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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G01D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01D
管理番号 1352185
審判番号 不服2018-4259  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-29 
確定日 2019-06-06 
事件の表示 特願2016-518191「2つのコンパートメントハウジングを備えたプロセス変数トランスミッタおよびプロセス変数センサを使用する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 2日国際公開、WO2015/042929、平成28年10月27日国内公表、特表2016-533480〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成25年9月30日にされた国際特許出願である。
本願について、平成29年3月1日付けで拒絶理由が通知され、同年6月5日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲についての補正がなされたが、同年11月17日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、査定の謄本が同年同月29日に送達された。これに対し、翌平成30年3月29日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされた。

第2 本件補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1についての補正を含む。
本件補正前及び本件補正後の請求項1の記載は、以下のとおりである。なお、下線は補正箇所を示すために合議体が付したものである。

(1) 本件補正前
「【請求項1】
産業プロセスに用いられるプロセス変数トランスミッタにおいて、
その内部に形成されて第1および第2の開口の間に延びた空洞を有するハウジングと、
産業プロセスのプロセス変数を検知するように構成されたプロセス変数センサと、
前記空洞に取り付けられて当該空洞内で前記第1の開口側の第1のコンパートメント及び前記第2の開口側の第2のコンパートメントを定義するように構成され、それらの間にシールを提供する回路実装アッセンブリと、
前記第1のコンパートメント内で前記回路実装アッセンブリ上に実装され、プロセス変数センサからプロセス変数信号を受信して出力を提供する計測回路と、
前記第2のコンパートメント内で前記回路実装アッセンブリ上に実装されて前記計測回路の出力と電気的に接続され、トランスミッタ出力を提供する電気接続部と、
前記第2の開口に取り付けられたエンドキャップとを具備し、
前記エンドキャップが取り外された状態では前記電気接続部に第2の開口からオペレータがアクセス可能であることを特徴とするプロセス変数トランスミッタ。」

(2) 本件補正後
「【請求項1】
産業プロセスに用いられるプロセス変数トランスミッタにおいて、
その内部に形成されて第1および第2の開口の間に延びた空洞を有するハウジングと、
産業プロセスのプロセス変数を検知するように構成されたプロセス変数センサと、
前記空洞に取り付けられて当該空洞内で前記第1の開口側の第1のコンパートメント及び前記第2の開口側の第2のコンパートメントを定義するように構成され、それらの間にシールを提供する回路実装アッセンブリと、
前記第1のコンパートメント内で前記回路実装アッセンブリ上に実装され、プロセス変数センサからプロセス変数信号を受信して出力を提供する計測回路と、
前記第2のコンパートメント内で前記回路実装アッセンブリ上に実装されて前記計測回路の出力と電気的に接続され、トランスミッタ出力を提供する電気接続部と、
前記第2の開口に取り外し自在に取り付けられたエンドキャップとを具備し、
前記取り付けられていたエンドキャップを取り外した状態では前記電気接続部に第2の開口からオペレータがアクセス可能であることを特徴とするプロセス変数トランスミッタ。」

2 本件補正の適否
本件補正のうち、請求項1についての補正は、「プロセス変数トランスミッタ」が具備する「エンドキャップ」が「取り外し自在に」取り付けられるものである旨の限定を付加するとともに、「電気接続部に第2の開口からオペレータがアクセス可能である」のが「取り付けられていたエンドキャップを取り外した状態」である旨の限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下で検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2) 引用文献に記載された発明等
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2011-146436号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

(ア) 段落0001から段落0004まで
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に関し、特に各種の工業プラント等の測定現場またはその近傍に設置される現場型計器等に適用して好適な電子機器の基板組付け方法および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
工業プラント等の現場に設置される現場型計器としては、温度発信器、pH計変換器(例えば、特許文献1参照)、電流/圧力変換器(例えば、特許文献2、3参照)等が知られている。この種の現場型計器は、一般に筐体内に組み込まれた電子回路部と、端子部とを備え、これらを電気的に接続し、外部への通信を可能にしている。
【0003】
例えば、現場に設置される計測機器用発信器(以下、Txと称す)は、センサからのセンサ信号を、温度、圧力等の物理量に変換して表示する機能と、変換信号を他機器へ通信する機能とを備えた機器である。このTxは、センサが使われる現場に設置して使用される場合が多いことから、センサの配線等の機器取扱い時に、現場の環境に起因する負荷(温度、熱、水分、湿度、ガス等)に対する耐久性、安全性等が求められる(例えば、特許文献4?6参照)。
【0004】
このため、Txの取扱い時の環境に起因する負荷に対する耐久性を向上させるための筐体構造として、筐体内部を隔壁で区画したデュアルコンパートメント(Dual-Compartment)方式を採用したものが増えている。…(略)…」

(イ) 段落0018から段落0022まで
「【0018】
[実施の形態]
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1?図6において、本実施の形態は、電子機器の一種として熱電対または測温抵抗体を温度センサとして用い、電圧または電気抵抗値として検出した温度変化を直流の電流信号またはデジタル信号に変換して他の機器に伝送する現場設置型温度発信器10に適用した例を示す。この現場設置型温度発信器10は、筐体3内の隔壁3Aにシール部材としてのOリング12を介して着脱可能に取付けられた基板組立体11を備え、これに筐体内部を区画するデュアルコンパートメントと等価の機能を持たせている。
【0019】
筐体3の内周面には、前記基板組立体11を隔壁3Aに対して着脱可能に固定する4つの固定手段13が周方向に等間隔おいて突設されている。固定手段13は、図3および図4に示すように筐体3の軸線方向から見て半円形の突状体からなり、隔壁3Aの内周面に形成した凹陥部3Bに基端部が嵌合され、かつ接着剤によって固定されることにより先端部が基板組立体11が取付けられる面に対向している。隔壁3Aと固定手段13との間隔は、Oリング12の自然状態における直径と、後述する取付基板14の板厚を加えた値より小さく設定されている。
【0020】
基板組立体11は、取付基板14の表裏両面にそれぞれ取付けられた第1の電気部品としての電子回路部1と、第2の電気部品としての端子部2とで構成され、電子回路部1と端子部2を複数本の電線5によって電気的に接続し、これらをエポキシ樹脂等の封止材6によって封止している。このような基板組立体11は、筐体3の外部において組み立てられた後、筐体3内の隔壁3Aにシール部材としてのOリング12を介して取付けられることにより、隔壁3Aの穴部4を気密に封止する。
【0021】
電子回路部1は、ガラスエポキシ樹脂等の絶縁材料からなる回路基板7を有し、この回路基板7に温度センサ(図示せず)と、この温度センサから得られた検出値の演算処理や補正処理、外部との通信等を行うための電子回路と、測定された温度を表示する液晶表示装置16等が実装されている。
【0022】
電線5は、回路基板7、取付基板14および端子部2に形成した挿通孔17(17a、17b、17c)を貫通し、電子回路部1の電子回路および液晶表示装置16と端子部2の各端子2Aをそれぞれ接続している。なお、電線5は、予め電子回路部1に接続されていることが望ましい。」

【図1】

【図2】


(ウ) 段落0025
「【0025】
封止材6による封止は、水分、湿気、ガス等が挿通孔17を通過するのを遮断し、筐体3内の電子回路部1が組み込まれている区画Aを密閉空間にするとともに、電子回路部1、端子部2および電線5を固定するために行われるものである。」

(エ) 段落0027から段落0029まで
「【0027】
基板組立体11を隔壁3Aに組付けるときは、取付基板14の凹部18を固定手段13と一致させて基板組立体11を筐体3内に挿入する。そして、取付基板14を隔壁3Aと固定手段13との間に挿入し、Oリング12を隔壁3Aに押し付ける。このため、シール部材12は軸線方向に圧縮されて断面形状が図2に示すように縦長の楕円形に弾性変形する。
【0028】
次に、この状態で基板組立体11を図4に示すように所要角度回転させて凹部18を隣り合う固定手段13間に移動させ、固定手段13を取付基板14の表面に接触させる。これにより、基板組立体11が隔壁3AにOリング12を介して取付けられ、取付基板14が隔壁3Aの穴部4を閉塞する閉塞部材として機能し、隔壁3Aとともに筐体3の内部を区画しデュアルコンパートメント構造とする。
【0029】
しかる後、外部配線21(図2)の一端を筐体3内に差し込み、端子部2の端子2Aに接続することにより、基板組立体11の筐体3への組付け作業が終了する。なお、外部配線21は、基板組立体11を筐体3内に取付ける前に端子2Aに接続しておいてもよい。」

(オ) 段落0032
「【0032】
また、メンテナンス時には、基板組立体11を所要角度回転させて固定手段13と凹部18を一致させると、基板組立体11を隔壁3Aから容易に取り外すことができるので、メンテナンスも容易である。」

(カ) 段落0038
「【0038】
…(略)…
また、他の固定手段として、筐体3をアルミダイキャストによって製作した後、中ぐり加工によって突状体からなる複数の固定手段を筐体内壁に一体に形成してもよい。」

上記(ア)ないし(カ)の記載によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「 各種の工業プラント等の測定現場またはその近傍に設置される現場設置型温度発信器10であって、
アルミダイキャストによって製作した筐体3と、
温度センサと、
筐体3内の隔壁3Aにシール部材としてのOリング12を介して着脱可能に取付けられた基板組立体11と、を備え、
基板組立体11に筐体内部を区画するデュアルコンパートメントと等価の機能を持たせており、
基板組立体11は、取付基板14の表裏両面にそれぞれ取付けられた電子回路部1と端子部2とで構成され、電子回路部1と端子部2を複数本の電線5によって電気的に接続し、これらをエポキシ樹脂等の封止材6によって封止することで筐体3内の電子回路部1が組み込まれている区画Aを密閉空間とし、
電子回路部1は、ガラスエポキシ樹脂等の絶縁材料からなる回路基板7を有し、この回路基板7に温度センサと、この温度センサから得られた検出値の演算処理や補正処理、外部との通信等を行うための電子回路と、測定された温度を表示する液晶表示装置16等が実装されており、
電線5は、回路基板7、取付基板14および端子部2に形成した挿通孔17(17a、17b、17c)を貫通し、電子回路部1の電子回路および液晶表示装置16と端子部2の各端子2Aをそれぞれ接続しており、
基板組立体11が隔壁3AにOリング12を介して取付けられた後、外部配線21の一端を筐体3内に差し込み、端子部2の端子2Aに接続することにより、基板組立体11の筐体3への組付け作業が終了するものであり、
メンテナンス時には、基板組立体11を隔壁3Aから容易に取り外すことができる、
現場設置型温度発信器10。」

イ 引用文献3、引用文献5及び米国特許第4623266号明細書
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特表2000-513803号公報)及び引用文献5(特表平10-504106号公報)並びに合議体が新たに引用する米国特許第4623266号明細書(昭和61年11月18日公開)には、それぞれ図面とともに以下の記載がある。なお、下線及び訳文は合議体が付したものである。

(ア) 引用文献3
「発明の背景
本発明は電気素子のためのハウジングに関連する。より具体的には、本発明は、差圧送信器等、測定又は感知装置に関連するプロセス電子機器のための改良されたハウジングを提供する。
差圧送信器は、気体及び液体に関連する圧力、流量、又はその他の変数の測定を必要とするプロセス制御システムに於いて一般的に使用されている。」(第14頁第3行から第8行まで)

「ハウジングアセンブリ102は、第1軸112方向に延びるハウジング本体110を含み、このハウジング本体は、第1軸に直交する第2軸116方向に延びるカラー114を有する。本体110は、中空の内側チャンバを有する。本体110の内側チャンバへのアクセスを提供すべく、ハウジングアセンブリ102は、軸方向に向かい合う開放端部122及び124に対してネジにより取り付けられた、取り外し可能かつ取り替え可能な端部キャップ118及び120を有する。」(第23頁第14行から第20行まで)

【図1A】


(イ) 引用文献5
「 発明の分野
本発明は工業的プロセス制御装置に使用される送信機に関する。特に本発明は、高湿度すなわち湿った動作環境に好適なプロセス変数送信機に関する。
発明の背景
送信機は石油またはガス精製装置、化学物質貯蔵タンク工業、または化学処理プラントなどの多種の応用分野において、プロセス変数(PV)を感知する。プロセス変数は感知されたプロセスパラメータや感知された製品の特性などであり、絶対圧、圧力差、温度、流量、材料のレベルなどを含む。ある通常の送信機応用では、プロセスを代表するPVを感知して当該感知されたPVをケーブル配線を介して制御装置へ送信するのに、送信機が使用される。」(第5頁第8行から第17行まで)

「ハウジング102は筒状であり、筒形状の中心軸は丸い電子室端縁118の中心から丸い端子室端縁116の中心に延びている。端子室110は、端子室端縁116に蓋128を被せることによって形成される。電子室108は、電子室端縁118に蓋130を被せることによって形成される。」(第9頁第3行から第8行まで)

【図3】


(ウ) 米国特許第4623266号明細書
「As shown in FIGS. 1 and 2 and schematically in FIG. 3, a standard two wire transmitter housing indicated generally at 20 is made with two compartments, including a first compartment 21 in which the circuit boards for the necessary circuitry for the two wire controller are mounted. A second compartment indicated at 22 contains two terminal blocks 19 having screw terminals for connecting various components in place as mentioned.
(訳文:図1及び図2で示すように、また、模式的に図3で示すように、20で一般的に示される標準的な2線式送信器のハウジングは2つのコンパートメントからなっており、2線式の制御装置のために必要な回路のための回路基板が実装される第1のコンパートメント21を含んでいる。22で示される第2のコンパートメントは、上述のような種々の構成要素を定位置に接続するためのねじ端子を有する2つの端子ブロック19を含む。)」(第3欄第32行から第40行まで)

「A housing service cover 45, is removable (by unscrewing it) for calibration or other service.
(訳文:ハウジングサービスカバー45は、較正または他の保守点検のために(ネジを緩めることにより)取り外し可能である。」(第4欄第18行から第19行まで)

【図1】


上記(ア)及び(イ)によれば、本願の出願前において以下の技術が周知であったといえる。

「各種の工業プラント等で使用される送信器により、プロセス変数を検知して送信する技術。」

また、上記(ア)ないし(ウ)によれば、本願の出願前において以下の技術も周知であったといえる。

「各種の工業プラント等で使用される送信器において、ハウジングの開口に取り外し可能なキャップを被せる技術。」

(3) 対比・判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

(ア) 引用発明の「各種の工業プラント等の測定現場またはその近傍に設置される現場設置型温度発信器10」と、本件補正発明の「産業プロセスに用いられるプロセス変数トランスミッタ」とは、「変数トランスミッタ」である点で共通する。
また、引用発明の「温度センサ」と、本件補正発明の「産業プロセスのプロセス変数を検知するように構成されたプロセス変数センサ」とは、「変数を検知するように構成された変数センサ」である点で共通する。

(イ) 引用発明の「アルミダイキャストによって製作した筐体3」は、その内部に「基板組立体11」が取り付けられるものであるから、当然に空洞を有するものである。そして、引用発明の「基板組立体11」は、「取付基板14の表裏両面にそれぞれ取付けられた電子回路部1と端子部2とで構成され」、「筐体3内の隔壁3Aにシール部材としてのOリング12を介して着脱可能に取付けられ」て、「筐体内部を区画するデュアルコンパートメントと等価の機能を持たせ」られたものであるから、空洞内で、その「電子回路部1」側と「端子部2」側にそれぞれコンパートメントを定義するように構成され、それらの間にシールを提供しており、回路を実装するものであるといえる。
また、引用発明は、「基板組立体11が隔壁3AにOリング12を介して取付けられた後、外部配線21の一端を筐体3内に差し込み、端子部2の端子2Aに接続する」ものであることから、「端子部2」側のコンパートメントにおいて「アルミダイキャストによって製作した筐体3」に開口があることは明らかであり、さらに、「電子回路部1」の「回路基板7」には「測定された温度を表示する液晶表示装置16」が「実装」されていることから、これを外部から視認できるようにするため、「電子回路部1」側のコンパートメントにおいても「アルミダイキャストによって製作した筐体3」に開口があることは明らかである(上記(2)ア(イ)の図1も参照。)。なお、「筐体3内の電子回路部1が組み込まれている区画A」は「密閉空間」となるものであるが、このことは、「アルミダイキャストによって製作した筐体3」における「電子回路部1」側の開口が、少なくとも「液晶表示装置16」を視認する位置が透明である何らかの部材により封止されるということを意味するだけであって、開口があるとの認定を左右するものではない。
以上によれば、引用発明の「アルミダイキャストによって製作した筐体3」が、本件補正発明の「その内部に形成されて第1および第2の開口の間に延びた空洞を有するハウジング」に相当するといえ、また、引用発明の「基板組立体11」が、本件補正発明の「前記空洞に取り付けられて当該空洞内で前記第1の開口側の第1のコンパートメント及び前記第2の開口側の第2のコンパートメントを定義するように構成され、それらの間にシールを提供する回路実装アッセンブリ」に相当するといえる。なお、ここでは引用発明の 「アルミダイキャストによって製作した筐体3」における2つの開口のうち、「電子回路部1」側の開口が「第1の開口」に相当し、「端子部2」側の開口が「第2の開口」に相当するとしている。

(ウ) 引用発明の「電子回路部1」の「回路基板7」に「実装」される「温度センサから得られた検出値の演算処理や補正処理、外部との通信等を行うための電子回路」と、本件補正発明の「前記第1のコンパートメント内で前記回路実装アッセンブリ上に実装され、プロセス変数センサからプロセス変数信号を受信して出力を提供する計測回路」とは、「前記第1のコンパートメント内で前記回路実装アッセンブリ上に実装され、」「変数センサから」「変数信号を受信して出力を提供する計測回路」である点で共通する。

(エ) 引用発明の「基板組立体11」を構成する「端子部2」の「端子2A」は、「電線5」により「電子回路部1の電子回路」と「接続」され、かつ、「外部配線21の一端」が「接続」されるものである。ここで、引用発明が「温度発信器」であることを考慮すれば、「外部配線21」の少なくとも一部は、「温度センサから得られた検出値」に関する情報を外部に出力するものであることが明らかである。
よって、引用発明の「基板組立体11」を構成する「端子部2」の「端子2A」は、本件補正発明の「前記第2のコンパートメント内で前記回路実装アッセンブリ上に実装されて前記計測回路の出力と電気的に接続され、トランスミッタ出力を提供する電気接続部」に相当するといえる。

(オ) 引用発明の「メンテナンス時には、基板組立体11を隔壁3Aから容易に取り外すことができる」という事項は、「アルミダイキャストによって製作した筐体3」が有する「端子部2」側の開口によって実現されるということが明らかであるから、この事項と本件補正発明の「前記取り付けられていたエンドキャップを取り外した状態では前記電気接続部に第2の開口からオペレータがアクセス可能である」という事項とは、「電気接続部に第2の開口からオペレータがアクセス可能である」という点で共通する。

イ 一致点及び相違点
上記アの対比の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明とは、

「 変数トランスミッタにおいて、
その内部に形成されて第1および第2の開口の間に延びた空洞を有するハウジングと、
変数を検知するように構成された変数センサと、
前記空洞に取り付けられて当該空洞内で前記第1の開口側の第1のコンパートメント及び前記第2の開口側の第2のコンパートメントを定義するように構成され、それらの間にシールを提供する回路実装アッセンブリと、
前記第1のコンパートメント内で前記回路実装アッセンブリ上に実装され、変数センサから変数信号を受信して出力を提供する計測回路と、
前記第2のコンパートメント内で前記回路実装アッセンブリ上に実装されて前記計測回路の出力と電気的に接続され、トランスミッタ出力を提供する電気接続部とを具備し、
前記電気接続部に第2の開口からオペレータがアクセス可能であることを特徴とする変数トランスミッタ。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件補正発明では、変数トランスミッタが「産業プロセスに用いられるプロセス変数トランスミッタ」であって、変数センサが「産業プロセスのプロセス変数を検知するように構成されたプロセス変数センサ」であるのに対して、引用発明では、変数トランスミッタが「各種の工業プラント等の測定現場またはその近傍に設置される現場設置型温度発信器10」であって、変数センサが「温度センサ」ではあるものの、「温度センサ」が検知し「現場設置型温度発信器10」が発信する「温度」が、「産業プロセスのプロセス変数」であるかどうかは不明である点。

(相違点2)
本件補正発明では、第2の開口に「取り外し自在に取り付けられたエンドキャップ」を具備しており、「取り付けられていたエンドキャップを取り外した状態」で電気接続部にオペレータがアクセス可能であるのに対して、引用発明では、第2の開口に「取り外し自在に取り付けられたエンドキャップ」を具備しているかどうかが不明である点。

ウ 相違点についての判断
(ア) 相違点1について
上記(2)イで述べたように、「各種の工業プラント等で使用される送信器により、プロセス変数を検知して送信する」ことは周知の技術であって、同じく「各種の工業プラント等で使用される送信器」である引用発明の「現場設置型温度発信器10」においてそのような周知の技術を適用し、「現場設置型温度発信器10」を「産業プロセスに用いられるプロセス変数トランスミッタ」とし、「温度センサ」を「産業プロセスのプロセス変数」を検知するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(イ) 相違点2について
上記(2)イで述べたように、「各種の工業プラント等で使用される送信器において、ハウジングの開口に取り外し可能なキャップを被せる」ことは周知の技術であって、同じく「各種の工業プラント等で使用される送信器」である引用発明の「現場設置型温度発信器10」においてそのような周知の技術を適用し、「メンテナンス時には、基板組立体11を隔壁3Aから容易に取り外すことができる」ようにするために、「端子部2」側の開口に「取り外し可能なキャップ」を被せるようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
その結果、「取り外し可能なキャップ」を「取り外した状態」で、電気接続部にオペレータがアクセス可能となることは明らかである。

(4) むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明についての判断
1 本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1ないし請求項20に係る発明は、本願の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項20に記載された事項により特定されるとおりのものである。
特に、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に記載したとおりのものである。

2 原査定における拒絶理由の概要

理由1.この出願の請求項1ないし請求項3、請求項5ないし請求項8、請求項10、請求項13、請求項15及び請求項19に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2.この出願の請求項1ないし請求項20に係る発明は、以下の引用文献1ないし引用文献5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2011-146436号公報
引用文献2.特開平9-127066号公報
引用文献3.特表2000-513803号公報
引用文献4.特表2008-514012号公報
引用文献5.特表平10-504106号公報

3 引用文献に記載された発明等
引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記第2の2(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、「エンドキャップ」が「取り外し自在に」取り付けられるものである旨の限定、及び「電気接続部に第2の開口からオペレータがアクセス可能である」のが「取り付けられていたエンドキャップを取り外した状態」である旨の限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の2(3)及び(4)に記載したように、引用発明及び周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるのだから、本願発明も、同じ理由により、引用発明及び周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
本願発明は、引用発明及び周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-01-07 
結審通知日 2019-01-09 
審決日 2019-01-23 
出願番号 特願2016-518191(P2016-518191)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G01D)
P 1 8・ 121- Z (G01D)
P 1 8・ 575- Z (G01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫻井 仁  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 中塚 直樹
櫻井 健太
発明の名称 2つのコンパートメントハウジングを備えたプロセス変数トランスミッタおよびプロセス変数センサを使用する方法  
代理人 田邉 壽二  
代理人 阪本 清孝  

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