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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1351471
異議申立番号 異議2019-700139  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-22 
確定日 2019-05-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第6376505号発明「インクジェット用マゼンタインキ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6376505号の請求項1?12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6376505号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成29年1月17日に出願された特願2017-5689号の一部を、平成30年2月19日に出願したものであって、同年8月3日にその特許権の設定登録がされ、同年8月22日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成31年2月22日に特許異議申立人栗暢行(以下、「申立人」という。)は特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6376505号の請求項1?12に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項に記載された発明を、請求項の番号に従って「本件発明1」、「本件発明2」などといい、これらを総称して「本件発明」という。)。
「【請求項1】
少なくとも顔料、水溶性有機溶剤(A)、界面活性剤(B)、および、水を含有するインクジェット用マゼンタインキであって、
前記顔料が、アゾ顔料を、インクジェット用マゼンタインキ全量中1?10重量%含有し、
前記水溶性有機溶剤(A)が、25℃における静的表面張力が22?32mN/m、HLB値が2.0?8.0、かつ水酸基を1個以上有する水溶性有機溶剤(A-1)を、インクジェット用マゼンタインキ全量中に5?50重量%含有し、
前記界面活性剤(B)が、HLB値が1.5?7.0である界面活性剤(B-1)を含み、
前記界面活性剤(B-1)が、シリコン系界面活性剤およびアセチレンジオール系界面活性剤を含むことを特徴とする、インクジェット用マゼンタインキ。
【請求項2】
記録媒体上に作製した、ウェット膜厚6μmの塗工物における分光反射率が、480?580nmの波長領域において10%以下であることを特徴とする、請求項1記載のインクジェット用マゼンタインキ。
【請求項3】
前記アゾ顔料が、C.I.ピグメントレッド150であることを特徴とする、請求項1または2記載のインクジェット用マゼンタインキ。
【請求項4】
前記水溶性有機溶剤(A-1)が、1気圧下における沸点が190?250℃である化合物を少なくとも1種以上含有することを特徴とする、請求項1?3いずれか記載のインクジェット用マゼンタインキ。
【請求項5】
前記1気圧下における沸点が190?250℃である化合物が炭素数4?6のアルカンジオールであることを特徴とする、請求項4記載のインクジェット用マゼンタインキ。
【請求項6】
前記水溶性有機溶剤(A-1)が、1気圧下における沸点が100?250℃であるグリコールアルキルエーテル類を少なくとも1種以上含有することを特徴とする、請求項1?5いずれか記載のインクジェット用マゼンタインキ。
【請求項7】
最大泡圧法で算出される10msecにおける動的表面張力が25?35mN/mであることを特徴とする、請求項1?6いずれか記載のインクジェット用マゼンタインキ。
【請求項8】
さらに顔料分散樹脂として、少なくとも芳香環を含有する単量体を共重合組成に含む、重量平均分子量が15000?50000の(メタ)アクリル系共重合体を含むことを特徴とする、請求項1?7いずれか記載のインクジェット用マゼンタインキ。
【請求項9】
前記界面活性剤(B-1)として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを少なくとも1種以上含有することを特徴とする、請求項1?8いずれか記載のインクジェット用マゼンタインキ。
【請求項10】
前記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが、ポリエーテル基をポリジメチルシロキサン鎖の側鎖に有することを特徴とする、請求項9記載のインクジェット用マゼンタインキ。
【請求項11】
少なくともシアンインキ、イエローインキ、マゼンタインキを含むインクジェットインキセットであって、
前記シアンインキ及びイエローインキが、前記界面活性剤(B-1)を少なくとも1種以上含有し、
前記マゼンタインキが、請求項1?10いずれか記載のインクジェットマゼンタインキであることを特徴とするインキセット。
【請求項12】
請求項1?10いずれか記載のインクジェットマゼンタインキ、または請求項11記載のインキセットを、難吸収性の基材へ印刷することを特徴とする、インクジェット印刷物の製造方法。」

第3 申立理由の概要
1.申立人
申立人は、証拠として、次の甲第1?8号証(以下、その番号に従って、「甲1」などという。)を提出し、下記の(理由1)及び(理由2)について主張している。
[証拠]
甲1:特開2017-8319号公報
甲2:サーフィノールシリーズのカタログ
URL:https://www.nissin-chem.co.jp/files/catalog/Surfynol_J.pdf
甲3:特開2014-214277号公報
甲4:特開2016-190995号公報
甲5:特開2016-169295号公報
甲6:特開2010-222418号公報
甲7:国際公開第2016/088901号
甲8:有機変性シリコーンオイルのカタログ
URL:http://twinstar-corp.com.tw/wp-content/uploads/2012/05/dow-corning-specialty-chemical/silicone%20fluid.pdf

[理由]
(理由1)特許法第29条第2項
本件発明1?8、11、12は、甲1、甲2、甲3、甲4の記載に基づき進歩性を有さない。本件特許発明9、10は、甲1、甲2、甲3、甲4、甲5の記載に基づき進歩性を有さない。
(理由2)特許法第29条第2項
本件発明1?8、11、12は、甲6、甲2、甲3、甲4の記載に基づき進歩性を有さない。本件特許発明9、10は、甲6、甲2、甲3、甲4、甲7、甲8の記載に基づき進歩性を有さない。

第4 甲1、6の記載と甲1発明、甲6発明
1.甲1、6の記載
(1)甲1について
甲1には、「粘着シート」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0012】
<顔料(A)>
顔料(A)は、染料に比べて記録物の耐水性、耐候性の点で有利である。
顔料(A)は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料の具体例としては、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。」
「【0055】
ノニオン性界面活性剤(d-2)の市販品としては、例えば、日信化学工業株式会社及びAir Products Chemicals社製の「サーフィノール104PG50(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのプロピレングリコール溶液、有効分50%)」、「サーフィノール465(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのEO付加物、EO平均付加モル数:10)」、「サーフィノール485(同EO付加物、EO平均付加モル数:30)」、川研ファインケミカル株式会社製の「アセチレノールE81(EO平均付加モル数:8.1)」、「アセチレノールE100(EO平均付加モル数:10)」、「アセチレノールE200(EO平均付加モル数:20)」、花王株式会社製の「エマルゲン120(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)」等が挙げられる。」
「【0083】
また、上記製造例1(2)と同様にして、マゼンタ顔料、シアン顔料を含有するポリマー粒子の水分散体を製造した。結果を表4に示す。
表4に示す顔料(A)の詳細は、以下のとおりである。
<顔料(A)>
・Y:イエロー顔料「P.Y.74」(大日精化工業株式会社製)
・M:マゼンタ顔料「P.R.122」(大日精化工業株式会社製)
・C:シアン顔料「P.B.15:3」(DIC株式会社製)
・B:カーボンブラック顔料「P.B.7」(キャボット社製)」
「【0086】
実施例1(水性インク、インクセットの製造)
製造例1で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体(固形分22質量%)26.54部(顔料4.0部、水不溶性ポリマー1.84部)、製造例2で得られた水不溶性ポリマー粒子の水分散体(固形分20重量%)9.27部(水不溶性ポリマー1.85部)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(iPG)10.0部、プロピレングリコール25.0部、ポリプロピレングリコール(分子量700、PPG)1.0部、シリコーン系界面活性剤(日信化学工業株式会社製、シルフェイスSAG005)0.05部、ノニオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製、エマルゲン120)1.20部、アセチレングリコール(日信化学工業株式会社製、サーフィノール104PG50(S-104PG50)、プロピレングリコール50%溶液)1.20部、中和剤(1N-NaOH)0.5部、及び全量を100部となるようにイオン交換水を添加、混合した。得られた混合液をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:1.2μm、材質:酢酸セルロース)で濾過し、pHが9.5の水性インクを得た。
【0087】
また、製造例1で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体の顔料を、マゼンタ顔料、シアン顔料、及びカーボンブラック顔料にそれぞれ変えて製造した、顔料含有ポリマー粒子の水分散体を用いて、表4に示す条件で、上記と同様にして、水性インク、及びインクセットを製造した。結果を表4に示す。
【0088】
実施例2?24、比較例1?7(水性インク、インクセットの製造)
実施例1において、表4?9に記載した組成とした以外は、実施例1にして水性インクを得た。結果を表4?9に示す。実施例4及び実施例21は参考例である。
なお、表4?9に示す有機溶媒(C)の詳細は表2のとおりである。
【0089】
【表2】

【0090】
また、表4?9に示す界面活性剤(D)の詳細は以下のとおりである。
(実施例で使用したシリコーン系界面活性剤)
・SAG005:日信化学工業株式会社製、シルフェイスSAG005
・KF-353:信越化学工業株式会社製、KF-353
・KF-355A:信越化学工業株式会社製、KF-355A
・KF-642 :信越化学工業株式会社製、KF-642
・FZ-2191:株式会社NUC製のFZ-2191
・BYK-348:ビックケミー・ジャパン株式会社製、BYK-348
・KF-351A:信越化学工業株式会社製、KF-351A
・KF-6020:信越化学工業株式会社製、KF-6020
これらのNMR測定方法による[a+b]/[m/n]の算出例と、結果を表3に示す。
(その他の界面活性剤)
・エマルゲン120:花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル
・S-104PG50:日信化学工業株式会社製、アセチレン系ノニオン性界面活性剤、サーフィノール104PG50(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのプロピレングリコール溶液、有効分50%)」
「【0104】【表6】



(2)甲6について
甲6には、「顔料分散液、該顔料分散液を含む水性インク組成物、並びに該水性インク組成物を用いたインクジェット記録方法及び記録物」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、分散安定性(保存安定性)に優れた顔料分散液に関する。また、本発明は、該顔料分散液を含み、インクジェット記録方法に好適な水性インク組成物に関する。更に、本発明は、該水性インク組成物を用いたインクジェット記録方法および記録物に関する。」
「【0023】
本発明で好ましい有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料またはアゾ系顔料等が挙げられる。」
「【0026】
マゼンタ顔料分散液に使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、及び209、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される単独あるいは二種類以上の混合物である。また、これらの顔料はマゼンタ顔料分散液全量に対して0.5質量%?40質量%、好ましくは5質量%?20質量%含有してなる。」
「【0092】
(実施例A3)顔料分散液A-3
[分散ポリマー1の合成]
攪拌機、温度計、還流管及び滴下漏斗を備えた反応容器内部を窒素ガス置換した後、反応容器中へスチレン;25部、n-ドデシルメタクリレート;30部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート;20部、ブチルメタクリレート;15.5部、メタクリル酸;9.3部、メチルエチルケトン;100部を攪拌混合して、モノマー/メチルエチルケトン溶液を調製した。滴下漏斗にも同様のモノマー/メチルエチルケトン溶液を入れ、さらに2,2’-アゾビス(2,4-イソメチルバレロニトリル);0.2部を加えて窒素ガス置換を行なった。
窒素雰囲気下、反応容器を65℃に加温して保持しつつ、反応容器内のモノマー/メチルエチルケトン溶液を攪拌しながら、滴下漏斗内のモノマー/メチルエチルケトン溶液を3時間かけて滴下して加えながら重合反応を行なった。反応終了後、室温まで自然冷却させた。その後、得られた共重合体溶液を濾過、減圧乾燥、メチルエチルケトン溶解を数回繰り返して精製した後、分散ポリマーの固形分が50質量%になるようにメチルエチルケトンを加えて希釈した。酸価が70KOHmg/g、重量平均分子量50,000の分散ポリマー1溶液を得た。
[分散液A-3の調製]
着色剤として有機顔料であるC.I.ピグメントレッド122;200部、上述の分散ポリマー1溶液;100部を混合・撹拌してスラリーを作製した。このスラリーにアルカリ性化合物として10%水酸化カリウム水溶液;14部を加え、超高圧ホモジナイザーにて分散を行なった。続いてこの分散溶液を、撹拌している超純水;400部に徐々に加えてしばらく撹拌混合した後、減圧・60℃の条件にてメチルエチルケトンの全部と水の一部を除去した。その後に顔料濃度が20質量%になるように超純水を加え、分散液原液を得た。この分散液原液中の分散ポリマーの中和基の存在量は、未中和基と中和基との和に対するモル比で40%であった。
攪拌機、温度計、還流管を備えた容器内に上記で得た分散液原液;75部、湿潤剤としてアセチレングリコール系界面活性剤であるアセチレノールE100(商品名、川研ファインケミカル株式会社製);5部、水溶性有機溶剤であるグリセリン;5部、防腐剤であるデニサイドCSA(商品名、ナガセケムテックス株式会社製);0.1部、超純水;14.9部を入れよく攪拌混合した後、容器を90℃に加熱して保持しつつ、12時間攪拌混合した。加熱処理した後室温まで自然冷却させて、本実施例による顔料分散液A-3(顔料固形分濃度:15質量%)を得た。」
「【0093】
(実施例A4)顔料分散液A-4
[分散ポリマー2の合成]
ビーカー内にn-ブチルメタクリレート;200部、n-ブチルアクリレート;25部、スチレン;100部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート;75部、メタクリル酸;100部を入れて攪拌混合し、さらに重合開始剤としてtert-ブチルパーオキシオクトエート;4部を添加してから攪拌混合して、ポリマー合成混合液を調製した。
次に、攪拌機、温度計、還流管及び滴下漏斗を備えた反応容器内部を窒素ガス置換した後、この反応容器内へメチルエチルケトン;500部を入れて、窒素雰囲気下で撹拌しながら75℃まで昇温させた。上記ポリマー合成混合液を滴下漏斗内に入れて、反応容器内に3時間にわたって撹拌しながら滴下混合した。滴下終了後、さらに75℃、攪拌状態で8時間反応を続けた。その後、反応合成物を25℃まで自然冷却した後、固形分が50重量%になるようにメチルエチルケトンを加えて希釈した。以上のようにして、酸価が150KOHmg/g、重量平均分子量15,000の分散ポリマー2溶液を調製した。
[分散液A-4の調製]
着色剤として有機顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3;75部、上述の分散ポリマー2溶液;100部、アルカリ性化合物として10%水酸化カリウム水溶液;50部、イオン交換法と逆浸透法により精製した超純水;700部を混合し、サンドミル(安川製作所製)中で、ガラスビーズ(直径1.7mm、混合物の1.5倍量(質量)分を添加)と共に2時間分散させた。その後ガラスビーズを取り除き室温で20分間撹拌した後に、5μmのメンブランフィルタで濾過した。
得られた濾液を80℃、常圧下で処理して、濾液内のメチルエチルケトンの全てと水の一部を蒸留した。さらに、撹拌しながら1規定の塩酸溶液を滴下して分散ポリマー中の中和基を完全に未中和基にして酸析することで、分散ポリマー層を凝結した。これを水洗しながら吸引濾過し顔料の含水ケーキを得た。この含水ケーキを、撹拌している1%水酸化カリウム水溶液;370部に徐々に添加して、撹拌混合し再分散させた。さらに顔料濃度が20質量%になるように超純水を加え、分散液原液を得た。この分散液原液中の分散ポリマーの中和基の存在量は、未中和基と中和基との和に対するモル比で49%であった。
攪拌機、温度計、還流管を備えた容器内に上記で得た分散液原液;75部、湿潤剤としてアセチレングリコール系界面活性剤であるオルフィンE1010(商品名、日信化学工業株式会社製);2部とサーフィノール104PG-50(商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製);1部、水溶性有機溶剤である1,2-ヘキサンジオール;3部とマルチトール;2部、防腐剤であるプロキセルXL2(商品名、アビシア社製);0.5部、超純水;16.5部を入れよく攪拌混合した後、容器を70℃に加熱して保持しつつ、80時間攪拌混合した。加熱処理した後室温まで自然冷却させて、本実施例による顔料分散液A-4(顔料固形分濃度:15質量%)を得た。」
「【0096】
(実施例A7)顔料分散液A-7
本実施例では、分散ポリマーとして(実施例A3)顔料分散液A-3で合成・調製した分散ポリマー1溶液(50%メチルエチルケトン溶液)をそのまま用いた。
着色剤として有機顔料であるC.I.ピグメントバイオレット19;250部、上述の分散ポリマー1溶液;100部を混合・撹拌してスラリーを作製した。このスラリーにアルカリ性化合物として10%水酸化カリウム水溶液;20.8部を加え、超高圧ホモジナイザーにて分散を行なった。続いてこの分散溶液を、撹拌している超純水;400部に徐々に加えてしばらく撹拌混合した後、減圧・60℃の条件にてメチルエチルケトンの全部と水の一部を除去した。その後に顔料濃度が20質量%になるように超純水を加え、分散液原液を得た。この分散液原液中の分散ポリマーの中和基の存在量は、未中和基と中和基との和に対するモル比で59%であった。
攪拌機、温度計、還流管を備えた容器内に上記で得た分散液原液;75部、湿潤剤としてアセチレングリコール系界面活性剤であるサーフィノール420(商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製);0.1部、水溶性有機溶剤であるグリセリン;5部とジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル;2部、防腐剤であるデニサイドCSA(商品名、ナガセケムテックス株式会社製);0.1部、超純水;17.8部を入れよく攪拌混合した後、容器を65℃に加熱して保持しつつ、30分間攪拌混合した。加熱処理した後室温まで自然冷却させて、本実施例による顔料分散液A-7(顔料固形分濃度:15質量%)を得た。」
「【0121】
(実施例B7)顔料分散液B-7
本実施例では、分散液原液として(実施例A7)顔料分散液A-7で調製したものをそのまま用いた。
攪拌機、温度計、還流管を備えた容器内に上記の分散液原液;75部、湿潤剤としてシロキサン系界面活性剤であるFZ-7002(商品名、東レ・ダウコーニング株式会社製);0.1部、水溶性有機溶剤であるグリセリン;5部とジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル;2部、防腐剤であるデニサイドCSA(商品名、ナガセケムテックス株式会社製);0.1部、超純水;17.8部を入れよく攪拌混合した後、容器を65℃に加熱して保持しつつ、30分間攪拌混合した。加熱処理した後室温まで自然冷却させて、本実施例による顔料分散液B-7(顔料固形分濃度:15質量%)を得た。」
「【0134】
〔水性インク組成物Bの作成〕
上記の材料・方法にて得た顔料分散液とポリマーエマルジョンを用い、表2Bに示す組成にて、実施例B9?B16、比較例B12、B13、B18?B22、および参考例B14?B17の水性インク組成物Bを作成した。各水性インク組成物は、表2Bに示す材料・分量を室温下で2時間撹拌混合した後、孔径5μmのメンブレンフィルタにて濾過することで作成した。ここで、表2B中の数値は全て質量%で示してあり、顔料分散液の( )内の数値は顔料固形分濃度、及びポリマーエマルジョンの( )内の数値はポリマー固形分濃度を示している。また、超純水の「残量」とは、インク全量が100質量%となるように超純水を加えたことを示す。
【0135】
【表4】



2.甲1、6に記載された発明(甲1、6発明)
(1)甲1発明
甲1には、【表6】に記載されたインクセット12(実施例12)のうち、「M」のインクは、「マゼンタ顔料「P.R.122」」(【0083】)を含むから、甲1にはインクセット12のマゼンタインクとして、
「顔料含有ポリマー粒子(A) 8.17重量%(マゼンタ顔料 P.R.122 5.60重量% ポリマー(B) 2.57重量%)、
水不溶性ポリマー(B)粒子 1.85重量%、
有機溶媒(c-1)10.00重量%(iPDG 10.00重量%)、
有機溶媒(c-2)21.00重量%(PG 14重量%、PPG 1.0重量%、1,2-HD 6重量%)、
シリコーン系界面活性剤(d-1)0.05重量% (SAG-005 0.05重量%)、
ノニオン性界面活性剤(d-2)2.00重量% (エマルゲン120 1.20重量%、S-104PG50 0.8重量%)、
中和剤 0.5重量% (1N-NaOH 0.5重量%)、及び、
水 56.43重量%とからなるマゼンタインク。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)甲6発明
【0135】【表4】の「表2B」には水性インク組成物が記載され、それらは、「インクジェット記録方法に好適な」(【0001】)ものであり、実施例B15の水性インク組成物は、顔料として、「C.I.ピグメントバイオレット19」(【0096】)を用い、これは、「マゼンタ顔料分散液に使用される顔料」(【0026】)であるから、甲6には、実施例B15として、
「マゼンタ顔料分散液B-7 46.7質量%(C.I.ピグメントバイオレット19、顔料固型分濃度7質量%)
ポリマーエマルジョン1 10質量%(ポリマー固型分濃度2質量%)
グリセリン 10質量%
トリエチレングリコール2質量%
トリメチロールプロパン 2質量%
2-ピロリドン 2質量%
尿素 1質量%
1,2-ヘキサンジオール 5質量%
トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル 5質量%
オルフィンE1010 0.5質量%
サーフィノール104 0.5質量%
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.02質量%
ベンゾトリアゾール 0.01質量%
超純水 残量からなるインクジェット記録方法に好適な水性マゼンタインク組成物。」(以下、「甲6発明」という、)が記載されている。

ここで、「顔料分散液B-7 46.7質量%(顔料固型分濃度7質量%)」は、次のア?ウによって得られたものである。
ア 【0121】に「顔料分散液B-7」は、「顔料分散液A-7」を用いて「攪拌機、温度計、還流管を備えた容器内に上記の分散液原液;75部、湿潤剤としてシロキサン系界面活性剤であるFZ-7002(商品名、東レ・ダウコーニング株式会社製);0.1部、水溶性有機溶剤であるグリセリン;5部とジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル;2部、防腐剤であるデニサイドCSA(商品名、ナガセケムテックス株式会社製);0.1部、超純水;17.8部を入れよく攪拌混合した後、容器を65℃に加熱して保持しつつ、30分間攪拌混合した。加熱処理した後室温まで自然冷却させて、本実施例による顔料分散液B-7(顔料固形分濃度:15質量%)を得た」ことが記載されている。
イ 【0096】に「顔料分散液A-7(顔料固形分濃度:15質量%)」は、「顔料分散液A-3で合成・調製した分散ポリマー1溶液(50%メチルエチルケトン溶液)」を用いて、「着色剤として有機顔料であるC.I.ピグメントバイオレット19;250部、上述の分散ポリマー1溶液;100部を混合・撹拌してスラリーを作製した。このスラリーにアルカリ性化合物として10%水酸化カリウム水溶液;20.8部を加え、超高圧ホモジナイザーにて分散を行なった。続いてこの分散溶液を、撹拌している超純水;400部に徐々に加えてしばらく撹拌混合した後、減圧・60℃の条件にてメチルエチルケトンの全部と水の一部を除去した。その後に顔料濃度が20質量%になるように超純水を加え、分散液原液を得」、「攪拌機、温度計、還流管を備えた容器内に上記で得た分散液原液;75部、湿潤剤としてアセチレングリコール系界面活性剤であるサーフィノール420(商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製);0.1部、水溶性有機溶剤であるグリセリン;5部とジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル;2部、防腐剤であるデニサイドCSA(商品名、ナガセケムテックス株式会社製);0.1部、超純水;17.8部を入れよく攪拌混合した後、容器を65℃に加熱して保持しつつ、30分間攪拌混合した。加熱処理した後室温まで自然冷却させて」得たことが記載されている。
ウ 【0092】には、上記「顔料分散液A-3で合成・調製した分散ポリマー1溶液(50%メチルエチルケトン溶液)」は、「攪拌機、温度計、還流管及び滴下漏斗を備えた反応容器内部を窒素ガス置換した後、反応容器中へスチレン;25部、n-ドデシルメタクリレート;30部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート;20部、ブチルメタクリレート;15.5部、メタクリル酸;9.3部、メチルエチルケトン;100部を攪拌混合して、モノマー/メチルエチルケトン溶液を調製した。滴下漏斗にも同様のモノマー/メチルエチルケトン溶液を入れ、さらに2,2’-アゾビス(2,4-イソメチルバレロニトリル);0.2部を加えて窒素ガス置換を行なった。
窒素雰囲気下、反応容器を65℃に加温して保持しつつ、反応容器内のモノマー/メチルエチルケトン溶液を攪拌しながら、滴下漏斗内のモノマー/メチルエチルケトン溶液を3時間かけて滴下して加えながら重合反応を行なった。反応終了後、室温まで自然冷却させた。その後、得られた共重合体溶液を濾過、減圧乾燥、メチルエチルケトン溶解を数回繰り返して精製した後、分散ポリマーの固形分が50質量%になるようにメチルエチルケトンを加えて希釈し」て得たことが記載されている。

第5 当審の判断
1.本件発明1について
ア 甲1発明を主引用発明とした場合
甲1発明の「P.R.122」、「水」及び「マゼンタインク」は、本件発明1の「顔料」、「水」及び「インクジェット用マゼンタインキ」にそれぞれ相当する。
甲1発明の「1,2-HD」は、水酸基を2個有する水溶性有機溶媒であることは明らかであり、本件発明1の「水酸基を1個以上有する水溶性有機溶剤(A)」に相当し、甲1発明の「1,2-HD」の含有量は、本件発明1の「5?50重量%」の範囲に含まれる。
甲1発明の「SAG-005」は、本件発明1の「シリコン系界面活性剤」に相当する。
なお、甲1発明の「ノニオン性界面活性剤(エマルゲン120)」は、「ポリオキシエチレンラウリルエーテル」であって(甲1の【0055】)、シリコン系界面活性剤でも、アセチレンジオール系界面活性剤でもない。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「少なくとも顔料、水溶性有機溶剤(A)、界面活性剤(B)、および、水を含有するインクジェット用マゼンタインキであって、
水酸基を1個以上有する水溶性有機溶剤(A-1)を、インクジェット用マゼンタインキ全量中に5?50重量%含有し、
界面活性剤(B)が、シリコン系界面活性剤を含むインクジェット用マゼンタインキ。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1)
顔料について、本件発明1は、アゾ顔料を、1?10重量%含有するのに対し、甲1発明は、「P.R.122」を、「顔料含有ポリマー粒子(A)」の形で、5.60重量%含有する点。
(相違点2)
水溶性有機溶剤(A)の特性について、本件発明1は、25℃における静的表面張力が22?32mN/m、HLB値が2.0?8.0であるのに対し、甲1発明の「1,2-HD」がそのような特性を有しているか否か不明な点。
(相違点3)
界面活性剤について、本件発明1は、HLB値が1.5?7.0である界面活性剤(B-1)を含み、界面活性剤(B-1)が、シリコン系界面活性剤及びアセチレンジオール系界面活性剤を含むのに対し、甲1発明は、シリコーン系界面活性剤(SAG-005)及びノニオン性界面活性剤(エマルゲン120)を含み、それらのHLB値は不明である点。

ここで、事案に鑑み、相違点1?3についてまとめて検討する。
甲1発明の「P.R.122」は、キナクリドン顔料であることは、当業者にとって明らかである(必要であれば、特開2015-69125号公報の【0240】の「PR122:キナクリドン系赤色顔料(C.I.PigmentRed122)」という記載を参照。)。
ここで、インクジェット用インキにおいて、キナクリドン系顔料とアゾ顔料とは、その組成の違いから、インキ中における分散性が異なり、しかも、印刷された際の色相、着色力、耐光性、鮮明性等が異なるものであることは、当業者にとって明らかである。
(たとえば、特開2010-195907号公報(下線は当審が付与した。)には、次の記載がある。
「【0002】
近年、インクジェット印刷法や電子写真印刷法等のデジタル印刷方式は、印刷版を使用しないこと、高速印字が可能である等の有用性から、産業分野のみならず一般消費者の普及が著しい。これらの印刷に使用することのできるマゼンタ顔料としては、例えば、溶性アゾ顔料、ナフトール系アゾ顔料、キナクリドン顔料等が挙げられる。
これらのうち溶性アゾ顔料には鮮明な色相や高い着色力を有するものが多く、これまで様々な印刷方式に使用されてきた。これらはいずれも酸性の可溶性基を含む色素をバリウム、カルシウム、ストロンチウム等の金属イオンでレーキ化した構造を有している。そのため得られる顔料組成物中には、その他の顔料と比較して多くの金属元素が含まれる。一方、特許文献1に開示されているように、各種デジタル印刷、特にインクジェット方式においては、インキ中に含まれる二価金属イオンがプリンターヘッドにおけるノズル詰まりの原因となることが知られている。そのため顔料としてもできる限りそれらの含有量が低いことが求められている。また、溶性アゾ顔料には結晶水を有するものが多く、水性の用途で使用した場合、印刷物が色相変化してしまうという問題を生じる場合があった。
また、C.I.Pigment Red 122やC.I.Pigment Violet 19に代表されるキナクリドン顔料は、耐光性および鮮明性の点で他の顔料よりも優れた特性を有しており、デジタル印刷の用途に多く使用されてきた。しかし、これらのキナクリドン顔料は着色力、分散安定性が他のマゼンタ顔料に比べて大きく劣り、さらに高価であるものが多い。」
また、特開2006-231623号公報には、次の記載がある。
「【0019】
本発明の液体噴射装置は、前記分散用液体が、シアン顔料を含む液体及びイエロー顔料を含む液体のうち少なくとも一方である。
この発明によれば、シアン顔料に含まれるフタロシアニン化合物及びイエロー顔料に含まれるアゾ化合物は、例えばマゼンタ顔料に含まれるキナクリドン化合物に比べて格段に分散性が良好である。そして、例えば、液体吸収材内の顔料を含む液体の溶媒成分の水が蒸発することで、該液体吸収材内の液体が増粘し、液体吸収材が目詰まりすると、液体吸収材の保持できる液体量が少なくなる。このような場合であっても、液体吸収材に分散用液体を吐出することで、液体吸収材内の増粘した液体内にフタロシアニン化合物及びアゾ化合物のうち少なくとも一方が浸透し、該増粘した液体の内部で分散するため、この増粘した液体が好適に再分散される。したがって、目詰まりして保持できる液体量が少なくなった液体吸収材の保持できる液体量を回復させることができる。」)

そうすると、甲1には、顔料として「アゾ顔料」も例示されているものの(甲1の【0012】参照。)、キナクリドン顔料である「P.R.122」を5.60重量%含有する甲1発明のマゼンタインクにおいて、「P.R.122」に替えて、アゾ顔料を採用する場合には、インク中における分散性が異なることから、マゼンタインキに含まれる有機溶媒や界面活性剤の種類や含有量を変更や調整する必要があるといえ、さらに、印刷された際の、色相、着色力、耐光性、鮮明性等が異なるのであるから、アゾ顔料の量についても、「P.R.122」の含有量である5.60重量%とは異なる量に調整する必要があるというべきである。
そして、「P.R.122」に替えて、アゾ顔料を採用する場合の、アゾ顔料の含有量をどの程度とすればいいのか、有機溶媒としてどのようなものを用いればいいのか、及び、界面活性剤としてどのようなものを用いればいいのかについては、申立人が提出した全ての証拠(甲1?8)を参照したとしても、当業者にとって不明としかいうほかない。

したがって、甲1発明において、仮に、「P.R.122」に替えて、アゾ顔料を採用することが可能だとしても、アゾ顔料の含有量として、上記相違点1に係る本件発明の発明特定事項である、アゾ顔料を1?10重量%含有するようにすること、水溶性有機溶剤(A)として、上記相違点2に係る本件発明の発明特定事項である、25℃における静的表面張力が22?32mN/m、HLB値が2.0?8.0のものを用いること、及び、界面活性剤として、上記相違点3に係る本件発明の発明特定事項である、HLB値が1.5?7.0である界面活性剤(B-1)を含み、界面活性剤(B-1)が、シリコン系界面活性剤及びアセチレンジオール系界面活性剤を含むもの、とすることは、当業者が容易に想到し得たことである、とすることはできない。

そして、本件発明1は、上記相違点1?3に係る発明特定事項を備えることで、「難吸収性基材に対するインクジェット印刷において、濃淡ムラや白抜けがなく、高光沢かつ鮮明な画像が得られ、長期待機させた後の吐出安定性に優れ、さらに、高速印刷であっても優れた乾燥性を得ることが可能な、インクジェット用マゼンタインキを提供することが可能となった」(本件明細書【0027】)という、格別顕著な作用効果を奏するものである。

よって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 甲6発明を主引用発明とした場合
甲6発明の「C.I.ピグメントバイオレット19」、「超純水」及び「インクジェット記録方法に好適な水性マゼンタインク組成物」は、本件発明1の「顔料」、「水」及び「インクジェット用マゼンタインキ」にそれぞれ相当する。
甲6発明の「1,2-ヘキサンジオール」は、水酸基を2個有する水溶性有機溶媒であることは明らかであり、本件発明1の「水酸基を1個以上有する水溶性有機溶剤(A)」に相当し、甲6発明の「1,2-ヘキサンジオール」の含有量は、本件発明1の「5?50重量%」の範囲に含まれる。
甲6発明の「マゼンタ顔料分散液B-7」は、「顔料分散液A-7」に対して、「湿潤剤としてシロキサン系界面活性剤であるFZ-7002」を用いたものであるから、甲6発明の「マゼンタ顔料分散液B-7」に含まれる「FZ-7002」は、本件発明1の「シリコン系界面活性剤」に相当する。
甲6発明の「サーフィノール104」は、「サーフィノール104PG-50」(甲6の【0093】)のことであり、これは、「2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのプロピレングリコール溶液」(甲1の【0055】)であることは明らかであるから、本件発明1の「アセチレンジオール系界面活性剤」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲6発明とは、
「少なくとも顔料、水溶性有機溶剤(A)、界面活性剤(B)、および、水を含有するインクジェット用マゼンタインキであって、
水酸基を1個以上有する水溶性有機溶剤(A-1)を、インクジェット用マゼンタインキ全量中に5?50重量%含有し、
界面活性剤(B)が、シリコン系界面活性剤及びアセチレンジオール系界面活性剤を含むインクジェット用マゼンタインキ。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点4)
顔料について、本件発明1は、アゾ顔料を、1?10重量%含有するのに対し、甲6発明は、「C.I.ピグメントバイオレット19」を7重量%含有する点。
(相違点5)
水溶性有機溶剤(A)の特性について、本件発明1は、25℃における静的表面張力が22?32mN/m、HLB値が2.0?8.0であるのに対し、甲6発明の「1,2-ヘキサンジオール」がそのような特性を有しているか否か不明な点。
(相違点6)
界面活性剤のHLB値について、本件発明1は、「1.5?7.0」であるのに対し、甲6発明の「FZ-7002」及び「サーフィノール104」のHLB値は不明である点。

事案に鑑み、相違点4?6についてまとめて検討する。
甲6発明の「C.I.ピグメントバイオレット19」は、キナクリドン顔料であることは、当業者にとって明らかである(必要であれば、特開2012-150163号公報の【0032】の「C.I.ピグメントバイオレット19やC.I.ピグメントレッド122のようにキナクリドン骨格を有する顔料は青色領域の色再現域が広く、インクジェットインクやトナー用途として幅広く用いられている。」という記載を参照。)。

そうすると、甲6には、顔料として「アゾ顔料」(アゾ系顔料)も例示されているものの(甲6の【0023】参照。)、上記アでも述べたように、キナクリドン顔料である「C.I.ピグメントバイオレット19」を7重量%含有する甲6発明の水性マゼンタインク組成物において、「C.I.ピグメントバイオレット19」に替えてアゾ顔料を用いる場合には、インク中における分散性が異なることから、マゼンタインキに含まれる有機溶媒や界面活性剤の種類や含有量を変更や調整する必要があるといえ、さらに、印刷された際の、色相、着色力、耐光性、鮮明性等が異なるのであるから、アゾ顔料の量についても、「C.I.ピグメントバイオレット19」の含有量である7重量%とは異なる量に調整する必要があるというべきである。

そして、「C.I.ピグメントバイオレット19」に替えて、アゾ顔料を採用する場合の、アゾ顔料の含有量をどの程度とすればいいのか、有機溶媒としてどのようなものを用いればいいのか、及び、界面活性剤としてどのようなものを用いればいいのかについては、特許異議申立人が提出した全ての証拠を参照したとしても、当業者にとって不明としかいうほかない。

したがって、甲6発明において、仮に、「C.I.ピグメントバイオレット19」に替えて、アゾ顔料を採用することが可能だとしても、アゾ顔料の含有量として、上記相違点4に係る本件発明の発明特定事項である、アゾ顔料を1?10重量%含有するようにすること、水溶性有機溶剤(A)として、上記相違点5に係る本件発明の発明特定事項である、25℃における静的表面張力が22?32mN/m、HLB値が2.0?8.0のものを用いること、及び、界面活性剤として、上記相違点6に係る本件発明の発明特定事項である、HLB値が1.5?7.0である界面活性剤(B-1)を含むもの、とすることは、当業者が容易に想到し得たことである、とすることはできない。

そして、本件発明1は、上記相違点4?6に係る発明特定事項を備えることで、上述の格別顕著な作用効果を奏するものである。

よって、本件発明1は、甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2.本件発明2?12について
本件発明2?12は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明2?12は、甲1発明又は甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-05-13 
出願番号 特願2018-27034(P2018-27034)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 天野 宏樹
川端 修
登録日 2018-08-03 
登録番号 特許第6376505号(P6376505)
権利者 東洋インキSCホールディングス株式会社 東洋インキ株式会社
発明の名称 インクジェット用マゼンタインキ  
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