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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1352197
審判番号 不服2019-2210  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-18 
確定日 2019-06-06 
事件の表示 特願2015-82880「二軸延伸シート及び成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月6日出願公開、特開2016-175393〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成27年4月14日の出願であって、平成30年8月10日付けで拒絶理由が通知され、平成30年10月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年11月15日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)され、平成31年2月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.原査定の理由
原査定は、平成30年10月1日の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に関し、本願の出願前に頒布された刊行物である、引用文献1(特開2004-67955号公報)及び引用文献2(特開2001-105489号公報)を引用し、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。

3.当審の判断
(1)本願発明
「【請求項1】
アクリロニトリル及びスチレンをモノマー単位として含み、前記アクリロニトリル/前記スチレンの質量比が18/82?30/70である共重合体を含有する樹脂組成物を二軸延伸してなる二軸延伸樹脂層と、
前記二軸延伸樹脂層の少なくとも一方の表面を被覆する被覆層であって、(A)ショ糖ラウリン酸エステル、及び(B)エステル部分の炭素数が16以上かつ不飽和度が1以下であり、HLBが12以上であるショ糖脂肪酸エステルを含有する被覆層と、を備える二軸延伸シート。」

(2)引用文献1及び2の記載事項並びに引用発明
ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系透明樹脂シートを、ショ糖ラウリン酸エステル70?99質量%とHLBが12以上のショ糖ステアリン酸エステル30?1質量%とを含有してなる防曇剤で表面処理したことを特徴とする防曇性スチレン系透明樹脂シート。
・・・・
【請求項4】
スチレン系透明樹脂シートとして、2軸延伸GPポリスチレンシートを用いることを特徴とする請求項1乃至3記載のいずれか1項記載の防曇性スチレン系透明樹脂シート。
【請求項5】
請求項1乃至4記載のいずれか1項記載の防曇性スチレン系透明樹脂シートを用いて得られることを特徴とする成形品。
【請求項6】
成形品が食料品包装容器であることを特徴とする請求項5記載の成形品」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、防曇効果、シート外観、シートの高温多湿時の保管性に優れた防曇性スチレン系透明樹脂シート及びその成形品に関する。更に詳しくは包装材分野等に広く用いられているスチレン系透明樹脂シートに対し、防曇効果、シート外観、夏期の倉庫保管を考慮したシートの高温多湿時の保管性に優れた特性を付与したスチレン系透明樹脂シート及びその成形品に関するものである。」
(ウ)「【0002】
【従来の技術】
スチレン系透明樹脂シートやその成形品は包装、被覆材として広く使用されているが、その表面が疎水性の為に気温や湿度の変化により凝集した水分が微小水滴となり表面に付着する、いわゆる曇りが発生することがある。その曇りにより収納物の見分けが困難となり、商品価値を低下させる原因となる場合が多かった。
(エ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような技術状況の基で、防曇効果、シート外観、夏期の倉庫保管を考慮したシートの高温多湿時の保管性に優れたスチレン系透明樹脂シート及びその成形品を提供することを目的とする。」
(オ)「【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の構成からなる防曇剤を使用することによって本発明に達したものである。すなわち、本発明は、スチレン系透明樹脂シートをショ糖ラウリン酸エステル70?99質量%とHLBが12以上のショ糖ステアリン酸エステル30?1質量%を含有してなる防曇剤で表面処理して得た防曇性スチレン系透明樹脂シート及びそのシートを用いて得た成形品とすることによって課題を解決したものである。
【0006】
以下に本発明を詳しく説明する。
本発明の防曇剤はショ糖ラウリン酸エステルとHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)が12以上のショ糖ステアリン酸エステルを必須とする。
・・・・
【0008】
本発明は、HLBが12以上のショ糖ステアリン酸エステルを使用することが必須であり、好ましくはHLBが13以上、特に好ましくはHLBが14以上である。HLBが12より小さいと水への溶解性に劣る。その為、水溶液でシートに塗布する場合シート表面への均一な表面処理が難しく、塗布ムラが発生し易くなる。なお、HLBが12未満のショ糖ステアリン酸エステルを含有することもできるが、その場合用いる全ショ糖ステアリン酸エステル中において、HLBが12以上の割合が70質量%以上であることが好ましい。
【0009】
本発明の防曇剤中のショ糖ラウリン酸エステルとHLBが12以上のショ糖ステアリン酸エステルの割合は、ショ糖ラウリン酸エステルが70?99質量%、ショ糖ステアリン酸エステル30?1質量%である。・・・・ショ糖ラウリン酸エステルが70質量%より小さいと防曇効果に劣る。また、ショ糖ステアリン酸エステルが1質量%より小さいと高温多湿時の保管性に劣り、30質量%より大きいと防曇効果に劣る。」
(カ)「【0011】
本発明の防曇性スチレン系透明樹脂シートに用いるスチレン系透明樹脂シートとは、スチレン系透明樹脂を成形加工して得た防曇剤で処理する前のシートである。スチレン系透明樹脂には、スチレン系単量体の単独重合体、スチレン系単量体の共重合体、スチレン系単量体に共重合可能な単量体を共重合して得た共重合体及びそれらの混合物が挙げられる。
・・・・
【0013】
これらスチレン系単量体の単独重合体又は、スチレン系単量体の共重合体としてはスチレンを重合して得られるGP(一般用)ポリスチレンが好ましい。また、スチレン系単量体に共重合可能な単量体を共重合して得た共重合体としては、メタクリル酸-スチレン共重合体、、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-メタクリル酸-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体が好ましい。」
(キ)「【0018】
本発明の防曇性スチレン系透明樹脂シートとは食料品の包装材或いは被覆材として使用されるので、この防曇性スチレン系透明樹脂シートを通して収納物が確認出来る透明性が必要である。また、この防曇性スチレン系透明樹脂シートの厚みは特に限定されることはなく、一般に100μm?10mmである。このシートは成形して容器にも用いられる。また、該防曇性スチレン系透明樹脂シートの透明性として好ましくはHaze(ヘーズ)が10以下であり、更に好ましくはHazeが5以下である。
【0019】
本発明の成形品とは防曇性スチレン系透明樹脂シートを圧空成形、真空成形、真空圧空成形等を用いて成形された食料品を包装する蓋容器やフードパックである。」
(ク)「【0020】
【実施例】
以下に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0021】
実施例1
スチレン系透明樹脂シートは、縦方向に2.5倍、横方向に2.5倍延伸した厚み0.3mmの2軸延伸GPポリスチレンシートを用いた。なお、2軸延伸GPポリスチレンシートのHazeは日本電色工業社製測定機NDH-1001DPにて測定したが、2.0%未満であった。
また、防曇剤としてはラウリン酸が70質量%であるショ糖ラウリン酸エステルで、かつそのショ糖ラウリン酸エステルの40質量%水溶液を用い、HLBが15でステアリン酸が70質量%であるショ糖ステアリン酸エステルを用いて、ショ糖ラウリン酸エステルとショ糖ステアリン酸エステルを固形分割合で95質量%と5質量%になるように調整して得た。更にこの防曇剤を1.5質量%水溶液に希釈して、シート表面の防曇剤の固形分が0.1g/m^(2) に塗布したシートを得た。また、そのシートを用い、蓋容器(200mm長×120mm幅×50mm高さ)を成形した。・・・・」

イ 引用文献1は、「防曇性スチレン系透明樹脂シート」に関して記載され、この「防曇性スチレン系透明樹脂シート」は、上記記載事項(ア)によれば、「スチレン系透明樹脂シート」を、「ショ糖ラウリン酸エステル」と「HLBが12以上のショ糖ステアリン酸エステル」を含有する「防曇剤」で表面処理したものである。
また、上記記載事項(ア)及び(ク)によれば、「スチレン系透明樹脂シート」には、「2軸延伸GPポリスチレンシート」を用い、「防曇剤」は、「ラウリン酸が70質量%であるショ糖ラウリン酸エステル」と「HLBが15でステアリン酸が70質量%であるショ糖ステアリン酸エステル」を、「ショ糖ラウリン酸エステルとショ糖ステアリン酸エステルを固形分割合で95質量%と5質量%になるように調整して得た」ものであり、この「防曇剤」を、シート表面の「防曇剤」の固形分が0.1g/m^(2)に塗布して、「防曇性スチレン系透明樹脂シート」が得られるものである。
そうすると、引用文献1には、以下の「引用発明」が記載されているものと認められる。
「スチレン系透明樹脂シートを、ショ糖ラウリン酸エステルとHLBが12以上のショ糖ステアリン酸エステルを含有する防曇剤で表面処理した防曇性スチレン系透明樹脂シートであって、
スチレン系透明樹脂シートには、2軸延伸GPポリスチレンシートを用い、防曇剤は、ショ糖ラウリン酸エステルと、HLBが15のショ糖ステアリン酸エステルを、ショ糖ラウリン酸エステルとショ糖ステアリン酸エステルを固形分割合で95質量%と5質量%になるように調整して得たものであり、この防曇剤を、シート表面の防曇剤の固形分が0.1g/m^(2)に塗布して得られた、防曇性スチレン系透明樹脂シート。」

ウ 引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0002】
【従来の技術】スチレン系樹脂をベースとする二軸延伸シートは、成形性および透明性が高いため、食品容器のなどの種々の用途に利用されている。しかし、スチレン系樹脂は、耐熱性および耐油性が十分でない。また、スチレン系樹脂の二軸延伸シートを折り曲げ加工すると、折り曲げ部が白化する。そのため、折り曲げ加工により容器(例えば、箱など)を作製しても、外観および商品価値を損なう。」
(イ)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、機械的強度、耐衝撃性、耐熱性および耐油性の高いスチレン系樹脂シートおよびその製造方法、ならびに前記シートを用いた容器を提供することにある。」
(ウ)「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、AS樹脂を特定の条件で延伸処理すると、成形性や加工性を高めつつ、機械的特性、耐熱性、耐油性および透明性に優れたAS樹脂の特性を有効に発現できる二軸延伸シートが得られることを見いだし、本発明を完成した。」
(エ)「【0016】前記シアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体との使用割合は、耐熱性および耐油性を向上でき、しかも折り曲げ部の白化を抑制できる範囲で選択でき、通常、5/95?35/65(重量比)、好ましくは10/90?35/65(重量比)、特に15/85?35/65(重量比)程度である。・・・・」
(オ)「【0025】スチレン系樹脂シートは、AS樹脂をベースとしているため、透明性も高く、例えば、JIS K 7105に準拠して測定したヘーズ値は、厚み180μmにおいて、20%以下(0?20%、例えば、0.3?20%)、好ましくは0.3?10%、さらに好ましくは0.3?5%、特に0.3?1.5%程度である。・・・」
(カ)「【0031】なお、前記スチレン系樹脂シートには、押し出しラミネート、又は接着剤(酢酸ビニル系接着剤,エチレン-酢酸ビニル系共重合体接着剤,ウレタン系接着剤など)を用いるドライラミネートなどによりフィルム(ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレンなど)を積層してもよい。さらに、スチレン系樹脂シートの表面には、表面改質剤、防曇剤、帯電防止剤、離型剤(エマルジョンなどの形態のポリシロキサンなど)などを塗布してもよい。」
(キ)「【0033】本発明のスチレン系樹脂シートは、種々の用途、例えば、種々の成形品、例えば、容器(トレー類、箱やボックスなど)の製造に利用できる。」
(ク)「【0034】
【発明の効果】本発明のスチレン系樹脂シートは、AS樹脂をベースとし、かつ二軸延伸されているので、機械的強度、耐衝撃性、耐熱性および耐油性が高い。また、透明性、成形加工性及び折り曲げ加工性に優れ、折り曲げ部の白化を防止できる。」
(ケ)「【0036】実施例1
スチレン-アクリロニトリル共重合体(ダイセル化学工業(株)製、品名;セビアンN 050、アクリロニトリル(AN)24重量%)を押出し機により、Tダイを用いてシート状に押出し、二軸延伸機で延伸温度125℃、延伸速度10%/秒で縦方向及び横方向にそれぞれ2倍に延伸して、厚さ180μmの二軸延伸シートを得た。
【0037】実施例2
スチレン-アクリロニトリル共重合体(ダイセル化学工業(株)製、品名;セビアンN 020SF、AN26重量%)を押出し機により、Tダイを用いてシート状に押出し、二軸延伸機で延伸温度125℃、延伸速度10%/秒にて縦方向及び横方向にそれぞれ2.5倍に延伸して、厚さ180μmの二軸延伸シートを得た。
【0038】実施例3
スチレン-アクリロニトリル共重合体(ダイセル化学工業(株)製、品名;セビアンN 080SF、AN30重量%)を押出し機により、Tダイを用いてシート状に押出し、二軸延伸機で延伸温度125℃、延伸速度35%/秒にて縦方向及び横方向にそれぞれ3倍に延伸して、厚さ180μmの二軸延伸シートを得た。」

(3)本願発明について
ア 本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「2軸延伸GPポリスチレンシート」は、2軸延伸されたスチレン系樹脂の層をなすものともいえるから、引用発明の「2軸延伸GPポリスチレンシート」と、本願発明の「アクリロニトリル及びスチレンをモノマー単位として含み、前記アクリロニトリル/前記スチレンの質量比が18/82?30/70である共重合体を含有する樹脂組成物を二軸延伸してなる二軸延伸樹脂層」とは、二軸延伸されたスチレン系樹脂層という限りで一致する。
また、引用発明の「防曇剤」は、シート表面に対して、固形分が0.1g/m^(2)に塗布され、シート表面を固形分として残り被覆する「防曇剤」の層をなすから、本願発明の「被覆層」に相当するものであり、引用発明の「HLBが15のショ糖ステアリン酸エステル」は、ステアリン酸エステルが、炭素数18の飽和脂肪酸エステルであることから、本願発明の「エステル部分の炭素数が16以上かつ不飽和度が1以下であり、HLBが12以上であるショ糖脂肪酸エステル」に相当する。
そして、引用発明の「2軸延伸GPポリスチレンシート」を「防曇剤」により表面処理した「防曇性スチレン系透明樹脂シート」は、本願発明の「二軸延伸樹脂層」を「被覆層」により被覆した「二軸延伸シート」に相当するものといえる。

イ そうすると、本願発明と引用発明は、
「二軸延伸されたスチレン系樹脂層と、
この二軸延伸されたスチレン系樹脂層の少なくとも一方の表面を被覆する被覆層であって、ショ糖ラウリン酸エステル、及びエステル部分の炭素数が16以上かつ不飽和度が1以下であり、HLBが12以上であるショ糖脂肪酸エステルを含有する被覆層と、を備える二軸延伸シート。」
であることで一致し、以下の点で相違する。
《相違点》
二軸延伸されたスチレン系樹脂層の材料について、本願発明が「アクリロニトリル及びスチレンをモノマー単位として含み、前記アクリロニトリル/前記スチレンの質量比が18/82?30/70である共重合体を含有する樹脂組成物」であるのに対し、引用発明は「ポリスチレン」である点。

ウ 上記相違点について検討する。
(ア)引用文献1(上記記載事項(3)ア(カ))には、防曇剤により表面処理するスチレン系樹脂層の材料として、引用発明のポリスチレンのほか、アクリロニトリル-スチレン共重合体等のスチレン系の樹脂組成物を用い得ることが記載されている。
そして、引用発明の「防曇性スチレン系透明樹脂シート」は、「食料品の包装材或いは被覆材として使用されるので、この防曇性スチレン系透明樹脂シートを通して収納物が確認出来る透明性が必要」(引用文献1の上記記載事項(3)ア(キ))とされる。また、食料品の包装材或いは被覆材として、油を含む食料品や加熱された食料品を包むことが想定されることから、所定の耐油性及び耐熱性が必要であり、商品として流通させる以上、ある程度の機械的強度も求められることが明らかである。
(イ)この点、引用文献2には、「機械的特性、耐熱性、耐油性および透明性に優れたAS樹脂の特性を有効に発現できる二軸延伸シート」(段落【0008】)と記載され、そのような特性を有するスチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)からなるシートは、食品などの容器の製造に利用できる(段落【0002】、【0033】)とされている。
さらに、引用文献2の段落【0016】には、耐熱性および耐油性の向上のため、シアン化ビニル単量体(アクリロニトリル)と芳香族ビニル単量体(スチレン)との使用割合を、特に15/85?35/65(重量比)程度とすることが好ましいと記載され、実施例として、アクリロニトリルを、24重量%(実施例1)、26重量%(実施例2)、30重量%(実施例3)、それぞれ含むスチレン-アクリロニトリル共重合体からなる二軸延伸シートが記載されている。ここで、アクリロニトリル24重量%のスチレン-アクリロニトリル共重合体とは、アクリロニトリルとスチレンの含有割合が、24/76(重量比)を指すものと理解できる。
(ウ)引用文献1には、防曇剤により表面処理するスチレン系樹脂層の材料として、引用発明のポリスチレンのほか、アクリロニトリル-スチレン共重合体等のスチレン系の樹脂組成物を用い得ることが記載されているところ、引用発明の「防曇性スチレン系透明樹脂シート」を、食料品の包装材或いは被覆材として用いる上で求められる透明性や、機械的特性、耐熱性及び耐油性について、引用文献2には、スチレン-アクリロニトリル共重合体を用いてシートを構成したときに、優れた特性を持つことが記載されていることから、当該記載事項を引用発明に適用しようとする動機が十分にあり、この引用文献2の記載を踏まえ、引用発明の「防曇性スチレン系透明樹脂シート」のスチレン系樹脂層の材料として、アクリロニトリル-スチレン共重合体を採用することは、当業者にとって容易である。
その際、アクリロニトリル-スチレン共重合体中のアクリロニトリルとスチレンとの含有割合を具体的に設定するにあたり、引用文献2には、アクリロニトリルとスチレンとの含有割合について、好適なアクリロニトリルの含有割合の例として、アクリロニトリルを24重量%、26重量%、30重量%とすることが記載されているから、アクリロニトリル/スチレンの重量比の範囲を、18/82?30/70の範囲内である、24/76(重量比)、26/74(重量比)または30/70(重量比)に限定して設定することも、当業者にとって困難なこととはいえない。また、重量比と質量比は、同義である。
よって、引用発明の「防曇性スチレン系透明樹脂シート」のスチレン系樹脂層の材料として、アクリロニトリル及びスチレンをモノマー単位として含み、アクリロニトリル/スチレンの質量比が18/82?30/70である共重合体を含有する樹脂組成物を選択することは、当業者が容易に想到することができたものである。
(エ)請求人は、審判請求書(5頁下から6行?6頁14行)において、引用文献1に記載された発明の課題は、「防曇効果、シート外観、夏期の倉庫保管を考慮したシートの高温多湿時の保管性に優れたスチレン系透明樹脂シート及びその成形品を提供すること」であり(引用文献1の段落[0004])、耐油性や耐熱性については発明の課題に挙げられておらず、引用文献1に記載の発明において、耐油性や耐熱性を向上させるために引用文献2を組み合わせる動機がないため、上記相違点に係る本願発明の構成は、引用文献1及び引用文献2から当業者が容易に想到し得るとはいえない旨、主張する。
しかし、前記(ア)で述べたように、引用文献1には、収納物が確認出来る透明性が必要との課題について記載され、また、食料品の包装材或いは被覆材として使用することが想定される以上、使用される樹脂シートには、耐油性、耐熱性及び機械的強度を満たすことが求められるものである。
そのため、引用発明の「防曇性スチレン系透明樹脂シート」のスチレン系樹脂層の材料として、それらの特性を備える材料について記載する引用文献2を参酌する動機付けがあるといえるものであり、請求人の、引用文献1に引用文献2を組み合わせる動機がないとの主張は、当を得たものではない。
(オ)また、請求人は、審判請求書(7頁下から5行?9頁6行)において、本願発明に係る二軸延伸シートが色相にも優れるという効果は、引用文献2から当業者が予測し得ない効果であり、アクリロニトリル/スチレンの質量比が18/82?30/70の範囲内であるか範囲外であるかによって、その性能(色相、耐油性及び耐熱性)には明確な差が生じており、このような本願発明の効果は、引用文献1に記載の発明の効果とは異質な効果である旨、主張する。
しかし、耐油性及び耐熱性に係る効果については、前記(イ)で述べたように、引用文献2の実施例の記載等に基づき、アクリロニトリルの含有割合を調整することにより、当業者であれば予測し得る効果である。
また、前記(ウ)で述べたように、引用文献2には、本願発明にアクリロニトリル/スチレンの質量比として特定される「18/82?30/70」の範囲内である、24/76、26/74または30/70に設定することが記載されており、それらから得られる効果からみて、色相に係る効果は、当業者にとって予測される範囲を超えた顕著なものとはいえない。
(カ)よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)まとめ
以上のように、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-19 
結審通知日 2019-03-26 
審決日 2019-04-11 
出願番号 特願2015-82880(P2015-82880)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 團野 克也  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 門前 浩一
井上 茂夫
発明の名称 二軸延伸シート及び成形品  
代理人 清水 義憲  
代理人 中塚 岳  
代理人 吉住 和之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 阿部 寛  

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