• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1352270
異議申立番号 異議2017-701214  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-20 
確定日 2019-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6152924号発明「グラフェン分散液およびその製造方法、グラフェン-活物質複合体粒子の製造方法ならびに電極ペーストの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6152924号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、〔11-14〕について訂正することを認める。 特許第6152924号の請求項1ないし2、4ないし7、9ないし14に係る特許を維持する。 特許第6152924号の請求項3、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6152924号の請求項1?14に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2016-559376)は、平成28年 9月 9日(優先権主張 平成27年 9月18日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年 6月 9日に特許権の設定登録がされ、同年 6月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、特許異議申立人 中村光代(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされてがされたものであり、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年12月20日 特許異議の申立て
平成30年 3月30日付け 取消理由通知(1回目)
同年 5月30日 訂正の請求、意見書の提出
同年 7月19日 申立人による意見書の提出
同年10月 1日付け 取消理由通知(2回目)
同年11月27日 訂正の請求、意見書の提出

なお、平成30年11月27日付けの訂正の請求に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、指定期間内に意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年11月27日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下の(1)?(10)のとおりである(下線部は,訂正箇所を示す)。
なお、平成30年 5月30日付けの訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「重量吸光係数が25000cm^(-1)以上200000cm^(-1)以下であるグラフェン分散液。」
と記載されているのを、
「重量吸光係数が25000cm^(-1)以上200000cm^(-1)以下であり、前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下であるグラフェン分散液。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1?3のいずれか」
と記載されているのを、
「請求項1または2」
に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1?4のいずれか」
と記載されているのを、
「請求項1?2,4のいずれか」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1?5のいずれか」
と記載されているのを、
「請求項1?2,4,5のいずれか」
に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に
「請求項1?6のいずれか」
と記載されているのを、
「請求項1?2,4?6のいずれか」
に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に
「請求項1?8のいずれか」
と記載されているのを、
「請求項1?2,4?7のいずれか」
に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に
「請求項1?8のいずれか」
と記載されているのを、
「請求項1?2,4?7のいずれか」
に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に
「水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを還元する還元工程」
と記載されているのを、
「水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下となるように還元する還元工程」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明において、「前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下である」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1の炭素に対する酸素の元素比(O/C比)は、訂正前の請求項3及び本件明細書の段落【0049】にそれぞれ記載された事項であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2、7について
訂正事項2、7は、それぞれ請求項3、8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2、7は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3?6、8、9について
訂正事項3?6、8、9は、それぞれの請求項において、選択的に引用した請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3?6、8、9は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項10について
訂正事項10は、訂正前の請求項11において、どの程度まで酸化グラフェンを還元するのかは明らかでなかったのを、本件訂正により、「水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下となるように還元する還元工程」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
ここで、訂正事項10の炭素に対する酸素の元素比(O/C比)は、訂正前の請求項3及び本件明細書の段落【0049】にそれぞれ記載された事項であって、同段落【0049】によると、最終的に得られるグラフェン分散液に含まれるグラフェンの炭素に対する酸素の元素比(O/C比)を意味している。
すなわち、訂正後の請求項11に係る発明の還元工程において、最終的に得られるグラフェン分散液に含まれるグラフェンのO/C比となるように還元することが特定されている。
したがって、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)一群の請求項
訂正前の請求項2?10は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであるから、上記訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
訂正前の請求項12?14は、直接的又は間接的に請求項11を引用するものであるから、上記訂正事項10によって記載が訂正される請求項11に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正事項1と訂正事項10とを含む本件訂正請求は、それらの一群の請求項に対してされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(6)独立特許要件について
本件特許の訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1?10は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第7項の独立特許要件の規定は適用されない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?10〕、〔11?14〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4?7、9?14に係る発明(以下、請求項1、2、4?7、9?14に係る発明を、「本件発明1」・・・「本件発明14」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである(下線部は,訂正箇所を示す)。
なお、請求項3、8は、本件訂正請求による訂正により削除された。

【請求項1】
グラフェンがN-メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒に分散した分散液であって、N-メチルピロリドンでグラフェン重量分率0.000013に調整した希釈液の、波長270nmにおける下記式(1)を用いて算出される重量吸光係数が25000cm^(-1)以上200000cm^(-1)以下であり、前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下であるグラフェン分散液。
重量吸光係数(cm^(-1))=吸光度/{(0.000013×セルの光路長(cm)} ・・・(1)
【請求項2】
前記希釈液の、下記式(2)を用いて算出される吸光度比が1.70以上4.00以下である、請求項1に記載のグラフェン分散液
吸光度比=吸光度(270nm)/吸光度(600nm) ・・・(2)

【請求項4】
酸性基を有する表面処理剤を含む、請求項1または2に記載のグラフェン分散液。
【請求項5】
前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素比(N/C比)が0.005以上0.030以下である、請求項1?2,4のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項6】
前記グラフェンの、BET測定法により測定される比表面積が80m^(2)/g以上250m^(2)/g以下である、請求項1?2,4,5のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項7】
固形分率が0.3質量%以上40質量%以下である、請求項1?2,4?6のいずれかに記載のグラフェン分散液。

【請求項9】
請求項1?2,4?7のいずれかに記載のグラフェン分散液と、電極活物質粒子とを混合した後に乾燥することを含む、グラフェン-電極活物質複合体粒子の製造方法。
【請求項10】
電極活物質、バインダーおよび請求項1?2,4?7のいずれかに記載のグラフェン分散液を混合することを含む、電極ペーストの製造方法。
【請求項11】
水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下となるように還元する還元工程;
還元工程で得られた中間体分散液とN-メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒(NMP含有溶媒)とを混合するNMP混合工程;
NMP混合工程で得られた中間体分散液をせん断速度毎秒5000?毎秒50000で撹拌する強撹拌工程;
NMP含有溶媒添加と吸引濾過を組み合わせる手法、または蒸留により、中間体分散液から水分の少なくとも一部を除去する水分除去工程;
を有するグラフェン分散液の製造方法。
【請求項12】
さらに、前記還元工程の前後または前記還元工程の最中に、
中間体分散液に含まれる酸化グラフェンまたはグラフェンを微細化する微細化工程;
を有する、請求項11に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項13】
さらに、還元工程後のいずれかの段階に、
中間体分散液を加熱する熱処理工程;
を有する、請求項11または12に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項14】
さらに、前記還元工程の前後または前記還元工程の最中に、
中間外分散液と、酸性基を有する表面処理剤と混合する表面処理工程;
を有する、請求項11?13のいずれかに記載のグラフェン分散液の製造方法。


第4 特許異議の申立ての理由及び証拠について
1 申立理由について
申立人は、証拠方法として甲第1号証?甲第5号証(以下、「甲1」?「甲5」という。)を提出し、本件特許は、以下の申立理由により取り消すべきものである旨主張している。

(1) 申立理由1
訂正前の請求項1?14に係る発明は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明、並びに甲4及び甲5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2) 申立理由2
訂正前の請求項1?8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

(3) 申立理由3
訂正前の請求項1?14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

2 証拠方法
甲1:Kuila,T. et al. "Facile Method for the Preparation of Water
Dispersible Graphene using Sulfonated Poly(ether-ether-
ketone) and Its Application as Energy Storage Materials",
Langmuir, 2012, 28, p.9825-9833
甲1-1:甲1の日本語部分翻訳
甲2:Kuila,T. et al. "Preparation of water-dispersible graphene
by facile surface modification of graphite oxide",
Nanotechnology, 2011,22,305710
甲2-1:甲2の日本語部分翻訳
甲3:Yu,D.S. "Effects of covalent surface modifications on the
electrical and electrochemical properties of graphene using
sodium 4-aminoazobenzene-4'-sulfonate",
CARBON, 2013,54, p.310-322
甲3-1:甲3の日本語部分翻訳
甲4:Kahn,U. et al. " High-Concentration Solvent Exfoliation of
Graphene ", small, 2010,6,No.7,p.864-871
甲4-1:甲4の日本語部分翻訳
甲5:特表2015-506083号公報


第5 取消理由について
1 平成30年10月 1日付けの取消理由通知(2回目)の概要
平成30年 5月30日付けの訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4?7、9?14のうち、請求項11?14に対して、平成30年10月1日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

請求項11?14に係る発明が解決しようとする課題は、「高分散性であり、電極材料の製造原料に用いた場合に高い導電性とイオン伝導性を維持することが可能な形態のグラフェンを提供する」(本件明細書 段落【0014】)というものであるが、 請求項11?14に係る発明は、グラフェン分散液に分散したグラフェンのO/C比が特定されていないため、最終的に得られるグラフェンの還元の程度が明らかでないから、これらの発明により上記課題を達成できるグラフェンが得られるとは認識できない。

(2)取消理由2 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

請求項11?14に係る発明は、酸化グラフェンをどの程度まで還元するのかは明らかでなく、酸化グラフェンの酸化度、及び還元の程度によって、最終的に得られるグラフェンのO/C比は変動するから、請求項11?14に係る発明において、酸化グラフェンとグラフェンとは明確に区別することができない。

2 平成30年 3月30日付けの取消理由通知(1回目)の概要
訂正前の請求項1?14に対して、平成30年 3月30日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

上記「1(1)取消理由1」と同様な理由により、請求項1、2、4?10に係る発明は、グラフェンのO/C比がどのような値であっても、上記課題を達成できるとは認識できない。

(2)取消理由2 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

ア 請求項1?14に係る発明において、「グラフェン」と「酸化グラフェン」との区別が明確でなく、「グラフェン」の範囲が不明確である。

イ 請求項8?10に係る発明において、本件明細書に「メジアン径」の測定基準が記載されていないため、「メジアン径」が特定されたグラフェンを含む「グラフェン分散液」の範囲が不明確である。


第6 当審の判断
1 平成30年10月 1日付けの取消理由通知(2回目)についての判断
取消理由1(特許法第36条第6項第1号)、取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について

本件発明11は、本件訂正請求による訂正により、「X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下となるように還元する」ことが特定された。
そうすると、発明の詳細な説明において、特定のO/C比において本件発明の課題を解決できることが記載されているところ(本件明細書【0051】)、本件発明11及び本件発明11に従属する本件発明12?14において、酸化グラフェンを、0.05以上0.40以下の「O/C比」となるように還元してグラフェン分散液を得ることが明らかとなったから、本件発明11?14は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
また、本件発明11?14において、還元により得られるグラフェン分散液に含まれるグラフェンのO/C比が特定されたことで、酸化グラフェンとグラフェンとの区別(酸化されていないグラフェンの存在)が明らかになったといえるから、本件発明の範囲は明確である。
よって、請求項11?14に対する取消理由1、2は、解消した。

2 平成30年 3月30日付けの取消理由通知(1回目)についての判断
(1)取消理由1(特許法第36条第6項第1号)及び取消理由2 ア (特許法第36条第6項第2号)について

本件発明11?14については、1に記載したとおりであるから、取消理由1及び取消理由2 ア は解消した。
また、本件訂正請求による訂正により、本件発明1において「グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下である」ことが特定され、「グラフェン/有機溶媒分散液」に分散したグラフェンの「O/C比」が明らかにされたから、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2、4?7、9、10は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、酸化グラフェンとグラフェンとの区別(酸化されていないグラフェンの存在)が明らかになったといえるから、発明の範囲は明確である。
さらに、請求項3、8は削除された。
したがって、請求項1?10に対する取消理由1及び取消理由2 ア も解消した。

(2)取消理由2 イ (特許法第36条第6項第2号)について
本件訂正請求による訂正により「メジアン径」が特定されていた請求項8は削除され、また、本件発明9、10は、請求項8を引用しないものとされたため、本件発明9、10において「メジアン径」は特定事項ではなくなったから、取消理由2 イ は解消した。

3 採用しなかった申立理由についての判断
特許異議申立てによる申立理由2、3は、取消理由においてすべて採用した。そして、本件訂正請求による訂正により、訂正前の請求項3、8は削除されたので、本件発明1、2、4?7、9?14に対して、申立理由1について検討する。

(1)甲1?5の記載事項
甲1?5には、以下の事項が記載されている(甲1?甲4の訳は、それぞれの翻訳文である甲1-1?甲4-1を主に参考にした。)

ア 甲1の記載事項
1a「2.2 Preparation of Graphite Oxide. Graphite oxide was prepared by the modified Hummers method.^(14) In brief, 46 mL of concentrated sulfuric acid was added to a 250 mL round-bottom flask at 0-5 ℃. Then, 2 g of natural flake graphite was added and stirred at this temperature to make a homogeneous suspension. About 6 g of potassium permanganate was added very slowly over a time span of 20-25 min followed by stirring for 2 h. The temperature of the reaction system was maintained at 0-5℃ with an ice bath. The flask was then transferred to a preheated oil bath at 35 ±2 ℃ under constant stirring for 12 h. About 92 mL of DI water was added very carefully followed by additional stirring for 1 h. The deep brown reaction mixture was added to 240 mL of DI water followed by the addition of 30% hydrogen peroxide until the color changed to bright yellow. Finally, a 5% hydrochloric acid solution was added to remove the manganese ions from graphite oxide followed by washing with DI water to remove excess acid. The removal of hydrochloric and sulfuric acid was confirmed by a silver nitrate and barium chloride solution. The purified graphite oxide was separated by centrifugation using a Beckman Coulter Allegra X-22R centrifuge and freeze-dried.」(9826ページ左欄下から31行?下から13行)
(「2.2.酸化グラファイトの調製 酸化グラファイトは改良ハマーズ法^(14)により調製した。要約すると、濃硫酸46mLを0?5℃で250mLの丸底フラスコに投入し、次いで、天然鱗片状グラファイト2gを加え、同じ温度で攪拌し均一な懸濁液を作製した。過マンガン酸カリウム約6gを20?25分かけて非常にゆっくり加え、2時間攪拌した。反応系の温度は氷浴を用いて0?5℃に維持した。その後、あらかじめ35±2℃に温めた油浴にフラスコを移し、12時間一定の速度で攪拌した。脱イオン水約92mLを非常に慎重に加え、さらに1時間攪拌した。焦げ茶色の反応混合物を脱イオン水240mLに加えた後、溶液が鮮やかな黄色になるまで30%過酸化水素を加えた。その後、5%塩酸溶液を加え酸化グラファイトからマンガンイオンを取り除き、脱イオン水で洗浄して過剰な酸を取り除いた。硝酸銀水溶液および塩化バリウム水溶液を用いて、塩酸および硫酸が除去されたことを確認した。精製した酸化グラファイトは、遠心分離機「ベックマン・コールター・アレグラX-22Rを用いて遠心分離を行い、凍結乾燥させた。」)

1b「2.3. Sulfonation of Poly(ether-ether-ketone). PEEK pellets (5 g) were slowly added to 100 mL of concentrated H_(2)SO_(4) (95-98 wt %) at room temperature under nitrogen atmosphere. After complete dissolution of PEEK in H_(2)SO_(4), it was then stirred vigorously at 55 ℃ for 5 h. The reaction mixture was cooled to room temperature and slowly added to ice cold water. The precipitate was then washed several times with DI water until reaching neutral pH. The product was dried at 70 ℃ in a vacuum oven to prepare sulfonated SPEEK. The conversion of PEEK to SPEEK including the chemical structure of both the reactant and the product are shown in Figure S1 of the Supporting Information. The degree of sulfonation of the SPEEK has been determined as 80%.」(9826ページ左欄下から12行?最下行)
(「2.3.ポリ(エーテルエーテルケトン)のスルホン化 PEEKペレット(5g)を室温および窒素雰囲気下で、濃H_(2)SO_(4)(95?98wt%)100mLにゆっくり加えた。PEEKがH_(2)SO_(4)に完全に溶解した後、55℃で5時間激しく攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、氷水にゆっくり加えた。次に、得られた沈殿物を、中性pHになるまで脱イオン水で数回洗浄し、生成物を70℃の真空オーブンで乾燥させ、スルホン化SPEEKを調製した。サポート情報である図S1に、PEEKを反応物および生成物両方の化学溝造を有するSPEEKに変換する過程を示す。SPEEKのスルホン化率は80%であった。」)

1c「2.4. Surface Modification of Graphene using SPEEK. About 100 mg of graphite oxide was dispersed in 200 mL of water via ultrasonication for 30 min (Sonosmasher ULH 700S, 20 kHz). The unexfoliated graphite oxide was removed by centrifugation (Beckman Coulter, Allegra X-22R) at 5000 rpm for 15-20 min. The stable homogeneous dispersion containing graphene oxide (GO) was used for surface modification. About 300 mg of SPEEK was dissolved separately in distilled water using a magnetic stirrer at 60 ℃ . Then, the SPEEK supernatant solution was added to the GO dispersion and stirred for 24 h at 65-70 ℃. Weighed amount of hydrazine monohydrate (0.1 mL) was added to the above mixture and refluxed for 12 h at 100 ℃. The final product was filtered and washed through a cellulose acetate (0.2 μm pore size) membrane to remove excess SPEEK and to obtain SPEEK modified graphene (SPG). For comparison purposes, chemically reduced GO (CR-GO) was prepared by the reduction of an aqueous GO dispersion using hydrazine monohydrate at 100 ℃ for 12 h.」(9826ページ右欄1行?17行)
(「2.4.SPEEKを用いたグラフェンの表面変性 超音波処理を30分間行い(ソノスマッシヤーULH700S、20kHz)、酸化グラファイト約100mgを水200mLに分散させた。遠心分離(ベックマン・コールター・アレグラX-22R)を5000rpmで15?20分行い、剥離していない酸化グラファイトを取り除いた。酸化グラフェン(GO)を含む均一な安定分散液を用いて表面変性を行った。これとは別に、SPEEK約300mgをマグネティックスターラーを用いて60℃で蒸留水に溶解した。SPEEK溶液の上澄み液をGO分散液に加え65?70℃で24時間攪拌した。秤量したヒドラジンー水和物(0.1mL)を上記混合物に加え、100℃で12時間還流を行った。酢酸セルロース(孔径0.2μm)膜を用いて最終生成物のろ過および洗浄を行い、過剰なSPEEKを取り除き、SPEEK変性グラフェン(SPG)を得た。比較用として、ヒドラジン-水和物を用いてGO水分散液の還元を100℃で12時間行い、化学的に還元したGO(CR-GO)を調製した。」)

1d「3.1. Characterization of SPG. To examine the dispersion characteristics of SPG, the sample was dispersed in distilled water at a concentration of 2 mg mL-1. After mild sonication, SPG formed a very stable dispersion in water that was stable for more than six months.」(9826ページ右欄下から10行?下から6行)
(「3.1.SPGの特性評価 濃度が2mgmL^(-1)になるように、試料を蒸留水に分散させ、SPGの分散特性を調べた。ゆるやかな超音波処理を行ったところ、SPGの水分散液は非常に安定で、6か月以上安定な状態のままであった。」)

1e「

」(9827ページ)
(「図1.(a)GO、CR-GOおよびSPGの紫外可視スペクトルによって、グラフェンの形成が確認される。(b)異なる濃度のSPG水溶液の紫外可視スペクトルはベールの法則(Beer’s law)に従う。」)

1f「 Figure 1b shows the UV-vis spectra of SPG at different concentrations in water. It is evident that the absorbance values of SPG at different concentrations obey Beer's law. The molar absorption coefficient (ε) of the SPG dispersion in water has been determined from the slope of the straight line (shown in the inset of Figure 1b) and is observed to be 149.03 mL mg^(-1) cm^(-1). This is in good agreement with the water-dispersible graphene prepared by Wang et al.^(12) The higher ε value of the aqueous dispersion of SPG indicates that it is highly dispersible in water. It also suggests excellent wetting between SPG and the polar electrolyte that is an essential criteria to achieve high performance supercapacitor electrode materials. The maximum dispersibility of SPG in water has been found to be 2.4 mg mL^(-1). 」(9827ページ右欄8行?21行)
(「図1bに異なる濃度のSPG水溶液の紫外可視スペクトルを示す。異なる濃度のSPGの吸光度値はベールの法則(Beer’s law)に従うことがわかる。SPGの水分散液のモル吸収係数(ε)は、直線の勾配(図1b中の挿入図を参照)から求められ、149.03mLmg^(-1)cm^(-1)である。このことはワン(Wang)ら^(12)によって調製された水分散性グラフェンと一致する。SPG水分散液のε値が大きいほど、SPGの水への分散性は高い。さらに高い性能のスーパーキャパシタ電極材料に必須の基準であるSPGと極比電解質との間のぬれ性が優れることを示唆する。SPGの水への分散性の最大値は、2.4mgmL^(-1)である。」)

1g「


(9829ページ)


イ 甲2の記載事項
2a「2.2. Preparation of graphite oxide
In a typical synthesis, the graphite flakes were oxidized to graphite oxide by a modified Hummers method [18]. In brief, 2.0 g natural flake graphite was added to 46 ml of concentrated sulfuric acid in an ice bath. Then, 6.0 g KMnO_(4) was added slowly over 30 min and stirred for approximately 2 h at 0℃. The deep-green reaction mixture was then placed in an oil bath and stirred for approximately 12 h at 35 ± 2℃. Then, 92 ml of distilled water was added slowly to the reaction mixture and stirred for another 1 h. The resulting mixture was poured into 280 ml water and stirred vigorously with a glass rod. Subsequently, 35% hydrogen peroxide was added to remove excess KMnO4. The appearance of bright yellow particles in the solution confirmed the conversion of graphite to graphite oxide. The resulting graphite oxide was washed with dilute HCl and distilled water, repeatedly, until the pH reached about 7. It was then dried at room temperature and then under vacuum at 50℃ for seven days.」(2ページ左欄下から7行?右欄11行)
(「2.2.酸化グラファイトの調製
代表的な酸化グラファイトの合成方法としては、改良ハマーズ法(Hummers method)で鱗片状グラファイトを酸化する方法があげられる[18]。 要約すると、天然鱗片状グラファイト2.0gを氷浴中の濃硫酸46mlに加え、次いで、KMnO_(4 )6.0gを30分かけてゆっくりと加え、0℃で約2時間攪拌した。その後、得られた濃い緑色の反応混合物を油浴中で35±2℃で約12時間攪拌した。次に蒸留水92mlをゆっくりと反応混合物に加え、さらに1時間攪拌した。得られた混合物を水280mlに投入し、ガラス棒で激しく攪拌した。その後、35%過酸化水素を加えて過剰なKMnO_(4)を取り除いた。溶液中の粒子が鮮やかな黄色になった時点で、グラファイトが酸化グラファイトになったことを確認した。得られた酸化グラファイトを、pHが約7になるまで、繰り返し希塩酸および蒸留水で洗浄した。その後、室温で乾燥させ、次いで50℃の真空下で7日間乾燥させた。」)

2b「2.3. Surface modification of graphene
In a typical method, 500 mg of graphite oxide was dispersed in 250 ml distilled water by ultrasoncation for 1 h. 2.0 g of ANS was dissolved in 10 ml distilled water containing two-three drops of 1 M ammonium hydroxide solution. The ANS solution was then added slowly to the graphite oxide dispersion with stirring. The resulting mixture was then stirred for 24 h at 70 ℃. Hydrazine monohydrate (5.0 ml) was added and the temperature was raised to 100℃. Stirring was continued for another 24 h, after which the mixture was cooled to room temperature. The water-dispersible black product was obtained by filtration through cellulose acetate membrane filter paper (pore size 0.1 μm) and washed several times with distilled water to remove excess ANS. The resulting product was dried under vacuum at 60 ℃ for 72 h. The chemically functionalized graphene sheets were designated as ANS-G. The schematic for the preparation of ANS modified graphene are shown in figure 1. 」(2ページ右欄12行?29行)
(「2.3.グラフェンの表面変性
代表的な方法としては、超音波処理を1時間行い、酸化グラファイト500mgを蒸留水250m1に分散させる方法があげられる。ANS2.0gを、2?3滴の1M水酸化アンモニウム溶液を含む蒸留水10mlに溶解させた。続いて、攪拌下で、ゆっくりとANS溶液を酸化グラファイト分散液に加えた。その後、得られた混合物を70℃で24時間攪拌した。ヒドラジン-水和物(5.0ml)を加え、温度を100℃まで上げた。さらに24時間攪拌を続け、その後混合物を室温まで冷却させた。酢酸セルロース膜のろ紙(孔径0.1μm)を用いてろ過することにより、水分散性の黒色生成物を得た。得られた生成物を蒸留水で数回洗浄し、過剰なANSを取り除いた。得られた生成物を60℃の真空下で72時間乾燥させた。得られた化学的に官能化されたグラフェンシートをANS-Gとした。図1にANS変性グラフェンの調製方法を模式的に示す。」)

2c「3. Results and discussion
3.1. UV-vis spectra analysis
The solubility of the surface-modified graphene (ANS-G) was tested in water. The ANS-G dispersed well, forming a good dispersion that was stable for more than 90 days. Figure 2 shows the UV-vis absorbance spectra of ANS-G and graphite oxide in water. Pure graphite oxide showed a strong absorption peak at 230 nm which shifted to 262 nm in ANS-G, suggesting the restoration of electronic conjugation within the graphene sheets [9]. Comparison of the aqueous dispersion of graphite oxide and ANS-G are shown in the inset of figure 2. The UV-vis spectra of ANS-G at different concentrations (in water) are plotted in figure 3. A linear relationship exists between the absorbance (at 262 nm) and the concentration of ANS-G (inset figure 3), similar to that of the poly(sodium 4-styrene sulfonate)-modified graphene reported by Wang et al [10]. The UV-vis absorption of the aqueous ANS-G obeyed Beer's law, and the extinction coefficient (ε) was calculated to be 185 ml mg^(-1) cm^(-1).」(3ページ左欄下から4行?右欄15行)
(「3.結果と考察
3.1.紫外可視スペクトル分析
表面変性グラフェン(ANS-G)の水への溶解度について試験を行った。ANS-Gは良好に分散し、良好な分散液が得られ、90日を超えても安定な状態のままであった。図2に水中におけるANS-Gおよび酸化グラファイトの紫外可視吸光度スペクトルを示す。純酸化グラファイトは230nmに強い吸収ピークを示し、一方、ANS-Gの状態ではそのピークは262nmにシフトした。このことは、グラフェンシート中に電子共役が復元したことを示している。[9] 図2の挿入図において、酸化グラファイトの水分散液とANS-Gの水分散液とを比較した。図3に、異なる濃度の水中におけるANS-Gの紫外可視スペクトルのプロットを示す。ANS-Gの吸光度(262nm)と濃度との間には直線関係が存在し(図3中の挿入図)、これは、ワン(Wang)らによって報告されているポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)変性グラフェンのものと同様である。[10] 水溶性ANS-Gの紫外可視吸収はベールの法則(Beer’s law)に従い、吸光係数(ε)は185mlmg^(-1)cm^(-1)であった。」)

2d「

」(3ページ)
(「図3.水中における異なる濃度のANS-Gの紫外可視スペクトル」)

2e「3.5. XPS analysis
Figures 7(a)-(c) shows the XPS of graphite oxide and ANS- G in the C 1s and S 2p region. The C1s XPS spectrum of graphite oxide is discussed in detail elsewhere [24]; it showed a considerable degree of oxidation, with five components corresponding to carbon atoms in different functional groups: nonoxygenated ring C; C-0 bonds; carbony1 C; carboxylate carbon (O-C=O), and epoxy carbon [11,39-41]. The surface- modified graphene had the same oxygen functionalities, but showed much-reduced peak intensities compared with graphite oxide. There is an additional component at 285.4 eV, corresponding to C-N. The S2p XPS spectra of ANS-G are shown in figure 7(c). The well-defined peaks at 167.4 and 168.4 eV are attributable to the presence of sulfur atoms on the surface of the modified graphene. Elemental analysis of the XPS spectra showed that ANS-G had carbon, oxygen, nitrogen, and sulfur contents of 84.5, 4.2, 4.4, and 4.9%, respectively. These observations indicate considerable de-oxygenation during the reduction process, as well as functionalization.」(5ページ右欄下から3行?6ページ右欄17行)
(「3.5. XPS分析
図7の(a)?(c)はC1s領域およびS2p領域における酸化グラファイトおよびANS-GのXPSを示している。XPS測定による酸化グラファイトのC1sスペクトルについては、他で詳しく議論されている[24]。そのスペクトルによると、酸化度が非常に高く、異なる官能基由来の炭素原子、すなわち、非酸化性環炭素、C-O結合、カルボニル炭素、カルボン酸塩炭素(O-C=O)およびエポキシ炭素[11,39-41]に対応する5つの成分を有していることがわかる。表面変性グラフェンは酸化グラファイトと同様の酸素官能基を有していたが、ピーク強度は酸化グラファイトに比べて非常に低いものであった。さらにC-Nに対応する成分が285.4eVに見られる。図7(c)にXPS測定によるANS-GのS2pスペクトルを示す。167.4および168.4eVに明確に見られるピークは、変性グラフェンの表面に存在する硫黄原子に起因する。XPS測定によるスペクトルの元素分析によると、ANS-Gの炭素含量、酸素含量、窒素含量および硫黄含量はそれぞれ84.5、4.2、4.4および4.9%であった。これらの結果から、還元プロセスにおいては、官能化だけでなく、かなりの脱酸素が起こっていることがわかる。」)

ウ 甲3の記載事項
3a「The broad application of graphene is impeded by its intrinsically insoluble property. Therefore, two types of water dispersible graphene were synthesized by the reaction of graphene oxide (GO) with sodium 4-aminoazobenzene-4'-sulfonate(SAS) and its aryl diazonium salt (ADS). The maximum dispersibilities of SAS- and ADS-functionalized graphene (SAS-G and ADS-G) in water were 1.4 and 2.9 mgmL^(-1), respectively.」(310ページ ABSTRACT 1行?5行)
(「不溶性であるグラフェンの用途は限られる。そのため、酸化グラフェン(GO)を4-アミノアゾベンゼン-4’-スルホン酸ナトリウム(SAS)やそのアリールジアゾニウム塩(ADS)と反応させることで、2種類の水分散性グラフェンが合成された。SAS-官能化グラフェンおよびADS-官能化グラフェン(SAS-GおよびADS-G)の水への分散性の最大値は、それぞれ1.4mgmL^(-1)および2.9mgmL^(-1)であった。」)

3b「2.2. Preparation of graphite oxide
Graphite oxide was prepared by the oxidation of natural graphite flake by a modified Hummers method [28]. In an ice bath, approximately 3 g of natural flake graphite was added to 69 mL concentrated sulfuric acid in a 500 mL round bottom flask. Nine grams of KMnO_(4 )was added slowly for approximately 40 min and was stirred for approximately 2 h at 0-5℃. The resulting mixture was moved to another preheated oil bath and stirred for approximately 10 h at 35 ± 2℃. Approximately 138 mL of distilled water was carefully added to the reaction mixture and stirred for another 2 h. The resulting mixture was subsequently poured into the beaker containing 400 mL of distilled water. About 4-5 mL of 35% H_(2)O_(2) solution was added to remove excess KMnO_(4). The resulting graphite oxide solution was washed with HCl and distilled water repeatedly until the pH was approximately 7. A single layer of GO was obtained by the sonication of resulting graphite oxide and the un-exfoliated graphite oxide was removed by centrifugation. The resulting GO was dried at 40℃ under vacuum for several days.」(311ページ右欄10行?29行)
(「2.2. 酸化グラファイトの調製
酸化グラファイトは、天然鱗片状グラファイトを改良ハマーズ法(Hummers method)で酸化することにより調製した。[28] 氷浴中において、天然鱗片状グラファイト約3gを500mL丸底フラスコ中の濃硫酸69mLに加えた。 KMnO_(4 )9gを約40分かけてゆっくりと加え、0?5℃で約2時間攪拌した。得られた混合物をあらかじめ加熱した別の油浴に移し、35±2℃で約10時間攪拌した。蒸留水約138mLを反応混合物に注意深く加え、さらに2時間攪拌した。次いで、得られた混合物を蒸留水400mLの入ったビーカーに注いだ。35%H_(2)O_(2)溶液約4.5mLを加え過剰なKMnO_(4)を取り除いた。得られた酸化グラファイト溶液を、pHが約7になるまでHCLおよび蒸留水で繰り返し洗浄した。得られた酸化グラファイトを超音波処理することにより1層構造のGOを作製し、剥離していない酸化グラファイトを遠心分離によって取り除いた。得られたGOを40℃の真空下で数日乾燥させた。」)

3c「2.3. Surface modification of graphene by SAS
Approximately 100 mg of GO was dispersed in 150 mL distilled water to form a stable dispersion by ultrasonication for approximately 30 min and the pH of the GO dispersion was adjusted to 9-10 with a Na_(2)CO_(3 )solution. About 500 mg of SAS was dissolved in 50 mL distilled water and was then slowly added to the GO dispersion while stirring. The mixture was stirred for 24 h at 70℃. Approximately 1 mL of hydrazine monohydrate was added and refluxed for 12 h at 100℃. To remove the un-reacted SAS, the resulting black product was washed by filtration through a cellulose acetate membrane filter paper. The product was dried under vacuum at 60℃ for several days. The schematic for the surface modification of graphene by SAS is shown in Fig. 1.」(311ページ右欄30行?43行)
(「2.3. SASによるグラフェンの表面変性
超音波処理を約30分行い、GO約100mgを蒸留水150mLに分散させ、安定した分散液を作製し、Na_(2)CO_(3)溶液を用いてGO分散液のpHを9?10に調製した。SAS約500mgを蒸留水50mLに溶解し、攪拌しながら、ゆっくりとGO分散液に加えた。得られた混合物を70℃で24時間攪拌した。ヒドラジン-水和物約1mLを加え、100℃で12時間還流を行った。未反応SASを取り除くために得られた黒色生成物を酢酸セルロース膜ろ紙を用いてろ過することにより洗浄した。生成物を60℃の真空下で数日間乾燥させた。図1にSASによるグラフェンの表面変性を模式的に示す。」)

3d「Fig. 4(a and b) show the UV-vis absorbance spectra of the SAS-G and ADS-G aqueous dispersion at different concentrations. A linear relationship exists between the absorbance and concentration (insets of Fig. 4a and b), indicating that both the SAS-G and ADS-G aqueous dispersions obeyed Beer's law (A = εcl, where, A is the absorbance; ε is the molar extinc-tion coefficient, mL mg^(-1) cm^(-1); c is the concentration, mg mL^(-1); l is the path length, cm). The molar extinction coef-ficient (ε) was calculated as εSAS-G =40.63:mL mg^(-1) cm^(-1), εADS-G =85.01 mL mg^(-1) cm^(-1).」(313ページ右欄25行?34行)
(「図4の(a)および(b)に異なる濃度のSAS-G水分散液およびADS-G水分散液の紫外可視吸光度スペクトルを示す。吸光度と濃度との間には直線関係が存在し(図4(a)および(b)の挿入図)、これはSAS-G水分散液およびADS-G水分散液両方がベールの法則(Beer’s law、A=εcl(Aは吸光度、εはモル吸光係数(mLmg^(-1)cm^(-1))、cは濃度(mgmL^(-1))、1は経路長(cm)を示す))に従うことを示している。モル吸光係数(ε)を計算したところ、εSAS-G=40.63mLmg^(-1)cm^(-1 )、εADS-G =85.01mLmg^(-1)cm^(-1)であった。」)

3e「


(315ページ)
(「図4-異なる濃度の(a)SAS-G水溶液および(b)ADS-G水溶液の紫外可視吸光度スペクトル。挿入図には、SAS-G分散性およびADS-G分散性は、ベールの法則(Beer’s law)に従うことが示されている。」)

3f「Elemental analysis of the XPS spectra showed that GO, SAS-G and ADS-G had different atomic concentrations of carbon, oxygen, nitrogen and sulfur and the C/O ratio as shown in Table 2. The C/O atomic ratio of SAS-G and ADS-G was increased compared with GO, In addition, the atomic concentration of nitrogen and sulfur in ADS-G were greater than SAS-G, which suggested that the amount of functional groups attached on the surface of graphene in ADS-G is higher than that of SAS-G. This is attributed to the use of partially reduced GO as a starting materials for the synthesis of ADS-G compared to pristine GO for SAS-G.」(317ページ左欄下から6行?右欄6行)
(「表2に示すようにXPSによるスペクトルの元素分析によると、GO、SAS-GおよびADS-Gは、それぞれ異なる、炭素、酸素、窒素および硫黄の原子濃度およびC/O比を有する。SAS-GおよびADS-GのC/O原子比率は、GOに比べて大きい。さらに、ADS-Gにおける窒素および硫黄の原子濃度はSAS-Gよりも大きく、ADS-G中のグラフェンの表面に結合している官能基の量がSAS-Gのものより大きいことを示している。これは、もとのGOをSAS-Gに用いる場合に比べて、部分還元型GOをADS-Gの合成の原材料に使用したことによるものである。」)

3g「


(317ページ)
(「

」)

エ 甲4の記載事項
4a「2.7 Aqueous Dispersions
Using the solvent NMP has a number of disadvantages, notably its high boiling point. For many applications, water would be a better solvent. However, the surface energy of water is too high for it to act as a solvent for graphene.^([25]) We note, however, that aqueous dispersions of reduced GO have been heavily diluted with organic solvents without large-scale destabilization.^([17] ) With this in mind, we diluted an NMP dispersion (0.7 mg mL^(-1), 2mL) with water by a factor of 99:1 (water:NMP). For comparison, we diluted the same starting dispersion with NMP at 99:1. Each dispersion was then bath sonicated for a further 10 min to homogenize it. We measured the resulting sedimentation by tracking optical absorbance using home-built apparatus.^([47]) Sedimentation curves for both water- and NMP-diluted dispersions are shown in Figure 8A. Both samples were very stable over 160h, showing <25% sedimentation.」(870ページ左欄6行?22行)
(「2.7.水分散液
NMP溶媒の使用においては多くの問題があり、特に沸点が高いことが問題となる。様々な用途において用いる溶媒としては水が好ましいが、グラフェンに使用するには、水の表面エネルギーは高すぎる。^([25] )しかしながら、還元GOの水分散液の希釈に有機溶媒が用いられており、スケールが大きくても不安定になることがない。^([17] )この点を考慮して、NMP分散液(0.7mgmL^(-1),2mL)の希釈を水を用いて99:1(水:NMP)の割合で行った。比較用として、同じ出発分散液を、NMPを用いて99:1の割合で希釈した。その後、それぞれの分散液を、浴槽中で超音波によりさらに10分間分散させて均一化した。自家製の装置を用いて吸光度を追跡することにより、生じる沈殿の測定を行った。^([47] )図8Aに水で希釈した分散液およびNMPで希釈した分散液の両方の沈殿物曲線を示す。両試料とも160時間を超えても非常に安定な状態を保ち、沈殿物は<25%であった。」)

4b「


(870ページ)
(「図8.A)NMPまたは水を加えたときのグラフェン分散液(0.7mgmL^(-1)から0.007mgmL^(-1)に希釈)に対する沈殿物の挙動。曲線はそれぞれパラメーターで表した指数関数的減衰によく一致する。挿入図:水で希釈した単層グラフェンのTEM画像。B)NMPで希釈した分散液の凝集状態およびC)水で希釈した分散液の凝集状態のTEM画像からの統計値」)

4c「4. Experimental Section
A set of identical graphene dispersions were prepared by adding powdered graphite(・・・)to NMP (・・・) at a concentration of 3.3mg mL^(-1) (700mL, round-bottomed flask). These dispersions were then sonicated (・・・)for various periods from 0.5h to 462h.
・・・ After sonication, the dispersions were transfered to vials and centrifuged at 500rpm for 45 min (・・・) . After centrifugaton, the top 20mL (out of 28mL) was carefully removed and retained for further use.」(870ページ右欄下から28行?下から8行)
(「4.実験の部
同じグラフェン分散液のセットを、粉末状グラファイト(・・・)を3.3mg mL^(-1)の濃度(700mLの丸底フラスコ) の濃度のNNP(・・・)に添加することによって調製した。 これらの分散液は、0.5時間から462時間までの様々な時間で超音波処理した(・・・)。
・・・ 超音波処理後、分散液はバイアル瓶に移し、45分間遠心分離した(・・・)。 遠心分離後、(28mLから)20mLの上澄みを慎重に取り出して、後の使用のために保存した。」)

オ 甲5の記載事項
5a「【0006】
一般に、電極を製造するための技術は、VDFポリマー(PVDF)バインダーを溶解してそれらを粉状電極材料および前述の導電性添加剤などの全ての他の適した成分と均質化するためにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤を使用して、金属集電体上に適用されるペーストを製造することを必要とする。
・・・
【0008】
したがって、現在のリチウムバッテリのエネルギー密度を改良するために、カーボンブラックをより高い導電率を有する導電性添加剤と取り替えることが有益である-それはより小さな重量比と共に、必要とされる電子伝導率をバッテリ電極に与えることができる-バッテリ活性材料のエネルギー密度損失を最小にする。この点に関して、グラフェンのカーボンナノ材料(炭素原子の単一層および2次元ナノ構造)は、高い表面積対体積比および顕著な電子輸送性質を有し、両方の性質はカーボンブラックよりも優れており、理論上はそれを魅力的な導電性添加剤材料にすることが最近判明した。グラフェン小板は、それらの合成の間に様々な程度に酸化されてもよく、したがって酸化グラフェンシートになる。したがって、本発明の目的のために、「グラフェン」という用語は、純粋な、酸化されていないグラフェンとその酸化された形態との両方を包含するように使用され、「酸化グラフェン」という用語は、酸化されたグラフェンだけを示すことが意図される。」

5b「【0071】
リチウム二次バッテリのための正電極の作製
実施例1
最初に、0.5重量%のGNP-PDR05を含有するグラフェン/NMP懸濁液を調製するために、0.2gのGNP-PDR05を40gのNMPに添加し、このように製造された混合物を(10ワットの出力電力を使用して)10分間にわたって音波処理に供した。次に、得られたグラフェン/NMP懸濁液20gを正電極活性材料として9.383gのLiCoO_(2)(Umicoreから購入)と6.267gの前もって調製された8重量%SOLEF(登録商標)5130 PVDF/NMP懸濁液と混合し、得られた混合物を1時間にわたってDispermat(登録商標)攪拌機を使用して3000rpmの速度において激しく撹拌し、正電極材料複合ペーストを得た。ドクターブレードキャスティング技術を使用してペーストをアルミニウム箔上にコートし、その後、炉内で真空下、1時間にわたって130oCにおいて加熱乾燥によって処理し、94重量%のLiCoO_(2)、5重量%のSOLEF(登録商標)5130 PVDFバインダーおよび1重量%のグラフェン導電性添加剤を有する正電極材料を製造した。」

(2)甲1?甲3に記載された発明、並びに甲4及び甲5に記載された技術事項
ア 甲1に記載された発明
記載事項1aによると、グラファイトを酸化して酸化グラファイトを得たことが、記載事項1bによると、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)をスルホン化して、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)(SPEEK)を得たことが、記載事項1cによると、超音波処理により酸化グラファイトを水に分散させ、SPEEKを加えて撹拌し、さらにヒドラジンを加えて還流を行って、SPEEK変性グラフェン(SPG)を得たことが、記載事項1dによると、SPGを蒸留水に超音波処理して分散させて水分散液を得たことが、記載事項1gによると、XPS、すなわちX線光電子分光法により測定されるSPGのC/Oの原子比が6.8であることが、それぞれ記載されている。
そして、記載事項1eによると、図1(b)には、SPGの濃度を変えてSPG水分散液の紫外可視光スペクトル測定を行った結果が示されており、濃度0.0130mg/mlのSPG水分散液の波長270nmでの吸光度は約1.6であると認められ、また、記載事項1fによると、SPG水分散液のモル吸収係数は149.03mLmg^(-1)cm^(-1)であることが記載されている。
ここで、ヒドラジンを加えて還流を行う工程は、酸化グラファイトを還元してグラフェンを得る工程であるといえる。
また、SPGのC/Oの原子比が6.8であるから、炭素に対する酸素の原子比(O/C比)は0.15である。

そうすると、甲1には、
「SPEEK変性グラフェンが水に分散した分散液であって、モル吸収係数が149.03mLmg^(-1)cm^(-1)であり、濃度0.0130mg/mlのSPEEK変性グラフェン分散液の波長270nmでの吸光度が約1.6であり、前記SPEEK変性グラフェンのX線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の原子比(O/C比)が0.15であるグラフェン分散液。」
の発明(以下、「甲1発明A」という。)
及び
「水に分散する酸化グラファイトを、SPEEKによる変性及びヒドラジンによる還元をして、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の原子比(O/C比)が0.15であるSPEEK変性グラフェンを得る工程、
得られたSPEEK変性グラフェンを超音波処理して水に分散させる工程
を含むグラフェンの分散液の製造方法。」
の発明(以下、「甲1発明B」という。)が記載されていると認められる。

イ 甲2に記載された発明
記載事項2aによると、グラファイトを酸化して酸化グラファイトを得たことが、記載事項2bによると、撹拌下の酸化グラファイトの水分散液に、ANSを加え、その後、ヒドラジンを加えてANS変性グラフェンを得たことが、記載事項2cによると、ANS変性グラフェン(ANS-G)を水に分散させて分散液を得たこと及び吸光係数が185mlmg^(-1)cm^(-1)であることが、記載事項2eによると、XPS、すなわち、X線光電子分光法の元素分析によるANS変性グラフェンの炭素含量及び酸素含量が、それぞれ84.5原子%及び4.2原子%であることが、それぞれ記載されている。
そして、記載事項2dによると、図3には、ANS-Gの濃度を変えてANS-G水分散液のANS-G水分散液の紫外可視スペクトル測定を行った結果が示されており、濃度0.0100mg/mlのANS-G水分散液の波長270nmでの吸光度は約1.8であると認められる。
ここで、酸化グラファイトの分散液にヒドラジンを加える工程は、酸化グラファイトを還元してグラフェンを得る工程であるといえる。
また、ANS変性グラフェンの炭素に対する酸素の元素比(O/C比)は、0.05(=4.2÷84.5)となる。
なお、甲3のabstract (要旨)によると、ANSは、6-アミノ-4-ヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸の略称である。

そうすると、甲2には、
「ANS変性グラフェンが水に分散した分散液であって、吸光係数が185mlmg^(-1)cm^(-1)であり、濃度0.0100mg/mlのANS変性グラフェン水分散液の波長270nmでの吸光度は約1.8であり、前記ANS変性グラフェンのX線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05であるグラフェン分散液。」
の発明(以下、「甲2発明A」という。)
及び
「水分散液の酸化グラファイトを、撹拌しながらANSによる変性及びヒドラジンによる還元をして、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05であるANS変性グラフェンを得る工程、得られたANS変性グラフェンを水に分散させる工程
を含むグラフェン分散液の製造方法。」
の発明(以下、「甲2発明B」という。)が記載されていると認められる。

ウ 甲3に記載された発明
記載事項3bによると、グラファイトを酸化して酸化グラファイトを得ることが、記載事項3cによると、酸化グラファイトの分散液に、SASを加え、その後、ヒドラジンを加えてSAS変性グラフェン(SAS-G)を得ることが、記載事項3f、3gによると、XPS、すなわち、X線光電子分光法の元素分析によるSAS-GのC/Oの原子比が6.8であることが、それぞれ記載されている。
そして、記載事項3dによると、SAS-Gの濃度を変えてSAS-G水分散液の紫外可視光吸光度スペクトルを測定した結果が示されており、濃度0.010mgmL^(-1)のSAS-G水分散液の波長270nmでの吸光度は、約1.3であると認められ、また、SAS-G水分散液のモル吸光係数は40.63mLmg^(-1)cm^(-1)であることが記載されている。
ここで、酸化グラファイトの分散液にヒドラジンを加える工程は、酸化グラファイトを還元してグラフェンを得る工程であるといえる。
また、SAS変性グラフェンの原子比(C/O比)が5.8であるから、炭素に対する酸素の原子比(O/C比)は0.17である。

そうすると、甲3には、
「SAS変性グラフェンが水に分散した分散液であって、モル吸収係数が40.63mLmg^(-1)cm^(-1)であり、濃度0.010mg/mlのSAS変性グラフェン水分散液の波長270nmでの吸光度は約1.3であり、前記SAS変性グラフェンのX線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の原子比(O/C比)が0.17であるグラフェン分散液。」
の発明(以下、「甲3発明A」という。)
及び
「水分散液の酸化グラファイトを、SASによる変性及びヒドラジンによる還元をして、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の原子比(O/C比)が0.17であるSAS変性グラフェンを得る工程、得られたSAS変性グラフェンを水に分散させる工程
を含むグラフェン分散液の製造方法。」
の発明(以下、「甲3発明B」という。)が記載されていると認められる。

エ 甲4に記載された技術事項
甲4の記載事項4a、4bによると、グラフェンの0.7mgmL^(-1)の濃度のNMP分散液を、水を用いて99:1(水:NMP)の割合又はNMPを用いて99:1の割合で希釈し超音波処理して、0.007mgmL^(-1)の分散液を得ること、及びこれらの分散液の吸光度の経時変化を観察した結果が示されている。
記載事項4cによると、グラファイトをNMP溶液中で超音波処理して、グラファイトを剥離してグラフェンを得ることが記載されている。

オ 甲5に記載された技術事項
記載事項5a、5bによると、グラフェンをNMPに添加してグラフェン/NMP懸濁液を調製することが記載されている。

(3)本件発明1、2、4?7、9、10について
甲1発明A?甲3発明Bは、グラフェンが水に分散したグラフェン分散液である点、並びにグラフェン分散液のモル吸収係数又は吸光係数及び波長270nmでの吸光度が規定されている点で共通している。

ここで、申立人は、特許異議申立書において、これらのグラフェン分散液のモル吸収係数(吸光係数)及び波長270nmでの吸光度の規定は、本件発明1の特定事項である「グラフェン重量分率0.000013に調整した希釈液の、波長270nmにおける下記式(1)を用いて算出される重量吸光係数が25000cm^(-1)以上200000cm^(-1)以下である」「重量吸光係数(cm^(-1))=吸光度/{(0.000013×セルの光路長(cm)}・・・(1)」ことに相当するところ、甲4の記載事項4bの図によると、グラフェンの0.7mgmL^(-1)濃度のNMP分散液を、NMP及び水でそれぞれ希釈した分散液の吸光度の経時変化は製造直後から10時間程度まではほとんど差がないから、甲1?甲3に記載されたグラフェン水分散液の溶媒をNMPに変えてNMP分散液としても、甲4に記載のNMP分散液と同様に、吸光度は同程度のものとなり、本件発明1の重量吸光係数の値を充足するものであるとしている。
そして、甲5に記載のようにNMPはグラフェンの分散液の溶媒として一般的な溶媒であるから、本件発明1は、当業者が容易に想到すると主張している。

そこで、上記主張について検討すると、甲4において、NMP分散液について、水で希釈した分散液と、同じ希釈率となるようにNMPで希釈した分散液とで吸光度の経時変化を比較している。
そして、これらの記載から、両者の吸光度の経時変化は少なく安定であるということはできるが、記載事項4bの図からは、比較のために吸光度の値を規格化したとも考えられ、吸光度の測定値が両者で同程度であるとはいえないから、上記主張の根拠とできない。

また、記載事項4a、4bから、仮に、水及びNMPで希釈したグラフェン分散液が同程度の吸光度であるといえるとしても、甲4に記載されたグラフェンNMP分散液は、記載事項4cによると、NMP溶液中で超音波処理によってグラファイトを剥離して得られたものであるのに対して、甲1発明A?甲3発明Aに係るグラフェン分散液は、グラフェン表面を官能化して変性グラフェンとして水溶媒に分散させたものであるから、両者の分散液中のグラフェンの表面性状が異なっている。
そうすると、甲1発明A?甲3発明Aに係るグラフェン分散液を、NMPで置換した場合に、甲4に記載された分散液のグラフェンと同じ挙動を示すとはいえないから、甲1発明A?甲3発明Aに係るグラフェン分散液をNMPで置換した分散液が、水溶媒のグラフェン分散液と同様な分散性を示し、同程度の吸光度の値が得られるとはいえない。

したがって、甲5などに記載されたようにグラフェンをNMPに分散させることが周知であるとしても、本件発明1は、甲1?甲3に記載された発明並びに甲4及び甲5に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、本件発明1に従属する本件発明2、4?7、9、10は、本件発明1の上記特定事項を含むものであるから、同様に甲1?甲3に記載された発明並びに甲4及び甲5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

よって、本件発明1、2、4?7、9、10について、申立理由1は、理由がない。

(4)本件発明11?14について
申立人は、特許異議申立書において、甲1?甲3には、それぞれ「水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを還元する還元工程」が記載され、甲5に記載されているように、NMP(N-メチルピロリドン)はグラフェンを分散させる溶媒として一般的なものであるから、甲1?甲3に記載のグラフェンの水分散液とNMPとを混合することは適宜行うことであり、また、酸化グラフェンを微細化することや、高速で撹拌することもグラフェン層の剥離を促すための方法として一般的であることなどの理由から、訂正前の請求項11に係る発明は、当業者が容易に想到すると主張している。

そこで、上記の主張について検討すると、甲1発明B?甲3発明Bは、水溶媒中で酸化グラファイト又は酸化グラフェンを還元処理して、分散性の高いグラフェン又は還元型酸化グラフェンを得るものであるといえるが、還元処理後、これらを有機溶媒に分散させるものではなく、また、水溶媒に有機溶媒を混合することを示唆するものでもない。

そして、甲4には、グラフェンの分散したNMP溶液を、さらにNMPで希釈して超音波処理することが記載され、また、甲5によると、グラフェンをNMPに添加し音波処理してグラフェン/NMP懸濁液を得ることは周知技術であるといえ、さらに、甲1?甲3には、水分散媒中での超音波処理や撹拌処理を行うことは記載されているが、本件発明11のように、有機溶媒を含む分散液中で強撹拌処理するというものでもない。

そうすると、甲1?甲5には、少なくとも本件発明11の特定事項である
「還元工程で得られた中間体分散液とN-メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒(NMP含有溶媒)とを混合するNMP混合工程;
NMP混合工程で得られた中間体分散液をせん断速度毎秒5000?毎秒50000で撹拌する強撹拌工程;」
の一連の工程を行うことについて、記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明11は、甲1?甲3に記載された発明並びに甲4及び甲5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、本件発明11に従属する本件発明12?14は、本件発明11の上記特定事項を含むものであるから、同様に甲1?甲3に記載された発明並びに甲4及び甲5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

よって、本件発明11?14について、申立理由1は、理由がない。

4 申立人の意見について
申立人は、平成30年7月19日付けの意見書において、平成30年 5月30日付けの訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1は、グラフェンのO/C比が「0.05以上、0.40以下」に特定されているのに対して、実施例は、O/C比が0.09?0.16の範囲のグラフェンの分散液のみであるから、本件明細書の記載からO/C比が0.40であっても、高い分散性と高い導電性等を発揮することができることを当業者は理解できず、また、本件明細書は、酸化グラフェンを還元してグラフェンを得ることが記載されているが、グラフェンの調製工程が異なると得られるグラフェンの特性が同一のものとはいえないことから、請求項1及びその従属項は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨の主張をしている。
しかし、本件発明の解決しようとする課題は、高分散性であり、電極材料の製造原料に用いた場合に高い導電性とイオン伝導性を維持することが可能な形態のグラフェンを提供するものであるところ(本件明細書 段落【0014】)、本件発明1において、グラフェンの重量吸光係数、及びO/C比の数値範囲を規定したものである。
そして、発明の詳細な説明には、これらの数値範囲を規定した理由が説明されており(本件明細書 段落【0021】、【0049】)、また、実施例の欄において、表面処理剤として共通のものを用い、撹拌条件や水分除去方法などを変更して実験した結果、実施例及び比較例は共にO/C比がすべて本件発明の範囲を満たすが、本件発明において規定した重量吸光係数を充足する実施例は、これを充足しない比較例よりも、分散性が優れ電池性能が優れていることが把握でき、本件発明の課題を解決できると認識できる。
そうすると、O/C比の数値範囲の上限及び下限の具体例がないことをもって、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2、4?7、9、10が発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

また、申立人は、上記意見書において、平成30年5月30日付けの訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項11?14に係る発明は、グラフェンの所定のO/C比が特定されていないため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない旨主張しているが、上記「第6 1」の判断のとおりであるから、当該主張も採用できない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、当審で通知した取消理由並びに特許異議申立ての理由及び証拠によっては、訂正後の請求項1、2、4?7、9?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、4?7、9?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項3、8に係る特許は、本件訂正請求による訂正により削除されたため、これらの特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンがN-メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒に分散した分散液であって、N-メチルピロリドンでグラフェン重量分率0.000013に調整した希釈液の、波長270nmにおける下記式(1)を用いて算出される重量吸光係数が25000cm^(-1)以上200000cm^(-1)以下であり、前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下であるグラフェン分散液。
重量吸光係数(cm^(-1))=吸光度/{(0.000013×セルの光路長(cm)}
・・・(1)
【請求項2】
前記希釈液の、下記式(2)を用いて算出される吸光度比が1.70以上4.00以下である、請求項1に記載のグラフェン分散液
吸光度比=吸光度(270nm)/吸光度(600nm) ・・・(2)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
酸性基を有する表面処理剤を含む、請求項1または2に記載のグラフェン分散液。
【請求項5】
前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素比(N/C比)が0.005以上0.030以下である、請求項1?2,4のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項6】
前記グラフェンの、BET測定法により測定される比表面積が80m^(2)/g以上250m^(2)/g以下である、請求項1?2,4,5のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項7】
固形分率が0.3質量%以上40質量%以下である、請求項1?2,4?6のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
請求項1?2,4?7のいずれかに記載のグラフェン分散液と、電極活物質粒子とを混合した後に乾燥することを含む、グラフェン-電極活物質複合体粒子の製造方法。
【請求項10】
電極活物質、バインダーおよび請求項1?2,4?7のいずれかに記載のグラフェン分散液を混合することを含む、電極ペーストの製造方法。
【請求項11】
水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下となるように還元する還元工程;
還元工程で得られた中間体分散液とN-メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒(NMP含有溶媒)とを混合するNMP混合工程;
NMP混合工程で得られた中間体分散液をせん断速度毎秒5000?毎秒50000で撹拌する強撹拌工程;
NMP含有溶媒添加と吸引濾過を組み合わせる手法、または蒸留により、中間体分散液から水分の少なくとも一部を除去する水分除去工程;
を有するグラフェン分散液の製造方法。
【請求項12】
さらに、前記還元工程の前後または前記還元工程の最中に、
中間体分散液に含まれる酸化グラフェンまたはグラフェンを微細化する微細化工程;
を有する、請求項11に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項13】
さらに、還元工程後のいずれかの段階に、
中間体分散液を加熱する熱処理工程;
を有する、請求項11または12に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項14】
さらに、前記還元工程の前後または前記還元工程の最中に、
中間外分散液と、酸性基を有する表面処理剤と混合する表面処理工程;
を有する、請求項11?13のいずれかに記載のグラフェン分散液の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-02 
出願番号 特願2016-559376(P2016-559376)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C01B)
P 1 651・ 851- YAA (C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小野 久子  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 宮澤 尚之
後藤 政博
登録日 2017-06-09 
登録番号 特許第6152924号(P6152924)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 グラフェン分散液およびその製造方法、グラフェン-活物質複合体粒子の製造方法ならびに電極ペーストの製造方法  
代理人 清流国際特許業務法人  
代理人 清流国際特許業務法人  
代理人 昼間 孝良  
代理人 境澤 正夫  
代理人 昼間 孝良  
代理人 境澤 正夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ