり,プリント配線基板などの基板に貼り合わせた際に,ダイボンドフィルムと基板との間にボイドが生じ,これらのボイドによって,放熱性,信頼性の低下,リフロー工程での被着体との剥離などの問題が起こり得るといった問題があることを鑑み,熱伝導性が高く,且つ,被着体に貼り合わせた際に被着体との間にボイドが生じることを抑制することが可能な熱硬化型ダイボンドフィルム,当該熱硬化型ダイボンドフィルムを用いたダイシングシート付きダイボンドフィルム,及び,当該ダイシングシート付きダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法を提供すること」にあると理解される。

ウ 発明の詳細な説明について
発明の詳細な説明の記載(前記1(2)ウ)に照らして,本願発明は,その熱伝導性粒子の形状が,球状以外の,例えば,フレーク状,針状,フィラメント状,球状,鱗片状のフィラーである場合を含有し,また,本願発明は,熱伝導性粒子以外のフィラーを適宜配合したもの,及び,熱伝導性粒子を85重量%を超えて含有したものを含む。
一方,発明の詳細な説明には,上記イの課題を達成する具体物として,球状アルミナフィラーA,BまたはCのみを,75ないし85重量%含有したものが記載されているものの,これら以外の具体物は記載されていない。

エ 判断
本願出願時の技術常識に照らして,熱伝導性粒子と樹脂の相互作用によるダイボンドフィルムの流動性が,熱伝導性粒子の形状,熱伝導性粒子以外のフィラーの配合の量,及び,熱伝導性粒子の配合量によって影響を受けることは自明な事項である。
そして,このような技術常識を参酌すると,実施例において,球状アルミナフィラーのみを75ないし85重量%含有したダイボンドフィルムが,C/Dが4?30の範囲内で,本願発明の課題を解決できたとしても,本願発明に含有されるこれ以外の態様,例えば,その熱伝導性粒子の形状が,球状以外の,フレーク状,針状,フィラメント状,球状,鱗片状のフィラーである場合,熱伝導性粒子以外のフィラーを適宜配合した場合,あるいは,熱伝導性粒子を85重量%を超えて含有した場合においてまで,前記発明の課題を解決できるとはいえないと考えるべきである。
すなわち,本願の発明の詳細な説明の記載からは,請求項1に記載された発明において特定される範囲においてまで,本願の課題が解決されることを,発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識からは理解することができない。
また,本願の請求項2ないし6に記載された発明についても同様である。

(2) 理由1のむすび
したがって,特許請求の範囲の請求項1?6の記載は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に照らして,当業者が本願明細書に記載された本願発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきであり,本願は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 理由2(特許法第36条第6項第2号違反)について
(1)本願発明は,「熱硬化型ダイボンドフィルム」という物の発明であるが,「前記熱伝導性粒子は,シランカップリング剤により前処理されており」との記載は,製造に関して経時的な要素の記載がある場合に該当するため,請求項1にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで,物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号,平成24年(受)第2658号)。
しかしながら,本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく,当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
したがって,本願発明は明確でない。
また,請求項1を引用する請求項2?6に係る発明も同様に明確でない。

(2)請求項1の「前記熱伝導性粒子の平均粒径をDとしたとき」は,特許を受けようとする発明の範囲を不明確とする記載である。
すなわち,「平均粒径」とは,様々な定義があるところ(例えば,特開2012-207222号公報の【0043】の定義であったり,請求人が平成30年5月30日付け上申書にて提出した参考資料におけるd10,d50,d90等の各種粒径値参照),本願発明におけるその具体的な定義が不明確である。
なお,本願明細書【0078】には,「熱伝導性粒子の平均粒径は,光度式の粒度分布計(HORIBA製,装置名;LA-910)により求めた値である。」と記載されているが,「粒度分布計」で計測されるのは粒度の分布であるから,当該記載のみからは,平均粒径の定義を明確に理解することはできない。
したがって,請求項1の記載によっては,特許を受けようとする発明を明確に把握することができない。
また,請求項2ないし6の記載も同様に明確でない。

4 理由3(特許法第36条第4項第1号違反)について
本願発明の「熱硬化型ダイボンドフィルム」の「熱伝導性粒子の比表面積」は発明の詳細な説明中の【0080】に記載の「熱伝導性粒子の比表面積は,BET吸着法(多点法)により測定した値である。具体的には,Quantachrome製4連式比表面積・細孔分布測定装置「NOVA-4200e型」を用い,ダイボンドフィルムをるつぼに入れ,大気雰囲気下,700℃で2時間強熱して灰化させて得られる灰分を110℃で6時間以上真空脱気した後に,窒素ガス中,77.35Kの温度下で測定した値である。ダイボンドフィルムの組成として熱伝導性粒子以外が有機成分である場合,上記の強熱処理により実質的に全ての有機成分が焼失することから,得られる灰分を熱伝導性粒子とみなして測定する」方法を用いて測定した値であるところ,【0099】,【0100】を参酌すると,本願発明の「熱硬化型ダイボンドフィルム」は,熱伝導性粒子以外の無機フィラーや,強熱処理により焼失することがない成分を含有する難燃剤等を適宜に配合する態様を含みうるものであり,その場合に,上記BET吸着法により熱伝導性粒子の比表面積を算出する場合に,熱伝導性粒子とその他のフィラー等とを,どのようにして区分けして,比表面積を測定しているのかが,本願の発明の詳細な説明には記載されていない。
また,当該測定する方法が,当業者にとって周知であったとも認められない。
したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
また,同様に,発明の詳細な説明の記載は,請求項2ないし6に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

5 理由4(特許法第29条第2項違反)について
(1) 引用文献の記載事項
ア 引用文献1について
本願出願前に,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(特開2011-23607号公報,平成23年2月3日出願公開)には,次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同じ。)
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,従来の前記課題に鑑みなされたものであり,高い熱伝導性と放熱性に優れたダイボンドフィルム及び当該ダイボンドフィルムを備えたダイシング・ダイボンドフィルムを提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0018】
本発明は,前記に説明した手段により,以下に述べるような効果を奏する。
即ち,本発明によれば,熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導性フィラーを有機樹脂成分に対し50重量%以上含有するので,熱を蓄積することなく放熱させることができる。従って,例えば半導体素子がその作動時において熱を発生した場合には,当該熱を本発明の放熱性ダイボンドフィルムに伝導させ,更に当該フィルム中に蓄積されることなく被着体側に放熱させる。その結果,半導体素子及びこれを備える半導体装置の信頼性が熱により低下するのを防止できる。」
「【0020】
(放熱性ダイボンドフィルム)
本実施の形態に係る放熱性ダイボンドフィルム(以下,「ダイボンドフィルム」という。)について,図1に示す様に,ダイシングフィルム上に積層された態様を例にして以下に説明する。
【0021】
前記ダイボンドフィルム3は,半導体素子を被着体上に接着して固定させる際に用いる接着フィルムであって,少なくとも熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂及び熱伝導性フィラーを含む。当該固定には,ダイボンドフィルム3を完全に硬化させない状態で接着させる場合を含む意味である。
【0022】
前記熱伝導性フィラーは,その熱伝導率が12W/m・K以上であり,好ましくは15?70W/m・K,より好ましくは25?70W/m・Kである。前記熱伝導率が12W/m・K以上であると,ダイボンドフィルム3に対し,少なくとも1.5W/m・K以上の熱伝導性を付与することが可能になる。但し,熱伝導性フィラーの熱伝導率が70W/m・Kを超えると,コスト高を招来する場合がある。
【0023】
前記熱伝導性フィラーとしては特に限定されず,例えば,酸化アルミニウム,酸化亜鉛,酸化マグネシウム,窒化ホウ素,水酸化マグネシウム,窒化アルミニウム,炭化珪素等の電気絶縁性のものが挙げられる。これらは,単独で又は2種以上を併用して用いることができる。なかでも,酸化アルミニウムは高伝導率であり,ダイボンドフィルム3中における分散性に優れ,入手の容易さの点から好ましい。
【0024】
前記熱伝導性フィラーの含有量は,有機樹脂成分と熱伝導性フィラーの合計に対し50?120重量%の範囲内であり,好ましくは50?95重量%の範囲内である。含有量が50重量%未満であると,ダイボンドフィルム3の熱伝導性が低下し,半導体素子等に熱の蓄積を招来する。その一方,含有量が120重量%を超えると,ダイボンドフィルム3中の接着成分の含有量が相対的に減少する結果,半導体素子や被着体に対するダイボンドフィルム3の濡れ性及び接着性が低下する。」
「【0038】
尚,ダイボンドフィルム3は,必要に応じて他の添加剤を適宜に配合することができる。他の添加剤としては,例えば難燃剤,シランカップリング剤又はイオントラップ剤等が挙げられる。」
「【実施例】
【0098】
以下に,この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し,この実施例に記載されている材料や配合量等は,特に限定的な記載がない限りは,この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また,「部」とあるのは,重量部を意味する。
【0099】
(実施例1)
アクリル酸エチル-メチルメタクリレートを主成分とするアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業(株)製,パラクロンW-197CM)100部に対して,エポキシ樹脂A(JER(株)製,エピコート1004)228部,エポキシ樹脂B(JER(株)製,エピコート827)206部,フェノール樹脂(三井化学(株)製,ミレックスXLC-4L)446部,熱伝導性フィラーとしての球状アルミナ((株)電気化学工業製,DAM-0,平均粒径3μm,熱伝導率40W/m・K)1500部,硬化触媒(四国化成(株)製,C11-Z)3部をメチルエチルケトンに溶解させ,濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製した。
【0100】
この接着剤組成物溶液を,シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム(剥離ライナー)上に塗布した後,130℃で2分間乾燥させた。これにより,厚さ40μmの放熱性ダイボンドフィルムを作製した。
【0101】
(実施例2)
本実施例に於いては,熱伝導性フィラーの含有量を3000部に変更したこと以外は,前記実施例1と同様にして,本実施例に係る放熱性ダイボンドフィルムを作製した。
【0102】
(実施例3)
本実施例に於いては,熱伝導性フィラーの含有量を8000部に変更したこと以外は,前記実施例1と同様にして,本実施例に係る放熱性ダイボンドフィルムを作製した。
【0103】
(実施例4)
本実施例に於いては,熱伝導性フィラーとして球状酸化亜鉛(堺化学工業(株)製,1種亜鉛,平均粒径0.6μm,熱伝導率54W/m・K)を用い,その含有量を8000部に変更したこと以外は,前記実施例1と同様にして,本実施例に係る放熱性ダイボンドフィルムを作製した。
【0104】
(実施例5)
本実施例に於いては,熱伝導性フィラーとして,球状アルミナA((株)電気化学工業製,DAM-0,平均粒径3μm,熱伝導率40W/m・K)6000部と,球状アルミナB((株)電気化学工業製,ASFP-20,平均粒径0.2μm,熱伝導率40W/m・K)2000部とを用いたこと以外は,前記実施例1と同様にして,本実施例に係る放熱性ダイボンドフィルムを作製した。」
「【0108】
(フィラーの平均粒径)
各実施例及び比較例で使用したフィラーの平均粒径については,光度式の粒度分布計(HORIBA製,装置名;LA-910)を用いて測定した。
【0109】
(熱伝導率)
各実施例及び比較例で作製したダイボンドフィルムを,乾燥機内において175℃,1時間で熱処理を行い,熱硬化させた。その後,TWA法(温度波熱分析法,測定装置;アイフェイズモバイル,(株)アイフェイズ製)により,各ダイボンドフィルムの熱拡散率α(m^(2)/s)を測定した。次に,各ダイボンドフィルムの比熱Cp(J/g・℃)を,DSC法により測定した。比熱測定は,エスアイアイナノテクノロジー(株)製のDSC6220を用い,昇温速度10℃/min,温度20?300℃の条件下で行い,得られた実験データを基に,JISハンドブック(比熱容量測定方法K-7123)により算出した。更に,各ダイボンドフィルムの比重を測定した。
【0110】
前記各測定により得られた熱拡散率α,比熱Cp及び比重の値を基に,下記式により熱伝導率を算出した。結果を下記表1に示す。
【数2】
熱伝導率(W/m・K)=熱拡散率(m^(2)/s)×比熱(J/g・℃)×比重(g/cm^(3))」

【0116】の【表1】には実施例5として,熱伝導性フィラーの配合量(重量%)が89,熱伝導性フィラーの熱伝導率(W/m・K)が40,ダイボンドフィルムの熱伝導率(W/m・K)が3.2という結果が記されている。また,同表の下には,同表において,「熱伝導性フィラーの配合量(重量%)」とは,「有機樹脂成分と熱伝導性フィラーの合計に対する熱伝導フィラーの配合量を表す。」ことが注記されている。

イ 引用文献2について
本願出願前に,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2(特開2007-254527号公報,平成19年10月4日出願公開)には,次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,電子機器用接着剤組成物に関する。より詳しくは,補強板(スティフナー),放熱板(ヒートスプレッダー),半導体素子や配線基板(インターポーザー)用半導体集積回路を実装する際に用いられるテープオートメーテッドボンディング(TAB)方式のパターン加工テープ,ボールグリッドアレイ(BGA)パッケージ用インターポーザー等の半導体接続用基板,フレキシブルプリント基板(FPC)におけるカバーレイや銅張り積層板およびその補強板,多層基板における層間接着剤,およびそれらを用いた基板部品,リードフレーム固定テープ,LOC固定テープ,半導体素子等の電子部品とリードフレームや絶縁性支持基板等の支持部材との接着剤すなわちダイボンディング材,シールド材等に好適に用いられる電子機器用接着剤組成物,電子機器用接着剤シートおよびそれを用いた電子部品ならびに電子機器に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように,従来の熱伝導性接着剤シートはその接着性が不十分であった。本発明は,かかる従来技術の課題に鑑み,熱伝導性と接着性に優れた電子機器用接着剤組成物を提供することを目的とする。」
「【0019】
本発明の接着剤組成物は,(D)熱伝導性充填剤を含有する。ここでいう熱伝導性充填剤とは,充填剤単体での熱伝導率が10(Wm-1K-1)以上の充填剤を指し,具体的にはアルミナ,酸化マグネシウム,窒化アルミニウム,酸化亜鉛,窒化硼素,窒化珪素,銀粉末,銅粉末,アルミニウム粉末,炭化珪素,ダイヤモンド粉末,グラファイト,炭素繊維などが挙げられる。本発明ではこの中でも,特に窒化アルミニウム,窒化珪素および窒化硼素からなる群から選択される少なくとも1種の熱伝導性充填剤を含有することを特徴とする。窒化アルミニウム,窒化珪素,窒化硼素から選択される少なくとも1種の熱伝導性充填剤を含有することにより,接着剤の熱伝導率が大きく向上する。粒子形状,結晶性は特に制限されず,破砕系,球状,鱗片状等が用いられるが,塗料への分散性の点から,球状が好ましく用いられる。本発明においてはこれらを2種以上含有しても良く,更に他の熱伝導性充填剤または充填剤を含有しても良い。
【0020】
(D)熱伝導性充填剤は,充填剤の酸化,加水分解等の変質防止の目的や充填剤と接着剤組成物中のその他の有機成分とのぬれ性向上の目的,および接着剤シートの物性向上のために,表面処理を施しても良い。具体的には,シリカ,リン酸等でのコーティングや,酸化膜付与処理,シランカップリング剤,チタネート系カップリング剤,シラン化合物等での表面処理などが挙げられる。この中でも特に表面がシリカ被覆されている窒化アルミニウムが熱伝導性と安定性の点で特に好ましい。
【0021】
また,(D)熱伝導性充填剤と接着剤組成物中のその他の有機成分とのぬれ性を向上させるためにシランカップリング剤で表面処理することが好ましい。このような表面処理を施すことで,(D)熱伝導性充填剤が接着剤組成物中でより均一に分散し,結果として半田耐熱性,接着性を向上させることができる。シランカップリング剤の具体例としては3-アミノプロピルトリメトキシシラン,3-アミノプロピルトリエトキシシラン,N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン,3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン,3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン,3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン,p-スチリルトリメトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン,3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン,N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン,N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン,N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン,3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン,3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン,3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン,3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン,3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどがあるが,この中でも特にN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランが充填剤と樹脂組成物中のその他の有機成分とのぬれ性を向上させる点で好ましい。シランカップリング剤は単独で使用しても,上記のシランカップリング剤を混合して使用しても良く,処理に使用する量は,熱伝導性充填剤100重量部に対して0.3?1重量部が好ましい。また,接着剤組成物に(D)熱伝導性充填剤以外の充填剤を含有してもよく,これら充填剤を合わせて表面処理する場合は,充填剤の合計100重量部に対して0.3?1重量部程度が好ましい。」

ウ 引用文献3について
本願出願前に,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3(特開2012-12585号公報,平成24年1月19日出願公開)には,次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,電子機器用接着剤組成物に関する。より詳しくは,補強板(スティフナー),放熱板(ヒートスプレッダー),半導体素子や配線基板(インターポーザー)用半導体集積回路を実装する際に用いられるテープオートメーテッドボンディング(TAB)方式のパターン加工テープ,ボールグリッドアレイ(BGA)パッケージ用インターポーザー等の半導体接続用基板,フレキシブルプリント基板(FPC)におけるカバーレイや銅張り積層板およびその補強板,多層基板における層間接着剤,およびそれらを用いた基板部品,リードフレーム固定テープ,LOC固定テープ,半導体素子等の電子部品とリードフレームや絶縁性支持基板等の支持部材との接着剤すなわちダイボンディング材,シールド材等に好適に用いられる電子機器用接着剤組成物,電子機器用接着剤シートに関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は,上記諸欠点を解消して,常温での仮接着が可能であり,さらに加熱硬化後の接着剤層の層間絶縁性が高い電子機器用接着剤組成物および電子機器用接着剤シートを提供するものである。」
「【0027】
本発明の接着剤組成物は,d)熱伝導性充填剤を含有する。ここでいう熱伝導性充填剤とは,充填剤単体での熱伝導率が5(Wm-1K-1 )以上の充填剤を指し,具体的にはアルミナ,酸化マグネシウム,窒化アルミニウム,酸化亜鉛,窒化硼素,窒化珪素,銀粉末,銅粉末,アルミニウム粉末,炭化珪素,ダイヤモンド粉末,グラファイト,炭素繊維などが挙げられる。この中でも,特に窒化アルミニウム,窒化珪素および窒化硼素からなる群から選択される少なくとも1種の熱伝導性充填剤を含有することが好ましい。窒化アルミニウム,窒化珪素,窒化硼素から選択される少なくとも1種の熱伝導性充填剤を含有することにより,接着剤の熱伝導率が大きく向上する。粒子形状,結晶性は特に制限されず,破砕系,球状,鱗片状等が用いられるが,塗料への分散性の点から,球状が好ましく用いられる。本発明においてはこれらを2種以上含有しても良く,更に他の充填剤を含有しても良い。
【0028】
d)熱伝導性充填剤は,充填剤の酸化,加水分解等の変質防止の目的や充填剤と接着剤組成物中のその他の有機成分とのぬれ性向上の目的,および接着剤シートの物性向上のために,表面処理を施しても良い。具体的には,シリカ,リン酸等でのコーティングや,酸化膜付与処理,シランカップリング剤,チタネート系カップリング剤,シラン化合物等での表面処理などが挙げられる。この中でも特に表面がシリカ被覆されている窒化アルミニウムが熱伝導性と安定性の点で特に好ましい。また,d)熱伝導性充填剤と接着剤組成物中のその他の有機成分とのぬれ性を向上させるためにシランカップリング剤で表面処理することが好ましい。このような表面処理を施すことで,d)熱伝導性充填剤が接着剤組成物中でより均一に分散し,結果として半田耐熱性,接着性,層間絶縁性を向上させることができる。シランカップリング剤の具体例としては3-アミノプロピルトリメトキシシラン,3-アミノプロピルトリエトキシシラン,N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン,3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン,3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン,3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン,p-スチリルトリメトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン,3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン,N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン,N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン,N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン,3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン,3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン,3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン,3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン,3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどがあるが,この中でも特にN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランが充填剤と樹脂組成物中のその他の有機成分とのぬれ性を向上させる点で好ましい。シランカップリング剤は単独で使用しても,上記のシランカップリング剤を混合して使用しても良く,処理に使用する量は,d)熱伝導性充填剤100重量部に対して0.3?1重量部が好ましい。また,接着剤組成物にd)熱伝導性充填剤以外の充填剤を含有してもよく,これら充填剤を合わせて表面処理する場合は,充填剤の合計100重量部に対して0.3?1重量部程度が好ましい。」

エ 引用文献4について
本願出願前に,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献4(特開2012-207222号公報,平成24年10月25日出願公開)には,次の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物,高熱伝導性フィルム状接着剤,並びに,それを用いた半導体パッケージとその製造方法に関する。」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
半導体パッケージの製造工程においては,ダイアタッチフィルムと半導体素子が形成されたウェハとを同時に切断するいわゆるダイシング工程において,ダイアタッチフィルムによる加工ブレードの摩耗率が小さいことも必要である。
【0011】
しかしながら,ダイアタッチフィルムの熱伝導性を向上させるために上記特許文献1?3に記載されているような水酸化アルミニウム等の熱伝導性の無機充填剤を用いると,ダイアタッチフィルムによる加工ブレードの摩耗率が大きくなり,切断工程(ダイシング工程)の開始後しばらくは所定の切断ができるものの,次第にダイアタッチフィルムの切断量が不十分になり,図1に示すように,ダイアタッチフィルムがフルカットされない部分ができてしまうといった加工不良が生じることを本発明者らは見出した。
【0012】
また,この不具合が生じないようにするためにブレードの交換頻度を多くすると生産性が低下するためコストアップに繋がり,他方,摩耗される量の小さいブレードを使用するとウェハに欠けができてしまうチッピング等が発生するため歩留低下を引き起こしてしまうといった問題があることを本発明者らは見出した。
【0013】
本発明は,上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり,被着体との密着性に優れ,加工ブレードの摩耗率が十分に小さく,且つ,硬化後に優れた熱伝導性を発揮する高熱伝導性フィルム状接着剤を得ることが可能な高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物,高熱伝導性フィルム状接着剤,並びに,それを用いた半導体パッケージとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは,上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果,フィルム状接着剤において80℃における溶融粘度が10000Pa・s以下となるようにすることにより,熱圧着によって被着体との優れた密着性が得られることを見出し,さらに,エポキシ樹脂,エポキシ樹脂硬化剤,フェノキシ樹脂,及び,特定の含有量の特定の無機充填剤を含有せしめた高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物を用いることにより,前記溶融特性を有し,加工ブレードの摩耗率が十分に小さく,且つ,硬化後に優れた熱伝導性を発揮する高熱伝導性フィルム状接着剤を得られることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち,本発明の高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物は,
エポキシ樹脂(A),エポキシ樹脂硬化剤(B),無機充填剤(C)及びフェノキシ樹脂(D)を含有しており,前記無機充填剤(C)が,下記(i)?(iii):
(i)平均粒径が0.1?5.0μm,
(ii)モース硬度が1?8,
(iii)熱伝導率が30W/(m・K)以上,
の全条件を満たし,且つ,
前記無機充填剤(C)の含有量が30?70体積%であることを特徴とするものである。
<<途中省略>>
【0020】
さらに,本発明の半導体パッケージの製造方法は,
表面に半導体回路が形成されたウェハの裏面に,前記本発明の高熱伝導性フィルム状接着剤を熱圧着して接着剤層を設ける第1の工程と,
前記ウェハとダイシングテープとを前記接着剤層を介して接着した後に,前記ウェハと前記接着剤層とを同時にダイシングすることにより前記ウェハと前記接着剤層とを備える半導体素子を得る第2の工程と,
前記接着剤層からダイシングテープを脱離し,前記半導体素子と配線基板とを前記接着剤層を介して熱圧着せしめる第3の工程と,
前記高熱伝導性フィルム状接着剤を熱硬化せしめる第4の工程と,
を含むことを特徴とするものであり,本発明の半導体パッケージは,前記本発明の半導体パッケージの製造方法により得られることを特徴とするものである。」
「【発明の効果】
【0023】
本発明によれば,被着体との密着性に優れ,加工ブレードの摩耗率が十分に小さく,且つ,硬化後に優れた熱伝導性を発揮する高熱伝導性フィルム状接着剤を得ることが可能な高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物,高熱伝導性フィルム状接着剤,並びに,それを用いた半導体パッケージとその製造方法を提供することが可能となる。」
「【実施例】
【0080】
以下,実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが,本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお,各実施例及び比較例において,熱伝導率,溶融粘度及び加工ブレード摩耗率はそれぞれ以下に示す方法により測定した。
【0081】
(熱伝導率の測定)
得られたフィルム状接着剤を一辺50mm以上の四角片に切り取り,厚みが5mm以上になるように切り取った試料を積層し,直径50mm,厚さ5mmの円盤状金型の上に置き,圧縮プレス成型機を用いて温度150℃,圧力2MPaにおいて10分間加熱して取り出した後,さらに乾燥機中において温度180℃で1時間加熱することによりフィルム状接着剤を熱硬化させ,直径50mm,厚さ5mmの円盤状試験片を得た。この試験片について,熱伝導率測定装置(商品名:HC-110,英弘精機(株)製)を用いて,熱流計法(JIS-A1412に準拠)により熱伝導率(W/(m・K))を測定した。
【0082】
(溶融粘度の測定)
得られたフィルム状接着剤を2.5×2.5cmサイズに切り取り,真空ラミネーター装置(商品名:MVLP-500,(株)名機製作所製)を用いて温度50℃,圧力0.3MPa,貼り合わせ時間10秒間の条件で,フィルム状接着剤を300μmの厚みまで積層して貼り合わせた試験片を得た。この試験片について,レオメーター(RS150,Haake社製)を用い,温度範囲20?100℃,昇温速度10℃/minでの粘性抵抗の変化を測定し,得られた温度-粘性抵抗曲線から80℃における溶融粘度(Pa・s)を算出した。
【0083】
(加工ブレード摩耗率の測定)
先ず,得られたフィルム状接着剤をマニュアルラミネーター(商品名:FM-114,テクノビジョン社製)を用いて温度70℃,圧力0.3MPaにおいてダミーシリコンウェハ(8inchサイズ,厚さ100μm)に貼り合わせ,次いで,同マニュアルラミネーターを用いて室温,圧力0.3MPaにおいてフィルム状接着剤のダミーシリコンウェハと反対の面側にダイシングテープ(商品名:G-11,リンテック(株)製)及びダイシングフレーム(商品名:DTF2-8-1H001,DISCO社製)を貼り合わせて試験片とした。この試験片について,2軸のダイシングブレード(Z1:NBC-ZH2030-SE(DD),DISCO社製/Z2:NBC-ZH127F-SE(BB),DISCO社製)が設置されたダイシング装置(商品名:DFD-6340,DISCO社製)にて3.0×3.0mmサイズにダイシングを実施した。ダイシング前(加工前)と20mカット時点(加工後)とにおいてセットアップを実施し,非接触式(レーザー式)によりブレード刃先出し量を測定して,加工後におけるブレード磨耗量(加工前のブレード刃先出し量-加工後のブレード刃先出し量)を算出した。この磨耗量から,次式:
加工ブレード磨耗率(%)=(加工後のブレード磨耗量)÷(加工前のブレード刃先出し量)×100
により,加工ブレード磨耗率(%)を算出した。
【0084】
(実施例1)
先ず,トリフェニルメタン型エポキシ樹脂(商品名:EPPN-501H,重量平均分子量:1000,軟化点:55℃,固体,エポキシ当量:167,日本化薬(株)製)55質量部,ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:YD-128,重量平均分子量:400,軟化点:25℃以下,液体,エポキシ当量:190,新日化エポキシ製造(株)製)49質量部,及び,ビスフェノールA/F型フェノキシ樹脂(商品名:YP-70,重量平均分子量:55000,Tg:70℃,新日化エポキシ製造(株)製)30質量部を秤量し,91質量部のメチルイソブチルケトン(MIBK)を溶媒として500mlのセパラブルフラスコ中において温度110℃で2時間加熱攪拌し,樹脂ワニスを得た。次いで,この樹脂ワニス225質量部を800mlのプラネタリーミキサーに移し,窒化アルミニウム(商品名:Hグレード,平均粒径1.1μm,モース硬度8,熱伝導率200W/(m・K),(株)トクヤマ製)355質量部,イミダゾール型硬化剤(商品名:2PHZ-PW,四国化成(株)製)9質量部を加えて室温において1時間攪拌混合後,真空脱泡して混合ワニスを得た。次いで,得られた混合ワニスを厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム上に塗布して加熱乾燥(100℃で10分間保持)し,厚さが20μmであるフィルム状接着剤を得た。得られたフィルム状接着剤の溶融粘度及び加工ブレード摩耗率,並びに,熱硬化後の熱伝導率を測定した。得られた結果をフィルム状接着剤の組成と共に表1に示す。
【0085】
(実施例2)
窒化アルミニウム(商品名:Hグレード,平均粒径1.1μm,モース硬度8,熱伝導率200W/(m・K),(株)トクヤマ製)の使用量を489質量部に代えたこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状接着剤を得た。得られたフィルム状接着剤について実施例1と同様の測定を行った。得られた結果をフィルム状接着剤の組成と共に表1に示す。」
また,【0096】の【表1】には,実施例2の結果として,その熱伝導率が3.0(W/(m・k))であることが示されている。

オ 引用文献5について
本願出願前に,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献5(特開2003-193021号公報,平成15年7月9日出願公開)には,次の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,高熱伝導で接着性,信頼性に優れる接着フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】フィルムタイプの接着剤は,フレキシブルプリント配線板等で用いられており,アクリロニトリルブタジエンゴムを主成分とする系が多く用いられている。
【0003】プリント配線板関連材料として耐湿性を向上させたものとしては,特開昭60-243180号公報に示されるアクリル系樹脂,エポキシ樹脂,ポリイソシアネート及び無機フィラーを含む接着剤があり,また特開昭61-138680号公報に示されるアクリル系樹脂,エポキシ樹脂,分子中にウレタン結合を有する両末端が第1級アミン化合物及び無機フィラーを含む接着剤がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記の接着フィルムは,熱伝導性に優れるフィラー等を含んでおらず,また,樹脂の熱伝導率はいずれも低いため,熱伝導率が低かった。上記の接着フィルムに熱伝導性に優れるフィラー等加えたものは,熱伝導率が高くなると考えられるが,流動性の低下やフィルムの強度,熱応力の緩和の作用,耐熱性や耐湿性の低下などの課題があり,多量に加えることができないため,熱伝導率の向上にも制限があった。
【0005】本発明は,160℃での溶融粘度が10Pa・s以上10000Pa・s以下の樹脂を使用し,その樹脂中に30?80体積%の熱伝導性に優れるフィラーを加えることにより,極めて高い熱伝導率を示すにも関わらず,従来の課題であった,流動性の低下や,フィルムの強度,熱応力の緩和の作用,耐熱性や耐湿性の低下などがない,接着フィルムを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は以下に記載の(1)?(6)の事項に関する。
(1)160℃での溶融粘度が10Pa・s以上10000Pa・s以下の接着性樹脂及び熱伝導率が30W/mK以上の高熱伝導フィラーを含有し,高熱伝導フィラーの含有率が30?80体積%である接着剤組成物を,フィルム状に成形したものであり,フィルムの膜厚方向の熱伝導率が5W/mK以上であることを特徴とする高熱伝導接着フィルム。
(2) 高熱伝導フィラーが金,銀,銅,アルミニウム及びニッケルからなる群から選ばれる金属又はその合金,窒化アルミニウム,窒化ほう素,窒化けい素,ダイヤモンド,グラファイトあるいはこれらの2種以上の混合物を含むことを特徴とする(1)記載の高熱伝導接着フィルム。
(3)動的粘弾性測定装置を用いて測定した場合の接着性樹脂の硬化物の貯蔵弾性率が25℃で20?2000MPaであり,260℃で3?50MPaである(1)又は(2)に記載の高熱伝導接着フィルム。
(4)接着性樹脂がエポキシ樹脂及びその硬化剤を合計量で100重量部,官能基を含む重量平均分子量が1万以上である高分子量成分10?500重量部を必須成分として含むことを特徴とする(1)?(3)いずれかに記載の高熱伝導接着フィルム。
(5)高分子量成分が,重量平均分子量が10万以上であり,ガラス転移温度が-50℃以上0℃以下である(4)記載の高熱伝導接着フィルム。
(6)高分子量成分が架橋性官能基単位を0.5?6.0重量%を含むエポキシ基含有アクリル共重合体であることを特徴とする(4)又は(5)に記載の高熱伝導接着フィルム。」
「【0037】
【実施例】以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1
接着性樹脂: エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量175,東都化成株式会社製商品名YD-8125を使用)45重量部,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量210,東都化成株式会社製商品名YDCN-703を使用)15重量部,エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製商品名プライオーフェンLF2882を使用)40重量部及び硬化促進剤としてイミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業株式会社製キュアゾール2PZ-CNを使用)0.5重量部からなる組成物に溶剤としてMEKを加え,溶解,混合した。これに熱伝導性フィラー 扁平銀フィラー(Chemet製AA-0101,熱伝導率420W/mK,平均粒径:8.3μm)2200重量部を加え,3本ロールを用いて混練した後,667Pa(5Torr)以下で10分間脱泡処理を行い,ペースト組成物を得た。これにエポキシ基含有アクリルゴム(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量25万,グリシジルメタクリレート単位含量3重量%,Tgは-7℃,帝国化学産業株式会社製,商品名:HTR-860P-3)66重量部を加えてさらに混合し,ワニスを作製した。このワニスを真空脱気した後,厚さ75μmの離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し,90℃20分間,120℃で5分間加熱乾燥して膜厚が60μmの塗膜とし,接着フィルムを作製した。接着フィルム中の残存溶媒量は,0.5重量%であり,銀の含有量は56体積%であった。
【0038】銀フィラーを配合しない以外は上記と同様にして調製したワニスを用い,上記と同様にして膜厚が60μmの接着性樹脂の塗膜とし,次いで170℃で1時間加熱硬化させて接着性樹脂の硬化物とし,その貯蔵弾性率を動的粘弾性測定装置(レオロジ社製,DVE-V4)を用いて測定(サンプルサイズ:長さ20mm,幅4mm,膜厚60μm,昇温速度5℃/分,引張りモード,10Hz,自動静荷重)した結果,25℃で600MPa,260℃で35MPaであった。また,接着性樹脂の160℃での溶融粘度は400Pa・sであった。
【0039】実施例2
熱伝導性フィラー 扁平銀フィラー(徳力化学(株)製TCG-1,熱伝導率420W/mK,平均粒径:2.0μm)2200重量部を用いた他は実施例1と同様にして,接着フィルムを作製した。
【0040】比較例1
銀フィラーを500重量部にした他は実施例1と同様にして,接着フィルムを作製した。この時の接着フィルム中の銀含有量は25体積%であった。
【0041】評価方法:接着強度:8×8mmの接着フィルムをAgめっき付き銅リードフレーム上に160℃で加熱して貼付け,接着フィルムを貼り付けたリードフレームへ,温度300℃,圧力0.12MPa,時間5秒で,半導体素子をマウントし,180℃で2時間加熱して硬化し,接着した。これを自動接着力試験装置(日立化成工業(株)製)を用い,260℃における引き剥がし強さ(kgf)を測定した。熱伝導率:実施例1,2及び比較例1で調整したワニスを用いて塗膜を形成し,次いで180℃,5時間加熱処理し,10×10×0.5mmの試験片を得た。この試験片の熱拡散率をレーザーフラッシュ法(真空理工製TC-7000)で測定し,さらにこの熱拡散率と,示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー製Pyris1)で得られた比熱容量とアルキメデス法で得られた比重の積より熱伝導率を算出した。
<<途中省略>>
【0043】
【発明の効果】以上説明したように,本発明の高熱伝導接着フィルムは熱伝導性に優れ,接着性,信頼性にも優れるため,半導体用途の接着フィルムとして有効である。」
また,【0042】の【表1】には,実施例1の熱伝導率が6.3(W/mk)であり,実施例2の熱伝導率が10.3(W/mk)であることが記載されている。

カ 引用文献6について
本願出願前に,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献6(特開2011-228642号公報,平成23年11月10日出願公開)には,次の事項が記載されている。
「【0046】
(ウエハ加工用テープの使用方法)
半導体装置の製造工程の中で,ウエハ加工用テープ10は,以下のように使用される。図2においては,ウエハ加工用テープ10に,半導体ウエハ1とリングフレーム20とが貼り合わされた様子が示されている。まず,図2に示すように,粘着フィルム12の粘着剤層12bをリングフレーム20に貼り付け,半導体ウエハ1を接着剤層13に貼り合わせる。これらの貼り付け順序に制限はなく,半導体ウエハ1を接着剤層13に貼り合わせた後に粘着フィルム12の粘着剤層12bをリングフレーム20に貼り付けてもよい。また,粘着フィルム12のリングフレーム20への貼り付けと,半導体ウエハ1の接着剤層13への貼り合わせとを,同時に行っても良い。
【0047】
そして,半導体ウエハ1のダイシング工程を実施し(図3),次いで,粘着フィルム12にエネルギー線,例えば紫外線を照射する工程を実施する。具体的には,ダイシングブレード21によって半導体ウエハ1と接着剤層13とをダイシングするため,吸着ステージ22により,ウエハ加工用テープ10を粘着フィルム12の下面側から吸着支持する。そして,ダイシングブレード21によって半導体ウエハ1と接着剤層13を半導体チップ2単位に切断して個片化し,その後,粘着フィルム12の下面側からエネルギー線を照射する。このエネルギー線照射によって,粘着剤層12bを硬化させてその粘着力を低下させる。なお,エネルギー線の照射に代えて,加熱などの外部刺激によって粘着フィルム12の粘着剤層12bの粘着力を低下させてもよい。粘着剤層12bが二層以上の粘着剤層により積層されて構成されている場合,各粘着剤層の内の一層又は全層をエネルギー線照射によって硬化させて,各粘着剤層の内の一層又は全層の粘着力を低下させても良い。
【0048】
その後,図4に示すように,ダイシングされた半導体チップ2及び接着剤層13を保持した粘着フィルム12をリングフレーム20の径方向と周方向に引き伸ばすエキスパンド工程を実施する。具体的には,ダイシングされた複数の半導体チップ2及び接着剤層13を保持した状態の粘着フィルム12に対して,中空円柱形状の突き上げ部材30を,粘着フィルム12の下面側から上昇させ,粘着フィルム12をリングフレーム20の径方向と周方向に引き伸ばす。エキスパンド工程により,半導体チップ2同士の間隔を広げ,CCDカメラ等による半導体チップ2の認識性を高めるとともに,ピックアップの際に隣接する半導体チップ2同士が接触することによって生じる半導体チップ2同士の再接着を防止することができる。
【0049】
エキスパンド工程を実施した後,図5に示すように,粘着フィルム12をエキスパンドした状態のままで,半導体チップ2をピックアップするピックアップ工程を実施する。具体的には,粘着フィルム12の下面側から半導体チップ2をピン31によって突き上げるとともに,粘着フィルム12の上面側から吸着冶具32で半導体チップ2を吸着することで,個片化された半導体チップ2を接着剤層13とともにピックアップする。
【0050】
そして,ピックアップ工程を実施した後,ダイボンディング工程を実施する。具体的には,ピックアップ工程で半導体チップ2とともにピックアップされた接着剤層13により,半導体チップ2をリードフレームやパッケージ基板等に接着する。」

(2) 引用発明及び技術的事項
ア 引用発明1及び技術的事項
上記(1)アの記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明1」という。)及び技術的事項が記載されているものと認められる。

(ア) 引用発明1
「熱可塑性樹脂と,熱硬化性樹脂及び,熱伝導性フィラーとして,球状アルミナA((株)電気化学工業製,DAM-0,平均粒径3μm,熱伝導率40W/m・K)6000部と,球状アルミナB((株)電気化学工業製,ASFP-20,平均粒径0.2μm,熱伝導率40W/m・K)2000部とを用いて作製した放熱性ダイボンドフィルムであって,熱伝導性フィラーの配合量(重量%)が89であり,熱伝導性フィラーの熱伝導率(W/m・K)が40であり,ダイボンドフィルムの熱伝導率(W/m・K)が3.2であり,その厚さが40μmである放熱性ダイボンドフィルム。」

(イ) 技術的事項
ダイボンドフィルムに,必要に応じてシランカップリング剤等を適宜に配合することができること(【0038】)。

イ 引用文献2に記載された技術的事項
上記(1)イの記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
熱伝導性充填剤と接着剤組成物中のその他の有機成分とのぬれ性を向上させ,接着剤シートの物性向上のために,熱伝導性充填剤は,シランカップリング剤で表面処理することが好ましく,このような表面処理を施すことで,熱伝導性充填剤が接着剤組成物中でより均一に分散し,結果として半田耐熱性,接着性を向上させることができること(【0020】,【0021】)。

ウ 引用文献3に記載された技術的事項
上記(1)ウの記載から,引用文献3には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
熱伝導性充填剤と接着剤組成物中のその他の有機成分とのぬれ性を向上させ,接着剤シートの物性向上のために,熱伝導性充填剤は,シランカップリング剤で表面処理することが好ましく,このような表面処理を施すことで,熱伝導性充填剤が接着剤組成物中でより均一に分散し,結果として半田耐熱性,接着性,層間絶縁性を向上させることができること(【0028】)。

エ 引用発明4
上記(1)エの記載から,引用文献4には,次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。
「高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物は,エポキシ樹脂,エポキシ樹脂硬化剤,無機充填剤及びフェノキシ樹脂を含有しており,前記無機充填剤が,平均粒径が0.1?5.0μm,モース硬度が1?8,熱伝導率が30W/(m・K)以上,の全条件を満たし,且つ,前記無機充填剤の含有量が30?70体積%であることを特徴とするものであり,
半導体素子と配線基板との間に高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物を介して熱圧着し,熱硬化せしめることで半導体パッケージを製造するためのものであり,
その実施例2として,トリフェニルメタン型エポキシ樹脂(商品名:EPPN-501H,重量平均分子量:1000,軟化点:55℃,固体,エポキシ当量:167,日本化薬(株)製)55質量部,ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:YD-128,重量平均分子量:400,軟化点:25℃以下,液体,エポキシ当量:190,新日化エポキシ製造(株)製)49質量部,及び,ビスフェノールA/F型フェノキシ樹脂(商品名:YP-70,重量平均分子量:55000,Tg:70℃,新日化エポキシ製造(株)製)30質量部を秤量し,91質量部のメチルイソブチルケトン(MIBK)を溶媒として500mlのセパラブルフラスコ中において温度110℃で2時間加熱攪拌し,樹脂ワニスを得,次いで,この樹脂ワニス225質量部を800mlのプラネタリーミキサーに移し,窒化アルミニウム(商品名:Hグレード,平均粒径1.1μm,モース硬度8,熱伝導率200W/(m・K),(株)トクヤマ製)489質量部,イミダゾール型硬化剤(商品名:2PHZ-PW,四国化成(株)製)9質量部を加えて室温において1時間攪拌混合後,真空脱泡して混合ワニスを得,次いで,得られた混合ワニスを厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム上に塗布して加熱乾燥(100℃で10分間保持)し,厚さが20μmである実施例2のフィルム状接着剤を得,当該実施例2の熱伝導率が3.0(W/(m・k)である高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物。」

オ 引用発明5
上記(1)オの記載から,引用文献5には,次の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されているものと認められる。
「160℃での溶融粘度が10Pa・s以上10000Pa・s以下の接着性樹脂及び熱伝導率が30W/mK以上の高熱伝導フィラーを含有し,高熱伝導フィラーの含有率が30?80体積%である接着剤組成物を,フィルム状に成形したものであり,フィルムの膜厚方向の熱伝導率が5W/mK以上であることを特徴とする高熱伝導接着フィルムであって,
高熱伝導フィラーが金,銀,銅,アルミニウム及びニッケルからなる群から選ばれる金属又はその合金,窒化アルミニウム,窒化ほう素,窒化けい素,ダイヤモンド,グラファイトあるいはこれらの2種以上の混合物を含み,
その実施例1として,エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量175,東都化成株式会社製商品名YD-8125を使用)45重量部,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量210,東都化成株式会社製商品名YDCN-703を使用)15重量部,エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製商品名プライオーフェンLF2882を使用)40重量部及び硬化促進剤としてイミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業株式会社製キュアゾール2PZ-CNを使用)0.5重量部からなる組成物に溶剤としてMEKを加え,溶解,混合し,これに熱伝導性フィラー 扁平銀フィラー(Chemet製AA-0101,熱伝導率420W/mK,平均粒径:8.3μm)2200重量部を加え,3本ロールを用いて混練した後,667Pa(5Torr)以下で10分間脱泡処理を行い,ペースト組成物を得,これにエポキシ基含有アクリルゴム(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量25万,グリシジルメタクリレート単位含量3重量%,Tgは-7℃,帝国化学産業株式会社製,商品名:HTR-860P-3)66重量部を加えてさらに混合し,ワニスを作製し,このワニスを真空脱気した後,厚さ75μmの離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し,90℃20分間,120℃で5分間加熱乾燥して膜厚が60μmの塗膜とし,接着フィルムを作製し,接着フィルム中の残存溶媒量は,0.5重量%であり,銀の含有量は56体積%であり,その熱伝導率が6.3(W/mk)であること,
実施例2として,扁平銀フィラー(徳力化学(株)製TCG-1,熱伝導率420W/mK,平均粒径:2.0μm)2200重量部を熱伝導性フィラーとして用いた他は実施例1と同様にして,接着フィルムを作製し,実施例2の熱伝導率は10.3(W/mk)であること,
接着強度の評価の方法として,接着フィルムをリードフレーム上に貼り付け,半導体素子をマウントし,加熱硬化し接着する,高熱伝導接着フィルム。」

カ 引用文献6に記載された技術的事項
上記(1)カの記載から,引用文献6には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
粘着フィルムの粘着剤層をリングフレームに貼り付け,半導体ウエハを接着剤層に貼り合わせ,そして,半導体ウエハのダイシング工程,具体的には,ダイシングブレードによって半導体ウエハと接着剤層とをダイシングをし,半導体ウエハと接着剤層を半導体チップ単位に切断して個片化し,その後,粘着フィルムをエキスパンドした状態のままで,半導体チップをピックアップするピックアップ工程を実施するウエハ加工用テープの使用方法(【0046】,【0047】,【0049】)。

(3) 本願発明と引用発明1との対比
本願発明と,引用発明1とを対比すると,以下のとおりとなる。

ア 引用発明1の「熱伝導性フィラー」は,本願発明の「熱伝導性粒子」に相当する。

イ 引用発明1の「『熱可塑性樹脂と,熱硬化性樹脂及び熱伝導性フィラー』を用いて作製した『放熱性ダイボンドフィルム』」は,本願発明の「熱硬化型ダイボンドフィルム」に相当する。

ウ 引用発明1の熱伝導性フィラーの熱伝導率は,「40」W/m・Kであり,「熱伝導性フィラーの配合量(重量%)が89であ」ることは,本願発明の「熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導性粒子を含有しており,前記熱伝導性粒子の含有量が,熱硬化型ダイボンドフィルム全体に対して75重量%以上であ」ることに相当する。

したがって,本願発明と,引用発明1とは,以下の点で一致し,相違する。

<一致点>
「熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導性粒子を含有しており,
前記熱伝導性粒子の含有量が,熱硬化型ダイボンドフィルム全体に対して75重量%以上,
であることを特徴とする熱硬化型ダイボンドフィルム。」
<相違点>
・相違点1:本願発明は「熱伝導性粒子は,シランカップリング剤により前処理されて」いるのに対して,引用発明1においては,特定されていない点。
・相違点2:本願発明は「熱硬化型ダイボンドフィルム」の「熱抵抗が30×10^(-6)m^(2)・K/W以下であ」るのに対して,引用発明1のダイボンドフィルムの熱伝導率は記載されているものの,その熱抵抗は示されていない点。
・相違点3:本願発明は「熱硬化型ダイボンドフィルムの厚さをCとし,前記熱伝導性粒子の平均粒径をDとしたときに,C/Dが4?30の範囲内である」のに対して,引用発明1の放熱性ダイボンドフィルムは厚さが40μmであることは明記されているものの,その熱伝導性フィラーの平均粒径が明記されておらず,C/Dが特定されていない点。

(4) 相違点1?3についての判断
ア 相違点1について
上記(2)イ,ウのとおり,熱伝導性充填剤と接着剤組成物中のその他の有機成分とのぬれ性を向上させるために,熱伝導性充填剤を,シランカップリング剤で表面処理して,熱伝導性充填剤を接着剤組成物中でより均一に分散させ,接着剤組成物の半田耐熱性,接着性,層間絶縁性等を向上させることは周知の技術である。
そして,前記「熱伝導性充填剤を接着剤組成物中でより均一に分散させ,接着剤組成物の半田耐熱性,接着性,層間絶縁性等を向上させること」は一般的な課題であって,しかも,上記(2)ア(イ)のとおり,引用文献1に,シランカップリング剤を配合することが記載されていることも併せて考慮すると,引用発明1において,熱伝導性フィラーを樹脂中でより均一に分散させ,半田耐熱性,接着性,層間絶縁性等を向上させるために,引用発明1において,熱伝導性フィラーをシランカップリング処理することは当業者が容易になし得たことである。審判請求人はシランカップリング処理の効果について主張するが,発明の詳細な説明に記載された実施例1-4,比較例1-3はいずれもシランカップリング処理をしたものであって,シランカップリング処理の有無による効果は示されていないから,本願明細書の記載からは,熱伝導性フィラーをシランカップリング剤で前処理することの効果が,格別なものとは認められない。
したがって,引用発明1において,相違点1について本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
引用発明1のダイボンドフィルムの熱伝導率は3.2W/m・Kであるから,熱抵抗の定義として,本願の発明の詳細な説明中の【0151】に記載された(厚み)/(熱伝導率)という式から算出すると,引用発明1のダイボンドフィルムの熱抵抗は,40μm÷3.2W/m・K=12.5×10^(-6)m^(2)・K/Wとなる。
してみれば,引用発明1におけるダイボンドフィルムの熱抵抗は「30×10^(-6)m^(2)・K/W以下であ」り,相違点2は実質的なものでない。

ウ 相違点3について
引用発明1の平均粒径は,((球状アルミナAの平均粒径3μm×6000部)+(球状アルミナBの平均粒径0.2μm×2000部))÷(6000部+2000部)=2.3μm程度となるものと認められる。
そして,放熱性ダイボンドフィルムは厚さが40μmであるので,熱硬化型ダイボンドフィルムの厚さをCとし,熱伝導性粒子の平均粒径をDとしたときに,「C/D」は40μm/2.3μm=17.4となる。
してみれば,引用発明1における「C/D」は「4?30の範囲内」であり,相違点3は実質的なものでない。

したがって,本願発明は,引用発明1及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

また,本願の請求項2ないし6に係る発明と,引用発明1とを対比すると,引用発明1においては「平均粒径が,1μm以上10μm以下であること」,「厚さが60μm以下であること」を満たし,また,引用文献1の第46?49段落,図1,2には,基材と粘着材層とで構成されたダイシングフィルム上にダイボンドフィルムを積層する構成が記載され,第79段落には,ダイボンドフィルムを介して半導体チップを被着体にダイボンドする工程が記載され,第74?81段落には,半導体装置の製造方法が記載されており,その差異は格別なものでない。

したがって,本願の請求項2ないし6に係る発明は,引用発明1及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5) 本願発明と引用発明4との対比
本願発明と,引用発明4とを対比すると,以下のとおりとなる。
ア 引用発明4の「無機充填剤」は「熱伝導率が30W/(m・K)以上」の条件を満たすものであるので,本願発明の「熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導性粒子」に相当する。

イ 引用発明4の「高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物」は「半導体素子と配線基板との間に高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物を介して熱圧着し,熱硬化せしめることで半導体パッケージを製造するため」に利用されるものであるので,本願発明の「熱硬化型ダイボンドフィルム」に相当する。

ウ 引用発明4の「無機充填剤」である「窒化アルミニウム(商品名:Hグレード,平均粒径1.1μm,モース硬度8,熱伝導率200W/(m・K),(株)トクヤマ製)」の平均粒径は「1.1μm」であり,「高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物」の「厚さが20μmである」ことから,「高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物」の厚みを,「無機充填剤」の平均粒径で除した値は,20μm÷1.1μm=18.2となるので,本願発明の「熱硬化型ダイボンドフィルムの厚さをCとし,前記熱伝導性粒子の平均粒径をDとしたときに,C/Dが4?30の範囲内である」ことを充足する。

したがって,本願発明と,引用発明4とは,以下の点で一致し,相違する。

<一致点>
「熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導性粒子を含有しており,
熱硬化型ダイボンドフィルムの厚さをCとし,前記熱伝導性粒子の平均粒径をDとしたときに,C/Dが4?30の範囲内であることを特徴とする熱硬化型ダイボンドフィルム。」
<相違点>
・相違点4:本願発明は「熱伝導性粒子の含有量が,熱硬化型ダイボンドフィルム全体に対して75重量%以上であ」るのに対して,引用発明4においては,特定されていない点。
・相違点5:本願発明は「熱伝導性粒子は,シランカップリング剤により前処理されて」いるのに対して,引用発明4においては,特定されていない点。
・相違点6:本願発明は「熱硬化型ダイボンドフィルム」の「熱抵抗が30×10^(-6)m^(2)・K/W以下であ」るのに対して,引用発明4の高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物の熱伝導率は記載されているものの,その熱抵抗は示されていない点。

(6) 相違点4?6についての判断
ア 相違点4について
引用発明4においては,無機充填剤である窒化アルミニウムを489質量部含有し,高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物全体としては,トリフェニルメタン型のエポキシ樹脂を55質量部,ビスフェノールA型(液状)のエポキシ樹脂を49質量部,フェノキシ樹脂を30質量部,硬化剤を9質量部,そして無機充填剤を489質量部含有するものであるので,489質量部を632質量部で除して,77質量%程度のものである。
してみれば,引用発明4における「熱伝導性粒子の含有量」は「熱硬化型ダイボンドフィルム全体に対して75重量%以上であ」り,相違点4は実質的なものでない。

イ 相違点5について
上記(4)アの相違点1についてで検討したとおり,引用発明4においても,無機充填剤を熱伝導性フィルム状接着剤用組成物中でより均一に分散させ,半田耐熱性,接着性,層間絶縁性等を向上させるために,引用発明4において,無機充填剤をシランカップリング処理することは当業者が容易になし得たことである。
したがって,引用発明4において,相違点5について本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点6について
引用発明4の熱伝導性フィルム状接着剤用組成物の熱伝導率は3.0W/m・Kであるから,熱抵抗の定義として,本願の発明の詳細な説明中の【0151】に記載された(厚み)/(熱伝導率)という式から算出すると,引用発明4の熱伝導性フィルム状接着剤用組成物の熱抵抗は,20μm÷3.0W/m・K=6.7×10^(-6)m^(2)・K/Wとなる。
してみれば,引用発明4における高熱伝導性フィルム状接着剤用組成物の熱抵抗は「30×10^(-6)m^(2)・K/W以下であ」り,相違点6は実質的なものでない。

したがって,本願発明は,引用発明4及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

また,本願の請求項2ないし6に係る発明は,引用発明4及び引用文献4(特に,第63?79段落参照),引用文献1(特に,第46?49,74?81段落,図1,2参照),引用文献6(特に,第46?50段落,図1?5参照)に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

したがって,本願の請求項1ないし6に係る発明は,引用文献4に記載された発明及び引用文献1-3,6に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7) 本願発明と引用発明5との対比
本願発明と,引用発明5とを対比すると,以下のとおりとなる。
ア 引用発明5の「高熱伝導フィラー」は「熱伝導率が30W/mK以上」であるから,本願発明の「熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導性粒子」に相当する。

イ 引用発明5の「高熱伝導接着フィルム」は「接着フィルムをリードフレーム上に貼り付け,半導体素子をマウントし,加熱硬化し接着する」態様で利用されることを前提とすると,本願発明の「熱硬化型ダイボンドフィルム」に相当する。

ウ 引用発明5の「実施例1」の「接着性樹脂の塗膜」においては,その「膜厚」が「60μm」であり,「熱伝導性フィラー」である「扁平銀フィラー」の「平均粒径」は「8.3μm」であること,「実施例2」の「接着性樹脂の塗膜」においては,その「膜厚」が「60μm」であり,「熱伝導性フィラー」である「扁平銀フィラー」の「平均粒径」は「2.0μm」であるから,それぞれ「接着性樹脂の塗膜」の厚みを,「熱伝導性フィラー」の平均粒径で除した値は,実施例1が60μm÷8.3μm=7.2,実施例2が60μm÷2.0μm=30となるので,本願発明の「熱硬化型ダイボンドフィルムの厚さをCとし,前記熱伝導性粒子の平均粒径をDとしたときに,C/Dが4?30の範囲内である」ことを充足する。

したがって,本願発明と,引用発明5とは,以下の点で一致し,相違する。

<一致点>
「熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導性粒子を含有しており,
熱硬化型ダイボンドフィルムの厚さをCとし,前記熱伝導性粒子の平均粒径をDとしたときに,C/Dが4?30の範囲内であることを特徴とする熱硬化型ダイボンドフィルム。」
<相違点>
・相違点7:本願発明は「熱伝導性粒子の含有量が,熱硬化型ダイボンドフィルム全体に対して75重量%以上であ」るのに対して,引用発明5においては,特定されていない点。
・相違点8:本願発明は「熱伝導性粒子は,シランカップリング剤により前処理されて」いるのに対して,引用発明5においては,特定されていない点。
・相違点9:本願発明は「熱硬化型ダイボンドフィルム」の「熱抵抗が30×10^(-6)m^(2)・K/W以下であ」るのに対して,引用発明5の高熱伝導接着フィルムの熱伝導率は記載されているものの,その熱抵抗は示されていない点。

(8) 相違点7?9についての判断
ア 相違点7について
引用発明5においては,実施例1,2として熱伝導性フィラーである扁平銀フィラーを2200重量部含有し,高熱伝導接着フィルム全体としては,ビスフェノールA型エポキシ樹脂を45重量部,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を15重量部,フェノールノボラック樹脂を40重量部,イミダゾール系硬化促進剤を0.5重量部,エポキシ基含有アクリルゴムを66重量部,そして,熱伝導性フィラーを2200重量部含有するものであるので,2200重量部を2366.5重量部で除して,92.96重量%程度のものである。
してみれば,引用発明5における「熱伝導性粒子の含有量」は「熱硬化型ダイボンドフィルム全体に対して75重量%以上であ」り,相違点7は実質的なものでない。

イ 相違点8について
上記(4)アの相違点1についてで検討したとおり,引用発明5においても,熱伝導性フィラーを高熱伝導接着フィルム中でより均一に分散させ,半田耐熱性,接着性,層間絶縁性等を向上させるために,引用発明5において,熱伝導性フィラーをシランカップリング処理することは当業者が容易になし得たことである。
したがって,引用発明5において,相違点8について本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点9について
引用発明5の高熱伝導接着フィルムの熱伝導率は実施例1が6.3(W/mK),実施例2が10.3(W/mK)であるから,熱抵抗の定義として,本願の発明の詳細な説明中の【0151】に記載された(厚み)/(熱伝導率)という式から算出すると,引用発明5の高熱伝導接着フィルムの熱抵抗は,実施例1が60μm÷6.3(W/mK)=9.5×10^(-6)m^(2)・K/W,実施例2が60μm÷10.3(W/mK)=5.8×10^(-6)m^(2)・K/Wとなる。
してみれば,引用発明5における高熱伝導接着フィルムの熱抵抗は「30×10^(-6)m^(2)・K/W以下であ」り,相違点9は実質的なものでない。

したがって,本願発明は,引用発明5及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

また,本願の請求項2ないし6に係る発明と,引用発明5とを比較すると,その差異は格別なものでない(必要であれば,本願の請求項5,6に係る発明については,引用文献1(特に,第46?49,74?81段落,図1,2),引用文献6(特に,第46?50段落,図1?5)を参照されたい。)。

したがって,本願の請求項1ないし6に係る発明は,引用発明5及び引用文献1-3,6に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9) 理由4のむすび
したがって,本願の請求項1ないし6に係る発明は,引用発明1,引用発明4,又は,引用発明5,及び引用文献2,3,6に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり,本願は,特許請求の範囲の請求項1?6の記載が特許法第36条第6項第1号,第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,また,発明の詳細な説明の記載が第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず,また,本願の請求項1?6に係る発明は,引用発明1,引用発明4,又は,引用発明5と,引用文献2,3,6に記載された技術的事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-06 
結審通知日 2019-02-07 
審決日 2019-02-21 
出願番号 特願2013-241298(P2013-241298)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
P 1 8・ 536- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴山 将隆  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 鈴木 和樹
恩田 春香
発明の名称 熱硬化型ダイボンドフィルム、ダイシングシート付きダイボンドフィルム、及び、半導体装置の製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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