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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 D21H
管理番号 1352018
審判番号 不服2018-12309  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-13 
確定日 2019-06-18 
事件の表示 特願2014- 91155「製紙工程水のスライム抑制方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月24日出願公開、特開2015-209610、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成26年 4月25日の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成29年11月27日付け 拒絶理由通知
平成30年 2月 2日 意見書及び手続補正書提出
平成30年 6月28日付け 拒絶査定
平成30年 9月13日 本件審判請求及び手続補正書提出
平成30年11月 8日 前置報告

第2.原査定の概要
原査定(平成30年6月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1及び2に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

< 引 用 文 献 等 一 覧 >
2.特表2002-543048号公報
3.特開2009-160505号公報(周知技術を示す文献)

第3.審判請求時の補正について
平成30年9月13日に提出された手続補正書による補正、すなわち、審判請求時の補正は、以下に示すように、特許法第17条の2第3項?第6項に規定された要件を満たすものである。
審判請求時の補正のうち、請求項1における「製紙工程水中に、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物を添加して」という事項を「製紙工程水中に、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物を間欠的に添加して」(下線は当審にて付与。)とする補正事項(以下、「補正事項1」という。)は、補正前は、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」の「添加」の仕方に限定がなったところ、これを「間欠的に添加」すると限定するものであり、また、請求項1における「1時間後の残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で1.5?8.0mg/Lとなるようにする」という事項を「1時間後の残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で3.0?8.0mg/Lとなるようにする」とする補正事項(以下、「補正事項2」という。)は、「1時間後の残留有効ハロゲン濃度」の「有効塩素換算」の値の範囲を限定するものであるから、いずれの補正事項も、特許法第17条の2第5項第2号に規定された、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、補正事項1及び2は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落[0019]の「「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」は、1時間後の残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で1.5?8.0mg/Lとなるように製紙工程水中に添加するが、3.0?8.0mg/Lとなるように添加することが好ましい。・・・また、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」は、1時間後の残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で1.5?8.0mg/Lとなるように製紙工程水中に間欠的に添加されることが好ましい。」との記載に基づくものであり、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定された要件を満たす。
そして、以下の「第4 本願発明」?「第6 対比・判断」にて示す事項から明らかなように、補正前の請求項1及び2に係る発明と、補正後の請求項1及び2に係る発明とは、「製紙工程水中に、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物を間欠的に添加して残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で1.5mg/L以上の濃度を少なくとも1時間保持するようにし、かつ、1時間後の残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で3.0?8.0mg/Lとなるようにする」という、対応する特別な技術的特徴を有していることにより、特許法第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものであるから、特許法第17条の2第4項に規定された要件を満たすとともに、補正後の請求項1及び2に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、特許法第17条の2第6項で準用する、同法第126条第7項に規定された要件を満たす。

第4.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」等という。)は、平成30年9月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
製紙工程水中に、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物を間欠的に添加して残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で1.5mg/L以上の濃度を少なくとも1時間保持するようにし、かつ、1時間後の残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で3.0?8.0mg/Lとなるようにすることを特徴とする製紙工程水のスライム抑制方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製紙工程水のスライム抑制方法であって、
水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させて得られた、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物を用いることを特徴とする製紙工程水のスライム抑制方法。

第5.引用文献
1.引用文献2に記載された事項及び引用発明
(1)摘記事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 安定した酸化臭素化合物を生成する方法であって:
臭化アルカリまたはアルカリ土類金属と、臭素酸アルカリまたはアルカリ土類金属とを水中で混合して、水溶液を提供するステップと、
前記溶液を25℃未満の温度に冷却するステップと、
ハロゲン安定剤を前記溶液に添加するステップであって、ハロゲン安定剤がR-NH_(2)、R-NH-R^(1)、R-SO_(2)-NH_(2)、R-SO_(2)-NHR^(1)、R-CO-NH_(2)、R-CO-NH-R^(1)およびR-CO-NH-CO-R^(1)からなる群より選択され、Rが水酸基、アルキル基または芳香基であり、R^(1)がアルキル基または芳香基であるところのステップとからなる方法。
・・・
【請求項4】 ハロゲン安定剤がスルファミン酸である、請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項9】 臭化アルカリまたはアルカリ土類金属と、臭素酸アルカリまたはアルカリ土類金属とを水中で混合して、水溶液を提供するステップと、
溶液を25℃未満の温度に冷却するステップと、
ハロゲン安定剤を溶液に添加するステップであって、ハロゲン安定剤がR-NH_(2)、R-NH-R^(1)、R-SO_(2)-NH_(2)、R-SO_(2)-NHR^(1)、R-CO-NH_(2)、R-CO-NH-R^(1)およびR-CO-NH-CO-R^(1)からなる群より選択され、Rが水酸基、アルキル基または芳香基であり、R^(1)がアルキル基または芳香基であるステップとによって調製される安定した酸化臭素化合物。
【請求項10】 ハロゲン安定剤が、サッカリン、ベンゼンスルホンアミド、尿素、チオ尿素、クレアチニン、シアヌル酸、アルキルヒダントイン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、有機スルファミン酸およびメラミンからなる群から選択される、請求項9に記載の安定した酸化臭素化合物。
・・・
【請求項12】 生物付着を制御するために酸化剤を添加するパルプおよび紙加工システムでの生物付着制御の方法において、請求項9に記載の安定した酸化臭素化合物を酸化剤として使用することを含む方法。
・・・
【請求項41】 安定した酸化臭素化合物を生成する方法であって、
ハロゲン安定剤、水および水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属からなる腐食性溶液を調製するステップであって、ハロゲン安定剤が、サッカリン、ベンゼンスルホンアミド、尿素、チオ尿素、クレアチニン、シアヌル酸、アルキルヒダントイン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、有機スルファミン酸およびメラミンからなる群から選択されるところのステップと、
臭素または塩化臭素から選択される化合物を、臭素を空気に曝露することなく、ハロゲン化合物のモル量および水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属の約半分のモル量とほぼ等しいモル量だけ溶液に加えるステップと、
溶液を混合するステップであって、混合ステップ後の溶液がpHが13より高くなるところのステップと、
溶液を25℃未満の温度に冷却するステップと、
溶液のpHを13より高くするために、溶液に水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属を添加するステップと
を含む方法。
【請求項42】 ハロゲン安定剤、水および水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属からなる腐食性溶液を調製するステップであって、ハロゲン安定剤が、サッカリン、ベンゼンスルホンアミド、尿素、チオ尿素、クレアチニン、シアヌル酸、アルキルヒダントイン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、有機スルファミン酸およびメラミンからなる群から選択されるステップと、
臭素または塩化臭素から選択される化合物を、臭素を空気に曝露することなく、ハロゲン化合物のモル量および水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属の約半分のモル量とほぼ等しいモル量だけ溶液に加えるステップと、
溶液を混合するステップであって、混合ステップ後の溶液がpHが13より高くなるところのステップと、
溶液を25℃未満の温度に冷却するステップと、
溶液のpHを13より高くするために、溶液に水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属を添加するステップとより調製される安定した酸化臭素化合物。」
イ.「【発明の詳細な説明】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、工業用水システムにおける生物付着制御に使用される調合物に関する。さらに詳細には、本発明は、安定した酸化臭素調合物を調製する方法および工業用水システムにおける生物付着の制御でのその使用に関する。」
ウ.「【0030】
本発明のさらに別の利点は、不安定した酸化臭素化合物よりも他の水処理化学薬品との適合性が高い、工業用水システムにおける生物付着を制御するための、安定した酸化臭素調合物を生成することである。
【0031】
工業用水システムとしては、冷却水システム、冷却池、貯水池、甘水用途、装飾用噴水、殺菌装置、蒸発凝縮器、静水圧殺菌器および蒸留器、ガス洗浄塔システムおよび空気洗浄器システムが挙げられる。
【0032】
本発明の別の利点は、パルプおよび紙加工システムにおける生物付着制御の改良された方法を提供することである。」
エ.「【0041】
(発明の詳細な説明)
本発明は、冷却水および他の工業システムにおける生物付着制御のための幅広い濃度の安定した酸化臭素化合物を生成するための、複数の調合物および方法を提供する。」
オ.「【0048】
別の実施例において、液体臭素を酸化剤および臭素源の療法として使用する。スルファミン酸塩および他の窒素塩基化合物を安定剤として使用した。さらに、生成物のpHを維持するために、十分な量の水酸化アルカリまたはアルカリ金属が必要である。調合物の温度も、安定した酸化窒素を生成するためにきわめて重要である。十分なpHと温度制御がないと、発熱反応によって生じた熱により、酸化種が迅速に分解する。
【0049】
高濃度の安定した酸化臭素調合物を調製するプロセスは、2つのステップからなる。
【0050】
第1のステップでは、スルファミン酸、水および水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属(好ましくはNaOH、Mg(OH)2または他の水酸化物)を混合して、腐食性安定化溶液を調製する。アルカリまたはアルカリ土類金属のpHは14よりも高い。次の臭素化ステップによって生じる酸を中和し、最終生成物のpHを高く(好ましくは13より高い)維持するために、過剰の水酸化物を故意に加える。液体臭素に対するスルファミン酸塩の好ましいモル比は、1:1である。液体臭素に対する水酸化物の好ましいモル比は、2.2:1である。安定剤溶液は、スルファミン酸アルカリまたはアルカリ土類金属を水に溶解させ、適切な量の水酸化物を加えることによっても得られる。
【0051】
該プロセスは通常、適切な混合装置を備えたジャケット付きガラス反応器内で実施する。反応器の冷却システムは、反応温度が最適範囲で制御できるように設定する必要がある。臭素化ステップの間、反応温度が過度に高いと、スルファミン酸塩の加水分解が加速され、望ましい生成物の分解を引き起こす。
【0052】
該プロセスの第2のステップは、安定化溶液によく撹拌しながら液体臭素をゆっくりと加えることである。元素臭素が空気に曝露されるのを防ぐため、臭素はテフロン(R)管によって安定化溶液に直接加えることが好ましい。・・・」
カ.「【0058】
別の実施例では、本発明の安定した酸化臭素化合物を使用して、工業用水システム、パルプおよび紙加工システム、食品および飲料加工システムおよび水再生システムにおいて改良された生物付着制御を行うために使用できる。本発明の安定した酸化臭素化合物は、漂白剤として、および固い表面の殺菌にも使用できる。実施例のみによって、本発明は、各種加工システムによって食品を輸送するためおよび加工装置ならびに廃水流を殺菌するために、使用する水性溶媒に添加してもよい。」

(2)引用発明
上記(1)に示した摘記事項から、引用文献2には、以下の引用発明が記載されているといえる。
《引用発明》
パルプおよび紙加工システムで使用する水性溶媒に、スルファミン酸、水および水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属を混合して調整した、腐食性安定化溶液に、液体臭素を、空気に曝露されるのを防ぐためにテフロン(R)管によって直接加えることで調整した、高濃度の安定した酸化臭素調合物を、添加する、生物付着制御方法。

2.その他の文献に記載された事項
(1)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。
ア.「【要約】
【課題】金属に対する腐食性を充分に防ぎながら、高いスライム抑制効果が得られる水系水におけるスライム抑制方法を提供する。
【解決手段】水系水にハロゲン系酸化物を含む薬剤を添加して、該水系水の酸化力を、遊離残留塩素濃度に換算して0.01mg/L以上0.1mg/L未満の範囲に維持する。」
イ.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系水にハロゲン系酸化物を含む薬剤を添加して、該水系水の酸化力を、遊離残留塩素濃度に換算して0.01mg/L以上0.1mg/L未満の範囲に維持することを特徴とする水系水におけるスライム抑制方法。
【請求項2】
前記酸化力を、遊離残留塩素濃度に換算して0.01mg/L以上0.05mg/L未満の範囲に維持することを特徴とする請求項1に記載の水系水におけるスライム抑制方法。
【請求項3】
前記ハロゲン系酸化物を含む薬剤が、次亜ハロゲン酸塩とスルファミン酸塩とを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水系水におけるスライム抑制方法。
【請求項4】
前記ハロゲン系酸化物を含む薬剤が、次亜ハロゲン酸塩とスルファミン酸塩とを反応させて得られる安定化次亜ハロゲン酸塩を含む薬剤であり、かつ、前記水系水の酸化力を全残留塩素濃度に換算して1mg/L以上5mg/L以下の範囲に維持することにより、遊離残留塩素濃度に換算される前記水系水の酸化力を0.01mg/L以上0.1mg/L未満の範囲に維持させることを特徴とする請求項1に記載の水系水におけるスライム抑制方法。
【請求項5】
前記ハロゲン系酸化物を含む薬剤が、次亜ハロゲン酸塩とスルファミン酸塩とを反応させて得られる安定化次亜ハロゲン酸塩を含む薬剤であり、かつ、前記水系水の酸化力を全残留塩素濃度に換算して1mg/L以上2mg/L以下の範囲に維持することにより、遊離残留塩素濃度に換算される前記水系水の酸化力を0.01mg/L以上0.05mg/L未満の範囲に維持させることを特徴とする請求項2に記載の水系水におけるスライム抑制方法。」
ウ.「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系、冷温水系などの水系水において、各種微生物によるスライムの発生を抑制する水系水におけるスライム抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸塩や次亜臭素酸塩等のハロゲン系酸化剤は、古くから水系の殺菌剤、スライム防除剤として使用されてきた(特開昭64-15200号公報)。これらの薬剤は、抗菌スペクトルが広く、多くの有害な菌に有効であり、耐性菌が出来にくいという利点を有するが、その強力な酸化力ゆえ水系の金属材質(軟鋼、銅等)に対する腐食性が強いという欠点も有する。そこで、これらの薬剤の使用に際しては、微生物に有効な濃度と、金属に対する腐食性を加味して、水系中の遊離塩素の濃度が0.1?1.0mg/Lになるように添加、使用するのが一般的であった(特開2000-140857公報、特開2003-80265公報)。しかしながら、前記使用方法によっても、軟鋼、銅等に対する腐食性を抑えるには充分でなく、特に高価な熱交換器の銅材に孔食が発生して問題となることがあった。」
エ.「【発明の効果】
【0009】
本発明の水系水におけるスライム抑制方法によれば、軟鋼や銅などの金属に対する腐食性を充分に防ぎながら、高いスライム抑制効果が得られる。」
オ.「【0014】
また、安定化次亜ハロゲン酸塩では水系水中の濃度は、全残留塩素濃度で把握でき、その濃度に応じた遊離残留塩素濃度換算の酸化力が得られる。このため、水系水の酸化力を全残留塩素濃度に換算して1mg/L以上5mg/L以下の範囲に維持することにより、遊離残留塩素濃度に換算される前記水系水の酸化力を0.01mg/L以上0.1mg/L未満の範囲に維持させることができ、また、水系水の酸化力を全残留塩素濃度に換算して1mg/L以上2mg/L以下の範囲に維持することにより、遊離残留塩素濃度に換算される前記水系水の酸化力を0.01mg/L以上0.05mg/L未満の範囲に維持させることができる。
【0015】
さらに上述のように安定化次亜ハロゲン酸塩の安定性が高いために頻繁な全残留塩素濃度のチェックを行わなくても濃度維持が可能であり、そのとき、遊離残留塩素濃度換算の酸化力を所定範囲に維持することができ、結果として酸化力維持、あるいは、酸化力のチェックなどの手間やコストを大幅に省くことができる。」

(2)引用文献5に記載された事項
平成30年11月8日の前置報告に、引用文献5として引用された特開2012-233271号公報には、次の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
紙パルプ製造工程のパルプスラリーや白水、白水のろ過水中には、多量の水とパルプに由来する有機物や工程で添加される澱粉などの有機系添加薬品が多く含まれ、しかも水温が30?50℃と微生物の繁殖にとって非常に好ましい環境となっている。・・・
【0003】
紙パルプ製造工程におけるスライムコントロール剤の添加は、従来から、タイマーと注入装置を用いて一定間隔で所定量を間欠添加する方法が行われている。このような間欠添加の場合、紙パルプ製造工程が一定条件で運転されている場合には、効率的且つ経済的な方法であるが、工程の条件の急な変更、あるいは何らかの要因で微生物が急速に増殖した場合には、その状況に対応できず、前述したように紙パルプ製造工程の操業や製品品質に支障を来たすことが起こる。」

(3)引用文献6に記載された事項
平成30年11月8日の前置報告に、引用文献6として引用された特開2010-100945号公報には、次の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
紙の製造工程には、澱粉などの有機物が多量に含まれ、また温水を利用することから、微生物が繁殖しやすい環境にある。紙の製造工程において微生物が繁殖すると、配管やタンクの壁面、フィルター上にスライムと呼ばれる生物膜が形成され、抄紙工程における生産性低下や品質の劣化などの障害(スライム障害)が起こることが知られている。
【0003】
かかるスライム障害を防止するために、スライムコントロール剤と呼ばれる抗菌剤を添加する方法が知られており、例えば、特許文献1には、表面に隣接したバイオフィルムの生成を阻害する方法であって、バイオフィルムの生成の可能性を有する微生物の集合体にバイオフィルム阻害物質を間欠的に適用することを含む方法が開示されている。」


第6.対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
引用発明の「パルプおよび紙加工システムで使用する水性溶媒」、「生物付着制御方法」は、各々、本願発明1の「製紙工程水」、「製紙工程水のスライム抑制方法」に相当する。
また、本願発明1の「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」は、本願発明2の発明特定事項である「水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させて得られた、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含むものであることを踏まえると、引用発明の「スルファミン酸、水および水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属を混合して調整した、腐食性安定化溶液に、液体臭素を、空気に曝露されるのを防ぎためにテフロン(R)管によって直接加えることで調整した、高濃度の安定した酸化臭素調合物」は、本願発明1の「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」に相当する。
ゆえに、本願発明1と引用発明とは、次の相違点で相違し、その余で一致する。

《相違点》
臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物の添加について、本願発明1は、間欠的に添加して残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で1.5mg/L以上の濃度を少なくとも1時間保持するようにし、かつ、1時間後の残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で3.0?8.0mg/Lとなるようにするものであるのに対し、引用発明は、具体的な添加の仕方が不明である点。

(2)相違点についての判断
引用発明が記載されている引用文献2には、上記第5.1.(1)に摘記したように、安定した酸化臭素化合物を調製する方法及び当該安定した酸化臭素化合物の使用に関する技術が記載されているものの、前記安定した酸化臭素化合物の使用については、上記第5.1.(1)カ.に摘記したように、「安定した酸化臭素化合物を使用して、工業用水システム、パルプおよび紙加工システム、食品および飲料加工システムおよび水再生システムにおいて改良された生物付着制御を行うために使用できる。本発明の安定した酸化臭素化合物は、漂白剤として、および固い表面の殺菌にも使用できる。実施例のみによって、本発明は、各種加工システムによって食品を輸送するためおよび加工装置ならびに廃水流を殺菌するために、使用する水性溶媒に添加してもよい。」との記載しかなく、添加量等の具体的な添加の仕方については、何ら記載されていない。
また、上記第5.2.で示したように、引用文献3には、スライム防除剤であるハロゲン化酸化剤は、量が少なければ、パルプシステムでの生物付着量を十分に低減できず、量が多いと金属が腐食してしまうことや、微生物によるスライムの発生を制御する水系水におけるスライム抑制方法において、酸化力を維持するために、スライム防除剤の濃度を、「遊離残留塩素濃度に換算して0.01mg/L以上0.1mg/L未満」という特定の範囲に維持することが記載され、引用文献5及び6には、スライム防除剤を間欠的に添加することが記載されているが、スライム防除剤であるハロゲン化酸化剤を「間欠的に添加して残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で1.5mg/L以上の濃度を少なくとも1時間保持するようにし、かつ、1時間後の残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で3.0?8.0mg/Lとなるようにする」ことは、これらの引用文献には記載されておらず、このことを示唆する記載もない。
したがって、たとえ、スライム防除剤であるハロゲン化酸化剤は、量が少なければ、パルプシステムでの生物付着量を十分に低減できず、量が多いと金属が腐食してしまうこと、微生物によるスライムの発生を制御する水系水におけるスライム抑制方法において、酸化力を維持するために、スライム防除剤の濃度を特定の範囲に維持すること、スライム防除剤を間欠的に添加することの各々が本願出願前に周知の技術であったとしても、引用発明における「高濃度の安定した酸化臭素調合物」を、具体的に、間欠的に添加して残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で1.5mg/L以上の濃度を少なくとも1時間保持するようにし、かつ、1時間後の残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で3.0?8.0mg/Lとなるようにすることは、当業者が容易になし得たこととすることできない。

そして、本願発明1は、「スライム抑制剤を添加してから1時間後の残留有効ハロゲン濃度が、有効塩素換算で1.5mg/L未満であると十分なスライム抑制効果を得ることができず、8.0mg/Lより多い場合は、経済的に非効率であり、また配管等の腐食を引き起こす可能性がある。」(本願明細書の段落【0019】)、「製紙工程水用に用いるスライム抑制剤が「塩素系酸化剤およびスルファミン酸化合物」または「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」である場合、安定性は高いがスライム抑制効果が低いため、1時間後の残留有効ハロゲン濃度が有効塩素換算で1.5?8.0mg/Lとなるように製紙工程水に間欠的に添加されても、十分な効果を得ることができない。」(同じく段落【0020】)との知見の下、添加するスライム抑制剤を「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」と特定した上で、上記《相違点》に係る添加量等の添加の仕方を採用するようにしたものであって、上記《相違点》に係る構成を備えることで、「製紙工程水におけるスライムコントロールにおいて、十分なスライム抑制効果を有しながら、簡便に注入することができる製紙工程水のスライム抑制方法を提供することができる。」(同じく段落【0010】)、「次亜塩素酸等の一般的な酸化剤と比較すると、有効成分の安定性が高く、製紙工程水中の有機物等による無効消費が少ないため、より効率的にスライムを抑制することが可能である。」(同じく段落【0016】)、「クロロスルファミン酸等の結合塩素系スライム抑制剤を使用する方法と比較すると、スライム抑制力が高いため、低い薬剤注入濃度で処理可能である。また、本実施形態に係る製紙工程水のスライム抑制方法では、適切な条件で注入するため、費用対効果を最適化することができる。さらに、系内の金属部分の腐食を抑制することができる。」(同じく段落【0017】)との格別な作用効果を奏するものである。

(3)本願発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明及び引用文献3、5、6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではなく、特許を受けることができないものであるとはいえない。

2.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらなる技術的事項を発明特定事項とするものである。
したがって、本願発明1と同様な理由により、本願発明2も、引用発明及び引用文献3、5、6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではなく、特許を受けることができないものであるとはいえない。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、引用発明及び引用文献3、5、6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-06 
出願番号 特願2014-91155(P2014-91155)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (D21H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩田 行剛佐藤 玲奈  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 横溝 顕範
渡邊 豊英
発明の名称 製紙工程水のスライム抑制方法  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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