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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1351333
審判番号 不服2017-1838  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-07 
確定日 2019-05-07 
事件の表示 特願2016-502212「操作した肝臓組織、そのアレイ、およびそれを製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日国際公開、WO2014/151921、平成28年 5月26日国内公表、特表2016-514968〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)3月13日(米国出願13/841430号(以下「優先権基礎出願」という)に基づく優先権主張 平成25年3月15日(以下、「優先日」という))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成28年 3月10日付け:拒絶理由通知
平成28年 8月3日 :意見書、手続補正書
平成28年 10月3日付け:拒絶査定
平成29年 2月7日 :審判請求、手続補正書
平成30年 4月27日付け:拒絶理由通知
平成30年 11月1日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「操作した、生きている、三次元の肝臓組織構成物であって、
該構成物は、平面構造を定義する少なくとも1つの区画を備え、該区画は境界によって定義される内部を含み、該内部は実質細胞を含み、該境界は非実質細胞を含み、
細胞は、最小の規模で少なくとも3個の細胞の厚さであり、最小の規模で少なくとも50μmの厚さである、生きている、三次元の肝臓組織構成物を形成するために凝集し、
該構成物は使用時予め形成されたスキャフォールドが実質的にないように提供され、
実質細胞は、肝細胞あるいは肝細胞様細胞であり、
非実質細胞は、血管細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、間葉細胞、免疫細胞、クッパー細胞、星細胞、胆嚢上皮細胞、胆嚢上皮細胞様細胞、類洞内皮細胞、肝臓由来の幹細胞/前駆細胞および非肝臓由来の幹細胞/前駆細胞の1つ以上を含み、
非実質細胞を含む境界によって定義された、実質細胞を含む内部を含むことを特徴とする、構成物。」

第3 拒絶の理由
平成30年4月27日付けの当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は、次のとおりのものである。
本願発明は、優先権主張の効果を認めることはできず、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

引用文献6:国際公開第2013/040078号

第4 優先権主張の効果について
1 検討事項
請求人は、優先日前の2012年9月12日に国際出願PCT/US2012/054923を出願している(以下、「出願6」という)。なお、出願6は、本願出願日より前の2013年3月21日に引用文献6として公開された。
パリ条約による優先権の主張の基礎とすることができるのは、パリ条約の同盟国における最初の出願のみである(パリ条約第4条C(2)及び(4))。したがって、本願発明が出願6の出願書類の全体に記載されている場合、優先権基礎出願はパリ条約第4条C(2)にいう「最初の出願」にあたらず、優先権の主張の基礎とすることができないから、本願発明の優先権の主張の効果は認められない。
よって、本願発明が出願6の出願書類の全体に記載されているか否かについて、以下検討する。

2 出願6の出願書類の全体の記載
出願6の出願書類の全体には、以下の事項が記載されている。(原文は英語のため、以下、段落番号及び摘記内容等は対応する国際公開公報(引用文献6)の日本語ファミリー公報である特表2014-531204号公報の記載に基づく。)

a.「【請求項1】
生きている、三次元の組織構成物であって、前記組織構成物は、少なくとも1つの接着細胞型を含み、前記少なくとも1つの接着細胞型は、生きている、三次元の組織構成物を形成するために凝集且つ融合され、前記組織構成物は血管チューブでない多層構造を有し、前記組織構成物はインビトロでの使用のためのものであり、但し、少なくとも1つの組織の成分がバイオプリントされたことを条件とする、ことを特徴とする組織構成物。
【請求項2】
組織構成物は、バイオプリンティング時または使用時に、任意の予め形成されたスキャフォールドが略ないことを特徴とする、請求項1に記載の組織構成物。」(【特許請求の範囲】)

b.「細胞の層は、バイオプリンターは、1つ以上の細胞のシート(sheet)を含む。様々な実施形態では、細胞のシートは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100またはそれ以上の細胞の厚さであり、それらにおいてインクリメントを含む。他の様々な実施形態では、細胞のシートは、約3、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500μmまたはそれ以上の厚さであり、それらにおいてインクリメントを含む。」(【0047】)

c.「バイオプリンティングは、図18A-Fで例証される例に従って、細胞で構成されたバイオインクの空間的に定義された堆積を介して両方の固有の課題(平面/層状の幾何学的形状および細胞密度)を克服する。幾つかの実施形態では、平面の幾何学的形状は、複数のバイオインク製剤から作り出され、それによって、2つ以上の組織成分(すなわち、間質、上皮、血管、骨、軟骨、柔組織、皮質、骨髄、乳頭、小葉など)が、図18A-Cで述べられる例によって、x、y、及び/又はz平面において互いに相対的な定義された位置に各組織成分/細胞集団/バイオインク製剤を位置決めする方法で成形される。」(【0054】)

d.「本明細書には、幾つかの実施形態において、1つ以上の型の哺乳動物細胞を含む操作した組織が開示される。…(中略)…他の実施形態では、組織は、肝臓のアナログである。さらなる実施形態では、肝臓のアナログは:肝細胞または肝細胞様の細胞、および随意に、胆管上皮細胞、および随意に、限定されないが、星細胞、内皮細胞、クッパー細胞、免疫細胞、または筋線維芽細胞を含む、非実質細胞型を含む。」(【0058】)

e.「実施例19-連続的な堆積による、共同成型した機能的な肝臓組織微細構造のバイオプリンティング
…(中略)…30%のPF-127溶液を、6つのウェルのTranswell上で、単一の6角形状にバイオプリントし、連続して6回,層を作った。…(中略)… 7.8×10^(7)の肝細胞(HepG2)で構成された細胞懸濁液を、6分間1000gで遠心分離し、細胞ペースト剤を生成した。5μLの細胞ペースト剤を510μmの針により押し出し、三角形の鋳型の各々を満たした(図17Aを参照)。六角鋳型を15時間、室温でインキュベートした。…(中略)…45分以内に、PF-127鋳型は溶解して、成型した肝臓のバイオインクを無傷にしておく培地となり、細胞と空所の平面の幾何学的形状を形成した(図17Bを参照)。培地から残りのPF-127を取り除くため、Transwellを、3mLの培地を含む新しいウェルに移し、2時間インキュベートした。…(中略)…6時間後、Transwellを培地の無い新しいウェルに移し、2×10^(6)細胞の細胞懸濁液を、90%のヒト大動脈内皮細胞と10%の肝星細胞の比率で分配し、PF-127鋳型の溶解によって作られる空間を満たした。…(中略)…構成物を48時間、37℃及び5%のCO_(2)でインキュベートし、近接する構成物を形成し、平面の幾何学的形状は、内皮細胞を含む組織に介入することで、肝臓の実質の小葉状の(三角形の)配列を含む。」(【0227】?【0233】)

f.

(図17A、B)

g.

(図18A、F)

3 出願6の出願書類の全体に記載された発明
摘記事項e、fより、肝臓の実質の小葉状の(三角形の)配列を含む構成物を得たこと、及び、当該構成物はヒト大動脈内皮細胞と肝星細胞によって少なくとも介在された状態にあったことが理解される。
また、摘記事項eにおいて、「90%のヒト大動脈内皮細胞と10%の肝星細胞」を含有する「2×10^(6)細胞の細胞懸濁液」は、遠心分離して細胞ペースト剤を生成した「7.8×10^(7)の肝細胞(HepG2)で構成された細胞懸濁液」とは対照的に、細胞懸濁液の状態でウェル内に提供されたものと理解される。そうすると、当該細胞懸濁液は、「肝臓の実質の小葉状の(三角形の)配列」の間隙だけでなく、ウェル内全体に広がって分布するものと考えられるから、ヒト大動脈内皮細胞と肝星細胞は「肝臓の実質の小葉状の(三角形の)配列」を介在するだけではなく、実際には、下記の参照図1のように、「肝臓の実質の小葉状の(三角形の)配列」を包囲する領域にも存在するものと認められる。
(参照図1)黒がヒト大動脈内皮細胞と肝星細胞、灰色が肝臓の実質の小葉状の(三角形の)配列を表す。

したがって、出願6には、以下の発明が記載されている(以下「出願6発明1」という)。
「ヒト大動脈内皮細胞と肝星細胞によって介在かつ包囲される、HepG2由来の肝臓の実質の小葉状の(三角形の)配列を含む、機能的な肝臓組織微細構造。」

また、摘記事項c、g(特に図18Aの最後の図「分葉組織」)より、出願6には、以下の発明が記載されている(以下「出願6発明2」という)。
「バイオプリンティングにより肝臓の小葉を含むバイオインク#1の周囲を間質/血管の組織を含むバイオインク#2で包囲した位置に成形し、積層した組織生成物。」

4 対比・判断
(1)出願6発明1について
ア 対比
出願6発明1と本願発明を対比すると、以下のとおりとなる。
前者の「ヒト大動脈内皮細胞と肝星細胞」は、後者の「非実質細胞」に相当し、より詳細には、前者の「ヒト大動脈内皮細胞」は後者の「血管細胞、内皮細胞」に、前者の「肝星細胞」は後者の「星細胞」に相当する。
前者の「HepG2」は後者の「実質細胞」、「肝細胞」に相当する。
前者の「ヒト大動脈内皮細胞と肝星細胞によって介在かつ包囲される、HepG2由来の肝臓の実質の小葉状の(三角形の)配列を含む」は、後者の「平面構造を定義する少なくとも1つの区画を備え、該区画は境界によって定義される内部を含み、該内部は実質細胞を含み、該境界は非実質細胞を含み、」、「非実質細胞を含む境界によって定義された、実質細胞を含む内部を含む」に相当する。
摘記事項aにも鑑みれば、前者の「機能的な肝臓組織微細構造」は、後者の「操作した、生きている、三次元の肝臓組織構成物」に相当し、また、前者における各細胞は後者でいう「生きている、三次元の肝臓組織構成物を形成するために凝集し」ており、該構造は「使用時予め形成されたスキャフォールドが実質的にないように提供され」るものと認められる。

そうすると、両者は、
「操作した、生きている、三次元の肝臓組織構成物であって、
該構成物は、平面構造を定義する少なくとも1つの区画を備え、該区画は境界によって定義される内部を含み、該内部は実質細胞を含み、該境界は非実質細胞を含み、
細胞は、生きている、三次元の肝臓組織構成物を形成するために凝集し、
該構成物は使用時予め形成されたスキャフォールドが実質的にないように提供され、
実質細胞は、肝細胞であり、
非実質細胞は、血管細胞、内皮細胞、星細胞の1つ以上を含み、
非実質細胞を含む境界によって定義された、実質細胞を含む内部を含むことを特徴とする、構成物。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。

(相違点)本願発明には「最小の規模で少なくとも3個の細胞の厚さであり、最小の規模で少なくとも50μmの厚さである…構成物」とあるのに対して、出願6発明1にはそのような構成物の厚さについて特定がない点。

イ 相違点についての判断
摘記事項eに記載された、PF-127鋳型を6層に積層し、肝細胞(HepG2)を含む細胞ペースト剤を510μmの針により押し出して充填した後、PF-127鋳型を溶解して取り除くという製造方法、及び、摘記事項fの写真において不透明な細胞凝集体が認められることに鑑みれば、出願6発明1における「肝臓の実質の小葉状の(三角形の)配列」の領域については、厚さが2個の細胞の厚さ以下、50μm未満の厚さであるとは考えられず、本願発明の構成を満たすことは明らかである。
また、ヒト大動脈内皮細胞と肝星細胞を含む領域の厚さについて以下検討する。
摘記事項eによれば、6つのウェルのTranswellに、「90%のヒト大動脈内皮細胞と10%の肝星細胞」を含有する「2×10^(6)細胞の細胞懸濁液」を提供したことが理解される。ここで、参考文献1(PHYTOTHERAPY RESEARCH, 2015, 29, pp.1501-1508)の図5Aの細胞写真に基づいて判断するに、ヒト大動脈内皮細胞の長さは約30μm、面積にして約900μm^(2)と認められる。2×10^(6)細胞が全てヒト大動脈内皮細胞であると仮定して近似すると、全細胞の面積の総和はおよそ900μm^(2)×(2×10^(6))=1.8×10^(9)μm^(2)となる。
一方、参考文献2(Permeable Supports Selection Guide,URL: https://www.corning.com/media/jp/cls/documents/jp-literature/sell_sheet/Permeable_Supports_Selection_Guide_CLS-085-01_2016.pdf)の第4ページによれば、6ウェルのマルチフェルプレート用のトランズウェルインサートメンブレンの培養面積は4.67cm^(2)、すなわち4.67×10^(8)μm^(2)である。そうすると、使用した細胞の面積の総和は培養面積の3倍以上であり、さらに培養面上に「肝臓の実質の小葉状の(三角形の)配列」が存在すること、及び、細胞追加後に48時間のインキュベートを行っており、この過程でさらに細胞が増殖しているはずであることを考えると、「ヒト大動脈内皮細胞と肝星細胞」を含む領域が少なくとも3個の細胞の厚さであり、少なくとも50μmの厚さであることは明らかである。
そうすると、上記相違点は実際には相違点ではなく、両者は同一の発明である。

ウ 請求人の主張について
請求人は、平成30年11月1日提出の意見書における「出願6発明1について」において、主に以下の事項を主張している。
(ア)当業者は、出願6実施例19の内皮細胞および肝星細胞の懸濁液は、流動性の形態で組織培養ウェルに適用されたのではなく、遠心分離によって濃縮された形態でバイオプリントされ、局在化した3次元構造を生成したものと理解する。このことは、実施例19のタイトル「連続的な堆積による、共同成型した機能的な肝臓組織微細構造のバイオプリンティング」、所望の且つ再現性のある位置に細胞を局在化させることによって、「連続的な堆積」がバイオプリンターから特定の構造を生成することについての記載(出願6の対応日本出願(特願2014-529992号)の明細書の段落[0037]?[0038])から明らかである。審判官の認定では、所望の小葉状の構成物を得ることができず、これは文献6の記載及びその目的から外れるものである。
(イ)出願6実施例19の構成物は、非実質細胞が肝実質細胞の三角形に「介入」するものであり、肝実質細胞を「包囲する」ものではない。

上記(ア)について、出願6の出願書類には、実施例19において内皮細胞および肝星細胞が遠心分離によって濃縮された形態、すなわちペースト剤の形態でバイオプリントされたことについての記載やその示唆すらない。請求人が指摘する上記明細書の記載は、実施例19において30%のPF-127溶液及び肝細胞(HepG2)を含む細胞ペースト剤をそれぞれバイオプリントにより堆積したことを意味すると解釈できるのであり、それによって肝細胞を含む小葉状の構成物が製造されたものである。したがって、実施例19の記載を文言通り、内皮細胞および肝星細胞が細胞懸濁液の状態で提供されたと理解したとして、不整合は生じない。したがって、当該主張は採用できない。

また、仮に請求人の主張どおり、内皮細胞および肝星細胞が遠心分離によって濃縮されたペースト剤の形態でバイオプリントされたものであると解釈した場合は、次のとおりである。
摘記事項eに「2×10^(6)細胞の細胞懸濁液を、90%のヒト大動脈内皮細胞と10%の肝星細胞の比率で分配し、PF-127鋳型の溶解によって作られる空間を満たした。」(下線は当審で追加した)とあることから、内皮細胞および肝星細胞は、PF-127鋳型が溶解前に存在していた、肝細胞の外縁にも提供されたものと理解できる。
この点に関して、本願明細書には以下の記載がなされている(下線は当審で追加した)。
「図5は、肝細胞の印刷プロセスにおける空間的及び時間的な制御を可能にする、共印刷された型(co-printed mold)の溶解の限定されない典型的な例証であり、結果としてx、y及びz軸において定義された形状及びサイズである使用者特異的な区画が生じる。矢印は、共印刷された型が印刷後24時間溶解した部位、及び追加の細胞投入ができる領域を示す。」(【0015】)


」【図5】
ここで、当該図5は、出願6図17A、Bと同一の写真に矢印を追記したものと認められる。このことは、出願6実施例19において、小葉状構成物の間隙のみならず外縁にも細胞が投入されていたことを裏付けるものである。
したがって、上記主張(ア)を採用したとしても、内皮細胞および肝星細胞が肝細胞を包囲した形態の構成物を認定できるから(下記参照図2を参照)、上記主張(イ)は採用できるものではなく、出願6発明1と本願発明が同一であるという判断に変わりはない。
(参照図2)黒がヒト大動脈内皮細胞と肝星細胞、灰色が肝臓の実質の小葉状の(三角形の)配列を表す。

(2)出願6発明2について
ア 対比
出願6発明2と本願発明とを対比する。
前者の「バイオプリンティングにより肝臓の小葉を含むバイオインク#1の周囲を間質/血管の組織を含むバイオインク#2で包囲した位置に成形し」は、後者の「該構成物は、平面構造を定義する少なくとも1つの区画を備え、該区画は境界によって定義される内部を含み」に相当する。
上記摘記事項aにも鑑みれば、前者の「積層した組織生成物」は、後者の「操作した、生きている、三次元の肝臓組織構成物」に相当し、また、前者の「肝臓の小葉」及び「間質/血管の組織」を構成する細胞は後者でいう「生きている、三次元の肝臓組織構成物を形成するために凝集し」ており、該生成物は「使用時予め形成されたスキャフォールドが実質的にないように提供され」るものと認められる。

そうすると、両者は、
「操作した、生きている、三次元の肝臓組織構成物であって、
該構成物は、平面構造を定義する少なくとも1つの区画を備え、該区画は境界によって定義される内部を含み、
細胞は、生きている、三次元の肝臓組織構成物を形成するために凝集し、
該構成物は使用時予め形成されたスキャフォールドが実質的にないように提供される、構成物。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。

(相違点1)本願発明には「最小の規模で少なくとも3個の細胞の厚さであり、最小の規模で少なくとも50μmの厚さである…構成物」とあるのに対して、出願6発明2にはそのような構成物の厚さについて特定がない点。
(相違点2)本願発明は、内部は実質細胞を含み、境界は非実質細胞を含み、実質細胞は、肝細胞あるいは肝細胞様細胞であり、非実質細胞は、血管細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、間葉細胞、免疫細胞、クッパー細胞、星細胞、胆嚢上皮細胞、胆嚢上皮細胞様細胞、類洞内皮細胞、肝臓由来の幹細胞/前駆細胞および非肝臓由来の幹細胞/前駆細胞の1つ以上を含み、非実質細胞を含む境界によって定義された、実質細胞を含む内部を含むことを特徴とするのに対して、出願6発明2では、内部が「肝臓の小葉」、境界が「間質/血管の組織」であって、それらを構成する細胞の種類の特定がない点。

イ 相違点についての判断
相違点1について、摘記事項bに、細胞のシートは3細胞以上、50μm以上の厚さとすることができることが記載されているから、出願6発明2はそのような厚さの生成物を包含するものと認められる。
したがって、相違点1は実際には相違点ではない。
相違点2について、摘記事項dに「肝臓のアナログは:肝細胞または肝細胞様の細胞、および随意に、胆管上皮細胞、および随意に、限定されないが、星細胞、内皮細胞、クッパー細胞、免疫細胞、または筋線維芽細胞を含む、非実質細胞型を含む。」(下線は当審で付した)と記載されていること、及び、摘記事項eに、ヒト大動脈内皮細胞と肝星細胞を含む組織を肝臓の実質の小葉に介在させたことが記載されていること等を考慮すれば、出願6発明2の「肝臓の小葉」は肝細胞や肝細胞様の細胞を、出願6発明2の「間質/血管の組織」は血管細胞、内皮細胞、星細胞を含有するものをそれぞれ包含することは明らかである。
したがって、相違点2は実際には相違点ではない。
したがって、両発明は同一の発明である。

ウ 請求人の主張について
請求人は、平成30年11月1日提出の意見書における「出願6発明2について」において、主に以下の事項を主張している。
「出願6の対応日本出願の明細書の段落[0054]および[0056]は、本出願で定義される、本願請求項に記載の実質細胞および非実質細胞を有する肝臓組織構成物を開示しておらず、本願請求項に記載の区画および厚さを示していない。平面および層状の幾何学的形状に関する一般的な教示のみを提供するものである。」
しかしながら、細胞の種類や厚さについては上記イのとおりであるし、たとえ摘記事項gが一般的な教示であるとしても、摘記事項a?eを含む出願6の出願書類の全体は、当業者がそのように教示された構成物を製造することができる程度に記載されていると認められるから、出願6の出願書類の記載から出願6発明2を認定できないということにはならない。
したがって、当該主張は採用できない。

5 優先権主張の効果について
以上の通り、本願発明は出願6の出願書類の全体に記載されているものであるから、上記1で述べたとおりの理由により、優先権の主張の効果は認められない。
よって、現実の出願日である2014年9月25日が、新規性判断の基準日となる。

第5 引用文献6の記載、引用発明、対比、判断
引用文献6の記載は、上記第4の2に記載したとおりであり、上記第4の3で認定したとおりの出願6発明1、2(以下、引用発明1、2と言い換える)が記載されていると認める。
そして、上記第4の4に記載したとおり、引用発明1、2はそれぞれ本願発明と同一の発明である。
したがって、本願発明は、引用文献6に記載された発明である。

第6 請求人の主張について
請求人は、平成30年11月1日提出の意見書において、上記第4の4(1)ウ及び(2)ウに記載した事項に加えて、概略、以下のことを主張している。

1 出願6には、本願の補正後の請求項が具備する「非実質細胞を含む境界によって定義された、実質細胞を含む内部を含む」という構成(つまり、非実質細胞が実質細胞を包囲する構成)は明記されていない。パリ条約による優先権の主張の基礎とすることができる出願(最初の出願)であるか否かの判断は、明細書の記載から類推することは含まない。つまり、最初の出願であるか否かの判断は、発明が具体的に明細書等に開示されているか否かによってのみ判断されるべきであり、明細書等に開示されていない事項を明細書等の開示から類推して判断することは含まない。
2 本願の補正後の請求項に係る発明は、出願6または本願の実施例1?5で開示された主題のみを含むものではない。むしろ、本願の補正後の請求項に係る発明は、出願6に記載されていない本願の実施例6?9で開示された構成物に向けられている。

しかしながら、以下のとおりである。
1について、第4の3及び4に記載したとおり、出願6の出願書類に出願6発明1及び2が記載されていると認めることができるから、請求人の主張はその前提において誤りであり、採用できない。
2について、たとえ本願発明が本願の実施例6?9で開示された構成物を意図したものだったとしても、そのことは出願6発明1及び2が本願発明と構成上同一であるという判断を左右するものではない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-11-30 
結審通知日 2018-12-03 
審決日 2018-12-14 
出願番号 特願2016-502212(P2016-502212)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 裕美子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 松浦 安紀子
長井 啓子
発明の名称 操作した肝臓組織、そのアレイ、およびそれを製造する方法  
代理人 清原 義博  

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