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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1351008
審判番号 不服2018-5112  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-13 
確定日 2019-04-17 
事件の表示 特願2015-513310「生体電位測定に関する磁気共鳴安全な電極」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月28日国際公開、WO2013/175343、平成27年 6月22日国内公表、特表2015-517373〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)5月13日(パリ条約による優先権主張 2012年5月25日 米国、2012年12月20日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年5月11日付けで手続補正がなされ、平成29年2月16日付けで拒絶理由が通知され、同年8月3日付けで意見書が提出され、平成30年1月5日付けで拒絶査定されたところ、同年4月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成30年4月13日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年4月13日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「 磁気共鳴環境における生体電位測定に用いられる電極パッチであって、
プラスチック又はポリマーシートと、
前記プラスチック又はポリマーシートに配置され、1ohm/square以上10ohm/square未満のシート抵抗を持つ導電性トレースと、
前記導電性トレースに配置され、人間の皮膚に取付けられるよう構成される電極とを有する電極パッチ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成28年5月11日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「 磁気共鳴環境における生体電位測定に用いられる電極パッチであって、
プラスチック又はポリマーシートと、
前記プラスチック又はポリマーシートに配置され、1ohm/square又はこれより高いシート抵抗を持つ導電性トレースと、
前記導電性トレースに配置され、人間の皮膚に取付けられるよう構成される電極とを有する電極パッチ。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「シート抵抗」について、「10ohm/square未満」との限定を加えるものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献

ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-23399号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は、当審において付した。以下同じ。)

(引1ア)
「【0002】
【従来の技術】・・・ところで、最近患者の様態をより詳しく診断するために、このペーシングカテーテルなどの電極付き医療用具を付けたままNMR-CTにかけることが多くなっている。しかしながら、このペーシングカテーテルなどの電極部は、金属でできているためNMR-CTなどの磁気を応用した診断機器の像に乱れを生じ良好な像が得られないという欠点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した従来の電極付き医療用具の欠点に鑑みてなされたもので、NMR-CTなど磁気を用いた診断機器に悪影響を及ぼし難い電極付き医療用具を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、電極又は導線の少なくとも電極を非金属導電性材料にすることにより上記目的を達成することを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、電極又は導線の少なくとも一つが、非金属導電性材料から成ることを特徴とする電極付き医療用具を提供するものである。」

(引1イ)
「【0005】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の電極付き医療用具は、電極又は導線の少なくとも電極が、非金属導電性材料から成ることが必要である。非金属導電性材料は、特に限定されるものではないが、例えば導電性無機高分子や導電性有機高分子などの導電性高分子、導電性カーボンブラック、炭素繊維などが挙げられる。導電性無機高分子としては、(SN)n、グラファイト層間化合物などが挙げられる。導電性有機高分子としては、ポリアセチレン、ポリ(p-フェニレン)、ポリピロール、ポリチエニレン、ポリ(p-フェニレンオキシド)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、ポリ(4,4'-ビフェニレン)、ポリアニリン、ポリ(1,6-ヘプタジイン)、ポリアセナフタレン、ポリ(4-ビニルピリジン)-ヨウ素錯体、ポリビニルピリジニウム-テトラシアノキノジメタン錯体などが挙げられる。これらの非金属導電性材料のうち、特に導電性カーボンブラック、炭素繊維が好ましい。これらの非金属導電性材料は、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。」

(引1ウ)
「【0010】本発明の電極付き医療用具は、特に限定されるものではなく、種々の電極付き医療用具に適応できるが、例えばペーシングカテーテル、ペースメーカーリードワイヤー、電気生理測定用カテーテル、心電測定用体表面電極、又はアブレージョンカテーテルなどが挙げられる。」

(引1エ)
「【0011】
【実施例】以下、本発明を実施例の図面に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。図1は本発明の一実施例であるペーシングカテーテルの先端部分の斜視図であり、図2は図1中のA-B線で切断したときの断面図であり、図3は図1中のC-D線で切断したときの断面図である。
【0012】図中、内部に穴2の空いたチューブから成るカテーテルの基体1の先端部の全周囲に、シリコンゴム70重量%と導電性カーボン30重量%から成る非金属導電性材料組成物がプリントされて電極3が取り付けられている。その電極3には導線5が接続しており、その導線5はカテーテルの基体1の表面に電極と同じ非金属導電性材料組成物でプリントされることにより取り付けられている。導線5の形状はカテーテルの先端から基部に向かって直線状である。」

(引1オ)
「【0016】図4は、本発明の一実施例である心電図用の皮膚電極の斜視図である。図中、電極基体9及びそれに接続している導線基体8の上には、シリコンゴム70重量%と導電性カーボンブラック30重量%から成る非金属導電性材料組成物がプリントされて電極3及び導線5が取り付けられている。電極以外の電極基体9の表面は粘着剤層10で被覆されている。電極基体9及び導線基体8は、シリコンゴムでできている。なお、導線5は図1と同様に熱可塑性樹脂やゴムなどの非金属材料により被覆してもよい。」

(引1カ)
「【0017】
【発明の効果】本発明の電極付き医療用具は、電極又は導線の少なくとも一つが非金属導電性材料でできているので、本発明の電極付き医療用具を身体に取り付けたままNMR-CTなどの磁気を応用した診断機器にかけても診断機器の像に乱れを生じ難く、良好な像を得ることができる。」

(引1キ)図4には、以下の図面が示されている。


(イ)引用文献1に記載された発明

a (引1カ)【0017】の「本発明の電極付き医療用具を身体に取り付けたままNMR-CTなどの磁気を応用した診断機器にかけても診断機器の像に乱れを生じ難く、良好な像を得ることができる」という記載によれば、「電極付き医療用具」は、「NMR-CTなどの磁気を応用した診断機器」で用いることができるものである。
また、(引1ウ)【0010】の「本発明の電極付き医療用具は、特に限定されるものではなく、種々の電極付き医療用具に適応できるが、例えば・・・心電測定用体表面電極・・・などが挙げられる」という記載によれば、「電極付き医療用具」は、「心電測定用体表面電極」を含むものである。
してみると、(引1オ)【0016】の「一実施例である心電図用の皮膚電極」は、「心電測定用体表面電極」であるから、「NMR-CTなどの磁気を応用した診断機器」で用いることができる「心電図用の皮膚電極」である。

b (引1キ)図4の「心電図用の皮膚電極の斜視図」では、「電極以外の電極基体9の表面は粘着剤層10で被覆されている」ため、「粘着剤層10」を取り除いた「電極基体9の表面」は示されていないものの、(引1エ)【0012】に「その電極3には導線5が接続し」と記載している点を踏まえても、(引1オ)【0016】の「一実施例である心電図用の皮膚電極」において、「電極基体9」に「プリントされ」た「電極3」は、「電極基体9及びそれに接続している導線基体8」に「プリントされ」た「導線5」と接続していることは明らかである。

c したがって、上記a及びbを含め上記(ア)の記載事項及び図面を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 NMR-CTなどの磁気を応用した診断機器で用いることができる心電図用の皮膚電極であって、
電極基体9及びそれに接続している導線基体8の上には、シリコンゴム70重量%と導電性カーボンブラック30重量%から成る非金属導電性材料組成物がプリントされて電極3及び導線5が取り付けられ、電極基体9及び導線基体8は、シリコンゴムでできており、
電極基体9にプリントされた電極3は、電極基体9及びそれに接続している導線基体8にプリントされた導線5と接続している、
心電図用の皮膚電極。」

イ 引用文献3
(ア)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2008-539041号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(引3ア)
「【0012】
(好適な実施形態の説明)
図1を参照すると、本発明にしたがって構成されたケーブルは、可撓性の基板12から構成されたケーブル10を含んでおり、上記可撓性の基板上には、伝導性のインクを用いて、複数の伝導性のトレース14が引かれている。(カリフォルニア州、カルバーシティのOhmega Technologies)。一実施形態において、可撓性の基板は、Kaptonである。一実施形態において、伝導性のインクは、カーボンインクである。一実施形態において、カーボンインクは、10ohms/sqの抵抗を有する。一実施形態において、ケーブルは、10,000ohms/ftのインピーダンスを有する。
【0013】
一実施形態において、示されているケーブルは、ECGモニタと共に用いるための、6フィート長のケーブルである。そのようなケーブルは、4本のトレースを有し、ECGモニタへと信号を伝導する。ケーブルの2つの端部16,16’は、銅パッドを有する延長領域を含んでおり、上記銅パッドは、ケーブルの一端部がECG電極に接続し、他端部がECGモニタに接続することを可能にする。
【0014】
本発明は、ECGモニタケーブルの範疇で記載されてきたが、MRI場において適切なモニタを用いることにより、適切な数の伝導体を有するケーブルが、患者上のセンサに接続され得る。」

(引3イ)図1には、以下の図面が示されている。


(イ)引用文献3に記載された技術的事項
上記(ア)の記載事項及び図面を総合すると、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「 可撓性の基板上に伝導性のインクを用いて、複数の伝導性のトレース14が引かれ、伝導性のインクは、カーボンインクであり、カーボンインクは、10ohms/sqの抵抗を有する、MRI場において用いることができるECGモニタケーブル。」

ウ 引用文献5
(ア)引用文献5の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2006-509528号公報(以下、「引用文献5」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、引用文献5は、本件補正により提示することとなった文献である。

(引5ア)
「【0024】
電極の使用中に、形状づけられた導電性材料は、好ましくはイオン性ゲルと組み合わされて、皮膚との電気接触を改良する。MRI機器のそばで使用されるために開発されたイオン性ゲルは、よく知られており、この使用のために企図されている。好適なメッシュ様形態は、イオン性ゲルにより大きな表面積を提供し、したがって、より低い抵抗を可能にする。除細動電極用の材料として使用されるときに、摂氏20度で調製された材料の電気抵抗は、好ましくは1平方メートル当たり100オーム未満、より好ましくは1平方メートル当たり10オーム未満、さらにより好ましくは1平方メートル当たり5オーム未満であり、用途によってはさらにより好ましくは1平方メートル当たり2オーム未満である。心電図トリガ電極または他の心電図電極用の材料として使用されるときに、摂氏20度で調製された材料の電気抵抗は、好ましくは1平方メートル当たり1000オーム未満、より好ましくは1平方メートル当たり100オーム未満、さらにより好ましくは1平方メートル当たり10オーム未満である。心電図入力回路のインピーダンスが適切に高い他の実施の形態において、好適な電極は、1平方メートル当たり1000オームより大きい電気抵抗、または、1平方メートル当たり10,000オームより大きい電気抵抗さえ有してもよい。」

(引5イ)
「【実施例2】
【0039】
長さ7インチ幅4.25インチの2つの広い面積の長円形状の電極パッチが製造され、図1の心電図ゲーティング用に示されるように使用される。この実施例は、図面に示された任意の電極位置を使用した。しかし、本願では、他の位置も企図される。好ましくは、2つの電極は重なり合わないが、当業者によって理解されるように信号を得るために十分な距離を有する。
電極パッチの導電性材料は、99パーセントを超える有機材料を含む炭化ファブリックであり、米国特許第6,172,344号に記載されているように、1.5デニールのポリアクリルアミド繊維トウから調製される。簡単に言うと、繊維は、10時間100パーセント酸素の存在内で摂氏221度で炉内で継続して焼かれる。繊維は次いで引かれ、断面で100繊維にスピンされ、2/14重量ヤーンに撚られる。ヤーンは、16分の1インチのインターウィーブ間隔あけを有するゆるいニット繊維に織られる。ゆるいニット材料は鋏で切られ、2つの長円形状を形成する。2フィート長さの50繊維の束が、各々の終端1インチを針で縫合することによって、各長円形状に取り付けられる。取り付けられた束のリード線を備えた長円電極が、15分間100パーセント窒素の存在内で摂氏1000度で焼かれる。製品は黒であり、摂氏20度で1平方メートル当たり2から30オームの間の抵抗を有する。
【0040】
各長円導電性繊維製品が、束が長円から来る側に、絶縁ではあるが依然として剛性のプラスチック層を接着することによって、電極内に組み立てられ、出口はリード線束用に開口する。リード線取付部位とは反対側に通常の導電性ゲルが加えられ、長円が、図1に示されるように、患者に装着される。リード線は心電図モニタに電気的に接続され、心電図信号が生成される。長円電極は、通常の心電図電極のものと比較すると、MRI測定に対して有意に低い干渉を生成することがわかる。」

(引5ウ)図1には、以下の図面が示されている。


(イ)引用文献5に記載された技術的事項
上記(ア)の記載事項及び図面を総合すると、引用文献5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「 MRI測定に対して有意に低い干渉を生成する、心電図ゲーティング用に使用される長さ7インチ幅4.25インチの2つの広い面積の長円形状の電極パッチであって、
電極パッチの導電性材料は、99パーセントを超える有機材料を含む炭化ファブリックであり、摂氏20度で1平方メートル当たり2から30オームの間の抵抗を有すること」、
及び
「 MRI機器のそばで使用され、心電図トリガ電極または他の心電図電極用の材料として使用されるときに、摂氏20度で調製された材料の電気抵抗は、さらにより好ましくは1平方メートル当たり10オーム未満であること」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「電極基体9」、「電極基体9」「にプリントされた導線5」、及び、「電極基体9にプリントされた電極3」を合わせた構造体が、本件補正発明の「電極パッチ」に相当する。また、引用発明の「NMR-CTなどの磁気を応用した診断機器で用いることができる」とは、磁気共鳴環境で用いることができることを意味し、引用発明の「心電図用の皮膚電極」が、生体電位を測定するものであることは明らかである。
よって、引用発明の「NMR-CTなどの磁気を応用した診断機器で用いることができる心電図用の皮膚電極」のうちの「電極基体9」、「電極基体9」「にプリントされた導線5」、及び、「電極基体9にプリントされた電極3」を合わせた構造体が、本件補正発明の「磁気共鳴環境における生体電位測定に用いられる電極パッチ」に相当する。

イ 引用発明の「シリコンゴムでできて」いる「電極基体9」は、本件補正発明の「プラスチック又はポリマーシート」に相当する。

ウ 引用発明の「電極基体9」「にプリントされた導線5」は、「電極基体9」「の上に」、「シリコンゴム70重量%と導電性カーボンブラック30重量%から成る非金属導電性材料組成物がプリントされ」たものであるから、「電極基体9」に配置(プリント)された「シリコンゴム70重量%と導電性カーボンブラック30重量%から成る非金属導電性材料組成物」の導電性トレースであるといえる。
よって、引用発明の「電極基体9」「にプリントされた導線5」と、本件補正発明の「前記プラスチック又はポリマーシートに配置され、1ohm/square以上10ohm/square未満のシート抵抗を持つ導電性トレース」とは、「前記プラスチック又はポリマーシートに配置された導電性トレース」である点で共通する。

エ 引用発明の「電極基体9」「にプリントされた導線5と接続している」「電極3」は、「導線5」に配置(接続)されているとみることができるし、引用発明の「電極3」は、「心電図用の皮膚電極」の電極であるから、人間の皮膚に取付けられるものであることは明らかである。
よって、引用発明の「電極基体9」「にプリントされた導線5と接続している」「電極3」は、本件補正発明の「前記導電性トレースに配置され、人間の皮膚に取付けられるよう構成される電極」に相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「 磁気共鳴環境における生体電位測定に用いられる電極パッチであって、
プラスチック又はポリマーシートと、
前記プラスチック又はポリマーシートに配置された導電性トレースと、
前記導電性トレースに配置され、人間の皮膚に取付けられるよう構成される電極とを有する電極パッチ。」

(相違点)
導電性トレースが、本件補正発明では、「1ohm/square以上10ohm/square未満のシート抵抗を持つ」のに対し、引用発明では、この点につき特定されていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。

ア シート抵抗とは、一様な厚さを持つ薄い膜やフィルム状物質に対して用いる、単位面積当たりの電気抵抗を表す量であることを踏まえると、引用文献3に記載された技術的事項は、上記(2)イ(イ)に記載したとおりであることから、引用文献3には、磁気共鳴環境における生体電位測定に用いられるケーブルの導電性トレースが、10ohm/squareのシート抵抗を持つことが示されているといえる。また、引用文献5に記載された技術的事項は、上記(2)ウ(イ)に記載したとおりであることから、引用文献5には、磁気共鳴環境における生体電位測定に用いられる電極の導電性トレースが、2?30ohm/squareのシート抵抗を持つこと、好ましくは10ohm/square未満のシート抵抗を持つことが示されているといえる。

イ また、引用文献1の(引1ア)「【従来の技術】・・・このペーシングカテーテルなどの電極部は、金属でできているためNMR-CTなどの磁気を応用した診断機器の像に乱れを生じ良好な像が得られないという欠点があった。・・・【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、電極又は導線の少なくとも電極を非金属導電性材料にすることにより上記目的を達成することを見い出し、本発明を完成するに至った。」との記載によれば、引用発明は、磁気を応用した診断機器の像を良好にするために、電極又は導線を、金属材料から、一般的に金属材料より高抵抗であるといえる非金属導電性材料に変更したものと解すことができることから、実際の設計においては、どの程度の抵抗にするかを定めなければならない。
そして、引用発明の「導線5」は、「電極基体9に」「非金属導電性材料組成物」が「プリントされ」たものであり、一様な厚さを持つ薄い膜あるいはフィルム状のものといえるから、引用発明において、「導線5」をどの程度の抵抗にするかを定めるにあたり、シート抵抗を用いて規定することの動機付けは存在するといえる。

ウ そうすると、引用発明において、「電極基体9に」「非金属導電性材料組成物がプリントされ」た「導線5」を、どの程度の抵抗にするかを定めるにあたり、引用文献3及び/又は引用文献5に記載された技術的事項を参照し、「シート抵抗」を「1ohm/square以上10ohm/square未満」とすることで、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

エ そして、本願明細書において、「1ohm/square以上10ohm/square未満」という数値範囲について、「Tuccilloその他によるケーブルは、複数の導電トレースが導電性炭素インクを用いて引かれる柔軟なカプトン基板で構築される。開示された実施態様では、炭素インクは、10ohm/sqの抵抗を持つ。」(【0006】)、「例えば、いくつかの実施形態において、トレース38は、1ohm/sq又はこれより高いシート抵抗Rsを持つ。(比較により、典型的なプリント回路における銅のトレースは、約0.05ohm/sq又はこれより低いシート抵抗を持つ)。」(【0022】)と記載されているのみであり、シート抵抗を「1ohm/square以上10ohm/square未満」という数値範囲に限定したことによる当業者が予期し得ない格別顕著な効果は記載されていないことから、本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1、3及び5の記載から予測される範囲内のものにすぎない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明、並びに、引用文献3及び/又は引用文献5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
平成30年4月13日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年5月11日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

(理由2)本願発明は、引用文献1(特開平5-23399号公報)及び引用文献3(特表2008-539041号公報)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献及びその記載事項は、上記第2[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から「シート抵抗」に係る限定事項である「10ohm/square未満」を削除したものであり、「シート抵抗」が「1ohm/square又はこれより高い」としたものである。
そうすると、本願発明の「シート抵抗」が「1ohm/square又はこれより高い」ことについては、上記引用文献3の記載から当業者が容易になし得たことであり、本願発明のその余の発明特定事項については、上記第2[理由]2(3)で述べたとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-11-20 
結審通知日 2018-11-22 
審決日 2018-12-04 
出願番号 特願2015-513310(P2015-513310)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 浩司田邉 英治  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 三木 隆
▲高▼見 重雄
発明の名称 生体電位測定に関する磁気共鳴安全な電極  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 五十嵐 貴裕  

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