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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1351193
審判番号 不服2018-4368  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-02 
確定日 2019-05-22 
事件の表示 特願2015-134349「アルギニンデイミナーゼを用いる処置方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 1日出願公開、特開2015-172083、請求項の数(18)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年5月30日(パリ条約による優先権主張 2012年4月4日 米国)を国際出願日とする特願2014-520183号の一部を平成27年7月3日に新たな特許出願としたものであって、平成28年4月22日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成29年3月7日付けで拒絶理由通知がされ、同年6月23日付けで意見書が提出され、同年11月28日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年4月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
1.補正の却下の決定の結論
平成30年4月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

2.補正の却下の決定の理由
(1)本件補正の内容
本件補正により、次のとおり特許請求の範囲について補正がされ、請求項3において下線部が追加記載された(下線は、補正箇所を示すために合議体で付した。)。
「【請求項1】
アルギニノコハク酸合成酵素の発現減少を示す癌を処置するのに使用するための、連結基を介して5±1.5個の直鎖状PEG分子に共有結合したペグ化アルギニンデイミナーゼADI-PEG20を含む液体組成物であって、ここで前記液体組成物は、滅菌したものであり、かつpH6.5?7.5で、前記液体組成物は、0.0035Mのヒスチジン-HCl?0.35Mのヒスチジン-HClであるヒスチジン-HClを含む、液体組成物。
【請求項2】
0.035Mのヒスチジン-HClを、pH6.8で0.13Mの塩化ナトリウムとともに含む、請求項1に記載の使用のための液体組成物。
【請求項3】
以下:
(a)膵臓癌、小細胞肺癌(SCLC)、中皮腫または肝細胞癌を処置するのに使用するためのもの;
(b)オートファジー阻害剤と組み合わせて患者を処置するのに使用するためのものであって、ここで前記癌が、膵臓癌、肉腫または小細胞肺癌であり、前記オートファジー阻害剤が、任意にクロロキン、3-メチルアデニン、ヒドロキシクロロキン、バフィロマイシンA1、5-アミノ-4-イミダゾールカルボキサミドリボシド(AICAR)、オカダ酸、N6-メルカプトプリンリボシド、ウォルトマンニンおよびビンブラスチンからなる群より選択され、そして任意に、前記アルギニンデイミナーゼおよび前記オートファジー阻害剤が相乗的に作用する、使用するためのもの;
(c)シスプラチンと組み合わせて患者における黒色腫を処置するのに使用するためのもの;
(d)ドセタキセルと組み合わせて患者における非小細胞肺癌、頭頸部癌または前立腺癌を処置するのに使用するためのもの;
(e)ラパマイシンと組み合わせて患者における腎細胞癌腫を処置するのに使用するためのもの;あるいは
(f)急性骨髄性白血病、再発性急性骨髄性白血病、乳癌、卵巣癌、結腸直腸癌、胃癌(gastric cancer)、神経膠腫、多形性膠芽腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、腎臓癌、膀胱癌、子宮癌、食道癌、脳癌、頭頸部癌、子宮頸部癌、精巣癌および胃癌(stomach cancer)からなる群より選択される癌を処置するのに使用するためのものである、請求項1または2に記載の使用のための液体組成物。
(請求項4?18は省略)」

(2)本件補正の適否の判断
本件補正は、補正前(平成28年10月18日付け手続補正書)の請求項3に「胃癌」及び「胃癌」と記載されたところを、それぞれ「胃癌(gastric cancer)」及び「胃癌(stomach cancer)」と補正するものである。
ここで、「gastric cancer」と「stomach cancer」は、同じ意味であるところ、この補正は、本件補正前の2か所の「胃癌」という記載に、それぞれ同じ意味の英訳を付したものに過ぎず、その意味を何ら変えるものではない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではない。
また、本件補正前の2か所の「胃癌」については、それが明確でないとの拒絶の理由は通知されていないし、それぞれ「胃癌(gastric cancer)」及び「胃癌(stomach cancer)」としても特に意味内容は変わらず、明瞭でない記載が明瞭になるわけでもないから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものでもない。
そして、本件補正が、特許法第17条の2第5項第1号及び第3号に掲げる「請求項の削除」や「誤記の訂正」を目的とするものでないことは明らかである。

(3)本件補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号ないし第4号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 原査定の概要
原査定(平成29年11月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?18に係る発明は、引用文献1?4に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2009-523433号公報
2.Cancer Res., 2011, Vol.71 No.8, Supp.1. Abstract No.4067
3.日本医薬品添加剤協会 編集,医薬品添加物辞典 2007,株式会社 薬事日報社,2007年7月25日,p.220-221
4.国際公開第2011/090088号

第4 本願発明
本件補正は、上記「第2 補正の却下の決定」のとおり、却下された。
したがって、本願請求項1?18に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明18」という。)は、平成28年10月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
アルギニノコハク酸合成酵素の発現減少を示す癌を処置するのに使用するための、連結基を介して5±1.5個の直鎖状PEG分子に共有結合したペグ化アルギニンデイミナーゼADI-PEG20を含む液体組成物であって、ここで前記液体組成物は、滅菌したものであり、かつpH6.5?7.5で、前記液体組成物は、0.0035Mのヒスチジン-HCl?0.35Mのヒスチジン-HClであるヒスチジン-HClを含む、液体組成物。
【請求項2】
0.035Mのヒスチジン-HClを、pH6.8で0.13Mの塩化ナトリウムとともに含む、請求項1に記載の使用のための液体組成物。
【請求項3】
以下:
(a)膵臓癌、小細胞肺癌(SCLC)、中皮腫または肝細胞癌を処置するのに使用するためのもの;
(b)オートファジー阻害剤と組み合わせて患者を処置するのに使用するためのものであって、ここで前記癌が、膵臓癌、肉腫または小細胞肺癌であり、前記オートファジー阻害剤が、任意にクロロキン、3-メチルアデニン、ヒドロキシクロロキン、バフィロマイシンA1、5-アミノ-4-イミダゾールカルボキサミドリボシド(AICAR)、オカダ酸、N6-メルカプトプリンリボシド、ウォルトマンニンおよびビンブラスチンからなる群より選択され、そして任意に、前記アルギニンデイミナーゼおよび前記オートファジー阻害剤が相乗的に作用する、使用するためのもの;
(c)シスプラチンと組み合わせて患者における黒色腫を処置するのに使用するためのもの;
(d)ドセタキセルと組み合わせて患者における非小細胞肺癌、頭頸部癌または前立腺癌を処置するのに使用するためのもの;
(e)ラパマイシンと組み合わせて患者における腎細胞癌腫を処置するのに使用するためのもの;あるいは
(f)急性骨髄性白血病、再発性急性骨髄性白血病、乳癌、卵巣癌、結腸直腸癌、胃癌、神経膠腫、多形性膠芽腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、腎臓癌、膀胱癌、子宮癌、食道癌、脳癌、頭頸部癌、子宮頸部癌、精巣癌および胃癌からなる群より選択される癌を処置するのに使用するためのもの
である、請求項1または2に記載の使用のための液体組成物。
【請求項4】
1週間毎に2回?2週間毎に1回投与されることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項5】
毎週投与されることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項6】
80IU/m^(2)?650IU/m^(2)の間の用量で投与されることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項7】
160IU/m^(2)の用量で投与されることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項8】
160IU/m^(2)の用量で毎週投与されることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項9】
160IU/m^(2)?640IU/m^(2)の用量で毎週投与されることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項10】
前記アルギニノコハク酸合成酵素の発現減少が、アルギニノコハク酸合成酵素プロモーターのメチル化に起因するか、あるいはDNAの変異または欠失に起因する、請求項1?9のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項11】
前記癌がアルギニノコハク酸合成酵素陰性である、請求項10に記載の使用のための液体組成物。
【請求項12】
前記処置が、in vivoにおいて、NO合成を阻害するか、血管新生を阻害するか、腫瘍細胞におけるアポトーシスを誘導するか、またはそれらの組み合わせをもたらす、請求項1?11のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項13】
前記処置が前記患者における安定病態をもたらすか、または前記患者における無増悪生存期間を増大させる、請求項1?11のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項14】
前記処置が、前記患者における無増悪生存期間を増大させる、請求項1?11のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項15】
血漿アルギニンが少なくとも1カ月間枯渇される、請求項1?14のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項16】
血漿アルギニンが2カ月間よりも長く枯渇される、請求項1?14のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項17】
追加の化学療法剤と組み合わせて使用するための、請求項1?16のいずれか一項に記載の使用のための液体組成物。
【請求項18】
前記化学療法剤が、シクロホスファミド、ゲムシタビン、シスプラチン、ソラフェニブ、スニチニブおよびエベロリムスからなる群より選択される、請求項17に記載の使用のための液体組成物。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には次の事項が記載されている(下線は当審による。)。
(1-1)(特許請求の範囲)
「【請求項1】
修飾剤とアルギニンデイミナーゼとにより形成される複合体であって、前記修飾剤が、前記アルギニンデイミナーゼの生体内半減期を延長可能である複合体。
【請求項2】
前記修飾剤が、前記アルギニンデイミナーゼに共有結合されている、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記修飾剤が、巨大分子重合体、タンパク質およびその断片、ペプチド、小分子または他の化合物からなる群から選択される、請求項2記載の複合体。
【請求項4】
前記巨大分子重合体が、ポリエノール化合物、ポリエーテル化合物、ポリビニルピロリドン、ポリアミノ酸、ジビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、N-(2-ヒドロキシプロピル)-メタクリルアミド、多糖、ポリオキシエチル化ポリオール、ヘパリン、ヘパリン断片、ポリ-アルキル-エチレングリコールおよびその誘導体、ポリ-アルキル-エチレングリコールとその誘導体との共重合体、ポリビニルエチルエーテル、a,P-ポリ[(2-ヒドロキシエチル)-DL-アスパルタミド]、ポリカルボン酸、ポリオキシエチレン-オキシメチレン、ポリアクリロイルモルホリン、アミノ化合物とオキシオレフィンとの共重合体、ポリヒアルロン酸、ポリオキシラン、エタン二酸とマロン酸との共重合体、ポリ(1,3-ジオキソラン)、エチレンとマレイン酸ヒドラジドとの共重合体、ポリシアル酸またはシクロデキストリンからなる群から選択される、請求項3記載の複合体。
・・・
【請求項6】
前記ポリエノール化合物が、ポリエチレングリコール(モノメトキシポリエチレングリコールおよびモノヒドロキシポリエチレングリコールを含む)、ポリビニルアルコール、ポリアリルアルコール、ポリブテノールまたは他のポリエノール化合物、および、脂質のようなそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項4記載の複合体。
【請求項7】
前記ポリエノール化合物が、好ましくはポリエチレングリコールであり、より好ましくはモノメトキシポリエチレングリコールである、請求項6記載の複合体。
・・・
【請求項10】
アルギニンデイミナーゼ一分子が、ポリエチレングリコール一分子と結合している、請求項7記載の複合体。
・・・
【請求項40】
癌の予防、診断および治療における、請求項1から35のいずれか一項記載の複合体、組成物、徐放性製剤またはキットの使用。」

(1-2)
「【0007】
巨大分子重合体を用いたタンパク質修飾は、半減期、生物学的特質および毒素学的特質のような薬剤の動的特質を変化させて制御する一般的な方法である。タンパク質修飾に用いる巨大分子重合体は、他に比べて、優れた水溶性、優れた生体適合性、低い免疫原性を有するべきである。ポリエチレングリコールは、主流のタンパク質修飾分子である。前記ポリエチレングリコールは、両親媒性の性質を持ち、水だけでなく、大部分の有機溶媒に溶解可能である。一方、前記ポリエチレングリコールは、無毒性、無免疫原性で、水溶性が高いため、アメリカ合衆国のFDAと同様に中国のSFDAを含む多くの国の医薬品局により、薬剤調製用の巨大分子重合体として認可されている。例えば、前記ポリエチレングリコールのような巨大分子重合体とタンパク質を結合させることにより、タンパク質の生体内での安定性を増大させ、非特異的な吸収と抗原性を減少させることができる。いったん前記複合体がある分子量に達すると、腎臓による除去率は効果的に減少する。これは、タンパク質薬剤の生体内半減期を延長させる効果的手段である(非特許文献6、7)。ポリエチレングリコール修飾における反応部位として当初用いられたアミノ基は、主に、タンパク質N末端のα-アミノ基と、リジン残基側鎖のε-アミノ基であった。その反応産物は、単一もしくは複数のPEG分子と非特異的に結合したタンパク質分子である。リジン残基側鎖のε-アミノ基修飾は、非特異的な反応部位のために、修飾された異性体を生成する可能性がある。
【0008】
近年、タンパク質N末端のα-アミノ基と、リジン残基側鎖のε-アミノ基との等電点の違いに着目して、タンパク質N末端を特異的に修飾するポリエチレングリコール修飾剤が開発されており、その結果、同一部位が修飾された均一な修飾産物を得ることが可能である。ポリエチレングリコール修飾を受ける他のタンパク質部位は、システイン残基のメルカプト基である。一般的に、メルカプト基の数は、タンパク質のアミノ基の数よりも少ないため、メルカプト基修飾は、より特異的である。遺伝子工学的手法を用いれば、特異的修飾部位として提供するために、今や、タンパク質の任意の位置にシステインの導入が可能である。しかし、修飾部位としてのシステインの導入は、また、一定の制限を有する。なぜなら、システイン残基を有さないタンパク質やポリペプチドにとっては、これにより分子間のクロスリンクが生じ、結果として活性が消失し、また、システイン残基を既に含むタンパク質にとっては、これによりジスルフィド結合の誤ったペア形成が生じ、結果として前記タンパク質は再生不能となる。さらに、タンパク質のカルボキシル基もまた修飾部位として頻繁に用いられる(非特許文献8)。ポリエチレングリコールによる修飾技術は、PEG-アスパラギナーゼ(非特許文献9、Avramis Vassilios I.ら、特許文献2、3)、PEG-アデノシンデアミナーゼ(非特許文献10?12)、ならびに、PEG-インターフェロンα2aおよびPEG-インターフェロンα2b等(非特許文献13、14,Meng Xiantaiら、特許文献4、Van Vlasselaer Peterら、特許文献5、Ballon Pascal Sebastlanら、特許文献6,Karasiewicz Robertら、特許文献7)のPEG-インターフェロンを含む複数のタンパク質薬剤で使用が成功している。」

(1-3)
「【0043】
この発明は、単一部位がPEGで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼが、ある種の癌の治療および癌の転移阻害に有意な効果をも有するという、驚くべき発見に基づいている。複数部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、単一部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを比較すると、単一部位が特異的に修飾された前記アルギニンデイミナーゼは、低抗原性、優れた癌阻害活性を有するだけでなく、より高い活性、より優れた均一性をも有し、また、異なるバッチの製品品質の再現性が、非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼよりはるかに優れている。このため、臨床での癌治療および抗癌剤の調製に利用可能である。」

(1-4)
「【実施例】
【0075】
実施例1:アルギニンデイミナーゼN末端へのPEGの結合
組み換えアルギニンデイミナーゼ(Protgen社)を10mMリン酸緩衝生理食塩水(pH7.0)で透析した。タンパク質濃度は、UV分光光度計(Agilent Technologies社)を用いて280nmの吸光度測定により決定し、そして4mg/mlに調整した。20kDaまたは40kDaのPEGとの結合時、40mgの20kD PEG(mPEG-ButyrALD 20kDa、Nektar社)固体、または、80mgの40kD PEG(mPEG-ButyrALD 40kDa、Nektar社)固体を10mlのタンパク質溶液(40mgのタンパク質含有)に加え、PEG固体が完全に溶解し、PEGとアルギニンデイミナーゼとのモル比が2:1になるまで、前記混合液を室温で攪拌した。還元剤としてCH_(3)BNNa(Sigma社)を、最終濃度20mMになるように加え、溶液のpH値を7に調整した。10時間室温で静置した後、大部分のアルギニンデイミナーゼは、モノPEG化により修飾され、少量のアルギニンデイミナーゼは、複数部位で修飾されていた。前記溶液は、イオン強度を下げるために希釈した後、カラムクロマトグラフィーで直接的に精製でき、または、10倍に希釈した後、短期間4℃で保存できる。
【0076】
実施例2:N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの陰イオン交換カラムによる精製
20kDaまたは40kDaのPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼを、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(Bio-Rad社)で精製した。反応後の前記混合液のpH値は7に調整した。10mM-Trisを含む平衡化緩衝液(pH7.0)で予め平衡化したカラムに、サンプルを充填した。前記サンプルの充填後、前記クロマトグラフィーカラムを、カラム体積の3倍の平衡化緩衝液で溶出してから、10mM Trisおよび0-1M NaClを含む緩衝液(pH7.0)を用いて、勾配的溶出を行った。反応に関与しないPEGは、前記カラムと結合しないが、そのピークは、最小限の充填により、浸透および洗浄の間に出現した。前記溶出ピークは、複数部位で修飾されたアルギニンデイミナーゼ、単一部位で特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、未修飾のアルギニンデイミナーゼの順番で出現した。280nmでの吸光度にしたがって、異なる画分を回収できる。」

(1-5)
「【0080】
実施例6:N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼによる癌細胞増殖の抑制活性
マウスB16/F10悪性黒色腫細胞の増殖に対する、20kDaのPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの阻害効果を観察した(図7)。マウス悪性黒色腫細胞(B16/F10、ATCC # CRL-6475(米国登録商標))を、10%の血清含有DMEM培地(Hyclone社)で対数増殖期まで培養し、続いて、血清を欠くDMEMで12時間饑餓状態に置いた。10%ウシ胎児血清と二種類の抗生物質(それぞれ10μg/mlのストレプトマイシンおよびアンピシリン、Sigma社)とを含む通常培地を加えた。治療群に対しては、アルギニンデイミナーゼ、および、修飾されたアルギニンデイミナーゼ(単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを含む)を最終濃度10μg/mlになるように加えた。一方、コントロール群に対しては、通常の生理食塩水を等量加えた。37℃で24時間インキュベートした後、細胞培養皿のウェルに、最終濃度0.25mg/mlになるようにMTTを加え、前記細胞を37℃のインキュベーター(Thermo Electron社)で6時間インキュベートし、最後に、DMSO(Shanghai Sangon Biological Engineering Technology & Services社)に溶解させた。細胞数は顕微鏡下で計測した。一つのプレート上の3つの異なる視野における細胞を数え、前記阻害率を算出した。その結果、アルギニンデイミナーゼの癌増殖阻害率は40%であったが、一方、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの細胞増殖阻害率は変わらないことが示された。しかし、複数部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記酵素活性は、単一部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼの約70%でしかない。これは、特異的にPEG修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記酵素活性は、完全に維持されており、複数部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼと比較すると、特異的にPEG修飾されたアルギニンデイミナーゼは、in vitroでより良く癌細胞の増殖を阻害できることを意味する。
【0081】
実施例7:マウス癌モデルの治療における、N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの活性
マウスB16/F10悪性黒色腫細胞に対する20kDaのPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの、生体内での阻害効果を観察した(図8A、B)。平均体重約20gの各C57マウス(Vitalriver実験動物センター)の腋窩下に、2×106のB16/F10悪性黒色腫細胞を注入した。翌日、群あたり8匹となるように、前記マウスをランダムに群に分けた。ネガティブコントロール群(通常の生理食塩水)、ポジティブコントロール群(アルギニンデイミナーゼ5mg/体重kg(1.7U/マウス)、連日投与)、および、治療群とした。前記治療群は、それぞれ、3日に一回、および、7日に一回、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを投与する治療を施す群である。癌接種マウスをランダムに群分けした後、14日間、尾部静脈への注射(図8A)、ならびに、背部および頸部からの皮下注射(図8B)により投与した。その後、15日目に、前記マウスを殺し、癌の重量を測定した。抗癌効能を評価するために、癌阻害率を以下のように算出した。
癌阻害率=[(ネガティブコントロール群の癌重量?治療群の癌重量)/ネガティブコントロール群の癌重量]×100%
その結果、3日ごとおよび7日ごとの尾部静脈注入による治療群の前記癌阻害率は、それぞれ40%および30%であり、3日ごとおよび7日ごとの皮下注入による治療群の前記癌阻害率は、それぞれ35%および30%であることが示された。単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記癌阻害活性を比較すると、同一の実験条件下、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記癌阻害率は、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記癌阻害率よりも、10%高いことが示された。その結果、未修飾のアルギニンデイミナーゼには、有意な癌阻害活性が無いこと、特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼは、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼよりも高い生体内での癌阻害活性を有すること、特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記抗癌効能は、延長された投与間隔でも、維持されることが示された。
【0082】
実施例8:癌マウスの生存期間の延長における、N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの有意な効果
B16/F10悪性黒色腫細胞を有するC57マウスの生存期間に対する、単一部位が40kD PEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの治療効果を観察した(図9)。平均体重約20gの各C57マウスの腋窩下に、2×106のB16/F10悪性黒色腫細胞を注入した。翌日、群あたり8匹となるように、前記マウスをランダムに群に分けた。それぞれ、ネガティブコントロール群(通常の生理食塩水)、ポジティブコントロール群(化学的癌阻害薬、連日投与)、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを用いた治療群(治療間隔は7日に一回とした)とした。ランダムに群分けした後、癌の平均直径が約2cmに達した時点で、癌接種マウスに、背部および頸部から皮下注射により投与した。治療を16日間行ったが、その間にも各実験群のマウスは次々と死亡した。前記治療効果は、各群のマウスの平均生存期間に基づいて評価した。その結果、前記ネガティブコントロール群、前記ポジティブコントロール群および前記治療群のマウスの前記平均生存期間は、それぞれ15、19、22日間であった。」

(1-6)
「【図7】



上記記載事項(1-5)には、N末端の単一部位が20kDaのPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼが記載されている。そして、上記記載事項(1-4)の実施例1には、そのペグ化アルギニンデイミナーゼの製造方法が記載されており、PEGとアルギニンデイミナーゼを含む溶液に還元剤を加え、アルギニンデイミナーゼのペグ化修飾を行っている旨の記載からみて、PEGとアルギニンデイミナーゼの結合は、共有結合であると認められる。そうすると、上記記載事項(1-5)には、1個のPEG分子がN末端で共有結合したペグ化アルギニンデイミナーゼが記載されていると認められる。また、上記記載事項(1-5)の実施例7及び実施例8において、1個のPEG分子がN末端で共有結合したペグ化アルギニンデイミナーゼを含む組成物を注射によりマウスに投与していることから、当該組成物は、液体の状態であるといえる。そして、1個のPEG分子がN末端で共有結合したペグ化アルギニンデイミナーゼは、悪性黒色腫を有するマウスに対して抗癌効能を有することが記載されている。
ここで、一般に20kDaのPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼは、「ADI-PEG20」と呼ばれるものである(要すればOncotarget,2010,Vol.1,No.4,p.246-251のp248左欄19行?22行)。

そうすると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「悪性黒色腫を処置するのに使用するための、1個のPEG分子がN末端で共有結合したペグ化アルギニンデイミナーゼADI-PEG20を含む液体組成物。」

2.引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている(引用文献2は英語のため、当審による日本語訳文にて記す。)。
(2-1)(表題)
「アルギニノコハク酸合成酵素欠損急性骨髄性白血病の潜在的な新規治療としてのペグ化アルギニンデイミナーゼ(ADI-PEG20)」

(2-2)(要約)
「急性骨髄性白血病(AML)は、成人で最も一般的な白血病で、小児で2番目に一般的な白血病であり、米国だけで年間1万件の症例が診断され、医療費のかなりの割合を占めている。
・・・
ここでは、AML細胞株と初代AMLサンプルを用いて、ASS1に陰性であることがペグ化アルギニンデイミナーゼ(ADI-PEG20)の有効性を予測するかどうかを検討した。
・・・
有意に、ADI-PEG20は、ASS1陽性対照系統に対して、ASS1陰性AML系統の生存率を低下させた。
・・・
最近、我々は初代ASS1陰性AMLサンプルを同定した。我々は、NOD-SCIDマウスにおいて良好な生着を有する一次ASS1陰性AMLサンプルを同定し、そしてこの一次AML異種移植モデルを用いてADI-PEG20の有効性を試験することを進めた。 ADI-PEG20の第II相試験は再発AML患者に計画されている。」

3.その他の引用文献
原査定及び前置報告において周知技術を示す文献として引用された引用文献3?7には、以下の事項が記載されている。
(1)引用文献3
(3-1)
「L-ヒスチジン
・・・
【用途】安定(化)剤、緩衝剤」

(2)引用文献4
(4-1)
「[0006]現在までに、抗体の高濃度の溶液製剤を安定化させるために、種々の検討がなされている(非特許文献1?4)。これまでに抗体含有溶液製剤のバッファーおよび安定化剤としてヒスチジンバッファーおよびアルギニンが有用であることが報告されている(特許文献2,3,4,5,6)。ヒスチジンバッファーとしては一般に塩酸塩が使用されているが、最近、ヒスチジン塩酸塩よりもヒスチジン酢酸塩のほうが高い安定化効果を示し、ヒスチジンバッファーの対イオン種として酢酸が有用であることが報告された(特許文献6)。また、安定化剤であるアルギニンには一般にアルギニン塩酸塩が使用されている。しかしながら、ヒスチジンおよびアルギニンの対イオン種として塩酸や酢酸を用いた場合では十分な安定性が確保されない場合も存在し、より優れた対イオン種が求められていた。」

(3)引用文献5
(5-1)(請求の範囲)
「[6]ポロクサマー類を含み、安定化剤としてL-ヒスチジンを含み、かつpH6.8?7.2である、エリスロポエチン含有溶液製剤。」

(5-2)(表5)
「表5



(4)引用文献6
(6-1)
「【0740】
6.4.13H5抗体の超高濃度液体製剤の特性決定
13H5抗体を125mg/ml、150mg/ml、175mg/ml及び200mg/ml含む液体製剤の安定性は、上記の実験法を用いて確認した。基礎製剤は、25mMヒスチジン-HCl(pH6.0)、5%スクロース
及び0.02%ポリソルベート80を含有していた。超高濃度抗体製剤に関する安定性の測定結果は、図15?18に提示してある。
【0741】
超高濃度液体製剤の調製:精製済み13H5抗体を、Planova 20Nフィルターを用いてナノ濾過し、粒子状物質を除いた。13H5製剤は、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)を用いて調製した。ナノ濾過13H5抗体を、Millipore Labscale TFF装置でおよそ25mg/mlに濃縮した。次いで、その抗体を25mMヒスチジン-HCl(pH6.0)、5%スクロース中に5回(5x)ダイアフィルトレーションを行った。緩衝液交換を完了した後、最終目標濃度よりやや高い濃度に抗体を濃縮した。この濃縮抗体調製物に25mMヒスチジン-HCl(ph6.0)、5%スクロース、2%ポリソルベート80の濃縮原液を混ぜる(1:100希釈)ことにより、ポリソルベート80を導入した。13H5の最終濃度は、最終製剤用緩衝液(例えば、25mMヒスチジン-HCl(pH6.0)、5%スクロース、0.02%ポリソルベート80)で目標濃度に調節した。
【0742】
超濃縮液体13H5製剤による抗体凝集体の形成は、サイズ排除クロマトグラフィーを用いてモニターした。試料は、5℃又は40℃で保存した。40℃の保存は、長期保存時間の影響をシミュレートするために使用した。40℃及び5℃で得られた実験結果を各々図15及び16に提示している。13H5凝集体の形成率は、抗体濃度の増加と共にやや増加した。超濃縮13H5抗体製剤の凝集性は、100mg/mlの抗体Zを含有する基準抗体製剤の凝集性と同等であった。
【0743】
超濃縮液体13H5製剤の抗体分解は、イオン交換クロマトグラフィーを用いてモニターした。試料は、5℃又は40℃で保存した。40℃の保存は、長期保存時間の影響をシミュレートするために使用した。40℃及び5℃で得られた実験結果を各々図17及び18に提示している。13H5の分解率は、抗体濃度の増加に影響されなかった。」

(5)引用文献7
(7-1)
「【請求項1】
5?100mMヒスチジン、0.5?3.0%PEG、0.25?3%グリシン、5?50mMアルギニン、0.5?30%スクロース、および5?50mg/mlのIL-1タンパク質アンタゴニストを含む、凍結乾燥に適した製剤」

(7-2)
「【0031】
IL-1アンタゴニスト
IL-1アンタゴニストは、IL-1の生物学的作用を遮断または阻害することができる化合物であり、IL-1トラップのようなIL-1をトラップすることができる融合タンパク質を含む。好ましい態様において、IL-1トラップは2つのIL-1受容体成分および多量体化成分、例えば2003年7月31日公開の米国特許公報第2003/0143697号に記載されたIL-1トラップを含む、IL-1特異的融合タンパク質である。特定の態様においてIL-1トラップは、SEQ ID NO:2
、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26に示すような融合タンパク質である。好ましいIL-1トラップをSEQ ID NO:10に示す。本発明は、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26のタンパク質と実質的に同一なIL-1トラップ、すなわち、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26のタンパク質と少なくとも95%の同一性、好ましくは少なくとも97%の同一性、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、かつIL-1に結合して阻害することができるタンパク質の使用を包含する。さらに、特定の態様においてIL-1アンタゴニストは、1つまたは複数の受容体成分、ならびにIL-1および/またはIL-1受容体に特異的な1つまたは複数の免疫グロブリン由来成分を含む、改変IL-1トラップである。別の態様において、IL-1アンタゴニストは、IL-1および/またはIL-1受容体に特異的な1つまたは複数の免疫グロブリン由来成分を含む、改変IL-1トラップである。」

(7-3)
「【0044】
凍結乾燥前の製剤および凍結乾燥製剤の安定性が測定された。pH6.5で40mg/mlのIL-1トラップ(SEQ ID NO:10)、20mMヒスチジン、1.5%PEG-3350、1%スクロース、0.5%グリシン、25mMアルギニン-HClを含む凍結乾燥前の製剤が、5℃で0?52週間インキュベートされた。表3に示すように、未変性(非凝集)形態のIL-1は、94.9(0週間)から92.3(52週間)に減少し、凝集率は同じ期間に1%から1.8%に増加した。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「悪性黒色腫」は、「癌」に含まれるものであるから、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点がある。
(一致点)
「癌を処置するのに使用するための、PEG分子に共有結合したペグ化アルギニンデイミナーゼADI-PEG20を含む液体組成物。」

(相違点)
(相違点1)
液体組成物の用途に関して、処置する癌が、本願発明1では、「アルギニノコハク酸合成酵素の発現減少を示す癌」であるのに対して、引用発明ではそのような特定はない点。
(相違点2)
ペグ化アルギニンデイミナーゼADI-PEG20は、本願発明1では、「5±1.5個の直鎖状PEG分子」が「連結基を介して」共有結合するものであるのに対して、引用発明では、「1個」のPEG分子が共有結合するものであって、PEG分子が「直鎖状」であるかは不明であり、また、「連結基を介して」結合しているかも不明である点。
(相違点3)
液体組成物は、本願発明1では「滅菌したもの」であるのに対して、引用発明ではそのような特定はない点。
(相違点4)
液体組成物は、本願発明1では「pH6.5?7.5」であるのに対して、引用発明ではそのような特定はない点。
(相違点5)
液体組成物は、本願発明1では「0.0035Mのヒスチジン-HCl?0.35Mのヒスチジン-HClであるヒスチジン-HClを含む」のに対して、引用発明ではそのような特定はない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点2について
上記記載事項(1-2)には、ポリエチレングリコール(PEG)修飾タンパク質に関する従来技術において、PEG修飾における反応部位として知られるアミノ基は、タンパク質に複数存在するため、反応産物は複数のPEG分子と非特異的に結合したタンパク質となり、異性体を生成するという問題があるところ、近年、タンパク質のN末端を特異的に修飾するポリエチレングリコール修飾剤が開発され、その結果、同一部位が修飾された均一な修飾産物を得ることが可能となったことが記載されている。そのような技術的背景の中、引用文献1は、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを得ることを目的の一つとしたものであって、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼは、複数部位が修飾されたもの、及び単一部位が非特異的に修飾されたものと比較すると、低抗原性、優れた癌阻害活性、優れた均一性を有するという技術的特徴を有するものである(上記記載事項(1-3)及び(1-6))。
このような引用文献1の記載に接した当業者は、N末端に1個のPEGが共有結合したアルギニンデイミナーゼを含む液体組成物である引用発明において、結合するPEGの数を5±1.5個までさらに増やすことは着想し得るものではなく、むしろ阻害要因が存在するものである。したがって、相違点2に係る構成は、引用文献1の記載事項から当業者が容易に想到できるものではない。
また、引用文献2には、ADI-PEG20が急性骨髄性白血病の治療に用いることが記載されているが(上記記載事項(2-1)及び(2-2))、該ADI-PEG20がいかなる個数のPEG20が結合したものであるのか明らかでないから、相違点2に係る構成が引用文献2の記載事項から当業者が容易に想到し得るものともいえない。さらに、引用文献3?7には、ADI-PEG20に関する記載は全くないから、相違点2に係る構成がこれらの引用文献の記載事項から当業者が容易に想到し得るものともいえない。
したがって、引用文献1?7の記載事項を考慮しても、引用発明において、相違点2に係る構成を想到することは、当業者にとって容易なことではない。

イ 相違点5について
引用文献3には、ヒスチジンに安定化剤、緩衝剤としての用途があることは記載されているが(上記記載事項(3-1))、安定化剤又は緩衝剤の使用対象となる物質についての具体的記載はないし、ヒスチジン-HClとして用いることを示唆するものでもないから、相違点5に係る構成は引用文献3の記載から当業者が容易に想到し得るものとはいえない。また、引用文献4及び6には、抗体含有溶液にヒスチジン-HClをバッファー及び安定化剤として用いることが記載されているが(上記記載事項(4-1)及び上記記載事項(6-1))、これらの引用文献は、抗体含有溶液における抗体の安定化について記載するだけのものであって、抗体とは、1次?3次構造、分子量等の物理的性質、及び等電点等の化学的性質が異なり、さらにPEGが結合する点でも異なるタンパク質であるADI-PEG20を含む液体組成物におけるADI-PEG20の安定化については記載も示唆もないものである。したがって、相違点5に係る構成は引用文献4又は6の記載から当業者が容易に想到し得るものとはいえない。さらに、引用文献5には、エリスロポエチン含有溶液製剤の安定化剤としてL-ヒスチジンを含めることが(上記記載事項(5-1)及び(5-2))、また、引用文献7には、IL-1タンパク質アンタゴニスト(融合タンパク質)を含む液体製剤にヒスチジンを含めることが(上記記載事項(7-1)?(7-3))、それぞれ記載されているが、これらの引用文献も、エリスロポエチンあるいはIL-1タンパク質アンタゴニストといった特定のタンパク質の安定化について記載したに過ぎないものであるから、引用文献5又は7の記載から相違点5に係る構成を当業者が容易に想到するとはいえない。
したがって、引用文献3?7の記載事項を考慮しても、引用発明において、相違点5に係る構成を想到することは、当業者にとって容易なことではない。

ウ 効果について
本願発明1は、アルギノコハク酸合成酵素の発現減少を示す癌に対し、5±1.5個の直鎖状PEGを共有結合したADI-PEG20を用いて、これを処置することができるとの効果を有するものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、引用文献1及び引用文献2、並びに引用文献3?7に示された本願優先日前における周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2?18について
本願発明2?18は、本願発明1をさらに限定したものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1及び引用文献2、並びに引用文献3?7に示された本願優先日前における周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-10 
出願番号 特願2015-134349(P2015-134349)
審決分類 P 1 8・ 57- WY (A61K)
P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 砂原 一公六笠 紀子  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 冨永 みどり
吉田 知美
発明の名称 アルギニンデイミナーゼを用いる処置方法  
代理人 石川 大輔  
代理人 山本 健策  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 飯田 貴敏  
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