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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1351950
審判番号 不服2017-7866  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-31 
確定日 2019-05-22 
事件の表示 特願2014-508524「リポソーム製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 1日国際公開、WO2012/149045、平成26年 8月 7日国内公表、特表2014-518620〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月25日(パリ条約による優先権主張 2011年4月26日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の主な経緯は以下のとおりである。
平成28年 3月 2日付け 拒絶理由通知書
平成28年 9月 1日 意見書・手続補正書
平成29年 1月26日付け 拒絶査定
平成29年 5月31日 審判請求書
平成30年 8月13日付け 拒絶理由通知書
平成30年11月12日 意見書・手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし23に係る発明は、平成30年11月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項1】 水性ビヒクルと、
リポソームであって、
(i)ジミリストイルホスファチジルコリン(「DMPC」)、
(ii)ジミリストイルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)またはジミリストイルトリメチルアンモニウムプロパン(「DMTAP」)、あるいはDMPGおよびDMTAPの両方、
(iii)少なくとも1種類のステロール、ならびに
(iv)インフルエンザA M2細胞外ドメインの少なくとも10の隣接した残基を含む第1のポリペプチド配列(その配列は、前記M2細胞外ドメインにおける天然起源の1つ以上のシステイン残基を除去するように修飾されている)と、インフルエンザA M2とは異種の天然起源の膜タンパク質の、またはこれに由来する、膜貫通配列を含み、インフルエンザA M2とは異種である第2のポリペプチド配列と、を含む抗原ポリペプチド、
を含むリポソームと、
を含む組成物であって、
前記第2のポリペプチド配列は脂質二重層を通過するのに十分な多数の残基を有し、そのうちの少なくとも9の隣接した残基は、0.7以上の疎水性スコアを有するαヘリックスを形成すると予測され、
前記第1のポリペプチド配列は、前記第2のポリペプチド配列のN末端またはC末端に直接または間接的に結合されて、水溶性融合ポリペプチドを提供し、前記融合ポリペプチドの前記第1のポリペプチド配列は、前記リポソームの外表面上に提示され、
1つ以上のシステイン残基が、対象となるシステイン残基(複数可)の別の残基への変異により、または対象となるシステイン残基(複数可)より前の細胞外ドメイン配列のトランケーションにより、インフルエンザA M2細胞外ドメイン配列から除去され、
前記第1のポリペプチド配列が、配列番号:13?15のいずれか1つに由来する少なくとも10の隣接した残基を含むか、または前記第1のポリペプチド配列が配列番号:16を含み、
前記第2のポリペプチド配列がチトクロムb5、ムチン-4β鎖、トランスフェリン受容体、TNFRSF13B、アミノペプチダーゼN、ジペプチジルペプチダーゼ4、腫瘍壊死因子シンタキシン3、BclXL、およびR9APからなる群より選択されるタンパク質の膜貫通配列を含む、
組成物。」(以下、この発明を「本願発明」という。)

第3 拒絶の理由
平成30年8月13日付けの当審が通知した拒絶の理由のうち理由1は、この出願の請求項1ないし25に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用例1.米国特許出願公開第2010/0226973号明細書
引用例2.Vaccine, 2006, Vol.24, pp.5158-5168.
引用例6.特表2007-513634号公報
引用例7.特表2006-519775号公報
引用例8.特表2002-526436号公報

第4 引用例の記載及び引用発明
1 引用例2
本願優先権主張の日前の2006年に頒布され、その著者に本願の発明者らが含まれる学術論文(引用例2、Vaccine, 2006, Vol.24, pp.5158-5168.)には以下の事項が記載されている。(引用例2は英語で記載されているので訳文で示す。また、下線は当審で付与した。)
(1) 表題の項
「リポソームマトリックス2エピトープワクチンによるH1、H5、H6及びH9インフルエンザA感染に対する防御」
(2) Abstract(要約)の項
「最近、ヒトに病気を引き起こす鳥インフルエンザAの幾つかのサブタイプ(H5N1、H9N2及びH7N7)が見つかり、これらのウイルス株の1つが新たなパンデミックを引き起こす恐れがあることから、インフルエンザAの幾つかのサブタイプに対し防御免疫応答を誘発する新しい技術的アプローチを開発する必要性が力説されている。この要求に応じ、H1N1、H5N1及びH9N2インフルエンザウイルス株のマトリックス2タンパク質の細胞外ドメインの一部分(M2eA)を、リポソーム用いた新規なワクチン技術で製剤化し、『万能』インフルエンザワクチンの抗原としての可能性を評価した。リポソームM2eAで免疫したマウスは、H1N1(100%生存)又はH9N2(80%生存)株による感染を生き延びた。H5N1株で感染が誘発されたマウスにおいても、肺におけるウイルス量の有意な減少がみられた。H1N1株及びH6N2株(・・・)のM2eAセグメントでワクチン接種されたマウスは、対応するM2eAエピトープに対するIgG ELISA抗体価の上昇を誘発し、これらの免疫化マウスから得た抗血清は、致死量のH6N2株に感染したナイーブマウスに対し受動免疫防御(100%生存)を示した。これらの結果は、複数のサブタイプに対する組換えM2eAエピトープが同族ウイルスの感染に対する免疫防御を誘発するという最初の証拠を提供し、M2eAに基づく『万能』インフルエンザワクチンの開発を支持するさらなる証拠を提供する。」(5158ページ)
(3) 「1. Introduction(序論)」の項
「この研究では、インフルエンザの様々なウイルス株に対する防御を提供するM2eAの可能性を、抗原を小さな単層リポソーム(直径100nm)の膜に効率的に組み込まれるように設計された我々が所有する疎水性タンパク質ドメイン(HD)と融合させる新規なワクチン技術プラットフォームを用いて評価した。」(5159ページ右欄4?10行)
(4) 「2. Materials and methods(材料と方法)」の項
ア 「2.2 Cloning and purification of influenza M2eA-HD protein(インフルエンザM2eA-HDタンパク質のクローニング及び精製)」
「ヌクレオチド配列は、M2eA1アミノ酸配列(MSLLTEVETPIRNEWGCRCNDSSD)、M2eA2アミノ酸配列(・・・)及びM2eA3アミノ酸配列(・・・)の最適化された大腸菌(Escherichia coli)コドン選択により得た。・・・各M2eA遺伝子を、HD遺伝子を含む同様に切断された発現プラスミド(例えば、pET28a)に連結した。最終的な遺伝子は、DNAの配列決定によって確認した。M2eA-HD遺伝子含有プラスミドを発現のために大腸菌BL21 pLysS株に形質転換した。・・・M2eA-HDタンパク質を、選択的ニッケル親和性(キアゲン社、・・・)及びHiTrap Qカラム(アマシャム社、・・・)を用いて95%以上の純度に精製した。」(5159ページ右欄49行?5160ページ左欄27行)
イ 「2.3. Liposome preparation(リポソーム調製物)」
「リポソームは、M2eAタンパク質の存在下又は不存在下(対照リポソーム)で、リン脂質、コレステロール及びモノホスホリルリピドA(MPL、シグマ社、・・・)をクロロホルム/メタノール(1:1、v/v)溶媒混合物中に溶解することにより調製した。」(5160ページ左欄34?38行)
(5) 「3. Results(結果)」の項
ア 「3.1. Construction of the liposomal M2eA-HD vaccines(リポソームM2eA-HDワクチンの構築)」
「各M2eAペプチドをコードする遺伝子を、我々が所有する疎水性ドメインをコードする遺伝子の上流にクローニングした。この組換え融合タンパク質は、リポソームの脂質二重層中に安定して含まれるように設計された。サイズ排除カラムクロマトグラフィーを用いて分析した含有率は95%以上であった。M2eA-HDリポソーム(L-M2eA-HD)のろ過前後サイズを動的光散乱で測定し、それは平均直径が約100nmであった。・・・L-M2eA1-HDの電子顕微鏡による解析でリポソームの単層性と粒径を確認し、サイズ分布が確かめられた(図1(B))。」(5162ページ左欄3?18行)
イ 「3.2. Induction of M2eA-specific antibody response in mice by liposomal M2eA-HD(マウスにおけるリポソームM2eA-HDによるM2eA特異的抗体応答の誘導)」
「M2eAセグメントに対する免疫応答を刺激するL-M2eA1-HDワクチンの能力を確立することを目的とした研究において、BALB/cマウス(一グループが5匹)に、MLPを含むM2eA1-HDのリポソーム、MLPを含まないM2eA1-HDのリポソーム、M2eA1-HDとMPLの混合物(すなわち、リポソームではない),合成M2eA1とMPLの混合物(すなわち、リポソームではなく、また、HDを含まない)、又はMLPを含む対照リポソーム(すなわち、M2eA1-HDを含まない)を、0日目に皮下に投与し、8週目に鼻腔内に投与して免疫した。最後のワクチン投与の1週間後に血清を採取し、M2eA1特異的抗体の力価を測定した。ELISAによる抗体滴定の結果、MLPを含むM2eA1-HDタンパク質のリポソームが、最大の免疫応答を誘発した(図2)。」(5162ページ右欄6?19行)
ウ 「3.6. Efficacy of liposomes with M2eA peptides homotypic for the putative pandemic strains H5N1 and H9N2(推定パンデミック株H5N1及びH9N2に対する同型M2eAペプチド含有リポソームの有効性)」
「・・・BALB/cマウスを15μg/1回量(0日目皮下、8週目鼻腔内)のL-M2eA1-HD又はL-M2eA3-HDで免疫し、ブースト[審決注:8週目の鼻腔内投与のこと]の約2週間後に10 LD_(50)のPR/8/34(H1N1)株又は1 LD_(50)のHK/1073/99(H9N2)株を投与してウイルス感染を誘発した。対照として、対照リポソームで処置したマウス(2グループ)に、上記2つのウイルス株のうちのいずれかを投与して感染を誘発した。マウスの免疫応答を、生存率(%)で評価した。L-M2eA1-HDで免疫し、続いてPR/8/34株を感染させたマウスは、すべてのマウスが感染により死亡した対照リポソームとは対照的に、100%生存を示した(図7(A))。・・・」(5165ページ左欄20?31行)
(6) 「4. Discussion(考察)」の項
「結論として、この研究では、特異的な抗原エピトープを発現する組換えタンパク質と単層リポソーム担体を組み合わせたインフルエンザに対する免疫付与の新しい方法を評価した。タンパク質の抗原性M2eA成分と水に溶解する疎水性タンパク質ドメインとの融合は、商業的に実行可能な調製手順によりその単離及び精製を可能とし、M2eA-HD抗原の脂質二重層膜への効率的な統合を促進する。この論文では、リポソームM2eAワクチンがマウスにおいて強力な保護応答を刺激することが示された。」(5167ページ右欄11?20行)

2 引用例1
本願優先権主張の日前の2010年に頒布された引用例1(米国特許出願公開第2010/0226973号明細書)には以下の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているので訳文で示す。また、下線は当審で付与した。)
「特許請求の範囲
1.一つ以上の免疫原性ポリペプチド又は炭水化物を含む組成物であって、
a)水性ビヒクル、b)リポソームであって、(i)ジミリストイルホスファチジルコリン(「DMPC」)、(ii)ジミリストイルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)、及びジミリストイルトリメチルアンモニウムプロパン(「DMTAP」)からなる群より選択される1種以上の脂質、(iii)少なくとも1種のステロール誘導体、ここで、(i)は50?98%、(ii)は1?25%、(iii)は1?25%である、及び、c)前記少なくとも1種のステロール誘導体の1?100%と共有結合した前記一つ以上の免疫原性ポリペプチド又は炭水化物、を含む組成物。」

3 引用例7
本願優先権主張の日前の2006年に頒布された引用例7(特表2006-519775号)には以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与。)
(1) 特許請求の範囲
「【請求項1】 A型インフルエンザウイルスのM2タンパク質の細胞外ドメイン由来のアミノ酸配列を有するペプチドを複数含有し、前記複数のペプチドがキャリアタンパク質の表面に共有結合されており、前記結合の各々が、ペプチドの一方の末端と前記タンパク質の表面にある反応部位との間にあり、前記キャリアタンパク質が、ナイセリア・メニンジティディス(Neiserria meningitidis)の外膜タンパク質複合体、・・・からなる群から選択される、M2ペプチド-タンパク質連結物又は医薬適合性のその塩。」
(2) 発明の詳細な説明
ア 「本発明は、A型インフルエンザウイルスのM2タンパク質の細胞外エピトープを含有する複数のペプチドがキャリアタンパク質表面のアミノ酸に連結している、インフルエンザワクチンを提供する。・・・本発明はまた、疾患に対する長期間にわたる防御効果を患者に対して付与し、A型インフルエンザウイルスの感染により起こった症状を軽減する、患者へのワクチン接種方法も提供する。
ペプチド
A型インフルエンザウイルスのM2タンパク質細胞外部分は通常、そのタンパク質の24個のN末端アミノ酸として認識される。ワクチンにおいて用いるペプチドは、この24アミノ酸配列中から選択されるアミノ酸配列を有する。そのペプチドの特定の配列は、その24個全てのアミノ酸配列又は少なくとも7アミノ酸を有し、抗原エピトープを含むその一部であり得る。
注目すべきは、インフルエンザM2タンパク質の最初のアミノ酸がメチオニンであるという点である。本発明のあらゆる実施形態において、終末メチオニンの存在は任意である。
・・・
本ペプチドのアミノ酸配列に、M2タンパク質の位置17又は位置19のシステインが含まれる実施形態において、好ましくは、このシステインをセリンに置換し得る。使用する連結技術に依存して、システインの反応性により、このペプチドの付加末端システインではなく、内部のシステインにおいて、このペプチドの多量体形成、ペプチドとペプチドとの連結又はキャリアタンパク質へのペプチドの連結が起こる可能性があるため、システインをセリンに置換することは有用である。これらの副反応の結果、この連結物に対するペプチド負荷率が低くなる。」(段落【0034】?【0040】)
イ 「キャリアタンパク質
本明細書中で使用する場合、キャリアタンパク質は、本ペプチドが連結する免疫原性タンパク質を意味する。本分野で様々なキャリアタンパク質が知られており、多糖類-タンパク質連結ワクチンにおいて使用されている。本発明のワクチンにおいて、これら及び他の免疫原性タンパク質も使用することができる。好ましいキャリアタンパク質は、ナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidis、髄膜炎菌)の外膜タンパク質複合体(OMPC)、・・・である。」(段落【0048】
ウ 実施例1
「ペプチドの調製
本分野で一般的に実施されている固相化学合成法により、M2タンパク質配列部分を提示し、C末端又はN末端反応性ブロモアセチル又はマレイミド基を含有する合成ペプチドが生産された。
例えば、C末端ブロモアセチル化M2 15mer、CT-BrAcM2-15mer・・・を、APPLIED BIOSYSTEMS 430Aペプチドシンセサイザー(・・・)で、保護レジン結合ペプチドとして合成した。・・・
・・・
同様にして、他のC末端ブロモアセチル化ペプチドの合成を行うことができる。例えば、次のように、APPLIED BIOSYSTEMS 430Aペプチドシンセサイザー(・・・)で、保護レジン結合ペプチドとしてC末端ブロモアセチル化M2 23merペプチド、CT BrAc-M2-23mer、Ac-Ser-Leu-Leu-Thr-Glu-Val-Glu-Thr-Pro-Ile-Arg-Asn-Glu-Trp-Gly-Ser-Arg-Ser-Asn-Asp-Ser-Ser-Asp-Aha-Lys(N^(ε)-BrAc)-NH_(2) TFA塩、(配列番号39)を合成した。」(段落【0089】?【0095】)
エ 実施例11
「哺乳類に対するワクチンの投与
マウス感染モデルにおける、M2ペプチド連結ワクチンの免疫原性及び防御
M2ペプチド特異的抗体反応の誘導能及びマウスにおける致死性インフルエンザウイルス感染処理に対する防御力付与能について、4種類の様々なM2ペプチド連結物を評価した。試験連結物を次の表に示す。

実施例10で述べたように、全てMERCK ALUMを用いて全ての連結物を処方した。筋肉内注射により、1群あたり10匹のメスBalb/cマウスからなる各動物群に連結物を100μl免疫接種し、3週間後に同じ連結物で一度免疫促進を行った。3種類の様々な投与量、すなわち0.01μg、0.1μg及び1μg(ペプチド含量に基づく)で、動物において各連結物を試験した。・・・
同じスケジュールにより、MERCK ALUM中に処方した非連結OMPCで対照動物を免疫した。第2週(投与1の後)及び第6週(投与2の後)に、血液試料を回収した。免疫促進から4週間後に、LD90(90%が致死となる投与量)のマウス馴化A/Hong Kong/68リアソータント(A/HK/68由来のHA遺伝子及びA/PR/8/34由来のM2遺伝子)(H2N2)(本明細書中で、「A/HK/68リアソータント」と呼ぶ。)を用いて、動物の鼻腔内に感染処理を行った。感染処理後、全部で20日間、マウスの体重減少及び死亡状況を毎日モニタリングした。
検出抗原として非改変23アミノ酸 M2ペプチドを用いて、酵素結合免疫吸着アッセイ(Elisa)により、M2特異的抗体タイターを調べた。非投薬群及びOMPC群の両対照群では、抗M2抗体タイターは全く検出されなかった。連結物ワクチン接種群の結果を図9に示した。PD1及びPD2の両試料において、全ワクチン群で明らかな用量効果が観察されたことから、本ワクチンが適切な用量範囲で試験されていることが示された。全連結物が顕著なM2特異的抗体反応を誘発し得た。・・・様々なワクチンの中で、CT NBrAc23mer(SRS)-OMPCが最も高いタイターを誘導し、一方、CT15mer-ma-OMPCのタイターが最低であった。
致死性のウイルス感染処理後、対照群は、予想通り90%から100%の死亡率が示された。一方、投与量が1μgのワクチン群では、全ての群で、80%から100%の生存率が示された。これにより、試験したワクチンが死亡を防ぐ効果を与え得ることが確証された。・・・図11は、CT BrAc-15mer-OMPCとCT Br-Ac-23mer(SRS)-OMPCとの比較を示す。この場合、死亡率に関して、この2種類の連結物間で明確な差はない。しかし、CT BrAc-23mer(SRS)-OMPCを投与された群では、CT BrAc-15mer-OMPCを投与された群よりも体重減少が全般的に少なく、この結果から、前者の防御力がより強い可能性が考えられ得る。・・・この実験において、全てのM2ペプチド連結物は、致死性のウイルス感染処理に対して防御力があり、チオール化OMPCに対してC末端を介して連結しているM2 23mer(SRS)が最も効果的なワクチンであると思われる。」(段落【0157】?【0162】)

4 引用例8
本願優先権主張の日前の2002年に頒布された引用例8(特表2002-526436号)には以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与。)
(1) 特許請求の範囲
「【請求項1】 免疫原性リポソーム組成物であって、
小胞形成脂質と、
1つ以上の抗原決定基および疎水性ドメインを含む抗原構成物とを含み、疎水性ドメインが前記リポソーム組成物の膜に結合していることを特徴とする免疫原性リポソーム組成物。」
(2) 発明の詳細な説明
ア 「本明細書中で用いる『疎水性ドメイン(HD)』という用語は、5002より大きな表面積を有する疎水性の領域または構造を有する任意のタンパク質、ペプチド、脂質または分子を意味する。HDの例としては、任意の膜貫通(TM)セグメント(たとえば、・・・チトクロームb_(5)の疎水性ドメイン(テイラー(Taylor)とローズマン(Roseman)、1995年[審決注:1996年の誤記と認められる。]、BBA 第1278巻35頁)、・・・)が含まれる。」(段落【0022】)
イ 「特に好ましいリポソームHSV2gD(1-23)-TM製剤は、DMPC:Chol:DMPG(ジミリストイルホスファチジルコリン:コレステロール:ジミリストイルホスファチジルグリセロール)のモル比が15:2:3であり、2.5重量%の脂質Aを含む。」(段落【0035】)

5 引用発明
引用例2に記載されたM2eA1-HDリポソーム(L-M2eA1-HD)は平均直径が約100nmの球状である(前記1(5)ア)ところ、リポソームを形成しないM2eA1-HDや単なる合成M2eA1と比較して、M2eA1-HDリポソームでは最大の免疫応答を示した(前記1(5)イ)ということから、M2eA1-HDリポソームにおいては、抗原ペプチドであるM2eA1は当該リポソームの外表面上に提示されているものと認められる。また、引用例2には、そこに記載された疎水性タンパク質ドメイン(HD)は水に溶解する(前記1(6))ものであることから、このHDと融合したマトリックス2タンパク質の細胞外ドメインの一部分(M2eA)も水溶性融合ポリペプチドであると認められる。そうしてみると、前記1に摘記した引用例2の記載より、引用例2には、「リポソームであって、リン脂質、コレステロール、モノホスホリルリピドA、及び、疎水性タンパク質ドメイン(HD)遺伝子を含む発現プラスミド(pET28a)に連結されたM2eA1遺伝子含有プラスミドの発現によって得たM2eA1-HDタンパク質を含むリポソームを含む組成物であって、前記M2eA1は前記HDに結合されて水溶性融合ポリペプチドを提供し、前記融合ポリペプチドの前記M2eA1は、前記リポソームの外表面上に提示され、前記M2eA1のアミノ酸配列がMSLLTEVETPIRNEWGCRCNDSSDである、組成物。」についての発明(以下、組成物を「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

第5 対比・判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比する。引用発明におけるM2eAは、インフルエンザAウイルスのマトリックス2タンパク質の細胞外ドメインの一部分である(前記第4の1(2))。また、本願明細書の段落【0020】には、配列番号:16で示されるアミノ酸配列は「SLLTEVETPIRNEWGSRSNDSSD」であることが、段落【0024】には、「リポソームはまた、当技術分野でよく知られた1つ以上の追加の構成成分、例えば・・・モノホスホリルリピドA・・・を含むことができる。」と記載されている。そうしてみると、両者は、「水性ビヒクルと、リポソームであって、リン脂質、コレステロール、モノホスホリルリピドA、及び、インフルエンザAウイルスのマトリックス2タンパク質(M2)の細胞外ドメインの一部分である第1のポリペプチド配列と、第2のポリペプチド配列を含む抗原ポリペプチドを含むリポソームとを含む組成物であって、前記第1のポリペプチド配列は、前記第2のポリペプチド配列に結合されて、水溶性融合ポリペプチドを提供し、前記融合ポリペプチドの前記第1のポリペプチド配列は、前記リポソームの外表面上に提示された、組成物。」である点において一致し、
リポソームを構成するリン脂質が、本願発明では、(i)ジミリストイルホスファチジルコリン(「DMPC」)、(ii)ジミリストイルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)又はジミリストイルトリメチルアンモニウムプロパン(「DMTAP」)、あるいはDMPG及びDMTAPの両方と特定されているのに対し、引用発明では、リポソームを構成するリン脂質は具体的に記載されておらず(相違点A)、第1のポリペプチド配列が、本願発明では、配列番号:16(SLLTEVETPIRNEWGSRSNDSSD)を含むものであり、M2細胞外ドメインにおける天然起源の1つ以上のシステイン残基を除去するように修飾されているのに対し、引用発明では、MSLLTEVETPIRNEWGCRCNDSSDであり(相違点B)、第2のポリペプチド配列は、本願発明では、チトクロムb5、ムチン-4β鎖、トランスフェリン受容体、TNFRSF13B、アミノペプチダーゼN、ジペプチジルペプチダーゼ4、腫瘍壊死因子シンタキシン3、BclXL、およびR9APからなる群より選択されるタンパク質の膜貫通配列を含み、当該ポリペプチド配列は、脂質二重層を通過するのに十分な多数の残基を有し、そのうちの少なくとも9の隣接した残基は、0.7以上の疎水性スコアを有するαヘリックスを形成すると予測されるのに対し、引用発明では、疎水性タンパク質ドメイン(HD)である点(相違点C)において相違する。

(2) 判断
ア 相違点A
本願発明において特定された「ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)」及び「ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)」はリポソームを構成するリン脂質として通常の成分である。(必要であれば、前記第4の2及び前記第4の4(2)イを参照。)そうしてみると、引用発明において、リン脂質にDMPC及びDMPGを使用したリポソームを用いることは当業者であれば格別の創意を要する事項とは認められない。

イ 相違点B
引用例7には、インフルエンザウイルスに対するワクチンとして、インフルエンザA型ウイルスのM2タンパク質の細胞外ドメイン由来のアミノ酸配列を有するペプチドと髄膜炎菌の外膜タンパク質複合体(OMPC)のM2ペプチド-タンパク質連結物が記載されており、当該M2ペプチド中の2つのシステインをセリンに置換したもの(「CT Br-Ac-23mer(SRS)-OMPC」)が記載されている(前記第4の3(2)エ)。このように、インフルエンザA型ウイルスのM2タンパク質の細胞外ドメインをインフルエンザウイルスに対するワクチンの免疫原として使用する場合に、そこに含まれるシステイン残基について、別の残基への変異により当該細胞外ドメイン配列から除去することは、本願の優先日前に公知であったと認められるところ、引用例7の実施例11には、「PD1[審決注:第2週に回収した血液試料]及びPD2[審決注:第6週に回収した血液試料]の両試料において、全ワクチン群で明らかな用量効果が観察されたことから、本ワクチンが適切な用量範囲で試験されていることが示された。全連結物が顕著なM2特異的抗体反応を誘発し得た。」と記載されており(前記第4の3(2)エ)、このようなシステインの除去により、M2タンパク質細胞外ドメインの免疫原性には大きな変化を与えないことが示されている。
そうしてみると、リポソームに組み込まれたM2eAとHDの融合物がインフルエンザウイルスに対するワクチンとして有効であること記載する引用発明に接した当業者であれば、そのM2eAについて、引用例7に示されている、M2タンパク質細胞外ドメインにおけるシステイン残基を別の残基に置換し当該ドメインから除去したものであって、SLLTEVETPIRNEWGSRSNDSSD(配列番号:39)のアミノ酸配列を有するポリペプチドを使用することに、格別の創意は認められない。

ウ 相違点C
本願明細書の実施例1、「インフルエンザAウイルス材料および方法」の項には、「IAVM2e1-HD pET28aプラスミド設計は以前に記載されている[Ernst et al., 2006]。」と記載されている(段落【0130】)ところ、この「Ernst et al., 2006」は段落【0179】の「参考文献」の項によれば、引用例2のことである。そして、引用例2の「2.2. インフルエンザM2eA-HDタンパク質のクローニング及び精製」の項には、pET28aプラスミドが当該HD遺伝子を含むものとして記載されている(前記第4の1(4)ア)ことから、引用発明におけるHDと本願の実施例に記載されたHDは同じポリペプチドと認められる。そうしてみると、当該HDは、本願発明において特定された「チトクロムb5、ムチン-4β鎖、トランスフェリン受容体、TNFRSF13B、アミノペプチダーゼN、ジペプチジルペプチダーゼ4、腫瘍壊死因子シンタキシン3、BclXL、およびR9APからなる群より選択されるタンパク質の膜貫通配列を含む」ものであって、「脂質二重層を通過するのに十分な多数の残基を有し、そのうちの少なくとも9の隣接した残基は、0.7以上の疎水性スコアを有するαヘリックスを形成すると予測され」るものと認められる。したがって、相違点3を本願発明と引用発明の相違点ということはできない。
また、仮に、本願の実施例に記載されたHDと引用発明のHDが相違するとしても、引用例8には、本願発明や引用発明と同様の、小胞形成脂質と、1つ以上の抗原決定基及び疎水性ドメインを含む抗原構成物とを含み、疎水性ドメインがリポソーム組成物の膜に結合している免疫原性リポソーム組成物についての発明(請求項1)が記載されているところ、疎水性ドメインの例として、チトクロームb5が記載されている(前記第4の4(2)ア)。そうしてみると、引用発明における疎水性タンパク質ドメインとして、チトクロームb5に由来する膜貫通配列を採用することは、当業者であれば格別の創意を要するものとは認められない。そして、チトクロームb5に由来する膜貫通配列は、本願発明の第2のポリペプチド配列であることから、当該ポリペプチドの少なくとも9の隣接した残基は、0.7以上の疎水性スコアを有するαヘリックスを形成すると予測されるものと認められ、前記相違点Cは、当業者が容易に想到可能なものである。

エ 本願発明の効果について
本願の明細書には、「第1の研究では、BALB/cマウスを、材料および方法セクションにおいて記載されるように、オリジナルL-LDR-IAVM2e1-HD(pET28a)、・・・およびL-IAVM2e1(C16S、C18S)-HDで免疫化した。この実験では、・・・二重突然変異体IAVM2e1(C16S、C18S)タンパク質をオリジナルIAVM2e1タンパク質と比較した。15μgのオリジナル製剤(pET28a由来)・・・で免疫化したマウスは72%生存の良好な免疫防御応答を示した。・・・L-対照を受け、その後誘発されたマウスはすべて、9日までに死亡した(図7A[審決注:明細書にはこのような図面は添付されていない。])。・・・5μg、15μgまたは30μgのL-IAVM2e1(C16S、C18S)-HDで免疫化したマウスのうち、30μg用量を受けたマウスのみが、対照とは著しい違いを示した(p=0.006、86%生存)。5μgまたは15μgのL-IAVM2e1(C16S、C18S)-HDを受けたマウスは、それぞれ57%および42%生存しか示さなかった(図8A[審決注:同前])。マウスはまた、体重減少および疾患の徴候に対して評価したが、これらはパーセント生存と相関した。」(段落【0175】)と記載されており、これは、15μgの引用発明に相当する組成物でマウスを免疫化し、その後、10 LD50のIAV(H1N1(A/PR/8/34))を投与した(段落【0152】)場合のマウスの生存率が、72%であるのに対して、本願発明に相当する組成物であって前記アないしウにおいて容易に想到可能な発明であるとしたL-IAVM2e1(C16S、C18S)-HDを15μg使用して免疫化した場合の生存率が42%であったというものである。そうしてみると、本願発明が引用発明と比較して顕著な効果を有するということはできない。

オ 請求人の主張について
審判請求人は、引用例1の[0155]に「・・・only MPR-reactive antibodies of the appropriate confirmation would be boosted, minimizing antibodies directed against irrelevant MPR structures.」と記載されており、一般的な技術常識として、抗体作成のためのポリペプチドについて、天然の多量体構造を保っていることが望ましいと考えられていると主張する。引用例1の上記記述は、請求人がいう一般的な技術常識とは関係しないものであるが、仮に、抗体作成のためのポリペプチドは天然の多量体構造を保っていることが望ましいという一般論があるとしても、引用例7には、インフルエンザA型ウイルスのM2タンパク質の位置17及び位置19のシステインをセリンに置換したものが連結されたワクチンである「CT Br-Ac-23mer(SRS)-OMPC」が、「顕著なM2特異的抗体反応を誘発し」、「試験したワクチンが死亡を防ぐ効果を与え得る」ことが記載されており(前記第4の3(2))、インフルエンザA型ウイルスのM2タンパク質の細胞外ドメインの場合、天然の多量体構造を保たなくとも、抗体が産生され、ワクチンとしてインフルエンザウイルス感染を防御できたことが示されている。そして、上記23merのアミノ酸配列は、本願発明において特定された第1のポリペプチド配列であって、配列番号:16で示されるアミノ酸配列と同じものである。そうしてみると、請求人の上記主張により、本願発明が進歩性を有するということはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例2に記載された発明及び引用例1、引用例7並びに引用例8に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-12-17 
結審通知日 2018-12-18 
審決日 2019-01-07 
出願番号 特願2014-508524(P2014-508524)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福間 信子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 大宅 郁治
山中 隆幸
発明の名称 リポソーム製剤  
代理人 高岡 亮一  

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