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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1351004
審判番号 不服2018-3386  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-08 
確定日 2019-04-16 
事件の表示 特願2015-537124「高段差斜面に基づくフォトリソグラフィ方法及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 1日国際公開、WO2014/063532、平成28年 1月21日国内公表、特表2016-502127〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)9月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年(平成24年)10月23日、中国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成29年 3月29日付け:拒絶理由通知書
平成29年 7月28日 :意見書、手続補正書
平成29年11月 1日付け:拒絶査定
平成30年 3月 8日 :審判請求書、手続補正書
なお、審判請求書における請求の理由は、平成30年4月23日提出の手続補正書(方式)によって、補正されている。

第2 平成30年3月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年3月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「段差斜面に基づくフォトリソグラフィ方法であって、
S1、基板上に段差斜面を有する犠牲層を製造する段階、
S2、スピン-オンPRコーティング処理を実行することによって前記犠牲層上にフォトレジスト層を被覆し、フォトリソグラフィ層を形成する段階、
S3、マスク上にマスクパターン及び補償パターンを形成する段階であって、前記マスクパターンが、前記斜面の上部、前記斜面、及び前記斜面の底部にわたって矩形であり、前記斜面の上部のマスクパターンの形状は矩形であり、前記補償パターンが、斜面の上部の補償パターン及び斜面補償パターンを含み、前記斜面の上部の補償パターンが、前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の長辺の長さに等しい長さと前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さよりも大きい幅とを有する前記斜面の上部に対応する矩形であり、前記斜面補償パターンが、複数の三角形であって、各々の前記三角形の一辺が前記斜面のマスクパターンの縁の部分に隣接し、各々の前記三角形の他の一辺が前記斜面の上部の補償パターンの縁の部分に隣接する、複数の三角形を含む、前記マスクパターン及び補償パターンを形成する段階、
S4、フォトリソグラフィ機械により、前記マスクを使用して前記フォトリソグラフィ層に対して1つ又はそれよりも多くのフォトリソグラフィ処理を実行する段階、
を含み、
前記斜面の上部の補償パターンの幅対前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さの比率が、1.2:1から1:1の範囲であることを特徴とする方法。」

から、

「段差斜面に基づくフォトリソグラフィ方法であって、
S1、基板上に段差斜面を有する犠牲層を製造する段階、
S2、スピン-オンPRコーティング処理を実行することによって前記犠牲層上にフォトレジスト層を被覆し、フォトリソグラフィ層を形成する段階、
S3、マスク上にマスクパターン及び補償パターンを形成する段階であって、前記マスクパターンが、前記斜面の上部、前記斜面、及び前記斜面の底部にわたって矩形であり、前記斜面の上部のマスクパターンの形状は矩形であり、前記補償パターンが、斜面の上部の補償パターン及び斜面補償パターンを含み、前記斜面の上部の補償パターンが、前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の長辺の長さに等しい長さと前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さよりも大きい幅とを有する前記斜面の上部に対応する矩形であり、前記斜面補償パターンが、複数の三角形であって、各々の前記三角形の一辺が前記斜面のマスクパターンの縁の部分に隣接し、各々の前記三角形の他の一辺が前記斜面の上部の補償パターンの縁の部分に隣接する、複数の三角形を含む、前記マスクパターン及び補償パターンを形成する段階、
S4、フォトリソグラフィ機械により、前記マスクを使用して前記フォトリソグラフィ層に対して1つ又はそれよりも多くのフォトリソグラフィ処理を実行する段階、
を含み、
前記斜面の上部の補償パターンの幅対前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さの比率が、1.2:1から1:1の範囲であり、前記斜面の上部上及び前記斜面上、並びに前記斜面の底部上の前記パターンの線幅は、同じになるようにすることを特徴とする方法。」

へと補正することを含むものである(下線は、補正箇所である。)。

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記斜面の上部の補償パターンの幅対前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さの比率が、1.2:1から1:1の範囲であ」ることについて、「前記斜面の上部上及び前記斜面上、並びに前記斜面の底部上の前記パターンの線幅は、同じになるようにす」るとの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明が同条6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、項を改めて判断する。

3 明確性要件違反について
本件補正後の請求項1に記載される発明は、「前記斜面の上部の補償パターンの幅対前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さの比率が、1.2:1から1:1の範囲であり、前記斜面の上部上及び前記斜面上、並びに前記斜面の底部上の前記パターンの線幅は、同じになるようにする」との特定事項を含むところ、ここでいう「前記パターンの線幅」が、「マスクパターンの線幅」を意味するのか、「補償パターンの線幅」を意味するのか、それとも、それ以外のものを意味するのかが、当該請求項1の記載では不明である。
このように、本件補正後の請求項1に記載される発明は明確でないから、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件補正後の請求項1に記載される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 進歩性欠如について
(1)本件補正発明の認定
上記3のとおり、本件補正後の請求項1の記載には不備があるけれども、本件補正後の明細書(以下「本件明細書」という。)及び図面の記載に照らし、「前記パターンの線幅」が、マスクパターン及び補償パターンを用いたフォトリソグラフィ処理が実行された後のタイミングにおいて、フォトリソグラフィ層に形成されるパターンの線幅、を意味するものと解した上で、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)を、本件補正後の請求項1の記載のとおりに認定する。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2007-283480号公報(平成19年11月1日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の点が記載されていると認められる(下線は、当審が付した。以下同じ。)。
a 「【特許請求の範囲】」、
「基板上に、第1の導電層、および前記第1の導電層上の第1の犠牲層を形成し、
導電性を有する膜を成膜し、所定の形状に加工して、ゲート電極、および前記第1の犠牲層上の第2の犠牲層を形成し、
前記ゲート電極上に第1の絶縁層を形成し、
シリコンを有する膜を成膜し、所定の形状に加工することで、前記第1の絶縁層を介して前記ゲート電極上に半導体層を、前記第2の犠牲層上に構造層を、それぞれ、形成し、
前記第1の犠牲層の一部および前記第2の犠牲層を除去することを特徴とするマイクロマシンの作製方法。」(【請求項10】)

b 「(実施の形態1)」、
「本実施の形態では、マイクロマシンが有する構造体、および構造体に電気的に接続される電気回路を同一基板上に作製する方法について、図1?図5を用いて説明する。図面に、上側には上面図を示し、下側には上面図のO-Pにおける断面図を示す図が含まれている。また、本実施の形態では、電気回路の作製工程は、便宜上、電気回路を構成する半導体素子を作製する工程で代表して示している。この点は他の実施の形態でも同様とする。」(【0024】)、
「<第1の犠牲層104について>・・・」(【0030】)、
「ここで、第1の犠牲層104の膜厚は、第1の犠牲層104の材料や、構造体の構造および動作方法、犠牲層エッチングの方法等、様々な要因を考慮して決定される。例えば、第1の犠牲層104が薄すぎると、犠牲層エッチング時にエッチング剤が拡散せず、構造層下の犠牲層がエッチングされないという問題を生じる。さらに犠牲層が薄いと、犠牲層をエッチングを行った後に構造層の下面が基板表面にくっつく(座屈、またはスティッキングとも記載する)といった現象が生じる。また、犠牲層が厚すぎると、構造体を静電引力で動作させる場合の駆動電圧が非常に高くなり、場合によっては駆動しないという問題が生じる。」(【0032】)、
「上記のような要因を考慮し、例えば、基板上に形成されている導電層と構造層との間の静電引力によって構造体の駆動を行う場合、第1の犠牲層104は0.5μm以上4μm以下の厚さを有し、1μm?2.5μmの厚さを有することがより好ましい。」(【0033】)、
「<ゲート電極105と第2の犠牲層106について>
次に、下地層102の上に半導体素子を構成するゲート電極105を形成し、第1の犠牲層104上に構造体を形成するための第2の犠牲層106を形成する。ゲート電極105および第2の犠牲層106を構成する材料としては、モリブデンやタングステン等、導電性を有する金属や化合物をスパッタリング法やCVD法等を用いて成膜する。そして、成膜した導電層を上記第1の犠牲層104と同様、フォトリソグラフィ法およびエッチングにより加工する(図1(B)参照)。」(【0035】)、
「例えば、第1の犠牲層104の内部応力が強く、下地層102や第1の導電層103との接着性が悪い(ピーリングしやすい)場合であっても、犠牲層材料の成膜とエッチングを繰り返す事で犠牲層を厚く形成することができる。本実施の形態では、犠牲層を厚く形成するため、犠牲層を2回に分けて(第1の犠牲層104および第2の犠牲層106)形成する例を示す。さらに本実施の形態では、第2の犠牲層106およびゲート電極105を同時に形成する例を示している。」(【0036】)、
「第2の犠牲層106およびゲート電極105を形成する材料は、第1の犠牲層104と同じ材料であるか、または同じ方法でエッチングできる材料であることが望ましい。例えば、第1の犠牲層104および第2の犠牲層106を同じ材料で形成することで、犠牲層エッチングを一度で行うことができるので、工程を削減することができる。しかしながら、例えば犠牲層の上または下に形成する層との密着性などの条件によっては、異なる材料を用いて犠牲層を形成することも可能である。この場合、構造体を形成するための犠牲層エッチングを2度に分けて行えばよい。本実施の形態では、第1の犠牲層104、ならびに第2の犠牲層106およびゲート電極105を同一の材料で形成する例を示す。」(【0037】)、
「第1の導電層103、ならびに第1の犠牲層104、ゲート電極105および第2の犠牲層106の加工はエッチング(特に異方性のドライエッチング)によって行う。異方性のドライエッチングの例としては、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)エッチング法を用いることができる。このとき、エッチング条件(コイル型の電極に印加される電力量、基板101側の電極に印加される電力量、基板101側の電極温度等)を適宜調節することで、加工性を高めることができる。なお、第1の犠牲層104、および第2の犠牲層106ならびにゲート電極105を加工するエッチング用ガスとしては、Cl_(2)、BCl_(3)、SiCl_(4)もしくはCCl_(4)などを代表とする塩素系ガス、CF_(4)、SF_(6)もしくはNF_(3)などを代表とするフッ素系ガスまたはO2を適宜用いることができる。」(【0038】)、
「また、上記エッチング条件を調節することで、第1の犠牲層104、ゲート電極105および第2の犠牲層106を、テーパー角を有する台形状等、所定の形状に加工することも可能である(図2(A)参照)。ここでテーパー角とは、基板と層断面との角度が鈍角になる角(図2(A)内aで表す角)のことであり、テーパー角を有する層の断面は台形状となる。また、このようなエッチングによる加工性を向上させるため、第1の犠牲層104を形成する層と、ゲート電極105および第2の犠牲層106を形成する層を、異なる材料を用いて積層させることもできる。このように、第1の犠牲層104、ゲート電極105および第2の犠牲層106をテーパー角を有する形状に形成することで、段差上に成膜される層を均一に成膜することができる。」(【0039】)、
「図2(A)では、第1の犠牲層104、ゲート電極105および第2の犠牲層106を、テーパー角を有する形状に加工したが、全ての層にテーパー角を形成しなくともよい。例えば、第1の犠牲層104のみをテーパー角を有する形状に加工してもよい。あるいは第1の犠牲層104にテーパー角を形成せず、ゲート電極105および第2の犠牲層106にテーパー角を形成することも可能である。」(【0040】)、
「また、図2(B)に示すように、犠牲層を1層で形成することも可能である。この場合、第1の導電層103、および第1の犠牲層104と同時にゲート電極105を形成することができる。このように犠牲層を1層で形成することで、犠牲層のためのレチクル(フォトマスク)が1層分不要となり、成膜および加工の工程を削減することができる。」(【0041】)、
「<半導体層109、構造層108について>
次に、第1の絶縁層107の上に、半導体素子を構成する半導体層109、および、構造体を構成する構造層108となる半導体を形成し、所定の形状に加工する(図3(A)参照)。半導体層109、および構造層108は、シリコンを有する材料から形成することができる。シリコンを有する材料には、シリコン、ゲルマニウムを0.01?4.5atomic%程度に有するシリコンゲルマニウム等がある。本発明は、非晶質半導体層を形成し、加熱処理により結晶化された結晶性の半導体層を形成する。加熱処理とは、加熱炉による加熱、レーザ光の照射、もしくはレーザ光の代わりにランプから発する光の照射(ランプアニールとも記載)等があり、それらを組み合わせて用いることもできる。」(【0048】)、
「構造層108の材料および膜厚は、第1の犠牲層104および第2の犠牲層106の厚さ、構造層108の材料、構造体の構造、または犠牲層エッチングの方法等、様々な要因を考慮して決定される。例えば、構造層108の材料として内部応力の分布差が大きい物質を用いると構造層108に反りが生じる。しかしながら、この構造層108の反りを利用して構造体を構成することも可能である。本実施の形態では、構造層108と半導体層109とを同時に形成するため、構造層108は結晶性を有する半導体層を用いて形成される。」(【0049】)、
「また、構造層108を厚く成膜すると内部応力に分布が生じ、反りや座屈の原因となる。逆に、構造層108の厚さが薄いと、犠牲層エッチング時に用いる溶液の表面張力によって構造体が座屈する恐れがある。例えば、本実施形態のように、半導体層を用いて構造層108を作製する場合、構造層108の膜厚は0.5μm以上10μm以下が好ましい。」(【0050】)、
「上記の工程を経て、構造体および半導体素子を同一基板上に有するマイクロマシンを作製することができる。また、このように作製した構造体は、例えば第1の導電層103と構造層108との間に電圧を印加することによって、静電引力によって駆動するアクチュエータとして機能させることができる。また、構造層108に圧力等の外力が加わり、空間部分118の高さが変化することを検出する事によってセンサとして利用することも可能である。」(【0084】)

c 「(実施の形態2)・・・」(【0086】)、
「次に、上記で形成した第1の半導体層210および第2の半導体層211を所定の形状に加工することで、構造体を構成する第1の構造層208および半導体素子を構成する半導体層209を形成する(図6(B)参照)。第1の構造層208および半導体層209の加工は、実施の形態1で示した方法と同様、フォトリソグラフィ法およびエッチングによって行うことができる。」(【0090】)

d 図2(B)からは、第1の犠牲層104及びゲート電極105に、テーパー角(その意義は、【0039】参照。)が形成されていることが見て取れる。


e 図3(A)からは、構造層108の幅(短手方向の長さ)が、犠牲層上に存在する部分及び犠牲層上に存在しない部分を問わず、一定であることが見て取れる。


f 請求項10、【0041】及び上記dを併せると、引用文献1には、

「基板101上に、第1の導電層103を形成し、
導電性を有する膜を成膜し、テーパー角が形成されるように加工して、前記第1の導電層上に犠牲層104及びゲート電極105を形成し、
前記ゲート電極上に第1の絶縁層107を形成し、
シリコンを有する膜を成膜し、所定の形状に加工することで、前記第1の絶縁層を介して前記ゲート電極上に半導体層109を、前記犠牲層上に構造層108を、それぞれ、形成し、
前記犠牲層の一部を除去するマイクロマシンの作製方法。」

が記載されていると認められる(なお、「犠牲層」が1層のみ存在する発明を認定することから、「第1の犠牲層」を、単に、「犠牲層」と表記した。)。

(イ)上記(ア)の各記載によれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明1を認定する際に直接的に使用した段落番号等を、括弧内に付記する。
「基板上に、第1の導電層を形成し、
導電性を有する膜を成膜し、テーパー角が形成されるように加工して、前記第1の導電層上に犠牲層及びゲート電極を形成し、
前記ゲート電極上に第1の絶縁層を形成し、
シリコンを有する膜を成膜し、所定の形状に加工することで、前記第1の絶縁層を介して前記ゲート電極上に半導体層を、前記犠牲層上に構造層を、それぞれ、形成する方法であって、(上記(ア)f)
構造層および半導体層の加工は、フォトリソグラフィ法およびエッチングによって行われるものであって、(【0090】)
構造層の幅(短手方向の長さ)が、犠牲層上に存在する部分及び犠牲層上に存在しない部分を問わず、一定である、(上記(ア)e)
方法。(上記(ア)f)」

イ 引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平2-226724号公報(平成2年9月10日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の点が記載されていると認められる。
a 「2.特許請求の範囲」、
「アクティブ素子領域に対して段差のあるフィールド酸化膜領域に上記アクティブ素子領域のゲート電極と同一パターン幅で同一材料の配線パターンを備えた集積回路装置の製造方法において、
アクティブ素子領域と該アクティブ素子領域に対して段差のあるフィールド酸化膜領域が形成されたウエハ表面にゲート電極材料の導体層を形成する工程と、
上記導体層上に表面が平坦化される厚さのレジスト層を形成する工程と、
上記レジスト層を同一パターン幅のマスクを使用して露光、現像したときに該レジスト層のエッチングテーパに起因して生ずる上記アクティブ素子領域とフィールド酸化膜領域に形成されるレジストパターンのパターン幅の寸法差を考慮して上記アクティブ素子領域とフィールド酸化膜領域に対するパターン幅を設定したフォトマスクを使用して上記レジスト層を露光、現像して、上記アクティブ素子領域とフィールド酸化膜領域の所定の位置に同一パターン幅のレジストパターンを形成する工程と、
上記レジストパターンをマスクに上記導体層をエッチングして上記アクティブ素子領域にゲート電極をフィールド酸化膜領域に配線パターンを形成する工程とを備えたことを特徴とする集積回路装置の製造方法。」(1頁左下欄4行?右下欄10行)

b 「[従来の技術]」、
「第3図(a),(b)はこの種集積回路装置の一例の設計構造の一部分を示す平面図、断面図である。
図において1はアクティブ素子領域、2はフィールド酸化膜領域、3はゲート電極、4は配線パターン、5はメタル配線パターン、6はソース、ドレイン拡散層である。
第4図は従来の第3図に示す集積回路装置のゲート電極3と配線パターン4の形成方法を示す。
アクティブ素子領域1とこの領域1に対し段差のあるフィールド酸化膜領域2が形成されたウエハ表面にゲート電極材の導体層11を形成する。
この導体層11の上にレジストを表面が平坦化する厚さに塗布してレジスト層12を形成する。
このレジスト層12を第5図に示すようにアクティブ素子領域1とフィールド酸化膜領域2に対するパターン幅が等しいフォトマスク13を使用して露光、現像して、感光されたレジスト12をエッチング除去する。(図はポジ型レジストの場合の例を示す。ネガ型レジストの場合はマスクデータが逆になる。)
アクティブ素子領域1とフィールド酸化膜領域2に形成されたレジストパターンをマスクに導体層11をエッチングし、レジストパターンを除去する。
上記工程に従って、アクティブ素子領域1のゲート電極3形成と同時にフィールド酸化膜領域2の配線パターン4を形成する。」(1頁右下欄18行?2頁右上欄5行)

c 「[発明が解決しようとする課題]」、
「上記工程において、レジスト層12をマスクを介して露光、現像して、感光されたレジスト12をエッチング除去すると、形成されるレジストパターンはそれぞれ、第6図に示すように、断面が台形状になる。
エッチングテーパは、レジストの材質、露光時間、現像時間で決まるもので、マスクのパターン幅lに対し、導体層11上のレジストパターンのパターン幅は、アクティブ素子領域1ではl+2Δl_(22),フィールド酸化膜領域2ではl+2Δl_(11),となり、この2つの領域のレジストパターンのパターン幅の差2(Δl_(22)-Δl_(11))は、アクティブ素子領域1とフィールド酸化膜領域2の段差Δhとエッチングテーパの角αの関係f(α,Δh)で表すことができる。
上記のように、同一パターン幅のマスクを使用したときは、アクティブ素子領域1とフィールド酸化膜領域2の導体層11のエッチングマスクとなるレジストパターンのパターン幅にf(α,Δh)の差ができる。」(2頁右上欄7行?左下欄5行)(審決注:「フィールド酸化膜領域2ではl+2Δll_(1),となり」は、「フィールド酸化膜領域2ではl+2Δl_(11),となり、」の明らかな誤記であると認められるので、誤記を正した上で認定した。)

d 「[課題を解決するための手段]」、
「本発明の方法は、上記目的を達成するために、レジスト層のパターニングに使用するフォトマスクのアクティブ素子領域とフィールド酸化膜領域に対するパターン幅に関数f(α,Δh)に相当する寸法差を付与し、双方の領域に形成されるレジストパターンが同一パターン幅になるようにしたものである。」(2頁右下欄2行?9行)

e 「[実施例]」、
「第1図(a),(b)は本発明で使用するフォトマスクにおけるアクティブ素子領域とフィールド酸化膜領域に対するマスクパターンの例を示し、第2図(a),(b)はそれぞれ第1図(a),(b)に示すマスクパターンにより形成されるレジストパターンを示す。
フォトマスクのパターン幅を変更したのみで、工程は従来と同じである。
第1図(a)に示すフィールド酸化膜領域側のパターン幅をl、アクティブ素子領域側のパターン幅をl-f(α,Δh)にしたマスクパターンを使用した場合の第2図(a)に示すレジストパターンでは、それぞれのパターン幅l_(33),l_(44)は
l_(44)-[l-f(α,Δh)]-(l-l_(33))=f(α,Δh)
から、l_(33)=l_(44)となり、第2図(b)に示すものにおいても同様にパターン幅l_(55),l_(66)はl_(55)=l_(66)となる。
レジストパターン幅 l_(33)=l_(44),l_(55)=l_(66)はlより大きいが、導体層11のエッチングをつづけてゆくと、アクティブ素子領域のゲート電極とフィールド酸化膜領域の配線パターンのパターン幅を同時にlにすることができる。」(2頁右下欄10行?3頁左上欄11行)

f 第1図、第2図、第3図、第4図は、次のとおりである。


g 上記a?fによれば、引用文献2に記載されたマスクパターンについて次の事実が認められる。
(a)マスクパターンの形状
マスクパターンは、
パターン幅が「l-f(α,Δh)」である領域(以下「マスクパターン幅狭領域」という。)と、
パターン幅が「l」である領域(以下「マスクパターン幅広領域」という。)と、
両者をパターン幅が連続的に変化するように接続する領域(以下「マスクパターン幅連続変化接続領域」という。)とからなる(下図参照。)。
以上については、特に上記e及び第1図(a)の右図に基づき認定することができる。


(b)マスクパターンとレジストが堆積される面との対応関係
マスクパターン幅狭領域は、レジストが堆積される面のうち、低い位置に存在する面(以下、「レジストが堆積される面のうち、低い位置に存在する面」を「低位置面」という。)に対応し、
マスクパターン幅広領域は、レジストが堆積される面のうち、高い位置に存在する面(以下、「レジストが堆積される面のうち、高い位置に存在する面」を「高位置面」という。)に対応し、
マスクパターン幅連続変化接続領域は、レジストが堆積される面のうち、低位置面と高位置面とを連続的に接続する面(以下、「レジストが堆積される面のうち、低位置面と高位置面とを接続する面」を「高低連続接続面」という。)に対応する(各面については、下図参照。)。
以上については、特に上記e、第1図(a)、第2図(a)、第3図(a)・(b)、第4図に基づき認定することができる。


(c)作用効果
マスクパターンが、上記(a)及び(b)の構成であるため、表面が平坦化する厚さに塗布されたレジスト層を用いつつ、同一パターン幅のレジストパターンを得ることができる。
以上については、特に上記b?eに基づき認定することができる。

(イ)上記(ア)によれば、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「マスクパターンは、マスクパターン幅狭領域とマスクパターン幅連続変化接続領域とマスクパターン幅広領域とからなり、
マスクパターン幅狭領域は、低位置面に対応し、
マスクパターン幅連続変化接続領域は、高低連続接続面に対応し、
マスクパターン幅広領域は、高位置面に対応し、
マスクパターンが以上の構成であるため、表面が平坦化する厚さに塗布されたレジスト層を用いつつ、同一パターン幅のレジストパターンを得ることができる、
方法。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明1とを対比する。
(ア)本件補正発明の「段差斜面に基づくフォトリソグラフィ方法であって、」について
引用発明1は、「テーパー角が形成される」「第1の犠牲層」を「フォトリソグラフィ法およびエッチングによって」「加工」するものである。
よって、引用発明1は、本件補正発明の「段差斜面に基づくフォトリソグラフィ方法であって、」との特定事項を備える。

(イ)本件補正発明の「基板上に段差斜面を有する犠牲層を製造する段階、」について
引用発明1は、「基板上に、第1の導電層を形成し、
導電性を有する膜を成膜し、テーパー角が形成されるように加工して、前記第1の導電層上に犠牲層及びゲート電極を形成」するものである。
そして、引用発明1の「基板」及び「テーパー角が形成される」「犠牲層」は、それぞれ、本件補正発明の「基板」及び「段差斜面を有する犠牲層」に相当する。
したがって、引用発明1は、本件補正発明の「基板上に段差斜面を有する犠牲層を製造する段階、」との特定事項を備える。

(ウ)本件補正発明の「スピン-オンPRコーティング処理を実行することによって前記犠牲層上にフォトレジスト層を被覆し、フォトリソグラフィ層を形成する段階、」について
引用発明1は、「シリコンを有する膜を成膜し、所定の形状に加工することで、前記第1の絶縁層を介して前記ゲート電極上に半導体層を、前記犠牲層上に構造層を、それぞれ、形成する」ものであるとともに、「構造層および半導体層の加工は、フォトリソグラフィ法およびエッチングによって行われるものであ」る。そして、フォトリソグラフィ法による加工に際して、フォトレジスト層を被覆して、フォトリソグラフィ層を形成することは、自明である。
したがって、引用発明1は、本件補正発明の「前記犠牲層上にフォトレジスト層を被覆し、フォトリソグラフィ層を形成する段階、」との特定事項を備える。
しかし、引用発明1は、「スピン-オンPRコーティング処理を実行することによって」フォトレジスト層を被覆するとの事項を備えない。

(エ)本件補正発明の「マスク上にマスクパターン及び補償パターンを形成する段階であって、・・・前記マスクパターン及び補償パターンを形成する段階、」について
引用発明1は、本件補正発明の「マスク上に・・・前記マスクパターン及び補償パターンを形成する段階、」との特定事項を備えない。

(オ)本件補正発明の「フォトリソグラフィ機械により、前記マスクを使用して前記フォトリソグラフィ層に対して1つ又はそれよりも多くのフォトリソグラフィ処理を実行する段階、」について
引用発明1は、「構造層および半導体層の加工は、フォトリソグラフィ法およびエッチングによって行われるものであ」る。そして、フォトリソグラフィ法による加工に際して、マスクを用いることは自明である。
したがって、引用発明1は、本件補正発明の「フォトリソグラフィ機械により、」「マスクを使用して前記フォトリソグラフィ層に対して1つ又はそれよりも多くのフォトリソグラフィ処理を実行する段階、」との特定事項を備える。
しかし、引用発明1は、本件補正発明の「前記マスク」のうち「前記」との部分を備えない。

(カ)本件補正発明の「前記斜面の上部の補償パターンの幅対前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さの比率が、1.2:1から1:1の範囲であり、前記斜面の上部上及び前記斜面上、並びに前記斜面の底部上の前記パターンの線幅は、同じになるようにする」について
a 引用発明1は、次のとおり、本件補正発明の「前記斜面の上部上及び前記斜面上、並びに前記斜面の底部上の前記パターンの線幅は、同じになるようにする」との特定事項を備える。
すなわち、引用発明1は、「構造層の幅(短手方向の長さ)が、犠牲層上に存在する部分及び犠牲層上に存在しない部分を問わず、一定である」ところ、この幅が観念されるタイミングは、「導電性を有する膜」に対して「構造層および半導体層の加工」のための「フォトリソグラフィ法およびエッチング」が行われた後、であることが明らかである。そうすると、引用発明1では、「構造層および半導体層の加工」のための「フォトリソグラフィ法」が行われた後、かつ、「エッチング」が行われる前のタイミングにおける、フォトリソグラフィ層(その意味でのフォトリソグラフィ層を、以下、「露光現像後フォトリソグラフィ層」という。)の幅も、犠牲層上に存在する部分及び犠牲層上に存在しない部分を問わず、一定であると解される。したがって、引用発明1は、「前記パターンの線幅は、同じになるように」されている。
そして、引用発明1の「犠牲層」には「テーパー角が形成され」ているから、引用発明1は、本件補正発明の「前記斜面の上部上及び前記斜面上、並びに前記斜面の底部上の前記パターンの線幅は、同じになるようにする」との特定事項を備える。

b しかし、引用発明1は、本件補正発明の「前記斜面の上部の補償パターンの幅対前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さの比率が、1.2:1から1:1の範囲であ」るとの特定事項を備えない。

イ 上記アによれば、本件補正発明と引用発明1とは、
「段差斜面に基づくフォトリソグラフィ方法であって、
基板上に段差斜面を有する犠牲層を製造する段階、
前記犠牲層上にフォトレジスト層を被覆し、フォトリソグラフィ層を形成する段階、
フォトリソグラフィ機械により、マスクを使用して前記フォトリソグラフィ層に対して1つ又はそれよりも多くのフォトリソグラフィ処理を実行する段階、
を含み、
前記斜面の上部上及び前記斜面上、並びに前記斜面の底部上の前記パターンの線幅は、同じになるようにする
方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「前記犠牲層上にフォトレジスト層を被覆」する手法について、本件補正発明は、「スピン-オンPRコーティング処理を実行する」ことによるものであるのに対し、引用発明1はそうなっていない点。

[相違点2]
「前記斜面の上部上及び前記斜面上、並びに前記斜面の底部上の前記パターンの線幅は、同じになるようにする」ことに関し、
本件補正発明は、「マスク上にマスクパターン及び補償パターンを形成する段階であって、前記マスクパターンが、前記斜面の上部、前記斜面、及び前記斜面の底部にわたって矩形であり、前記斜面の上部のマスクパターンの形状は矩形であり、前記補償パターンが、斜面の上部の補償パターン及び斜面補償パターンを含み、前記斜面の上部の補償パターンが、前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の長辺の長さに等しい長さと前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さよりも大きい幅とを有する前記斜面の上部に対応する矩形であり、前記斜面補償パターンが、複数の三角形であって、各々の前記三角形の一辺が前記斜面のマスクパターンの縁の部分に隣接し、各々の前記三角形の他の一辺が前記斜面の上部の補償パターンの縁の部分に隣接する、複数の三角形を含む、前記マスクパターン及び補償パターンを形成する段階」を備えるとともに、「前記斜面の上部の補償パターンの幅対前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さの比率が、1.2:1から1:1の範囲であ」るのに対し、
引用発明1はそうなっていない点。

(4)相違点の判断
[相違点1]及び[相違点2]をまとめて判断する。
ア 上記(3)ア(カ)で認定したとおり、引用発明1では、露光現像後フォトリソグラフィ層の幅が、(テーパー角が形成される)犠牲層上に存在する部分及び犠牲層上に存在しない部分を問わず、一定であると認められるけれども、引用文献1には、それを実現するための具体的手法が開示されていない。そのため、当業者は、引用発明1において、露光現像後フォトリソグラフィ層の幅を一定とするために、どのような具体的手法を採用するのかについて当然に検討するものと認められる。
そして、露光現像後フォトリソグラフィ層の幅を一定とすればよいのであるから、そのための具体的手法は、テーパー角が形成される層が犠牲層であるか否かに関わらないことが明らかである。そうすると、当業者は、そのための具体的手法として、フォトリソグラフィの分野に属する技術を、犠牲層を用いないものも含めて、広く採用することができるといえる。

イ 引用発明2は、犠牲層を用いたものではないけれども、同一パターン幅のレジストパターンを得るための技術であるから、当業者は、引用発明2に接することができる。
そして、当業者は、引用発明1における、「フォトリソグラフィ法」が実行される前のタイミングにおけるフォトリソグラフィ層(以下「露光前フォトリソグラフィ層」という。上記(3)ア(ウ)参照。)は、犠牲層上に存在する部分及び犠牲層上に存在しない部分に形成されるものであるところ、当該露光前フォトリソグラフィ層は、引用発明2でいう低位置面、高低連続接続面及び高位置面に形成されるという意味で、引用発明2のレジスト層と共通することが理解できる。
そうすると、当業者であれば、引用発明1において、上記の具体的手法として、引用発明2を採用することを容易に想到することができる。

ウ そして、当業者は、引用発明1に引用発明2を採用することにより、次のとおり、相違点1及び相違点2に係る構成に至ることができる。
(ア)まず、引用発明1の露光前フォトグラフィ層を、引用発明2のレジスト層に倣って、表面が平坦化する厚さに塗布することになる。その際、「スピン-オンPRコーティング処理」でこれを行うことは、例示するまでもなく技術常識である。
このようにして、当業者は、相違点1の構成に至ることができる。

(イ)次に、引用発明1は、マスクパターンを当然に用いるものであるところ、当業者は、そのマスクパターンを、引用発明2に倣って形成することとなる。具体的には、引用発明1の構造層の形状を踏まえて、マスクパターンとして、次のもの、すなわち、その長手方向に沿って、順に、マスクパターン幅狭領域、マスクパターン幅連続変化接続領域、マスクパターン幅広領域、マスクパターン幅連続変化接続領域及びマスクパターン幅狭領域とからなるもの、を形成するとともに、マスクパターン幅狭領域を、低位置面(引用発明1でいえば、「犠牲層」がない部分に対応する面)に対応させ、マスクパターン幅連続変化接続領域を、高低連続接続面(「犠牲層」のうち、「テーパー」状の部分に対応する面)に対応させ、マスクパターン幅広領域を、高位置面(「犠牲層」上の部分に対応する面)に対応させることになる。
このようにして、当業者は、相違点2のうち、「マスク上にマスクパターン及び補償パターンを形成する段階であって、前記マスクパターンが、前記斜面の上部、前記斜面、及び前記斜面の底部にわたって矩形であり、前記斜面の上部のマスクパターンの形状は矩形であり、前記補償パターンが、斜面の上部の補償パターン及び斜面補償パターンを含み、前記斜面の上部の補償パターンが、前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の長辺の長さに等しい長さと前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さよりも大きい幅とを有する前記斜面の上部に対応する矩形であり、前記斜面補償パターンが、複数の三角形であって、各々の前記三角形の一辺が前記斜面のマスクパターンの縁の部分に隣接し、各々の前記三角形の他の一辺が前記斜面の上部の補償パターンの縁の部分に隣接する、複数の三角形を含む、前記マスクパターン及び補償パターンを形成する段階」という構成に至る。

(ウ)最後に、当業者が、相違点2のうち、「前記斜面の上部の補償パターンの幅対前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さの比率が、1.2:1から1:1の範囲であ」るとの構成に至ることについては、次のとおりである。
a まず、「前記斜面の上部の補償パターンの幅対前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さの比率」(以下「本件比率」という。)を1.2:1から1:1の範囲にすることの技術的意義について確認する。
本件明細書の【0021】等の記載に照らせば、当該技術的意義は、フォトリソグラフィパターンの誤差の低減にあると解されるから、結局、「前記斜面の上部上及び前記斜面上、並びに前記斜面の底部上の前記パターンの線幅は、同じになるようにする」こと(以下、「前記斜面の上部上及び前記斜面上、並びに前記斜面の底部上の前記パターンの線幅」が「同じ」であることを、「線幅同一性」という。)であると認められる。
しかし、線幅同一性を確保するためには、本件比率の値を、犠牲層の厚さやレジストの材質等に応じて変える必要があると考えられる。そうすると、上記構成の技術的意義は、本件比率を1.2:1から1:1の範囲とすれば、犠牲層の厚さやレジストの種類等がいかなるものでもあっても線幅同一性を確保できるということではなく、当該範囲とすれば、犠牲層の厚さやレジストの種類等によっては、線幅同一性を確保できるということにとどまると解される。
これを換言すれば、上記構成は、実質的にみれば、犠牲層の厚さやレジストの種類等として、本件比率を「1.2:1から1:1の範囲」とすれば線幅同一性を確保できるようなものを、選択することを特定しているといえる。

b これを引用発明1に引用発明2を採用した構成についてみると、当該構成では、犠牲層の厚さやレジストの種類等が定まれば、それに応じて、「f(α,Δh)」(上記イ(ア)g(a)。上記イ(ア)cのとおり、「α」はレジストの材質等で定まるとともに、Δhは段差である。)の値が定まるので、線幅同一性が確保されることになるとともに、そのときの本件比率の値も定まることになる。
しかるところ、当該構成における犠牲層の厚さやレジストの種類等については、当業者が適宜選択して定めるはずのものであるし、また、本件比率を「1.2:1から1:1の範囲」とすれば線幅同一性を確保できるような犠牲層の厚さ等であっても、困難なく選択できるといえる。この判断は、本件補正後の請求項4に「段差斜面の高さが、2μmよりも高」いことが特定されている一方、引用文献1の【0033】に「・・・第1の犠牲層104は0.5μm以上4μm以下の厚さを有し、1μm?2.5μmの厚さを有することがより好ましい。」と記載されており、よって、引用発明1の犠牲層の厚さは、本件補正発明で想定されている厚さと同様であるといえることからも、裏付けられる。

c このようにして、当業者は、相違点2のうち、「前記斜面の上部の補償パターンの幅対前記斜面の上部のマスクパターンの矩形の短辺の長さの比率が、1.2:1から1:1の範囲であ」るとの構成に至ることができる。

(エ)以上のとおり、当業者は、引用発明1に引用発明2を採用することにより、相違点1及び相違点2に係る構成に至ることができ、そこに、困難な過程は存在しないというべきである。

エ 本件補正発明の効果は、引用発明1及び引用発明2に基づき、予測しうる程度のものにすぎず、格別とはいえない。

オ 以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)小括
したがって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 本件補正についてのむすび
本件補正は、上記3及び4のとおり、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明の認定
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年7月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、第2の[理由]1において、本件補正前の請求項1として記載したとおりのものと認められる。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献2並びにその記載事項は、第2の[理由]4(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、第2の[理由]4で検討した本件補正発明から、「前記斜面の上部上及び前記斜面上、並びに前記斜面の底部上の前記パターンの線幅は、同じになるようにす」るとの限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、第2の[理由]4(3)、(4)で認定判断したとおり、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-11-15 
結審通知日 2018-11-19 
審決日 2018-11-30 
出願番号 特願2015-537124(P2015-537124)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
P 1 8・ 575- Z (G03F)
P 1 8・ 537- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 彰  
特許庁審判長 西村 直史
特許庁審判官 山村 浩
古田 敦浩
発明の名称 高段差斜面に基づくフォトリソグラフィ方法及びシステム  
代理人 松下 満  
代理人 丹澤 一成  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 山本 泰史  
代理人 弟子丸 健  
代理人 田中 伸一郎  

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