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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1352281
異議申立番号 異議2018-700778  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-27 
確定日 2019-04-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6302366号発明「ナトリウムを含有する容器詰め飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許6302366号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。 特許第6302366号の請求項1、2、4及び5に係る特許を維持する。 特許第6302366号の請求項3に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6302366号の請求項1ないし5に係る特許は、平成26年6月23日に出願され、平成30年3月9日にその特許権の設定登録がされ、平成30年3月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年9月27日に特許異議申立人 小寺 茂(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年11月14日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成31年1月11日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。
その後、当審は、平成31年1月17日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を行い、異議申立人に対して相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、何らの応答もなかった。

第2 訂正の請求
1 訂正の内容
平成31年1月11日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項よりなる。(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ラウリン酸の含有量が0.300?2.00ppmであり、ナトリウムの含有量が130?600ppmである容器詰め飲料」とあるのを、
「ラウリン酸の含有量が0.300?2.00ppmであり、ナトリウムの含有量が130?600ppmであり、ラウリン酸がココナッツウォーターとして配合される容器詰め飲料」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4が引用する請求項につき、「請求項1?3のいずれか一項に記載の」とあるのを、「請求項1または2に記載の」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5が引用する請求項につき、「請求項1?4のいずれか一項に記載の」とあるのを、「請求項1、2、または4に記載の」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載における「ラウリン酸」に対して、「ココナッツウォーターとして配合される」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3、及び特許明細書の段落【0019】及び【0020】に記載されたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのように訂正前の請求項1における記載をさらに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項3を削除するというものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アに記載したとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項3を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項3を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項4が引用する請求項につき、「請求項1?3のいずれか一項に記載の」とあるのを、「請求項1または2に記載の」と訂正することにより特許請求の範囲の請求項4の引用請求項数を削減するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アに記載したとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項4の引用請求項数を削減するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項4の引用請求項数を削減するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項5が引用する請求項につき、「請求項1?4のいずれか一項に記載の」とあるのを、「請求項1、2、または4に記載の」と訂正することにより特許請求の範囲の請求項5の引用請求項数を削減するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アに記載したとおり、訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項5の引用請求項数を削減するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項5の引用請求項数を削減するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 一群の請求項について
訂正事項1ないし4に係る訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5はそれぞれ請求項1を直接または間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
そして、本件訂正は、訂正前の請求項〔1ないし5〕という一群の請求項について請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件訂正発明について
本件訂正の請求により訂正された請求項1、2、4及び5に係る発明(以下それぞれ、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」、「本件訂正発明4」及び「本件訂正発明5」という。また、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)

「【請求項1】
ラウリン酸の含有量が0.300?2.00ppmであり、ナトリウムの含有量が130?600ppmであり、ラウリン酸がココナッツウォーターとして配合される容器詰め飲料。
【請求項2】
ラウリン酸の含有量とナトリウムの含有量比がラウリン酸:ナトリウム=1:100?1:2000である、請求項1の容器詰め飲料。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
糖の含有量がBrix値として12以下である、請求項1または2に記載の容器詰め飲料。
【請求項5】
殺菌処理された、請求項1、2、または4に記載の容器詰め飲料。」

2 取消理由の概要
取消理由の概要は以下のとおりである。

[理由]本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、及び甲第5号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

<甲号証一覧>
・甲第1号証:特開2014-79225号公報(以下、「甲1」という。)
・甲第2号証:特開2009-136187号公報(以下、「甲2」という。)
・甲第3号証:国際公開第01/97624号パンフレット(以下、「甲3」という。)
・甲第4号証:文部科学省 科学技術・学術審議会 資源調査分科会、「日本食品標準成分表2010」、全国官報販売協同組合、平成22年12月3日、p.210-211 (以下、「甲4」という。)
・甲第5号証:文部科学省 科学技術・学術審議会 資源調査分科会、「五訂増補 日本食品標準成分表 脂肪酸成分表編」、独立行政法人 国立印刷局、平成17年3月22日、p.116-117(以下、「甲5」という。)
・甲第6号証:武政睦子ほか2名、「市販飲料類のナトリウム,カリウム,カルシウムおよびマグネシウム含有量の実態について」、川崎医療福祉学会誌、2008年、第18巻 、第1号、p.305-314(以下、「甲6」という。)

3 甲各号証の記載
(1)甲1
本件特許の出願前に頒布された甲1には「酸性乳性濃縮飲料」に関して次の記載がある(なお、下線は理解の一助のために当審が付与した。)。

ア 甲1の記載
1a)「【請求項1】
希釈して飲用する濃縮飲料であって、酸性乳、HMペクチン及び塩化ナトリウムを含み、pHが3.5以下である、酸性乳性濃縮飲料。
【請求項2】
更に、フィチン酸を含む請求項1記載の濃縮飲料。
【請求項3】
Brix値が18?55である請求項1又は2記載の濃縮飲料。
【請求項4】
塩化ナトリウムの含有割合が、0.01?1.0重量%である請求項1?3のいずれかに記載の濃縮飲料。」

1b)「【0023】
実施例2?8、比較例2及び参考例1
10%還元脱脂粉乳を、乳酸菌を用いて37℃、22時間発酵させ、得られた発酵乳をホモジナイザーで均質化した。均質化した発酵乳330gに対し、グラニュ糖480gを加えて溶解した。この溶液に6gの6倍濃縮シークワーサー果汁を混合溶解し、3重量%のHMペクチン(商品名YM-115-LJ、三晶株式会社製)溶液60gを添加した後、均一になるように攪拌した。次いで50%フィチン酸1g、および表1又は表2に示す配合となるよう、10重量%塩化ナトリウム(NaCl)溶液(実施例2?8)、10重量%塩化カリウム(KCl)溶液(参考例1)を添加した後、香料およびカロチン色素を添加した。尚、NaCl及びKClのいずれも添加しない例を比較例2とした。次に、50重量%クエン酸溶液を用いてpHを2.8に調整し、香料およびカロチン色素を添加し、最後にイオン交換水を用いてBxを50に調整し、全量を900gとした。
その後に均質化処理を行い、加熱殺菌した後に、100ml透明ガラス瓶に充填し、水冷して酸性乳性濃縮飲料を製造した。製品特性値は、Bx50、pH2.8、乳酸酸度2.0重量%、SNF(無脂乳固形分)3.0であった。
【0024】
得られた実施例2?6、比較例2及び参考例1の各濃縮飲料のゲル化判定を以下の方法で行った。結果を表2に示す。また、実施例2、7及び8、比較例2で調製した酸性乳性濃縮飲料について以下に示す風味試験を行った。結果を表3に示す。
<ゲル化の判定>
各濃縮飲料を20℃で30日間静置保存後に、目開き150μmのメッシュ(Φ50×20H)で受けて3分間保持し、メッシュを通過した量の、全量に対する重量%をメッシュ通過率として求めた。
<風味試験>
製造直後の各濃縮飲料を純水で5倍に希釈して、5人のパネルにより風味を評価し、その平均点を結果とした。尚、評価は、以下の基準で行った。
4点:爽やかさがかなりある、3点:爽やかさがある、2点:爽やかさがややある、1点:爽やかさがわずかにある、0点:爽やかさがない。」

1c)「【0026】



(2)甲2
本件特許の出願前に頒布された甲2には、「飲料の退色防止法」に関して次の記載がある。

ア 甲2の記載
2a)「【0006】
本発明は、天然色素含有飲料に鉄イオンを含有させることを含む、天然色素含有飲料の退色、例えば光酸化による退色を防止する方法である。また、本発明は鉄イオンを含有する、光酸化による退色が防止された天然色素含有飲料でもある。
本発明において、鉄イオンの濃度は0.1ppm以上、好ましくは1ppm以上、特に0.1?100ppm、好ましくは1?100ppm、特に好ましくは10?100ppmである。
また、本発明において、前記天然色素はアントシアニン系色素、フラボノイド系色素(例えばベニバナ由来の色素、特にベニバナ黄色素)、またはクチナシ由来の色素(例えばクチナシ青色色素)である。本発明において、前記天然色素は、特にアカキャベツ色素、アカダイコン色素、ムラサキイモ色素、ベニバナ黄色素またはクチナシ青色素である。
また、本発明において、前記天然色素含有飲料のpHは3.0?4.5である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、天然色素を含有する飲料、例えば有色の天然果汁を含む飲料および天然色素で着色された飲料の退色を長期にわたって防止することができる。本発明により退色を防止された飲料は、流通過程での保管が容易であり、色のついた飲料を好む消費者のニーズにも合致する。また、退色防止のために多量の色素を含有させる必要がないため、従来事実上困難であった色の薄い(淡い色の)飲料(例えば色の薄い果汁飲料や淡い色に着色した果汁配合の乳性飲料)を製造および販売することも可能となる。本発明において、鉄イオンを含有させることにより天然色素で着色された飲料の色調は少なくとも目視で判断する限り変化しないので、天然色素含有飲料を変色させることなく極めて簡便に天然色素含有飲料の退色を防止することができる。本発明によれば、特に透明プラスチック容器、たとえばPETボトルに収納されて保管または販売される天然色素含有飲料の退色を効果的に防止することができる。また本発明の天然色素含有飲料は無色透明プラスチック容器または色の薄い透明容器、たとえば透明PETボトルに収納されて保管または販売される場合に特に有効である。」

2b)「【0013】
各鉄イオン濃度における退色防止効果
果糖ブドウ糖液糖(最終濃度12.5%)、脱脂粉乳(最終濃度0.7%)、ダイズ多糖類(最終濃度0.13%)、クエン酸(最終濃度0.2%)、クエン酸3ナトリウム(最終濃度0.015%)、ヤマモモ抽出物(最終濃度40ppm)、アカキャベツ色素(最終濃度0.2%)、およびピロリン酸第二鉄を鉄イオンの最終濃度が表1に示す各濃度となるように蒸留水へ添加し、得られた混合物を95℃にて殺菌後、PETボトルに充填して評価用試料を作製した。」

イ 甲2技術
上記アからみて、甲2には次の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されている。

「天然色素含有飲料を、PETボトルに充填して保管または販売する技術。」

(3)甲3
本件特許の出願前に頒布された甲3は、「酸性乳性飲料」に関して次の記載がある。

ア 甲3の記載
3a)「実施例2及び比較例2
脱脂粉乳135gを水1365gに溶解し還元乳を得、グラニュ糖1470g、20%結晶クエン酸溶液136.8gを加えpHを3.5に調整した。次いで、レモン香料15gと、水11kgとを加え、調合液を調製した。この調合液を三等分し、それぞれにルチン(東洋精糖(株)製、 商品名「αGルチン」)、クロロゲン酸 (長谷川香料 (株)製)、ザクロ抽出物 (小川香料(株)製)を、終濃度が以下の表2記載になるように加えた。
この調合液を最終時には水で各5kgとなるように調整し、pH3.5の酸性乳性飲料を得た。得られた各酸性乳性飲料の可溶性固形分は11.2Bx、無脂乳固形分濃度は0.9質量%、酸度は0.17%であった。
各飲料を透明ガラス瓶に充填して、密栓し85℃で10分間加熱殺菌した後、冷却し供試用飲料製品を調製した。」(第7ページ第7行ないし第8ページ第3行)

3b)「



(4)甲4
本件特許の出願前に頒布された甲4は、「日本食品標準成分表2010」であって次の記載がある。

ア 甲4の記載
4a)「食品名:脱脂粉乳、可食部100g当たり水分3.8g、脂質1.0g、ナトリウム570mg」(210及び211ページの表より)

イ 甲4記載事項
上記アからみて、甲4には次の事項(以下、「甲4記載事項」という。)が記載されている。

「脱脂粉乳100gに脂質が1.0g、ナトリウムが570mg含まれていること。」

(5)甲5
本件特許の出願前に頒布された甲5は、「五訂増補 日本食品標準成分表 脂肪酸成分表編」であって次の記載がある。

ア 甲5の記載
4a)「食品名:脱脂粉乳、脂質1g当たり脂肪酸総量664mg、総脂肪酸100g当たりラウリン酸3.1g」(116ないし117ページの表より)

イ 甲5記載事項
上記アからみて、甲5には次の事項(以下、「甲5記載事項」という。)が記載されている。

「脱脂粉乳の脂質1g当たりの脂肪酸総量が664mgであり、総脂肪酸100g当たりのラウリン酸が3.1gであること。」

(6)甲6
本件特許の出願前に頒布された甲6は、表2(308ページ)において「乳飲料中のミネラル濃度の実測値および表示値」に関して次の記載がある。





(7)甲1におけるラウリン酸及びナトリウムの濃度並びにBrix値の計算
ア 甲4及び甲5の記載事項
甲4記載事項は「脱脂粉乳100gに脂質が1.0g、ナトリウムが570mg含まれていること」、甲5記載事項は「脱脂粉乳の脂質1g当たりの脂肪酸総量が664mgであり、総脂肪酸100g当たりのラウリン酸が3.1gであること」である。
そうすると、甲4記載事項から脱脂粉乳100gあたりナトリウムは570mg含まれることが分かる。
そして、甲4記載事項から、脱脂粉乳100gに含まれる脂質が1.0gであるから、甲5記載事項によれば、脱脂粉乳100gに脂質1gを含むことから脂肪酸総量は664mgとなり、脂肪酸総量が664mg中のラウリン酸の量は、3.1g/100×0.664g(664mg)=0.02058g(=20.58mg)となる。
したがって、甲4及び甲5の記載事項から「脱脂粉乳100gあたりナトリウム570mg、ラウリン酸20.58mgが含まれる」ことが分かる(以下、「甲4、甲5から分かること」という。)。

イ 脱脂粉乳の量の計算
甲1の上記(1)ア 1b)の記載より、
酸性乳性濃縮飲料全量が900gであって、10%還元脱脂粉乳から発酵乳330gを発酵及び均質化により得たことから、原料としての脱脂粉乳は、330g×0.1=33gである。

ウ ラウリン酸濃度の計算
上記「甲4、甲5から分かること」及びイから、脱脂粉乳100gあたりラウリン酸が20.58mg含まれることから、脱脂粉乳33gに含まれるラウリン酸の量は、20.58mg/100×33=6.791mgであり、酸性乳性濃縮飲料全量を1000gとした場合、ラウリン酸の量は全量1000g当たりに換算して6.791mg/900×1000=7.546mg、すなわち7.546ppmとなる。
そして、5倍希釈すると、7.546ppm/5=1.509ppmとなる。

エ ナトリウム濃度の計算
上記「甲4、甲5から分かること」及びイから、脱脂粉乳100gあたりナトリウムが570mg含まれることから、脱脂粉乳33gに含まれるナトリウムの量は、570mg/100×33=188.1mgであり、酸性乳性濃縮飲料全量を1000gとした場合、ナトリウムの量は全量1000g当たりに換算して188.1mg/900×1000=209mg、すなわち209ppmとなる。
一方、上記(1)ア 1c)における【表3】の実施例8において、NaClが0.50wt%含まれているから、全量900g×0.005(0.5%)×22.99(Na)/58.44(NaCl)/900×1000=1.966g(=1966mg)、すなわち1966ppmとなり、脱脂粉乳由来のナトリウムとNaCl由来のナトリウムを合計すると、1966ppm(NaCl由来)+209ppm(脱脂粉乳由来)=2175ppmとなる。
そして、5倍希釈すると、2175ppm/5=435ppmとなる。

オ Bx値の計算
上記(1)ア 1b)及び1c)の【表3】によれば、酸性乳性濃縮飲料のBxは50であるから、5倍希釈すると、Bxは10となることが分かる。

(8)引用発明
以上の(1)及び(7)から、甲1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ラウリン酸の濃度が1.509ppmであり、ナトリウムの濃度が435ppmであり、ラウリン酸が脱脂粉乳に由来するものである飲料。」

4 取消理由に記載した取消理由についての判断
(1)本件訂正発明1
本件特許明細書段落【0018】には、「本明細書において、飲料に含まれる物質の濃度の単位としてppmを用いる場合は、飲料1L当たりの物質重量mg、すなわちmg/Lを表す。」と記載されているものの、引用発明の飲料は、上記3(8)ウによれば、Bx10であるから密度は約1.05程度であって、引用発明のラウリン酸やナトリウムの濃度(ppm)は、飲料1Lあたりのmg単位の重量とほぼ等しいと認められる。
このような前提において、本件訂正発明1と引用発明とを対比すると、
引用発明における「ラウリン酸の濃度」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件訂正発明1における「ラウリン酸の含有量」に、以下同様に、「ナトリウムの濃度」は「ナトリウムの含有量」に相当する。
そして、引用発明における「ラウリン酸の濃度が1.509ppm」であることは、本件訂正発明1における「ラウリン酸の含有量が0.300?2.00ppm」であることに相当し、
引用発明における「ナトリウムの濃度が435ppm」であることは、本件訂正発明1における「ナトリウムの含有量が130?600ppm」であることに相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「ラウリン酸の含有量が0.300?2.00ppmであり、ナトリウムの含有量が130?600ppmである飲料。」

[相違点1]
本件訂正発明1においては、飲料が「容器詰め飲料」であるのに対して、引用発明においては、飲料が容器詰めのものか不明である点。

[相違点2]
本件訂正発明1においては、「ラウリン酸がココナッツウォーターとして配合される」のに対して、引用発明においては、「ラウリン酸が脱脂粉乳に由来するものである」点。

以下、相違点について検討する。

[相違点1について]
甲2技術は、「天然色素含有飲料を、PETボトルに充填して保管または販売する技術」であって、保管または販売のために飲料をPETボトルに充填することが開示されている。
そうすると、引用発明の飲料に、飲料の技術分野における保管または販売のため等の一般的な課題のもとで甲2技術を適用して、飲料をPETボトルなどの容器に詰めることにより、上記相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
甲2技術は「天然色素含有飲料を、PETボトルに充填して保管または販売する技術」、甲4記載事項は「脱脂粉乳100gに脂質が1.0g、ナトリウムが570mg含まれていること」、甲5記載事項は「脱脂粉乳の脂質1g当たりの脂肪酸総量が664mgであり、総脂肪酸100g当たりのラウリン酸が3.1gであること」であるが、甲2技術、甲4記載事項及び甲5記載事項のいずれにも上記相違点2に係る本件訂正発明1において特定された「ラウリン酸がココナッツウォーターとして配合される」ことについて開示や示唆がない。また、上記甲3及び甲6の記載においても同様である。
よって、引用発明、甲2技術、甲4記載事項、及び甲5記載事項、並びに甲3及び甲6の記載に基いて上記相違点2に係る本件訂正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

したがって、引用発明、甲2技術、甲4記載事項、甲5記載事項及び甲3、甲6の記載に基いて上記相違点2に係る本件訂正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできないから、本件訂正発明1は、引用発明及び甲2技術、甲4記載事項、及び甲5記載事項、並びに甲3及び甲6の記載に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。

(2)本件訂正発明2、4及び5について
本件訂正特許請求の範囲における請求項2,4及び5は、いずれも請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件訂正発明2、4及び5は本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件訂正発明2、4及び5は、本件訂正発明1と同様の理由で、引用発明及び甲2技術、甲4記載事項、及び甲5記載事項、並びに甲3及び甲6の記載に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議理由について
(1)異議理由
ア 異議理由1
本件特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。



本件特許発明の課題は「ナトリウムを高濃度に配合することに起因するぬめりや苦み等を抑制することで、水分や塩分、糖質の速やかな補給が可能になるだけではなく、快適に飲用できる飲料を提供する」ことであることが明細書に記載されている(段落【0007】)。
また、本件特許発明に係る飲料として、明細書では、炭酸飲料、果実・果汁飲料、コーヒー飲料、茶系飲料、茶飲料(緑茶、烏龍茶、紅茶など)、豆乳、野菜飲料、スポーツ飲料、乳性飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料等が挙げられている(段落【0027】)。
しかしながら、「ぬめり」などの感覚は飲料中に含まれるナトリウム以外の成分にも大きな影響を受けるものと考えられる。例えばナトリウムの含有量が130?600ppmであったとしても他に感覚に影響を与える成分(例えば脱脂粉乳等)が含まれているとすれば、「ぬめり」が感じられるとは限らない。すなわち、明細書に例示されている全ての飲料において「ぬめり」を感じられるなどの課題が存在するとはいえない。
また、本件特許の明細書に記載されている実施例においても表1記載の果糖ぶどう糖などに遊離のラウリン酸を添加した飲料のみしか効果が確認されておらず、他の種類の飲料すべてにおいて効果が得られるかは一切不明である。
そのため、本件特許発明は発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない。

イ 異議理由2
本件特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。



本件特許発明の課題は「ナトリウムを高濃度に配合することに起因するぬめりや苦み等を抑制することで、水分や塩分、糖質の速やかな補給が可能になるだけではなく、快適に飲用できる飲料を提供する」ことであることが明細書に記載されている(段落【0007】)。
また、本件特許発明に係る飲料として、明細書では、炭酸飲料、果実・果汁飲料、コーヒー飲料、茶系飲料、茶飲料(緑茶、烏龍茶、紅茶など)、豆乳、野菜飲料、スポーツ飲料、乳性飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料等が挙げられている(段落【0027】)。
しかしながら、異議理由1において記載したとおり、本件特許の明細書に記載されている実施例において記載されているのは、表1記載の果糖ぶどう糖液糖などに遊離のラウリン酸を添加した飲料のみであり、他の種類の飲料全てにおいて効果が得られるかは一切不明である。
このため、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施できる程度に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていない。

(2)異議理由についての判断
ア 異議理由1について
本件特許明細書における、飲料中のナトリウムによる苦み・エグ味、ぬめりをラウリン酸により改善する実施例の記載は次のとおりのものである。

「【0033】
実施例1
【0034】



【0035】
調合液の調製方法は、上記表に示した割合で各原材料を適宜配合したのち、ラウリン酸を0?0.4ppm配合し、95℃で30秒殺菌し、500mlのPETボトルに充填することにより実施した。
【0036】
専門パネラー3名で官能評価した。
【0037】
ミネラルの苦味、エグ味、ぬめりが改善されていることを5段階(5点;著しく改善されている、4点;かなり改善されている、3点;改善されている、2点;やや改善されている、1点;全く改善されていない)とし、その平均点を算出した。3点以上を効果があるとする。なお、官能評価は、飲料を10℃以下に冷やした状態および室温の状態で実施した。
【0038】
冷やした飲料に関する官能評価結果を表2に示す。ラウリン酸が入っていると効果があるが、一定量以上入れてしまうと油浮きをし、飲料に適性がないことがわかった。
【0039】



そして、上記特許明細書における実施例1の記載によれば、ナトリウムを含有した果糖ブドウ糖液糖において、ナトリウムによる苦味、エグ味、ぬめりがラウリン酸を適量添加することにより改善することが示されているのであるから、炭酸飲料、果実・果汁飲料、コーヒー飲料、茶系飲料、茶飲料(緑茶、烏龍茶、紅茶など)、豆乳、野菜飲料、スポーツ飲料、乳性飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料等の飲料において、少なくともナトリウムによる苦味、エグ味、ぬめりがラウリン酸を適量添加することにより改善されることは当業者であれば認識できる。
したがって、本件訂正発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、発明の詳細な説明に記載された発明ではないということはできないから、上記(1)アにおける異議申立人の主張には理由がない。

イ 異議理由2について
上記アにおいて判断したとおり、上記特許明細書における実施例1の記載によれば、ナトリウムを含有した果糖ブドウ糖液糖において、ナトリウムによる苦味、エグ味、ぬめりがラウリン酸を適量添加することにより改善することが示されているのであるから、炭酸飲料、果実・果汁飲料、コーヒー飲料、茶系飲料、茶飲料(緑茶、烏龍茶、紅茶など)、豆乳、野菜飲料、スポーツ飲料、乳性飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料等の飲料において、少なくともナトリウムによる苦味、エグ味、ぬめりがラウリン酸を適量添加することにより改善される効果が得られることは当業者であれば認識できる。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施できる程度に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていないとはいえないから、上記(1)イにおける異議申立人の主張には理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件請求項1、2、4及び5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3に係る特許は、訂正により削除された。これにより、本件特許の請求項3に対して異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウリン酸の含有量が0.300?2.00ppmであり、ナトリウムの含有量が130?600ppmであり、ラウリン酸がココナッツウォーターとして配合される容器詰め飲料。
【請求項2】
ラウリン酸の含有量とナトリウムの含有量比がラウリン酸:ナトリウム=1:100?1:2000である、請求項1の容器詰め飲料。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
糖の含有量がBrix値として12以下である、請求項1または2に記載の容器詰め飲料。
【請求項5】
殺菌処理された、請求項1、2、または4に記載の容器詰め飲料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-10 
出願番号 特願2014-128365(P2014-128365)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 536- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福澤 洋光  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 井上 哲男
松下 聡
登録日 2018-03-09 
登録番号 特許第6302366号(P6302366)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 ナトリウムを含有する容器詰め飲料  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小笠原 有紀  
代理人 宮前 徹  
代理人 中西 基晴  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小笠原 有紀  
代理人 山本 修  
代理人 宮前 徹  
代理人 中西 基晴  
代理人 山本 修  

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