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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1351017 |
審判番号 | 不服2018-4237 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-03-28 |
確定日 | 2019-05-14 |
事件の表示 | 特願2016-510039「半導体基板の凹部の角部を丸める方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 1日国際公開,WO2015/146162,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2015年(平成27年)3月24日(パリ条約による優先権主張 平成26年3月24日,日本国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。 平成28年 9月20日:手続補正書 平成29年 5月16日:拒絶理由通知(起案日) 平成29年 7月12日:意見書 平成29年 7月12日:手続補正書 平成29年12月28日:拒絶査定(起案日)(以下「原査定」という。) 平成30年 3月28日:審判請求 平成30年12月18日:拒絶理由通知(起案日) 平成31年 2月18日:意見書 平成31年 2月18日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 第2 原査定の概要 原査定(平成29年12月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1,3-6に係る発明は,本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献A,Bに記載された発明に基づいて,本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,本願請求項2,7に係る発明は,本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献AないしCに記載された発明に基づいて,本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 A.国際公開第2013/042333号 B.特開2009-147118号公報 C.国際公開第2013/099063号 第3 当審拒絶理由の概要 平成30年12月18日付け拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。 1 この出願は,請求項1ないし7に係る特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 2 この出願は,請求項1ないし7に係る特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3 この出願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 4 本願請求項1,3-6に係る発明は,本願優先日前に頒布された以下の引用文献1または引用文献2に記載された発明に基づいて,本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,本願請求項2,7に係る発明は,本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1または2と,引用文献3に記載された発明に基づいて,本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2001-308029号公報 2.特開2004-152965号公報 3.国際公開第2013/099063号(拒絶査定時の引用文献C) 第4 本願発明 1 本願請求項1ないし6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である(下線は補正箇所である。)。 「【請求項1】 処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって, 分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって, 前記凹部は角部を有しており, 前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって, 前記半導体基板は,SiC基板であって, 前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって, 前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって, 前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって, 前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で, 前記半導体基板に対して前記熱処理を行うことを特徴とする半導体基板の凹部の角部を丸める方法。」 2 なお,本願発明2ないし6の概要は以下のとおりである。 (1)本願発明2ないし4は,本願発明1を減縮した発明である。 (2)本願発明5,6は,それぞれ本願発明1,2に対応する装置の発明であり,本願発明1,2とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。 第5 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について (1)引用文献1の記載 当審拒絶理由に引用された引用文献1(特開2001-308029号公報,平成13年11月2日出願公開)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下,同じ。)。 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,ULSIに代表される半導体の製造工程における配線膜の形成と平滑化に関するものであり,特に,物理蒸着法(PVD法),化学気相蒸着法(CVD法),と電解メッキ法を組合わせて配線材料被膜を形成する方法に関するものであって,より具体的にはこれら金属配線膜の下層である高融点金属又は,高融点金属の窒化物・炭化物からなるバリア膜層との密着性を改善する方法に関するものである。 <<途中省略>> 【0004】 【発明が解決しようとする課題】ところで,電極層の厚さと形成方法は非常に重要で,必要十分な厚さでかつ一様に設けられ,絶縁膜に耐して十分な密着性をもっていることが好ましいが,実際にはそのような形で電極層を形成することは困難なことが多い。また,実際に電解メッキ法による成膜を行うと,被処理物であるウェーハを電解メッキ浴に浸漬した時点で,電極層の一部が溶出して消滅するという現象が生じることが多い。特に,孔や溝の側面部に付着した電極層は極めて薄くなっており,容易に消失される。特に,CVD法によりこの電極層を形成した場合,密着性が弱くて少し消失すると全体が剥離を生じてしまうという問題を持っている。」 「【0009】 【発明の実施の形態】以下,図を参照しつつ,本発明の作用について説明する。図1に,本発明で対象としている細くて深い穴に電解メッキ法により銅配線膜を形成した場合の断面形状を模式的に示す。図1において,Si基板で例示する半導体の基板1には,孔・溝2Aを形成した絶縁膜2を有し,この絶縁膜2上にバリア膜層3を介して電極層(シード層)4を備え,このシード層4の表面に金属材料が被覆され,この被覆層5の材料が孔・溝2Aに充填されている。 【0010】本例では,絶縁膜2と銅配線膜5の反応・拡散防止のためのバリア膜層3及び銅電極層4は,PVD法で形成したものを示した。バリア膜層3の材料として最も代表的なものはTaNで,Taをターゲットとして,窒素雰囲気下でアルゴン雰囲気でスパッタリング法によりTaN膜として成膜するのが最も一般的である。一方,銅電極(シード)層4は,銅をターゲットとして通常のアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行う。このスパッタリング法の場合,上述の説明から明らかなように,孔の寸法が直径が小さくて深いような場合,成膜される材料の原子がターゲットから直線的に飛び出してきて基材に衝突して付着していくが,孔の側面や穴の底部では,斜めの方向から飛来してきた原子の付着が少なくなり,側面の底部近傍で最も膜厚が薄くなる。孔の底について孔の深さと直径の比(Aspect Ratio:アスペクトレシオ)が4くらいになると,底部での膜厚は,上表面の30%程度とされている。 <<途中省略>> 【0012】このように,メッキ成膜処理の初期工程でのSiウェーハの浸漬には,多くのノウハウが必要である。前述のように電極層4の薄い部分が消失していく場合,これに伴い,十分な厚さのある部分でも剥離を生じることが多く,特に,CVD法で銅電極層を形成した場合,銅電極層とバリア膜層との密着性は極めて悪く,容易にこのような状態となる。本発明では,この電極形成後,図2に示したような状態で,高温高圧ガス雰囲気下で熱処理を施して,電極層4と下のバリア膜層3との密着性を向上させるものである。この処理を行うことにより,電極層4そのものの密度が向上されて溶出しにくくなるとともに,下のバリア膜層3との密着性が向上されるので,電解メッキによる銅層が均一に形成され,電極層4を含めた銅の層全体のバリア膜層3への密着性が確保される。 <<途中省略>> 【0014】なお,上記において高温高圧ガス雰囲気下で熱処理を行う温度と圧力は,銅の場合,温度は250?450℃,圧力は50?200MPa,保持時間1?120分程度である。圧力については,高いほど良い傾向にあるが,500MPaのように高くなると,絶縁膜と胴との圧縮特性の違いにより減圧後に大きな残留応力が残りメッキ後のアニール処理時に銅配線膜が変形を生じたりするという技術的な問題があるほか,高圧装置自体が非常に高価となるため,経済的な理由から使用困難となる。温度については,250℃未満では効果が少なく,450℃以上の高温では絶縁膜材料が有機系の場合には熱分解を生じて変質する問題がある。 【0015】一方,白金やルテニウムの場合,温度は500?800℃,圧力は50?200MPa,保持時間1?120分程度である。温度の上限の800℃はSi基板上に形成されたトランジスタ等の素子の耐熱性の限界によるものである。圧力については,銅の場合と同じ理由により範囲が決まる。」 「【0016】 【実施例】以下に,実施例を参照しつつ,本発明を更に詳細に説明する。表1は,配線膜材料にCu,Pt(白金),Ru(ルテニウム)を用いて,直径200mmのSiウェーハに形成されたコンタクトホールもしくは更にダマシン法による配線溝の上にスパッタリング法により電極層を形成した後,高圧ガス雰囲気下において高温で熱処理を行い,その後,電解メッキ法によりそれぞれCu,Pt,Ru膜を形成した結果を,高圧ガス雰囲気処理をして電解メッキしたものと比較しつつ示したものである。 <<途中省略>> 【0018】バリア膜層及び電極層の成膜にはスパッタリング装置を用い,バリア膜層成膜後はそのままSiウェーハを真空中で搬送して電極層成膜を行っている。高圧処理時のガスには,この種の処理で用いられているアルゴンを,装置には,最高圧力200MPa,最高処理温度1000℃のHIP装置を用いた。なお,室温400MPaでの処理には水圧を利用する最高圧力500MPaの装置を用いた。」 (2)引用発明1 上記(1)の記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「高温高圧ガス雰囲気下で熱処理を施して,電極層4と下のバリア膜層3との密着性を向上させる方法であって, Si基板で例示する半導体の基板1には,孔・溝2Aを形成した絶縁膜2を有し,この絶縁膜2上にバリア膜層3を介して電極層(シード層)4を備え,このシード層4の表面に金属材料が被覆され,この被覆層5の材料が孔・溝2Aに充填されており, 高温高圧ガス雰囲気下で熱処理を行う温度と圧力は,銅の場合,温度は250?450℃,圧力は50?200MPa,保持時間1?120分程度であり, 白金やルテニウムの場合,温度は500?800℃,圧力は50?200MPa,保持時間1?120分程度であり, 高圧処理時のガスには,この種の処理で用いられているアルゴンを,装置には,最高圧力200MPa,最高処理温度1000℃のHIP装置を用いる, 熱処理を施す方法。」 2 引用文献2について (1)引用文献2の記載 当審拒絶理由に引用された引用文献2(特開2004-152965号公報,平成16年5月27日出願公開)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,半導体装置の製造方法および半導体装置に関し,特にキャリア輸送領域が浅い半導体装置の製造方法および半導体装置に関する。 <<途中省略>> 【0011】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は,シリコン基板表面のマイクロラフネスを減少させる技術を提供することである。」 「【0016】 【発明の実施の形態】 以下,図面を参照して本発明の実施例を説明する。 図1は,本発明の実施例による半導体装置の製造方法の主要工程を示すフローチャートである。図2?5の断面図を参照しながら,半導体装置の製造方法を説明する。まず,ステップS1において,シリコン基板の表面に初期酸化を行ない,続いて窒化シリコン膜のマスク層を形成する。 <<途中省略>> 【0028】 図1において,活性領域表面を露出した後,ゲート酸化前に,ステップS6,S7の水素アニール及び不活性ガスアニールを行う。 図4(H)は,水素アニールを示す。例えば150torr以下の水素雰囲気中で,シリコン基板1を900℃?1050℃に加熱し,60秒以下の有限時間のアニールを行う。薬液処理によりシリコン基板1表面に形成された自然酸化膜は,この水素アニールによりエッチングされて除去される。シリコン基板1表面には,結晶面のテラスとステップの形状が表出されると考えられる。 【0029】 図4(I)は,水素アニールに続く不活性ガスアニールを示す。例えば,常圧又は減圧状態のHe雰囲気中でシリコン基板1を500℃?1050℃で60秒以下の有限時間アニールする。この不活性ガスアニールにより,シリコン基板1表面でシリコン原子のマイグレーションが生じ,テラス上の分離したシリコン原子等をテラス端部等にマイグレーションさせ,マイクロラフネスを減少させると考えられる。局所的なアイランド状の領域が減少し,表面の平坦性が向上し,平均的テラス長が増大する。 【0030】 不活性ガスアニールは,He雰囲気の他,Ar等他の不活性ガス雰囲気で行ってもよい。減圧,常圧の他加圧雰囲気で行なってもよい。なお,不活性ガスアニールは必ずしも必須工程ではなく,省略してもよい。」 また,引用文献2の図4(I)から,シリコン基板表面に酸化シリコン膜9とウェル10とで構成された凹部が見て取れる。 (2)引用発明2 上記(1)の記載から,引用文献2には,次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「水素アニールに続く不活性ガスアニールであって, 例えば,常圧又は減圧状態のHe雰囲気中でシリコン基板1を500℃?1050℃で60秒以下の有限時間アニールすること, ここで,シリコン基板表面に酸化シリコン膜9とウェル10とで構成された凹部を有し,不活性ガスアニールは,He雰囲気の他,Ar等他の不活性ガス雰囲気で行ってもよい, 不活性ガスアニール。」 3 引用文献Aについて (1)引用文献Aの記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献A(国際公開第2013/042333号,2013年3月28日国際公開)には,図面とともに以下の記載がある。 「技術分野 [0001] 本願は,SiCを用いた半導体素子及びその製造方法に関する。特に,高耐圧,大電流用に使用される,炭化珪素半導体素子(パワー半導体デバイス)に関する。 <<途中省略>> [0018] しかしながら,トレンチゲート構造のMISFET1000には,次のような問題が生じ得る。トレンチ5の内部のダメージや汚染などによりトレンチ5の内壁に形成したゲート絶縁膜6の信頼性が低下する可能性がある。また,トレンチ5の開口部におけるコーナー部5Aやトレンチ5の底部におけるコーナー部5Bに電界集中が生じやすいために,デバイス耐圧の低下を引き起こしたりする可能性がある。 [0019] このような問題に対し,ドライエッチングにより炭化珪素層にトレンチを形成した後,熱処理を行うことにより,トレンチ5のコーナー部を平滑化およびラウンド化する方法(例えば,特許文献1参照)が提案されている。「ラウンド化」とは,コーナー部(角部やエッジ部)を丸みを帯びた形状にすることをいう。また,トレンチ底部の耐圧をさらに確保するために,トレンチ底部へSiO_(2)膜の埋め込む方法も提案されている(例えば,特許文献2参照)。 <<途中省略>> 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0021] 特許文献1および2に提案された方法では,トレンチの内壁の平滑化,トレンチのコーナー部のラウンド化,あるいは,トレンチ底部へのSiO_(2)膜の埋め込み等によって,トレンチのコーナー部およびトレンチ底部への電界集中を緩和でき,ゲート絶縁膜の信頼性を高めることが可能である。しかしながら,本発明者が検討したところ,上述した従来技術では,半導体素子の耐圧低下を十分に抑制できない場合があることが分かった。詳細は後述する。従って,トレンチゲート構造を有する半導体素子のさらなる耐圧の向上が求められていた。 [0022] 本願の,限定的ではない例示的なある実施形態は,ゲート電極の幅を確保しつつ,ゲート耐圧を高めることの可能なトレンチゲート構造を有する炭化珪素半導体素子を提供する。 <<途中省略>> 発明の効果 [0024] 本発明の一態様にかかる炭化珪素半導体素子は,(0001)Si面に配置されたトレンチを備え,トレンチは,側壁の上方に,Si面ともトレンチの側壁を構成する面とも異なる面から構成された上部コーナー領域を有している。このため,上部コーナー領域上におけるゲート絶縁膜の厚さを,炭化珪素層上面(Si面)上におけるゲート絶縁膜の厚さよりも大きくできる。さらに,ゲート電極の端部が上部コーナー領域上に位置しているので,ゲート電極がゲート絶縁膜とSi面上で接することを抑制できる。従って,炭化珪素層の上面,および,トレンチの側壁上部のコーナー部に生じる電界集中を緩和することができ,従来よりも高いゲート耐圧を確保できる。」 「[0045] (実施の形態1) 図1を参照しながら,本実施形態の炭化珪素半導体素子の構造を具体的に説明する。本実施形態の炭化珪素半導体素子は,トレンチゲート構造を有する炭化珪素MISFETである。 <<途中省略>> [0057] 次に,図2を参照しながら,本実施形態の半導体素子の製造方法を具体的に説明する。図2は,本発明の実施の形態1の炭化珪素半導体素子の製造方法を説明するための工程断面図である。 [0058] まず,図2(a)に示すように,ドリフト領域2d,ボディ領域3およびソース領域4を有する炭化珪素層2が表面に形成された炭化珪素基板1を用意する。この炭化珪素層2に,トレンチ5を形成する。 <<途中省略>> [0063] 次に,図2(b)に示すように,トレンチ5の開口部におけるコーナー部に上部コーナー領域51を形成する。ここでは,丸みを帯びたラウンド領域を形成する。 [0064] 具体的には,炭化珪素層2が形成された炭化珪素基板1を,例えばアルゴンガス(Ar)雰囲気中において,例えば1530℃,200mbarの条件でアニール処理を実施する。アニール処理の時間は例えば10分間とする。このアニール処理によって,SiCの表面拡散の現象が生じ,トレンチ5の開口部コーナーがラウンド化し,上部コーナー領域51が得られる。上部コーナー領域51の曲率半径は例えば0.5μm程度である。このアニール処理によって,RIE法によってトレンチ表面に導入された結晶ダメージの除去やトレンチ底部のコーナーに発生するサブトレンチについても除去することができる。さらに,トレンチ底部のコーナー部5Bも,アニール処理によってラウンド化される。 [0065] なお,アニール処理条件については,上記に限定されない。ガス雰囲気はアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気,水素雰囲気,塩素系ガス雰囲気,またはそれらの混合ガス雰囲気を使用することができる。例えばアルゴン不活性ガス雰囲気を用いる。アニール温度も特に限定しないが,例えば1500℃以上1600℃以下であることが好ましい。1500℃以上であれば,1時間以下の短時間でトレンチ5のコーナー部にラウンド領域を形成でき,かつ,1600℃以下であれば炭化珪素層2の表面にステップバンチングやSi抜けなどの著しい表面荒れが発生することを抑制することができる。なお,トレンチ深さとトレンチ幅がデバイス設計上の許容範囲を保つことなどを考慮して,アニール処理条件を適宜調整してもよい。」 (2)引用発明A 上記(1)の記載から,引用文献Aには,次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されているものと認められる。 「トレンチ5の開口部におけるコーナー部に上部コーナー領域51,ここでは,丸みを帯びたラウンド領域を形成することであって, 具体的には,炭化珪素層2が形成された炭化珪素基板1を,例えばアルゴンガス(Ar)雰囲気中において,例えば1530℃,200mbarの条件でアニール処理を実施し,ここでアニール処理の時間は例えば10分間とし,このアニール処理によって,SiCの表面拡散の現象が生じ,トレンチ5の開口部コーナーがラウンド化し,上部コーナー領域51が得られること, さらに,トレンチ底部のコーナー部5Bも,アニール処理によってラウンド化されること, ここでアニール処理条件については,上記に限定されず,ガス雰囲気はアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気,水素雰囲気,塩素系ガス雰囲気,またはそれらの混合ガス雰囲気を使用することができ,例えばアルゴン不活性ガス雰囲気を用いること, アニール温度も特に限定しないが,例えば1500℃以上1600℃以下であることが好ましい, アニール処理を実施することによるトレンチ5の開口部コーナーとトレンチ底部のコーナー部5Bとをラウンド化する方法。」 4 その他の引用文献について (1)引用文献3(引用文献C)について 当審拒絶理由に引用された引用文献3(拒絶査定に引用された引用文献C)(国際公開第2013/099063号,2013年7月4日国際公開)には,図面とともに以下の記載がある。 「[0015] 図1?図3にそれぞれ示されるように,本実施形態に係る基板熱処理装置は,基板ホルダユニットAと,加熱ユニットBと,シャッタ装置Cとを真空チャンバD内に設けたものとなっている。 [0016] 基板ホルダユニットAは,最上段に基板ステージ1を備えている。加熱ユニットBは,基板ステージ1の上方に配置され,基板を載置可能な載置部62(第2の基板載置部)と対向する位置に放熱面2を備えている。加熱ユニットBは,載置部62(第2の基板載置部)に載置された基板3を放熱面2からの熱で加熱する。 [0017] 基板ホルダユニットAは,昇降装置Eにより昇降可能なもので,基板ステージ1と加熱ユニットBの放熱面2との近接と離間は,昇降装置Eの動作により制御することが可能である。昇降装置E(移動部)は,載置部62(第2の基板載置部)が放熱面2に対して所定の離間位置になるよう,基板ステージ1を移動させる。載置部62に基板3が載置されている場合,基板3の厚さを考慮して,基板3の表面と放熱面2との間の離間位置が昇降装置Eの動作により制御される。加熱ユニットBは,基板ホルダユニットAが図2に示されるように上昇し,基板ステージ1上の基板3と放熱面2が近接された時に,基板3と非接触状態で,放熱面2からの輻射熱で基板3を加熱するものとなっている。」 (2)引用文献Bについて 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献B(特開2009-147118号公報,平成21年7月2日出願公開)には,図面とともに以下の記載がある。 「【0026】 また,隣接する炭素粒子2と炭化珪素半導体基板1との間には,図7に示されているように,微細な空隙が形成されている。アルゴンガスなどのガス雰囲気中では固体-固体および固体-気体-固体の2つの熱伝導機構により,加熱された炭素粒子2から炭化珪素半導体基板1へと熱が伝達される。この空隙も粒子径が小さくなればなるほどに,その隙間が小さくなり,気体中の熱伝達性能が向上し,より早く加熱処理を終えることに役立つ。」 「【0032】 また,本実施の形態では,サセプタ13には,上記の通り2段の掘り込み131が形成されている。そして,下段の掘り込みの上部を閉蓋するように,上段の掘り込みの底部に炭化珪素半導体基板1が載置されている。したがって,炭化珪素半導体基板1が下段の埋め込みの蓋の役目を果たし,当該下段の埋め込みと当該基板1とにより,準密閉空間が形成される。これにより,デバイス形成面5から昇華した珪素原子や炭素原子を,当該準密閉空間に閉じ込めることができる。つまり,当該準密閉空間において珪素原子等の昇華を飽和状態にすることができる。このように,昇華が飽和状態となるとデバイス形成面5からの昇華は起こらなくなる。以上により,炭化珪素半導体基板1が下段の埋め込みの蓋の役目を果たすことにより,デバイス形成面からの昇華を抑制することができる。つまり,複雑や困難性を有する工程を踏まえずに,また外力等も与えないので炭化珪素半導体基板1のデバイス形成面5に損傷を与えること無く,当該昇華抑制機能を発揮できる。なお当該昇華が抑制されると,デバイス形成面の表面状態が変化することを抑制できる。ここで,準密閉空間の体積を小さくすれば,より早い時期に昇華が飽和状態となるので,より昇華の抑制効果が発揮される。」 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)引用文献1を主引例とした対比・判断 ア 対比 本願発明1(上記第4の1)と,引用発明1(上記第5の1(2))とを対比すると,以下のとおりとなる。 (ア)引用発明1の「Si基板」は本願発明1の「半導体基板は,SiC基板であ」ることと,「半導体基板」である点で共通する。 (イ)引用発明1の「孔・溝2A」は本願発明1の「半導体基板に形成された」「角部を有」する「凹部」に相当する。 (ウ)引用発明1の「高圧処理時のガス」としての「アルゴン」は本願発明1の「不活性ガス」に相当するので,引用発明1の「高温高圧ガス雰囲気下」は,本願発明1の「分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態」と,「不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を」覆った「状態」という点で共通する。 (エ)引用発明1の「高温高圧ガス雰囲気下で熱処理を行う」ことは本願発明1の「前記半導体基板に対して前記熱処理を行うこと」に相当する。 (オ)上記(ア)ないし(エ)より,引用発明1の「HIP装置を用いる熱処理を施す方法」は,本願発明1の「半導体基板の凹部の角部を丸める方法」と,「半導体基板」に熱処理を行う方法であるという点で共通する。 したがって,本願発明1と,引用発明1とは,以下の点で一致し,相違する。 <一致点> 「不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を覆った状態であって, 前記凹部は角部を有しており, 半導体基板に対して熱処理を行うことを特徴とする方法。」 <相違点> ・相違点1:本願発明1においては,「半導体基板は,SiC基板であ」るという前提において「半導体基板の凹部の角部を丸める」ために,「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって,前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で」熱処理を行っているのに対して,引用発明1においては,Si基板を熱処理の対象とし,その高温高圧ガス雰囲気下で熱処理を行う温度と圧力は,銅の場合,温度は250?450℃,圧力は50?200MPa,白金やルテニウムの場合,温度は500?800℃,圧力は50?200MPaであり,高圧処理時のガスには,この種の処理で用いられているアルゴンを,装置には,最高圧力200MPa,最高処理温度1000℃のHIP装置を用いて熱処理を施しており,その熱処理の態様が異なる点。 イ 相違点についての判断 上記相違点について,判断する。 ・相違点1について (ア)引用文献1においては,「高温高圧ガス雰囲気下で熱処理を施して,電極層4と下のバリア膜層3との密着性を向上させる」(【0012】)ことを目的としている。 (イ)そして,引用発明1においては,上記(ア)の課題を解決するために,「高温高圧ガス雰囲気下で熱処理を行う温度と圧力は,銅の場合,温度は250?450℃,圧力は50?200MPa,保持時間1?120分程度であり,白金やルテニウムの場合,温度は500?800℃,圧力は50?200MPa,保持時間1?120分程度」という熱処理プロファイルを採用しているものと認められる。 (ウ)してみれば,本願発明1のような「半導体基板は,SiC基板であ」るという前提において「半導体基板の凹部の角部を丸める」ために採用される熱処理の態様とは,その目的を異にするものであり,本願発明1のような「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって,前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で」熱処理を施す態様を直ちに想起することはできない。 また,引用文献2,3や,引用文献A,Bの記載を検討しても,上記技術的事項が周知な設計変更とも認められない。 (エ)してみれば,引用発明1において,本願発明1のように「半導体基板は,SiC基板であ」るという前提において「半導体基板の凹部の角部を丸める」ために,「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって,前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で」熱処理を行うことは,当業者が容易になし得たこととはいえない。 (オ)そして,本願発明1は,上記相違点1に係る構成を備えることによって,本願の発明の詳細な説明に記載された,「このように半導体基板3と基板対向面2とを近接させた状態で熱処理を行うことによって,Si原子の脱離を最小限に抑えることができ,処理前のトレンチの開口幅を大幅に広げることなく,トレンチの開口部及び底部の角張った角部を丸くすることができる。」という利点(本願明細書段落【0081】)を有するという顕著な効果を奏するものと認められる。 したがって,本願発明1は,引用発明1,引用文献2,3,A,Bに記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (2)引用文献2を主引例とした対比・判断 ア 対比 本願発明1(上記第4の1)と,引用発明2(上記第5の2(2))とを対比すると,以下のとおりとなる。 (ア)引用発明2の「シリコン基板1」は本願発明1の「半導体基板は,SiC基板であ」ることと,「半導体基板」である点で共通する。 (イ)引用発明2の「シリコン基板表面に酸化シリコン膜9とウェル10とで構成された凹部」は本願発明1の「半導体基板に形成された」「角部を有」する「凹部」に相当する。 (ウ)引用発明2の「不活性ガス」は本願発明1の「不活性ガス」に相当するので,引用発明2の「常圧又は減圧状態のHe雰囲気中」は,本願発明1の「分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態」と,「不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を」覆った「状態」という点で共通する。 (エ)引用発明2の「常圧又は減圧状態のHe雰囲気中でシリコン基板1を500℃?1050℃で60秒以下の有限時間アニールすること」は本願発明1の「前記半導体基板に対して前記熱処理を行うこと」に相当する。 (オ)上記(ア)ないし(エ)より,引用発明2の「不活性ガスアニール」は,本願発明1の「半導体基板の凹部の角部を丸める方法」と,「半導体基板」に熱処理を行う方法であるという点で共通する。 したがって,本願発明1と,引用発明2とは,以下の点で一致し,相違する。 <一致点> 「不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を覆った状態であって, 前記凹部は角部を有しており, 半導体基板に対して熱処理を行うことを特徴とする方法。」 <相違点> ・相違点2:本願発明1においては,「半導体基板は,SiC基板であ」るという前提において「半導体基板の凹部の角部を丸める」ために,「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって,前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で」熱処理を行っているのに対して,引用発明2においては,シリコン基板を熱処理の対象とし,常圧又は減圧状態のHe雰囲気,その他Ar等他の不活性ガス雰囲気中でシリコン基板を500℃?1050℃で60秒以下の有限時間アニールしており,その熱処理の態様が異なる点。 イ 相違点についての判断 上記相違点について,判断する。 ・相違点2について (ア)引用文献2においては,「シリコン基板表面のマイクロラフネスを減少させる技術を提供すること」(【0011】)を目的としている。 (イ)そして,引用発明2においては,上記(ア)の課題を解決するために,「常圧又は減圧状態のHe雰囲気中でシリコン基板1を500℃?1050℃で60秒以下の有限時間アニールする」という熱処理プロファイルを採用しているものと認められる。 (ウ)してみれば,本願発明1のような「半導体基板は,SiC基板であ」るという前提において「半導体基板の凹部の角部を丸める」ために採用される熱処理の態様とは,その目的を異にするものであり,本願発明1のような「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって,前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で」熱処理を施す態様を直ちに想起することはできない。 また,引用文献1,3や,引用文献A,Bの記載を検討しても,上記技術的事項が周知な設計変更とも認められない。 (エ)してみれば,引用発明2において,本願発明1のように「半導体基板は,SiC基板であ」るという前提において「半導体基板の凹部の角部を丸める」ために,「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって,前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で」熱処理を行うことは,当業者が容易になし得たこととはいえない。 (オ)そして,本願発明1は,上記相違点2に係る構成を備えることによって,上記(1)イ(オ)にて説示した顕著な効果を奏するものと認められる。 したがって,本願発明1は,引用発明2,引用文献1,3,A,Bに記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (3)引用文献Aを主引例とした対比・判断 ア 対比 本願発明1(上記第4の1)と,引用発明A(上記第5の3(2))とを対比すると,以下のとおりとなる。 (ア)引用発明Aの「炭化珪素基板1」は本願発明1の「半導体基板は,SiC基板であ」ることに相当する。 (イ)引用発明Aの「開口部におけるコーナー部」と「底部のコーナー部5B」とを有する「トレンチ5」は本願発明1の「半導体基板に形成された」「角部を有」する「凹部」に相当する。 (ウ)引用発明Aの「アルゴンガス(Ar)」は本願発明1の「不活性ガス」に相当するので,引用発明Aの「アルゴンガス(Ar)雰囲気中」は,本願発明1の「分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態」と,「不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を」覆った「状態」という点で共通する。 (エ)引用発明Aでは「アルゴンガス(Ar)雰囲気中において,例えば1530℃,200mbarの条件でアニール処理を実施」するので,引用発明Aの「炭化珪素基板1」の「アニール処理を実施」するときの温度は「1530℃」であり,本願発明1の「前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって」を満たす。 (オ)引用発明Aの「アルゴンガス(Ar)雰囲気中において,例えば1530℃,200mbarの条件でアニール処理を実施」することは本願発明1の「前記半導体基板に対して前記熱処理を行うこと」に相当する。 (カ)上記(ア)ないし(オ)より,引用発明Aの「アニール処理を実施することによるトレンチ5の開口部コーナーとトレンチ底部のコーナー部5Bとをラウンド化する方法」は,本願発明1の「半導体基板の凹部の角部を丸める方法」に相当する。 したがって,本願発明1と,引用発明Aとは,以下の点で一致し,相違する。 <一致点> 「不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を覆った状態であって, 前記凹部は角部を有しており, 前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって, 前記半導体基板は,SiC基板であって, 前記半導体基板に対して前記熱処理を行うことを特徴とする半導体基板の凹部の角部を丸める方法。」 <相違点> ・相違点3:本願発明1においては,「半導体基板の凹部の角部を丸める」ために,「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって,前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で」熱処理を行っているのに対して,引用発明Aにおいては,炭化珪素基板1を,例えばアルゴンガス(Ar)雰囲気中において,例えば1530℃,200mbarの条件でアニール処理を実施し,ここでアニール処理の時間は例えば10分間アニール処理をしており,その熱処理の態様が異なる点。 イ 相違点についての判断 上記相違点について,判断する。 ・相違点3について (ア)引用文献Aにおいては,「トレンチ5の開口部におけるコーナー部に上部コーナー領域51を形成する。ここでは,丸みを帯びたラウンド領域を形成する」(段落[0063])ことを目的としたアニール処理の条件につき,「なお,アニール処理条件については,上記に限定されない。ガス雰囲気はアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気,水素雰囲気,塩素系ガス雰囲気,またはそれらの混合ガス雰囲気を使用することができる。例えばアルゴン不活性ガス雰囲気を用いる。アニール温度も特に限定しないが,例えば1500℃以上1600℃以下であることが好ましい。1500℃以上であれば,1時間以下の短時間でトレンチ5のコーナー部にラウンド領域を形成でき,かつ,1600℃以下であれば炭化珪素層2の表面にステップバンチングやSi抜けなどの著しい表面荒れが発生することを抑制することができる。なお,トレンチ深さとトレンチ幅がデバイス設計上の許容範囲を保つことなどを考慮して,アニール処理条件を適宜調整してもよい。」(段落[0065])と記載され,「トレンチ深さとトレンチ幅がデバイス設計上の許容範囲を保つことなどを考慮して,アニール処理条件を適宜調整」できること,具体的には,ガス雰囲気やアニール温度,時間等を適宜調製できることが示唆されている。 (イ)しかしながら,本願発明1のように「半導体基板の凹部の角部を丸める」ために,「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって,前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で」熱処理を行うことは記載されていない。 また,引用文献1ないし3や,引用文献Bの記載を検討しても,上記技術的事項が周知な設計変更とも認められない。 (ウ)してみれば,引用発明Aにおいて,本願発明1のように「半導体基板の凹部の角部を丸める」ために,「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって,前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で」熱処理を行うことは,当業者が容易になし得たこととはいえない。 (エ)そして,本願発明1は,上記相違点3に係る構成を備えることによって,上記(1)イ(オ)にて説示した顕著な効果を奏するものと認められる。 したがって,本願発明1は,引用発明A,引用文献1ないし3,Bに記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2ないし6について 本願の請求項2ないし4は直接に請求項1を引用するものであり(上記第4の2(1)),本願発明5,6は,それぞれ本願発明1,2に対応する装置の発明であり,本願の請求項1,2とカテゴリ表現が異なるだけであり(上記第4の2(2)),本願発明1の発明特定事項に対応する構成を全て含むから,本願発明2ないし6もまた,本願発明1と同じ理由により,引用発明1,引用文献2,3,A,Bに記載された技術的事項に基づいて,または,引用発明2,引用文献1,3,A,Bに記載された技術的事項に基づいて,または,引用発明A,引用文献1ないし3,Bに記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 第7 当審拒絶理由について 1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 当審では,当審拒絶理由において特許請求の範囲の請求項1ないし7の記載が,明細書のサポート要件に適合しない旨の拒絶の理由を通知しているが,本件補正により,「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記凹部は角部を有しており,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって,前記半導体基板は,SiC基板であって,前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で,前記半導体基板に対して前記熱処理を行うことを特徴とする半導体基板の凹部の角部を丸める方法。」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 2 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について 当審では,当審拒絶理由においてこの出願は,請求項1ないし7に係る特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨の拒絶の理由を通知しているが,本件補正により,「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記凹部は角部を有しており,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって」,「前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で,前記半導体基板に対して前記熱処理を行う」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について この出願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨の拒絶の理由を通知しているが,本件補正により,「処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって,分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって,前記凹部は角部を有しており,前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって,前記半導体基板は,SiC基板であって,前記封止した状態は,前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず,かつ,排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって,前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって,前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって,前記近接した状態は,1?25mmの距離範囲である,状態で,前記半導体基板に対して前記熱処理を行うことを特徴とする半導体基板の凹部の角部を丸める方法。」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 4 本願発明1,3-6は,上記引用文献1または2に記載された発明に基づいて,本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり,本願発明2,7は,上記引用文献1または2と,引用文献3に記載された発明に基づいて,本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである旨の拒絶の理由を通知しているが,本件補正により,この拒絶の理由は解消した。 第8 原査定についての判断 原査定は,請求項1,3-6について上記引用文献A,Bに記載された発明に基づいて,請求項2,7について上記引用文献AないしCに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら,本件補正後の請求項1ないし6はそれぞれ,上記第6の1(3)にて検討したように,引用文献Aに記載された発明および,引用文献1,2,3(C),Bに記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえないものであるので,本願発明1ないし6は,上記引用文献AないしCに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであったとは認められない。 したがって,原査定を維持することはできない。 第9 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-04-24 |
出願番号 | 特願2016-510039(P2016-510039) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L) P 1 8・ 121- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 河合 俊英 |
特許庁審判長 |
加藤 浩一 |
特許庁審判官 |
鈴木 和樹 恩田 春香 |
発明の名称 | 半導体基板の凹部の角部を丸める方法及び装置 |
代理人 | 岡部 讓 |
代理人 | 吉澤 弘司 |
代理人 | 岡部 洋 |
代理人 | 三村 治彦 |