ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 発明同一 C22C |
---|---|
管理番号 | 1352300 |
異議申立番号 | 異議2018-700867 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-10-25 |
確定日 | 2019-05-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6316511号発明「磁気ディスク用基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6316511号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔7?14〕について訂正することを認める。 特許第6316511号の請求項1?6、8?14に係る特許を維持する。 特許第6316511号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6316511号の請求項1?14に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2017年(平成29年)4月26日(優先権主張2016年4月27日、2016年5月13日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年4月6日にその特許権の設定登録がなされ、同年4月25日にその特許掲載公報が発行された。 本件は、その後、その特許について、平成30年10月25日に特許異議申立人鈴木晶子(以下、「申立人」という。)により請求項1?14に対して特許異議の申立てがなされ、同年12月21日付けで取消理由が通知され、これに対して、平成31年3月6日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。 なお、本件訂正請求は実質的に請求項の削除のみであるから、申立人に対し、本件訂正請求後の意見は求めなかった。 第2 訂正請求について 1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容 (1)訂正の趣旨 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6316511号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7?14について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。 なお、当審で訂正箇所に下線を付した。 (2)訂正の内容 ア 訂正事項1 請求項7を削除する。 イ 訂正事項2 請求項8について、訂正前の「請求項1?7のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、」を「請求項1?6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、」と訂正する。 ウ 訂正事項3 請求項10について、訂正前の「請求項1?9のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、」を「請求項1?6、8及び9のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、」と訂正する。 エ 訂正事項4 請求項11について、訂正前の「請求項1?7のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、」を「請求項1?6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、」と訂正する。 オ 訂正事項5 請求項13について、訂正前の「請求項1?7のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、」を「請求項1?6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、」と訂正する。 2 当審の判断 (1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無 ア 訂正事項1について 訂正事項1は、請求項7を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、訂正事項1において請求項7を削除することに伴い、本件訂正前の請求項8について、請求項7を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3は、訂正事項1において請求項7を削除することに伴い、本件訂正前の請求項10について、請求項7を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。 エ 訂正事項4について 訂正事項4は、訂正事項1において請求項7を削除することに伴い、本件訂正前の請求項11について、請求項7を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。 オ 訂正事項5について 訂正事項5は、訂正事項1において請求項7を削除することに伴い、本件訂正前の請求項13について、請求項7を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。 カ 以上によれば、訂正事項1?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであり、また、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 (2)独立特許要件 本件は、訂正前の全請求項について特許異議申立がなされているので、訂正事項1?5について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。 (3)一群の請求項について 本件訂正前の請求項8?14は、請求項7を引用するものであるから、本件訂正前の請求項7?14は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、そのような一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔7?14〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。 5 本件訂正請求のむすび 以上のとおり、平成31年3月6日に特許権者が行った本件訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、同法第120条の5第4項の規定に適合し、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、特許請求の範囲の請求項7?14について、結論のとおり訂正することを認める。 第3 特許異議申立について 1 本件発明 平成31年3月6日に特許権者が行った請求項7?14についての訂正は、上記第2で検討したとおり、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?14(以下、これらを請求項数に応じて、それぞれ「本件発明1」?「本件発明14」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 単層のベア材又は3層構造のクラッド材からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、該ベア材のアルミニウム合金組成及び前記クラッド材の心材のアルミニウム合金組成が、0.10質量%以上0.50質量%未満のSi、0.05質量%以上10.00質量%以下のFe、0.10質量%以上15.00質量%以下のMn、及び0.10質量%以上20.00質量%以下のNiのうち1種又は2種以上を含有し、20.00質量%≧Si+Fe+Mn+Ni≧0.20質量%の関係を有し、且つ、0.005質量%以上10.000質量%以下のCu、0.100質量%以上1.000質量%未満のMg、0.010質量%以上5.000質量%以下のCr、及び0.010質量%以上5.000質量%以下のZrからなる群から選択された1もしくは2以上の元素をさらに含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からなり、 金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項2】 0.0001質量%以上0.1000質量%以下のBe をさらに含有する、請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項3】 0.001質量%以上0.100質量%以下のNa、 0.001質量%以上0.100質量%以下のSr、 0.001質量%以上0.100質量%以下のP からなる群から選択された1もしくは2以上の元素をさらに含有する、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項4】 個々の含有量が0.1質量%以上5.0質量%以下のPb、Sn、In、Cd、Bi及びGeからなる群から選択された1もしくは2以上の元素をさらに含有する、請求項1?3のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項5】 0.005質量%以上10.000質量%以下のZn をさらに含有する、請求項1?4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項6】 含有量の合計が0.005質量%以上0.500質量%以下のTi、B及びVからなる群から選択された1もしくは2以上の元素 をさらに含有する、請求項1?5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項7】(削除) 【請求項8】 請求項1?6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、両面に純Al皮膜又はAl-Mg系合金皮膜を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項9】 請求項8に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、前記皮膜の膜厚が10nm以上3000nm以下の皮膜を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項10】 請求項1?6、8及び9のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni-Pめっき処理層とその上の磁性体層を有することを特徴とする磁気ディスク。 【請求項11】 請求項1?6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、鋳造時の冷却速度が0.1?1000℃/sで、前記アルミニウム合金を用いて鋳塊を鋳造する鋳造工程と、前記鋳塊を、400?470℃で0.5時間以上50時間未満で加熱処理を行った後に、更に470℃を超えて630℃未満で1時間以上30時間未満の2段階で加熱処理を行う均質化熱処理工程と、前記鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延板を円環状に打ち抜くディスクブランク打抜き工程と、打ち抜いたディスクブランクを加圧焼鈍する加圧焼鈍工程と、を含む磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。 【請求項12】 前記冷間圧延の前又は途中に圧延板を焼鈍する焼鈍処理工程を更に含む、請求項11に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。 【請求項13】 請求項1?6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、鋳造時の冷却速度が0.1?1000℃/sで、前記アルミニウム合金を用いて心材用鋳塊を鋳造する心材鋳造工程と、純Al又はAl-Mg系合金を用いて皮材用鋳塊を鋳造する皮材鋳造工程と、皮材用鋳塊を均質化処理し、次いで熱間圧延して皮材とする皮材工程と、心材用鋳塊の両面に皮材をそれぞれ合わせて合わせ材とする合わせ材工程と、前記合わせ材を、400?470℃で0.5時間以上50時間未満で加熱処理を行った後に、更に470℃を超えて630℃未満で1時間以上30時間未満の2段階で加熱処理を行う均質化熱処理する均質化熱処理工程と、前記合わせ材を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延板を円環状に打ち抜くディスクブランク打抜き工程と、打ち抜いたディスクブランクを加圧焼鈍する加圧焼鈍工程と、を含む磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。 【請求項14】 前記冷間圧延の前又は途中に圧延板を焼鈍する焼鈍処理工程を更に含む、請求項13に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。」 2 平成30年12月21日付けで通知された取消理由の概要 (1)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について ア 本件発明1の「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」との発明特定事項は明確でないから、本件発明1は、不明確であり、また、本件発明1を引用する本件発明2?17も不明確である。 よって、請求項1?14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許異議申立書(「以下、「申立書」という。)第7頁第17行?第9頁第6行) イ 本件発明7の「表面の結晶粒径の平均値が70μm以下である」との発明特定事項は明確でないから、本件発明7は、不明確であり、また、本件発明7を引用する本件発明8?14も不明確である。 よって、請求項7?14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(申立書第10頁第5?21行、なお、申立理由ではサポート要件違反であったが、取消理由通知では、条文を変更して通知した(下記3の(1)のイ参照。)。) 3 平成30年12月21日付けの取消理由で通知されなかった特許異議申立理由 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について ア 本件発明1の「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」との発明特定事項は、本件発明の課題を解決し得るものではないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないし、また、本件発明1を引用する本件発明2?17も発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 よって、請求項1?14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(申立書第9頁第8行?第10頁第4行) イ 本件発明7の「表面の結晶粒径の平均値が70μm以下である」との発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件発明7は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないし、また、本件発明7を引用する本件発明8?14も発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 よって、請求項7?14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(申立書第10頁第5?21行) (2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について ア 本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、本件発明1の「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」との発明特定事項を得るための、添加元素の含有量、製造プロセスのパラメータが記載されていないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?14に係る発明について実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 よって、請求項1?14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(申立書第10頁最後から4行?第12頁第13行) イ 本件明細書の実施例の記載によれば、「添加元素の含有量」や「均質化熱処理の条件」が「第二相粒子の周囲長」と関係しているか否かが不明であって、本件発明1の「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」との発明特定事項を得るために、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?14に係る発明について実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 よって、請求項1?14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(申立書第12頁第14行?第13頁最終行) (3)特許法第29条第2項(進歩性)について 本件特許の請求項1?14に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記ア、イの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(申立書第14頁第6行?第30頁第1行) <刊行物> ア 特開平10-310836号公報(申立人が提出した甲第3号証、以下、「甲3」という。) イ 「アルミニウム材料の基礎と工業技術」第1版、社団法人軽金属協会発行、昭和60年5月1日、第37?41頁(申立人が提出した甲第5号証、以下、「甲5」という。) (4)特許法第29条の2(拡大先願)について 本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に特許出願公開の発行がされた下記ウ、エの特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(申立書第30頁第2行?第45頁第15行) <特許出願> ウ 特願2016-238380号(以下、「甲7出願」という。特開2017-179590号公報(申立人が提出した甲第7号証、以下、「甲7」という。)参照。) エ 特願2016-75126号(以下、「甲10出願」という。特開2017-186597号公報(申立人が提出した甲第10号証、以下、「甲10」という。)参照。) 4 本件明細書の記載 「【発明が解決しようとする課題】 【0011】 しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、設置したエア・スポイラと磁気ディスク用基板との間隔の違いによりフラッタリング抑制効果が異なり、部品精度を必要とし、部品コストの増大を招いている。 また、特許文献2に開示された手段は、従来の磁気記録媒体用アルミニウム合金基板よりも、Ni-Pめっき後の表面欠陥を低減することができる磁気記録媒体用アルミニウム合金基板およびこのアルミニウム合金基板を用いた磁気記録媒体を提供することをその課題とする。しかし、ディスク・フラッタの問題は何ら記載されていない。 さらに、特許文献3に開示された手段は、Ni-Pめっき皮膜の欠陥発生を高水準で抑制できる磁気記録媒体用アルミニウム合金基板を提供することをその課題とする。しかし、ディスク・フラッタの問題は何ら記載されていない。 【0012】 この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ディスク・フラッタの発生が少ない特性を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板を提供することを課題とする。」 「【0033】 (最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上) アルミニウム合金基板の金属組織中に存在する最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上ある場合に、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性の向上、即ち、フラッタリング最大変位を小さくする効果がある。フラッタリング特性の向上は第二相粒子の表面積が増えることによりもたらされると考えられる。これは、気流により発生した振動がディスク中を伝播する過程でアルミニウム合金マトリックスと第二相粒子との界面で吸収されて減衰したためと考えられる。また、フラッタリング最大変位はアルミニウム合金マトリックス中に分散する第二相粒子の表面積に比例すると考えられ、第二相粒子の周囲長の2乗に比例すると考えられる。」 「【0038】 フラッタリング特性はハードディスクドライブのモーター特性にも影響を受ける。本発明の実施形態においては、フラッタリング特性は、空気中では、50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。これ以下であれば一般的なハードディスクドライブ(HDD)向けの使用に耐えうると判断した。 また、フラッタリング特性は、ヘリウム中では、30nm以下であることが好ましい。これ以下であればより高密度な記録容量のハードディスクドライブ向けの使用に耐えうると判断した。 ただし、使用するハードディスクドライブによって異なるため、必要なフラッタリング特性に対して、適宜、第二相粒子の分布状態を決定すれば良い。これらは、以下に述べる添加元素の含有量、鋳造時の冷却速度を含めた鋳造方法、並びに、その後の熱処理と加工による熱履歴及び加工履歴、をそれぞれ適正に調整することによって得られる。」 「【0041】 (ベア材及びクラッド材の心材の組成) 以下、本発明の実施形態に係るAl-Si系、Al-Fe系、Al-Mn系、Al-Ni系又はAl-Si-Fe-Mn-Ni系磁気ディスク用アルミニウム合金基板を構成するベア材及びクラッド材の心材のアルミニウム合金成分及びその含有量について説明する。 【0042】 磁気ディスク用アルミニウム合金基板のフラッタリング特性をさらに向上させるためには、(1)0.10質量%以上0.50質量%未満のSi、0.05質量%以上10.00質量%以下のFe、0.10質量%以上15.00質量%以下のMn、及び0.10質量%以上20.00質量%以下のNiのうち1種又は2種以上の添加元素を含有し、且つ、20.00質量%≧Si+Fe+Mn+Ni≧0.20質量%の関係を有し、さらに、(2)0.005質量%以上10.000質量%以下のCu、0.100質量%以上1.000質量%未満のMg、0.010質量%以上5.000質量%以下のCr、及び0.010質量%以上5.000質量%以下のZr、からなる群から選択される1もしくは2以上の元素を含有する。必要によって、(3)好ましくは0.0001質量%以上0.1000質量%以下のBe、(4)好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のNa、好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のSr、好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のP、からなる群から選択される1もしくは2以上の元素、(5)個々の含有量が好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下のPb、Sn、In、Cd、Bi及びGeからなる群から選択される1もしくは2以上の元素、(6)好ましくは0.005質量%以上10.000質量%以下のZn、並びに/又は(7)含有量の合計が好ましくは0.005質量%以上0.500質量%以下のTi、B及びVからなる群から選択される1もしくは2以上の元素、上記(3)?(7)からなる群から選択される1もしくは2以上の選択元素をさらに含有するアルミニウム合金を用いることもできる。以下これらの添加元素と選択元素を説明する。 【0043】 (シリコン) Siは、主として第二相粒子(Si粒子等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて高いフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のSiの含有量が0.10質量%以上であることによって、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のSiの含有量が0.50質量%未満であることによって、粗大なSi粒子が多数生成することを抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時にSi粒子が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき剥離が生じることを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なSi粒子が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のSiの含有量は、0.10質量%以上0.50質量%未満の範囲である。 【0044】 (鉄) Feは、主として第二相粒子(Al-Fe系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて高いフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のFeの含有量が0.05質量%以上であることによって、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のFeの含有量が10.00質量%以下であることによって、粗大なAl-Fe系化合物子が多数生成することを抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時にAl-Fe系化合物粒子が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき剥離が生じることを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なAl-Fe系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のFeの含有量は、0.05質量%以上10.00質量%以下の範囲であり、0.50質量%以上5.00質量%以下の範囲が好ましい。 【0045】 (マンガン) Mnは、主として第二相粒子(Al-Mn系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて高いフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のMnの含有量が0.10質量%以上であることによって、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のMnの含有量が15.00質量%以下であることによって、粗大なAl-Mn系化合物子が多数生成することを抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時にAl-Mn系化合物粒子が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき剥離が生じることを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なAl-Mn系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のMnの含有量は、0.10質量%以上15.00質量%以下の範囲であり、0.50質量%以上5.00質量%以下の範囲が好ましい。 【0046】 (ニッケル) Niは、主として第二相粒子(Al-Ni系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて高いフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のNiの含有量が0.10質量%以上であることによって、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のNiの含有量が20.00質量%以下であることによって、粗大なAl-Ni系化合物子が多数生成することを抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時にAl-Ni系化合物粒子が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき剥離が生じることを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なAl-Ni系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のNiの含有量は、0.10質量%以上20.00質量%以下の範囲であり、0.50質量%以上10.00質量%以下の範囲が好ましい。 【0047】 (20.00質量%≧Si+Fe+Mn+Ni≧0.20質量%) 本発明においては、Si、Fe、Mn及びNiのうち1種または2種以上をそれぞれ前述の所定の量で含有すると共に、20.00質量%≧Si+Fe+Mn+Ni≧0.20質量%の関係式を満足することで、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある。先述の関係式を満足することで、マトリックス中に第二相粒子が多数存在し、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて高いフラッタリング特性が得られる。そのため、アルミニウム合金中のSi+Fe+Mn+Niは、20.00質量%以下、且つ、0.20質量%以上の範囲であり、0.40質量%以上が好ましい。 【0048】 (銅) Cuは、主として第二相粒子(Al-Cu系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある。また、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させる。またジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、次工程のめっきの平滑性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のCuの含有量が0.005質量%以上であることによって、フラッタリング特性向上の効果と平滑生を向上させる効果とを一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のCuの含有量が10.000質量%以下であることによって、粗大なAl-Cu系化合物の多数生成を抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時にAl-Cu系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき剥離が生じることを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なAl-Cu系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、Cuの含有量が10.000質量%以下であることによって、圧延が容易となる。そのため、アルミニウム合金中のCuの含有量は、0.005質量%以上10.000質量%以下の範囲が好ましく、0.005質量%以上0.400質量%以下の範囲がより好ましい。 【0049】 (マグネシウム) Mgは、主として第二相粒子(Mg-Si系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のMgの含有量が0.100質量%以上であることによって、フラッタリング特性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のMgの含有量が1.000質量%未満であることによって、粗大なMg-Si系化合物が多数生成することを抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時にMg-Si系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき剥離が生じることを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なMg-Si系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、Mgの含有量が1.000質量%未満であることによって、圧延が容易となる。そのため、アルミニウム合金中のMgの含有量は、0.100質量%以上1.000質量%未満の範囲であり、0.300質量%以上1.000質量%未満の範囲が好ましい。 【0050】 (クロム) Crは、主として第二相粒子(Al-Cr系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のCrの含有量が0.010質量%以上であることによって、フラッタリング特性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のCrの含有量が5.000質量%以下であることによって、粗大なAl-Cr系化合物が多数生成することを抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時にAl-Cr系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき剥離が生じることを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なAl-Cr系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、Crの含有量が5.000質量%以下であることによって、圧延が容易となる。そのため、アルミニウム合金中のCrの含有量は、0.010質量%以上5.000質量%以下の範囲が好ましく、0.100質量%以上2.000質量%以下がより好ましい。 【0051】 (ジルコニウム) Zrは、主として第二相粒子(Al-Zr系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のZrの含有量が0.010質量%以上であることによって、フラッタリング特性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のZrの含有量が5.000質量%以下であることによって、粗大なAl-Zr系化合物が多数生成することを抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時にAl-Zr系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき剥離が生じることを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なAl-Zr系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、Zrの含有量が5.000質量%以下であることによって、圧延が容易となる。そのため、アルミニウム合金中のZrの含有量は、0.010質量%以上5.000質量%以下の範囲が好ましく、0.100質量%以上2.000質量%以下がより好ましい。 【0052】 (ベリリウム) Beは、他の添加元素と第二相粒子を形成し、フラッタリング特性を向上させる効果がある。そのため、アルミニウム合金中に、好ましくは0.0001質量%以上0.1000質量%以下のBeを選択的に添加されてもよい。但し、Beが0.0001質量%未満では、上記の効果が得られない。一方、Beが0.1000質量%を超過して含有してもその効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。また、Beの含有量は、0.0003質量%以上0.0250質量%以下の範囲がより好ましい。 【0053】 (ナトリウム、ストロンチウム、リン) Na、Sr及びPは、アルミニウム合金基板中の第二相粒子(主にSi粒子)を微細化し、めっき性を改善する効果が得られる。また、アルミニウム合金基板中の第二相粒子のサイズの不均一性を小さくし、アルミニウム合金基板中のフラッタリング特性のバラつきを低減させる効果がある。そのため、アルミニウム合金中に、好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のNa、好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のSr、及び好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のPからなる群から選択された1又は2以上の元素を選択的に添加されてもよい。但し、Na、Sr及びPのそれぞれが0.001質量%未満では、上記の効果が得られない。一方、Na、Sr及びPのそれぞれが0.100質量%を超過して含有してもその効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。また、Na、Sr及びPを添加する場合のNa、Sr及びPのそれぞれの含有量は、0.003質量%以上0.025質量%以下の範囲がより好ましい。 【0054】 (鉛、スズ、インジウム、カドミウム、ビスマス、ゲルマニウム) Pb、Sn、In、Cd、Bi及びGeは、第二相粒子(Pb、Sn、In、Cd、Bi若しくはGeの粒子、あるいはこれらの化合物)として、アルミマトリックス中に分布する。このような材料に振動を加えると、金属粒子・各化合物相とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて高いフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のPb、Sn、In、Cd、Bi又はGeからなる群から選択された1または2以上の元素の個々の含有量が0.10質量%以上であることによって、フラッタリング特性を向上させる効果を一層得ることができる。Pb、Sn、In、Cd、Bi又はGeからなる群から選択された1または2以上の元素の個々の含有量が5.00質量%以下であることによって、圧延が容易となる。そのため、アルミニウム合金中のPb、Sn、In、Cd、Bi及びGeからなる群から選択された1または2以上の元素の個々の含有量は、0.10質量%以上5.00質量%以下の範囲が好ましく、0.50質量%以上2.00質量%未満がより好ましい。 【0055】 (亜鉛) Znは、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、次工程のめっきの密着性を向上させる効果がある。また、他の添加元素と第二相粒子を形成し、フラッタリング特性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のZnの含有量が0.005質量%以上であることによって、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させる。アルミニウム合金中のZnの含有量が10.000質量%以下であることによって、ベア材の場合、ジンケート皮膜が均一となり、また、めっき剥離が生じることを一層抑制することができる。クラッド材の場合は、基板側面のジンケート皮膜が均一となりめっき密着性が低下することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることをより一層抑制することができる。また、Znの含有量10.000質量%以下であることによって、圧延が容易となる。そのため、アルミニウム合金中のZnの含有量は、0.005質量%以上10.000質量%以下の範囲が好ましく、0.100質量%以上2.000質量%以下の範囲がより好ましい。 【0056】 (チタン、ホウ素、バナジウム) Ti、B及びVは、鋳造時の凝固過程において、第2相粒子(TiB_(2)などのホウ化物あるいはAl_(3)TiやTi-V-B粒子等)を形成し、これらが結晶粒核となるため、結晶粒を微細化することが可能となる。これによりめっき性が改善する。また、結晶粒が微細化することで、第二相粒子のサイズの不均一性を小さくし、アルミニウム合金基板中のフラッタリング特性のバラつきを低減させる効果がある。但し、Ti、B及びVの含有量の合計が0.005質量%未満では、上記の効果が得られない。一方、Ti、B及びVの含有量の合計が0.500質量%を超過してもその効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。そのため、Ti、B及びVを添加する場合のTi、B及びVの含有量の合計は、0.005質量%以上0.500質量%以下の範囲が好ましく、0.005質量%以上0.100質量%以下の範囲がより好ましい。」 「【0074】 つぎに、鋳造されたアルミニウム合金の均質化処理を実施する(ステップS103)。均質化処理は、400?470℃で0.5時間以上50時間未満で加熱処理を行った後に、更に470℃を超えて630℃未満で1時間以上30時間未満の2段階で加熱処理を行うことが好ましい。均質化処理を400?470℃で0.5時間以上50時間未満で加熱処理を行った後に、更に470℃を超えて630℃未満で1時間以上30時間未満の2段階加熱処理とすることによって、最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子が多数生成し、第二相粒子の周囲長の合計が長くなり、フラッタリング特性を向上させる効果を得ることができる。1段目の均質化処理時の加熱温度又は時間が400℃未満又は0.5時間未満だと最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)未満となる可能性があり、十分なフラッタリング特性が得られない可能性がある。1段目の均質化処理時の加熱温度又は時間が470℃越え又は50時間以上だと最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が1000mm/mm^(2)を超える可能性がある。この場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時に第二相粒子が脱落して大きな窪みが発生し、めっき剥離も生じる可能性がある。一方、2段目の均質化処理時の加熱温度又は時間が470℃以下又は1時間未満だと最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)未満となる可能性があり、十分なフラッタリング特性が得られない可能性がある。2段目の均質化処理時の加熱温度又は時間が630℃以上又は30時間以上だと最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が1000mm/mm^(2)を超える可能性がある。この場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時に第二相粒子が脱落して大きな窪みが発生し、めっき剥離も生じる可能性がある。」 「【0082】 本発明の実施形態において、心材と皮材とをクラッドするにあたり、皮材のクラッド率(クラッド材全厚さに対する皮材厚さの比率)は特に限定されるものではないが、必要な製品板強度や平坦度、研削量に応じて適宜定められ、3%以上30%以下とするのが好ましく、5%以上20%以下とするのがより好ましい。 例えば、熱間圧延して板厚15mm程度の皮材とする工程と、心材用鋳塊を面削し板厚270mm程度の心材とし、心材の両面に皮材を合わせて合わせ材とする。」 「【実施例】 【0095】 以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 【0096】 (ベア材の磁気ディスク用アルミニウム合金基板) まず、ベア材の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の実施例について説明する。表1?表3に示す成分組成の各合金素材を常法に従って溶解し、アルミニウム合金溶湯を溶製した(ステップS101)。表1?表3中「-」は、測定限界値以下を示す。 【0097】 【表1】 【0098】 【表2】 【0099】 【表3】 【0100】 つぎに、表4?表6に示すように、合金No.A1?A18、A20、A21、A23?A31、A35?A48、AC1?AC7及びAC9?AC13は、アルミニウム合金溶湯をDC鋳造法により、合金No.A19、A22、A32?A34及びAC8は、アルミニウム合金溶湯をCC鋳造法により、鋳造し鋳塊を作製した(ステップS102)。 【0101】 合金No.A1?A18、A20、A21、A23?A31、A35?A48、AC1?AC7及びAC9?AC13の鋳塊は両面15mmの面削を行った。つぎに、表4?表6に示す条件にて均質化処理を施した(ステップS103)。なお、合金No.A47は、2段目均質化処理後に630?640℃にて5時間保持を行っている。また、合金No.AC11は、380?390℃にて5時間保持を行っている。次に、圧延開始温度370℃、圧延終了温度310℃で熱間圧延を行ない、板厚3.0mmの熱延板とした(ステップS104)。No.A1?A6、A8?A36及びAC1?AC4の合金の熱延板は360℃で2時間の条件で焼鈍(バッチ式)を行った。全ての板材を、冷間圧延(圧延率73.3%)により最終板厚の0.8mmまで圧延し、アルミニウム合金板とした(ステップS105)。前記アルミニウム合金板から外径96mm、内径24mmの円環状に打抜き、ディスクブランクを作製した(ステップS106)。」 「【0104】 【表4】 【0105】 【表5】 【0106】 【表6】 【0107】 〔鋳造時の冷却速度〕 鋳造(ステップS102)後の鋳塊のDAS(Dendrite Arm Spacing)を測定し、鋳造時の冷却速度(℃/s)を算出した。DASは光学顕微鏡により鋳塊厚さ方向の断面組織観察を行い、2次枝法により測定した。測定は、鋳塊の厚さ方向の中央部の断面を用いた。 【0108】 〔第二相粒子の個数と最長径及び周囲長の合計〕 研削加工(ステップS108)後のアルミニウム合金基板断面を光学顕微鏡により400倍で20視野(1視野の面積:0.05mm^(2))観察し、粒子解析ソフトA像くん(商品名、旭化成エンジニアリング(株)社製)を用いて第二相粒子の個数(個/mm^(2))と最長径及び周囲長の合計(mm/mm^(2))の測定を行った。測定は、基板の厚さ方向の中央部の断面を用いた。」 「【0111】 【表7】 【0112】 【表8】 【0113】 【表9】 」 「【0122】 【表16】 【0123】 【表17】 【0124】 【表18】 」 「【0130】 〔心材中の第二相粒子の個数と最長径及び周囲長の合計〕 研削加工(ステップS208)後のアルミニウム合金基板断面(心材部)を光学顕微鏡により400倍で20視野(1視野の面積:0.05mm2)観察し、粒子解析ソフトA像くん(商品名、旭化成エンジニアリング(株)社製)を用いて第二相粒子の個数(個/mm^(2))と最長径及び周囲長の合計(mm/mm^(2))の測定を行った。測定は、基板の厚さ方向の中央部の断面を用いた。」 「【0133】 【表19】 【0134】 【表20】 【0135】 【表21】 」 「【0138】 【表22】 【0139】 【表23】 」 「【0145】 【表25】 【0146】 【表26】 【0147】 【表27】 」 「【0149】 〔第二相粒子の個数と最長径及び周囲長の合計〕 研削加工(ステップS308)後のアルミニウム合金基板断面を光学顕微鏡により400倍で20視野(1視野の面積:0.05mm^(2))観察し、粒子解析ソフトA像くん(商品名、旭化成エンジニアリング(株)社製)を用いて第二相粒子の個数(個/mm^(2))と最長径及び周囲長の合計(mm/mm^(2))の測定を行った。測定は、基板の厚さ方向の中央部の断面を用いた。」 「【0159】 【表34】 【0160】 【表35】 【0161】 【表36】 」 5 各甲号証の記載 (1)甲3の記載 甲3には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。以下、同じ。 「【請求項1】 芯材の片面または両面に皮材をクラッドした磁気ディスク基板用アルミニウム合金クラッド板において、前記皮材がMg2.0?6.0wt%、Cu0.01?0.15wt%、Zn0.05?2.0wt%を含有し、Mn0.01?0.40wt%、Cr0.01?0.30wt%、Zr0.01?0.12wt%、Ni0.01?0.05wt%のうちの1元素または2元素以上を含有し、不純物元素としてSi0.05wt%以下、Fe0.05wt%以下、Ti0.02wt%以下、その他の不純物元素が各々0.02wt%以下で、残部Alからなり、前記芯材がMg、Cu、Znを含有し、Mn、Cr、Zr、Niのうちの1元素または2元素以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなり、前記Mg、Cu、Znの各々の皮材と芯材の含有量の比(皮材/芯材)が0.7?1.3、Cr、Mn、Zr、Niの各々の皮材と芯材の含有量の比が1.3以下、Si、Feの各々の皮材と芯材の含有量の比が1.0以下であることを特徴とするリサイクル性に優れた高容量磁気ディスク基板用アルミニウム合金クラッド板。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、表面の平滑性に優れ、芯材と皮材の境界に段差が生じ難く、発生屑を芯材用原料としてそのままリサイクル(転回)できる磁気ディスク基板用アルミニウム合金板およびその製造方法に関する。」 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、無電解めっき皮膜が薄くても表面が平滑で、芯材と皮材の境界に段差が生じ難く、発生屑を芯材用原料としてそのまま転回でき、安価な磁気ディスク基板用アルミニウム合金板およびその製造方法を提供することを目的とする。」 「【0011】以下に本発明クラッド板の合金元素について説明する。先ず、皮材の合金元素について説明する。Mgは切削性および研削性を改善して表面品質を高める。その含有量を2.0?6.0wt%に規定した理由は、2.0wt%未満ではその効果が十分に得られず、6.0wt%を超えるとAl-Mg系金属間化合物が生成し、また溶解鋳造時の高温酸化によりMgO等の非金属介在物が多量に生成し、マイクロピット等の発生原因になるためである。Mgの特に望ましい含有量は、切削性、研削性、製造の容易さなどの兼ね合いから2.0?5.0wt%である。」 「【0021】 【実施例】以下に本発明を実施例により詳細に説明する。表1に示す組成の皮材および芯材を用いて合わせ材を作製し、この合せ材を500℃に再加熱後、圧延開始温度470℃で種々の厚さに熱間圧延し、次いで厚さ0.82mmに冷間圧延し、これを所定の寸法に切断し、素洗いしてクラッド率約10%の片面クラッド板を製造した。熱間圧延後、中間焼鈍後、最終焼鈍後の各冷却速度、冷間圧延での圧延率は種々に変化させた。 【0022】前記皮材と芯材は下記のようにして製造した。 皮材:常法にて鋳造した厚さ30mmの鋳塊を片面5mmずつ切削し、これを均質化処理(450℃×2時間+520℃×2時間)後、厚さ5mmの板材に熱間圧延し(圧延開始温度470℃、終了温度230℃、冷却速度20℃/時間)、この板材を所定の寸法に切断し、素洗い〔湯洗→3%硝酸デスマット(1分)→5%苛性ソーダ(5分)→3%硝酸デスマット(1分)→湯洗〕した。 芯材:常法にて鋳造した厚さ60mmの鋳塊を均質化処理(450℃×2時間+520℃×2時間)後、片面10mmずつ切削して厚さ40mmにした。なお合わせ材の素洗いは前記皮材の素洗いと同じ条件で行った。 【0023】次いで、前記厚さ0.82mmのクラッド板から直径96mm、内径24mmのドーナツ板を打抜き、340℃で4時間焼鈍後、グラインディング加工、表面処理、無電解めっきを行った。なお、表面処理は、アセトンで脱脂→5%NaOH水溶液(40℃)に30秒間浸漬してエッチングし、次いで30%硝酸水溶液(室温)で30秒間デスマットし、次いでアーブ302ZN(商標名、奥野製薬)を用いてダブルジンケート処理し、次いでナイクラッド719(商標名、奥野製薬)を用いてNi-Pを17μm厚さに無電解めっきし、次いで羽布により仕上げ研磨(研磨量4μm)して行った。」 「【0025】 【表1】 」 (2)甲3発明 ア 上記(1)には、「磁気ディスク基板用アルミニウム合金板およびその製造方法」について、記載されている。 イ 上記(1)の【0021】には、「皮材および芯材を用いて合わせ材を作製」したことが記載されている。 ウ 上記(1)の【0022】には、「芯材」の製造は、「常法にて鋳造した厚さ60mmの鋳塊を均質化処理(450℃×2時間+520℃×2時間)後、片面10mmずつ切削して厚さ40mmにした」ことが記載されている。 エ 上記(1)の【0025】の【表1】から、本発明合金Aの芯材の化学組成(重量%)について、Siが0.150、Feが0.190、Cuが0.040、Mnが0.040、Mgが3.80、Crが0.060、Znが0.12であることが読み取れる。 オ 上記(1)の請求項1の「磁気ディスク基板用アルミニウム合金板」は、皮材がMg、Cu、Znを含有し、Mn、Cr、Zr、Niのうちの1元素または2元素以上を含有し、不純物元素としてSi、Fe、Ti、その他の不純物元素を含有し、残部Alからなり、また、芯材がMg、Cu、Znを含有し、Mn、Cr、Zr、Niのうちの1元素または2元素以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなるものであり、これらの具体的な元素は、Mg、Cu、Zn、Mn、Cr、Zr、Ni、Si、Fe、Tiの10種類とAlであって、該10種類の元素は上記(1)の【0025】の【表1】に示された元素と一致するから、上記エの本発明合金Aの芯材の化学組成(重量%)は、【表1】に示されたものに加えて、残部がAlと不可避不純物からなると解される。 カ 上記ア?オより、甲3の本発明合金Aに注目すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「皮材および芯材を用いた合わせ材からなる磁気ディスク基板用アルミニウム合金板であって、 芯材の化学組成(重量%)は、Siが0.150、Feが0.190、Cuが0.040、Mnが0.040、Mgが3.80、Crが0.060、Znが0.12であって、残部がAlと不可避不純物であり、 芯材を、常法にて鋳造した厚さ60mmの鋳塊を均質化処理(450℃×2時間+520℃×2時間)後、片面10mmずつ切削して厚さ40mmにして製造した、 磁気ディスク基板用アルミニウム合金板。」 キ また、上記カの「磁気ディスク基板用アルミニウム合金板」は、磁気ディスク基板を製造することが前提のものであるから、上記ア?オより、甲3には、次の発明(以下、「甲3ディスク発明」という。)が記載されていると認められる。 「甲3発明の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板を用いた磁気ディスク基板。」 ク さらに、上記ア?オより、甲3には、次の発明(以下、「甲3方法発明」という。)が記載されていると認められる。 「甲3発明の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法。」 (3)甲7の記載 甲7には、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクおよび磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートに関する。」 「【実施例】 【0045】 次に、本発明の効果を奏する実施例とそうでない比較例を対比して本発明に係るブランクおよびサブストレートについてより詳細に説明する。 表1のNo.1?27に示す化学組成(質量%)のAl合金を用い、No.1?16、24?27に係るサブストレートを以下のようにして製造した。なお、No.17?23は、熱間割れが生じたため、サブストレートを製造できなかった(表2参照)。ここで、表1中の「?」は該当する成分を添加しておらず、検出限界値未満であることを示し、下線は本発明の要件を満たしていないことを示している。また、表1の「Fe,Mn,Niの合計量」の算出にあたり、「?」で示されているFe、Mn、Niの各含有量は0質量%として計算を行った。 【0046】 サブストレートは、鋳造工程、均質化熱処理工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、打ち抜き工程、矯正焼鈍工程、端面加工工程、鏡面加工工程をこの順で行って製造した。各工程の具体的な条件は以下のとおりである。 【0047】 鋳造工程は、750℃で材料を溶解し、鋳造した。得られた鋳塊は、2mm/片面の面削を行った。 均質化熱処理工程は、No.1?23については540℃で8時間行い、No.24?27については450℃で8時間行い、炉から取り出した後に5分以内に熱間圧延を開始した。 熱間圧延工程は、No.1?23については開始温度を520?540℃とし、終了温度を300?330℃とし、圧延後の板厚は3mmとなるように行った。No.24?27については開始温度を430?450℃とし、終了温度を300?330℃とし、圧延後の板厚は3mmとなるように行った。なお、この熱間圧延工程で熱間割れが生じたもの(No.17?23)については、表面に占める金属間化合物の面積率と、表面に占める単体SiおよびMg-Si系金属間化合物の面積率の合計と、を調べるため、割れていない部分を用いて研磨し、後記するようにして金属間化合物の面積率などを測定した。なお、熱間圧延後の熱間圧延板を測定しても矯正焼鈍後のブランクを測定しても、金属間化合物の面積率の値は変わらない。 【0048】 冷間圧延工程は、圧延後の板厚が1mmとなるように行った。 打ち抜き工程は、冷間圧延板から、内径24mm、外径96mmの円環状(3.5インチHDDの寸法に相当)に基板を打ち抜いた。 矯正焼鈍工程は、高平坦度のスペーサ間に円環状の基板を積み付けし、全体を加圧しながら焼鈍することにより行った。焼鈍温度は400℃とし、焼鈍時間は3時間とした。また、矯正焼鈍を行う際の昇温速度および高温速度は共に80℃/時間とした。鋳造工程から矯正焼鈍工程までを行うことでブランクを製造した。 次いで、端面加工工程は、ブランクの内径と外径を各1mmずつ切削加工した。 そして、鏡面加工工程は、両面研削機に予めセットされたキャリアのポケット内に前記した端面加工後のブランクをセットし、PVA砥石(日本特殊研砥株式会社製 4000番)により目標の板厚になるまで研削加工(鏡面加工)した。この鏡面加工工程を行うことでサブストレートを製造した。」 「【0056】 【表1】 」 (4)甲7発明 ア 上記(3)には、「磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート」について記載されている。 イ 上記(3)の【0056】の【表1】から、No.17が、化学組成(重量%)について、Mgが0.10、Siが0.10、Feが4.0、Mnが4.2、Niが4.1、Fe、Mn、Niの合計量が12.3、残部がAl及び不可避不純物であることが読み取れる。 ウ 上記(3)の【0045】及び【0046】には、No.17のAl合金を用い、鋳造工程、均質熱処理工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、打ち抜き工程、矯正焼鈍工程、端面加工工程、鏡面加工工程をこの順に行って、磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを作製したことが記載されている。 エ 上記(3)の【0047】には、No.17のAl合金の鋳造工程は、750℃で材料を溶解し、鋳造したことが記載されている。 オ 上記(3)の【0047】には、No.17のAl合金の均質熱処理工程は、540℃で8時間行ったことが記載されている。 カ 上記ア?オより、甲7のNo.17のAl合金に注目すると、甲7には、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。 「化学組成(重量%)で、Mgが0.10、Siが0.10、Feが4.0、Mnが4.2、Niが4.1、Fe、Mn、Niの合計量が12.3、残部がAl及び不可避不純物であるAl合金を用い、鋳造工程、均質熱処理工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、打ち抜き工程、矯正焼鈍工程、端面加工工程、鏡面加工工程をこの順に行って作製した磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートであって、 上記鋳造工程は、750℃で材料を溶解し、鋳造し、 上記均質熱処理工程は、540℃で8時間行った、 磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート。」 キ また、上記カの「磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート」は、磁気ディスクサブストレートを製造することが前提のものであるから、上記ア?オより、甲7には、次の発明(以下、「甲7ディスク発明」という。)が記載されていると認められる。 「甲7発明の磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを用いた磁気ディスク基板。」 ク なお、申立書(第32頁第14行?第33頁第2行)では、甲7のNo.2のAl合金に注目して、甲7に記載された発明を特定しているが、No.2のAl合金のSi含有量は0.02重量%であり、Al合金の組成が本件発明1の範囲に含まれないものであるから、ここでは、Al合金の組成が本件発明1の範囲に含まれるNo.17のAl合金に注目して、甲7発明を認定した。 (5)甲10の記載 甲10には、次の記載がある。 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクおよび磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートに関する。」 「【実施例】 【0046】 次に、本発明の効果を奏する実施例とそうでない比較例を対比して本発明に係るブランクおよびサブストレートについてより詳細に説明する。 表1のNo.1?33に示す化学組成(質量%)のAl合金を用い、No.1?15、30?33に係るサブストレートを以下のようにして製造した。なお、No.16?29は、熱間割れが生じたため、サブストレートを製造できなかった(表2参照)。ここで、表1中の「?」は該当する成分を添加しておらず、検出限界値未満であることを示し、下線は本発明の要件を満たしていないことを示している。また、表1の「Fe,Mn,Niの合計量」および「Cr,Ti,Zrの合計量」の算出にあたり、「?」で示されている含有量は0質量%として計算を行った。 【0047】 サブストレートは、鋳造工程、均質化熱処理工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、打ち抜き工程、矯正焼鈍工程、端面加工工程、鏡面加工工程をこの順で行って製造した。各工程の具体的な条件は以下のとおりである。 【0048】 鋳造工程は、750℃で材料を溶解し、鋳造した。得られた鋳塊は、2mm/片面の面削を行った。 均質化熱処理工程は、No.1?29については540℃で8時間行い、No.30?33については450℃で8時間行い、炉から取り出した後に5分以内に熱間圧延を開始した。 熱間圧延工程は、No.1?29については開始温度を520?540℃とし、終了温度を300?330℃とし、圧延後の板厚は3mmとなるように行った。No.30?33については開始温度を430?450℃とし、終了温度を300?330℃とし、圧延後の板厚は3mmとなるように行った。なお、この熱間圧延工程で熱間割れが生じたもの(No.16?29)については、表面に占める金属間化合物の面積率と、表面に占める単体SiおよびMg-Si系金属間化合物の面積率の合計と、を調べるため、割れていない部分を用いて研磨し、後記するようにして金属間化合物の面積率などを測定した。なお、金属間化合物の面積率の値は、熱間圧延後の熱間圧延板を測定しても矯正焼鈍後のブランクを測定しても変わらない。 【0049】 冷間圧延工程は、圧延後の板厚が1mmとなるように行った。 打ち抜き工程は、冷間圧延板から、内径24mm、外径96mmの円環状(3.5インチHDDの寸法に相当)に基板を打ち抜いた。 矯正焼鈍工程は、高平坦度のスペーサ間に円環状の基板を積み付けし、全体を加圧しながら焼鈍することにより行った。焼鈍温度は400℃とし、焼鈍時間は3時間とした。また、矯正焼鈍を行う際の昇温速度および高温速度は共に80℃/時間とした。鋳造工程から矯正焼鈍工程までを行うことでブランクを製造した。 次いで、端面加工工程は、ブランクの内径と外径を各1mmずつ切削加工した。 そして、鏡面加工工程は、両面研削機に予めセットされたキャリアのポケット内に前記した端面加工後のブランクをセットし、PVA砥石(日本特殊研砥株式会社製 4000番)により目標の板厚になるまで研削加工(鏡面加工)した。この鏡面加工工程を行うことでサブストレートを製造した。」 「【0057】 【表1】 」 (6)甲10発明 ア 上記(5)には、「磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート」について記載されている。 イ 上記(5)の【0057】の【表1】から、No.10として、化学組成(重量%)について、Mgが0.11、Siが0.09、Feが0.7、Mnが0.7、Niが0.7、Fe、Mn、Niの合計量が2.1、Crが0.5、Cr、Ti、Zrの合計量が0.5、残部がAl及び不可避不純物であることが読み取れる。 ウ 上記(5)の【0046】及び【0047】には、No.10のAl合金を用い、鋳造工程、均質熱処理工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、打ち抜き工程、矯正焼鈍工程、端面加工工程、鏡面加工工程をこの順に行って、磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを作製したことが記載されている。 エ 上記(5)の【0048】には、No.10のAl合金の鋳造工程は、750℃で材料を溶解し、鋳造したことが記載されている。 オ 上記(5)の【0048】には、No.10のAl合金の均質熱処理工程は、540℃で8時間行ったことが記載されている。 カ 上記ア?オより、甲10のNo.10のAl合金に注目すると、甲10には、次の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されていると認められる。 「化学組成(重量%)で、Mgが0.11、Siが0.09、Feが0.7、Mnが0.7、Niが0.7、Fe、Mn、Niの合計量が2.1、Crが0.5、Cr、Ti、Zrの合計量が0.5、残部がAl及び不可避不純物であるAl合金を用い、鋳造工程、均質熱処理工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、打ち抜き工程、矯正焼鈍工程、端面加工工程、鏡面加工工程をこの順に行って作製した磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートであって、 上記鋳造工程は、750℃で材料を溶解し、鋳造し、 上記均質熱処理工程は、540℃で8時間行った、 磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート。」 キ また、上記カの「磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート」は、磁気ディスクサブストレートを製造することが前提のものであるから、上記ア?オより、甲10には、次の発明(以下、「甲10ディスク発明」という。)が記載されていると認められる。 「甲10発明の磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを用いた磁気ディスク基板。」 6 当審の判断 (1)上記2の(1)のアについて ア 請求項1に係る発明は、「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」との発明特定事項を含むものである。 イ 一方、本件明細書の実施例には、「研削加工(ステップS108)後のアルミニウム合金基板断面を光学顕微鏡により400倍で20視野(1視野の面積:0.05mm^(2))観察し、粒子解析ソフトA像くん(商品名、旭化成エンジニアリング(株)社製)を用いて第二相粒子の個数(個/mm^(2))と最長径及び周囲長の合計(mm/mm^(2))の測定を行った。測定は、基板の厚さ方向の中央部の断面を用いた」(【0108】)、「研削加工(ステップS208)後のアルミニウム合金基板断面(心材部)を光学顕微鏡により400倍で20視野(1視野の面積:0.05mm^(2))観察し、粒子解析ソフトA像くん(商品名、旭化成エンジニアリング(株)社製)を用いて第二相粒子の個数(個/mm^(2))と最長径及び周囲長の合計(mm/mm^(2))の測定を行った。測定は、基板の厚さ方向の中央部の断面を用いた」(【0130】)、「研削加工(ステップS308)後のアルミニウム合金基板断面を光学顕微鏡により400倍で20視野(1視野の面積:0.05mm^(2))観察し、粒子解析ソフトA像くん(商品名、旭化成エンジニアリング(株)社製)を用いて第二相粒子の個数(個/mm^(2))と最長径及び周囲長の合計(mm/mm^(2))の測定を行った。測定は、基板の厚さ方向の中央部の断面を用いた」(【0149】)と記載されている。 ウ そして、これらの記載によれば、アルミニウム合金基板(3層構造の場合は心材)の厚さ方向の中央部の断面を光学顕微鏡により400倍で20視野(1視野の面積:0.05mm^(2))観察し、粒子解析ソフトを用いて第二相粒子の最長径及び周囲長の合計(mm/mm^(2))の測定を行ったことが読み取れる。 エ また、特許権者は、平成31年3月6日付けの意見書において、第二相粒子の最長径及び周囲長の合計(mm/mm^(2))の測定において、「光学顕微鏡で観察した視野はアルミニウム合金基板の「厚さ方向の中央部の断面」を観察しました。アルミニウム合金基板の、観察した視野は、より定常性の高い部位の観察を行うために、「基板の厚さ方向の断面を用い」ました。つまり、ご摘示の記載は、「断面が基板に対し垂直な方向(厚さ方向)であること」を意味します」(第3頁第8?13行)と述べている。 オ そして、上記エで述べている、基板の厚さ方向の断面を用いることは、本件明細書の記載に反するものではないし、むしろ、一般的に基板の断面を観察する手法として普通に考え得ることである。 カ そうすると、上記ウ、エより、第二相粒子の最長径及び周囲長の合計(mm/mm^(2))の測定は、アルミニウム合金基板(3層構造の場合は心材)の厚さ方向の中央部の基板に対し、垂直な断面を光学顕微鏡により400倍で20視野(1視野の面積:0.05mm^(2))観察し、粒子解析ソフトを用いてを行ったといえる。 キ そして、上記カの測定方法は明確であるから、同一の「磁気ディスク用アルミニウム合金基板」であれば、統計的な誤差が含まれ得るとしても、「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長」の値は、概ね安定して測定されるものであり、「周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」か否かは明確に判断し得るものといえる。 ク したがって、本件発明1及びその引用発明である本件発明2?6、8?14は、明確である。 (2)上記2の(1)のイについて 請求項7は、上記第2のとおり、本件訂正により削除され、上記2の(1)のイの取消理由の対象が存在しなくなったから、当該取消理由は解消された。 (3)上記3の(1)のアについて ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の記載によれば、「ディスク・フラッタの発生が少ない特性を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板を提供すること」(【0012】)であると認められる。 イ ここで、本件明細書には、「アルミニウム合金基板の金属組織中に存在する最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長」と「ディスク・フラッタの発生」との関係について、「アルミニウム合金基板の金属組織中に存在する最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上ある場合(以下、「周囲長条件」という。)に、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性の向上、即ち、フラッタリング最大変位を小さくする効果がある。フラッタリング特性の向上は第二相粒子の表面積が増えることによりもたらされると考えられる。これは、気流により発生した振動がディスク中を伝播する過程でアルミニウム合金マトリックスと第二相粒子との界面で吸収されて減衰したためと考えられる」(【0033】)と記載されている。 ウ また、本件明細書には、「ベア材及びクラッド材の心材の組成」と「ディスク・フラッタの発生」との関係について、「Siは、主として第二相粒子(Si粒子等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある」(【0043】)、「Feは、主として第二相粒子(Al-Fe系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある」(【0044】)、「Mnは、主として第二相粒子(Al-Mn系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある」(【0045】)、「Niは、主として第二相粒子(Al-Ni系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある」(【0046】)、「20.00質量%≧Si+Fe+Mn+Ni≧0.20質量%の関係式を満足することで、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある」(【0047】)、「Cuは、主として第二相粒子(Al-Cu系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある」(【0048】)、「Mgは、主として第二相粒子(Mg-Si系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある」(【0049】)、「Crは、主として第二相粒子(Al-Cr系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある」(【0050】)、「Zrは、主として第二相粒子(Al-Zr系化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性を向上させる効果がある」(【0051】)、「Beは、他の添加元素と第二相粒子を形成し、フラッタリング特性を向上させる効果がある」(【0052】)、「Na、Sr及びPは、・・・(略)・・・アルミニウム合金基板中の第二相粒子のサイズの不均一性を小さくし、アルミニウム合金基板中のフラッタリング特性のバラつきを低減させる効果がある」(【0053】)、「Pb、Sn、In、Cd、Bi及びGeは、第二相粒子(Pb、Sn、In、Cd、Bi若しくはGeの粒子、あるいはこれらの化合物)として、アルミマトリックス中に分布する。このような材料に振動を加えると、金属粒子・各化合物相とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて高いフラッタリング特性が得られる」(【0054】)、「Znは、・・・(略)・・・他の添加元素と第二相粒子を形成し、フラッタリング特性を向上させる効果がある」(【0055】)、「Ti、B及びVは、鋳造時の凝固過程において、第2相粒子(TiB_(2)などのホウ化物あるいはAl_(3)TiやTi-V-B粒子等)を形成し、これらが結晶粒核となるため、結晶粒を微細化することが可能となる。・・・(略)・・・結晶粒が微細化することで、第二相粒子のサイズの不均一性を小さくし、アルミニウム合金基板中のフラッタリング特性のバラつきを低減させる効果がある」(【0056】)と記載されており、これら全ての構成元素が「ディスク・フラッタの発生」に関係することが記載されている。 エ さらに、本件明細書の実施例の記載について検討すると、本件発明1?6のいずれかの特定事項である「ベア材及びクラッド材の心材の組成」を満たし、かつ、周囲長条件を満たす、実施例18?26、実施例37?43(以上、表7及び表8参照。)、実施例67?74、実施例85?91(以上、表19及び表20参照。)、実施例1-18?1-28、実施例1-37?1-43(以上、表34及び表35参照。)は、フラッタリング特性(各表では、「ディスクフラッタリング」と記載。)が、A(優)またはB(良)となっており、上記アの課題を解決しているといえる。 オ これに対し、本件発明1?6のいずれかの特定事項である「ベア材及びクラッド材の心材の組成」を満たさず、周囲長条件も満たさない、比較例1?13(表9参照)、比較例14?比較例26(表21参照。)、比較例1-1?1-13(表36参照。)は、フラッタリング特性が全てD(劣)であり、上記アの課題を解決しているとはいえないものである。 カ そうすると、上記イより、周囲長条件を満たすことにより、アルミニウム合金基板のフラッタリング特性の向上するとされ、上記ウより、ベア材及びクラッド材の心材の組成がフラッタリング特性に影響を及ぼすとされ、上記エより、本件発明1?6のいずれかの特定事項である「ベア材及びクラッド材の心材の組成」を満たし、かつ、周囲長条件を満たす例が全て良好なフラッタリング特性が得られ、逆に、本件発明1?6のいずれかの特定事項である「ベア材及びクラッド材の心材の組成」を満たさず、周囲長条件も満たさない例は全て良好なフラッタリング特性が得られていないこととなる。 キ したがって、上記カより、本件発明1?6のいずれかの特定事項である「ベア材及びクラッド材の心材の組成」を満たし、かつ、周囲長条件を満たす、本件発明1?6は、上記アの課題を解決し得るものであるといえる。 コ よって、本件発明1?6は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、その発明を引用する本件発明8?14も発明の詳細な説明に記載されたものである。 サ なお、念のため、【実施例】欄に記載された参考例について検討すると、本件発明1?6のいずれかの特定事項である「ベア材及びクラッド材の心材の組成」を満たさないものの、周囲長条件を満たす、参考例1?17、参考例27?36、参考例44?48(以上、表7及び表8参照。)、参考例49?65,参考例74?84、参考例92?96(以上、表19及び表20参照。)、参考例1-1?1-17、参考例1-29?1-36、参考例1-44?1-57(以上、表34及び表35参照。)は、フラッタリング特性が、A(優)、B(良)またはC(可)となっており、D(劣)ではなく、ある程度良好なフラッタリング特性を示しているから、上記アの課題を解決しているといえる。 (4)上記3の(1)のイについて 請求項7は、上記第2のとおり、本件訂正により削除され、上記3の(1)のイの異議申立理由の対象が存在しなくなった。 (5)上記3の(2)のアについて ア 請求項1に係る発明は、「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」との発明特定事項を含むものである。 イ そして、上記アの発明特定事項を得ることについて、本件明細書には、「フラッタリング特性は、」「使用するハードディスクドライブによって異なるため、必要なフラッタリング特性に対して、適宜、第二相粒子の分布状態を決定すれば良い。これらは、以下に述べる添加元素の含有量、鋳造時の冷却速度を含めた鋳造方法、並びに、その後の熱処理と加工による熱履歴及び加工履歴、をそれぞれ適正に調整することによって得られる」(【0038】)と記載されている。すなわち、「第二相粒子の分布状態」は、「添加元素の含有量、鋳造時の冷却速度を含めた鋳造方法、並びに、その後の熱処理と加工による熱履歴及び加工履歴、をそれぞれ適正に調整することによって得られる」と記載されている。 ウ ここで、申立人は申立書(申立書第10頁最後から4行?第12頁第13行)において、「第二相粒子」の分布状態を調整するためには、『Siの含有量』、『Feの含有量』、『Mnの含有量』、『Niの含有量』、『Si+Fe+Mn+Ni』、『Cuの含有量』、『Mgの含有量』、『Crの含有量』、『Zrの含有量』、『鋳造の種類(DC/CC)』、『鋳造時の冷却速度』、『均質化熱処理の温度』、『均質化熱処理の時間』、『熱間圧延の開始温度』、『熱間圧延の終了温度』、『熱間圧延の加工履歴(圧延率等)』、『冷間圧延の加工履歴(圧延率等)』と17ものパラメータが存在し、これらの各パラメータの関係性が不明であるから、当業者が本件発明1の「磁気ディスク用アルミニウム合金基板」を製造しようとしても、多くの試行錯誤をしなければならないのは明白であると主張している。 エ しかしながら、本件明細書の実施例の記載において、『Siの含有量』、『Feの含有量』、『Mnの含有量』、『Niの含有量』、『Si+Fe+Mn+Ni』、『Cuの含有量』、『Mgの含有量』、『Crの含有量』、『Zrの含有量』については、実施例18?26、実施例37?43が表1及び2に、実施例67?74、実施例85?91が表10及び11に、実施例1-18?1-28、実施例1-37?1-43が表22及び23に、それぞれ記載されているし、『鋳造の種類(DC/CC)』及び『均質化熱処理の時間』については、実施例18?26、実施例37?43が表4及び表5に、実施例67?74、実施例85?91が表16及び表17に、実施例1-18?1-28、実施例1-37?1-43が表25及び表26に、それぞれ記載されているし、『鋳造時の冷却速度』については、実施例18?26、実施例37?43が表7及び表8に、実施例67?74、実施例85?91が表19及び表20に、実施例1-18?1-28、実施例1-37?1-43が表34及び表35に、それぞれ記載されているし、『熱間圧延の開始温度』については、「370℃」(【0101】)と記載されているし、『熱間圧延の終了温度』については、「310℃」(【0101】)と記載されているし、『冷間圧延の加工履歴(圧延率等)』については、「73.3%」(【0101】)と記載されている。すなわち、上記ウの17のパラメータのうち、『均質化熱処理の温度』については、1段目が400?470℃で、2段目は470℃超えて630℃未満と温度範囲しか記載されておらず、また、『熱間圧延の加工履歴(圧延率等)』については、特段の記載がないことを除き、15のパラメータについて明確に数値が記載されている。 オ そうすると、『均質化熱処理の温度』については、1段目が400?470℃で、2段目は470℃超えて630℃未満とそれぞれ温度範囲が特定されているし、『熱間圧延の加工履歴(圧延率等)』は、『冷間圧延の加工履歴(圧延率等)』の「73.3%」(【0101】)をある程度参照して設定すればよいから、当業者であれば、上記ウ、エの15のパラメータを設定しつつ、残りの2つのパラメータについては、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1の「磁気ディスク用アルミニウム合金基板」を製造し得ると考えられる。 カ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1について実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。また、本件発明2?6、8?14についても同様である。 (6)上記3の(2)のイについて ア 上記(5)のエでも述べたとおり、「添加元素の含有量」及び「均質化熱処理の条件」のうち、『Siの含有量』、『Feの含有量』、『Mnの含有量』、『Niの含有量』、『Si+Fe+Mn+Ni』、『Cuの含有量』、『Mgの含有量』、『Crの含有量』、『Zrの含有量』、『均質化熱処理の時間』について、本件明細書に記載されている。 イ そして、「添加元素の含有量」や「均質化熱処理の条件」が「第二相粒子の周囲長」とどのように関係しているかが不明であっても、上記(5)でも述べたように、本件明細書の記載から、過度の試行錯誤を要することなしに、本件発明1の「磁気ディスク用アルミニウム合金基板」を製造し得ると考えられる。 ウ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1について実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。また、本件発明2?6、8?14についても同様である。 (7)上記3の(3)について (7)-1 本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 (ア)甲3発明の「皮材および芯材を用いた合わせ材からなる磁気ディスク基板用アルミニウム合金板」と本件発明1の「単層のベア材又は3層構造のクラッド材からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板」とは、「多層構造のクラッド材からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板」で一致する。 (イ)本件発明1は、「単層のベア材又は3層構造のクラッド材からなる」ものであるところ、本件明細書には、「本発明の実施形態において、心材と皮材とをクラッドするにあたり、皮材のクラッド率(クラッド材全厚さに対する皮材厚さの比率)は特に限定されるものではないが、必要な製品板強度や平坦度、研削量に応じて適宜定められ、3%以上30%以下とするのが好ましく、5%以上20%以下とするのがより好ましい」(【0082】、上記4参照。)と心材が皮材よりも相当程度厚いことが記載されているのに対し、甲3発明の「芯材」は「厚さ40mm」であって、「皮材」は「厚さ5mm」(上記5の(1)の【0022】参照。)であるから、甲3発明の「芯材」は、本件発明1の「クラッド材の心材」に相当する。 (ウ)甲3発明の「芯材の化学組成(重量%)は、Siが0.150、Feが0.190、Cuが0.040、Mnが0.040、Mgが3.80、Crが0.060、Znが0.12であって、残部がAlと不可避不純物であ」る事項と、本件発明1の「ベア材のアルミニウム合金組成及び前記クラッド材の心材のアルミニウム合金組成が、0.10質量%以上0.50質量%未満のSi、0.05質量%以上10.00質量%以下のFe、0.10質量%以上15.00質量%以下のMn、及び0.10質量%以上20.00質量%以下のNiのうち1種又は2種以上を含有し、20.00質量%≧Si+Fe+Mn+Ni≧0.20質量%の関係を有し、且つ、0.005質量%以上10.000質量%以下のCu、0.100質量%以上1.000質量%未満のMg、0.010質量%以上5.000質量%以下のCr、及び0.010質量%以上5.000質量%以下のZrからなる群から選択された1もしくは2以上の元素をさらに含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からな」る事項とは、「ベア材または心材のアルミニウム合金組成が、0.150重量%のSi、0.190重量%のFe、特定量のMnを含有し、Si+Fe+Mn+Niが0.380重量%であり、且つ、0.040重量%のCu、特定量のMg、0.060重量%のCrをさらに含有し、アルミニウムと不可避不純物を含有する」事項で共通する。 (エ)上記(ア)?(ウ)より、本件発明1と甲3発明とは、 「多層構造のクラッド材からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、 心材のアルミニウム合金組成が、0.150重量%のSi、0.190重量%のFe、特定量のMnを含有し、Si+Fe+Mn+Niが0.380重量%であり、且つ、0.040重量%のCu、特定量のMg、0.060重量%のCrをさらに含有し、アルミニウムと不可避不純物を含有する、磁気ディスク用アルミニウム合金基板。」で一致し、次のA?Eの相違点で相違する。 (相違点) A 「多層構造のクラッド材からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板」が、本件発明は、「3層構造のクラッド材からなる」ものであるのに対し、甲3発明は、「皮材および芯材を用いた合わせ材からなる」ものである点。 B 「心材のアルミニウム合金組成」の「Mg」含有量について、本件発明1は、「0.100質量%以上1.000質量%未満」であるのに対し、甲3発明は、「3.80」重量%である点。 C 「心材のアルミニウム合金組成」の「Mn」含有量について、本件発明1は、「0.10質量%以上15.00質量%以下」であるのに対し、甲3発明は、「0.040」重量%である点。 D 「心材のアルミニウム合金組成」の「Zn」含有量について、本件発明1は、Znを含まないのに対し、甲3発明は、Znを「0.12」重量%含む点。 E 本件発明1は、「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」のに対し、甲3発明は、「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計」の特定がない点。 イ 判断 (ア)事案に鑑み、まず、上記Bの相違点について検討する。 (イ)甲3には、甲3発明の課題の一つとして、「無電解めっき皮膜が薄くても表面が平滑」な「磁気ディスク基板用アルミニウム合金板およびその製造方法を提供すること」(上記5の(1)の【0005】参照。)が記載されている。 (ウ)そして、甲3には、「Mgは切削性および研削性を改善して表面品質を高める。その含有量を2.0?6.0wt%に規定した理由は、2.0wt%未満ではその効果が十分に得られず、6.0wt%を超えるとAl-Mg系金属間化合物が生成し、また溶解鋳造時の高温酸化によりMgO等の非金属介在物が多量に生成し、マイクロピット等の発生原因になるためである。Mgの特に望ましい含有量は、切削性、研削性、製造の容易さなどの兼ね合いから2.0?5.0wt%である」(上記5の(1)の【0011】参照。)と記載されており、この記載によれば、甲3発明のMgの含有量が2.0wt%未満では、表面品質を高める効果が十分に得られない、すなわち、上記(イ)の課題を解決することができないことが示されている。 (エ)そうすると、Mgが3.80重量%含まれた甲3発明において、Mgの含有量を「0.100質量%以上1.000質量%未満」とすることは、甲3に記載された発明において解決すべき課題を解決できないものとなるから、当業者であっても、容易になし得たこととはいえない。 (オ)次に、念のため、上記Eの相違点について検討する。 (カ)甲3には、本件発明1の「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」事項が記載されていないし、当該事項を示唆する記載もない。 (キ)ここで、申立人は申立書(第21頁第4行?第22頁第8行)において、次の(ク)?(コ)の主張をしている。 (ク)甲3発明の均質化条件は、請求項13に記載された「400?470℃で0.5時間以上50時間未満で加熱処理を行った後に、更に470℃を超えて630℃未満で1時間以上30時間未満の2段階で加熱処理を行う」事項(以下、「条件1」という。)を満たし、また、甲3発明の鋳造時の冷却速度も、技術常識に照らせば、請求項13に記載された「鋳造時の冷却速度が0.1?1000℃/s」である事項(以下、「条件2」という。)を満たす蓋然性が高い。 (ケ)加えて、甲3発明の「芯材」の組成は、本件発明1の「0.10質量%以上0.50質量%未満のSi、0.05質量%以上10.00質量%以下のFe、0.10質量%以上15.00質量%以下のMn、及び0.10質量%以上20.00質量%以下のNiのうち1種又は2種以上を含有し、20.00質量%≧Si+Fe+Mn+Ni≧0.20質量%の関係を有」する事項を満たしている。 (コ)そうすると、上記(ク)及び(ケ)より、甲3発明は、「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」事項(以下、「条件3」という。)を満たすこととなるから、上記Eの相違点は実質的な相違点ではない。 (サ)そこで、上記(ク)?(コ)の主張について検討する。 (シ)請求項13に記載された均質化条件は「合わせ材」に対するものであるが、甲3発明の「芯材」及び「皮材」の均質化条件が、いずれも「450℃×2時間+520℃×2時間」であることから、条件1を満たすものであるといえるし、条件2は、その範囲が非常に広いために、甲3発明の「芯材」も条件2を満たしている可能性も否定できない。 (ス)しかしながら、本件発明1の「ベア材」または「心材」と甲3発明の「芯材」とは、上記B?Dの相違点で示したように、アルミニウム合金組成が異なるものである。 (セ)そして、本件明細書に記載された比較例1?7、13?20、26、1-1?1-7、1-13は、その製造方法が条件1及び条件2を満たすものの、ベア材またはクラッド材の心材の組成が本件発明1?6とは異なるものであって、しかも、それら比較例の全てが条件3を満たさないものであるから、条件1及び条件2を満たすからといって、ベア材またはクラッド材の心材の組成条件を満たさない場合には、直ちに条件3を満たすものとはいえない。 (ソ)そうすると、甲3発明の製造方法が、仮に、条件1及び条件2の双方を満たしていたとしても、本件発明1の「ベア材」または「心材」と甲3発明の「芯材」とは、上記B?Dの相違点で、アルミニウム合金組成が異なるものであるから、必ずしも、条件3を満たすものとはいえない。 (タ)したがって、申立人の主張は当を得ないものである。 (チ)よって、甲3発明が、本件発明1の「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」事項を備えているとはいえないし、甲3発明において、「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」事項とすることは、当業者にとって容易になし得たことともいえない。 (ツ)以上により、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲3発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (7)-2 本件発明2?6、8、9について 本件発明2?6、8、9は請求項1を引用するものであるから、本件発明2?6、8、9と甲3発明とは、少なくとも、上記A?Eの相違点で相違するものであり、上記B及びEの相違点については、上記(7)-1のイで検討したとおりであるから、本件発明2?6、8、9も同様に、当業者が甲3発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (7)-3 本件発明10について 本件発明10は本件発明1を引用するものであり、甲3ディスク発明は甲3発明を引用するものであるから、本件発明10と甲3ディスク発明とは、少なくとも、上記A?Eの相違点で相違するものであり、上記B及びEの相違点については、上記(7)-1のイで検討したとおりであるから、本件発明10も同様に、当業者が甲3ディスク発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (7)-4 本件発明11?14について 本件発明11?14は本件発明1を引用するものであり、甲3方法発明は甲3発明を引用するものであるから、本件発明11?14と甲3方法発明とは、少なくとも、上記A?Eの相違点で相違するものであり、上記B及びEの相違点については、上記(7)-1のイで検討したとおりであるから、本件発明11?14も同様に、当業者が甲3方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (8)上記3の(4)について(甲7を主引例とした場合) (8)-1 本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲7発明とを対比する。 (ア)甲7発明の「磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート」は、単層であるから、本件発明1の「単層のベア材」「からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板」に相当する。 (イ)甲7発明の「磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート」は、「化学組成(重量%)で、Mgが0.10、Siが0.10、Feが4.0、Mnが4.2、Niが4.1、Fe、Mn、Niの合計量が12.3、残部がAl及び不可避不純物であるAl合金を用い、鋳造工程、均質熱処理工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、打ち抜き工程、矯正焼鈍工程、端面加工工程、鏡面加工工程をこの順に行って作製した」ものであって、作製された「磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート」も、原料であるAl合金と同一の組成であると考えられるから、甲7発明の「化学組成(重量%)で、Mgが0.10、Siが0.10、Feが4.0、Mnが4.2、Niが4.1、Fe、Mn、Niの合計量が12.3、残部がAl及び不可避不純物であるAl合金を用い」た事項と、本件発明1の「ベア材のアルミニウム合金組成及び前記クラッド材の心材のアルミニウム合金組成が、0.10質量%以上0.50質量%未満のSi、0.05質量%以上10.00質量%以下のFe、0.10質量%以上15.00質量%以下のMn、及び0.10質量%以上20.00質量%以下のNiのうち1種又は2種以上を含有し、20.00質量%≧Si+Fe+Mn+Ni≧0.20質量%の関係を有し、且つ、0.005質量%以上10.000質量%以下のCu、0.100質量%以上1.000質量%未満のMg、0.010質量%以上5.000質量%以下のCr、及び0.010質量%以上5.000質量%以下のZrからなる群から選択された1もしくは2以上の元素をさらに含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からな」る事項とは、「ベア材のアルミニウム合金組成が、0.10質量%のSi、4.0質量%のFe、4.2質量%のMn、4.1質量%のNiを含有し、Si+Fe+Mn+Ni=12.4質量%の関係を有し、且つ、0.10質量%のMgをさらに含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からな」る事項で重複する。 (ウ)上記(ア)、(イ)より、本件発明1と甲7発明とは、 「単層のベア材からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、 前記ベア材のアルミニウム合金組成が、0.10質量%のSi、4.0質量%のFe、4.2質量%のMn、4.1質量%のNiを含有し、Si+Fe+Mn+Ni=12.4質量%の関係を有し、且つ、0.10質量%のMgをさらに含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からなる、磁気ディスク用アルミニウム合金基板。」で一致し、次のFの相違点で相違する。 (相違点) F 本件発明1は、「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」のに対し、甲7発明は、「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計」の特定がない点。 イ 判断 (ア)上記Fの相違点について検討する。 (イ)甲7には、本件発明1の「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」事項が記載されていない。 (ウ)よって、本件発明1と甲7発明とは同一とはいえない。 (エ)なお、申立人は申立書(第34頁第4行?第36頁第1行)において、次(オ)?(ク)の主張をしている。 (オ)甲7発明の「鋳造工程」の冷却速度は、技術常識に照らせば、条件2を満たす蓋然性が高い。 (カ)また、条件1は、400?470℃の区切りと470℃を超えて630℃未満の区切りにおける、異常に広範な昇温速度範囲を規定しているだけに過ぎないから、現実の製造プロセスの均質化熱処理において、条件1を満たさないような条件は考えがたい。 (キ)さらに、甲7発明は、本件発明1の「ベア材のアルミニウム合金組成及び前記クラッド材の心材のアルミニウム合金組成が、0.10質量%以上0.50質量%未満のSi、0.05質量%以上10.00質量%以下のFe、0.10質量%以上15.00質量%以下のMn、及び0.10質量%以上20.00質量%以下のNiのうち1種又は2種以上を含有し、20.00質量%≧Si+Fe+Mn+Ni≧0.20質量%の関係を有し、且つ、0.005質量%以上10.000質量%以下のCu、0.100質量%以上1.000質量%未満のMg、0.010質量%以上5.000質量%以下のCr、及び0.010質量%以上5.000質量%以下のZrからなる群から選択された1もしくは2以上の元素をさらに含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からな」る事項を満たすものである。 (ク)そうすると、上記(オ)?(キ)より、甲7発明は、本件発明1の「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」事項を含むものであると考えるのが妥当である。 (ケ)そこで、この主張について検討するに、甲7発明の「均質熱処理工程は、540℃で8時間行う」ものであるから、本件発明13のように、「均質化熱処理工程」を「2段階で加熱処理を行う」ものとは明らかに異なるものである。 (コ)そして、本件明細書には、「均質化処理を400?470℃で0.5時間以上50時間未満で加熱処理を行った後に、更に470℃を超えて630℃未満で1時間以上30時間未満の2段階加熱処理とすることによって、最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子が多数生成し、第二相粒子の周囲長の合計が長くなり、フラッタリング特性を向上させる効果を得ることができる。1段目の均質化処理時の加熱温度又は時間が400℃未満又は0.5時間未満だと最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)未満となる可能性があり、十分なフラッタリング特性が得られない可能性がある。1段目の均質化処理時の加熱温度又は時間が470℃越え又は50時間以上だと最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が1000mm/mm^(2)を超える可能性がある。この場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時に第二相粒子が脱落して大きな窪みが発生し、めっき剥離も生じる可能性がある。一方、2段目の均質化処理時の加熱温度又は時間が470℃以下又は1時間未満だと最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)未満となる可能性があり、十分なフラッタリング特性が得られない可能性がある。2段目の均質化処理時の加熱温度又は時間が630℃以上又は30時間以上だと最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が1000mm/mm^(2)を超える可能性がある」(【0074】)と記載されているから、甲7発明は、本件発明1の「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」事項を含むものであると考えるのが妥当であるとの申立人の主張には根拠がない。 (サ)よって、本件発明1は、甲7出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された発明と同一とはいえない。 (8)-2 本件発明2?6、8、9について 本件発明2?6、8、9は本件発明1を引用するものであるから、本件発明2?6、8、9と甲3発明とは、少なくとも、上記Fの相違点で相違するものであり、上記Fの相違点については、上記(8)-1のイで検討したとおり、実質的な相違点であるから、本件発明2?6、8、9も同様に、甲7出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された発明と同一とはいえない。 (8)-3 本件発明10について 本件発明10は本件発明1を引用するものであり、甲3ディスク発明は甲3発明を引用するものであるから、本件発明10と甲3ディスク発明とは、少なくとも、上記Fの相違点で相違するものであり、上記Fの相違点については、上記(8)-1のイで検討したとおり、実質的な相違点であるから、本件発明10も同様に、甲7出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された発明と同一とはいえない。 (9)上記3の(4)について(甲10を主引例とした場合) (9)-1 本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲10発明とを対比する。 (ア)甲10発明の「磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート」は、本件発明1の「単層のベア材」「からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板」に相当する。 (イ)甲10発明の「化学組成(重量%)で、Mgが0.11、Siが0.09、Feが0.7、Mnが0.7、Niが0.7、Fe、Mn、Niの合計量が2.1、Crが0.5、Cr、Ti、Zrの合計量が0.5、残部がAl及び不可避不純物であるAl合金を用い、鋳造工程、均質熱処理工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、打ち抜き工程、矯正焼鈍工程、端面加工工程、鏡面加工工程をこの順に行って作製した」ものであって、作製された「磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート」も、原料であるAl合金と同一の組成であると考えられるから、甲10発明の「化学組成(重量%)で、Mgが0.11、Siが0.09、Feが0.7、Mnが0.7、Niが0.7、Fe、Mn、Niの合計量が2.1、Crが0.5、Cr、Ti、Zrの合計量が0.5、残部がAl及び不可避不純物であるAl合金を用い」た事項と、本件発明1の「ベア材のアルミニウム合金組成及び前記クラッド材の心材のアルミニウム合金組成が、0.10質量%以上0.50質量%未満のSi、0.05質量%以上10.00質量%以下のFe、0.10質量%以上15.00質量%以下のMn、及び0.10質量%以上20.00質量%以下のNiのうち1種又は2種以上を含有し、20.00質量%≧Si+Fe+Mn+Ni≧0.20質量%の関係を有し、且つ、0.005質量%以上10.000質量%以下のCu、0.100質量%以上1.000質量%未満のMg、0.010質量%以上5.000質量%以下のCr、及び0.010質量%以上5.000質量%以下のZrからなる群から選択された1もしくは2以上の元素をさらに含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からな」る事項とは、「ベア材のアルミニウム合金組成が、特定量のSi、0.7質量%のFe、0.7質量%のMn、0.7質量%のNiを含有し、Si+Fe+Mn+Ni=2.19質量%の関係を有し、且つ、0.11質量%のMg、0.5重量%のCrをさらに含有し、残部にアルミニウムと不可避不純物とを含む」事項で共通する。 (ウ)上記(ア)、(イ)より、本件発明1と甲10発明とは、 「単層のベア材からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、 前記ベア材のアルミニウム合金組成が、特定量のSi、0.7質量%のFe、0.7質量%のMn、0.7質量%のNiを含有し、Si+Fe+Mn+Ni=2.19質量%の関係を有し、且つ、0.11質量%のMg、0.5重量%のCrをさらに含有し、残部にアルミニウムと不可避不純物とを含む、磁気ディスク用アルミニウム合金基板。」で一致し、次のG、Hの相違点で相違する。 (相違点) G 「ベア材のアルミニウム合金組成及び前記クラッド材の心材のアルミニウム合金組成」における「Si」含有量が、本件発明1は、「0.10質量%以上0.50質量%未満」であるのに対し、甲10発明は、「0.09」重量%である点。 H 本件発明1は、「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」のに対し、甲7発明は、「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計」の特定がない点。 イ 判断 (ア)事案に鑑み、上記Hの相違点について検討する。 (イ)甲10には、本件発明1の「金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上である」事項が記載されていない。 (ウ)ここで、甲10発明の「均質熱処理工程」は、甲7発明と同様に、「540℃で8時間行う」ものである。 (エ)そうすると、上記(8)の(8)-1のイの(エ)?(コ)で検討した理由と同様の理由により、上記Hの相違点は実質的な相違点であるから、上記Gの相違点について検討するまでもなく、本件発明1と甲10発明とは同一とはいえない。 (オ)よって、本件発明1は、甲10出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された発明と同一とはいえない。 (9)-2 本件発明2?6、8、9について 本件発明2?6、8、9は本件発明1を引用するものであるから、本件発明2?6、8、9と甲10発明とは、少なくとも、上記G、Hの相違点で相違するものであり、上記Hの相違点については、上記(9)-1のイで検討したとおり、実質的な相違点であるから、本件発明2?6、8、9も同様に、甲10出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された発明と同一とはいえない。 (9)-3 本件発明10について 本件発明10は本件発明1を引用するものであり、甲10ディスク発明は甲10発明を引用するものであるから、本件発明10と甲10ディスク発明とは、少なくとも、上記G、Hの相違点で相違するものであり、上記Hの相違点については、上記(9)-1のイで検討したとおり、実質的な相違点であるから、本件発明10も同様に、甲10出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された発明と同一とはいえない。 7 むすび 以上のとおり、本件の請求項1?6、8?14に係る特許は、平成30年12月21日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すべき理由を発見しないし、他に本件の請求項1?6、8?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件の請求項7は、本件訂正により削除されたから、本件特許の請求項7に対して、申立人がした特許異議申立については、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 単層のベア材又は3層構造のクラッド材からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、該ベア材のアルミニウム合金組成及び前記クラッド材の心材のアルミニウム合金組成が、0.10質量%以上0.50質量%未満のSi、0.05質量%以上10.00質量%以下のFe、0.10質量%以上15.00質量%以下のMn、及び0.10質量%以上20.00質量%以下のNiのうち1種又は2種以上を含有し、20.00質量%≧Si+Fe+Mn+Ni≧0.20質量%の関係を有し、且つ、0.005質量%以上10.000質量%以下のCu、0.100質量%以上1.000質量%未満のMg、0.010質量%以上5.000質量%以下のCr、及び0.010質量%以上5.000質量%以下のZrからなる群から選択された1もしくは2以上の元素をさらに含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からなり、 金属組織における最長径4μm以上30μm以下の第二相粒子の周囲長の合計が10mm/mm^(2)以上であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項2】 0.0001質量%以上0.1000質量%以下のBe をさらに含有する、請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項3】 0.001質量%以上0.100質量%以下のNa、 0.001質量%以上0.100質量%以下のSr、 0.001質量%以上0.100質量%以下のP からなる群から選択された1もしくは2以上の元素をさらに含有する、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項4】 個々の含有量が0.1質量%以上5.0質量%以下のPb、Sn、In、Cd、Bi及びGeからなる群から選択された1もしくは2以上の元素をさらに含有する、請求項1?3のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項5】 0.005質量%以上10.000質量%以下のZn をさらに含有する、請求項1?4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項6】 含有量の合計が0.005質量%以上0.500質量%以下のTi、B及びVからなる群から選択された1もしくは2以上の元素 をさらに含有する、請求項1?5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項7】(削除) 【請求項8】 請求項1?6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、両面に純Al皮膜又はAl-Mg系合金皮膜を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項9】 請求項8に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、前記皮膜の膜厚が10nm以上3000nm以下の皮膜を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板。 【請求項10】 請求項1?6、8及び9のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni-Pめっき処理層とその上の磁性体層を有することを特徴とする磁気ディスク。 【請求項11】 請求項1?6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、鋳造時の冷却速度が0.1?1000℃/sで、前記アルミニウム合金を用いて鋳塊を鋳造する鋳造工程と、前記鋳塊を、400?470℃で0.5時間以上50時間未満で加熱処理を行った後に、更に470℃を超えて630℃未満で1時間以上30時間未満の2段階で加熱処理を行う均質化熱処理工程と、前記鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延板を円環状に打ち抜くディスクブランク打抜き工程と、打ち抜いたディスクブランクを加圧焼鈍する加圧焼鈍工程と、を含む磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。 【請求項12】 前記冷間圧延の前又は途中に圧延板を焼鈍する焼鈍処理工程を更に含む、請求項11に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。 【請求項13】 請求項1?6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、鋳造時の冷却速度が0.1?1000℃/sで、前記アルミニウム合金を用いて心材用鋳塊を鋳造する心材鋳造工程と、純Al又はAl-Mg系合金を用いて皮材用鋳塊を鋳造する皮材鋳造工程と、皮材用鋳塊を均質化処理し、次いで熱間圧延して皮材とする皮材工程と、心材用鋳塊の両面に皮材をそれぞれ合わせて合わせ材とする合わせ材工程と、前記合わせ材を、400?470℃で0.5時間以上50時間未満で加熱処理を行った後に、更に470℃を超えて630℃未満で1時間以上30時間未満の2段階で加熱処理を行う均質化熱処理する均質化熱処理工程と、前記合わせ材を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延板を円環状に打ち抜くディスクブランク打抜き工程と、打ち抜いたディスクブランクを加圧焼鈍する加圧焼鈍工程と、を含む磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。 【請求項14】 前記冷間圧延の前又は途中に圧延板を焼鈍する焼鈍処理工程を更に含む、請求項13に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-04-24 |
出願番号 | 特願2017-536377(P2017-536377) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C22C)
P 1 651・ 537- YAA (C22C) P 1 651・ 121- YAA (C22C) P 1 651・ 161- YAA (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐藤 陽一、蛭田 敦 |
特許庁審判長 |
亀ヶ谷 明久 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 池渕 立 |
登録日 | 2018-04-06 |
登録番号 | 特許第6316511号(P6316511) |
権利者 | 古河電気工業株式会社 株式会社UACJ |
発明の名称 | 磁気ディスク用基板 |
代理人 | 赤羽 修一 |
代理人 | 飯田 敏三 |
代理人 | 赤羽 修一 |
代理人 | 特許業務法人イイダアンドパートナーズ |
代理人 | 特許業務法人イイダアンドパートナーズ |
代理人 | 赤羽 修一 |
代理人 | 特許業務法人イイダアンドパートナーズ |
代理人 | 飯田 敏三 |
代理人 | 飯田 敏三 |