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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01G
管理番号 1352297
異議申立番号 異議2018-700816  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-05 
確定日 2019-05-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6309041号発明「固体電解コンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6309041号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6309041号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6309041号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成23年7月13日に出願した特願2011-154871号の一部を平成28年5月9日に新たな特許出願としたものであって、平成30年3月23日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年10月5日に特許異議申立人 合同会社SASにより特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年12月20日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成31年2月13日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、異議申立人 合同会社SASは、平成31年3月27日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成31年2月13日付け訂正請求の趣旨は、
「特許第6309041号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求める。」
というものである。
そして、本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「銀に対するニッケルの重量比が3%?30%であり、」と記載されているのを、「銀に対するニッケルの重量比が3%?30%(ただし、25%?30%を除く)であり、」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する。

2 訂正の適否の判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6はそれぞれ訂正する請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであるから、請求項1ないし6に対応する訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「導電性固体層に含まれる銀に対するニッケルの重量比」の数値範囲である「3%?30%」に関して、「(ただし、25%?30%を除く)」との限定を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
なお、本件においては、訂正前の請求項1?6の全てについて特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)新規事項の追加について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「導電性固体層に含まれる銀に対するニッケルの重量比」の数値範囲である「3%?30%」から、平成30年12月20日付け取消理由通知で引用された引用文献1(下記「第4 1」を参照。)に記載された数値範囲である「25%?400%」と重複する範囲のみを除外するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「導電性固体層に含まれる銀に対するニッケルの重量比」の数値範囲から、その一部を除くものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
弁作用金属から成る陽極体と、前記陽極体の表面に形成される誘電体皮膜層と、前記誘電体皮膜層上に形成される固体電解質層と、前記固体電解質層を被覆する導電性固体層とを備えた固体電解コンデンサにおいて、前記導電性固体層が銀及びニッケルを含み、銀に対するニッケルの重量比が3%?30%(ただし、25%?30%を除く)であり、銀がフレーク状の銀粉を含むとともにニッケルが球状のニッケル粉を含むことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記導電性固体層の銀に対するニッケルの重量比を15%以上にしたことを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記固体電解質層が硫黄元素を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記固体電解質層が導電性高分子から成り、前記導電性高分子に含まれるドーパントが硫黄元素を含む化合物であることを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記導電性高分子がポリチオフェンまたはその誘導体を含むことを特徴とする請求項4に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記固体電解質層と前記導電性固体層との間にカーボン層を設けたことを特徴とする請求項1?請求項5のいずれかに記載の固体電解コンデンサ。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が平成30年12月20日に特許権者に通知した取消理由(以下、「理由1」という。)の要旨は、次のとおりである。

(1)理由1(特許法第29条第2項)
請求項1、2、6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された技術事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項1、2、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
また、請求項3ないし5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載された技術事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項3ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。



引用文献1:特開昭63-245918号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開2000-133043号公報(甲第2号証)
引用文献3:特開平10-237409号公報(甲第6号証)
引用文献4:特開2005-294817号公報(甲第8号証)

2 引用文献1の記載

引用文献1には、「固体電解コンデンサ」に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(1)「2、特許請求の範囲
(1)弁金属陽極体1と、その表面に順次形成された陽極酸化膜2、半導体層4、および導電性ペースト層5を有するコンデンサにおいて、導電性ペースト層が
(i)銀粉末、
(ii)銀よりもイオン化傾向が大きい金属粉末および
(iii)マトリックス樹脂を含み、銀粉末と該金属粉末の重量混合率比が20?80%:80?20%であることを特徴とする固体電解コンデンサ。
(2)該金属粉末の重量混合率が70%未満である特許請求の範囲第1項記載の固体電解コンデンサ。
(3)該金属粉末の重量混合率が60%未満である特許請求の範囲第1項記載の固体電解コンデンサ。
(4)該金属粉末の重量混合率が30%以上である特許請求の範囲1項記載の固体電解コンデンサ。
(5)該金属粉末が、銅、ニッケル、亜鉛、鉄、アルミニウムから選ばれた少なくとも1以上の金属粉末である特許請求の範囲第1項記載の固体電解コンデンサ。」(第1頁左下欄第4行?右下欄第4行)

(2)「 従来の技術
一般に固体電解コンデンサは弁金属粉末たとえばタンタル粉末を成型、焼結した陽極体の表面に陽極化成により誘電体となる酸化皮膜を形成し、次いで半導体層、グラファイト層、導電性ペースト層を形成したのち陽、陰両電極より、リード線を引出し、外装を施して完成されている。
導電性ペーストとしては、いわゆる銀ペーストすなわちマトリックス樹脂に銀粉を混合したものが用いられている。」(第1頁右下欄第8行?同頁同欄第17行)

(3)「 発明が解決しようとする問題点
従来品は導電性ペーストとして銀粉末混合ペーストを用いている。このため長期に使用したとき、銀マイグレーションを起し、これが電気特性劣化の原因となっていた。
また銀ペーストを用いない構造ではロスが大きくなり、あるいは製法が複雑で高価なものになった。」(第2頁左上欄第1行?同頁同欄第8行)

(4)「 本発明は上記欠点を克服するもので、長期使用に際しても電気特性の劣化の少ないコンデンサを提供するものである。
本発明においては導電性ペーストとして銀粉末、銀よりもイオン化傾向が大きい金属粉末および熱硬化性樹脂などのマトリックス樹脂を含み、銀粉末と該金属粉末の重量混合率比が 20?80%:80?20%であるものを用いる。
銀よりもイオン化傾向が大きい金属粉末とは、銅、ニッケル、亜鉛、鉄、アルミニウム、パラジウム等の粉末であり、これらのうち1種以上(以下、上記金属粉末と記す)が選ばれて用いられる。本発明においては、銀粉末20?80重量%に対して上記金属粉末を80?20重量%混合して用いる。すなわち銀粉末と上記金属粉末の混合比は、両者混合物の全量を1とした場合に、銀の重量百分率が20?80%、上記金属粉末の重量百分率が80?20%になるように設定する必要があり、好ましい上記金属粉末の重量百分率は30%以上であり、また70%未満である。より好ましくは60%未満に設定するとよい。」(第2頁左上欄第10行?同頁右上欄第10行)

(5)「 本発明の固体電解コンデンサは第1図に示されるような陽極体1、酸化皮膜層2、半導体層3、グラファイト層4、導電性ペースト層5、陽極リード線6および陰極リード線7からなり、導電ペースト層が施される前、すなわちグラファイト層までは従来と同様の方法で製造されうる。本発明においては、前記のように銀粉末および上記金属粉末を重量比 20?80%:80?20%でマトリックス樹脂と混合したものを導電ペーストとして用い、従来法に従って導電ペースト層を形成する。なお、具体的には金属粉末100部に対して、マトリックス樹脂3?30部を用い、溶解剤として有機溶剤を適宜粘度調節に必要な量だけ用いる。」(第2頁左下欄第2行?同頁同欄第14行)

(6)「実施例
本発明品は図面に示せる如く、弁金属粉末を成型焼結した陽極体1を用意し、その表面に酸化皮膜層2、半導体層3、グラファイト層4および導電性ペースト層5を順次形成したのち陽極、陰極からそれぞれリード線を引き出し、必要に応じて外装を施して完成されている。実施例1?4において従来品との比較を示す。」(第2頁右下欄第5行?同頁同欄第12行)

(7)「〔実施例4〕
実施例3と同様に定格16V、10μFのコンデンサ各20個に銀粉末と銅、ニッケル、亜鉛粉末を第5表に示す混合比(重量%)で含むポリエーテル・アミド系樹脂(日立化成KK製 HiMALHL-1210)を用いて電導ペースト層を形成し、陰極リード線を取付け、樹脂モールド外装を施す、同製品の漏れ電流(μA)を測定し、初期値を得たのち、120℃、2気圧でPCTテストに付し、38時間後、77時間後、100時間後に漏れ電流を測定した。結果を第5表に示す。


」(第3頁右下欄第2行?第4頁左上欄第2行)

・上記(1)、(5)、(6)によれば、固体電解コンデンサは、陽極体1と、その表面に順次形成される、陽極酸化膜2、半導体層4、及び導電性ペースト層5を有するものである。
・上記(2)によれば、陽極体の表面に陽極化成により形成される酸化皮膜は、誘電体となるものである。
・上記(1)、(4)、(5)、(7)によれば、導電性ペースト層5は、銀粉末、及び銀粉末よりもイオン化傾向が大きいニッケルの金属粉末を含み、前記銀粉末及び前記金属粉末を重量比20?80%:80?20%でマトリックス樹脂と混合したものである。

これらの記載と図面とを総合的に勘案すると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されている。

「弁金属粉末を成型焼結した陽極体1と、その表面に順次形成される、誘電体となる酸化皮膜層2、半導体層4、および導電性ペースト層5を有する固体電解コンデンサにおいて、導電性ペースト層5が銀粉末、及び銀粉末よりもイオン化傾向が大きいニッケルの金属粉末を含み、前記銀粉末及び前記金属粉末を重量比20?80%:80?20%でマトリックス樹脂と混合したものである固体電解コンデンサ。」

3 当審の判断
(1)理由1(特許法第29条第2項)について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。

・引用発明1の「弁金属粉末」は、「弁作用」を有する金属であるから、「弁金属粉末を成型焼結した陽極体1」は、本件特許発明1の「弁作用金属から成る陽極体」に相当する。

・引用発明1の「誘電体となる酸化皮膜層2」は、「その表面」、すなわち陽極体1の表面に形成されるものであるから、本件特許発明1の「陽極体の表面に形成される誘電体皮膜層」に相当する。

・固体電解コンデンサにおいて、半導体層が固体電解質層となることは技術常識である。また、引用発明1の「酸化皮膜層2、半導体層4、及び導電性ペースト層5」は、陽極体1の表面に「順次形成される」ものであるから、「半導体層4」は、「酸化皮膜層2」の上に形成されるものである。よって、引用発明1の「半導体層4」と、本件特許発明1の「誘電体皮膜層上に形成される固体電解質層」とは、いずれも「誘電体皮膜層上に形成される固体電解質層」である点で一致する。

・固体電解コンデンサを形成するにあたり、塗布した導電性ペースト層を硬化させて固体にすることは技術常識であるから、形成された固体電解コンデンサにける「導電性ペースト層」が「導電性固体層」になることは明らかである。また、引用発明1の「酸化皮膜層2、半導体層4、及び導電性ペースト層5」は、陽極体1の表面に「順次形成される」ものであるから、「導電性ペースト層5」は、「半導体層4」の上に形成されるものである。そして、「層Aが層Bの上に形成される」ことを「層Aが層Bを被覆する」と表現することは当業者にとって一般的なことであるから、「導電性ペースト層5」は、「半導体層4」を「被覆」するものである。よって、引用発明1の「導電性ペースト層5」は、本件特許発明1の「固体電解質層を被覆する導電性固体層」に相当する。

・引用発明1の導電性ペースト層5は、「銀粉末」、及び銀粉末よりもイオン化傾向が大きい「ニッケルの金属粉末」を含むものであるから、「銀」及び「ニッケル」を含むものである。したがって、引用発明1の「導電性ペースト層5が銀粉末、及び銀粉末よりもイオン化傾向が大きいニッケルの金属粉末を含」むことは、本件特許発明1の「導電性固体層が銀及びニッケルを含」むことに相当する。

・引用発明1の銀粉末及びニッケルの金属粉末を「重量比20?80%:80?20%」とするものであるが、この重量比を「銀粉に対するニッケルの金属粉末の重量比」に換算すると、「25%?400%」となる。本件特許発明1は「銀に対するニッケルの重量比が3%?30%(ただし、25%?400%を除く)」であるのに対し、引用発明1は、銀粉に対するニッケルの金属粉末の重量比が25%?400%である。

・本件特許発明1は銀が「フレーク状の銀粉」を含むとともにニッケルが「球状のニッケル粉」を含むのに対し、引用発明1にはその旨の特定はされていない。

よって、本件特許発明1と引用発明1とは、
「弁作用金属から成る陽極体と、前記陽極体の表面に形成される誘電体皮膜層と、前記誘電体皮膜層上に形成される固体電解質層と、前記固体電解質層を被覆する導電性固体層とを備えた固体電解コンデンサにおいて、前記導電性固体層が銀及びニッケルを含むことを特徴とする固体電解コンデンサ」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
銀に対するニッケルの重量比として、本件特許発明1は「3%?30%(ただし25%?30%を除く)」であるのに対し、引用発明1は「25%?400%」である点。

<相違点2>
本件特許発明1は「銀がフレーク状の銀粉を含むとともにニッケルが球状のニッケル粉を含む」のに対し、引用発明1にはその旨の特定はされていない点。

まず、上記相違点1について検討する。

引用文献2の【請求項1】、【0010】、【0012】、【0013】、【0022】、【0025】、【0026】の記載を参照すると、引用文献2には、「導電フィラーとして鱗片状銀粉と粒状ニッケル粉を含有し、鱗片状銀粉と粒状ニッケル粉の混合比率を80:5とした導電性組成物」が、実施例3として記載されている。この混合比率を「銀に対するニッケルの重量比」に換算すると、「6.25%」となるから、この混合比率は、本件特許発明1の「銀に対するニッケルの重量比」の数値範囲である「3%?30%(ただし、25%?30%を除く)」に含まれるものである。

一方、上記「2(3)、(4)、(5)」のとおり、引用発明1は、「長期使用に際しても電気的特性の劣化の少ないコンデンサを提供する」という課題を解決するために、導電性ペースト層に用いられる銀粉末と、銀よりもイオン化傾向が大きい金属粉末の重量比を20?80%:80?20%とする、すなわち、前記銀粉末に対する前記金属粉末の重量比を25%?400%とするものである。
したがって、引用発明1において、銀粉末に対するニッケルの金属粉末の重量比として、引用文献2に記載された重量比である「6.25%」を採用すると、引用発明1において上記課題を解決するために必要であるとされた「25%?400%」という重量比の範囲外となるように重量比が変更されることになるから、上記課題を解決できないことになる。したがって、引用発明1において、銀粉末に対するニッケルの金属粉末の重量比として、引用文献2に記載された重量比を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

また、取消理由通知で引用された引用文献3、4、及び平成30年10月5日付け異議申立書において提示された甲第3?第5、第7、第9号証の記載を参酌しても、引用発明1において、銀粉末に対する金属粉末の重量比を、上記課題を解決するために必要であるとされた「25%?400%」の範囲外となるように重量比を変更することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。

したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明1及び引用文献2、3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むとともに、発明特定事項の一部を更に減縮したものである。したがって、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2、6は、引用発明1及び引用文献2、3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明3ないし5は、引用発明1及び引用文献2ないし4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成31年3月27日付け意見書において、「引用文献1では、比較例であろうとも、銀に対する銀よりもイオン化傾向が大きい金属の重量比が11.1%である固体電解コンデンサが具体的に記載されていると言え、これは上記相違点Aを含みません。比較例であろうとも、この具体的に記載されたコンデンサに、引用文献2に記載されているような、抵抗値が低く導電性に優れた周知の導電性ペーストを用いるようにすることもまた、当業者であれば容易に想到し得たことです。」と主張している(意見書第5頁第19行?同頁第24行を参照。)。

上記主張について検討する。

上記「2(7)」のとおり、引用文献1には、銀と銅の金属混合比を90:10、すなわち銀に対する「銅」の重量比を11.1%とした例が記載されているが、銀に対する「ニッケル」の重量比を11.1%とした例は記載されていない。また、上記「2(7)」のとおり、引用文献1において、銀と銅の金属混合比を90:10とした例は、漏れ電流が大きくなるものであるから、このような例を引用発明とした上で、当業者が銅に代えてニッケルを用いようとする動機付けは存在しない。

以上のことから、異議申立人の上記主張は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属から成る陽極体と、前記陽極体の表面に形成される誘電体皮膜層と、前記誘電体皮膜層上に形成される固体電解質層と、前記固体電解質層を被覆する導電性固体層とを備えた固体電解コンデンサにおいて、前記導電性固体層が銀及びニッケルを含み、銀に対するニッケルの重量比が3%?30%(ただし、25%?30%を除く)であり、銀がフレーク状の銀粉を含むとともにニッケルが球状のニッケル粉を含むことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記導電性固体層の銀に対するニッケルの重量比を15%以上にしたことを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記固体電解質層が硫黄元素を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記固体電解質層が導電性高分子から成り、前記導電性高分子に含まれるドーパントが硫黄元素を含む化合物であることを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記導電性高分子がポリチオフェンまたはその誘導体を含むことを特徴とする請求項4に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記固体電解質層と前記導電性固体層との間にカーボン層を設けたことを特徴とする請求項1?請求項5のいずれかに記載の固体電解コンデンサ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-18 
出願番号 特願2016-93579(P2016-93579)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小池 秀介  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 宮本 秀一
國分 直樹
登録日 2018-03-23 
登録番号 特許第6309041号(P6309041)
権利者 サン電子工業株式会社
発明の名称 固体電解コンデンサ  
代理人 特許業務法人佐野特許事務所  
代理人 特許業務法人 佐野特許事務所  

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