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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1351380
異議申立番号 異議2018-700674  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-13 
確定日 2019-03-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6280665号発明「カラメル色素を含有する飲料」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6280665号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6280665号の請求項1,3,4に係る特許を維持する。 特許第6280665号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯の概略
特許第6280665号の請求項1?4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は,概ね,次のとおりである。すなわち,平成29年5月12日に出願され,平成30年1月26日に特許権の設定登録がされ,平成30年2月14日に特許掲載公報が発行されたところ,これに対し,平成30年8月13日に特許異議申立人山田裕之より,特許異議の申立てがされた。そして,平成30年10月17日付けで取消理由が通知され,平成30年12月21日に特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され,平成31年2月15日に特許異議申立人より意見書が提出された。以下,平成30年12月21日付け訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。

第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は,本件特許の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?4について訂正することを求めるものであって,その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,「0.008?1.5mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有する,カラメル色素含有飲料」と記載されているのを,「0.008?1.5mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有し,カラメル色素の含有量が固形分換算で0.01%以上0.3%以下である,カラメル色素含有飲料」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に,「請求項1又は2に記載の飲料」と記載されているのを,「請求項1に記載の飲料」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に,「請求項1?3のいずれか1項に記載の飲料」と記載されているのを,「請求項1又は3に記載の飲料」に訂正する。

2 本件訂正の適否について
(1) 訂正事項1について
前記訂正事項1は,本件訂正後の請求項1に係る発明の「カラメル色素含有飲料」について,「カラメル色素の含有量が固形分換算で0.01%以上0.3%以下である」と特定するものであるから,前記訂正事項1に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして,本件訂正前の請求項2に「カラメル色素の含有量が固形分換算で0.01%以上0.3%以下である,請求項1に記載の飲料」と記載され,本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)に「本発明の飲料は,好ましくは0.005%以上のカラメル色素を含有する。より好ましくは0.01%以上,…である。」(【0012】),「本発明の飲料におけるカラメル色素の含有量は,飲料全量に対する固形分換算として,好ましくは0.3%以下,…である。」(【0013】)と記載され,カラメル色素の含有量が0.01%(試料12,13,29)?0.3%(試料23,24)のカラメル色素含有飲料に関する実験例が開示されている(【0042】?【0054】)。
よって,前記訂正事項1に係る本件訂正は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2について
前記訂正事項2は,本件訂正前の請求項2を削除するものであるから,前記訂正事項2に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして,前記訂正事項2に係る本件訂正は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3について
前記訂正事項3は,引用する請求項を減ずるものであるから,前記訂正事項3に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,前記訂正事項3に係る本件訂正は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(4) 訂正事項4について
前記訂正事項4は,引用する請求項を減ずるものであるから,前記訂正事項4に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,前記訂正事項4に係る本件訂正は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(5) さらに,本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。
(6) 以上のとおりであるから,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであって,本件訂正の請求は同条4項,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1?4に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。以下,請求項1,3,4に係る発明を総称して「本件発明」という。
「【請求項1】
0.008?1.5mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有し,カラメル色素の含有量が固形分換算で0.01%以上0.3%以下である,カラメル色素含有飲料。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
カラメル色素がクラスIVのカラメル色素である,請求項1に記載の飲料。
【請求項4】
非アルコール飲料である,請求項1又は3に記載の飲料。」

第4 取消理由についての判断
1 取消理由の概要
本件特許に対し通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。
すなわち,請求項1においてカラメル色素の含有量について具体的に特定されていないが,本件明細書の発明の詳細な説明には,カラメル色素の含有量が固形分換算で0.01%(試料12,13,29)?0.3%(試料23,24)のものについて効果が確認されたことが記載されているのみである。
そして,飲料に含まれるカラメル色素の含有量が,カラメル色素に起因する苦味に影響を及ぼすことは明らかであるから,カラメル色素の含有量の特定のない本件発明のすべての範囲において,課題を解決することができるものとは認められない。例えば,多くのカラメル色素を含有する場合,請求項1に特定された濃度のティリロサイドを含有する飲料が,カラメル色素に起因する苦味が低減された飲料であるとは認められない。
また,請求項1において炭酸ガスのガス圧について具体的に特定されていないが,発明の詳細な説明には,炭酸を含有しないもの(実験2?4),ガス圧3.6kgf/cm^(2)(実験5)のものについて効果が確認されたことが記載されているのみである。
そして,炭酸ガスは,カラメル色素に起因する苦味をより強く感じさせるものと解されるから(本件明細書【0053】),炭酸ガスのガス圧の特定のない本件発明のすべての範囲において,課題を解決することができるものとは認められない。例えば,炭酸ガスのガス圧が高い場合,請求項1に特定された濃度のティリロサイドを含有する飲料が,カラメル色素に起因する苦味が低減された飲料であるとは認められない。
よって,本件発明は,出願時の技術常識に照らしても,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとは認められないから,本件特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消すべきものである。

2 判断
(1) 本件明細書の発明の詳細な説明(【0001】?【0007】)には,次のように記載されている。
・カラメル色素は,苦味物質に分類されることもある成分で,飲料にカラメル色素を配合した場合,微量配合しただけでもこの特有の苦味を呈する場合が多く,飲料が飲みにくくなるという問題があるので,カラメル色素を配合した飲料の苦味を低減する方法が種々提案されている。しかし,飲料自体の風味に影響を及ぼすことがあったり,煩雑な工程が必要であったりすることから,カラメル色素の苦味を低減する,より簡便な方法が求められていた。
・そこで,本件発明は,カラメル色素を含有する飲料であって,カラメル色素に起因する苦味が低減された飲料を提供することを目的としてなされた。
・本件発明者らは,上記課題を解決するために鋭意検討した結果,飲料におけるカラメル色素由来の苦味の低減に関して,特定量のティリロサイドが有効であることを見出した。かかる知見に基づき,本件発明者らは,本件発明を完成した。
・本件発明によれば,カラメル色素に起因する苦味が低減された飲料を提供することが可能となる。また,本発明では,カラメル色素に起因する苦味を低減することにより,風味の良い飲料を提供することもできる。
以上の記載からすると,本件発明は,カラメル色素を含有する飲料であって,カラメル色素に起因する苦味が低減された飲料を提供することを課題とするものであると認められる。
(2) また,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の点が記載されている。
・本発明の飲料は,カラメル色素を含有する。カラメル色素は,製法によりクラスI,II,III,IVに分類される。コスト,入手の容易性および効果の顕著さの観点から,クラスIVのカラメル色素を用いることが好ましい。(【0009】,【0010】)
・本件発明の飲料は,好ましくは0.005%以上のカラメル色素を含有する。より好ましくは0.01%以上である。本件発明の飲料におけるカラメル色素の含有量の上限は,飲料全量に対して固形分換算として0.5%未満である。本発明の飲料におけるカラメル色素の含有量は,飲料全量に対する固形分換算として,好ましくは0.3%以下である。(【0012】,【0013】)
・本発明の飲料は,0.005?1.5mg/100mLのティリロサイドを含有する。飲料中のティリロサイドの含有量が上記の範囲内であれば,カラメル色素に由来する苦味を効果的に低減することができる。本件発明の飲料におけるティリロサイドの含有量は,好ましくは0.008mg/100mL以上である。(【0020】,【0021】)
(3) そして,本件明細書の発明の詳細な説明には本件発明について,実験1?5(試料1?35)の結果が開示されているところ(【0039】?【0054】),
・イオン交換水(pH7)にカラメル色素を溶かして,カラメル色素含有量が固形分換算で0.15%となるように調整した飲料(試料4)に,ティリロサイドを配合し,ティリロサイドの濃度を0.01%(試料6)?1.5%(試料10)に調整した,カラメル色素含有飲料(実験2:試料6?10)
・実験2と同様にして,カラメル色素及びティリロサイドを適宜添加及び混合して,カラメル色素含有量を0.01%(試料12,13)?0.3%(試料23,24),ティリロサイド濃度を0.008%(試料12)?1%(試料24)に調整した,カラメル色素含有飲料(実験3:試料12,13,15?24)
・イオン交換水(pH7)に,カラメル色素及びティリロサイドを適宜添加及び混合して,カラメル色素含有量を0.01%(試料29)?0.25%(試料33),ティリロサイド濃度を0.1%(試料33)?1%(試料29)に調整し,クエン酸及びクエン酸三ナトリウムを用いてpH3.0に調整した,酸性飲料(実験3:試料29?33)
・表5の処方にて製造した,カラメル色素含有量0.15%,ティリロサイド濃度0.02%の,酸性(pH2.5,ガス圧3.6kgf/cm^(2))の容器詰め炭酸飲料(実験5:試料35)
(表5)

が記載されている。
そして,これらの飲料に関し,5名のパネラーによる飲料の苦味の強さと飲用適性についての評価はいずれも良好であったものである。
(4) 本件訂正前の請求項1においてカラメル色素の含有量について具体的に特定されていなかったが,前記第2のとおり本件訂正により,本件発明は,カラメル色素の含有量が固形分換算で0.01%以上0.3%以下であることが特定された。
こうした本件発明について,前記(2),(3)のように,発明の詳細な説明に記載がなされている上,0.008?1.5mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有し,カラメル色素の含有量が固形分換算で0.01%以上0.3%以下である,カラメル色素含有飲料に関し,カラメル色素に起因する苦味が低減される,といった効果を奏することが具体的に裏付けられていることがわかる。
また,試料4(ティリロサイドの濃度:0mg/100ml)と試料6(同:0.01mg/100ml,),試料27(同0mg/100ml)と試料31(同0.02mg/100ml)の各結果からすると,同じカラメル色素含有量の飲料について,ティリロサイドを含有させることで,カラメル色素に起因する苦味が低減されることが理解できる。
ところで,本件明細書の発明の詳細な説明には,炭酸飲料は,炭酸による刺激と相俟ってカラメル色素の苦味がより強く知覚されやすい旨記載されているが(【0033】,【0053】),本件発明において,炭酸ガス圧について特定がない。
しかし,本件発明の課題は前記(1)のとおりであるところ,カラメル色素を含有する飲料において,カラメル色素に起因する苦味が特定のカラメル色素含有量において相対的に改善されていれば足りるのであって,その意味において,特定のティリロサイドの濃度とすることで,炭酸飲料についても,課題を解決することができるものといえる。仮に,炭酸ガス圧が高い場合であっても当該濃度のティリロサイドはわずかながらでもカラメル色素に起因する苦味を低減することができるものと解され,より強く知覚されやすい飲料であっても,それによって,ティリロサイドが有するカラメル色素に起因する苦味を低減する作用が直ちに消失したり,格別に変化するとは認められない。
なお,本件発明は,炭酸飲料は好ましい態様の一つで,炭酸ガス圧が,温度20℃で,例えば1.0?5.0kgf/cm^(2)程度の炭酸飲料を想定しており(【0033】),これは一般的な炭酸飲料を想定したものと認められる。実験5において,炭酸ガス圧を3.6kgf/cm^(2)とした炭酸飲料について検討しているのも,実験が一般的な炭酸飲料を想定したものであるからと解される。
そして,炭酸ガス圧の多少の違いによって,特定の濃度のティリロサイドの作用が格別に変化するとは認められないから,実験5の結果からすると,一般的な炭酸飲料を想定している本件発明は,課題を解決することができると認識できる範囲内のものといえる(極度に高い炭酸ガス圧の場合は,炭酸ガスによる刺激が強すぎて飲料としての体をなしていないといえるから(意見書(特許権者)5(4)イ.),もはや飲料とはいいがたい。)。
(5) 以上のとおりであるから,本件発明は,出願時の技術常識に照らしても,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとは認められない。

第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立ての理由は,概ね,以下のとおりである。すなわち,本件特許は,本件明細書の発明の詳細な説明,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法36条4項1号又は同法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから,取り消すべきである。
(1) 試料34,35は使用された香料の詳細が明らかにされていないが,本件明細書の記載からは香料が苦味に影響を及ぼしていないことを確認することはできない。飲料の苦味に影響を及ぼすのは,カラメル色素をはじめとする苦味成分だけでなく,甘味成分辛味成分,香料等の種々の成分が存在することは技術常識であるから,試料34,35の炭酸飲料が,「0.008?1.5mg/100mlの濃度のティリロサイドを含有する」ことのみによって,本件発明の課題を確かに解決したものであることを理解することができない。
その上,試料34,35は使用された香料の詳細が不明であるから,本件明細書を参照しても,当業者は,発明の効果を確認するための追試を実施することもできない。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施することができるように記載されたものではなく,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。(特許異議申立書3(4)イ(ア))。
(2) 本件発明は,ティリロサイド以外の任意の成分を任意の量で含む,カラメル色素含有飲料を包含するが,飲料に配合し得る苦味成分はカラメル色素以外にも種々存在し,その含有量が苦味の強さに影響を及ぼすことは明らかである。さらに,飲料の苦味に影響を及ぼすのは苦味成分だけでなく,甘味成分,辛味成分,香料等の種々の成分が存在することも技術常識である。実験5では,各種の糖又は合成甘味料や酸味料,カフェイン等の添加物を含有することの緩衝作用も相俟って,効果的に苦味が低減されたことが記載されているが,どのような成分をどのような量で含有すれば緩衝作用を及ぼすのか明らかでなく,成分,量によっては逆の作用を及ぼし得ると理解されるから,発明の効果を奏する課題解決手段について特定することができない。
このように,カラメル色素以外の苦味成分,甘味成分,辛味成分,香料等の成分の種類,それらの含有量が異なれば,苦味の強さの評価が異なることは明らかであるから,発明の詳細な説明に記載された試料以外に,任意の成分を任意の含有量で含む,カラメル色素含有飲料について,発明の課題を解決することができるとは認められない。
よって,出願時の技術常識に照らしても,本件発明の範囲まで,発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することができるとはいえないので,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。(特許異議申立書3(4)イ(イ))。
(3) カラメル色素に起因する苦味が低減されたとの風味を得るために,ティリロサイドの含有量の範囲を特定すれば足り,他の成分及び物性の特定は要しないことを,当業者が理解することができるとはいえず,実施例の結果から,直ちに,ティリロサイドの含有量について規定される範囲と,カラメル色素に起因する苦味が低減されたという風味との関係の技術的な意味を当業者が理解することができるとはいえない。
よって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)イ(ウ))。
(4) 苦味の強さや飲料適性の評価方法に関して,官能評価は個人差があるが,評価基準について「とても」「ほとんど」「あまり」「少々」「強く」の程度を具体的に把握することができず,基準が曖昧である。どの程度の違いで1点減点されるのかをパネラー間で共通にする等の手順も踏まれておらず,各パネラーの個別の評点も記載されていない。どのように協議してどのように評価点を決定したかが明らかでなく,苦味や飲用適性を客観的に正確に評価したものと捉えることも困難である。
したがって,苦味の強さと飲用適性の評価方法が合理的であったと推認することができず,カラメル色素に起因する苦味が低減された飲料が裏付けられていることを当業者が理解することができるとはいえない。
よって,出願時の技術常識に照らしても,本件発明の範囲まで,発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することができるとはいえないので,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
(特許異議申立書3(4)イ(エ))。

2 判断
(1) 理由(1)について
本件明細書の発明の詳細な説明において,実験5に係る香料は具体的に明らかにされていないが,カラメル色素に起因する苦味に影響を及ぼす香料が存在することは立証されていない。
既に述べたとおり,本件発明は,カラメル色素を含有する飲料において,カラメル色素に起因する苦味が特定のカラメル色素含有量において相対的に改善されていれば,課題を解決することができるといえるものであって(前記第4・2(4)),仮に,カラメル色素に起因する苦味に影響を及ぼす香料があるとしても,その意味において,特定のティリロサイドの濃度とすることで,当該飲料についても,課題を解決することができるものといえる。
また,実験5に係る香料は,常識的に炭酸飲料に添加される香料であると解され,当業者にとって追試が不可能というほどの事情とは認められない。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施することができるように記載されたものではないとはいえない。
(2) 理由(2)について
本件明細書の発明の詳細な説明に開示された実験2?4は,イオン交換水(pH7)に,カラメル色素及びティリロサイドを適宜添加及び混合して得られた飲料に係るものであるが(【0042】?【0051】),このような,水のような飲料において行われた実験2?4の結果からすると,カラメル色素含有飲料において,特定量のティリロサイドを含有することで,本件発明の課題を解決することができることがわかる。
そして,カラメル色素に起因する苦味に影響を及ぼすその他の成分について立証されておらず,当該ティリロサイドの効果を減ずるその他の成分が存在するとは認められない。
本件明細書の発明の詳細な説明には,実験5に関し,各種の糖又は合成甘味料や酸味料,カフェイン等の添加物を含有することの緩衝作用も相俟って,効果的に苦味が低減されたことが記載されているが(【0053】),添加物による緩衝作用も相俟って低減されるのであって,相加的な効果をいうものと解される上,逆の作用を及ぼし得る成分が存在することは立証されていない。
よって,出願時の技術常識に照らしても,本件発明の範囲まで,発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することができないとはいえない。
(3) 理由(3)について
本件明細書の発明の詳細な説明によれば,実験2?4において,カラメル色素含有量が0.01%?0.3%の飲料について,本件発明の効果が確認されているが,実験2?4において,ティリロサイドの含有量,カラメル色素の含有量以外の条件をそろえた上で実験が行われている。実験5においても,甘味料が糖又は合成甘味料の違いを除いて,条件をそろえた上で実験が行われている(【0042】?【0054】)。
そして,カラメル色素を含有する飲料において,カラメル色素に起因する苦味が低減されることに関し,他に要因が存在するものとは認められないから,ティリロサイドの含有量及びカラメル色素の含有量について規定される範囲と,カラメル色素に起因する苦味が低減されたという風味との関係の技術的な意味を,当業者は理解することができるものと認められる。
よって,本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
(4) 理由(4)について
本件明細書の発明の詳細な説明には,実験例2?5に係る各種飲料について,5名のパネラーにより,苦味の強さ及び飲用適性を評価したこと,評価は,以下の基準に基づいて各自が実施した後,協議して評価点を決定したことが記載されている(【0042】,【0045】,【0048】,【0052】)。
5点:苦味を感じず,とても飲みやすい
4点:苦味はほとんどなく,飲用できる
3点:苦味はあまりなく,飲用できる
2点:苦味を少々感じ,飲みにくい
1点:苦味を強く感じ,とても飲みにくい
本件明細書の発明の詳細な説明における当該評価に関する記載からすると,実験2?5に係る評価は,官能評価に関し一般的に行われている手法で実施されているものであると認められる。
そして,実験例の結果をみても,その評価結果について特に不合理な点は認められず,課題を解決することができるものとはいえないというほどの事情も認められない。
よって,出願時の技術常識に照らしても,本件発明の範囲まで,発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することができないとはいえない。
(5) そして,本件明細書の発明の詳細な説明,本件特許請求の範囲には,特段不備は認められない。

第7 請求項2に係る特許についての特許異議の申立てについて
前記第2のとおり,本件訂正が認められるので,請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては,その対象が存在しないものとなった。
よって,請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては,不適法であって,その補正をすることができないものであることから,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により,却下すべきものである。

第6 むすび
以上のとおり,本件の請求項1,3,4に係る特許は,特許法36条4項1号又は同法36条6項1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとは認められないから,前記取消理由及び特許異議申立ての理由により取り消すことはできない。
また,他に本件の請求項1,3,4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件の請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.008?1.5mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有し、カラメル色素の含有量が固形分換算で0.01%以上0.3%以下である、カラメル色素含有飲料。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
カラメル色素がクラスIVのカラメル色素である、請求項1に記載の飲料。
【請求項4】
非アルコール飲料である、請求項1又は3に記載の飲料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-03-04 
出願番号 特願2017-95565(P2017-95565)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 536- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 薫  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 窪田 治彦
槙原 進
登録日 2018-01-26 
登録番号 特許第6280665号(P6280665)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 カラメル色素を含有する飲料  
代理人 武田 健志  
代理人 中西 基晴  
代理人 山本 修  
代理人 宮前 徹  
代理人 宮前 徹  
代理人 山本 修  
代理人 中村 充利  
代理人 武田 健志  
代理人 中村 充利  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中西 基晴  
代理人 小野 新次郎  

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