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審決分類 審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  A23F
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  A23F
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  A23F
審判 全部申し立て 発明同一  A23F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A23F
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A23F
管理番号 1352269
異議申立番号 異議2018-700149  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-21 
確定日 2019-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6184627号発明「焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法および焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6184627号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕、〔14-22〕について訂正することを認める。 特許第6184627号の請求項1ないし14、16ないし22に係る特許を維持する。 特許第6184627号の請求項15に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6184627号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?22に係る特許についての出願は、平成28年12月16日に出願した特願2016-244867号の一部を平成29年2月17日に新たな特許出願としたものであって、平成29年8月4日にその特許権の設定登録がされ、平成29年8月23日に特許掲載公報が発行され、これに対して平成30年2月21日に特許異議申立人 山下 千恵美(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1?22に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。
そして、その後の手続は以下のとおりである。
・平成30年5月2日付け取消理由通知(発送日:平成30年5月8日)
・平成30年7月5日に特許権者による意見書並びに訂正請求書及び訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の提出
・平成30年8月22日に申立人による意見書の提出
・平成30年10月15日付け訂正拒絶理由通知(発送日:平成30年10月17日)
・平成30年11月15日に特許権者による意見書の提出
・平成30年12月18日付け取消理由通知(発送日:平成30年12月21日)
・平成31年2月15日に特許権者による意見書並びに訂正請求書及び訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成31年2月15日に提出された訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?22について訂正すること(以下、「本件訂正」という。)を求めるものであって、訂正の内容は以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
なお、先の平成30年7月5日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に「前記吸着剤は、香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容され、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有する、」と記載されているのを、「前記吸着剤は、香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容され、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有し、前記微粉および薄片が除去されたガスの流路に、該流路から分岐し、かつ前記香気化合物吸着装置と連通する導入路を設け、前記導入路および前記吸着剤に前記微粉および薄片が除去されたガスの一部のみを通気して前記香気化合物を回収する、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3ないし4、6ないし13も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項2に「前記焙煎コーヒー豆粗粉砕物から前記微粉および薄片を除去する工程を、前記微粉および薄片をガスから除去する工程よりも前に行う、請求項1に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。」と記載されているのを、「焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含み、前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物および前記微粉および薄片を含むガスから前記微粉および薄片を除去する工程と、前記微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、前記香気化合物を前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、前記吸着剤から前記香気化合物を回収して、前記香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程と、を含み、前記吸着剤は、香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容され、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有し、前記焙煎コーヒー豆粗粉砕物から前記微粉および薄片を除去する工程を、前記微粉および薄片をガスから除去する工程よりも前に行う、焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3?13も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項1-3
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法」と記載されているのを、「請求項2に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法」に訂正する。

(4)訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項14に「前記香気化合物吸着装置は、吸着剤が収容された吸着剤収容部を有し、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有する、」と記載されているのを、「前記香気化合物吸着装置は、吸着剤が収容された吸着剤収容部を有し、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有し、前記第2の流路から分岐する導入路を更に備え、該導入路は前記香気化合物吸着装置と連通している、」に訂正する(請求項14の記載を引用する請求項16ないし22も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項15を削除する。

(6)訂正事項2-3
特許請求の範囲の請求項16に「請求項14または15に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」と記載されているのを、「請求項14に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」に訂正する。

(7)訂正事項2-4
特許請求の範囲の請求項17に「請求項14?16のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」と記載されているのを、「請求項14又は16に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」に訂正する。

(8)訂正事項2-5
特許請求の範囲の請求項18に「請求項14?17のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」と記載されているのを、「請求項14、16および17のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」に訂正する。

(9)訂正事項2-6
特許請求の範囲の請求項19に「請求項14?18のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」と記載されているのを、「請求項14および16?18のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」に訂正する。

(10)訂正事項2-7
特許請求の範囲の請求項20に「請求項14?19のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」と記載されているのを、「請求項14および16?19のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」に訂正する。

(11)訂正事項2-8
特許請求の範囲の請求項21に「請求項14?20のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」と記載されているのを、「請求項14および16?20のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」に訂正する。

(12)訂正事項2-9
特許請求の範囲の請求項22に「請求項14?21のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」と記載されているのを、「請求項14および16?21のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」に訂正する。

なお、訂正前の請求項1?13において、請求項2?13が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?13〕に対して請求されたものである。
また、訂正前の請求項14?22において、請求項15?22が、訂正の請求の対象である請求項14の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔14?22〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1-1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1における、微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気することについて、訂正後の請求項1において、訂正前の請求項5に記載された、微粉および薄片が除去されたガスの流路の具体的な態様に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1-1は、特許明細書等の訂正前の請求項5の記載に基づいて訂正するものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1-1は、上記アのとおり特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項1-2について
ア 訂正の目的について
訂正事項1-2は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項1の記載を引用しないものとして、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改める訂正であって、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1-2は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1-2は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)訂正事項1-3について
ア 訂正の目的について
訂正事項1-3は、訂正前の請求項5の記載が訂正前の請求項1?4の記載を引用する記載であったものを、請求項2のみを引用するものとして、引用する請求項の選択肢を削除する訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1-3は、引用する請求項の選択肢を削除する訂正であるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1-3は、引用する請求項の選択肢を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(4)訂正事項2-1について
ア 訂正の目的について
訂正事項2-1は、訂正前の請求項14における香気化合物吸着装置が、微粉および薄片が除去されたガスが通過可能な第2の流路と連通したことについて、訂正後の請求項14において、訂正前の請求項15に記載された、「前記第2の流路から分岐する導入路を更に備え、該導入路は前記香気化合物吸着装置と連通している」という具体的な態様に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2-1は、特許明細書等の訂正前の請求項15の記載に基づいて訂正するものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2-1は、上記アのとおり特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(5)訂正事項2-2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2-2は、訂正前の請求項15の記載を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2-2は、訂正前の請求項15の記載を削除するものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2-2は、訂正前の請求項15の記載を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(6)訂正事項2-3?2-9について
ア 訂正の目的について
訂正事項2-3?2-9は、それぞれ順に訂正前の請求項16?22の記載が請求項15を含む複数の先行する請求項を引用する記載であったものを、請求項15の記載を引用しないものとして、引用する請求項の選択肢を削除する訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2-3?2-9は、引用する請求項の選択肢を削除する訂正であるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2-3?2-9は、引用する請求項の選択肢を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、訂正後の請求項1?22に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?22に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含み、
前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物および前記微粉および薄片を含むガスから前記微粉および薄片を除去する工程と、
前記微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、前記香気化合物を前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、
前記吸着剤から前記香気化合物を回収して、前記香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程と、
を含み、
前記吸着剤は、香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容され、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有し、
前記微粉および薄片が除去されたガスの流路に、該流路から分岐し、かつ前記香気化合物吸着装置と連通する導入路を設け、
前記導入路および前記吸着剤に前記微粉および薄片が除去されたガスの一部のみを通気して前記香気化合物を回収する、焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項2】
焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含み、
前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物および前記微粉および薄片を含むガスから前記微粉および薄片を除去する工程と、
前記微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、前記香気化合物を前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、
前記吸着剤から前記香気化合物を回収して、前記香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程と、
を含み、
前記吸着剤は、香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容され、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有し、
前記焙煎コーヒー豆粗粉砕物から前記微粉および薄片を除去する工程を、前記微粉および薄片をガスから除去する工程よりも前に行う、焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記微粉および薄片を除去する工程を微粉薄片除去装置で行う、請求項1または2に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項4】
気流発生装置を用いて前記ガスの流れを発生させる、請求項1?3のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記微粉および薄片が除去されたガスの流路に、該流路から分岐し、かつ前記香気化合物吸着装置と連通する導入路を設け、
前記導入路および前記吸着剤に前記微粉および薄片が除去されたガスの一部のみを通気して前記香気化合物を回収する、請求項2に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記吸着剤が、スチレンジビニルベンゼン共重合体、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼンの共重合体、2,6-ジフェニル-9-フェニルオキサイドの重合体、メタアクリル酸とジオールの重縮合ポリマーおよび修飾シリカゲルから選択される1以上である、請求項1?5のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記回収工程で有機溶媒を用いて前記吸着剤から前記香気化合物を脱着する、請求項1?6のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒がエタノールまたはプロピレングリコールである、請求項7に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項9】
前記吸着剤に流入するガスの線速度が0.1?35.0m/sの範囲内である、請求項1?8のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項10】
前記ガスの通気方向が、重力方向と反対方向である、請求項1?9のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項11】
前記香気化合物吸着装置が、前記吸着剤が収容された流動層カラムである、請求項1?10のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項12】
前記吸着剤に流入するガスの線速度を調整する工程を含む、請求項1?11のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項13】
前記吸着剤に流入するガスの線速度の調整を、送風装置または吸引ポンプを用いて行う、請求項12に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項14】
焙煎コーヒー豆の粉砕装置と、
前記粉砕装置と連通し、前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガスが通過可能な第1の流路と、
前記第1の流路と連通し、前記微粉および薄片を除去する微粉薄片除去装置と、
前記微粉薄片除去装置と連通し、前記微粉および薄片が除去されたガスが通過可能な第2の流路と、
前記第2の流路と連通した香気化合物吸着装置と、
前記粉砕装置から前記香気化合物吸着装置まで連続した気流を発生させる気流発生装置と、
を備え、
前記香気化合物吸着装置は、吸着剤が収容された吸着剤収容部を有し、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有し、
前記第2の流路から分岐する導入路を更に備え、該導入路は前記香気化合物吸着装置と連通している、焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項15】(削除)
【請求項16】
前記粉砕装置と前記第1の流路の間に、微粉薄片予備除去装置をさらに備える、請求項14に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項17】
前記吸着剤の前記ガスの通気方向が、重力方向と反対方向である、請求項14又は16に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項18】
前記香気化合物吸着装置が、前記吸着剤が収容された流動層カラムである、請求項14、16および17のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項19】
前記微粉および薄片が除去されたガスの線速度を調整する線速度調整装置をさらに備える、請求項14および16?18のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項20】
前記線速度調整装置が送風装置または吸引ポンプである、請求項14および16?19のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項21】
前記吸着剤収容部に収容された吸着剤部分の断面直径が10mm以上である、請求項14および16?20のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項22】
前記吸着剤収容部に収容された吸着剤部分の前記ガスの通気方向の長さが1000mm以下である、請求項14および16?21のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。」

2 取消理由(決定の予告)について
平成30年12月18日付け取消理由通知書により、平成30年7月5日に提出された訂正請求書により請求された訂正のうち、訂正後の請求項〔5?13〕、〔15?22〕について訂正することを認めた上で、概ね次の(1)に示す取消理由(決定の予告)が特許権者に対して通知された。
ここで、申立人が提出した証拠方法を以下の(2)に示す。
(1)取消理由(決定の予告)の概要
本件特許の請求項1、3、4、6?14及び16?22に係る発明は、本件特許の出願の日前に出願されたものとみなされる特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願の日前に出願されたものとみなされる特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、本件特許の請求項1、3、4、6?14及び16?22に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許の請求項1、3、4、6?14及び16?22に係る特許は、特許法第113条2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立人の提出した証拠方法
甲第1号証:特願2017-122732号(特開2017-218592号)
甲第2号証:実願昭56-123632号(実開昭58-31022号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実願昭62-196607号(実開平1-99417号)のマイクロフィルム
甲第4号証:実願昭48-120977号(実開昭50-66496号)のマイクロフィルム
甲第5号証:米国特許第1649781号明細書
甲第6号証:実公昭58-9778号公報
甲第7号証:国際公開第2009/041640号
甲第8号証:特開2013-216831号公報
甲第9号証:特開2003-33137号公報
甲第10号証:特表平9-505993号公報
甲第11号証:特開平10-165099号公報
甲第12号証:特開昭58-6230号公報
甲第13号証:特表2006-500060号公報
甲第14号証:実願昭60-95745号(実開昭62-6416号)のマイクロフィルム

3 甲各号証について
(1)甲第1号証について
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「甲第1号証の明細書等」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
植物性材料の焙煎時、焙煎後、粉砕時又は粉砕後に放出される香気成分を吸着剤に吸着させ、次いで吸着剤に吸着した香気成分を溶媒で溶出することを特徴とする、香気成分の捕集方法。
【請求項2】
植物性材料が、種子類又は茶類である、請求項1に記載の香気成分の捕集方法。
【請求項3】
吸着剤が、シリカゲル、ゼオライト及び活性炭からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の香気成分の捕集方法。
【請求項4】
溶媒が、水、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、1-ブチルアルコール、2-ブチルアルコール、プロピレングリコール、グリセリン、アセトン、エチルメチルケトン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、ジクロロメタン及び食用油脂からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載の香気成分の捕集方法。」

(イ)「【0001】
本発明は、植物性材料の焙煎時、焙煎後、粉砕時又は粉砕後に放出される香気成分を捕集する方法に関する。」

(ウ)「【0006】
本発明の目的は、植物性材料の焙煎時、焙煎後、粉砕時又は粉砕後に放出される好ましい香りの香気成分を、効率良く捕集する方法を提供することである。」

(エ)「【0013】
本発明の香気成分の捕集方法においては、植物性材料の焙煎時、焙煎後、粉砕時又は粉砕後に放出される香気成分を吸着剤に吸着させる。また、植物性材料としては、既に粉砕した植物性材料を用いて、それの焙煎時又は焙煎後に放出される香気成分を吸着剤に吸着させてもよく、既に焙煎した植物性材料を用いて、それの粉砕時又は粉砕後に放出される香気成分を吸着剤に吸着させてもよい。良好な香りの香気成分が高い収率で得られやすいという観点から好ましいのは、既に焙煎した植物性材料を用いて、それの粉砕時に放出される香気成分を吸着剤に吸着させる方法である。
【0014】
植物性材料の焙煎時、焙煎後、粉砕時又は粉砕後に放出される香気成分は、キャリアガスと共に吸着剤に搬送することにより、香気成分を吸着剤に効率的に吸着できる。キャリアガスとしては、水蒸気、空気、不活性ガス(窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等)等が挙げられる。水蒸気では植物性材料に熱を加えることにもなり、香りの変性が懸念されるが、空気、不活性ガスでは常温のガスを用いることができるためより好ましい。キャリアガスは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
吸着剤としては、植物性材料から放出されるガスを吸着できるものであれば特に制限はなく、例えば、シリカゲル、ゼオライト、活性炭等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、シリカゲルである。吸着剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
溶媒としては、吸着剤に吸着した香気成分を溶出できるものであれば特に制限はなく、水系溶媒、非水系溶媒が挙げられる。水系溶媒としては、水、低級アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、1-ブチルアルコール、2-ブチルアルコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、低級ケトン(アセトン、エチルメチルケトン等)等が挙げられる。非水系溶媒としては、炭化水素(ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等)、エーテル(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、エステル(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタン等)、食用油脂等が挙げられる。溶媒は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒のうち好ましいのは、水、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、1-ブチルアルコール、2-ブチルアルコール、プロピレングリコール、グリセリン、アセトン、エチルメチルケトン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、ジクロロメタン及び食用油脂からなる群から選ばれる1種以上である。
【0017】
吸着剤に吸着した香気成分を溶媒で溶出する方法については特に制限はなく、例えば、香気成分が吸着した吸着剤を上記の溶媒に浸漬する方法が挙げられる。浸漬時間は、好ましくは30分間?24時間である。吸着剤を溶媒に浸漬した後、ろ過、デカンテーション等の方法で吸着剤を分離することにより、香気成分が溶媒に溶解した溶液(以下、「香気成分溶液」という)を得ることができる。吸着剤に吸着した香気成分を溶媒に効率的に溶出させるためには、香気成分が吸着した吸着剤を粉砕してもよい。また、香気成分が吸着した吸着剤をカラム状に円筒缶へ投入し、先に記載の溶媒を通液して香気成分を溶出させることもできる。」

(オ)「【0018】
本発明の、植物性材料の粉砕時に放出される香気成分の捕集方法について、図面を用いて以下に説明する。
【0019】
図1は、植物性材料の粉砕時に放出される香気成分を捕集する装置の概略図である。図1に示すように、植物性材料1は、ミル装置2に備えられた粉砕ミル部3によって粉砕され、植物性材料粉砕物4になる。植物性材料1は、予め焙煎したもの、焙煎していないもののいずれであってもよい。植物性材料粉砕物4は、密閉容器5内に投入される。
【0020】
植物性材料粉砕物4から放出される香気成分は、香気成分出口6から出て、配管7を経由してスポンジフィルター8に導入される。香気成分は、上記のキャリアガスと共にスポンジフィルター8に導入してもよい。スポンジフィルター8では、香気成分と共に搬送された植物性材料粉砕物4が除去される。
【0021】
スポンジフィルター8を通過した香気成分は、配管7を経由して吸着剤10が充填された香気成分吸着缶9に導入され、吸着剤10に吸着される。
【0022】
植物性材料1からは、香気成分以外の揮発性成分も放出されるが、吸着剤10に吸着されない揮発性成分は、送ガスポンプ11により、配管7を経由して系外に排出される。」

(カ)「【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
コーヒーミル((株)エフ・エム・エル製、「CM-450」)の粉砕豆排出口に、粉砕豆が入るよう10L密閉容器を設置した。10L容器上部に香気成分出口を設けた。香気成分出口の先に、コーヒー豆粉砕時に発生する微粉が吸着剤に混入することを防ぐために、スポンジフィルターを取り付けた。香気成分吸着缶には、吸着剤としてシリカゲル(富士シリシア化学(株)製、「CARiACT Q-3」)50gを充填したカラムを設置した(図1参照)。
【0030】
焙煎したコーヒー豆(コロンビア豆、L値=23)3kgをコーヒーミルホッパーへ投入し、ダイアルを粗めに合わせて、粉砕を開始した。粉砕開始と同時に、0.075m^(3)/分の流量で送ガスポンプを稼動して空気を通風し、香気成分を吸着剤に吸着させた。コーヒー豆の粉砕開始から7分間経過したところで、コーヒー豆の粉砕は終了した。コーヒー豆の粉砕終了後も、引き続き香気成分を吸着剤に吸着させ、コーヒー豆の粉砕開始から40分間、香気成分を吸着剤に吸着させた。香気成分が吸着した吸着剤を取り出し、吸着剤をオスタライザーブレンダーミキサーにて15秒間粉砕した。
【0031】
粉砕した吸着剤に60質量%のエタノール水溶液を50g投入し、攪拌混合した。16時間静置後、濾紙で濾過して吸着剤を除去し、さらに吸着剤を60質量%のエタノール水溶液90gで洗い、本発明の香料組成物A100gを得た。」

(キ)「



イ 上記アの記載から分かること
(ア)上記ア(ア)?(キ)(特に、(オ)?(キ))によれば、甲第1号証の明細書等には、次のa及びbに示す事項が開示されていることが分かる。
a 焙煎されたコーヒー豆を粉砕して、微粉を含む焙煎されたコーヒー豆の粉砕物を得る工程を含み、
前記焙煎されたコーヒー豆の粉砕時に焙煎されたコーヒー豆から発生する香気成分および前記微粉を含むキャリアガスをスポンジフィルターに導入して前記微粉を除去する工程と、
前記微粉が除去されたキャリアガスを吸着剤に通気して、前記香気成分を前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、
前記吸着剤から前記香気成分を捕集して、前記香気成分を含有する香料組成物を得る捕集工程と、
を含む、焙煎されたコーヒー豆からの香料組成物の製造方法。

b 焙煎されたコーヒー豆の粉砕をするためのコーヒーミルと、
前記粉砕をするためのコーヒーミルと連通し、前記焙煎されたコーヒー豆の粉砕時に発生する香気成分及び微粉を含むキャリアガスが通過可能な第1の配管と、
前記第1の配管と連通し、前記微粉を除去するスポンジフィルターと、
前記スポンジフィルターと連通し、前記微粉が除去されたキャリアガスが通過可能な第2の配管と、
前記第2の配管と連通した香気成分吸着缶と、
前記粉砕をするためのコーヒーミルから前記香気成分吸着缶まで連続した気流を発生させる送ガスポンプと、
を備える、焙煎されたコーヒー豆からの香気成分を捕集する装置。

(イ)上記ア(エ)?(キ)(特に、段落【0013】?【0015】、【0021】、【0022】、【0029】及び【0030】の記載及び図1の記載)によれば、粒状物として用いられるシリカゲル、ゼオライト、活性炭等の吸着剤が香気成分吸着缶に充填され、また、香気成分吸着缶は、下方からキャリアガスが導入され、上方からキャリアガスが排出されている(図1の配管7の記載を参照。)ことから、香気成分吸着缶に吸着剤が収容される吸着剤収容部を有することは明らかであり、また、吸着剤のキャリアガスの通気方向が、重力方向と反対方向であることが分かる。

ウ 先願発明
上記ア及びイを総合すると、甲第1号証の明細書等には、以下の発明が記載されていると認める。
(ア)先願発明1
「焙煎されたコーヒー豆を粉砕して、微粉を含む焙煎されたコーヒー豆の粉砕物を得る工程を含み、
前記焙煎されたコーヒー豆の粉砕時に焙煎されたコーヒー豆から発生する香気成分および前記微粉を含むキャリアガスをスポンジフィルターに導入して前記微粉を除去する工程と、
前記微粉が除去されたキャリアガスを吸着剤に通気して、前記香気成分を前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、
前記吸着剤から前記香気成分を捕集して、前記香気成分を含有する香料組成物を得る捕集工程と、
を含み、
前記吸着剤は、香気成分吸着缶内の吸着剤収容部に収容される、
焙煎されたコーヒー豆からの香料組成物の製造方法。」(以下、「先願発明1」という。)

(イ)先願発明2
「焙煎されたコーヒー豆の粉砕をするためのコーヒーミルと、
前記粉砕をするためのコーヒーミルと連通し、前記焙煎されたコーヒー豆の粉砕時に発生する香気成分及び微粉を含むキャリアガスが通過可能な第1の配管と、
前記第1の配管と連通し、前記微粉を除去するスポンジフィルターと、
前記スポンジフィルターと連通し、前記微粉が除去されたキャリアガスが通過可能な第2の配管と、
前記第2の配管と連通した香気成分吸着缶と、
前記粉砕をするためのコーヒーミルから前記香気成分吸着缶まで連続した気流を発生させる送ガスポンプと、
を備え、
前記香気成分吸着缶は、吸着剤が収容された吸着剤収容部を有する、焙煎されたコーヒー豆からの香気成分を捕集する装置。」(以下、「先願発明2」という。)

(2)甲第2号証について
甲第2号証には、図面と共に以下の記載がある。
・「吸着筒1内には、その筒軸方向に垂直な金網等の通気性を有する板状の2枚の支持部材8が所定間隔へだてて配設され、その支持部材8間に、活性炭等の吸着剤がその上部に空隙9を残して充填されて吸着層10が形成されている。」(明細書3頁4?8行)

・「1…吸着筒、7…モータ、8…支持部材、9…空隙、10…充填層、11…閉塞板」(明細書5頁12?13行)

(3)甲第3号証について
甲第3号証には、図面と共に以下の記載がある。
・「四角いケース1の片方の外側に糸網7を接着し、その内側から順に粗フィルター5、通気量75cc/cm^(2)/secを挿入。次に厚紙2を波形状に、加工し片隅の片方を薄紙8で接着塞いだものを挿入する。その隙間に脱臭剤3主成分活性炭並びに芳香剤4を球形に加工したものを各箇所へ挿入し芳香剤の場所だけ薄紙8で塞ぎ両側に穴をあける。
芳香剤のしめる表面積の割合は器具の全表面積をSとするならば1/50Sとする。又穴の割合は、1/920Sとする。次に密フィルター6通気量240cc/cm^(2)/secを、その外側を糸網7で接着固定する。
以上の如く構成された、空気清浄脱臭器具」(明細書1頁4?15行)

・「(イ) 空気の流れを、粗フィルター5、波形状に加工した厚紙2、その隙間に球形活性炭3、密フィルター6の構成にすることにより流速を吸着効果の最もすぐれた速度にし、(換気ファン1.2m^(3)/min?2.3m^(3)/minとした場合、18m/min?36m/min)活性炭を球形にすることにより各粒子間が点接触となり、空気抵抗を小さくし空気循環が良くなり、脱臭効果、並びに集塵効果を向上させる。」(明細書3頁15行?4頁2行)

(4)甲第4号証について
甲第4号証には、図面と共に以下の記載がある。
・「図中2はガス吸着剤、1はガス吸着剤を保持する容器で、A及びB端は空気通過口であり、ガス吸着剤がこぼれないよう網状物3で押えられている。」(明細書3頁1?4行)

(5)甲第5号証について
甲第5号証には、図面と共に以下の記載がある。
・「In the modification shown in Fig.3,it is desired to remove from the comminuted coffee all of the chaff and for this reason two screens are provided in each set. The first screen will classify the coarse from the fine material and will remove from the coarse material the chaff through the hood 59.」(2頁100?106行)
<訳>
「・・・粉砕されたコーヒーから全てのチャフが除去されることが望ましく、この理由により、2つの選別がそれぞれのセットに備えられている。始めの選別では、微細な材料から粗い物を分別し、粗い材料からフード59を通じてチャフを除去する。」(特許異議申立書31頁)

(6)甲第6号証について
甲第6号証には、図面と共に以下の記載がある。
・「この考案は、空気清浄器付自動車用空調装置において、空気清浄器を通過する前の空気の温度調整を行うことができようにして、フィーリング性の向上を図つたものである。
空気清浄装置付自動車用空調装置は、空調装置の本流通路からバイパスされた空気通路を設け、この空気通路にエアフィルタ,活性炭フィルタ,小型送風器から成る空気清浄器を設け、内気又は外気をこの空気清浄器により清浄して車室内へ送るように構成し、乗員の健康管理の強化を図つたもので、その従来の具体例が第1図に示されている。
第1図において、空調装置の最上流側には、外気入口1及び内気入口2が形成され、内外気切換ドア3により内外気が選択され、この選択された空気が送風器4の回転により空調ケース5内の本流通路6に吸い込まれ、下流側へ送られる。そして、冷房用熱交換器7,暖房用熱交換器8及びエアミツクスドア9により適宜空気調和され、その空気調和された空気が切換ドア10,11,12により選択されて、上吹出口13、デフロスト吹出口14又は下吹出口15から車室内へ吹出される。
空気通路16は、暖房用熱交換器8の上流側で本流通路6から分岐し、上吹出口13に至る上吹出口通路17に接続されている。この空気通路16に空気清浄器18が設けられ、この空気清浄器18は、例えばエアフイルタ19,活性炭フイルタ20及び小型送風器21とにより構成され、本流通路6から空気通路16に導かれた空気に含まれているゴミ、悪臭等を除去し、清浄して上吹出口13から車室内へ送るためのもので、その空気は切換ドア22によって選択することができる。」(1頁2欄5?37行)

(7)甲第7号証について
甲第7号証には、以下の記載がある。
・「前記合成樹脂系吸着剤としては、芳香族系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂、アクリロニトリル脂肪族系樹脂等の樹脂系吸着剤が使用できる。その中でもスチレン-ジビニルベンゼン系合成樹脂等の芳香族系樹脂の吸着剤が好ましく、特に無置換基型のスチレン-ジビニルベンゼン系合成樹脂等の芳香族系樹脂が好ましい。」(段落[0022])

(8)甲第8号証について
甲第8号証には、図面と共に以下の記載がある。
・「【0020】
〔1〕凝縮液から香気成分を得る工程
図1に示すように、本工程では、香気物質を含有する植物原料、すなわち茶系素材、大麦、コーヒー又はこれらの焙煎物、特に焙煎したコーヒー豆若しくはその粉砕物を水蒸気蒸留装置で蒸留した後、凝縮器で液化し、得られた凝縮液を合成吸着剤に通液させ、吸着樹脂に吸着された成分を高純度アルコールで溶出させることで、濃縮された香気成分を回収する。
【0021】
合成吸着剤としては、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼン共重合体、2,6-ジフェニル-9-フェニルオキサイドの重合体等の有機合成吸着樹脂を例示することができる。」

(9)甲第9号証について
甲第9号証には、以下の記載がある。
・「【0016】本発明の上記フレーバー(A)は、上述した方法で得られる留出液そのものでも使用することができるが、該留出液を任意の濃縮手段を用いて香気濃縮物の形態とすることもできる。かかる濃縮手段としては、例えば、該留出液を合成吸着剤に吸着せしめ、次いでエタノールで脱着することにより得ることができる。合成吸着剤としては、特に限定されないが、例えば、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼン共重合体、2,6-ジフェニル-9-フェニルオキサイドの重合体、メタアクリル酸とジオールの重縮合ポリマー及びシリカゲル表面のシラノール基の反応性を利用して、これに例えば、アルコール類、アミン類、シラン類などを化学結合させた化学結合型シリカゲル(修飾シリカゲル)などを例示することができる。」

(10)甲第10号証について
甲第10号証には、以下の記載がある。
・「工業的な実施においては、そのゼオライトと亜炭のような天然の粘土と混合・焼成することにより、球状あるいはペレット状に成型した4?14メッシュの球状あるいは直径1.5?3mmのペレット状のものをカラムに充填して使用することが、連続通気操作として好ましい。これはカラム内の圧力損失を抑えるであろう。
この様な吸着操作においては、上記の様にゼオライトは極性分子である水を吸着しやすく、アロマ含有ガス中に数%の水分が含まれる為、これによるゼオライトの吸着能の低下を防ぐことが必要である。この為、アロマ含有ガスを0-5℃のプロピレングリコール使用の冷却器を通すことで凝縮させて、水分を取り除いた後、アロマ含有ガスを送り込むことが好ましい。
また、相当する吸着熱が発生する為、吸着効率を高める点から、供給するガスの温度を上記プロピレングリコール冷却凝縮器を通すことにより低くしたり、カラム全体を常温以下の冷媒で冷却することが好ましい。また、供給するガスのカラム内の線速度は5?30m/分の範囲が望ましい。」(8頁3?16行)

・「[実施例1]
A型合成ゼオライト(東ソー(株)製、ゼオラムA5、有効細孔径5Å、球形、8-10メッシュ)100gを内径45mm、高さ190mmのガラスカラムに充填した。この充填カラムに下部より、新鮮な焙煎コーヒー豆を粉砕機で粉砕しながら、発生するガスを隔膜式真空ポンプで5リットル/分の流量で通気した。カラムより排出されたガスを、通気開始直後より50リットルのテドラーバッグに回収した。このガスを専門パネルによる官能において、ゼオライト充填カラムを通す前のガスと比較した結果、イオウに似た刺激臭が有意に減少し、官能的に好ましいやわらかい香りと評価された。
[実施例2]
A型合成ゼオライト(東ソー(株)製、ゼオラムA5、有効細孔径5Å、球形、8-10メッシュ)100gを内径45mm、高さ190mmのガラスカラムに充填した。新鮮な焙煎コーヒー豆を粉砕機で粉砕しながら、発生するガスを隔膜式真空ポンプでゼオライト充填カラムに5リットル/分の流量で通気した。・・・
[実施例3]
A型合成ゼオライト(東ソー(株)製、ゼオラムA4、有効細孔径4Å、球形、8-10メッシュ)100gを内径16.5mm、高さ1000mmのステンレスカラムに充填した。250kgの焙煎粉砕コーヒーから、減圧下で90℃の温水あるいは水蒸気で上方より加湿することにより、アロマ含有ガスを発生させた。このガスを、隔膜式真空ポンプにより5℃のプロピレングリコール冷却凝縮器に15分間通した。ガス中の水分は956g凝縮させた。除湿したアロマ含有ガスをカラム下部より5リットル/分の流量で1時間通気した。」(8頁26行?10頁1行)

(11)甲第11号証について
甲第11号証には、図面と共に以下の記載がある。
・「【0028】
【実施例4】実施例1と同様にして酸化処理した分子ふるい炭素20gを内径16.5mm、高さ600mmのステンレスカラムに充填した。250kgの焙煎粉砕コーヒーから、減圧下で90℃の熱水で上方より加湿することにより、アロマ含有ガスを発生させた。このガスを、隔膜式真空ポンプにより5℃のプロピレングリコール冷却凝縮器に15分間通した。ガス中の水分は956g凝縮させた。除湿したアロマ含有ガスをカラム下部より2リットル/分の流量で150分通気した。」

(12)甲第12号証について
甲第12号証には、図面と共に以下の記載がある。
・「本発明方法を第1図、第2図により説明する。
送風機(1)配管(2)を通じて悪臭成分を含む高温ガスを矢印に示す如く高温乾燥剤(4a)を内臓する吸着機(8a)、薬液散布管(6)のある薬液洗浄塔(5)、高温乾燥剤(4b)を内臓する吸着機(8b)、活性炭(8)を内臓する活性炭吸着機(9)を通じて処理ガス管(10)より処理ガスを排出する。」(2頁左上欄10?16行)

(13)甲第13号証について
甲第13号証には、以下の記載がある。
・「【0054】
次に、焙煎して冷却した豆に摩砕段階を施し、この段階はコーヒー芳香を生成する。ここで、薬剤は、急冷段階でまたはその後で既に添加されていなければ、摩砕段階中に豆に添加することができる。また、この薬剤は固形または液状形態で添加することもでき、または摩砕をガス状形態の薬剤の雰囲気で行うこともできる。あるいは、摩砕段階中に生成する芳香ガスを薬剤に接触するように向けることができる。これは、薬剤が組込まれているフィルターまたは他のキャリヤー中に芳香を通過させることによって行うことができる。また、薬剤の溶液中に芳香ガスを通じることもできる。豆の焙煎によって生じた芳香の説明で上記したように、摩砕芳香を薬剤の固定または流動層中を通過させることができる。」

(14)甲第14号証について
甲第14号証には、図面と共に以下の記載がある。
・「〔問題点を解決するための手段〕
本考案は上記の問題点を解決するため、悪臭成分が最も多く排出されるエンジン始動後の冷間時に排気ガス中の悪臭成分を吸着剤で除去し、エンジン暖機後は排気ガスが吸着剤の影響を受けないように構成するもので、その構成上の特徴は、エンジンの排気通路中に排気ガス温度の検出器を配置するとともに、該排気通路を分岐して主排気通路とバイパス通路となし、該主排気通路には前記検出器の信号により作動する開閉制御弁を設け、該バイパス通路には排気ガス中の悪臭成分を吸着する吸着剤を配置し、前記検出器が排気ガス温度の所定値以下を検出した時前記開閉制御弁を閉じ、所定値以上を検出した時該開閉制御弁を開くようにした排気浄化装置にある。」(明細書4頁14行?5頁8行)

・「〔考案の効果〕
本考案は、排気ガスの低温時にはこれを、排気通路中の吸着剤を配置している側にのみ流すようにしているので、悪臭成分が多く排出されるエンジン冷間始動直後のような排気ガス低温時には、この悪臭成分をよく吸着除去し、エンジン暖機後には排気ガスの大部分又は全部を吸着剤配置側に流さないので、この吸着剤による排気ガスの圧力損失が防止でき、そのためエンジンの出力低下や燃費の悪化がほとんどないものとなる。」(明細書12頁18行?13頁7行)

4 当審の判断
取消理由(予告)及び採用しなかった本件特許の請求項2及び5に係る特許についての特許異議申立理由について、以下のとおり判断する。
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と先願発明1とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「焙煎されたコーヒー豆」は、前者の「焙煎コーヒー豆」に相当し、以下同様に、「微粉」は「微粉」に、「香気成分」は「香気化合物」に、「キャリアガス」は「ガス」に、「吸着剤」は「吸着剤」に、「捕集」は「回収」に、「香料組成物」は「香料組成物」に、「香気成分吸着缶」は「香気化合物吸着装置」に、「吸着剤収容部」は「吸着剤収容部」に、それぞれ相当する。
・後者の「焙煎されたコーヒー豆」は、薄皮の焙煎物が付着しており、その粉砕時に、薄皮の焙煎物の薄片が発生することが明らかである(上記3(5)の甲第5号証の記載を参照。)から、後者の「微粉を含む焙煎されたコーヒー豆の粉砕物」は、前者の「微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物」に相当する。
そうすると、後者の「焙煎されたコーヒー豆を粉砕して、微粉を含む焙煎されたコーヒー豆の粉砕物を得る工程」は、前者の「焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程」に相当する。
・後者の「微粉」は、甲第1号証の段落【0020】及び【0029】に記載されているように、キャリアガスにより香気成分と共に搬送されてスポンジフィルターで除去されるところ、その際、軽量な薄皮の焙煎物の薄片も搬送されてスポンジフィルターで除去されることは明らかである。
そうすると、後者の「前記焙煎されたコーヒー豆の粉砕時に焙煎されたコーヒー豆から発生する香気成分および前記微粉を含むキャリアガスをスポンジフィルターに導入して前記微粉を除去する工程」は、前者の「前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物および前記微粉および薄片を含むガスから前記微粉および薄片を除去する工程」に相当する。
・後者の「前記微粉が除去されたキャリアガスを吸着剤に通気して、前記香気成分を前記吸着剤に吸着させる吸着工程」は、前者の「前記微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、前記香気化合物を前記吸着剤に吸着させる吸着工程」に相当する。
・後者の「前記吸着剤から前記香気成分を捕集して、前記香気成分を含有する香料組成物を得る捕集工程」は、前者の「前記吸着剤から前記香気化合物を回収して、前記香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程」に相当する。
・後者の「焙煎されたコーヒー豆からの香料組成物の製造方法」は、前者の「焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法」に相当する。

したがって、両者は、
「焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含み、
前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物および前記微粉および薄片を含むガスから前記微粉および薄片を除去する工程と、
前記微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、前記香気化合物を前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、
前記吸着剤から前記香気化合物を回収して、前記香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程と、
を含み、
前記吸着剤は、香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容される、
焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。」の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1-1]
本件発明1は、「該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有する」のに対して、先願発明1は、香気成分吸着缶の吸着剤収容部について、具体的に特定されていない点(以下、「相違点1-1」という。)。
[相違点1-2]
本件発明1は、「前記微粉および薄片が除去されたガスの流路に、該流路から分岐し、かつ前記香気化合物吸着装置と連通する導入路を設け、前記導入路および前記吸着剤に前記微粉および薄片が除去されたガスの一部のみを通気して前記香気化合物を回収する」のに対して、先願発明1は、そのように構成されていない点(以下、「相違点1-2」という。)。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点1-2について検討する。
上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項が本件特許の出願日前に周知技術であることの例証として、甲第6号証及び甲第14号証が提出されている(平成30年8月22日付け意見書の10頁12行?11頁10行)。
そこで検討すると、甲第6号証(特に、1頁2欄28?37行及び第1図)には、空気清浄器付自動車用空調装置において、空気通路16は、暖房用熱交換器8の上流側で本流通路6から分岐し、上吹出口13に至る上吹出口通路17に接続され、この空気通路16にエアフイルタ19,活性炭フイルタ20及び小型送風器21とにより構成された空気清浄器18が設けられて、本流通路6から空気通路16に導かれた空気に含まれているゴミ、悪臭等を除去し、清浄して上吹出口13から車室内へ送る技術が記載されており、また、甲第14号証(特に、明細書12頁18行?13頁7行及び第1図)には、排気浄化装置において、エンジンの排気通路中に排気ガス温度の検出器を配置するとともに、該排気通路を分岐して主排気通路とバイパス通路となし、該主排気通路には前記検出器の信号により作動する開閉制御弁を設け、該バイパス通路には排気ガス中の悪臭成分を吸着する吸着剤を配置し、前記検出器が排気ガス温度の所定値以下を検出した時前記開閉制御弁を閉じ、所定値以上を検出した時該開閉制御弁を開くようにし、悪臭成分が最も多く排出されるエンジン始動後の冷間時に排気ガス中の悪臭成分を吸着剤で除去し、エンジン暖機後は排気ガスが吸着剤の影響を受けないように構成する技術が記載されているが、焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物を回収する技術に関するものではなく、甲第6号証及び甲第14号証のいずれにも、上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項は記載されておらず、示唆もされていない。
また、甲第2?5及び7?13号証には、上記3(2)?(5)及び(7)?(13)の記載や図面の記載があるところ、上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項は記載されておらず、示唆もされていない。
そうすると、上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項は、本件特許の出願日前に周知技術であるとはいえないから、上記相違点1-2は、単なる周知技術の付加であるとはいえず、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
したがって、本件発明1は、相違点1-1について検討をするまでもなく、先願発明1と実質的に同一であるとはいえない。

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と先願発明1とを、上記(1)アの検討を踏まえて対比すると、両者は、
「焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含み、
前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物および前記微粉および薄片を含むガスから前記微粉および薄片を除去する工程と、
前記微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、前記香気化合物を前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、
前記吸着剤から前記香気化合物を回収して、前記香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程と、
を含み、
前記吸着剤は、香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容される、
焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。」の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点2-1]
本件発明2は、「該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有する」のに対して、先願発明1は、香気成分吸着缶の吸着剤収容部について、具体的に特定されていない点(以下、「相違点2-1」という。)。
[相違点2-2]
本件発明2は、「前記焙煎コーヒー豆粗粉砕物から前記微粉および薄片を除去する工程を、前記微粉および薄片をガスから除去する工程よりも前に行う」のに対して、先願発明1は、そのように構成されていない点(以下、「相違点2-2」という。)。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点2-2について検討する。
上記相違点2-2に係る本件発明2の発明特定事項が本件特許の出願日前に周知技術であることの例証として、甲第5号証が提出されている(特許異議申立書の40頁22?末行及び平成30年8月22日付け意見書の9頁8?14行)。
そこで検討すると、甲第5号証の2頁100?106行の記載事項(特許異議申立書の31頁11?14行)並びにFig.1及びFig.2の記載からは、焙煎コーヒー豆粗粉砕物をどのように処理する装置であるのか全体像を理解することはできず、「焙煎コーヒー豆粗粉砕物から、薄片に相当するチャフ(コーヒー種子表面の薄皮)をフード59により除去する工程を、前記薄片をガスから分離機45により除去する工程よりも前に行うこと」が開示されているとはいえないから、甲第5号証には、上記相違点2-2に係る本件発明2の発明特定事項は記載されておらず、示唆もされていないといわざるを得ない。
また、甲第2?4及び6?14号証には、上記3(2)?(4)及び(6)?(14)の記載や図面の記載があるところ、上記相違点2-2に係る本件発明2の発明特定事項は記載されておらず、示唆もされていない。
そうすると、上記相違点2-2に係る本件発明2の発明特定事項は、本件特許の出願日前に周知技術であるとはいえないから、上記相違点2-2は、単なる周知技術の付加であるとはいえず、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
したがって、本件発明2は、相違点2-1について検討をするまでもなく、先願発明1と実質的に同一であるとはいえない。

(3)本件発明3?13について
本件発明3、4、6?13は、本件発明1又は2の発明特定事項をすべて含み、また、本件発明5は、本件発明2の発明特定事項を全て含むから、上記(1)及び(2)の検討を踏まえると、先願発明1と実質的に同一であるとはいえない。

(4)本件発明14について
ア 対比
本件発明14と先願発明2とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「焙煎されたコーヒー豆」は、前者の「焙煎コーヒー豆」に相当し、以下同様に、「焙煎されたコーヒー豆の粉砕をするためのコーヒーミル」は「焙煎コーヒー豆の粉砕装置」及び「粉砕装置」に、「香気成分」は「香気化合物」に、「微粉」は「微粉」に、「第1の配管」は「第1の流路」に、「第2の配管」は「第2の流路」に、「香気成分吸着缶」は「香気化合物吸着装置」に、「送ガスポンプ」は「気流発生装置」に、「吸着剤」は「吸着剤」に、「吸着剤収容部」は「吸着剤収容部」に、それぞれ相当する。
・後者の「焙煎されたコーヒー豆」においても、薄皮の焙煎物が付着しており、その粉砕時に、薄皮の焙煎物の薄片が発生することが明らかである(上記3(5)の甲第5号証の記載を参照。)から、後者の「前記焙煎されたコーヒー豆の粉砕時に発生する香気成分及び微粉を含むキャリアガス」は、前者の「前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガス」に相当する。
そうすると、後者の「前記粉砕をするためのコーヒーミルと連通し、前記焙煎されたコーヒー豆の粉砕時に発生する香気成分及び微粉を含むキャリアガスが通過可能な第1の配管」は、前者の「前記粉砕装置と連通し、前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガスが通過可能な第1の流路」に相当する。
・後者の「微粉」は、甲第1号証の段落【0020】及び【0029】に記載されているように、キャリアガスにより香気成分と共に搬送されてスポンジフィルターで除去されるところ、その際、軽量な薄皮の焙煎物の薄片も搬送されてスポンジフィルターで除去されることは明らかである。
そうすると、後者の「前記第1の配管と連通し、前記微粉を除去するスポンジフィルター」は、前者の「前記第1の流路と連通し、前記微粉および薄片を除去する微粉薄片除去装置」に相当する。
また、後者の「前記スポンジフィルターと連通し、前記微粉が除去されたキャリアガスが通過可能な第2の配管」は、前者の「前記微粉薄片除去装置と連通し、前記微粉および薄片が除去されたガスが通過可能な第2の流路」に相当する。
・後者の「前記粉砕をするためのコーヒーミルから前記香気成分吸着缶まで連続した気流を発生させる送ガスポンプ」は、前者の「前記粉砕装置から前記香気化合物吸着装置まで連続した気流を発生させる気流発生装置」に相当する。
・後者の「前記香気成分吸着缶は、吸着剤が収容された吸着剤収容部を有する」ことは、前者の「前記香気化合物吸着装置は、吸着剤が収容された吸着剤収容部を有」することに相当する。
・後者の「焙煎されたコーヒー豆からの香気成分を捕集する装置」は、前者の「焙煎コーヒー豆からの香気回収装置」に相当する。

したがって、両者は、
「焙煎コーヒー豆の粉砕装置と、
前記粉砕装置と連通し、前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガスが通過可能な第1の流路と、
前記第1の流路と連通し、前記微粉および薄片を除去する微粉薄片除去装置と、
前記微粉薄片除去装置と連通し、前記微粉および薄片が除去されたガスが通過可能な第2の流路と、
前記第2の流路と連通した香気化合物吸着装置と、
前記粉砕装置から前記香気化合物吸着装置まで連続した気流を発生させる気流発生装置と、
を備え、
前記香気化合物吸着装置は、吸着剤が収容された吸着剤収容部を有する、焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点14-1]
本件発明14は、「該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有する」ものであるのに対して、先願発明2は、香気成分吸着缶の吸着剤収容部について、具体的に特定されていない点(以下、「相違点14-1」という。)。
[相違点14-2]
本件発明14は、「前記第2の流路から分岐する導入路を更に備え、該導入路は前記香気化合物吸着装置と連通している」のに対して、先願発明2は、そのように構成されていない点(以下、「相違点14-2」という。)。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点14-2について検討する。
上記相違点14-2に係る本件発明14の発明特定事項が本件特許の出願日前に周知技術であることの例証として、甲第6号証及び甲第14号証が提出されている(平成30年8月22日付け意見書の16頁17行?17頁10行)。
そこで検討すると、甲第6号証及び甲第14号証には、上記(1)イのとおりの技術が記載されているが、焙煎コーヒー豆からの香気回収装置に関する技術ではなく、甲第6号証及び甲第14号証のいずれにも、上記相違点14-2に係る本件発明14の発明特定事項は記載されておらず、示唆もされていない。
また、甲第2?5及び7?13号証には、上記3(2)?(5)及び(7)?(13)の記載や図面の記載があるところ、上記相違点14-2に係る本件発明14の発明特定事項は記載されておらず、示唆もされていない。
そうすると、上記相違点14-2に係る本件発明14の発明特定事項は、本件特許の出願日前に周知技術であるとはいえないから、上記相違点14-2は、単なる周知技術の付加であるとはいえず、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
したがって、本件発明14は、相違点14-1について検討をするまでもなく、先願発明2と実質的に同一であるとはいえない。

(5)本件発明16?22について
本件発明16?22は、本件発明14の発明特定事項をすべて含むから、上記(4)の検討を踏まえると、先願発明2と実質的に同一であるとはいえない。

5 小括
上記4のとおりであるから、本件特許の請求項1?14及び16?22に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しない。
なお、本件訂正により請求項15は削除されたことから、本件特許の請求項15に係る特許は存在しない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、平成30年12月18日付け取消理由通知書に記載した取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?14及び16?22に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?14及び16?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項15に係る特許に対する特許異議の申立てについては、本件訂正により請求項15は削除されたことから、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含み、
前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物および前記微粉および薄片を含むガスから前記微粉および薄片を除去する工程と、
前記微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、前記香気化合物を前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、
前記吸着剤から前記香気化合物を回収して、前記香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程と、
を含み、
前記吸着剤は、香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容され、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有し、
前記微粉および薄片が除去されたガスの流路に、該流路から分岐し、かつ前記香気化合物吸着装置と連通する導入路を設け、
前記導入路および前記吸着剤に前記微粉および薄片が除去されたガスの一部のみを通気して前記香気化合物を回収する、焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項2】
焙煎コーヒー豆を粉砕して、微粉および薄片を含む焙煎コーヒー豆粗粉砕物を得る工程を含み、
前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に焙煎コーヒー豆から発生する香気化合物および前記微粉および薄片を含むガスから前記微粉および薄片を除去する工程と、
前記微粉および薄片が除去されたガスを吸着剤に通気して、前記香気化合物を前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、
前記吸着剤から前記香気化合物を回収して、前記香気化合物を含む香料組成物を調製する回収工程と、
を含み、
前記吸着剤は、香気化合物吸着装置内の吸着剤収容部に収容され、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有し、
前記焙煎コーヒー豆粗粉砕物から前記微粉および薄片を除去する工程を、前記微粉および薄片をガスから除去する工程よりも前に行う、焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記微粉および薄片を除去する工程を微粉薄片除去装置で行う、請求項1または2に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項4】
気流発生装置を用いて前記ガスの流れを発生させる、請求項1?3のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記微粉および薄片が除去されたガスの流路に、該流路から分岐し、かつ前記香気化合物吸着装置と連通する導入路を設け、
前記導入路および前記吸着剤に前記微粉および薄片が除去されたガスの一部のみを通気して前記香気化合物を回収する、請求項2に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記吸着剤が、スチレンジビニルベンゼン共重合体、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼンの共重合体、2,6-ジフェニル-9-フェニルオキサイドの重合体、メタアクリル酸とジオールの重縮合ポリマーおよび修飾シリカゲルから選択される1以上である、請求項1?5のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記回収工程で有機溶媒を用いて前記吸着剤から前記香気化合物を脱着する、請求項1?6のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒がエタノールまたはプロピレングリコールである、請求項7に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項9】
前記吸着剤に流入するガスの線速度が0.1?35.0m/sの範囲内である、請求項1?8のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項10】
前記ガスの通気方向が、重力方向と反対方向である、請求項1?9のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項11】
前記香気化合物吸着装置が、前記吸着剤が収容された流動層カラムである、請求項1?10のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項12】
前記吸着剤に流入するガスの線速度を調整する工程を含む、請求項1?11のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項13】
前記吸着剤に流入するガスの線速度の調整を、送風装置または吸引ポンプを用いて行う、請求項12に記載の焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法。
【請求項14】
焙煎コーヒー豆の粉砕装置と、
前記粉砕装置と連通し、前記焙煎コーヒー豆の粉砕時に発生する香気化合物ならびに微粉および薄片を含むガスが通過可能な第1の流路と、
前記第1の流路と連通し、前記微粉および薄片を除去する微粉薄片除去装置と、
前記微粉薄片除去装置と連通し、前記微粉および薄片が除去されたガスが通過可能な第2の流路と、
前記第2の流路と連通した香気化合物吸着装置と、
前記粉砕装置から前記香気化合物吸着装置まで連続した気流を発生させる気流発生装置と、
を備え、
前記香気化合物吸着装置は、吸着剤が収容された吸着剤収容部を有し、該吸着剤収容部は、前記ガスの通気方向の両端に網状蓋を有し、
前記第2の流路から分岐する導入路を更に備え、該導入路は前記香気化合物吸着装置と連通している、焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項15】(削除)
【請求項16】
前記粉砕装置と前記第1の流路の間に、微粉薄片予備除去装置をさらに備える、請求項14に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項17】
前記吸着剤の前記ガスの通気方向が、重力方向と反対方向である、請求項14又は16に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項18】
前記香気化合物吸着装置が、前記吸着剤が収容された流動層カラムである、請求項14、16および17のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項19】
前記微粉および薄片が除去されたガスの線速度を調整する線速度調整装置をさらに備える、請求項14および16?18のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項20】
前記線速度調整装置が送風装置または吸引ポンプである、請求項14および16?19のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項21】
前記吸着剤収容部に収容された吸着剤部分の断面直径が10mm以上である、請求項14および16?20のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
【請求項22】
前記吸着剤収容部に収容された吸着剤部分の前記ガスの通気方向の長さが1000mm以下である、請求項14および16?21のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆からの香気回収装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-01 
出願番号 特願2017-28323(P2017-28323)
審決分類 P 1 651・ 857- YAA (A23F)
P 1 651・ 851- YAA (A23F)
P 1 651・ 841- YAA (A23F)
P 1 651・ 854- YAA (A23F)
P 1 651・ 855- YAA (A23F)
P 1 651・ 161- YAA (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤澤 雅樹  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 槙原 進
佐々木 正章
登録日 2017-08-04 
登録番号 特許第6184627号(P6184627)
権利者 長谷川香料株式会社
発明の名称 焙煎コーヒー豆からの香料組成物の製造方法および焙煎コーヒー豆からの香気回収装置  
代理人 北澤 誠  
代理人 白石 真琴  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 白石 真琴  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 北澤 誠  
代理人 松山 智恵  
代理人 松山 智恵  

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