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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A41D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A41D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A41D
管理番号 1351373
異議申立番号 異議2018-700043  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-18 
確定日 2019-02-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6191028号発明「空調衣服」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6191028号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6191028号の請求項1?4に係る特許を維持する。 特許第6191028号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6191028号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年11月4日に特許出願され、平成29年8月18日にその特許権の設定登録(特許掲載公報平成29年9月6日発行)がされ、その後、その特許について、平成30年1月18日に特許異議申立人三重野正博(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年6月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年8月7日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正自体を「本件訂正」という。)がされ、平成30年10月12日に申立人から意見書の提出がされ、平成30年11月8日付けで申立人に対し審尋がなされ、平成30年12月12日に申立人から回答書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正の内容は次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1について、「襟の後方裏面側」という記載があるのを「襟の後方側」という記載とし、「を具備すること、」という記載があるのを「を具備し、前記襟が、前記風道フードを内部に収納可能な構成を有すること、」という記載とすることで、
「衣服用ファンを取り付けて衣服内に空気を送風する空調衣服であって、
衣服外部と内部とを連通するように後身頃の下方の左右に設けられた衣服用ファン取付用孔と、
下方端部において襟の後方側に配設されており、上方端部においてヘルメットに接続される略矩形の風道フードと、
を具備し、
前記襟が、前記風道フードを内部に収納可能な構成を有すること、
を特徴とする空調衣服。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許明細書の段落【0009】について、「襟の後方裏面側」という記載があるのを「襟の後方側」という記載とし、「を具備すること、」という記載があるのを「具備し、前記襟が、前記風道フードを内部に収納可能な構成を有すること、」という記載とすることで、
「上記の課題を解決すべく、本発明は、
衣服用ファンを取り付けて衣服内に空気を送風する空調衣服であって、
衣服外部と内部とを連通するように後身頃の下方の左右に設けられた衣服用ファン取付用孔と、襟の後方側に配設された風道フードと、を具備し、
前記襟が、前記風道フードを内部に収納可能な構成を有すること、
を特徴とする空調衣服を提供する。」
に訂正する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許明細書の段落【0016】について、「有すること、」という記載があるのを「有する。」という記載と訂正する。

(5)訂正事項5
本件訂正前の特許明細書の【0023】について、「風道フード9」という記載があるのを「風道フード7」という記載と訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的について
訂正事項1のうち、本件訂正前の「襟の後方裏面側」という記載があるのを「襟の後方側」という記載とする訂正は、「襟の後方裏面側」という記載が襟のどの部位を指すか必ずしも明瞭であるとはいえなかったところ、「襟の後方側」と明瞭にするものである。
また、訂正事項1のうち、本件訂正前の「を具備すること、」という記載があるのを「を具備し、前記襟が、前記風道フードを内部に収納可能な構成を有すること、」という記載とする訂正は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「襟」について、「前記風道フードを内部に収納可能な構成を有すること」と構成を付加し限定するものである。
ゆえに、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮、及び同第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ.新規事項の有無について
本件訂正前の特許明細書の段落【0025】、図1、図2、図10には、襟の後方側に風道フードが配設されていることの記載あるいは図示がある。
また、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5には、「前記襟が、前記風道フードを内部に収納可能な構成を有すること」が記載されている。
ゆえに、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の有無について
訂正事項1のうち、「襟の後方裏面側」という記載があるのを「襟の後方側」という記載とする訂正は、上記に示したように、本件特許明細書の記載によれば、「襟の後方側」と記載すべきであったのを「襟の後方裏面側」と記載されて不明瞭なものとなっていた記載から、「裏面」という語句を削除するものである。
また、訂正事項1のうち、「を具備すること、」という記載があるのを「を具備し、前記襟が、前記風道フードを内部に収納可能な構成を有すること、」という記載とする訂正は、前記「襟」の構成を限定するものである。
ゆえに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、新規事項を追加するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
ア.訂正の目的について
訂正事項3は、上記訂正事項1による訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の記載とを整合させるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ.新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の有無について
訂正事項3は、上記訂正事項1と同様の訂正を行うものである。
ゆえに、上記(1)イ.及びウ.で示したとおり、新規事項を追加するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
ア.訂正の目的について
訂正事項4は、本件訂正前の「有すること、」という記載を「有する。」という記載に訂正するものであり、本件訂正前の段落【0016】及び【0017】の記載によれば、内容的に文が区切れて「有する。」と句点を記載すべきであったことは明らかであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。
イ.新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の有無について
訂正事項4は、語法の誤りを正すものにすぎないから、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5について
ア.訂正の目的について
訂正事項5は、本件訂正前の「風道フード9」という記載を「風道フード7」という記載に訂正するものであり、本件訂正前の本件特許明細書の段落【0024】における「<風道フード7>」との記載や、図面において「風道フード」の付番が「7」である記載と一致せず、この点で不明瞭であった記載を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ.新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の有無について
訂正事項5は、「風道フード9」という記載を「風道フード7」という記載に訂正するものであるところ、上記で示したとおり、「風道フード」について、本件訂正前の本件特許明細書の段落【0024】には「<風道フード7>」と記載されており、図面において「風道フード」の付番が「7」である記載があるから、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(6)特許請求の範囲の訂正が、一群の請求項に対してなされたものであるかについて
訂正事項1、2は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1、請求項5についての訂正である。また、本件訂正前の請求項2?5は、請求項1を直接または間接に引用しているから、請求項1?5は一群の請求項である。
ゆえに、訂正事項1、2は、一群の請求項1?5に対して請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(7)明細書の訂正が、一群の請求項全てに対して行われているかについて
訂正事項3?5は、それぞれ、本件特許明細書の【0009】、【0016】、【0023】についての訂正であるところ、【0009】、【0016】は、それぞれ、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、5に対応する事項を記載するものであり、【0023】は本件訂正前の請求項1?5に対応する実施例の一部を記載するものであるから、訂正事項3?5は一群の請求項1?5に関連する訂正である。
ゆえに、訂正事項3?5は、一群の請求項1?5の全てに対して行われたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合する。

(8)申立人の主張について
申立人は、意見書において、「訂正前の請求項1においては、「襟の後方裏面側」とされ、風道フードが配設される襟の面に係る限定がなされていたのに対し、訂正後の請求項1においては、「襟の後方側」とされているのみで、風道フードが配設される襟の面に係る限定は一切なされておりません。」、「したがって、本件訂正の訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張するものとして、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に違反することは明らかです。」と主張している。
しかしながら、上記(1)イ.及びウ.に示したように、本件訂正前の本件特許明細書における「風道フード7は・・・下方端部を襟15の後部側に縫着している。」(【0025】参照)との記載、及び図1、2、10の図示を踏まえると、「風道フード7」が配設される「襟の後方裏面側」とは、本来「襟の後方側」と記載すべきであったものといえる。そうすると、「襟の後方裏面側」という記載から、「裏面」を削除して、「襟の後方側」という記載とする訂正は、訂正の前後で記載しようとする技術的事項が相違するとはいえないから、当該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張するものとはいえない。したがって、上記申立人の主張は、当を得たものとはいえず、採用することができない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1?3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4?6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について、訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正請求が認められたことにより、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
衣服用ファンを取り付けて衣服内に空気を送風する空調衣服であって、
衣服外部と内部とを連通するように後身頃の下方の左右に設けられた衣服用ファン取付用孔と、
下方端部において襟の後方側に配設されており、上方端部においてヘルメットに接続される略矩形の風道フードと、
を具備し、
前記襟が、前記風道フードを内部に収納可能な構成を有すること、
を特徴とする空調衣服。
【請求項2】
衣服外部と内部とを連通するように前記後身頃の略背筋上方部にハーネス接続環露出用孔を具備すること、
を特徴とする請求項1に記載の空調衣服。
【請求項3】
前記衣服用ファン取付用孔が、縁部にリング状布を具備すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の空調衣服。
【請求項4】
前記リング状布に脱着自在で前記リング状布の孔を閉孔可能な閉孔蓋を有すること、
を特徴とする請求項3に記載の空調衣服。
【請求項5】
(削除)」

2.取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、平成30年6月11日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
刊行物1:国際公開第2016/016996号
刊行物2:登録実用新案第3198778号公報
刊行物3:特開2015-65998号公報
刊行物4:国際公開第2006/077876号
刊行物5:登録実用新案第3166330号公報
刊行物1?5は、それぞれ、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付された甲第1号証?甲第5号証である。

(取消理由1)請求項1に係る発明は、「襟の後方裏面側」という記載が不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。また、上記請求項1に係る特許を直接又は間接に引用する請求項2?5に係る特許についても同様である。

(取消理由2)請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。

(取消理由3)請求項1?4に係る発明は、刊行物1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項1?4に係る特許は、取り消されるべきものである。

3.刊行物の記載及び刊行物発明
(1)刊行物1について
刊行物1の[0001]、[0013]、[0015]、[0022]、[0023]に記載の事項、及び図1?3の図示を踏まえると、刊行物1には次の発明が記載されている(以下、「刊行物1発明」という。)
「ファンを含む送風手段20を取り付けて服本体10内に空気を送風するヘルメット対応空調服1であって、
服本体10外部と内部とを連通するように後身頃の下方の左右に設けられたファンを含む送風手段20用の孔と、
一端において襟後部12に連なっており、先端部においてヘルメット110に取り付けられる略矩形の案内シート70と、
を具備する、
ヘルメット対応空調服1。」

(2)刊行物2について
刊行物2の【0001】、【0010】、【0011】に記載の事項、及び図1?4の図示を踏まえると、刊行物2には次の事項が記載されている。
「空調服10外部と内部とを連通するように後身頃に命綱16を引き出すための取出し筒13を具備すること。」

(3)刊行物3について
刊行物3の【0001】、【0021】に記載の事項、及び図1の図示を踏まえると、刊行物3には次の事項が記載されている。
「ファン90の筒状部911を挿入するための開口部20が、縁部に裏地30を具備すること。」

(4)刊行物4について
刊行物4の[0001]、[0038]に記載の事項、及び図2(a)の図示を踏まえると、刊行物4には次の事項が記載されている。
「送風手段50を取り付けるための孔部11が、周囲部に面状ファスナー12を具備すること。」

(5)刊行物5について
刊行物5の【0001】、【0025】、【0026】に記載の事項、及び図1、2の図示を踏まえると、刊行物5には次の事項が記載されている。
「面ファスナー雌5に脱着自在で前記面ファスナー雌5の衣服側通気孔4を閉孔可能な装飾蓋2を有すること。」

4.判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア.取消理由1について
(ア)本件訂正請求が認められたことにより、本件発明1?4についての特許請求の範囲の記載は、上記1.に示したとおりであり、その記載に用いられている用語や各発明特定事項の関係に不明確な点はなく、その記載のとおり、本件発明1?4を明確に把握することができる。
ゆえに、本件発明1?4は、明確であるといえる。
したがって、本件発明1?4の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、取消理由1によって本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。

(イ)また、本件訂正請求が認められたことにより、本件発明5は削除された。
ゆえに、本件発明5を対象とする取消理由1は、理由のないものとなった。

イ.取消理由2について
(ア)本件発明1と刊行物1発明を対比すると、刊行物1発明における「ファンを含む送風手段20」、「服本体10」、「ヘルメット対応空調服1」、「一端」、「先端部」、「ヘルメット110」、「案内シート70」は、それぞれ、本件発明1における「衣服用ファン」、「衣服」、「空調衣服」、「下方端部」、「上方端部」、「ヘルメット」、「風道フード」に相当する。また、刊行物1発明における「ファンを含む送風手段20用の孔」は、本件発明1における「衣服用ファン取付用孔」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明1と刊行物1発明とは、少なくとも、次の<相違点1>で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、襟が風道フードを内部に収納可能な構成を有しているのに対し、刊行物1発明では、このような構成を有しているかは明らかでない点。

(ウ)本件発明1と刊行物1発明とは、少なくとも、上記<相違点1>で相違する。そして、相違点1は、風道フードを収納するための襟の構成についての相違点であるから、実質的な相違点である。よって、本件発明1は刊行物1発明ではない。
したがって、取消理由2によって本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

ウ.取消理由3について
(ア)上記イ.(イ)で示したとおり、本件発明1と刊行物1発明とは、少なくとも、上記<相違点1>で相違する。
刊行物1には、<相違点1>の本件発明1に係る構成である、襟を風道フードを内部に収納可能な構成を有する点について、記載ないし示唆されていない。
また、刊行物2?5にも、<相違点1>の本件発明1に係る構成である、襟を風道フードを内部に収納可能な構成を有する点について、記載ないし示唆されていない。
そして、本件発明1は、<相違点1>に係る構成を有することで、ヘルメットを使用しない場合、風道フードを襟内部に収納することができるという、格別な作用効果を奏する。
ゆえに、本件発明1は、刊行物1発明及び刊行物2?5に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、取消理由3によって、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

(イ)また、本件発明2?4は、上記本件発明1を直接又は間接に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項にさらに技術的限定を加えたものである。ゆえに、本件発明2?4は、上記本件発明1と同様、刊行物1発明及び刊行物2?5に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、取消理由3によって、本件発明2?4に係る特許を取り消すことはできない。

(ウ)また、本件訂正により、本件発明5は削除された。
ゆえに、本件発明5を対象とする取消理由3は、理由のないものとなった。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア.申立人は、申立書の4(3)オにおいて、「甲第6号証(当審注:特開2003-313706号公報)には、フード41を使用しないときには、中襟12と外襟13との間に収納することができるフード付防水性衣服の襟構造につき記載されている(請求項1及び段落0008)。」、「また、甲第7号証(当審注:特開平7-216605号公報)には、襟部2が貯水袋11を内装し、貯水袋11内にフード12を収納することのできる防水衣料1につき記載されている(請求項1及び段落0021)。」と主張した上で、「甲1発明は空調衣服に係る発明であり、甲6発明及び甲7発明は、防水性を有する衣服に係る発明であるものの、両者はフードを有する上衣であるという点で共通しており、甲1発明に、甲6発明又は甲7発明を適用することが、当業者にとって容易であったことは明らかである。」と主張している。
しかしながら、甲1(刊行物1)の[0045]には、「尚、上記の各実施形態では、主にヘルメットの着用時にヘルメット対応空調服を使用する場合について説明したが、当然、ヘルメットを着用しないときにも本発明のヘルメット対応空調服を使用することができる。この場合には、案内シートや取付手段を襟後部に垂らした状態で本発明のヘルメット対応空調服を使用すればよい。」と記載されており、そもそも、甲1には、「案内シート」(フード)について、襟に収納する発明を適用する動機が示されていない。
また、甲1の[0025]には、「上述したように、噴出部60は、使用者の首後部と服本体10の襟後部12との間に形成された開口部であり、空気流通路内を流通してきた空気は、この噴出部60を介して案内シート70の側に噴出することになる。第一実施形態では、服本体10と案内シート70とが一体化されているため、噴出部60の位置を明確に特定することはできないが、定義上は、使用者の首後部に対応する服本体10の部位を噴出部60として捉えることができる。」と記載されており、[0028]には、「・・・また、案内シート70が服本体10の襟後部12に連なっているので、噴出部60から噴出される大量の空気を案内シート70に沿って効率よくヘルメット110に導いて、ヘルメット110の内縁と使用者の頭部との間に形成される空気導入口114(図4参照)からヘルメット110内に導入することができる。・・・」と記載されている。この記載及び図1?3の図示を踏まえると、甲1発明では、案内シート70を服本体10の襟後部12に連続的に備えることで、服本体10側からヘルメット110側に向けて空気を効率よく導くようにしたものであるといえる。しかしながら、甲6では、フード41と衣服の後身頃の間には襟部があり、フード41と衣服の後身頃とは連続的ではない(【0007】?【0009】、図1?3参照)。また、甲7でも、フード12と防水衣料1の後身頃との間には襟部2があり、フード12と防水衣料1の後身頃とは連続的ではない(【0016】?【0026】、図1?6参照)。甲1発明に、このような甲6事項又は甲7事項を適用すると、服本体側からヘルメット側に向けての空気の流れの効率が低下することは明らかであるから、そのような適用には阻害要因があるといえ、甲1発明に甲6事項又は甲7事項を適用することは、当業者であっても容易であるとはいえない。
したがって、上記申立人の主張を採用することはできない。

(3)申立人の意見について
申立人は、意見書と共に甲第8号証(表紙に「2015」、「空調服」と表記され、裏表紙裏に「株式会社空調服」と表記されたカタログ)及び甲第9号証(表紙に「SUN-S空調服」、「2015」と表記され、裏表紙裏に「SUN-S」と表記されたカタログ」を提出し、同意見書の3.(3)において、「甲第8号証の第11頁の上部に記載された「フード付ポリエステル製長袖ブルゾン」は、明らかに襟内に収納される「収納式フード(ヒモ付き)」を備えており、また、甲第9号証の第12頁に記載された「フード付スタッフジャンパー」は、襟を指して「フード収納」とされており、明らかに襟内にフードが収納されることが予定されております。」、「これらの点に鑑みれば、空調衣服の技術分野において、襟が、フードを内部に収納可能な構成を有することが、周知の技術に過ぎなかったことは明らかです。」と主張した上で、「したがって、訂正発明1は、甲1発明に、上記のような周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を有しません。」、「また、訂正発明2から4については、・・・訂正発明1が進歩性を有しない場合にこれらが進歩性を有しない」と主張している。
この点、甲第8号証及び甲第9号証について、申立人は、平成30年12月12日に提出した回答書において、甲第10?14号証を提出し、「本件特許の出願日である平成28年11月4日の前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物に該当する」と主張している。しかしながら、甲第10?14号証には、カタログの表紙と内容の一部が開示されているところ、一般に、カタログは商品の仕様変更等によりその内容が変遷することが多いことからすると、甲第10?14号証に示されたカタログが、申立人が意見書と共に提出した甲第8号証及び甲第9号証と同一のものであるとはいえない。ゆえに、甲第10?14号証をもってしても、甲第8号証及び甲第9号証が、本件特許の出願日前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物であるとはいえない。
仮に、申立人の上記主張のとおり、甲第8号証及び甲第9号証が、本件特許の出願日前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、空調衣服の技術分野において、襟が、フードを内部に収納可能な構成を有することが、周知の技術であったとしても、以下に示すように、訂正発明1(本件発明1)は、甲1発明に、上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なぜなら、甲1発明では、上記(2)で示したように、案内シート70を服本体10の襟後部12に連続的に備えることで、服本体10側からヘルメット110側に向けて空気を効率よく導くようにしたものであるところ、甲第8号証及び甲第9号証は、空調服のカタログであって、フードが服本体に連続的に構成されるとの技術的思想が記載されている、あるいは示唆する記載があるとまではいえない。そうすると、甲1発明に甲第8号証及び甲第9号証に例示された周知の技術を適用すると空気の流れの効率性が維持されることは期待できないから、甲1発明に上記周知の技術を適用することは、当業者であっても容易であるとはいえないからである。
したがって、上記申立人の主張を採用することはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項5は、本件訂正が認められることにより、削除されたため、本件特許の請求項5について、申立人がした特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
ゆえに、本件特許の請求項5についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
空調衣服
【技術分野】
【0001】
本発明は、高所作業用安全帯と重ねて着用可能で、着用者の身体を冷却可能な空調衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高気温下での作業や運動から引き起こされる熱中症が問題視されている。熱中症とは、視床下部の体温を正常に保つ機能が低下することで全身の発汗作用が停止し、体温が過剰に上昇してしまう症状である。そのため、熱中症が引き起こされると適切な処置を早急に行うことが非常に重要であり、処置が遅れると死に至る可能性もある。
【0003】
上記のような熱中症対策及び快適な作業環境を提供するために、身体を冷却しつつ作業や運動を可能とする空調衣服が知られるようになってきている(例えば、特許文献1参照)。空調衣服とは、衣服用ファンが一体的に構成された衣服であり、衣服と、身体又は下着と、の間に外気を取り入れ、本来身体の体温で温められたまま移動しない衣服内の空気を強制的に入れ替えるものである。
【0004】
空調衣服に備えられている衣服用ファンは、概ね衣服の背面側における下部近傍に固定されている。使用者は空調衣服を着用し、衣服用ファンを駆動することによって、衣服と、身体又は下着と、の間に外気を取り入れ続けることとなり、身体の表面に沿って常時外気が流れるようになる。これにより、身体が必要とする放熱量に応じて排出される汗を気化させることができ、気化熱を奪うことで身体の冷却を可能とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第02/067708号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の空調衣服は、より専門的な作業者に特化して構成されておらず、例えば高所での作業時に、安全綱(命綱)を接続するための高所作業用安全帯(安全綱を接続するためのフォールアレストを具備した作業者の身体に固定する帯)を装着しつつ重ねて着用することができなかった。
また、空調衣服内に取り込んだ空気の移動は腰部から上方及び首元から下方の範囲に限定されており、前記範囲の身体しか冷却効果を得ることができなかった。
【0007】
ここで、空調衣服の構成に着目すると、背面側の生地で高所作業用安全帯が備えるフォールアレストを隠してしまい、安全綱を接続できない。また、通常の衣服形状のままでは空調の範囲が限定されてしまうことは明らかであって、未だ改善の余地があった。
降雨初期の雨水と、降雨中期以降の雨水と、の分別を行う構造に問題があり、前記構造では確実かつ効率的な雨水の分別と、簡便なメンテナンスと、を行うことができないことは明らかであって、未だ改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みて、高所作業用安全帯の機能を損なうことなく、前記高所作業用安全帯と重ねて着用可能で、更に上半身と、首元及び頭部全体と、を冷却可能な空調衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決すべく、本発明は、
衣服用ファンを取り付けて衣服内に空気を送風する空調衣服であって、
衣服外部と内部とを連通するように後身頃の下方の左右に設けられた衣服用ファン取付用孔と、襟の後方側に配設された風道フードと、を具備し、
前記襟が、前記風道フードを内部に収納可能な構成を有すること、
を特徴とする空調衣服を提供する。
【0010】
このような構成を有する本発明の空調衣服は、衣服用ファンを取り付けて外部の空気を本空調衣服の内部に引き込み、着用者の上半身と、本空調衣服と、の隙間に空気の流れを作ることができる。また、風道フードをヘルメット等と接続することにより、首元から頭部まで空気を送ることができ、従来よりも更に冷却効果を向上させることができる。
【0011】
また、上記の本発明の空調衣服においては、
衣服外部と内部とを連通するように前記後身頃の略背筋上方部にハーネス接続環露出用孔を具備することが望ましい。
【0012】
このような構成を有する本発明の空調衣服は、高所作業用安全帯と重ねて着用することができ、前記高所作業用安全帯が備えるフォールアレストをハーネス接続環露出用孔から外部に露出させることで本空調衣服を着用しながら安全綱等を高所作業用安全帯につなげて使用することができる。
また、高所作業用安全帯を重ねて着用しない場合、ハーネス接続環露出用孔を閉じることにより、衣服用ファンで引き込んだ空気をハーネス接続環露出用孔から放出されることを防止し、より多くの空気を首元から頭部に送ることができる。ハーネス接続環露出用孔を開けば、衣服用ファンで引き込んだ空気をハーネス接続環露出用孔から放出させて、背中付近において衣服内部から外部への風の流れを強めて背中部分での冷却効果を高めることができる。
【0013】
また、上記の本発明の空調衣服においては、
前記衣服用ファン取付用孔が、縁部にリング状布を具備することが望ましい。
【0014】
また、上記の本発明の空調衣服においては、
前記リング状布に脱着自在で前記リング状布の孔を閉孔可能な閉孔蓋を有することが望ましい。
【0015】
このような構成を有する本発明の空調衣服は、リング状布により衣服用ファン取付用孔の縁部が補強され、衣服用ファンの取付及び固定が容易かつ確実に行える。また、前記リング状布が面ファスナーを具備することで、閉孔蓋を貼り付けて衣服用ファン取付用孔を閉孔することができ、衣服用ファンを使用しない場合でも衣服本来の機能を損なうことなく使用することができる。
【0016】
また、上記の本発明の空調衣服においては、
前記襟が、前記風道フードを内部に収納可能な構成を有する。
【0017】
このような構成を有する本発明の空調衣服は、ヘルメットを使用しない場合、風道フードを襟内部に収納することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態における空調衣服1の構成を示す図であり、図1(a)は、本実施形態における空調衣服1の着用状態を正面側から示す模式図であって、図1(b)は、本実
施形態における空調衣服1の着用状態を背面側から示す模式図である。
【図2】図1に示す風道フード7の構成を示す模式図である。
【図3】図1に示す襟15を用いた風道フード7の収納態様を説明する図であって、図3(a)は、風道フード7を折り畳む状態を示す模式図であり、図3(b)は、風道フード7を襟15内部に挿入した状態を示す模式図であり、図3(c)は、襟15が備えたファスナー21を閉じる状態を示す模式図である。
【図4】図1に示すハーネス接続環露出用孔9を示す模式図である。
【図5】衣服用ファン取付用孔11に衣服用ファン3を取付ける状態を示す模式図である。
【図6】衣服用ファン取付用孔11に閉孔蓋27を取付ける状態を示す模式図である。
【図7】図1に示すループ13を示す模式図である。
【図8】図1に示すループ13の配置方向を説明する図であって、図8(a)は、ループ13を正面側配置した状態を示す模式図であり、図8(b)は、ループ13を内部側に配置した状体を示す模式図である
【図9】高所作業用安全帯51と、本実施形態の空調衣服1と、を重ねて着用し、本空調衣服1を透視した状態を示す模式図である。
【図10】風道フード7と、ヘルメット53と、の接続手順を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る空調衣服の代表的な実施形態を、図1?図10を参照しながら詳細に説明するが、本発明は図示されるものに限られない。また、各図面は本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。更に、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略することもある。
【0020】
1.空調衣服の構造
<空調衣服の概要>
本実施形態の空調衣服1は、衣服に取り付けることにより前記衣服内に外気を取り込む衣服用ファン3を具備(取外し可能な構造であってもよい。)し、例えば作業服等として適用できるものであって、着用者は作業服内を快適に空調しつつ着用することができるものである。
【0021】
更に、本空調衣服1はあらかじめ高所作業用安全帯51(本明細書においては、以下「ハーネス」とも称する。)を装着した状態で高所作業用安全帯51の上から着用(高所作業用安全帯51が備えるフォールアレスト55等の接続部は外部に露出する)することができ、より専門的な作業にも対応できるものである。
【0022】
<空調衣服の構成>
図1(a)及び(b)を用いて、本実施形態における空調衣服1の構成について説明する。図1(a)及び(b)は、本実施形態における空調衣服1の構成を示す図であり、図1(a)は、本実施形態における空調衣服1の着用状態を正面側から示す模式図であって、図1(b)は、本実施形態における空調衣服1の着用状態を背面側から示す模式図である。
【0023】
図1に示すとおり、本空調衣服1は、概ね基本的な作業服の構造を備えた衣服本体部5を主部材とし、衣服本体部5の背面側上方(襟裏)に設けられた風道フード7と、衣服本体部5の背面側略中央に配設されたハーネス接続環露出用孔9と、衣服本体部5の背面側下方左右に夫々配設された衣服用ファン取付用孔11と、衣服本体部5の正面側胸部左右に夫々配設されたループ13と、を具備して構成されている。
以下、上述した各構成部材を詳細に説明する。
【0024】
<風道フード7>
図2を用いて風道フード7を詳細に説明する。図2は、風道フード7の構成を示す模式図である。風道フード7は、一般的な衣服に付属する帽子的(頭部の一部を被覆)な用途を達成するものではなく、着用者が別途着用したヘルメット53等に接続し、衣服用ファン3による衣服内の空調(気流)を意図的に首元及び頭部側に導くものである。
【0025】
風道フード7は、例えば略矩形で衣服本体部5と略同材質の生地又は通気性の低い生地等で構成され、上方端部の前面に面ファスナー19を具備し、下方端部を襟15の後部側に縫着している。前記襟15は、より具体的には、複数の生地を重ねて略袋状に構成され、外部と袋内部とを連通するフード挿入孔17が背面側に配設されており、風道フード7は、一方の端部が襟15の袋内部に縫着され、上記フード挿入孔17を介して袋内部から外部に広げて出すことが可能である。
なお、フード挿入孔17にはファスナー21を取り付け、着用者が任意に開閉可能な構成とすることが望ましい。
【0026】
次に、図3(a)(b)(c)を用いて襟15の構造を用いた風道フード7の収納について説明する。図3(a)(b)(c)は、襟15を用いた風道フード7の収納態様を説明する図であって、図3(a)は、風道フード7を折り畳む状態を示す模式図であり、図3(b)は、風道フード7を襟15内部に挿入した状態を示す模式図であり、図3(c)は、襟15が備えたファスナー21を閉じる状態を示す模式図である。
【0027】
図3(a)に示すように、まず、風道フード7を、折り畳む又は筒状に丸めつつ外部側から袋内部側に向かって小さく纏め、図3(b)に示すように、襟15のファスナー21の開口から纏めた風道フード7全体を袋内部に挿入する。続いて、図3(c)に示すように、襟15のファスナー21を徐々に閉じて開口を閉鎖し、風道フード7の収納が完了する。なお、上述では風道フード7を襟15内に収納する方法について説明したが、襟15から外部に取り出す場合、上記手順を逆に行うことで達成することができる。
【0028】
<ハーネス接続環露出用孔9>
続いて、図4を用いてハーネス接続環露出用孔9の詳細について説明する。図4は、ハーネス接続環露出用孔9を示す模式図である。
図4に示すとおり、ハーネス接続環露出用孔9は、衣服本体部3の背面側略中央(具体的には両肩甲骨の中間近傍)に配設された孔であって、着用者が高所作業用安全帯51を装着した場合、高所作業用安全帯51が背面側に具備するフォールアレスト55をハーネス接続用環露出用孔9から外部に露出させ、安全綱(図示せず。)等を接続することができる。即ち、ハーネス接続環露出用孔9を備えることにより、本実施形態の空調衣服1は、高所作業用安全帯51と併用することができる。
【0029】
ハーネス接続環露出用孔9は、所定の大きさに形成された横長の孔であって、開口部にダブルファスナー23を具備し、左右どちらへも開閉可能に構成されている。また、ハーネス接続環露出用孔9の上方には、孔保護布25が設けられており、ハーネス接続環露出用孔9の閉鎖時にはこの孔保護布25を当接させてハーネス接続環露出用孔9及びダブルファスナー23を保護することができる。
【0030】
<衣服用ファン取付用孔11>
次に、図5及び図6を用いて、衣服用ファン取付用孔11の詳細について説明する。図5は、衣服用ファン取付用孔11に衣服用ファン3を取付ける状態を示す模式図であって、図6は、衣服用ファン取付用孔11に閉孔蓋27を取付ける状態を示す模式図である。
【0031】
衣服用ファン取付用孔11は、前記衣服内に外気を取り込み、着用者の身体を効果的に冷却可能な衣服用ファン3を取り付けるための孔であって、衣服本体部5の背面側の下方左右に設けられている。なお、衣服用ファン3は、衣服本体部5に対して取外可能に構成されてもよいし、完全に固定されたものであってもよい。
【0032】
衣服用ファン取付用孔11は、略円形(衣服用ファン3の形状に合わせて孔の形状を構成することが望ましい。)の貫通孔であって、衣服本体部5の外部側と内部側とを連通している。また、前記衣服用ファン取付用孔11の縁部には、比較的生地が厚く、中心部に孔を有するリング状布29が備わっており、リング状布29と衣服用ファン取付用孔11との円心を合わせつつ衣服本体部5の内側に前記リング状条布29が配置されるよう接着されている。
【0033】
リング状布29の一方の面(着用者側に対向する面)には、全面又は一部に面ファスナー31が備わっており、衣服用ファン取付用孔11を閉孔するための閉孔蓋27を取り付けることができる。閉孔蓋27は、リング状布29と略同様の外形を有した円状の生地であり、リング状布29と対向する面の一部(リング状布29が備える面ファスナー31と当接する部分)に面ファスナー33を備えている。
【0034】
衣服用ファン3を衣服本体部5から取り外した際には、衣服用ファン取付用孔11により衣服本体部5に孔が開いた状態となってしまうが、着用者が冷却を必要としない場合は衣服用ファン取付用孔11が不要となる(冬季等、防寒を必要とする時期には特に不要となる.)。本空調衣服1は、閉孔蓋27を用いることにより、着用時期や環境温度に応じて着用者が任意に衣服用ファン取付用孔11の開閉を行うことができる。
【0035】
衣服用ファン3の取付に際しては、衣服本体部5の外部側から内部側に向かって衣服用ファン取付用孔11に挿入し、前記衣服用ファン3の取付方法に従って固定する。また、閉孔蓋27の取付は、衣服本体部5の内部側から前記閉孔蓋27と衣服用ファン取付用孔11とを同軸にしつつ当接し、双方の面ファスナー31、33を嵌合させることにより行う。
【0036】
<ループ13>
次に、図7を用いてループ13について説明する。図7は、ループ13を示すた模式図である。ループ13は、着用者が多目的に使用可能で、例えば高所作業用安全帯51に接続した安全綱やその他作業上必要とするカラビナ35等を接続して一時的に配置させるものである。このため、作業者は上記安全綱やカラビナ35等を持ち運ぶために手が拘束されることがない。
【0037】
ループ13は、所定の強度を有する厚手の生地を環状に構成し、衣服本体部5の胸部上方に縫着して固定されている。また、図8(a)及び(b)に示すとおり、ループ13は上方部が衣服本体部5の内部側に縫着されており、ループ用開口37を介して外部側に露出している。このため、ループ13は衣服本体部5の内部側に配置(収納)することも可能であり、着用者の任意でループ13の配置(衣服本体部5の外部側又は内部側)を決定することができる。
【0038】
なお、衣服本体部5の内部側に所定のバッテリーポケット(図示せず。)を設ければ、衣服用ファン3を駆動するためのバッテリーを収納して固定することができ、より利便性を向上することができる。また、衣服用ファン取付用孔11と上記バッテリーポケットとの間に衣服用ファン3が具備する配線を固定可能な紐やテープ等(図示せず。)を備えれば、前記配線が垂れたり、引っ掛け等に起因する断線を防止することができる。
【0039】
2.空調衣服1の着用方法
<高所作業用安全帯51と空調衣服1とを重ねた着用>
次に、図9を用いて高所作業用安全帯51と、本実施形態の空調衣服1と、を重ねた着用方法について説明する。図9は、高所作業用安全帯51と、本実施形態の空調衣服1と、を重ねて着用し、本空調衣服1を透視した状態を示す模式図である。
【0040】
上述のとおり、本実施形態の空調衣服1は、高所作業用安全帯51の機能を妨害することなく、重ねて上から着用することができるものである。まず、着用者は高所作業用安全帯51を身体に装着し(装着する高所作業用安全帯51の着用方法に従って行う。)、帯及びフォールアレスト55が所定の位置に配置されたことを確認する(併せて四肢に固定した帯の環内に過剰なクリアランスがないことも確認する。)。
【0041】
次に、本実施形態の空調衣服1を準備し、衣服本体部5が備える衣服用ファン取付用孔11に衣服用ファン3を挿入して固定する(バッテリー等は所定のバッテリーポケット等に収納する。)。着用者は本空調衣服1に袖を通し、前身頃を閉じた後、背面部のハーネス接続環露出用孔9を介して高所作業用安全帯51が備えるフォールアレスト55を外部に露出させる。
【0042】
ハーネス接続環露出用孔9の開閉操作及び前記ハーネス接続環露出用孔9を介したフォールアレスト55の露出は、作業者の背面側で行うことになるため、前記手順は必然的に他者の手を借りて行えばよい。
【0043】
<風道フード7とヘルメット53との接続>
次に、図10を用いて風道フード7と、ヘルメット53と、の接続方法について説明する。図10は、風道フード7と、ヘルメット53と、の接続手順の一例を示す模式図である。
【0044】
まず、ヘルメット53の後頭部側における所定の位置に、面ファスナー39を貼り付ける。続いて、作業者は襟15のファスナーを開いて前記襟15の内部に収納された風道フード7を外部側に取り出し、収納時の折り目を伸ばしながら広げる。前記風道フード7を上方に引き上げつつ、上方側の端部に備えた面ファスナー19をヘルメット53に貼り付けた面ファスナー39に当接して嵌合させ、風道フード7とヘルメット53とを接続させる。なお、前記接続時は双方の面ファスナー19、39の嵌合部が皺や隙間なく当接するように行うことが望ましい。
上記手順で本実施形態における空調衣服1の着用が完了する。
【0045】
3.空調衣服1による空調効果
<空調衣服1による気流の流れ>
次に、本実施形態の空調衣服1による空調効果を説明する。図1に示すとおり、本空調衣服1は、背面側の下方左右に取り付けた衣服用ファン3により、外部側の空気を内部側に取り込み、気流を発生させて循環することで空調を達成している。具体的には、まず衣服用ファン3が、備えたファンを回転させることによって外部側の空気を内部側に引き込む。本空調衣服1の内部側に引き込まれた空気で、本空調衣服1の背面側の下方から充満していき(空気が背面側の下方に溜り)、着用者の身体と本空調衣服1との隙間を広げつつ徐々に上方及び前面側に移動する。
【0046】
本空調衣服1の内部に一定量の空気で入ると、主にハーネス接続環露出用孔9と、首元の隙間と、空調衣服1の下方側(腰部近傍)と、から外部に放出される。しかしながら、首元後方側の隙間から放出された空気は、風道フード7により完全に外部には放出されず、前記風道フード7がガイドとなって更に上方に移動し、着用者の首元を冷却しつつヘルメット53に到着する。
【0047】
建設現場等で使用されるヘルメット53は、内面と頭部とが密着しない構造となっており、前記内面と頭部との間に中空層が設けられているものが多い。このため、ヘルメット53に到着した空気は後頭部から上記中空層に侵入し、内部で拡散して頭部全体を冷却することができる。
【0048】
更に、着用者が高所作業用安全帯51を着用している場合は、腰部から首元近傍まで背筋に沿って帯が配置されることから、他部と比して身体と本空調衣服1との間に隙間が発生しやすい。このため、本空調衣服1の下方左右から内部側に引き込まれた空気が背筋の隙間に沿って上方に移動しやすく、特に冷却の効果を体感し易い腰部から背筋、そして首元にかけて気流を発生させることができる。
【0049】
以上のように、本実施形態の空調衣服1は、高所作業用安全帯51と併用することができ、更に前記高所作業用安全帯51の構造を利用して空調効果を高めることができるものである。また、本空調衣服1から衣服用ファン3を取り外した際においても衣服本来の機能を低下させることなく快適に使用できるよう鋭意検討し発明されたものである。
【0050】
以上、本発明の代表的な実施形態について図面を参照しつつ説明してきたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載の精神及び教示を逸脱しない範囲でその他の改良例、変形が存在することを当業者に容易に理解される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の空調衣服1は、高所作業用安全帯の機能を損なうことなく、前記高所作業用安全帯と重ねて着用可能で、更に上半身と、首元及び頭部全体と、の冷却を可能にするものである。
【符号の説明】
【0052】
1 空調衣服
3 衣服用ファン
5 衣服本体部
7 風道フード
9 ハーネス接続環露出用孔
11 衣服用ファン取付用孔
13 ループ
15 襟
17 フード挿入孔
19 面ファスナー
21 ファスナー
23 ダブルファスナー
25 孔保護布
27 閉孔蓋
29 リング状布
31 面ファスナー
33 面ファスナー
35 カラビナ
37 ループ用開口
39 面ファスナー
51 高所作業用安全帯
53 ヘルメット
55 フォールアレスト
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服用ファンを取り付けて衣服内に空気を送風する空調衣服であって、
衣服外部と内部とを連通するように後身頃の下方の左右に設けられた衣服用ファン取付用孔と、
下方端部において襟の後方側に配設されており、上方端部においてヘルメットに接続される略矩形の風道フードと、
を具備し、
前記襟が、前記風道フードを内部に収納可能な構成を有すること、
を特徴とする空調衣服。
【請求項2】
衣服外部と内部とを連通するように前記後身頃の略背筋上方部にハーネス接続環露出用孔を具備すること、
を特徴とする請求項1に記載の空調衣服。
【請求項3】
前記衣服用ファン取付用孔が、縁部にリング状布を具備すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の空調衣服。
【請求項4】
前記リング状布に脱着自在で前記リング状布の孔を閉孔可能な閉孔蓋を有すること、
を特徴とする請求項3に記載の空調衣服。
【請求項5】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-02-15 
出願番号 特願2016-216737(P2016-216737)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A41D)
P 1 651・ 537- YAA (A41D)
P 1 651・ 121- YAA (A41D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 尋  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 久保 克彦
西藤 直人
登録日 2017-08-18 
登録番号 特許第6191028号(P6191028)
権利者 株式会社ブレイン
発明の名称 空調衣服  
代理人 仲 晃一  
代理人 仲 晃一  

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