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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H04B
管理番号 1352279
異議申立番号 異議2018-700408  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-15 
確定日 2019-04-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6231244号発明「再生システムおよび情報提供方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6231244号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1,〔2-6〕,7,8,9について訂正することを認める。 特許第6231244号の請求項1及び7に係る特許を維持する。 特許第6231244号の請求項2-6,8,9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6231244号の請求項1乃至9に係る特許についての出願は,平成26年8月26日に出願された特願2014-171320号の一部を平成29年8月4日に分割出願したものであって,平成29年10月27日にその特許権の設定登録がされ,平成29年11月15日に特許公報が発行された。その後,その特許について,平成30年5月15日に特許異議申立人小関勝成により特許異議の申立てがされ,当審は,平成30年10月15日付けで取消理由を通知した。特許権者は,その指定期間内である平成30年12月17日に意見書の提出及び訂正の請求を行い,その訂正の請求に対して,特許異議申立人小関勝成は,平成31年3月1日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断

1.訂正の内容

平成30年12月17日の訂正請求(以下,「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は,以下の(1)乃至(5)のとおりである。

(1)請求項1について

ア.特許請求の範囲の請求項1における「対象音」という記載を,「第1期間にわたる対象音」に訂正する。

イ.特許請求の範囲の請求項1における「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分」という記載を,「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み,時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる可聴域の音響成分」に訂正する。

ウ.明細書における発明の名称における「再生システム,端末装置,情報提供方法,端末装置の動作方法およびプログラム」という記載を,「再生システムおよび情報提供方法」に訂正する。

(2)一群の請求項2-6について

ア.特許請求の範囲の請求項2を削除する。

イ.特許請求の範囲の請求項3を削除する。

ウ.特許請求の範囲の請求項4を削除する。

エ.特許請求の範囲の請求項5を削除する。

オ.特許請求の範囲の請求項6を削除する。

カ.明細書における発明の名称における「再生システム,端末装置,情報提供方法,端末装置の動作方法およびプログラム」という記載を,「再生システムおよび情報提供方法」に訂正する。

(3)請求項7について

ア.特許請求の範囲の請求項7における「対象音」という記載を,「第1期間にわたる対象音」に訂正する。

イ.特許請求の範囲の請求項7における「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分」という記載を,「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み,時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる可聴域の音響成分」に訂正する。

ウ.明細書における発明の名称における「再生システム,端末装置,情報提供方法,端末装置の動作方法およびプログラム」という記載を,「再生システムおよび情報提供方法」に訂正する。

(4)請求項8について

ア.特許請求の範囲の請求項8を削除する。

イ.明細書における発明の名称における「再生システム,端末装置,情報提供方法,端末装置の動作方法およびプログラム」という記載を,「再生システムおよび情報提供方法」に訂正する。

(5)請求項9について

ア.特許請求の範囲の請求項9を削除する。

イ.明細書における発明の名称における「再生システム,端末装置,情報提供方法,端末装置の動作方法およびプログラム」という記載を,「再生システムおよび情報提供方法」に訂正する。


2.訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項(1)ア.について

ア.「対象音」を「第1期間にわたる対象音」とする訂正は,「対象音」の時間的な範囲を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.明細書の段落【0022】に「対象信号AGが表す案内音声は,変調信号ADの音響が放音された直後から時間長TGに亘って放音される。」の記載があるから,案内音声が時間長TGに亘って放音されていること,すなわち,「時間長TGにわたる案内音声」が明細書に記載されている。

ウ.「対象音」を「第1期間にわたる対象音」へ限定するものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものでもない。

(2)訂正事項(1)イ.について

ア.「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分」を「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み,時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる可聴域の音響成分」とする訂正は,「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分」の時間的な範囲と,音響成分が「可聴域」であることを限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.明細書の段落【0018】に「記憶部106は,例えば半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の記録媒体で構成され,車輌Cが停車する地点(停留所)毎に,当該地点に関連する案内音声を表す音響信号(以下「対象信号」という)AG(AG1,AG2,……)と当該地点に関連する案内情報の識別情報D(D1,D2,……)とを記憶する。」の記載があり,【0022】に「図5(a)に例示される通り,識別情報Dを含む変調信号ADの通知音は,再生信号A2の開始から時間長TDに亘り,再生信号A2の音響が放音される時間長T1に包含される。対象信号AGが表す案内音声は,変調信号ADの音響が放音された直後から時間長TGに亘って放音される。」の記載があるから,識別情報Dを含む変調信号ADの通知音が時間長TDにわたって放音された「直後」から,対象信号AGが表す案内音声が時間長TGにわたって放音されるのであって,図5(a)からも「識別情報Dを含む変調信号ADが放音される時間長TD」は,時間軸上で「案内音声が放音される時間長TG」と重複していないことが明細書及び図面に記載されている。
また,明細書の段落【0020】に「識別情報Dを特定の周波数帯域の音響成分として含有する音響信号(以下「変調信号」という)ADを生成する。変調信号ADの周波数帯域は,放音装置130による放音と,音響処理装置200による収音とが可能な周波数帯域であり,かつ,利用者が通常の環境で聴取する音響(音声や楽音)の周波数帯域(例えば可聴域内の約16kHz以下)の範囲内に包含される。」の記載があるから,識別情報Dを含む変調信号ADが,可聴域の信号であることは,明細書に記載されている。

ウ.「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分」を「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み,時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる可聴域の音響成分」へ限定するものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものでもない。

(3)訂正事項(1)ウ.について

ア.訂正事項(2)(4)(5)に合わせて明細書を訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ.明細書に記載された事項であることも明らかである。

ウ.発明の名称を,特許請求の範囲に係る訂正に整合させるものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものでもない。

(4)訂正事項(2)ア.について

訂正前の請求項2を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更する訂正には該当せず,明細書及び図面に記載された範囲である。

(5)訂正事項(2)イ.について

訂正前の請求項3を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更する訂正には該当せず,明細書及び図面に記載された範囲である。

(6)訂正事項(2)ウ.について

訂正前の請求項4を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更する訂正には該当せず,明細書及び図面に記載された範囲である。

(7)訂正事項(2)エ.について

訂正前の請求項5を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更する訂正には該当せず,明細書及び図面に記載された範囲である。

(8)訂正事項(2)オ.について

訂正前の請求項6を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更する訂正には該当せず,明細書及び図面に記載された範囲である。

(9)訂正事項(2)カ.について

ア.訂正事項(2)(4)(5)に合わせて明細書を訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ.明細書に記載された事項であることも明らかである。

ウ.発明の名称を,特許請求の範囲に係る訂正に整合させるものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものでもない。

(10)訂正事項(3)ア.について

ア.「対象音」を「第1期間にわたる対象音」とする訂正は,「対象音」の時間的な範囲を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.明細書の段落【0022】に「対象信号AGが表す案内音声は,変調信号ADの音響が放音された直後から時間長TGに亘って放音される。」の記載があるから,案内音声が時間長TGに亘って放音されていること,すなわち,「時間長TGにわたる案内音声」が明細書に記載されている。

ウ.「対象音」を「第1期間にわたる対象音」へ限定するものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものでもない。

(11)訂正事項(3)イ.について

ア.「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分」を「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み,時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる可聴域の音響成分」とする訂正は,「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分」の時間的な範囲を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.明細書の段落【0018】に「記憶部106は,例えば半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の記録媒体で構成され,車輌Cが停車する地点(停留所)毎に,当該地点に関連する案内音声を表す音響信号(以下「対象信号」という)AG(AG1,AG2,……)と当該地点に関連する案内情報の識別情報D(D1,D2,……)とを記憶する。」の記載があり,【0022】に「図5(a)に例示される通り,識別情報Dを含む変調信号ADの通知音は,再生信号A2の開始から時間長TDに亘り,再生信号A2の音響が放音される時間長T1に包含される。対象信号AGが表す案内音声は,変調信号ADの音響が放音された直後から時間長TGに亘って放音される。」の記載があるから,識別情報Dを含む変調信号ADの通知音が時間長TDにわたって放音された「直後」から,対象信号AGが表す案内音声が時間長TGにわたって放音されるのであって,図5(a)からも「識別情報Dを含む変調信号ADが放音される時間長TD」は,時間軸上で「案内音声が放音される時間長TG」と重複していないことが明細書及び図面に記載されている。
また,明細書の段落【0020】に「識別情報Dを特定の周波数帯域の音響成分として含有する音響信号(以下「変調信号」という)ADを生成する。変調信号ADの周波数帯域は,放音装置130による放音と,音響処理装置200による収音とが可能な周波数帯域であり,かつ,利用者が通常の環境で聴取する音響(音声や楽音)の周波数帯域(例えば可聴域内の約16kHz以下)の範囲内に包含される。」の記載があるから,識別情報Dを含む変調信号ADが,可聴域の信号であることは,明細書に記載されている。

ウ.「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分」を「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み,時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる可聴域の音響成分」へ限定するものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものでもない。

(12)訂正事項(3)ウ.について

ア.訂正事項(2)(4)(5)に合わせて明細書を訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ.明細書に記載された事項であることも明らかである。

ウ.発明の名称を,特許請求の範囲に係る訂正に整合させるものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものでもない。

(13)訂正事項(4)ア.について

訂正前の請求項8を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更する訂正には該当せず,明細書及び図面に記載された範囲である。

(14)訂正事項(4)イ.について

ア.訂正事項(2)(4)(5)に合わせて明細書を訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ.明細書に記載された事項であることも明らかである。

ウ.発明の名称を,特許請求の範囲に係る訂正に整合させるものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものでもない。

(15)訂正事項(5)ア.について

訂正前の請求項9を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更する訂正には該当せず,明細書及び図面に記載された範囲である。

(16)訂正事項(5)イ.について

ア.訂正事項(2)(4)(5)に合わせて明細書を訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ.明細書に記載された事項であることも明らかである。

ウ.発明の名称を,特許請求の範囲に係る訂正に整合させるものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものでもない。

3.小括

以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項1-9について,訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて

1.本件特許発明

本件訂正請求により訂正された請求項1-9に係る発明(以下「本件特許発明1-9」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1-9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

(1)本件特許発明1

「第1期間にわたる対象音と,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み,時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる可聴域の音響成分とを含む音を放音装置に放音させることで,当該識別情報を,通知された識別情報に対応する前記情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する再生システム。」

(2)本件特許発明2

削除

(3)本件特許発明3

削除

(4)本件特許発明4

削除

(5)本件特許発明5

削除

(6)本件特許発明6

削除

(7)本件特許発明7

「再生システムが,
第1期間にわたる対象音と,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み,時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる可聴域の音響成分とを含む音を放音装置に放音させることで,当該識別情報を,通知された識別情報に対応する前記情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する
情報提供方法。」

(8)本件特許発明8

削除

(9)本件特許発明9

削除

2.特許異議申立理由の概要

特許異議申立人小関勝成は,

(1)請求項1-5,7-9に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,特許法第113条第2号に該当する。

(2)請求項2,4-6,8-9に係る発明は,甲第2号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,特許法第113条第2号に該当する。

(3)請求項6に係る発明は,甲第1号証及び甲第2号証から容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第113条第2号に該当する。

(4)請求項1-3,5-9に係る発明は,甲第3号証及び甲第4号証から容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第113条第2号に該当する。

(5)請求項4に係る発明は,甲第3号証及び甲第4号証及び甲第5号証から容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第113条第2号に該当する。

(6)請求項1-9係る発明は,甲第1号証から容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第113条第2号に該当する。

(7)請求項1-9係る発明は,甲第2号証から容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第113条第2号に該当する。

旨,主張し,証拠として甲第1号証ないし甲第5号証(後記「4.甲号証の記載」を参照。)を提出している。

また,特許異議申立人小関勝成は,訂正請求に関し,

(8)訂正された請求項1,7に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,特許法第113条第2号に該当する。

(9)訂正された請求項1,7に係る発明は,甲第2号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,特許法第113条第2号に該当する。

(10)訂正された請求項1,7に係る発明は,甲第1号証及び甲第2号証から容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第113条第2号に該当する。

(11)訂正された請求項1,7に係る発明は,甲第1号証及び甲第6号証から容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第113条第2号に該当する。

(12)訂正された請求項1,7に係る発明は,甲第1号証及び甲第8号証から容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第113条第2号に該当する。

(13)訂正された請求項1,7に係る発明は,甲第2号証及び甲第6号証から容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第113条第2号に該当する。

(14)訂正された請求項1,7に係る発明は,甲第2号証及び甲第8号証から容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第113条第2号に該当する。

(15)訂正された請求項1,7に係る発明は,甲第9号証及び甲第1号証から容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第113条第2号に該当する。

旨,主張し,証拠として甲第6号証ないし甲第9号証(後記「4.甲号証の記載」を参照。)を提出している。

3.取消理由の概要

訂正前の請求項1-9に係る特許に対して,当審が平成30年10月15日に特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。

(1)新規性

請求項1,2,4,5,7-9に係る発明は,甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,請求項1,2,4,5,7-9に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

請求項3に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,請求項3に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)進歩性

請求項1-5,7-9に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であるから,容易に発明をすることができたものであるから,請求項1-5,7-9に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

請求項1-2,4-5,7-9に係る発明は,甲第2号証に記載された発明であるから,容易に発明をすることができたものであるから,請求項1-2,4-5,7-9に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

請求項3に係る発明は,甲第2号証および甲第1号証より容易に発明をすることができたものであるから,請求項3に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

請求項6に係る発明は,甲第1号証および甲第2号証より容易に発明をすることができたものであるから,請求項6に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4.甲号証の記載

(1)特許異議申立人小関勝成による甲第1号証

特許異議申立人小関勝成による甲第1号証である,「音響すかし技術を活用した情報配信システムの開発・調査 報告書(平成22年3月19日)財産法人ニューメディア開発協会」(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「このような取り組みの中,ハードウェアとしては公共施設などの建物はユニバーサルデザインを意識したものが多くなってきているが,ソフトウェアつまり実際の施設の運営面では課題が多く残されている。そのひとつに館内放送がある。館内放送は,施設の利用者に対して情報の伝達手段としては最も一般的な手段であるが,聴覚障害者への情報伝達を的確に行うことはできていない。又,高齢者や健常者でも,周りの音で聞き取れない,聞き逃がしたという経験は少なくない。館内の情報伝達手段として誰もが,どこでも正確に情報を取得し利用できる技術が求められている。
近年技術開発された音響透かし技術を利用した音波情報伝送方式は,音にデジタル情報を重畳し空中伝送する技術であるため,光波・電波・電磁波を使用せずに音だけでデジタル通信が可能であり,医療機器や精密機器に誤動作等の影響を与えることなく,安心・安全に利用できる特徴がある。既存の館内放送用機器や市販されている携帯端末を流用して低コストで導入でき,聴覚への影響も無く,且つ複数人へリアルタイムに伝える手段として非常に有効であると考える。」(10頁)

「1.4.音響透かし館内放送システムの利用イメージと特徴
音響透かし館内放送システムの利用方法と特徴を,操作の流れと合わせて以下に記述する。
1.音響透かし館内放送システム用PCのコンテンツ作成機能を使用して,放送設備から出力したいアナウンスやBGM等のオリジナル音響信号に,利用者に伝えたいデータを音響透かし技術を用いて重ね合わせる。この作業で生成された「電子透かし入り音響信号」はオリジナルとものと聞き較べても判別がつきにくくなっているので,利用者以外には不快感を与えない。
2.利用者には,予め電子透かし入り音響信号を受信し埋め込まれたデータを抽出するための携帯端末を所持して頂く。携帯端末は,Apple社のiPhone/iPod touchが使用可能である。携帯電話の無線機能(電波)は使用しないので,無線機能がオフ状態でも使用可能である。
3.放送設備から,1の作業にて作成した音響透かし入り音響信号を再生する。
4.利用者が所持する端末は,音響透かし入り音響信号を検出・データ抽出が完了するとバイブレーションもしくは着信音を鳴動させ,受信したデータを画面に表示する。
5.利用者は,この文字情報を閲覧することで情報を入手することができる。

」(13頁)

図1.4-1には,スピーカから「まもなく,桜木町に到着します」の音声が流れるとともに,携帯端末にキャラクタの絵と共に「まもなく,桜木町に到着します」の文字の表示が行われていることが図示されている。

「2.9.携帯端末を活用した音響透かし館内放送サービス
本節では,前節までの整理結果を踏まえ,各種の放送サービスにて情報のバリアフリー化を達成するため,共通的に利用できる“音響透かし館内放送サービス”について検討する。尚,『音響透かし館内放送サービス』は,音響透かし技術を用いた情報配信システムを利用する放送サービスと定める。また,実際にサービスを享受するために,利用者は音響透かしを復号化するためのプログラムが動作可能な機器を所持する必要性があるため,携帯可能な携帯端末を活用することを前提とした。

2.9.1 想定利用シーンの選定
携帯端末を活用した音響透かし館内放送サービスを検討するにあたり,先ずはサービスの利用イメージをつかみやすくするために具体的な利用シーンを定める。
利用シーンについては,情報のバリアフリーを目的とする2.6 館内放送サービスの整理で示した場所と目的別のサービスの利用シーンを考慮して選ぶこととする。音による情報伝達が見込める利用シーンから考察すると,条件として『人が集まる場所』であり,且つ『音での情報サービスを実施している場所』で,さらに『伝達する情報が随時変化している場所』に絞り込むと,駅構内,スーパーやデパート等の商業施設,テーマパーク,競輪場などの娯楽施設での利用が効果的であると想定できるため,これらを選定する。
他方,2.7 電波の利用制限がある場所への適応にて述べた特定区域での音響透かし館内放送サービスは情報伝送媒体として音を利用することが重要である。以上のことから,病院内,電車内,飛行機内についても対象の利用シーンに定めることとする。
以下に選定した利用シーンを示す。
・駅構内
・商業施設(スーパー,デパート等)
・テーマパーク
・娯楽施設(競輪場等)
・病院内
・電車内
・飛行機内

2.9.2 サービスモデルの検討
2.9.1 想定利用シーンの選定で選定した音響透かし館内放送サービスを題材にして,多くの事業者が参画できることや利用者の負担が軽減されることを念頭に,サービス提供者と利用者が共通的に利用できる新しい“携帯端末を活用した音響透かし館内放送サービスモデル”について検討する。
現在の館内放送サービスは,提供者の管理区域(構造物)内に対して限定的に提供されているものが多く,サービス提供者側,利用者側共に異なるコンテンツ(メッセージ)が配信されている。そこで,サービスの提供内容や提供事業者に拠らず,事業者と利用者が共通的に利用できる音響透かし館内放送のサービスモデルを以下のように考える。

共通化のポイントとして,エンコーダとデコーダがアクセス可能なネットワーク上にサービス基板として「音響透かし館内放送サービスセンタ」を配置することで,異なる館内放送環境においても共通のサービスが提供できる仕組みを取り入れた。これにより,利用環境と音響透かし技術の特性(伝送速度,雑音耐性)に最適なアプリケーションをエンコーダ,デコーダが利用でき,またサービス情報(リンクコード)に関連する文字列をディクショナリ化し一元管理,共有利用することで,音響透かしコンテンツの生成におけるサービス事業者の負担を軽減する効果が見込める。」(37-39頁)

「図2.9-1における主な登場プレイヤーを表2.9-1に整理する。

」(40頁)

表2.9-1には,
プレイヤーが「音響透かし合成装置(エンコーダ)」の説明として「ソース音源(スピーチ,音楽)に,指定した音響透かし変調スキームにて透かし情報(リンクコード)を合成する専用アプリを搭載したPC。そのための専用アプリは,音響透かし館内放送サービスセンタからダウンロードする。」と記載され,
プレイヤーが「音響透かし館内放送サービスセンタ」の説明として「サービス事業者が指定したサービス内容(メッセージ)と,それに割り当てる透かし情報(リンクコード)を払い出しエンコーダに配布する。また,デコーダから送られてきたリンクコードを解析し,関連付けられたサービス(アクション)の実行を支援する。また,サービス提供者,利用者に対して,音響透かし館内放送サービスを構成する各コンポーネント(エンコーダ,デコーダ,リンクコード,サービス構成情報)を提供,配布する。」と記載され,
プレイヤーが「リンクコード」の説明として「透かし情報としてサービスセンタにて管理され各サービスに対してユニークに発行される文字情報。情報量は透かし変調スキームに依存する。エンコーダにより音に埋め込まれ,デコーダにより抽出される。サービスセンタにてメッセージと一意に紐付けられ管理される。」が記載され,
プレイヤーが「サービス提供者(事業者)」の説明として「館内放送サービスを提供する者。音響透かし館内放送サービスセンタから割り当てられた透かし情報(リンクコード)を,エンコーダを利用してソース音源に合成し音響透かしの入った放送サービスを実施する者。」と記載されている。

「2.9.3 サービスの利用イメージ
2.9.2 サービスモデルの検討で検討した“携帯端末を活用した音響透かし館内放送サービスモデル”の利用イメージと想定される音響透かしデータ・サービス内容(メッセージ)を以下に示す。

2.9.3.1 駅構内・車内放送におけるサービスイメージ

想定される音響透かしデータ・サービス:
(1)電車の駅到着時刻のお知らせ(車内アナウンス)
(2)電車のダイヤ変更のお知らせ(駅構内アナウンス)
(3)業務連絡放送(構内の駅員に対して業務連絡:聞き逃しの防止策)
(4)迷子の放送
(5)緊急避難放送
(6)特定個人の呼び出し
(7)電波禁止区域での通信手段

2.9.3.2 院内放送におけるサービスイメージ

想定される音響透かしデータ・サービス:
(1)患者様の呼び出し(薬局,外来受付,待合室:特に耳鼻科)
(2)業務連絡(医師,看護師,緊急呼び出し:聞き逃しの防止)
(3)親族の呼び出し(長時間かかる手術や出産を待機する方へ連絡する手段)
(4)電波禁止区域での通信手段」(41-42頁)

「3. 開発調査の内容
前章の検討を踏まえて「携帯端末を活用した音響透かし館内放送サービス」を仮想体験できる実証システムを実際に構築し,利用者ならびにサービス提供者に体験してもらい携帯端末を活用した共通的な音響透かし館内放送の実現性について検証を行った。

3.1. 実施概要
本実証実験で開発した実証システムならびに,実証システムを用いて実施した実証実験の概要について以下に記述する。尚,実証実験は,利用者向けとサービス提供者向けの2回に分けて行った。

3.1.1 実証システムの開発概要
館内放送における情報のバリアフリーを目的とする音響透かし館内放送サービスを題材に「携帯端末を活用した音響透かし館内放送システム」を仮想体験できる実証システムを開発した。実証システムの開発におけるポイントと開発した実証システムの概要は以下の通りである。」

「3.1.1.2 開発した実証システムの概要
本開発調査にて開発した実証システムの全体構成は以下の通りである。



「(3)音響透かしリンクコード管理用サーバ
(ア)概要
音響透かしとして埋め込むデータ(リンクコード)とそれに紐付けるサービス(文字情報メッセージ)を管理するサーバ装置。FTPを利用してエンコーダPCやデコーダ(携帯端末)に関係テーブルを配信。」(51頁)

「3.2. サービスの流れ
開発した『デコーダ』と『エンコーダ』を含む『音響透かし館内放送システム』全体のサービスの流れをシーケンス図に沿って以下に示す。

3.2.1基本シーケンス
音響透かし情報の送受信における基本のシーケンス図を以下に示す。エンコーダで生成された『音響透かし入り音響信号』は放送設備によって再生され,音響信号に埋め込まれた文字情報が配信される。この『音響透かし入り音響信号』は,携帯端末が受信しデコーダのアプリケーション内で解析された上で文字として表示をする。

」(56頁)

図3.2-1には,「文字情報受信」に「14680064」と記載され,「解析」に「14680064=水野様,お部屋にお戻りください」と記載され,「文字表示」に「水野様,お部屋にお戻りください」と記載されている。

「3.2.2サービス更新シーケンス
実際のサービスは,音響透かし技術で埋め込んだ文字“メッセージ”である。この文字情報を管理するFTPサーバとエンコーダ・デコーダ間の文字情報管理に関するシーケンス図を以下に示す。エンコーダの操作によって,文字情報に紐づく文字列を文字情報管理FTPサーバに登録する。一方,携帯電話内のデコーダの操作によって最新の文字情報一覧を取得し,デコーダのアプリケーション内に保持する。ここで保持した文字情報一覧を元に,『音響透かし入り音響信号』受信時に解析結果として表示する。

」(57頁)

図3.2-2には,「文字情報一覧更新」に「14680064=水野様,お部屋にお戻りください 14680065=水野様,会計窓口にお越しください 14680066=水野様,第1待合室にお入りください ・・・」と記載されている。

図1.2-1や図1.4-1によれば,スピーカからの音声と携帯電話に表示される文字情報は同じであるから,「文字情報」は,「アナウンスの内容を表す情報」であるといえる。

したがって,甲第1号証には,「音響透かし館内放送のサービスモデル」に関し,

「放送施設から出力したいアナウンスに,利用者に伝えたいデータを音響透かし技術として重ね合わせ,
利用者は,予め電子透かし入り音響信号を受信し埋め込まれたデータを抽出するための携帯端末を所持し,
放送設備から,作成した音響透かし入り音響信号を再生し,
利用者が所持する端末は,音響透かし入り音響信号を検出・データ抽出が完了すると,受信したデータを画面に表示し,
スピーカから「まもなく,桜木町に到着します」の音声が流れるとともに,携帯端末にキャラクタの絵と共に「まもなく,桜木町に到着します」の文字の表示が行われ,
利用シーンは,駅構内や病院内や電車内であり,
音響透かし館内放送のサービスモデルは,館内放送設備,音響透かし合成装置(エンコーダ),スピーカ,携帯端末(デコーダ),音響透かし館内放送サービスセンタ,を含んでおり,
エンコーダは,ソース音源に,リンクコードを合成し,
サービス事業者により,エンコーダを利用してソース音源に合成し音響透かしの入った放送サービスを実施し,
デコーダは,音響透かし館内放送を受信し,透かし情報抽出からサービス内容に関連する動作を実行し,
音響透かし館内放送サービスセンタは,サービス事業者が指定したサービス内容(メッセージ)と,それに割り当てるリンクコードを払い出しエンコーダに配布し,デコーダから送られてきたリンクコードを解析し,関連付けられたサービスの事項を支援する
システム。」

の発明が記載されているといえる。(以下,「引用発明1-1」という。)

また,甲第1号証には,「携帯端末を活用した音響透かし館内放送サービスを仮想体験できる実証システム」に関し,

「放送施設から出力したいアナウンスに,利用者に伝えたいデータを音響透かし技術として重ね合わせ,
利用者は,予め電子透かし入り音響信号を受信し埋め込まれたデータを抽出するための携帯端末を所持し,
放送設備から,作成した音響透かし入り音響信号を再生し,
利用者が所持する端末は,音響透かし入り音響信号を検出・データ抽出が完了すると,受信したデータを画面に表示し,
院内放送ではスピーカから「水野さま,お部屋までお戻りください」の音声が流れると共に,携帯端末に,絵と共に「水野さま,お部屋までお戻りください」の表示を行い,
携帯端末を活用した音響透かし館内放送サービスを仮想体験できる実証システムは,
音響透かし合成装置,雑音出力用PC,音響透かし用リンクコード生成・配布サーバ,利用者端末(デコーダ)で構成され,
エンコーダで生成された音響透かし入り音響信号は放送設備によって再生され,音響信号に埋め込まれた文字情報が配信され,音響透かし入り音響信号は,携帯端末が受信し解析された上で文字として表示をし,
エンコーダの操作によって,文字情報に紐づく文字列を文字情報管理FTPサーバに登録し,携帯電話内のデコーダの操作によって最新の文字情報一覧を取得し,デコーダのアプリケーション内に保持し,保持した文字情報一覧を元に,音響透かし入り音響信号受信時に解析結果として表示する
システム。」

の発明が記載されているといえる。(以下,「引用発明1-2」という。)

(2)特許異議申立人小関勝成による甲第2号証

特許異議申立人小関勝成による甲第2号証である,「電子透かし技術を応用した障害者のための情報補償システムの開発-音響の情報バリアフリー化に向けて-(平成19年3月)独立行政法人国立特殊教育総合研究所」(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「第I章 システムに実装するメッセージの内容と種類の検討
-聾学校で利用されている構内文字情報表示システムの実際とその評価を通して-
1.はじめに
本研究では,障害者基本法における情報機器のバリアフリーと参議院の付帯決議などを受けた課題設定の1つとして,音響のバリアフリーに焦点をあて,公共の場などにおける音声アナウンスをリアルタイムに文字情報に変換する機能を有する携帯可能なシステムの開発を目指している。
共用品推進機構(2003)は,聴覚障害者のニーズを11種類にグルーピングしている。これに基づくと本研究は「施設内外の放送・案内・呼び出しを理解,対応したい(グルーピング項目の5)」「(家庭や職場,学校の)機器の報知音,通知音を知る(同6-1)」,「事故災害時の情報がいつでもどこでも欲しい(同7)」,「ラジオの音声を理解する(同8-2)」,「わかりやすさ,見やすい表示を充実させてほしい(同9)」に対応する重要な課題と考えられる。
例えば,学校においては,校内放送がこの1例であり,前田(2005)は,筑波大学附属聾学校と東京都立葛飾ろう*学校が,既に,文字表示システムを用いて校内文字放送を開始したことを紹介している。国立特殊教育総合研究所(2006)が行った特別支援教育に必要な教育設備整備の在り方に関する調査研究では「フラッシュライト付き電光掲示板」を聾学校の15.2%が保有し,83.3%が必要な設備に上げていた。さらに,今後必要な設備として「校内放送文字表示システム」を回答した学校のあることが示されていることなどから,さらに普及が求められる分野であり,先の2校の実践が先駆的であることが伺われる。
火災発生など,緊急時の警報を第一の目的として整備されたシステムを一般の校内放送の利用へと発展させた事例(横山,武林,2005),一般的な内容の情報提供の例として校内LANにWebの掲示板を設置して情報を校内で共有する試み(加藤,2005)や,携帯電話で閲覧可能なホームページを利用する試み(同じく,加藤,2005)が始まっている。
研究協力校は2校ともに,校内LANに接続し,廊下や教室等,校内に配置された表示装置にメッセージが配信されるシステムを有している。東京都立葛飾ろう学校では,プラズマディスプレイを用いた「見える校内放送」(例えば,伊藤,2006など)であり,筑波大学附属聾学校では,表示装置としてLEDや蛍光表示管(例えば,横山,武林,2005;横山,武林,ほか2006)を用いている。
筑波大学附属聾学校は2004年4月よりシステムを稼働させている。当該システムは固定式の文字表示装置が廊下と教室に設置されており,メッセージの内容によって,その配信場所と配信時間帯を事前に設定可能な機能を有している。また,継続して生徒へのアンケート調査が行われており,3年間にわたる配信メッセージの記録実績がある。
本研究が目指すものは,個人が携帯し,アナウンスなどの音声が健聴者にとって聞こえる範囲にいる場合に,健聴者と同等な情報が保障(補償)されることを目的としたシステムである。このためには,固定式のシステムで実際に用いられた内容を分析することによって,そこに実装されるべき基本的な情報が得られるものと考えた。」(4頁)

「第II章 パーソナル音響キャプションデコーダの開発」

「3.パーソナル音響キャプションデコーダ
3.1 システム概要
本共同研究の成果として開発された「パーソナル音響キャプションデコーダ」はPDAタイプの携帯コンピュータ(165mm×95mm,600g,重さは補助バッテリー含む。)を本体として動作するもので,スピーカから発せられる音に埋め込まれた電子透かしを解読して,聾学校の校内文字放送システムで用いられるメッセージを表示することが可能となっている。」(18頁)

「本システムは,電子透かしの入った音声をデコードする部分と,デコード結果をメッセージとしてが面に表示する部分の2つからなる。
デコード部分,表示部分ともにC言語で記述されている。これは,特に音声すかしのデコードにおいて高速な演算性能が求められるためである。それに合わせ,表示部もC言語で開発することとした。
これら,2つの部分はそれぞれ独立したスレッドとして動作し,どのようなタイミングでアナウンスが流れてももれなく情報を取得できるように工夫されている。
それぞれ部分についての詳細は以降の節で述べる。

3.2 デコードスレッド
デコードスレッドは,入力された音声から電子透かしを抽出する機能を持っている。デコードスレッドでは,エコー法のアルゴリズムに基づき電子透かし(8ビット)を抽出する。今回は8ビット中の4ビットを使ってメッセージを表現することとした。
残りの4ビットをメッセージコードとして表示スレッドに伝達する。ちなみに,この4ビットは,将来の拡張用?メッセージ種類の追加,メッセージの優先度の表現,部分的な点滅や色の変更などの装飾?に使用することができると考えている。特殊研は通研よりソースコードの提供を受け,今回の成果物作成のため一部を改変して使用している。

3.3 表示スレッド
デコードスレッドから送られた電子透かし情報は,一度キューに収められる。キューからデコードされた4ビットの電子すかしを順に取り出して,表示処理を行う。
この仕組みにより,一度に大量の情報が伝送されてきた場合でも,メッセージを確実に表示できるように工夫してある。4ビットの電子透かしに対応するメッセージをデータファイルから探し出して画面に表示する。」(20-21頁)

「3.4 本システムの動作について
前のページの図5と,図6は,本システムの動作を説明したものである。
スピーカから流れる「電子透かし」は,現在のところ,エコー法という方式を用いて音声信号に組み込んでいる。
図5のスレッドと書かれている部分は,デコード処理と表示処理を平行して(マルチスレッド)処理を行うことでビット認識のタイミングを逃さないように工夫した。デコードスレッドと書かれている部分のリアルタイム処理部分は東北大学大学院阿部俊一郎氏によるものであり,表示スレッドのプログラムは国立特殊教育総合研究所の山口俊光によるものである。

現在は4bps(1秒間に4ビットの情報)で電子透かし情報が組み込まれており,本デコードシステムは,このデータを読み取って,対応するメッセージを画面上に表示する仕様になっている。」(22頁)

図6には,スピーカから「今日の天気・・」が放送され,手に持っている画面上の端末に「今日の天気は晴れ」の表示がなされている。

の記載がある。

したがって,甲第2号証には,

「音声アナウンスをリアルタイムに文字情報に変換する機能を有するPDAタイプの携帯コンピュータであって,
聾学校の校内文字放送システムで用いられ,スピーカから発せされる音に埋め込まれた電子透かしを解読して,メッセージを表示し,
入力された音声から抽出した電子透かし8ビット中の4ビットの電子透かしに対応するメッセージをデータファイルから探し出して画面に表示し,
スピーカから「今日の天気・・」が放送され,端末に「今日の天気は晴れ」の表示がなされる
携帯コンピュータ。」

の発明が記載されている。(以下,「引用発明2-1」という。)

また,「聾学校の校内文字放送システム」としてみると,

「聾学校の校内文字放送システムであって,
スピーカから電子透かしが埋め込まれた音を発し,電子透かし8ビット中の4ビットの電子透かしに対応するメッセージを画面に表示する携帯コンピュータに放送し,
スピーカから「今日の天気・・」が放送され,端末に「今日の天気は晴れ」の表示がなされる
聾学校の校内文字放送システム」

の発明が記載されている。(以下,「引用発明2-2」という。)

(3)特許異議申立人小関勝成による甲第3号証

特許異議申立人小関勝成による甲第3号証である,特許第3822224号公報(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「【0016】
以下,図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る情報提供システムは,情報の発信装置側では,メッセージ等の各種情報を音(音圧振動)として端末に向けてスピーカーから発信し,端末側では,マイクロフォンからこの音圧振動を受信してデコードすることにより,発信された情報を認識することを特徴としている。すなわち,発信装置から端末に向けて,空気を媒体として情報を伝達する情報提供システムであることを特徴とする。
【0017】
(第1実施形態)
図1は本実施形態に係る情報提供システム1の構成を概略的に示す図である。同図に示すように,情報提供システム1は,各種情報を音圧振動の情報として発信する発信装置10と,各種情報を受信する端末としての携帯電話20,インターネット40を介して発信装置10に接続されたサーバ50から構成されている。発信装置10は,入力手段としてのキーボード11,ディスプレイ12,各種情報を音として発信するためのスピーカー(PA)13及びこれらと接続されたPC(パーソナルコンピュータ)本体14とから構成される。ここで,PAとは,Public Addressの略であり,電気的な音響拡声装置の総称を意味する。」

「【0020】
上述した情報提供システム1の発信装置10は,百貨店,スーパー,商店街,映画館,遊園地等の商業施設,娯楽施設等に設置される。また,音圧振動に変換された各種情報(音圧振動情報)は,単独で,又は当該施設で流されている音楽やアナウンス等の他の音声に重畳されて,スピーカー13から発信される。当該施設を訪れた客は,自分の携帯電話20を使ってこの音圧振動情報を受信することで,各種情報を得ることができる。
【0021】
各種情報として,商品,イベント,施設案内等に関するメッセージや,関連するHPのURL等の文字情報が,端末の所有者に提供される。当該施設を訪れている客は,URLを読み込んでから,端末のネット機能を用いてインターネットにアクセスすることで,さらなる情報を入手したり,直接商品説明を読んだりすることができる。」

「【0023】
次に,発信装置10において,携帯電話20に向けて発信する音圧振動情報(以下,「サウンドコード」とする)を生成する処理について詳細に説明する。図2は,サウンドコードを生成する機能を実現するための概念的な回路を示すブロックダイアグラムである。
【0024】
同図に示すPA Source(PAソース)は,発信装置10が設置されている施設等において,PAから流されている音,すなわち,サウンドコードが重畳される音声を意味している。例えば,PAから音楽CDが流されているときには,その音楽の音声信号がPAソース信号であり,何も流されていない場合には,PAソース信号はゼロである。」

「【0030】
マスキング回路105では,上記PAソース信号の立ち上がりエッジを参照して,マスキング効果が顕著に得られるタイミングでサウンドコードを発信するためのパラメータの設定が行われる。マスキング効果とは,小さな音(音圧の低い信号)が大きな音(音圧の高い信号)によってかき消されてしまう心理聴覚評価の1つである。後述するように,本実施形態では,12kHz近傍を使ってサウンドコードを発信するように構成されているため,この帯域においてマスキング効果が顕著に得られるタイミングでサウンドコードを発信するように設定する。
【0031】
続いて,このようにして求められたパラメータに基づき,コード生成回路106において,コードプロファイルに含まれる各種情報(メッセージ)が符号化され,サウンドコードが生成される。また,コード生成回路106では,コード生成の際に,スクランブル(Scramble)処理が行われている。スクランブル処理とは,0又は1何れかの信号が連続して発生することを防ぐための処理であり,ここでは,疑似ランダム信号が用いられる。後述するように,本システムでは,NRZ変調が用いられているため,0又は1何れかの信号が連続すると,連続した数だけ見かけの周波数が低くなってしまう。これを避けるために,スクランブル処理を行い,0,1の発生頻度が,できるだけ1対1に近付けられる。」

「【0035】
これらの点を踏まえると,サウンドコードを発信する周波数は,可聴音域における高音帯域である12?13kHzあたりを用いるのが望ましい。但し,情報提供者の要望にあわせて,他の帯域の周波数を用いてサウンドコードを発信するように構成しても良い。また,サウンドコードを発信する周波数は,スピーカーの発信可能帯域及びマイクロフォンの受信可能帯域を満たす必要があり,スピーカー及びマイクロフォンの性能にあわせて,発信周波数を変更するようにしても良い。特に,使用するスピーカーの性能が低く,周波数対応域が狭い場合には,スピーカーから発信可能な周波数帯域を選択する必要があるのは言うまでもない。」

「【0039】
このようにして生成されたサウンドコードは,マスキング回路105で決定されたタイ
ミングに従って送出される。このときの1フレームの伝送時間は42.66msに設定されており,最大16フレームの場合でも682.66msである。
【0040】
続いて,サウンドコードは,D/A変換回路107において,NRZ(Non Return to Zero)変調されると共にアナログ信号に変換される。このとき,ピーク・アベレージ検出器での検出結果に追随して,ビットを割り当てることで,サウンドコードの音圧レベルが決定される。ビットサイズは任意の範囲に設定できるが,10乃至16ビットが適当である。例えば,16ビットの場合,最も小さい0,1の音圧レベルは,0000,0x0001,最も大きい音圧レベルは,0000,0xFFFFとなる。
【0041】
アナログ信号に変換されたサウンドコードは,ローパスフィルター(LPF)108により,高周波成分がカットされてサイン波となる。
【0042】
このように整形されたサウンドコードのアナログ信号は加算回路109において,PAソース信号と加算され,スピーカーから発信される。図2中,「PA source+」は,PAソース信号にサウンドコードが重畳されていることを示している。」

「【0045】
サウンドコードが重畳されたPAソースの音は,携帯電話10(当審注:図1によれば「携帯電話20」の誤記である。)のマイクロフォン21によって拾われ,図中PA Source+で示される電気信号に変換される。この電気信号は,まず,バンドパスフィルター(BPF)201を通過する。BPF201は,サウンドコードの発信周波数近傍以外の周波数をカットするように構成されており,PA Source+のうち主にサウンドコード成分の信号のみがAGC(Automatic Gain Control)回路202へと送られる。」

「【0050】
このようにして復号されたサウンドコードからメッセージが復元され,携帯電話20のディスプレイ22に表示されることになる。復元されたメッセージを端末の所有者に呈示する方法としては,視覚的にディスプレイに表示する方法に限らず,携帯電話20のスピーカー(不図示)から音声により呈示させるようにしても良い。」

の記載がある。

したがって,甲第3号証には,

「百貨店,スーパー,商店街,映画館,遊園地等の商業施設,娯楽施設等に設置される発信装置において,音圧振動に変換されたメッセージ等の各種情報(音圧振動情報,以下「サウンドコード」とする)は,当該施設で流されている音楽やアナウンス等の他の音声であるPAソースに重畳されて,スピーカー13から発信され,
各種情報は,商品,イベント,施設案内等に関するメッセージや,関連するHPのURL等の文字情報であって,
サウンドコードが重畳されたPAソースの音は,携帯電話20のマイクロフォン21によって拾われ,復号されたサウンドコードからメッセージが復元され,携帯電話20のディスプレイ22に表示される
情報提供システム。」

の発明が記載されている。(以下,「引用発明3」という。)

(4)特許異議申立人小関勝成による甲第4号証

特許異議申立人小関勝成による甲第4号証である,特開平8-79199号公報(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「【0021】データ送信システム1では,マイク101に,建物内でアナウンスする音声が入力されると,そこで,その音声が,電気信号としての音声信号D11とされる。この音声信号D11は,増幅回路102に供給され,そこで電気的に増幅され,増幅音声信号D12とされる。増幅音声信号D12は,建物内に設置されている1以上のスピーカ103に供給され,音声として出力される。以上のようにして,建物内にいる利用者に対し,従来と同様の音声アナウンス(例えば,建物が駅構内であれば,新幹線の発車時刻の案内などであり,また建物が劇場である場合には,役者の台詞など)が行われる。」

「【0023】即ち,以上のようにマイク101に入力された音声は分流されて,スピーカ103と音声認識部105に供給される。
【0024】音声認識部105では,前処理音声信号D13が音声認識され,さらにその音声認識結果が,文字情報に変換される。この文字情報は,認識文字信号D14として,符号化回路106に供給される。符号化回路106では,認識文字信号D14に対し,文字情報の伝送に適した処理が施され,符号化文字信号D15とされて変調回路107に供給される。」

「【0028】図1に戻り,変調回路107は,符号化信号F16にしたがって,所定の搬送波を変調し,その結果得られた変調信号を,変調文字信号D16として,漏洩ケーブル108に供給する。漏洩ケーブル108は,例えば電波を漏洩するようになされた1本の同軸ケーブルなどでなり,変調文字信号D16を電波として放射する。
【0029】漏洩ケーブル108から放射される(漏れる)電波は小電力で,そこから十数メートル以内程度において受信可能になされており,またこの電波が,建物内であれば,基本的にはどこでも受信可能なように,漏洩ケーブル108が建物内に張り巡らされている。
【0030】漏洩ケーブル108から放射された(漏れた)電波は,文字端末2のアンテナ(例えば,内蔵アンテナなど)109で受信され,その受信信号は,受信変調信号D17として復調回路110に供給される。復調回路110は,受信変調信号D17を復調し,受信文字信号D18として,メモリ111に供給して記憶させる。メモリ111に記憶された受信文字信号D18は,読み出し文字信号D19として読み出され,復号回路112に供給される。復号回路112では,読み出し文字信号D19に対し,復号その他の処理(例えば,ヘッダ情報付加回路115で付加されたフラグを検出し,読み出し文字信号D19を文章単位に分割する処理や,文章符号化回路154(図2)における処理に対応する復号処理など)が施され,その処理結果が,表示文字信号D20として,例えばLCD等で構成されたディスプレイ(文字表示装置)113に供給される。ディスプレイ113では,表示文字信号D20に対応する文字情報の表示が行われる。」

「【0045】データ送信システム1のマイク101に駅員による,例えば電車の発車時刻を知らせる音声アナウンスが入力されると,その音声は,増幅回路102を介して,駅構内の各所に設けられたスピーカ103から出力される。即ち,例えば「博多行きひかり35号は14番線より7時21分の発車です。」というような放送がなされる。さらに,マイク101に入力された音声は,文字情報提供システム処理部204を介して,駅構内に張り巡らされた漏洩ケーブル108から電波として放射される。
【0046】一方,文字端末2は,所定の販売店で販売,あるいは駅構内で貸与されており,例えば聴覚障害者は,文字端末2を購入,あるいはその貸出を受けて所持している。そして,漏洩ケーブル108からの電波が,文字端末2で受信されると,上述したようにバイブレータ117またはランプ118によって,文字情報が受信されたことが,聴覚障害者に報知され,その後,図5に示すように,ディスプレイ113に,音声アナウンスを文字で表した情報である文字情報「博多行きひかり35号は14番線より7時21分の発車です。」が表示される。なお,文字端末2が,例えば英語用である場合には,「The HIKARI No.35 bound of Hakatawill leave from track 14 at 7:21.」のような表示がなされる。」

の記載がある。

したがって,甲第4号証には,

「マイクに入力された音声は,建物内に設置されているスピーカに供給され,音声として出力され,
マイクに入力された音声は,スピーカと音声認識部に供給され,音声認識部で音声認識され,文字情報に変換され,変調回路で変調され,変調文字信号として漏洩ケーブルに供給され,漏洩ケーブルから漏れた電波は文字端末で受信され,表示文字信号としてディスプレイで文字情報の表示が行われる
データ送信システム。」

の発明が記載されている。(以下,「引用発明4」という。)

(5)特許異議申立人小関勝成による甲第5号証

特許異議申立人小関勝成による甲第5号証である,特表2003-506918号公報(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「【0011】
上記通信システムの第1の実施の形態のさらに詳細な説明を,図2から4を参照して以下に記載する。詳細には,図2はオーディオエンコーダ31を示し,エンコーダ31は,テレビジョン番組のオーディオトラック,すなわちAUDIO(オーディオソース33から供給される)を,対話型玩具23へ送信されるべきデータ信号F(t)(データソース35から供給される)に併合する。この実施の形態では,データ信号F(t)は,21.5ビット/秒のビットレートを持つバイナリ信号であり,ここで,各バイナリ1は+1として表され,各バイナリ0は-1として表され,例えば,それぞれ+1ボルトと-1ボルトである。
【0012】
第1の実施の形態の有利な特徴は,スペクトル拡散符号化方法を用いてデータ信号F(t)のエネルギーを広い周波数範囲にわたり拡散させることである。これは,視聴者27が聴くオーディオ信号21中のデータ信号をさらに耳障りでなくする効果がある。詳細には,データ信号F(t)がそのような符号化をせずオーディオトラックと直接併合された場合,テレビジョン番組の視聴者27によって聴かれる可能性が高くなる。」

「【0015】
データ信号F(t)とPN符号信号は乗算器39へ入力され,そこで両方が乗算される。従って,データ信号F(t)の各ビットは,256チップの疑似ランダムシーケンスで乗算され,これは,データ信号F(t)のエネルギーを広範囲の周波数にわたり拡散する効果がある。乗算器39から出力された拡散信号S(t)は,次に変調器41へ入力され,変調器41は,従来の変調方法,すなわち,連続位相周波数偏移変調 (continuous phase frequency shift keying)(CPFSK)を行って,拡散信号S(t)の周波数を5512.5Hzに中心として,広帯域信号H(t)を形成する。」

「【0018】
図4は,この実施の形態で,玩具23に設けられる回路を示す。図示のように,玩具23は,マイクロフォン25は,テレビジョン受像機15のスピーカ19によって出されるオーディオ信号21を捕捉して,それを電気信号D(t)に変換するマイクロフォン25を含む。この電気信号D(t)は,次にデコーダ63へ入力され,そこで電気信号は先ず,広帯域信号H(t)の高次高調波帯域を含む高周波数成分を除去するフィルタ65を通過する。フィルタにかけられた信号は,次にアナログ/デジタル変換器(ADC)67へ入力され,そこで信号はデジタル信号に変換される。この実施の形態で,ADC67のサンプリングレートは,22.05kHzであるが,これは,広帯域信号H(t)の主エネルギー帯域の最高周波数の2倍である。これはエイリアシングで広帯域信号H(t)の主エネルギー帯域を全部使用できるようにする最小サンプリング周波数であることは,この技術に精通した者には言うまでもないことである。デジタル信号は,次に復調器69へ入力されて,CPFSK変調された信号を復調する。復調器69によって出力された復調信号B(t)は,次に相関器71へ入力され,相関器71は,復調信号B(t)と,エンコーダ31でデータ信号F(t)のスペクトルを拡散するために使用された同じバイナリPN符号との間の相関をとる。
【0019】
この実施の形態で,相関器71はデジタル整合フィルタを含み,整合フィルタはエンコーダ31でデータ信号のスペクトルを拡散するために使用されたPN符号と整合される。このPN符号を生成する疑似雑音符号発生器73は,相関器71へ接続されて疑似雑音符号を生成し,疑似雑音符号はデジタル整合フィルタのパラメータを設定するために使用される。疑似雑音バイナリ符号はランダムなように見えるので,デジタル整合フィルタは,疑似雑音符号と復調信号との間に整合がある時に,比較的鋭い正および負のピークを出力することになる。詳細には,正のピークは,受信信号が疑似雑音符号に整合する時に生成され,負のピークは,受信信号が疑似雑音符号の逆のものに整合する時に生成される。この実施の形態で,相関器71は,デジタル整合フィルタによって出されたピークをバイナリ信号F'(t)に変換する回路も含み,F'(t)は,元のデータ信号F(t)の再生成されたバージョンを表す。
【0020】
再生成されたデータ信号F'(t)は,次にプロセッサ75へ入力され,プロセッサ75は,メモリ77に格納されたプログラムに従い,再生成データ信号F'(t)からメモリ77に格納された音ファイルを識別し,音ファイルは玩具23に設けられたスピーカ79を介して視聴者27に対して再生されることになる。
【0021】
従って,玩具23が,テレビジョン受像機15に示されているテレビジョン番組に応答して音を出すようにすることができる。この実施の形態で,メモリ77が着脱自在なメモリであるので,別のメモリ77を各テレビジョン番組毎に玩具23に設けることができる。このようにして,玩具23により出力される音ファイルを更新できる。」

の記載がある。

したがって,甲第5号証には,

「対話型玩具へ送信されるべきデータ信号F(t)を拡散して高帯域信号H(t)を形成して,テレビジョン番組のオーディオに併合し,
テレビジョン受像機のスピーカによって出されたオーディオ信号を玩具が補足して,高帯域信号H(t)から基のデータ信号F(t)の再生成されたバージョンであるF’(t)に変換し,再生成されたF’(t)をプロセッサに入力してスピーカから視聴者に対して再生されることで,玩具がテレビジョン受像機に示されているテレビジョン番組に応答して音を出すようにすることができる
通信システム。」

の発明が記載されている。(以下,「引用発明5」という。)

(6)特許異議申立人小関勝成による甲第6号証

特許異議申立人小関勝成による甲第6号証である,特開2008-192109号公報(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「【0012】
文字データに割り当てる特定の波長帯域は警報音に重畳させることが考えられる。具体的には,警報音の一部の波長帯域を文字データに割り当てて置き換える。
文字データを警報音に重畳して発信するのが本発明の通常の態様であるが,警察車両などにあってはサイレンを鳴らさずに且つ周囲の車の協力は得たい場合も考えられ,このような場合は人が音声として認識することができない高波長帯域の音を文字データに割り当て,この特定波長帯域の音のみを発信する。」

「【0015】
本発明に係る警報表示システムによれば,サイレンのみでなく文字として緊急車両からの警報が表示されるので,一般車両のドライバーが緊急事態を認識する確立が従来よりも高くなる。」

「【0024】
例えば「左車線をあけて下さい」という文字を入力すると,各文字に相当する波長帯域の音が割り当てられ,この波長帯域の音の組み合わせが記憶される。このように幾つかの表示パターンを予め入力し記憶し,緊急車両側においてその時点で最も適切なものを選択し,サイレン音に重畳してスピーカ6から発信する。
尚,サイレン音と文字データに対応する音とを別々にスピーカ6から発信してもよい。」

「【0027】
図2は,プッシュフォン類似方式の緊急車両側の回路構成図の詳細説明である。この例では,キーボードKなどから入力された少なくとも1つの文字データは該文字データが割り当てられた音発生部4によってプッシュフォンと同様に割り当て音7aを発生して,ミキサ31によってサイレン音生成部3で生成された補正サイレン音8aと混合されてスピーカ6から出力される。前記補正サイレン音8aとは,サイレン音8から割り当て音7aの周波数帯域を除去した音であり,本例では理解し易いように割り当て音7aは単独となっているが,複数ある場合には割り当て音7aの音域全てを歯抜けとなったサイレン音8aを生成する必要がある。
【0028】
こうして複合スピーカ出力音32にはサイレン音8aと割り当て音7aが複合された形で出力されることになる。
【0029】
この場合には,例えばマイクロチップテクロノジ社のPICマイコンやATMEL社のAVRマイコンなどを使ってキード操作によってスイッチの入ったキーボードを検出し,エンドコードすることによりシリアルデータ出力とし,キースキャンコードに変換することも考えられる。更に前記キースキャンコードに対して電子透かしデータ処理を行えば電子透かし音響信号が生成される。」

「【0036】
図3は一般車両側の回路構成図を示している。一般車両側の回路構成は,マイクロホン11,フィルター12,音声から文字への変換部13,ナビゲーション装置14,ディスプレイ15,全体を制御するCPU16,各種設定値などを保存するメモリMから構成される。
【0037】
マイクロホン11で受信した音声はフィルター12において,所定の波長帯域のみの音声が選択音域10として通過し,変換部13において各波長に対応する文字に変換され,ナビゲーション装置14のディスプレイ15に表示される。」

「【0040】
またキーボードのシリアルデータ出力を電子透かしで音に埋めこんだ場合には,マイクロチップテクロノジ社のPICマイコンやATMEL社のAVRマイコンなどを使って,前記シリアルデータをデコードすることにより文字データを再生することが出来る。
【0041】
以上において,例えば図1(a)は高速道路で渋滞が発生している状態を示しているが,この状態で,緊急車両20がサイレン音とともに「左車線をあけて下さい」という文字情報を音響透かし(電子透かし)によって発信すると,音が届く範囲で受信可能な装置を搭載している一般車両30のうち左車線を走行している車両は中央の車線に車線変更し,また受信可能な装置を搭載している一般車両30のうち中央車線を走行している車両は左車線を走行している車両が中央車線に移るのを容認するため,図1(b)に示すように,左側車線があき緊急車両は高速でスムーズに左車線を走行することができる。」

「【0045】
電子透かしを埋め込んだ音は,例えばサイレンなどの音響信号に埋め込んでも良いし,無音に埋め込んだ電子透かしだけの音でも良い。」

の記載がある。

したがって,甲第6号証には,

「キーボードから入力された文字データにより割り当て音を発生し,サイレン音あるいは無音と混合され,電子透かしデータ処理を行って電子透かし音響信号を生成しスピーカから出力し,
マイクロホンで受信した音声を,デコードすることにより文字データを再生し,ナビゲーション装置のディスプレイに表示する
警報表示システム」

の発明が記載されている。(以下,「引用発明6」という。)

(7)特許異議申立人小関勝成による甲第7号証

特許異議申立人小関勝成による甲第7号証である,総務省の報道資料「サイレン等による瞬時情報伝達のあり方に関する検討会 報告書,実証実験結果及び標準仕様書(平成18年3月27日)消防庁」(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「6 各情報の伝達,放送内容における留意点
(1)津波警報(大津波又は津波)
○消防庁からは,「津波対策等の強化・推進について」(平成11年7月12日付け消防庁長官通知(消防震第28号))により「地震発生後,報道機関から津波警報が放送されたときには,市町村長は,海浜にある者,海岸付近の住民等に直ちに海浜から退避し,急いで安全な場所に避難するよう勧告・指示するものとする」と通知されている。これを踏まえ,予め地域防災計画において,津波警報が発表された場合には,J-Alertにより避難勧告・指示を発出すると規定し,放送内容の末尾には「避難して下さい」と挿入することにより,当該避難勧告・指示の住民への伝達と位置付けられる。(この場合,警報発表時の避難勧告・指示の遅れの問題はなくなる)
○なお,津波警報について,上記手法による避難勧告等の住民伝達を実施しない場合は,別途,避難勧告等の迅速な発出及び住民伝達についての実効性のある代替手法を検討し,地域防災計画に位置付けることが必要である。
○津波警報発表(受信)時のサイレン音パターンは気象業務法24条,同法施行規則13条及び予警報標識規則(昭和51年11月16日気象庁告示)において,大津波の場合は「3秒吹鳴+2秒休止」,津波の場合は「5秒吹鳴+6秒休止」が規定されている。繰り返し回数については地方団体の裁量となっている。
(2)緊急火山情報
○緊急火山情報についても,予め地域防災計画において,同情報が発表された場合には,J-Alertにより避難勧告を発出するとの基準を設け,放送内容の末尾には「避難して下さい」と挿入することにより,当該避難勧告の住民への伝達と位置付けることが可能である。
(3)緊急地震速報
○放送開始からS波到達までは数秒?20秒程度であるため,数秒間の放送で最大限住民に認知してもらえるような放送内容とすることが重要である。
○「短い警報音+短いメッセージ」の繰り返しが効果的と考えられる。
○また,上記3のとおり,S波到着後の同報無線の放送のケースも多く想定されることから,事前に住民に十分周知することが重要なほか,例えば,放送文言として,「大地震が来ます」ではなく,「大地震です」と通報する等の工夫を講じることが適当である。
○さらに,地方公共団体が希望する場合は,タイマー設定を用いて,緊急地震速報に含まれるS波到着予測時刻(一定程度の誤差あり)+α秒(裁量)が当該団体の自動起動相当時間を上回る場合にのみ通報するよう設定することも可能である。
○特に緊急地震速報については,各地方公共団体が,その特性や限界を踏まえ,次に示す留意点や心構え等を,事前に,地域防災計画に位置付けた上で,国と協力しつつ,十分住民に周知することを大前提として,J-Alertにより使用することとする。
・実際の放送時の警報音・放送内容。
・震度5弱以上が予測された場合に放送すること。
・大きな揺れ到達前の数秒?20秒程度の速報であるので,火の元の確認や家具等転倒の危険性があるものから離れること等の対応が基本となること。
・大きな揺れ到達中や到達後の放送もあり得ること。
・直下型地震では効果は殆どないこと。
・場合によっては誤報があり得ること。
・誤報があった場合は,直ちに(気象庁からのキャンセル報を受け),自動起動により音声放送のみで「先ほどの地震速報は誤報です」等の訂正報が放送されること。
○なお,実際の運用開始時期や放送の際の警報音等については,気象庁主催の「緊急地震速報の本運用開始に係る検討会」における検討やJ-Alertの整備状況等も踏まえ,今後判断していくこととする。
(4)有事関連情報
○有事関連情報に関しては,ゲリラ・特殊部隊攻撃や大規模テロ等,重大性はあるものの,J-Alertの機能の特性が発揮されないような条件下において,結果として使用場面が少なくなることも想定される。
○国民保護法に基づく警報のサイレン音は,14秒周期の特有の音が決定されている(17年7月6日に内閣官房)。従って,J-Alertについてもこれを使用することとし,放送内容としては当該サイレン音を何回繰り返すかについて検討の余地があるが,情報伝達効果から考えて,14秒周期を1回吹鳴し,直後に音声放送のパターンを繰り返す方法が適当と考えられる。
なお,有事における使用場面の設定や放送内容の標準形等については,将来において,必要に応じて柔軟に見直す。」





の記載がある。

したがって,甲第7号証には,

「短い警報音+短いメッセージの繰り返しで各情報を伝達すること」

が記載されている。(以下,「周知技術7」という。)

(8)特許異議申立人小関勝成による甲第8号証

特許異議申立人小関勝成による甲第8号証である,特開2010-72641号公報(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「【0028】
音声コンテンツ100は,メインコンテンツ(またはインデックスコンテンツ)101と複数の個別コンテンツ102,103からなる。これらのコンテンツは,1つのオーディオファイルの別々の時間帯に記録して作成してもよく,各コンテンツを別々のオーディオファイルで構成してもよい。メインコンテンツ101が本発明の第1コンテンツに対応し,個別コンテンツ102,103が本発明の第2コンテンツに対応する。
【0029】
メインコンテンツ101は,たとえばニュースのヘッドライン,観光地を概括的に解説するアナウンス等の概論的なコンテンツである。メインコンテンツ101は,上記の内容が人間が聴取可能な周波数帯域の音声信号として形成されているコンテンツ本体部110,および,非可聴形式のコード信号領域であるリンク情報部120からなる。コンテンツ本体部110には,特定の語彙であるキーワード111,112が含まれている。また,リンク情報部120には,キーワード111,112に対応するリンク情報121,122が埋め込まれている。埋め込みの方式としては,たとえば,音響信号の周波数シフト方式,非可聴周波数帯域のキャリア信号を変調する方式等を適用することができる。
【0030】
なお,コンテンツ本体部110とリンク情報部120は,別の音声信号として存在している訳ではなく,1つの音声信号中の複数の信号成分として存在している。そのうち,コンテンツ本体部110の成分は聴取者が可聴で認識できる信号成分であり,リンク情報部120の成分はデコードすることによりリンク情報121,122を取り出すことができる信号成分である。コンテンツ本体部110とリンク情報部120とは,たとえば隣接する周波数帯域に存在する信号成分であってもよく,周波数帯域が互いにオーバーラップして重なり合う信号成分であってもよい。また,リンク情報部120がコンテンツ本体部110に音声透かし技術等で重畳されていてもよい。
【0031】
リンク情報121は,キーワード111の詳細な解説等からなる個別コンテンツにジャンプするための情報であり,キーワード区間情報,リンク操作受付期間終了時刻(T5),リンク先情報等からなる。キーワード区間情報は,メインコンテンツ101のどの時刻(T3)からどの時刻(T4)までの期間にキーワードが存在するかを示す情報である。また,リンク先情報は,キーワード111に対応する個別コンテンツ102の位置を示す情報である。個別コンテンツ102がメインコンテンツ101と同じファイルに記録されている場合には,リンク先情報としては,個別コンテンツ102の開始時刻(T6)を表す情報が記録される。また,個別コンテンツ102がメインコンテンツ101と異なるファイルに記録されている場合には,リンク先情報としてそのファイル名が記録される。
【0032】
ユーザによるリンク操作は,キーワード111の再生開始時刻(T3)からキーワードの再生が終了した(T4)のち,一定時間後のリンク操作受付期間終了時刻(T5)まで受け付ける。キーワード111を聴き終えたのちにその個別コンテンツを聴くか否かを決定するユーザも居るからである。このリンク操作受付期間(T3?T5)内にリンク操作(たとえばリンクボタンの押下)がされると,音声再生装置1は,再生位置を個別コンテンツ102の先頭(T6)にジャンプさせる(図3の(2)参照)。また,リンク操作受付期間内に確認操作(たとえば確認ボタンの押下)がされると,音声再生装置1は,再生位置をキーワード区間の直前のリスタート位置(T2)にジャンプさせ,もう一度キーワード111を再生する(図3の(3)参照)。このキーワード111の繰り返しの再生中にリンク操作がされた場合も音声再生装置1は,再生位置を個別コンテンツ102の先頭(T6)にジャンプさせる(図3の(4)参照)。」

「【0036】
また,図2では各キーワードに対応するリンク情報をそのキーワードの直前に埋め込んでいるが,キーワードの再生が開始されたときリンク操作が可能になっているようにするためには,対応するキーワードより前にリンク情報を埋め込んでおけばよく,埋め込みの位置は上記に限定されない。全てのキーワードに対応するリンク情報をメインコンテンツ101の先頭部分に埋め込んでもよい。この場合,複数のリンク情報が含まれるメインコンテンツを再生するときには,このリンク情報の数のリンク情報記憶エリアを制御部10に設ける。また,各リンク情報には,対応するキーワード区間の開始位置(T3)を記憶しておき,そのリンク情報がどのキーワードに対応するものかを識別できるようにしておく。」

の記載がある。

したがって,甲第8号証には,

「メインコンテンツとメインコンテンツと異なるファイルに記録されている複数の個別コンテンツからなる音声コンテンツであって,
メインコンテンツはキーワードが含まれるコンテンツ本体部と非可聴形式のコード信号領域であるリンク情報部からなり,リンク情報部は,個別コンテンツのファイル名が記録されているリンク先情報が含まれており,キーワードに対応するリンク情報は対応するキーワードより前に埋め込まれており,
キーワードの再生時刻からキーワードの再生が終了した後一定時間後のリンク操作受け付け終了時刻までにリンク操作を受け付けると,リンク先の個別コンテンツを再生する
音声再生装置」

が記載されている。(以下,「引用発明8」という。)

(9)特許異議申立人小関勝成による甲第9号証

特許異議申立人小関勝成による甲第9号証である,特開2008-299032号公報(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「【0015】
本発明による語学教材は,外国語音声データに対してその文字データを時間的にずらして再生するための相対位置同期信号を使うことにより,モノラル音声データに文字データを埋め込んだモノラルの複合音響信号が音波として空気中を伝搬させ,これを文字データ再生装置のマイクロフォンで受け取り再生することにより,正確に発音される単語の文字表示と聞こえる音声の同期が取れ,前記音声を実際の発音に対して既定時間又は既定単語数だけ早く表示させることが出来るので,初級の学習者の学習に使う場合,あらかじめ単語を認識してから先生の発音を聞くことが出来るので理解が早くなる効果が期待出来る。」

「【0019】
図1は,本発明に係る吹き込みシステムの概要図である。吹き込み者1は,マイクロフォン2に向かって文章3を吹き込んでいる。文章の番号は再生時の画面番号を表していて,吹き込み者1は,各画面番号に相当する単語を読む時にタイミングボタン4を押すことにより,相対位置同期信号発生装置5から相対位置同期信号を発生させ,マイクロフォン2からの音声信号を拡声装置6で適宜のレベルに拡声して記録装置7において前記相対位置同期信号と音声信号を合成して複合音響信号8を生成する。
【0020】
ここで,前記記録装置7は,例えば埋め込み信号生成部,埋め込み処理部および文字データ再生装置における埋め込み信号検出部で構成されることが考えられ,これは,例えば特開2006-251676号公報に記載の「音響信号に電子透かし情報を埋め込む前記電子透かし埋込装置において,前記音響信号を帯域通過フィルタ群によって帯域分割したときの対となる隣接する帯域通過信号にそれぞれ逆位相の振幅変調を与えて,その連続的な変化の中および他の離れた帯域に与える振幅変調との位相差および変調強度差の中,および時間的に離れた区間に与える振幅変調の位相差および変調強度差の中に前記電子透かし情報を埋め込む手段と,あらかじめ前記帯域通過信号に含まれている振幅変動量と前記帯域通過信号の強度とを元に知覚されにくい振幅変調強度を決定するための手段と,付与する振幅変調の帯域間位相差に電子透かし抽出時の鍵となる位相差を与える手段と,電子透かしの埋め込まれた帯域通過信号およびそうでない帯域通過信号の全てを加算することによって電子透かし情報の埋め込まれた音響信号を出力する手段とを具備する電子透かし埋込装置」などを用いれば容易に実現できる。」

【図1】


「【0037】
図3は,本発明に係る受信システムの機能説明図である。この構成は,従来からの複合音響信号処理と似ているが,文字データを先送りして,音声と同期させて文字を表示させるための時間制御部およびメモリー部が追加されている点で従来とは異なる構成となっている。
【0038】
利用者18が文字データ再生装置19のマイクロフォン20によって受けた前記複合音響信号8は音響信号受信部21に入力される。次に,埋め込み信号検出部22によって,埋め込まれた複合音響信号が検出される。
【0039】
前述した通り,前記複合音響信号中には,外国語音声データ,この外国語音声データの文字データ,これら外国語音声データと文字データとの相対位置同期信号が含まれているが,この中の文字データおよびこの文字データの相対位置同期信号は実際に音として聞こえる外国語音声データで発音される文字データよりも前の文字データが先に送られて来ていて,これら文字データおよびこの文字データの相対位置同期信号は,同期情報算出部23を通過してメモリー部25に蓄積される。
【0040】
一方,前記複合音響信号に埋め込まれた前記外国語音声データの相対位置同期信号は,同期情報算出部23によって検出され,前記外国語音声データの相対位置同期信号のデータに合わせて時間制御部24によって計算された相対位置同期信号を持つ文字データがメモリー部25から読み出されて,文字情報提示部26に提示される。
【0041】
時間制御部25は,前記音響信号はメモリー25に格納された前記音響信号をFATにより管理しながら決められた基準時間に対する遅延時間分だけ遅延させたタイミングで前記文字データを文字情報提示部26に送出し,文字データ再生装置19の表示手段27によって音声に同期した文字を表示する。」

「【0045】
なお,前述したように,文字データは外国語音声データよりも前に送られて来るので,複数の秘密鍵を使って複数言語対応にする場合には,メモリー部25に全ての秘密鍵に対応する文字データを蓄積しておく必要があり,時間制御部24は文字データ再生装置19で選択された秘密鍵に対応する文字データを音声データの相対位置同期信号に対応させてメモリー部25から出力させる。」

「【0047】
図5(a)?(c)は本発明に係る音声信号と画面表示のタイミングが同時である場合の例である。図5(a)には,例えば英会話テープにおいてひとつのレッスンの開始から02分00秒から02分30秒までの5秒毎の時間フレームが示されている。また,図5(b)には,前記時間フレーム内の発音情報を文字情報として複合音響信号に埋め込むタイミングが示されている。更に,図5(c)には,前記複合音響信号を前記文字データ再生装置19で受信して表示手段27に文字データを表示するタイミングが示されている。」

【図5】

「【0051】
図6(a)?(c)は,本発明に係る音声信号よりも画面表示が後になるタイミングの例である。図6(a)には,例えば英会話テープにおいてひとつのレッスンの開始から02分00秒から02分30秒までの5秒毎の時間フレームが示されている。また,図6(b)には,前記時間フレーム内の発音情報を文字情報として複合音響信号に埋め込むタイミングが示されている。更に,図6(c)には,前記複合音響信号を前記文字データ再生装置19で受信して表示手段27に文字データを表示するタイミングが示されている。」

【図6】

「【0055】
図7(a)?(c)は,本発明に係る音声信号よりも画面表示が先になるタイミングの例である。図7(a)には,例えば英会話テープにおいてひとつのレッスンの開始から02分00秒から02分30秒までの5秒毎の時間フレームが示されている。また,図7(b)には,前記時間フレーム内の発音情報を文字情報として複合音響信号に埋め込むタイミングが示されている。更に,図7(c)には,前記複合音響信号を前記文字データ再生装置19で受信して表示手段27に文字データを表示するタイミングが示されている。」

【図7】

「【0060】
本発明による語学教材を字幕の入った映画に使えば,例えば映画では英語が話され,字幕では日本語が見られ,複合音響信号再生機の画面には英語の台詞がリアルタイムあるいは語学力によって早出し又は遅早出しでも見られるようになるので,映画を利用して楽しく学習することが出来るようになる。」

「【0070】
音響透かしを埋め込んだ英会話音楽は,例えばカセットテープなどの安価な記憶媒体でも記録再生が可能であり,例えば文字データ再生装置のアプリケーションとして文字提示機能を用意すれば,テープレコーダーと該文字データ再生装置だけで英会話が楽しめるし,また,見えるラジオ(登録商標)など文字多重受信機能の有る高価なラジオを使わなくとも,普通のラジオでも複合音響信号から文字データを抽出して文字データ再生装置などの文字データ再生装置で再生することが出来る。しかも,文字表示のタイミングを選択出来るので,語学の初心者から上級者まで同じ複合音響信号を使って自分の語学力に合わせた学習を遂行することができるので,利用者に大きな設備負担を強いることなく様々なラジオリスナーに対して語学教育の振興を啓蒙できる。」

の記載がある。

したがって,甲第9号証には,

「語学教材として,外国語音声データに対してその文字データを時間的にずらして再生するための相対位置同期信号を使うことにより,モノラル音声データに文字データを埋め込んだモノラルの複合音響信号が音波として空気中を伝搬させ,これを文字データ再生装置のマイクロフォンで受け取り再生し,
英会話テープを,カセットテープなどの安価な記録媒体で再生し,文字データ再生装置のアプリケーションとして文字提示機能を用意することによりテープレコーダーと文字再生装置だけで英会話を楽しむことができ,
吹き込み者1は,マイクロフォン2に向かって文章3を吹き込み,吹き込み者1は,各画面番号に相当する単語を読む時にタイミングボタン4を押すことにより,相対位置同期信号発生装置5から相対位置同期信号を発生させ,マイクロフォン2からの音声信号を拡声装置6で適宜のレベルに拡声して記録装置7において前記相対位置同期信号と音声信号を合成して複合音響信号8を生成し,
記録装置は,特開2006-251676号公報に記載の技術を用いれば容易に実現でき,
複合音響信号中には,外国語音声データ,この外国語音声データの文字データ,これら外国語音声データと文字データとの相対位置同期信号が含まれ,
マイクロフォンによって受けた複合音響信号から,埋め込まれた複合音響信号と埋め込まれた相対位置同期信号が検出され,
文字データは外国語音声データよりも前に送られて来て,
音声信号に対して文字データの画面表示が同時あるいは画面表示が先あるいは画面表示が後である
文字データ再生装置」
が記載されている。(以下,「引用発明9」という。)

5.判断

(1)本件特許発明1に係る特許について

本件特許発明1は,1.(1)に記載したとおりである。

(1-1)取消理由通知に記載した取消理由について

ア.引用発明1-1との対比

引用発明1-1の「アナウンス」は,本件特許発明1の「対象音」に,
引用発明1-1の「スピーカ」は,本件特許発明1の「放音装置」に,
それぞれ相当する。

引用発明1-1の「リンクコード」は,「サービス事業者が指定したサービス内容(メッセージ)」と対応しているから,「識別情報」であるといえる。
そして,該「サービス事業者が指定したサービス内容(メッセージ)」を解析して表示された「まもなく,桜木町に到着します」等の「文字」は,アナウンスの内容と同じであるから,「リンクコード」は「対象音の内容を表す情報の識別情報」であるといえる。

そして,引用発明1-1は,「リンクコード」を「音響信号に埋め込まれ」た状態で放送するから,放送設備から放送される「音響信号」には,「リンクコード」を含む音響成分を含んでいるといえる。
つまり,引用発明1-1は,「対象音と,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音を放音装置に放音」しているといえる。

一方,引用発明1-1の「携帯電話」は,サービス内容に対応する「対象音の内容を表す情報」を表示しているから,該「携帯電話」は,「通知された識別情報に対応する前記情報を取得可能な端末装置」であるといえ,放音装置から端末装置へはスピーカから放音される音で情報を通知しているから,「音響通信で通知」しているといえる。

ここで,甲第1号証の16頁(丸数字を(数字)で表記する)に,

「1.7.音響透かし基礎技術の特徴
本実証実験にて採用した音響透かし技術は,音響透かし技術の先駆者であり欧州にて実績が豊富な英国Intrasonics社が開発した最新の『音響データ通信方式』を採用した。特徴を以下に記述する。
(1)聴音域を利用しており,既存の放送音響機器をそのまま利用できる。
(2)雑音や反射によるフェージングの影響を受けにくく,屋内外問わず利用できる。
(3)音響信号にデータを埋め込むソフトウェアはPCに搭載可能である。
(4)データの埋め込まれた音響信号からデータを抽出するソフトウェアは,市販されている携帯端末に搭載可能である。」

の記載があるから,引用発明1-1の音響透かし技術は,「聴音域」を利用しているから,可聴域であることは明らかである。

すなわち,引用発明1-1において「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音」は,可聴域であるから,「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む可聴域の音響成分とを含む音」であるといえる。

そうすると,本件特許発明1と引用発明1-1とは,

「対象音と,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み,可聴域の音響成分とを含む音を放音装置に放音させることで,当該識別情報を,通知された識別情報に対応する前記情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する再生システム」

で一致し,下記の点で相違する。

相違点

本件特許発明1は,対象音が「第1期間にわたる」一方,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音が「時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる」音響成分であるのに対し,引用発明1-1では,スピーカから流れる音声と,電子透かし入り音響信号が時間的に重複しない期間であるか明らかでない点。

相違点について検討する。

アナウンスを行うにあたり,注意喚起のためにアナウンスの前にチャイムを放音することが一般的であるとしても,「チャイムとアナウンス」で構成される一連の放音のうち,アナウンスと時間的に重複しない期間,例えばチャイム部分にだけ電子透かしによる情報の埋め込みを行うこと,すなわち「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音」が「対象音」と時間的に重複しないことは,甲第2号証,甲第6号証,甲第8号証には記載されておらず,他の甲号証にも記載されていない。
したがって,引用発明1-1において,放音装置から放音される「対象音」と「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音」が時間軸上で重複しないようにすることは,当業者といえども,容易に想到し得たとすることはできない。

イ.引用発明1-2との対比

引用発明1-2の「アナウンス」は,本件特許発明1の「対象音」に,
引用発明1-2の「スピーカ」は,本件特許発明1の「放音装置」に,
それぞれ相当する。

引用発明1-2の「文字情報」は,「文字列」と対応しているから,「識別情報」であるといえる。
そして,該「文字情報」を解析して表示された「水野さま,お部屋までお戻りください」等の「文字」は,アナウンスの内容と同じであるから,「文字情報」は「対象音の内容を表す情報の識別情報」であるといえる。

そして,引用発明1-2は,「文字情報」を「音響信号に埋め込まれ」た状態で放送するから,放送設備から放送される「音響信号」には,「文字情報」を含む音響成分を含んでいるといえる。
つまり,引用発明1-2は,「対象音と,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音を放音装置に放音」しているといえる。

一方,引用発明1-2の「利用者端末」は,サービス内容に対応する「対象音の内容を表す情報」を表示しているから,該「利用者端末」は,「通知された識別情報に対応する前記情報を取得可能な端末装置」であるといえる。

ここで,甲第1号証の49頁には,実証システムの開発概要として,

「エンコーダに搭載する音響透かしについて,空中伝送に特化して開発された技術は複数存在するが,実証システムでは英国Intrasonics社が開発したものを採用した。伝送速度は幾分遅いものの,空中伝播耐性,特に無指向性に優れた性能を有する。同社の技術は,『エコー変調方式』と,『スペクトル拡散方式』の2つの方式が実装可能であり,適応する環境とサービス内容によって音響透かし変調スキームを選択し再構成することが可能である。
本実証実験では,変調スキームに同社が開発した最新のエコー変調方式を採用した。理由は,従来方式のエコー変調よりも空中伝播での反射波や他の雑音の耐性に優れていること,スピーカから端末のマイクまでの距離が数10mと長く無指向性であり,受音時の音圧レベルが30dB程度で弱くとも音響透かしが抽出できること,さらに人間の耳にまったく不快感を与えないことである。
下図は,Intrasonics社が開発した「エコー変調方式」での音響信号にデータを埋め込むエンコーダの処理概要図である。
詳しくは,英国特許管理センターにて特許明細情報が公開されている。
(2009年12月2日公開特許管理番号GB2460306Aを参照)」

の記載があるから,引用発明1-2は,英国特許出願公開第2460306号公報に記載される技術による音響透かし技術を用いた情報を用いている。

ここで,英国特許出願公開第2460306号公報には,

「According to one aspect, the present invention provides a method of embedding a data value in an audio signal, the method comprising: generating an echo of at least a portion of the received audio signal which varies in dependence upon the data value; and embedding the data value in the audio signal by combining the received audio signal with the generated echo; wherein the generating step generates an echo whose polarity varies in dependence upon the data value.」(1頁22-27行)
(当審訳:
1態様によれば,本発明は音声信号にデータ値を埋め込む方法を提供し,該方法は,データに応じて受信された音声信号の少なくとも一部のエコーを生成することと,受信された音声信号を該生成されたエコーと結合することによって,該音声信号にデータ値を埋め込むことを含み,データ値は,音声信号と結合されるエコーの極性を該データ値に応じて変えることにより該音声信号に埋め込まれる。)

「Each of the echoes may be generated by repeating at least a part of said audio signal.」(2頁7行)
(当審訳:
エコーの各々は,前記音声信号の少なくとも一部を反復することによって生成されてもよい。)

の記載があるから,引用発明1-2の音響透かし技術は,データに応じた極性を有するエコーを生成して,音声信号に付加することによって,音声信号にデータを隠蔽する技術を用いた情報であるといえる。

ここで,引用発明1-2の「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分」は,「水野さま,お部屋までお戻りください」の音声に「利用者に伝えたいデータ」に応じた極性を有するエコーを付加した音である。
「水野さま,お部屋までお戻りください」の音声は,可聴域であることは明らかである。「エコー」は,音声信号の反復であるから,元の音声信号と同じ周波数領域である。つまり,「エコー」は可聴域であるといえる。
結局,「水野さま,お部屋までお戻りください」の音声も,「利用者に伝えたいデータ」に応じた極性を有するエコーを付加した音も,どちらも可聴域であるから,「水野さま,お部屋までお戻りください」の音声に「利用者に伝えたいデータ」に応じた極性を有するエコーを付加した音も可聴域であることは明らかである。

すなわち,引用発明1-2において「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音」は,可聴域であるから,「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む可聴域の音響成分とを含む音」であるといえる。

そうすると,本件特許発明1と引用発明1-2とは,

「対象音と,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み,可聴域の音響成分とを含む音を放音装置に放音させることで,当該識別情報を,通知された識別情報に対応する前記情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する再生システム」

で一致し,下記の点で相違する。

相違点

本件特許発明1は,対象音が「第1期間にわたる」一方,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音が「時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる」音響成分であるのに対し,引用発明1-2では,スピーカから流れる音声と,電子透かし入り音響信号が時間的に重複しない期間であるか明らかでない点。

相違点について検討する。

アナウンスを行うにあたり,注意喚起のためにアナウンスの前にチャイムを放音することが一般的であるとしても,「チャイムとアナウンス」で構成される一連の放音のうち,アナウンスと時間的に重複しない期間,例えばチャイム部分にだけ電子透かしによる情報の埋め込みを行うこと,すなわち「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音」が「対象音」と時間的に重複しないことは,甲第2号証,甲第6号証,甲第8号証には記載されておらず,他の甲号証にも記載されていない。
したがって,引用発明1-2において,放音装置から放音される「対象音」と「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音」が時間軸上で重複しないようにすることは,当業者といえども,容易に想到し得たとすることはできない。

ウ.引用発明2-2との対比

引用発明2-2の「携帯コンピュータ」は,本件特許発明1の「端末装置」に含まれ,
引用発明2-2の「スピーカ」は,本件特許発明1の「放音装置」に含まれ,
引用発明2-2の「今日の天気・・」は,本件特許発明1の「対象音」に含まれる。

引用発明2-2における「電子透かし8ビット中の4ビットの電子透かし」は,「対応するメッセージ」を探し出して「音声による情報をディスプレイ上に視覚的に提示」するのであって,「今日の天気・・」の放送に対する「今日の天気は晴れ」の表示がなされるから,「当該対象音の内容を表す情報の識別情報」に含まれる。

引用発明2-2の「電子透かしが埋め込まれた音」は,「今日の天気・・」の音声が聞こえるとともに,「電子透かし」が埋め込まれているから,いずれも本件特許発明1の「対象音と,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音」に相当する。

引用発明2-2の携帯コンピュータは,「4ビットの電子透かし」に対応するメッセージを画面に表示するのであって,「4ビットの電子透かし」は,本件特許発明1の「前記識別情報」に含まれるから,引用発明2の「4ビットの電子透かしに対応するメッセージ」及び表示される「今日の天気は晴れ」は,「通知された識別情報に対応する前記情報」に含まれる。

引用発明2-2の「聾学校の校内文字放送システム」は,「スピーカ」から放音させることで,4ビットの電子透かしを「携帯コンピュータ」に音響通信で通知するから,「再生システム」であるといえる。

甲第2号証(下線は当審が付与。)には,

「3.4 本システムの動作について
前のページの図5と,図6は,本システムの動作を説明したものである。
スピーカから流れる「電子透かし」は,現在のところ,エコー法という方式を用いて音声信号に組み込んでいる。」(22頁)

「エコー利用型の電子透かしは,人間が,直接音と反射音(エコー)の時間差が短い場合に,両方が融合して聞こえることを利用しており,図7 に示すように,直接音と反射音の時間差を変えることで情報を埋め込む手法である。詳細は,第IV章に説明を行う。」(23頁)

の記載があり,第IV章の研究資料には

「第2章 エコーに基づく音電子透かし
2.1 はじめに
エコーに基づく音電子透かしとは,時間軸方向へのマスキング効果(temporal masking)を利用した電子透かし埋め込み手法である。人間は,強い音の前後に存在する微弱な音を人間は知覚できない。この効果を継時マスキングという。また,強い音の直前におけるマスキングのことを逆向性マスキング(backward masking),強い音の直後におけるマスキングのことを順向性マスキング(forward masking)といい,逆向性マスキングは5?20ms以内で発生し,順向性マスキングは直後の50?200ms程度において発生する[2]。エコーに基づく音電子透かし埋め込み手法とは,この知覚されない時間帯に人工的にエコーを付加し,情報を埋め込む手法のことを指す。本章では,エコーに基づく音電子透かしの基本的な埋め込み手法であるエコー法と,エコー法を発展させた埋め込み手法として,エコー拡散法について説明するとともに,これらの埋め込み手法に関して実際に空気伝搬を行った場合,どのような特性を示すのかついて検討した。」

の記載があるから,引用発明2-2の電子透かし技術は,データに応じて直接音と反射音の時間差を変えて,音声信号に人工的にエコーを付加することによって,音声信号にデータを隠蔽する技術を用いた情報であるといえる。

ここで,引用発明2-2の「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分」は,「今日の天気・・」の音声に「利用者に伝えたいデータ」に応じた極性を有するエコーを付加した音である。
「今日の天気・・」の音声は,可聴域であることは明らかである。「エコー」は,時間的に遅れた元の音声信号であるから,元の音声信号と同じ周波数領域である。つまり,「エコー」は可聴域であるといえる。
結局,「今日の天気・・」の音声も,「利用者に伝えたいデータ」に応じた極性を有するエコーを付加した音も,どちらも可聴域であるから,「今日の天気・・」の音声に「利用者に伝えたいデータ」に応じてエコーを付加した音も可聴域であることは明らかである。

すなわち,引用発明2-2において「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音」は,可聴域であるから,「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む可聴域の音響成分とを含む音」であるといえる。

したがって,本件特許発明1と引用発明2-2は,

「対象音と,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み,可聴域の音響成分とを含む音を放音装置に放音させることで,当該識別情報を,通知された識別情報に対応する前記情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する再生システム。」

で一致し,下記の点で相違する。

相違点

本件特許発明1は,対象音が「第1期間にわたる」一方,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音が「時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる」音響成分であるのに対し,引用発明2-2では,スピーカから流れる音声と,電子透かし入り音響信号が時間的に重複しない期間であるか明らかでない点。

相違点について検討する。

アナウンスを行うにあたり,注意喚起のためにアナウンスの前にチャイムを放音することが一般的であるとしても,「チャイムとアナウンス」で構成される一連の放音のうち,アナウンスと時間的に重複しない期間,例えばチャイム部分にだけ電子透かしによる情報の埋め込みを行うこと,すなわち「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音」が「対象音」と時間的に重複しないことは,甲第6号証,甲第8号証には記載されておらず,他の甲号証にも記載されていない。
したがって,引用発明2-2において,放音装置から放音される「対象音」と「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音」が時間軸上で重複しないようにすることは,当業者といえども,容易に想到し得たとすることはできない。

(1-2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

ア.異議申立人小関勝成の異議申立理由(4)について,

本件特許発明1と引用発明3を比較すると,

引用発明3の「当該施設で流されている音楽やアナウンスなどの他の音声信号であるPAソース」は,本件特許発明1の「対象音」に,
引用発明3の「サウンドコード」は,本件特許発明1の「識別情報」に,
引用発明3の「スピーカー」は,本件特許発明1の「放音装置」に,
それぞれ相当する。

引用発明3の「携帯電話20」は,スピーカー13から発信された「サウンドコードが重畳されたPAソースの音」を拾う,すなわち受信し,携帯電話20がサウンドコードに対応するメッセージを復元,すなわち取得している。
つまり,スピーカー13から,サウンドコードが重畳されたPAソースの音を放音させることで,サウンドコードを,通知されたサウンドコードに対応するメッセージを取得可能な携帯電話20に音響通信で通知しているといえる。

したがって,本件特許発明1と引用発明3は,

「対象音と識別情報を含む音を放音装置に放音させることで,当該識別情報を,通知された識別情報に対応する情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する再生システム。」

で一致し,下記の点で相違する。

相違点1

識別情報に関し,本件特許発明1は,「当該対象音の内容を表す情報の識別情報」であるのに対し,引用発明3は,「商品,イベント,施設案内等に関するメッセージや,関連するHPのURL等の文字情報」である点。

相違点2

本件特許発明1は,対象音が「第1期間にわたる」一方,当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音が「時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる」音響成分であるのに対し,引用発明3では,スピーカから流れる音声と,サウンドコードが重畳されたPAソースの音が時間的に重複しない期間であるか明らかでない点。

相違点について検討する。

相違点1について

引用発明4には,マイクに入力された音声は,スピーカと音声認識部に供給され,音声認識部で音声認識され,文字情報に変換され,変調回路で変調され,変調文字信号として漏洩ケーブルに供給され,漏洩ケーブルから漏れた電波は文字端末で受信され,表示文字信号としてディスプレイで文字情報されているから,対象音とともに,対象音を文字情報に変換した情報を送信して,ディスプレイに表示することは記載されているものの,引用発明4のディスプレイは,電波を受信して表示するものであって,対象音に重畳して送信するものではない。
また,引用発明3の「PAソース」は,「施設で流されている音楽やアナウンス等の音声」であって,「アナウンス」も含まれるものの「音楽」も含むから,「PAソース」としては,音声認識により文字情報に変換できることを前提とした音声ではない。
したがって,引用発明3の「PAソース」に引用発明4を適用することはできない。

相違点2について

百貨店,スーパー,商店街,映画館,遊園地等の商業施設,娯楽施設におけるアナウンスを行うにあたり,注意喚起のためにアナウンスの前にチャイムを放音することが一般的であるとしても,「チャイムとアナウンス」で構成される一連の放音のうち,アナウンスと時間的に重複しない期間,例えばチャイム部分にだけ電子透かしによる情報の埋め込みを行うこと,すなわち「当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含む音響成分とを含む音」が「対象音」と時間的に重複しないことは,いずれの甲号証にも記載されていない。
したがって,引用発明3において,放音装置から放音される「PAソース」と「サウンドコード」が時間軸上で重複しないようにすることは,当業者といえども,容易に想到し得たとすることはできない。

イ.異議申立人小関勝成の異議申立理由(8)について,

(1-1)のア.およびイ.に記載したように,本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とは,相違点が存在するから,特許法第29条第1項第3号に該当しない。

ウ.異議申立人小関勝成の異議申立理由(9)について,

(1-1)のウ.に記載したように,本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明とは,相違点が存在するから,特許法第29条第1項第3号に該当しない。

エ.異議申立人小関勝成の異議申立理由(10)乃至(12)について,

(1-1)のア.およびイ.に記載したとおりである。

オ.異議申立人小関勝成の異議申立理由(13),(14)について,

(1-1)のウ.に記載したとおりである。

カ.特許異議申立人小関勝成の特許異議申立理由(15)について

本件特許発明1と引用発明9を比較すると,

引用発明9の「外国語音声データ」は,本件特許発明1の「対象音」に,
引用発明9の「外国語文字データ」は,本件特許発明1の「当該対象音の内容を表す情報」に,
引用発明9の「ラジオ」は,本件特許発明1の「放音装置」に,
それぞれ相当する。

引用発明9の文字データ再生装置は,ラジオから提供される語学講座のモノラル音声に,音響透かしによって文字データを重畳しておくことによって,複合音響信号再生装置の表示手段に外国語音声の文字データを表示する装置であるから,ラジオと複合音響再生装置とは,音響透かしによって文字データが重畳されたモノラル音声によって通信を行っていることが明らかである。

引用発明9は,「外国語文字データ」は,「外国語音声データよりも前」に送られてくる必要があるから,「外国語文字データが音響透かしによって重畳」されている「第2期間」は,「外国語音声データ」の「第1期間」と異なる期間であるといえる。
しかし,引用発明9は,例えば「英会話テーブ」を対象としており,図1に記載されるような「To be, or not to be: that is the question: Whether 'tis nobler in the mind to suffer The slings and arrows of outrageous fortune,」を例として説明が行われていることを考慮すれば,図5-7に記載される文字情報の送信は,2分10秒-2分15秒のタイミングで「that is」に続くテキストが送信されることは明らかである。
つまり,2分10秒-2分15秒のタイミングでは,「that is」に続くテキストと,「To be」の音声の両方が送信される。
そうすると,「外国語文字データ」と「外国語音声データ」の送信期間は,「外国語文字データ」の方が「外国語音声データ」よりも30秒送信タイミングが早いものの,一部が重複する期間であるといえる。

また,甲第9号証は「埋め込み処理」について,特開2006-251676号公報に記載の埋め込み処理を用いることにより容易に実現できることが記載されている。
特開2006-251676号公報によれば,埋め込み技術は,入力信号の帯域通過信号に振幅変調を与え,直流周波数から音響信号の取りうる上限周波数まで連続する通過周波数帯域を有する帯域通過フィルタ部121の出力を用いているから,引用発明9の「音響透かしによって文字データを重畳」した音が,「可聴域の音響成分」を含む音であることは明らかである。

したがって,本件特許発明1と引用発明9は,

「対象音と,当該対象音の内容を表す情報を含み,可聴域の音響成分とを含む音を放音装置に放音させることで,前記情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する再生システム。」

で一致し,下記の点で相違する。

相違点1

「当該対象音の内容を表す情報」に関し,本件特許発明1は「識別情報」であるのに対し,引用発明9は「外国語音声データの文字データ」である点。

相違点2

第2期間について,本件特許発明1は,「第1期間に重複しない」第2期間であるのに対し,引用発明9は「第1期間と一部が重複する」第2期間である点。

相違点について検討する。

相違点1について

引用発明9は,「語学学習」を行うから,「音声」の「文字データ」をディスプレイに表示することが必要であり,入力される「音声」に対して「タイミングボタン」を押すことで「相対位置同期信号」を発生させて,該「相対位置同期信号」を利用して表示している。
つまり,「文字データ」は「タイミングボタン」で入力された「同期信号」のタイミングでディスプレイに表示することが必要であり,甲第9号証の図1において1から8の区間に区切られ,区切られた1と2の文字が図5-7で送られていることからも,タイミングボタンで区切られた期間の「文字データ」を送信していると解される。
そうすると,「タイミングボタン」は「吹き込み者」が所望のタイミングで押すから,予め「タイミングボタンで区切られた期間の文字データ」に対応した「識別情報」を準備しておくことはできない。

したがって,引用発明9において「当該対象音の内容を表す情報」として「識別情報」を用いることは,当業者といえども,容易に想到し得たとすることはできない。

相違点2について

引用発明9は,「英会話」や「映画」を用いて「語学学習」を行うシステムであるから,長時間にわたって連続して音声が発生される音声データを対象とした発明である。
つまり,引用発明9には,「チャイム」のような「音声データが存在しない」期間は存在しないし,「チャイム」を付加するようなことも一般的ではないから,「音声データ」に重複しない期間に「文字データ」を送信することはできない。
さらに,仮に「チャイム」を付加したとしても,「長時間」の音声データの「文字データ」を「チャイム」のような短い時間に重畳して送信することはできない。

したがって,「第2期間」を「第1期間に重複しない第2期間」とすることは,当業者といえども,容易に想到し得たとすることはできない。

(1-3)小括

以上によれば,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明1に係る特許を取り消すことはできない。

(2)本件特許発明2-6に係る特許について

本件特許発明2-6に係る特許については削除された。
これにより,特許異議申立について,請求項2-6に係る申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

(3)本件特許発明7に係る特許について

本件特許発明7は,本件特許発明1の再生システムに対応している情報提供方法である。
したがって,(1)で記載したのと同様の理由により,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明7に係る特許を取り消すことはできない。

(4)本件特許発明8-9に係る特許について

本件特許発明8-9に係る特許については削除された。
これにより,特許異議申立について,請求項8-9に係る申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。


第4 むすび

以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1及び7に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

請求項2-6,8-9に係る特許は,訂正により削除されたので,特許異議の申立てについて,請求項2-6,8-9に係る申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
再生システムおよび情報提供方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、端末装置に情報を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
公共交通機関の利用案内を自動音声で利用者に提供するサービスが広く普及している。例えば、路線バスの車内放送システムでは、予め路線系統毎に用意された案内音声(乗降案内や運賃情報等の案内音声等)を、オペレーターの操作に応じて適切なタイミングで(例えば停留所毎に)再生することにより、車内に存在する利用者に案内情報が提供される。特許文献1には、音声データに応じて音声信号を発生することで、利用者に停留所名等を案内する構成が開示されている。特許文献2には、案内音声に対応する音声データの作成において、停留所名は圧縮率が小さい符号化法で作成し、「次は」、「です」等の共通音節は圧縮率が大きい符号化法で作成する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 実開昭61-116400号公報
【特許文献2】 特開平08-008855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、赤外線や電波を含む電磁波を利用した無線通信(例えば近距離無線通信)で端末装置に案内情報を送信する構成では、電波や赤外線を受信するための受信機器を端末装置が具備する必要がある。本発明は、赤外線や電波を含む電磁波を利用した無線通信に専用される受信機器の利用を必要とせずに端末装置に情報を送信することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係る再生システムは、対象音を表す対象信号を取得する制御部と、前記対象信号が表す前記対象音と、当該対象音を表す関連情報の識別情報を含む音響成分とを含む音を放音することで、当該識別情報を、通知された識別情報に対応する関連情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する放音装置とを具備する。
また、本発明の好適な態様に係る端末装置は、対象音と、当該対象音を表す関連情報の識別情報を含む音響成分とを含む音を収音する収音装置と、前記収音装置が収音した音から前記識別情報を抽出する特定部と、前記特定部が抽出した識別情報に対応する関連情報を取得する取得部とを具備する。
【0006】
ところで、音波を伝送媒体として端末装置に情報を配信する技術が提供されている(以下「音響通信」という)。音響通信では、音響信号のうち高域側(例えば非可聴域内の約18kHz以上かつ20kHz以下)の周波数帯域に配信情報を含有する音響信号を表す音響を放音することで、端末装置に情報が配信(収音)される。音響通信を特許文献1および特許文献2に例示される路線バスの音声案内システムに適用することを想定する。通常、路線バスの車内にはエンジン音や振動音等の車外音が到来するから、案内音声が明瞭に利用者に知覚されるように、音響信号の低域側(例えば可聴域内の約16kHz以下)の成分が濾過(フィルタ)され、高域側の成分はカットされる場合がある。このため、特許文献1および特許文献2に音響通信を適用した場合、高域側の周波数帯域に包含された配信情報を出力(放音)することができない、という問題がある。なお、以上の説明では、公共交通機関の路線バスを例示したが、他の公共交通機関や公共施設等、利用者に様々な情報を提供する任意の状況において同様の問題が発生し得る。以上の事情を考慮して、本発明の好適な態様は、特定の周波数帯域が抑圧される環境でも適切に音響通信を実現することを目的とする。
【0007】
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係る音響処理装置は、対象音を表す対象信号と当該対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する第1周波数帯域の第1音響信号から識別情報を抽出する情報抽出手段と、前記情報抽出手段が抽出した識別情報を含む信号であって前記第1周波数帯域とは相違する第2周波数帯域の第2音響信号を生成する信号処理手段とを具備する。以上の構成では、対象音(例えば利用者に提供される案内音声)を表す対象信号と、案内音声の識別情報が包含される変調信号とが第1周波数帯域の第1音響信号に含有され、第1音響信号から抽出された識別情報が第2周波数帯域の第2音響信号に包含される。以上の構成によれば、第1音響信号において第2周波数帯域が抑圧された環境でも第2周波数帯域を利用した音響通信により適切に識別情報を送信することが可能である。なお、「対象音」の例示としては、公共施設や公共交通機関の利用者に提供される案内情報(例えば、開館時間や閉館時間等の施設情報、乗降案内、運賃案内等)の音声が挙げられる。
【0008】
本発明の好適な態様において、対象音を表す対象信号と当該対象音の識別情報が重畳された変調信号とを含有する再生信号の再生音を収音して前記第1音響信号を生成する収音手段と、前記信号処理手段が生成した第2音響信号に応じた音響を放音する放音手段とを具備する。以上の態様では、音響処理装置が、再生信号の再生音を収音する収音手段と、信号処理手段が生成した第2音響信号に応じた音響を放音する放音手段とを具備する。したがって、第2周波数帯域を抑圧した再生信号に応じた音響を放音する既存のシステムを改変することなく、音響通信により適切に識別情報を送信できるという利点がある。
【0009】
本発明の好適な態様において、前記放音手段によって前記第2音響信号に応じた音響が放音される時間長は、前記再生信号のうち前記変調信号が放音される時間長よりも長い。したがって、第2音響信号が包含する識別情報を受信側にて受信できる機会が充分に確保されるという利点がある。なお、第1周波数帯域は例えば可聴域に設定され、第2周波数帯域は第1周波数帯域を上回る帯域(例えば利用者が殆ど知覚できない帯域)に設定される。ここで、識別情報を含む変調信号が過度に長時間に亘り放音されると、利用者が違和感や不快感を知覚する可能性がある。以上の構成では、第2周波数帯域の第2音響信号に応じた音響が放音される時間長は、第1周波数帯域の再生信号のうち変調信号が放音される時間長よりも長く設定される。すなわち、利用者が殆ど知覚できない第2周波数帯域の音響を利用した音響通信で識別情報が送信される。したがって、利用者に違和感や不快感を知覚させることなく、識別情報を各端末装置に通知することが可能である。
【0010】
本発明の好適な態様に係る音響処理装置は、対象音を表す対象信号と当該対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する第1音響信号から識別情報を抽出する情報抽出手段と、前記情報抽出手段が抽出した識別情報を含む送信信号を生成する信号処理手段と、前記信号処理手段が生成した前記送信信号を示す電磁波を送信する送信手段とを具備する。以上の態様によれば、例えば、多様な伝送媒体を利用した情報の配信が可能であることから、特定の周波数帯域が抑圧される環境であっても適切に識別情報を送信することが可能である。
【0011】
以上の各態様に係る音響処理装置は、専用の電子回路で実現されるほか、CPU(Central Processing Unit)等の汎用の演算処理装置とプログラムとの協働によっても実現される。本発明のプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で提供されてコンピュータにインストールされ得る。記録媒体は、例えば非一過性(non-transitory)の記録媒体であり、CD-ROM等の光学式記録媒体(光ディスク)が好例であるが、半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の任意の形式の記録媒体を包含し得る。なお、例えば、本発明のプログラムは、通信網を介した配信の形態で提供されてコンピュータにインストールされ得る。また、以上の各態様に係る音響処理装置の動作方法(音響処理方法)としても本発明は特定される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態の音声案内システム1の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態の再生システム100のブロック図である。
【図3】第1実施形態の信号合成部104のブロック図である。
【図4】第1実施形態のフィルタ108の特性図である。
【図5】変調信号AD,対象信号AG,第2音響信号S2の時間長の説明図である。
【図6】再生システム100で実行される動作のフローチャートである。
【図7】第1実施形態の音響処理装置200のブロック図である。
【図8】音響処理装置200で実行される動作のフローチャートである。
【図9】第1実施形態の端末装置300のブロック図である。
【図10】案内情報テーブルTB1のデータ構造の説明図である。
【図11】提示部308に提示された案内情報の説明図である。
【図12】第2実施形態の音響処理装置200のブロック図である。
【図13】第3実施形態の音響処理装置200のブロック図である。
【図14】変形例における再生システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
第1実施形態の音声案内システム1の概要について説明する。以下の説明では、第1実施形態の音声案内システム1を公共交通機関の車内放送に利用した構成を例示する。音声案内システム1では、路線バスの利用者に対して案内情報(乗降案内,運賃情報,観光案内,周辺情報等)を表す案内音声(対象音)が提供される。
【0014】
図1は、第1実施形態の音声案内システム1の構成図である。音声案内システム1は、再生システム100と音響処理装置200と端末装置300とを含んで構成される。再生システム100および音響処理装置200は、路線バスの車輌C内に設置される。
【0015】
再生システム100は、相異なる複数の案内音声の各々に対応する識別情報を含む周波数帯域B1の音響を当該案内音声とともに車輌C内に放音する。車輌Cに乗車する利用者は音声案内を聴取する。他方、音響処理装置200は、再生システム100が放音する音響から識別情報を抽出し、当該識別情報を含む周波数帯域B2の音響を放音する。周波数帯域B1と周波数帯域B2とは相違する。すなわち、音響処理装置200は、識別情報を含む音響の周波数帯域を変換する信号処理装置である。
【0016】
端末装置300は、車輌Cに乗車する利用者が携行する可搬型の通信端末(例えば携帯電話機やスマートフォン)であり、音響処理装置200が放音する音響から案内音声の識別情報を抽出し、当該識別情報に対応する案内情報を案内情報サーバー500から通信網(例えば移動通信網やインターネット)400を介して受信する。案内情報は、案内音声による案内に関連する情報であり、例えば、利用案内(施設案内,運賃案内等),交通案内(乗降案内,乗換案内等),案内対象の地点の付近の観光案内(観光施設,宿泊施設,名所旧跡等の周辺案内等)の文字列や画像(静止画または動画),案内音声を表す文字列(例えば難聴者が視覚的に案内を確認するための文字列),案内音声による案内を他言語に翻訳した音声や文字列が、案内情報として端末装置300に提供されて再生(放音または表示)される。音声案内システム1の各要素の詳細を以下に説明する。
【0017】
<再生システム100>
図1に例示される通り、再生システム100は、操作部110と再生処理装置120と放音装置130とを含んで構成される。操作部110は、路線バスの運転手OPからの指示を受付ける入力装置である。車輌Cが任意の停留所に接近するたびに、運転手OPは、操作部110を適宜に操作することで、当該停留所に関する案内音声の再生を指示することが可能である。再生処理装置120は、相異なる複数の案内音声のうち運転手OPが操作部110に対する操作で指示した案内音声と、当該案内音声の識別情報を含む音響との混合音を表す音響信号(以下「再生信号」という)A2を生成する。放音装置130(例えばスピーカ)は、再生処理装置120が生成した再生信号A2に応じた音響を放音する。なお、図1では1個の放音装置130のみが図示されているが、実際には車輌C内に複数の放音装置130が設置されて再生処理装置120から各々に再生信号A2が並列に供給される。
【0018】
図2は、再生システム100の構成を示すブロック図である。第1実施形態の再生処理装置120は、図2に例示される通り、制御部102と信号合成部104と記憶部106とフィルタ108とを含んで構成される。記憶部106は、例えば半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の記録媒体で構成され、車輌Cが停車する地点(停留所)毎に、当該地点に関連する案内音声を表す音響信号(以下「対象信号」という)AG(AG1,AG2,……)と当該地点に関連する案内情報の識別情報D(D1,D2,……)とを記憶する。なお、対象信号AGと識別情報Dとは、再生処理装置120の記憶部106に記憶される構成に限られるものではない。例えば再生処理装置120が外部装置(サーバ装置)と通信を実行することにより外部装置から対象信号AGと識別情報Dとを受信する構成としてもよい。
停留所には、路線バスの走行区間の経路上に存在する停留所の他、乗降地点となる場所(例えば、公共交通機関の駅、空港、任意の公道上の地点)が含まれ得る。識別情報Dは、案内情報を識別するための固有の符号であり、車輌Cが停車する地点(停留所)毎に設定される。例えば、相異なる案内情報の間で相互に重複しないように公知の方法で生成された乱数の系列が識別情報Dとして案内情報毎に設定される。
【0019】
図2の制御部102は、車輌Cの停留所への接近にともない操作部110が運転手OPから受付けた再生指示に応じて、当該停留所に対応する案内音声の対象信号AGと識別情報Dとを記憶部106から読み出して信号合成部104に供給する。信号合成部104は、識別情報Dを対象信号AGに重畳することで再生信号A1を生成する。対象信号AGに対する識別情報Dの重畳(音響透かし)には公知の方法が任意に採用され得るが、例えば国際公開第2010/016589号に開示された方法が好適である。
【0020】
図3は、信号合成部104の構成を示すブロック図である。図3に例示される通り、信号合成部104は変調処理部1042と混合処理部1044とを包含する。変調処理部1042は、拡散符号を利用した識別情報Dの拡散変調と所定の周波数の搬送波を利用した周波数変換とを順次に実行することで、識別情報Dを特定の周波数帯域の音響成分として含有する音響信号(以下「変調信号」という)ADを生成する。変調信号ADの周波数帯域は、放音装置130による放音と、音響処理装置200による収音とが可能な周波数帯域であり、かつ、利用者が通常の環境で聴取する音響(音声や楽音)の周波数帯域(例えば可聴域内の約16kHz以下)の範囲内に包含される。混合処理部1044は、制御部102から供給された対象信号AGと、変調処理部1042によって生成された変調信号ADとを混合(典型的には加算)することで再生信号A1を生成する。
【0021】
図2のフィルタ108は、再生信号A1のうち高域側の周波数成分を抑圧することで再生信号A2を生成する低域通過フィルタ(LPF)である。図4は、第1実施形態のフィルタ108の特性図である。エンジン音や振動音等の雑音が到来する車輌Cの内部でも利用者に案内音声が明瞭に知覚されるように、フィルタ108は、図4に例示される通り、再生信号A1のうち高域側(例えば18kHz以上かつ20kHz以下)の周波数帯域の成分を抑圧し、案内音声に対応した低域側の周波数帯域B1(例えば可聴域内の約16kHz以下)の成分を維持する。周波数帯域B1は、放音装置130による放音と音響処理装置200による収音とが可能な周波数帯域であり、かつ、利用者が通常の環境で聴取する音響(音声や楽音)の周波数帯域(例えば可聴域内の約16kHz以下)の範囲内に包含される。識別情報Dを含む変調信号ADの周波数帯域bは、フィルタ108の通過帯域(周波数帯域B1)に包含される。以上の説明から理解される通り、対象信号AGおよび変調信号ADの周波数帯域B1はフィルタ108を通過する帯域に設定される。
【0022】
図5(a)は、再生信号A2の音響が放音される時間長と、再生信号A2が包含する変調信号ADが表す音響(以下「通知音」という)および対象信号AGの音響(案内音声)の時間長との説明図である。再生信号A2の音響は時間長T1に亘って放音される。図5(a)に例示される通り、識別情報Dを含む変調信号ADの通知音は、再生信号A2の開始から時間長TDに亘り、再生信号A2の音響が放音される時間長T1に包含される。対象信号AGが表す案内音声は、変調信号ADの音響が放音された直後から時間長TGに亘って放音される。変調信号ADが表す通知音は、車輌C内の各利用者の注意を喚起する聴覚的に自然な音響(例えば「ピンポーン」等の案内用の音響)である。通知音の時間長TDは、案内音声の時間長TGと比較して充分に短い時間(例えば1秒から2秒程度)に設定される。
【0023】
図6は、本実施形態の再生処理装置120の概略的な動作のフローチャートである。例えば、車輌Cの停留所への接近にともない、運転手OPから操作部110を介して案内音声の再生指示が受付けられると(SA1)、制御部102は、当該再生指示に応じた地点に対応する案内音声の対象信号AGおよび識別情報Dを記憶部106から読み出して信号合成部104に供給する(SA2)。信号合成部104は、制御部102から供給される案内音声の対象信号AGと、制御部102から供給される識別情報Dとを含む変調信号ADとの混合で再生信号A1を生成する(SA3)。フィルタ108は、信号合成部104が生成した再生信号A1のうち周波数帯域B1を抽出することで再生信号A2を生成する(SA4)。放音装置130は、フィルタ108による処理後の再生信号A2に応じた音響を放音する(SA5)。
【0024】
<音響処理装置200>
図7は、音響処理装置200の構成を示すブロック図である。第1実施形態の音響処理装置200は、再生システム100の放音装置130の近傍(例えばスピーカーネットの表面)に設置された音響機器であり、図7に例示される通り、収音装置202と情報抽出部206と記憶部208と信号処理部210と放音装置214とを含んで構成される。収音装置202は、再生システム100の放音装置130から放音される再生信号A2の再生音を収音して第1音響信号S1を生成する。以上の説明から理解される通り、第1音響信号S1は、識別情報Dを含む変調信号ADの音響成分(通知音)と案内音声の音響成分とを周波数帯域B1に含有する。第1実施形態では、音響処理装置200が放音装置130の近傍に配置されるから、第1音響信号S1は雑音の影響を受けにくい。
【0025】
図7の情報抽出部206および信号処理部210は、例えば記憶部208に記憶されたプログラムを演算処理装置(CPU)が実行することで実現される。情報抽出部206は、収音装置202が生成した第1音響信号S1の復調で識別情報Dを抽出する。具体的には、情報抽出部206は、第1音響信号S1のうち識別情報Dを含む周波数帯域bの帯域成分を例えば帯域通過フィルタで選択し、識別情報Dの拡散変調に利用された拡散符号を係数とする整合フィルタを通過させることで識別情報Dを抽出する。第1実施形態では、音響処理装置200が、放音装置130の近傍に配置されるから、通知音の時間長TDが案内音声の時間長TGと比較して充分に短い時間に設定されても識別情報Dを精度良く抽出することが可能である。情報抽出部206により抽出された識別情報Dは記憶部208(メモリ)に格納される。以上の説明から理解される通り、空気振動としての音響(音波)を伝送媒体とする音響通信で再生システム100から音響処理装置200に識別情報Dが通知される。
【0026】
信号処理部210は、情報抽出部206が抽出した識別情報Dを記憶部208から読み出して、拡散符号を利用した識別情報Dの拡散変調と所定の周波数の搬送波を利用した周波数変換とを順次に実行することで、識別情報Dを高域側の周波数帯域B2の音響成分として含有する第2音響信号(変調信号)S2を生成する。放音装置214は、信号処理部210が生成した第2音響信号S2に応じた音響を放音する。なお、図7では、再生信号A2をアナログからデジタルに変換するA/D変換器や、第2音響信号S2をデジタルからアナログに変換するD/A変換器の図示は便宜的に省略されている。
【0027】
図4に例示される通り、第2音響信号S2の周波数帯域B2は、第1音響信号S1の周波数帯域B1とは相違する。すなわち、第2音響信号S2の周波数帯域B2は、第1音響信号S1の周波数帯域B1を上回る。具体的には、周波数帯域B2は、放音装置214による放音と端末装置300による収音とが可能な周波数帯域であり、且つ、利用者が通常の環境で聴取する音声や楽音等の音響の周波数帯域(例えば可聴域内の約16kHz以下)を上回る周波数帯域(例えば18kHz以上かつ20kHz以下)の範囲内に包含される。したがって、識別情報Dを含む第2音響信号S2の再生音は端末装置300の利用者に殆ど知覚されない。すなわち、利用者により案内音声の聴取に影響することなく音響通信により識別情報Dを端末装置300に送信することが可能である。以上の説明から理解される通り、第1実施形態では、再生信号A2の周波数帯域B1とは相違する周波数帯域B2の音響成分として識別情報Dを含有する第2音響信号S2が生成されるから、再生システム100(フィルタ108)において案内音声の周波数帯域B1を強調するために周波数帯域B2を抑圧する構成でも、周波数帯域B2を利用した音響通信により識別情報Dを各端末装置300に通知することが可能である。
【0028】
図5(b)は、第2音響信号S2の説明図である。図5(b)に例示される通り、第1実施形態の信号処理部210は、時間軸上の相異なる区間に反復的に識別情報Dが付加された第2音響信号S2を生成する。第2音響信号S2が表す音響は、放音装置130が放音した音響から情報抽出部206が識別情報Dを抽出してから時間長T2に亘り継続的に放音される。すなわち、識別情報Dは時間長T2に亘り反復的に音響通信で各端末装置300に通知される。
【0029】
図5(a)と図5(b)との対比で把握される通り、音響処理装置200の放音装置214が第2音響信号S2に応じた音響を放音する時間長T2は、再生システム100の放音装置130が変調信号ADの通知音を放音する時間長TDよりも長い。識別情報Dを含む可聴域の通知音が過度に長時間に亘り放音されると、利用者が違和感や不快感を知覚する可能性がある。第1実施形態では、周波数帯域B1の通知音の放音は時間長TDに制限されるから、通知音が過度に長いことに起因した違和感や不快感を利用者が知覚する可能性は低減される。他方、音響処理装置200の信号処理部210は、利用者が殆ど知覚できない周波数帯域B2の音響を利用した音響通信で識別情報Dを送信するから、利用者に違和感や不快感を知覚させることなく、識別情報Dを各端末装置300に通知することが可能である。また、識別情報Dは時間長TDを上回る時間長T2に亘り反復的に音響処理装置200から送信(放音)されるから、例えば雑音成分の混在により第2音響信号S2の一部の識別情報Dが抽出できない場合でも他の区間の識別情報Dを端末装置300が再取得できるという利点がある。
【0030】
他方、対象信号AGの音響(案内音声)が放音される時間長TGとの関係では、第2音響信号S2の時間長T2は任意に設定され得る。第2音響信号S2の時間長T2が対象信号AGの時間長TGよりも長い構成(T2>TG)や、第2音響信号S2の時間長T2が対象信号AGの時間長TGよりも短い構成(T2<TG)や、第2音響信号S2の時間長T2が対象信号AGの時間長TGと等しい構成(T2=TG)のいずれもが好適に採用され得る。第2音響信号S2の音響は利用者による案内音声の聴取には影響しないから、図5に例示される通り、第2音響信号S2の音響が放音される時間長T2と、対象信号AGの音響(案内音声)が放音される時間長TGとは相互に重複する構成としても良い。
【0031】
図8は、音響処理装置200の概略的な動作のフローチャートである。例えば、識別情報Dを包含する変調信号ADと対象信号AGとを含有する再生信号A2の再生音が放音装置130から放音されると、図8の処理が開始される。収音装置202は、放音装置130から放音された再生音を収音して第1音響信号S1を生成する(SB1)。情報抽出部206は、第1音響信号S1から識別情報Dを抽出する(SB2)。信号処理部210は、識別情報Dを含む第2音響信号S2を生成する(SB3)。放音装置214は、第2音響信号S2に応じた音響(音波)を放音する(SB4)。
【0032】
<端末装置300>
図9は、端末装置300の構成を示すブロック図である。図9に例示される通り、端末装置300は、収音装置302と特定部304と取得部306と提示部308とを具備する。収音装置302は、周囲の音響を収音する音響機器(マイクロホン)であり、音響処理装置200の放音装置214から放音された音響を収音し、当該音響の時間波形を表す音響信号(以下「収音信号」という)Xを生成する。収音信号Xは、識別情報Dの音響成分を含有する。なお、収音装置302が生成した収音信号Xをアナログからデジタルに変換するA/D変換器の図示は便宜的に省略されている。
【0033】
特定部304は、収音装置302が生成した収音信号Xの復調で案内情報の識別情報Dを抽出する。具体的には、特定部304は、収音信号Xのうち識別情報Dを含む周波数帯域B2の帯域成分を例えば高域通過フィルタで強調し、識別情報Dの拡散変調に利用された拡散符号を係数とする整合フィルタを通過させることで識別情報Dを抽出する。
【0034】
取得部306は、通信網400(図1参照)を介して案内情報サーバー500と通信する通信機器である。端末装置300と案内情報サーバー500との間の通信の方式は任意であるが、典型的には、音響処理装置200から端末装置300に識別情報Dを通知するための音響通信とは相違する無線通信(例えば電波や赤外線を伝送媒体とする情報通信)が採用される。取得部306は、特定部304が収音信号Xから抽出した識別情報Dを含む情報要求Rを案内情報サーバー500に送信する一方、情報要求Rに応じて案内情報サーバー500から送信された案内情報Gを受信する。
【0035】
案内情報サーバー500は、図10の案内情報テーブルTB1を保持する。案内情報テーブルTB1は、識別情報D(D1,D2,……)と案内情報G(G1,G2,……)とを対応付ける。案内情報サーバー500は、識別情報Dを含む情報要求Rを端末装置300から受信すると、案内情報テーブルTB1のうち情報要求R内の識別情報Dに対応付けられた案内情報Gを読み出すとともに情報要求Rの送信元の端末装置300に当該案内情報Gを送信する。図9の提示部308は、取得部306によって取得された案内情報Gを例えば表示装置に表示させて利用者に提示する。
【0036】
図11は、提示部308による案内情報Gの表示例の説明図である。図11では、案内音声の発音内容の文字列として端末装置300の提示部308に提示された案内情報Gが例示される。図11に例示される通り、利用者は提示部308に提示された案内情報G(図の例では乗降情報)を視覚的に確認することが可能である。以上の説明から理解される通り、利用者は、再生システム100の放音装置130から放音された案内音声を聴取する一方で、提示部308に提示された案内情報Gを視覚的に確認することが可能になる。以上の構成によれば、案内情報Gを視覚的および聴覚的に利用者に判りやすく提供することが可能になる。また、難聴者(聴覚障碍者)が案内音声の内容を確認できるという利点もある。
【0037】
第1実施形態では、音響処理装置200は収音装置202と放音装置214とを具備し、再生システム100の放音装置130から放音された再生信号A2を収音装置202で収音する一方、収音信号X(第1音響信号S1)に応じて生成した第2音響信号S2を放音装置214により放音する。以上の構成によれば、再生システム100に、再生信号A2のうち識別情報Dを含む音響成分を周波数帯域B1から周波数帯域B2に変換する仕組み(信号処理部210)を追加する変更を加えず、再生処理装置120の近傍に音響処理装置200を設置することで、周波数帯域B2を利用した音響通信により識別情報Dを端末装置300に通知できるという利点がある。
【0038】
なお、前述の説明では、再生システム100のフィルタ108が高域側の周波数帯域B2を抑圧する場合を例示したが、放音装置130から放音される音響において周波数帯域B2が抑圧される原因はフィルタ108の処理に限定されない。例えば、フィルタ108が存在しない構成でも、例えば周波数帯域B2を含む高音域の音響を放音し難い音響特性の放音装置130を利用した場合には、放音装置130から放音される音響において周波数帯域B2が抑圧される可能性がある。周波数帯域B2を放音可能な放音装置を利用することも可能ではあるが、路線バス等の車輌Cに設置された全ての既存の機器を改修することは現実的には困難である。また、対象信号AGのサンプリング周波数が低いため周波数帯域B2を再生対象に含まない場合にも周波数帯域B2が抑圧され得る。周波数帯域B2が抑圧される原因の如何に関わらず、第1実施形態の音響処理装置を適用することで、周波数帯域B2を利用した音響通信で識別情報Dを送信できるという前述の効果は実現される。
【0039】
第2音響信号S2に応じた音響は、変調信号ADの音響が放音される時間長TDを上回る時間長T2に亘って放音される。識別情報Dを含む通知音が例えば案内音声と比較して過度に長い場合には、利用者が聴感的に違和感や不快感を知覚する可能性がある。第1実施形態では、識別情報Dを含む通知音が放音される時間長TDは、第2音響信号S2の時間長T2よりも短くなるように構成されるから、聴感的な不自然さや不快感が利用者に付与される事態を低減することが可能である。
【0040】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0041】
図12は、第2実施形態の再生システム100の構成を示すブロック図である。第1実施形態では、再生システム100の放音装置130の近傍に音響処理装置200を設置した場合を例示した。図12に例示される通り、第2実施形態では、再生システム100のうち再生処理装置120と放音装置130との間の信号線上に音響処理装置200が設置される。
【0042】
図12から把握される通り、第2実施形態の音響処理装置200は、第1実施形態の収音装置202と放音装置214とを省略した構成である。第2実施形態では、再生処理装置120のフィルタ108により周波数帯域B2が抑圧された再生信号A2が音響処理装置200の情報抽出部206に供給される。音響処理装置200の情報抽出部206は、第1実施形態と同様の方法により再生信号A2(第1音響信号)から識別情報Dを抽出する。他方、信号処理部210は、第1実施形態と同様の方法で、情報抽出部206が抽出した識別情報Dを高域側の周波数帯域B2の音響成分として含有する第2音響信号S2を生成する。信号処理部210によって生成された周波数帯域B2の第2音響信号S2は放音装置130から放音される。端末装置300は、放音装置130による再生音から識別情報Dを抽出して案内情報Gを取得する。以上の構成では、音響処理装置200に収音装置202や放音装置214を設ける必要がないから、第1実施形態と比較して装置構成を簡略化できるという利点がある。なお、第1実施形態では、再生処理装置120から放音された通知音を音響処理装置200にて確実に収音できる程度に変調信号ADの音量を確保する必要がある。第2実施形態では、再生処理装置120と音響処理装置200とが有線で接続されるから、第1実施形態と比較して変調信号ADの音量を極力小さくすることが可能である。なお、第1実施形態では、変調信号ADが表す通知音が実際に放音されるから、通知音は聴覚的に自然な音響である必要があるが、第2実施形態では以上のように変調信号ADに必要な音量が低減されるから、聴感的に自然な音響である必要はないという利点もある。
【0043】
<第3実施形態>
第1実施形態の音響処理装置200は、音響を伝送媒体とした音響通信により識別情報Dを端末装置300に送信したが、識別情報Dを端末装置300に通知する通信の方式は音響通信に限定されない。第3実施形態の音響処理装置200は、赤外線や電波を含む電磁波を利用した無線通信(例えば近距離無線通信)で端末装置300に識別情報Dを通知する。
【0044】
図13は、第3実施形態の音響処理装置200の構成を示すブロック図である。図13では、第1実施形態の放音装置214が送信部216に置き換えられる。送信部216は、信号処理部210によって生成された第2周波数帯域の第2音響信号S2を示す電磁波を送信する通信機器である。端末装置300の特定部304は、音響処理装置200から受信した受信信号に包含される識別情報Dを抽出し、識別情報Dを含む情報要求Rを案内情報サーバー500に送信することで案内情報Gを受信する。以上の構成によっても、実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0045】
なお、第3実施形態の構成では、送信部216から送信された電波や赤外線を受信するための受信機器を端末装置300が具備する必要がある。他方、第1実施形態や第2実施形態では、識別情報Dが音響通信で端末装置300に通知されるから、音声通話や動画収録に使用される収音装置302を識別情報Dの受信に流用でき、送信部216の通信方式に対応した専用の受信機器が不要であるという利点がある。
【0046】
<変形例>
以上に例示した各態様は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2個以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0047】
(1)前述の各形態の再生システム100では、記憶部106に事前に記憶された対象信号AGと識別情報Dとを利用して信号合成部104が再生信号A1を生成する構成を例示したが、再生信号A1を事前に用意することも可能である。
【0048】
図14は、変形例の再生システム100の構成を示すブロック図である。図14の再生システム100では、前述の各形態で例示した信号合成部104が省略され、対象信号AG(案内音声)と識別情報Dの通知音との混合音を示す再生信号A1(A1-1,A1-2,……)が停留所の地点毎に記憶部106に事前に格納される。記憶部106に記憶される各再生信号A1は、前述の各形態の信号合成部104による処理と同様の方法で事前に生成される。制御部102は、運転手OPからの指示に応じた再生信号A1を記憶部106から取得してフィルタ108に供給する。以上の構成によれば、信号合成部104を再生システム100に設置する必要がないから、再生システム100の構成が簡素化される(あるいは信号合成部104が存在しない既存のシステムを流用できる)という利点がある。
【0049】
(2)第1実施形態では、変調信号AD(通知音)と対象信号AG(案内音声)とが時間軸上で重複しない構成(図5(a))を例示したが、変調信号ADと対象信号AGとを時間軸上で重複させることも可能である。例えば対象信号AGの冒頭部分に変調信号ADを含有させた構成が採用される。ただし、変調信号ADを周波数帯域B1の通知音として放音した場合には対象信号AGの案内音声の聴取が阻害される可能性がある。そこで、利用者が聴取可能な通知音を利用せずに、受聴者が殆ど知覚できない方法で変調信号AD(識別情報D)を対象信号AGに混合する構成が好適である。例えば、音響透かしやフィンガープリントの技術が、音響信号AGに対する識別情報Dの重畳や抽出に採用され得る。
【0050】
(3)前述の各形態では、路線バスの音声案内システム1に音響処理装置200を適用したが、音響処理装置200が適用される場面は以上の例示に限定されない。例えば、他の公共交通機関や電車における車内放送システムや、展示施設における再生システムに適用される構成も好適に採用され得る。例えば、展示施設における再生システムで、展示物の説明を案内する案内音声の対象信号AGに識別情報Dが重畳された再生音が生成されたうえで、音響処理装置200に収音される。端末装置300を携行した利用者が任意の作品に近づくと、案内音声とともに識別情報Dが重畳された第2音響信号S2が放音される。利用者が携行する端末装置300は、識別情報Dを含む情報要求Rに応じて案内情報サーバー500から提供される案内情報Gを表示(または放音)することで案内情報を確認することが可能である。
【0051】
(4)前述の各形態では、利用者に提供される案内音声の文字列を案内情報Gとして例示したが、案内情報Gの内容は以上の例示に限定されない。例えば、公共交通機関や施設の案内(利用案内,施設案内,料金案内等),交通案内(駅情報,乗換案内等),案内対象の地点の付近の観光案内(観光施設,宿泊施設,名所旧跡等の周辺案内等)の文字列や画像(静止画または動画),案内音声を表す文字列(例えば難聴者が視覚的に案内を確認するための文字列),案内音声による案内を他言語に翻訳した音声や文字列が、案内情報Gとして端末装置300に提供され得る。なお、案内情報Gとして観光情報が利用者に提供される構成では、観光施設や宿泊施設で利用可能なクーポン等が案内情報Gとともに提示部308に提示される構成としてもよい。
【0052】
(5)実施形態では、端末装置300の取得部306は、通信網400を介して案内情報サーバー500と通信し、識別情報Dを含む情報要求Rを案内情報サーバー500に送信する一方、情報要求Rに応じて案内情報サーバー500から送信された案内情報Gを受信する構成を例示したが、端末装置300における案内情報Gの取得の方法は以上の例示に限定されない。例えば、端末装置300の記憶装置に案内情報テーブルTB1を格納し、識別情報Dに対応する案内情報Gを取得部306が記憶装置から取得してもよい。
【0053】
(6)実施形態では、再生システム100と音響処理装置200と端末装置300と案内情報サーバー500とを各々単体の装置として包含する音声案内システム1を例示したが、音声案内システム1の装置構成は以上の例示に限定されない。例えば、変形例(4)のように端末装置300側で案内情報サーバー500の機能を包含する構成や、第2実施形態で例示されるように再生システム100と音響処理装置200とが単体の装置に包含される構成も好適に採用され得る。
【0054】
(7)前述の各形態では、路線バスの利用者を対象とした乗降案内を表す案内音声の再生を例示したが、再生システム100の放音装置130が放音する音響の種類は案内音声に限定されない。例えば、音楽等の各種の音響を再生する場合にも前述の各形態は採用され得る。以上の説明から理解される通り、前述の各形態の再生信号A2,第1音響信号S1は、再生対象となる音響(対象音)を示す信号として包括的に表現される。
【0055】
100……再生システム、102……制御部、104……信号合成部、106……記憶部、108……フィルタ、110……操作部、130……放音装置、1042……変調処理部、1044……混合処理部、200……音響処理装置、202……収音装置、206……情報抽出部、208……記憶部、210……信号処理部、214……放音装置、300……端末装置、302……収音装置、304……特定部、308……提示部、500……案内情報サーバー。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1期間にわたる対象音と、当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み、時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる可聴域の音響成分とを含む音を放音装置に放音させることで、当該識別情報を、通知された識別情報に対応する前記情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する再生システム。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
再生システムが、
第1期間にわたる対象音と、当該対象音の内容を表す情報の識別情報を含み、時間軸上で前記第1期間に重複しない第2期間にわたる可聴域の音響成分とを含む音を放音装置に放音させることで、当該識別情報を、通知された識別情報に対応する前記情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する
情報提供方法。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-04 
出願番号 特願2017-152039(P2017-152039)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H04B)
P 1 651・ 851- YAA (H04B)
P 1 651・ 113- YAA (H04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 後澤 瑞征  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 吉田 隆之
中野 浩昌
登録日 2017-10-27 
登録番号 特許第6231244号(P6231244)
権利者 ヤマハ株式会社
発明の名称 再生システムおよび情報提供方法  
代理人 大林 章  
代理人 高橋 太朗  
代理人 高橋 太朗  
代理人 大林 章  
代理人 高田 聖一  
代理人 高田 聖一  
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