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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B21B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B21B
管理番号 1352299
異議申立番号 異議2018-700854  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-18 
確定日 2019-05-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6313844号発明「圧延用複合ロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6313844号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6313844号の請求項1及び3?5に係る特許を維持する。 特許第6313844号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6313844号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年12月28日に出願され、平成30年3月30日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年10月18日に特許異議申立人 岡林 茂(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年12月19日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成31年2月22日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、平成31年4月5日に意見書を提出した。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア?オのとおりである(訂正事項の番号は請求人が付したものであり、下線も請求人が付したものである(以下3まで同)。)。
ア 訂正事項1
請求項1に係る「前記外層は、質量%にて、C:2.2%?3.01%、Si:1.0%?3.0%、Mn:0.3%?2.0%、Ni:3.0%?7.0%、Cr:0.5%?2.5%、Mo:1.0%?3.0%、V:2.5%?5.0%、Nb:0%を越えて0.5%以下、残部Fe及び不可避的不純物であって、」を「前記外層は、質量%にて、C:2.2%?3.01%、Si:1.0%?3.0%、Mn:0.3%?2.0%、Ni:3.0%?7.0%、Cr:0.5%?2.5%、Mo:1.55%?3.0%、V:2.5%?5.0%、Nb:0%を越えて0.5%以下、残部Fe及び不可避的不純物であって、」に訂正する。
イ 訂正事項2
請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
請求項3に係る「請求項1又は請求項2に記載の圧延用複合ロール」を「請求項1に記載の圧延用複合ロール」に訂正する。
エ 訂正事項4
請求項4に係る「請求項1乃至請求項3の何れかに記載の圧延用複合ロール」を「請求項1又は請求項3に記載の圧延用複合ロール」に訂正する。
オ 訂正事項5
請求項5に係る「請求項1乃至請求項4の何れかに記載の圧延用複合ロール」を「請求項1、請求項3又は請求項4に記載の圧延用複合ロール」に訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1?5〕に対して請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項1のMo質量%の下限値について、「1.0%」を、特許明細書の段落【0046】における【表1】中の発明例6のMo質量%である「1.55%」を下限値とするものであり、特許明細書等に記載された事項の範囲内において、Mo質量%を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項2は、請求項を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項3?5は、請求項の削除に伴い、引用先を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、3?5に係る発明(以下「本件発明1、3?5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

・本件発明1
「外層を有する遠心力鋳造製圧延用複合ロールであって、
前記外層は、質量%にて、C:2.2%?3.01%、Si:1.0%?3.0%、Mn:0.3%?2.0%、Ni:3.0%?7.0%、Cr:0.5%?2.5%、Mo:1.55%?3.0%、V:2.5%?5.0%、Nb:0%を越えて0.5%以下、残部Fe及び不可避的不純物であって、
条件(a):Nb%/V%<0.1、
条件(b):2.1×C%+1.2×Si%-Cr%+0.5×Mo%+(V%+Nb%/2)≦13.0%
を満足する、ことを特徴とする圧延用複合ロール。」

・本件発明3
「前記外層は、さらに、質量%にて、B:0%を越えて0.1%以下を含有する、
請求項1に記載の圧延用複合ロール。」

・本件発明4
「前記外層は、黒鉛面積率が0.5%?5.0%である、
請求項1又は請求項3に記載の圧延用複合ロール。」

・本件発明5
「前記外層は、MC型炭化物面積率が4.0%?11.0%である、
請求項1、請求項3又は請求項4に記載の圧延用複合ロール。」

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が平成30年12月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア 請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。よって、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 請求項1?2及び4?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき、請求項3に係る発明は、甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)甲号証の記載
ア 甲第1号証(米国特許出願公開第2004/0214030号明細書)には、以下の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審にて付与)。なお、括弧内に当審での翻訳文を併記する。

(ア)段落[0003]
「The invention relates to a method for the production of an alloyed casting material, in particular of a material for the working area of indefinite chill rolls, containing the elements carbon, silicon, manganese, chromium, nickel, molybdenum, vanadium, and optionally also other elements of group 5 of the periodic system, aluminum, and the remainder iron and impurities related to the manufacturing process. 」(本発明は、元素として、炭素、けい素、マンガン、クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウム、場合によっては周期系V族の別の元素、アルミニウム、残部鉄、及び製造プロセスによって生じる不純物を含む、合金された鋳造材料、特に不定ローラの作業範囲のための材料を製造する方法に関する。)

(イ)段落[0017]
「During the centrifugal casting of the working area of an indefinite chill roll, the alloy in the mold is subjected to a high centrifugal acceleration during solidification, for example, in the range of 80 to 180 g. Since the monocarbides of vanadium that are primarily formed in the melt have a lower density than the liquid metal, and those of niobium have a higher density, segregation and/or demixing can occur. A proposal has already been made (U.S. Pat. No. 5、738、734) to prevent segregation by alloying the melt equally with vanadium and niobium in such a manner that the monocarbides formed during solidification are mixed carbides (VNb)C and have essentially the same density as the melt. As a result of the highest possible content for the monocarbide-forming elements of 17 wt-% per the above U.S. Patent, the carbon concentration must also be adjusted according to the known relationship. However, such an alloy can exhibit an undesirable solidification structure with localized demixing and large graphite particles, which can produce impaired surface quality of the roll after even a short operating time, and also increases the tendency to stick. 」(不定ローラの作業範囲の遠心鋳造の際、金型内の合金は、硬化の間に、例えば80ないし180Gの範囲における大きな遠心力加速度にさらされている。この時、初めに溶融物中に形成されるバナジウムのモノカーバイドは、液状金属のものより低い密度を、かつニオブのものは、高い密度を有するので、溶離現象又は分解に至ることがある。このような溶離を避けるために、硬化の際に生じるモノカーバイドが混合カーバイド(VNb)Cであり、かつ大体において溶融物と同じ密度を有するように、溶融物をバナジウム及びニオブと均一に合金することが、すでに提案されている(米国特許第5738734号明細書)。前記の米国特許明細書によれば17重量%までのモノカーバイドを形成する元素のできるだけ多くの含有量に基づいて、炭素濃度も、既知の関係にしたがって調節しなければならない。しかしながら、このような合金は、局所的な分離及び大きなグラファイト粒子を有する不所望な硬化組織を有し、このことは、一方においてすでにわずかな使用時間の後に、ローラの低下した表面品質を引起こし、かつ他方において圧延材料の接着傾向を増強する。)

(ウ)段落[0018]
「Based on the prior art, the object of the invention is to specify a new, improved process by means of which the material of the working area of indefinite chill rolls has a significantly reduced tendency to stick or weld to the rolling stock and a consistently high abrasion resistance over the thickness of the area used.」(従来の技術から出発して、本発明の課題は、不定ローラの作業範囲の材料が、圧延材料の接着又は溶接する著しくわずかな傾向を有し、かつ利用される範囲の厚さにわたって一貫した大きな耐磨耗性を有する、新しい改善された方法を提供することにある。)

(エ)段落[0019]
「The invention has the additional goal of producing a casting material that has finely dispersed and homogeneously distributed graphite precipitations with a low volume fraction, has special carbides with uniformly small grain diameter likewise uniformly distributed through the base material, and also has essentially unchanged working surface characteristics in the event of wear. 」(さらに本発明は、わずかな容積割合を有する細かく分散しかつ均一に分散したグラファイト析出を有し、かつ同様に基礎材料中に均一に分散して、まったく小さなカーバイド粒子直径を有する特殊カーバイドを有し、かつ研磨の際に大体において不変の作業表面の特性を有する鋳造材料を提供することを、目的として設定する。)

(オ)段落[0022]
「In one aspect of the present method, the mold may be a centrifugal casting mold. In another aspect, the body may be, or may be processed into a working or sleeve part of a composite roll comprising a core part and said working or sleeve part. 」(本発明の方法の1つの態様では、金型は遠心鋳造用金型であってもよい。別の態様では、本体は、コア部と作業部材又は外層を含む複合ロールの作業部材または外層であってもよいし、それらに加工されるものであってもよい。)

(カ)段落[0024]
「・・・2 to 20 vol-% of finely distributed carbides of vanadium, niobium and/or tantalum. 」(・・・2ないし20%容積%の微分散したバナジウム、ニオブ及び/又はタンタルのカーバイド」

(キ)段落[0052]
「・・・The composition of the melt here should be set in such a way that the graphite portion in the solidified material is 1.0 to 3.0 vol-%. Lower graphite percentages increase the tendency of the rolling stock to stick to the roll surface even at a high graphite particle density of over 20 per mm2 . When the graphite content exceeds 3.0 vol-%, roll wear increases. Moreover, a content of between 8 to 35 vol-% of eutectic carbides and a content of at least 1 vol-% of special carbides or monocarbides is to be produced by alloying methods. Carbide proportions below 8 and 1 vol-% lead to reduced wear resistance of the material, and more than 35 vol-% of eutectic carbides increases the risk of cracking or breakage. 」(・・・その際、溶融物の組成は、硬化した材料内におけるグラファイトの割合が1.0ないし3.0容積%であるように調節するようにする。それよりわずかなグラファイト割合は、1mm^(2)あたり20より多くの高いグラファイト粒子密度の際にも、ローラ表面における圧延材料の接着傾向を増加する。グラファイト割合が3容積%を上回ると、ローラ磨耗が増加する。さらに共融カーバイドの8ないし35容積%の割合、及び少なくとも1容積%の特殊カーバイド又はモノカーバイドの含有量を、合金技術的に準備することができる。8及び1容積%よりわずかなカーバイド割合は、材料の磨耗抵抗の低下に通じ、かつ35容積%より多くの共融カーバイドは、割れ目形成の危険又は破損の危険を増加する。)

(ク)段落[0057]
「The element aluminum fosters the tendency toward graphite formation, on the one hand, but also causes fine-grain precipitation of special carbides, on the other hand. Aluminum can also partially replace silicon in terms of action kinetics and find application as a control element for a balanced graphite/carbide precipitation so that, when setting the composition of the melt by alloying means, aluminum can be added at 0.002 to 0.65 wt-% and dissolved therein. Aluminum contents of 0.005 to 0.04 wt-% are preferred. 」(元素アルミニウムは、一方においてグラファイト形成の傾向を促進するが、他方において特殊カーバイドの微粒子析出も引起こす。したがってアルミニウムは、作用動力学的に部分的にけい素に置き換えることができ、かつバランスしたグラファイト/カーバイド析出のための制御元素として適用できるので、組成の合金技術的な調節の際に重量%において溶融物に、0.002ないし0.65を有するアルミニウムが添加され、かつこれに溶解することができる。0.005ないし0.04重量%のアルミニウムの含有量が有利である。)

(ケ)段落[0061]及び[0063]
「In the interest of the deliberate formation of eutectic carbides and thus the reduction of the risk of breakage of the roll material under impact stresses, it has proven advantageous for the content of chromium and molybdenum in the melt in wt-% to be set to the values of
・・・molybdenum 0.20 to 2.6, preferably 0.3 to 0.9. 」(共融カーバイドの意図的な形成、したがって衝撃負荷の際のローラ材料の破損の危険の減少のために、重量%における溶融物のクロム及びモリブデンにおける含有量が、・・・モリブデン 0.20ないし2.6、なるべく0.3ないし0.9の値に調節されると、有利であることがわかった。)

(コ)段落[0127]
「・・・The addition of niobium and tantalum, which is to say of additional elements from group 5 of the periodic system, produced a small increase in the wear resistance and roll performance in operation at contents less than 0.6 wt-%. ・・・」(・・・ニオブとタンタルの、すなわち周期系V族の別の元素の添加は、0.6重量%よりわずかな含有量の際、耐磨耗性又は動作におけるローラ能力のわずかな上昇を提供する。・・・)

(サ)請求項1
「A casting material for the working area of indefinite chill rolls comprising an alloy of, in wt-%, ・・・ 0 to 0.65 aluminum and ・・・, in an amount of less than 0.6 wt-%, by at least one of niobium and tantalum」(不定ローラの作業範囲のための合金された鋳造材料は、重量%で・・・0から0.65のアルミニウム・・・及び0.6重量%以下の少なくともニオブ及びタンタルを含む)

(シ)表1(続き)


表1(続き)のM欄には、外層は、重量%にて、C:2.91%、Si:1.6%、Mn:0.85%、Ni:4.15%、Cr:1.94%、Mo:1.42%、V:3.25%、Al:0.017%を含むこと、NbとTaの合計:0.27%であることが記載されている。

イ 上記アでの記載からみて、甲第1号証には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。
「外層を有する遠心力鋳造製圧延用複合ロールであって、
前記外層は、重量%にて、C:2.91%、Si:1.6%、Mn:0.85%、Ni:4.15%、Cr:1.94%、Mo:1.42%、V:3.25%、NbとTaとの合計(少なくとも1つを含む):0.27%、Al:0.017%、残部Fe及び不可避的不純物である圧延用複合ロール。」

ウ その他の甲号証
(ア)甲第2号証(特開2006-152381号公報)には、「本発明のロール外層材では、上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、・・・Al:0.05%以下・・・がそれぞれ許容できる。」(段落【0022】参照)、「本発明では、ロール外層材の製造方法は・・・遠心鋳造法がより好ましい。」(段落【0023】参照)と記載されており、したがって、「遠心鋳造法で製造されたFeを主成分とするロール外層材においてAlは不可避的不純物であり、ロール外層材におけるAlの許容量は0.05%であること」が記載されていると認められる。

(イ)甲第3号証(DUCTILE IRON HANDBOOK、American Foundrymen's Society.Inc. 1993)には、「Alはダグタイル鋳鉄に含有される元素であること」(第97頁のALUMINUMの章の1行目参照)、「当該含有される許容量が約0.05%であること」(第97頁のALUMINUMの章の第4?6行目参照)、「当該含有される一般的な量が0.003?0.06%であること」(109頁のTable 4-19のAlの行参照)が記載されており、したがって、「Alはダグタイル鋳鉄に含有される元素であり、当該含有される許容量が約0.05%であること、当該含有される一般的な量が0.003?0.06%であること」が記載されていると認められる。また、「ダグタイル鋳鉄に含有されるBの許容量が0.0005%であること」(109頁のTable 4-19のBの行参照)も記載されている。

(ウ)甲第4号証(http://www.yodoko.co.jp/product/roll/steel.html、淀川製鋼所ホームページ)には、「遠心鋳造される鉄鋼用ロールの製造工程における原料として、スクラップ等が用いられること」(「製造工程」の欄参照)が記載されていると認められる。

(エ)甲第5号証(特開2009-221573号公報)には、「遠心鋳造製複合ロールに用いられるロール外層材」(【請求項1】参照)、「溶解原料であるスクラップ」(段落【0028】)と記載されており、したがって、「スクラップが遠心鋳造製ロールの原料とされること」が記載されていると認められる。

(オ)甲第6号証(鋳造工学、第79巻(2007)第8号、第430?434頁、鋳物用銑鉄と鋼スクラップの動向及び高純度銑の鋳物品質への影響)には、「鋳物用鋼屑にはAlが平均で0.034%含まれること」が記載されていると認められる(表2参照)。

(カ)甲第7号証(平成25年度鉄スクラップの高度利用化調査業務報告書、平成26年3月、東京製鐵株式会社)には、「市中のあるがままのスクラップを使用した状態を模擬した結果」として、「Alの目標値が0.030%であること」が記載されており(P-2の「要旨表1 材料成分」参照)、したがって、「スクラップにはAlが0.030%含まれ得ること」が記載されていると認められる。また、「スクラップにBが0.0016%、0.0026%」含まれることも記載されている(P-2の「要旨表1 材料成分」参照)。

(キ)甲第8号証(平成20年戦略的基盤技術高度化支援事業「鋳鉄溶湯の不純物除去と無害化技術の開発」研究開発成果等報告書、平成21年11月、委託者 独立行政法人中小企業基盤整備機構、委託先 社団法人日本鋳造協会 )には、「以前にも増して・・・Alなど、鉄鋳物にとっての有害元素が鉄スクラップへ多く混入される状況となっている」(18-04_4頁)と記載されており、したがって、「Alが鉄スクラップに残存し、鋳鉄にも残存すること」が記載されていると認められる。

(ク)甲第9号証(特開昭63-224859号公報)には、「〔従来の技術〕・・・遠心鋳造法による複合ロールの製造方法には、・・・外層溶湯を鋳込み、外層溶湯鋳込み中または鋳込み終了直後にフラックスを添加し、・・・複合ロールを得るものである。」(第1頁左下欄第15行?右下欄第1行)、「金型8に外層10を形成し、酸化防止用フラックス12を散布し」(第1頁右下欄第12?14行)と記載されており、「鋳造中又は鋳造直後にフラックスを添加して、複合ロールを得ること」が記載されていると認められる。

(ケ)甲第10号証(鋳造工学、第79巻(2007)第8号、459-464頁、鋳鉄溶湯におけるほう素の無害化と除去技術)には、「溶湯中のBが数10ppmである場合、酸化鉄やCaO等の添加によってBが除去できる可能性は、熱力学的には少ない。」(第463頁右下欄第10行?第464頁左上欄第1行)と記載されている。

(3)当審の判断
ア 特許法第29条第2項について
(ア)本件発明1と引用発明との対比
重量と質量は比例関係にあることから、引用発明の「重量%」の具体的数値は、本件発明1に係る発明の「質量%」の具体的な数値に相当する。
また、引用発明の「C:2.91%」、「Si:1.6%」、「Mn:0.85%」、「Ni:4.15%」、「Cr:1.94%」、「V:3.25%」は、それぞれ、本件発明1の「C:2.2%?3.01%」、「Si:1.0%?3.0%」、「Mn:0.3%?2.0%」、「Ni:3.0%?7.0%」、「Cr:0.5%?2.5%」、「V:2.5%?5.0%」に相当する。

引用発明の「NbとTaとの合計(少なくとも1つを含む):0.27%」は、Nbを選択的に重量%で0%?0.27%含むことを意味するので、本件発明1の「Nb:0%を越えて0.5%以下」に相当する。
引用発明のNbのVに対する比の値は、最大で0.27/3.25(=0.083)であることから、かかる事項と本件発明1の条件(a)とは相当関係が成り立つ。
引用発明において、2.1×C%+1.2×Si%-Cr%+0.5×Mo%+(V%+Nb%/2)を算出すると、少なくとも10.051%、多くとも10.186%となり、かかる事項と本件発明1の条件(b)とは相当関係が成り立つ。

以上より、両発明は以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「外層を有する遠心力鋳造製圧延用複合ロールであって、
前記外層は、質量%にて、C:2.2%?3.01%、Si:1.0%?3.0%、Mn:0.3%?2.0%、Ni:3.0%?7.0%、Cr:0.5%?2.5%、V:2.5%?5.0%、Nb:0%を越えて0.5%以下、残部Fe及び不可避的不純物であって、
条件(a):Nb%/V%<0.1、
条件(b):2.1×C%+1.2×Si%-Cr%+0.5×Mo%+(V%+Nb%/2)≦13.0%
を満足する、圧延用複合ロール。」

(相違点)
(相違点1)(下線は請求人が付与)
本件発明1の外層のMo質量%は、「Mo:1.55%?3.0%」であるのに対して、引用発明の外層のMo重量%は1.42%である点。

(相違点2)
本件発明1は、不可避的不純物としてAlを含むかどうか不明であるのに対して、引用発明は、Alを含有している点で一応相違する。

(イ)相違点についての判断
甲第1号証には相違点1に係る構成について記載や示唆がされていないこと、また、甲第2号証?甲第10号証のいずれを参照しても相違点1に係る構成について記載や示唆がされていないことから、引用発明においてMoの含有量を1.42%に代えて、1.55%?3.0%と試みるための動機に欠けるといわざるを得ない。

さらにいえば、甲第1号証の段落[0061]及び[0063]には、「共融カーバイドの意図的な形成、したがって衝撃負荷の際のローラ材料の破損の危険の減少のために、重量%における溶融物のクロム及びモリブデンにおける含有量が、・・・ モリブデン 0.20ないし2.6、なるべく0.3ないし0.9の値に調節されると、有利であることがわかった。」(上記(2)ア(ケ)参照。下線は当審にて付与)と記載されており、仮に、引用発明においてMoの含有量を表1記載の「1.42%」から調整しようとすれば、本件発明1のように「1.55%?3.0%」ではなく、「0.3%?0.9%」に調整しようと試みると理解できる。

また、本件特許明細書の段落【0028】に、「Moは、主としてCと結合して晶出セメンタイト中に固溶し、耐摩耗性の向上に寄与する。また、一部は析出炭化物を形成して、基地を強化する作用を有する」とMoの含有量を調整する効果も記載されているが、MoがCと結合して耐摩耗性の向上に寄与することは甲第1号証?甲第10号証のいずれにも記載も示唆も無い(上記(2)ウ参照)。

したがって、相違点2について判断するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証?甲第10号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
本件発明3?5も、本件発明1の上記相違点1にかかる構成と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲第1号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
以上より、本件発明1、3?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

イ 特許法第29条第1項第3号について
上記アのとおり、相違点1について、甲第1号証及び甲2号証?甲10号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、本件発明1が甲第1号証または甲第2号証?甲第10号証のいずれかに記載された発明であるとはいえないことは明白である。
本件発明3?5も、本件発明1の上記相違点1にかかる構成と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲第1号証または甲第2号証?甲第10号証のいずれかに記載された発明であるとは認められない。
以上より、本件発明1、3?5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるということはできない。

ウ 特許異議申立人の意見について
(ア)訂正要件について
特許異議申立人は、訂正の請求により追加された「Mo:1.55%?3.0%」なる事項は、条件(b)との関係において別の意味を表すものとなり、実質上特許請求の範囲を変更するものであり、訂正事項1は特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の要件に違背していると主張する。
しかしながら、上記2(2)で示したとおり、訂正事項1は、請求項1のMo質量%の下限値について、「1.0%」を、特許明細書の段落【0046】における【表1】中の発明例6のMo質量%である「1.55%」を下限値とするものであり、特許明細書等に記載された事項の範囲内において、Mo質量%を限定したものといえるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。条件(b)は左辺の和の上限を規定するものであるが、当該左辺に含まれる物質の含有量については、各物質の性質に照らして好適な含有量が検討されるところ、左辺の和の上限が規定されていることをもって必ずしも当該左辺に含まれる物質の含有量は全て小さい方が望ましいということにはならないのは当然であり、当該左辺に含まれる物質の下限値を増加する訂正は実質上特許請求の範囲を変更するものであるということはできない。

(イ)特許法第29条第2項について
特許異議申立人は、訂正の請求により追加された「Mo:1.55%?3.0%」について、本件特許明細書の段落【0046】の【表1】において、Mo値が最も小さいのは発明例13であり、Mo値1.48%であることから、発明例6を根拠にMo値の下限値を1.55%とした数値の臨界的意義が不明であり、特許法第29条第2項の規定に基づく取消理由を有する旨主張している。
しかしながら、【表1】においてWを含有する旨示された発明例13は削除された訂正前の請求項2に対応するものであり、Wの含有量が記載されていない発明例の中では発明例13のMo値が最小であること、少なくとも、発明例13が本件発明1の発明例でないことは明らかであることから、上記主張には理由がない。

また、特許異議申立人は、甲第1号証の図2には、訂正発明1におけるMo量が記載又は示唆されている旨主張しているが、甲第1号証の図2にはMoとCrの濃度比の好適値が示されているのみであり、本件発明1に対応する実施例を開示又は示唆するものではない。

さらに、特許異議申立人は、「審査過程の平成29年10月30日発送の拒絶理由通知書において、『本願の発明の詳細な説明の記載をみても、組成範囲や条件(b)を満たすが、条件(a)を満たさない合金についての比較例は示されていないことから、本願の条件(a)による「Nb%/V%<0.1」なる範囲において、格別な効果を奏するものとは認めることができない。』と記載されているように、格別な効果を奏するものではありません。」と主張しているが、当審は条件(a)(b)のいずれについても、本件発明1と引用発明との一致点と判断しており、相違点に関する判断には関係しないことから、上記主張には理由がない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項2及び請求項2を引用する請求項3?5に記載の「W:0%を越えて3.0%以下」について、ごく僅かにWが含有される場合であってもその効果が奏されるような規定となっており技術的にありえない、技術上の意義が明らかでない、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないと主張し、そして、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張しているが、請求項2は訂正により削除されているため、上記主張には理由がない。

また、特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項3及び請求項3を引用する請求項4?5に記載の「質量%にて、B:0%を越えて0.1%以下を含有する」について、Bがごく僅かに含有される場合であってもその効果が奏されるような規定となっており技術的にありえない、技術上の意義及び臨界的意義が明らかでない、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないと主張し、そして、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。
そこで、本件特許におけるBの含有量の技術的な意義について検討すると、特許明細書の【表1】の発明例1?8には、Bを全く含有していないものが記載されており、発明例9?11には、Bを0.025%?0.049%含有させるものが記載され、段落【0043】には、「また、上記外層は、さらにBを含有させることができる。この場合、0.1%超含有すると機械的性質の低下が著しいため、その上限を0.1%とする。0.05%以下とすることが好ましい。」と記載されている。
特許明細書におけるこれらの記載を総合すると、Bは何らかの有利な効果を期待して積極的に含有させる物質ではなく、Bを含有することで機械的性質が低下する不利益が生じるところ、上限が0.1%までであれば許容されるという技術的な意義を理解できる。
本件特許明細書には、Bを0.1%含有する発明例や、0%を超えて0.025%未満含有する発明例の記載は無いが、0.1%までであれば、機械的性質の低下を許容できることを理解できるから、本件発明3?5は、「MC型炭化物の偏析を抑え、晶出する黒鉛量を調整することで、耐摩耗性、耐肌荒れ性、耐クラック性及び耐事故性にすぐれる外層を具えた圧延用複合ロールを提供する」(段落【0010】)という本件特許の課題を解決しているというべきである。
したがって、本件発明3?5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるから、本件発明3?5に係る特許が、特許法第36条第1号の規定に違反してされたものであるということはできない。
また、発明の詳細な説明の記載からみて、Bの含有量の上限が0.1%であることを理解でき、当業者であれば、本件発明3?5を実施するにあたり、Bの含有量を測定して調整することができるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明3?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって、本件発明3?5に係る特許が、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであるということはできない。

また、以上の他に取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び3?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2に係る特許は、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層を有する遠心力鋳造製圧延用複合ロールであって、
前記外層は、質量%にて、C:2.2%?3.01%、Si:1.0%?3.0%、Mn:0.3%?2.0%、Ni:3.0%?7.0%、Cr:0.5%?2.5%、Mo:1.55%?3.0%、V:2.5%?5.0%、Nb:0%を越えて0.5%以下、残部Fe及び不可避的不純物であって、
条件(a):Nb%/V%<0.1、
条件(b):2.1×C%+1.2×Si%-Cr%+0.5×Mo%+(V%+Nb%/2)≦13.0%
を満足する、ことを特徴とする圧延用複合ロール。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記外層は、さらに、質量%にて、B:0%を越えて0.1%以下を含有する、
請求項1に記載の圧延用複合ロール。
【請求項4】
前記外層は、黒鉛面積率が0.5%?5.0%である、
請求項1又は請求項3に記載の圧延用複合ロール。
【請求項5】
前記外層は、MC型炭化物面積率が4.0%?11.0%である、
請求項1、請求項3又は請求項4に記載の圧延用複合ロール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-25 
出願番号 特願2016-254908(P2016-254908)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B21B)
P 1 651・ 121- YAA (B21B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 酒井 英夫  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 刈間 宏信
齋藤 健児
登録日 2018-03-30 
登録番号 特許第6313844号(P6313844)
権利者 株式会社クボタ
発明の名称 圧延用複合ロール  
代理人 特許業務法人丸山国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 丸山国際特許事務所  
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