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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B23C |
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管理番号 | 1351339 |
審判番号 | 不服2017-15633 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-10-20 |
確定日 | 2019-05-07 |
事件の表示 | 特願2016-27122「ワークピースの機械加工のための2つの振動成分を有するシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年5月26日出願公開、特開2016-93886〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、2011年(平成23年)12月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年12月21日(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする特願2013-545247号の一部を、平成28年2月16日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成28年 2月26日 :上申書、手続補正書の提出 同 年12月 6日付け:拒絶理由通知書 平成29年 6月12日 :意見書、手続補正書の提出 同 年 6月26日付け:拒絶査定 同 年10月20日 :審判請求書の提出 2 本願発明 本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成29年6月12日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1の記載は以下のとおりのものである。 「【請求項1】 ワークピース(5)の機械加工のための装置であって、 工具(6)を受ける工具保持固定具と、 前記ワークピース(5)を受けるワークピース保持固定具と、を備えるワークピース(5)の機械加工のための装置において、 該装置は機械加工中に、Z方向の第1振動成分、およびXおよび/またはY方向の第2振動成分の少なくとも1つを振動要素(2,2’,3,3’,4,7)によって導入することができ、 その際にXおよびZ方向、YおよびZ方向、またはX、Y、およびZ方向の振動成分を統合して、機械加工方向または工具(6)および/またはワークピース(5)の送り方向に対して傾斜している、1つの斜めの振動成分を生ぜしめるようになっており、 前記第1および第2振動成分の振動位相および/またはそれらの振動周波数および/またはそれらの振動振幅に関して、前記第1および第2振動成分を同期して調整することができることを特徴とする装置。」(以下「本願発明」という) 3 原査定における拒絶の理由 原査定の拒絶の理由2の概要は、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。 刊行物:特開2007-69344号公報 4 引用文献 原査定で引用した特開2007-69344号公報(以下「引用文献」という)には、次の事項が記載されている。(下線は理解の便のため、当審で付した) (ア)「【0013】 図1および図2を参照すると、振動加工装置100は、例えば切削ツール140を用いてワークピース130を加工するように構成されている。また、振動加工装置100は、制御器105と、振動増幅ユニット115と、第1振動ユニット110と、第2振動ユニット120と、カッター支持ユニット150と、運動テーブル160とを備えている。制御器105は、例えば制御信号、制御波形および/または制御データを、振動加工装置100の様々な他の部品に提供することにより、振動加工装置100の動作を制御する。なお、制御器105によって生成される駆動信号が、振動ユニット110,120を駆動するために十分なものであるならば、振動増幅ユニット115を省いてもよい。また、振動増幅ユニット115の増幅器は、図1に示すように振動ユニットから分離されているのではなく、振動ユニットに一体的に実装されていてもよい。」 (イ)「【0017】 第1および第2振動ユニット110,120は、例えば、第1および第2振動ユニット110,120の各振動アクチュエータ(図示せず)で振動を生成することにより、これらの振動アクチュエータに結合されている構造を振動させる。振動ユニット110は、入力電圧信号を振動ユニット110に入力するように構成された端子Va,Vbを備えていてもよい。振動ユニット120は、入力電圧信号を振動ユニット120に入力する端子Vc,Vdを備えていてもよい。振動ユニット110,120の振動アクチュエータは、圧電振動ユニットであることが望ましく(すなわち、ピエゾスタック(piezoelectric stack)を備えていてもよく)、その各端子の入力信号に応じて振動してもよい。すなわち、各振動アクチュエータの振動の周波数は、対応する振動ユニットの端子の電圧信号の周波数に等しいことが望ましい。また、振動の振幅は、対応する端子の電圧信号の振幅に比例していることが望ましい。」 (ウ)「【0019】 図2に示す例示的実施形態では、カッター支持ユニット150は、例えば、振動ユニット110と以下のように結合されていている。すなわち、切削ツール140が、振動ユニット110によって、運動テーブル160の面に対して実質的に平行な方向に(すなわち、第1振動軸に沿って)振動されるように、望ましくは運動テーブル160の運動によって生成される加工経路の正接である(tangent)ように、カッター支持ユニット150は、振動ユニット110に結合されている。振動ユニット120は、振動ユニット120の一方の端部において運動テーブル160に結合されている。ワークピース130は、加工プロセス時に切削ツール140に対して相対的に振動できるように、振動ユニット120の反対側の端部において、取り外し可能なように振動ユニット120に結合されている。したがって、図2の例示的実施形態では、振動ユニット110と振動ユニット120とは相互に結合されていない。」 (エ)「【0022】 図2には、振動ユニット110が、加工経路に対して実質的に正接である第1振動方向に沿って振動を生成し、振動ユニット120が、加工経路に対して実質的に直交する第2振動方向に沿って振動を生成する、ということが示されている。しかし、振動ユニット110は、実質的に振動面の範囲内である任意の方向(すなわち、第1方向)に沿って振動を生成してもよい。振動面は、加工経路の接線と、ワークピース130の表面の法線とによって規定される。さらに、振動ユニット120は、実質的には振動面の範囲内である、第1方向とは異なる任意の方向に沿って振動を生成してもよい。実質的に振動面の範囲内とは、例えば振動面と数度の小さな角度を形成してもよい方向のことである。 【0023】 図2では、第1振動方向と第2振動方向とが実質的に相互に直交していることが望ましい、ということが示されている。しかし、第1振動方向と第2振動方向とは、共通の方向でないように設定されていればよい、ということが想定されている。正弦駆動信号を使用する場合は、これらの例示的な構成のいずれも、ワークピース130に対する切削ツール140の楕円軌道を生成し得る。以下で説明するように、切削ツール140とワークピース130との他の相対運動は、ワークピース130に対して相対的な切削ツール140の他の所望の切削軌道を生成してもよい。」 (オ)「【0028】 ピエゾスタックを使用して振動ユニット110および/または振動ユニット120を振動させるために、各スタックに対する最大の入力電力は、約250ワットと約500?1000ボルトの範囲のピーク電圧を有する正弦波形を用いたピエゾスタックの損傷閾値(例えば、最大電力閾値)との間の範囲であってもよい。各ピエゾスタックに対する入力電力は、振動増幅ユニット115の第1および第2増幅器185,195を介して、個別に制御されることもある。 【0029】 振動ユニット110,120へ供給される電気信号の入力波形は、90°の位相角を有していることが望ましい。しかし、位相角が0°および180°である場合は不都合な線形振動運動の生じる可能性があるが、他の位相角も可能である、ということが想定されている。 【0030】 振動ユニット110,120の駆動信号の波形は、それぞれの振動の方向を有していることが望ましい。それぞれの方向は、加工経路の接線とワークピース130の表面の法線とによって規定される振動面の範囲内または本質的に範囲内である。しかし、それぞれの振動の方向は、同じでない限り、他の方向でもよい。さらに、振動ユニット110の振動方向は、加工経路の正接と同じまたはほぼ同じ方向であることが望ましい。」 (カ)「【0043】 図8(a)および図8(b)は、ワークピースを加工するために図2?図7の装置のいずれか1つによって使用される得る正弦入力波形810,820を示す例示的なタイミング図である。図8(c)は、図8(a)および図8(b)の例示的な入力波形810,820を使用して本発明の例示的な振動加工装置の切削ツールを振動させた結果生じる運動を示す概略図である。 【0044】 図8(a)から図8(b)に、振動ユニット110を駆動するために使用されることが望ましい入力波形810と、振動ユニット120を駆動するために使用されることが望ましい入力波形820とを示す。 【0045】 入力波形810と入力波形820との間の位相角(すなわち、相対位相)は、90°として示されている。しかし、これら2つの入力波形810,820間の位相角は、任意の位相角でもよい。なお、0°および180°は、振動運動を実質的に線形にしてしまうので望ましくないこともある。 【0046】 入力波形810,820の各々は、共通の周波数を有する正弦曲線である。振動ユニット110によって生成される振動振幅は、入力端子Va,Vbにおける電位である入力電圧810のピーク振幅に対して比例していてもよい。また、振動ユニット120によって生成される振動振幅は、振動ユニット120の入力端子Vc,Vdにおける電位である入力波形820のピーク振幅に対して比例していてもよい。 【0047】 図8(c)は、入力波形810,820によってそれぞれ駆動される振動ユニット110,120により生じる切削ツール140の運動を示す。正弦波形810,820が相互に90°の位相角を有しているので、切削ツール140によって、例えば長軸がワークピース130の表面に対して平行である実質的に楕円形の切削軌道830が実現される。実質的に楕円形の切削軌道830の深さ(短軸)は、入力波形820のピーク振幅に基づいており、閉ループ切削軌道830の長さ(長軸)は、入力波形810のピーク振幅に基づいている。」 (キ)図8(a)?(c) (ク)上記摘記事項(ア)ないし(カ)並びに図示事項(キ)を、技術常識を踏まえて整理すると、引用文献には以下の発明が記載されていると認められる。 「切削ツール140を用いてワークピース130を加工する振動加工装置100であって、 振動ユニット110を介して切削ツール140と結合するカッター支持ユニット150と、 振動ユニット120を介してワークピース130と結合する運動テーブル160と、を備え、 該装置は加工プロセス時に、振動ユニット120を用いて加工経路に対して実質的に直交する第2振動方向に沿って振動を生成し、振動ユニット110を用いて加工経路に対して実質的に正接である第1振動方向に沿って振動を生成することができ、 その際に、振動ユニット110及び振動ユニット120をそれぞれの振動の方向に振動させるためにそれぞれ正弦駆動信号を供給して、ワークピース130に対する切削ツール140の楕円軌道を生成し、それぞれの電気信号の入力波形の位相角が0°及び180°に制御可能であり、その場合は線形振動運動が生じる、振動加工装置100。」(以下「引用発明」という) 5 対比・判断 本願発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「切削ツール140を用い」た加工は、機械加工の一種であるから、引用発明の「切削ツール140を用いてワークピース130を加工する振動加工装置100」は、本願発明の「ワークピースの機械加工のための装置」に相当する。 (イ)引用発明の「振動ユニット110を介して切削ツール140と結合するカッター支持ユニット150」及び「振動ユニット120を介してワークピース130と結合する運動テーブル160」は、それぞれ本願発明の「工具を受ける工具保持固定具」及び「ワークピースを受けるワークピース保持固定具」に相当する。 (ウ)引用発明の「加工プロセス時」、「加工経路に対して実質的に直交する第2振動方向」及び「加工経路に対して実質的に正接である第1振動方向」は、本願発明の「機械加工中」、「Z方向」及び「XまたはY方向」に相当する。 また、引用発明の「振動ユニット120を用いて」「振動を生成」すること及び「振動ユニット110を用いて」「振動を生成する」ことは、両者とも本願発明の「振動成分」「を振動要素によって導入する」ことに相当する。 そうすると、引用発明の「該装置は加工プロセス時に、振動ユニット120を用いて加工経路に対して実質的に直交する第2振動方向に沿って振動を生成し、振動ユニット110を用いて加工経路に対して実質的に正接である第1振動方向に沿って振動を生成することができ」るという事項は、本願発明の「該装置は機械加工中に、Z方向の第1振動成分、およびXおよび/またはY方向の第2振動成分の少なくとも1つを振動要素によって導入することができ」るという事項と対比すると、両者は「該装置は機械加工中に、Z方向の第1振動成分、およびXまたはY方向の第2振動成分を振動要素によって導入することができ」るという点で一致する。 (エ)引用発明が「振動ユニット110及び振動ユニット120をそれぞれの振動の方向に振動させ」「ワークピース130に対する切削ツール140の楕円軌道を生成し」たことは、本願発明の「XおよびZ方向、または、YおよびZ方向の振動成分を統合し」たことに相当する。 そして、引用発明の電気信号の入力波形の位相角を0°及び180°にした場合に生じる「線形振動運動」が、本願発明の「機械加工方向または工具および/またはワークピースの送り方向に対して傾斜している、1つの斜めの振動成分」に相当することは、当業者であれば当然理解できる事項である。 (オ)引用発明において、振動ユニット110及び振動ユニット120をそれぞれの振動の方向に振動させるために「それぞれ正弦駆動信号を供給して」「それぞれの電気信号の入力波形の位相角が0°及び180°に制御可能であ」ることは、振動ユニット110及び120の入力波形を制御するものであり、正弦波の位相角を0°又は180°にすることは当該正弦波の入力が同期するよう調整していることにもなるから、本願発明が「第1および第2振動成分の振動位相に関して、前記第1および第2振動成分を同期して調整することができる」ことに相当する。 (カ)そうすると、引用発明は、 「ワークピースの機械加工のための装置であって、 工具を受ける工具保持固定具と、 前記ワークピースを受けるワークピース保持固定具と、を備えるワークピースの機械加工のための装置において、 該装置は機械加工中に、Z方向の第1振動成分、およびXまたはY方向の第2振動成分を振動要素によって導入することができ、 その際にXおよびZ方向、またはYおよびZ方向の振動成分を統合して、機械加工方向または工具および/またはワークピースの送り方向に対して傾斜している、1つの斜めの振動成分を生ぜしめるようになっており、 前記第1および第2振動成分の振動位相に関して、前記第1および第2振動成分を同期して調整することができる装置。」 となるものであって、本願発明と一致するものである。 6 審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書において、「このように、引用発明1では、振動ユニット110,120の各々を分離して個別に制御しているに過ぎず、本願発明とは異なり、振動ユニット110,120によって生じた入力波形の振幅、当該入力波形の位相、当該入力波形の周波数に関して、当該入力波形を同期して調整しているものではありません。 つまり、引用文献1には、振動ユニット110,120の各々を分離して個別に制御した結果として、当該入力波形の振幅、当該入力波形の位相、当該入力波形の周波数が重畳されることが記載されているに過ぎず、本願発明とは異なり、当該入力波形を同期して調整し、当該入力波形を統合して1つの斜めの振動成分を生ぜしめることについて記載されていません。」と主張している。 しかし、上記引用文献の摘記事項(カ)や図示事項(キ)で示したように、共通の周波数を有する2つの正弦入力波形810、820を調整し、切削ツール140に楕円形の切削軌道830をとらせることは、引用文献に開示されている。そして、このように楕円形の切削軌道830を描くのは、当然、当該2つの入力波形810、820を同期して調整しているからにほかならない。 また、当該2つの入力波形810、820の位相角に0°又は180°を選択することで、切削軌道830の楕円軌道が実質的に線形の振動運動になることも、引用文献の段落【0029】や【0045】に示唆されており、例えば、図8(a)及び(b)に示された入力波形810及び820の位相角に0°又は180°を選択した場合に、図8(c)の切削ツール140の運動を示す楕円形の切削軌道830が、本願発明の「1つの斜めの振動成分」に相当する線形の振動運動になることも、当然理解されるものである。 したがって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。 7 むすび したがって、本願発明は公知の刊行物に記載された引用発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2018-11-30 |
結審通知日 | 2018-12-03 |
審決日 | 2018-12-14 |
出願番号 | 特願2016-27122(P2016-27122) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(B23C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 永石 哲也 |
特許庁審判長 |
平岩 正一 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 栗田 雅弘 |
発明の名称 | ワークピースの機械加工のための2つの振動成分を有するシステム |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 前川 純一 |
代理人 | 上島 類 |