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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L |
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管理番号 | 1351465 |
異議申立番号 | 異議2019-700095 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-02-08 |
確定日 | 2019-05-17 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6369436号発明「貫通電極基板および貫通電極基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6369436号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6369436号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし15に係る特許についての出願は、平成25年11月13日の出願である特願2013-234994の一部を、平成27年9月29日に新たな特許出願としたものであって、平成30年7月20日に特許権の設定登録がされ、平成30年8月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、平成31年2月8日に特許異議申立人石井良夫により特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1-15の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」-「本件特許発明15」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1-15に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 第1面と第2面とを貫通する貫通孔を有する基板と、 前記貫通孔の側壁に沿って配置された貫通電極と、 を有し、 前記貫通孔は、前記第1面及び前記第2面から前記基板の内部に向かって連続的に径が小さくなり、 前記貫通電極は、第1導電層、第2導電層、第3導電層、及び第4導電層を有し、 前記第1導電層は、前記貫通孔の側壁の前記第1面側の一部に配置され、 前記第2導電層は、前記貫通孔の側壁の前記第2面側の一部に配置され、 前記第3導電層は、前記第1導電層、前記第2導電層、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層から露出された前記貫通孔の側壁に接して配置され、 前記第4導電層は、前記第3導電層上に配置されることを特徴とする貫通電極基板。 【請求項2】 前記基板は、ガラス基板又は石英基板であることを特徴とする請求項1に記載の貫通電極基板。 【請求項3】 前記貫通孔における前記貫通電極の内側には、前記第1面側から前記第2面側につながる空洞が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の貫通電極基板。 【請求項4】 前記貫通孔における前記貫通電極の内側において、前記第1面側から前記第2面側まで連続して配置された絶縁性材料をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の貫通電極基板。 【請求項5】 前記第1導電層及び前記第2導電層と前記基板との密着性、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層と前記第3導電層との密着性は、前記第3導電層と前記基板との密着性よりも強いことを特徴とする請求項1に記載の貫通電極基板。 【請求項6】 前記基板と前記貫通電極との間に配置された下地絶縁層をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の貫通電極基板。 【請求項7】 前記第1導電層及び前記第2導電層と前記下地絶縁層との密着性、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層と前記第3導電層との密着性は、前記第3導電層と前記下地絶縁層との密着性よりも強いことを特徴とする請求項6に記載の貫通電極基板。 【請求項8】 前記第1導電層及び前記第2導電層は、アルゴンを含有することを特徴とする請求項1 に記載の貫通電極基板。 【請求項9】 基板の第1面と第2面とを貫通し、前記第1面及び前記第2面から前記基板の内部に向かって連続的に小さくなる形状の貫通孔を形成し、 前記貫通孔の側壁に沿って貫通電極を形成する貫通電極基板の製造方法であって、 前記貫通電極は、 前記貫通孔の側壁の前記第1面側の一部に、スパッタリング法によって第1導電層を形成し、 前記貫通孔の側壁の前記第2面側の一部に、スパッタリング法によって第2導電層を形成し、 前記第1導電層、前記第2導電層、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層から露出された前記貫通孔の側壁に接するように第3導電層を形成し、 前記第3導電層上に、めっき法によって第4導電層を形成することで形成される貫通電極基板の製造方法。 【請求項10】 前記基板は、ガラス基板又は石英基板であることを特徴とする請求項9に記載の貫通電極基板の製造方法。 【請求項11】 前記貫通電極は、前記貫通孔における前記貫通電極の内側に前記第1面側から前記第2面側につながる空洞ができるように形成されることを特徴とする請求項9に記載の貫通電極基板の製造方法。 【請求項12】 前記貫通電極の内側に、前記第1面側から前記第2面側まで連続する絶縁性材料をさらに形成することを特徴とする請求項9に記載の貫通電極基板の製造方法。 【請求項13】 前記第3導電層は、斜め蒸着法によって形成されることを特徴とする請求項9に記載の貫通電極基板の製造方法。 【請求項14】 前記斜め蒸着法は、前記基板の前記第1面又は前記第2面に対する垂線が蒸着材料の飛行方向に対して5°以上20°以下傾いた状態で行われることを特徴とする請求項13に記載の貫通電極基板の製造方法。 【請求項15】 前記基板と前記貫通電極との間に下地絶縁層をさらに形成し、 前記第1導電層及び前記第2導電層は、前記下地絶縁層上に形成されることを特徴とする請求項9に記載の貫通電極基板の製造方法。」 第3 申立理由の概要 理由1 特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2号証-甲第13号証を提出し、請求項1-15に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。 理由2 特許異議申立人は、主たる証拠として甲第14号証を提出し、請求項1-15に係る特許は特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。 理由3 特許異議申立人は、本件特許発明1-15は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないので、同法第113条第4号により取り消されるべきである旨主張している。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2006-287019号公報 甲第2号証:特開平7-193214号公報 甲第3号証:特開平6-349952号公報 甲第4号証:特開2000-183160号公報 甲第5号証:特開2002-359446号公報 甲第6号証:特開2010-182734号公報 甲第7号証:特開2010-129934号公報 甲第8号証:特開2003-289073号公報 甲第9号証:特開2006-261553号公報 甲第10号証:特開平9-92675号公報 甲第11号証:特開平5-167062号公報 甲第12号証:特開昭54-7572号公報 甲第13号証:特開2003-159797号公報 甲第14号証:特開2015-95590号公報 第4 理由1(第29条第2項)について 1 甲第1号証-甲第13号証の記載事項 (1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。 「【請求項1】 ガラス基板もしくはセラミックス基板の板厚方向に貫通する孔に、電極となる金属を充填した貫通電極付基板であって、貫通孔内壁面に0.5μm厚以上の金属膜aが形成され、貫通孔は銅(Cu)と錫(Sn)、銅と錫の合金から構成される電極材が充填されていることを特徴とする貫通電極付基板。 【請求項2】 電極材はCuの表面がCu3Snの合金層とCu6Sn5の合金層で被覆構成された3層構造体で主構成され、3層構造体同士はCu6Sn5合金層もしくはCu3Sn合金層、Snで接合され、3層構造体と金属膜a間は金属膜aとCu6Sn5とで構成される合金層で接続されていることを特徴とする請求項1に記載の貫通電極付基板。」 「【請求項6】 前記貫通孔の内壁面に設けられた金属膜aが、基板側と電極側で組成が異なる少なくとも2層以上の膜で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の貫通電極付基板。 【請求項7】 前記金属膜aの基板側の層はクロム(Cr)であり、電極側の層はニッケル(Ni)を主成分とする金属であることを特徴とする請求項6に記載の貫通電極付基板。 【請求項8】 貫通孔を有する基板の貫通孔内壁に金属膜aを形成する工程、Cu粉とSn粉、フラックスを混合し混合材を得る工程、混合材を貫通孔に充填する工程、60℃?100℃で一次ベークする工程、240℃?300℃でニ次ベークする工程、300℃?550℃で三次ベークする工程、基板両面を研削もしくは研磨する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の貫通電極付基板の製造方法。」 「【0007】 貫通孔をめっきで金属充填する方法を用いると、CuやNiなどの高融点金属を充填することが可能である。しかし、貫通孔にめっきで金属を均一に充填することは難しく、めっき金属の内部に空洞が発生してしまうことがあった。また、めっき金属の析出速度が遅く生産性に難があるという問題があった。 【0008】 本発明は上記問題を解決するもので、耐熱性を得るために貫通電極をCuとSnもしくはCuSn合金の電極材で形成し、また、電極材と貫通孔内壁に設けられた金属膜aを合金化することで、貫通電極の強い密着力と安定した電極の電気抵抗が得られる貫通電極付基板とその製造方法を提供するものである。」 「【0015】 貫通孔は、レーザーやブラスト、エッチングなどの方法で基板に形成することができる。基板にフォトレジストなどでマスクを形成し、化学エッチングやブラストで貫通孔を形成する方法は、多数の貫通孔を同時に形成できるので好ましい方法である。貫通孔の平面形状は、円形や楕円形、多角形、矩形、不定な形状でも良く、深さ方向で形状が変化し、基板表裏で貫通孔の形状や大きさが異なっても良いものである。」 「【0017】 貫通孔内壁の貫通孔端近傍の領域に、金属膜aが形成されており、充填された電極材と金属膜aの接触部は合金化して結合されることが好ましい。金属膜aは、少なくとも基板表面から孔の深さ方向に向かって、片側で基板厚の1/4以上形成されていることが好ましい。電極材と基板の面を同一にするための加工代より、大きく金属膜aが形成されていること、言い換えると平坦化加工された後でも、金属膜aは貫通孔内壁に残っていることが好ましいものである。より好ましくは、貫通孔内壁全面に金属膜aが形成されていることである。金属膜aを0.5μm厚以上とすることで、貫通孔内壁の面粗さの凹凸を埋め、緩やかな凹凸状態とすることができる。貫通孔内壁を緩やかな凹凸状態にすることで、電極材と貫通孔表面間に気泡の取り込みを少なくでき、結合面積が大きくなることで電極材の強固な接合が得られる。また、金属膜aと電極材との接触部は合金化して結合されるため、熱が加わったときでも電極材が貫通孔から抜け出るようなことはない。 【0018】 貫通孔の内壁面に形成する金属膜aは、単体の金属もしくは合金の単層膜か、基板側と電極側で組成が異なる少なくとも2層以上の金属膜で構成されていても良い。金属膜の形成方法は、蒸着法やスパッタ法、めっき法などを用いることができる。貫通孔内壁に接する第一層目の金属膜は、貫通孔内壁への付着強度が高い膜が得られるスパッタ法を用いるのが好ましい。貫通孔内壁への膜の付着強度が、電極材と貫通孔との接合強度を左右するものであり、高い付着強度が望まれるものである。 【0019】 貫通孔の内壁面に形成する金属膜aの第一層目は、密着性に優れたCr膜を用いることが好ましい。Cr膜厚は0.02μmより薄いと密着力を得る効果が小さいので、貫通孔の内壁面の凹凸表面を覆うことができる0.02μm以上の膜厚とすることが好ましい。金属膜aの最表面の膜は、NiもしくはNiを主成分とする合金であることが好ましい。金属膜aと電極材との界面に拡散反応によって合金層が形成されるので、金属膜aを電極材と合金を作り易いNi系とすることで、強固な結合が得られるものである。合金層が形成され金属膜aと電極材が強固に結合されることで、金属膜aと電極材の熱膨張率の差による応力や機械的な外力が加わっても、貫通孔から電極材が抜け出るようなことはない。」 「【発明の効果】 【0024】 電極材の主構成をCuとSnからなる3層構造体とすることで、低電気抵抗で300℃以上の融点を有する電極材を得た。貫通孔に内壁に金属膜aを形成し、電極材と一体化させることで、電極材は貫通孔に強固に保持され、信頼性の高い貫通電極付基板を得ることができた。」 「【実施例1】 【0026】 図1に、本発明の貫通電極付基板の斜視図を示す。基板1”の厚み方向に貫通した孔に金属が充填されて形成された電極6が所定の間隔で設けられている。図2は、本発明実施例1で用いた貫通電極付基板の製造方法を示す。図2a)?図2j)を用いて、製造方法(工程)を説明する。以降、電極6は電極材と称することもある。 【0027】 図2a)?図2c)は、基板1に貫通孔3を形成する工程である。基板1は、直径が100mmφで板厚400μmの硼珪酸ガラスである。用いた硼珪酸ガラスは、コーニング社のパイレックス(登録商標)である。基板1の片面全面に厚さ90μmのフィルムレジスト2を接着し、露光と現像を行った。フィルムレジスト2に、φ130μmの円形のパターン30を形成した(図2a))。 フィルムレジスト2をマスクとして、砥粒31を高速で基板に噴射するブラスト法で基板1を削り取った。ブラストに用いた砥粒31は炭化珪素(SiC)粉末で粒径は400番を使用した。砥粒31の噴射圧力は0.35MPaとした。フィルムレジスト2を形成した基板1の片面から砥粒を基板全面に噴射して、基板1の窪みを深くしていき最終的に貫通孔3を形成した(図2b))。ブラスト加工終了後、フィルムレジスト2を剥離除去し、貫通孔3が設けられた基板1’を得た(図2c))。貫通孔3は、砥粒を噴射した面側の直径がφ180μm、反対面側の直径がφ70μmの略円錐台状となった。 【0028】 図2d)?図2f)は、貫通孔3の内壁に金属膜a4を形成する工程である。貫通孔3が形成された基板1’の両面に、フィルムレジスト32を接着し、露光と現像を行った。貫通孔3の基板の周辺が露出するように、貫通孔3より数10μm大きな孔径になるにフィルムレジスト32をパターニングした(図2d))。次に、貫通孔3の内壁に金属膜a4を形成した。金属膜a4は、スパッタリング法でCr膜とNi膜を形成し、さらにその上に無電解めっき法でNi膜を形成した。スパッタで形成したCr膜の膜厚は0.02μm、Ni膜の膜厚は0.08μmである。スパッタは基板の片面毎に行い、基板1’の両面側から100μm程度の深さまで、CrとNiの2層膜を形成し、同2層膜上に無電解めっき法でNi膜を3μm形成した(図2e))。フィルムレジスト32を除去し、貫通孔の内壁と貫通孔周辺に金属膜a4が形成された基板1’を得た(図2f))。 【0029】 図2g)?図2i)は、電極を形成する工程である。基板1’にスクリーンマスク34を密着固定し、貫通孔3に混合材5をスクリーン印刷法を用い充填した(図2g))。混合材5は、平均粒径11μmのSn粉と平均粒径30μmのCu粉、グリス状のフラックスを混練した。混合材の粘度は150Pa・Sに調製した。Sn粉とCu粉の配合比は、重量比で0.5:0.5とした。スクリーンマスク34の開口ピッチは貫通孔3と同ピッチで、スクリーンマスク34の開口径は貫通孔径より約30μm大きくした。混合材5は貫通孔3にへら33を矢印方向に動かしながら摺り込むように充填した。混合材5が基板1’表面から僅かにはみだすように充填した。スクリーンマスク34を除去して、貫通孔3に混合材5が充填された基板1’を得た(図2h))。 【0030】 貫通孔3に混合材5が充填された基板1’を窒素雰囲気のオーブンで、一次から三次ベークを行い混合材5を合金化し電極材6とした(図2i))。一次ベークの加熱条件は、予め70℃に昇温したオーブンに基板1”を投入し、25分間保持した。加熱することで混合材5中のフラックスを流動化させ、混合材5を貫通孔3に充填した際に混合材5内に巻き込んだ気泡を、混合材5の表面に排出させた。二次ベークは、窒素雰囲気の電気炉を用いて行った。二次ベークの加熱条件は、室温から150℃まで昇温して5分間保持し、その後270℃まで昇温して3分間保持とした。Snの融点232℃より高温で保持することで、混合材5中のSn粉は熔融して液状になり、Cu粉の隙間に浸透させた。熔融したSnはCu粉と反応し、CuをCu3Snが覆い、Cu3SnをCu5Sn6が覆う3層構造体を作る。3層構造体は3層構造体同士もしくはSnと接合して電極材6を形成した。また、金属膜a4と3層構造体およびSnが接合して、貫通孔3に強固に電極材6を形成した。混合材5中のフラックス成分が加熱により、電極材6表面に析出してくるので、炉から取り出し室温まで冷却したのち、析出したフラックスを有機溶剤で洗浄除去した。三次ベークは、窒素雰囲気の電気炉を用いて行った。三次ベークの加熱条件は、室温から500℃まで2時間かけて昇温し、500℃で1時間保持した。 【0031】 基板1’の表裏両面にはみ出した電極材6を除去するために、基板表裏面を10μmずつ研磨し、電極材6と基板1”の面が同一の、貫通電極付基板50を得た(図2j))。 【0032】 一次べークから三次ベークにおける混合材5と金属膜a4の変化を、図2i)のw部を拡大して図3a)から図3c)に示すとともに、詳細に説明する。図3a)は、一次ベーク完了後、図3b)は二次ベーク完了後、図3c)は三次ベーク完了後のw部を模式的に示す。図3a)に示す一次ベーク完了後は、ベーク温度が70℃とSnおよびCuの融点よりも低温であるため、Sn粉8とCu粉9とも形状の外観的変化は見られない。Sn粉8とCu粉9の隙間には、フラックス10が充填されている。基板1’に設けられた貫通孔の内壁には、金属膜a4が形成されており、金属膜a4はCr膜12とNi膜11の2層となっている。」 【請求項1】及び【請求項7】を参酌すると、図2(j)より、電極材6は、金属膜aの電極側の層上及び貫通孔内壁面に接して配置されていることが見て取れる。 上記の記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、甲第1号証の記載箇所を示す。)。 「ガラス基板の板厚方向に貫通する孔に、電極となる金属を充填した貫通電極付基板であって、貫通孔内壁面に金属膜aが形成され、貫通孔は銅(Cu)と錫(Sn)、銅と錫の合金から構成される電極材が充填されており(【請求項1】)、 基板は、板厚400μmであり、 貫通孔は、砥粒を噴射した面側の直径がφ180μm、反対面側の直径がφ70μmの略円錐台状であり(【0027】)、 金属膜aは、基板側と電極側で組成が異なる複数層の膜で構成され、基板側の層はクロム(Cr)であり、電極側の層はニッケル(Ni)を主成分とする金属であり(【請求項6】、【請求項7】)、基板の両面側から100μm程度の深さまで、CrとNiの2層膜が形成され、同2層膜上にNi膜が3μm形成され(【0028】)、 電極材は、金属膜aの電極側の層上及び貫通孔内壁面に接して配置された(図2(j)) 貫通電極付基板。」 (2)甲第2号証-甲第4号証の記載事項及び周知技術 ア 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 「【0024】このように本実施例では、GaAs基板1表面から凹状穴1aの内面にかけて給電機能を有するスパッタ層8を形成した後、このスパッタ層8表面と凹状穴1aの内面のスパッタ層8で被覆されなかった部分に、無電解Ni系合金メッキ層7を形成し、この後、これらスパッタ層8と無電解Ni系合金メッキ層7を給電層として電解Auメッキ層9を形成するので、凹状穴1aの内面全域に厚み3μm以上の電解Auメッキ層9を、途切れが生ずることなく、形成することができる。また、上記スパッタ層8は、そのTi,CrまたはNiからなる密着層によって凹状穴1aの内面に対して高い密着性でもって密着し、無電解Ni系合金メッキ層7はスパッタ層8及びバイアホール1aの内面に対して高い密着性でもって密着しているので、電解Auメッキ層9はこれらスパッタ層8と無電解Ni系合金メッキ層7を介して、バイアホール1aの内面に対して高い密着性をもって形成されることになる。従って、電解Auメッキ層9の形成後、GaAs基板1裏面を研磨して凹状穴1aを貫通させ、該裏面にAu層11を形成して得られるバイアホールは、基板1の表面側の配線(電解Auメッキ層9を含む配線パターン10)と裏面配線(Au層11)とが貫通穴1bを介して確実に導通し、しかも、強度的にも安定なものとなる。」 イ 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。 「【0024】次に、コンタクトホール40a内外の下地29上に、気相成長法を用いて、第一のカレントフィルム42を形成する。この実施例では、第一のカレントフィルム42はTi膜及びAu膜から成る二層構造の導電体であり、気相成長法としてスパッタ法又は蒸着法を用いて、層間絶縁膜40側から順次にこれらTi及びAu膜を堆積し、下地29の層間絶縁膜40上に第一のカレントフィルム42を形成する(図2(B))。ここでは、第一のカレントフィルム44を層間絶縁膜40全面にわたり形成する。」 「【0027】次に、第一のカレントフィルム42上に、無電解めっき法を用いて、当該フィルム42の切れ目46から露出する領域を覆う第二のカレントフィルム48を形成する。切れ目46はコンタクトホール40aのアスペクト比が大きい場合にこのコンタクトホール底部従って上層配線形成領域に生じ易い(図3(A)参照)。この実施例では、第一のカレントフィルム42をAuの無電解めっき液中に浸漬し、第二のカレントフィルム48としてAu膜を形成する(図3(B))。」 「【0029】次に、第二のカレントフィルム48上に、電解めっき法を用いて上層配線50を形成する。この実施例では、第二のカレントフィルム48をAuの電解めっき液中に浸漬する。そして第二のカレントフィルム48及び又は第一のカレントフィルム42を電解めっきの陽極として通電し、上層配線形成領域の第二のカレントフィルム48上に選択的にAuめっき膜を堆積させ、このAuめっき膜から成る上層配線50を得る(図4(A))。」 ウ 甲第4号証には、以下の事項が記載されている。 「【0047】次に、コンタクトホール24を含む第2層の層間絶縁膜23の上に全面に亘って、銅膜を構成する銅原子が第2層の層間絶縁膜23に拡散する事態を防止するTaNからなるバリア層26を例えばスパッタリング法によって堆積する。 【0048】次に、バリア層26の上にスパッタリング法によって、銅からなりバリア層26との密着性に優れた10nm程度の厚さを有するシード層27を形成する。この場合にも、直進性に優れたイオンビームスパッタリング、バイアススパッタリング法又はコリメートスパッタリング法によりシード層27を形成することが好ましい。 【0049】このようにすると、コンタクトホール24の下側部分の壁面においては、数nm程度の直径を有する銅の粒が島状に形成されたシード層27が形成される。 【0050】次に、シード層27の上に銅の無電解めっきを行なって、シード層27を成長させることにより、図7に示すように、コンタクトホール24の壁面の上側部分及び下側部分並びに底面において銅膜が連続しており且つ10nm程度の厚さを有する、補強されたシード層27Aを形成する。尚、無電解めっき浴としては、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。 【0051】次に、補強されたシード層27Aの上に銅の電解めっきを行なって、図8に示すように、コンタクトホール24の内部に銅膜28を充填する。尚、銅の電解めっき浴としては、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。」 甲第2号証-甲第4号証の記載から、次のことが周知技術であるといえる。 「コンタクトホールの内面に、スパッタ法により導電性のスパッタ層を形成した後、このスパッタ層の表面とコンタクトホール内面のスパッタ層で被覆されなかった部分に、無電解メッキ法により導電性の無電解メッキ層を形成し、この後、電解メッキ法により導電性の電解メッキ層を形成する技術。」 (3)甲第5号証には、以下の事項が記載されている。 「【0036】なお、図32に示すように、両面からサンドブランドを行うことにより絶縁基板の中央から外部に向って貫通孔の径が広がっていく形状としてもよい。この場合、一方から貫通孔を開口する場合に比べ、貫通孔形成までの時間が短縮されるため、開口端での貫通孔の径は小さくすることができる。 また、図33に示すように、貫通孔の形成開始面を異ならせることにより、テーパの向きが逆方向の貫通孔を有する絶縁基板を形成することができる。貫通孔のテーバの向きが全て同じ場合、応力により絶縁基板が反る場合があるが、貫通孔のテーパの向きを異ならせると、絶縁基板の反りを防止でき、その後絶縁基板上に微細配線を形成することができる。 本実施例にかかる多層配線基板は、例えばマルチチップモジュールのインターポーザとして用いることができる。図4は、絶縁基板1の貫通孔100の開口径が小さい面(基板の1次側)には、半導体装置9を搭載し、開口径が大きい面(基板の2次側)は、半導体モジュールを実装する実装基板10に実装したものを示している。これにより、基板の1次側では、半導体装置を狭ピッチに実装、接続できる。」 「【0041】図1乃至図4では、絶縁基板1の両面において電気的接続を可能とする貫通孔100の内面には、導電性材料(配線101)が存在している。例えば銅配線101は、貫通孔100の内面にスパッタ等により給電膜、例えばCr/Cuを形成し、その後電気めっきにより形成する。なお、銅配線101が形成された後に、絶縁性の材料を充填してもよい。 また、絶縁基板1の両面間の電気的接続を取る方法として、貫通孔100の内面に配線を形成する以外に、ペースト印刷等により貫通孔100を導電性材料で充填する、又ははんだ材料を溶融させて流し込むようにしてもよい。適切に選択した導電性材料を絶縁基板1に充填した場合は、貫通孔100を有する絶縁基板1の強度を高めることもできる。」 (4)甲第6号証には、以下の事項が記載されている。 「【0095】 図11は第2変形例の半導体装置を示すものである。本変形例の貫通孔7は、内側面7aの少なくとも一部が能動面10A側に向かって、該貫通孔7の内径を狭めるテーパー形状を有している。具体的に貫通孔7は、図11に示すように、半導体基板10の基板中央部から裏面10B側に向かって内径が直線状に拡がるテーパー形状と、基板中央部から能動面10A側に向かって内径が直線状に拡がるテーパー形状とを連続させた略逆菱形形状から構成されている。」 (5)甲第7号証には、以下の事項が記載されている。 「【0057】 図5に、本発明における貫通孔の形態を例示する。ガラス回路基板40の厚さ方向を貫通する貫通孔33としては、図5(A)に示すようなストレート形状、図5(B)に示すようなテーパー形状、図5(C)に示すような鼓形状などを採用することができる。」 (6)甲第8号証には、以下の事項が記載されている。 「【0036】図1は、本発明の第1の実施の形態に関わる基板に貫通孔が形成された半導体装置の断面部分を示す模式図である。図2はその上面図であり、説明を容易にするために一部透視した図になっている。1は半導体装置の基板である。基板1にはその表面から裏面へ貫通する貫通孔2が形成されている。3は基板1の表裏面に形成された保護層である。貫通孔2の内側表面、基板1の表裏面側の貫通孔2の開口部周辺には有機物からなる絶縁層4が形成されている。貫通孔2の内側表面に形成した絶縁層4の更に内側表面及び貫通孔2の表面側の開口部周辺には、絶縁層4を被うように導電層5が形成されている。また基板1の裏面側に形成した絶縁層4の表面には、貫通孔2の基板1の裏面側の開口部周辺に導電層5が形成されている。貫通孔2における導電層5の更に内側は埋め込み用材料6により埋め込まれている。10は電気接続部となる電極パッドであり、貫通孔2の開口部を取り囲むように円環状に形成されている。11は半導体素子である。12は半導体素子11と電極パッド10を電気的に接続する配線であり電極パッド10の一部から直線状に延びている。電極パッド10、配線12と基板1との間には不図示の絶縁膜が形成されている。電極パッド10、半導体素子11、配線12は貫通孔2を形成する前に、あらかじめ半導体プロセス等により基板1の表面に形成されている。半導体素子11及び配線12は保護膜3により被われている。保護膜3は後述するレーザ加工、エッチング加工、メッキ、電着等のドライプロセスやウエットプロセスを行う上での化学的なダメージや汚染、半導体装置製造後のダイシング工程、実装工程、パッケージ工程時に生じる物理的な損傷から半導体素子11及び配線12を保護し、また電流の漏洩や配線の短絡等から生じる電気的な劣化を防止している。電極パッド10は保護膜3から露出し、導電層5と電気的接続するように形成されている。従って、基板1の表面側の半導体素子11は、配線12、電極パッド10、導電層5を介して裏面側と電気的に接続されている。」 (7)甲第9号証には、以下の事項が記載されている。 「【0005】 ここで、図5(a)?(f)を用いて、従来の貫通電極を有する半導体装置の製造方法について説明する。図5(a)?(f)は、この半導体装置の製造工程を示す断面図である。 まず、図5(a)に示すように、半導体基板10の上面に素子形成部11を形成する。 次に、図5(b)に示すように、フォトレジストパターン12を形成し、フォトレジストパターン12をマスクとして用いて、反応性イオンエッチング(RIE)等の方法により素子形成部11及び半導体基板10を順次エッチングし、基板表面から100μm程度の孔13を形成する。 次に、図5(c)に示すように、素子形成部11上と孔13の側壁面にLPCVD法を用いてシリコン酸化膜14を形成する。 次に、電気めっきの陰極となるシード膜15をシリコン酸化膜14上に堆積する。そして、これを陰極として孔13の内部をCu16で充填する。さらに、CMPを用いて孔13以外のCu16とシード膜15とシリコン酸化膜14を除去し、図5(d)に示す構造を得る。 次に、図5(e)に示すように、半導体基板10の裏面を研削し、Cu16を裏面に露出させる。 次に、図5(f)に示すように、半導体基板10の裏面にSiNやSiO2等の裏面絶縁膜17を形成する。 以上の工程により、貫通電極を有する半導体装置が得られる。」 (8)甲第10号証には、以下の事項が記載されている。 「【0010】次に図6に示すように、基板1の裏面に化学的気相成長法若しくは物理的気相成長法を用いて絶縁膜8を形成する。次に図7に示すように、半導体基板1の表面の半導体素子2の形成部の保護膜3及び絶縁膜6に選択的に開孔部9を形成する。次に図8に示すように、化学的気相成長法若しくは物理的気相成長法若しくはメッキ法を用いて、基板表面に表面第一層配線膜10aを形成する。次に図9に示すように、表面第一層配線膜10aを選択的に腐食し、表面第一層配線10を形成する。次に図10に示すように、化学的気相成長法若しくは物理的気相成長法を用いて、表面第一層配線10上に表面第一層配線保護膜11を形成する。次に図11に示すように、半導体基板1の表面の半導体素子2及び導電体層7の上部の保護膜11に選択的に開孔部12を形成する。次に図12に示すように、化学的気相成長法若しくは物理的気相成長法若しくはメッキ法を用いて、基板表面上に表面第二層配線膜13aを形成する。次に図13に示すように、表面第二層配線膜13aを選択的に腐食し、表面第二層配線13を形成する。次に図14に示すように、化学的気相成長法若しくは物理的気相成長法を用いて、半導体基板1の表面上に表面第二層配線保護膜14を形成する。」 (9)甲第11号証には、以下の事項が記載されている。 「【0012】(c)指向性のある膜形成法として斜め蒸着を用いることにより、ビアホール3の底部以外に、第2の金属層として厚さ約20nmのTi層5を形成する。斜め蒸着は、蒸着源と基板1の角度θを保ち、基板1をその主面内で回転させながら蒸着する。ここで、角度θは、ビアホールの深さをH、ビアホールの直径をDとしたとき、tanθ≒H/Dの値に設定される。」 (10)甲第12号証には、以下の事項が記載されている。 「本発明にかかる孔部内壁に導電性金属層を形成する方法としては、基板の導体層側から斜め蒸着、斜めスパッタリング又はイオンブレーティングなどの方法があり、これらの方法により孔部内壁に導電性金属層を形成することが出来る。」(第3頁左上欄第13-18行) (11)甲第13号証には、以下の事項が記載されている。 「【0087】図11を参照して、インク室用溝26aの長手方向に対して垂直方向から0.1μmの厚みでAl電極を斜め蒸着する。この作業をインク室用溝26aの長手方向に対して左右2方向から行なうことで隔壁29の表面に金属電極27、28が形成される。ドライフィルムレジスト70および隔壁29のシャドーイング効果により、金属電極27、28はインク室用溝26aの深さ方向の約1/2まで形成される。」 2 対比・判断 (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と引用発明を対比する。 (ア)引用発明の「板厚方向に貫通する孔」を有する「ガラス基板」は、本件特許発明1の「第1面と第2面とを貫通する貫通孔を有する基板」に相当する。 (イ)引用発明は「貫通孔内壁面に金属膜aが形成され、貫通孔は」「電極材が充填されて」いるので、引用発明の「金属膜a」及び「電極材」と、本件特許発明1の「前記貫通孔の側壁に沿って配置された貫通電極」とは、「前記貫通孔に配置された貫通電極」である点で共通する。 但し、貫通孔に配置された貫通電極が、本件特許発明1は、貫通孔の「側壁に沿って」配置されたのに対して、引用発明は、「貫通孔内壁面に金属膜aが形成され、貫通孔は」「電極材が充填され」たものである点で相違する。 また、貫通孔が、本件特許発明1が、「前記第1面及び前記第2面から前記基板の内部に向かって連続的に径が小さくな」るのに対して、引用発明は、「砥粒を噴射した面側の直径がφ180μm、反対面側の直径がφ70μmの略円錐台状であ」る点で相違する。 (ウ)引用発明の「基板は、板厚400μmであり」、「基板の両面側から100μm程度の深さまで、CrとNiの2層膜が形成され、同2層膜上にNi膜が3μm形成され」るので、引用発明の「金属膜aの基板側の層」及び「金属膜aの」「電極側の層」は、それぞれ、「砥粒を噴射した面側」と「反対面側」に分断されている。 そうすると、引用発明の「砥粒を噴射した面側」の「金属膜aの基板側の層(Cr)」は、本件特許発明1の「前記貫通孔の側壁の前記第1面側の一部に配置され」た「前記第1導電層」に相当し、 引用発明の「反対面側」の「金属膜aの基板側の層(Cr)」は、本件特許発明1の「前記貫通孔の側壁の前記第2面側の一部に配置され」た「前記第2導電層」に相当し、 引用発明の「砥粒を噴射した面側」の「金属膜aの」「電極側の層(Ni)」及び「反対面側」の「金属膜aの」「電極側の層(Ni)」と、本件特許発明1の「前記第1導電層、前記第2導電層、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層から露出された前記貫通孔の側壁に接して配置され」た「前記第3導電層」とは、「前記第1導電層、前記第2導電層に接して配置され」た「前記第3導電層」である点で共通する。 但し、本件特許発明1は、「前記第3導電層は、」「前記第1導電層及び前記第2導電層から露出された前記貫通孔の側壁に接して配置され」るのに対して、引用発明は、「金属膜aの」「電極側の層(Ni)」が、「貫通孔内壁面」に接して配置されていない点で相違する。 (エ)上記(ウ)を踏まえると、引用発明の「金属膜aの電極側の層上及び貫通孔内壁面に接して配置された」「電極材」と、本件特許発明1の「前記第3導電層上に配置される」「前記第4導電層」とは、「前記第4導電層」である点で共通する。 但し、本件特許発明1は、「前記第4導電層は、前記第3導電層上に配置される」のに対して、引用発明は、「電極材は、金属膜aの電極側の層上及び貫通孔内壁面に接して配置された」点で相違する。 (オ)上記(ウ)及び(エ)を踏まえると、引用発明の「金属膜a」及び「電極材」は、本件特許発明1の「第1導電層、第2導電層、第3導電層、及び第4導電層を有」する「前記貫通電極」に相当する。 (カ)引用発明の「貫通電極付基板」は、本件特許発明1の「貫通電極基板」に相当する。 したがって、本件特許発明1と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。 (一致点) 「第1面と第2面とを貫通する貫通孔を有する基板と、 前記貫通孔に配置された貫通電極と、 を有し、 前記貫通電極は、第1導電層、第2導電層、第3導電層、及び第4導電層を有し、 前記第1導電層は、前記貫通孔の側壁の前記第1面側の一部に配置され、 前記第2導電層は、前記貫通孔の側壁の前記第2面側の一部に配置され、 前記第3導電層は、前記第1導電層、前記第2導電層に接して配置される貫通電極基板。」 (相違点1) 貫通孔に配置された貫通電極が、本件特許発明1は、貫通孔の「側壁に沿って」配置されたのに対して、引用発明は、「貫通孔内壁面に金属膜aが形成され、貫通孔は」「電極材が充填され」たものである点 (相違点2) 本件特許発明1は、「前記貫通孔は、前記第1面及び前記第2面から前記基板の内部に向かって連続的に径が小さくな」るのに対して、引用発明は、「貫通孔は、砥粒を噴射した面側の直径がφ180μm、反対面側の直径がφ70μmの略円錐台状であ」る点。 (相違点3) 本件特許発明1は、「前記第3導電層は、」「前記第1導電層及び前記第2導電層から露出された前記貫通孔の側壁に接して配置され」るのに対して、引用発明は、「金属膜aの」「電極側の層(Ni)」が、「貫通孔内壁面」に接して配置されていない点。 (相違点4) 本件特許発明1は、「前記第4導電層は、前記第3導電層上に配置される」のに対して、引用発明は、「電極材は、金属膜aの電極側の層上及び貫通孔内壁面に接して配置された」点。 イ 判断 (ア)まず、上記相違点1について検討する。 上記相違点1に関して、本件特許発明1は、「非充填型」を前提とするといえるものであるのに対して、引用発明のものは、「充填型」である。 ここで、引用発明は、貫通孔内壁面に金属膜aを形成し、貫通孔に銅(Cu)と錫(Sn)、銅と錫の合金から構成される電極材を充填し、電極材と貫通孔内壁に設けられた金属膜aを合金化することで、貫通電極の強い密着力が得られるものであり(【0008】)、電極材を充填することにより、強い密着力を得ているといえるので、「充填型」の引用発明において、これをあえて「非充填型」とすることの動機付けがない。 したがって、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成は、引用発明、甲第2号証-甲13号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (イ)次に、上記相違点3、4についてまとめて検討する。 引用発明は、貫通孔内壁面に金属膜aを形成し、貫通孔に銅(Cu)と錫(Sn)、銅と錫の合金から構成される電極材を充填し、電極材と貫通孔内壁に設けられた金属膜aを合金化することで、貫通電極の強い密着力が得られるものであるので(【0008】)、非充填型の貫通電極のように、貫通孔の側壁で導電層が剥離することを問題にする必要が無く、引用発明において、貫通孔内の導電層の密着性を高めるために、金属膜aの電極側の層を、貫通孔内壁面に接して配置し、電極材を、貫通孔内壁面に接して配置せずに金属膜aの電極側の層上に配置することの理由がない。 また、コンタクトホールの内面に、スパッタ法により導電性のスパッタ層を形成した後、このスパッタ層の表面とコンタクトホール内面のスパッタ層で被覆されなかった部分に、無電解メッキ法により導電性の無電解メッキ層を形成し、この後、電解メッキ法により導電性の電解メッキ層を形成することは甲第2号証-甲第4号証に記載のように周知技術であるが(上記「第4 1(2)」)、引用発明は、貫通孔をめっきで金属充填する方法を用いると、貫通孔にめっきで金属を均一に充填することは難しく、めっき金属の内部に空洞が発生してしまうこと、めっき金属の析出速度が遅く生産性に難があるという問題を解決するために(【0007】)、貫通孔内壁面に金属膜aを形成し、貫通孔は銅(Cu)と錫(Sn)、銅と錫の合金から構成される電極材を充填するものであり、上記周知の無電解メッキ層を形成し、この後、電解メッキ層を形成する技術を適用することに、阻害要因が存在する。 そして、甲第5号証-甲第13号証には、第3導電層は、第1導電層及び第2導電層から露出された貫通孔の側壁に接して配置され、第4導電層は、第3導電層上に配置されることは、記載されていない。 したがって、上記相違点3、4に係る本件特許発明1の構成は、引用発明、甲第2号証-甲13号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (ウ)よって、本件特許発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、引用発明、甲第2号証-甲13号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2-8について 本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2-8は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、引用発明、甲第2号証-甲第13号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明9について 本件特許発明9は、本件特許発明1に対応する方法の発明であり、本件特許発明1の「前記第3導電層は、前記第1導電層、前記第2導電層、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層から露出された前記貫通孔の側壁に接して配置され、前記第4導電層は、前記第3導電層上に配置される」に対応する構成を備えるものであるから、本件特許発明1についての判断と同様の理由により、引用発明、甲第2号証-甲第13号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件特許発明10-15について 本件特許発明9を直接又は間接的に引用する本件特許発明10-15は、本件特許発明9をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、引用発明、甲第2号証-甲第13号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1-15は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。 第5 理由2(特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項)について 1 異議申立人の主張 異議申立人は、異議申立書において、次のように主張している。 本件特許請求の範囲の請求項5、7及び8は、新規事項を追加するものであり、本件特許は分割要件を満足しないために、出願日が遡及せず、本件特許の原出願の公開公報である甲第14号証の記載に基づいて新規性及び進歩性を有しない。(異議申立書第65頁) 2 当審の判断 (1)請求項5について 異議申立人は、 請求項5に記載された「前記第1導電層及び前記第2導電層と前記基板との密着性、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層と前記第3導電層との密着性は、前記第3導電層と前記基板との密着性よりも強いこと」は、本件特許の原出願(特願2013-234994号)には、記載も示唆もなされておらず、また、周知の技術事項でもないから、新規事項を追加するものであると主張している。(異議申立書第61頁) そこで、上記主張について検討する。 本件特許の原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「原出願の当初明細書等」という。)には、密着性に関して次の記載がある。 「【0006】 本発明は、貫通電極基板における貫通孔内の導電層の密着性を高めることを目的とする。」 「【0046】 本発明では、成膜原子が高いエネルギーを有した状態で基板に到達するようなスパッタリング法によって、基板に達した成膜原子は余剰エネルギーで下地膜と反応するため、良好な密着性が得られる。スパッタリング法で成膜を行うと、下地膜とスパッタリング膜との界面に下地原子と成膜原子とが混ざり合ったミキシング層が形成され、このミキシング層によって下地膜とスパッタリング膜とは良好な密着性が得られると考えられる。」 「【0051】 図8は、本発明の第1実施形態に係る貫通電極基板の製造方法において、他側面からシード層が形成された基板の断面を示す模式図である。ここでも、図7と同様の方法で、基板の第2面側から斜め蒸着によってシード層30(シード層32、35)を形成する。続いて、第2面側からも斜め蒸着を行うことで、貫通孔内部には貫通孔の深さ方向に略一様な膜厚のシード層35が形成される。ここで、第1実施形態においては、斜め蒸着によってシード層30を形成する例を示したが、これに限定されることはなく、例えば、無電解めっきなどを使用することもできる。これにより、スパッタ法以外で成膜されたシード層30の大部分が、貫通孔90の側壁において第1導電性密着層15および第2導電性密着層25上に形成されることで、下層への密着性が向上する。ここで、シード層35が第1導電性密着層15および第2導電性密着層25の段差部を乗り越えるように形成されている。段差部でシード層35と第1導電性密着層15または第2導電性密着層25とが接することで、アンカー効果が得られ、シード層30の剥離を抑制することができると考えられる。」 「【0072】 第3導電性密着層40および第4導電性密着層50はシード層30と密着性がよい材質であるとよく、好ましくは、シード層30と同じ材質であるとよい。この場合、第3導電性密着層40および第4導電性密着層50は、シード層の一部を兼ねていると考えることもできる。また、第3導電性密着層40は第1導電性密着層10と密着性がよく、第4導電性密着層50は第2導電性密着層20と密着性がよいことが望ましい。第2実施形態においては、第3導電性密着層40および第4導電性密着層50をスパッタリング法によって形成するため、第1導電性密着層10と第3導電性密着層40との界面において、良好な密着性が得られる。また、同様に、第2導電性密着層20と第4導電性密着層50との界面において、良好な密着性が得られる。これは、第1導電性密着層10と第3導電性密着層40との界面、および、第2導電性密着層20と第4導電性密着層50との界面に、それぞれ接する層のミキシング層が形成されているからと考えられる。さらに、第3導電性密着層40および第4導電性密着層50とシード層30とが同じ材質である場合には、これらの界面においても、良好な密着性が得られる。」 上記記載より、「スパッタリング膜」(請求項5の「第1導電層」及び「第2導電層」に対応する)と、「基板」の「下地膜」(請求項5の「基板」に対応する)の密着性が良好であること(【0046】)、 「シード層30」(請求項5の「第3導電層」に対応する)の「第1導電性密着層15および第2導電性密着層25」(請求項5の「第1導電層」及び「第2導電層」に対応する)への密着性が向上すること(【0051】)、 「第3導電性密着層40および第4導電性密着層50」(請求項5の「第1導電層」及び「第2導電層」に対応する)は「シード層30」(請求項5の「第3導電層」に対応する)と密着性がよいこと(【0072】)が記載されている。 そうすると、原出願の当初明細書等には、前記第1導電層及び前記第2導電層と前記基板との密着性、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層と前記第3導電層との密着性が、良好であることが記載されているといえる。 ここで、「前記第1導電層及び前記第2導電層と前記基板との密着性」及び「前記第1導電層及び前記第2導電層と前記第3導電層との密着性」と、「前記第3導電層と前記基板との密着性」の比較については記載されていないが、 本件特許は、貫通孔内の導電層の密着性を高めるために(【0006】)、基板と「シード層30」(第3導電層)の間に、「第1導電性密着層15」(第1導電層)及び「第2導電性密着層25」(第2導電層)を設けているといえるものであり、「前記第1導電層及び前記第2導電層と前記基板との密着性」及び「前記第1導電層及び前記第2導電層と前記第3導電層との密着性」が、「前記第3導電層と前記基板との密着性」より弱くては、「第1導電性密着層15」(第1導電層)及び「第2導電性密着層25」(第2導電層)を設ける意味が無いので、「前記第1導電層及び前記第2導電層と前記基板との密着性」及び「前記第1導電層及び前記第2導電層と前記第3導電層との密着性」が、「前記第3導電層と前記基板との密着性」より強いことは自明な事項である。 したがって、請求項5に記載された「前記第1導電層及び前記第2導電層と前記基板との密着性、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層と前記第3導電層との密着性は、前記第3導電層と前記基板との密着性よりも強いこと」は、原出願の段落【0006】、【0046】、【0051】及び【0072】と、明細書等全体の記載を考慮すれば、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内である。 (2)請求項7について 異議申立人は、 請求項7に記載された「前記第1導電層及び前記第2導電層と前記下地絶縁層との密着性、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層と前記第3導電層との密着性は、前記第3導電層と前記下地絶縁層との密着性よりも強いことを」は、本件特許の原出願には、記載も示唆もなされておらず、また、周知の技術事項でもないから、新規事項を追加するものであると主張している。(異議申立書第62頁) そこで、上記主張について検討する。 原出願の当初明細書等の段落【0046】(上記「(1)」参照)には、「スパッタリング膜」(請求項7の「第1導電層」及び「第2導電層」に対応する)と、「下地膜」(請求項7の「下地絶縁層」に対応する)の密着性が良好であることが記載されているので、請求項5で検討したように、請求項7に記載された「前記第1導電層及び前記第2導電層と前記下地絶縁層との密着性、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層と前記第3導電層との密着性は、前記第3導電層と前記下地絶縁層との密着性よりも強いこと」は、原出願の段落【0006】、【0046】、【0051】及び【0072】と、明細書等全体の記載を考慮すれば、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内である。 (3)請求項8について 異議申立人は、 請求項8に記載された「前記第1導電層及び前記第2導電層は、アルゴンを含有すること」は、本件特許の原出願には、記載も示唆もなされておらず、また、周知の技術的事項でもないから、新規事項を追加するものであると主張している。(異議申立書第62頁) そこで、上記主張ついて検討する。 原出願の当初明細書等には、次の記載がある。 「【0085】 次に、シリコン基板の第1面101側から、スパッタリング法により、第1導電性密着層10として、シリコン基板上に形成された酸化シリコン膜との密着性の良いTiを100nm形成した。続いて、シリコン基板の第2面102側から、上記と同様にスパッタリング法により、第2導電性密着層20として、Tiを100nm形成した。ここで、スパッタリング法は、DCマグネトロンスパッタ法により、以下の条件で行った。 ・ターゲット-基板間距離=100mm ・アルゴンガス流量=30sccm ・チャンバ圧力=0.5Pa ・電力=3kW ・成膜温度=室温」 上記記載より、段落【0085】には、「第1導電性密着層10」及び「第2導電性密着層20」(請求項8の「第1導電層」及び「第2導電層」に対応する。)を、アルゴンガスをチャンバ内に導入して、スパッタリング法により形成することが記載されている。 ここで、アルゴンガスをチャンバ内に導入して、スパッタリング法により形成した膜は、アルゴンを膜中に取り込むことがあることは周知である。 そして、請求項8に記載された「前記第1導電層及び前記第2導電層は、アルゴンを含有すること」の構成は、第1導電層及び第2導電層が、アルゴンガスによるスパッタで成膜された以上の意味を持つものでないので、請求項8に記載された「前記第1導電層及び前記第2導電層は、アルゴンを含有すること」は、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内である。 (4)以上のように、本件特許請求の範囲の請求項5、7及び8は、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であり、本件特許は分割要件を満たすため、異議申立人の新規性及び進歩性についての主張を採用することができない。 3 まとめ 本件特許は分割要件を満たし、本件特許発明1-15は、いずれも、特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。 第6 理由3(第36条第6項第1号)について 1 異議申立人の主張 異議申立人は、異議申立書において、 「本件発明の課題を解決する(目的を達成する)ためには、第1導電層及び第2導電層と貫通孔の側壁との間の段差部を、課題解決手段として請求項1及び9に反映する必要がある。しかしながら、本件特許公報の請求項1及び9には、上記段差部の記載がなく反映がなされていない。そのため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許が請求されていることになり、サポート要件を満足していない。」と主張している。(異議申立書第65頁) 2 当審の判断 (1)請求項1及び請求項9に、第1導電層及び第2導電層と貫通孔の側壁との間の段差部を、発明の課題を解決するための手段として反映する必要があるかについて 発明の詳細な説明には、次の記載がある。 「【0006】 本発明は、貫通電極基板における貫通孔内の導電層の密着性を高めることを目的とする。」 「【0044】 次に、図2に示すステップS202について図5を用いて説明する。図5は、本発明の第1実施形態に係る貫通電極基板の製造方法において、一側面から第1導電性密着層が形成された基板の断面を示す模式図である。図4に示す基板100に対して、第1導電性密着層10が形成される。この第1導電性密着層10は、絶縁層70上に、第1面101側から形成する。第1導電性密着層10はスパッタリング法により形成される。」 「【0046】 本発明では、成膜原子が高いエネルギーを有した状態で基板に到達するようなスパッタリング法によって、基板に達した成膜原子は余剰エネルギーで下地膜と反応するため、良好な密着性が得られる。スパッタリング法で成膜を行うと、下地膜とスパッタリング膜との界面に下地原子と成膜原子とが混ざり合ったミキシング層が形成され、このミキシング層によって下地膜とスパッタリング膜とは良好な密着性が得られると考えられる。 【0047】 次に、図2に示すステップS203について図6を用いて説明する。図6は、本発明の第1実施形態に係る貫通電極基板の製造方法において、他側面から第2導電性密着層が形成された基板の断面を示す模式図である。図5に示す基板100に対して、第2導電性密着層20(第2導電性密着層22、25)が形成される。この第2導電性密着層20は、絶縁層70上に、第1面101の反対側の第2面102側から形成する。第2導電性密着層20は第1導電性密着層10と同様にスパッタリング法によって形成する。その結果、図6に示すように、貫通孔の側壁に成膜された第2導電性密着層25の端部の位置は、第2面102側を基準として貫通孔の深さの半分以下の位置となり、貫通孔の側壁において第1導電性密着層15と第2導電性密着層25とは分離して形成される。このとき、貫通孔の側壁において、貫通孔の深さ方向の第1面101と第2面102との中央付近で、貫通孔の側壁の絶縁層75が露出した状態となる。 【0048】 第1導電性密着層15および第2導電性密着層25は、下地の絶縁層75と密着性がよく、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、これらの化合物、あるいはこれらの合金などを使用することができる。第1導電性密着層15および第2導電性密着層25の厚さは、特に制限はないが、例えば、50nm?400nmとすることができる。なお、第1導電性密着層15と第2導電性密着層25とは、同一の材料であってもよいし、互いに異なる材料であってもよい。 【0049】 第1実施形態では、スパッタリング法によって密着性が高い膜を形成した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、下地膜との反応性を利用した材料を使用することで、良好な密着性を得ることができる。例えば、下地膜が酸化シリコンの場合、酸化物の生成エンタルピーがシリコンよりも低い材質を使用することで、良好な密着性を得ることができる。例えば、酸化物の生成エンタルピーがシリコンよりも低いチタンを酸化シリコン上に成膜すると、酸化シリコンとチタンの界面付近の酸素原子は、酸化シリコンよりも安定である酸化チタンとなる傾向にあり、成膜のエネルギーを利用してチタンと結合する。つまり、酸化シリコンとチタンの界面は科学的に結合するので、良好な密着性を得ることができる。つまり、導電層として使用する材質として、その導電層の酸化物または窒化物が下地膜の酸化物または窒化物よりも低い生成エンタルピーを有する材質を使用することで、良好な密着性を得ることができると考えられる。」 「【0051】 図8は、本発明の第1実施形態に係る貫通電極基板の製造方法において、他側面からシード層が形成された基板の断面を示す模式図である。ここでも、図7と同様の方法で、基板の第2面側から斜め蒸着によってシード層30(シード層32、35)を形成する。続いて、第2面側からも斜め蒸着を行うことで、貫通孔内部には貫通孔の深さ方向に略一様な膜厚のシード層35が形成される。ここで、第1実施形態においては、斜め蒸着によってシード層30を形成する例を示したが、これに限定されることはなく、例えば、無電解めっきなどを使用することもできる。これにより、スパッタ法以外で成膜されたシード層30の大部分が、貫通孔90の側壁において第1導電性密着層15および第2導電性密着層25上に形成されることで、下層への密着性が向上する。ここで、シード層35が第1導電性密着層15および第2導電性密着層25の段差部を乗り越えるように形成されている。段差部でシード層35と第1導電性密着層15または第2導電性密着層25とが接することで、アンカー効果が得られ、シード層30の剥離を抑制することができると考えられる。」 上記記載より、貫通孔の側壁に、第1導電性密着層15および第2導電性密着層25を形成し、第1導電性密着層15および第2導電性密着層25上にシード層30の大部分を形成することにより密着性が向上して、貫通孔内の導電層の密着性を高められることが読み取れ、貫通孔の側壁に、第1導電性密着層15および第2導電性密着層25を形成し、第1導電性密着層15および第2導電性密着層25上にシード層30を形成することが、発明の課題を解決するための手段であるといえる。 そうすると、「第1導電性密着層15」、「第2導電性密着層25」及び「シード層30」は、それぞれ、請求項1及び9の「第1導電層」、「第2導電層」及び「第3導電層」に対応するものであるから、請求項1及び9の記載は、発明の課題を解決するための手段が反映されていると認められる。 したがって、請求項1及び請求項9の記載は、既に、発明の課題を解決するための手段が反映されているので、第1導電層及び第2導電層と貫通孔の側壁との間の段差部を、発明の課題を解決するための手段として反映する必要はない。 (2)請求項1及び請求項9には、段差部の記載がないかについて 請求項1には「前記第1導電層は、前記貫通孔の側壁の前記第1面側の一部に配置され、前記第2導電層は、前記貫通孔の側壁の前記第2面側の一部に配置され、前記第3導電層は、前記第1導電層、前記第2導電層、並びに前記第1導電層及び前記第2導電層から露出された前記貫通孔の側壁に接して配置され」と、第1導電層及び第2導電層の上に形成された第3導電層が、第1導電層及び第2導電層が形成されていない部分で側壁に接して配置されることが記載されているので、第3導電層が、第1導電層及び第2導電層と貫通孔の側壁との間の段差部を乗り越えるように形成されていることが記載されているといえる。 また、請求項9についても、同様である。 したがって、請求項1及び請求項9には、実質的に段差部が記載されている。 (3)以上のとおりであるから、請求項1及び請求項9には、発明の課題を解決するための手段が反映されており、異議申立人の主張を採用することができない。 3 まとめ 本件特許発明1-15は、いずれも、特許法第36条6項1号に規定する要件を満たしているから、特許法第113条第4号により取り消すことはできない。 第7 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし15に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-05-08 |
出願番号 | 特願2015-190980(P2015-190980) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01L)
P 1 651・ 113- Y (H01L) P 1 651・ 537- Y (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鈴木 駿平 |
特許庁審判長 |
井上 信一 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 須原 宏光 |
登録日 | 2018-07-20 |
登録番号 | 特許第6369436号(P6369436) |
権利者 | 大日本印刷株式会社 |
発明の名称 | 貫通電極基板および貫通電極基板の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ |