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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F21S
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 F21S
管理番号 1351714
審判番号 不服2018-8486  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-20 
確定日 2019-06-04 
事件の表示 特願2014- 2178号「低誘引性照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月16日出願公開,特開2015-130305号,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年1月9日の出願であって,平成29年10月4日付けで拒絶理由が通知され,平成30年2月19日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ,平同年2月26日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年3月22日付けで意見書が提出されたが,同年3月29日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年6月20日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,同年8月1日に前置報告がされ,同年9月10日に審判請求人から前置報告に対する上申がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年3月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.本願の請求項1,4-6に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
2.本願の請求項1-6に係る発明は,以下の引用文献1,2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平5-166408号公報
2.特開2013-239269号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1に「前記利用光の照射領域は,前記低活性光の照射領域内に位置し,」という事項を追加する補正(以下,「本件補正」という。)は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「利用光」について「前記利用光の照射領域は,前記低活性光の照射領域内に位置し,」に限定する補正であり,本件補正前の請求項1に記載された発明と,本件補正後の請求項1に記載された発明とは,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また,当初明細書の段落【0023】,【0026】,【0031】,【0039】及び図4の記載等からみて,本件補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものとは認められないから,本件補正は,新規事項を追加するものではないといえる。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,本件補正後の請求項1-6に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は,平成30年6月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
500nm以上かつ620nm以下の波長領域で発光ピークを有する低活性光を照射する低活性光照射手段と,
前記低活性光とは異なる色の光または視認することができない光からなる利用光を照射する利用光照射手段とを有し,
前記利用光の照射領域は,前記低活性光の照射領域内に位置し,
前記低活性光の照射領域は,前記利用光の照射領域の周囲の全周を囲んでいることを特徴とする低誘引性照明装置。
【請求項2】
請求項1に記載した低誘引性照明装置において,さらに,
前記利用光照射手段における前記利用光の照射および照射停止を制御する利用光制御手段を備えることを特徴とする低誘引性照明装置。
【請求項3】
請求項2に記載した低誘引性照明装置において,
前記利用光制御手段は,
前記利用光照射手段における前記利用光の照射領域内への物体の進入を検出する進入検出センサであることを特徴とする低誘引性照明装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載した低誘引性照明装置において,さらに,
少なくとも前記低活性光を拡散反射させるための拡散反射体を備えることを特徴とする低誘引性照明装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した低誘引性照明装置において,さらに,
前記低活性光照射手段および前記利用光照射手段を支持するベース体を備えており,
前記ベース体は,
前記低活性光照射手段から照射される前記低活性光を前記低誘引性照明装置が取り付けられる取付面に向かう方向から同取付面に対して平行な方向までの角度範囲内のいずれかの向きで照射するように前記低活性光照射手段を支持するとともに,前記利用光照射手段から照射される前記利用光を前記取付面に対して対向する方向から同取付面に対して平行な方向までの角度範囲内のいずれかの向きで照射するように前記利用光照射手段を支持することを特徴とする低誘引性照明装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載した低誘引性照明装置において,
前記利用光照射手段は,
白色光を照射することを特徴とする低誘引性照明装置。」

第5 引用文献,引用発明等
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
ア.「【産業上の利用分野】本発明は,蛾などの昆虫が集りにくい光を,放電打の光とともに放射する,嫌虫光放射照明器具に関するものである。」(2ページ左欄7?10行)
イ.「【発明が解決しようとする課題】上記のように,一般に使用されている放電灯の白色蛍光ランプや昼光色蛍光ランプは,その放射光の分光分布から,蛾等の昆虫類が誘引される360nm前後の波長の光を多く含むため,これらの昆虫類が特に夏期の間には群がり集り,快適な生活を妨げていた。本発明は,昆虫類が嫌う波長の光を放射して,上記昆虫類が蝟集するのを防止する嫌虫光放射照明器具を得ることを目的とする。」(2ページ左欄25?32行)
ウ.「【課題を解決するための手段】上記目的は,放電灯を主光源として点灯する嫌虫光放射照明器具において,昆虫類に嫌悪される波長550?600nmの嫌虫光を,照明器具の少なくとも横方向に放射するように,嫌虫光発光部を器具本体の一部に設けたことにより達成される。」(2ページ左欄33?37行)
エ.「【作用】蛾等の夜行性昆虫類が嫌悪する550?600nmの波長の光は,一般に黄色の光色を有する光であって,上記光を得るためには,主に交通関係等で使われるいわゆるフォッグランプ(Fog-lamp)のように,光源自体が上記波長の光を放射するランプを用いるか,あるいは色フィルタを利用することによって所望の波長の光を得る方法とがある。前者による場合には,照明器具の器具本体の一部に上記光源の収納場所を設けるが,後者による場合には,嫌虫光用として別に光源を用いてもよいし,照明器具の主光源の一部を色フィルタを透過させて利用することもできる。なお,上記方法によって得られた嫌虫光は,昆虫類が遠方から飛来しながら視認できるように,放射光を照明器具の少なくとも横方向に出射することが必要で,このため光源の位置によっては,反射板等を利用して,光源からの放射光が照明器具の横方向を照射するように制御する。」(2ページ左欄38行?右欄3行)
オ.「【実施例】つぎに本発明の実施例を図面とともに説明する。図1は本発明による嫌虫光放射照明器具の一実施例を示す片断面図,図2は上記実施例の斜視図,図3は本発明の他の実施例を示す一部断面図である。図1において,200はコード吊具10で吊り下げた点灯装置箱4に保持されている器具本体で,セード3とその上部に設けられた,逆円錐状ルーバ2A,2B,2C,2D等により形成された嫌虫光発光部100とにより,吊り下げ形の蛍光照明器具を構成している。上記セード3の上面は,上記点打装置箱4の周縁に沿って複数の湾曲した溝状の抜穴7を有し,上記抜穴7はそれぞれ黄色系透光板8で塞ぎ,上記セード3の内部には,点灯装置箱4に取付けたランプホールダ11に環形蛍光ランプ5,6を挾着保持している。上記環形蛍光ランプ5,6の上方に向う放射光の一部は,上記セード3の上面抜穴7から黄色系透光板8を透過したのち,黄色光として上記嫌虫光発光部100に至る。上記上方に向う一部の光以外の蛍光ランプ5,6の放射光は,直接またはセード3の内面で反射して主として下方を照射するが,一部はセード3を透過して照明器具周辺を照射する。上記嫌虫光発光部100を形成する逆円錐状ルーバ2A,2B,2C,2D等は,光の非透過性材料で形成され表面を反射率が良好な白色塗装を行っているので,上記嫌虫光発光部100の内部に到達した黄色光は,上記各ルーバでそれぞれ反射して照明器具の横方向に放射される。上記黄色系透光板8を550?600nmの波長の光を透過するように調整するときは,昆虫類が嫌う嫌虫光が照明器具の周囲で横方向に放射され,遠くから飛来する昆虫類に視認されるので,上記昆虫類は上記照明器具を避けて近寄ることがない。上記構成の実施例では,嫌虫光発光部100に専用の光源を用いることなく,主光源の光の一部を利用して嫌虫光を発することができる。図3に示す本発明の他の実施例は,器具本体200′の頂部に,主照明の光源(図示せず)とは別に発光する光源22を設け,上記光源22を黄色系の透光カバー21で蔽い嫌虫光発光部100′としている。上記黄色系の透光カバー21を550?600nmの波長の光を透過するように調整することにより,昆虫類が嫌う嫌虫光を照明器具の横および上方向に放射することができ,上記実施例同様の効果が得られるが,本実施例では嫌虫光発光部100′に独立した光源22を設けているので,点灯回路を切替えることにより,主光源を消灯した状態でも上記鎌虫光発光部100′だけを点灯して,昆虫類が群がり集るのを避けることができる。」(2ページ右欄4?47行)
カ.「【発明の効果】上記のように本発明による嫌虫光放射照明器具は,放電灯を主光源として点灯する嫌虫光放射照明器具において,昆虫類に嫌悪される波長550?600nmの嫌虫光を,照明器具の少なくとも横方向に放射するように,嫌虫光発光部を器具本体の一部に設けたことにより,主照明光の他に昆虫類が嫌う嫌虫光を照明器具の少なくとも横方向に放射するので,遠方から飛来する上記昆虫類が上記嫌虫光を認めて接近するのを避けるため,放電灯を点灯しながらも昆虫類が群がり集る不快な状態を避けることができる。」(2ページ右欄48行?3ページ左欄7行)
キ.図3からみて,光源22からの光(嫌虫光)の照射範囲は,主光源(主照明の光源)からの光の照射範囲を環状に囲ってはいるが,主光源(主照明の光源)からの光の照射範囲からは遠方に位置した状態となっている。
つまり,主光源(主照明の光源)からの光の照射領域は,光源22からの光(嫌虫光)の照射範囲の内側には位置してはいるものの,光源22からの光(嫌虫光)の照射領域の範囲外に位置していることが理解できる(下記参考図を参照のこと。)。




<参考図>


これらの記載事項及び図示内容からみて,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「昆虫類が嫌う550?600nmの波長の光を透過するように調整して放射する,光源22及び光源22を覆う黄色系の透孔カバー21からなる嫌虫光発光部100’と,
蛾等の昆虫類が誘引される360nm前後の波長の光を多く含む放射光を放射する主照明の光源である白色蛍光ランプや昼光色蛍光ランプの放電灯とを有し,
前記主照明の光源からの光の照射領域は,前記嫌虫光の照射領域の範囲外に位置し,
前記嫌虫光の照射領域は,前記主照明の光源からの光の照射範囲を環状に囲っている,蛾などの昆虫が集りにくい光を,放電打の光とともに放射する,嫌虫光放射照明器具。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と,引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
後者の「放射」は前者の「照射」に相当し,以下同様に,「光源22及び光源22を覆う黄色系の透孔カバー21からなる嫌虫光発光部100’」は「低活性光照射手段」に,「主照明」の「蛾等の昆虫類が誘引される360nm前後の波長の光を多く含む放射光」は「前記低活性光とは異なる色の光または視認することができない光からなる利用光」に,「主照明の光源である白色蛍光ランプや昼光色蛍光ランプの放電灯」は「利用光照射手段」に,「蛾などの昆虫が集りにくい光を,放電打の光とともに放射する,嫌虫光放射照明器具」は「低誘引性照明装置」に,それぞれ相当する。
後者の「昆虫類が嫌う550?600nmの波長の光」と,前者の「500nm以上かつ620nm以下の波長領域で発光ピークを有する低活性光」とは,「500nm以上かつ620nm以下の波長領域の光を含む低活性光」の点で共通する。
後者の「前記嫌虫光の照射領域は,前記主照明の光源からの光の照射範囲を環状に囲っている」ことは前者の「前記低活性光の照射範囲は,前記利用光の照射範囲の全周を囲んでいる」ことに相当する。
そうすると,両者は,
「500nm以上かつ620nm以下の波長領域の光を含む低活性光を照射する低活性光照射手段と,
前記低活性光とは異なる色の光または視認することができない光からなる利用光を照射する利用光照射手段とを有し,
前記低活性光の照射範囲は,前記利用光の照射範囲の全周を囲んでいる,
低誘引性照明装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
<相違点1>
500nm以上かつ620nm以下の波長領域の光を含む低活性光を照射する低活性光照射手段に関して,光が,本願発明1では,「発光ピークを有する」ものであるのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。
<相違点2>
本願発明1では,「前記利用光の照射領域は,前記低活性光の照射領域内に位置」するのに対して,引用発明では,「前記主照明の光源からの光の照射領域は,前記嫌虫光の照射領域の範囲外に位置し」ており,嫌虫光(本願発明1の「低活性光」に相当)の照射領域範囲内には位置しない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,上記相違点2について先に検討する。
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2は,本願発明1を限定する本願発明2,3の発明特定事項に関して引用されたもので,利用光の照射領域を,低活性光の照射領域内に位置させることは記載も示唆もされておらず,この点については,本願出願前に周知の事項ともいえない。
そして,上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項により,本願発明1は,消費電力,ランニングコスト及び製作コストを低減させるとともに製作負担を軽減することができる低誘引性照明装置を提供するという格別の作用効果を奏するものである。
したがって,相違点1について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2ないし6について
本願発明2ないし6は,本願発明1の「前記利用光の照射領域は,前記低活性光の照射領域内に位置」することと同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,拒絶査定において引用された引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
1.理由1(特許法第29条第1項第3号)について
審判請求時の補正により,本願発明1,4-6は,「前記利用光の照射領域は,前記低活性光の照射領域内に位置」するという事項を有するものとなっており,この事項は,引用文献1に記載されていないから,本願発明1,4-6は,引用文献1に記載された発明ではない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。
2.理由2(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により,本願発明1-6は,「前記利用光の照射領域は,前記低活性光の照射領域内に位置」するという事項を有するものに補正されており,前述した理由により原査定の理由2を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-20 
出願番号 特願2014-2178(P2014-2178)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F21S)
P 1 8・ 113- WY (F21S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 津田 真吾當間 庸裕  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 藤井 昇
中川 真一
発明の名称 低誘引性照明装置  
代理人 阿部 寛  
代理人 中山 浩光  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 柴山 健一  
代理人 黒木 義樹  

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