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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04C
管理番号 1351290
審判番号 不服2018-6005  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-01 
確定日 2019-05-09 
事件の表示 特願2013-237957「スクロール流体機械」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月28日出願公開、特開2015- 98794〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年11月18日の出願であって、平成29年7月20日付けの拒絶理由の通知に対し、平成29年9月25日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成30年1月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成30年5月1日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成30年5月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年5月1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された。
「【請求項1】
端板上に渦巻き状ラップが立設されている一対の固定スクロールおよび旋回スクロールの前記渦巻き状ラップ同士を噛み合わせて構成されるスクロール流体機械において、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの前記渦巻き状ラップのラップ歯先面の角部に微小面取りが設けられるとともに、
前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面を含む前記ラップ歯先面に被切削性を有するアブレイダブルシール材がコーティングされ、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの前記渦巻き状ラップの歯底面の角部に、相手方渦巻き状ラップの前記ラップ歯先面の角部に設けられた前記微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられ、
前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、前記渦巻き状ラップの前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの前記他の微小面取り以外の歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間に相当する厚さとされていることを特徴とするスクロール流体機械。
【請求項2】
前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、0.02?0.05mmとされていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール流体機械。
【請求項3】
前記微小面取りが、0.05?0.2mmとされていることを特徴とする請求項2に記載のスクロール流体機械。
【請求項4】
前記アブレイダブルシール材が、ロールコーターを用いて前記ラップ歯先面に対しコーティングされていることを特徴とする請求項1または2に記載のスクロール流体機械。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲の記載は次のとおりである
「【請求項1】
端板上に渦巻き状ラップが立設されている一対の固定スクロールおよび旋回スクロールの前記渦巻き状ラップ同士を噛み合わせて構成されるスクロール流体機械において、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの前記渦巻き状ラップのラップ歯先面の角部に微小面取りが設けられるとともに、
前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面を含む前記ラップ歯先面に被切削性を有するアブレイダブルシール材がコーティングされていることを特徴とするスクロール流体機械。
【請求項2】
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの前記渦巻き状ラップの根元部に、相手方渦巻き状ラップの前記ラップ歯先面の角部に設けられた前記微小面取りに対応する微小面取りが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール流体機械。
【請求項3】
前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、前記渦巻き状ラップのラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間に相当する厚さとされていることを特徴とする請求項1または2に記載のスクロール流体機械。
【請求項4】
前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、0.02?0.05mmとされていることを特徴とする請求項3に記載のスクロール流体機械。
【請求項5】
前記微小面取りが、0.05?0.2mmとされていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のスクロール流体機械。
【請求項6】
前記アブレイダブルシール材が、ロールコーターを用いて前記ラップ歯先面に対しコーティングされていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のスクロール流体機械。」

2.補正の適否
前記(1)及び(2)に摘記した本件補正前後の特許請求の範囲の記載を比較すると、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項2を引用する請求項3に対応する。
そうすると、特許請求の範囲についての本件補正は、本件補正前の請求項1?2を削除するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものである。
更に、特許請求の範囲についての本件補正は、請求項2を引用する請求項3において、本件補正前の請求項2に記載された「前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの前記渦巻き状ラップの根元部に、相手方渦巻き状ラップの前記ラップ歯先面の角部に設けられた前記微小面取りに対応する微小面取りが設けられている」を「前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの前記渦巻き状ラップの歯底面の角部に、相手方渦巻き状ラップの前記ラップ歯先面の角部に設けられた前記微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられ」に変更し(下線は補正箇所である。)、且つ本件補正前の請求項3に記載された「前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、前記渦巻き状ラップのラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間に相当する厚さとされている」を「前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、前記渦巻き状ラップの前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの前記他の微小面取り以外の歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間に相当する厚さとされている」(下線は補正箇所である。)に変更する補正を含むものであって、相手方渦巻き状ラップのラップ歯先面の角部に設けられた微小面取りに対応する微小面取りを設ける箇所について、補正前の請求項2に記載された、固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き状ラップの「根元部」を「歯底面の角部」に限定し、また、ラップ歯先隙間について、補正前の請求項3に記載された「前記渦巻き状ラップのラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間」を「前記渦巻き状ラップの前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの前記他の微小面取り以外の歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間」に限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1.(1)」の請求項1に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア.原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2001-342979号公報(平成13年12月14日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(ア)「【0002】
【従来の技術】スクロール型圧縮機のスクロール部材においては、流体を洩れなく、効率よく圧縮するために、非常に高い寸法精度が要求される。このスクロール部材の寸法精度を容易に確保するために、従来技術として特開平9ー88851号公報が開示されている。即ち、図4に示すように、一組のスクロール部材120、140の少なくとも一方の表面に、フッ素系樹脂皮膜174を形成し、通常の使用状態で一組のスクロール部材120、140を摺動させ、フッ素系樹脂皮膜174を所定の膜厚まで摺動摩耗させるものである。
【0003】これにより、スクロール部材120、140の精密な寸法精度が、煩雑な機械研削加工を必要とせず、簡便にフッ素皮膜174の膜厚で調整できるようになり、製造効率や製造コストの改善をはかるようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、例えば、スクロール部材120、140の機械加工においては、加工の逃がしや、刃具の形状に制約があるため、組み合わせたスクロール部材120、140間どうしに生ずる隙間部、特にそれらの隅部に生ずる隙間部をなくすことはできない。この点、上記公報記載の発明は、スクロール部材120、140の主表面の寸法精度の調整容易化に関する技術であり、上記のような隙間部を埋めるという技術思想はなく、また隙間部を埋めることを考慮してフッ素系樹脂皮膜174の膜厚を設定するという考え方もない。そのため、上記表面処理皮膜174の摩耗処理では、隙間部の埋め合わせはできないため、そこからの流体洩れは防止できず、圧縮機としての性能が低下する。特に、CO2ガス冷媒を用いた冷凍サイクルのように、吸入側と吐出側との圧力差が非常に大きく、吐出容積の小さい超臨界冷凍サイクルで作動させるような場合は、フロン系の低圧冷媒による冷凍サイクルではほとんど影響のなかった隙間部からの流体洩れによる性能低下が無視できない。
【0005】本発明の目的は、上記問題に鑑み、冷媒を高圧にして用いる場合にも、スクロール部材間の隙間部からの洩れを防止し、性能向上できるスクロール型圧縮機およびそのスクロール部材の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0007】請求項1に記載の発明では、固定スクロール部材(120)および可動スクロール部材(140)を備え、前記両スクロール部材(120、140)によって形成される作動室(VC)に吸入される流体を圧縮し、吐出するスクロール型圧縮機において、前記作動室(VC)の隙間部(160)は、前記両スクロール部材(120、140)の少なくとも一方の表面に形成され、他方のスクロール部材(120、140)よりも硬度の低い表面処理材(170)で埋められていることを特徴としている。
【0008】これにより、機械加工では回避できない前記スクロール部材(120、140)間、即ち、作動室(VC)に生ずる隙間部(160)を表面処理材(170)で埋めるので、流体の洩れが防止でき圧縮機の性能向上(圧縮効率向上)ができる。特に流体を高圧にして用いる場合には、隙間部(160)による性能への影響が大きいため、より効果的に性能向上できる。
【0009】請求項2および請求項3に記載の発明では、前記両スクロール部材(120、140)は、鉄鋼材、あるいは非鉄金属材であり、前記表面処理材(170)は、樹脂材(171)、あるいは樹脂および金属の複合材(172)であることを特徴としている。
【0010】具体的には、前記樹脂材(171)はテフロン樹脂であり、前記樹脂および金属の複合材(172)は、テフロン(登録商標)樹脂にニッケル-リン合金を加えた複合材、あるいはポリアミドイミドに二硫化モリブデンを加えた複合材であることを特徴としている。
【0011】これにより、安価で容易に隙間部(160)を埋めることができ、流体の洩れを防止できる。
【0012】請求項4および請求項5に記載の発明では、前記両スクロール部材(120、140)は、鉄鋼材、あるいは非鉄金属材であり、前記表面処理材(170)は、メッキ材(173)であることを特徴としている。
【0013】具体的には、前記メッキ材(173)は、錫、あるいはニッケル-リン合金であることを特徴としている。
【0014】これにより、前記メッキ材(173)は、前記スクロール部材(120、140)と金属結合するので剥がれ落ちるようなことがなく耐久性に優れ、更に効果的に隙間部(160)からの洩れを防止できる。」

(イ)「【0017】請求項7に記載の発明では、請求項1に記載のスクロール型圧縮機のスクロール部材の製造方法であって、前記両スクロール部材(120、140)の少なくとも一方の渦巻き壁の表面に、前記両スクロール部材(120、140)間に生ずる前記隙間部(160)の最大距離以上の厚さに前記表面処理材(170)を被覆し、前記両スクロール部材(120、140)を渦巻き壁同士が噛み合う状態で圧接させて偏心公転運動させ、前記表面処理材(170)を所定の膜厚まで摺動摩耗させることを特徴としている。」

(ウ)「【0020】
【発明の実施の形態】(第1実施形態)図1は本実施形態に係るスクロール型圧縮機(以下、圧縮機と略す。)100の軸方向断面図であり、まず全体構成について説明する。図1中、110はフロントハウジングであり、120はフロントハウジングに固定された固定スクロール部材であり、130は固定スクロール部材120に固定されたリアハウジングである。
【0021】固定スクロール部材120は、周知のごとく、略円板状の固定基板121、および固定基板121からフロントハウジング110側に向けて突出した渦巻き状の固定スクロール122を有して構成されており、固定スクロール部材120とフロントハウジング110との間に形成される空間には、固定スクロール120に対して旋回(公転)する可動スクロール部材140が配設されている。
【0022】なお、可動スクロール部材140も、固定スクロール部材120と同様に、略円板状の可動基板141、および可動基板141から固定基板121側に向けて突出した渦巻き状の可動スクロール142を有して構成されており、両スクロール122、142により冷媒(流体)を吸入圧縮する作動室VCが形成されている。」

(エ)「【0029】次に、本発明の要部となる両スクロール部材120、140の詳細構成について説明する。
【0030】両スクロール部材120、140は非鉄金属材としてのアルミニュウム合金材から成り、ダイキャスト加工により、両基板121、141および両スクロール122、142が一体で成形され、その後、フライス加工等の機械加工により各部位の精度出しがなされる。しかしながら図2(a)に示すように機械加工においては、加工の逃がしや、刃具の形状に制約があるため、例えば、組み合わせた両スクロール122、142の歯底、歯先間には隙間部160が生ずることになる。この隙間部160を構成する両スクロール122、142間の最大距離Aは、加工工具や加工方法によってばらつくものの、5?15μm程度生ずる。
【0031】ここで、図2(b)に示すように上記機械加工の後に、固定スクロール120の可動スクロール140側の表面に、隙間部160の最大距離Aを考慮し、その最大距離A以上の膜厚(15?25μmが好ましく、本実施形態では、約20μm)の錫メッキ173を施し、圧縮機100を構成している。そして、初期作動として、通常の回転速度領域(3500?5000rpm)で作動させる。(30分?1時間)これにより、錫メッキ173は、可動スクロール部材120よりも硬度が低い材質にしているため、図2(c)に示すように、初期作動により両スクロール部材120、140間どうしの摺動部では摩耗し、互いに摺動しない部分では残る。尚、摺動部で摩耗した摩耗粉は隙間部160へ押し出され隙間部160を塞ぐように凝着、押圧される部分もある。よって、機械加工では回避できない両スクロール部材120、140間、即ち、作動室VCに生ずる隙間部160は、摺動せずに残った錫メッキ173により確実に埋められるので、冷媒の洩れが防止でき圧縮機の性能向上(圧縮効率向上)ができる。また、メッキによる金属結合により剥がれ落ちるようなことがなく耐久性に優れる。
【0032】尚、上記両スクロール部材120、140の材質は非鉄金属材としてのアルミニュウム合金材に変えて、鉄鋼材(スクロールの成形をするのには鋳鉄が好ましい。)を用いてもよく、メッキ材としては、上記と同様の効果の得られるニッケル-リン合金材としてもよい。
【0033】またメッキ(173)部位は、両スクロール部材120、140の機械加工の精度に応じて、例えば図3(a)に示すように固定スクロール部材120の固定基板121の表面や固定スクロール122の歯先に部分的に施してもよい。図3(b)に示すように、両スクロール122、142のそれぞれの歯先に施してもよい。更に、可動スクロール部材140の固定スクロール部材120側の表面にメッキを施すようにしてもよい。
【0034】(その他の実施形態)その他の実施形態として、上記第1実施形態で説明したメッキ材に変えて、コストが安く、容易に表面処理できる樹脂材としてもよく、具体的な材質として、テフロン材、テフロン+ニッケル-リンの複合材、ポリアミドイミド+二硫化モリブデンの複合材が提示できる。」

・図2(a)、(c)から、可動スクロール142の歯先面の角部に微小面取りが設けられていることが看取され、記載事項(エ)の段落【0030】の「両スクロール部材120、140は非鉄金属材としてのアルミニュウム合金材から成り、ダイキャスト加工により、両基板121、141および両スクロール122、142が一体で成形され、その後、フライス加工等の機械加工により各部位の精度出しがなされる。しかしながら図2(a)に示すように機械加工においては、加工の逃がしや、刃具の形状に制約があるため、例えば、組み合わせた両スクロール122、142の歯底、歯先間には隙間部160が生ずることになる。」との記載より、可動スクロール142の歯先面の角部に微小面取りが設けられているのであれば、固定スクロール122の歯先面の角部にも微小面取りが設けられていることは明らかであるといえるので、記載事項(エ)及び図2(a)、(c)の記載からみて、両スクロール122、142の歯先面の角部に微小面取りが設けられることが理解できる。また、図3(b)からも、両スクロール122、142の歯先面の角部に微小面取りが設けられることが看取される。したがって、記載事項(エ)、図2(a)、(c)及び図3(b)の記載からみて、引用文献1には次の事項が記載されていると理解できる。
(オ)両スクロール部材120、140の両スクロール122、142の歯先面の角部に微小面取りが設けられること。

・表面処理材の被覆箇所について、記載事項(エ)の段落【0033】及び図3(b)には、両スクロール122、142のそれぞれの歯先にメッキ材(表面処理材)を施すことが記載されている。そして、表面処理材について、記載事項(ア)の段落【0009】及び段落【0012】には、表面処理材は樹脂材又はメッキ材であることが記載されており、また、記載事項(エ)の段落【0034】には、表面処理材をメッキ材に代えて樹脂材を用いてもよいことが記載されている。したがって、記載事項(ア)、(イ)、(エ)及び図3(b)の記載から、引用文献1には次の事項が記載されていると理解できる。
(カ)両スクロール122、142のそれぞれの歯先に表面処理材である樹脂材を被覆すること。

・図2(a)、(c)の記載から、固定スクロール122の歯底面の角部に、固定スクロール122と組み合う可動スクロール142の歯先面の角部に設けられた微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられていることが看取され、記載事項(エ)の段落【0030】の記載から、固定スクロール122の歯底面の角部に、固定スクロール122と組み合う可動スクロール142の歯先面の角部に設けられた微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられているのであれば、可動スクロール142の歯底面の角部にも、可動スクロール142と組み合う固定スクロール122の歯先面の角部に設けられた微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられていることは明らかであるといえるので、記載事項(エ)及び図2(a)、(c)の記載からみて、可動スクロール142の歯底面の角部に、可動スクロール142と組み合う固定スクロール122の歯先面の角部に設けられた微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられ、固定スクロール122の歯底面の角部に、固定スクロール122と組み合う可動スクロール142の歯先面の角部に設けられた微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられることが理解できる。また、図3(b)の記載からも、可動スクロール142の歯底面の角部に、可動スクロール142と組み合う固定スクロール122の歯先面の角部に設けられた微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられ、固定スクロール122の歯底面の角部に、固定スクロール122と組み合う可動スクロール142の歯先面の角部に設けられた微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられることが看取される。したがって、記載事項(エ)、図2(a)、(c)及び図3(b)の記載からみて、引用文献1には次の事項が記載されていると理解できる。
(キ)両スクロール部材120、140の両スクロール122、142の歯底面の角部に、可動スクロール142と組み合う固定スクロール122及び固定スクロール122と組み合う可動スクロール142の歯先面の角部に設けられた微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられること。

・記載事項(ア)、(イ)及び(エ)の記載から、引用文献1には次の事項が記載されていると理解できる。
(ク)表面処理材である樹脂材に所定の膜厚が存在すること。

イ.そうすると、これらの事項からみて、引用文献1には、本件補正後の請求項1の記載に倣って整理すれば、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「固定基板121から突出した渦巻き状の固定スクロール122を有する固定スクロール部材120と可動基板141から突出した渦巻き状の可動スクロール142を有する可動スクロール部材140とを備えたスクロール型圧縮機において、
両スクロール部材120、140の両スクロール122、142の歯先面の角部に微小面取りが設けられるとともに、
前記両スクロール122、142のそれぞれの歯先に表面処理材である樹脂材を被覆し、
前記両スクロール部材120、140の前記両スクロール122、142の歯底面の角部に、前記可動スクロール142と組み合う前記固定スクロール122及び前記固定スクロール122と組み合う前記可動スクロール142の歯先面の角部に設けられた微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられ、
表面処理材である前記樹脂材に所定の膜厚が存在する、スクロール型圧縮機。」

(3)本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
(ア)引用発明における「固定基板121」又は「可動基板141」は、本件補正発明における「端板」に相当する。以下同様に、「渦巻き状の固定スクロール122」又は「渦巻き状の可動スクロール142」は「渦巻き状ラップ」に、「固定スクロール部材120」は「固定スクロール」に、「可動スクロール部材140」は「旋回スクロール」に、「スクロール型圧縮機」は「スクロール流体機械」に、「両スクロール部材120、140の両スクロール122、142」は「固定スクロール及び旋回スクロールの前記渦巻き状ラップ」に、「歯先面」は「ラップ歯先面」に、「被覆し」との態様は「コーティングされ」との態様に、「前記可動スクロール142と組み合う前記固定スクロール122及び前記固定スクロール122と組み合う前記可動スクロール142」は「相手方渦巻き状ラップ」に相当する。
(イ)引用発明の「固定スクロール122」又は「可動スクロール142」は、「固定基板121」又は「可動基板141」から突出していることから、「固定基板121」又は「可動基板141」上に立設しているといえるので、引用発明の「固定基板121から突出した渦巻き状の固定スクロール122を有する固定スクロール部材120と可動基板141から突出した渦巻き状の可動スクロール142を有する可動スクロール部材140」は、本件補正発明の「端板上に渦巻き状ラップが立設されている一対の固定スクロールおよび旋回スクロール」に相当する。そして、引用発明の「スクロール型圧縮機」は、記載事項(ウ)の段落【0022】、記載事項(エ)の【0030】、図2(a)、(c)及び図3(b)の記載より、両スクロール部材120、140の両スクロール122、142を噛み合わせて構成されているといえるから、引用発明の「固定基板121から突出した渦巻き状の固定スクロール122を有する固定スクロール部材120と可動基板141から突出した渦巻き状の可動スクロール142を有する可動スクロール部材140とを備えたスクロール型圧縮機」は、本件補正発明の「端板上に渦巻き状ラップが立設されている一対の固定スクロールおよび旋回スクロールの前記渦巻き状ラップ同士を噛み合わせて構成されるスクロール流体機械」に相当する。
(ウ)引用文献1の段落【0017】より、被覆される表面処理材は摺動摩耗する部材であることから表面処理材は被切削性を有するコーティング層であることが理解でき、また、引用文献1の段落【0008】?【0009】及び段落【0031】の記載より、両スクロール部材120、140によって形成される作動室VCに生ずる隙間部を表面処理材で埋めて流体の洩れを防止していることから、表面処理材はシールの機能を備えていることも理解できるので、引用発明の「表面処理材である樹脂材」は、本件補正発明における「被切削性を有するアブレイダブルシール材」に相当する。そして、引用文献1の段落【0033】には、両スクロール122、142のそれぞれの歯先にメッキ材(表面処理材)を施すことが記載されており、引用文献1の段落【0033】及び図3(b)の記載より、微小面取り以外の歯先面を含む歯先面に表面処理材が被覆されているといえるから、引用発明の「前記両スクロール122、142のそれぞれの歯先に樹脂材を被覆し」は、本件補正発明の「前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面を含む前記ラップ歯先面に被切削性を有するアブレイダブルシール材がコーティングされ」に相当する。
(エ)引用文献1の段落【0017】より、表面処理材は、両スクロール部材を渦巻き壁同士が噛み合う状態で圧接させて偏心公転運動させることにより所定の膜厚まで摺動摩耗され、また、引用文献1の段落【0008】?【0009】及び段落【0031】より、表面処理材は、両スクロール部材120、140によって形成される作動室VCに生ずる隙間部を埋めて流体の洩れを防止することから、表面処理材は、両スクロール122、142間の隙間に相当する厚さとなるまで摺動摩耗されて、両スクロール122、142間の隙間を埋めるものであるといえる。ここで、両スクロール122、142間の「隙間」に関し、特に段落【0004】には、「スクロール部材120、140の機械加工においては、加工の逃がしや、刃具の形状に制約があるため、組み合わせたスクロール部材120、140間どうしに生ずる隙間部、特にそれらの隅部に生ずる隙間部をなくすことはできない。」との記載があるが、当該記載は、機械加工の制約により、スクロール部材120、140間どうしに生じる隙間部をなくすことはできず、特に隅部に生じる隙間部をなくすことはできないことを言及しているものの、両スクロール122、142の隅部以外の歯先も当然機械加工の制約を受けるものと解され、段落【0004】の上記記載は、スクロール部材120、140間の隙間部は隅部にのみ生じることを意味すると理解されるものではない。してみると、両スクロール122、142間の隅部以外の歯先面と歯底面との間にも隙間が存在しており、両スクロール122、142のそれぞれの歯先に表面処理材が施された図3(b)のものにおいて、両スクロール122、142の隅部以外の歯先面には所定の膜厚の表面処理材が存在しているといえ、この所定の膜厚は、摺動摩耗により、両スクロール122、142の微小面取り以外の歯先面と歯底面との間において、その歯先面と歯底面との間の隙間に相当する厚さとなっていることは明らかである。
以上より、引用発明の「表面処理材である前記樹脂材に所定の膜厚が存在する」は、本件補正発明の「前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、前記渦巻き状ラップの前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの前記他の微小面取り以外の歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間に相当する厚さとされている」に相当する。
なお、請求人は、平成30年5月1日付け審判請求書の「3.(3)」において、「引用文献1には、摺動部においてもメッキを残すということが何ら記載も示唆もされていない以上、図3(a)の先端部において隙間を埋めるメッキが残されている、との認定には誤りがあると考えます。また、引用文献1は、図3(a)の先端部において隙間を埋めるメッキが残される、ということを示した発明ではないと考えます。」との主張をしているが、上述したように、両スクロール122、142間の隅部以外の歯先面と歯底面との間にも隙間が存在しており、両スクロール122、142のそれぞれの歯先に表面処理材が施された図3(b)のものにおいて、両スクロール122、142の隅部以外の歯先面には所定の膜厚の表面処理材が存在しているといえるから、請求人の上記主張を採用することはできない。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点は以下のとおりである。

「端板上に渦巻き状ラップが立設されている一対の固定スクロールおよび旋回スクロールの前記渦巻き状ラップ同士を噛み合わせて構成されるスクロール流体機械において、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの前記渦巻き状ラップのラップ歯先面の角部に微小面取りが設けられるとともに、
前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面を含む前記ラップ歯先面に被切削性を有するアブレイダブルシール材がコーティングされ、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの前記渦巻き状ラップの歯底面の角部に、相手方渦巻き状ラップの前記ラップ歯先面の角部に設けられた前記微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられ、
前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、前記渦巻き状ラップの前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの前記他の微小面取り以外の歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間に相当する厚さとされている、スクロール流体機械。」

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、発明特定事項の全てにおいて一致し、相違点はない。
したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当し、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

3.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成30年5月1日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年9月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2[理由]1.(2)」の請求項1に記載のとおりのものである。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記「第2[理由]2.(2)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]2.」で検討した本件補正発明から、「前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの前記渦巻き状ラップの歯底面の角部に、相手方渦巻き状ラップの前記ラップ歯先面の角部に設けられた前記微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられ、前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、前記渦巻き状ラップの前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの前記他の微小面取り以外の歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間に相当する厚さとされ」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2[理由]2.(3)」に記載したとおり、引用文献1に記載された発明であることから、本願発明も、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、平成30年8月17日の上申書において、以下の特許請求の範囲の補正案を提出する機会を希望する旨を上申している。

「[請求項1]
端板上に渦巻き状ラップが立設されている一対の固定スクロールおよび旋回スクロールの前記渦巻き状ラップ同士を噛み合わせて構成されるスクロール流体機械において、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの前記渦巻き状ラップのラップ歯先面の角部に微小面取りが設けられるとともに、
前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面を含む前記ラップ歯先面に被切削性を有するアブレイダブルシール材がコーティングされ、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの前記渦巻き状ラップの歯底面の角部に、相手方渦巻き状ラップの前記ラップ歯先面の角部に設けられた前記微小面取りに対応する他の微小面取りが設けられ、
前記渦巻き状ラップの前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの前記他の微小面取り以外の歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間における前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、前記ラップ歯先隙間に相当する厚さとされ、かつ、0.02?0.05mmとされていることを特徴とするスクロール流体機械。
[請求項2]
前記微小面取りが、0.05?0.2mmとされていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール流体機械。
[請求項3]
前記アブレイダブルシール材が、ロールコーターを用いて前記ラップ歯先面に対しコーティングされていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール流体機械。」

本件補正後の特許請求の範囲の記載と前記補正案の特許請求の範囲の記載を比較すると、補正案の補正は、本件補正後の請求項1を削除するとともに、補正案の請求項1について、本件補正後の請求項1の「前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、前記渦巻き状ラップの前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの前記他の微小面取り以外の歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間に相当する厚さとされている」且つ本件補正後の請求項2の「前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、0.02?0.05mmとされている」との記載を、「前記渦巻き状ラップの前記微小面取り以外の前記ラップ歯先面と、相手方渦巻き状ラップの前記他の微小面取り以外の歯底面との間に設定されるラップ歯先隙間における前記アブレイダブルシール材のコーティング厚さが、前記ラップ歯先隙間に相当する厚さとされ、かつ、0.02?0.05mmとされている」との記載に変更する補正を含むものである。
引用発明の表面処理材である樹脂材の「膜厚」に関し、前記「第2[理由]2.(3)」に記載したとおり、両スクロール122、142の微小面取り以外の歯先面と歯底面との間において、表面処理材である樹脂材の膜厚は、その歯先面と歯底面との間の隙間に相当する厚さであり、この歯先面と歯底面との間の隙間をどの程度の値に設定するかは、機械加工の精度や熱膨張等を考慮して当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。また、その効果についても、その数値限定の内と外のそれぞれの効果について量的に顕著な差異があるとも認められない。
したがって、補正案の請求項1に係る発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条1項第3号の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-11 
結審通知日 2019-03-12 
審決日 2019-03-25 
出願番号 特願2013-237957(P2013-237957)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F04C)
P 1 8・ 113- WZ (F04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 愛子冨永 達朗  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 藤井 昇
山村 和人
発明の名称 スクロール流体機械  
代理人 川上 美紀  
代理人 藤田 考晴  
代理人 三苫 貴織  
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