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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1351451
異議申立番号 異議2019-700014  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-11 
確定日 2019-05-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6355890号発明「トリアジン環を含有する重合体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6355890号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6355890号(請求項の数9。以下、「本件特許」という。)は、平成25年2月22日を出願日とする特許出願(特願2013-33815号)に係るものであって、平成30年6月22日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、平成30年7月11日である。)。
その後、平成31年1月11日に、本件特許の請求項1?9に係る特許に対して、特許異議申立人である秋山隆(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?9に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
下記式(1)?(4)のいずれかで表される繰返し単位を含むトリアジン環含有ポリマー。
【化1】

(式(1)?(4)中、Rは、2つの2価の芳香族炭化水素基と、-S-、-O-、-NH-、-NR''-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる2価の基を表す。Rはさらに置換基によって置換されていてもよい。
R’は、それぞれ水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は1以上の脂肪族炭化水素基及び1以上の芳香族炭化水素基から選択される1以上と、-S-、-O-、-NH-、-NR''-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を表す。R’はさらに置換基によって置換されていてもよい。
R^(1)は、水素原子、アセチル基、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を有する脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基と、-S-、-O-、-NH-、-NR''-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を有する脂肪族炭化水素基を表す。R1はさらに置換基によって置換されていてもよい。
R^(2)は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を有する脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基と、-S-、-O-、-NH-、-NR''-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を有する脂肪族炭化水素基を表す。R^(2)はさらに置換基によって置換されていてもよい。
R''は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は1以上の脂肪族炭化水素基及び1以上の芳香族炭化水素基から選択される1以上の組み合わせからなる基を表す。
R^(3)は、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1?10の脂肪族炭化水素基又は置換もしくは無置換の環形成炭素数6?10の芳香族炭化水素基を表す。
R^(4)は、置換もしくは無置換の炭素数1?4の脂肪族炭化水素基を表す。
Arは、2価の芳香族炭化水素基を表す。
Xは、それぞれヘテロ原子含有基を表す。
mは1?5の整数を表す。
nはポリマーにおける繰り返し単位の繰り返し数を表し、2以上10,000以下の整数を表す。)
【請求項2】
前記式(1)?(4)において、R^(1)が水素原子、アセチル基又は炭素数1?4の脂肪族炭化水素基であり、R^(2)が炭素数1?4の脂肪族炭化水素基、又は環形成炭素数6?10の芳香族炭化水素基を有する炭素数1?4の脂肪族炭化水素基であり、R^(3)が水素原子、炭素数1?6の脂肪族炭化水素基又は環形成炭素数6?10の芳香族炭化水素基であり、R^(4)がメチル基又はエチル基であり、Arが環形成炭素数6?10の2価の芳香族炭化水素基であり、Xがシアノ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ニトロ基、カルバモイル基、チオール基、アルキルメルカプト基、アリールメルカプト基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基又はアルコキシカルボニルオキシ基である請求項1に記載のトリアジン環含有ポリマー。
【請求項3】
下記式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)及び(38)?(46)のいずれかで表される繰返し単位を含むトリアジン環含有ポリマー。

(式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)及び(38)?(46)中、nはポリマーにおける繰り返し単位の繰り返し数を表し、2以上10,000以下の整数を表す。)
【請求項4】
下記式(21)、(22)、(36)及び(37)のいずれかで表される繰返し単位を含み、D線の屈折率が1.80を超え、アニリン残基を含む、トリアジン環含有ポリマー。

(式(21)、(22)、(36)及び(37)中、nはポリマーにおける繰り返し単位の繰り返し数を表し、2以上10,000以下の整数を表す。)
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載のトリアジン環含有ポリマー及び有機溶剤を含む組成物。
【請求項6】
請求項1?4のいずれかに記載のトリアジン環含有ポリマー及び紫外線硬化剤を含む組成物。
【請求項7】
請求項1?4のいずれかに記載のトリアジン環含有ポリマー及び熱硬化剤を含む組成物。
【請求項8】
請求項5?7のいずれかに記載の組成物を用いて得られた薄膜、フィルム、透明板又はレンズ。
【請求項9】
請求項8に記載の薄膜、フィルム、透明板又はレンズを含む電子デバイス、発光デバイス又は光学デバイス。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由
申立人は、本件発明1?9は、下記(1)?(4)のとおりの取消理由があるから、本件特許の請求項1?9に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものであると主張し、証拠方法として、下記(5)の甲第1号証?甲第3号証(以下、単に「甲1」等という。)を提出した。
(1)申立理由1(甲1を主引用文献とする新規性)
本件発明1?3、5?9は、甲1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当するから、特許を受けることができないものである。

(2)申立理由2(甲1を主引用文献とする進歩性)
本件発明1?3、5?9は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4は、甲1及び甲2に記載された発明並びに甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3)申立理由3(甲2を主引用文献とする新規性)
本件発明1?3、5?9は、甲2に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものである。

(4)申立理由4(甲2を主引用文献とする進歩性)
本件発明1?3、5?9は、甲2に記載された発明及び甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

(5)証拠方法
・甲1 国際公開第2010/128661号
・甲2 特開2012-92261号公報
・甲3 安藤慎治、「量子化学計算に基づくポリマーの屈折率制御」、「科学と工業」、2012年、第86巻、第2号、第43?48頁
・甲4 Macromolecular Research, 2007, Vol.15, No.6, pp533-540
・甲5 Polymer Journal, 2010, Vol.42, p.249-255

第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)甲1?甲5に記載された事項、並びに甲1及び甲2に記載された発明
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
(ア)「[請求項1]
下記式(1)または(2)で表される繰り返し単位構造を含むことを特徴とするトリアジン環含有重合体。

{式中、RおよびR′は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、R”は、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基を表し、Arは、式(3)?(19)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表す。

〔式中、R^(1) ?R^(128)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、
W^(1)は、単結合、C=OまたはNR^(129)(R^(129)は、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表す。)を表し、
W^(2)およびW^(3)は、互いに独立して、単結合、CR^(130)R^(131)(R^(130)およびR^(131)は、互いに独立して、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、これらは一緒になって環を形成していてもよい。)を表す。)、C=O、O、S、SO、SO_(2)、またはNR^(129)(R^(129)は前記と同じ意味を表す。)を表し、
X^(1) およびX^(2)は、互いに独立して、単結合、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基、または式(20)
(式(20)は省略)
(式中、R^(132)?R^(135)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、
Y^(1)およびY^(2)は、互いに独立して、単結合または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基を表す。) で示される基を表す。〕}
・・・
[請求項13]請求項1?12のいずれか1項記載のトリアジン環含有重合体を含む膜形成用組成物。
[請求項14]請求項1?12のいずれか1項記載のトリアジン環含有重合体を含む膜。
[請求項15]基材と、この基材上に形成された請求項14記載の膜とを備える電子デバイス。
[請求項16]基材と、この基材上に形成された請求項14記載の膜とを備える光学部材。」

(イ)「発明が解決しようとする課題
[0012]本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、金属酸化物を添加しなくとも、ポリマー単独で高耐熱性、高透明性、高屈折率、高溶解性、低体積収縮を達成できるトリアジン環含有重合体、およびこれを含む膜形成用組成物を提供することを目的とする。」

(ウ)「発明の効果
[0015] 本発明によれば、金属酸化物を用いることなく、単独で高耐熱性、高透明性、高屈折率、高溶解性、低体積収縮を達成し得るトリアジン環含有重合体を提供できる。
本発明の重合体骨格とすることで、1)2級アミンをポリマーのスペーサーとして用いる、2)末端に1級アミンが置換している、場合においても高耐熱性、高透明性を維持でき、これまで、耐熱性および透明性が損なわれると考えられていたモノマーユニットを用いた場合でも、ポリマー骨格を本発明の高分岐または線状型、好ましくはハイパーブランチ型に変更するのみで物性をコントロールできる可能性がある。
本発明のハイパーブランチポリマーが高屈折率を発現するのは、ハイパーブランチ型の構造にすることで、トリアジン環とアリール(Ar)部分が密に集まり、電子密度が上がっているためであると考えられる。
特に、上記Rおよび/またはR′が水素原子の場合、ハイパーブランチ型の構造にすることで、トリアジン環状の窒素原子とアミン部位の水素原子が水素結合し、よりトリアジン環とアリール(Ar)部分が密に集まり、電子密度が上がるものと考えられる。
そのため、硫黄原子をその分子中に有しない重合体であっても、例えば、屈折率1.70(550nmにて測定)以上の高屈折率を示す。
この屈折率の範囲は、使用場面にもよるが、下限値としては、好ましくは1.70以上、より好ましくは1.75以上、さらに好ましくは1.80以上である。上限値は、特に制限されないが、2.00?1.95以下程度である。
また、フルオレン骨格などの剛直な部位をポリマーの主たる繰り返し単位に用いているにも関わらず、溶解性を損ねることなく、安全性の高いレジスト溶剤に可溶なワニスを調製できる。
さらに、高分子量の化合物であるにもかかわらず、溶剤に溶解したときに低粘度であり、またメタフェニレンジアミン部位を有するポリマーなどは、各種有機溶媒に対する溶解性に優れているため、ハンドリング性に優れる。
そして、金属酸化物を含まず、ポリマー単独で高屈折率を発現できることから、エッチングやアッシングなどのドライプロセスを経る場合でも、エッチレートが一定となり、均一な膜厚の被膜を得ることができ、デバイスを作製する際のプロセスマージンが拡大する。
また、本発明のトリアジン環含有重合体は、合成時の出発原料であるモノマーの種類を変更することで、これが有する諸物性をコントロールできる。
本発明のトリアジン環含有重合体の製法方法では、一段階の加熱工程でゲル化せずに重合体が得られる。また、原料のハロゲン化シアヌル化合物とジアミノアリール化合物を2:3のモル比以外でも、ゲル化せずに重合体が得られることから、トリアジン部分とジアミン部分の組成や得られる重合体の分子量を任意に制御できる。
上記非特許文献1に記載の製造方法では、ハロゲン化シアヌル化合物とジアミノアリール化合物を2:3のモル比で仕込み、三段階の異なる反応温度で反応させることが必要であることが記載されているが、この方法では、得られる重合体の分子量の制御ができない。また、ジメチルアセトアミドに溶解させたハロゲン化シアヌル化合物を室温で滴下しているため、重合体が着色しやすい。
また、本発明のトリアジン環含有重合体は、高耐熱性絶縁材料や、高屈折率が求められているレンズ用部材として好適に利用できる。
以上のような特性を有する本発明のトリアジン環含有重合体を用いて作製した膜は、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、光半導体(LED)素子、固体撮像素子、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ(TFT)などの電子デバイスを作製する際の一部材として好適に利用できる。
特に高屈折率が求められている固体撮像素子の部材である、フォトダイオード上の埋め込み膜および平坦化膜、カラーフィルター前後の平坦化膜、マイクロレンズ、マイクロレンズ上の平坦化膜およびコンフォーマル膜として好適に利用できる。」

(エ)「[0024]アルキルアミノ基の具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、s-ブチルアミノ基、t-ブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、1-メチル-n-ブチルアミノ基、2-メチル-n-ブチルアミノ基、3-メチル-n-ブチルアミノ基、1,1-ジメチル-n-プロピルアミノ基、1,2-ジメチル-n-プロピルアミノ基、2,2-ジメチル-n-プロピルアミノ基、1-エチル-n-プロピルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、1-メチル-n-ペンチルアミノ基、2-メチル-n-ペンチルアミノ基、3-メチル-n-ペンチルアミノ基、4-メチル-n-ペンチルアミノ基、1,1-ジメチル-n-ブチルアミノ基、1,2-ジメチル-n-ブチルアミノ基、1,3-ジメチル-n-ブチルアミノ基、2,2-ジメチル-n-ブチルアミノ基、2,3-ジメチル-n-ブチルアミノ基、3,3-ジメチル-n-ブチルアミノ基、1-エチル-n-ブチルアミノ基、2-エチル-n-ブチルアミノ基、1,1,2-トリメチル-n-プロピルアミノ基、1,2,2-トリメチル-n-プロピルアミノ基、1-エチル-1-メチル-n-プロピルアミノ基、1-エチル-2-メチル-n-プロピルアミノ基等が挙げられる。

[0025]アラルキルアミノ基の具体例としては、ベンジルアミノ基、メトキシカルボニルフェニルメチルアミノ基、エトキシカルボニルフェニルメチルアミノ基、p-メチルフェニルメチルアミノ基、m-メチルフェニルメチルアミノ基、o-エチルフェニルメチルアミノ基、m-エチルフェニルメチルアミノ基、p-エチルフェニルメチルアミノ基、2-プロピルフェニルメチルアミノ基、4-イソプロピルフェニルメチルアミノ基、4-イソブチルフェニルメチルアミノ基、ナフチルメチルアミノ基、メトキシカルボニルナフチルメチルアミノ基、エトキシカルボニルナフチルメチルアミノ基等が挙げられる。
アリールアミノ基の具体例としては、フェニルアミノ基、メトキシカルボニルフェニルアミノ基、エトキシカルボニルフェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、メトキシカルボニルナフチルアミノ基、エトキシカルボニルナフチルアミノ基、アントラニルアミノ基、ピレニルアミノ基、ビフェニルアミノ基、ターフェニルアミノ基、フルオレニルアミノ基等が挙げられる。」

(オ)「[0033]
本発明における好適なArとしては、フルオレン環を含有する2価の有機基が挙げられ、例えば、下記式(21)または(22)で示される2価の有機基が好適である。
(式(21)及び(22)は省略)
(式中、R^(136)?R^(159)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、R^(158)およびR^(159)は一緒になって環を形成していてもよい。)、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。)
ここで、ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられる。
炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基としては、上記と同様のものが挙げられる。
また、R^(158)およびR^(159)が一緒になって形成する環としては、シクロペンチル環、シクロヘキシル環等が挙げられる。
炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基としては、上記と同様のものが挙げられる。
これらの中でも、R^(139) ?R^(159)としては、水素原子が好ましい。
上記式(3)?(19),(21)および(22)で表されるアリール基の具体例としては、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(合議体注:式(3)?(19),(21)および(22)は省略)
これらの中でも、より高い屈折率の重合体が得られることから、下記式で示されるアリール基がより好ましい。
(合議体注:式は省略)
さらに、高屈折率を発現させるという点から、アリール(Ar)部分としては、フルオレン骨格やカルバゾール骨格等の環状骨格を有する剛直な構造が、アリール(Ar)部分が密に集まり易く、電子密度が向上するため好適であり、また、単純なベンゼン環も小さな構造であるため、アリール(Ar)部分が密に集まり易く、電子密度が向上するため好適である。
また、W^(1)等のベンゼン環の連結基としては、高い水素結合能を有する、カルボニルを含む基やアミン等の官能基が、アミン部位の水素原子(Rおよび/またはR′が水素原子の場合)と水素結合を形成してよりアリール(Ar)部分が密に集まり易く、電子密度が向上するため好適である。
以上のような観点から、下記式で示されるアリール基が好ましい。

より高い屈折率を発現するという点から下記式で示されるアリール基がより好ましい。


[0045]好適な繰り返し単位構造としては、下記式(23)または(24)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。」

(カ)「[0064]なお、本発明においては、少なくとも1つの末端トリアジン環のハロゲン原子の一部を、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、エステル基等でキャップしてもよい。
これらの中でも、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基が好ましく、アルキルアミノ基、アリールアミノ基がより好ましく、アリールアミノ基がさらに好ましい。
エステル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられ、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基としては上述した基と同様のものが挙げられる。
これらの基は、トリアジン環上のハロゲン原子を対応する置換基を与える化合物で置換することで容易に導入することができ、例えば、下記式スキーム4-a,bに示されるように、アニリン誘導体を加えて反応させることで、少なくとも1つの末端にフェニルアミノ基を有する高分岐重合体(34),(35)が得られる。」

(キ)「[0070]上述した本発明の重合体は、他の化合物と混合した組成物として用いることができ、例えば、レベリング剤、界面活性剤、架橋剤、樹脂等との組成物が挙げられる。
これらの組成物は、膜形成用組成物として用いることができ、各種の溶剤に溶かした膜形成用組成物(ポリマーワニスともいう)として好適に使用できる。
重合体を溶解するのに用いる溶剤は、重合時に用いた溶媒と同じものでも別のものでもよい。この溶剤は、重合体との相溶性を損なわなければ特に限定されず、1種でも複数種でも任意に選択して用いることができる。」

(ク)「[0073]本発明においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、重合体および溶剤以外のその他の成分、例えば、レベリング剤、界面活性剤、架橋剤等が含まれていてもよい。」

(ケ)「[0090]本発明の膜形成用組成物は、基材に塗布し、その後、必要に応じて加熱することで所望の膜を形成することができる。 組成物の塗布方法は任意であり、例えば、スピンコート法、ディップ法、フローコート法、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、スリットコート法、ロールコート法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法等の方法を採用できる。」

(コ)「[0092] このようにして得られた本発明の重合体からなる膜は、それ単独で、高耐熱性、高透明性、高屈折率、高溶解性、および低体積収縮を達成できるため、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、光半導体(LED)素子、固体撮像素子、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ(TFT)などの電子デバイスを作製する際の一部材として好適に利用できる。」

(サ)「[0104][実施例5]高分子化合物[5]の合成

2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジンに代えて、4,6-ジクロロ-N-フェニル-1,3,5-トリアジン-2-アミン[4](6.48g、0.018mol)、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン[2](6.48g、0.018mol)、アニリン(5.64g、0.06mol)を用いて合成を行い、目的とする線状高分子化合物[5](以下、L-TF39と略す)10.8gを得た。L-TF39の 1 H-NMRスペクトルの測定結果を図5に示す。得られたL-TF39は式(2)で表される構造単位を有する化合物である。L-TF39のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは3,900、多分散度Mw/Mnは1.78であった。」

(シ)「[0132]上記実施例11?30で作製した各被膜について、屈折率および膜厚を測定した。その結果を表1に示す。

[0133][表1]

[0134]表1の結果から、実施例11におけるHB-TFA90F1の屈折率は波長550nmで1.7250、波長633nmで1.7025であり、ポリマー単体として非常に高屈折率であることがわかった。
さらに、実施例11?14を比較すると、大気中、300℃で5分間の焼成工程を加えても、屈折率が低下せず、熱時の屈折率の安定性が非常に高いことが証明された。また、実施例12と実施例14の膜厚を比較しても、200℃から300℃までの工程の間に514.5nmから509.8nmしか膜厚の変化がないことから、体積収縮率が極めて低いことがわかった。
実施例15?18、実施例19?22、実施例23?26、実施例27?30においても、焼成温度の上昇とともに、大きな屈折率の低下は確認されず、体積収縮率に関しても、低体積収縮率であることがわかった。
また、ポリマーの分子量に対する屈折率の変化は、実施例12、実施例16、実施例20および実施例24を比較すると、屈折率は波長550nmでそれぞれ1.7287、1.7300、1.7335、1.7377であり、分子量が低いポリマーが高い屈折率を発現する傾向であることがわかった。
高分岐構造を有するポリマーを用いた実施例19と直線構造を有するポリマーを用いた実施例27とを比較すると、屈折率は波長550nmでそれぞれ1.7277、1.7322であり、直線構造を有するポリマーが高い屈折率を発現する傾向であることがわかった。」

甲1の摘記(ア)によれば、式(2)で表される繰り返し単位構造に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「下記式(2)で表される繰り返し単位構造を含むことを特徴とするトリアジン環含有重合体。

{式中、RおよびR′は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、R”は、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基を表し、Arは、式(3)?(19)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表す。

〔式中、R^(1) ?R^(128)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、
W^(1)は、単結合、C=OまたはNR^(129)(R^(129)は、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表す。)を表し、 W^(2)およびW^(3)は、互いに独立して、単結合、CR^(130)R^(131)(R^(130)およびR^(131)は、互いに独立して、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、これらは一緒になって環を形成していてもよい。)を表す。)、C=O、O、S、SO、SO_(2)、またはNR^(129)(R^(129)は前記と同じ意味を表す。)を表し、
X^(1) およびX^(2)は、互いに独立して、単結合、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基、または式(20)
(式(20)は省略)
(式中、R^(132)?R^(135)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、
Y^(1)およびY^(2)は、互いに独立して、単結合または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基を表す。) で示される基を表す。〕}」(以下、「甲1発明1」という。)

「甲1発明1を含む膜形成用組成物。」(以下、「甲1発明2」という。)

「甲1発明1を含む膜。」(以下、「甲1発明3」という。)

「基材と、この基材上に形成された甲1発明1を含む膜とを備える電子デバイス又は光学部材。」(以下、「甲1発明4」という。)

イ 甲2に記載された事項及び甲2発明
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位構造を含むことを特徴とするトリアジン環含有重合体。

{式中、RおよびR′は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、Ar^(1)は、アリール基を示し、Ar^(2)は、式(2)?(13)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表す。

〔式中、R^(1)?R^(92)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、R^(93)およびR^(94)は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、W^(1)およびW^(2)は、互いに独立して、単結合、CR^(95)R^(96)(R^(95)およびR^(96)は、互いに独立して、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、これらは一緒になって環を形成していてもよい。)を表す。)、C=O、O、S、SO、SO_(2)、またはNR^(97)(R^(97)は、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表す。)を表し、X^(1)およびX^(2)は、互いに独立して、単結合、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基、または式(14)
【化3】
(合議体注:省略)
(式中、R^(98)?R^(101)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、Y^(1)およびY^(2)は、互いに独立して、単結合または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基を表す。)で示される基を表す。〕}
【請求項2】
前記Ar^(2)が、式(2)、(12)および(13)で示される群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のトリアジン環含有重合体。
【請求項3】
前記Ar^(1)が、式(15)で示される請求項1または2記載のトリアジン環含有重合体。

(式中、R^(102)?R^(106)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。)
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項記載のトリアジン環含有重合体を含む膜形成用組成物。
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項記載のトリアジン環含有重合体を含む膜。
【請求項6】
基材と、この基材上に形成された請求項5記載の膜とを備える電子デバイス。 」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、金属酸化物を添加しなくとも、ポリマー単独で高屈折率を達成できるトリアジン環含有重合体、およびこれを含む膜形成用組成物を提供することを目的とする。」

(ウ)「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属酸化物を用いることなく、単独で高耐熱性、高透明性、高屈折率、高溶解性、低体積収縮を達成し得るトリアジン環含有重合体を提供できる。
本発明の重合体骨格とすることで、2級アミンをポリマーのスペーサーとして用いる場合においても高耐熱性、高透明性を維持でき、これまで、耐熱性および透明性が損なわれると考えられていたモノマーユニットを用いた場合でも、ポリマー骨格を本発明のポリマーに変更するのみで物性をコントロールできる可能性がある。
そして、金属酸化物を含まず、ポリマー単独で高屈折率を発現できることから、エッチングやアッシングなどのドライプロセスを経る場合でも、エッチレートが一定となり、均一な膜厚の被膜を得ることができ、デバイスを作製する際のプロセスマージンが拡大する。
また、本発明のトリアジン環含有重合体は、合成時の出発原料であるモノマーの種類を変更することで、これが有する諸物性をコントロールできる。
さらに、本発明のトリアジン環含有重合体は、高耐熱性絶縁材料として使用できる。
以上のような特性を有する本発明のトリアジン環含有重合体を用いて作製した膜は、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、光半導体(LED)素子、固体撮像素子、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ(TFT)などの電子デバイスを作製する際の一部材として好適に利用できる。
特に高屈折率が求められている固体撮像素子の部材である、フォトダイオード上の埋め込み膜および平坦化膜、カラーフィルター前後の平坦化膜、マイクロレンズ、マイクロレンズ上の平坦化膜およびコンフォーマル膜として好適に利用できる。」

(エ)「【0018】
上記アリール基の炭素数としては特に限定されるものではないが、6?40が好ましく、ポリマーの耐熱性をより高めることを考慮すると、炭素数6?16がより好ましく、6?13がより一層好ましい。
アリール基の具体例としては、フェニル基、o-クロルフェニル基、m-クロルフェニル基、p-クロルフェニル基、o-フルオロフェニル基、p-フルオロフェニル基、o-メトキシフェニル基、p-メトキシフェニル基、p-ニトロフェニル基、p-シアノフェニル基、α-ナフチル基、β-ナフチル基、o-ビフェニリル基、m-ビフェニリル基、p-ビフェニリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基等が挙げられる。」

(オ)「【0020】
上記Ar^(2)は、式(2)?(13)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表すが、特に、式(2)、(12)および(13)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。」

(カ)「【0028】
上記Ar^(1)は、アリール基であり、その具体例としては、上述したアリール基と同様のものが挙げられるが、本発明においては、式(15)で示される基が好適である。」

(キ)「【0038】
上述した本発明のトリアジン環含有重合体は、他の化合物と混合した組成物として用いることができ、例えば、レベリング剤、界面活性剤、架橋剤、樹脂等との組成物が挙げられる。
これらの組成物は、膜形成用組成物として用いることができ、各種の溶剤に溶かした膜形成用組成物(ポリマーワニスともいう)として好適に使用できる。
重合体を溶解するのに用いる溶剤は、重合時に用いた溶媒と同じものでも別のものでもよい。この溶剤は、重合体との相溶性を損なわなければ特に限定されず、1種でも複数種でも任意に選択して用いることができる。」

(ク)「【0056】
本発明の膜形成用組成物は、基材に塗布し、その後、必要に応じて加熱することで所望の膜を形成することができる。
組成物の塗布方法は任意であり、例えば、スピンコート法、ディップ法、フローコート法、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、スリットコート法、ロールコート法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法等の方法を採用できる。」

(ケ)「【0058】
このようにして得られた本発明の組成物からなる膜は、高耐熱性、高透明性、高屈折率、高溶解性、および低体積収縮を達成できるため、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、光半導体(LED)素子、固体撮像素子、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ(TFT)などの電子デバイスを作製する際の一部材として好適に利用できる。」

(コ)「【0066】
[実施例1]高分子化合物[1]の合成

【0067】
100mL四口フラスコに、m-フェニレンジアミン(1.35g、12.44mmol、東京化成工業(株)製)を入れ、ジメチルアセトアミド(以下、DMAc)17mLに溶解して、オイルバスで100℃に加熱した。その後、DMAc26mLに溶解した、合成例1で得られたモノマー化合物(3.00g、12.44mmol)を加えて重合を開始した。2時間反応を行い、室温まで放冷後、28%アンモニア水溶液(2.27g)を水160mLおよびメタノール54mLに溶解した混合溶液中に再沈殿させた。沈殿物をろ過し、ジメチルホルムアミド(以下、DMF)35mLに再溶解させ、イオン交換水170mLに再沈殿した。得られた沈殿物をろ過し、減圧乾燥機で120℃、6時間乾燥し、目的とする高分子化合物[1]2.25gを得た。^(1)H-NMRスペクトルの測定結果を図1に示す。得られた高分子化合物[1]は式(1)で表される構造単位を有する化合物である。高分子化合物[1]のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは3,100、多分散度Mw/Mnは1.60であった。また、TG-DTAによる5%重量減少温度は、340℃であった。
【0068】
〈被膜の作製と屈折率測定〉
実施例1で得られた高分子化合物[1]を10質量%となるようにシクロヘキサノン/イオン交換水(96/4(質量部/質量部))に溶解させ、ガラス基板上にスピンコーターを用いてスピンコートし、150℃のホットプレートで2分間の仮焼成を行い、次いで、大気下、250℃のホットプレートで5分間の本焼成を行い、被膜を得た。得られた被膜の屈折率および膜厚を測定したところ、550nmにおける屈折率は1.7507、633nmにおける屈折率は1.7330、膜厚は260nmであった。
【0069】
[実施例2]高分子化合物[2]の合成
【化15】

【0070】
100mL四口フラスコに、4,4’-ジアミノベンズアニリド(2.27g、10.0mmol、東京化成工業(株)製)を入れ、DMAc17mLに溶解して、オイルバスで100℃に加熱した。その後、DMAc30mLに溶解した、合成例1で得られたモノマー化合物(2.40g、10.0mmol)を加えて重合を開始した。3時間反応を行い、室温まで放冷後、28%アンモニア水溶液(1.27g)を水276mLおよびメタノール94mLに溶解した混合溶液中に再沈殿させた。沈殿物をろ過し、DMF47mLに再溶解させ、イオン交換水276mLに再沈殿した。得られた沈殿物をろ過し、減圧乾燥機で120℃、6時間乾燥し、目的とする高分子化合物[2]3.23gを得た。^(1)H-NMRスペクトルの測定結果を図2に示す。得られた高分子化合物[2]は式(2)で表される構造単位を有する化合物である。高分子化合物[2]のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは5,000、多分散度Mw/Mnは3.97であった。また、TG-DTAによる5%重量減少温度は、346℃であった。」

甲2には、摘記(ア)によれば、請求項1を引用する請求項3に係る発明として、以下の発明が記載されていると認められる。

「下記式(1)で表される繰り返し単位構造を含むことを特徴とするトリアジン環含有重合体。

{式中、RおよびR′は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、Ar^(1)は、アリール基を示し、Ar^(2)は、式(2)?(13)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表す。

〔式中、R^(1)?R^(92)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、R^(93)およびR^(94)は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、W^(1)およびW^(2)は、互いに独立して、単結合、CR^(95)R^(96)(R^(95)およびR^(96)は、互いに独立して、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、これらは一緒になって環を形成していてもよい。)を表す。)、C=O、O、S、SO、SO_(2)、またはNR^(97)(R^(97)は、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表す。)を表し、X^(1)およびX^(2)は、互いに独立して、単結合、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基、または式(14)
【化3】
(合議体注:省略)
(式中、R^(98)?R^(101)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、Y^(1)およびY^(2)は、互いに独立して、単結合または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基を表す。)で示される基を表す。〕}」(以下、「甲2発明1」という。)

また、甲2には、請求項1を引用する請求項3を更に引用する請求項4?6に係る発明として、以下の発明が記載されていると認められる。

「甲2発明1のトリアジン環含有重合体を含む膜形成用組成物」(以下、「甲2発明2」という。)

「甲2発明1のトリアジン環含有重合体を含む膜」(以下、「甲2発明3」という。)

「基材と、この基材上に形成された甲2発明1のトリアジン環含有重合体を含む膜とを備える電子デバイス」(以下、「甲2発明4」という。)

ウ 甲3に記載された事項

」(第43頁右欄2行?第44頁左欄7行)

エ 甲4に記載された事項
(ア)「

」(第537頁右欄第29?40頁)

(合議体訳:Dimer-Arは、芳香環を含んでいるため、脂肪族のTrimerよりも屈折率が高いと理解されている。アミノ電子供与基が結合したモノマーは、Dimer-Arよりも、明らかに高い指数を示すことで指数の増加に貢献している。Dimer-CNを用いた50/50のコポリマーは、用意したモノマーのうち最も高い屈折率を示した。一般的に、コポリマーの屈折率は、例えば、使用する成分、組成比、UV硬化時間等のパラメーターを変化させることで、調整することができる。予想どおり、二極性構造は、一極性構造や芳香族基を有する構造よりも高屈折率を達成するのにより効果的である。)

(イ) 「

」(第537頁表1)

(ウ)「

」(第538頁左欄第8?13行)

(合議体訳:Dimer-Amino及びDimer-Arについて、850nmにおける屈折率は、それぞれ1.538及び1.567と計算された。Dimer-CNのホモポリマーの850nmにおける屈折率は、1.595であった。この指数の上昇傾向は、測定した波長すべてにおいて、ホモポリマーについて明確に観測された。)

(エ)「

」(第539頁右欄第16?19行)

(合議体訳:Dimer-CNとDimer-Aminoとの比較から、極性構造よりも二極性構造の方が屈折率を向上させるのにより効果的であることが示された。)

オ 甲5に記載された事項
“In previous study, the dipolar acrylate with amino-donating and cyano-withdrawing groups increased the refractive index of acrylic polymer films,5 The cyano group can be placed with a nitro group of better polarizing power.”
(252頁左欄30行?右欄1行)

(合議体訳)「以前の研究5によれば、アミノ電子供与基とシアノ電子吸引基とを有する二極性アクリレートは、その膜の屈折率が高くなった。シアノ基は、より大きい分極力を有するニトロ基に置換することができる。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1の式(2)と甲1発明1の式(2)に着目して、本件発明1と甲1発明1を対比する。
本件発明1の繰り返し単位は、トリアジン環の2位炭素原子と4位炭素原子にモノアミンである-N(R')-が結合しており、2位炭素原子に結合する窒素原子と、隣接する繰り返し単位の4位炭素原子に結合する窒素原子とが、2価の芳香族炭化水素基である-R-を介して結合する直鎖骨格を有するものである。そして、上記R'は、それぞれ水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基などから選択されるものである。
一方、甲1発明1の繰り返し単位は、トリアジン環の2位炭素原子に、2つのモノアミンの窒素原子が2価の芳香族炭化水素基を介して結合した芳香族ジアミンである-N(R)-Ar-N(R')-が結合しており、-N-(R')がArに結合する代わりに、トリアジン環の4位炭素原子に結合する構造と同じであることは明らかであって、本件発明1の上記直鎖骨格に相当するといえる。そして、上記R及びR'は、水素原子、アルキル基、アリール基から選択されるものであり、本件発明1の「R'」に相当する。
また、本件発明1の繰り返し単位は、トリアジン環の6位炭素原子に芳香族アミンの置換基を有している。一方、甲1発明1の繰り返し単位も、トリアジン環の6位炭素原子に置換基を有している。

そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、トリアジン環の2位炭素原子と4位炭素原子にモノアミンである-N(R')-が結合しており、2位炭素原子に結合する窒素原子と、隣接する繰り返し単位構造の4位炭素原子に結合する窒素原子とが、2価の何らかの結合基を介して結合する直鎖骨格を有し、トリアジン環の6位炭素原子に置換基を有する「繰返し単位を含むトリアジン環含有ポリマー」の点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1(1):本件発明1は、上記一致点の「何らの結合基」がRであって、「Rは、2つの2価の芳香族炭化水素基と、-S-、-O-、-NH-、-NR''-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる2価の基を表」し、「Rはさらに置換基によって置換されていてもよ」く、トリアジン環における6位炭素原子の置換基が-N(R^(1))-Ar-(X)_(m)である(「R^(1)は、水素原子、アセチル基、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を有する脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基と、-S-、-O-、-NH-、-NR''-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を有する脂肪族炭化水素基を表す。R^(1)はさらに置換基によって置換されていてもよ」く、「Arは、2価の芳香族炭化水素基を表す。Xは、それぞれヘテロ原子含有基を表す。mは1?5の整数を表す。」)のに対して、甲1発明1は、上記一致点の「何らかの基」がArであって、「Arは、式(3)?(19)で示される群から選ばれる少なくとも一種を表」し、トリアジン環における6位炭素原子の置換基R''が、「アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基を表」すものである点。

・相違点1(2):本件発明1は、「ポリマーにおける繰り返し単位の繰り返し数が2以上10,000以下の整数」であるのに対して、甲1発明1は、繰り返し数の特定がない点。

イ 相違点の検討
甲1発明1において、「Arは、式(3)?(19)で示される群から選ばれる少なくとも1種」であり、式(6)、式(14)?(19)は、本件発明1の「2つの2価の芳香族炭化水素基と、-S-、-O-、-NH-、-NR''-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる2価の基を表す。R’はさらに置換基によって置換されていてもよい。」を満たすものである。
また、甲1には、摘記オによると、「高屈折率を発現させるという点から、アリール(Ar)部分としては、・・・単純なベンゼン環も小さな構造であるため、アリール(Ar)部分が密に集まり易く、電子密度が向上するため好適である。また、W^(1)等のベンゼン環の連結基としては、高い水素結合能を有する、カルボニルを含む基やアミン等の官能基が、アミン部位の水素原子(Rおよび/またはR′が水素原子の場合)と水素結合を形成してよりアリール(Ar)部分が密に集まり易く、電子密度が向上するため好適である。」([0040])と記載され、更に、「より高い屈折率を発現するという点から下記式で示されるアリール基がより好ましい。
[化20]

」(摘記ア(オ))と記載されているように、甲1発明1のArとして[化20]で示されるアリール基であると、高い屈折率となることが示唆されている。
さらに、甲1発明1は、R”として、アラルキルアミノ基やアリールアミノ基であってもよく、甲1には、それらの具体的な名称として、本件発明1の「-N(R^(1))-Ar-(X)_(m)」に包含されるメトキシカルボニルフェニルアミノ基などが例示されている(摘記(エ))。
このように、甲1には、Arとして、本件発明1のRと同じ化学構造が選択肢として記載され、また、R''についても、本件発明1の-N(R^(1))-Ar-(X)_(m)と同じ化学構造が選択肢として記載されているとはいえる。
しかしながら、甲1において、本件発明1のR及び-N(R^(1))-Ar-(X)_(m)と同じ化学構造は一般的な記載として例示されているに留まり、それらを選択して組み合わせた具体的な実施例は記載されていない。また、甲1発明1におけるArが式(6)、(14)?(19)のように、本件発明1の「2つの2価の芳香族炭化水素基と、-S-、-O-、-NH-、-NR”-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる2価の基」であり、R”がアラルキルアミノ基又はアリールアミノ基である特定の基を組み合わせた繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーは、一般的な記載としても記載されておらず、ましてや具体的な実施例は記載されていない。そして、このような甲1の記載から、本件発明1のトリアジン環含有ポリマーを当業者が把握できるとはいえない。
そうすると、甲1には、甲1発明1におけるArが式(6)、(14)?(19)のいずれかであり、R”が特定のアラルキルアミノ基やアリールアミノ基である繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーが記載されているとはいえず、相違点1(1)は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、相違点1(2)を検討するまでもなく、甲1に記載された発明であるとはいえない。

次に、相違点1(1)の容易想到性について検討する。
上述のように、甲1には、Arとして、本件発明1のRと同じ化学構造が選択肢の一つとして記載されており、また、R''についても、本件発明1の-N(R^(1))-Ar-(X)_(m)と同じ化学構造が選択肢の一つとして記載されているとはいえるが、甲1には、これらの本件発明1の化学構造と同じ選択肢は、一般的な記載として例示されているに留まり、甲1発明1の実施例として、線状高分子化合物[5]が記載されているのみであり、この線状高分子化合物[5]は、Arが[化20]で示されるアリール基ではないし、R”がアラルキルアミノ基又はアリールアミノ基でもない。
そうすると、甲1発明1において、本件発明1の式(1)?(3)で表される繰り返し単位とすることは勿論のこと、Ar及びR”として特定の基を選択して組み合わせ、本件発明1の式(4)で表される繰り返し単位とすることが動機付けられるとはいえない。
そして、本件明細書の記載(段落【0010】、【0052】?【0062】)によれば、本件発明1は、式(1)?(4)のいずれかで表される繰り返し単位を含むことにより、屈折率の高いトリアジン環含有ポリマーが提供できるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、相違点1(2)の容易想到性について検討するまでもなく、甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであるが、上記(2)イで述べたとおり、本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明2についても同様に、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものでもない。

(4)本件発明3について
本件発明3は、式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)及び(38)?(46)のいずれかで表される繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーであり、本件発明3と甲1発明1とは、「トリアジン環を含む繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマー」の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1(3):本件発明3は、式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)及び(38)?(46)のいずれかで表される繰り返し単位を含むのに対して、甲1発明1は、繰り返し単位が式(2)である点。

・相違点1(4):本件発明3は、「ポリマーにおける繰り返し単位の繰り返し数が2以上10,000以下の整数」であるのに対して、甲1発明1は、繰り返し数の特定がない点。

相違点1(3)について検討すると、甲1には、式(2)におけるArの選択肢である式(3)?(19)、及び、R''の選択肢である「アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基」が例示されているが、実際に、上記Ar及びR''の特定の基を組み合わせた、本件発明3における式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)及び(38)?(46)のいずれかで表される繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーは記載されていないし、甲1の記載から、上記式で表される繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーを、当業者が把握できるとはいえない。
そうすると、甲1には、本件発明3の式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)及び(38)?(46)のいずれかで表される繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーが記載されているとはいえず、相違点1(3)は実質的な相違点である。
したがって、本件発明3は、相違点1(4)を検討するまでもなく、甲1に記載された発明であるとはいえない。

次に、相違点1(3)の容易想到性について検討する。
甲1には、Arの選択肢である式(3)?(19)、及び、R''の選択肢である「アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基」が一般的な記載として例示されているに留まり、甲1発明1の実施例として、線状高分子化合物[5]が記載されているのみである。このような甲1の記載から、甲1発明1において、Ar及びR''として特定の基を選択して組み合わせ、本件発明3の式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)及び(38)?(46)のいずれかで表される繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーとすることは、当業者といえども動機付けられるものではない。
そして、本件明細書の記載(段落【0010】、【0052】?【0062】)によれば、本件発明3の式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)及び(38)?(46)のいずれかで表される繰り返し単位を含むことにより、屈折率の高いトリアジン環含有ポリマーが提供できるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明3は、相違点1(4)について検討するまでもなく、甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

(5)本件発明4について
本件発明4は、式(21)、(22)、(36)又は(37)のいずれかで表される繰り返し単位を含み、D線の屈折率が1.80を超え、アニリン残基を含む、トリアジン環含有ポリマーであり、本件発明4と甲1発明1とは、「トリアジン環を含む繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマー」の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1(5):本件発明4は、式(21)、(22)、(36)又は(37)で表される繰り返し単位を含むのに対して、甲1発明1は、繰り返し単位が式(2)である点。

・相違点1(6):本件発明4は、D線の屈折率が1.80を超えるのに対して、甲1発明1は、D線の屈折率を特定していない点。

・相違点1(7):本件発明4は、アニリン残基を含むのに対して、甲1発明1は、そのような特定がない点。

相違点1(5)について検討すると、甲2には、摘記(エ)及び(カ)を併せ読むと、式(1)のAr^(1)の具体例としてp-ニトロフェニル基及びp-シアノフェニル基が記載されてはいるが、これは一般的な記載として例示されているに留まり、甲1発明1の実施例としては、線状高分子化合物[5]が記載されているのみである。このような甲1の記載から、甲1発明1において、Ar及びR''として特定の基を選択して組み合わせ、本件発明4の式(21)、(22)、(36)又は(37)で表される繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーとすることは、当業者といえども動機付けられるものではない。
また、甲3?甲5は、トリアジン環を有する繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーについて記載されたものではなく、甲1発明1において、甲3?甲5の記載から、甲1発明のArを式(13)とし、R''をp-ニトロフェニルアミノ基又はp-シアノフェニルアミノ基として、本件発明4の式(21)、(22)、(36)又は(37)のいずれかで表される繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーとすることが動機付けられるとはいえない。
そして、本件明細書の記載(段落【0010】、【0052】?【0062】)によれば、本件発明4は、式(21)、(22)、(36)又は(37)で表される繰り返し単位を含むことにより、屈折率の高いトリアジン環含有ポリマーが提供できるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明4は、相違点1(6)及び(7)を検討するまでもなく、甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明並びに甲3?甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

(6)本件発明5?9について
本件発明5?7と甲1発明2を対比すると、本件発明5?7が、有機溶剤、紫外線硬化剤及び熱硬化剤をそれぞれ含む点で新たに相違するが、上記(2)で述べたように、本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるともいえない以上、本件発明5?7は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるともいえない。
また、本件発明8?9と甲1発明3?4をそれぞれ対比すると、相違点1(1)及び(2)の他に新たな相違点はないが、上記(2)で本件発明1について述べた理由と同じ理由により、本件発明8?9は甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。

(7)まとめ
以上のとおり、本件発明1?3及び5?9は、いずれも、甲1に記載された発明であるとはいえず、本件発明1?3、5?9は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件発明4は、甲1及び甲2に記載された発明並びに甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、申立理由1及び申立理由2によっては、本件特許の請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由3(新規性)及び申立理由4(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1における式(2)に着目し、本件発明1と甲2発明1を対比する。
本件発明1の繰り返し単位は、トリアジン環の2位炭素原子と4位炭素原子にモノアミンである-N(R')-が結合しており、2位炭素原子に結合する窒素原子と、隣接する繰り返し単位の4位炭素原子に結合する窒素原子とが、2価の芳香族炭化水素基である-R-を介して結合する直鎖骨格を有するものである。そして、上記R'は、それぞれ水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基などから選択されるものである。
一方、甲2発明1の繰り返し単位は、トリアジン環の2位炭素原子に、2つのモノアミンの窒素原子が2価のアリール基Ar^(2)を介して結合した芳香族ジアミンである-N(R)-Ar^(2)-N(R')-が結合しており、-N(R')-がAr^(2)に結合する代わりに、トリアジン環の4位炭素原子に結合する構造と同じであることは明らかであって、本件発明1の上記直鎖骨格に相当するといえる。そして、上記R及びR'は、水素原子、アルキル基、アリール基であってもよく、本件発明1の「R'」に相当する。
また、本件発明1の繰り返し単位は、トリアジン環の6位炭素原子に芳香族アミンである-N(R^(1))-Ar-(X)_(m)の置換基を有している。一方、甲1発明1は、トリアジン環の6位炭素原子に、-NH-Ar^(1)で示され、Ar^(1)が式(15)である置換基を有している。

そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、トリアジン環の2位炭素原子と4位炭素原子にモノアミンである-N(R')-が結合しており、2位炭素原子に結合する窒素原子と、隣接する繰り返し単位構造に結合する4位炭素原子の窒素原子とが、2価の何らかの結合基を介して結合する直鎖骨格を有し、トリアジン環の6位炭素原子に芳香族アミンの置換基を有する「繰返し単位を含むトリアジン環含有ポリマー」の点で一致し、次の点で相違する。

・相違点2(1):本件発明1は、上記一致点の「何らの結合基」がRであって、「Rは、2つの2価の芳香族炭化水素基と、-S-、-O-、-NH-、-NR''-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる2価の基を表」し、「Rはさらに置換基によって置換されていてもよ」く、トリアジン環における6位炭素原子に結合する芳香族アミンが-N(R^(1))-Ar-(X)_(m)である(「R^(1)は、水素原子、アセチル基、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を有する脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基と、-S-、-O-、-NH-、-NR''-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を有する脂肪族炭化水素基を表す。R^(1)はさらに置換基によって置換されていてもよ」く、「Arは、2価の芳香族炭化水素基を表す。Xは、それぞれヘテロ原子含有基を表す。mは1?5の整数を表す。」)のに対して、甲2発明1は、上記一致点の「何らかの基」がAr^(2)であって、「Ar^(2)は、式(2)?(13)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表」し、トリアジン環における6位炭素原子に結合する芳香族アミンが-NH-Ar^(1)であり、「Ar^(1)が、式(15)で示される」ものである点。

・相違点2(2):本件発明1は、「nはポリマーにおける繰り返し単位の繰り返し数を表し、2以上10,000以下の整数を表す。」のに対して、甲2発明1は、繰り返し数が不明である点。

イ 相違点の検討
上記相違点について検討する。
甲2発明1におけるアリール基Ar^(1)である式(15)のR^(102)?R^(106)は、「互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基」のいずれかであり、摘記(エ)及び(カ)を併せ読むと、アリール基Ar^(1)が、p-メトキシフェニル基などであってよく、また、Ar^(2)が式(2)?(13)の群から選ばれるものであり、式(5)、(12)又は(13)は、本件発明1の「2つの2価の芳香族炭化水素基と、-S-、-O-、-NH-、-NR”-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる2価の基を表す。R’はさらに置換基によって置換されていてもよい。」を満たすものである。
このように、甲2には、-NH-Ar^(1)について、本件発明1の-N(R^(1))-Ar-(X)_(m)と同じ化学構造が選択肢の一つとして記載されており、また、Ar^(2)としても、本件発明1のRと同じ化学構造が選択肢として記載されているとはいえる。
しかしながら、甲2には、これらの本件発明1のR及び-N(R^(1))-Ar-(X)_(m)と同じ化学構造は一般的な記載として例示されているに留まり、それらを選択して組み合わせた具体的な実施例は記載されていない。また、甲2発明1におけるAr^(1)が、例えば、p-メトキシフェニル基であり、Ar^(2)が式(5)、(12)又は(13)のように、本件発明1の「2つの2価の芳香族炭化水素基と、-S-、-O-、-NH-、-NR”-、及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる2価の基」である特定の基を組み合わせた繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーは、一般的な記載としても記載されておらず、ましてや具体的な実施例は記載されていない。そして、このような甲2の記載から、本件発明1のトリアジン環含有ポリマーを当業者が把握できるとはいえない。
そうすると、甲2には、甲2発明1におけるAr^(1)が、上記R^(102)?R^(106)として、本件発明1の「1?5個のヘテロ原子含有基」に該当するハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基若しくはアルコシキシ基を選び、又はp-メトキシフェニル基であり、Ar^(2)が式(5)、(12)又は(13)である繰り返し単位を含むトリアジン環含有ポリマーが記載されているとはいえず、相違点2(1)は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、相違点2(2)を検討するまでもなく、甲2に記載された発明であるとはいえない。

次に、相違点2(1)の容易想到性について検討する。
上述のように、甲2には、-NH-Ar^(1)について、本件発明1の-N(R^(1))-Ar-(X)_(m)と同じ化学構造が選択肢として記載されており、また、Ar^(2)についても、本件発明1のRと同じ化学構造が選択肢として記載されているとはいえるが、甲2には、これらの本件発明1の化学構造と同じ選択肢は、一般的な記載として例示されているに留まり、甲2には、Ar^(1)のR^(102)?R^(106)として、本件発明1の「ヘテロ原子含有基」に該当するハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基若しくはアルコシキシ基を選び、又はp-メトキシフェニル基であり、Ar^(2)として、式(5)、(12)又は(13)を選ぶことにより、高屈折率を示すトリアジン環含有ポリマーが得られることの作用機序やそれを示唆する技術的説明は記載されていないし、甲2発明1の具体例であって屈折率が示された高分子化合物[2]は、トリアジン環の6位炭素原子にヘテロ原子含有基を持つアリール基を結合したものではない。
更に、甲3?甲5は、トリアジン環含有ポリマーについて記載されたものではないし、甲2発明1における繰り返し単位を、本件発明1の式(1)?(4)のいずれかで表される繰り返し単位とすることを当業者が動機付けられる記載も見当たらない。
そうすると、甲2発明1において、本件発明1の式(1)?(3)で表される繰り返し単位とすることは勿論のこと、Ar^(1)及びAr^(2)として特定の基を選択して組み合わせ、本件発明1の式(4)で表される繰り返し単位とすることが動機付けられるとはいえない。
そして、本件明細書の記載(段落【0010】、【0052】?【0062】)によれば、本件発明1の式(1)?(4)のいずれかで表される繰り返し単位を含むことにより、屈折率の高いトリアジン環含有ポリマーが提供できるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、相違点2(2)について検討するまでもなく、甲2に記載された発明及び甲3?甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであるが、上記(1)イで述べたとおり、本件発明1が甲2に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明2についても同様に、甲2に記載された発明であるとはいえないし、甲2に記載された発明及び甲3?甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものでもない。

(3)本件発明3について
本件発明3と甲2発明1を対比すると、両者は「トリアジン環含有ポリマー」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点2(3):本件発明3は、式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)、(38)?(46)のいずれかで表される繰り返し単位を含むのに対して、甲2発明1は、甲2に記載された式(1)で表される繰り返し単位を含む点。

・相違点2(4):本件発明3は、「nはポリマーにおける繰り返し単位の繰り返し数を表し、2以上10,000以下の整数を表す。」のに対して、甲2発明1は、繰り返し数が不明である点。

相違点2(3)について検討すると、甲2発明1において、Ar^(1)は(15)であり、そのR^(102)?R^(106)は、「互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基」のいずれかであり、Ar^(2)が式(2)?(13)の群から選ばれるものであるが、甲2には、実際に、上記Ar^(1)及びAr^(2)を選択して、本件発明3の式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)、(38)?(46)で表される繰り返し単位とすることは記載されていない。
そうすると、相違点2(3)は実質的な相違点であり、本件発明3は、相違点2(4)について検討するまでもなく、甲2に記載された発明であるとはいえない。

次に、相違点2(3)の容易想到性について検討する。
上記(1)イで述べたように、甲2には、甲2発明1におけるアリール基Ar^(1)である式(15)のR^(102)?R^(106)は、「互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基」のいずれかであり、摘記(エ)及び(カ)を併せ読むと、アリール基Ar^(1)が、p-メトキシフェニル基などであってよく、また、Ar^(2)が式(2)?(13)の群から選ばれることが記載されているが、上記Ar^(1)のR^(102)?R^(106)及びAr^(2)は一般的な記載として例示されているに留まり、甲2発明1の実施例として高分子化合物[2]が記載されているのみである。このような甲2の記載から、甲2発明1において、本件発明3の式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)、(38)?(46)のいずれかで表される繰り返し単位とすることは、当業者といえども動機付けられるものではない。
また、甲3?甲5は、トリアジン環含有ポリマーについて記載されたものではないし、甲2発明1における繰り返し単位を、本件発明3の式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)、(38)?(46)のいずれかで表される繰り返し単位とすることを、当業者が動機付けられる記載も見当たらない。
そして、本件明細書の記載(段落【0010】、【0052】?【0062】)によれば、本件発明3の式(6)?(13)、(15)?(20)、(23)?(35)及び(38)?(46)のいずれかで表される繰り返し単位を含むことにより、屈折率の高いトリアジン環含有ポリマーが提供できるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明3は、相違点2(4)について検討するまでもなく、甲2に記載された発明及び甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。

(4)本件発明5?9について
本件発明5?7と甲2発明2を対比すると、本件発明5?7が、有機溶剤、紫外線硬化剤及び熱硬化剤をそれぞれ含む点で新たに相違するが、上記2(1)で述べたように、本件発明1が甲2に記載された発明でない以上、本件発明5?7は甲2に記載された発明であるとはいえないし、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものであるともいえない。
また、本件発明8?9と甲2発明3?4をそれぞれ対比すると、相違点2(1)及び(2)の他に新たな相違点はないが、上記2(1)で本件発明1について述べた理由と同じ理由により、本件発明8?9は甲2に記載された発明であるとはいえないし、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものでもない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1?3、5?9は、いずれも、甲2に記載された発明であるとはいえないし、甲2に記載された発明及び甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、申立理由3(新規性)及び申立理由4(進歩性)によっては、本件特許の請求項1?3、5?9に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-04-25 
出願番号 特願2013-33815(P2013-33815)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08G)
P 1 651・ 113- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 英司  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 井上 猛
近野 光知
登録日 2018-06-22 
登録番号 特許第6355890号(P6355890)
権利者 出光興産株式会社
発明の名称 トリアジン環を含有する重合体  
代理人 特許業務法人平和国際特許事務所  

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