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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D01F
管理番号 1352189
審判番号 不服2018-6755  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-17 
確定日 2019-06-06 
事件の表示 特願2016-512121「織編物及び衣服」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月25日国際公開、WO2016/133196〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)2月19日(優先権主張 平成27年2月20日、平成27年10月15日 日本国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、次のとおりである。
平成29年3月28日付け :拒絶理由通知書
平成29年6月2日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年8月9日付け :拒絶理由通知書
平成29年10月12日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年3月6日付け :拒絶査定
平成30年5月17日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年11月16日付け :拒絶理由通知書
平成31年1月11日 :意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「単繊維繊度が1?8dtexの二酸化チタンを1.5?2.5質量%含有する繊維束を含み、前記繊維束の単繊維において、繊維軸に垂直方向の繊維断面形状が角を4?8個有する形状であり、目付が50?180g/m^(2)、防透性が95%以上、明度L^(*)値が50以上である織編物。」

第3 拒絶の理由
当審が通知した平成30年11月16日付け拒絶理由のうち本願発明に対する理由は、次の理由を含んでいる。
「本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2004-218153号公報
2.特開2006-9178号公報」

第4 引用文献の記載及び引用発明・事項
1.引用文献1(特開2004-218153号公報)
(1)引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、「・・・」は省略を意味する。

ア.【0001】
「【発明の属する技術分野】
本発明は、ストレッチ性と回復性、防透け性、ソフトなふくらみ感に優れた水着に関するものである。」

イ.【0014】
「【課題を解決するための手段】
・・・本発明の水着は、ポリウレタン弾性糸条とナイロン異成分混繊糸を含む糸条とが混合された編地からなり、前記ナイロン異成分混繊糸がナイロン6フィラメントとナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントとからなり、ナイロン6フィラメントが30?70重量%、ナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントが70?30重量%である異成分混繊糸を構成糸全体の70重量%以上含む編地であって、かつ、該編地のタテおよびヨコ方向の平均伸長率が70%以上、平均伸長回復率が75%以上であり、かつ、本文で定義する該編地のLY値が6%以下であることを特徴とするものである。」

ウ.【0015】
「【発明の実施の形態】
本発明に係る水着は、ポリウレタン弾性糸条とナイロン異成分混繊糸を含む糸条とが混合された編地からなり、該ナイロン異成分混繊糸がナイロン6フィラメントとナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントとからなり、ナイロン6フィラメントが30?70重量%、ナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントが70?30重量%である異成分混繊糸を構成糸に含むものである。」

エ.【0016】
「かかるナイロン異成分混繊糸は、製造コストの点から、図1に示されるような同一口金から吐出され、単糸が冷却固化された後、圧空により混繊・交絡されて製造されたものが好ましく、そのため混繊される成分の融点をできるだけ近づけることが製糸性の面から好ましくなる(図1において、1はナイロン異成分混繊糸用口金を示し、2はナイロン6成分の吐出する孔、3はナイロン6/ナイロン66共重合体成分の吐出する孔をそれぞれ示す)。」

オ.【0024】
「本発明における、かかるナイロン異成分混繊糸を構成するナイロン6フィラメントおよびナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントは、例えば図2のような装置を用いて製造することができる。ナイロン6、ナイロン6/ナイロン66共重合体をそれぞれ図2中の符号4で示される別々の紡糸筒から投入し、それぞれ熱源部で溶融し、図1のようなナイロン6、ナイロン6/ナイロン66共重合体が別々の孔から吐出されるように設計された同一紡糸口金より吐出され、図2中の符号5で示されるような冷却風装置で冷却され、図2中の符号6で示される給油装置で油剤を付与された直後に、図2中の符号7で示されるような交絡装置で圧空圧0.15?0.30MPaの流体で交絡された後に、図2中の符号8、9で示されるようなローラー(図1中、8は冷ローラー、9はホットローラーを示す)間で延伸、図2中の符号10で示されるような巻き取り機で巻き取られることにより製造されることが好ましいが、これに限定されない。このような同一口金吐出、冷却、給油、交絡・混繊、延伸、巻き取りと1つの工程の中で混繊糸を製造することは、工程の省略化になり、大幅なコストメリットが得られる。また、このような1工程で製造することにより、ナイロン異成分混繊糸を構成する2成分の間に糸長差を生じる前に延伸することができる。」

カ.【0021】
「・・・ナイロン異成分混繊糸は、単糸繊度が0.1?11デシテックス、総繊度が22?165デシテックスのフィラメント糸条から構成されることが好ましい。単糸繊度を11デシテックス以下とすることで、水着の風合いをソフトなものとし、水着用として好ましく使用することができる。また、0.1デシテックス以上、さらに好ましくは、1.1デシテックス以上とすることで製糸が良好となる。・・・」

キ.【0035】
「例えば、紫外線遮蔽効果を発揮させるためには、ナイロン異成分混繊糸を構成するナイロン6フィラメントおよび/または、ナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントにに対して、酸化チタンを、0.5?7重量%含有することが好ましい。・・・」

ク.【0036】
「本発明における、かかるナイロン異成分混繊糸の断面は、丸断面、三角断面、マルチローバル断面、扁平断面、ダルマ型断面、C型断面、M型断面、H型断面、X型断面、W型断面、I型断面、+型断面などいづれの断面を用いることができ、さらには、ナイロン6フィラメントとナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントは同じ断面であってもよいし、異なる断面であってもよい。」

ケ.【0037】
「また、本発明の水着用の編地の構成糸に対するナイロン異成分混繊糸の混率は、70重量%以上、好ましくは80重量%以上であることが重要である。この混率が70重量%未満の場合は、ソフトなふくらみ感がなく、防透け性に劣る。かかるナイロン異成分混繊糸の編地への混用方法としては、例えばポリウレタン系弾性繊維との通常の交編、交撚、引き揃え、カバーリング、混繊などを採用することができ、水着種別の狙い用途、編地形成法、編組織などに応じて適宜使い分ければよい。」

コ.【0040】
「本発明において、編地の目付は100?330g/m^(2) とすることが好ましい。目付を100g/m^(2) 以上とすることで、水着の防透け効果を得ることができる。一方、330g/m^(2)以下とすることで、編地としては重くなり過ぎず、着用した場合も、重く感じたり動きが妨げられず、着用性も良好である。」

サ.【0046】
「本発明の水着に用いる編地のLY値は6%以下のものであることが重要である。このLY値は、下記に示す方法で測定することができるが、水着用の編地の防透け性程度を示すものである。本発明のナイロン異成分混繊糸を混率70%重量以上とすることにより、ふくらみ感が増し光透過性を抑えることから防透け性が満足される。」

シ.【0047】
「すなわち、スガ試験機(株)製の測色計SM-3型を用いて測定する。まず、測定サンプル設置部における黒さを確認する。即ち、測定部に黒色に染色されたフェルト布を取り付け、フェルト布のL値(明度)が14±0.5%であることを確認する。」

ス.【0048】
「次に、測定サンプル設置部における白さを確認する。即ち、測定部に標準白板を取り付け、標準白板のL値(明度)が91±0.5%であることを確認する。これらの確認手順は、生地のL値(明度)を測定する通常法であり、一般化されている方法である。白度の高い生地のL値は91%近くになり、逆に黒い生地のL値は14%に近くなる。」

セ.【0049】
「次に試験片の測定を以下のように行う。まず、黒色フェルト布と試験片1枚とを測定部に取り付けてL値を測定し、測定値をLRとする。さらに標準白板と同一の試験片とを測定部に取り付けてL値を測定し、測定値をLWとし、LWとLRとの差(LW-LR)を求めて、防透け性LY値(%)とする。」

ソ.【0050】
「防透け性LY値(%)=(LW-LR)
白色系から肌色、黄色、ピンク色、クリーム色、薄青色などの中淡色系の水着の防透け性効果を十分にもたせる観点からは、LY値が低いほど好適であり、5%以下が好ましく、4%以下がさらに好ましい。黒色、濃紺色などの濃色系の場合は、メッシュ調の編地、あるいは、特に薄い編地にしない限り4%以下のLY値を達成できるものの、この防透け性を満足させる編地設計であることが好ましい。」

タ.【0051】
「本発明の水着は、適宜選択することにより、次のように幅広く展開可能である。例えば、競泳用水着、遊泳用水着、学童用水着、フィットネス用水着、スイミングスクール用水着、リハビリ用水着などに好ましく使用することができる。」

チ.【0052】
「また、水着用の編地は一般的に、水泳帽子、レオタード、アスレ用タイツ、アスレ用アンダーハーフパンツ、サイクル用パンツなどにも使用されるため、この編地もこの用途に好ましく応用使用できる。」

ツ.【図1】




テ.【図2】




(2)上記(1)について、次の技術的事項を認定することができる。

ア.引用文献1の上記(1)キ.には、「紫外線遮蔽効果を発揮させるためには・・・酸化チタンを、0.5?7重量%含有することが好ましい。」と記載されているところ、紫外線遮蔽効果がある酸化チタンは二酸化チタンであるのが技術常識である(例えば、特開平5-230716号公報の【0022】参照。)から、引用文献1の前記「酸化チタン」は二酸化チタンであるといえる。

イ.引用文献1の上記(1)ク.には、「本発明における、かかるナイロン異成分混繊糸の断面は、丸断面、三角断面、マルチローバル断面、扁平断面、ダルマ型断面、C型断面、M型断面、H型断面、X型断面、W型断面、I型断面、+型断面などいづれの断面を用いることができ、」と記載されている。しかしながら、引用文献1の上記(1)エ.、オ.、ツ.及びテ.によると、本発明のナイロン異成分混繊糸は、ナイロン6フィラメントとナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントという単糸を圧空により混繊・交絡させ、その後、延伸して巻き取ることで製造されるものであるが、技術常識からすると、単にこのような製造方法を採ることでは、結果として得られるナイロン異成分混繊糸がM型断面やX型断面などの複雑な断面となることは考えにくい。
一方、製糸の技術分野において、紡糸口金の吐出孔の形状を工夫することで、単糸について、様々な断面形状を得ることが常套手段であることからすると(例えば、特開平9-273096号公報の【0010】、【図面の簡単な説明】、【図1】?【図6】参照)、上記「本発明における、かかるナイロン異成分混繊糸の断面は、丸断面、三角断面・・・などいづれの断面を用いることができ、」は、「本発明における、かかるナイロン異成分混繊糸を構成するナイロン6フィラメントおよびナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントの断面は、丸断面、三角断面・・・などいづれの断面を用いることができ、」と解するのが相当である。
このように解することは、引用文献1の上記(1)ク.における「本発明における、かかるナイロン異成分混繊糸の断面は、丸断面、三角断面・・・などいづれの断面を用いることができ、」という前段の記載と、「さらには、ナイロン6フィラメントとナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントは同じ断面であってもよいし、異なる断面であってもよい。」という後段の記載が、ナイロン6フィラメントおよびナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントに丸断面や三角断面などのものを用いることができる上に、この2つのフィラメントが同じ断面でも異なる断面でもよいという意味となり、前段の記載と後段の記載を連続的に解することができることとも整合する。
ゆえに、引用文献1の上記(1)ク.には、ナイロン6フィラメントとナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントである単糸の断面は、丸断面、三角断面、マルチローバル断面、扁平断面、ダルマ型断面、C型断面、M型断面、H型断面、X型断面、W型断面、I型断面、+型断面などいづれの断面を用いることができることが示されているといえる。

ウ.引用文献1の上記(1)ソ.には、「白色系から肌色、黄色、ピンク色、クリーム色、薄青色などの中淡色系の水着の防透け性効果を十分にもたせる観点からは、LY値が低いほど好適であり、5%以下が好ましく、4%以下がさらに好ましい。」と記載されており、引用文献1には、色合いを白色系から中淡色系とし得ることが示唆されている。

エ.引用文献1の上記(1)タ.及びチ.の記載から、引用文献1には、編地を水着の他、「レオタード、アスレ用タイツ、アスレ用アンダーハーフパンツ、サイクル用パンツ」に例示されるスポーツウェアに用い得ることが示されているといえる。

(3)上記(1)及び(2)を踏まえると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「単糸繊度が0.1?11デシテックスの二酸化チタンを0.5?7重量%含有するナイロン異成分混繊糸を含み、前記ナイロン異成分混繊維糸はナイロン6フィラメントとナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントである単糸を含み、目付が100?330g/m^(2)、防透け性LY値が5%以下であり、色合いを白色系から中淡色系とし得る水着に用い得る編地。」

2.引用文献2(特開2006-9178号公報)
(1)引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.【0001】
「本発明は、中空を有するナイロン繊維の改良に関するものである。さらに詳しくは、耐潰れ性、耐擦過性を損なうことなく布帛のソフト性を向上させ、軽量・保温性に優れ、スポーツウェアやインナーウェア、カバン地等の用途に好適なナイロン中空繊維に関するものである。」

イ.【0016】
「本発明のナイロン中空繊維の繊維横断面における中空部の占める面積、即ち中空率は、10?30%の範囲内であることを要する。中空率が10%未満では製品とした時の軽量・保温性の効果が不十分である。中空率が高いほど、軽量・保温性が高まるので好ましいが、あまりにも高過ぎると高次加工工程において繊維横断面の潰れが発生し易くなるので、得られる繊維製品において所望の中空率を保持することができない。しかも、高過ぎる中空率では繊維製品を使用中においても繊維横断面の潰れが発生し易く、所望の特性を維持することが難しい。これらの点から、中空率は30%以下であることが必要であり、特に20?25%の中空率が好ましい。」

ウ.【0032】
「本発明のナイロン中空繊維は、中空部を有していればその形状はいかなるものでもよい。例を挙げると円形中空部や多角中空部、さらには複数の中空部を持つ田型中空部などが挙げられる・・・また、本発明のナイロン中空繊維の外周形状は、円状であることが好ましいが、三角形状でもよく、他の多角形状でもよい。」

エ.【0036】
「図1および図2はそれぞれ本発明の繊維断面形状と吐出孔形状を模式的に示したものであるが、図2a、図2bの吐出孔形状は、それぞれ、図1a、図1bの中空繊維を得るために使用できるものであり、このスリットよりポリマを吐出する際の吐出線速度は3?10cm/secとすることが、所望の中空率を有する中空繊維を糸ムラ無く、紡糸性良く製造するために好ましい。」

オ.【0073】
「【図1】本発明のナイロン中空繊維の繊維横断面形状を模式的に例示する繊維断面図である。
【図2】図1のナイロン中空繊維を製造する際の吐出孔の形状を模式的に例示する吐出孔平面図である。」

カ.【0074】
「1:繊維部、 2:中空部、 3:スリット、 a:スリット巾、 b:スリット内径」

キ.【図1】




ク.【図2】




(2)上記(1)について、次の技術的事項を認定することができる。

ア.引用文献2の上記(1)ウ.には、「本発明のナイロン中空繊維の外周形状は・・・三角形状でもよく、他の多角形状でもよい。」と記載されているところ、通常、繊維の外周形状とは繊維軸に垂直方向の繊維断面形状を意味するのが技術常識であるから、引用文献2には、ナイロン中空繊維の繊維軸に垂直方向の繊維断面形状を、三角形状その他多角形状とし得ることが示されているといえる。

イ.引用文献2の上記(1)エ.?ク.の記載ないし図示に、スリットからポリマを吐出することで1本の一体的なナイロン中空繊維が得られることが示されていることからすると、引用文献2のナイロン中空繊維は単繊維であるといえる。

(3)上記(1)及び(2)を踏まえると、引用文献2には次の事項(以下、「引用文献2事項」という。)が記載されているといえる。
「布帛のソフト性を向上させ、軽量・保温性に優れ、スポーツウェアの用途に好適なナイロン中空繊維であって、単繊維である前記ナイロン中空繊維において、繊維軸に垂直方向の繊維断面形状を三角形状その他多角形状とし得るナイロン中空繊維。」

第5 引用発明との対比
1.(1)本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1における「単糸繊度」、「デシテックス」、「重量%」、「ナイロン異成分混繊糸」、「ナイロン6フィラメントとナイロン6/ナイロン66共重合体フィラメントである単糸」、「目付」、「編地」は、それぞれ、本願発明における「単繊維繊度」、「dtex」、「質量%」、「繊維束」、「単繊維」、「目付」、「織編物」に相当する。
また、引用発明1の「防透け性LY値」は、上記第4の1.(1)サ.?ソ.の摘記事項によると、低いほど透けを防止する度合いが高いことを示す指標といえ、本願発明の「防透性」は、次の(2)に示す本願明細書の【0040】及び【0057】の記載によると、高いほど透けを防止する度合いが高いことを示す指標といえるから、引用発明1における「防透け性LY値が5%以下」と本願発明における「防透性が95%以上」は、少なくとも、「透けを防止する度合いが高い」という限りで一致する。
本願発明の「明度L^(*)値が50以上」は、次の(2)に示す本願明細書の【0041】の記載によると、色合いが中色より薄い色であることを意味するといえるから、引用発明1における「色合いを白色系から中淡色系とし得る」と本願発明における「明度L^(*)値が50以上」は、少なくとも、「色合いが中色より薄い色であり得る」という限りで一致する。

(2)本願明細書の記載事項
ア.【0040】
「本発明の織編物は、防透性が95%以上である。防透性が95%以上であれば、下着等が透けるのが気にならないレベルである。防透性の観点から、前記防透性は95.2%以上がより好ましい。」

イ.【0057】
「〔防透性(%)〕
30cm×30cmの織物試料を、雰囲気温度が20℃、湿度が65%に管理された試験室に24時間静置した。前記織物試料を、白タイルの上に重ねて置き、分光光度計を使用して明度を測定した。さらに黒タイルの上に試料を重ねて置き、分光光度計を使用して明度を測定した。
防透性(%)=(黒タイル使用時の明度(L^(*)値)/白タイル使用時の明度(L^(*)値))×100
試験機器:HunterLab分光光度計UltraScanPRO、
測定条件:視野10度、光源D65、正反射光を除去した。」

ウ.【0041】
「本発明の織編物は、明度L^(*)値が50以上である。
明度L^(*)値は、色の濃さを示す指標であり、0?100の範囲で示される。0は黒色で濃色であり、100は白色で淡色である。
防透性は、色により性能が異なり、織編物の色が薄くなる程、その効果が低下するが、本発明では、織編物の明度L^(*)値が50以上の中色より薄い色であっても、防透性の効果が高いものである。・・・」

2.そうすると、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「二酸化チタンを含有する繊維束を含み、透けを防止する度合いが高く、色合いが中色より薄い色であり得る織編物。」

<相違点1>
繊維束の単繊維繊度について、本願発明では、1?8dtexであるのに対し、引用発明1では、0.1?11デシテックスである点。

<相違点2>
繊維束について、本願発明では、二酸化チタンを1.5?2.5質量%含有するのに対し、引用発明1では、二酸化チタンを0.5?7質量%含有する点。

<相違点3>
単繊維について、本願発明では、繊維軸に垂直方向の繊維断面形状が角を4?8個有する形状であるのに対して、引用発明1では、どのような形状であるかは特定されていない点。

<相違点4>
織編物の目付について、本願発明では、50?180g/m^(2)であるのに対して、引用発明1では、100?330g/m^(2)である点。

<相違点5>
本願発明では、防透性が95%以上であるのに対して、引用発明1では、防透け性LY値が5%以下である点。

<相違点6>
織編物の色合いについて、本願発明では、明度L^(*)値が50以上であるのに対して、引用発明1では、色合いを白色系から中淡色系とし得るものの、具体的な明度L^(*)値は明らかでない点。

第6 判断
1.<相違点1>について検討する。
引用文献1には、上記第4の1.(1)カ.に摘記したとおり、「単糸繊度を11デシテックス以下とすることで、水着の風合いをソフトなものとし、水着用として好ましく使用することができる。また、0.1デシテックス以上、さらに好ましくは、1.1デシテックス以上とすることで製糸が良好となる。」と記載されている。
そうすると、引用発明1の、単繊維繊度は、0.1?11デシテックスの範囲において、求められる風合いや製糸性に応じて、当業者が適宜に決定し得るものであり、当該範囲内の1.1デシテックスとすることが「さらに好まし」いとされているのであるから、上記<相違点1>に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

2.<相違点2>について検討する。
引用文献1には、上記第4の1.(1)キ.の摘記事項及び第4の1.(2)ア.の認定事項からすると、紫外線遮蔽効果を発揮させるために二酸化チタンを含有することが示されている。
そうすると、引用発明1の、二酸化チタンの含有量は、その0.5?7質量%の範囲内で当業者が適宜に決定し得るものであるところ、具体的に求められる紫外線遮蔽効果に応じて、この範囲中の1.5?2.5質量%とする程度のこと、すなわち、上記<相違点2>に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば必要に応じて容易になし得たことである。

3.<相違点3>について検討する。
引用発明1は、水着用ではあるが、上記第4の1.(2)エ.に示したように、水着専用ではなく「レオタード、アスレ用タイツ、アスレ用アンダーハーフパンツ、サイクル用パンツ」に例示されるように広くスポーツウェアに用い得るものであり、一般にスポーツウェアでは通常、ソフト性や軽量性が求められるほか、アウトドアスポーツなどの種目によっては保温性も求められるものもあることが当業者にとって自明の課題であるところ、引用発明1について、スポーツウェア用途に適したものである点で軌を一にする引用文献2事項を採用することの動機付けは十分に認められる。そして、引用文献1には、上記第4の1.(2)イ.に示したように、単糸の断面形状として丸断面以外の三角断面のほか、多角断面形状を用い得ることが示唆されているところ、引用文献2事項において、単繊維の繊維軸に垂直方向の繊維断面形状を三角形状その他多角形状とし得ることが示され、多角形として四角形?八角形は特に格別なものではなく一般的なものであることを踏まえると、引用発明1について、単糸の繊維断面形状を四角形状?八角形状(角を4?8個有する形状)とし、もって、<相違点3>に係る本願発明の構成となすことは、当業者であれば容易になし得たことである。

4.<相違点4>について検討する。
引用文献1には、上記第4の1.(1)コ.に摘記したとおり、「本発明において、編地の目付は100?330g/m^(2) とすることが好ましい。目付を100g/m^(2) 以上とすることで、水着の防透け効果を得ることができる。一方、330g/m^(2)以下とすることで、編地としては重くなり過ぎず、着用した場合も、重く感じたり動きが妨げられず、着用性も良好である。」と記載されている。
そうすると、引用発明1の、目付は100?330g/m^(2)の範囲内で当業者が適宜に設定し得るものであるところ、具体的に求められる防透け効果及び着用性に応じて、この範囲中の100?180g/m^(2)とする程度のこと、すなわち、<相違点4>に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば必要に応じて容易に得たことである。

5.<相違点5>について検討する。
上記第5の1.(1)で述べたとおり、引用発明1の「防透け性LY値」は、低いほど透けを防止する度合いが高いことを示す指標といえ、本願発明の「防透性」は、高いほど透けを防止する度合いが高いことを示す指標といえる。
ここで、引用文献1には、上記第4の1.(1)ソ.に摘記したとおり、「白色系から肌色、黄色、ピンク色、クリーム色、薄青色などの中淡色系の水着の防透け性効果を十分にもたせる観点からは、LY値が低いほど好適であり、5%以下が好ましく、4%以下がさらに好ましい。」と記載されており、防透け性LY値は低いほど好ましいことが示されている。そうすると、引用発明1において、防透け性LY値を低くするに際して具体的に、防透性にして95%以上程度とすること、すなわち、<相違点5>に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

6.<相違点6>について検討する。
引用発明1は、色合いを白色系から中淡色系とし得るものであり、白は明度L^(*)が100に近いものである。
そうすると、引用発明1において、明度L^(*)にして50以上とする程度のことは、当業者であれば容易になし得たことである。

7.そして、<相違点1>?<相違点6>を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明1及び引用文献2事項から当業者であれば予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。

8.なお、出願人は、平成31年1月11日に提出した意見書の「10-1.補正発明1について」の欄において、
(1)「補正発明1は、基本織編物の繊維束の単繊維における、繊維軸に垂直方向の繊維断面形状を「角を4?8個有する形状」と規定しています。このような形状の繊維束を用いることにより、補正発明1の織編物は、繊維表面での光の屈折による透け防止効果および最密充填できることによる遮熱効果を発揮することができます(当初明細書の段落[0012])。」、
(2)「水着、水泳帽子、レオタード、アスレ用タイツ、アスレ用アンダーハーフパンツ、サイクル用パンツなど」を、「水着等」というとした上で、「引用文献2の「ナイロン中空繊維」は、軽量・保温性に優れるという物性・特性が求められるスポーツウェア等に用いられますが(引用文献2の段落[0001])、引用文献1の「水着等」に求められている物性・性能は、優れたストレッチ性、回復性、防透け性、ソフトなふくらみ感ですので、引用文献1の「水着等」において、軽量・保温性に優れるという物性・特性が求められるスポーツウェア等に用いられる、引用文献2の「ナイロン中空繊維」に関する事項を採用することに動機付けがあるとはいえません。」、
(3)「引用文献2には、「ナイロン中空繊維」の外形形状について、「本発明のナイロン中空繊維の外周形状は、円状であることが好ましいが、三角形状でもよく、他の多角形状でもよい。」(段落[0032])と記載され、また、図1には、「ナイロン中空繊維」の繊維断面図が示されていますが、補正発明1の繊維束の単繊維のように、繊維軸に垂直方向の繊維断面形状を「角を4?8個有する形状」とすることは具体的に開示されていません。」、「さらに、引用文献2の「ナイロン中空繊維」の外形形状は、補正発明1の繊維束の単繊維のように、繊維表面での光の屈折による透け防止効果や最密充填できることによる遮熱効果を意図したものではありません。」、「したがって、引用文献2の「ナイロン中空繊維」の外形形状を、補正発明1の繊維束の単繊維のように、「角を4?8個有する形状」とすることに動機付けがあるとはいえません。」
と主張している。
しかしながら、上記(1)の主張については、本願発明について、「基本織編物の繊維束の単繊維における、繊維軸に垂直方向の繊維断面形状を「角を4?8個有する形状」と規定」しても、繊維断面形状について、角の個数が単に4?8個であることのみ特定されるにすぎず、角の間の辺の形状や長さまでは特定されないから、繊維表面での光の屈折による透け防止効果および最密充填できることによる遮熱効果を発揮することができるとは必ずしもいえないものであって、請求の範囲の記載に基づかないものであり、当を得たものとはいえない。
また、上記(2)の主張については、上記3.に説示したとおりであり、引用発明1において引用文献2事項を採用する動機があるといえる。
また、上記(3)の主張については、上記3.に説示したとおりであり、引用発明1について、単繊維の繊維軸に垂直方向の繊維断面形状を角が4?8個有する形状とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
したがって、出願人の上記主張を採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用文献2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-26 
結審通知日 2019-04-02 
審決日 2019-04-15 
出願番号 特願2016-512121(P2016-512121)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (D01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 細井 龍史久保田 葵岩田 行剛平井 裕彰  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 西藤 直人
佐々木 正章
発明の名称 織編物及び衣服  
代理人 林 司  
代理人 小林 均  

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