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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特174条1項  C09J
管理番号 1351432
異議申立番号 異議2017-700419  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-26 
確定日 2019-04-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6014926号発明「粘着剤および粘着テープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6014926号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?16〕について訂正することを認める。 特許第6014926号の請求項1、2、5?13、16に係る特許を維持する。 特許第6014926号の請求項3、4、14、15に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6014926号の請求項1?16に係る特許についての出願は、出願人東洋インキSCホールディングス株式会社により、平成28年3月16日になされた出願であり(優先権主張 平成27年3月20日、日本国)、平成28年10月7日に特許権者を東洋インキSCホールディングス株式会社及びトーヨーケム株式会社として(以下、単に「特許権者」という。)特許権の設定登録がなされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成29年4月26日に特許異議申立人西村太一(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 8月25日付け:取消理由通知
同年10月31日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年11月 8日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
同年12月14日 :意見書の提出(申立人)
平成30年 2月28日付け:取消理由通知、意見書副本の送付通知
同年 5月 1日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 同月10日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
同年 6月12日 :意見書の提出(申立人)
同年 同月29日付け:訂正拒絶理由通知、意見書副本の送付通知
同年 7月30日 :手続補正書、意見書の提出
同年 9月 5日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年11月 7日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 同月 9日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
平成31年 1月18日付け:訂正拒絶理由通知
同年 2月15日 :手続補正書、意見書の提出

なお、平成30年11月9日付けで、当審から申立人に訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を送付し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、指定期間内に申立人から意見書は提出されなかった。
また、平成29年10月31日にした訂正の請求及び平成30年5月1日にした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

2.訂正請求について
(1)訂正の内容
平成30年11月7日に提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正事項は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1に「ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.9のモル比で」とあるのを、「ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.8のモル比で」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、5?13及び16も同様に訂正する。

イ 訂正事項2 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1に「ポリエーテルポリオールを含む粘着剤。」とあるのを、「ポリエーテルポリオールを含み、
前記多官能ポリオール(B)(但し、前記ポリオール(a)を除く。)は、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを、前記ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して2?8重量部含む粘着剤。」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、5?13及び16も同様に訂正する。

ウ 訂正事項3 請求項2、5?13及び16に係る訂正
特許請求の範囲の請求項2に「前記ポリエーテルポリオールが、」とあるのを、「前記ポリオール(a)に含まれる前記ポリエーテルポリオールが、」に訂正する。
請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?13及び16も同様に訂正する。

エ 訂正事項4 請求項3、4、14及び15に係る訂正
特許請求の範囲の請求項3、4、14及び15を削除する。

オ 訂正事項5 請求項5?13及び16に係る訂正
特許請求の範囲の請求項5に「数平均分子量1,000?5,000のポリエーテルポリオール」と記載されているのを「数平均分子量1,000?5,000の、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオール」に訂正し、かつ、「請求項1?4いずれか1項に記載の粘着剤」と記載されているのを、「請求項1または2に記載の粘着剤」に訂正する。
請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6?13及び16も同様に訂正する。

カ 訂正事項6 請求項6?13及び16に係る訂正
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5いずれか1項に記載の粘着剤」と記載されているのを、「請求項1、2または5に記載の粘着剤」に訂正する。
請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7?13及び16も同様に訂正する。

キ 訂正事項7 請求項7?13及び16に係る訂正
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6いずれか1項に記載の粘着剤」と記載されているのを、「請求項1、2、5または6いずれか1項に記載の粘着剤」に訂正する。
請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8?13及び16も同様に訂正する。

ク 訂正事項8 請求項8?13及び16に係る訂正
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7いずれか1項に記載の粘着剤」と記載されているのを、「請求項1、2、または5?7いずれか1項に記載の粘着剤」に訂正する。
請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9?13及び16も同様に訂正する。

ケ 訂正事項9 請求項9?13及び16に係る訂正
特許請求の範囲の請求項9に「前記脂肪酸エステル(D)が、脂肪酸エステル(D)は、」と記載されているのを、「前記脂肪酸エステル(D)が、」に訂正し、かつ、「請求項1?8いずれか1項に記載の粘着剤」と記載されているのを、「請求項1、2、または5?8いずれか1項に記載の粘着剤」に訂正する。
請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10?13及び16も同様に訂正する。

コ 訂正事項10 請求項11?13及び16に係る訂正
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1?10いずれか1項に記載の粘着剤」と記載されているのを、「請求項1、2、または5?10いずれか1項に記載の粘着剤」に訂正する。
請求項11の記載を直接的又は間接的に引用する請求項12、13及び16も同様に訂正する。

サ 訂正事項11 請求項12、13及び16に係る訂正
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1?11いずれか1項に記載の粘着剤」と記載されているのを、「請求項1、2、または5?11いずれか1項に記載の粘着剤」に訂正する。
請求項12の記載を直接的又は間接的に引用する請求項13及び16も同様に訂正する。

シ 訂正事項12 請求項13及び16に係る訂正
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1?12いずれか1項に記載の粘着剤」と記載されているのを、「請求項1、2、または5?12いずれか1項に記載の粘着剤」に訂正する。
請求項13の記載を引用する請求項16も同様に訂正する。

ス 訂正事項13 請求項16に係る訂正
特許請求の範囲の16に「請求項1?15いずれか1項に記載の粘着剤」と記載されているのを、「請求項1、2、または5?13いずれか1項に記載の粘着剤」に訂正する。

セ 訂正事項14 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正
願書に添付した明細書の段落[0069]、段落[0070]、及び段落[0083]に記載された「重量平均分子量」(ただし、段落[0083]の「重量平均分子量(Mw)を除く。)を「分子量」に訂正する。

ソ 訂正事項15 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正
願書に添付した明細書の段落[0081]に記載された「ポリエーテルポリオール(a-5)850重量部」を、「ポリエーテルポリオール(a-6)850重量部」に訂正する。

タ 訂正事項16 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正
願書に添付した明細書の段落[0082]に記載された「合成例2?16」を「合成例2?8、11?12」に訂正する。

チ 訂正事項17 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正
願書に添付した明細書の段落[0084][表1]において、合成例9、10、13?16を削除する。

ツ 訂正事項18 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正
願書に添付した明細書の段落[0088]に記載された「合成例1のウレタンプレポリマー溶液100重量部、多官能ポリオール(B-1)2重量部、イソシアネート硬化剤(C-1)を8.0重量部、脂肪酸エステル(D-1)を20.0重量部」を、「合成例1のウレタンプレポリマー100重量部、多官能ポリオール(B-2)2重量部、イソシアネート硬化剤(C-1)を15重量部、脂肪酸エステル(D-1)を25.0重量部」に訂正する。

テ 訂正事項19 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正
願書に添付した明細書の段落[0089]に記載された「(実施例2?11、比較例1?7)原料を表2に記載された種類・量に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で行うことで、それぞれ実施例2?13ならびに比較例1?5の粘着テープを得た。」を、「(実施例2?5、7及び8、参考例6及び11?13、比較例1)原料を表2に記載された種類・量に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で行うことで、それぞれ実施例2?5、7及び8、参考例6及び11?13ならびに比較例1の粘着テープを得た。」に訂正する。
また、段落[0090]に記載された「(比較例8)」を「(比較例6)」に訂正する。

ト 訂正事項20 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正
願書に添付した明細書の段落[0097][表2]において、実施例9及び10を削除し、実施例6を参考例6に訂正する。
また、段落[0098][表3]において、実施例11?13を参考例11?13に訂正し、比較例2?5を削除する。

(2)補正の内容
平成31年2月15日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)による補正事項は、以下のとおりである。
ア 訂正事項19の補正
本件訂正請求書における「7 請求の理由」(2)の「テ 訂正事項19」において、
「『(実施例2?5、7及び8、参考例6及び11?13、比較例1)原料を表2に記載された種類・量に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で行うことで、それぞれ実施例2?5、7及び8、参考例6及び11?13ならびに比較例1の粘着テープを得た。』に訂正する。」とあるのを、
「『(実施例2?5、7、8、及び11?13、参考例6、比較例1)原料を表2に記載された種類・量に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で行うことで、それぞれ実施例2?5、7、8、及び11?13、参考例6ならびに比較例1の粘着テープを得た。』に訂正する。」と補正する。

イ 訂正事項20の補正(その1)
本件訂正請求書における「7 請求の理由」(2)の「ト 訂正事項20」において、
「また、段落[0098][表3]において、実施例11?13を参考例11?13に訂正し、比較例2?5を削除する。」とあるのを、
「また、段落[0098][表3]において、比較例2?5を削除する。」と補正する。

ウ 訂正事項20の補正(その2)
本件訂正請求書における「7 請求の理由」(3)のイの「(ト)訂正事項20」の「a 訂正の目的について」において、
「訂正事項20は、訂正事項17及び19との整合性を図るために、実施例9及び10並びに比較例2?5を削除し、かつ、実施例6及び11?13をそれぞれ、参考例6及び11?13に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。」とあるのを、
「訂正事項20は、訂正事項17及び19との整合性を図るために、実施例9及び10並びに比較例2?5を削除し、かつ、実施例6を参考例6に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。」と補正する。

(3)本件補正の適否
ア 訂正事項19の補正について
上記2.(1)テ「訂正事項19」に記載したとおり、本件訂正請求書の訂正事項19は、訂正前の「実施例」11?13を「参考例」11?13とする訂正を含むものであるところ、上記2.(2)ア「訂正事項19の補正」は、当該訂正を行わないこととする補正である。かかる補正は、本件訂正請求書の訂正事項の一部を削除する補正に該当するから、本件訂正請求書の要旨を変更するものではない。

イ 訂正事項20の補正(その1)及び同(その2)について
上記2.(1)ト「訂正事項20」に記載したとおり、本件訂正請求書の訂正事項20は、訂正前の「実施例」11?13を「参考例」11?13とする訂正を含むものであるところ、上記2.(2)イ「訂正事項20の補正(その1)」及び同ウ「訂正事項20の補正(その2)」は、いずれも当該訂正を行わないこととする補正である。かかる補正は、本件訂正請求書の訂正事項の一部を削除する補正に該当するから、本件訂正請求書の要旨を変更するものではない。

ウ 本件補正の適否の判断
上記のとおり、本件補正の内容は、いずれも本件訂正請求書の要旨を変更するものではないから、本件補正は特許法第120条の5第9項において準用する同法第131条の2第1項の規定に適合する適法な補正である。

エ 本件補正により補正された訂正事項19及び20
上記のとおり、本件補正は適法になされたものであるから、本件補正により補正された、本件訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正(補正後)」と記載することがある。)の訂正事項19及び20は、具体的には以下の事項をその訂正内容とするものと認められる。
「テ 訂正事項19(補正後) 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正
願書に添付した明細書の段落[0089]に記載された「(実施例2?11、比較例1?7)原料を表2に記載された種類・量に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で行うことで、それぞれ実施例2?13ならびに比較例1?5の粘着テープを得た。」を、「(実施例2?5、7、8、及び11?13、参考例6、比較例1)原料を表2に記載された種類・量に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で行うことで、それぞれ実施例2?5、7、8、及び11?13、参考例6ならびに比較例1の粘着テープを得た。」に訂正する。
また、段落[0090]に記載された「(比較例8)」を「(比較例6)」に訂正する。」

「ト 訂正事項20(補正後) 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正
願書に添付した明細書の段落[0097][表2]において、実施例9及び10を削除し、実施例6を参考例6に訂正する。
また、段落[0098][表3]において、比較例2?5を削除する。」

(4)本件訂正(補正後)の適否
上記2.(1)「訂正の内容」に記載した「ア 訂正事項1 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正」?「ツ 訂正事項18 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正」及び上記2.(3)エ「本件補正により補正された訂正事項19及び20」に記載した「テ 訂正事項19(補正後) 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正」及び「ト 訂正事項20(補正後) 請求項1、2、5?13及び16に係る訂正」に記載した訂正内容に基づいて、本件訂正(補正後)の適否を検討する。
なお、訂正事項1?20(補正後)に係る訂正前の請求項1?16について、請求項2?16は請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあり、訂正後の請求項2、5?13、16は訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正され、訂正後の請求項3、4、14、15は削除されているから、本件訂正(補正後)は一群の請求項1?16について請求されたものである。

ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.9のモル比で反応」させるという発明特定事項において、本件明細書の[0084][表1]に記載された合成例5におけるNCO/OHのモル比(0.8)に基づいて、NCO/OHのモル比を「0.5?0.8」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項1は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(イ)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載された「多官能ポリオール(B)」という発明特定事項について、本件明細書の[0046]における「多官能ポリオール(B)は、3以上の水酸基を有するポリオール(a)を使用することが好ましい」との記載、[0047]における「多官能ポリオール(B)は、ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して、2?30重量部含むことが好ましく」との記載、及び[0097][表2]に記載された実施例1?5において、合成例1?5のウレタンプレポリマー100重量部に対し、ポリオール(B-2)又は(B-3)(いずれも、[0085]の記載から官能基数3のポリエーテルポリオールであることが明らかである。)が2?8重量部の割合で配合されていること等に基づいて、「前記多官能ポリオール(B)(但し、前記ポリオール(a)を除く。)は、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを、前記ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して2?8重量部含む」という発明特定事項を直列的に付加することにより減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項2は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(ウ)訂正事項3について
訂正前の請求項2には、「前記ポリエーテルポリオールが」と記載されていたところ、請求項2が引用する訂正前の請求項1には、「前記ポリオール(a)は、少なくともポリエーテルポリオールを含み」と記載されていたことから、訂正前の請求項2に記載された「ポリエーテルポリオール」が訂正前の請求項1に記載された「ポリオール(a)」に含まれる「ポリエーテルポリオール」を指していることは明らかであったが、上記訂正事項2により、訂正前の請求項1に記載された「多官能ポリオール(B)」についても「多官能ポリオール(B)(但し、前記ポリオール(a)を除く。)は、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを・・・含む」ことが明らかにされたため、訂正後の請求項2における「ポリエーテルポリオール」が、「ポリオール(a)」に含まれるものか「多官能ポリオール(B)」に含まれるものかが不明瞭になるおそれがあった。
訂正事項3は、訂正前の請求項2における「前記ポリエーテルポリオールが」という記載を、「前記ポリオール(a)に含まれる前記ポリエーテルポリオールが、」と訂正することにより、訂正後の請求項2における「ポリエーテルポリオール」が、訂正後の請求項1における「ポリオール(a)」に含まれるものであり、訂正前と同じものを指していることを明確にするためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項3は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(エ)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項3、4、14及び15を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項4は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(オ)訂正事項5について
訂正前の請求項5には、「前記多官能ポリオール(B)が、数平均分子量1,000?5,000のポリエーテルポリオールを含む」と記載されており、請求項5が引用する訂正前の請求項1においては、「多官能ポリオール(B)」に含まれる成分について特段の事項は記載されていなかったが、上記訂正事項2により、訂正後の請求項1における「多官能ポリオール(B)」が「前記多官能ポリオール(B)(但し、前記ポリオール(a)を除く。)は、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを、前記ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して2?8重量部含む」ものに減縮されることに伴い、訂正後の請求項5における「ポリエーテルポリオール」が、訂正後の請求項1に記載された「3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオール」を意味するものか不明瞭になるおそれがあった。
訂正事項5のうち、訂正前の請求項5に記載されていた「ポリエーテルポリオール」を「3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオール」とする訂正は、上記訂正事項2による請求項1の減縮に合わせて、訂正前の請求項5に記載されていた「ポリエーテルポリオール」を減縮することにより、記載を整合させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、上記訂正は、上記2.(4)ア(イ)「訂正事項2について」に記載したように、本件明細書の[0046]、[0047]、[0097][表2]及び[0085]の記載等に基づくものといえるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、訂正事項5のうち、訂正前の請求項5における「請求項1?4いずれか1項に記載の粘着剤」という記載を「請求項1または2に記載の粘着剤」とする訂正は、上記訂正事項4により請求項3及び4が削除されることに伴い、請求項5における引用請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
加えて、上記訂正事項5のいずれの訂正も、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(カ)訂正事項6?8及び10?13について
訂正事項6?8及び10?13は、それぞれ訂正前の請求項6?8、11?13及び16において、上記訂正事項4により請求項3、4、14及び15が削除されることに伴い、訂正後の各請求項における引用請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項6?8及び10?13は、いずれも請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項6?8及び10?13は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(キ)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項9に「前記脂肪酸エステル(D)が、脂肪酸エステル(D)は、」という、文言の重複した明らかな誤記を含む記載があったものを、重複を排した「前記脂肪酸エステル(D)が、」という本来の記載に訂正するものであり、訂正前の記載が訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められることは明らかであるから、誤記の訂正を目的とするものといえ、かつ、当該訂正が、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。
さらに、訂正事項9のうち、訂正前の請求項9における「請求項1?8いずれか1項に記載の粘着剤」という記載を「請求項1、2、または5?8いずれか1項に記載の粘着剤」とする訂正は、上記訂正事項4により請求項3及び4が削除されることに伴い、請求項9における引用請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
加えて、上記訂正事項9のいずれの訂正も、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正及び同第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(ク)訂正事項14について
訂正前の本件明細書の[0069]には、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定した重量平均分子量の排出曲線」と記載されていたが、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィ」による測定は、通常、標準ポリマー換算の「分子量」(溶出時間)と濃度分率の変化を示す排出曲線を得るものであるのに対し(例えば、甲第5号証のp.5?6等を参照。)、「重量平均分子量」という用語は、通常、「分子量」に分布がある場合に重量基準でその存在分布を踏まえて平均化して分子量を求めたものであるから(例えば、甲第5号証のp.4等を参照。)、上記[0069]における「重量平均分子量の排出曲線」という記載では、技術用語としては適切な言い回しではなく、誤記であることが明らかであった。
また、訂正前の本件明細書の[0070]及び[0083]に記載された「重量平均分子量」という用語も、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィ」の測定で得られたものとして記載されている点で、上記[0069]における記載と同様の理由から、技術用語としては適切な言い回しではなく、誤記であることが明らかであった([0083]の「重量平均分子量(Mw)」という記載を除く。)。
訂正事項14は、上記各段落において誤用されていることが明らかな「重量平均分子量」という技術用語(ただし、段落[0083]の「重量平均分子量(Mw)を除く。)を、本来その意であることが願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲の記載等から明らかな「分子量」という技術用語に正すものであり、訂正前の記載が訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められることは明らかであるから、誤記の訂正を目的とするものといえ、かつ、当該訂正が、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。
また、上記訂正事項14のいずれの訂正も、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項14は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(ケ)訂正事項15について
訂正前の本件明細書の[0081]の「合成例1」には、原料ポリオールとして「ポリエステルポリオール(a-1)50重量部、ポリエーテルポリオール(a-5)850重量部」を用いたことが記載されていた。
また、訂正前の本件明細書の[0084][表1]には、合成例1?8で用いられた原料の選択肢が記載されていたが、「合成例1」の原料ポリオールとしては「ポリエステルポリオール(a-1)」50重量部と、「ポリエーテルポリオール(a-6)」850重量部とを用いたことが記載されていたことから、上記[0081]の記載との間で「ポリエーテルポリオール」の種類が一致しておらず(「(a-5)」又は「(a-6)」)、いずれかの記載が誤記であったことが明らかである。
ここで、訂正前の本件明細書の[0084][表1]を参照すると、合成例1?7は、いずれも「ポリエーテルポリオール(a-6)」が共通して配合されたものであり、組み合わせる他のポリオール原料の種類、配合量比及びNCO/OH比を変化させることにより、生成物の重量平均分子量を変化させた一群をなす具体例であると解することができるから、当業者であれば[0084][表1]に記載された「ポリエーテルポリオール(a-6)」の記載が正しい原料の記載であったと容易に理解することができる。
そうすると、訂正事項15は、訂正前の本件明細書の[0081]における「ポリエーテルポリオール(a-5)」という誤記を、訂正前の本件明細書の[0084][表1]の記載に基づいて、本来その意であることが明らかな記載である「ポリエーテルポリオール(a-6)」に訂正するものであり、訂正前の記載が訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められることは明らかであるから、誤記の訂正を目的とするものといえる。
また、訂正前の本件明細書の[0084][表1]の記載は、願書に最初に添付された明細書の[0084][表1]の記載と同じであるから、訂正事項15が願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。
さらに、訂正事項15は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項15は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(コ)訂正事項16について
訂正事項16は、下記2.(4)ア(サ)「訂正事項17について」に記載したとおり、訂正前の本件明細書の[0084][表1]に記載されていた合成例9、10及び13?16が削除されることに合わせて、訂正前の本件明細書の[0082]における「合成例2?16」という記載を、合成例9、10及び13?16を削除した「合成例2?8、11?12」に訂正することにより、記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、下記2.(4)ア(サ)「訂正事項17について」に記載したように、「訂正事項17」は、正しい記載をそのまま残し、誤記を含むと解される記載を削除するものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるといえるから、訂正事項16も同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
さらに、訂正事項16は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項16は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(サ)訂正事項17について
訂正前の本件明細書の[0084][表1]に記載された「合成例7」と「合成例9」とは、同じ原料を同じ配合量比で用いて反応させたにもかかわらず、生成物の分子量分散度及び重量平均分子量が異なっていることから、いずれかが誤記を含むことが明らかであり、また、同様の理由により、上記[表1]に記載された「合成例8」と「合成例10」、「合成例14」?「合成例16」も、いずれかが誤記を含むことが明らかであった。また、上記[表1]に記載された「合成例12」と「合成例13」とは、いずれも同じ原料ポリオールを同じ配合量比で用いており、NCO/OH比を異ならせた例であるが、分子量分散度が一致し、重量平均分子量は異なる結果が得られており、そのような一部が一致し一部が異なる結果が得られた理由が明らかでなく、いずれかが誤記を含むことが明らかであった。
ここで、平成29年10月31日に提出された意見書に添付された実験成績証明書(3)を参酌すると、上記「合成例7」及び「合成例8」の記載が正しく、「合成例9」及び「合成例10」の記載が誤記を含むものであったことを理解できる。
また、「合成例14」?「合成例16」は、いずれが正しい記載であるかを理解することができない。
さらに、平成30年11月7日に提出された意見書に添付された実験成績証明書(4)を参酌すると、上記「合成例12」の記載は正しかったことを理解できるが、「合成例13」については正しい記載であったことを理解することができない。
そうすると、訂正事項17は、訂正前の本件明細書の[0084][表1]に記載されていた上記各群の合成例のうち、正しい記載であったことが明らかとなった合成例7、8及び12の記載をそのまま残し、誤記を含むものであったと解される他の合成例9、10及び13?16の記載を削除することにより、[表1]の記載を誤記を含まない本来の記載に訂正するものであり、訂正前の記載が訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められることも明らかであるから、誤記の訂正を目的とするものといえる。
また、訂正前の本件明細書の[0084][表1]の記載は、願書に最初に添付された明細書の[0084][表1]の記載と同じであるから、訂正事項17が願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。
さらに、訂正事項17は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項17は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(シ)訂正事項18について
訂正前の本件明細書の[0088]の「実施例1」には、原料として「合成例1のウレタンプレポリマー溶液100重量部、多官能ポリオール(B-1)2重量部、イソシアネート硬化剤(C-1)を8.0重量部、脂肪酸エステル(D-1)を20.0重量部」を用いたことが記載されていた。
また、訂正前の本件明細書の[0097][表2]には、実施例1?10で用いられた原料の選択肢が記載されていたが、「実施例1」の原料としては「合成例1」100重量部、「ポリオール(B-2)」2重量部、イソシアネート硬化剤(C-1)を15重量部、脂肪酸エステル(D-1)を25.0重量部」を用いたことが記載されていたことから、上記[0088]の記載との間で「(多官能)ポリオール」の種類、「イゾシアネート硬化剤(C-1)」の配合割合、「脂肪酸エステル(D-1)」の配合割合が一致しておらず、いずれかの記載が誤記であったことが明らかである。
さらに、訂正前の本件明細書の[0047]には、「多官能ポリオール(B)は、ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して、2?30重量部含むことが好ましく」という、ウレタンプレポリマー(固形分)100重量部を基準とした他成分の配合割合について記載されていたこと等を勘案すると、上記[表2]における「合成例1」100重量部という記載は、合成例1のウレタンプレポリマー(固形分)100重量部を意味するものと解することもでき、この場合、訂正前の[0088]に記載された「合成例1のウレタンプレポリマー溶液100重量部」という溶液基準の記載は誤記であったといえる。
ここで、平成29年10月31日に提出された意見書に添付された実験成績証明書(2)を参酌すると、上記[表2]の記載が正しく、[0088]の記載が誤記を含むものであったことを理解でき、また、訂正前の[0088]に記載された「合成例1のウレタンプレポリマー溶液100重量部」という記載は、「合成例1のウレタンプレポリマー100重量部」の誤記であったことも理解できる。
そうすると、訂正事項18は、訂正前の本件明細書の[0088]の「実施例1」に含まれていた誤記を、訂正前の[0097][表2]及び[0047]等の記載に基づいて、本来の正しい記載に訂正するものであり、上記実験成績証明書(2)の記載を参酌すると、訂正前の記載が訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるから、誤記の訂正を目的とするものといえる。
また、訂正前の本件明細書の[0097][表2]の記載は、願書に最初に添付された明細書の[0097][表2]の記載と同じであるから、訂正事項18が願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。
さらに、訂正事項18は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項18は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(ス)訂正事項19(補正後)について
訂正事項19(補正後)は、下記2.(4)ア(セ)「訂正事項20(補正後)について」に記載したとおり、訂正前の本件明細書の[0097][表2]に記載されていた実施例9及び10が削除され、訂正前の本件明細書の[0098][表3]に記載されていた比較例2?5が削除されることに合わせて、訂正前の本件明細書の[0089]に記載されていた「実施例2?13ならびに比較例1?5」という記載から、実施例9、10及び比較例2?5を削除することにより、記載を整合させ、さらに、訂正前の本件明細書の[0089]に記載されていた「(実施例2?11、比較例1?7)」という見出しの記載も、同様に訂正して記載を整合させるものである。
また、訂正事項19(補正後)は、上記訂正事項1により、訂正後の請求項1における「ウレタンプレポリマー(A)」が、「ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.8のモル比で反応させた」ものに減縮されたことに伴い、訂正前の本件明細書の[0084][表1]に記載されていた「合成例6」(NCO/OH比=0.9)が、訂正後の請求項1に係る発明の範囲外の例となり、合わせて訂正前の本件明細書の[0097][表2]における「合成例6」を用いた「実施例6」も、訂正後の請求項1に係る発明の範囲外の例となったことを受けて、訂正前の本件明細書の[0089]に記載されていた「実施例2?13ならびに比較例1?5」という記載のうち、実施例6を「参考例6」と訂正することにより、記載を整合させ、さらに、訂正前の本件明細書の[0089]に記載されていた「(実施例2?11、比較例1?7)」という見出しの記載も、同様に訂正して記載を整合させるものである。
さらに、訂正事項19(補正後)の上記訂正は、いずれも明細書内の記載の整合を図るための訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
加えて、訂正事項19(補正後)は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項19は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(セ)訂正事項20(補正後)について
訂正事項20(補正後)は、上記訂正事項17により、訂正前の本件明細書の[0084][表1]に記載されていた合成例9、10及び13?16が削除されることに合わせて、訂正前の本件明細書の[0097][表2]において合成例9又は10が用いられた実施例9及び10を削除し、訂正前の本件明細書の[0098][表3]において合成例13?16が用いられた比較例2?5を削除することにより、記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項20(補正後)は、上記訂正事項19(補正後)により、訂正前の本件明細書の[0089]に記載されていた「実施例6」が「参考例6」に訂正されることに合わせて、訂正前の本件明細書の[0097][表2]における「実施例6」という記載を「参考例6」に訂正することにより、記載を整合させるものであるから、明瞭で無い記載の釈明を目的とするものである。
さらに、上記2.(4)ア(サ)「訂正事項17について」及び同(ス)「訂正事項19(補正後)について」に記載したように、訂正事項17及び訂正事項19(補正後)の訂正は、いずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるといえるから、訂正事項20(補正後)も同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
加えて、訂正事項20は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項20は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1?16に対して特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1?16に係る訂正事項1?20(補正後)については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

ウ 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正(補正後)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1?16〕について訂正を認める。

3.本件発明について
本件訂正(補正後)により訂正された特許請求の範囲の請求項1?16に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明16」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
ウレタンプレポリマー(A)、多官能ポリオール(B)、イソシアネート硬化剤(C)を含み、
前記ウレタンプレポリマー(A)は、ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.8のモル比で反応させた、分子量分散度が4?12のポリマーである粘着剤であって、
前記ポリオール(a)は、少なくともポリエーテルポリオールを含み、前記ポリエーテルポリオールは、少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを含み、
前記多官能ポリオール(B)(但し、前記ポリオール(a)を除く。)は、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを、前記ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して2?8重量部含む粘着剤。
[請求項2]
前記ポリオール(a)に含まれる前記ポリエーテルポリオールが、数平均分子量1,000?5,000のポリエーテルポリオールを含む請求項1に記載の粘着剤。
[請求項3]
(削除)
[請求項4]
(削除)
[請求項5]
前記多官能ポリオール(B)が、数平均分子量1,000?5,000の、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを含む請求項1または2に記載の粘着剤。
[請求項6]
前記ポリオール(a)が、2種類以上のポリオールを含む請求項1、2または5に記載の粘着剤。
[請求項7]
前記ポリオール(a)が、ポリエステルポリオールまたは2つの水酸基を有するポリエーテルポリオールを含む請求項1、2、5または6いずれか1項に記載の粘着剤。
[請求項8]
前記ポリエーテルポリオールを、ポリオール(a)中に20?80モル%含む請求項1、2、または5?7いずれか1項に記載の粘着剤。
[請求項9]
さらに、脂肪酸エステル(D)を含み、前記脂肪酸エステル(D)が、炭素数が4?18の酸と炭素数が20以下のアルコールで構成されるエステルである請求項1、2、または5?8いずれか1項に記載の粘着剤。
[請求項10]
前記脂肪酸エステル(D)の分子量が、200?700である請求項9に記載の粘着剤。
[請求項11]
前記ポリイソシアネート(b)が、脂肪族ポリイソシアネートである請求項1、2、または5?10いずれか1項に記載の粘着剤。
[請求項12]
さらに、硬化促進剤および硬化遅延剤のうち1種以上を含むことを特徴とする請求項1、2、または5?11いずれか1項に記載の粘着剤。
[請求項13]
さらに酸化防止剤を含むことを特徴とする請求項1、2、または5?12いずれか1項に記載の粘着剤。
[請求項14]
(削除)
[請求項15]
(削除)
[請求項16]
基材と、請求項1、2、または5?13いずれか1項に記載の粘着剤から形成してなる粘着剤層とを備えた粘着テープ。」

4.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1?16に係る特許に対して平成30年9月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告、理由1?理由3)の要旨は次のとおりである。
なお、各引用文献は、下記5.(3)ア「引用文献及びその記載事項」に記載したとおりである。
理由1(サポート要件)
本件の訂正前の請求項1、2、6?14、16(平成30年7月30日に提出された手続補正書により補正された、平成30年5月1日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載されたもの。以下同じ。)に係る特許は、下記(1)?(3)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)「多官能ポリオール(B)」を別途添加する場合について
(2)「多官能ポリオール(B)」を別途添加せず、未反応ポリオール(a)を「多官能ポリオール(B)」とする場合について
(3)未反応ポリオール(a)の含有量の測定方法について

理由2(実施可能要件)
本件の訂正前の請求項1、2、6?14、16に係る特許は、下記(1)?(3)の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)未反応ポリオール(a)の含有量について
(2)「粘着剤をゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定した分子量の排出曲線において、分子量1万を境界として高分子量側に一つのピーク、かつ低分子量側に一つのピークを有する」ことについて
(3)「分子量分散度が4?12のポリマー」について

理由3(進歩性)
本件特許の訂正前の請求項1、2、6?14、16に係る発明は、いずれも下記の引用文献1又は2に記載された発明、引用文献1、2に記載された事項、及び、周知技術(引用文献3、4)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

5.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての判断
(1)理由1(サポート要件)について
ア 本件発明1について
本件発明1は、上記3.「本件発明について」の[請求項1]に記載された事項により特定されるものである。

なお、取消理由通知(決定の予告)の対象となった本件の請求項1に係る発明(平成30年5月1日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1)は、以下の事項により特定されるものであったところ、本件訂正(補正後)により訂正された本件発明1においては、「前記多官能ポリオール(B)は、前記ウレタンプレポリマー(A)の合成で残存した未反応ポリオール(a)を含んでいてもよく、」という発明特定事項は削除され、ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対する多官能ポリオール(B)の割合については、「4?20重量部含む」から「3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを・・・2?8重量部含む」に訂正されている。
「[請求項1](訂正前)
ウレタンプレポリマー(A)、多官能ポリオール(B)、イソシアネート硬化剤(C)を含み、
前記ウレタンプレポリマー(A)は、ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.8のモル比で反応させた、分子量分散度が4?12のポリマーである粘着剤であって、前記ポリオール(a)は、少なくともポリエーテルポリオールを含み、前記ポリエーテルポリオールは、少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを含み、
前記多官能ポリオール(B)は、前記ウレタンプレポリマー(A)の合成で残存した未反応ポリオール(a)を含んでいてもよく、
前記多官能ポリオール(B)が、数平均分子量1,000?5,000の、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを含み、かつ、前記多官能ポリオール(B)を、前記ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して、4?20重量部含む粘着剤。」

イ 本件明細書に記載された事項
本件訂正(補正後)により訂正された本件明細書(以下、単に「本件明細書」ということがある。)には以下の事項が記載されている。
「[発明が解決しようとする課題]
[0006]
しかし、従来の粘着剤のうちアクリル粘着剤は、平坦面に対する再剥離は可能であったが、例えばガラス面等の部材に対する濡れ性が低く、粘着界面に気泡を巻き込み易いため表面を保護し切れない問題があった。また、アクリル粘着剤の粘着力を高く設定して湾曲部(曲面部)への密着性を改善すると、糊残りの汚染等の再剥離性が低下し易い問題があった。また、ウレタン粘着剤は、ガラス面等の部材に対する濡れ性は得られたが、湾曲面に対する密着性が低く経時で粘着テープとガラス面との間に浮きや剥がれが生じる問題があった。またウレタン粘着剤はアクリル粘着剤よりも分子量が低いことから加工性に乏しい問題もあった。
[0007]
本発明は、例えば、ガラス等の被保護部材に対する濡れ性および曲面に対する密着性および加工性が良好で、再剥離性が良好な粘着テープの粘着剤層を形成できる粘着剤の提供を目的とする。」

「[0015]
ポリオール(a)は、少なくとも2つ以上の水酸基を有する公知のポリオールが用いられる。例えば、ポリアクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ひまし油系ポリオール等が挙げられる。これらの中でも、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオールが好ましい。なお、ポリオールを2種類以上併用すると分子量分散度の調整が容易になる。
・・・
[0018]
ポリエーテルポリオールは、例えば水、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の低分子量ポリオールを開始剤として使用し、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン等のオキシラン化合物を重合させる等の公知の合成法で得ることができる。このように得られたポリエーテルポリオールは、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が好ましい。
ポリエーテルポリオールの分子量は、任意の分子量を選択できるところ、数平均分子量1,000?5,000が好ましい。
[0019]
また、本発明では必要に応じてポリオール(a)の一部を他の化合物に置き換えて使用できる。例えばエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルペンタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のグリコール類、エチレンジアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン等の多価アミン類に置き換えて併用することができる。
[0020]
ポリエーテルポリオールは、2つの水酸基を有するポリオールが好ましいところ、1分子中に少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを一部用いることにより、これにより粘着力と再剥離性のバランスを取リ易くなる。
3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを使用する場合、その数平均分子量は1,000?5,000が好ましく、2,000?5,000がより好ましい。数平均分子量を所定の範囲にすることでウレタンプレポリマー(A)の合成時に過不足無い反応速度が得られ、その凝集力が向上する。
・・・
[0025]
ポリオール(a)は、単独または2種類以上を併用できるところ、ポリオール(a)を2種類以上併用することが好ましい。これによりウレタンプレポリマー(A)の分子量分散度を調整し易くなることで、凝集力の調整も容易になるため、粘着力および濡れ性をより向上できる。ポリオール(a)を併用する場合、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオールのうち2種以上を使用することが好ましい。また、併用する場合、ポリエステルポリオールは、ポリオール(a)中に10?90モル%含むことが好ましい。同様にポリエーテルポリオールは、ポリオール(a)中に20?80モル%含むことが好ましい。同様にポリカーボネートポリオールは、ポリオール(a)中に5?50モル%含むことが好ましい。同様にポリカプロラクトンポリオールは、ポリオール(a)中に5?50モル%含むことが好ましい。」

「[0046]
本発明において多官能ポリオール(B)は、ウレタンプレポリマー(A)とともにイソシアネート硬化剤(C)と反応して、粘着剤層の架橋構造の中で架橋密度の高いセグメントを形成する。この架橋密度の高いセグメントは、ウレタンプレポリマー(A)との相乗効果により、粘着剤層の応力緩和が優れるため被着体へ密着しつつ粘着力を高め、再剥離性向上と、曲面部での密着力向上とを高いレベル両立する。
多官能ポリオール(B)は、既に説明したポリオール(a)を使用できる。多官能ポリオール(B)の粘着剤への導入は、別途添加することが好ましい。または、ウレタンプレポリマー(A)の合成で残存した未反応のポリオール(a)を多官能ポリオール(B)とすることもできる。
多官能ポリオール(B)は、3以上の水酸基を有するポリオール(a)を使用することが好ましい。
[0047]
多官能ポリオール(B)は、ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して、2?30重量部含むことが好ましく、4?20重量部がより好ましい。多官能ポリオール(B)を2?30重量部含むことで架橋構造中に架橋密度の高いセグメントの割合を適切に調整できるため粘着力の向上、および粘着剤層の透明性がより向上する。」

「[0077]
本発明の粘着テープは、ディスプレイやガラス等の傷つき易い部材の製造時や運搬時の表面保護用途、電子部品製造時の搬送用途で好ましく使用できるところ、粘着テープとして一般的な用途に広く使用できる。」

「[実施例]
[0078]
以下に、本発明を実施例で具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。なお例中、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
[0079]
合成例で使用した原料を以下に示す。
[0080]
<ポリオール(a)>
(a-1):Kuraray Polyol P-1010(ポリエステルポリオール、数平均分子量Mn1000、水酸基数2、クラレ社製)
(a-2):Kuraray Polyol P-2010(ポリエステルポリオール、数平均分子量Mn2000、水酸基数2、クラレ社製)
(a-3):Kuraray Polyol P-3010(ポリエステルポリオール、数平均分子量Mn3000、水酸基数2、クラレ社製)
(a-4):サンニックス PP-2000(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn2000、水酸基数2、三洋化成工業社製)
(a-5):サンニックス GP-1500(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn1500、水酸基数3、三洋化成工業社製)
(a-6):サンニックス GP-3000(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn3000、水酸基数3、三洋化成工業社製)
(a-7):プラクセル 220N(ポリカプロラクトンポリオール、数平均分子量Mn2000、水酸基数2、ダイセル社製)
(a-8):デスモフェン 2020E(ポリカーボネートポリオール、数平均分子量Mn2000、水酸基数2、住化バイエルウレタン社製)
<ポリイソシアネート(b)>
(b-1):ヘキサメチレンジイソシアネート(東ソー社製)
(b-2):タケネート 500(キシリレンジイソシアネート、三井化学社製)
[0081]
(合成例1)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた4口フラスコにポリエステルポリオール(a-1)50重量部、ポリエーテルポリオール(a-6)850重量部、ヘキサメチレンジイソシアネートをNCO/OHが0.5になるように仕込み、トルエン650重量部、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.1重量部、2-エチルヘキサン酸錫0.25重量部を加えて、90℃まで徐々に昇温し2時間反応を行った。IRで残存イソシアネート基の消滅を確認した上で冷却し反応を終了することでウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたウレタンプレポリマー溶液の性状は、不揮発分:60%、重量平均分子量(Mw):61000、分子量分散度6であった。
[0082]
(合成例2?8、11?12)
原料を表1に記載された種類・量に置き換えた以外は、合成例1と同様の方法で行うことで、それぞれ合成例2?8、11?12のウレタンプレポリマーを得た。」

「[0084]
[表1]



「[0085]
実施例は以下の原料を使用した。
<ポリオール(B)>
(B-1):アデカポリエーテル G700(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn700、官能基数3、ADEKA社製)
(B-2):アデカポリエーテル G1500(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn1500、官能基数3、ADEKA社製)
(B-3):アデカポリエーテル G3000B(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn3000、官能基数3、ADEKA社製)
(B-4):アデカポリエーテル AM502(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn5000、官能基数3、ADEKA社製)
(B-5):アデカポリエーテル AM702(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn7000、官能基数3、ADEKA社製)」
[0086]
<イソシアネート硬化剤(C)>
(C-1):コロネート HL(ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体 不揮発分75%、東ソー社製)
(C-2):スミジュール N-3300(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体 不揮発分100%、住化バイエルウレタン社製)
[0087]
<脂肪酸エステル(D)>
(D-1):パルミチン酸イソプロピル
(D-2):ミリスチン酸イソプロピル
(D-3):オレイン酸メチル
[0088]
(実施例1)
合成例1のウレタンプレポリマー100重量部、多官能ポリオール(B-2)2重量部、イソシアネート硬化剤(C-1)を15重量部、脂肪酸エステル(D-1)を25.0重量部、高分子フェノール系酸化防止剤IRGANOX L 135(BASF社製)0.3重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤TINUVIN 571(BASF社製)0.3重量部、ヒンダードアミン系光安定剤TINUVIN 765(BASF社製)0.3重量部、溶剤として酢酸エチルを適量配合し、ディスパーで攪拌することで粘着剤を得た。得られた粘着剤を、基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(ルミラーT-60 東レ社製)に乾燥後の厚みが20μmになるように塗工し、100℃で2分間乾燥し、厚さ38μmの剥離ライナー(シリコーン剥離層)を貼り合わせた。次いで室温で1週間放置し、粘着テープを得た。
[0089]
(実施例2?5、7,8、及び11?13、参考例6、比較例1)
原料を表2に記載された種類・量に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で行うことで、それぞれ実施例2?5、7、8、及び11?13、参考例6ならびに比較例1の粘着テープを得た。」

「[0097]
[表2]

[0098]
[表3]



ウ 本件発明の課題
本件明細書の[0006]?[0007]等の記載によれば、本件発明の解決しようとする課題は、「ガラス等の被保護部材に対する濡れ性および曲面に対する密着性および加工性が良好で、再剥離性が良好な粘着テープの粘着剤層を形成できる粘着剤を提供すること」にあるといえる。

エ 実施例について
本件明細書の[0078]?[0098]には、本件発明の実施例が記載されており、[0080]には、ウレタンプレポリマー(A)の合成原料として用いられたポリオール(a)及びポリイソシアネート(b)の商品名、官能基数等が記載され、[0081]にはウレタンプレポリマー(A)の具体例の一つに相当する「合成例1」の具体的な製造方法が記載され、[0084][表1]には、合成例1?8、11及び12で用いられた原料ポリオール及びポリイソシアネートの種類、配合割合、NCO/OH比並びに生成物の分子量分散度及び重量平均分子量の実験データが記載されている。
また、[0085]にはポリオール(B)として用いられたポリエーテルポリオールの商品名、官能基数等が記載され、[0086]にはイソシアネート硬化剤(C)として用いられたイソシアネート化合物の商品名等が記載されている。
さらに、[0088]には、本件発明1の粘着剤の具体例の一つに相当する「実施例1」の粘着剤及び当該粘着剤を用いた粘着テープの具体的な製造方法が記載され、[0097][表2]及び[0098][表3]には、実施例1?5、7、8、11?13、参考例6、比較例1、2で用いられた原料のウレタンプレポリマー、多官能ポリオール及びイソシアネート硬化剤等の種類、配合割合及び得られた粘着剤及び粘着テープの物性(評価結果)等が記載されている。

オ 本件発明1についての判断
本件発明1においては、ウレタンプレポリマー(A)が、「ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.8のモル比で反応させた、分子量分散度が4?12のポリマー」であり、かつ、「前記ポリオール(a)は、少なくともポリエーテルポリオールを含み、前記ポリエーテルポリオールは、少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを含」むものであることが特定されているところ、本件明細書の[0084][表1]には、本件発明1の上記要件を満たす具体例として合成例1?5、7、8及び11が記載されており、そのNCO/OH比は0.5?0.8の範囲のもの、分子量分散度は4、6又は12のものが合成されたことが記載されている。
また、本件発明1においては、「多官能ポリオール(B)(但し、前記ポリオール(a)を除く。)は、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを、前記ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して2?8重量部含む」ことが特定されているところ、本件明細書の[0097][表2]及び[0098][表3]には、本件発明1の上記要件を満たす具体例として実施例1?5、7、8、11?13が記載されており、ウレタンプレポリマー(合成例1?5、7、8、11で得られたもの)100重量部に対して、ポリオール(B-1)?(B-5)(いずれも官能基数3のポリエーテルポリオール)のいずれか又は複数を2、4又は8重量部の割合で配合されたことが記載されている。
さらに、本件明細書の[0097][表2]及び[0098][表3]には、上記本件発明の課題に対応する粘着剤の物性として、曲面部適正、粘着力、再剥離性、濡れ性及び裁断性の評価結果が記載されているところ、上記実施例1?5、7、8、11?13の評価結果はいずれの項目においても「○」(優れている)又は「△」(実用化)であったことが読み取れるから、これらの実施例はいずれも上記課題を解決し得るものであることを理解できる。
そうすると、上記実施例についての記載を含む本件明細書の記載を参酌することにより、当業者は本件訂正(補正後)により減縮された本件発明1に包含される粘着剤が、上記課題を解決し得るものであることを理解することができるといえる。

カ 取消理由通知(決定の予告)に記載したサポート要件違反(1)?(3)の点について
カ-(1)「多官能ポリオール(B)」を別途添加する場合について
上記5.(1)ア「本件発明1について」に記載したとおり、取消理由通知(決定の予告)の対象とされた請求項1の記載に対して、本件訂正(補正後)により訂正された本件発明1においては、ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対する多官能ポリオール(B)の割合についての記載が、「4?20重量部含む」から「3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを・・・2?8重量部含む」に訂正されている。
そして、当該訂正後の本件発明1については、上記5.(1)オ「本件発明1についての判断」に記載したとおり、実施例についての記載を含む本件明細書の記載を参酌することにより、当業者が上記課題を解決し得るものであることを理解することができるものである。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載したサポート要件違反(1)は解消された。

カ-(2)「多官能ポリオール(B)」を別途添加せず、未反応ポリオール(a)を「多官能ポリオール(B)」とする場合について
上記5.(1)ア「本件発明1について」に記載したとおり、取消理由通知(決定の予告)の対象とされた請求項1の記載に対して、本件訂正(補正後)により訂正された本件発明1においては、「前記多官能ポリオール(B)は、前記ウレタンプレポリマー(A)の合成で残存した未反応ポリオール(a)を含んでいてもよく、」という発明特定事項が削除されている。
このため、「『多官能ポリオール(B)』を別途添加せず、未反応ポリオール(a)を『多官能ポリオール(B)』とする場合」は、本件訂正(補正後)により、本件発明1の範囲に含まれないことになったといえる。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載したサポート要件違反(2)は解消された。

カ-(3)未反応ポリオール(a)の含有量の測定方法について
上記サポート要件違反(3)は、上記サポート要件違反(2)と同様に、取消理由通知(決定の予告)の対象とされた請求項1に、「前記多官能ポリオール(B)は、前記ウレタンプレポリマー(A)の合成で残存した未反応ポリオール(a)を含んでいてもよ」いという発明特定事項が含まれていたことから生じていた違反といえるところ、上記5.(1)ア「本件発明1について」に記載したとおり、本件訂正(補正後)により訂正された本件発明1においては、当該発明特定事項は削除されている。
このため、本件訂正(補正後)により、本件発明1は、未反応ポリオール(a)を実質的に含まない範囲に減縮されたものといえる。
そして、本件訂正(補正後)により訂正された本件明細書に記載された合成例1([0081]における仕込み原料のNCO/OH比、触媒の種類及び量、反応温度、反応時間、反応の終了の確認等の記載は、未反応ポリオール(a)を実質的に残さない合成を行ったものと解して特段矛盾するものでもない。
そうすると、本件訂正(補正後)により訂正された本件発明1については、上記5.(1)オ「本件発明1についての判断」に記載したとおり、実施例についての記載を含む本件明細書の記載を参酌することにより、当業者が上記課題を解決し得るものであることを理解することができるものである。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載したサポート要件違反(3)は解消された。

キ 本件発明2、5?13及び16についての判断
本件発明2、5?13は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、粘着剤の構成成分がさらに減縮された粘着剤の発明であり、本件発明16は、基材と、本件発明1、2又は5?13のいずれかの粘着剤から形成してなる粘着剤層とを備えた粘着テープの発明であるところ、当業者は、これらの発明についても本件発明1と同様の理由により上記課題を解決し得るものであることを理解することができるといえる。

ク 理由1(サポート要件)のまとめ
以上のことから、本件発明1、2、5?13及び16は、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるといえる。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由1(サポート要件)の理由によっては、本件発明1、2、5?13及び16に係る特許を取り消すことはできない。

(2)理由2(実施可能要件)について
実施可能要件についての判断
(ア)ウレタンプレポリマー(A)について
上記5.(1)「理由1(サポート要件)について」に記載したとおり、本件明細書の[0081]及び[0084][表1]には、ウレタンプレポリマー(A)の具体例の一つに相当する「合成例1」の具体的な製造方法が記載されており、ポリオール原料として水酸基数2のポリエステルポリオールである「ポリオール(a-1)」及び水酸基数3のポリエーテルポリオールである「ポリオール(a-6)」を所定の割合で併用し、ヘキサメチレンジイソシアネート(b-1)とNCO/OH比=0.5で反応させることにより、分子量分散度=6、重量平均分子量=61000の重量平均分子量が得られたことが理解できる。
また、他の合成例については、[0084][表1]に水酸基数2及び3の各ポリオール原料の配合割合、ジイソシアネートと反応させる際のNCO/OH比が記載されており、得られた生成物の分子量分散度及び重量平均分子量のデータも記載されている。
さらに、高分子の技術分野における技術常識に鑑みると、当業者は、OH末端ウレタンプレポリマーの合成反応において、NCO/OH比が大きい(1に近い)ほど高分子量成分が増加する傾向にあること、原料ポリオールに占める2官能ポリオールの割合が高いほど、生成するプレポリマーの分岐が少ないため分子量が揃った(分子量分散度が小さい)ものになる傾向があること、及び原料ポリオールに占める3官能以上のポリオールの割合が高いほど、反応点が多いことから分子量分散度が大きいものになる傾向があることを容易に予測することができるといえるところ、上記[0084][表1]に記載された各合成例の記載は、そのような予測と特段矛盾するものではない。
そうすると、当業者は本件明細書の記載及び技術常識に基づいて本件発明1の「ウレタンプレポリマー(A)」に相当する成分の製造方法を理解することができるといえる。

(イ)本件発明1の粘着剤について
本件明細書の[0088]には、本件発明1の粘着剤の具体例の一つに相当する「実施例1」の粘着剤及び当該粘着剤を用いた粘着テープの具体的な製造方法が記載されており、配合組成が異なる他の実施例についても、[0097][表2]及び[0098][表3]に原料組成が記載されていることから、当業者はこれらの記載及び技術常識に基づいて、本件発明1に包含される粘着剤の製造方法を理解することができるといえる。

(ウ)本件発明1の粘着剤の使用方法について
上記[0097][表2]及び[0098][表3]には、実施例1?5、7、8、11?13、参考例6、比較例1、2で用いられた原料のウレタンプレポリマー、多官能ポリオール及びイソシアネート硬化剤等の種類、配合割合並びに得られた粘着剤及び粘着テープの物性(評価結果)が記載され、上記課題を解決できることが示されているところ、当業者は本件明細書の[0077]等に記載された種々の技術分野において本件発明1の粘着剤及び当該粘着剤を用いた粘着テープを好ましく使用できることを理解することができるといえる。

(エ)本件発明1の実施可能性
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。

(オ)取消理由通知(決定の予告)に記載した実施可能要件違反(1)?(3)の点について
(オ)-(1)未反応ポリオール(a)の含有量について
上記5.(1)ア「本件発明1について」に記載したとおり、取消理由通知(決定の予告)の対象とされた請求項1の記載に対して、本件訂正(補正後)により訂正された本件発明1においては、「前記多官能ポリオール(B)は、前記ウレタンプレポリマー(A)の合成で残存した未反応ポリオール(a)を含んでいてもよく、」という発明特定事項が削除されている。
このため、本件訂正(補正後)により、本件発明1は、未反応ポリオール(a)を実質的に含まない範囲に減縮されたものといえる。
そして、本件訂正(補正後)により訂正された本件明細書に記載された合成例1([0081]における仕込み原料のNCO/OH比、触媒の種類及び量、反応温度、反応時間、反応の終了の確認等の記載は、未反応ポリオール(a)を実質的に残さない合成を行ったものと解して特段矛盾するものではなく、その確認はGPC等の周知の手段を用いて実施可能であると当業者は理解することができる。
そうすると、本件訂正(補正後)により訂正された本件明細書の発明の詳細な説明は、同じく訂正された本件発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した実施可能要件違反(1)は解消された。

(オ)-(2)「粘着剤をゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定した分子量の排出曲線において、分子量1万を境界として高分子量側に一つのピーク、かつ低分子量側に一つのピークを有する」ことについて
上記実施可能要件違反(2)は、取消理由通知(決定の予告)の対象とされた請求項14に係る発明が、「前記粘着剤をゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定した分子量の排出曲線において、分子量1万を境界として高分子量側に一つのピーク、かつ低分子量側に一つのピークを有する・・・粘着剤」であることが特定されていたことにより生じていた違反といえるところ、本件訂正(補正後)により請求項14は削除された。
また、取消理由通知(決定の予告)の対象とされた請求項16に係る発明は、請求項14を引用していたところ、本件訂正(補正後)により請求項14を引用しないものとする訂正がなされた。
このため、本件訂正(補正後)により訂正された本件発明は、いずれも上記の発明特定事項を含まないものに訂正されており、いずれも上記実施可能要件違反(2)の対象とはならないこととなった。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した実施可能要件違反(2)は解消された。

(オ)-(3)「分子量分散度が4?12のポリマー」について
上記2.(4)ア(ク)「訂正事項14について」?同(セ)「訂正事項20(補正後)について」に記載したとおり、本件訂正(補正後)により、誤記を含んでいた訂正前の明細書の合成例及び実施例の記載が、本来の正しい記載に訂正されたことから、ウレタンプレポリマー(A)の合成方法及び粘着剤の製造方法が技術的に明確になったといえる。
そして、上記5.(2)ア(ア)「ウレタンプレポリマー(A)について」に記載したとおり、当業者は、本件訂正(補正後)により訂正された本件明細書の記載及び技術常識に基づいて、「分子量分散度が4?12のポリマー」である本件発明1の「ウレタンプレポリマー(A)」の製造方法を理解することができるといえる。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した実施可能要件違反(3)は解消された。

(カ)本件発明2、5?13及び16の実施可能性
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、5?13及び16についても本件発明1と同様のことがいえる。

イ 理由2(実施可能要件)のまとめ
以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるといえる。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由2(実施可能要件)の理由によっては、本件発明1、2、5?13及び16に係る特許を取り消すことはできない。

(3)理由3(進歩性)について
ア 引用文献及びその記載事項
<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2015-7226号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開2006-182795号公報(甲第2号証)
引用文献3:国際公開第2012/144329号(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2009-281575号公報(甲第6号証、周知技術を示す文献)

(i)引用文献1には、以下の事項が記載されている。
記載事項1-A
「[請求項1]
末端に第1級の水酸基を有し、水酸基価10?40mgKOH/gであるポリウレタン樹脂(A)100重量部、多官能イソシアネート化合物(B)1?20重量部、ならびにポリアルキレングリコール系化合物、エポキシ系化合物およびリン酸エステル系化合物から選ばれる少なくとも1種(C)10?100重量部を含有することを特徴とする再剥離型ウレタン粘着剤組成物。
[請求項2]
ポリウレタン樹脂が、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及び多官能イソシアネートを反応させて得られたものである請求項1の再剥離型ウレタン粘着剤組成物。
[請求項3]
前記(C)成分の平均分子量が300?800であることを特徴とする請求項1または2に記載の再剥離型ウレタン粘着剤組成物。
[請求項4]
多官能イソシアネート化合物(B)が3官能以上である請求項1?3のいずれかに記載の再剥離型ウレタン粘着剤組成物。
[請求項5]
ポリウレタン樹脂(A)の数平均分子量が5,000?30,0000である請求項1?4のいずれかに記載の再剥離型ウレタン粘着剤組成物。
[請求項6]
プラスチックフィルム基材に請求項1?5のいずれかに記載の再剥離型ウレタン粘着剤組成物の粘着層が形成された再剥離可能な粘着フィルム。」

記載事項1-B
「[0004]
これらの改良のために、ポリエーテルポリオールとポリエステルポリオールを併用したウレタン粘着剤が開示されている(特許文献2)。さらに、第三成分として脂肪酸エステルを配合することにより、被着体に粘着フィルムを貼りつける際の、粘着フィルムが速やかに被着体に密着する現象、所謂、濡れ広がり性を高めフィルム粘着時の作業性に優れたウレタン粘着剤(特許文献3)が開示されている。」

記載事項1-C
「[0018]
[(A)成分]
(A)成分は、ポリエーテル系ポリオールとポリエステル系ポリオールと多官能イソシアネート化合物とをウレタン反応触媒の存在又は非存在下で重合反応させて得られる。
[0019]
上記ポリエーテル系ポリオールとは、分子内にエーテル結合を含み2個以上水酸基を有する末端が第1級のアルコールである。具体的には、ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキサイド),末端エチレンオキサイドキャップのポリプロピレングリコール,ポリテトラメチレングリコールなど公知のものを例示できる。ポリエーテルポリオールの数平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフ法によるポリスチレン換算値)は、特に限定されないが、糊残りが生じにくい凝集力が得られる点で数平均分子量が700?5,000のものが好ましく、より好ましくは1,000?4000程度である。その使用量はポリウレタン樹脂を構成するポリオール中の30?90%が好ましく、更に好ましくは50?80%である。」

記載事項1-D
「[0036]
こうして得られる(A)成分は、末端に第1級の水酸基を有し、その水酸基価は10?40mgKOH/gである。末端に第1級の水酸基を有することで粘着剤組成物中の多官能イソシアネート化合物(B)との反応が速やかに進行し、乾燥硬化に時間を要しない。水酸基価が10?40mgKOH/gの範囲に調整することによって、再剥離性、および濡れ性を適切なものとすることができる。すなわち、水酸基価が10mgKOH/gを下回ると糊残りが生じやすくなり、水酸基価が40mgKOH/gを超えると濡れ性が悪くなり、いずれの場合も本発明の効果を得ることができない。また、(A)成分の数平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフ法によるポリスチレン換算値、以下、数平均分子量との記載がある場合は同様である。)は、作業性において粘着剤の粘度が適度となる点で5,000?30,000、好ましくは、10,000?20,000である。」

記載事項1-E
「[0038]
[(C)成分]
本発明に用いられる(C)成分は、ポリアルキレングリコール系化合物、エポキシ系化合物およびリン酸エステル系化合物から選ばれる少なくとも1種であれば特に限定なく使用することができる。軽剥離性向上にはポリアルキレングリコール系化合物、濡れ広がり性の向上にはエポキシ系化合物、優れた再剥離性にはリン酸エステル系化合物を使用することが好ましい。
[0039]
上記ポリアルキレングリコール系化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロックおよび/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、および末端エーテル変性化合物などの末端封鎖化合物などを挙げることができる。中でもポリアルキレングリコールの末端エステル変性化合物、又は末端エーテル変性化合物が濡れ広がり性、および再剥離性の観点から好ましい。具体的には、モノサイザーW-260、W-262(DIC製)、アデカサイザーRS-107、RS-700、RS-735、RS-966、RS-1000(アデカ製)、ユニオックスMM-500(日油製)などが挙げられる。」

記載事項1-F
「[0042]
上記(C)成分の平均分子量としては、濡れ性の向上の観点から300?800であることが好ましい。同様の観点から、平均分子量は、350?600がより好ましい。
[0043]
本発明に用いられる粘着剤は(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を必須成分として含有するものであるが、各成分の使用割合は次のとおりである。(A)成分100重量部に対し(B)成分1?20重量部、(C)成分10?100量部、好ましくは、(A)100重量部に対し、(B)成分5?15重量部(C)成分20?50重量部である。(C)成分が10重量部未満であると濡れ性の向上効果が薄く、100重量部よりも多くすると被着体への汚染が生じる可能性がある。さらに、(A)成分の水酸基数に対する多官能イソシアネート化合物(B)のイソシアネート基数の当量比(NCO/OH比)が、0.5?3.0であることが好ましい。NCO/OH=0.5未満であると粘着剤の糊残りが生じやすく、3.0以上にすると粘着剤が硬くなるために濡れ広がり性が悪くなる。
[0044]
本発明の粘着剤には必要に応じてタルク、炭酸カルシウム、酸化チタン等の充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、光安定剤、導電性付与剤等の添加剤を配合しても良い。」

記載事項1-G
「[0050]
合成例1ポリウレタン樹脂溶液の合成
撹拌器、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備え付けた4口フラスコにアデカポリエーテルAM-302(末端エチレンオキサイドキャップの3官能ポリプロピレングリコール、水酸基価56mgKOH/g、分子量3,000、アデカ製)160部、クラレポリオールP-1010(2官能ポリエステルポリオール、水酸基価112mgKOH/g、分子量1,000、クラレ製)40部、ヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業製)13部加え、触媒としてジオクチル錫ジラウレート0.1部、トルエン142部仕込み、80℃まで徐々に昇温し、4時間反応を行った。IRを用いてイソシアネート基の消滅を確認してから冷却し、ポリウレタン樹脂溶液(不揮発分60%)を得た。このポリウレタン樹脂の数平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値、以下同じ)は12,000、水酸基価は22mgKOH/gであった。」

記載事項1-H
「[0058]
<評価方法>
1、塗工方法
(実施例1)
ポリウレタン樹脂(A)として合成例1で合成したポリウレタン樹脂溶液167重量部((A)成分として100重量部)に対して、多官能イソシアネート化合物(B)としてコロネートHX(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体日本ポリウレタン工業製)を10重量部と、(C)成分としてモノサイザーW-260(ポリアルキレングリコール系化合物、分子量434、DIC製)を25重量部とを配合し、粘着剤を得た。得られた粘着剤をポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚50μm)に乾燥塗膜10μmになるように塗工し、120℃で2分、あるいは120℃で5分乾燥させ、粘着シートを得た。該粘着シートを用いて、以下に示す方法に従って、粘着力、再剥離性及び濡れ広がり性の試験をした。
各評価試験の結果を表1に示す。」

記載事項1-I
「[0065]
(実施例5)
(C)成分としてアデカサイザーRS-700(ポリアルキレングリコール系化合物、分子量約550、アデカ製)を50部入れた以外は、実施例1と同様にして粘着シートを得、同様に評価した。」

記載事項1-J
「[0090]
[表1]

[0091]
表1中の記号、略号は以下のとおりである。
コロネートHX:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、日本ポリウレタン工業製
コロネートHL:コロネートHX:ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体、日本ポリウレタン工業製
W-260:モノサイザーW-260(ポリアルキレングリコール系化合物、分子量434、DIC製)
W-262:モノサイザーW-262(ポリアルキレングリコール系化合物、分子量55)
RS-700:アデカサイザーRS-700(ポリアルキレングリコール系化合物、分子量約550、アデカ製)
RS-735:アデカサイザーRS-735(ポリアルキレングリコール系化合物、分子量約850、アデカ製)
E-4030:サンソサイザーE-4030(エポキシ系化合物、分子量約350、新日本理化製)
E-6000:サンソサイザーE-6000(エポキシ系化合物、分子量約400、新日本理化製)
TOP:TOP(リン酸エステル系化合物、分子量435、大八化学工業製)
PN-150:アデカサイザーPN-150(ポリエステル系化合物分子量約1,000アデカ製)
PN-200:アデカサイザーP-200(ポリエステル系化合物分子量約2,000アデカ製)」

(ii)引用文献2には、以下の事項が記載されている。
記載事項2-A
「[0019]
好ましい2官能ポリプロピレングリコール(a1)の分子量は、数平均分子量700?3000であり、より好ましくは800?3000、特に好ましくは900?2000である。数平均分子量が700未満では塗膜が硬すぎてタック性が低下したり、表面エネルギーが高くなることにより塗工時に弾きが出る場合がある。3000超過では、硬化が不十分となって膜の強度が下がり、凝集破壊して糊残りの原因となることがある。また、2種類以上の異なる分子量を有する2官能ポリプロピレングリコール(a1)を混合して用いることもでき、その場合、混合物の分子量は上記範囲内であればよい。」

記載事項2-B
「[0043]
また、本発明では必要に応じて高分子量化を促進するため、鎖延長剤として、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルペンタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のグリコール類、エチレンジアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、ピペラジン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン等の多価アミンを、併用することができる。
[0044]
本発明のポリウレタン粘着剤組成物には、必要に応じて他の樹脂、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース樹脂、アセタール樹脂等を併用することもできる。また、用途に応じて、ロジン、ロジンエステルのような粘着付与剤、スメクタイト、カオリン、タルク、マイカ、スメクタイト、バーミキュライト、パイロフィライト、炭酸カルシウム、酸化チタン等の充填剤、可塑剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、光安定剤、難燃剤、加水分解防止剤等の添加剤を配合してもよい。」

記載事項2-C
「[0046]
また、保護フィルムを表示部材保護用途に用いる場合、剥離時の帯電によって光学素子が損傷する等の問題があるため、帯電防止剤を含んでいてもよい。帯電防止剤としては有機酸塩や四級アンモニウム塩等の電解質が挙げられる。
本発明のポリウレタン粘着剤組成物は、基材シートあるいは基材フィルムの少なくと片方の面に積層して用いることができる。ここでシートとは厚さが250μm以上のものをいい、フィルムは厚さが250μm未満のものをいうが、厳密に区別するものではない。積層する方法としては、基材との共押出成形、基材上へのラミネート成形、基材表面への塗布等の方法が用いられる。また、剥離処理をした紙製セパレーターや、ポリエチレンテレフタレート(PET)セパレーター、ポリオレフィンセパレーター等の剥離シート表面に粘着層を形成後、プラスチックフィルムやその他種々のフィルムやシートに粘着層を転写したり、貼り合わせたりすることによって積層することもできる。」

記載事項2-D
「[0052]
このようにして得られた積層フィルム及びシート類は、離型フィルム及びシート、或いは粘着フィルム及びシートとして用いることが出来る。具体的には、粘着テープ、粘着布テープ、クラフトテープ、ラベル、シール、化粧用シート、滑り止めシート、両面粘着テープ、表面保護フィルム等として用いることができる。
[実施例]
[0053]
以下、本発明を、実施例を用いて更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例により限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例で使用した材料、および評価方法は以下に示す通りである。
<原材料>
1)ポリエーテルポリオール(a)
a1-1:2官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「ポリハードナーD-100A」、一分子当たりの平均官能基数2.0、分子量1000、)
a1-2:2官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「ポリハードナーD-40」、一分子当たりの平均官能基数2.0、分子量400)
a1-3:2官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「ポリハードナーD-750」、一分子当たりの平均官能基数2.1、分子量700)
a2-1:3官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「DKポリオールG480」、一分子当たりの平均官能基数3.0、分子量350)
a2-2:3官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「ポリハードナーT-100」、一分子当たりの平均官能基数3.0、分子量1000)
a2-3:3官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「ポリハードナーT-300」、一分子当たりの平均官能基数3.0、分子量3000)
a2-4:3官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「ポリハードナーT-400」、一分子当たりの平均官能基数3.0、分子量4000)
a2-5:3官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「ポリハードナーT-500」、一分子当たりの平均官能基数3.0、分子量5000)
a2-6:3官能ポリプロピレングリコール(旭硝子製「プレミノールPML-3010」、一分子当たりの平均官能基数3.0、分子量10000)
2)ポリイソシアネート化合物(b)
b1:ヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成製「デュラネート50M」)
b2:トリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業製「TDI-100」)
b3:トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト(三菱化学製「マイテックGP105A」)
b4:ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト(三菱化学製「マイテックNY710A」)
b5:イソホロンジイソシアネート(デグサジャパン製「VESTANATIPDI」)
3)触媒(c)
c1:ジオクチル錫ジラウレート(日東化成製「ネオスタンU-810」)
4)OH末端ウレタンプレポリマー(A)
A1(合成例1):攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた四つ口フラスコに、ポリイソシアネート化合物(b1)653.0g、2官能ポリプロピレングリコール(a1-1)1941.1g、3官能ポリプロピレングリコール(a2-1)905.9g、トルエン1500g、触媒として(c1)350mgを仕込み、100℃まで昇温して3時間反応を行った。反応器内容物のNCO基を、赤外分光光度計(IR)を用いて測定し、確認出来なくなったところで冷却を開始した。温度が80℃以下になったところで、触媒を不活性化するために、アセチルアセトン4.71gを加えて30分間攪拌を続けた。この反応溶液は無色透明で固形分70%(重量%、以下同じ)であった。これをウレタンプレポリマー溶液A1とする。」

記載事項2-E
「[0066]
A18(合成例18):ポリイソシアネート化合物(b3)74.4g、3官能ポリプロピレングリコール(a2-6)3443.5g、トルエン1482.2gとしたこと以外は合成例8に従った。この反応溶液は無色透明で固形分70%であった。これをウレタンプレポリマー溶液A18とする。
A19:市販ウレタン系粘着剤主剤(東洋インキ製造製「サイアバインSH101」)
A20:市販ウレタン系粘着剤主剤(東洋インキ製造製「サイアバインSH101M」)
A21:市販アクリル系粘着剤主剤(東洋インキ製「オリバインBPS5978」)
5)多官能イソシアネート化合物(B)
B1:ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト(三菱化学製「マイテックNY710A」)
B2:トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクトマイテック(三菱化学製「GP105A」)
B3:ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト(東洋インキ製造製「サイアバインT-501B」)
B4:トリス[3-(1-アジリジノ)プロピオン酸]トリメチロールプロパン(東洋インキ製造製「オリバインBXX5134」)
<評価方法>
1、塗工方法
OH末端ウレタンプレポリマー(A)と、多官能イソシアネート化合物(B)とを表1に示す配合で混合し、よく攪拌して粘着剤溶液とした。溶剤で希釈し、塗工液の粘度を300?800mPa・s/25℃になるように調節し、これを、PETフィルム(三菱化学ポリエステルフィルム製、T100-38、幅280mm、厚み38μm)上に、マイクログラビア(塗り幅230mm)を用いて、ラインスピード4m/minで、乾燥塗膜の厚みが20μmとなるようにテストコーターで連続的に塗工し、ロールサポートの乾燥炉(炉長4m)で100℃で1分間乾燥して粘着シートを作成した。この粘着シートの粘着剤面をシリコン離型フィルム(MR25、三菱化学ポリエステルフィルム製、幅270mm、厚み25μm)の離型面と線圧2kgのニップロールで貼り合わせ、3インチの紙管に巻き取って40℃で3日間、保管したものを評価用サンプルとした。」

記載事項2-F
「[0072]
[表1]



イ 引用文献1、2に記載された発明
(ア)引用文献1に記載された発明
引用文献1の特許請求の範囲(記載事項1-A)、ポリウレタン樹脂溶液の合成例1(記載事項1-G)並びに粘着剤及び粘着シートの実施例1(記載事項1-H)の記載に基づくと、引用文献1には以下の発明が記載されているものと認められる。
「ポリウレタン樹脂(A)、多官能イソシアネート化合物(B)及びポリアルキレングリコール系化合物(C)を含み、前記ポリウレタン樹脂(A)は、アデカポリエーテルAM-302(末端エチレンオキサイドキャップの3官能ポリプロピレングリコール、水酸基価56mgKOH/g、分子量3,000、アデカ製)160部、クラレポリオールP-1010(2官能ポリエステルポリオール、水酸基価112mgKOH/g、分子量1,000、クラレ製)40部、及びヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業製)13部を反応させて得たものであり、前記多官能イソシアネート化合物(B)はコロネートHX(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体 日本ポリウレタン工業製)であり、前記ポリアルキレングリコール系化合物(C)はモノサイザー W-260(ポリアルキレングリコール系化合物、分子量434、DIC製)であり、ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対して、ポリアルキレングリコール系化合物(C)を25重量部配合した、粘着剤、及び、当該粘着剤をポリエチレンテレフタレートフィルムに塗工した粘着シート。」(以下、「引用発明1」という。)

(イ)引用文献2に記載された発明
引用文献2には、「ウレタンプレポリマー溶液A1」の「合成例1」が記載されている(記載事項2-D)。
「A1(合成例1):攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた四つ口フラスコに、ポリイソシアネート化合物(b1)653.0g、2官能ポリプロピレングリコール(a1-1)1941.1g、3官能ポリプロピレングリコール(a2-1)905.9g、トルエン1500g、触媒として(c1)350mgを仕込み、100℃まで昇温して3時間反応を行った。反応器内容物のNCO基を、赤外分光光度計(IR)を用いて測定し、確認出来なくなったところで冷却を開始した。温度が80℃以下になったところで、触媒を不活性化するために、アセチルアセトン4.71gを加えて30分間攪拌を続けた。この反応溶液は無色透明で固形分70%(重量%、以下同じ)であった。これをウレタンプレポリマー溶液A1とする。」

また、引用文献2には、実施例で用いられたウレタンプレポリマー溶液の原材料であるポリエーテルポリオール(a)、ポリイソシアネート化合物(b)及び触媒(c)(記載事項2-D)、並びに粘着剤に配合される多官能イソシアネート化合物(B)(記載事項2-E)の例として、以下のものが記載されている。
「ポリエーテルポリオール(a)」
・a1-1:2官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「ポリハードナーD-100A」、一分子当たりの平均官能基数2.0、分子量1000)」
・a2-1:3官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「DKポリオールG480」、一分子当たりの平均官能基数3.0、分子量350)

「ポリイソシアネート化合物(b)」
・b1:ヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成製「デュラネート50M」)

「触媒(c)」
・c1:ジオクチル錫ジラウレート(日東化成製「ネオスタンU-810」)

「多官能イソシアネート化合物(B)」
・B1:ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト(三菱化学製「マイテックNY710A」)

さらに、引用文献2には、OH末端ウレタンプレポリマー(A)と多官能イソシアネート化合物(B)とを表1に示す割合で混合し、よく攪拌して粘着剤溶液としたことが記載され(記載事項2-E)、[表1]の実施例1の欄からは、a1-1、a2-1、b1及びc1を用いて合成されたOH末端ウレタンプレポリマーA1 100重量部と、多官能イソシアネート化合物B1 28.3重量部とを混合して粘着剤溶液としたことが読み取れる(記載事項2-F)。

加えて、引用文献2には、「PETフィルム(三菱化学ポリエステルフィルム製、T100-38、幅280mm、厚み38μm)上に、マイクログラビア(塗り幅230mm)を用いて、ラインスピード4m/minで、乾燥塗膜の厚みが20μmとなるようにテストコーターで連続的に塗工し、ロールサポートの乾燥炉(炉長4m)で100℃で1分間乾燥して粘着シートを作製した」ことが記載されている(記載事項1-E)。

これらの記載に基づくと、引用文献2には以下の発明が記載されているものと認められる。
「OH末端ウレタンプレポリマー(A)と、多官能イソシアネート化合物(B)とを配合して得た粘着剤であって、前記OH末端ウレタンプレポリマー(A)は、a1-1:2官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「ポリハードナーD-100A」、一分子当たりの平均官能基数2.0、分子量1000)1941.1g、a2-1:3官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「DKポリオールG480」、一分子当たりの平均官能基数3.0、分子量350)905.9g、b1:ヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成製「デュラネート50M」)653.0gを反応させて得たものである、粘着剤、及び、該粘着剤をPETフィルムに塗工した粘着シート。」(以下、「引用発明2」という。)

ウ 引用文献1を主引例とする場合の進歩性の判断
(ア)本件発明1について
(ア-1)本件発明1と引用発明1との対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「ポリウレタン樹脂(A)」、「多官能イソシアネート化合物(B)」及び「粘着剤」は、それぞれ本件発明1における「ウレタンプレポリマー(A)」、「イソシアネート硬化剤(C)」及び「粘着剤」に相当する。
また、引用発明1における「ポリウレタン樹脂(A)」は、アデカポリエーテルAM-302、クラレポリオールP-1010及びヘキサメチレンジイソシアネートを反応させて得たものであるところ、ここで用いられている「アデカポリエーテルAM-302」は「3官能ポリプロピレングリコール」であるから、本件発明1におけるポリオール(a)に含まれる「少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオール」に相当し、また、ここで用いられている「ヘキサメチレンジイソシアネート」は、本件発明1における「ポリイソシアネート(b)」に相当する。
さらに、引用発明1におけるポリアルキレングリコール系化合物(C)は、本件発明1における「多官能ポリオール(B)」に相当し、かつ、当該「多官能ポリオール(B)」に含まれる「3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオール」と、「ポリエーテルポリオール」である点で一致する。
そうすると、本件発明1と引用発明1とは、本件発明1の用語を用いると、
「ウレタンプレポリマー(A)、多官能ポリオール(B)、イソシアネート硬化剤(C)を含み、
前記ウレタンプレポリマー(A)は、ポリイソシアネート(b)とポリオール(a)とを反応させた、粘着剤であって、
前記ポリオール(a)は、少なくともポリエーテルポリオールを含み、前記ポリエーテルポリオールは、少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを含み、
前記多官能ポリオール(B)(但し、前記ポリオール(a)を除く。)は、ポリエーテルポリオールを含む、粘着剤。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
ウレタンプレポリマー(A)が、本件発明1においては、「ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.8のモル比で反応させた」ものであるのに対し、引用発明1においてはNCO/OHのモル比の特定がない点。
<相違点2>
ウレタンプレポリマー(A)が、本件発明1においては、「分子量分散度が4?12のポリマー」であるのに対し、引用発明1においては分子量分散度の特定がない点。
<相違点3>
多官能ポリオール(B)(但し、ポリオール(a)を除く)が、本件発明1においては、「3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを、前記ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して2?8重量部含む」ものであるのに対し、引用発明1においては水酸基の数が明らかでないポリアルキレングリコール系化合物(モノサイザー W-260)をポリウレタン樹脂(A)100重量部に対して25重量部配合したものである点。

そこで、上記相違点について検討する。

(ア-2)相違点3について
事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。
引用発明1は、特定の実施例に基づいて認定した粘着剤の発明であるところ、その一成分であるポリアルキレングリコール系化合物(モノサイザー W-260)を、水酸基数の異なる他の多官能ポリオールに置き換えたり、配合割合を変更したりすることは、粘着剤の特性を変化させることにつながるから、積極的に動機付けられることとはいえない。
また、引用文献1の請求項1(記載事項1-A)には、「ポリウレタン樹脂(A)」100重量部に対し、「ポリアルキレングリコール系化合物、エポキシ系化合物および燐酸エステル系化合物から選ばれる少なくとも1種(C)」を10?100重量部含有する粘着剤組成物が記載されており、当該成分(C)の配合割合については、[0043](記載事項1-F)に、「(C)成分10?100重量部、好ましくは・・・(C)成分20?50重量部である。(C)成分が10重量部未満であると濡れ性の向上効果が薄く、100重量部よりも多くすると被着体への汚染が生じる可能性がある。」と記載されているから、仮に当業者が引用文献1の一般記載を参酌し、引用発明1における「ポリアルキレングリコール系化合物(モノサイザー W-260)」の配合割合を変更することを試みるとしても、その配合割合を変更する場合の下限値は10であると理解するから、本件発明1における「2?8重量部」という配合割合に想到することは容易ではない。
さらに、上記成分(C)について、引用文献1の[0038]?[0039](記載事項1-E)には、ポリアルキレングリコール系化合物が多数例示されているが、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを所定の割合で用いること、及びそれによる作用効果については特段記載されていないから、引用発明1におけるポリアルキレングリコール系化合物(モノサイザー W-260)の一部(2?8重量部)を、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールに置き換えることを当業者が容易に想到し得るとも認められない。
そして、取消理由通知(決定の予告)で引用したその他の引用文献2?4にも、引用発明1に含まれるポリアルキレングリコール系化合物(モノサイザー W-260)を、2?8重量部の3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールに置き換えることを動機付ける記載は見出せないし、そのようなことが本件特許に係る出願の優先日前に当該技術分野において周知の技術的事項であったとも認められない。
よって、引用発明1を主引例として、上記相違点3に係る構成に至ることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ア-3)本件発明1についてのまとめ
よって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明1、引用文献1、2に記載された事項及び周知技術(引用文献3、4)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(イ)本件発明2、5?13及び16について
本件発明2、5?13は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、粘着剤の構成成分がさらに減縮された粘着剤の発明であり、本件発明16は、基材と、本件発明1、2又は5?13のいずれかの粘着剤から形成してなる粘着剤層とを備えた粘着テープの発明であるところ、本件発明2、5?13及び16と引用発明1とを対比すると、両者は少なくとも上記相違点3の点で相違するといえる。
そして、当該相違点3については、上記5.(3)ウ(ア)(ア-2)「相違点3について」に記載したとおり、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2、5?13及び16は、いずれも引用発明1、引用文献1、2に記載された事項及び周知技術(引用文献3、4)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(ウ)引用文献1を主引例とする場合の進歩性のまとめ
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由3(進歩性)のうち、引用文献1を主引例とする理由によっては、本件請求項1、2、5?13及び16に係る特許を取り消すことはできない。

エ 引用文献2を主引例とする場合の進歩性の判断
(ア)本件発明1について
(ア-1)本件発明1と引用発明2との対比
本件発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2における「OH末端ウレタンプレポリマー(A)」、「多官能イソシアネート化合物(B)」及び「粘着剤」は、それぞれ本件発明1における「ウレタンプレポリマー(A)」、「イソシアネート硬化剤(C)」及び「粘着剤」に相当する。
また、引用発明2における「OH末端ウレタンプレポリマー(A)」は、a1-1:2官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「ポリハードナーD-100A」、一分子当たりの平均官能基数2.0、分子量1000)、a2-1:3官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製「DKポリオールG480」、一分子当たりの平均官能基数3.0、分子量350)及びb1:ヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成製「デュラネート50M」)を反応させて得たものであるところ、ここで用いられている「a2-1」は「3官能ポリプロピレングリコール」であるから、本件発明1におけるポリオール(a)に含まれる「少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオール」に相当し、また、ここで用いられている「b1:ヘキサメチレンジイソシアネート」は、本件発明1における「ポリイソシアネート(b)」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明2とは、本件発明1の用語を用いると、
「ウレタンプレポリマー(A)、イソシアネート硬化剤(C)を含み、
前記ウレタンプレポリマー(A)は、ポリイソシアネート(b)とポリオール(a)とを反応させた、粘着剤であって、
前記ポリオール(a)は、少なくともポリエーテルポリオールを含み、前記ポリエーテルポリオールは、少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを含む、粘着剤。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1’>
ウレタンプレポリマー(A)が、本件発明1においては、「ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.8のモル比で反応させた」ものであるのに対し、引用発明2においてはNCO/OHのモル比の特定がない点。
<相違点2’>
ウレタンプレポリマー(A)が、本件発明1においては、「分子量分散度が4?12のポリマー」であるのに対し、引用発明2においては分子量分散度の特定がない点。
<相違点3’>
本件発明1は、「多官能ポリオール(B)」を含有し、かつ、「前記多官能ポリオール(B)(但し、ポリオール(a)を除く)は、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを、前記ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して2?8重量部含む」ものであるのに対し、引用発明2はそのような「多官能ポリオール(B)」を所定の割合で含有させることの特定がない点。

そこで、上記相違点について検討する。

(ア-2)相違点3’について
事案に鑑み、まず、相違点3’について検討する。
引用発明2は、特定の実施例に基づいて認定した粘着剤の発明であるところ、その一成分であるイソシアネート硬化剤(C)と反応し得る別の成分(多官能ポリオール(B))を新たに追加成分として配合することは、粘着剤の特性を変化させることにつながるから、積極的に動機付けられることとはいえない。
また、引用文献2の[0043](記載事項2-B)には、「必要に応じて高分子量化を促進するため、鎖延長剤として、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルペンタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のグリコール類・・・を、併用することができる。」と記載されているが、列記されたいずれの化合物も、上記相違点3’に係る「3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオール」に相当する化合物ではないし、かつ、上記相違点3’に係る「3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオール」が、本件特許に係る出願の優先日前に当該技術分野において「鎖延長剤」として周知の成分であったとも認められない。
そして、取消理由通知(決定の予告)で引用したその他の引用文献1、3、4にも、引用発明2において、上記相違点3’に係る「3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオール」を2?8重量部含有させることを動機付ける記載は見出せないし、そのようなことが本件特許に係る出願の優先日前に当該技術分野において周知の技術的事項であったとも認められない。
よって、引用発明2を主引例として、上記相違点3’に係る構成に至ることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ア-3)本件発明1についてのまとめ
よって、相違点1’及び2’について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明2、引用文献1、2に記載された事項及び周知技術(引用文献3、4)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(イ)本件発明2、5?13及び16について
本件発明2、5?13は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、粘着剤の構成成分がさらに減縮された粘着剤の発明であり、本件発明16は、基材と、本件発明1、2又は5?13のいずれかの粘着剤から形成してなる粘着剤層とを備えた粘着テープの発明であるところ、本件発明2、5?13及び16と引用発明2とを対比すると、両者は少なくとも上記相違点3’の点で相違するといえる。
そして、当該相違点3’については、上記5.(3)エ(ア)(ア-2)「相違点3’について」に記載したとおり、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2、5?13及び16は、いずれも引用発明2、引用文献1、2に記載された事項及び周知技術(引用文献3、4)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(ウ)引用文献2を主引例とする場合の進歩性のまとめ
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由3(進歩性)のうち、引用文献2を主引例とする理由によっては、本件請求項1、2、5?13及び16に係る特許を取り消すことはできない。

6.取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった取消理由及び特許異議申立理由について
(1)特許法第17条の2第3項(新規事項)について
ア 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第29頁において、「本件特許発明の構成要件F(当審注:ポリオール(a)についての、『前記ポリエーテルポリオールは、少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを含む』という構成要件に相当する。)は、本件特許出願の審査経過において、平成28年8月8日付け手続補正書(当審注:甲第3号証)による補正により、本件特許の請求項1に追記されたものである。そして、この構成要件Fにおいて、水酸基を3以上有するポリエーテルポリオールが、多官能ポリオール(B)の全部である範囲については、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載したものでない。」と主張している。

イ 新規事項についての判断
ここで、申立人の主張前半における「構成要件F」の「ポリオール(a)」は、ウレタンプレポリマー(A)の原料となる「ポリオール(a)」であるのに対し、申立人の主張後半における「多官能ポリオール(B)」は、本件訂正(補正後)により本件発明1の記載が「多官能ポリオール(B)(但し、前記ポリオール(a)を除く。)」と訂正されたことにより、「ポリオール(a)」とは別の成分であることが明確になった。このため、仮に、構成要件Fにおける「ポリオール(a)」の全部が「水酸基を3以上有するポリエーテルポリオール」とされたとしても、そのことにより直ちに「多官能ポリオール(B)」の全部が「水酸基を3以上有するポリエーテルポリオール」になるものではない。
また、「ポリオール(a)」については、本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書(以下、特許請求の範囲を含めて「当初明細書等」ということがある。)の[0015]には、「ポリオール(a)は、少なくとも2つ以上の水酸基を有する公知のポリオールが用いられる。例えば、ポリアクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ひまし油系ポリオール等が挙げられる。・・・なお、ポリオールを2種類以上併用すると分子量分散度の調整が容易になる。」と記載されていたところ、「少なくとも2つ以上の水酸基を有する公知のポリオール」という記載は、その全部が「水酸基を3以上有するポリエーテルポリオール」である場合を排除するものではない。
さらに、当初明細書等の[0020]には、「ポリエーテルポリオールは、2つの水酸基を有するポリオールが好ましいところ、1分子中に少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを一部用いることにより、これにより粘着力と再剥離性のバランスを取リ易くなる。」と記載されていたが、当該記載は好ましいとされる構成について記載したものと解されるものであり、上記[0015]の記載を合わせて考慮すると、[0020]の記載をもって、本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲に「3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオール」を「一部用いる」構成しか開示されていなかったということはできない。
加えて、当初明細書等には、「ポリオール(a)」の全部を「水酸基を3以上有するポリエーテルポリオール」とした実施例は記載されていなかったが、上記[0015]の記載等を勘案すると、具体的な実施例の記載がないことをもって、直ちに「ポリオール(a)」の全部を「水酸基を3以上有するポリエーテルポリオール」とすることが当初明細書等に記載されていなかったとはいえない。

ウ 新規事項についてのまとめ
そうすると、本件訂正(補正後)により訂正された本件発明1は、当初明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないといえる。本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、5?13及び16についても同様である。
よって、本件発明1、2、5?13及び16は、いずれも特許法第17条の第3項の規定に違反するものではないから、申立人の主張する特許異議申立理由(新規事項)によっては、本件請求項1、2、5?13及び16に係る特許を取り消すことはできない。

(2)特許法第29条第1項第3号(新規性)について
ア 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第29?第42頁において甲第1号証(当審注:取消理由通知(決定の予告)における引用文献1)に記載された事項について説明し、同第42?53頁において甲第2号証(当審注:取消理由通知(決定の予告)における引用文献2)に記載された事項について説明し、同第53?55頁において、「本件特許発明は甲第1号証若しくは甲第2号証に記載された発明である・・・から、特許法第29条第1項第3号・・・により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである」旨を主張している。

イ 甲第1号証について
ここで、甲第1号証に記載された発明は、上記5.(3)イ(ア)「引用文献1に記載された発明」に記載した「引用発明1」であると認められるところ、本件発明1と引用発明1とは、上記5.(3)ウ(ア)(ア-1)「本件発明1と引用発明1との対比」に記載した相違点1?3の点で相違するものと認められ、同(ア-2)「相違点3について」に記載したとおり、当該相違点3は実質的な相違点であるといえる。
そうすると、本件発明1、及び本件発明1に従属する本件発明2、5?13及び16は、少なくとも上記相違点3の点で引用文献1に記載された発明とすることができないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、特許を受けることができないものではない。
ウ 甲第2号証について
また、甲第2号証に記載された発明は、上記5.(3)イ(イ)「引用文献2に記載された発明」に記載した「引用発明2」であると認められるところ、本件発明1と引用発明2とは、上記5.(3)エ(ア)(ア-1)「本件発明1と引用発明2との対比」に記載した相違点1’?3’の点で相違するものと認められ、同(ア-2)「相違点3’について」に記載したとおり、当該相違点3’は実質的な相違点であるといえる。
そうすると、本件発明1、及び本件発明1に従属する本件発明2、5?13及び16は、少なくとも上記相違点3’の点で引用文献2に記載された発明とすることができないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、特許を受けることができないものではない。、

新規性についてのまとめ
よって、本件発明1、2、5?13及び16は、いずれも特許法第29条第1項第3号に該当するものではないから、申立人の主張する特許異議申立理由(新規性)によっては、本件請求項1、2、5?13及び16に係る特許を取り消すことはできない。

(3)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
ア 取消理由の概要
当審は、平成30年2月28日付け取消理由通知において、本件発明1?16(平成29年10月31日に提出された訂正請求書により訂正されたもの)は、下記(ア)及び(イ)の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてない旨の取消理由を通知した。
(ア)請求項1の「多官能ポリオール(B)」の定義が不明瞭である。
(イ)請求項9には、「脂肪酸エステル(D)が、脂肪酸エステル(D)は、」と記載されており、日本語として不明瞭である。

明確性についての判断
上記の点は、いずれも本件訂正(補正後)により解消したものと認められる。

明確性についてのまとめ
よって、本件発明1、2、5?13及び16は、いずれも特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものといえるから、上記取消理由通知に記載した取消理由(明確性)によっては、本件請求項1、2、5?13及び16に係る特許を取り消すことはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、及び取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった取消理由によっては、本件請求項1、2、5?13及び16に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、2、5?13及び16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項3、4、14及び15に係る特許は訂正により削除され、本件特許の請求項3、4、14及び15に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
粘着剤および粘着テープ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォン、携帯ゲーム機器、タブレット型PC、電子ペーパーなどの携帯デバイスは、薄膜軽量化に加えて、斬新なデザインが採用されている。そのため、これまで携帯デバイスに搭載されているディスプレイは平面が普通であったところ、湾曲させたカバーガラスを有するディスプレイが開示されている(特許文献1参照)。このように新たなディスプレイに対応した部材が求められている。
【0003】
次に、携帯デバイスに搭載されているディスプレイ等の光学部品は、傷つき易く、埃が付着し易いため、その製造工程中、および消費者に届くまでの間、一時的に表面を保護するため粘着テープが使用されている。また、ICチップ等の電子部品は、精密な加工がされるため製造ラインでの搬送時には、電池部品を粘着テープ状に仮固定し、工程終了後は軽い力で電子部品をピックアップできる部品保護用の粘着テープが使用されている。
これら粘着テープは、剥離することが前提なので剥離時に光学部品等に破損等を生じさせない低い粘着力が必要であった。また、製造工程後に粘着テープを剥離した際に光学部材等を汚染し難い性質が必要もあった。そのためこれらの適性を満たす粘着テープの粘着剤層形成に使用する粘着剤が求められていた。
【0004】
そこで表面保護粘着テープに使用する粘着剤として、また、特許文献2では、溶解度パラメーター(SP値)が8.5未満の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、官能基含有モノマー等を共重合させたアクリルポリマーと、溶解度パラメーターが8.5以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、官能基含有モノマー等を共重合させたアクリル系ポリマー、および架橋剤を含有したアクリル粘着剤が開示されている。また、特許文献3では、水酸基を2個以上有するポリオールと多官能芳香族系イソシアネート化合物を含有する組成物を硬化させて得られるポリウレタン系樹脂を含むウレタン粘着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-125118号公報
【特許文献3】特開2005-89573号公報
【特許文献4】特開2014-28876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の粘着剤のうちアクリル粘着剤は、平坦面に対する再剥離は可能であったが、例えばガラス面等の部材に対する濡れ性が低く、粘着界面に気泡を巻き込み易いため表面を保護し切れない問題があった。また、アクリル粘着剤の粘着力を高く設定して湾曲部(曲面部)への密着性を改善すると、糊残りの汚染等の再剥離性が低下し易い問題があった。また、ウレタン粘着剤は、ガラス面等の部材に対する濡れ性は得られたが、湾曲面に対する密着性が低く経時で粘着テープとガラス面との間に浮きや剥がれが生じる問題があった。またウレタン粘着剤はアクリル粘着剤よりも分子量が低いことから加工性に乏しい問題もあった。
【0007】
本発明は、例えば、ガラス等の被保護部材に対する濡れ性および曲面に対する密着性および加工性が良好で、再剥離性が良好な粘着テープの粘着剤層を形成できる粘着剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の粘着剤は、ウレタンプレポリマー(A)、多官能ポリオール(B)、イソシアネート硬化剤(C)を含み、
前記ウレタンプレポリマー(A)は、ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.9のモル比で反応させた、分子量分散度が4?12のポリマーである。
【発明の効果】
【0009】
上記の本発明によれば、ポリオール(a)とポリイソシアネート(b)との官能基比率を所定の範囲で反応させることで、分子量分散度が高いウレタンプレポリマー(A)を得ることができた。このウレタンプレポリマー(A)は、低分子量成分が、粘着剤層全体の応力緩和に寄与することで、曲面に対する密着性に向上に寄与し、さらに濡れ性の向上に寄与する効果に加え、糊残りが生じ難いといった再剥離性が向上する効果が得られた。
【0010】
本発明により、例えば、ガラス等の被保護部材に対する濡れ性および曲面に対する密着性および加工性が良好で、糊残りを抑制した粘着テープの粘着剤層を形成できる粘着剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について詳細に説明する前に用語を定義する。まず、シート、フィルムおよびテープは同義語である。湾曲部は、曲面部ともいう。分子量分散度とは、重量平均分子量を数平均分子量で除算した値である。NCO/OHは、イソシアネート基のモル数を水酸基のモル数で除算した値である。被保護部材とは、粘着テープを貼り付ける相手方をいい。被着体ともいう。加工性は、粘着シートをカッターナイフで切った時の刃汚れをいい、断裁性ともいう。
【0012】
本発明の粘着剤は、ウレタンプレポリマー(A)、多官能ポリオール(B)、イソシアネート硬化剤(C)を含み、
前記ウレタンプレポリマー(A)は、ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.9のモル比で反応させた、分子量分散度が4?12のポリマーである。
【0013】
本発明の粘着剤は、塗工により粘着剤層を形成し、基材を備えた粘着テープとして使用することが好ましい。また前記粘着テープは、基材(芯材ともいう)の両面に粘着剤層を形成し両面粘着テープとして使用することもできる。
【0014】
本発明の粘着剤においてウレタンプレポリマー(A)は、ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.9のモル比で反応させた、分子量分散度が4?12のポリマーである。
【0015】
ポリオール(a)は、少なくとも2つ以上の水酸基を有する公知のポリオールが用いられる。例えば、ポリアクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ひまし油系ポリオール等が挙げられる。これらの中でも、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオールが好ましい。なお、ポリオールを2種類以上併用すると分子量分散度の調整が容易になる。
【0016】
ポリエステルポリオールは、例えば、酸成分と、グリコール成分ないしポリオール成分とのエステル化反応等の公知の合成法で得ることができる。酸成分は、例えばコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸等が挙げられる。
グリコール成分は、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3’-ジメチロールヘプタン、ブチルエチルペンタンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
ポリオール成分は、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0017】
ポリエステルポリオールの分子量は、任意の分子量を選択できるところ、数平均分子量が500?5,000のポリエステルポリオールが好ましい。数平均分子量を前記範囲にすると合成時の反応性が良好になり、ウレタンプレポリマー(A)の凝集力がより向上する。
【0018】
ポリエーテルポリオールは、例えば水、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の低分子量ポリオールを開始剤として使用し、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン等のオキシラン化合物を重合させる等の公知の合成法で得ることができる。このように得られたポリエーテルポリオールは、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が好ましい。
ポリエーテルポリオールの分子量は、任意の分子量を選択できるところ、数平均分子量1,000?5,000が好ましい。
【0019】
また、本発明では必要に応じてポリオール(a)の一部を他の化合物に置き換えて使用できる。例えばエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルペンタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のグリコール類、エチレンジアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン等の多価アミン類に置き換えて併用することができる。
【0020】
ポリエーテルポリオールは、2つの水酸基を有するポリオールが好ましいところ、1分子中に少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを一部用いることにより、これにより粘着力と再剥離性のバランスを取リ易くなる。
3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを使用する場合、その数平均分子量は1,000?5,000が好ましく、2,000?5,000がより好ましい。数平均分子量を所定の範囲にすることでウレタンプレポリマー(A)の合成時に過不足無い反応速度が得られ、その凝集力が向上する。
【0021】
ポリカプロラクトンポリオールは、例えば、ε-カプロラクトン、σ-バレロラクトン等の環状エステルモノマーを開環重合して合成したポリオールが挙げられる。
【0022】
ポリカプロラクトンポリオールの分子量は、任意の分子量を選択できるところ、数平均分子量500?5,000が好ましい。数平均分子量を前記範囲にすると合成時の反応性が良好になり、ウレタンプレポリマー(A)の凝集力がより向上する。
【0023】
ポリカーボネートポリオールは、例えば、上記グリコール成分とホスゲンとを重縮合反応させて得られるポリカーボネートポリオール;上記ポリオール成分と、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジブチル、エチルブチル炭酸、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジフェニル、炭酸ジベンジル等の炭酸ジエステルとをエステル交換縮合させて得られるポリカーボネートポリオール;上記ポリオール成分を2種以上併用して得られる共重合ポリカーボネートポリオール;これらのポリカーボネートポリオールとカルボキシル基含有化合物とをエステル化反応させて得られるポリカーボネートポリオール;これらのポリカーボネートポリオールとヒドロキシル基含有化合物とをエーテル化反応させて得られるポリカーボネートポリオール;これらのポリカーボネートポリオールとエステル化合物とをエステル交換反応させて得られるポリカーボネートポリオール;
上記各種ポリカーボネートポリオールとジカルボン酸化合物とを重縮合反応させて得られるポリエステル系ポリカーボネートポリオール;上記各種ポリカーボネートポリオールとアルキレンオキサイドとを共重合させて得られる共重合ポリエーテル系ポリカーボネートポリオール;等が挙げられる。
【0024】
ポリカーボネートポリオールの分子量は、任意の分子量を選択できるところ、数平均分子量500?5,000が好ましい。数平均分子量を前記範囲にすると合成時の反応性が良好になり、ウレタンプレポリマー(A)の凝集力がより向上する。
【0025】
ポリオール(a)は、単独または2種類以上を併用できるところ、ポリオール(a)を2種類以上併用することが好ましい。これによりウレタンプレポリマー(A)の分子量分散度を調整し易くなることで、凝集力の調整も容易になるため、粘着力および濡れ性をより向上できる。ポリオール(a)を併用する場合、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオールのうち2種以上を使用することが好ましい。また、併用する場合、ポリエステルポリオールは、ポリオール(a)中に10?90モル%含むことが好ましい。同様にポリエーテルポリオールは、ポリオール(a)中に20?80モル%含むことが好ましい。同様にポリカーボネートポリオールは、ポリオール(a)中に5?50モル%含むことが好ましい。同様にポリカプロラクトンポリオールは、ポリオール(a)中に5?50モル%含むことが好ましい。
【0026】
ポリイソシアネート(b)は、例えば芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等公知の化合物を使用できる。
【0027】
芳香族ポリイソシアネートは、例えば1,3-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、2,4,6-トリイソシアネートトルエン、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート等が挙げられる。
【0028】
脂肪族ポリイソシアネートは、例えばトリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0029】
芳香脂肪族ポリイソシアネートは、例えばキシリレンジイソシアネート、ω,ω’-ジイソシアネート-1,3-ジメチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジメチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン、1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0030】
脂環族ポリイソシアネートは、例えば3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0031】
また、3官能イソシアネートとして、これらのポリイソシアネートを変性したトリメチロールプロパンアダクト体、これらのポリイソシアネートと水とを反応させたビュウレット体、これらのポリイソシアネートを変性したイソシアヌレート環を有する3量体等を併用することができる。
ポリイソシアネート(b)は、単独または2種類以上を併用できる。
ポリイソシアネート(b)は、脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環族ポリイソシアネートが好ましく、脂肪族ポリイソシアネートがより好ましい。これらのポリイソシアネートを使用すると粘着剤層の黄変が抑制できる。
【0032】
本発明においてウレタンプレポリマー(A)は、ポリオール(a)とポリイソシアネート(b)とをNCO/OHのモル比0.5?0.9で反応させて、分子量分散度を(Mw/Mn)4?12とすることが好ましく、6?10がより好ましい。分子量分散度が4?12になるとウレタンプレポリマー(A)とポリオール(B)との溶解性が向上し、透明性が高い粘着剤層が得易くなり、曲面部に対する密着性が向上し、糊残りも抑制できる。
【0033】
ウレタンプレポリマー(A)の重量平均分子量は、3万?50万が好ましく、5万?40万がより好ましい。重量平均分子量が3万?50万であると塗工性がより向上する。
【0034】
ウレタンプレポリマー(A)は、ポリオール(a)とポリイソシアネート(b)とを逐次重合することで得られる。前記重合反応には、触媒の使用の有無は問わない。触媒を使用する場合は、例えば3級アミン系化合物、有機金属系化合物等が挙げられる。
【0035】
触媒の使用量は、ポリオール(a)とポリイソシアネート(b)の合計100重量部に対して0.01?1重量部が好ましい。
【0036】
3級アミン系化合物は、例えばトリエチルアミン、トリエチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7(DBU)等が挙げられる。
【0037】
有機金属系化合物は、例えば錫系化合物、非錫系化合物等が挙げられる。
【0038】
錫系化合物は、例えばジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジブロマイド、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫ジラウレート(DBTDL)、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫スルファイド、トリブチル錫スルファイド、トリブチル錫オキサイド、トリブチル錫アセテート、トリエチル錫エトキサイド、トリブチル錫エトキサイド、ジオクチル錫オキサイド、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫トリクロロアセテート、2-エチルヘキサン酸錫等が挙げられる。
【0039】
非錫系化合物は、例えばジブチルチタニウムジクロライド、テトラブチルチタネート、ブトキシチタニウムトリクロライド等のチタン系化合物、オレイン酸鉛、2-エチルヘキサン酸鉛、安息香酸鉛、ナフテン酸鉛等の鉛系化合物、2-エチルヘキサン酸鉄、鉄アセチルアセトネート等の鉄系化合物、安息香酸コバルト、2-エチルヘキサン酸コバルト等のコバルト系化合物、ナフテン酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸亜鉛等の亜鉛系化合物、ナフテン酸ジルコニウム、カルボン酸ビスマス等が挙げられる。
【0040】
これらの触媒を使用する場合、2種類のポリオール(a)を使用した合成反応は、両者の反応性が相違するため、単独の触媒を使用して合成すると、ゲル化や、反応溶液が白濁する問題が生じやすい。そこで2種類のポリオール(a)を使用した合成反応は、2種類以上の触媒を用いると、反応速度、およびポリオール(a)に応じた触媒の選択性等の制御可能になるため好ましい。触媒の組み合わせは、3級アミンと有機金属系化合物、または錫系化合物と非錫系化合物、錫系化合物と錫系化合物等が挙げられる。これらの中でも錫系化合物と錫系化合物が好ましく、ジブチル錫ジラウレートと2-エチルヘキサン酸錫の組み合わせがより好ましい。ジブチル錫ジラウレートと2-エチルヘキサン酸錫を配合する割合は、重量比で2-エチルヘキサン酸錫の配合量をジブチル錫ジラウレートの配合量で除算した数値が1未満であり、0.2?0.6がより好ましい。配合比が1未満になることで重合反応性が向上し、所望の分子量にポリマーが得易くなる。
【0041】
ポリオール(a)とポリイソシアネート(b)との合成反応で触媒を使用する場合の温度は100℃未満が好ましく、85℃?95℃がより好ましい。100℃未満の温度で重合すると反応速度および分子構造の制御が容易になり、所定の分子量のウレタンプレポリマー(A)が得易くなる。
【0042】
ウレタンプレポリマーの合成は、無触媒でも可能である。その場合、反応温度を100℃以上に設定することが好ましく、110℃以上がより好ましい。
【0043】
ウレタンプレポリマー(A)の合成は、(1)ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)を全量フラスコに仕込む方法、(2)ポリオール(a)フラスコに仕込んでポリイソシアネート(b)を滴下する添加する方法が好ましいところ、前記(2)の方法を使用すると反応制御が容易になる。
【0044】
ウレタンプレポリマー(A)を合成する際の溶媒は、公知の有機溶剤を使用できる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらの中でもウレタンプレポリマー(A)の溶解性、および塗工性の面からトルエンが好ましい。
【0045】
有機溶剤は、後述する希釈溶剤と同様の有機溶剤を使用できる。有機溶剤は、単独または2種類以上を併用できる。
【0046】
本発明において多官能ポリオール(B)は、ウレタンプレポリマー(A)とともにイソシアネート硬化剤(C)と反応して、粘着剤層の架橋構造の中で架橋密度の高いセグメントを形成する。この架橋密度の高いセグメントは、ウレタンプレポリマー(A)との相乗効果により、粘着剤層の応力緩和が優れるため被着体へ密着しつつ粘着力を高め、再剥離性向上と、曲面部での密着力向上とを高いレベル両立する。
多官能ポリオール(B)は、既に説明したポリオール(a)を使用できる。多官能ポリオール(B)の粘着剤への導入は、別途添加することが好ましい。または、ウレタンプレポリマー(A)の合成で残存した未反応のポリオール(a)を多官能ポリオール(B)とすることもできる。
多官能ポリオール(B)は、3以上の水酸基を有するポリオール(a)を使用することが好ましい。
【0047】
多官能ポリオール(B)は、ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して、2?30重量部含むことが好ましく、4?20重量部がより好ましい。多官能ポリオール(B)を2?30重量部含むことで架橋構造中に架橋密度の高いセグメントの割合を適切に調整できるため粘着力の向上、および粘着剤層の透明性がより向上する。
【0048】
本発明においてイソシアネート硬化剤(C)は、既に説明したポリイソシアネート(b)が使用できる。ポリイソシアネート(b)の中でも3官能イソシアネートがより好ましい。
【0049】
イソシアネート硬化剤(C)は、ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して、3?30重量部配合することが好ましく、10?20重量部がより好ましい。イソシアネート硬化剤(C)を3?30重量部配合することで粘着剤層の凝集力が向上し、粘着力もより向上する。
【0050】
本発明の粘着剤は、さらに脂肪酸エステル(D)を含むことができる。脂肪酸エステル(D)は、粘着剤の再剥離性および濡れ性を向上させる。脂肪酸エステル(D)は、炭素数が4?18の酸と炭素数が20以下のアルコールで構成されるエステルが好ましく、(1)炭素数が8?18の一塩基酸または多塩基酸と、炭素数が18以下の分岐アルコールとのエステル、および(2)炭素数が14?18の不飽和脂肪酸または分岐酸と、4価以下のアルコールとのアルコールのエステル、および(3)炭素数が4?13の一塩基酸と、炭素数が20以下のジオールとのエステルがより好ましい。
【0051】
(1)炭素数が8?18の一塩基酸または多塩基酸と、炭素数が18以下の分岐アルコールとのエステルは、例えばラウリン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソステアリル、ステアリン酸イソセチル、オレイン酸オクチルドデシル、アジピン酸ジイソステアリル、セバシン酸ジイソセチル、トリメリト酸トリオレイル、トリメリト酸トリイソセチル等が挙げられ、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル等が挙げられる。これらの中でもミリスチン酸イソプロピルが好ましい。
【0052】
(2)炭素数が14?18の不飽和脂肪酸または分岐酸と、4価以下のアルコールとのアルコールのエステルに使用する炭素数が14?18の不飽和脂肪酸ないしは分岐酸は、例えばミリストレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソパルミチン酸又はイソステアリン酸等が挙げられる。
また同様に4価以下のアルコールは、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン等が挙げられる。
【0053】
(3)炭素数が4?13の一塩基酸と、炭素数が20以下のジオールとのエステルは、例えばジブチル酸ポリエチレングリコール、ジヘキサン酸ポリエチレングリコール、ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコール、ブチル酸/トリデシル酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中でもジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコールが好ましい。
【0054】
脂肪酸エステル(D)は、分子量(式量)200?700が好ましい。分子量が前記範囲にあるとウレタンプレポリマー(A)との相溶性が向上するため透明性および凝集力が向上することで再剥離性が向上し、被着体を汚染し難い。
【0055】
脂肪酸エステル(D)は、ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して、5?50重量部含有することが好ましく、10?30重量部がより好ましい。脂肪酸エステル(D)が前記範囲にあることで、凝集力と再剥離性がより向上する。
【0056】
イソシアネート硬化剤(C)を使用した架橋反応には、硬化促進剤と硬化遅延剤を使用することができる。
硬化促進剤は、既にウレタンプレポリマー(A)で説明した触媒を使用できる。硬化促進剤は、単独または2種類以上を併用できる。
【0057】
硬化促進剤は、ウレタンプレポリマー(A)および多官能ポリオール(B)の合計量100重量部に対して、0.0005?0.1重量部使用するのが好ましく、0.001?0.05重量部がより好ましく、0.003?0.03重量部がさらに好ましく、0.005?0.01重量部が特に好ましい。
【0058】
硬化遅延剤は、イソシアネート基と会合し、イソシアネート基をマスクすることで、イソシアネート硬化剤(C)を配合した後の粘着剤のポットライフを伸ばし、塗工時の乾燥温度で硬化遅延剤が解離しイソシアネート基に戻る化合物である。
硬化遅延剤は、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エステル等が挙げられる。
【0059】
硬化遅延剤は、ウレタンプレポリマー(A)および多官能ポリオール(B)の合計量100重量部に対して、0.005?1重量部使用することが好ましく、0.01?0.7重量部がより好ましく、0.03?0.3重量部がさらに好ましく、0.05?0.1重量部が特に好ましい。
【0060】
本発明の粘着剤は、さらに酸化防止剤を含むことができる。酸化防止剤は、ラジカル連鎖禁止剤(1次酸化防止剤)、過酸化物分解剤(2次酸化防止剤)が好ましい。酸化防止剤を含むと高温での保持力がより向上する。
ラジカル連鎖禁止剤は、フェノール系化合物、アミン系化合物等が挙げられる。また過酸化物分解剤は、硫黄系化合物、リン系化合物等が挙げられる。
【0061】
フェノール系化合物は、モノフェノール系化合物、ビスフェノール系化合物、高分子型フェノール系化合物が挙げられる。
モノフェノール系化合物は、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリン-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。
【0062】
ビスフェノール系化合物は、例えば2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
【0063】
高分子型フェノール系化合物(モノフェノール系化合物)は、例えば1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H、3H、5H)トリオン、トコフェノール等が挙げられる。市販品ではIRGANOX L135(BASF社製)が樹脂との相溶性が良いため好ましい。
【0064】
硫黄系化合物は、例えばジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’-チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0065】
リン系化合物は、例えばトリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト等が挙げられる。
【0066】
本発明の粘着剤は、さらに光安定剤を使用できる。光安定剤は、公知の化合物を使用できるところ特にヒンダードアミン系化合物が好ましい。
【0067】
本発明の粘着剤に使用できる希釈溶剤は、公知の有機溶剤を使用できる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン、キシレン等が挙げられる。
希釈溶剤は、単独または2種類以上を併用できる。
【0068】
本発明の粘着剤は、必要に応じてタルク、炭酸カルシウム、酸化チタン等の充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、消泡剤、光安定剤等の添加剤を配合できる。
【0069】
本発明の粘着剤は、粘着剤をゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定した分子量の排出曲線において、分子量1万を境界として高分子量側に一つのピーク、かつ低分子量側に一つのピークを有することが好ましい。粘着剤の排出曲線がこれらのピークを有することで断裁性と曲面部適性を両立させやすい。なお、前記記載は、高分子側および低分子量側にそれぞれ2つ以上のピークが存在することを妨げない。
【0070】
本発明の粘着剤は、粘着剤をゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定した分子量の排出曲線において、分子量分布全体に占める高分子量成分と低分子量成分の比率が、分子量1万を境界として高分子量成分の面積70?98%、かつ低分子量成分の面積2?30%であることが好ましく、高分子量成分の面積80?96%、かつ低分子量成分の面積が4?20%であることがより好ましい。分子量分布の高分子量成分と低分子量成分の面積比は適切な範囲になることで断裁性と曲面部適性を両立させやすい。なお、高分子量成分(高分子量側)の基準となる範囲は、分子量が1万?200万である。また、低分子量成分(低分子量側)の基準となる範囲は、分子量が1000?1万である。
上記の高分子量成分と低分子量成分をこれらのように含む粘着剤を作製する方法は、2種類のウレタプレポリマーを配合する方法、高分子量成分としてウレタンプレポリマー(A)、低分子量成分として多官能ポリオール(B)を配合する方法、ウレタプレポリマーを2段階で合成する方法等、公知の方法を使用できる。
【0071】
本発明の粘着シートは、基材と、粘着剤から形成した粘着剤層とを備えていることが好ましい。粘着剤層は、粘着剤を塗工することで形成できる。なお、本明細書で「シート」、「テープ」および「フィルム」は同義語である。
【0072】
基材は、例えばプラスチック、紙、金属箔などが挙げられる。基材の形状はシート、フィルム、発泡体等が挙げられる。
【0073】
また基材は、表面に易接着処理をすることで粘着剤層の密着性を向上できる。易接着処理は、アンカーコート剤を塗布する湿式処理、およびコロナ放電を行う乾式処理が好ましく、適宜選択できる。
【0074】
粘着剤の塗工は、剥離性シート上に粘着剤を塗工して粘着剤層を形成し基材と貼り合わせる方法、および基材上に粘着剤を塗工して粘着剤層を形成し剥離性シートと貼り合わせる方法が一般的である。
【0075】
粘着剤の塗工法は、例えばロールコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、リバースコーター法、シルクスクリーン法、グラビアコーター法等の公知の方法が使用できる。塗工に際して乾燥することが好ましい。乾燥は、例えば熱風オーブン、赤外線ヒーター等の公知の乾燥装置を使用できる。
【0076】
粘着剤層の厚みは、適宜調整できるところ、通常0.1?200μm程度である。
【0077】
本発明の粘着テープは、ディスプレイやガラス等の傷つき易い部材の製造時や運搬時の表面保護用途、電子部品製造時の搬送用途で好ましく使用できるところ、粘着テープとして一般的な用途に広く使用できる。
【実施例】
【0078】
以下に、本発明を実施例で具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。なお例中、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0079】
合成例で使用した原料を以下に示す。
【0080】
<ポリオール(a)>
(a-1):Kuraray Polyol P-1010(ポリエステルポリオール、数平均分子量Mn1000、水酸基数2、クラレ社製)
(a-2):Kuraray Polyol P-2010(ポリエステルポリオール、数平均分子量Mn2000、水酸基数2、クラレ社製)
(a-3):Kuraray Polyol P-3010(ポリエステルポリオール、数平均分子量Mn3000、水酸基数2、クラレ社製)
(a-4):サンニックス PP-2000(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn2000、水酸基数2、三洋化成工業社製)
(a-5):サンニックス GP-1500(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn1500、水酸基数3、三洋化成工業社製)
(a-6):サンニックス GP-3000(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn3000、水酸基数3、三洋化成工業社製)
(a-7):プラクセル 220N(ポリカプロラクトンポリオール、数平均分子量Mn2000、水酸基数2、ダイセル社製)
(a-8):デスモフェン 2020E(ポリカーボネートポリオール、数平均分子量Mn2000、水酸基数2、住化バイエルウレタン社製)
<ポリイソシアネート(b)>
(b-1):ヘキサメチレンジイソシアネート(東ソー社製)
(b-2):タケネート 500(キシリレンジイソシアネート、三井化学社製)
【0081】
(合成例1)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた4口フラスコにポリエステルポリオール(a-1)50重量部、ポリエーテルポリオール(a-6)850重量部、ヘキサメチレンジイソシアネートをNCO/OHが0.5になるように仕込み、トルエン650重量部、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.1重量部、2-エチルヘキサン酸錫0.25重量部を加えて、90℃まで徐々に昇温し2時間反応を行った。IRで残存イソシアネート基の消滅を確認した上で冷却し反応を終了することでウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたウレタンプレポリマー溶液の性状は、不揮発分:60%、重量平均分子量(Mw):61000、分子量分散度6であった。
【0082】
(合成例2?8、11?12)
原料を表1に記載された種類・量に置き換えた以外は、合成例1と同様の方法で行うことで、それぞれ合成例2?8、11?12のウレタンプレポリマーを得た。
【0083】
<分子量測定>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分散度(Mw/Mn)、分子量1万を境界とした高分子量側と低分子量側のピーク数、および高分子量成分/低分子量成分比率(%)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)の測定で求めたポリスチレン換算の数値であり、測定条件は以下のとおりである。
GPC:SCL‐6B(島津製作所社製)を使用して、カラム(昭和電工社製KF‐805L、KF‐803L、KF‐802を直列に接続)の温度を40℃として、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、流速を0.2ml/分とし、検出をRI(示差屈折計)、試料濃度を0.02%とし、標準試料としてポリスチレンを用いて測定した。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例は以下の原料を使用した。
<ポリオール(B)>
(B-1):アデカポリエーテル G700(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn700、官能基数3、ADEKA社製)
(B-2):アデカポリエーテル G1500(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn1500、官能基数3、ADEKA社製)
(B-3):アデカポリエーテル G3000B(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn3000、官能基数3、ADEKA社製)
(B-4):アデカポリエーテル AM502(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn5000、官能基数3、ADEKA社製)
(B-5):アデカポリエーテル AM702(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn7000、官能基数3、ADEKA社製)
【0086】
<イソシアネート硬化剤(C)>
(C-1):コロネート HL(ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体 不揮発分75%、東ソー社製)
(C-2):スミジュール N-3300(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体 不揮発分100%、住化バイエルウレタン社製)
【0087】
<脂肪酸エステル(D)>
(D-1):パルミチン酸イソプロピル
(D-2):ミリスチン酸イソプロピル
(D-3):オレイン酸メチル
【0088】
(実施例1)
合成例1のウレタンプレポリマー100重量部、多官能ポリオール(B-2)2重量部、イソシアネート硬化剤(C-1)を15重量部、脂肪酸エステル(D-1)を25.0重量部、高分子フェノール系酸化防止剤IRGANOX L 135(BASF社製)0.3重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤TINUVIN 571(BASF社製)0.3重量部、ヒンダードアミン系光安定剤TINUVIN 765(BASF社製)0.3重量部、溶剤として酢酸エチルを適量配合し、ディスパーで攪拌することで粘着剤を得た。得られた粘着剤を、基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(ルミラーT-60 東レ社製)に乾燥後の厚みが20μmになるように塗工し、100℃で2分間乾燥し、厚さ38μmの剥離ライナー(シリコーン剥離層)を貼り合わせた。次いで室温で1週間放置し、粘着テープを得た。
【0089】
(実施例2?5、7、8、及び11?13、参考例6、比較例1)
原料を表2に記載された種類・量に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で行うことで、それぞれ実施例2?5、7、8、及び11?13、参考例6ならびに比較例1の粘着テープを得た。
【0090】
(比較例6)
プレミノール S3011(ポリエーテルポリオール、数平均分子量Mn10000、官能基数3、旭硝子社製)を80重量部、サンニックス GP-1500を20重量部、スミジュール N-3300を25重量部、触媒としてナーセム第2鉄(日本化学産業社製)0.04重量部、酢酸エチル(希釈溶剤)266重量部を配合し、ディスパーで撹拌し、粘着剤を得た。得られた粘着剤を、基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートに乾燥後の厚みが20μmになるように塗工し、温度130℃・時間2分の条件で乾燥し、厚さ38μmの剥離ライナーを貼り合わせた。次いで室温で1週間放置し、粘着テープを得た。
【0091】
得られた粘着テープを下記項目で評価した。
【0092】
<曲面部適性> 得られた粘着テープを幅25mm・長さ100mmの大きさに準備し測定試料とした。次いで23℃・50%RHの雰囲気下、剥離ライナーを剥がして、露出した粘着剤層をポリプロピレン製の円柱(直径15mm)の円周に沿って、円周の半周分の長さに相当する幅10mmの粘着テープ試料を貼り付け、3日後に測定試料の浮き状態を観察した。評価基準は以下の通りである。
○:浮きが無く、測定試料が密着している。優れている
△:1mm以下の浮き、わずかに端部が浮いている。実用可。
×:1mm超の浮き、実用不可。
【0093】
<粘着力>
得られた粘着テープを幅25mm・長さ100mmの大きさに準備し測定試料とした。次いで23℃・50%RHの雰囲気下、剥離ライナーを剥がして、露出した粘着剤層をガラス板に貼着し、2kgロールで圧着した後、24時間放置した。その後、JISZ0237に準拠し、引張試験機を用いて、剥離速度300mm/min、剥離角度180°の条件で粘着力を測定した。評価基準は以下の通りである。
○:50mN/25mm未満 優れている
△:50mN/25mm以上、200mN/25mm未満 実用可。
×:200mN/25mm以上 実用不可。
【0094】
<再剥離性>
得られた粘着テープを幅25mm・長さ100mmの大きさに準備し測定試料とした。次いで23℃・50%RHの雰囲気下、剥離ライナーを剥がして、露出した粘着剤層ガラス板に貼着し、2kgロールで圧着した後、150℃環境下に1時間放置した。その後、23℃・50%RHの雰囲気にて30分空冷し、JISZ0237に準拠し、引張試験機を用いて、剥離速度300mm/min、剥離角度180°の条件で粘着力を測定した。評価基準は以下の通りである。
○:100mN/25mm未満 優れている。
△:100mN/25mm以上、400mN/25mm未満 実用可。
×:400mN/25mm以上 実用不可。
【0095】
<濡れ性>
得られた粘着テープを、幅50mm・長さ100mmの大きさに準備し測定試料とした。次いで23℃・50%RH雰囲気下、30分間放置した後、測定試料から剥離ライナーを剥がし、粘着テープの両端を手で持ちながら露出した粘着剤層の中心部をガラス板に接触させた後、手を離した。そして前記粘着テープの自重で粘着剤層全体がガラス板に密着するまでの時間を測定することでガラスに対する密着性を評価した。ガラス板と密着するまでの時間が短いほどガラスに対する親和性が良好であるため、ガラス部材を使用した製造工程でガラスを保護し易くなる。評価基準は以下の通りである。
○:密着まで3秒未満 優れている。
△:密着まで3秒以上、5秒未満 実用可。
×:密着まで5秒以上 実用不可。
【0096】
<断裁性>
得られた粘着テープの粘着剤層の表面をカッターナイフの刃で傷をつけ指で擦った時、粘着剤層から剥がれた凝集物が出るかどうかを目視で判定することで断裁性を評価した。目視は蛍光灯下にて行った。粘着剤層の凝集力が良好であれば凝集物は発生しない。評価は下記の基準にて行った。なお、断裁性で加工性の良否を判定できる。
○:凝集物が発生した。優れている。
×:凝集物が発生しない。実用不可。
【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタンプレポリマー(A)、多官能ポリオール(B)、イソシアネート硬化剤(C)を含み、
前記ウレタンプレポリマー(A)は、ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基とをNCO/OH=0.5?0.8のモル比で反応させた、分子量分散度が4?12のポリマーである粘着剤であって、
前記ポリオール(a)は、少なくともポリエーテルポリオールを含み、前記ポリエーテルポリオールは、少なくとも3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを含み、
前記多官能ポリオール(B)(但し、前記ポリオール(a)を除く。)は、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを、前記ウレタンプレポリマー(A)100重量部に対して2?8重量部含む粘着剤。
【請求項2】
前記ポリオール(a)に含まれる前記ポリエーテルポリオールが、数平均分子量1,000?5,000のポリエーテルポリオールを含む請求項1に記載の粘着剤。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記多官能ポリオール(B)が、数平均分子量1,000?5,000の、3以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを含む請求項1または2に記載の粘着剤。
【請求項6】
前記ポリオール(a)が、2種類以上のポリオールを含む請求項1、2または5に記載の粘着剤。
【請求項7】
前記ポリオール(a)が、ポリエステルポリオールまたは2つの水酸基を有するポリエーテルポリオールを含む請求項1、2、5または6いずれか1項に記載の粘着剤。
【請求項8】
前記ポリエーテルポリオールを、ポリオール(a)中に20?80モル%含む請求項1、2、または5?7いずれか1項に記載の粘着剤。
【請求項9】
さらに、脂肪酸エステル(D)を含み、前記脂肪酸エステル(D)が、炭素数が4?18の酸と炭素数が20以下のアルコールで構成されるエステルである請求項1、2、または5?8いずれか1項に記載の粘着剤。
【請求項10】
前記脂肪酸エステル(D)の分子量が、200?700である請求項9に記載の粘着剤。
【請求項11】
前記ポリイソシアネート(b)が、脂肪族ポリイソシアネートである請求項1、2、または5?10いずれか1項に記載の粘着剤。
【請求項12】
さらに、硬化促進剤および硬化遅延剤のうち1種以上を含むことを特徴とする請求項1、2、または5?11いずれか1項に記載の粘着剤。
【請求項13】
さらに酸化防止剤を含むことを特徴とする請求項1、2、または5?12いずれか1項に記載の粘着剤。
【請求項14】
(削除)
【請求項15】
(削除)
【請求項16】
基材と、請求項1、2、または5?13いずれか1項に記載の粘着剤から形成してなる粘着剤層とを備えた粘着テープ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-03-29 
出願番号 特願2016-51812(P2016-51812)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 55- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 牟田 博一西澤 龍彦▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 蔵野 雅昭
天野 宏樹
登録日 2016-10-07 
登録番号 特許第6014926号(P6014926)
権利者 東洋インキSCホールディングス株式会社 トーヨーケム株式会社
発明の名称 粘着剤および粘着テープ  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 秀和  

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