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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1351289
審判番号 不服2018-5620  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-23 
確定日 2019-05-09 
事件の表示 特願2016-564278「光ファイバ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 1日国際公開、WO2016/190297〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年5月24日(優先権主張2015年5月27日、日本国)を国際出願日とする出願であって、その後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。

平成28年10月24日:出願審査請求書の提出
平成29年 7月24日:拒絶理由通知(8月1日発送)
同年 9月 8日:手続補正書・意見書の提出
平成30年 1月23日;拒絶査定(1月30日送達。以下「原査定」
という。)
同年 4月23日:審判請求書・手続補正書の提出

第2 平成30年4月23日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年4月23日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正却下の決定の理由]
1 補正内容
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成29年9月8日付け手続補正後のもの)について、
「コアと、
前記コアと同芯状に前記コアの外周を取り囲むように形成され、前記コアの外周に隣接した内クラッド部と、前記内クラッド部の外周に形成される外クラッド部とを少なくとも有するクラッドと
を有する光ファイバにおいて、
前記コアの屈折率をΔ1、最大の屈折率をΔ1max、外周半径をr1とし、
前記内クラッド部の屈折率をΔ2、最小の屈折率をΔ2min、外周半径をr2とし、
前記外クラッド部の屈折率をΔ3、外周半径をr3とした場合、
Δ1max>Δ3>Δ2minであり、
Δ3-Δ2min≦0.08%であり、
r1<r2<r3であり、
0.4≦r1/r2≦0.5であり、
ケーブルカットオフ波長が1260nm以下であり、
波長1310nmにおけるMFDが8.8μm以上、かつ9.2μm以下であり、
半径15mmのマンドレルに10回巻いたときの1550nmにおける損失増加が0.02dB以下であり、半径10mmのマンドレルに1回巻いたときの1550nmにおける損失増加が0.2dB以下であり、光ファイバ素線の、波長1550nmにおけるサンドペーパー張力巻きロス増が0.3dB/km以下である光ファイバ。」とあったものを、

本件補正後の請求項1の
「コアと、
前記コアと同芯状に前記コアの外周を取り囲むように形成され、前記コアの外周に隣接した内クラッド部と、前記内クラッド部の外周に形成される外クラッド部とを少なくとも有するクラッドと
を有する光ファイバにおいて、
前記コアの屈折率をΔ1、最大の屈折率をΔ1max、外周半径をr1とし、
前記内クラッド部の屈折率をΔ2、最小の屈折率をΔ2min、外周半径をr2とし、
前記外クラッド部の屈折率をΔ3、外周半径をr3とした場合、
Δ1max>Δ3>Δ2minであり、
Δ3-Δ2min=0.05%であり、
r1<r2<r3であり、
0.4≦r1/r2≦0.5であり、
ケーブルカットオフ波長が1260nm以下であり、
波長1310nmにおけるMFDが8.8μm以上、かつ9.2μm以下であり、
半径15mmのマンドレルに10回巻いたときの1550nmにおける損失増加が0.02dB以下であり、半径10mmのマンドレルに1回巻いたときの1550nmにおける損失増加が0.2dB以下であり、光ファイバ素線の、波長1550nmにおけるサンドペーパー張力巻きロス増が0.3dB/km以下である光ファイバ。」と補正する内容を含むものである(下線は、当審で付したものである。以下同じ。)。

2 補正目的
上記「1」の補正内容は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な「Δ3-Δ2min」を特定の数値に特定するものであって、その補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
よって、本件補正後の請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められることから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「第2 1」に、本件補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(2)引用文献に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特表2014-526066号公報(2014年10月2日公表。以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の記載がある。

ア 「【請求項7】
外径r_(1)と、屈折率Δ_(1)と、10未満のアルファと、を有する中心コア領域と、
8マイクロメートル超の外径r_(2)及び屈折率Δ_(2)を有する第1内側クラッド領域と、前記内側クラッド領域を取り囲み且つ屈折率Δ_(3)を有する第2外側クラッド領域と、を有するクラッド領域であって、Δ_(1)>Δ_(3)>Δ_(2)であり、且つ、Δ_(3)とΔ_(2)の間の差は、0.002を上回る、クラッド領域と、
を有することを特徴とする光ファイバ。」

イ 「【技術分野】
【0002】
本発明は、低曲げ損失を有する光ファイバに関する。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書には、外径r_(1)及び屈折率Δ_(1)を有する中心コア領域と、8マイクロメートル超の外径r_(2)及び屈折率Δ_(2)を有する第1内側クラッド領域及び屈折率Δ_(4)を有する第2外側クラッド領域を有するクラッド領域と、を有する光導波路ファイバが開示されており、Δ_(1)>Δ_(4)>Δ_(2)であり、且つ、Δ_(4)とΔ_(2)の間の差は、0.002パーセントを上回り、且つ、前記ファイバは、7.5超のMAC値を有する。…いくつかの実施形態においては、r_(1)/r_(2)は、0.25以上であり、更に好ましくは、0.3を上回り、且つ、なお更に好ましくは、0.4を上回る。いくつかの実施形態においては、Δ_(4)とΔ_(2)の間の差は、0.005を上回っており、且つ、いくつかの実施形態においては、0.01パーセントを上回っている。いくつかの実施形態においては、Δ_(4)とΔ_(2)の間の差は、0.03?0.06であり、且つ、いくつかの実施形態においては、Δ_(4)とΔ_(2)の間の差は、0.07?0.1パーセントである。本明細書に開示されているファイバにおいては、Δ_(4)は、好ましくは、0.0を上回り、更に好ましくは、0.01を上回り、且つ、更に好ましくは、0.02を上回る。
【0005】
又、本明細書には、外径r_(1)及び屈折率Δ_(1)を有する中心コア領域と、8マイクロメートル超の外径r_(2)及び屈折率Δ_(2)を有する第1内側クラッド領域及び内側クラッド領域を取り囲み且つ屈折率Δ_(4)を有する第2クラッド外側領域を有するクラッド領域と、を有する光ファイバも開示されており、ここで、Δ_(1)>Δ_(4)>Δ_(2)であり、且つ、Δ_(4)とΔ_(2)の間の差は、0.01パーセントを上回り、且つ、前記ファイバの中心コア領域は、10未満の、好ましくは、6未満の、更に好ましくは、4未満の、且つ、更に好ましくは、1?4の、アルファを実質的に有するアルファプロファイルを有する。」

エ 「【0010】
……いくつかの好適な実施形態においては、1550nmにおける20mm直径曲げ損失は、0.4dB/巻回以下である。その他の好適な実施形態においては、1550nmにおける20mm直径曲げ損失は、0.3dB/巻回以下である。いくつかの好適な実施形態においては、1550nmにおける30mm直径曲げ損失は、0.02dB/巻回以下である。このような曲げ損失及び減衰性能の数値は、ファイバに適用される第1及び第2被覆を使用して実現可能であり、ここで、第1被覆のヤング係数は、5未満であり、更に好ましくは、1MPa未満であり、且つ、第2被覆のヤング係数は、500MPaを上回り、更に好ましくは、900MPaを上回り、且つ、なお更に好ましくは、1100MPaを上回る。
【0011】
……
【0012】
好ましくは、屈折率プロファイルは、1260nm以下の、更に好ましくは、1000?1260nmのケーブルカットオフを更に提供する。
【0013】
……その他の好適な実施形態においては、屈折率プロファイルは、8.2?9.0マイクロメートルの1310nmにおけるモードフィールド径を更に提供する。」

オ 「【0034】
例示用のファイバ10が、図1に示されており、最大屈折率デルタ百分率Δ_(1)を有する中心ガラスコア領域1を含む。第1凹入内側クラッド領域2が中心コア領域1を取り囲んでおり、第1内側クラッド領域2は、屈折率デルタ百分率Δ_(2)を有する。外側クラッド領域3が、第1内側クラッド領域2を取り囲んでおり、且つ、Δ_(4)を有する。好適な実施形態においては、Δ_(1)>Δ_(4)>Δ_(2)である。図1に示されている実施形態においては、領域1、2、3は、互いに直接的に隣接している。但し、これは、必須ではなく、且つ、この代わりに、更なるコア又はクラッド領域を利用してもよい。例えば、環状領域3を取り囲み且つ環状領域3を下回る屈折率デルタ百分率Δ_(4)を有する外側クラッド領域(図示せず)を利用してもよい。」

カ 「【0052】

【0053】
【表2b】
(省略)
【0054】
上記の表1、表2a、及び表2bにおいて観察できるように、本明細書における例は、屈折率Δ_(1)を有する中心ガラスコア領域と、インデックスΔ_(2)を有する第1内側クラッド領域と、インデックスΔ_(4)を有する外側クラッド領域と、を利用する例示用のファイバを示しており、ここで、Δ_(1)>Δ_(4)>Δ_(2)であり、ここで、Δ_(4)とΔ_(2)の間の差は、0.01以上であり、且つ、プロファイル容積の絶対値|V_(3)|は、少なくとも5%マイクロメートル2である。これらのファイバは、20mm直径マンドレル上において巻回された際に、1260nm以下のケーブルカットオフと、0.75dB/巻回未満の曲げ損失と、を有する。又、これらのファイバは、1310nmにおける約8.2?9.5マイクロメートルのモードフィールド径と、1300?1324nmのゼロ分散波長と、0.092ps/nm^(2)/km未満の1310nmにおける分散スロープと、をも有する)。これらのファイバは、0.07dB/km以下の、更に好ましくは、0.06dB/km以下の、且つ、いくつかの実施形態においては、0.05dB/km以下の1550nmにおけるワイヤメッシュカバードラム(WMCD)曲げ損失を有する。又、これらのファイバは、8.5dB未満の、更に好ましくは、5dB未満の、且つ、いくつかの実施形態においては、4dB未満の1550nmにおけるピンアレイ曲げ損失をも有する。」

キ 図1は、以下のものである。


(3)引用文献に記載された発明
ア 上記(2)ウの記載及び図1からして、上記(2)アの「Δ_(3)」は、表2a及び図1では「Δ_(4)」に対応するものと認められることから、以後、「Δ_(4)」と表記する。

イ 上記(2)ア及びイの記載からして、引用文献には、
「外径r_(1)と、屈折率Δ_(1)と、10未満のアルファと、を有する中心コア領域と、
8マイクロメートル超の外径r_(2)及び屈折率Δ_(2)を有する第1内側クラッド領域と、
前記内側クラッド領域を取り囲み且つ屈折率Δ_(4)を有する第2外側クラッド領域と、を有する低曲げ損失光ファイバであって、
屈折率Δ_(1)>屈折率Δ_(4)>屈折率Δ_(2)であり、且つ、屈折率Δ_(4)と屈折率Δ_(2)の間の差は、0.002を上回る、低曲げ損失光ファイバ。」が記載されているものと認められる。

ウ 上記(2)ウの【0004】の記載からして、
上記イの「外径r_(1)」と「外径r_(2)」の比である「外径r_(1)/外径r_(2)」は「0.25以上」であり、「屈折率Δ_(4)と屈折率Δ_(2)の間の差」は、「0.005%より大きく」てもよいものと認められる。

エ また、上記(2)ウの【0005】の記載からして、
上記イの「10未満のアルファ」は、例えば、「1?4のアルファ」であってもよいものと認められる。

オ 上記(2)エの記載からして、上記イの「低曲げ損失光ファイバ」の特性は、
「1000?1260nmのケーブルカットオフ波長を有し、
1310nmにおけるMFDは、8.2?9.5μmであり、
1550nmにおける20mm直径曲げ損失は、0.3dB/巻回以下」であることが理解できる。

カ また、上記(2)エの【0010】の記載の記載からして、上記イの「低曲げ損失光ファイバ」は、
「ヤング係数1MPa未満の第1被覆」及び「ヤング係数1100MPaを上回る第2被覆」を備えたものであってもよいことが理解できる。

キ 上記(2)オの記載からして、
上記イの「中心コア領域」、「第1内側クラッド領域」及び「第2外側クラッド領域」は、互いに直接的に隣接したものであってもよいものと認められる。

ク 上記アないしキの検討を踏まえて、表2aを見ると、実施例9ないし実施例15は、下記(ア)ないし(カ)の条件を満たすことが理解できる。
(ア)「1?4のアルファ」
(イ)「外径r_(1)/外径r_(2)は、0.25以上」
(ウ)「屈折率Δ_(4)と屈折率Δ_(2)の間の差は、0.005%より大きく」
(エ)「1000?1260nmのケーブルカットオフ波長を有し」
(オ)「1310nmにおけるMDFは、8.2?9.5μmであり」
(カ)「1550nmにおける20mm直径曲げ損失は、0.3dB/巻回以下」

当審注:実施例16及び実施例17における「外径r_(1)/外径r_(2)」は、いずれも「0.23」であり、上記(イ)の条件を満たさない。

ケ 上記アないしクを総合すると、引用文献には、次の光ファイバ(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「外径r_(1)と、屈折率Δ_(1)と、1?4のアルファと、を有する中心コア領域と、
8μm超の外径r_(2)及び屈折率Δ_(2)を有する第1内側クラッド領域と、前記内側クラッド領域を取り囲み且つ屈折率Δ_(4)を有する第2外側クラッド領域と、
ヤング係数1MPa未満の第1被覆と、
ヤング係数1100MPaを上回る第2被覆と、を有する低曲げ損失光ファイバであって、
前記中心コア領域、前記第1内側クラッド領域及び前記第2外側クラッド領域は、互いに直接的に隣接し、
屈折率Δ_(1)>屈折率Δ_(4)>屈折率Δ_(2)であり、
外径r_(1)/外径r_(2)は、0.25以上であり、
屈折率Δ_(4)と屈折率Δ_(2)の間の差は、0.005%より大きく、
1000?1260nmのケーブルカットオフ波長を有し、
1310nmにおけるMFDは、8.2?9.5μmであり、
1550nmにおける20mm直径曲げ損失は、0.3dB/巻回以下である、低曲げ損失光ファイバ。」

(4)対比
ア 本願補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明の「中心コア領域」は、本願補正発明の「コア」に相当する。
以下、同様に、
「第1内側クラッド領域」は、「コアと同芯状に前記コアの外周を取り囲むように形成され、前記コアの外周に隣接した内クラッド部」に、
「第2外側クラッド領域」は、「内クラッド部の外周に形成される外クラッド部」に、
「低曲げ損失光ファイバ」は、「光ファイバ」に、それそれ相当する。

(イ)引用発明においては、「中心コア領域、第1内側クラッド領域及び第2外側クラッド領域は、互いに直接的に隣接し」、「屈折率Δ_(1)>屈折率Δ_(4)>屈折率Δ_(2)」であるから、
本願補正発明と引用発明とは、「コアの屈折率をΔ1、最大の屈折率をΔ1max、外周半径をr1とし、内クラッド部の屈折率をΔ2、最小の屈折率をΔ2min、外周半径をr2とし、外クラッド部の屈折率をΔ3、外周半径をr3とした場合、
Δ1max>Δ3>Δ2minであり、
r1<r2<r3である」点で一致する。

(ウ)また、引用発明の「低曲げ損失光ファイバ」は、
「外径r_(1)/外径r_(2)は、0.25以上であり、
屈折率Δ_(4)と屈折率Δ_(2)の間の差は、0.005%より大きく、
1000?1260nmのケーブルカットオフ波長を有し
1310nmにおけるMFDは、8.2?9.5μm」であるから、
本願補正発明と引用発明とは、
「Δ3-Δ2minがAであり、
r1/r2は、Bであり、
ケーブルカットオフ波長が1260nm以下であり、
波長1310nmにおけるMFDがCである」点で一致する。

イ 以上のことから、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「コアと、
前記コアと同芯状に前記コアの外周を取り囲むように形成され、前記コアの外周に隣接した内クラッド部と、前記内クラッド部の外周に形成される外クラッド部とを少なくとも有するクラッドと
を有する光ファイバにおいて、
前記コアの屈折率をΔ1、最大の屈折率をΔ1max、外周半径をr1とし、前記内クラッド部の屈折率をΔ2、最小の屈折率をΔ2min、外周半径をr2とし、前記外クラッド部の屈折率をΔ3、外周半径をr3とした場合、
Δ1max>Δ3>Δ2minであり、
Δ3-Δ2minがAであり、
r1<r2<r3であり、
r1/r2は、Bであり、
ケーブルカットオフ波長が1260nm以下であり、
波長1310nmにおけるMFDがCである、光ファイバ。」

ウ 一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1>
(屈折率差)Aに関して、
本願補正発明は、「0.05%」であるのに対して、
引用発明は、「0.005%より大き」いものの、「0.05%」であるか否か不明である点。

<相違点2>
(外径比)Bに関して、
本願補正発明は、「0.4以上、0.5以下」であるのに対して、
引用発明は、「0.25以上」ではあるものの、「0.4以上、0.5以下」であるか否か不明である点。

<相違点3>
(MFD)Cに関して、
本願補正発明は、「8.8μm以上、かつ9.2μm以下」であるのに対して、
引用発明は、「8.2?9.5μm」である点。

<相違点4>
測定値に関して、
本願補正発明は、「半径15mmのマンドレルに10回巻いたときの1550nmにおける損失増加が0.02dB以下であり、半径10mmのマンドレルに1回巻いたときの1550nmにおける損失増加が0.2dB以下であり、光ファイバ素線の、波長1550nmにおけるサンドペーパー張力巻きロス増が0.3dB/km以下である」のに対して、
引用発明は、不明である点。

(5)判断
ア 上記<相違点1>ないし<相違点3>について検討する。
(ア)まず、本願補正発明において、「Δ3-Δ2min」を「0.05%」とし、「r1/r2」を「0.4以上、0.5以下」とする技術的意義について、本願明細書の記載を参酌して検討する。

本願明細書には、以下の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の一態様に係る光ファイバは、光ファイバが、コアと、前記コアと同芯状に前記コアの外周を取り囲むように形成され、前記コアの外周に隣接した内クラッド部と、前記内クラッド部の外周に形成される外クラッド部とを少なくとも有するクラッドとを有する。前記コアの屈折率をΔ1、最大の屈折率をΔ1max、外周半径をr1とし、前記内クラッド部の屈折率をΔ2、最小の屈折率をΔ2min、外周半径をr2とし、前記外クラッド部の屈折率をΔ3、外周半径をr3とした場合、Δ1max>Δ3>Δ2minであり、Δ3-Δ2min≦0.08%であり、r1<r2<r3であり、0.35≦r1/r2≦0.55であり、ケーブルカットオフ波長が1260nm以下であり、波長1310nmにおけるMFDが8.6μm以上、かつ9.2μm以下である。」

上記記載からして、
「Δ3-Δ2min≦0.08%」及び「0.35≦r1/r2≦0.55」の2つの条件を満たすことにより、「ケーブルカットオフ波長が1260nm以下であり、波長1310nmにおけるMFDが8.6μm以上、かつ9.2μm以下」になるものと解される。
また、本願明細書の他の記載を見ても、「Δ3-Δ2min=0.05%」においてのみ、格別顕著な効果を奏する旨の記載は認められない。

そうすると、本願補正発明は、上記2つの条件のうち、前者の条件を「0.05%」に固定するとともに、後者の条件を単に狭めたものであることが理解できる。

(イ)一方、引用文献の【0004】には「…いくつかの実施形態においては、r_(1)/r_(2)は、…更に好ましくは、0.3を上回り、且つ、なお更に好ましくは、0.4を上回る。…いくつかの実施形態においては、Δ_(4)とΔ_(2)の間の差は、0.03?0.06であり」と記載されている。
このことを踏まえて、引用文献の表2aに示された、実施例9ないし実施例14を見ると、r_(1)/r_(2)を「0.35?0.43」に、Δ_(4)とΔ_(2)の間の差を「0.03?0.07%」に設定することで、MDFを「8.8?9.20μm」としていることが理解できる。

(ウ)そうすると、引用発明において、「外径r_(1)/外径r_(2)」を「0.4」を上回る「0.42程度」にするとともに、「屈折率Δ_(4)と屈折率Δ_(2)の間の差」を「0.05%程度」とすることで、MDFを「9.0μm程度」とすることは、当業者が引用文献に記載された事項に基づいて容易になし得たことである。

(エ)よって、引用発明において、上記<相違点1>ないし<相違点3>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が引用文献に記載された事項に基づいて容易になし得たことである。

イ 上記<相違点4>について検討する。
(ア) 引用発明の「ヤング係数1MPa未満の第1被覆と、ヤング係数1100MPaを上回る第2被覆」に関して、引用文献の【0010】には「…このような曲げ損失及び減衰性能の数値は、ファイバに適用される第1及び第2被覆を使用して実現可能であり、……且つ、なお更に好ましくは、1100MPaを上回る。」と記載され、曲げ損失等の低減のために採用されていることが理解できる。

(イ)してみると、引用発明の「ヤング係数1MPa未満の第1被覆と、ヤング係数1100MPaを上回る第2被覆」について、その被膜の厚み等を適宜調整することにより、「半径15mmのマンドレルに10回巻いたときの1550nmにおける損失増加が0.02dB以下であり、半径10mmのマンドレルに1回巻いたときの1550nmにおける損失増加が0.2dB以下であり、光ファイバ素線の、波長1550nmにおけるサンドペーパー張力巻きロス増が0.3dB/km以下」とすることは、当業者が適宜なし得た設計事項であると認められる。

(ウ)よって、引用発明において、上記<相違点4>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 上記ア及びイの検討からして、
本願補正発明は、当業者が引用発明及び引用文献に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(6)審判請求書における主張
請求人は、審判請求書(第4頁中段)において、以下のように主張していることから、この点について検討する。

「……引用文献1の実施例11、14、42-43、46に記載された光ファイバにおいて、Δ4-Δ2=0.05%とする記載や示唆はありません。」

ア しかしながら、本願明細書の【0008】には「……Δ1max>Δ3>Δ2minであり、Δ3-Δ2min≦0.08%であり、……。」と記載されているだけで、「Δ3-Δ2min=0.05%」の場合に、顕著な効果を奏する旨の記載はなく、特性については、引用文献に記載された実施例11等の「低曲げ損失光ファイバ」と同様のものであると認められる。

イ よって、請求人の上記主張は、上記「(5)判断」の判断を左右するものではない。

(7)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおりであるから、引用発明において、上記<相違点1>ないし<相違点4>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が引用文献に記載された事項に基づいて容易になし得たことである。
そして、本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果から予測し得る範囲内のものであり、上記<相違点1>ないし<相違点4>を総合判断しても、本願補正発明は、当業者が引用発明及び引用文献に記載された事項に基づいて容易になし得たことであるというほかない。

4 補正却下の決定の理由のむすび
上記「3」のとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて、本件補正前の請求項1に係る発明として記載した、以下のとおりのものである(再掲)。

「コアと、
前記コアと同芯状に前記コアの外周を取り囲むように形成され、前記コアの外周に隣接した内クラッド部と、前記内クラッド部の外周に形成される外クラッド部とを少なくとも有するクラッドと
を有する光ファイバにおいて、
前記コアの屈折率をΔ1、最大の屈折率をΔ1max、外周半径をr1とし、
前記内クラッド部の屈折率をΔ2、最小の屈折率をΔ2min、外周半径をr2とし、
前記外クラッド部の屈折率をΔ3、外周半径をr3とした場合、
Δ1max>Δ3>Δ2minであり、
Δ3-Δ2min≦0.08%であり、
r1<r2<r3であり、
0.4≦r1/r2≦0.5であり、
ケーブルカットオフ波長が1260nm以下であり、
波長1310nmにおけるMFDが8.8μm以上、かつ9.2μm以下であり、
半径15mmのマンドレルに10回巻いたときの1550nmにおける損失増加が0.02dB以下であり、半径10mmのマンドレルに1回巻いたときの1550nmにおける損失増加が0.2dB以下であり、光ファイバ素線の、波長1550nmにおけるサンドペーパー張力巻きロス増が0.3dB/km以下である光ファイバ。」

2 引用文献
引用文献の記載事項は、上記「第2 3(2)及び(3)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
(1)本願発明は、上記「第2 2」で検討した本願補正発明の「Δ3-Δ2min=0.05%」を、より数値範囲の広い「Δ3-Δ2min≦0.08%」に変更したものである。

(2)そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに、「Δ3-Δ2min」の数値を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3(4)及び(5)」で対比・判断したとおり、当業者が引用発明及び引用文献に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が引用発明及び引用文献に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 平成29年9月8日提出の意見書における主張
請求人は、意見書(第1頁下段ないし第2頁上段)において、以下のように主張していることから、この点について検討する。

「引用文献2について、審査官殿は、実施例11、14、42、43、46が、…であることを指摘し、上記の実施例において、『直径30mm(半径15mm)のマンドレルに10回巻いたときの損失増加を0.02dB以下』とすることは、当業者であれば適宜なし得る設計変更である、としています。
しかし、…本願発明のように0.02dB以下と極めて小さくすることは、当業者にとって容易ではありません。」

当審注:上記引用文献2は、審決における「引用文献」である。

(1)引用文献に記載された実施例11等の「低曲げ損失光ファイバ」における、コアとクラッドの物性値は、本願発明と同様のものである。

(2)そうすると、請求人の上記「…0.02dB以下と極めて小さくすることは、当業者にとって容易ではありません。」との主張は、「光ファイバ裸線」としては同じであっても、樹脂被膜を採用して「光ファイバ素線」とした際に、「…0.02dB以下と極めて小さくすることは、当業者にとって容易ではありません。」と主張するものと解される。

(3)しかしながら、上記「第2 3(5)判断」で検討したように、引用発明において、「第1被覆」及び「第2被覆」の厚み等を適宜調整することにより、「0.02dB以下」とすることは、当業者が容易になし得たことであると認められる。

(4)よって、請求人の上記主張は、上記第2 3(5)判断」の判断を左右するものではない。

5 まとめ
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-06 
結審通知日 2019-03-12 
審決日 2019-03-26 
出願番号 特願2016-564278(P2016-564278)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野口 晃一  
特許庁審判長 西村 直史
特許庁審判官 星野 浩一
山村 浩
発明の名称 光ファイバ  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 小室 敏雄  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 清水 雄一郎  

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