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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:131  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1351437
異議申立番号 異議2018-701067  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-27 
確定日 2019-05-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6348064号発明「効率の高いトランスジーン送達のためのウイルスベクター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6348064号の請求項1ないし55に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6348064号の請求項1?55に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年11月21日(優先権主張外国庁受理 2011年11月22日、2012年4月26日、2012年8月10日、ともに米国(US))を国際出願日とする国際出願であって、平成30年6月8日にその特許権の設定登録がなされ、同年6月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、同年12月27日に特許異議申立人 杉本里佳(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?55に記載された事項により特定される次のとおりものである(以下、特許第6348064号の請求項1?55に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件発明1」等という。また、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)。

「【請求項1】
AAVベクターと、AAV空キャプシドとを含む、被験体へ投与して、前記被験体における前記AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するためのAAVベクター処方物であって、前記AAVベクターが血液凝固因子をコードするトランスジーンを含み、かつ前記AAVベクター:前記AAV空キャプシドが、約1:1?1:10のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、AAVベクター処方物。
【請求項2】
AAVベクターと、AAV空キャプシドとを含む、前記AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するための薬学的処方物であって、前記AAVベクターが血液凝固因子をコードするトランスジーンを含み、かつ前記AAVベクター:前記AAV空キャプシドが、約1:1?1:10のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、薬学的処方物。
【請求項3】
前記トランスジーンが第IX因子をコードする、請求項1または2に記載の処方物。
【請求項4】
前記AAV空キャプシドが、細胞取り込みを低下させるか、または抑制するように化学的に改変される、請求項1または2に記載の処方物。
【請求項5】
前記AAV空キャプシドが、架橋剤で処理されるか、または細胞上に発現するAAV受容体への結合の低下もしくは減少を示す変異型キャプシドを含む、請求項1または2に記載の処方物。
【請求項6】
前記変異型キャプシドが、非荷電または疎水性残基と置換されている、ヘパラン硫酸プロテオグリカンの結合に寄与する1または複数のアルギニン残基を含む、請求項5に記載の処方物。
【請求項7】
前記変異型キャプシドが、1つ以上のアルギニン残基が位置451、448、530、585、または588のいずれかで置換されているAAV2を含む、請求項6に記載の処方物。
【請求項8】
前記変異型キャプシドが、1つ以上のアルギニン残基が位置451でシステインと、位置448でシステインと、位置530でアラニンと、位置585でアラニンと、または位置588でアラニンとのいずれかで置換されているAAV2を含む、請求項6に記載の処方物。
【請求項9】
前記トランスジーンが第VIII因子をコードする、請求項1または2に記載の処方物。
【請求項10】
前記AAVベクターが、AAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-rh74、-rh10、およびAAV-2i8からなる群から選択される血清型を有するか、またはAAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-rh74、-rh10、またはAAV-2i8 vp1、vp2、および/もしくはvp3キャプシド配列に少なくとも95%同一のキャプシド配列を含む、請求項1または2に記載の処方物。
【請求項11】
前記AAV空キャプシドが、AAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-rh74、-rh10、およびAAV-2i8からなる群から選択される血清型であるか、またはAAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-rh74、-rh10、またはAAV-2i8 vp1、vp2、および/もしくはvp3キャプシド配列に少なくとも95%同一のキャプシド配列を含む、請求項1または2に記載の処方物。
【請求項12】
前記AAV空キャプシドが、前記AAVベクターと比較して、インビボもしくはインビトロで細胞を形質導入する能力が低下しているか、または前記AAVベクターが、前記AAV空キャプシドと比較して、インビボまたはインビトロで細胞を形質導入する能力がより高い、請求項1または2に記載の処方物。
【請求項13】
前記細胞が、肝臓、膵臓、肺、中枢神経系もしくは末梢神経系の細胞、脳もしくは脊椎(spine)細胞、腎臓、眼、脾臓、皮膚、胸腺、精巣、肺、横隔膜、心臓(心臓の)、筋肉もしくは腰筋、または腸細胞、脂肪組織、筋肉、滑膜細胞、軟骨細胞、破骨細胞、上皮細胞、内皮細胞、または唾液腺細胞、内耳神経細胞、または造血系細胞;または肝臓細胞、膵臓、肺、中枢神経系もしくは末梢神経系の細胞、脳もしくは脊椎細胞、腎臓、眼、脾臓、皮膚、胸腺、精巣、肺、横隔膜、心臓(心臓の)、筋肉もしくは腰筋、もしくは腸細胞、脂肪組織、筋肉、滑膜細胞、軟骨細胞、破骨細胞、上皮細胞、内皮細胞、もしくは唾液腺細胞、内耳神経細胞、もしくは造血系細胞へ発生もしくは分化する多能性前駆細胞もしくは複能性前駆細胞などの幹細胞を含む、請求項12に記載の処方物。
【請求項14】
前記細胞が、肝臓の肝実質細胞もしくは類洞内皮細胞、β島細胞、神経細胞、グリア細胞、もしくは上衣細胞、網膜細胞、内分泌細胞、白色、褐色、もしくはベージュ脂肪組織細胞、線維芽細胞、血球もしくはリンパ球;または肝実質細胞もしくは類洞内皮細胞、β島細胞、神経細胞、グリア細胞、もしくは上衣細胞、網膜細胞、内分泌細胞、白色、褐色、もしくはベージュ脂肪組織細胞、線維芽細胞、血球もしくはリンパ球へ発生もしくは分化する幹細胞、多能性前駆細胞もしくは複能性前駆細胞を含む、請求項12に記載の処方物。
【請求項15】
前記AAVベクターとAAV空キャプシド(AAVベクター:AAV空キャプシド)が、約1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、または1:10のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、請求項1または2に記載の処方物。
【請求項16】
前記AAVベクターとAAV空キャプシド(AAVウイルスベクター:AAV空キャプシド)が、約1:1?1:9のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、請求項1または2に記載の処方物。
【請求項17】
薬学的に許容され得る担体中に請求項1に記載の処方物を含む、AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するための薬学的組成物。
【請求項18】
架橋されたAAV空キャプシドを含む、AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するための組成物。
【請求項19】
架橋されたAAV空キャプシドを含む、AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するための薬学的組成物。
【請求項20】
前記AAV空キャプシドが、AAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-rh74、-rh10、およびAAV-2i8からなる群から選択される血清型を含むか、またはAAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-rh74、-rh10、またはAAV-2i8 vp1、vp2、および/もしくはvp3キャプシド配列に少なくとも95%同一のキャプシド配列を含む、請求項18または19に記載の組成物。
【請求項21】
血液凝固因子をコードするトランスジーンの細胞への形質導入を増大させるか、または改善するための組み合わせ物であって、前記トランスジーンがAAV遺伝子治療の目的で送達され、前記組み合わせ物が、以下:
a)前記トランスジーンを含むAAVベクターであって、細胞に投与されることを特徴とするAAVベクター;および
b)AAV空キャプシドであって、被験体に、前記トランスジーンの前記細胞への形質導入を増大させるか、または改善するのに有効な量で、投与されることを特徴とする、AAV空キャプシド、
を含み、そして
c)前記AAVベクター:前記AAV空キャプシドが、約1:1?1:10のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、組み合わせ物。
【請求項22】
血液凝固因子をコードするトランスジーンを含むAAVベクターに対する免疫応答を低下させるか、または抑制するための組み合わせ物であって、以下:
a)前記トランスジーンを含むAAVベクターであって、被験体に投与されることを特徴とするAAVベクター;および
b)AAV空キャプシドであって、前記被験体に、前記トランスジーンを含む前記AAVベクターに対する免疫応答を低下させるか、または抑制するのに有効な量で、投与されることを特徴とする、AAV空キャプシド、
を含み、そして
c)前記AAVベクター:前記AAV空キャプシドが、約1:1?1:10のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、組み合わせ物。
【請求項23】
前記細胞が被験体内にある、請求項21に記載の組み合わせ物。
【請求項24】
トランスジーンの被験体の細胞への送達を増大または改善するための組み合わせ物であって、有効量の請求項1または2に記載の処方物を含む、組み合わせ物。
【請求項25】
前記被験体が、前記AAVベクターに対する先在する免疫応答を有するか、または前記AAVベクターに対する免疫応答を発生する可能性が高い、請求項22、23、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項26】
前記被験体が、凝固障害を有する、請求項22、23、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項27】
前記血液凝固因子が、第IX因子、またはその活性化形態である、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項28】
前記血液凝固因子が、第VIII因子、またはその活性化形態である、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項29】
前記AAVベクターが、AAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-rh74、-rh10、およびAAV-2i8からなる群から選択される血清型を有するか、またはAAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-rh74、-rh10、もしくはAAV-2i8 vp1、vp2、および/もしくはvp3キャプシド配列に少なくとも95%同一のキャプシド配列を含む、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項30】
前記AAV空キャプシドが、AAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-rh74、-rh10、およびAAV-2i8からなる群から選択されるAAV血清型由来であるか、またはAAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-rh74、-rh10、もしくはAAV-2i8 vp1、vp2、および/もしくはvp3キャプシド配列に少なくとも95%同一のキャプシド配列を含む、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項31】
前記細胞がインビトロまたはインビボにあるものである、請求項21または23に記載の組み合わせ物。
【請求項32】
前記被験体がヒトである、請求項22、23、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項33】
前記AAV空キャプシドが、前記AAVベクターの前に、またはそれと実質的に同時に、前記被験体に投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項34】
前記AAV空キャプシドが、前記AAVベクターと混合される、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項35】
投与される前記AAVベクター 対 前記AAV空キャプシドが、約1:1?1:9の間のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、請求項21、22、または
24に記載の組み合わせ物。
【請求項36】
前記被験体が、約5×10^(10)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約4.5×10^(11)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約5×10^(11) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項37】
前記被験体が、約5×10^(10)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約5×10^(12)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約5.05×10^(12) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項38】
前記被験体が、約1×10^(11)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約9×10^(11)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約10×10^(11) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項39】
前記被験体が、約1×10^(11)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約1×10^(13)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約1.01×10^(13) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項40】
前記被験体が、約5×10^(11)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約2×10^(12)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約2.5×10^(12) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項41】
前記被験体が、約5×10^(11)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約4.5×10^(12)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約5×10^(12) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項42】
前記被験体が、約5×10^(11)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約1×10^(13)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約1.05×10^(13) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項43】
前記被験体が、約1×10^(12)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約4×10^(12)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約5×10^(12) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項44】
前記被験体が、約1×10^(12)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約9×10^(12)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約1×10^(13) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項45】
前記被験体が、約2×10^(12)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約8×10^(12)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約1×10^(13) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項46】
前記被験体が、約5×10^(12)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約5×10^(12)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約1×10^(13) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項47】
前記被験体が、約1×10^(13)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約1×10^(13)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約2×10^(13) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項48】
前記被験体が、約1×10^(13)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約4×10^(13)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約5×10^(13) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項49】
前記被験体が、約2×10^(13)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約4×10^(13)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約6×10^(13) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項50】
前記被験体が、約5×10^(13)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約5×10^(13)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約1×10^(14) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項51】
前記被験体が、約1×10^(14)のAAVベクターゲノム/キログラム(vg/kg)および約1×10^(14)のAAV空キャプシド/キログラム(cp/kg)、合計として、約2×10^(14) vg+cp/kgのAAVベクター/キャプシド用量を投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項52】
前記AAVベクター、または前記AAV空キャプシドが、全身性に、領域性に、もしくは局所性に、および/または注射を介して、注入を介して、もしくはカテーテルを介して投与されることを特徴とする、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項53】
前記AAVベクター、または前記AAV空キャプシドが、静脈内に、動脈内に、眼内に、脳室内に、くも膜下腔内に、槽内に、腹腔内に、関節内に、筋肉内に、皮下に、頭蓋内に、局所的に、経皮的に、皮内に、光学的に、非経口的に(例えば、経粘膜)、経口的に(例えば、経口摂取または鼻腔内または吸入)、投与されることを特徴とする請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項54】
前記AAVベクター:前記AAV空キャプシドが、約1:1?1:9のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、請求項1または2に記載の処方物、あるいは、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。
【請求項55】
前記AAVベクター:前記AAV空キャプシドが、約1:2?1:6のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、請求項1または2に記載の処方物、あるいは、請求項21、22、または24に記載の組み合わせ物。」

第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1.申立理由の概要
申立人は、甲第1?3号証を提出し、本件特許は、以下の申立理由1?3により、取り消されるべきものである旨主張している。なお、以下では、各甲号証を指して、それぞれ、単に「甲1」?「甲3」という。

(1)申立理由1(新規性)
本件発明1?3、15、16、22、27、35、54及び55は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由2(進歩性)
ア 申立理由2-1
本件発明1?55は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

イ 申立理由2-2
本件発明1?55は、甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由3(明確性)
本件発明1?20、22、24?30及び32?55は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2.証拠方法
(1)甲第1号証:Molecular Therapy,2006,Vol.13,No.4,p.823-828
(2)甲第2号証:特願2014-542594号(特許第6348064号)の拒絶理由通知書
(3)甲第3号証:Virology,2010,Vol.397,p.167-175

第4 甲号証の記載事項
甲1?3には、それぞれ以下の記載がある(下線は当合議体による。以下同様)。甲1及び甲3は外国語であるため、日本語訳文を記載する。

1.甲1
(1-1)(要約1行?4行)
「組換えアデノ随伴ウィルス(rAAV)の産生は、ベクターゲノムを含まない、相当量の空キャプシド又はウィルス様粒子(VLP)、ウィルスタンパク質シェルをもたらす。混入しているVLPは、細胞表面受容体について競合することによって形質導入を妨害し、そしてインビボで投与された場合、抗原負荷に寄与し、それはより強い免疫応答を引き出し得る。」

(1-2)(823頁左欄10行?824頁左欄11行)
「B型血友病患者において、凝固因子IXを発現するrAAV(最大10^(13)粒子/kg)を用いたヒト臨床試験が実施され、部分的ではあるが一過性の症状の改善をもたらした。したがって、これらの初期の研究から推定すると、出血傾向を完全に修復するには、10^(15)粒子以上のrAAV2が必要とされるであろう。より高い生物学的活性を有するセロタイプを使用することで用量は減らせ得るが、それでも、rAAV1と他のセロタイプの効率を比較した大型動物実験では、依然として大量のrAAV1がヒトへの適用に必要であることが示された。
rAAVは通常、HEK293細胞に2つ又は3つのプラスミド(逆方向末端反復(ITR)配列を欠くrep遺伝子及びcap遺伝子をコードするAAVヘルパープラスミド、ITR間に治療遺伝子を含むAAVベクタープラスミド及びアデノウイルスヘルパー遺伝子の最小セットであるE2A、VARNA、及びE4orf6を含むプラスミド)を用いて、プラスミドトランスフェクションすることによって作製される。構造的及び非構造的遺伝子、並びに1型AAV及び2型AAVのシスエレメントは高度に保存されているため、2型ITR間の目的の遺伝子を、1:1:10の化学量論でVP1、VP2及びVP3ポリペプチドから構成され、共発現される1型キャプシドにパッケージングすることが可能である。トランスフェクションしたHRK293細胞において、3つの構造的タンパク質の発現により、ベクターDNAの複製及びパッケージングとは無関係に、ウイルス様粒子(VLP)又は空キャプシドが形成される。粒子の成熟はベクターDNAの複製中に起こり、ベクターゲノムを有する粒子が出現する。しかしながら、ベクターDNAを獲得するVLPの画分には、細胞内の総粒子の微量成分が残存する。空粒子と充填された粒子の比率は、10:1から4:1の範囲にわたることがある。DNAペイロードがない場合、rAAVストックにVLPが存在すると、AAVベクターに対するインビボでのより強い免疫応答を引き起こすかもしれない抗原の供給源を提供することだけでなく、受容体結合、及び取り込みなどの細胞媒介性プロセスと競合することで効果が低下するだろう。それゆえ、rAAVベクターストックから空キャプシドを除去することが望ましい。」

(1-3)(824頁右欄28行?30行)
「我々の最終目標は、空の粒子を含まない大量の1型rAAV粒子を精製するためのクロマトグラフィー法を開発することである。」

(1-4)(828頁左欄5行?12行)
「要約すると、我々は1型AAVベクターから空キャプシドを選択的に除去する方法を報告する。クロマトグラフィー分離により、5%未満の空キャプシドが混入した純粋なrAAV1ストックを得た。この方法は、rAAV1の有効性を失うことなく空キャプシドを除去することができ、そして容易に大容量に拡張することができる。それは、大型動物又はヒトへの応用のための大量のrAAV1の精製に有用であろう。」

2.甲2
(2-1)(2頁7行?11行)
「引用文献1には、FIXを導入するためのAAV2と、該AAV2に対して約11倍量の空AAV2キャプシドの混合組成物が、AAV2単独に比して、中和抗体による標的細胞における遺伝子導入効率の低下を顕著に改善すること、及び、空AAVキャプシドが抗AAV中和抗体の低減作用を有することが記載されている(第1816頁左欄2段落、Figure 6等)。」

3.甲3
(3-1)(要約)
「セロタイプ2のアデノ随伴ウイルス(AAV-2)ベクターによる治療的遺伝子導入は、既存の免疫を有する患者では妨げられる。最近、ウイルスキャプシドの重要な免疫原性アミノ酸残基を同定するために分子工学が用いられ、抗体認識が低下した変異体が作製された。本報では、ベクターの表現型を最適化するための、免疫原性部位におけるアミノ酸の同一性を精密に調整することの重要性を調査した。置換が抗体を回避する表現型を生じることが示された5つの位置でのコドンランダム化により、キャプシドライブラリーを作製した。このライブラリーをスクリーニングし、免疫を回避する変異体を単離することで、各位置での20個の天然アミノ酸の組み合わせの徹底的なスキャンが可能になり、完全にAAV-2を中和する血清又はIVIG濃度でインキュベートした場合において感染性を維持する変異体が得られた。同じ位置を異なる残基で置換して得られたクローンは、著しく異なる表現型を示し、アミノ酸置換の正確な選択が、免疫の回避、パッケージング能力、感染性及び指向性を最適化するための基本であることが実証された。」

(3-2)(170頁左欄3行?16行)
「キャプシド力価(1.6×10^(8)?8.2×10^(9)の範囲)、ゲノム力価(2.2×10^(6)?5.2×10^(8)の範囲)及びそれらの比率(3?23)は、AAV-2に匹敵したが、このことは、選択手順が、パッケージング工程を妨げる置換を有するクローンを排除することを示唆する。したがって、4回目の選択ラウンドで単離された8個のクローンは、2回目のラウンド後に選択されたものより平均して高いゲノム力価を生じ、同様に、非選択プールの中から選ばれたものよりも高い力価を有した(表2)。キャプシド力価は選択前後で同じままであったため、完全粒子の割合は選択中に増加した。注目すべきことに、最も低い力価をもたらした変異体は、置換残基のうち、2つのシステイン、1つのメチオニン及びアスパラギン酸を含んでいたが、これらはかさ高い(Cys及びMet)、あるいは酸性(Asp)であり、前のセクションで報告された観察結果に従い、キャプシドの適合性を妨げると予想される。」

(3-3)(172頁左欄1行?21行)
「選択したキャプシド変異体のデコイ効果
2つの変異体A11(S2で最良)及びH6(S1及びIVIGで最良)は最良のN50値を示したので、それらの感染性、パッケージング効率及び導入遺伝子発現効率とは無関係な、ヒト抗体に結合するそれらの能力についてさらに調べた。抗AAV-2抗体へのそれらの結合を定量するために、同量のGFP発現AAV-2ベクターを、異なる量のAAV-2、A11又はH6の空粒子と混合し、漸増量のS2と共にインキュベートした。形質導入率をフローサイトメトリーにより定量した(図4)。この設定では、空のビリオンは血清中に含まれる中和抗体に対するデコイとして働き、キャプシドに対するそれらの親和性に比例して血清の中和力を減少させる。得られたN50値をこのデータセットから推定した(表4)。AAV-2の空キャプシドの添加は、用量依存的な様式で、比例的にN50値を増加させたが(最高用量の空キャプシド添加後に11.51倍)、空のH6キャプシドの添加によって得られた増加はより弱く(8.53倍)、A11キャプシドの添加は有意な増加をもたらさなかった(1.63倍)。これらのデータから、wtは抗AAV-2抗体に効率的に結合するが、H6キャプシドは低い効率で結合し、A11キャプシドは認識を免れ、そして非常に非効率的なデコイであることが実証された。」

(3-4)(図4)



図4 AAV-2、A11及びH6変異体についてのデコイアッセイ。同量のAAV-2ベクターを、AAV-2(上)、H6(中央)又はA11(下)の5倍、10倍及び20倍の空粒子と混合した。S2の段階希釈物と共にインキュベートした後、Hela細胞を感染させ、48時間後に形質導入率を測定した。」

(3-5)(表4)
「表4 AAV2、H6及びA11空粒子のデコイ効率の分析

空粒子を添加しないで得られたN50と比較して、5倍、10倍又は20倍の空キャプシドを添加した後のN50値を図4及びx倍増加から推定した。
「Type of empty capsids」の訳:空キャプシドの型
「N50 increase(x-fold)」の訳:N50増加(x倍)」

(3-6)(174頁右欄下から25行?下から11行)
「形質導入アッセイ
48ウェルプレートに、2×104ヒーラ細胞を播種し、24時間後にヒト中和血清又はIVIGの連続希釈液と室温で2時間インキュベートした後、同じゲノム粒子、総キャプシド及びイオジキサノール、GFP発現AAVベクターの量を感染させた。48時間後、細胞を回収し、少なくとも5000個の細胞を分析して、GFP発現をフローサイトメトリーにより測定した。AAV2及び変異キャプシドのデコイ活性を測定するために、感染の24時間前に2×10^(4)個のAAV2ゲノム粒子に、10^(5)個、2×10^(5)個又は4×10^(5)個のAAV2又は突然変異体空粒子(A11及びH6)を加えた。形質導入率は、フローサイトメトリーによって48時間後に測定し、上記のように実施した。N50値は、Hillシグモイド曲線当てはめを使用してOrigin8ソフトウェアによって計算した。」

第5 当審の判断
1.申立理由1(新規性)について
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された発明
上記記載事項(1-2)の第2段落には、治療遺伝子を含むAAVベクタープラスミドを含む2つ又は3つのプラスミドを用いてHEK293細胞をトランスフェクトすることにより作製された組成物には、rAAVすなわちAAVベクター、及び空粒子すなわちAAV空キャプシドが含まれることが記載されている。そして、AAVベクター対AAV空キャプシドの比率が1:10から1:4であることが記載されている。そうすると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「AAVベクターとAAV空キャプシドとを含むAAVベクター組成物であって、前記AAVベクターが治療遺伝子を含み、かつ前記AAVベクター:前記AAV空キャプシドが、1:4?1:10のAAVベクター対AAV空キャプシドの比率にあるAAVベクター組成物。」(以下、「甲1発明」という。)

この点、申立人は、甲1には、B型血友病患者において、凝固因子IXを発現するrAAV2を用いたヒト臨床試験が実施され、部分的ではあるが一過性の症状の改善をもたらしたことや、上記rAAVベクターには、AAV空キャプシド:治療遺伝子を有するAAVベクターが10:1?4:1の割合で存在することが記載されているから、総合的にみて、甲1は、本件発明1の構成要件を全て開示している旨主張する。
しかしながら、甲1の上記記載事項(1-2)をみると、まず第1段落で、凝固因子IXを発現するrAAV2ベクターを用いたB型血友病患者に対する臨床試験が一過性の症状の改善をもたらした旨記載されており、次に段落を変えて、AAVベクタープラスミドを含むプラスミドを用いてHEK293細胞をトランスフェクトすることにより、AAVベクターを作製すると、空キャプシドも形成され、その比率が1:10から1:4にわたる旨が記載されており、さらに、空キャプシドは、強い免疫応答を引き起こす可能性があるため、除去することが望ましいことが記載されている。
このように、B型血友病患者に対する臨床試験の記載と、AAVベクターを作製したときのAAVベクターと空キャプシドの比率に関する記載は別段落で記載されていること、及び後段の段落では、空キャプシドは除去することが望ましい旨が記載されていることからすると、B型血友病患者に対する臨床試験において用いたAAVベクターが、上記の比率で空キャプシドを含むものであることまでは一つの引用発明として認定することができない。
したがって、申立人の当該主張は採用できない。

イ 対比及び判断
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明におけるAAVベクター:AAV空キャプシドの比率の範囲である「1:4?1:10」は、本件発明1の「約1:1?1:10」に包含される。
そうすると、両者は「AAVベクターと、AAV空キャプシドとを含む、AAVベクター組成物であって、前記AAVベクターが遺伝子を含み、かつ、前記AAVベクター:前記AAV空キャプシドが、約1:1?1:10のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、AAVベクター組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-1
本件発明1は、「被験体に投与して、前記被験体における前記AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するためのAAVベクター処方物」であるのに対し、甲1発明は単なる組成物である点。
相違点1-2
AAVベクターに含まれる遺伝子が、本件発明1では、血液凝固因子をコードするトランスジーンであるのに対し、甲1発明では治療遺伝子である点。

本件発明1と甲1発明は、上記の相違点で相違するものであるから、本件発明1は甲1に記載された発明ということはできない。

(2)本件発明2について
本件発明2と甲1発明を対比する。
甲1発明におけるAAVベクター:AAV空キャプシドの比率の範囲である「1:4?1:10」は、本件発明2の「約1:1?1:10」に包含される。
そうすると、両者は「AAVベクターと、AAV空キャプシドとを含む、AAVベクター組成物であって、前記AAVベクターが遺伝子を含み、かつ、前記AAVベクター:前記AAV空キャプシドが、約1:1?1:10のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、AAVベクター組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-3
本件発明2は、「前記AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するためのAAVベクター薬学的処方物」であるのに対し、甲1発明は単なる組成物である点。
相違点1-4
AAVベクターに含まれる遺伝子が、本件発明2では、血液凝固因子をコードするトランスジーンであるのに対し、甲1発明では治療遺伝子である点。

本件発明2と甲1発明は、上記の相違点で相違するものであるから、本件発明2は甲1に記載された発明ということはできない。

(3)本件発明22について
本件発明22と甲1発明を対比する。
甲1発明におけるAAVベクター:AAV空キャプシドの比率の範囲である「1:4?1:10」は、本件発明1の「約1:1?1:10」に包含される。
また、甲1発明におけるAAVベクター組成物は、AAVベクターとAAV空キャプシドを含むものであるから、両物質の「組み合わせ物」であるといえる。
そうすると、両者は、「遺伝子を含むAAVベクター及びAAV空キャプシドを含み、前記AAVベクター:前記AAV空キャプシドが、約1:1?1:10のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、組み合わせ物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-5
AAVベクターに含まれる遺伝子が、本件発明22では、血液凝固因子をコードするトランスジーンであるのに対し、甲1発明では治療遺伝子である点。
相違点1-6
組み合わせ物が、本件発明22では、「血液凝固因子をコードするトランスジーンを含むAAVベクターに対する免疫応答を低下させるか、または抑制するための」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。
相違点1-7
AAVベクターが、本件発明22では、「被験体に投与されることを特徴とする」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。
相違点1-8
AAV空キャプシドが、本件発明22では、「前記被験体に、前記トランスジーンを含む前記AAVベクターに対する免疫応答を低下させるか、または抑制するのに有効な量で、投与されることを特徴とする」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

本件発明22と甲1発明は、上記の相違点で相違するものであるから、本件発明22は甲1に記載された発明ということはできない。

(4)本件発明3、15、16、27、35、54及び55について
本件発明3、15、16、54及び55は、本件発明1又は2をさらに限定した発明であるから、本件発明3、15、16、54及び55に対する申立理由1に理由がないことは明らかである。
本件発明27、35、54及び55は、本件発明22をさらに限定した発明であるから、本件発明27、35、54及び55に対する申立理由1に理由がないことは明らかである。
本件発明21を引用する部分に係る本件発明27、35、54及び55については、後記2.(6)で述べるとおり、本件発明21と甲1発明は相違点を有するものであるから、これらの発明は甲1に記載された発明ということはできず、申立理由1には理由がない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?3、15、16、22、27、35、54及び55は、甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないので、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当せず、取り消すべきものではない。

2.申立理由2-1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明は、上記1.(1)で述べたとおり、以下の相違点1-1及び相違点1-2で相違する。
相違点1-1
本件発明1は、「被験体に投与して、前記被験体における前記AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するためのAAVベクター処方物」であるのに対し、甲1発明は単なる組成物である点。
相違点1-2
AAVベクターに含まれる遺伝子が、本件発明1では、血液凝固因子をコードするトランスジーンであるのに対し、甲1発明では、治療遺伝子である点。

イ 判断
(ア)相違点1-1について
甲1には、AAVベクターの産生に伴い混入する空キャプシドはAAVベクターによる形質導入を妨害し、強い免疫応答を引き出すものであることが記載されている(上記記載事項(1-1))。そのため、AAVベクターストックから空キャプシドを除去することが望ましいことが記載されており(上記記載事項(1-2))、甲1は、AAVベクターから空キャプシドを除去する精製方法を開発することを目的としている(上記記載事項(1-3)及び(1-4))。このような甲1の記載に接した当業者は、AAV空キャプシドを含む甲1発明のAAVベクター組成物をそのまま被験体に投与する処方物として使用すると、形質導入を妨害し、強い免疫応答を引き出すものである点で不利であることを認識する。そうすると、AAV空キャプシドを含む甲1発明のAAVベクター組成物を、「被験体に投与して、前記被験体における前記AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するためのAAVベクター処方物」とすることについて、阻害要因が存在するといえる。
よって、相違点1-1に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

申立人は、甲2及び甲3の記載を鑑みると、AAV空キャプシドを患者の体内の中和抗体に関するデコイ効果を期待してAAVベクターと混合することは、当業者が容易に想到し得たことである旨主張する。
しかしながら、甲2は、本件特許の審査経緯において通知された拒絶理由通知書であり、起案日は平成29年5月17日であり、発送日は同年5月24日であることから、甲2に記載された事項は、本件優先日である平成24年4月26日より前に頒布された刊行物に記載された発明であるとも、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるとも認められない。
よって、本件発明1の進歩性の有無を判断するにあたり、甲2は根拠となる証拠として採用できない。
また、甲3には、AAV2ベクターと空キャプシドを含む組成物において、空キャプシドが中和抗体に対するデコイとして働くことが記載されているものの(上記記載事項(3-3))、当該組成物は、形質導入アッセイにおいて用いた試薬に過ぎず、医薬として使用することは記載も示唆もされていないから、相違点1-1に係る構成は甲3の記載から当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明は、上記1.(2)で述べたとおり、以下の相違点1-3及び相違点1-4で相違する。
相違点1-3
本件発明2は、「前記AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するためのAAVベクター薬学的処方物」であるのに対し、甲1発明は単なる組成物である点。

相違点1-4
AAVベクターに含まれる遺伝子が、本件発明2では、血液凝固因子をコードするトランスジーンであるのに対し、甲1発明では治療遺伝子である点。

イ 判断
(ア)相違点1-3について
上記(1)イ(ア)で述べたのと同様の理由により、AAV空キャプシドを含む甲1発明のAAVベクター組成物を、「前記AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するためのAAVベクター薬学的処方物」とすることについて、阻害要因が存在するから、本件発明2は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、上記(1)イ(ア)で述べたとおり、甲2に記載された事項は、本件優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるとも、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるとも認められないから、本件発明2の進歩性の有無を判断するにあたり、甲2は根拠となる証拠として採用できない。
また、甲3には、AAV2ベクターと空キャプシドを含む組成物において、空キャプシドが中和抗体に対するデコイとして働くことが記載されているものの(上記記載事項(3-3))、当該組成物は、形質導入アッセイにおいて用いた試薬に過ぎず、医薬として使用することは記載も示唆もされていないから、相違点1-3に係る構成は甲3の記載から当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点1-4について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明17について
本件発明17は、本件発明1に記載の処方物を含む「AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するための薬学的組成物」に係る発明であり、上記(1)イ(ア)で述べたのと同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明18について
ア 対比
本件発明18と甲1発明を対比すると、両者は、「AAV空キャプシドを含む組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-9
組成物が、本件発明18では、「AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するための」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような用途が特定されていない点。
相違点1-10
本件発明18では、AAV空キャプシドが架橋されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)相違点1-9について
上記(1)イ(ア)で述べたのと同様の理由により、AAV空キャプシドを含む甲1発明のAAVベクター組成物を、「AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するため」に使用することについて、阻害要因が存在するから、本件発明18は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、上記(1)イ(ア)で述べたとおり、甲2に記載された事項は、本件優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるとも、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるとも認められないから、本件発明18の進歩性の有無を判断するにあたり、甲2は根拠となる証拠として採用できない。
また、甲3には、AAV2ベクターと空キャプシドを含む組成物において、空キャプシドが中和抗体に対するデコイとして働くことが記載されているものの(上記記載事項(3-3))、当該組成物は、形質導入アッセイにおいて用いた試薬に過ぎず、医薬として使用することは記載も示唆もされていないから、相違点1-9に係る構成は甲3の記載から当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点1-10について検討するまでもなく、本件発明18は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明19について
ア 対比
本件発明19と甲1発明を対比すると、両者は、「AAV空キャプシドを含む組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-11
本件発明19は、「AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するための薬学的組成物」であるのに対し、甲1発明は単なる組成物である点。
相違点1-12
本件発明19では、AAV空キャプシドが架橋されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)相違点1-11について
上記(1)イ(ア)で述べたのと同様の理由により、AAV空キャプシドを含む甲1発明のAAVベクター組成物を、「AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するための薬学的処方物」とすることについて、阻害要因が存在するから、本件発明19は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、上記(1)イ(ア)で述べたとおり、甲2に記載された事項は、本件優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるとも、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるとも認められないから、本件発明19の進歩性の有無を判断するにあたり、甲2は根拠となる証拠として採用できない。
また、甲3には、AAV2ベクターと空キャプシドを含む組成物において、空キャプシドが中和抗体に対するデコイとして働くことが記載されているものの(上記記載事項(3-3))、当該組成物は、形質導入アッセイにおいて用いた試薬に過ぎず、医薬として使用することは記載も示唆もされていないから、相違点1-11に係る構成は甲3の記載から当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点1-12について検討するまでもなく、本件発明19は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明21について
ア 対比
本件発明21と甲1発明を対比する。
甲1発明におけるAAVベクター:AAV空キャプシドの比率の範囲である「1:4?1:10」は、本件発明21の「約1:1?1:10」に包含される。
また、甲1発明におけるAAVベクター組成物は、AAVベクターとAAV空キャプシドを含むものであるから、両物質の「組み合わせ物」であるといえる。
そうすると、両者は、「遺伝子を含むAAVベクター及びAAV空キャプシドを含み、前記AAVベクター:前記AAV空キャプシドが、約1:1?1:10のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、組み合わせ物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-13
AAVベクターに含まれる遺伝子が、本件発明21では、血液凝固因子をコードするトランスジーンであるのに対し、甲1発明では治療遺伝子である点。
相違点1-14
組み合わせ物が、本件発明21では、「血液凝固因子をコードするトランスジーンの細胞への形質導入を増大させるか、または改善するための」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。
相違点1-15
AAVベクターが、本件発明21では、「細胞に投与されることを特徴とする」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。
相違点1-16
AAV空キャプシドが、本件発明21では、「被験体に、前記トランスジーンの前記細胞への形質導入を増大させるか、または改善するのに有効な量で、投与されることを特徴とする」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)相違点1-14及び1-16について
甲1には、AAVベクターの産生に伴い混入する空キャプシドはAAVベクターによる形質導入を妨害し、強い免疫応答を引き出すものであることが記載されている(上記記載事項(1-1))。そのため、AAVベクターストックから空キャプシドを除去することが望ましいことが記載されており(上記記載事項(1-2))、甲1は、AAVベクターから空キャプシドを除去する精製方法を開発することを目的としている(上記記載事項(1-3)及び(1-4))。このような甲1記載に接した当業者は、AAV空キャプシドを含む甲1発明のAAVベクター組成物をそのまま被験体に投与すると、形質導入を妨害し、強い免疫応答を引き出すものである点で不利であることを認識する。そうすると、AAV空キャプシドを含む甲1発明のAAVベクター組成物を、「血液凝固因子をコードするトランスジーンの細胞への形質導入を増大させるか、または改善するため」に使用することについて、阻害要因が存在するといえる。
そして、上記(1)イ(ア)で述べたとおり、甲2に記載された事項は、本件優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるとも、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるとも認められないから、本件発明21の進歩性の有無を判断するにあたり、甲2は根拠となる証拠として採用できない。
また、甲3には、AAV2ベクターと空キャプシドを含む組成物において、空キャプシドが中和抗体に対するデコイとして働くことが記載されているものの(上記記載事項(3-3))、当該組成物は、形質導入アッセイにおいて用いた試薬に過ぎず、医薬として使用することは記載も示唆もされていないから、相違点1-14及び1-16に係る構成は甲3の記載から当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、相違点1-14及び1-16に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点1-13及び1-15について検討するまでもなく、本件発明21は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)本件発明22について
ア 対比
本件発明22と甲1発明は、上記1.(3)で述べたとおり、以下の相違点1-5?相違点1-8で相違する。
相違点1-5
AAVベクターに含まれる遺伝子が、本件発明22では、血液凝固因子をコードするトランスジーンであるのに対し、甲1発明では治療遺伝子である点。
相違点1-6
組み合わせ物が、本件発明22では、「血液凝固因子をコードするトランスジーンを含むAAVベクターに対する免疫応答を低下させるか、または抑制するための」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。
相違点1-7
AAVベクターが、本件発明22では、「被験体に投与されることを特徴とする」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。
相違点1-8
AAV空キャプシドが、本件発明22では、「前記被験体に、前記トランスジーンを含む前記AAVベクターに対する免疫応答を低下させるか、または抑制するのに有効な量で、投与されることを特徴とする」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)相違点1-6及び1-8について
上記(6)イ(ア)で述べたのと同様の理由により、AAV空キャプシドを含む甲1発明のAAVベクター組成物を、「血液凝固因子をコードするトランスジーンを含むAAVベクターに対する免疫応答を低下させるか、または抑制するため」に使用することについて、阻害要因が存在するから、本件発明22は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、上記(1)イ(ア)で述べたとおり、甲2に記載された事項は、本件優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるとも、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるとも認められないから、本件発明22の進歩性の有無を判断するにあたり、甲2は根拠となる証拠として採用できない。
また、甲3には、AAV2ベクターと空キャプシドを含む組成物において、空キャプシドが中和抗体に対するデコイとして働くことが記載されているものの(上記記載事項(3-3))、当該組成物は、形質導入アッセイにおいて用いた試薬に過ぎず、医薬として使用することは記載も示唆もされていないから、相違点1-6及び1-8に係る構成は甲3の記載から当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点1-5及び1-7について検討するまでもなく、本件発明22は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(8)本件発明3?16、20及び23?55について
本件発明3?16、24、54及び55は、本件発明1又は2をさらに限定した発明であるから、本件発明3?16、24、54及び55に対する申立理由2-1に理由がないことは明らかである。
本件発明20は、本件発明18又は19をさらに限定した発明であるから、本件発明20に対する申立理由2-1に理由がないことは明らかである。
本件発明23及び25?55は、本件発明21又は22をさらに限定した発明であるから、本件発明23及び25?55に対する申立理由2-1に理由がないことは明らかである。

(9)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?55は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当せず、取り消すべきものではない。

3.申立理由2-2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲3に記載された発明
上記記載事項(3-5)には、AAV2ベクターを用いたヒーラ細胞へのインビトロでの形質導入アッセイにおいて、AAV2ゲノム粒子:AAV2空粒子の比を、10^(4):10^(5)、2×10^(5)又は4×10^(5)、すなわち、1:10、20又は40としたことが記載されている。ここで、「AAV2ゲノム粒子」とは、GFP発現AAV2ベクター、すなわち、GFPをコードするトランスジーンを含むAAV2ベクターを意味するものである。また、「AAV2空粒子」とは、AAV2空キャプシドを意味する。
そうすると、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。
「AAV2ベクターとAAV2空キャプシドとを含む、AAV2ベクター組成物であって、前記AAV2ベクターが、GFPをコードするトランスジーンを含み、かつ前記AAV2ベクター:前記AAV2空キャプシドが、1:10のAAVベクター対AAV空キャプシドの比率にある、AAVベクター組成物。」(以下、「甲3発明」という。)

イ 対比
本件発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「AAV2ベクター」及び「AAV2空キャプシド」は、それぞれ本件発明1の「AAVベクター」及び「AAV空キャプシド」に相当する。また、甲3発明におけるAAV2ベクター:AAV2空キャプシドの比率である「1:10」は、本件発明1の「約1:1?1:10」に包含される。
そうすると、両者は、「AAVベクターと、AAV空キャプシドとを含む、AAVベクター組成物であって、前記AAVベクターがトランスジーンを含み、かつ前記AAVベクター:AAV空キャプシドが、約1:1?1:10のAAVベクター 対 AAV空キャプシドの比率にある、AAVベクター組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点2-1
本件発明1は、「被験体に投与して、前記被験体における前記AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するためのAAVベクター処方物」であるのに対し、甲3発明は単なる組成物である点。
相違点2-2
AAVベクターに含まれるトランスジーンが、本件発明1では、血液凝固因子をコードするものであるのに対し、甲3発明は、GFPをコードするものである点。

ウ 判断
(ア)相違点2-1について
甲3には、AAV2ベクターとAAV2空キャプシドの種々の比率を有するAAVベクター組成物を用いて、インビトロでヒーラ細胞へ形質導入し、GFPの発現を測定することにより、空キャプシドのデコイとしての効率を分析したことが記載されている(上記記載事項(3-4)?(3-6))。甲3発明に係るAAVベクター組成物は、そのような形質導入アッセイにおいて用いた、特定の当該比率を有する試薬の一つにすぎず、これをそのまま被験体に投与する処方物とすることは意図されていないものである。そうすると、甲3の記載からは、甲3発明の組成物を、処方物として被験体に投与することは動機付けられるものではない。
したがって、甲3発明に係る形質導入アッセイにおける試薬であるAAVベクター組成物が、「被験体へ投与して、前記被験体における前記AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するためのAAVベクター処方物」として使用できることに想到することは、当業者といえども困難である。
そして、上記2.(1)イ(ア)で述べたとおり、甲2に記載された事項は、本件優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるとも、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるとも認められないから、本件発明1の進歩性の有無を判断するにあたり、甲2は根拠となる証拠として採用できない。

エ 小括
以上のとおりであるから、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2、17?19、21及び22について
本件発明2は、「薬学的処方物」であることを発明特定事項とするものであり、本件発明17及び19は「AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するための薬学的組成物」であることを発明特定事項とするものであり、本件発明18は、「AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制するための組成物」であることを発明特定事項とするものであり、本件発明21は、「被験体に、前記トランスジーンの前記細胞への形質導入を増大させるか、または改善するのに有効な量で、投与されること」を発明特定事項とするものであり、本件発明22は、「被験体に投与されること」及び「被験体に、前記トランスジーンを含む前記AAVベクターに対する免疫応答を低下させるか、または抑制するのに有効な量で投与されること」を発明特定事項とするものであって、いずれの発明も用途が医薬の発明である。
そして、上記(1)ウ(ア)で述べたのと同様の理由により、甲3発明の組成物を医薬とすることは、当業者にとって動機付けられるものではない。
そして、上記2.(1)イ(ア)で述べたとおり、甲2に記載された事項は、本件優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるとも、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるとも認められないから、本件発明2、17?19、21及び22の進歩性の有無を判断するにあたり、甲2は根拠となる証拠として採用できない。

(3)本件発明3?16、20、23?55について
本件発明3?16、24、54及び55は、本件発明1又は2をさらに限定した発明であるから、本件発明3?16、24、54及び55に対する申立理由2に理由がないことは明らかである。
本件発明20は、本件発明18又は19をさらに限定した発明であるから、本件発明20に対する申立理由2に理由がないことは明らかである。
本件発明23及び25?55は、本件発明21又は22をさらに限定した発明であるから、本件発明23及び25?55に対する申立理由2-2に理由がないことは明らかである。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?55は、甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当せず、取り消すべきものではない。

3.申立理由3(明確性)について
(1)「望まれない免疫応答を抑制」という記載について
申立人は、本件発明1、2及び17?19における「望まれない免疫応答を抑制」について、抑制の対象である「望まれない免疫応答」の定義が不明確である旨主張する。
しかしながら、本件明細書の段落【0071】には、「用語『免疫応答』は、脊椎動物被験体の免疫系による、抗原または抗原決定基に対する任意の応答を指すことを意図される。」と記載されている。そして、本件発明1には、「被験体へ投与して、前記被験体における前記AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制する」と記載されていることからすると、本件発明1における「望まれない免疫応答」とは、AAVベクターを被験体に投与したことにより、AAVベクターに対して生じる、脊椎動物被験体の免疫系による、抗原又は抗原決定基に対する任意の望まれない応答を意味するものであり、不明確なところはない。
また、本件発明2及び17?19には、「AAVベクターに対する望まれない免疫応答を抑制する」と記載されているところ、本件明細書の段落【0071】における用語「免疫応答」の定義及び、本件発明2及び17?19の記載自体からみて、「望まれない免疫応答」とは、AAVベクターに対して生じる、脊椎動物被験体の免疫系による、抗原又は抗原決定基に対する任意の望まれない応答を意味するものであり、不明確なところはない。

(2)「抑制」という記載について
申立人は、本件発明22の「免疫応答を・・・抑制する」について、「抑制」の定義が不明確である旨主張する。
しかしながら、「抑制」とは、「精神的・生理的な機能が、他の機能をおさえて、その実現をさまたげること。」を意味するものである(広辞苑第5版)。そして、本件発明22には、「血液凝固因子をコードするトランスジーンを含むAAVベクターに対する免疫応答を低下させるか、または抑制する」と記載されているところ、「血液凝固因子をコードするトランスジーンを含むAAVベクターに対する免疫応答」を「抑制する」という記載は、「血液凝固因子をコードするトランスジーンを含むAAVベクターに対する免疫応答」をおさえて、その実現をさまたげることを意味するものとして、その文言上、当業者にとって明確であると認められる。

(3)小括
よって、本件発明1、2、17?19、22及びこれらを引用する3?16、20、24?30及び32?55が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由3には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由によっては、本件請求項1?55に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?55に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、特許法第114条第4項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-04-18 
出願番号 特願2014-542594(P2014-542594)
審決分類 P 1 651・ 131- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横田 倫子  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 田中 耕一郎
冨永 みどり
登録日 2018-06-08 
登録番号 特許第6348064号(P6348064)
権利者 ザ チルドレンズ ホスピタル オブ フィラデルフィア
発明の名称 効率の高いトランスジーン送達のためのウイルスベクター  
代理人 森下 夏樹  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 石川 大輔  
代理人 山本 健策  
代理人 山本 秀策  
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