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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1351992 |
審判番号 | 不服2017-18549 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-12-13 |
確定日 | 2019-05-23 |
事件の表示 | 特願2016-236868「偏光子,および偏光フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月28日出願公開,特開2017-173793〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2016-236868号(以下「本件出願」という。)は,平成28年12月6日(優先権主張 平成28年3月22日)を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯は,概略,以下のとおりである。 平成29年 2月27日付け:拒絶理由通知書 平成29年 7月 6日付け:意見書 平成29年 7月 6日付け:手続補足書 平成29年 9月29日付け:拒絶査定 平成29年12月13日付け:審判請求書 平成29年12月13日付け:手続補正書 平成30年10月15日付け:拒絶理由通知書 平成30年12月13日付け:意見書 平成30年12月13日付け:手続補正書 (この手続補正書を,以下「本件手続補正書」という。) 2 本願発明 本件出願の請求項1?請求項7に係る発明は,本件手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項7に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,その請求項1及び請求項2に係る発明は,それぞれ,以下のものである。 請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。): 「 ポリビニルアルコール系樹脂中に二色性色素が配向された偏光子であって, 前記偏光子の厚みは,10μm以下であり, 前記偏光子の透過軸方向に測定位置を5mm間隔で変化させて前記偏光子の厚みを測定し,求められた前記偏光子の厚み分布について, 前記偏光子の透過軸方向において,厚み分布の最大振幅が,0.4μm以下であり, 前記偏光子の透過軸方向において,前記厚み分布から高速フーリエ変換を用いて算出された厚み分布の周期強度が,0.13μm以下であることを特徴とする偏光子。」 請求項2に係る発明(以下「本願発明2」という。): 「 ポリビニルアルコール系樹脂中に二色性色素が配向された偏光子であって, 前記偏光子の厚みは,10μm以下であり, 前記偏光子の透過軸方向において,厚み分布の周期強度が,0.13μm以下であることを特徴とする偏光子。」 3 当合議体の拒絶の理由 平成30年10月15日付け拒絶理由通知書によって当合議体が通知した拒絶の理由(以下「当合議体の拒絶の理由」という。)は,概略,本件出願の請求項1?請求項7に係る発明は,その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献1:特開2016-28875号公報 第2 当合議体の判断 1 引用文献1の記載及び引用発明 (1) 引用文献1の記載 当合議体の拒絶の理由において引用され,本件優先日前である平成28年3月3日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(特開2016-28875号公報)には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 樹脂基材を該樹脂基材のガラス転移温度(Tg)-15℃以上に加熱する工程と, 前記樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成する工程と をこの順で含む,積層体の製造方法。 …(省略)… 【請求項9】 前記加熱工程をテンターにて前記樹脂基材を搬送しながら行う,請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。 …(省略)… 【請求項14】 請求項1から13のいずれかに記載の製造方法により得られた積層体を用いる,偏光膜の製造方法。 …(省略)… 【請求項17】 樹脂基材と,該樹脂基材上に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する延伸積層体であって, 前記ポリビニルアルコール系樹脂層の200mm(MD)×200mm(TD)のサイズ内における膜厚ムラが0.25μm以下であり,かつ前記ポリビニルアルコール系樹脂層の200mm(MD)×200mm(TD)のサイズ内における遅相軸ムラが0.50°以下である,延伸積層体。 …(省略)… 【請求項22】 長尺状の樹脂基材がロール状に巻き取られた樹脂基材ロールから該樹脂基材を巻き出す巻出し手段と, 前記長尺状の樹脂基材の両端部を把持して搬送するテンターを備え,前記テンターのクリップで両端部を把持された前記樹脂基材に対し,該樹脂基材のガラス転移温度(Tg)-15℃以上に加熱する加熱手段と, 加熱された樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布液を塗布する塗布手段と, を備える,積層体の製造装置。 【請求項23】 前記テンターにて前記樹脂基材を搬送しながら加熱する,請求項22に記載の製造装置。」 イ 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,積層体の製造方法に関する。具体的には,樹脂基材とこの樹脂基材上に形成されたポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 樹脂基材上にPVA系樹脂層を塗布形成し,この積層体を延伸,染色することにより偏光膜を得る方法が提案されている(例えば,特許文献1,特許文献2)。このような方法によれば,厚みの薄い偏光膜が得られるため,例えば,画像表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。しかし,この場合,得られる偏光膜の性能(具体的には,膜厚,光学特性,外観)にムラが発生しやすいという問題がある。 …(省略)… 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり,その主たる目的は,性能が均一化された偏光膜を製造させ得る積層体を提供することにある。」 ウ 「【発明の効果】 【0006】 本発明によれば,樹脂基材に所定の温度以上の加熱処理を施すことにより,樹脂基材の表面凹凸(例えば,樹脂基材を巻き取った際に発生するゲージバンド)を緩和(均一化)することができる。その結果,樹脂基材上に厚みの均一性に優れたPVA系樹脂層を形成することができる。このような厚みの均一性に優れたPVA系樹脂層に各種処理を施すことで,性能(具体的には,膜厚,光学特性,外観)にムラが発生することなく,均一性に極めて優れた偏光膜(例えば,液晶テレビに求められる品質を十分に満足する)を製造することができる。 …(省略)… 【発明を実施するための形態】 【0008】 以下,本発明の好ましい実施形態について説明するが,本発明はこれらの実施形態には限定されない。 【0009】 A.積層体 図1は,本発明の1つの実施形態による積層体の概略断面図である。積層体10は,樹脂基材11上にポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層12を形成することにより得られる。」 (当合議体注:図1は以下の図である。) エ 「【0010】 A-1.樹脂基材 上記樹脂基材は,代表的には,長尺状とされている。樹脂基材の厚みは,好ましくは20μm?300μm,さらに好ましくは50μm?200μmである。 …(省略)… 【0014】 樹脂基材表面には,表面改質処理(例えば,コロナ処理等)が施されていてもよいし,易接着層が形成されていてもよい。 …(省略)… 【0015】 1つの実施形態においては,後述の加熱処理の前に樹脂基材を延伸する。 …(省略)… 【0018】 樹脂基材の延伸倍率は,樹脂基材の元長に対して,好ましくは1.5倍以上である。このような範囲とすることにより,後述の部分的な膜厚ムラが良好に抑制され得る。一方,樹脂基材の延伸倍率は,樹脂基材の元長に対して,好ましくは3.0倍以下である。このような範囲とすることにより,後述の加熱工程においてシワの発生が良好に抑制され得る。 【0019】 A-2.巻取りおよび保管 1つの実施形態においては,上記長尺状の樹脂基材をロール状に巻き取る。…(省略)…巻き取った樹脂基材(樹脂基材ロール)は,次の工程に供されるまでの任意の適切な期間,巻き取った状態のまま保管(放置)され得る。…(省略)…この保管期間が長くなると(例えば,3日以上),凹凸の発生(凹凸の度合い・凹凸の発生数)が顕著となって,得られるPVA系樹脂層(積層体)に膜厚ムラが発生する傾向にある。 …(省略)… 【0020】 A-3.加熱 上記樹脂基材を加熱する。具体的には,熱風,赤外線ヒーター,ロールヒーター等により樹脂基材を加熱する。加熱温度は,樹脂基材のガラス転移温度(Tg)-15℃以上であり,好ましくはTg-10℃以上,さらに好ましくはTg-5℃以上である。樹脂基材の形成材料としてポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いる場合,加熱温度は,好ましくは68℃以上である。このような温度で樹脂基材を加熱することにより,樹脂基材の表面凹凸を緩和(均一化)することができる。その結果,後述するPVA系樹脂層を良好に形成することができ,厚みの均一性に優れたPVA系樹脂層を形成することができる。一方,加熱温度は,好ましくは(Tg)+15℃以下,さらに好ましくはTg+10℃以下である。樹脂基材の形成材料としてポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いる場合,加熱温度は,好ましくは80℃以下である。このような温度で樹脂基材を加熱することにより,シワ(熱シワ)の発生を良好に抑制することができる。 …(省略)… 【0022】 樹脂基材は,加熱により収縮し得る。例えば,加熱前に樹脂基材を幅方向に延伸した場合,加熱により樹脂基材は幅方向に収縮(TD収縮)し得る。樹脂基材の収縮率(TD収縮率)は,好ましくは3%以下,さらに好ましくは2%以下,特に好ましくは1.5%以下である。このような範囲であれば,シワの発生が抑制され,優れた外観を得ることができる。なお,TD収縮率は下記式により算出される。 TD収縮率(%)={1-(加熱後の樹脂基材幅(W_(1))/加熱前の樹脂基材幅(W_(0)))}×100 【0023】 1つの実施形態においては,樹脂基材を搬送しながら加熱する。上述のように,樹脂基材をロール状に巻き取った場合は,樹脂基材ロールから巻き出した樹脂基材に加熱処理を施すことが好ましい。加熱方法としては,例えば,加熱炉内に設置された搬送ロールで樹脂基材を搬送する方法,テンターにて樹脂基材を搬送しながら加熱する方法が挙げられる。前者によれば,設備の大型化を抑制することができる。後者によれば,シワの発生を極めて良好に抑制することができる。 …(省略)… 【0026】 テンターを用いる場合の具体例を図3に示す。図示例では,テンターの左右のクリップ21,21で樹脂基材11の両端部(搬送方向と直交する線上にある)をそれぞれ把持し,その長手方向に所定の速度で加熱ゾーンを搬送させることで,樹脂基材11を加熱している。搬送方向のクリップ間距離(隣接するクリップ端同士の距離)は,好ましくは20mm以下,さらに好ましくは10mm以下である。クリップ幅は,好ましくは20mm以上,さらに好ましくは30mm以上である。本実施形態においては,樹脂基材のTD収縮は,例えば,左右のクリップ間距離を調整することにより制御することができる。具体的には,左右のクリップ間距離を変化させずに移動させた場合,TD収縮率は実質的に0%となる。逆に,左右のクリップ間距離を広げることにより樹脂基材はTD延伸され得る。樹脂基材のTD変化率は,好ましくは1.00倍以上,さらに好ましくは1.00倍?1.10倍である。なお,TD変化率は下記式により算出される。 TD変化率(倍)=加熱後の樹脂基材幅(W_(1))/加熱前の樹脂基材幅(W_(0))」 (当合議体注:図3は以下の図である。) オ 「【0027】 A-4.PVA系樹脂層の形成 上記PVA系樹脂層を形成するPVA系樹脂としては,任意の適切な樹脂が採用され得る。 …(省略)… 【0029】 PVA系樹脂層は,好ましくは,樹脂基材上にPVA系樹脂を含む塗布液を塗布し,乾燥することにより形成される。 …(省略)… 【0031】 塗布液の塗布方法としては,任意の適切な方法を採用することができる。 …(省略)… 【0032】 1つの実施形態においては,ダイコート法が採用される。ダイコート法では,樹脂基材とダイ(例えば,ファウンテンダイ,スロットダイ)との間隙を一定にして塗布液を塗布するので,厚みの均一性に極めて優れた塗布膜が得られ得る。一方で,樹脂基材に凹凸が発生している場合,樹脂基材-ダイリップ間距離が均一とならず,均一な塗布膜を形成するのが困難となり得る。したがって,ダイコート法を採用する場合,上記加熱処理による効果が顕著に得られ得る。 …(省略)… 【0036】 A-5.その他 1つの実施形態においては,上記樹脂基材ロールからの樹脂基材の巻出し(巻出し工程)と,樹脂基材の加熱(加熱工程)と,PVA系樹脂層の形成(PVA系樹脂層形成工程)とを連続して行う。このような実施形態によれば,上記加熱処理による効果を良好に得ることができる。 …(省略)… 【0038】 C.偏光膜 本発明の偏光膜は,上記積層体のPVA系樹脂層を偏光膜とするための処理を施すことにより作製される。 【0039】 上記偏光膜とするための処理としては,例えば,染色処理,延伸処理,不溶化処理,架橋処理,洗浄処理,乾燥処理が挙げられる。 …(省略)… 【0040】 (染色処理) 上記染色処理は,代表的には,PVA系樹脂層を二色性物質で染色することにより行う。 …(省略)… 【0043】 (延伸処理) 積層体の延伸方法としては,任意の適切な方法を採用することができる。 …(省略)… 【0054】 (不溶化処理) 上記不溶化処理は,代表的には,ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。 …(省略)… 【0055】 (架橋処理) 上記架橋処理は,代表的には,ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。 …(省略)… 【0056】 (洗浄処理) 上記洗浄処理は,代表的には,ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。 【0057】 (乾燥処理) 乾燥処理における乾燥温度は,好ましくは30℃?100℃である。 【0058】 得られる偏光膜は,実質的には,二色性物質が吸着配向されたPVA系樹脂膜である。偏光膜の厚みは,好ましくは15μm以下,より好ましくは10μm以下,さらに好ましくは7μm以下,特に好ましくは5μm以下である。このような偏光膜は,環境試験(例えば,80℃環境試験)においてクラック等の発生が抑制され得る。一方,偏光膜の厚みは,好ましくは0.5μm以上,より好ましくは1.0μm以上である。このような偏光膜は,製造時等における搬送性に極めて優れ得る。 【0059】 偏光膜は,好ましくは,波長380nm?780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜は,単体透過率42%以上において偏光度が99.9%以上であることが好ましい。 【0060】 D.偏光板 本発明の偏光板は,上記偏光膜を有する。好ましくは,偏光板は,上記偏光膜と,この偏光膜の少なくとも片側に配置された保護フィルムとを有する。」 カ 「【実施例】 【0062】 以下,実施例によって本発明を具体的に説明するが,本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。 【0063】 [実施例1-1] (積層体の作製) 吸水率0.75%,ガラス転移温度(Tg)75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)で構成され,予め115℃で2.0倍にTD延伸された,長尺状で厚み100μmの樹脂基材を張力100N/mにてロール状に巻き取って樹脂基材ロールとし,巻き取った状態で25℃,相対湿度60%RH環境下に30日間保管した。 その後,樹脂基材ロールから樹脂基材を巻き出し,樹脂基材を搬送させながら70℃で60秒間熱処理を施した。 続けて,樹脂基材の片面にコロナ処理を施した。このコロナ処理面に,ポリビニルアルコール(重合度4200,ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200,アセトアセチル変性度4.6%,ケン化度99.0モル%以上,日本合成化学工業社製,商品名「ゴーセファイマーZ200」)を9:1の比で含む水溶液を25℃でダイコート法により塗布した後に60℃で200秒間乾燥して厚み10μmのPVA系樹脂層を形成して積層体を作製した。 【0064】 (偏光膜の作製) 得られた積層体を,115℃のオーブン内で周速の異なるロール間で長手方向に2.0倍に自由端一軸延伸した(空中延伸)。 次いで,積層体を,液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対してホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。 次いで,液温30℃の染色浴(水にヨウ素とヨウ化カリウムとを重量比1:7で配合して得られたヨウ素水溶液)に,得られる偏光膜の単体透過率(Ts)が40%以下となるようにヨウ素濃度,浸漬時間を調整しながら浸漬させた(染色処理)。 次いで,液温30℃の架橋浴(水100重量部に対してヨウ化カリウムを3重量部,ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。 その後,積層体を,液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対してホウ酸を4重量部,ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら,周速の異なるロール間で長手方向に2.7倍に一軸延伸を行った(水中延伸)。 その後,積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対してヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に10秒間浸漬させた後,60℃の温風で60秒間乾燥させた(洗浄・乾燥工程)。 このようにして,樹脂基材上に厚み5μmの偏光膜を形成した。 【0065】 [実施例1-2] 積層体の作製に際し,熱処理の温度を75℃としたこと以外は実施例1-1と同様にして,樹脂基材上に偏光膜を形成した。 【0066】 [実施例1-3] 積層体の作製に際し,熱処理の温度を80℃としたこと以外は実施例1-1と同様にして,樹脂基材上に偏光膜を形成した。 【0067】 [実施例1-4] 積層体の作製に際し,熱処理の温度を90℃としたこと以外は実施例1-1と同様にして,樹脂基材上に偏光膜を形成した。 【0068】 [実施例1-5] 積層体の作製に際し,熱処理の温度を100℃としたこと以外は実施例1-1と同様にして,樹脂基材上に偏光膜を形成した。 【0069】 [実施例2-1] (積層体の作製) 実施例1-1と同様にして,積層体を作製した。 【0070】 (偏光膜の形成) 得られた積層体を,115℃の加熱下で,テンター延伸機を用いて,自由端一軸延伸により幅方向に4.0倍に延伸した(延伸処理)。 次いで,積層体を,液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対してホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。 次いで,液温30℃の染色浴(水にヨウ素とヨウ化カリウムとを重量比1:7で配合して得られたヨウ素水溶液)に,得られる偏光膜の単体透過率(Ts)が40%以下となるようにヨウ素濃度,浸漬時間を調整しながら浸漬させた(染色処理)。 次いで,液温30℃の架橋浴(水100重量部に対してヨウ化カリウムを3重量部,ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。 その後,積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対してヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に10秒間浸漬させた後,60℃の温風で60秒間乾燥させた(洗浄・乾燥工程)。 このようにして,樹脂基材上に厚み2.5μmの偏光膜を形成した。 【0071】 [実施例2-2] 積層体の作製に際し,熱処理の温度を75℃としたこと以外は実施例2-1と同様にして,樹脂基材上に偏光膜を形成した。 【0072】 [実施例2-3] 積層体の作製に際し,熱処理の温度を100℃としたこと以外は実施例2-1と同様にして,樹脂基材上に偏光膜を形成した。 【0073】 [比較例1-1] 積層体の作製に際し,熱処理を施さなかったこと以外は実施例1-1と同様にして,樹脂基材上に偏光膜を形成した。 【0074】 [比較例1-2] 積層体の作製に際し,熱処理の温度を50℃としたこと以外は実施例1-1と同様にして,樹脂基材上に偏光膜を形成した。 【0075】 [比較例1-3] 積層体の作製に際し,熱処理の温度を55℃としたこと以外は実施例1-1と同様にして,樹脂基材上に偏光膜を形成した。 【0076】 [比較例2-1] 積層体の作製に際し,熱処理の温度を55℃としたこと以外は実施例2-1と同様にして,樹脂基材上に偏光膜を形成した。 【0077】 (評価) 各実施例および比較例について,以下の評価を行った。 1.膜厚ムラ (I)ポリビニルアルコール水溶液を塗布し乾燥した後(延伸前)および(II)空中延伸後のPVA系樹脂層の膜厚を,大塚電子製「MCPD3000」を用いて測定した。欠点部を含む部分(元々,ゲージバンドがあった部分)を200mm(MD)×200mm(TD)のサイズに切り出して測定サンプルとし,その膜厚をMD,TD共に1mmピッチで面内測定し,欠点部の最大膜厚と最小膜厚の差を評価した。 …(省略)… 【0078】 【表1】 【0079】 実施例では,全ての時点においてPVA系樹脂層の膜厚ムラおよび遅相軸ムラ・吸収軸ムラが抑制されていた。また,外観にも優れていた。なお,実施例1-5および実施例2-3では,シワの発生が目視にて確認された。これは,加熱処理により樹脂基材に発生した熱シワによるものと考えられる。 【産業上の利用可能性】 【0080】 本発明の偏光膜は,例えば,画像表示装置に好適に用いられる。具体的には,液晶テレビ,液晶ディスプレイ,携帯電話,デジタルカメラ,ビデオカメラ,携帯ゲーム機,カーナビゲーション,コピー機,プリンター,ファックス,時計,電子レンジ等の液晶パネル,有機ELデバイスの反射防止板等として好適に用いられる。」 (2) 引用発明 ア 引用発明 引用文献1の【請求項17】に記載された「延伸積層体」は,その後の工程で偏光膜とされることを前提にしたものである(引用文献1の【0037】?【0059】)の記載からも理解できる事項である。)。 そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,用語を統一して記載している。 「 延伸積層体のポリビニルアルコール系樹脂層を偏光膜とするための処理を施すことにより作製される偏光膜であって, 延伸積層体は, 樹脂基材と,該樹脂基材上に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する延伸積層体であって, ポリビニルアルコール系樹脂層の200mm(MD)×200mm(TD)のサイズ内における膜厚ムラが0.25μm以下であり,かつポリビニルアルコール系樹脂層の200mm(MD)×200mm(TD)のサイズ内における遅相軸ムラが0.50°以下である, 偏光膜。」 (3) 対比 本願発明1と引用発明を対比すると,引用発明の「偏光子」は,「延伸積層体のポリビニルアルコール系樹脂層を偏光膜とするための処理を施すことにより作製される」ものである。また,当業者ならば,「延伸積層体のポリビニルアルコール系樹脂層を偏光膜とするための処理」に,ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質で染色する処理が含まれていることを,心得ている(引用文献1の【0039】及び【0040】の記載からも確認できる事項である。)。 そうしてみると,引用発明の「偏光子」は,本願発明1の,「ポリビニルアルコール系樹脂中に二色性色素が配向された」という要件を満たす「偏光子」に相当する。 (4) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。 「ポリビニルアルコール系樹脂中に二色性色素が配向された偏光子。」 イ 相違点 本願発明1と引用発明は,以下の点で相違する。 (相違点1) 「偏光子」について,本願発明は,「前記偏光子の厚みは,10μm以下であり」という構成を具備するのに対して,引用発明1は,このように特定されたものではない点。 (相違点2) 「偏光子」について,本願発明は,「前記偏光子の透過軸方向に測定位置を5mm間隔で変化させて前記偏光子の厚みを測定し,求められた前記偏光子の厚み分布について」,「前記偏光子の透過軸方向において,厚み分布の最大振幅が,0.4μm以下であり」という構成を具備するのに対して,引用発明は,一応,このように特定されたものではない点。 (相違点3) 「偏光子」について,本願発明は,「前記偏光子の透過軸方向において,前記厚み分布から高速フーリエ変換を用いて算出された厚み分布の周期強度が,0.13μm以下である」という構成を具備するのに対して,引用発明は,一応,このように特定されたものではない点。 (5) 判断 ア 相違点1について 引用文献1の【0058】の記載からみて,引用発明の偏光子の厚みを10μm以下とすることは,引用発明のより好ましい実施態様といえる。また,引用文献1の【0063】?【0072】に記載された実施例の偏光膜の厚みは,【0064】及び【0070】に記載のとおり,5μm又は2.5μmである。 そうしてみると,引用発明を具体化するに際して,「前記偏光子の厚みは,10μm以下であり」という構成を採用することは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。 イ 相違点2について 引用発明の「延伸積層体」は,「ポリビニルアルコール系樹脂層の200mm(MD)×200mm(TD)のサイズ内における膜厚ムラが0.25μm以下であ」るが,その測定条件は,本願発明1のとおり特定されたものではない(測定条件が変われば,膜厚ムラも変わるから,「0.25μm」という値のみに基づいて比較することはできない。)。 しかしながら,引用文献1の【0063】?【0072】に記載された実施例における膜厚ムラの測定条件は,【0077】に記載のとおりであり,すなわち,測定箇所は,ゲージバンドがあった部分(欠点部を含む部分であり,膜厚ムラが出やすいと考えられる箇所),測定間隔は,1mmであり,本願発明1の場合よりも厳しいものと理解される(本願発明1では測定範囲及び測定箇所について,特定されていないから,例えば,厚み分布の成績が良い領域のみを選択的に偏光子として採用することができる。)。また,引用文献1の【0063】?【0072】に記載された実施例においては,【0078】の【表1】に記載のとおり,延伸前のPVA系樹脂層の膜厚ムラが0.05μm(実施例2-2)?0.22μm(実施例2-3),空中延伸後のPVA系樹脂層の膜厚ムラが0.08μm(実施例1-1)?0.2μm(実施例1-4)に抑制されている(当合議体注:比較例においても,膜厚ムラが0.4μm以下のものがある。)。加えて,引用文献1の【0002】,【0004】,【0006】及び【0079】の記載や技術常識を勘案すると,空中延伸後の染色処理等において,膜厚ムラを劣化させる取扱いがなされるとも考えられない(偏光度,外観は,ともに優れたものとなっている。)。 そうしてみると,当業者が,引用発明を具体化するに際して,「前記偏光子の透過軸方向に測定位置を5mm間隔で変化させて前記偏光子の厚みを測定し,求められた前記偏光子の厚み分布について」,「前記偏光子の透過軸方向において,厚み分布の最大振幅が,0.4μm以下であり」という構成を具備したものとすることは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。 ウ 相違点3について 「厚み分布から高速フーリエ変換を用いて算出された厚み分布の周期強度」は,原理上,厚み分布よりも遙かに小さくなる(当合議体注:何らかの事情により,厚み分布がサイン波の形状であるとしても,その周期強度は,厚み分布の最大振幅の1/2にとどまる。)。 そうしてみると,上記イと同様の理由により,当業者が,引用発明を具体化するに際して,「前記偏光子の透過軸方向において,前記厚み分布から高速フーリエ変換を用いて算出された厚み分布の周期強度が,0.13μm以下である」という構成を具備したものとすることは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。 (6) 発明の効果について 本件出願の明細書の【0016】には,「本発明の一つの態様によれば,薄型で,かつ,透過軸方向の厚み分布のムラが小さい偏光子,およびそのような偏光子を備える偏光フィルムが提供される。」と記載されている。 しかしながら,このような効果は,引用発明が奏する効果であるか,あるいは,その延長線上の効果にすぎない。 (7) 請求人の主張について 請求人は,平成30年12月13日付け意見書において,概略,引用文献1の実施例で採用されたような長時間の乾燥条件は,厚み分布の周期強度に不利に働くと考えられると主張する。 しかしながら,引用文献1の実施例においては,ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液の塗布前に,本件出願の図5及びその説明で述べられているような,樹脂基材が熱収縮するような処理(プライマー層の形成)は行われていないから,本件出願の図4?図8及びその説明において述べられたような事象は発生しない。また,引用文献1の実施例におけるポリビニルアルコール系樹脂層の乾燥温度は,Tgよりも十分低い温度であるから,乾燥に先立って樹脂基材が収縮し,本件出願の図4?図8及びその説明において述べられたような事象に到るとも考えられない(引用文献1の実施例においては,延伸前のPVA系樹脂層の膜厚ムラが0.05?0.22μmに抑制されているから,周期強度は,最悪の場合を想定しても,0.11μm未満である。)。加えて,当業者ならば,引用文献1の図3及びその説明に記載された方法を採用することにより,TD方向の熱収縮を抑えることができる。 請求人の主張は採用できない。 (8) 小括 本願発明1は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 (9) 本願発明2について 本願発明2と引用発明を対比すると,両者は,以下の点で相違し,その余の点で一致する。 (相違点1’) 「偏光子」について,本願発明2は,「前記偏光子の厚みは,10μm以下であり」という構成を具備するのに対して,引用発明は,このように特定されたものではない点。 (相違点3’) 「偏光子」について,本願発明1は,「前記偏光子の透過軸方向において,厚み分布の周期強度が,0.13μm以下である」という構成を具備するのに対して,引用発明は,このように特定されたものではない点。 相違点1’及び相違点3’についての判断等は,前記(5)?(7)で述べたとおりである。 (10) 小括 本願発明2は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 むすび 以上のとおり,本願発明1及び本願発明2は,本件優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である,引用文献1に記載された発明に基づいて,本件優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-03-20 |
結審通知日 | 2019-03-26 |
審決日 | 2019-04-08 |
出願番号 | 特願2016-236868(P2016-236868) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤岡 善行 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
河原 正 樋口 信宏 |
発明の名称 | 偏光子、および偏光フィルム |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |