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審決分類 審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1351324
審判番号 不服2017-18019  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-05 
確定日 2019-05-08 
事件の表示 特願2015-241802「幾何会計処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月15日出願公開、特開2017-107468〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年12月11日に出願された特許出願であって、平成29年4月18日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年8月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月30日付で拒絶の査定がなされ、同拒絶査定の謄本が請求人に送達された。
これに対して、同年12月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。
(なお、平成29年12月5日になされた手続補正による特許請求の範囲の補正は、特許請求の範囲(同年8月5日に提出された手続補正書による補正後の特許請求の範囲)の請求項1の末尾が「コンピュータプログラム」とされ、請求項1の従属項である請求項2ないし7の末尾が「コンピュータプログラムを用いた会計処理方法」とされていたものを、請求項1ないし7のいずれについても、それぞれの請求項に記載された内容の実質の変更を伴わずに、末尾を「幾何会計処理方法」とする等をその内容とするものであって、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。)

第2 原査定における拒絶の理由
理由1(発明該当性)
この出願の請求項1ないし7に記載されたものは、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
理由2(進歩性)
この出願の請求項1ないし7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献
1.特開2015-007965号公報
2.特開2000-285179号公報

第3 理由1(発明該当性)についての当審の判断
1 本願特許請求の範囲及び明細書の記載
(1)特許請求の範囲
特許請求の範囲の請求項1には、次のとおり記載されている。

原点で交差する2軸を、末時残高を含む勘定科目を配置した借方科目の軸(仮にX軸)、貸方科目の軸(仮にY軸)とする表作成処理ステップと、借方科目の軸(仮にX軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に費用の勘定科目を順に配置する処理ステップと、また、貸方科目の軸(仮にY軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に収益の勘定科目を順に配置した時、任意に時間指定された当該表において、前記2軸に配置された借方科目と貸方科目で指定する番地(ポイント)に金額Nを記録する処理ステップが、振替伝票の一行に、借方科目と金額Nと貸方科目と金額Nと取引日時を記載して、一回の取引を記録する事と同じワーク(作業)処理ステップとなるように制御するコンピュータプログラムにより実行される事を特徴とする幾何会計処理方法。

(2)明細書
明細書の技術分野、背景技術、発明が解決しようとする課題、発明の効果に関する記載は、概ね、次のとおりである。

ア 技術分野
「【0001】本発明は、財務諸表を、幾何学的に表示する事で、財務諸表を構成する、前月残高、借方合計、貸方合計、今月残高、に加えて、取引における借方科目、貸方科目、相互間のかかわり方を一瞥で表示認識できる幾何会計シートに関するものである。

イ 背景技術
「【0002】従来の財務諸表は、資産、負債、純資産、収益、費用に属する勘定科目毎に、前月残高、借方合計、貸方合計、今月残高、及びそれらから算出される、営業利益、経常利益、税引き前当期利益、当期利益等の数値を定形の財務諸表で表示している。
【0003】従来、例えば、建設業においては、売上管理と製造管理を同時に行う必要があり、且つ工事期間が発生するため、所定年度における対象年月の工事台帳 (所定の工事に対して少なくとも工事名,支払額,入金額,入金差額が表示された表)を作成することが必要となる。一般に市販されている建設業向けの「請負工事台帳」は、収入側として「請負契約金額」「工事受入金」を記入し、支出側として、「材料費」「労務費」「外注費」「経費」「工事の諸情報」を時系列に記入するようにされている。
【0004】また、現状の財務会計処理を行う装置(一般的に所定のOSがインストールされたコンピュータに、当該OS上で作動するアプリケーションソフトがインストールされた装置)は、財務会計や在庫、仕入、工数管理等複数の処理を同時に行い、データを一元化し各データが入力されていることを条件に会計管理台帳等を作成するようにされている。
【0005】このため財務会計及びソフトウエアの専門知識や複雑な振替伝票処理が必要となり、作業が煩雑となり(経営管理台帳を作成するに当たり複数のデータの入力が必要になる)、工事台帳、つまり原価表及び財務諸表を容易に作成することができないという欠点があった。
【0006】他にもこの種のシステムとして、例えば特許文献1により提案されたものが知られている。これは、月ごとに、ディスプレイ上に請求書表を表示させ、これに業者から発行された請求書情報を入力し、また、ディスプレイ上に入金表を表示させ、入金情報を入力するものである。そして、ディスプレイ上に工事台帳表を表示させ、先に作成された請求書表、入金表の情報をインポートしつつ、それ以外の情報を入力して、月ごとに工事台帳を作成し、これに工事ごとの入金差額(粗利益)、経費率(粗利益率)を表示させるものである。また、特許文献2には、入力手段と、表示手段と、工事台帳原簿を記憶する記憶手段と、前記表示手段に工事毎の工事台帳を1画面に表示させ、該工事台帳原簿に記憶させる処理手段と、を備えた工事台帳作成装置において、1画面に表示される工事台帳には、請負金額、業者毎の予算とその総額、業者ごとに要した原価とその総額が表示され、その表示内容の書き換え及び追加記入が可能にされた工事台帳作成装置が開示されている。」

ウ 発明が解決しようとする課題
「【0008】しかしながら、定形の財務諸表は、結果報告であり、その結果としての数値に至った経緯を確認する為には、補助簿にてその都度確認する必要があり煩雑である。その結果、経営に携わる立場にあるにもかかわらず、財務諸表を読むことが苦手ゆえに、経営の意思決定に支障をきたすことがある。
【0009】自社にて、もしくは、専属のコンサルタントにより、経営分析が出来る企業は、上記の限りではないが、財務に携わる要員が少ない小規模企業では、財務諸表が経営の指標として活用されておらずに、結果報告として、仮に負債が膨らめば危機感に苛まれ、利益が出たら直ちに満足感を抱き、これらの数値が発生した原因の特定と、その原因への対処方法、及び、当該数値が将来に及ぼす予測可能な影響にまで考えが及ばない事が今日の小規模企業を取り巻く課題となっている。
【0010】このように、専属の会計技術者を雇用していない中小、零細企業では、取引の記録と、決算内容の整合に苦労し、また、決算の内容から、企業成績の原因究明をする事に苦労し、さらに、決算の内容と売上における原価との因果関係の把握に苦労するという課題があった。
例えば、従来の貸借対照表及び損益計算書等の財務諸表においては、科目の数値を構成する相手科目と相手科目毎の数値を一瞥して判断できないという問題があった。例えば、貸借対照表の資産の中の現金科目に「10万円」の記載があるとき、この「10万円」を構成する相手科目と相手科目毎の金額は補助簿で確認する必要があった。また、これらの数値を一瞥して時系列に確認できない。また、従来、財務諸表は指定時刻におけるピンポイントの結果報告であり、その時刻の直前直後、さらにはその時刻以前以後の情報を得るためには、別途作成した財務諸表で確認する必要があった。さらに、財務諸表に記載された数値の時系列な連続変化の把握は極めて困難であった。
【0011】すなわち、上記の問題を解決する為には、各々の勘定科目に記された数値が何を意味するのかを理解する事が肝要であるが、その為には、会計に関する専門的な知識及び詳細な補助簿を必要とする。しかし、主に小規模の事業に携わる経営者の中には、その事に精通していない者も数多く、会計に関する専門的な知識が無くても理解出来る会計の手法が求められる。
そこで、取引で記録される数値が、資産、負債、純資産、収益、費用のいずれかに該当する勘定科目かつ、資産、負債、純資産のいずれかに該当する勘定科目、相互の目的で行われたことが一瞥で判断出来る幾何学的な図表で当該取引を表し、個々の取引における、原因と結果の二面性を一瞥で判断出来る、幾何会計シートを提供する。」

エ 発明の効果
「【0020】本発明によれば、下記の優れた効果が得られる。
(1)従来の財務諸表は、唯々、結果報告であり、その結果としての数値に至った経緯を知る為には、補助簿にて確認する必要がある。
そこで、本発明の幾何会計シートでは、従来の財務諸表が提供している結果報告たる役割に加えて、取引を記録する二つの勘定科目、相互間の関係を同時に提供する事により、取引の数値に起因する原因の解明に対して、従来以上に詳細な情報を提供する事が可能となる。
(2)本来、経営に携わる者は、財務に対しても相応の知識を持ってそれに臨むべきところであるが、小規模企業の経営者をはじめとして、財務諸表を読むことが苦手ゆえに、経営の意思決定に支障をきたす企業が数多く存在する。これらの企業が、幾何会計を用いることで、財務諸表を読み込まなくても、資産、負債、純資産、収益、費用の各、勘定科目において、前月残高、借方合計・貸方合計、今月残高、及び、取引における借方科目、貸方科目相互間の関係、更には、営業利益、経常利益、等を一瞥で把握出来、取引の数値を計上した経緯を確認する事が容易になり、経営の意思決定に助力するものである。」


「【0026】図1に示すように、本実施例に係る幾何会計シートは、原点で交差する2軸を、借方科目の軸(X軸)、貸方科目の軸(Y軸)とする表を作り借方科目の軸(X軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に費用の勘定科目を順に配置し、また、貸方科目の軸(Y軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に収益の勘定科目を順に配置した時、時間指定された、当該、表において、この2軸に配置された借方科目と貸方科目で指定する番地(ポイント)に金額Nを記録する事が、振替伝票の一行に、借方科目と金額Nと貸方科目と金額Nと取引日時を記載して、一回の取引を記録する事と同じワーク(作業)になるようにレイアウトされている。」

(3)判断
本願の特許請求の範囲の請求項1(以下、この項では、単に「特許請求の範囲」という。)には、「幾何会計処理方法」と記載され、その際、「・・処理ステップと、・・処理ステップと、・・処理ステップが、・・処理ステップとなるように制御するコンピュータプログラムにより実行される・・方法」と記載されているものの、明細書及び図面の記載を参酌すると、特許請求の範囲に記載された「幾何会計処理方法」の実質は、明細書(特に(2)のオ)にも示されているものであって、概ね、次の(a)及び(b)のとおりに整理できる。
(a)「原点で交差する2軸」を「末時残高を含む勘定科目を配置した借方科目の軸(仮にX軸)」と「貸方科目の軸(仮にY軸)」とする「表」であって、その「借方科目の軸(仮にX軸)」が「原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に費用の勘定科目を順に配置」するものであり、その「貸方科目の軸(仮にY軸)」が「原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に収益の勘定科目を順に配置」されたものであるというレイアウトで表を作成すること。
(b)そのように作成された「表」においては、「任意に時間指定された当該表」における「前記2軸に配置された借方科目と貸方科目で指定する番地(ポイント)」への「金額N」の「記録」が「振替伝票の一行に、借方科目と金額Nと貸方科目と金額Nと取引日時を記載して、一回の取引を記録する」事と「同じワーク(作業)」となること。

このうち、(a)は、作成される「表」が人為的に取り決められた「勘定科目」の配置によるX軸とY軸を有する2次元レイアウトで表現されたものであって、そのような「表」の作成によってそのような人為的な取り決めを踏まえて「表」を見る者に「表」として情報が提示されることを示している。
また、(b)は、「任意に時間指定された当該表」における「前記2軸に配置された借方科目と貸方科目で指定する番地(ポイント)」への「金額N」の「記録」が「振替伝票の一行」に対応する「一回の取引」の「記録」と「同じワーク(作業)」となることであり、「表」に記録された「金額N」を「表」を見る者がどのように認識するのかという、人間の精神的活動を介在させた原理を示している。
よって、これらのいずれの観点からみても、特許請求の範囲に記載されたものは、自然法則を利用した技術的思想の創作であるといえない。

また、明細書においても、特許請求の範囲に記載されたものが自然法則を利用したものであると評価すべきことを示す根拠となる記載が見当たらない。
明細書の課題や効果に関する記載((2)のア?エ)においては、中小企業における経営のための意思決定のために、財務諸表に示された結果の数値に至った経緯を確認するためには、補助簿をその都度確認する必要があったところを「会計に関する専門的な知識が無くても理解出来る」ように、「取引で記録される数値が、資産、負債、純資産、収益、費用のいずれかに該当する勘定科目かつ、資産、負債、純資産のいずれかに該当する勘定科目、相互の目的で行われたことが一瞥で判断出来る幾何学的な図表」によって取引を表した「幾何会計シート」の提供を目的とし、また、この目的に対応する効果とともに「財務諸表を読み込まなくても、資産、負債、純資産、収益、費用の各、勘定科目において、前月残高、借方合計・貸方合計、今月残高、及び、取引における借方科目、貸方科目相互間の関係、更には、営業利益、経常利益、等を一瞥で把握出来」るようになるという効果を奏する旨が記載されている。
ここでは、いわば、作成される表が、それ自体が人為的な取り決めである財務諸表と補助簿の代替となるものであって、人為的な取り決めに基づくものであること、この表の作成による作用効果は、中小企業における経営のための意思決定のために「表」を見る者(中小企業の経営者等)において、会計についての専門的な知識がなくても理解でき、「一瞥で判断できる」というものであって、「表」を見る者の精神的活動を介在させたものであることが示されている。
他方、明細書及び図面のいずれにおいても、例えば、金額(取引)の記録に係るデータ構造に係る技術的事項のような、上記(a)と(b)が人為的な取り決めないし人間の精神的活動を介在させた原理にとどまらないものであることを示す内容は、記載されていない。

さらには、特許請求の範囲には「・・処理ステップと、・・処理ステップと、・・処理ステップが、・・処理ステップとなるように制御するコンピュータプログラムにより実行される・・幾何会計処理方法」と記載され、また、明細書には、「【0033】尚、本実施例における幾何会計シート及び会計処理方法は、パーソナルコンピュータの所定のOS上で作動するアプリケーシションソフトウエアにより実行されるものであってもよい。」との記載があるものの、これらの記載は、「表」として情報が提示されるにあたってコンピュータが用いられる旨を示すものであり、これらの記載によってソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって使用目的に応じた特有の情報の演算又は加工が実現されているといえるものでない。しかも、明細書の段落【0033】の記載によれば、コンピュータを用いることは、任意事項である。してみると、コンピュータソフトウェア関連発明の観点をも加味しても、特許請求の範囲に記載された「幾何会計処理方法」が特許法の保護対象としての「発明」であることの根拠にならない。

以上を踏まえると、特許請求の範囲に記載された「幾何会計処理方法」は、人為的取り決めないし人間の精神活動そのものを対象とする創作であって自然法則を利用した技術的思想の創作といえないものであり、さらには、コンピュータソフトウェア関連発明の観点からみても、自然法則を利用した技術的思想の創作といえないものである。
よって、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された「幾何会計処理方法」は、特許法第2条第1項の「発明」でなく、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

第4 理由2(進歩性)についての当審の判断
1 本願発明
本願の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。(項番は、当審において付した。)

A1 原点で交差する2軸を、末時残高を含む勘定科目を配置した借方科目の軸(仮にX軸)、貸方科目の軸(仮にY軸)とする表作成処理ステップと、
A2 借方科目の軸(仮にX軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に費用の勘定科目を順に配置する処理ステップと、また、
A3 貸方科目の軸(仮にY軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に収益の勘定科目を順に配置した時、
B1 任意に時間指定された当該表において、
B2 前記2軸に配置された借方科目と貸方科目で指定する番地(ポイント)に金額Nを記録する処理ステップが、振替伝票の一行に、借方科目と金額Nと貸方科目と金額Nと取引日時を記載して、一回の取引を記録する事と同じワーク(作業)処理ステップとなる
C ように制御するコンピュータプログラムにより実行される事を特徴とする幾何会計処理方法。

2 引用文献、引用発明
(1)引用文献(特開2015-007965号公報)
原査定の拒絶の理由において引用した上記引用文献は、本願出願前である平成27年1月15日の公開に係る特許公報であり、以下のとおり、記載されている。

A(【要約】)
「【課題】目的とする借方軸、貸方軸、時間軸の交点に「金額」を、1アクション入力することで、会計処理及び財務諸表の作成を時系列に行うことができる3D会計システムを提供する。
【解決手段】借方と、貸方を軸で表し、BS科目とPL科目を番地として配置すると、取引は、借方軸上の科目の番地と貸方軸上の科目の番地との交点に記入される。これに時間の軸を立てると、借方軸、貸方軸、時間軸の交点に記入され、蓄積される。これを一年間の時間軸で表現すると「年間決算書」になる。一月間の時間軸で表現すると「月次決算書」になる。」

B(図1(【選択図】))


C(【発明が解決しようとする課題】)
「【0009】・・・一般に、専属の会計技術者を雇用していない中小、零細企業では、取引の記録と、決算内容の整合に苦労し、また、決算の内容から、企業成績の原因究明をする事に苦労し、さらに、決算の内容と売上における原価との因果関係の把握に苦労するという課題があった。すなわち、従来の貸借対照表及び損益計算書等の財務諸表においては、科目の数値を構成する相手科目と相手科目毎の数値を一瞥して判断できないという問題があった。例えば、貸借対照表の資産の中の現金科目に「10万円」の記載があるとき、この「10万円」を構成する相手科目と相手科目毎の金額は補助簿で確認する必要があった。また、これらの数値を一瞥して時系列に確認できない。」

D(【課題を解決するための手段】)
「【0010】上記課題を解決する本発明の請求項1のBSPLcubeは、企業活動における取引を、複式簿記を用いて記録集計し、「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」を表す時、当該取引情報を、借方軸(仮想のX軸)に配置した「貸借対照表科目及び損益計算書科目」と貸方軸(仮想のY軸)に配置した「貸借対照表科目及び損益計算書科目」と時間軸(仮想のZ軸)からなる3次元の仮想キューブの目的交点セルに蓄積することで、貸借対照表及び損益計算書の結果と、貸借対照表科目及び損益計算書科目の科目相互間の取引値及び科目の要因(ファクター)相互間の取引値を同時に、且つ時系列に管理し、表示、出力可能にしたことを特徴とする。」

E
「【0011】本発明によれば、下記の優れた効果が得られる。
(1)企業活動の取引に起因する「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」を表すとき、これら及びこれらを構成するファクターの集計値と、これら及びこれらを構成するファクター相互間の取引値を「BSPLcube」を用いて、借方基準及び貸方基準で、表形式かつ時系列に一元表示することができる。
(2)企業活動の取引に起因する「原価」「未成金」を表すとき、これら及びこれらを構成するファクターの集計値と、これら及びこれらを構成するファクター相互間の取引値を「原価管理cube」を用いて、科目基準及び相手先基準で、表形式かつ時系列に一元表示することができる。
・・・
(4)2アクション入力方法(財務諸表)
上記(3)の1アクション入力方法を簡易的に行なう方法として、2アクション入力方法がある。この方法では、時間指定を基準とする。借方軸と貸方軸の平面で入力作業を行い、時間軸で積層することで、会計処理及び財務諸表の作成を時系列に行うことができる。すなわち、少なくとも「日付の入力」と「借方の軸と貸方の軸の交点に金額を入力」する2アクションの入力作業で、従来と同等の会計処理及び財務諸表の作成が可能になる。」

F
「【0027】「BSPLcube」と「BSPLシート」の説明
BSキューブ、収益キューブ、費用キューブの説明に当たり、Z軸(時間軸を任意の時間に取ったX軸(借方の軸)=Y軸(貸方の軸)の平面図(図1)に示して説明する。「図1:任意時点における平面表示」この平面図を「BSPLシート」と称する。「BS」を貸借対照表、「PL」を損益計算書とする。これら、各種の情報を入力した「BSPLシート」を時間軸で積層したものが「BSPLcube」である。」

G(表3:小計)


H(表4:合計)


I 上記A、B、F、G、Hによれば、「任意時点における平面表示」である「BSPLシート」は、原点で交差する2軸を、小計(表3)と合計(表4)と残高(指定Time前の値)を含む勘定科目を配置した借方軸(仮想のX軸)、貸方軸(仮想のY軸)とし、借方軸(仮想のX軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に収益と費用の勘定科目を順に配置し、貸方軸(仮想のY軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に収益と費用の勘定科目を順に配置し、
取引が、借方軸上の科目の番地と貸方軸上の科目の番地との交点に記入されるものであり、これに時間の軸を立てると、借方軸、貸方軸、時間軸の交点に記入されて蓄積され、これを一年間の時間軸で表現すると「年間決算書」になり、一月間の時間軸で表現すると「月次決算書」になる、ものである。

(2)引用発明
以上を踏まえると、引用文献には、図1に示された、任意時点の平面表示であるBSPLシートについて、次のとおりの発明が記載されているものと認められる。

「借方軸、貸方軸、時間軸の交点に「金額」を、1アクション入力することで、会計処理及び財務諸表の作成を時系列に行うことができる3D会計システムにおける、その任意時点の平面表示であるBSPLシート(図1)であって、
原点で交差する2軸を、小計(表3)と合計(表4)と残高(指定Time前の値)を含む勘定科目を配置した借方軸(仮想のX軸)、貸方軸(仮想のY軸)とし、借方軸(仮想のX軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に収益と費用の勘定科目を順に配置し、貸方軸(仮想のY軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に収益と費用の勘定科目を順に配置し、
取引が、借方軸上の科目の番地と貸方軸上の科目の番地との交点に記入されるものであり、これに時間の軸を立てると、借方軸、貸方軸、時間軸の交点に記入されて蓄積され、これを一年間の時間軸で表現すると「年間決算書」になり、一月間の時間軸で表現すると「月次決算書」になり、
2アクション入力方法では、時間指定を基準として、借方軸と貸方軸の平面で入力作業が行われる、BSPLシート」

3 対比
(1)A1について
引用発明のBSPLシートは、原点で交差する2軸を、勘定科目を配置した借方軸(仮想のX軸)、貸方軸(仮想のY軸)とする表であるところ、このうちの「借方軸(仮想のX軸)」及び「貸方軸(仮想のY軸)」は、それぞれ本願発明の「借方科目の軸(仮にX軸)」及び「貸方科目の軸(仮にY軸)」に相当する。また、引用発明は、2アクション入力方法において、時間指定を基準として、借方軸と貸方軸の平面で入力作業が行われ、その際、入力のためのBSPLシートが作成されるところ、このBSPLシートの作成は、本願発明の「表作成処理」に相当するといえる。

本願発明の「勘定科目」に含まれる「末時残高」の意義は、特許請求の範囲の記載のみから明らかでないものの、明細書の記載を参酌すると、「時間軸において一つ前の幾何会計シートの勘定科目の今月残高」である「前月残高」と「今月残高」のいずれか又はその両方を示すものである。
(本願明細書には、「2015年10月31日」つまり、2015年10月次の末日を期日として指定した幾何会計シートにおいて、「資産」の勘定科目である「現金」について、「O11」番地に表示される「残高」は、借方科目の軸(X軸)上の勘定科目(資産)合計である「O12」番地の値から貸方科目の軸(Y軸)上の勘定科目(資産)合計である「J24」を減算したものである旨(図3、段落【0028】)、「当該幾何会計シートの勘定科目の今月残高」は、「任意の勘定科目の残高」と「時間軸において一つ前の幾何会計シートの勘定科目における今月残高」を「加算」したものであり、「現金」の勘定科目については、「O09」番地に表示される「今月残高」が「O11」番地に表示される「残高」と「O10」番地に表示される「前月残高」(図4)とを加算したものである旨(図4、図5、【0029】【0030】)が示されている。)
これに対して、引用発明の、「指定Time前の値」である「残高」と○3(丸数字の3)で示される「資産項目の合計」とが、それぞれ、本願明細書における「前月残高」と「今月残高」に相当している。
(引用発明では、「資産」の勘定科目である「現金」について、「資産項目の小計」が「イ-ロ」、すなわち、借方科目の軸(X軸)上の勘定科目(資産)の小計である「イ」から貸方科目の軸(Y軸)上の勘定科目(資産)の小計である「ロ」を減算した値、である旨(表3)、○3で示される「資産項目の合計」は、この「イ-ロ」と「指定Time前の値」である「残高」とを加算したものである旨(表4)が示されている。)
してみると、本願発明の「末時残高」が「時間軸において一つ前の幾何会計シートの勘定科目の今月残高」である「前月残高」と「今月残高」のいずれか又はその両方のいずれの意味であるにしても、引用発明の「勘定科目」も、小計(表3)と合計(表4)と残高(指定Time前の値)を含むことで「末時残高を含む」ものといえるから、この点は、相違点にならず、一致点となる。

(2)A2について
引用発明の「借方科目の軸(仮にX軸)」は、「原点から負の方向」に「費用」ではなく「収益と費用」の勘定科目を順に配置しているものの(相違点2)、「原点から正の方向」に「資産、負債、純資産」の勘定科目を順に配置し、「原点から負の方向」に損益計算書の勘定科目を順に配置したものである点で、本願発明と共通している。
また、引用発明も(1)で示した表作成に際してこのような配置が行われ、これは、本願発明の「配置する処理」に相当する処理であるといえる。

(3)A3について
引用発明の「貸方科目の軸(仮にY軸)」は、「原点から負の方向」に「収益」ではなく「収益と費用」の勘定科目を順に配置しているものの(相違点3)、「原点から正の方向」に「資産、負債、純資産」の勘定科目を順に配置し、「原点から負の方向」に損益計算書の勘定科目を順に配置したものである点で、本願発明と共通している。

(4)B1、B2について
引用発明においては、取引が、借方軸上の科目の番地と貸方軸上の科目の番地との交点に記入され、2アクション入力方法では、時間指定を基準として、借方軸と貸方軸の平面で入力作業が行われ、表の当該番地に入力された取引を示す金額が記録された表が入力作業の際に表を見る者に対して示されるから、本願発明と同様の、「任意に時間指定された当該表」における「一回の取引を記録する事と同じワーク(作業)」となる「2軸に配置された借方科目と貸方科目で指定する番地(ポイント)に金額Nを記録する処理」がなされているといえる。

(5)Cについて
引用発明のBSPLシートに係る表作成処理を含む会計は、本願発明と同様に「幾何会計」であり、引用発明の3D会計システムは、コンピュータプログラムを用いた処理によって幾何会計を行うものであるといえるから、「コンピュータプログラムにより実行される」「幾何会計処理方法」を行うものであるといえる。
なお、本願発明は、「・・ステップと、・・ステップと、・・ステップが、・・ステップとなるように制御するコンピュータプログラムにより実行される・・方法」であるところ、引用発明における「表作成」(上記A1)、「配置」(上記A2)及び「金額N」の「記録」と「ワーク(作業)」(上記B2)も、本願発明と同様に「処理ステップ」と表現できるものであって、この点は、実質的な相違点とならない。

(6)してみると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
A1 原点で交差する2軸を、末時残高を含む勘定科目を配置した借方科目の軸(仮にX軸)、貸方科目の軸(仮にY軸)とする表作成処理ステップと、
A2’ 借方科目の軸(仮にX軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に損益計算書の勘定科目を順に配置する処理ステップと、また、
A3’ 貸方科目の軸(仮にY軸)は原点から正の方向に資産、負債、純資産の勘定科目を、原点から負の方向に損益計算書の勘定科目を順に配置した時、
B1 任意に時間指定された当該表において、
B2 前記2軸に配置された借方科目と貸方科目で指定する番地(ポイント)に金額Nを記録する処理ステップが、振替伝票の一行に、借方科目と金額Nと貸方科目と金額Nと取引日時を記載して、一回の取引を記録する事と同じワーク(作業)処理ステップとなる
C ように制御するコンピュータプログラムにより実行される、幾何会計処理方法。

(7)そして、次の点で相違する。
<相違点>
(相違点1)
借方科目の軸(仮にX軸)の原点から負の方向に配置される損益計算書の勘定科目が、本願発明では「費用」の勘定科目であるのに対し、引用発明では「収益と費用」の勘定科目である点。
(相違点2)
貸方科目の軸(仮にY軸)の原点から負の方向に配置される損益計算書の勘定科目が、本願発明では、「収益」の勘定科目であるのに対し、引用発明では「収益と費用」の勘定科目である点。

4 相違点の判断
相違点1と相違点2は、いずれも損益計算書の勘定科目についてのものであるので、まとめて検討する。
引用発明においては、借方科目の軸(仮にX軸)と貸方科目の軸(仮にY軸)のいずれについても「収益」と「費用」の両方を配置しているものの、図1には、借方科目の軸(仮にX軸)における「収益」の科目(「売上高」「受取手数料」「受取利息」)と貸方科目の軸(仮にY軸)における「費用」の科目(「材料費」「労務費」「経費」「外注費」)については、「小計」「残高」「合計」の表示がなく、これらの科目は、実際には用いられることがないものである。そして、引用発明も「従来の貸借対照表及び損益計算書等の財務諸表においては、科目の数値を構成する相手科目と相手科目毎の数値を一瞥して判断できないという問題」を解決しようとするものであるから、軸上で用いていない科目を表示しないことが示唆されている。
してみると、引用発明において、借方科目の軸(仮にX軸)の原点から負の方向に配置される損益計算書の勘定科目を「収益と費用」ではなく「費用」の勘定科目とし、貸方科目の軸(仮にY軸)の原点から負の方向に配置される損益計算書の勘定科目を「収益と費用」ではなく「収益」の勘定科目とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
そして、そのようにする効果も、当業者の予想の範囲内のものである。

5 審判請求人の主張について
審判請求書において、本願発明は「3次元目のパラメータ」として「時間軸」が加味されていない点で引用発明と異なると主張している。しかし、本願発明も「表」が「任意に時間指定」されるものである旨を特定しており、その意味で時間軸が加味されているから、この点を本願発明と引用発明との相違点とすることはできない。

6 小括
してみると、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載されたものは、特許法の保護対象としての「発明」とはいえず、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしておらず、また、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載されたものを発明と捉えても、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。この旨をいう原査定に誤りはない。
よって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-28 
結審通知日 2019-03-05 
審決日 2019-03-18 
出願番号 特願2015-241802(P2015-241802)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
P 1 8・ 1- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮地 匡人  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 田中 秀樹
相崎 裕恒
発明の名称 幾何会計処理方法  
代理人 弁護士法人 衞藤法律特許事務所  
代理人 園田 康弘  
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