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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1351743
審判番号 不服2018-1945  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-13 
確定日 2019-06-07 
事件の表示 特願2014- 12494「無線通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月 3日出願公開、特開2015-142163、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成26年1月27日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年3月6日付け :拒絶理由通知書
平成29年5月12日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年11月10日付け:拒絶査定
平成30年2月13日 :拒絶査定不服審判の請求,手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成29年11月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1-3,5-9
・引用文献等 1-6

<引用文献等一覧>
1.特開2004-289723号公報
2.特開2004-128709号公報
3.特開2012-165241号公報
4.特開2008-131445号公報
5.特開2013-214801号公報
6.特開2013-239906号公報

第3 本願発明
本願の請求項1-10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は,平成30年2月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定されるものと認められるところ,請求項1は以下のとおりである。

「 【請求項1】
無線通信装置であって、
第1の無線通信インターフェースと、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記無線通信装置が親局として動作する無線ネットワークを形成する形成部であって、前記無線ネットワークは、特定のSSIDを有し、前記第1の無線通信インターフェースを介した対象データの無線通信を外部機器と実行するためのネットワークであり、前記特定のSSIDは、前記無線ネットワークの識別子であり、前記SSIDはService Set Identifierの略である、前記形成部と、
特定の外部機器から無線接続要求を受信する受信部と、
前記特定のSSIDの前記無線ネットワークの子局として動作する外部機器である子局機器の数が上限数K(Kは2以上の整数)に一致する状態で、前記特定の外部機器から前記無線接続要求が受信される場合に、前記特定のSSIDの前記無線ネットワークの親局としての動作を維持したまま、対象機器を含み特定の外部機器を含まないK個の前記子局機器のうちの前記対象機器との無線接続を切断して、前記対象機器を前記特定のSSIDの前記無線ネットワークから離脱させる第1の切断部と、
前記対象機器が前記特定のSSIDの前記無線ネットワークから離脱した後に、前記特定のSSIDの前記無線ネットワークの親局としての動作を維持したまま、前記第1の無線通信インターフェースを介した無線接続を前記特定の外部機器と確立して、前記特定のSSIDの前記無線ネットワークに、前記特定の外部機器を前記子局機器として参加させて、前記特定のSSIDの前記無線ネットワークに、前記対象機器を含まず前記特定の外部機器を含むK個の前記子局機器が存在する状態を構築する第1の確立部と、
前記特定の外部機器が前記特定のSSIDの前記無線ネットワークに参加した後に、前記特定のSSIDの前記無線ネットワークを利用して、前記第1の無線通信インターフェースを介して、第1の対象データの無線通信を前記特定の外部機器と実行する第1の通信実行部と、
前記第1の対象データの無線通信が終了した後に、前記特定のSSIDの前記無線ネットワークの親局としての動作を維持したまま、前記対象機器を含まず前記特定の外部機器を含む前記K個の子局機器のうちの前記特定の外部機器との前記無線接続を切断して、前記特定の外部機器を前記特定のSSIDの前記無線ネットワークから離脱させる第2の切断部と、
前記特定の外部機器が前記特定のSSIDの前記無線ネットワークから離脱した後に、前記特定のSSIDの前記無線ネットワークへの参加を促すための信号を前記対象機器に送信することによって、前記特定のSSIDの前記無線ネットワークの親局としての動作を維持したまま、前記第1の無線通信インターフェースを介した無線接続を前記対象機器と確立して、前記特定のSSIDの前記無線ネットワークに、前記対象機器を前記子局機器として再び参加させて、前記特定のSSIDの前記無線ネットワークに、前記対象機器を含み前記特定の外部機器を含まない前記K個の子局機器が存在する状態を構築する第2の確立部と、
を備える、無線通信装置。」

本願発明2-9は,本願発明1を減縮した発明である。

本願発明10は,本願発明1に対応するコンピュータプログラムの発明であり,カテゴリ表現が異なるだけの発明である。

第4 引用発明等

1 引用例1に記載された事項

(1)引用例1
原査定の拒絶の理由で引用された,特開2004-289723号公報(以下,「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与したものである。)

ア 「【0021】
図1の構成では、1台の無線LAN対応ルータ装置1に少なくとも1台の利用者端末2が接続可能である。実際には、少なくとも1台の無線LAN対応ルータ装置1に夫々少なくとも1台の利用者端末2が接続可能である。利用者端末2には無線接続手段を有するPDA端末とノートパソコン端末等のような情報処理装置一般を用いる事が可能である。
【0022】
無線LANコントローラ3は、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)802.11b、IEEE802.11a、IEEE802.11g等の規格に準拠する無線アクセスポイントを実現し、利用者端末2は、無線LANコントローラ3に接続し通信を開始する。
【0023】
WAN/LANコントローラ4は、WAN/LAN網27と接続する為のコントローラであり、例えば、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)での接続であれば、外付けADSLモデムを経由して接続される構成となり、FTTH(Fiber To The Home)での接続であれば外付けメディアコンバータを経由して接続される。
【0024】
無線LANコントローラ制御部5は、無線LANコントローラ3とWAN/LANコントローラ4の制御を行うものであり、利用者端末2が無線LANコントローラ3に接続する際の認証をする利用者端末認証部6と、前記利用者端末認証部6で認証に失敗した利用者端末2の接続可否の判定をする接続可否条件判定部7と、利用者端末2の接続数や利用者端末識別子や利用者端末2に割り当てられたIPアドレスや前記利用者端末認証部6における認証の成否結果を管理する最大同時接続数管理部8と、現在時刻を計数する計時部9と、利用者端末2との無線強度を計測する無線強度測定部10と、接続した利用者端末2にIPアドレスを割り当てるIPアドレス割当部11と、接続した利用者端末2のルーティング経路を選択するルーティング部12と、接続した利用者端末2との間で発生する送受信データのキューの制御を行う優先処理実行部13と、前記無線LAN対応ルータ装置1に設けられたLED又は液晶画面又は音声出力装置又は印刷出力が可能である出力装置15又は接続した利用者端末2のディスプレイ装置に、利用者端末2との通信状況や利用者端末2の接続状況等を出力する出力処理実行部14から構成される。ここで、前記利用者端末認証部6において認証に成功した利用者端末2は、認証成功端末2-1、前記認証に失敗した利用者端末2は、認証失敗端末2-2となる。」

イ 「【0028】
図2は、利用者端末2が前記無線LAN対応ルータ装置1に接続する処理をフローチャートで示したものである。
【0029】
利用者端末2より無線LANコントローラ3へ接続要求が発信されると、前記利用者端末認証部6は、予め定められた認証情報を格納した認証情報格納部17を参照し、前記認証情報と利用者端末2より受信した受信認証情報とを照合し認証を行う(ステップ201)。
【0030】
例えば、利用者端末認証部6は、認証情報として、所定のWEPキーとMACアドレスとを認証情報格納部17に設定されている場合、利用者端末2より受信したWEPキーとMACアドレスと、認証情報格納部17に設定された所定のWEPキーとMACアドレスとを照合する。事前に無線LAN対応ルータ装置1の所有者にWEPキーを開示され、前記WEPキーを利用者端末2に登録しており、かつ利用者端末2のMACアドレスを認証情報格納部17へ登録された利用者端末2のみこの利用者端末認証部6にて認証が成功する。即ち、不特定多数の一般利用者は、認証を失敗する事になる。上記の認証条件は、WEPキーとMACアドレスで例示したが、接続する利用者毎に定められた所謂、利用者ID、パスワードにて認証しても良く、認証が可能であれば他の方法でも構わない。」

ウ 「【0064】
(実施形態4)
前記無線LAN対応ルータ装置1は、前記接続可否条件判定部7にて条件を満たし接続を許可された場合、又は前記利用者端末認証部6にて認証され接続を許可された場合に、更なる追加条件を付加する事が可能となっている。
【0065】
以下、前記追加条件である最大同時接続数制限処理の実施形態を図7及び図9を用いて簡単に説明する。
【0066】
本発明に係る全体構成、利用者端末認証部6における認証方法、接続可否条件判定部7における処理は、前記実施形態1乃至実施形態3と同様である為、ここでは説明を省略する。
【0067】
前記最大同時接続数制限処理は、最大同時接続数管理部8にて処理の実行が行われ、前記最大同時接続数管理部8は、接続中端末格納部23に記憶されている情報の全レコード数と、最大同時接続数格納部22に格納している所定の最大同時接続数とを比較している。前記最大同時接続数は、無線LAN対応ルータ装置1に同時に接続出来る最大となる利用者端末2の台数であり、この条件を付与する事により、無線LAN対応ルータ装置1への接続台数増加時の処理性能の低下を防ぐ。
【0068】
前記最大同時接続数制限処理のフローチャートを図9に示す。
【0069】
処理が開始されると、前記最大同時接続数管理部8は、接続中端末格納部23に記憶している情報の全レコード数をカウントし(ステップ9-1)、前記最大同時接続数と比較を行う(ステップ9-2)。例えば、前記最大同時接続数を「5」と設定した場合、図7の例を使用すると、全レコード数は「4」である為、接続は許可され、ステップ9-3の処理を実行する。もし最大同時接続数格納部22の最大同時接続数を「4」と設定されていた場合は、無条件に接続の拒否を行うのではなく、ステップ9-4の処理を実行する。
【0070】
ステップ9-4は、ステップ9-2にて最大同時接続数に達していると判定された利用者端末2のみ処理される。
【0071】
ステップ9-4では、利用者端末2の利用者端末認証部6における認証の成否を判定している。ここで、前記利用者端末2が認証失敗端末2-2であれば、ステップ9-7の処理を実行し、無線LAN対応ルータ装置1への接続を拒否する。
【0072】
前記利用者端末2が認証成功端末2-1であれば、ステップ9-5において、接続中端末格納部23の認証成否情報フィールドから「非認証」の端末を検索する処理を実行する。ここで、「非認証」である端末が存在しない場合は、ステップ9-7の処理を実行し、無線LAN対応ルータ装置1への接続を拒否する。
【0073】
例えば、接続中端末格納部23が図7に例示する状態であった場合、「非認証」である端末は、「コンピュータ3」、「コンピュータ4」である。複数存在する時には、最終通信時刻を参照し、前記最終通信時刻の一番古い端末を選択する。ここでは、一実施形態として、最終通信時刻の一番古い端末を選択する例にて示したが、この方法に限定するものではない。この例では、「コンピュータ4」が適合する。そして、ステップ9-6において、この「コンピュータ4」の通信を切断し、接続中端末格納部23の「コンピュータ4」のレコードを1件削除する。
【0074】
即ち、無線LAN対応ルータ装置1への接続台数が所定の最大同時接続数に達している場合、認証失敗端末2-2の接続を切断し、認証成功端末2-1を接続する事になる。
【0075】
これは、前記認証成功端末2-1が最大同時接続数を意識せずにいつでも無線LAN対応ルータ装置1に接続可能となる事を意味する。
【0076】
最後に、最大同時接続数管理部8は、利用者端末2の端末識別子、後述するIPアドレス割当部11により割り当てられたIPアドレス、利用者端末認証部6における認証の成否を接続中端末格納部23へ追加する(ステップ9-3)。
【0077】
例えば、端末名が「コンピュータ5」、IPアドレスが「192.168.0.3」、認証成否情報が「認証」であった場合、接続中端末格納部23に上記情報の新レコードが追加される。ここで、最終通信時刻は、追加時に計時部9にて計数した現在時刻を入力とするものとし、この最終通信時間フィールドは、利用者端末2と無線LANコントローラ3の間でパケットの送受信がなされた時、毎回前記現在時刻にて変更される。」

図1



引用例1の上記記載及びこの分野における技術常識を考慮すると,次のことがいえる。

(ア)上記アの段落【0022】,【0024】及び図1の記載によれば,IEEE802.11g等の規格に準拠する無線アクセスポイントを実現し,利用者端末と無線によって接続し通信を開始する無線LANコントローラ,及び無線LANコントローラ等の制御を行う無線LANコントローラ制御部を備える無線LAN対応ルータ装置が記載されているから,引用例1には「無線対応ルータ装置は,無線LANコントローラと,無線LANコントローラ制御部と,を備え」るものが記載されているといえる。

(イ)上記イの段落【0029】の記載によれば,利用者端末より無線LANコントローラへ接続要求が発信されると、利用者端末認証部は、認証情報を格納した認証情報格納部を参照し、前記認証情報と利用者端末より受信した受信認証情報とを照合し認証するものであるから,少なくとも利用者端末から接続要求を受信する「受信部」を備える無線対応ルータ装置が記載されているといえる。そうすると,引用例1には、「利用者端末からの接続要求を受信する受信部」を備える無線対応ルータ装置が記載されているといえる。

(ウ)上記アの段落【0024】の記載によれば,無線LANコントローラ制御部は最大同時接続数管理部を有しており,上記(3)の段落【0067】の記載によれば,最大同時接続数管理部は,接続中端末格納部に記憶されている情報の全レコード数と,最大同時接続数格納部に格納している所定の最大同時接続数とを比較することが記載されている。また,上記(3)の段落【0069】-【0074】には,最大同時接続数と接続中端末格納部に記憶している情報の全レコード数を比較し,全レコード数が最大同時接続数に達していると判断した場合,接続中端末格納部の認証成否情報フィールドから端末を検索し,端末の中から切断される端末を選択し通信を切断し,認証成功端末を接続することが記載されている。
したがって,引用例1には「無線LANコントローラ制御部が備える最大同時接続数管理部は,最大同時接続数が設定されていた場合,接続中端末格納部に記憶している情報の全レコード数と最大同時接続数の比較を行い,全レコード数と最大同時接続数が同じであった場合,利用者端末が認証成功端末であれば,接続中端末格納部から切断される端末を検索する処理を実行し,切断される端末を選択し通信を切断し,接続要求を行った利用者端末を接続する」ものが記載されているといえる。

以上を総合すると,引用例1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「無線対応ルータ装置は,
無線LANコントローラと,
無線LANコントローラ制御部と,を備え
利用者端末からの接続要求を受信する受信部と,
前記無線LANコントローラ制御部が備える最大同時接続数管理部は,最大同時接続数が設定されていた場合,接続中端末格納部に記憶している情報の全レコード数と前記最大同時接続数の比較を行い,前記全レコード数と前記最大同時接続数が同じであった場合,前記利用者端末が認証成功端末であれば,前記接続中端末格納部から切断される端末を検索する処理を実行し,前記切断される端末を選択し通信を切断し,接続要求を行った前記利用者端末を接続する,
無線対応ルータ装置。」

2 引用例3に記載された事項

原査定の拒絶の理由で引用された,特開2012-165241号公報(以下,「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与したものである。)

(1)「【0013】
携帯電話機2は、マイクロコンピュータを主体とする制御部5(制御手段に相当)、携帯電話網を介して基地局との間で広域通信を行う広域通信部6、第1車載側装置3及び第2車載側装置4の各々との間でBT通信を行うBT通信部7(近距離通信手段に相当)、待受画面や着信通知画面や電話帳データ一覧画面等の各種画面を表示する表示部8、電話帳データや発信履歴データや着信履歴データ等の各種データを記憶する記憶部9(記憶手段に相当)、マイクロホン10が入力した音声を送話音声として送話処理すると共にスピーカ11から出力する音声を受話音声として受話処理する音声処理部12等を備えている。
【0014】
BT通信部7は、第1車載側装置3及び第2車載側装置4の各々との間でBT通信リンク(近距離通信リンクに相当)を接続可能である。BT通信部7は、BT通信リンクの最大接続可能数が「1」に設定されており、第1車載側装置3との間でBT通信リンクを接続中であれば、第2車載側装置4との間でBT通信リンクを接続することができず、一方、第2車載側装置4との間でBT通信リンクを接続中であれば、第1車載側装置3との間でBT通信リンクを接続することができず、即ち、第1車載側装置3及び第2車載側装置4のうち何れかとの間でBT通信リンクを選択的に接続する。
【0015】
記憶部9は、上記した電話帳データや発信履歴データや着信履歴データを記憶するデータ記憶領域の他に、BT通信規格で規定されているプロファイルの優先順位を記憶するプロファイル優先順位記憶領域9aを有している。具体的には、記憶部9は、ハンズフリー通話を実現するハンズフリー・プロファイル(HFP)の優先順位を「1」(上位)と記憶し、データ通信を実現するシリアル・ポート・プロファイル(SPP)の優先順位を「2」(下位)と記憶している。」

(2)「【0020】
次に、上記した構成の作用について、図2乃至図4を参照して説明する。図2乃至図4は、携帯電話機2が行う処理をフローチャートにより示している。携帯電話機2において、制御部5は、第1車載側装置3のBT通信部14及び第2車載側装置4のBT通信部17のうち何れかから接続要求通知をBT通信部7により受信したか否かを判定し、第1車載側装置3及び第2車載側装置4のうち何れかからBT通信リンクの接続要求が発生したか否かを判定(監視)している(ステップS1)。
【0021】
ここで、制御部5は、第1車載側装置3のBT通信部14及び第2車載側装置4のBT通信部17のうち何れかから接続要求通知をBT通信部7により受信したと判定し、第1車載側装置3及び第2車載側装置4のうち何れかからBT通信リンクの接続要求が発生したと判定すると(ステップS1にて「YES」)、その受信した接続要求通知からデバイス情報を抽出して解析し、第1車載側装置3及び第2車載側装置4のうち何れからの接続要求であるかを判定する(ステップS2)。制御部5は、第1車載側装置3からの接続要求、即ち、プロファイルの優先順位が上位からの接続要求であると判定すると、第1接続処理へ移行し(ステップS3)、一方、第2車載側装置4からの接続要求、即ち、プロファイルの優先順位が下位からの接続要求であると判定すると、第2接続処理へ移行する(ステップS4)。以下、第1接続処理及び第2接続処理について順次説明する。
【0022】
制御部5は、第1接続処理へ移行すると、その時点でBT通信部7と第2車載側装置4のBT通信部17との間でBT通信リンクを接続中であるか否かを判定する(ステップS11)。制御部5は、その時点でBT通信部7と第2車載側装置4のBT通信部17との間でBT通信リンクを接続中でないと判定すると(ステップS11にて「NO」)、BT通信部7と接続要求した第1車載側装置3のBT通信部14との間でBT通信リンクを接続し、ハンズフリー・プロファイルを接続する(ステップS12)。
【0023】
一方、制御部5は、その時点でBT通信部7と第2車載側装置4のBT通信部17との間でBT通信リンクを接続中であると判定すると(ステップS11にて「YES」)、接続待機通知をBT通信部7から第2車載側装置4へ送信させる(ステップS13)。これを受けて、第2車載側装置4は、携帯電話機2のBT通信部7から送信された接続待機通知をBT通信部17により受信すると、BT通信リンクの接続待機中へ移行する。
【0024】
次いで、制御部5は、BT通信部7と第2車載側装置4のBT通信部17との間で接続しているBT通信リンクをデータ通信中であるか否かに関係なく(プロファイルの機能の終了を待たずに)強制的に切断し(ステップS14)、第2車載側装置4が接続待機中へ移行したことを記憶し(接続待機中移行フラグを設定し)(ステップS15)、BT通信部7と接続要求した第1車載側装置3のBT通信部14との間でBT通信リンクを接続し、ハンズフリー・プロファイルを接続する(ステップS12)。
【0025】
次いで、制御部5は、このようにしてBT通信部7と第1車載側装置3のBT通信部14との間でBT通信リンクを接続した後に、BT通信部7と第1車載側装置3のBT通信部14との間で接続しているBT通信リンクをハンズフリー・プロファイルの機能の終了により切断したか否かを判定(監視)し(ステップS16)、BT通信部7と第1車載側装置3のBT通信部14との間で接続しているBT通信リンクをハンズフリー・プロファイルの機能の終了により切断したと判定すると(ステップS16)、第2車載側装置4が接続待機中であるか否か(接続待機中移行フラグを設定しているか否か)を判定する(ステップS17)。
【0026】
ここで、制御部5は、第2車載側装置4が接続待機中でないと判定すると(ステップS17にて「NO」)、第1接続処理を終了してリターンする。一方、制御部5は、第2車載側装置4が接続待機中であると判定すると(ステップS17にて「YES」)、接続要求通知をBT通信部7から第2車載側装置4へ送信させ、第2車載側装置に対して接続要求し(ステップS18)、BT通信部7と第2車載側装置4のBT通信部17との間でBT通信リンクを接続し、シリアル・ポート・プロファイルを接続し(ステップS19)、第2車載側装置4が接続待機中であることを消去し(接続待機中移行フラグを解除し)(ステップS20)、第1接続処理を終了してリターンする。」

(3)「【0035】
本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のように変形又は拡張することができる。
近距離通信装置としては、複数台の車載側装置の各々との間でBT通信リンクを接続可能であれば、携帯情報端末(広域通信機能を有しない機器)等であっても良い。
携帯電話機2と第1車載側装置3及び第2車載側装置4の各々とが、BT通信以外の無線LAN等で無線接続されても良いし、有線接続されても良い。
車載側装置は、工場出荷時に車両に対して組込まれている装置であっても良いし、工場出荷後に車両に対して取付可能な装置であっても良い。」

ア 上記(1)の段落【0014】,上記(2)の段落【0021】-【0026】及び上記(3)の段落【0035】の記載からみて,引用例3の「無線LANを用いた無線通信において,最大接続可能数が設定されており,接続要求通知があると,接続中である装置を接続待機中へ移行し,接続要求を行ってきた装置を接続し,接続要求を行ってきた装置が終了により切断した場合,接続待機中の装置が存在するかを確認し,接続待機中の装置が存在した場合,接続要求を待機中の装置に送信し,接続させる。」ことは公知技術であると認められる。

3 その他の引用例について

(1)引用例2

原査定の拒絶の理由で引用された,特開2004-128709号公報(以下,「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与したものである。)

ア「【0021】
(第1の実施形態)
以下では、Bluetoothの仕様で無線通信を行う通信システムを一例として説明する。本実施形態の通信システムには、図1に示すように、マスター機器1と複数のスレーブ機器2とが存在し、スレーブ機器2は最大7台までマスター機器1に接続可能である。ただし、スレーブ機器2が省電力モードであるパークモードに設定されると、7台にカウントされずにマスター機器1に接続することができる。すなわち、パークモードに設定されたスレーブ機器2は、マスター機器1への接続台数にカウントされない。そこで、本実施形態では、マスター機器1に接続されていないスレーブ機器2をパークモードに設定する点に特徴がある。
【0022】
図2は本発明に係る主通信装置の第1の実施形態であるマスター機器1の内部構成を示すブロック図である。図2のマスター機器1は、スレーブ機器2へのデータ送信を指令するデータ送信司令部3と、スレーブ機器2の接続状態を判別する接続状態判別部4と、スレーブ機器2へのデータ送信を行うデータ送信部5と、スレーブ機器2の接続処理を行う接続処理部6と、スレーブ機器2の接続検知を行う接続検知部7と、スレーブ機器2の接続台数を調査する接続台数調査部8と、接続を切断すべきスレーブ機器2を選択する切断スレーブ選択部9と、スレーブ機器2の切断処理を行う切断処理部10とを有する。
【0023】
図3は本発明に係る従属通信装置の第1の実施形態であるスレーブ機器2の内部構成を示すブロック図である。図3のスレーブ機器2は、マスター機器1へのデータ送信を指令するデータ送信司令部11と、マスター機器1との接続状態を判別する接続状態判別部12と、マスター機器1へのデータ送信を行うデータ送信部13と、マスター機器1との接続処理を行う接続処理部14とを有する。
【0024】
図4は本発明に係るマスター機器1の処理手順を示すフローチャートである。図4の処理を開始するにあたって、マスター機器1に対してスレーブ機器2が1台ずつ接続してパークモードになり、例えば16台のスレーブ機器2がパークモードでマスター機器1に接続されているとする。
【0025】
このとき、マスター機器1のデータ送信司令部3がある1台のスレーブ機器2に対してデータを送る指令を出したとする。この指令により、データの送信要求が生じたか否かを判別する図4のステップS1の判別処理がYESになり、接続状態判別部4は、宛先スレーブ機器2と接続中か否かを判別する(ステップS2)。
【0026】
このステップS2では、例えば、宛先スレーブ機器2がパークモードの場合は、宛先スレーブ機器2は接続されていないと判別する。この結果、接続処理部6は、宛先スレーブ機器2との接続処理を行い(ステップS3)、データ送信部7は宛先スレーブ機器2にデータを送信する(ステップS4)。その後、ステップS1に戻り、ステップS1?S4の処理を繰り返す。
【0027】
例えば、その後に、データ送信司令部3が同じスレーブ機器2に対するデータ送信指令を出したとする。この場合、接続状態判別部4は、そのスレーブ機器2と接続中であると判別し、データ送信部7はそのままデータ送信を継続する。
【0028】
上述したステップS1?S4の処理と並行して、接続検知部7が宛先スレーブ機器2の新規接続を検知すると、接続台数調査部8は現在接続されているスレーブ機器2の台数が制限台数(Bluetoothの場合、7台)未満の所定台数(例えば、5台)に達したか否かを判別する(ステップS5)。仮に、現在接続されているスレーブ機器2が1台であるとすると、先に述べた所定台数よりも少ないので、ステップS5の処理を繰り返す。
【0029】
その後に、データ送信司令部3が別の未接続のスレーブ機器2に対するデータ送信指令を出した場合には、接続処理部6がそのスレーブ機器2をパークモードから接続状態にした後、データ送信部7はデータ送信を行う。接続検知部7は、スレーブ機器2が新たに接続されたことを検知し、接続台数調査部8は、現在2台のスレーブ機器2と接続したことを検知するが、5台より少ないのでステップS5ではNOと判別される。
【0030】
上述したステップS1?S4の処理を繰り返した結果、マスター機器1に接続されているスレーブ機器2の台数が所定台数になったとする。この場合、ステップS5の判別結果がYESになり、切断スレーブ選択部9は、現在接続中のスレーブ機器2のうち、接続を切断すべきスレーブ機器2を選択する(ステップS6)。そして、選択したスレーブ機器2の接続を切断する(ステップS7)。実際には、選択したスレーブ機器2をパークモードにする。
【0031】
切断すべきスレーブ機器2を選択する方法として、いくつかの方法が考えられる。例えば、マスター機器1と最後にデータ通信を行ってからの経過時間が最も長いスレーブ機器2を選択する。この場合、図5に示すように、マスター機器1の内部に、マスター機器1と最後にデータ通信を行ってからの経過時間を保持するデータ通信時間保持部15を設け、このデータ通信時間保持部15からの情報により、切断スレーブ選択部9が選択すればよい。
【0032】
あるいは、マスター機器1との接続時間が最も長いスレーブ機器2を選択してもよい。この場合、図6に示すように、マスター機器1の内部に、マスター機器1との接続時間を計測する接続時間保持部16を設け、この接続時間保持部16からの情報により、切断スレーブ選択部9が選択すればよい。
【0033】
なお、ステップS7では、スレーブ機器2を物理的に切断するのではなく、パークモードに設定しているが、パークモードに設定すべきスレーブ機器2がデータ通信中であったとしても、強制的にパークモードに設定しても特に問題ない。この場合、そのスレーブ機器2は、パークモードの設定後に、マスター機器1とデータ通信を行う要求が生じたとみなすことができ、マスター機器1は図4の処理を実行して、スレーブ機器2への接続を試みる。
【0034】
このように、第1の実施形態では、マスター機器1に接続されているスレーブ機器2の台数が所定台数になると、接続中のいずれかのスレーブ機器2を切断(パークモードに設定)するため、データを送信したくなったスレーブ機器2が迅速にデータを送信することができ、データ送信に要する時間を短縮できる。
【0035】
また、切断されたスレーブ機器2は実際はパークモードに設定されているため、切断状態から接続状態に迅速に復帰させることができ、応答性がよくなる。このようなパークモードを利用することで、見かけ上、制限台数(7台)以上のスレーブ機器2をマスター機器1に接続でき、通信ネットワークの規模を拡大することができる。」

(ア) 上記アの段落【0021】-【0035】の記載からみて,引用例2の「Bluetoothではスレーブ機器として接続可能な台数に制限があるため,台数制限以上のスレーブ機器からの接続要求があった場合には,現在接続されているスレーブ機器の中からパークモードへ移行する機器を選択し,切断処理をおこなうことで,新たなスレーブ機器を通信可能とし,パークモードへ移行されたスレーブ機器が通信を行う必要が発生した場合,迅速に復帰が可能となる。」ことは公知技術であると認められる。

(2)引用例4

原査定の拒絶の理由で引用された,特開2008-131445号公報(以下,「引用例4」という。)には,以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与したものである。)

ア 「【0073】
〔第2の制御動作〕
図4は、ファクシミリ装置100における第2の制御動作を示す図である。ここでは、ファクシミリ装置100が通信経路Aを用いてファクシミリ装置210と通信中に、ファクシミリ装置220が通信経路Cを用いて発呼してきた場合の制御について説明する。
【0074】
なお、図2と同一の機器には、同一の符号を付してある。また、F11?F20は各通信手順を示す。 ファクシミリ装置100は、上述した通信経路Aを用いてインターネットを経由してファクシミリ装置210とIP-FAX通信を行っている(F11)。なお、ここではファクシミリ装置100からの送信であるか、ファクシミリ装置210からの送信であるかは問わない。
【0075】
そして、ファクシミリ装置100は、例えばSIPサーバから着呼を受け付けた時にInvite情報の内容を解析して、相手装置がゲートウェイ装置であるか否かを判断する(F12)。
【0076】
ここで、相手装置がゲートウェイ装置であると判断した場合には、発呼した端末は公衆回線に接続されている、つまりこの通信には第1種の通信経路が用いられていると判断できる。そして、この判断の結果に基づいて、メイン制御部101は第1種の通信経路を用いたファクシミリ通信と第2種の通信経路を用いたファクシミリ通信が競合していることを検出することができる。
【0077】
そして、ファクシミリ装置100は競合する複数のファクシミリ通信のうち、どちらを優先させて処理するかの選択を行う。ここでは、RAM103上に、第2種の通信経路を用いたファクシミリ通信よりも、第1種の通信経路を用いたファクシミリ通信の優先度が高いことを示す優先度テーブルが予め設定されているものとする。
【0078】
なお、ここでは第1種の通信経路と第2種の通信経路のうち、どちらを用いたファクシミリ通信を優先して行うかを予め登録しておくようにしているが、例えば、通信経路A?Dについてそれぞれ優先度を登録しておいてもよい。
【0079】
第1種の通信経路を用いたファクシミリ通信の方が高く設定されている場合には、ここではファクシミリ装置220とのファクシミリ通信を、ファクシミリ装置210とのファクシミリ通信よりも優先させて実行させる。
【0080】
具体的には、F13で、ファクシミリ装置100は、ファクシミリ装置210に対して、待機通知を行う。ファクシミリ装置210は待機通知が受けられる状態になったら、F14で、それに対するOKをファクシミリ装置100へ返して、ファクシミリ装置100とファクシミリ装置210との間のIP-FAX通信は待機状態となる。
【0081】
なお、待機通知とそれに対するOKは、例えば、DIS(初期識別)、DCS(受信命令)のメッセージのやり取りで行うか、NSF、NSSのメッセージのやり取りで行う。
【0082】
そして、F15で、ファクシミリ装置100はIP-FAX通信をゲートウェイ装置230と行う。また、F16で、ゲートウェイ装置230は同時にファクシミリ装置220とG3FAX通信を行う。
【0083】
ここではファクシミリ装置100からの送信であるか、ファクシミリ装置220からの送信であるかは問わない。
【0084】
このように、ファクシミリ装置210とのファクシミリ通信を行っている場合に、さらに別のファクシミリ装置220とのファクシミリ通信を開始する必要がある時は、優先度が低い方のファクシミリ通信を待機状態にする。これにより、メイン制御部101や符号/復号化部107などのリソースを、優先度の高いファクシミリ通信のための処理に割り当てることができる。
【0085】
特に、画像データの符号/復号化処理について優先度の高いファクシミリ通信のための処理を遅延なく行うことが可能になり、問題なくファクシミリ通信を行うことができるようになる。
【0086】
ファクシミリ装置100とファクシミリ装置220とのファクシミリ通信が終了すると、F17で、ファクシミリ装置100とファクシミリ装置220はゲートウェイ装置230を経由して、ファクシミリ通信の終了処理を行う。
【0087】
すなわち、EOP(メッセージ後命令)、MCF(メッセージ後応答)、DCN(切断命令)メッセージのやり取りやSIPプロトコルのByeのやり取りを行う。
【0088】
その後、F18で、ファクシミリ装置100はファクシミリ装置210に対して、再開通知を行う。そして、ファクシミリ装置210は再開通知が受けられる状態になったら、F19で、それに対するOKをファクシミリ装置100へ返して、F20で、ファクシミリ装置100とファクシミリ装置210は再びIP-FAX通信を再開する。
【0089】
なお、再開通知とそれに対するOKは、例えば、EOM(Q信号)、DIS、DCSメッセージのやり取りの中で行う。」

(ア) 上記アの段落【0073】-【0089】の記載からみて,引用例4の「IP-FAXにおいて優先度の高いファクシミリ通信が行われてきた場合,現在のファクシミリ通信を相手方装置に待機通知を行うことによって待機状態にし,通信が終了したら,待機通知を行った装置に対して再開通知を行うことによってIP-FAXを再開する。」ことは公知技術であると認められる。

(3)周知技術

原査定の拒絶の理由で引用された,特開2013-214801号公報(以下,「周知技術1」という。)には,以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与したものである。)

ア 「【0041】
(MFP10が実行する通信処理)
図2を参照して、MFP10が実行する通信処理について説明する。制御部30は、MFP10が電源ONにされると、通信処理を実行する。S2では、受信部40は、NFC方式に従った無線通信を実行することによって、NFC情報を受信することを監視している。なお、受信部40は、NFCI/F22を介して、NFC情報を受信する。具体的には、受信部40は、MFP10と携帯端末50との間にNFC通信セッションが確立されることを監視している。受信部40は、MFP10が電源ONにされている間、NFCI/F22に、NFC方式に従った無線通信を実行可能なデバイスを検出するための電波を発信させている。
【0042】
携帯端末50のユーザは、アプリケーションプログラムを起動させる。ユーザは、携帯端末50を操作することによって、MFP10が実行すべき処理を示す処理実行指示(例えば、印刷指示、スキャン指示)を、含むNFC情報を、携帯端末50に生成させる。NFC情報は、さらに、携帯端末50が無線ネットワークに現在属している場合に、携帯端末50が現在属している無線ネットワークのSSIDとBSSIDとを含む。なお、携帯端末50が無線ネットワークに現在属している場合とは、携帯端末50と他のデバイス(例えばAP6、MFP10)との間で、WFD接続と通常Wi-Fi接続との少なくとも一方の無線接続が確立されている場合である。
【0043】
ユーザは、携帯端末50をMFP10に近づけることができる。これにより、携帯端末50とMFP10との間の距離が、互いに電波が届く距離(例えば10cm)より小さくなると、携帯端末50は、MFP10から上記の電波を受信して、応答電波をMFP10に送信する。この結果、制御部30は、携帯端末50から応答電波を受信して、NFC通信セッションを確立する。携帯端末50は、NFC通信セッションが確立されると、生成されたNFC情報を、MFP10に送信する。」

原査定の拒絶の理由で引用された,特開2013-239906号公報(以下,「周知技術2」という。)には,以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与したものである。)

イ 「【0124】
(ケースC1;図12)
図12のケースC1では、携帯端末50は、いずれの無線ネットワークにも属していない。MFP10は、NFC通信を実行して、印刷指示と、NWなしを示す情報と、を含むNFC情報を、携帯端末50から受信する(図3のS10でYES)。この場合、MFP10は、図4のマルチNW処理のS30でNOと判断し、S42でNOと判断し、S46でNOと判断する。このために、MFP10は、NFC通信を実行して、PSNW120のWSIを携帯端末50に送信する(S54)。携帯端末50は、PSNW120のWSIを利用して、PSNW120に参加する。携帯端末50は、AP60に印刷データを送信する。AP60は、印刷データをMFP10に転送する。MFP10は、AP60を介して、印刷データを携帯端末50から間接的に受信し、印刷データを印刷実行部18に供給する(S18)。


上記ア、イの記載並びに当業者の技術常識を考慮すると,「通信方法を切り替える際の切り替え先と切り替え元が通信可能距離が互いに異なるものを利用する。」ことは,周知技術であるといえる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,以下のことがいえる。

ア 引用発明の「無線対応ルータ装置」は,「無線通信装置」に相当する。また上記「第4 1.(1)」に摘記した段落【0022】によると,引用発明の「無線LANコントローラ」は,IEEE802.11g等の規格に準拠する無線アクセスポイントを実現し、無線LANコントローラは利用者端末と接続し通信を行うものであるから,「無線通信インターフェース」であるといえる。そして,該「無線通信インターフェース」を「第1の無線通信インターフェース」と称することは任意である。さらに,引用発明の「無線LANコントローラ制御部」は,「制御部」に含まれる。
したがって,引用発明の「無線対応ルータ装置は,無線LANコントローラと,無線LANコントローラ制御部と,を備え」る点は,本願発明と「無線通信装置であって,第1の無線通信インターフェースと,制御部と,を備え」る点で一致する。

イ 引用発明の「無線対応ルータ装置」は,利用者端末からの接続を受け付けるものであるから,親局であるといえ,IEEE802.11g等の規格において無線ネットワークを形成するものであるから,無線ネットワークの識別子として機能するネットワーク名であるSSID(Service Set Identifier)を有した無線ネットワークを形成し,形成された無線ネットワークは第1の無線通信インターフェースを介して利用者端末とデータの無線通信を行うものであるといえる。また,通信が行われる該データを「対象データ」と称することは任意である。さらに,上記無線ネットワークの形成を「形成部」と称する部位において行うことも任意であり,引用発明の「利用者端末」は「外部機器」に含まれる。
したがって,引用発明と本願発明は「無線通信装置が親局として動作する無線ネットワークを形成する形成部であって,無線ネットワークは,特定のSSIDを有し,第1の無線通信インターフェースを介した対象データの無線通信を外部機器と実行するためのネットワークであり,前記特定のSSIDは,前記無線ネットワークの識別子であり,前記SSIDはService Set Identifierの略である,形成部」を有する点で一致する。

ウ 「利用者端末」のうち,接続要求を行う利用者端末を「特定の利用者端末」と称することは任意であり,本願発明において無線通信装置と通信を行う装置を外部装置と称しているから,引用発明の「利用者端末」は「外部装置」といえ,接続要求を行う端末は「特定の外部機器」といえる。そして引用発明の利用者端末が行う「接続要求」は無線を介して行われるものであるから,「無線接続要求」であるといえる。
そうすると,引用発明の「利用者端末からの接続要求を受信する受信部」は,本願発明と「特定の外部機器から無線接続要求を受信する受信部」である点で一致する。

エ 引用発明の「利用者端末」は,親局である無線対応ルータ装置が形成する無線ネットワークに接続して利用されるものであるから,利用者端末は「特定のSSIDの無線ネットワークの子局として動作する外部機器である子局機器」であるといえる。そして,引用発明の「無線対応ルータ装置」の「無線LANコントローラ制御部」が備える最大同時接続数管理部は,最大同時接続数と接続中利用者格納部に記憶している情報の全レコード数が同じである状態で,利用者端末から接続要求を受信した場合,接続中端末格納部から切断される端末を選択し切断するものであるから,引用発明の「最大同時接続数」は「上限数K」であるといえ,引用発明の「切断される端末」は,「対象端末」といえる。そして、「全レコード数」と「最大同時接続数」が同じであった場合とは「外部機器である子局機器の数が上限数Kに一致する状態」であるといえ,「切断される端末」「の通信を切断する」ことは,無線ネットワークから端末を「離脱させる」ことに相当する。また,無線対応ルータ装置が特段の事情が無い限り親局としての動作を維持することは自明であり,上記離脱のための判断等を行う部位を「第1の切断部」と称することは任意である。
そうすると,引用発明と本願発明は「特定のSSIDの無線ネットワークの子局として動作する外部機器である子局機器の数が上限数Kに一致する状態で,特定の外部機器から無線接続要求が受信される場合に,特定のSSIDの無線ネットワークの親局としての動作を維持したまま,対象機器を含み特定の外部機器を含まないK個の子局機器のうちの対象機器との無線接続を切断して,対象機器を特定のSSIDの無線ネットワークから離脱させる第1の切断部」を有する点で一致するといえる。

オ 引用発明の「無線対応ルータ装置」は,「切断される端末」を切断した後,接続要求を行った利用者端末を接続するものであるから,「第1の無線通信インターフェースを介した無線接続を特定の外部機器と確立する」ものであり,「特定のSSIDの無線ネットワークに,特定の外部機器を子局機器として参加させる」ものといえる。そして,「無線対応ルータ装置」は,上記エにも述べたとおり,最大同時接続数と接続中利用者格納部に記憶している情報の全レコード数が同じである状態から,「切断される端末」を切断し,接続要求を行った利用者端末を無線ネットワークに接続するのであるから,接続要求を行った利用者端末が接続されている状態は最大同時接続数と同じ数の利用者端末が無線ネットワークに参加しているといえ,「対象機器を含まず特定の外部機器を含むK個の子局機器が存在する状態を構築」しているといえる。そして,接続要求を行った利用者端末を第1の無線通信インターフェースを介して無線接続を確立させる処理を行う部位を「第1の確立部」と称することは任意である。
したがって,引用発明と本願発明は「対象機器が特定のSSIDの無線ネットワークから離脱した後に,特定のSSIDの無線ネットワークの親局としての動作を維持したまま,第1の無線通信インターフェースを介した無線接続を特定の外部機器と確立して,特定のSSIDの無線ネットワークに,特定の外部機器を子局機器として参加させて,特定のSSIDの無線ネットワークに,対象機器を含まず特定の外部機器を含むK個の子局機器が存在する状態を構築する第1の確立部」を有する点で一致するといえる。

カ 引用発明の「無線対応ルータ装置」は,接続要求を行った利用者端末を接続した後,接続した無線ネットワークを利用して,何らかのデータの通信を無線通信によって実行することは当業者において自明であり,無線通信を実行する処理を行う部位を「第1の通信実行部」と称することは任意である。また,無線通信の対象となるデータを「第1の対象データ」と称することは任意であるから,引用発明と本願発明は「特定の外部機器が特定のSSIDの無線ネットワークに参加した後に,特定のSSIDの無線ネットワークを利用して,第1の無線通信インターフェースを介して,第1の対象データの無線通信を特定の外部機器と実行する第1の通信実行部」を有する点で一致する。

以上を総合すると,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。

(一致点)
「無線通信装置であって,
第1の無線通信インターフェースと,
制御部と,を備え,
無線通信装置が親局として動作する無線ネットワークを形成する形成部であって,前記無線ネットワークは,特定のSSIDを有し,前記第1の無線通信インターフェースを介した対象データの無線通信を外部機器と実行するためのネットワークであり,前記特定のSSIDは,前記無線ネットワークの識別子であり,前記SSIDはService Set Identifierの略である,前記形成部と,
特定の外部機器から無線接続要求を受信する受信部と,
前記特定のSSIDの前記無線ネットワークの子局として動作する外部機器である子局機器の数が上限数Kに一致する状態で,前記特定の外部機器から前記無線接続要求が受信される場合に,前記特定のSSIDの前記無線ネットワークの親局としての動作を維持したまま,対象機器を含み特定の外部機器を含まないK個の前記子局機器のうちの前記対象機器との無線接続を切断して,前記対象機器を前記特定のSSIDの前記無線ネットワークから離脱させる第1の切断部と,
前記対象機器が前記特定のSSIDの前記無線ネットワークから離脱した後に,前記特定のSSIDの前記無線ネットワークの親局としての動作を維持したまま,前記第1の無線通信インターフェースを介した無線接続を前記特定の外部機器と確立して,前記特定のSSIDの前記無線ネットワークに,前記特定の外部機器を前記子局機器として参加させて,前記特定のSSIDの前記無線ネットワークに,前記対象機器を含まず前記特定の外部機器を含むK個の前記子局機器が存在する状態を構築する第1の確立部と,
前記特定の外部機器が前記特定のSSIDの前記無線ネットワークに参加した後に,前記特定のSSIDの前記無線ネットワークを利用して,前記第1の無線通信インターフェースを介して,第1の対象データの無線通信を前記特定の外部機器と実行する第1の通信実行部と,
を備える,無線通信装置。」

(相違点1)
本願発明は,無線通信装置が「第1の対象データの無線通信が終了した後に、特定のSSIDの無線ネットワークの親局としての動作を維持したまま、対象機器を含まず特定の外部機器を含むK個の子局機器のうちの特定の外部機器との無線接続を切断して、特定の外部機器を特定のSSIDの無線ネットワークから離脱させる第2の切断部」との発明特定事項を備えるのに対し,引用発明では,当該発明特定事項を備えていない点。

(相違点2)
本願発明は,無線通信装置が「特定の外部機器が特定のSSIDの無線ネットワークから離脱した後に、特定のSSIDの無線ネットワークへの参加を促すための信号を対象機器に送信することによって、特定のSSIDの無線ネットワークの親局としての動作を維持したまま、第1の無線通信インターフェースを介した無線接続を対象機器と確立して、特定のSSIDの無線ネットワークに、対象機器を子局機器として再び参加させて、特定のSSIDの前記無線ネットワークに、対象機器を含み前記特定の外部機器を含まないK個の子局機器が存在する状態を構築する第2の確立部」との発明特定事項を備えるのに対し,引用発明では,当該発明特定事項を備えていない点。

(2)判断
相違点1,2について

上記「第4」2 アに述べたとおり,「無線通信において,接続要求を行ってきた装置が終了により切断した場合,接続待機中の装置が存在するかを確認し,接続待機中の装置が存在した場合,接続要求を待機中の装置に送信し,接続させる。」という技術的事項は,本願出願日前において公知の技術であったといえる。しかしながら,引用発明の「無線LAN対応ルータ」などの,無線LAN対応ルータ一般において,一旦,無線ネットワークから切断された利用者端末が,再度当該無線LAN対応ルータに接続する場合,利用者端末側から再接続を要求するものであり,無線LAN対応ルータ側から,利用者端末に再接続を促すことは一般的に考えられない。すなわち,無線LAN対応ルータが「無線ネットワークへの参加を促すための信号を」,一旦,無線ネットワークから切断された利用者端末に対し送信することは,想定されえない。してみれば,引用発明に前記公知の技術を適用する動機づけは存在しない。
したがって,相違点1,2は引用発明及び引用例3に記載された公知技術に基づき,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。また,その他の引用例に記載された技術的事項を考慮しても,相違点1,2に係る事項が当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
よって,本願発明1は,当業者であっても,引用発明,引用例3に記載された公知技術及びその他の引用例に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2-9について
本願発明2-9は,本願発明1をさらに限定したものであるから,上記1.(2)と同様の理由によって,引用発明,引用例3に記載された公知技術及びその他の引用例に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明10について
本願発明10は、本願発明1に対応するコンピュータプログラムの発明であり、本願発明1の上記相違点1,2に係る構成に対応する構成を備えるものである。よって,上記1.(2)と同様の理由によって,引用発明,引用例3に記載された公知技術及びその他の引用例に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
なお,本願発明10は、原査定の対象とはされていない。

第6 原査定について
上記「第2」のとおり、原査定は、本願発明1-10は、引用例1-6に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたというものであるが、上記「第5」のとおりであるから、本願発明1-10は、引用例1-6に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-20 
出願番号 特願2014-12494(P2014-12494)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 桑原 聡一  
特許庁審判長 岩間 直純
特許庁審判官 本郷 彰
井上 弘亘
発明の名称 無線通信装置  

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