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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F |
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管理番号 | 1352159 |
審判番号 | 不服2018-6347 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-05-09 |
確定日 | 2019-06-05 |
事件の表示 | 特願2016-513454「殺菌性複合材料」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日国際公開、WO2014/184640、平成28年7月28日国内公表、特表2016-522029〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯、本願発明 1 手続の経緯 本願は、2014年(平成26年)5月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成25年5月17日 インド)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年4月10日に手続補正がされ、同年7月5日付の拒絶理由が通知され、同年12月11日に意見書が提出され、同月19日付の拒絶査定がされ(平成30年1月9日発送)、それに対して、平成30年5月9日に審判請求がなされたものである。 2 本願発明 本願発明は、平成29年4月10日に補正された特許請求の範囲の請求項1?29において特定されたとおりのものであり、次の請求項1?4に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明4」という。)を含むものである。 「【請求項1】 第1の所定厚さおよび第1の所定ステッチ/糸密度を有する第1の層と; 第2の所定厚さおよび第2の所定ステッチ/糸密度を有する第2の層と; 第3の所定厚さおよび第3の所定ステッチ/糸密度を有する中間層とを含む殺菌性複合材料であって、 前記中間層が前記第1の層と前記第2の層との間に挟まれ、かつ、前記第1の層および前記第2の層と連結されて、編みおよび織りの1つにより三次元構造体を形成しており、 前記三次元構造体中の各層が複数の開口を有することにより、前記殺菌性複合材料を通した空気の循環を可能にしており; 前記複数の開口のそれぞれは、所定のサイズを有し、前記開口の前記所定のサイズは、前記編みおよび織りの1つの工程のインチ当たりのコースおよびインチ当たりのウェールで制御され、 前記第3の所定ステッチ/糸密度が、前記第1の所定ステッチ/糸密度および前記第2の所定ステッチ/糸密度より小さいことにより、前記第1の層および前記第2の層の少なくとも1つが流体と接触したときの流体のウィッキングを可能にし、 前記三次元構造体の各層は、溶出しない形で殺菌剤と架橋された(cross linked)表面部分を有する、殺菌性複合材料。 【請求項2】 前記第1の所定厚さが100μm?1000μmの範囲にある、請求項1に記載の殺菌性複合材料。 【請求項3】 前記第2の所定厚さが100μm?1000μmの範囲にある、請求項1に記載の殺菌性複合材料。 【請求項4】 前記第3の所定厚さが600μm?6000μmの範囲にある、請求項1に記載の殺菌性複合材料。」 第2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明1?4は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献4及び7に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 記 ・主引用例 引用文献1 特開平9-137380号公報 ・周知技術を示す文献 引用文献4 実願平4-56462号(実開平6-17745号)のCD-ROM 引用文献7 特開昭61-82754号公報 第3 引用刊行物の記載事項 1 引用文献1の記載事項 (1)特許請求の範囲 ア 【請求項1】 「表と裏との外面層および中間層からなる多層構造編地であって、 外面層の主体は、単糸繊度1?5デニール、総繊度30?150デニールの合成繊維マルチフィラメントで形成され、中間層の主体は、単糸繊度15?30デニールの合成繊維モノフィラメントで形成され、 中間層のモノフィラメントの単糸繊度が、外面層のマルチフィラメントの単糸繊度の3?30倍であり、 一方の外面層には撥水加工が、他方の外面層には吸水加工が施されている、ことを特徴とする、多層構造編地。」 イ 【請求項2】 「撥水加工が施されている外面層の表面がフラット構造に、吸水加工が施されている外面層の表面が凹凸構造に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の多層構造編地。」 ウ 【請求項3】 「通気性が少なくとも100cc/sec・cm^(2) 、圧縮率が少なくとも20%であり、カサ比重が0.3g/cm^(3)を超えないことを特徴とする、請求項1または2に記載の多層構造編地。」 エ 【請求項4】 「編地の一部または全部が、抗菌防臭加工を施され、抗菌防臭性を有することを特徴とする、請求項1,2または3に記載の多層構造編地。」 (2)段落【0001】、【発明の属する技術分野】 「本発明は、通気性とクッション性とに優れ、一方の外面層に撥水性を、他方の外面層に吸水性を有する、軽量の多層構造編地に関する。衣料、寝具、インテリア、医療用布帛、農林業用布帛など、生活用品および産業用資材として広く用いられ、スポーツウェア、座席シート、ヘルメットの内張りなど身体が接する部材などに好ましく利用することができる。」 (3)段落【0009】 「本発明の多層構造編地には、ポリエステルやポリアミドなど、比較的吸湿性の低い合成繊維フィラメントを用いる。布帛に過度の保水性を生じさせることなく十分な通気性を持たせ、繊度を選択して適度のクッション性を付与しやすいからである。綿、麻、毛などの天然繊維やセルロース系繊維などは、水分を蓄積するし、紡績糸は、目付が付き毛羽立ちやすいので、通気性や軽量感を阻害する。」 (4)段落【0010】 「外面層に、単糸繊度1?5デニール、総繊度30?150デニールのマルチフィラメントを用いると、表面の風合が柔らかくなり、表面加工しやすくなる。マルチフィラメントの単糸繊度が1デニールに満たないと、単糸切れを起こし、撥水性や吸水性が低下しやすくなる。一方、5デニールを超えると風合が粗硬になりがちである。また、総繊度が30デニールに満たないと、カバーファクターが低下し、布帛の強力、ひいては撥水性や吸水性が低下する傾向にあり、150デニールを超えると、目付が付きすぎ、通気性および軽量性が低下する。」 (5)段落【0011】 「中間層は、単糸繊度が15?30デニール、好ましくは20?25デニールのモノフィラメントで形成する。モノフィラメントの単糸繊度が15デニールに満たないと、クッション性に乏しくなる。一方、30デニールを超えると編地の柔軟性を損うおそれがある。さらに、中間層のモノフィラメントの単糸繊度が、少なくとも一方の外面層のマルチフィラメントの単糸繊度に対し、3?30倍の範囲にあるものであり、好ましくは5?15倍の範囲であると、編地のクッション性および柔軟性の面からさらに好適である。」 (6)段落【0013】 「・・・。図1は、一方の表面が凹凸構造、他方の表面がフラット構造の多層構造編地の断面模式図である。」 (7)段落【0014】 「本発明の多層構造編地は、編地全体で、通気性が100cc/sec・cm^(2)以上、圧縮率が20%以上であり、カサ比重が0.3g/cm^(3)以下となるように編成することが好ましい。このような編地は、高湿度下にあってもべとつかず速乾性に優れ、適度な弾力が有り、しかも軽量である。スポーツウエアや帽子などの衣料用素材として用いれば、雨天時や運動時にあってもさらりとした感触で快適に着用でき、人体に程良くフィットして保護するので安全である。通気性はJIS L 1096(フラジール法)により、圧縮率はJIS L 1096により、それぞれ5回測定し、その測定値を平均した値である。」 (8)実施例 ア 段落【0017】 「【実施例】 以下に、本発明の複合機能を有する多層構造編地について、具体例によりさらに詳細に説明する。 実施例1 まず、ダブルラッセル 22G編機を用い、図2に示す組織図にしたがって、一方の表面をフラット構造、他方の表面をメッシュ調凹凸構造とする3層構造の編地を、22ウェール/in,48コース/inで編成した。両外面層には総繊度75デニール、36フィラメントのポリエステルマルチフィラメント、中間層には20デニールのポリエステルモノフィラメントを用いた。得られた生機に、常法によりリラックス、精練加工を行った後、フラット面にのみ市販のフッ素系撥水剤(アサヒガードAG710(旭硝子(株)製))2%owf溶液を用い、キュアリングを170℃で1分間行って撥水加工を施した。その後、SR1000(高松油脂(株)製)5%owf溶液を用い、乾燥セットを180℃で40秒間行って吸水加工を施し、仕上編地を得た。仕上編地の構成を表1に、仕上編地について各種物性の測定を行った結果を表2に示す。 仕上編地は、通気性およびクッション性に富み、しかも軽量で、べとつき感のないさわやかな編地であった。」 イ 段落【0018】 「実施例2 実施例1と同様にして得られた編地を、SANTO N20(帝国化学産業(株)製)を1部、スミテックスレジンM-3(住友化学工業(株)製)を1.025部、スミテックスアクセレレーターACX(住友化学工業(株)製)を0.0025部、および水を合計で100部になるように加えて製造した抗菌加工液に浸漬し、マングルで絞り率が100%になるように絞ったのち乾燥し、キュアリング条件180℃×1分で処理し、抗菌加工した仕上編地を得た。仕上編地の構成を表1に、仕上編地の各種物性について測定を行った結果を表2に示す。」 ウ 段落【0022】、【表1】 「 糸 使 い 外面層の単糸繊度 に対する中間層の 外面層 中間層 単糸繊度の比 実施例1 75D-36F 20D- 1F 9.6 実施例2 75D-36F 20D- 1F 9.6 実施例3 50D-18F 20D- 1F 7.2 比較例1 75D-72F 40D- 1F 38.5 比較例2 75D-36F 30D-12F 1.2 D;デニール F;フィラメント」 エ 段落【0023】、【表2】 「 性 能 通気性 圧縮率 カサ比重 撥水性 吸水性 抗菌性 cc/cm^(2) sec % g/cm^(3) 点 秒 実施例1 163 22 0.13 90 6.3 - 実施例2 160 22 0.13 90 7.8 3.7 実施例3 175 48 0.10 90 7.3 - 比較例1 130 11 0.15 50 180以上 - 比較例2 95 53 0.13 50 180以上 -」 (9)段落【0024】 「【発明の効果】 本発明の多層構造編地は、多層構造を形成する外面層と中間層とのそれぞれの構造を別々に、かつ最適に形成するので、高湿度下や運動時などであっても、高い通気性と高いクッション性とを有し、軽量である。しかも、一方の表面には高い撥水性を、他方の表面には高い吸水性を有しているので、汗や雨水などで濡れてもべたつかず、爽やかで程よいフィット感がある。各種衣料、寝具、インテリア、医療用布帛、農林業用布帛、包装用布帛、保温材など広範な用途に用いることが出来る。 【図面の簡単な説明】 【図1】 片面フラット構造、他面凹凸構造の多層構造編地の模式図。 【図2】 片面平編、他面メッシュ状編地の3層構造編地の組織図。 【符号の説明】 11;フラット構造の外面層 12;中間層 13;凹凸構造の外面層 L1,L2;メッシュ状編地を構成する糸条 L3,L4;連結糸条 L5,L6;平編を構成する糸条」 (10)図面 ア 【図1】 「 」 イ 【図2】 「 」 2 周知技術について (1)引用文献4には、次の記載がある。 ア 段落【0005】?【0006】 「【課題を解決するための手段】 すなわち、本考案は抗菌剤結合糸を含む布状又は網状包帯である。 本考案に用いられる抗菌剤としては、人体に悪影響を与えないものであればその種類の如何を問わないが、例えば3-(トリメトキシシリル)-プロピルジメチルオクタデシル アンモニウム クロライド等の第4級アンモニウム塩系抗菌剤、5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェノール等のフェニールエーテル系抗菌剤等が好ましいものとして挙げられ、特に3-(トリメトキシシリル)-プロピルジメチルオクタデシル アンモニウム クロライドは人体に対する悪影響がないのみならず、有機シリコーン活性の利用により繊維に当該第4級アンモニウム塩を強固に結合することができるので、洗濯や水洗による溶出が殆どなく、抗菌効果が長期安定に保持される点でも有利である。」 イ 段落【0007】?【0008】 「本考案に於て上記の如き抗菌剤が結合される糸としては、包帯に使用し得るものであれば、綿糸等その具体的種類の如何を問わない。 糸への抗菌剤の結合法は吸尽法等により実施され、またこの結合は糸の段階で行なっても良く、織物地又は編物地の布状段階や網状段階で行なっても良い。」 (2)引用文献7には、次の記載がある。 ア 3頁左上欄10?16行 「本発明の目的は、抗菌因子が、共有的に結合されながら、織物表面から離れている抗菌性織物を提供することである。一具体例は、アミノ官能基が多官能スペーサー部分の一つの末端に共有的に結合し、他の末端が抗菌因子のアミノ基に共有的に結合されたアミノアルキルシリル化した織物である。」 イ 3頁右上欄9行?左下欄3行 「本発明の基層はアミノアルキルシリル化した織物で、ベース織物はフリーのヒドロキシル基を有することが要求される。適当なベース織物は、リネン、木綿、羊毛、絹、再生セルロース及びヒドロキシル基の一部分のみがアセチル化したセルロースアセテートのごときセルロースベースの重合体、デキストランのごとき多糖類物質、ポリビニルアルコール、コラーゲン及びその他を包含する。他の織物はヒドロキシル基を与えるように処理されたものを包含する。例えば、部分的に加水分解及び還元されたナイロン及び部分的に加水分解されたポリエステル類である。上記の物質の、上記のグループの他のもの、またはフリーのヒドロキシル基を有しない他の織物とのブレンドもまた利用できる。」 ウ 3頁左下欄4行?右下欄11行 「ベース織物はアミノアルキルシリル化される。すなわち、織物の表面のヒドロキシル基と反応して酸素-ケイ素結合を形成する能力を有することを特徴とする所の、一般式 UVW Si(CH_(2))_(n)(NH(CH_(2))_(m)NH)_(r)H のアミノアルキルシランと接触させる。nの値は1?約10で、3の場合が好ましい。通常m及びrは0であるが、親水性のアミノアルキルシランが望ましい場合は、mは1?約3の整数、rは1である。この炭素原子の鎖は一部スペーサーとして働く。末端アミノ基は、次に、二官能スペーサー部分として作用する多官能試薬の官能基の一つと反応する。 基U、V、Wは1?約10個の炭素原子を含むアルコキシ基及び1?約10個の炭素原子を含むアルキル基から成る群から選ばれる。このような基の少なくとも一つはアルキル基でないことが必要であり、いかなるアルキル基も約3個以上の炭素原子を含まないことが好ましい。U、V、Wがアルコキシ基である場合、ベース織物の表面のヒドロキシル基と反応し、スペーサー分子は表面に固く結合するようになる。かくして、有機シランのケイ素原子と芯支持体の酸素原子との間の結合の数は、有機シランのアルコキシ基の数に等しいが、2個以上このような結合は起こらない。U、V、Wが各々アルコキシ基である場合、芯支持体の表面え(当審注:原文のまま)の最大結合が生じる。これは極めて望ましいことである。」 第4 当審の判断 1 引用発明の認定 (1)引用文献1の実施例2に記載された発明 ア 引用文献1の実施例2について (ア)前記第3、1(8)イで摘記した引用文献1の実施例2には、「実施例1と同様にして得られた編地」とあるため、実施例1の記載を参照する。 (イ)前記第3、1(8)アには、「ダブルラッセル 22G編機」と記載されているが、これは、針床が2重になっている編機である。針床の一方が前針床(以下「F」という。)であり、他方が後針床(以下「B」という。)である。また、針床における針の数が1インチあたり22個存在することがわかる。 (ウ)ダブルラッセル編機の場合の編地の組織図は、再下段の縦横線の交点がFにおける針の動作を示し、直上の交点がBにおける針の動作を示し、その上部もその繰り返しになると定められている。また、糸の横方向の動きは、筬の動きを示すものである。 (エ)上記第3、1(10)イで摘記した引用文献1の図2に示される組織図において、糸条L5は、Fにおいてのみループを形成し、糸条L6は糸条L5と絡み合うことが読み取れ、また、糸条L1及び糸条L2は、Bにおいてのみループを形成していることが読み取れる。そして、糸条L3及び糸条L4は、全ての編成動作のタイミングでFとBを連結していることが読み取れる。 (オ)以上から、フラット構造の表面層11を構成する糸条は、Bでループを形成する糸条L1?L4であり、メッシュ構造の表面層13を構成する糸条は、Fでループを形成する糸条L3?L5及び糸条L5と絡み合う糸条L6である。一方、中間層12を構成する糸条は、糸条L3?L4のみである。 イ 引用発明の認定 以上の認定を踏まえて、引用文献1の実施例2には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「表と裏との外面層および中間層からなる3層構造の編地であって、 表と裏の外面層は、総繊度75デニールの合成繊維マルチフィラメント及び単糸繊度20デニールの合成繊維モノフィラメントで形成され、 中間層は、表と裏の外面層を連結する単糸繊度20デニールの合成繊維モノフィラメントで形成され、 中間層のモノフィラメントの単糸繊度が、外面層のマルチフィラメントの単糸繊度の9.6倍であり、通気性が160cc/sec・cm^(2) であり、抗菌防臭加工を施された、一方の表面をフラット構造、他方の表面をメッシュ調凹凸構造とする3層構造の編地。」 2 本願発明1との対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 (1)引用発明における「表の外面層」「裏の外面層」「中間層」「3層構造の編地」は、本願発明1における「第1の層」「第2の層」「中間層」「三次元構造体」に相当し、引用発明の3層とも、所定の厚さ及び所定のステッチ/糸密度を有することは自明である。 (2)引用発明における「表の外面層」「裏の外面層」「中間層」は、いずれも編地であるから、各層が複数の開口を有するものであり、また、引用発明の通気度が高いことから、「3層構造の編地」を通した空気の循環が可能であることは明らかである。 (3)引用発明における上記複数の開口のサイズは、編みの1つの工程のインチ当たりのコースおよびインチ当たりのウェールにより定まることも自明である。 3 本願発明1と引用発明との一致点 そうすると、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致する。 <一致点> 「第1の所定厚さおよび第1の所定ステッチ/糸密度を有する第1の層と; 第2の所定厚さおよび第2の所定ステッチ/糸密度を有する第2の層と; 第3の所定厚さおよび第3の所定ステッチ/糸密度を有する中間層とを含む複合材料であって、 前記中間層が前記第1の層と前記第2の層との間に挟まれ、かつ、前記第1の層および前記第2の層と連結されて、編みおよび織りの1つにより三次元構造体を形成しており、 前記三次元構造体中の各層が複数の開口を有することにより、前記殺菌性複合材料を通した空気の循環を可能にしており; 前記複数の開口のそれぞれは、所定のサイズを有し、前記開口の前記所定のサイズは、前記編みおよび織りの1つの工程のインチ当たりのコースおよびインチ当たりのウェールで制御され」る点。 3 本願発明1と引用発明との相違点 本願発明1と引用発明とは次の点で相違する。 <相違点> (1)相違点1 本願発明1においては、「前記第3の所定ステッチ/糸密度が、前記第1の所定ステッチ/糸密度および前記第2の所定ステッチ/糸密度より小さいことにより、前記第1の層および前記第2の層の少なくとも1つが流体と接触したときの流体のウィッキングを可能にし」てるのに対して、引用発明ではその点が明らかでない点。 (2)相違点2 本願発明1においては、「前記三次元構造体の各層は、溶出しない形で殺菌剤と架橋された(cross linked)表面部分を有する、殺菌性複合材料」であるのに対して、引用発明においては、抗菌防臭加工がなされている点。 4 相違点についての判断 (1)相違点1について ア ステッチ/糸密度について 引用発明においては、外面層が総繊度75デニールの合成繊維マルチフィラメント及び単糸繊度20デニールの合成繊維モノフィラメントで形成されいるのに対して、中間層は、表と裏の外面層を連結する単糸繊度20デニールの合成繊維モノフィラメントで形成されていることから、ステッチ/糸密度については、外面層の方が中間層よりも高くなっていることは明らかである。 イ 流体のウィッキングについて 上記1(9)に記載されているように、引用発明においては、メッシュ調凹凸構造の外面層から吸水するとされており、しかも、「汗や雨水などで濡れてもべたつかず」というのであるから、水分は、メッシュ調凹凸構造の外面層から中間層に移動、すなわちウィッキングを可能としていることが推認できる。 ウ 以上ア、イから、相違点1は実質的な相違点ではない。 (2)相違点2について 引用発明を上記1(9)に記載された医療用布帛として用いる場合に、引用発明の抗菌性を更に強めるために、引用文献4及び7に記載された、殺菌剤を架橋させる処理を行うことは、当業者が容易になし得ることといえる。 (3)以上(1)、(2)より、本願発明1は、引用発明及び引用文献4及び7に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明といえる。 5 本願発明2?4に対して 本願発明2?4は、本願発明1の各層の厚さを特定するものであるが、どの程度の厚さとするかは、当業者が設計的に定めうるものであり、本願発明2?4における厚さとすることが困難であるということはできない。したがって、本願発明2?4は、引用発明及び引用文献4及び7に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明といえる。 6 審判請求人の主張に対して (1)審判請求人は、「『繊度』は『繊維』の特性を示すものであるのに対し、『ステッチ/糸密度』は『布地(fabric, cloth)』の特性を示すものであるから、両者は異なるものであることは明らかである。引用文献1には、布地の異なる層において『ステッチ/糸密度』を変化させることは、記載も示唆も全くされていない。引用文献1には、上述のように例えば実施例1において、布地を22ウェール/in、48コース/inという一定のステッチ/糸密度で、異なる層において異なる繊度の繊維を用いて編成することが開示されているに過ぎない。」旨主張する。 (2)しかしながら、原査定の理由においても、表面層と中間層との繊度の違いを糸密度の違いと混同しているとは認められない。表面層を構成する糸条に連結糸が含まれる以上、原査定における「立体織編物において、連結糸からなる中間層が外層よりも糸密度が低いことは自明」との指摘は妥当なものといえる。 7 審判請求書における補正案について 請求人は、審判請求書の(3)(i)において、 「審判請求人は、上述した本願発明の特徴をより明確に規定するために、請求項1を下記の通りに補正する用意がございます。したがって、補正をする機会を与えるべくさらなる拒絶理由通知を出していただきますよう、お願い申し上げます。 [請求項1] ・・(省略)・・」 と述べているが、上記したように原査定の拒絶の理由が妥当であると認められるところ、あらためて当審において拒絶の理由を通知し、補正の機会を与える特段の理由を見いだすことはできない。 第5 まとめ 以上のとおりであるから、本願発明1?4は、引用発明及び引用文献4及び7に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2018-12-27 |
結審通知日 | 2019-01-08 |
審決日 | 2019-01-21 |
出願番号 | 特願2016-513454(P2016-513454) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 北村 龍平 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
門前 浩一 竹下 晋司 |
発明の名称 | 殺菌性複合材料 |
代理人 | 大渕 一志 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 伊藤 正和 |
代理人 | 原 裕子 |