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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
管理番号 1351425
異議申立番号 異議2018-700695  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-27 
確定日 2019-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6284581号発明「非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6284581号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。 特許第6284581号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6284581号の請求項1ないし7に係る特許は、2013年10月24日(優先権主張 2013年1月31日)を国際出願日とする出願である特願2014-520446号の一部を新たな特許出願とした特願2014-143632号の一部を新たな特許出願とした特願2014-253185号の一部を平成28年6月21日に新たな特許出願としたものであって、平成30年2月9日にその特許権の設定登録がされ、平成30年2月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について平成30年8月27日に特許異議申立人 中嶋 美奈子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年10月18日に取消理由(以下、「取消理由」という。)を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成30年12月21日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。
その後、当審は、平成31年1月8日に訂正の請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を行い、異議申立人に対して相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、何らの応答もなかった。

第2 訂正の請求
1 訂正の内容
平成30年12月21日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項よりなる(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である)。

(1)訂正事項1
明細書の段落【0007】に「特にビール様の泡持ちや色度を保持している」と記載されているのを、「特にビール様の泡持ちを保持している」に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0010】に「泡持ちや色といった外観上重要な品質において充分なビールらしさが保持された」と記載されているのを、「泡持ちといった外観上重要な品質において充分なビールらしさが保持された」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の段落【0071】に「[実施例3]」と記載されているのを、「[実施例3](参考例)」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。よって、訂正事項1は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、明細書の段落【0007】における記載である「泡持ちや色度」から「や色度」を削除する訂正であって、新たな技術的事項を追加するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
明細書における実施例1(明細書の段落【0063】ないし【0068】の記載)、及び実施例2(明細書の段落【0069】ないし【0070】の記載)は、非発酵発泡性飲料における「泡持ちや色度」のうちの「泡持ち」に関するものである。
一方、明細書における実施例3(段落【0071】ないし【0074】)の記載は、非発酵発泡性飲料における「泡持ちや色度」のうちの「色度」に関するものであって、発泡剤の添加によってビール様の泡持ちを保持することと、カラメル色素の添加によってビール様の色度とすることは、それぞれ別の実施例において示されている。
そうすると、明細書の段落【0007】に記載された「特にビール様の泡持ちや色度を保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供する」という課題において、ビール様の泡持ちを保持することと、ビール様の色度を保持することとは互いに関連のないそれぞれ独立した別個の課題であって、訂正事項1は「泡持ちや色度」のうち、「泡持ち」を選択したものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。よって、訂正事項1は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、明細書の段落【0010】の記載における「泡持ちや色」から「(や)色」を削除する訂正であって、新たな技術的事項を追加するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
明細書における実施例1(明細書の段落【0063】ないし【0068】の記載)、及び実施例2(明細書の段落【0069】ないし【0070】の記載)は、非発酵発泡性飲料における「泡持ちや色度」のうちの「泡持ち」に関するものである。
一方、明細書における実施例3(段落【0071】ないし【0074】)の記載は、非発酵発泡性飲料における「泡持ちや色度」のうちの「色度」に関するものであって、発泡剤の添加によってビール様の泡持ちを保持することと、カラメル色素の添加によってビール様の色度とすることは、それぞれ別の実施例において示されている。
そうすると、明細書の段落【0007】に記載された「特にビール様の泡持ちや色度を保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供する」という課題において、ビール様の泡持ちを保持することと、ビール様の色度を保持することとは互いに関連のないそれぞれ独立した別個の課題であって、訂正事項2は「泡持ちや色」のうち、「泡持ち」を選択したものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。よって、訂正事項3は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、明細書の段落【0071】ないし【0074】における実施例3の記載を参考例の記載とする訂正であって新たな技術的事項を追加するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、明細書の段落【0071】において「[実施例3]」と記載されているのを、「[実施例3](参考例)」と訂正することにより、明細書における実施例3の記載を参考例の記載とする訂正であるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 願書に添付した明細書の訂正に係る請求項についての説明
訂正事項1ないし3による明細書の段落【0007】、【0010】及び【0071】の訂正は、当該明細書の訂正に関連する請求項の全てである請求項1ないし7に関係するものである。
したがって、訂正事項1ないし3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。

4 一群の請求項についての説明
訂正前の請求項1ないし7について、請求項2ないし7はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし7に対応する訂正後の請求項1ないし7は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に規定する一群の請求項である。

5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明について
本件の請求項1ないし7に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
大豆食物繊維、大豆ペプチド、大豆サポニン、アルギン酸エステル、及びキラヤサポニンからなる群より選択される1種以上を原料とし、かつ
プリン体を含む原料の添加量を調整してプリン体濃度が0.2mg/100mL以下の非発酵ビール様発泡性飲料を製造し、
製造された非発酵ビール様発泡性飲料が、穀物様香気成分として、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、及び2-プロピル-1-ピロリンからなる群より選択される1種以上の化合物を含有し、
ホップ様香気成分として、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、及びシス-3-ヘキセノールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有し、
含硫香気成分として、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有する、非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項2】
製造された非発酵ビール様発泡性飲料が、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールを含有する、請求項1に記載の非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項3】
製造された非発酵ビール様発泡性飲料の前記穀物様香気成分として含有される化合物の濃度が0.24?30000ppbであり、
製造された非発酵ビール様発泡性飲料の前記ホップ様香気成分として含有される化合物の濃度が0.2?250000ppbであり、
製造された非発酵ビール様発泡性飲料の前記含硫香気成分として含有される化合物の濃度が0.001?3000ppbである、請求項2に記載の非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項4】
製造された非発酵ビール様発泡性飲料が、さらに、苦味料を含有する、請求項1?3のいずれか一項に記載の非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項5】
製造された非発酵ビール様発泡性飲料が、さらに、酸味料を含有する、請求項1?4のいずれか一項に記載の非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項6】
製造された非発酵ビール様発泡性飲料が、さらに、エタノールを含有する、請求項1?5のいずれか一項に記載の非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項7】
プリン体除去工程を含まない、請求項1?6のいずれか一項に記載の非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。」

2 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由

[理由]本件特許は、特許請求の範囲が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。



本件特許の請求項1に係る発明は、「プリン体濃度が非常に低いにもかかわらず、「ビールらしさ」、特にビール様の泡持ちや色度を保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供する」(本件特許明細書、段落【0007】)ことを課題とする発明である。
そして、上記課題であるビール様の色度を保持することについて、発明の詳細な説明には、「本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が含有する色素としては、ビールらしい色を付与可能であり、かつ飲食可能な色素であれば特に限定されるものではないが、カラメル化反応物(カラメル色素)が特に好ましい。」(同、段落【0018】)と記載されており、実施例3の記載(同、段落【0071】ないし【0074】【表6】)には、カラメル色素の含有量と色度との関係について示されている。
しかし、非発酵ビール様発泡性飲料が、上記課題であるビール様の色度を保持するための色素を含むことにつき、本件特許の請求項1に係る発明において具体的に特定されていない。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明においては、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な発明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる。
本件特許の請求項1を引用する請求項2ないし7に係る発明においても同様である。

(2)当審の判断
上記訂正事項1により、明細書の段落【0007】における記載である「泡持ちや色度」から「や色度」を削除する訂正、上記訂正事項2により、明細書の段落【0010】の記載における「泡持ちや色」から「や色」を削除する訂正、及び上記訂正事項3により、明細書の段落【0071】ないし【0074】における「[実施例3]」を「[実施例3](参考例)」とする訂正がされた。
そうすると、上記訂正事項1ないし3の訂正により、発明の詳細な説明に記載された発明の課題からビール様の色度を保持することが削除されたことに伴って、本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段を全て反映するものとなった。
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるとはいえない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議理由について
異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証の1ないし3及び甲第2号証を提出し、概ね以下の異議理由を主張している。

(1)証拠方法
ア 甲号証
(ア)甲第1号証の1ないし3:財団法人日本食品分析センター、分析試験成績書、2012年12月25日
(イ)甲第2号証:特開2011-19471号公報

イ 各甲号証の記載
(ア)甲第1号証の1ないし3には、本件明細書の実施例で使用されている「キラヤニンC-100(丸善製薬株式会社製)」のプリン体の含有量について、財団法人日本食品分析センターにて分析し、0.2mg/100g?0.4mg/100g程度であるとの結果が示されている。
(イ)甲第2号証には以下の記載がある。
「【0004】
上記のように、従来の低アルコール麦芽飲料の製造方法は、通常のビール飲料同様、酵母による発酵を行うことで香味をビール風味に近づけ、同時に発酵抑制又は発酵後のアルコール除去といった、単一若しくは複数の方法によりアルコールを低減しており、いずれも酵母による発酵を行う方法が採られている。しかし、発酵を伴う場合、厳密な制御を行いアルコール生成量を抑制したとしても、酵母による発酵が不十分となることは避けられず、麦汁に由来するオフフレーバーが顕在化し、好ましくない香味の特徴を有するという問題が残る。また、発酵を行わない場合にも、酵母による発酵を経ないことから、同様の問題が残る。」(下線は理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)

(2)異議理由1
本件特許は、以下の点で特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。

ア 大豆食物繊維、大豆ペプチド、大豆サポニン、アルギン酸エステル、及びキラヤサポニンからなる群より選択される1種以上の原料及びその含有量について

(ア)「キラヤニンC-100」、「ソヤファイブ-S-LN」以外の起泡剤の泡持ち効果について
実施例の記載において、起泡剤として、「キラヤニンC-100」、「ソヤファイブ-S-LN」により課題が解決できることが示されているが、起泡材によって特性が異なることは技術常識であるから、請求項1ないし7に記載の発明において、これら以外の起泡剤を使用したときに、当業者が「キラヤニンC-100」、「ソヤファイブ-S-LN」と同等の泡持ち効果を奏することにより本件発明の課題を解決できるとは認識できない。

(イ)起泡剤の含有量の特定について
実施例(段落【0069】)の記載によれば、キラヤサポニン含有量が0.01g/Lでは不十分であり、少なくとも0.05g/L含有することが必須であると解されるが、請求項1ないし7に係る発明においては、起泡剤の含有量が特定されていない。

イ プリン体を含む原料について
実施例1の記載において原料(「50%発酵乳酸」、「キラヤニン」、「ソヤファイブ」・・)のうち、いずれが「プリン体を含む原料」であるのか不明であり、どのように「プリン体を含む原料の添加量を調整して」、「プリン体濃度を0.2mg/100ml」以下としたのか示されていない。
実施例2の記載において、キラヤニンがプリン体を含む原料であるとしても、0.01ないし0.2g/L程度であれば、0.00004mg/100mlないし0.00008mg/100mlに過ぎないから、そもそもプリン体濃度を調整する必要がない。
よって、「プリン体を含む原料」、「プリン体を含む原料の添加量を調整」することに関して、当業者が実施することができない。
仮に、プリン体を多く含む原料が麦芽であったとしても、発酵工程を経ない場合は、麦芽のオフフレーバによりビールらしい味が損なわれるものである(甲第2号証)から、結局、何が「プリン体を含む原料」であるか請求項1ないし7に係る発明において特定されていない。

ウ 最終製品中のプリン体濃度について
請求項1に係る発明において特定された、プリン体濃度を「0.2mg/100ml」にまで低減することについて、段落【0061】の記載によればプリン体含有量を0.08mg/100ml以下に低減することを従来技術との相違点として認識していることは明らかであるから、「0.08ないし0.2mg/100ml」のプリン体含有量の範囲は発明の詳細な説明に記載したものではない。

エ 穀物様香気成分、ホップ様香気成分及び含硫香気成分、並びにそれらの含有量について

(ア)香気成分の組合せについて
請求項1に係る発明において、穀物様香気成分、ホップ用香気成分及び含硫香気成分のそれぞれ1種以上の化合物を任意に組み合わせて含有することが特定されている。
【表11】及び【表13】には、4種類の組みあわせが記載されており、それらを組み合わせたものと、実施例7(表12)の16種全てを含有したものとの間に評価に関して大きな差異はないことからみて上記4種の組合せが大きく寄与していることは明らかである。
そうすると、上記4種の組みあわせ以外の組合せを採用した場合、ビールらしい味を呈するとは認められないから、実施例で確認されていない組み合わせについて、課題を解決できるとは認識できない。

(イ)香気成分の含有量について
実施例6ないし8には、穀物様香気成分、ホップ用香気成分及び含硫香気成分それぞれの含有量(濃度)が記載されているところ、請求項1及び2に係る発明においては各香気成分の濃度が特定されていないから、実施例に記載された以外の濃度範囲において課題が解決できるとは認識できない。
また、請求項3に係る発明において特定された各香気成分の濃度範囲は、実施例に記載されたものに比べて広く、実施例において確認されていない範囲においては課題を解決できない。

(3)異議理由2
本件特許は、以下の点で特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。

ア 請求項1ないし7に係る発明において特定された「起泡剤の範囲」、「プリン体を含む原料の範囲」、「最終製品中のプリン体濃度の範囲」、及び「香気成分の範囲」が実施例に記載されたものに比べて広いので、実施例において確認されていない範囲について課題を解決できるとは認識できないものであるから、実施例において確認されていない範囲について何等かの技術的意義のある態様で実施できる程度に明細書が記載されていない。

イ 「起泡剤の含有量」、「香気成分の含有量」、「カラメル色素を含有すること」及び「カラメル色素の含有量」が特定されていないので、本件発明の課題を解決するうえで不可欠な手段を反映するものではなく、非発酵ビール様発泡性飲料を製造するうえで当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。

(4)異議理由1についての当審の判断
ア 課題及び課題解決手段について
本件訂正により訂正された本件特許明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)には、本件発明の課題について、次の記載がある。
「【0006】
活性炭やゼオライトは多種多様な物質を吸着するため、活性炭処理やゼオライト処理によりプリン体以外の多くの成分も除去されてしまう結果、泡持ちや色といった外観上重要なビールらしさが損なわれやすいという問題がある。また、吸着剤処理により大きくコストがかかるという問題もある。一方で、特許文献3又は4に記載の方法では、麦芽等のプリン体を多く含む原料の添加量を調整することにより、プリン体含有量が充分に低減されたビール様発泡性飲料を製造できると期待される。しかし、充分量の麦芽を使用しなければ、原料由来のプリン体の混入を抑制できる一方で、ビールの泡持ちや色度は主に麦芽由来の成分によるため、ビールの泡立ちが低減し、色が薄くなるという難点がある。このため、充分量の麦芽を使用せずにビールらしい外観(泡や色度)を達成することは非常に困難である。
【0007】
本発明は、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらず、「ビールらしさ」、特にビール様の泡持ちを保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供することを目的とする。」
上記記載によれば、原料由来のプリン体の混入を抑制するために充分量の麦芽を使用せずともビール様の泡持ちを保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供することを課題とするものである。
そして、上記課題を解決する手段について、
「【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、麦芽等のプリン体を比較的多く含む原料の添加量を調整すること、かつ発酵工程を経ずに製造することによって、最終製品中のプリン体濃度が0.2mg/100mL以下という従来になく低い非発酵ビール様発泡性飲料を製造することができること、このように製造された非発酵ビール様発泡性飲料に、起泡剤及び色素を含有させることにより、ビールらしい泡持ちや色度を付与できることを見出し、本発明を完成させた。」と記載されている。

イ 大豆食物繊維、大豆ペプチド、大豆サポニン、アルギン酸エステル、及びキラヤサポニンからなる群より選択される1種以上の原料及びその含有量について

(ア)「キラヤニンC-100」、「ソヤファイブ-S-LN」以外の起泡剤の泡持ち効果について
本件訂正明細書には、起泡剤に関して次の記載がある。
「【0016】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が含有する起泡剤としては、例えば、大豆食物繊維、大豆ペプチド、大豆サポニン、アルギン酸エステル、キラヤサポニン等が挙げられる。これらの起泡剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用して用いてもよい。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料としては、大豆食物繊維、大豆サポニン、アルギン酸エステル、及びキラヤサポニンからなる群より選択される1種以上を含有することが好ましく、大豆食物繊維、大豆サポニン及びキラヤサポニンからなる群より選択される1種以上を含有することがより好ましい。
【0017】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料における当該起泡剤の含有量は、用いる起泡剤の種類や組合せ、最終製品に求められる品質特性等に応じて適宜調整される。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料としては、気泡剤が、飲料のNIBEM値が80以上となるように添加されていることが好ましく、100以上となるように添加されていることがより好ましく、150以上となるように添加されていることがさらに好ましい。なお、NIBEM値は、注がれた泡の崩壊速度を電気伝導度で測定したものであり、ビール等の泡持ち評価に一般的に用いられているものである。非発酵ビール様発泡性飲料のNIBEM値は、EBC(European Brewery Convention)のAnalytica-EBC標準法、又はこれに準じた方法により測定できる。」
上記本件訂正明細書、段落【0016】の記載によれば、起泡材としては「大豆食物繊維、大豆サポニン、アルギン酸エステル、及びキラヤサポニンからなる群より選択される1種以上を含有することが好ましく、大豆食物繊維、大豆サポニン及びキラヤサポニンからなる群より選択される1種以上を含有することがより好ましい」のであって、実施例の記載における「キラヤニンC-100」、「ソヤファイブ-S-LN」は、これらの起泡剤のうち、より好ましい例として挙げられたものである。
そうすると、起泡剤として実施例の記載における「キラヤニンC-100」、「ソヤファイブ-S-LN」以外のものを用いることは上記訂正明細書の段落【0016】に記載されており、起泡剤であれば、種類によって程度の差はあるものの泡立ちに寄与するのであるから、「キラヤニンC-100」、「ソヤファイブ-S-LN」以外のものを起泡剤として用いた場合において課題を解決できないとする根拠はない。
したがって、上記(2)ア(ア)における異議申立人の主張には理由がない。

(イ)起泡剤の含有量の特定について
上記(ア)における本件訂正明細書の段落【0017】の記載によれば、「起泡剤の含有量は、用いる起泡剤の種類や組合せ、最終製品に求められる品質特性等に応じて適宜調整される」のであって、起泡剤としての機能を果たすために起泡剤の含有量をどの程度とすればよいのかは当業者であれば技術常識から理解できると認められる。
したがって、上記(2)ア(イ)における異議申立人の主張には理由がない。

ウ プリン体を含む原料について
上記アの本件訂正明細書の段落【0008】の記載「麦芽等のプリン体を比較的多く含む原料の添加量を調整すること、かつ発酵工程を経ずに製造することによって、最終製品中のプリン体濃度が0.2mg/100mL以下という従来になく低い非発酵ビール様発泡性飲料を製造することができる」からみて、請求項1ないし7に係る発明において特定された「プリン体を含む原料」とは、主に麦芽であり、麦芽等の添加量を調整することによりプリン体濃度を調整することが理解できる。
また、「発酵工程を経ない場合は、麦芽のオフフレーバによりビールらしい味が損なわれる」としても、「原料由来のプリン体の混入を抑制するために充分量の麦芽を使用せずともビール様の泡持ちを保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供する」という課題は解決されるものと認められる。
したがって、上記(2)イにおける異議申立人の主張には理由がない。

エ 最終製品中のプリン体濃度について
本件訂正明細書には、市販品のビール様発泡性飲料におけるプリン体含有量について次の記載がある。
「【0060】
[参考例1]
市販されているビール類、ノンアルコールビール、チューハイ類等のプリン体分析を実施した。市販品ビール類A(原料として麦芽とホップを使用。発酵有り。プリン体除去処理によるプリン体カット商品。)、市販品ビール類B(原料として麦芽とホップを使用。発酵有り。プリン体カット商品。)、市販品ノンアルコールビールC(原料として麦芽とホップを使用。発酵無し。糖質含有量:0.5g未満/100mL)、市販品ノンアルコールビールD(原料として麦芽とホップを使用。発酵無し。)、市販品ノンアルコールビールE(原料として麦芽とホップを使用。発酵無し。)、市販品チューハイ類F(原料として麦芽とホップを未使用。果肉を含有。発酵無し。)、及び市販品チューハイ類G(原料として麦芽とホップを未使用。果肉を含有。発酵無し。)の計7種を分析対象とした。
各飲料中のプリン体含有量は、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MSを用いた方法(日本食品分析センター:「酒類のプリン体の微量分析のご案内」)により測定した。当該測定方法においては、アデニン、グアニン、キサンチン、及びヒポキサンチンのそれぞれについての定量限界値は、0.02mg/100mLであった。
【0061】
測定結果を表1に示す。この結果、ビール様発泡性飲料である市販品A?Eは、いずれも麦芽とホップを使用していた。また、プリン体を吸着処理により除去した市販品Aでは、プリン体含有量が0.11mg/100mLと低かったが、除去工程の使用の有無が開示されていない市販品B?Eでは、プリン体含有量は0.2mg/100mL以上であった。また、従来の技術では、吸着除去工程を行ったとしても、飲料中のプリン体含有量を0.08mg/100mL以下にまで低減させることは実現できなかったことが示された。
【0062】
【表1】


上記本件訂正明細書の段落【0061】の記載からみて、除去工程の使用の有無が開示されていない市販品B?Eのプリン体含有量が0.2mg/100mL以上であって、本件請求項1に係る発明において特定された、「プリン体濃度が0.2mg/100mL以下」は、客観的にみて市販されている麦芽とホップを原料としたビール様発泡性飲料よりもプリン体濃度が低いとするための基準として特定されたものと認められるから発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。
したがって、上記(2)ウにおける異議申立人の主張には理由がない。

オ 穀物様香気成分、ホップ様香気成分及び含硫香気成分、並びにそれらの含有量について

(ア)本件訂正明細書には、穀物様香気成分とホップ様香気成分と含硫香気成分をそれぞれ添加してビールらしさを付与することについて以下の記載がある。
「【0075】
[実施例4]
表7に記載の組成により、酸味料、色素、及び起泡剤を含有する調合液を調製した後、これに炭酸ガスを3.0gas volになるように加えることにより、サンプル4-1を調製した。サンプル4-1の原料としては、表7中に示すベーガン通商株式会社製の「50%発酵乳酸BM-G」(製品名)、天野実業株式会社製の「カラメルSP」(製品名)、丸善製薬株式会社製の「キラヤニンC-100」(製品名)、扶桑化学工業株式会社の「クエン酸フソウ(無水)」(製品名)、「ヘルシャスA」(製品名)を用いた。
【0076】
【表7】

【0077】
サンプル4-1のプリン体含有量を参考例1と同様にして測定したところ、アデニン、グアニン、キサンチン、及びヒポキサンチンのいずれも検出されなかったことから、サンプル4-1のプリン体含有量は検出限界値未満(0.08mg/100mL)であるとわかった。さらに、サンプル4-1の糖質含量を測定したところ、0.1g/100mLであったことがわかった(共に、財団法人日本食品分析センターにて分析した。)。
【0078】
[実施例5]
ビールに含まれる主要香気成分のうちの特に匂い強度の強い16成分(3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオール)を実施例4で製造したサンプル4-1に様々な濃度で添加し、ビールらしさについて官能評価を実施した。官能評価は、2名の専門パネルにより、サンプル4-1の評価を中心値4とした7段階評価(ビールらしさが感じられない場合を1とし、非常に強く感じられた場合を7とする。)にて行った。また、表8?10には、評価に当たり各パネルが述べたコメントも記載した。」、
「【0082】
表8?10に示すように、いずれの成分も、濃度に差はあるが、低濃度で添加した場合には添加の効果が官能上わからず、サンプル4-1と変わらないが、添加濃度を高くするにつれてビールらしさが高くなり、ある濃度でピークに達し、さらに添加濃度が高くなるにつれて特有の香気が強くなりすぎてビールらしさが低下する傾向が観察された。つまり、これらの16成分のうちの少なくとも1種類を適切な濃度で含有させることにより、ビールらしさがより強く付与されることがわかった。
【0083】
[実施例6]
実施例4で製造したサンプル4-1に、前記16成分のうち、穀物様香気成分とホップ様香気成分と含硫香気成分をそれぞれ1種類ずつ添加し、実施例5と同様にしてビールらしさの官能評価を行った。具体的には、表11に示すように、穀物様香気成分として3-メチル-1-ブタノール又は4-ビニルグアイアコールを、ホップ様香気成分としてミルセン、リナロール、又はシス-3-ヘキセノールを、含硫香気成分として3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、又は2-メチル-3-フランチオールを、それぞれ実施例5でビールらしさの評価が高かった濃度で添加したサンプル6-1?6-4を調製し、ビールらしさを評価した。評価結果を表11に示す。この結果、サンプル6-1?6-4のいずれにおいても、ビールらしさが非常に高く、穀物様香気成分とホップ様香気成分と含硫香気成分を添加することにより、各香気成分を単独で添加した場合よりも、ビールらしさを非常に強く付与し得ることがわかった。
【0084】
【表11】

【0085】
[実施例7]
実施例4で製造したサンプル4-1に、前記16成分全てを、それぞれ実施例1でビールらしさの評価が高かった濃度で添加したサンプル7-1を調製し、実施例5と同様にしてビールらしさの官能評価を行った。サンプル7-1における各香気成分の濃度は、3-メチル-1-ブタノールが6000ppb、イソバレリン酸が1000ppb、γ-ノナラクトンが120ppb、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノンが80ppb、2-アセチルチアゾールが30ppb、4-ビニルグアイアコールが800ppb、2-アセチル-1-ピロリンが2.4ppb、2-プロピル-1-ピロリンが2.4ppb、ミルセンが40ppb、リナロールが160ppb、β-ダマセノンが1ppb、フェネチルアルコールが5000ppb、シス-3-ヘキセノールが2150ppb、3-メチル-2-ブテン-1-チオールが0.5ppb、メチオノールが600ppb、及び2-メチル-3-フランチオールが0.01ppbであった。評価結果を表12に示す。
サンプル7-1では、ビールらしさが非常に強く付与されており、ほぼビールと同様の官能評価が得られた。この結果、起泡剤と色素を含有するが原料として麦芽やホップを用いていない非発酵ビール様発泡性飲料に前記16成分を全て適切な濃度で含有させることにより、ビールとほぼ同等の香味を有する非発酵ビール様発泡性飲料を製造し得ることがわかった。
【0086】
【表12】

【0087】
[実施例8]
実施例4で製造したサンプル4-1に、前記16成分のうち、穀物様香気成分とホップ様香気成分と含硫香気成分をそれぞれ1種類ずつ添加し、さらにエタノールを0?1容量%含有させたサンプル8-1?8-3を調製し、実施例5と同様にしてビールらしさの官能評価を行った。香気成分は、具体的には、穀物様香気成分として3-メチル-1-ブタノールを6000ppb、ホップ様香気成分としてミルセンを40ppb、含硫香気成分として3-メチル-2-ブテン-1-チオールを0.5ppbを添加した。評価結果を表13に示す。この結果、16成分全てではなく、穀物様香気成分、ホップ様香気成分、及び含硫香気成分を少なくとも1種類ずつ添加した場合でも、エタノールをさらに添加することにより、より強くビールらしさが付与されることがわかった。
【0088】
【表13】


上記本件訂正明細書の段落【0075】ないし【0078】、【0082】及び【0083】には、酸味料、色素、及び起泡剤を含有する調合液を調製した後、これに炭酸ガスを加えたサンプル4-1に、ビールに含まれる主要香気成分である穀物様香気成分とホップ様香気成分と含硫香気成分を添加することによりビールらしさを付与することについて記載されている。

(イ)香気成分の組合せについて
上記の本件訂正明細書の段落【0075】ないし【0078】、【0082】及び【0083】の記載によれば、ビールに含まれる主要香気成分である穀物様香気成分とホップ様香気成分と含硫香気成分をサンプル4-1に添加してビールらしさを付与するものであるから、16種のうちの何れかの穀物様香気成分とホップ様香気成分と含硫香気成分がそれぞれサンプル4-1に添加されれば添加されていないものと比較してビールらしさが付与されると当業者であれば理解する。
そうすると、【表11】及び【表13】に示された香気成分の組合せ以外のものを採用した場合においてもビールらしい味を呈すると認められる。
さらに、ビールらしい味を呈することは、「ビール様の泡持ちを保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供する」という本件の課題の解決において必須であるとはいえないから、【表11】及び【表13】に示された香気成分の組合せ以外のものを採用した場合において課題を解決できないとはいえない。
したがって、上記(2)エ(ア)における異議申立人の主張には理由がない。

(ウ)香気成分の含有量について
上記(イ)においての判断と同様に、16種のうちの何れかの穀物様香気成分とホップ様香気成分と含硫香気成分がそれぞれサンプル4-1に添加されれば添加されていないものと比較してビールらしさが付与されると当業者であれば理解するのであって、その際の香気成分の濃度についても香りのバランスなどを考慮して任意の量を添加すると認められる。
そうすると、請求項1及び2に係る発明において各香気成分の濃度が特定されていないこと、及び請求項3に係る発明において各香気成分の濃度範囲が実施例に比べて広いことをもってビールらしい味を呈することが認められないとまではいえない。
そして、ビールらしい味を呈することは、「ビール様の泡持ちを保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供する」という本件の課題の解決において必須であるとはいえないから、任意の香気成分の量を添加した場合において課題を解決できないとはいえない。
したがって、上記(2)エ(イ)における異議申立人の主張には理由がない。

(5)異議理由2についての当審の判断
ア 上記(4)イないしオで判断したとおり、請求項1ないし7に係る発明において特定された「起泡剤の範囲」、「プリン体を含む原料の範囲」、「最終製品中のプリン体濃度の範囲」及び「香気成分の範囲」は、課題を解決できない範囲を含むとはいえない。
そして、技術常識を考慮すると本件訂正明細書に記載されていない範囲について請求項1ないし7に係る発明を実施できないとまではいえないから、本件訂正明細書の記載は、請求項1ないし7に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
したがって、上記(3)アにおける異議申立人の主張には理由がない。

イ 上記(4)イ(イ)で判断したとおり、「起泡剤の含有量」については、起泡剤としての機能を果たすために、その含有量をどの程度とすればよいのかは当業者であれば技術常識から理解できるものであり、「香気成分の含有量」については、上記(4)オ(ウ)で判断したとおり、「ビール様の泡持ちを保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供する」という本件の課題の解決において必須であるとはいえないから、任意の香気成分の量を添加した場合において課題を解決できないとはいえず、「カラメル色素を含有すること」及び「カラメル色素の含有量」については、上記訂正事項1及び2の訂正によって、「色度」や「色」に関する課題を削除する訂正がされたことに伴い、本件発明の課題の解決において必須であるとはいえない。また、当業者であれば「カラメル色素を含有すること」及び「カラメル色素の含有量」については過度の試行錯誤をせずとも任意に決定し得るものである。
そして、技術常識を考慮すると本件訂正明細書の記載によって請求項1ないし7に係る発明を実施できないとまではいえないから、本件訂正明細書の記載は請求項1ないし7に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
したがって、上記(3)イにおける異議申立人の主張には理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵工程を経ずに製造され、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらずビールとほぼ同様の香味を有する非発酵ビール様発泡性飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒等のビール様発泡性飲料は、消費者の嗜好の多様化にともない、多種多様の商品が上市されている。特に、近年の消費者の健康志向から、プリン体含有量への関心が高まっている。プリン体は肝臓で代謝されて尿酸となるが、血液中の尿酸値が一定値以上となると高尿酸血症になり、さらに結晶化した尿酸が関節にたまると痛風になる。このため、プリン体含有量が低減されつつ、従来のビール等が有する香味を保持したビール様発泡性飲料に対する消費者の期待は高まっている。しかしながら、多くのビール様発泡性飲料ではビールらしさを維持するために麦芽やホップを原料として用いているため、プリン体含有量が多くなってしまうという問題がある。
【0003】
プリン体含有量が低減されたビール様発泡性飲料を製造する方法としては、例えば、ビールや発泡酒等の製造工程における麦汁若しくは発酵液に対して活性炭処理(例えば、特許文献1参照。)やゼオライト処理(例えば、特許文献2参照。)を行うことによりプリン体を吸着除去する方法がある。また、プリン体は酵母による発酵によっても生産されるため、発酵工程を経ずにビール様発泡性飲料を製造する技術も近年発達している(例えば、特許文献3又は4参照。)。例えば、近年消費者の間で広まりつつあるノンアルコールビールテイスト飲料は、発酵工程を介さず調合にて製造するため、発酵由来のプリン体混入を防ぐことができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3730935号公報
【特許文献2】特開2004-290072号公報
【特許文献3】国際公開第2010/079778号
【特許文献4】国際公開第2012/091086号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】マハセラノン(Mahatheeranont)、他2名、ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フード・ケミストリー(Journal of Agricultural and Food Chemistry)、2001年、第49巻、第773?779ページ。
【非特許文献2】イイジマ(Iijima)、他1名、ジャーナル・オブ・アプライド・マイクロバイオロジー(Journal of Applied Microbiology)、2010年、第109巻、第1906?1913ページ。
【非特許文献3】トミナガ(Tominaga)、他2名、ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フード・ケミストリー(Journal of Agricultural and Food Chemistry)、1998年、第46巻、第1044?1048ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
活性炭やゼオライトは多種多様な物質を吸着するため、活性炭処理やゼオライト処理によりプリン体以外の多くの成分も除去されてしまう結果、泡持ちや色といった外観上重要なビールらしさが損なわれやすいという問題がある。また、吸着剤処理により大きくコストがかかるという問題もある。一方で、特許文献3又は4に記載の方法では、麦芽等のプリン体を多く含む原料の添加量を調整することにより、プリン体含有量が充分に低減されたビール様発泡性飲料を製造できると期待される。しかし、充分量の麦芽を使用しなければ、原料由来のプリン体の混入を抑制できる一方で、ビールの泡持ちや色度は主に麦芽由来の成分によるため、ビールの泡立ちが低減し、色が薄くなるという難点がある。このため、充分量の麦芽を使用せずにビールらしい外観(泡や色度)を達成することは非常に困難である。
【0007】
本発明は、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらず、「ビールらしさ」、特にビール様の泡持ちを保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、麦芽等のプリン体を比較的多く含む原料の添加量を調整すること、かつ発酵工程を経ずに製造することによって、最終製品中のプリン体濃度が0.2mg/100mL以下という従来になく低い非発酵ビール様発泡性飲料を製造することができること、このように製造された非発酵ビール様発泡性飲料に、起泡剤及び色素を含有させることにより、ビールらしい泡持ちや色度を付与できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
[1] 本発明の第一の態様は、大豆食物繊維、大豆ペプチド、大豆サポニン、アルギン酸エステル、及びキラヤサポニンからなる群より選択される1種以上を原料とし、かつプリン体を含む原料の添加量を調整してプリン体濃度が0.2mg/100mL以下の非発酵ビール様発泡性飲料を製造し、製造された非発酵ビール様発泡性飲料が、プリン体濃度が0.2mg/100mL以下であり、穀物様香気成分として、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、及び2-プロピル-1-ピロリンからなる群より選択される1種以上の化合物を含有し、ホップ様香気成分として、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、及びシス-3-ヘキセノールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有し、含硫香気成分として、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有する、非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法である。
[2] 前記[1]の非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法としては、製造された非発酵ビール様発泡性飲料が、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールを含有することが好ましい。
[3] 前記[2]の非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法としては、製造された非発酵ビール様発泡性飲料の前記穀物様香気成分として含有される化合物の濃度が0.24?30000ppbであり、製造された非発酵ビール様発泡性飲料の前記ホップ様香気成分として含有される化合物の濃度が0.2?250000ppbであり、製造された非発酵ビール様発泡性飲料の前記含硫香気成分として含有される化合物の濃度が0.001?3000ppbであることが好ましい。
[4] 前記[1]?[3]のいずれかの非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法としては、製造された非発酵ビール様発泡性飲料が、さらに、苦味料を含有することが好ましい。
[5] 前記[1]?[4]のいずれかの非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法としては、製造された非発酵ビール様発泡性飲料が、さらに、酸味料を含有することが好ましい。
[6] 前記[1]?[5]のいずれかの非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法としては、製造された非発酵ビール様発泡性飲料が、さらに、エタノールを含有することが好ましい。
[7] 前記[1]?[6]のいずれかの非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法としては、プリン体除去工程を含まないことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、プリン体濃度が0.2mg/100mL以下という非常に低く抑えられているにもかかわらず、泡持ちといった外観上重要な品質において充分なビールらしさが保持された、非常に官能性の高いビール様発泡性飲料である。
また、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法により、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明及び本願明細書においては、「ビールらしさ」とは、製品名称・表示にかかわらず、香味上ビールを想起させる呈味のことを意味する。つまり、ビールらしさを有する発泡性飲料(ビール様発泡性飲料)とは、アルコール含有量、麦芽及びホップの使用の有無、発酵の有無に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有する発泡性飲料である。
【0012】
また、本発明及び本願明細書における非発酵ビール様発泡性飲料とは、発酵工程を経ずに製造される飲料であって、ビールらしさと炭酸ガスによる発泡性を有する飲料を意味する。非発酵ビール様発泡性飲料は、アルコール飲料であってもよく、アルコール含量が1容量%未満であるいわゆるノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であってもよい。具体的には、ビール、発泡酒、ローアルコール発泡性飲料、ノンアルコールビール等が挙げられる。
【0013】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、起泡剤及び色素を含有し、かつ、プリン体濃度が0.2mg/100mL以下であることを特徴とする。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、プリン体を含む原料の添加量を調整し、さらに発酵工程を経ずに製造されることによって、活性炭処理やゼオライト処理等のプリン体除去工程を要することなく、プリン体濃度を従来になく低く抑えることができる。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料のプリン体濃度は、0.2mg/100mL未満が好ましく、0.01mg/100mL以下がより好ましく、0.08mg/100mL未満がさらに好ましい。
【0014】
なお、本発明及び本願明細書において、プリン体とは、アデニン、キサンチン、グアニン、ヒポキサンチンのプリン体塩基4種の総量を指す。非発酵ビール様発泡性飲料や原料中のプリン体含有量は、例えば、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MSを用いて検出する方法(「酒類のプリン体の微量分析のご案内」、財団法人日本食品分析センター、インターネット<URL:http://www.jfrl.or.jp/item/nutrition/post-31.html>、平成25年1月検索)により測定することができる。
【0015】
ビールの泡持ちや色度には、麦芽由来の成分が大きく寄与している。つまり、麦芽はビールらしさを付与する重要な原料であるが、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料においては、起泡剤及び色素を含有させることにより、泡持ちや色度におけるビールらしさが付与される。
【0016】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が含有する起泡剤としては、例えば、大豆食物繊維、大豆ペプチド、大豆サポニン、アルギン酸エステル、キラヤサポニン等が挙げられる。これらの起泡剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用して用いてもよい。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料としては、大豆食物繊維、大豆サポニン、アルギン酸エステル、及びキラヤサポニンからなる群より選択される1種以上を含有することが好ましく、大豆食物繊維、大豆サポニン及びキラヤサポニンからなる群より選択される1種以上を含有することがより好ましい。
【0017】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料における当該起泡剤の含有量は、用いる起泡剤の種類や組合せ、最終製品に求められる品質特性等に応じて適宜調整される。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料としては、気泡剤が、飲料のNIBEM値が80以上となるように添加されていることが好ましく、100以上となるように添加されていることがより好ましく、150以上となるように添加されていることがさらに好ましい。なお、NIBEM値は、注がれた泡の崩壊速度を電気伝導度で測定したものであり、ビール等の泡持ち評価に一般的に用いられているものである。非発酵ビール様発泡性飲料のNIBEM値は、EBC(European Brewery Convention)のAnalytica-EBC標準法、又はこれに準じた方法により測定できる。
【0018】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が含有する色素としては、ビールらしい色を付与可能であり、かつ飲食可能な色素であれば特に限定されるものではないが、カラメル化反応物(カラメル色素)が特に好ましい。
【0019】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料における当該色素の含有量は、用いる色素の種類や最終製品に求められる品質特性等に応じて適宜調整される。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料としては、色素が、飲料の色度が2°EBC以上となるように添加されていることが好ましく、5°EBC以上となるように添加されていることがより好ましく、7°EBC以上となるように添加されていることがさらに好ましく、7?16°EBCとなるように添加されていることがよりさらに好ましい。なお、色度は、EBC(European Brewery Convention)のAnalytica-EBC標準法、又はこれに準じた方法により測定できる。EBCとは、ビールの分析での色度の単位で、ビールの色の濃淡を数値(EBC色度の9つのガラスディスクを持ったコンパレーターにより目視で測定する、若しくは波長430nmでの吸光度を基に算出する。)であらわしたものである。
【0020】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、さらに、特定の16の香気成分の少なくとも1種以上を含有することが好ましい。当該16の香気成分は、麦芽を原料としなくとも、原料由来の香気成分がほとんど含まれていない場合であっても、単独で添加することによってビールらしさを付与できる。
【0021】
当該16の香気成分は、香りのタイプより、穀物様香気成分、ホップ様香気成分、及び含硫香気成分の3種類に分類することができる。穀物様香気成分としては、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、及び2-プロピル-1-ピロリンの8種類の化合物である。ホップ様香気成分としては、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、及びシス-3-ヘキセノールの5種類の化合物である。含硫香気成分としては、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールの3種類の化合物である。
【0022】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、求める製品特性に応じて、当該16の香気成分のうち、1種類のみを単独で含有していてもよく、2種類以上を組み合わせて含有していてもよい。2種類以上を組み合わせて含有させる場合には、8種類の穀物様香気成分のうちの少なくとも1種以上、5種類のホップ様香気成分のうちの少なくとも1種以上、及び3種類の含硫香気成分のうちの少なくとも1種以上、を含有することが好ましい。
中でも、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料としては、4-ビニルグアイアコール及び3-メチル-1-ブタノールからなる群より選択される1種以上の穀物様香気成分を含有し、ミルセン、リナロール、及びシス-3-ヘキセノールからなる群より選択される1種以上のホップ様香気成分を含有し、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールからなる群より選択される1種以上の含硫香気成分を含有することが好ましく、前記16の香気成分全てを含有することが特に好ましい。
【0023】
各香気成分の含有量は、最終製品に求められる品質特性に応じて適宜調整されるが、前記穀物様香気成分の場合には、各化合物の濃度が0.24?30000ppbであることが好ましく、前記ホップ様香気成分の場合には、各化合物の濃度が0.2?250000ppbであることが好ましく、前記含硫香気成分の場合には、各化合物の濃度が0.001?3000ppbであることが好ましい。なお、「前記穀物様香気成分の場合には、各化合物の濃度が0.24?30000ppbである」とは、前記8種類の穀物様香気成分のうちの1種類の化合物を含有する場合には、当該化合物の非発酵ビール様発泡性飲料中の含有量が0.24?30000ppbであり、前記8種類の穀物様香気成分のうちの2種類以上の化合物を含有する場合には、それぞれの化合物の含有量がいずれも0.24?30000ppbであることを意味する。ホップ様香気成分及び含硫香気成分の場合も同様である。
【0024】
2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリンは、例えば非特許文献2に記載の方法により測定することができる。具体的には、まず、容器にサンプルを採取し、TMP(2,4,6-トリメチルピリジン)を加えて混合した後、濾過する。次に濾液に水酸化ナトリウムを添加してアルカリ性にした後、ジクロロメタンを加え、振とう抽出する。その後、溶媒(ジクロロメタン)層を回収し、この回収した溶媒層を、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、減圧下で濃縮したものを測定試料とする。この測定試料を、FID(水素炎イオン化型検出器)を備えたキャピラリーGC分析に供し、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリンを検出する。
【0025】
3-メチル-2-ブテン-1-チオールは、例えば非特許文献3に記載の方法により測定することができる。具体的には、容器にサンプルを採取し、p-ヒドロキシメルクリ安息香酸、2-tert-ブチル-4-メチルフェノール、及び4-メトキシ-2-メチル-2-メルカプトブタン(内部標準物質)をエタノール溶液として添加し、激しく撹拌する。その後、混合液を、強塩基性陰イオン交換樹脂カラムにアプライし、当該カラムに吸着していた3-メチル-2-ブテン-1-チオールを、酢酸エチル、次いでジクロロメタンで溶出し、回収する。回収された有機溶媒層を、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、窒素パージにて濃縮した後に、GC/MS分析に供する。
【0026】
2-メチル-3-フランチオールは、例えば非特許文献4に記載の方法により測定することができる。具体的には、水酸化ナトリウム溶液を入れた容器にサンプルを採取し、内部標準物質として4-メトキシ-2-メチル-2-メルカプトブタンを添加する。次に、当該容器にジクロロメタンを加えて振とう抽出する。その後、遠心分離処理を行い、溶媒(ジクロロメタン)層を回収し、この回収した溶媒層にp-ヒドロキシメルクリ安息香酸を添加して2-メチル-3-フランチオールを抽出する。この抽出処理中、水相は、必要に応じて水酸化ナトリウム溶液を添加することによって、pH7超に維持される。回収されたp-ヒドロキシメルクリ安息香酸層を、徐々に希塩酸を添加してpH7に調整した後、強塩基性陰イオン交換カラムにアプライする。当該カラムに吸着した2-メチル-3-フランチオールをシステイン溶液で溶離させて回収し、回収したシステイン溶液に、ジクロロメタンを加えて振とう抽出し、遠心分離処理を行って溶媒(ジクロロメタン)層を回収し、この回収した溶媒層を、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、窒素パージにて濃縮した後に、GC/MS分析に供する。
【0027】
上記4種以外の穀物様香気成分、ホップ様香気成分、含硫香気成分は、ジクロロメタン液々抽出を用いたGC/MS分析により測定することができる。具体的には、まず、容器にサンプルを採取し、硫酸アンモニウムを加え、次に当該容器にジクロロメタンを加えて内部標準物質を添加した後、振とう抽出する。この際に、当該容器内にガスがある場合にはガス抜きを行うことが好ましい。その後、遠心分離処理を行い、溶媒層を回収し、この回収した溶媒層を、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、窒素パージにて濃縮した後に、GC/MS分析に供する。
【0028】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が3-メチル-1-ブタノールを含有する場合、飲料中の3-メチル-1-ブタノール含有量は、0.24?30000ppbが好ましく、12?30000ppbがより好ましく、60?6000ppbがさらに好ましく、120?6000ppbがよりさらに好ましい。
【0029】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がイソバレリン酸を含有する場合、飲料中のイソバレリン酸含有量は、0.24?30000ppbが好ましく、20?5000ppbがより好ましく、100?1000ppbがさらに好ましい。
【0030】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がγ-ノナラクトンを含有する場合、飲料中のγ-ノナラクトン含有量は、0.24?30000ppbが好ましく、0.24?600ppbがより好ましく、1.2?120ppbがさらに好ましい。
【0031】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノンを含有する場合、飲料中の4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン含有量は、0.24?30000ppbが好ましく、16?4000ppbがより好ましく、80?800ppbがさらに好ましく、400?800ppbがよりさらに好ましい。
【0032】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が2-アセチルチアゾールを含有する場合、飲料中の2-アセチルチアゾール含有量は、0.24?30000ppbが好ましく、6?15000ppbがより好ましく、30?3000ppbがさらに好ましい。
【0033】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が4-ビニルグアイアコールを含有する場合、飲料中の4-ビニルグアイアコール含有量は、0.24?30000ppbが好ましく、16?4000ppbがより好ましく、80?800ppbがさらに好ましい。
【0034】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が2-アセチル-1-ピロリンを含有する場合、飲料中の2-アセチル-1-ピロリン含有量は、0.24?30000ppbが好ましく、0.48?120ppbがより好ましく、2.4?24ppbがさらに好ましい。
【0035】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が2-プロピル-1-ピロリンを含有する場合、飲料中の2-プロピル-1-ピロリン含有量は、0.24?30000ppbが好ましく、0.48?120ppbがより好ましく、2.4?24ppbがさらに好ましい。
【0036】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がミルセンを含有する場合、飲料中のミルセン含有量は、0.2?250000ppbが好ましく、8?2000ppbがより好ましく、40?400ppbがさらに好ましい。
【0037】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がリナロールを含有する場合、飲料中のリナロール含有量は、0.2?250000ppbが好ましく、32?8000ppbがより好ましく、160?1600ppbがさらに好ましい。
【0038】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がβ-ダマセノンを含有する場合、飲料中のβ-ダマセノン含有量は、0.2?250000ppbが好ましく、0.2?500ppbがより好ましく、1?100ppbがさらに好ましい。
【0039】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がフェネチルアルコールを含有する場合、飲料中のフェネチルアルコール含有量は、0.2?250000ppbが好ましく、100?250000ppbがより好ましく、500?50000ppbがさらに好ましく、1000?50000ppbがよりさらに好ましい。
【0040】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がシス-3-ヘキセノールを含有する場合、飲料中のシス-3-ヘキセノール含有量は、0.2?250000ppbが好ましく、43?107500ppbがより好ましく、215?21500ppbがさらに好ましく、430?21500ppbがよりさらに好ましい。
【0041】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が3-メチル-2-ブテン-1-チオールを含有する場合、飲料中の3-メチル-2-ブテン-1-チオール含有量は、0.001?3000ppbが好ましく、0.001?25ppbがより好ましく、0.005?5ppbがさらに好ましい。
【0042】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がメチオノールを含有する場合、飲料中のメチオノール含有量は、0.001?3000ppbが好ましく、1.2?3000ppbがより好ましく、6?600ppbがさらに好ましく、12?600ppbがよりさらに好ましい。
【0043】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が2-メチル-3-フランチオールを含有する場合、飲料中の2-メチル-3-フランチオール含有量は、0.001?3000ppbが好ましく、0.002?0.5ppbがより好ましく、0.01?0.1ppbがさらに好ましく、0.01?0.05ppbがよりさらに好ましい。
【0044】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が前記16の香気成分の2以上を組み合わせて含有する場合、各香気成分の含有量は、それぞれが前記の好ましい範囲になるように添加されることが好ましい。
【0045】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料においては、プリン体を含む原料の添加量が調整されている。プリン体を含む原料の添加量を調整すること、特に麦芽等のプリン体含有量が比較的多い原料を制限して添加することにより、プリン体除去工程を経ずとも容易にプリン体含有量を検出限界値未満にまで低下させることができる。具体的には、原料由来のプリン体の総量が、そのまま最終製品たる非発酵ビール様発泡性飲料に含まれるようになった場合に、当該非発酵ビール様発泡性飲料中のプリン体濃度が0.2mg/100mL以下となるように、プリン体を含む原料の添加量を制限する。プリン体含有量の多い原料としては、麦芽の他、例えば、大麦や小麦等の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。
【0046】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、さらに、苦味料を含有することが好ましい。ビールは主にホップ由来の独特の苦味を有しているため、苦味料を含有させることにより、非発酵ビール様発泡性飲料のビールらしさがより強くなる。当該苦味料としては、製品である非発酵ビール様発泡性飲料において、ビールと同質若しくは近似する苦味を呈するものであれば特に限定されるものではなく、ホップ中に含まれている苦味成分であってもよく、ホップには含まれていない苦味成分であってもよい。当該苦味料としては、具体的には、マグネシウム塩、カルシウム塩、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、ナリンジン、クワシン、イソα酸、テトライソα酸、β酸の酸化物、キニーネ、モモルデシン、クエルシトリン、テオブロミン、カフェイン等の苦味付与成分、及びゴーヤ、センブリ茶、苦丁茶、ニガヨモギ抽出物、ゲンチアナ抽出物、キナ抽出物等の苦味付与素材が代表的に挙げられる。含有する香気成分との相性や、夾雑物として混入するプリン体や糖質が少ないことから、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、硫酸マグネシウム、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、ナリンジン、及びクワシンからなる群より選択される1種以上の苦味料を含有していることが好ましく、硫酸マグネシウムを単独で、又は、硫酸マグネシウム、並びにクエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、ナリンジン、及びクワシンからなる群より選択される1種以上の苦味料を併用して含有していることがより好ましい。
【0047】
各苦味料の含有量は、最終製品に求められる品質特性に応じて適宜調整される。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が硫酸マグネシウムを含有する場合、飲料中の硫酸マグネシウム含有量は0.1?3.2g/Lが好ましく、0.2?1.6g/Lがより好ましい。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がクエン酸トリブチルを含有する場合、飲料中のクエン酸トリブチル含有量は3?300ppmが好ましく、6?60ppmがより好ましい。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がクエン酸トリエチルを含有する場合、飲料中のクエン酸トリエチル含有量は60?1800ppmが好ましく、300?1200ppmがより好ましい。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がナリンジンを含有する場合、飲料中のナリンジン含有量は0.6?300ppmが好ましく、3?60ppmがより好ましい。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がクワシンを含有する場合、飲料中のクワシン含有量は8?256ppbが好ましく、16?128ppmがより好ましい。2種類以上の苦味料を併用する場合には、それぞれの苦味料の含有量が前記の範囲内になるように含有させることが好ましい。
【0048】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、さらに、酸味料を含有することが好ましい。酸味料を含有することにより、香味のバランスに優れ、よりビールらしさの強い非発酵ビール様発泡性飲料が得られる。酸味料としては、飲食品に配合可能な酸味料であれば特に限定されるものではなく、最終製品に求められる品質特性に応じて、その配合量と共に適宜決定される。本発明においては、酸味料として酸を用いることが好ましく、安全性と香味の点から無機酸よりも有機酸を用いることがより好ましい。有機酸としては、一般的に飲食品の製造に使用されているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、乳酸、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、及びそれらの塩等が挙げられる。これらの有機酸は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0049】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が酸を含有する場合には、飲料のpHが3.0?4.0になるように、酸の添加量を調整することが好ましい。飲料に添加する酸の量が多すぎると、酸味が強調されてしまい、飲み辛くなる。酸の量を、飲料のpHが3.0?4.0程度になるように調節して添加することにより、製造される非発酵ビール様発泡性飲料において、香味のバランスをより改善させることができる。
【0050】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、さらに、甘味系アミノ酸を含有することが好ましい。甘味系アミノ酸を含有することにより、糖質原料を用いずとも、適度な甘味が付与され、さらにボディ感やコクが強くなり、よりビールらしさの強い非発酵ビール様発泡性飲料が得られる。甘味系アミノ酸としては、アラニンやグリシンが挙げられ、アラニンが好ましい。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がアラニンを含有する場合、飲料中のアラニン含有量は0.05?9.6g/Lが好ましく、0.1?4.8g/Lがより好ましく、0.3?1.2g/Lがさらに好ましい。
【0051】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、さらに、エタノールを含有することが好ましい。アルコールを含有することにより、香気成分の香り立ちがよくなり、よりビールらしさが付与される。ただし、アルコール濃度が高くなりすぎると、アルコール臭が強くなりすぎ、ビールらしさが損なわれやすい。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料がエタノールを含有する場合、飲料中のエタノール濃度は1容量%以上10容量%未満が好ましく、1?9容量%がより好ましく、1?8容量%がさらに好ましく、1?7容量%がよりさらに好ましい。なお、エタノールは、酒類の製造において一般的に用いられている原料エタノールが用いられる。
【0052】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、糖質含有量が比較的低いもののみを原料として用いることが好ましい。原料中の糖質含有量を制限することにより、プリン体のみならず糖質含有量も低く抑えられた非発酵ビール様発泡性飲料が得られる。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料としては、糖質濃度が0.5g/100mL以下であることが好ましく、0.5g/100mL未満であることがより好ましい。例えば、糖自体を原料としては添加しないことにより、飲料中に含まれる糖質は色素や酸味料、苦味料等に由来するわずかな量に抑えることができる。
【0053】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、例えば、各原料を混合する方法(調合法)によって製造できる。具体的には、以下の工程(a)?(b)を有する製造方法により製造し得る。
(a)酸味料、色素、及び起泡剤を混合することにより、調合液を調製する工程;及び(b)前記工程(a)により得られた調合液に炭酸ガスを加える工程。
【0054】
まず、工程(a)において、酸味料、色素、及び起泡剤を混合することにより、調合液を調製する。この際、香気成分や、苦味料、甘味系アミノ酸等も、当該工程において添加してもよい。工程(a)においては、炭酸ガス以外の全ての原料を混合した調合液を調製することが好ましい。各原料を混合する順番は特に限定されるものではない。原料水に、全ての原料を同時に添加してもよく、先に添加した原料を溶解させた後に残る原料を添加する等、順次原料を添加してもよい。また、例えば、原料水に、固形(例えば粉末状や顆粒状)の原料(例えば、香気成分や色素、起泡剤)、及びアルコールを混合してもよく、固形原料を予め水溶液としておき、これらの水溶液、及びアルコール、必要に応じて原料水を混合してもよい。
【0055】
工程(a)において調製された調合液に、不溶物が生じた場合には、工程(b)の前に、当該調合液に対して濾過等の不溶物を除去する処理を行うことが好ましい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。本発明においては、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
【0056】
次いで、工程(b)として、工程(a)により得られた調合液に炭酸ガスを加える。これにより、非発酵ビール様発泡性飲料を得る。炭酸を加えることによって、ビールと同様の爽快感が付与される。なお、炭酸ガスの添加は、常法により行うことができる。例えば、工程(a)により得られた調合液、及び炭酸水を混合してよく、工程(a)により得られた調合液に炭酸ガスを直接加えて溶け込ませてもよい。
【0057】
炭酸ガスを添加した後、得られた非発酵ビール様発泡性飲料に対して、さらに濾過等の不溶物を除去する処理を行ってもよい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。
【0058】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、泡持ちや色といった外観上重要な品質において充分なビールらしさを保持している点とプリン体含有量が0.2mg/100mL以下である点の2つの特徴を両立する非常に好ましい飲料である上に、発酵工程を有さないいわゆる調合法により製造可能であり、かつ活性炭処理等のプリン体除去工程をも必要としない。このため、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、その製造において、大掛かりな吸着除去設備が不要となり、大幅なコストダウンとエネルギーの節約が可能となる。
【実施例】
【0059】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[参考例1]
市販されているビール類、ノンアルコールビール、チューハイ類等のプリン体分析を実施した。市販品ビール類A(原料として麦芽とホップを使用。発酵有り。プリン体除去処理によるプリン体カット商品。)、市販品ビール類B(原料として麦芽とホップを使用。発酵有り。プリン体カット商品。)、市販品ノンアルコールビールC(原料として麦芽とホップを使用。発酵無し。糖質含有量:0.5g未満/100mL)、市販品ノンアルコールビールD(原料として麦芽とホップを使用。発酵無し。)、市販品ノンアルコールビールE(原料として麦芽とホップを使用。発酵無し。)、市販品チューハイ類F(原料として麦芽とホップを未使用。果肉を含有。発酵無し。)、及び市販品チューハイ類G(原料として麦芽とホップを未使用。果肉を含有。発酵無し。)の計7種を分析対象とした。
各飲料中のプリン体含有量は、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MSを用いた方法(日本食品分析センター:「酒類のプリン体の微量分析のご案内」)により測定した。当該測定方法においては、アデニン、グアニン、キサンチン、及びヒポキサンチンのそれぞれについての定量限界値は、0.02mg/100mLであった。
【0061】
測定結果を表1に示す。この結果、ビール様発泡性飲料である市販品A?Eは、いずれも麦芽とホップを使用していた。また、プリン体を吸着処理により除去した市販品Aでは、プリン体含有量が0.11mg/100mLと低かったが、除去工程の使用の有無が開示されていない市販品B?Eでは、プリン体含有量は0.2mg/100mL以上であった。また、従来の技術では、吸着除去工程を行ったとしても、飲料中のプリン体含有量を0.08mg/100mL以下にまで低減させることは実現できなかったことが示された。
【0062】
【表1】

【0063】
[実施例1]
表2に記載の組成により酸味料と起泡剤を含有する調合液を調製した後、これに炭酸ガスを3.0gas volになるように加えることにより、サンプル1-1及び1-2を調製した。サンプル1-1及び1-2の原料としては、ベーガン通商株式会社製の「50%発酵乳酸BM-G」(製品名)、扶桑化学工業株式会社の「クエン酸フソウ(無水)」(製品名)、「ヘルシャスA」(製品名)、丸善製薬株式会社製のキラヤニンC-100、不二製油株式会社製のソヤファイブ-S-LNを使用した。サンプル1-1及び1-2のNIBEM値、プリン体含有量、及び糖質濃度を測定した。NIBEM値は、NIBEM測定機器(Haffmans社製)を使用して測定し、プリン体含有量は参考例1と同様にして測定した。さらに、サンプル1-1及び1-2に対して、泡立ち、泡持ち、泡質、及び総合評価についての官能評価を実施した。官能評価は、2名の専門パネルにより4段階評価(◎:十分にビールらしい、○:やや品質は劣るがビールらしさが担保されている、△:品質にやや問題あり、×:品質に問題あり)にて行った。測定結果及び評価結果を表3に示す。また、表3には、評価に当たり各パネルが述べたコメントも記載した。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
この結果、サンプル1-1と1-2の両方とも、プリン体含有量は検出限界値未満と非常に低く、かつNIBEM値が200以上と優れた泡品質を有していた。当該結果から、起泡剤を含有させることにより、原料として麦芽やホップを用いていない非発酵発泡性飲料にも泡品質における充分なビールらしさを付与し得ることがわかった。
【0067】
[製造例1(ベース液の調製)]
表4に記載の組成により酸味料を含有する調合液を調製した後、これに炭酸ガスを3.0gas volになるように加えることにより、ベース液を調製した。ベース液の原料としては、表4中に示すベーガン通商株式会社製の「50%発酵乳酸BM-G」(製品名)、扶桑化学工業株式会社の「クエン酸フソウ(無水)」(製品名)、「ヘルシャスA」(製品名)を用いた。
【0068】
【表4】

【0069】
[実施例2]
製造例1で製造したベース液に、キラヤサポニン(製品名:キラヤニンC-100、丸善製薬株式会社製)を様々な濃度で添加し、サンプル2-1?2-4を製造した。実施例1と同様にして、サンプル2-1?2-4のNIBEM値を測定し、さらに泡立ち、泡持ち、泡質、及び総合評価についての官能評価を実施した。測定結果及び評価結果を表5に示す。この結果、キラヤサポニンの含有量が0.05g/L以上のサンプル2-2?2-4では、NIBEM値が80以上であり、泡品質に優れ、外観上良好なビールらしさを有していた。
【0070】
【表5】

【0071】
[実施例3](参考例)
製造例1で製造したベース液に、カラメル色素(製品名:カラメルSP、天野実業株式会社製)を様々な濃度で添加し、サンプル3-1?3-6を製造した。サンプル3-1?3-6の430nmの吸光度を測定し、測定値から下記式(1)により色度(°EBC)を算出した。式(1)中、「C」は色度(EBC単位)を、「F」は希釈率を、「A_(430)」は430nmの吸光度を、それぞれ意味する。式(1)中の「25」は、EBC色度に換算するためのファクターである。
【0072】
式(1): C =25×F×A_(430)
【0073】
また、サンプル3-1?3-6の外観(色)について、2名の専門パネルにより4段階評価(◎:十分にビールらしい、○:やや品質は劣るがビールらしさが担保されている、△:品質にやや問題あり、×:品質に問題あり)にて官能評価を行った。測定結果及び評価結果を表6に示す。この結果、カラメル色素を0.1?0.5g/L含有させたサンプル3-2?3-6は、色度が2°EBC以上であり、ビールらしい色を有していた。
【0074】
【表6】

【0075】
[実施例4]
表7に記載の組成により、酸味料、色素、及び起泡剤を含有する調合液を調製した後、これに炭酸ガスを3.0gas volになるように加えることにより、サンプル4-1を調製した。サンプル4-1の原料としては、表7中に示すベーガン通商株式会社製の「50%発酵乳酸BM-G」(製品名)、天野実業株式会社製の「カラメルSP」(製品名)、丸善製薬株式会社製の「キラヤニンC-100」(製品名)、扶桑化学工業株式会社の「クエン酸フソウ(無水)」(製品名)、「ヘルシャスA」(製品名)を用いた。
【0076】
【表7】

【0077】
サンプル4-1のプリン体含有量を参考例1と同様にして測定したところ、アデニン、グアニン、キサンチン、及びヒポキサンチンのいずれも検出されなかったことから、サンプル4-1のプリン体含有量は検出限界値未満(0.08mg/100mL)であるとわかった。さらに、サンプル4-1の糖質含量を測定したところ、0.1g/100mLであったことがわかった(共に、財団法人日本食品分析センターにて分析した。)。
【0078】
[実施例5]
ビールに含まれる主要香気成分のうちの特に匂い強度の強い16成分(3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオール)を実施例4で製造したサンプル4-1に様々な濃度で添加し、ビールらしさについて官能評価を実施した。官能評価は、2名の専門パネルにより、サンプル4-1の評価を中心値4とした7段階評価(ビールらしさが感じられない場合を1とし、非常に強く感じられた場合を7とする。)にて行った。また、表8?10には、評価に当たり各パネルが述べたコメントも記載した。
【0079】
【表8】

【0080】
【表9】

【0081】
【表10】

【0082】
表8?10に示すように、いずれの成分も、濃度に差はあるが、低濃度で添加した場合には添加の効果が官能上わからず、サンプル4-1と変わらないが、添加濃度を高くするにつれてビールらしさが高くなり、ある濃度でピークに達し、さらに添加濃度が高くなるにつれて特有の香気が強くなりすぎてビールらしさが低下する傾向が観察された。つまり、これらの16成分のうちの少なくとも1種類を適切な濃度で含有させることにより、ビールらしさがより強く付与されることがわかった。
【0083】
[実施例6]
実施例4で製造したサンプル4-1に、前記16成分のうち、穀物様香気成分とホップ様香気成分と含硫香気成分をそれぞれ1種類ずつ添加し、実施例5と同様にしてビールらしさの官能評価を行った。具体的には、表11に示すように、穀物様香気成分として3-メチル-1-ブタノール又は4-ビニルグアイアコールを、ホップ様香気成分としてミルセン、リナロール、又はシス-3-ヘキセノールを、含硫香気成分として3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、又は2-メチル-3-フランチオールを、それぞれ実施例5でビールらしさの評価が高かった濃度で添加したサンプル6-1?6-4を調製し、ビールらしさを評価した。評価結果を表11に示す。この結果、サンプル6-1?6-4のいずれにおいても、ビールらしさが非常に高く、穀物様香気成分とホップ様香気成分と含硫香気成分を添加することにより、各香気成分を単独で添加した場合よりも、ビールらしさを非常に強く付与し得ることがわかった。
【0084】
【表11】

【0085】
[実施例7]
実施例4で製造したサンプル4-1に、前記16成分全てを、それぞれ実施例1でビールらしさの評価が高かった濃度で添加したサンプル7-1を調製し、実施例5と同様にしてビールらしさの官能評価を行った。サンプル7-1における各香気成分の濃度は、3-メチル-1-ブタノールが6000ppb、イソバレリン酸が1000ppb、γ-ノナラクトンが120ppb、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノンが80ppb、2-アセチルチアゾールが30ppb、4-ビニルグアイアコールが800ppb、2-アセチル-1-ピロリンが2.4ppb、2-プロピル-1-ピロリンが2.4ppb、ミルセンが40ppb、リナロールが160ppb、β-ダマセノンが1ppb、フェネチルアルコールが5000ppb、シス-3-ヘキセノールが2150ppb、3-メチル-2-ブテン-1-チオールが0.5ppb、メチオノールが600ppb、及び2-メチル-3-フランチオールが0.01ppbであった。評価結果を表12に示す。
サンプル7-1では、ビールらしさが非常に強く付与されており、ほぼビールと同様の官能評価が得られた。この結果、起泡剤と色素を含有するが原料として麦芽やホップを用いていない非発酵ビール様発泡性飲料に前記16成分を全て適切な濃度で含有させることにより、ビールとほぼ同等の香味を有する非発酵ビール様発泡性飲料を製造し得ることがわかった。
【0086】
【表12】

【0087】
[実施例8]
実施例4で製造したサンプル4-1に、前記16成分のうち、穀物様香気成分とホップ様香気成分と含硫香気成分をそれぞれ1種類ずつ添加し、さらにエタノールを0?1容量%含有させたサンプル8-1?8-3を調製し、実施例5と同様にしてビールらしさの官能評価を行った。香気成分は、具体的には、穀物様香気成分として3-メチル-1-ブタノールを6000ppb、ホップ様香気成分としてミルセンを40ppb、含硫香気成分として3-メチル-2-ブテン-1-チオールを0.5ppbを添加した。評価結果を表13に示す。この結果、16成分全てではなく、穀物様香気成分、ホップ様香気成分、及び含硫香気成分を少なくとも1種類ずつ添加した場合でも、エタノールをさらに添加することにより、より強くビールらしさが付与されることがわかった。
【0088】
【表13】

【0089】
[実施例9]
実施例7で製造したサンプル7-1に、苦味料として、硫酸マグネシウム、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、ナリンジン、又はクワシンを様々な濃度で添加し、ビールらしさについて官能評価を実施した。官能評価は、2名の専門パネルにより、サンプル7-1の評価を中心値4とした7段階評価(ビールらしさが感じられない場合を1とし、非常に強く感じられた場合を7とする。)にて行った。評価結果を表14に示す。この結果、いずれの苦味料を含有させた場合にも、濃度に差はあるが、低濃度では添加の効果がわからず、ベース液と変わらないが、添加濃度を高くするにつれてキレや苦味、刺激感が高まってビールらしさが高くなり、ある濃度でピークに達し、さらに添加濃度が高くなるにつれてエグ味や苦味が強くなりすぎてビールらしさが低下する傾向が観察された。つまり、前記香気成分を添加したサンプル4-1に、さらに硫酸マグネシウム、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、ナリンジン、又はクワシンの少なくとも1種類を含有させることにより、より強くビールらしさが付与されることがわかった。
【0090】
【表14】

【0091】
[実施例10]
実施例7で製造したサンプル7-1に、さらに甘味系アミノ酸であるアラニンを様々な濃度で添加し、実施例1と同様にしてビールらしさを評価した。評価結果を表14に示す。この結果、アラニンを0.05g/L以上含有させることにより、ボディ感やコクが高まり、かつ適度な甘味が付与され、ビールらしさが強くなること、ただし、添加量が高くなりすぎると、甘味が強くなりすぎてビールらしさが低下することがわかった。
【0092】
[実施例11]
実施例7で製造したサンプル7-1に、エタノールを様々な濃度で添加したサンプル11-1?11-7を調製し、外観(泡品質及び色)と香味について、2名の専門パネルにより4段階評価(◎:十分にビールらしい、○:やや品質は劣るがビールらしさが担保されている、△:品質にやや問題あり、×:品質に問題あり)にて官能評価を行った。評価結果を表15に示す。この結果、アルコール含有量を1容量%以上10容量%未満にすることにより、外観と香味のいずれもよりビールらしい非発酵ビール様発泡性飲料が製造できた。
【0093】
【表15】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらず泡持ちや色度といった外観上重要な「ビールらしさ」を保持しているため、特にビール様発泡性飲料及びその製造分野で利用が可能である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-01 
出願番号 特願2016-123044(P2016-123044)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C12G)
P 1 651・ 536- YAA (C12G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 戸来 幸男  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 松下 聡
莊司 英史
登録日 2018-02-09 
登録番号 特許第6284581号(P6284581)
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 志賀 正武  
代理人 志賀 正武  

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