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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A62B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A62B
管理番号 1351133
審判番号 不服2018-4318  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-30 
確定日 2019-05-21 
事件の表示 特願2014-20096「巻取式墜落防止器を用いた墜落防止工法とそれに使用するハーネス型安全帯」拒絶査定不服審判事件〔平成27年8月20日出願公開、特開2015-146852、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年2月5日の出願であって、平成29年7月19日付けで拒絶理由が通知され、同年8月10日に期間延長が請求され、同年11月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年1月12日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。発送日:同年1月16日)がされ、これに対し、同年3月30日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成31年1月31日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年2月8日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

1(新規性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

・請求項4
・引用文献1

2(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1?3
・引用文献1?3

・請求項5、6
・引用文献1

引用文献1 米国特許第4877110号明細書
引用文献2 実公平5-29724号公報
引用文献3 特開平8-332241号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



1 請求項1において、「接続され」ること、「連結され」ること、及び「仮固定され」ることの違いが不明瞭である。

2 請求項4において、「固定あるいは着脱可能に接続され」ること及び「仮固定され」ることの違いが不明瞭である。

第4 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は、平成31年2月8日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
電柱などに昇降するとき、作業者の落下を防止する墜落防止工法であって、
長尺の細幅織りベルトから成るストラップが渦巻バネの付勢により常時巻き取られ、当該ストラップが急激に引き出された際には遠心爪がロックして当該ストラップの引き出しを停止する構造の巻取式墜落防止器において、鉤部を有する掛止用フックが当該ストラップの端部と接続されており、
前記巻取式墜落防止器が、ハーネス型安全帯を構成する肩掛けベルト部に、当該巻取式墜落防止器のストラップ引出し口を上方に向けて配置されて接続されており、
前記巻取式墜落防止器と前記肩掛けベルト部との接続が、前記ストラップ引出し口と対峙する前記巻取式墜落防止器の本体の下方に位置する連結部を介して前記巻取式墜落防止器が前記肩掛けベルト部に連結されることでされており、
前記連結部が前記巻取式墜落防止器の本体の下向きの面から下方に延びており、
前記巻取式墜落防止器が前記ストラップに張力が加わっていないときに自重でひっくり返らないように前記巻取式墜落防止器が前記肩掛けベルト部に固定されており、
前記掛止用フックと接続した伸縮棹を地上より延伸して、前記掛止用フックの鉤部を上部の被掛止物に掛止することにより、
前記ストラップを巻き込みながら上昇するとき、あるいは前記ストラップを引き出しながら下降するときに、前記ハーネス型安全帯と被掛止物との連結状態が常に保持されていることを特徴とする巻取式墜落防止器を用いた墜落防止工法。
【請求項2】
前記連結部が、前記肩掛けベルト部の人体背中部または人体胸前部に設けたリングと、前記巻取式墜落防止器が備えた固定金具あるいは接続用フックとによって構成され、前記巻取式墜落防止器が前記肩掛けベルト部に固定あるいは着脱可能に接続されることを特徴とする請求項1に記載の巻取式墜落防止器を用いた墜落防止工法。
【請求項3】
前記連結部が、前記肩掛けベルト部の人体背中部または人体胸前部に設けた接続用フックと、前記巻取式墜落防止器が備えたリングとによって構成され、前記巻取式墜落防止器が前記肩掛けベルト部に着脱可能に接続されることを特徴とする請求項1に記載の巻取式墜落防止器を用いた墜落防止工法。
【請求項4】
前記掛止用フックの端部が前記伸縮棹の先端部と連結されており、
前記伸縮棹を地上より延伸して、前記掛止用フックの鉤部を被掛止物に掛止することにより、
前記ストラップを巻き込みながら上昇するとき、あるいは前記ストラップを引き出しながら下降するときに、前記ハーネス型安全帯と被掛止物との連結状態が常に保持されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の巻取式墜落防止器を用いた墜落防止工法。
【請求項5】
前記掛止用フックが、鉤部と環状体とを有しており、
伸縮棹がその先端に鈎状具を備えており、
前記掛止用フックの環状体を当該鈎状具に掛け、当該伸縮棹を地上より延伸して、前記掛止用フックの鉤部を被掛止物に掛止することにより、
前記ストラップを巻き込みながら上昇するとき、あるいは前記ストラップを引き出しながら下降するときに、前記ハーネス型安全帯と被掛止物との連結状態が常に保持されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の巻取式墜落防止器を用いた墜落防止工法。
【請求項6】
肩掛けベルト部と、腿ベルト部と、鉤部を有する掛止用フックと繋がる巻取式墜落防止器とから構成され、
前記巻取式墜落防止器が、長尺の細幅織りベルトから成るストラップが渦巻バネの付勢により常時巻き取られ、当該ストラップが急激に引き出された際には遠心爪がロックして当該ストラップの引き出しを停止する構造であり、
前記ストラップが、前記掛止用フックが接続される端部を備えており、
前記肩掛けベルト部の人体背中部または人体胸前部に位置する連結部を介して、前記巻取式墜落防止器がストラップ引出し口を上方に向けて配置されて前記肩掛けベルト部と前記巻取式墜落防止器とが固定あるいは着脱可能に接続されており、
前記ストラップ引出し口と対峙する前記巻取式墜落防止器の本体の下方に位置する前記連結部を備えており、前記巻取式墜落防止器が前記連結部を介して前記肩掛けベルト部に連結されており、
前記連結部が前記巻取式墜落防止器の本体の下向きの面から下方に延びており、
前記巻取式墜落防止器が前記ストラップに張力が加わっていないときに自重でひっくり返らないように前記巻取式墜落防止器が前記肩掛けベルト部に固定されていることを特徴とするハーネス型安全帯。
【請求項7】
前記連結部が、前記肩掛けベルト部の人体背中部または人体胸前部に設けたリングと、前記巻取式墜落防止器が備えた固定金具あるいは接続用フックとによって構成され、前記巻取式墜落防止器が前記肩掛けベルト部に固定あるいは着脱可能に接続されることを特徴とする請求項6に記載のハーネス型安全帯。
【請求項8】
前記連結部が、前記肩掛けベルト部の人体背中部または人体胸前部に設けた接続用フックと、前記巻取式墜落防止器が備えたリングとによって構成され、前記巻取式墜落防止器が前記肩掛けベルト部に着脱可能に接続されることを特徴とする請求項6に記載のハーネス型安全帯。」

第5 引用文献、引用発明
1 引用文献1
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された米国特許第4877110号明細書(引用文献1)には、「SAFETY DEVICE WITH RETRACTABLE LIFELINE」(格納式命綱付き安全装置)に関して、図面(特に、fig.1?fig.5参照)とともに、次の事項が記載されている。なお、仮訳、下線は当審による。

(1)3欄4行?3欄62行
「Illustrated in FIGS. 1 through 5 is a safety device 10 for restraining a person 14 who works at great heights. Workmen frequently work on platforms, roofs and other structures where it is necessary to provide a safety device for preventing the person from serious injury in the event of an accidental fall. The illustrated device 10 prevents the person from falling a great distance, and reduces the likelihood of injury to the person.
More particularly, as illustrated in FIG. 3, the safety device 10 comprises a housing 18, and a metal drum 22 rotatably mounted and contained within the housing 10. The drum 22 is rotatably mounted within the housing on a main shaft 24. The drum 22 includes a first drum flange 26, a spaced generally parallel second drum flange 30, and a cylinder 34 centrally connected between the first drum flange 26 and the second drum flange 30. The second drum flange 30 further includes a threaded extension 36 parallel to the axis of drum rotation.
The device 10 also includes a lifeline 38. In the illustrated embodiment, the lifeline 38 is webbing, but in other embodiments, rope or cable may be used. The lifeline 38 has a first end attached to the drum cylinder 34, and a second end 46 (as shown in FIG. 1) extending outside the housing 18 and adapted to be connected to a restraint 50 in the form of a lug connected to a wall 58. In this embodiment the lifeline second end 46 includes a hook 54 for facilitating connection of the lifeline second end 46 to the lug 50. An adapter 19 having a lug 20 may optionally be attached to the housing 18 to permit connection of the device 10 to the restraint 50, and connection of the hook 54 to the person, if so desired.
The lifeline 38 is wound around the drum cylinder 34 in response to the drum 22 being rotated in a retracting direction (shown as clockwise in FIGS. 4 and 5) and the lifeline 38 is unwound from around the drum cylinder 34 in response to the drum 22 being rotated in an opposite extending direction (shown as counter-clockwise in FIGS. 4 and 5).
The device 10 also includes means for biasing the drum 22 to rotate in the retracting direction in the form of a motor spring 62 located between the first drum flange 26 and a first housing end plate 63. The motor spring 62 is connected to the first drum flange 26 and the first housing end plate 63 by appropriate stops (not shown).
As illustrated in FIGS. 1 and 2, the person 14 wears a body harness 70 having crossed safety straps 74 on one of the person's chest or back. The device 10 further includes attaching means 76 for slidably connecting the crossed straps to the safety device housing 18. The attaching means 76 comprises a plate 78 connected to and spaced from the housing 18 by screws 82 and washers 86 so that the crossed straps 74 can be placed between the plate 78 and the housing 18, and the straps 74 can slip between the plate 78 and the housing 18 if the person should fall. The straps 74 are also slipped through a slotted pad 86 positioned between the person 14 and the device 10.」
(仮訳)
「図1から図5には、かなりの高所で作業を行う人14を拘束するための安全装置10を示している。作業者は、しばしば、足場、屋根および他の構造で作業し、偶発的な落下の際に深刻な怪我を防止するための安全装置を提供することが必要である。図示した装置10は、長い距離を落下することを防止でき、人への傷害の可能性を減少させる。
より具体的には、図3に示すように、安全装置10は、ハウジング18と、回転可能に取り付けられ、ハウジング18内に保持された金属ドラム22とを備えている。ドラム22は、メインシャフト24上に回転可能にハウジング内に装着される。ドラム22は第1のドラムフランジ26と、間隔を置いたほぼ平行な第2のドラムフランジ30、及び該第1のドラムフランジ26と第2のドラムフランジ30との間の中間に接続された、シリンダ34とを備えている。第2のドラムフランジ30は、ドラムの回転軸に平行なネジ付きの延長部36を含む。
装置10は、命綱38を含む。図示の実施形態では、命綱38は、ウェブであるが、他の実施形態では、ロープまたはケーブルが使用されてもよい。命綱38は、ドラムシリンダ34に取り付けられた第1の端部と、ハウジング18の外側に延び、壁58に接続されるラグの形態の拘束手段50に連結される第2の端部46(図1に示す)を有している。この実施形態では、命綱の第2の端部46は拘束手段50に命綱の第2の端部46の連結を容易にするためのフック54を備えている。拘束手段20を備えたアダプタ19は、装置10の拘束手段50への接続を可能にし、また望まれれば、フック54の人への接続を可能にするために、任意にハウジング18に取り付けられる。
命綱38は、ドラム22が巻取方向(図4及び図5において時計回り)に回転されるのに応答して、ドラムシリンダ34に巻き付き、命綱38は、ドラム22が反対の伸長方向(図4及び図5において反時計回り)に回転することに応答して、ドラムシリンダ34の周囲から巻出される。
装置10にはまた、第1のドラムフランジ26と第1のハウジング端部プレート63との間に配置されたモータバネ62の形態で、ドラム22を付勢して巻取方向に回転させるための手段を含む。モータバネ62は、適当なストッパ(図示せず)によって第1のドラムフランジ26と第1のハウジング端部プレート63に接続されている。
図1及び図2に示すように、人14は、人の胸部又は背中の1つに、交差する安全ストラップ74を有するハーネス70を装着する。装置10は、さらに、交差したストラップを安全装置ハウジング18に摺動可能に接続するための取付手段76を備えている。取付手段76は、ハウジング18からねじ82及びワッシャ86によって離されて接続され、それにより、交差したストラップ74は、プレート78とハウジング18との間に配置することができ、ストラップ74は、人が転落したときに、プレート78及びハウジング18の内部で滑ることができるプレート78を含む。ストラップ74は、また、人14と装置10との間に配置されるスロット付きパッド86を介して滑らせる。」

(2)4欄3行?4欄15行
「The device 10 also includes means 66 for braking extending rotation of the drum 22 at an angular velocity in excess of some predetermined speed. In the event a person falls from the surface where the person is working, the fall will cause the lifeline 38 to be extended from the housing 18 at a high angular velocity. By braking the drum 22 when the angular velocity is in excess of some predetermined speed, the safety device 10 stops any further falling of the person. An abrupt stop of the person falling increases the likelihood of injury to the person. The braking means 66 thus includes a slip clutch type of brake in order to gradually stop the person's descent.」
(仮訳)
「装置10はまた、いくつかの所定の速度を超える速度でドラム22の回転を制動するための手段66を含む。人が作業する表面から落下した場合、落下は、命綱38をハウジング18から高角速度で伸長させる。角速度が所定の速度以上であるときに、ドラム22を制動することによって、安全装置10は人の落下を停止する。人の降下の急な停止は、人への傷害の可能性を増大させる。人の降下を徐々に停止するために、ブレーキ手段66はスリップクラッチタイプのブレーキを含む。」

(3)4欄43行?5欄14行
「The fixing means 116 comprises pawls 120 mounted on the disk assembly 100 and pivotable into engagement with the housing 18 in response to the predetermined speed. The fixing means 116 further includes means in the form of springs 124 connected between the pawls 120 and the disk 108 for biasing the pawls 120 out of engagement with the housing 18 when the drum extending rotational velocity is less than the predetermined speed. More particularly, the housing 18 includes a main housing 134, and a ratchet plate 138 connected to the main housing 134 and having ratchet teeth 140 engageable with one of the pawls 120.
The fixing means 116 further includes means for preventing the pawls 120 disengaging the housing 18 until after more than two degrees rotation of the drum 22. More particularly, the rotation preventing means 128 is in the form of a slot in the disk 108 and plastic flange 112. The slot 128 extends generally perpendicular to the disk assembly radius. The pawl 120 has a mounting pin 142, and the mounting pin 142 is slideably received in the slot 128 and is held in the slot 128 by a second housing plate 144. When the drum 22 rotates at greater than the predetermined velocity, the springs 124 extend permitting the pawls 120 to engage the teeth 140 of the ratchet plate 138. This fixes the disk assembly 100 to the housing 18, causing the drum brake surface 90 to first slide relative to the disk 108 and the nut 104 and then stop.
When the drum 22 first begins to retract the lifeline 38 after having fixed the disk assembly 100 to the housing 18, the mounting pin 142 is initially located in the first end 150 of the slot 128, as illustrated in FIG. 4. As the drum 22 begins to move in the retracting direction, one of the pawls 120 remains engaged with the teeth 140, and is not dislodged from the teeth 140 until the mounting pin 142 is engaged by the slot second end 152. After being so engaged, the pawl 120 is removed from the ratchet teeth 140, as illustrated in FIG. 5. The slot 128 thus prevents the pawls 120 from disengaging the housing 18 for at least two degrees drum rotation.」
(仮訳)
「固定手段116は、ディスク組立体100に取り付けられた爪120を備え、所定の回転速度に応答して、ハウジング18と係合するように回転可能である。固定手段116は、さらに、爪120とディスク108との間に連結された、ドラムの伸長回転速度が所定速度未満である場合、爪120をハウジング18から外すように付勢するためのスプリング124の形態の手段を含む。より詳細には、ハウジング18は、メインハウジング134と、メインハウジング134に接続され、爪120のうちの1つと係合可能なラチェット歯140を備えたラチェットプレート138とを備えている。
固定手段116は、さらにドラム22の回転の2度以上の位置まで、爪120がハウジング18を外すのを防止するための手段を含む。具体的に、回転防止手段128は、ディスク108内のスロットと合成樹脂製のフランジ112との形態である。スロット128は、概ねディスク組立体半径に対して垂直に延びている。爪120は、取付ピン142を有しており、取付ピン142は、スロット128に滑動可能に収容され、第2ハウジングプレート144によりスロット128に保持される。ドラム22が所定の速度以上で回転すると、ばね124は、爪120がラチェットプレート138の歯140と係合することを許容するまで延びる。これは、ディスク組立体100をハウジング18に固定し、ドラムブレーキ表面90は、当初、ディスク108およびナット104に対して相対的に摺動し、その後、停止する。
ディスク組立体100をハウジング18に固定した後、ドラム22が命綱38を巻取り始めると、取付ピン142は、最初、図4に示すようにスロット128の第1端150に配置され、ドラム22が巻取方向に移動を開始するとき、爪120の1つは歯140と係合したままであり、取付ピン142がスロットの第2端152に係合するまで歯140から外れない。そのように係合された後、図5に示すように、爪120がラチェット歯140から除去される。スロット128は、少なくとも2度のドラムの回転の間、爪120がハウジング18から外れることを防止する。」

(4)上記(2)の「人が作業する表面から落下した場合、落下は、命綱38をハウジング18から高角速度で伸長させる。角速度が所定の速度以上であるときに、ドラム22を制動することによって、安全装置10は人の落下を停止する。」との記載、上記(3)の「ドラム22が所定の速度以上で回転すると、ばね124は、爪120がラチェットプレート138の歯140と係合することを許容するまで延びる。これは、ディスク組立体100をハウジング18に固定し、ドラムブレーキ表面90は、当初、ディスク108およびナット104に対して相対的に摺動し、その後、停止する。」との記載、及びfig.3?fig.5からみて、命綱38が急激に引き出された際には爪120がラチェットプレート138の歯140と係合して当該命綱38の巻出しを停止するといえる。

(5)fig.1及び2には、安全装置10、ハーネス70を構成する交差する安全ストラップ74に、当該安全装置10の出口を上方に向けて配置されて接続されることが示されている。

(6)fig.1には、フック54を上部の壁58の拘束手段50に連結することが示されている。

(7)上記(1)の「命綱38は、ドラム22が巻取方向(図4及び図5において時計回り)に回転されるのに応答して、ドラムシリンダ34に巻き付き、命綱38は、ドラム22が反対の伸長方向(図4及び図5において反時計回り)に回転することに応答して、ドラムシリンダ34の周囲から巻出される。」との記載、同「装置10にはまた、第1のドラムフランジ26と第1のハウジング端部プレート63との間に配置されたモータバネ62の形態で、ドラム22を付勢して巻取方向に回転させるための手段を含む。モータバネ62は、適当なストッパ(図示せず)によって第1のドラムフランジ26と第1のハウジング端部プレート63に接続されている。」との記載、上記(3)の「固定手段116は、さらに、爪120とディスク108との間に連結された、ドラムの伸長回転速度が所定速度未満である場合、爪120をハウジング18から外すように付勢するためのスプリング124の形態の手段を含む。」との記載、及びfig.1からみて、フック54を上部の壁58の拘束手段50に連結することにより、命綱38を巻取りながら上昇するとき、あるいは命綱38を巻出しながら下降するときに、ハーネス70と壁58の拘束手段50との連結状態が常に保持されているといえる。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「高所で作業を行うとき、偶発的な落下の際に深刻な怪我を防止する方法であって、
ウェブである命綱38がモータバネ62の付勢により常時巻取られ、当該命綱38が急激に巻出された際には爪120がラチェットプレート138の歯140と係合して当該命綱38の巻出しを停止する構造の安全装置10において、フック54が当該命綱38の第2の端部46と接続されており、
前記安全装置10が、ハーネス70を構成する交差する安全ストラップ74に、当該安全装置10の出口を上方に向けて配置されて接続されており、
前記安全装置10と前記交差する安全ストラップ74との接続が、前記交差する安全ストラップ74がハウジング18とプレート78との間で滑るように前記安全装置10が前記交差する安全ストラップ74に取付けられることでされており、
前記フック54を上部の壁58の拘束手段50に連結することにより、
前記命綱38を巻取りながら上昇するとき、あるいは前記命綱38を巻出しながら下降するときに、前記ハーネス70と壁58の拘束手段50との連結状態が常に保持されている安全装置10を用いた怪我を防止する方法。」

2 引用文献2
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された実公平5-29724号公報(引用文献2)には、「親綱取付具」に関して、図面(特に、第1図、第6図参照)とともに、次の事項が記載されている。

(1)3欄2行?3欄4行
「本願考案は伸縮自在の伸縮棹、伸縮棹の先端に取り付ける電柱腕木等係止用の掛止フツク、掛止フツクに結着する所定長の親綱より成る。」

(2)3欄34行?4欄8行
「伸縮棹1を収縮状態とし、親綱を輪状に巻いて運搬し、使用時には先端より順次伸ばして電柱の腕木等に掛止フツク体6を架けるのであるが、腕木等の部材がキヤツプ4に当るとキヤツプ4はバネに抗して回動し、鉤口61を開放しながら部材がフツク内へ嵌入すると同時にキヤツプ4はバネの附勢で鉤口61を閉鎖する。よつて親綱を電柱側に垂れ下げるものである。親綱と伸縮棹の下端部は電柱に取付けた下部取付台8に親綱は、そのフツクに巻き付け、伸縮棹はその受部に嵌合して保持する。装着成つた親綱には安全器を取り付け、作業員の腰部とロープで連結し、昇降を行う。」

上記記載事項及び図面の図示内容を整理すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されている。

「親綱7が結着した掛止フツク体6と接続した伸縮棹1を地上より延伸して掛止フツク体6のフック本体2を上部の電柱の腕木に架けること。」

3 引用文献3
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された特開平8-332241号公報(引用文献3)には、「無墜落昇降柱法」に関して、図面(特に、図1?図3参照)とともに、次の事項が記載されている。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】配電柱Pの昇降に際し、作業者が装着した安全帯Aに巻取式繋留ロープBのフックFを連結し、伸縮竿Dを伸長して配電柱の所定位置に設けた腕金等の掛止部材Cに、巻取式繋留ロープBのベルトを引出しつつ巻取式繋留ロープBの掛止用フックEを地上よりの操作で掛止し、掛止部材Cと地上の作業者との間に巻取式繋留ロープBを介在した後、昇降柱することを特徴とする無墜落昇降柱法。」

(2)「【0010】本願の使用方法は、まずフックFを作業者の安全帯AのD環に掛ける。次に掛止用フックEの吊環部5 に下方より伸縮竿D先端の鉤部を掛止し、伸縮竿Dを繰り出していき、掛止用フックEを吊り上げ、図2では腕金に、図3では電柱の中間部に設置した掛止部材Cに掛ければ設置作業は完了する。その後、伸縮竿Dを縮めて収納する。そして図1のように昇柱して行くのであるが、この時看板,街路灯があってもロープの掛け替えなしに昇柱できるものであり、無胴綱状態にならず、作業位置まで昇柱できる。作業位置まで昇柱した作業者は、腰部に装着した安全帯の本ロープを電柱に回し掛けして作業を行なうものである。作業終了後は、本ロープを外し、降柱し、地上まで降りた作業者は、伸縮竿Dを繰り出していき、掛止用フックEの吊環部5 に伸縮竿Dの先端鉤部を引掛け、上部へ押し上げることにより掛止用フックEの開閉板3 が回動し、掛止空間Kを開放し、さらに伸縮竿Dを上げることにより腕金,掛止部材Cから外すことができる。そして伸縮竿Dを順次縮めて回収するものである。」

上記記載事項及び図面の図示内容を整理すると、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3に記載された事項」という。)が記載されている。

「巻取式繋留ロープBの掛止用フックEと接続した伸縮竿Dを地上より伸長して掛止用フックEを上部の掛止部材Cに係止すること。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「高所で作業を行うとき」は前者の「電柱などに昇降するとき」に相当し、以下同様に、「偶発的な落下の際に深刻な怪我を防止する方法」は「作業者の落下を防止する墜落防止工法」に、「ウェブである命綱38」は「長尺の細幅織りベルトから成るストラップ」に、「モータバネ62」は「渦巻バネ」に、「常時巻取られ」は「常時巻き取られ」に、「急激に巻出され」は「急激に引き出され」に、「爪120」は「遠心爪」に、「ラチェットプレート138の歯140と係合して」は「ロックして」に、「安全装置10」は「巻取式墜落防止器」に、「フック54」は構造からみて「鉤部を有する掛止用フック」に、「命綱38の第2の端部46」は「当該ストラップの端部」に、「ハーネス70」は「ハーネス型安全帯」に、「交差する安全ストラップ74」は「人の胸部又は背中の1つに、交差する安全ストラップ74を有する」(前記「第5」「1」「(1)」)ことから「肩掛けベルト部」に、「安全装置10の出口」は「巻取式墜落防止器のストラップ引出し口」に、「前記安全装置10が前記交差する安全ストラップ74に取付けられる」ことは「前記巻取式墜落防止器が前記肩掛けベルト部に連結される」ことに、「壁58の拘束手段50」は「被掛止物」に、「前記フック54を上部の壁58の拘束手段50に連結する」ことは「前記掛止用フックの鉤部を上部の被掛止物に掛止する」ことにそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「電柱などに昇降するとき、作業者の落下を防止する墜落防止工法であって、
長尺の細幅織りベルトから成るストラップが渦巻バネの付勢により常時巻き取られ、当該ストラップが急激に引き出された際には遠心爪がロックして当該ストラップの引き出しを停止する構造の巻取式墜落防止器において、鉤部を有する掛止用フックが当該ストラップの端部と接続されており、
前記巻取式墜落防止器が、ハーネス型安全帯を構成する肩掛けベルト部に、当該巻取式墜落防止器のストラップ引出し口を上方に向けて配置されて接続されており、
前記巻取式墜落防止器と前記肩掛けベルト部との接続が、前記巻取式墜落防止器が前記肩掛けベルト部に連結されることでされており、
前記掛止用フックの鉤部を上部の被掛止物に掛止することにより、
前記ストラップを巻き込みながら上昇するとき、あるいは前記ストラップを引き出しながら下降するときに、前記ハーネス型安全帯と被掛止物との連結状態が常に保持されている巻取式墜落防止器を用いた墜落防止工法。」
で一致し、次の点で相違する。

〔相違点1〕
本願発明1は、巻取式墜落防止器と肩掛けベルト部との接続が、「前記ストラップ引出し口と対峙する前記巻取式墜落防止器の本体の下方に位置する連結部を介して」連結されており、「前記連結部が前記巻取式墜落防止器の本体の下向きの面から下方に延びており、前記巻取式墜落防止器が前記ストラップに張力が加わっていないときに自重でひっくり返らないように前記巻取式墜落防止器が前記肩掛けベルト部に固定されて」いるのに対し、
引用発明は、交差する安全ストラップ74がハウジング18とプレート78との間で滑るように取付けられる点。

〔相違点2〕
本願発明1は、「前記掛止用フックと接続した伸縮棹を地上より延伸して」掛止用フックの鉤部を上部の被掛止物に掛止するのに対し、
引用発明は、かかる構成を備えていない点。

そこで、相違点1について検討する。
引用文献2に記載された事項は、「親綱7が結着した掛止フツク体6と接続した伸縮棹1を地上より延伸して掛止フツク体6のフック本体2を上部の電柱の腕木に架けること」である。
引用文献3に記載された事項は、「巻取式繋留ロープBの掛止用フックEと接続した伸縮竿Dを地上より伸長して掛止用フックEを上部の掛止部材Cに係止すること」である。
そうすると、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、引用文献2及び3に記載されておらず、また、本願の出願時において周知技術でもないから、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、本願発明1は、相違点2を検討するまでもなく、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明6について
本願発明6は、ハーネス型安全帯に係る発明であるところ、その「前記ストラップ引出し口と対峙する前記巻取式墜落防止器の本体の下方に位置する前記連結部を備えており、」「前記連結部が前記巻取式墜落防止器の本体の下向きの面から下方に延びており、前記巻取式墜落防止器が前記ストラップに張力が加わっていないときに自重でひっくり返らないように前記巻取式墜落防止器が前記肩掛けベルト部に固定されている」との発明特定事項は、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項と実質的に同一である。
そうすると、本願発明6は、本願発明1と同様の理由により、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本願発明7及び8について
本願発明7及び8は、本願発明6の発明特定事項をすべて含むものであるから、本願発明6と同様の理由により、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 原査定についての判断
平成31年2月8日の手続補正により補正がされた請求項1は上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を有し、また、請求項6は前記「第6」「3」に示した発明特定事項を有するものとなった。これらの発明特定事項は、原査定における引用文献1?3には記載されておらず、本願の出願前における周知技術でもないので、本願発明1?8は、原査定における引用文献1?3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由についての判断
平成31年2月8日の手続補正により請求項が補正された結果、当審拒絶理由は解消した。

第9 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-07 
出願番号 特願2014-20096(P2014-20096)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A62B)
P 1 8・ 121- WY (A62B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 菅家 裕輔小笠原 恵理  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 鈴木 充
冨岡 和人
発明の名称 巻取式墜落防止器を用いた墜落防止工法とそれに使用するハーネス型安全帯  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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