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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F02P
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  F02P
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F02P
管理番号 1352312
異議申立番号 異議2019-700125  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-15 
確定日 2019-06-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6375452号発明「内燃機関用点火装置および内燃機関用点火装置の点火制御方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6375452号の請求項1及び4ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6375452号の請求項1及び4ないし9に係る特許(以下、請求項毎に「請求項1に係る特許」などといい、まとめて、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成27年10月6日に特許出願され、平成30年7月27日にその特許権の設定登録(特許掲載公報の発行日:平成30年8月15日)がされ、その後、その特許に対し、平成31年2月15日に特許異議申立人金田政毅(以下、単に「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、その後、平成31年4月5日付けで申立人から上申書が提出されたものである。

第2 本件発明
請求項1及び4ないし9に係る発明(以下、発明毎に「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
通電により正方向の通電磁束が生じ、電流を遮断することにより逆方向の遮断磁束が生じる主一次コイルと、通電により前記遮断磁束と同方向の重畳磁束が生じる副一次コイルと、一端側が点火プラグと接続され、前記主一次コイルと副一次コイルに生じた磁束が作用して放電エネルギーが発生する二次コイルと、を有する点火コイルと、
前記点火コイルの主一次コイルへの通電・遮断を切り替える主スイッチ手段と、
前記点火コイルの副一次コイルへの通電・遮断を切り替える副スイッチ手段と、
前記主スイッチ手段のオン・オフを制御して二次コイルに高電圧を発生させ、燃焼サイクルの所定のタイミングで点火プラグに放電火花を発生させる主点火制御手段と、
前記主点火制御手段により二次コイルへ高電圧を発生させた後に、副スイッチ手段のオン・オフを制御することで、副一次コイルに流す重畳電流を調整し、副一次コイルから二次コイルに作用させる重畳磁束を制御する副点火制御手段と、
を備え、
前記副スイッチ手段は、直流電源から副一次コイルへの給電経路に設け、
前記副一次コイルと副スイッチ手段との間の給電経路には、副スイッチ手段による急峻な給電遮断を緩和して、副一次コイルに流れる重畳電流を緩やかに低減させる重畳電流急減抑制手段を設けたことを特徴とする内燃機関用点火装置。」
「【請求項4】
前記点火プラグの放電に伴い二次コイルを流れる二次電流を検出する二次電流検出手段を設け、
前記副点火制御手段は、前記二次電流検出手段の二次電流検出値に基づいて、点火プラグの放電が継続し得る二次電流を保持するように副スイッチ手段のオン・オフを制御して、副一次コイルによる重畳磁束を増減させる放電期間延長制御を行うようにしたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項5】
前記副点火制御手段は、重畳磁束を発生させるための重畳電流を副一次コイルへ供給可能な期間として予め定めた重畳可能期間が経過するまで、放電期間延長制御を行うようにしたことを特徴とする請求項4に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項6】
前記副点火制御手段は、
前記副一次コイルへの通電を開始する基準となる通電開始基準値と、前記副一次コイルへの通電を遮断する基準となる通電遮断基準値とが予め設定されており、
前記二次電流検出手段により検出された二次電流検出値が前記通電開始基準値になることで副スイッチ手段をオンにし、前記二次電流検出手段により検出された二次電流検出値が前記通電遮断基準値になることで副スイッチ手段をオフにするように放電期間延長制御を行うようにしたことを特徴とする請求項5に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項7】
通電により正方向の通電磁束が生じ、電流を遮断することにより逆方向の遮断磁束が生じる主一次コイルと、通電により前記遮断磁束と同方向の重畳磁束が生じる副一次コイルと、一端側が点火プラグと接続され、前記主一次コイルと副一次コイルに生じた磁束が作用して放電エネルギーが発生する二次コイルと、を有する点火コイルと、
前記点火コイルの主一次コイルへの通電・遮断を切り替える主スイッチ手段と、
直流電源から前記副一次コイルへの給電経路に設けられ、副一次コイルへの通電・遮断を切り替える副スイッチ手段と、
前記副一次コイルと副スイッチ手段との間の給電経路には、副スイッチ手段による急峻な給電遮断を緩和して、副一次コイルに流れる重畳電流を緩やかに低減させる重畳電流急減抑制手段と、
前記点火プラグの放電に伴い二次コイルを流れる二次電流を検出する二次電流検出手段と、
を備える内燃機関用点火装置の点火制御方法であって、
前記主スイッチ手段のオン・オフを制御して二次コイルに高電圧を発生させ、燃焼サイクルの所定のタイミングで点火プラグに放電火花を発生させる主点火制御工程と、
前記主点火制御工程により二次コイルへ高電圧を発生させた後に、副スイッチ手段のオン・オフを制御することで、副一次コイルに流す重畳電流を調整し、副一次コイルから二次コイルに作用させる重畳磁束を制御する副点火制御工程と、
を行い、
前記副点火制御工程においては、二次電流検出手段の二次電流検出値に基づいて、点火プラグの放電が継続し得る二次電流を保持するように副スイッチ手段のオン・オフを制御して、副一次コイルによる重畳磁束を増減させる放電期間延長制御を行うようにしたことを特徴とする内燃機関用点火装置の点火制御方法。
【請求項8】
前記副点火制御工程における放電期間延長制御は、重畳磁束を発生させるための重畳電流を副一次コイルへ供給可能な期間として予め定めた重畳可能期間が経過するまで行うようにしたことを特徴とする請求項7に記載の内燃機関用点火装置の点火制御方法。
【請求項9】
前記副点火制御工程における放電期間延長制御は、
前記二次電流検出手段により検出された二次電流検出値が、前記副一次コイルへの通電を開始する基準となる通電開始基準値になることで、副スイッチ手段をオンにし、
前記二次電流検出手段により検出された二次電流検出値が、前記副一次コイルへの通電を遮断する基準となる通電遮断基準値になることで、副スイッチ手段をオフにする、
ことを特徴とする請求項8に記載の内燃機関用点火装置の点火制御方法。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
1 申立理由の概要
申立人は、証拠として、甲第1号証及び甲第2号証を提出し、以下の主張をしている。
(1)本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)であり、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、請求項1に係る特許は取り消すべきものである。
(2)本件発明4ないし9は、甲1発明及び甲第2号証に記載された発明(以下、「甲2発明」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項4ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項4ないし9に係る特許は取り消すべきものである。
(3)請求項1及び4ないし9に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(4)請求項1及び4ないし9に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
(1)甲第1号証:米国特許第4998526号明細書
(2)甲第2号証:米国特許出願公開第2015/0034059号明細書
なお、甲第2号証は、平成31年4月5日付けの上申書により提出されたものである。
第4 甲第1号証及び甲第2号証の記載
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「The ignition system ・・・ S1 and S2.」(第2欄第18行ないし第64行)
(仮訳:「図1に示す点火システムは、火花点火内燃機関のシリンダーと連係した点火プラグ10に、火花発火電圧を供給する。点火プラグ10は、変圧器14の二次側巻き線12により火花発火電圧VSが供給される、即ち、二次側巻き線の対向端が各々点火プラグの電極に接続される。変圧器は、同じ巻回数を有する一次側巻き線部分16A及び16Bから成る中間タップされた一次側巻き線16を有する。巻き線部分、例えば、巻き線部分16A及び二次側巻き線12との間の巻回数割合Nは約100である、即ち、一次側巻き線部分16Aの各1巻回に対し二次側巻き線12には約100巻回ある。点火プラグ10の容量はCSPとして表される。
一次側巻き線の中間タップ18は、導電体20に接続されている。巻き線部分16Aの一方側は、ライン22を介してスイッチS1の一方側に接続されている。スイッチS1のもう一方の側は、導電体24に接続されている。同様に、一次側巻き線部分16Bの一方側は、ライン25を介してスイッチS2の一方側に接続され、スイッチS2のもう一方の側は、導電体24に接続されている。変圧器14及びスイッチS1及びS2は、符号26で示される電流源直流交流インバーターを形成する。このインバーターへの入力線は、ライン20及び24であり、この入力線は、制御下にある電流源及びコンデンサー放電回路である回路28に接続されている。
回路28は、バッテリーとして示される直流電圧源29から成り、自動車の12ボルト貯蔵バッテリーであってもよい。電圧源29の+端子は、スイッチS3の一方側に、また、その一端子は、導電体24に接続されている。約0.1マイクロファラドの容量を持つコンデンサーCは、ライン20の結節点Xとライン24との間に接続されている。約0.5mHの小型誘導子31が、結節点YとXとの間に接続されている。結節点Yとライン24との間にはダイオードDが接続されている。
図1に示す回路は、スイッチS3の開閉を制御し、電流感知抵抗器32により誘導子31を通流する電流ILを感知する一定電流コントローラ30を有する。感知された誘導子電流ILは、回路34及び35から提供される基準電流IH及びIMと比較される。
図1に示す回路は更に、スイッチS1及びS2のオンオフ切り替えを制御するインバーター制御回路36を有する。」)

イ 「At time T0 ・・・ more detail later.」(第3欄第24行ないし第45行)
(仮訳:「時間T0において、三つのスイッチS1、S2、S3すべてをオン状態とする。誘導子電流ILは、IP1=IP2=IL/2となるように二つの一次側巻き線電流IP1とIP2に均等に分流される。二つの一次側電流IP1及びIP2の方向は、一次側巻き線電流の半分により生成された磁束が、その他方の半分により生成された磁束を打ち消し、一次側巻き線と連関した磁束の純変化はない方向とする。これにより、巻き線部分16Aでの電圧VP1及び巻き線部分16Bでの電圧VP2はゼロに等しくなり、このため、一次側巻き線16全体にわたる電圧、即ち、ライン22及び25にわたる電圧もまたゼロである。スイッチS1とS2は双方共にオン状態であるため、コンデンサー電圧VC(結節点Xでの電圧に等しい)もまたゼロに等しくなる。誘導子電流ILは勾配VB/Lで上昇し、VBは電圧源29の電圧であり、Lは誘導子31のインダクタンスである。時間T1のいくらか手前で、誘導子電流ILは、基準値IHに等しくなる。その後、電流コントローラー30は、スイッチS3を必要の都度オンまたはオフとし、誘導子電流ILは、IHと(IH-△Iの間にある。電流コントローラーの動作については、後ほど詳しく述べる。」)

ウ 「Further ・・・ now being developed.」(第4欄第26行ないし第46行)
(仮訳:「更に、制御下にある電流源28の動作に関して、スイッチS3は必要の都度オンとオフの状態とされ、場合により、基準電流IHまたはIMに等しい略一定な誘導子電流を、誘導子31を介して維持する。基準電流IHを利用してコンデンサーCに荷電する一方、基準電流レベルIMを利用してアークを維持する。誘導子電流ILが、基準電流IMよりも小さい場合は、スイッチS3をオン状態とする。誘導子Lでの電圧は(VB-VX)で、電流は勾配(VB-VX)/Lで上昇し始める。電流が基準電流レベルIMに達すると、スイッチS3はTOFFという所定の間オフ状態となる。ダイオードDがオン状態となり、また、誘導子電流ILがダイオードの中を自由に移動する。誘導子Lでの電圧は(-VX)で、誘導子電流ILは、TOFFという所定の間、VX/Lの割合で低下し始める。このため、誘導子電流の降下は、(TOFF)*(VX)/Lに等しいΔIとなる。この制御下にある電流源の入手方法は、固定オフタイムパルス幅変調と呼ばれている。ここでは、平均電流IOが生成されていることが分かる。」)

エ 「FIG.4 shows ・・・ switch S3 off.」(第7欄第39行ないし第8欄第9行)
(仮訳:「図4は、コンデンサーCが排除され、また、スイッチS1及びS2のタイミングシーケンスが変更される点で図1及び3に示すシステムとは異なる、交流電流点火回路構成の変更例を示す。更に図4に示すシステムは、一つの基準電流のみ、即ち、基準電流IMのみを使用する。アークは、誘導子31内に蓄えられたエネルギーにより発生され、交流電流を点火プラグ10に通電することで、所定の持続時間維持される。
この回路構成の操作を図4及び5を参照しつつ説明する。図5は、図4に連関した波形を例示する。時間T0において、三つスイッチS1、S2、S3すべてがオン状態とされる。誘導子電流ILは、変圧器の二つの一次側巻き線16A及び16Bに均等(IP1=IP2=IL/2)に分流する。二つの一次側電流の方向は、VP1=VP2=0となるように、一次側電流の半分それぞれにより生成された磁束が互いに打ち消し合う方向とする。誘導子電流は、初期勾配VB/Lで上昇する。時間T1において、ILは基準値IMに等しくなり、スイッチS2はオフ状態となる。誘導子31内の磁束は、直ちに変わることはできないため、電流ILは、一次側巻き線16Aに流れ込み、IL/Nに等しい二次側電流ISに帰結する。この二次側電流は、点火プラグ容量CSPを荷電し始め、二次側電圧VSは、素早く上昇し始めると共に時間T2において、点火プラグの降伏電圧に等しくなり、点火プラグ10でアークが確立される。ここで、二次側電流ISは、アークを通流し始め、二次側電圧は、VSPに降下する。
時間T3において、スイッチS1は、オフ状態とされると同時に、スイッチS2はオン状態とされ、二次側(アーク)電流はその極性を逆にし、二次側電圧は-VSPとなる。時間T4において、スイッチS1は再びオン状態とされ、スイッチS2はオフ状態とされて、正極アーク電流を確立する。このプロセスは、所望の時間中交流火花電流を生成するため継続される。アークを終了するには、スイッチS3をオフ状態とすることで、バッテリー供給が遮断される。」)

オ 上記ア、イ、ウ、エ及び図面の記載からみて、甲第1号証には、点火プラグ10と、変圧器14と、スイッチS1、S2、S3と、誘導子31と、ダイオードDとインバーター制御回路36とを有し、図1及び図3の場合にはさらにコンデンサーCを有する点火システムが記載されている。変圧器14は、一次側巻き線部分16B及び一次側巻き線部分16Aからなる一次側巻き線と、二次側巻き線12からなっている。

カ 上記イ、ウ、エ及び図面(特に図4及び図5)の記載からみて、スイッチS1は一次側巻き線部分16Aを流れる電流を制御し、スイッチS2は一次側巻き線部分16Bを流れる電流を制御し、スイッチS3は一次側巻き線部分16Aを流れる電流及び一次側巻き線部分16Bを流れる電流を制御するものである。

(2)甲1発明
これらの記載によれば、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という)が記載されている。

「通電により正方向の通電磁束が生じ、電流を遮断することにより逆方向の遮断磁束が生じる一次側巻き線部分16Bと、通電により前記遮断磁束と同方向の重畳磁束が生じる一次側巻き線部分16Aと、一端側が点火プラグ10と接続され、前記一次側巻き線部分16Bと一次側巻き線部分16Aに生じた磁束が作用して放電エネルギーが発生する二次側巻き線12と、を有する変圧器14と、
前記変圧器14の一次側巻き線部分16Bへの通電・遮断を切り替えるスイッチS2と、
前記変圧器14の一次側巻き線部分16Aへの通電・遮断を切り替えるスイッチS1と、
前記変圧器14の一次側巻き線部分16B及び16Aへの通電・遮断を切り替えるスイッチS3と、
前記スイッチS2のオン・オフを制御して二次側巻き線12に高電圧を発生させ、燃焼サイクルの所定のタイミングで点火プラグ10に放電火花を発生させるインバーター制御回路36と、
前記インバーター制御回路36により二次側巻き線12へ高電圧を発生させた後に、スイッチS3のオン・オフを制御することで、一次側巻き線部分16A及び一次側巻き線部分16Bに流す電流を調整し、一次側巻き線部分16A及び一次側巻き線部分16Bから二次側巻き線12に作用させる磁束を制御する一定電流コントローラ30と、を備え、
前記スイッチS3は、直流電源から一次側巻き線部分16B及び一次側巻き線部分16Aへの給電経路に設け、
前記一次側巻き線部分16B及び一次側巻き線部分16AとスイッチS3との間の給電経路には、誘導子31を設けた、交流電流点火システム。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「[0035] With reference to ・・・ semiconductor-switching device. 」(段落[0035]ないし[0037])」
(仮訳:「添付の図1を参照すると、本願に基づくイグニッションシステム10の最善の実施形態が電気系統概略図として図示されており、該システムは、内燃機関(図示なし)の燃焼シリンダー一筒に付帯する点火用プラグ14内の単一組の間隙電極14a及び14bに高電圧を印加する二重一次コイル点火用変圧器12または点火用コイルから構成される。
符号LP1及びLP2で示される二つの一次コイルに加えて、点火用コイル12は二次コイルLSEC及び共通磁気カップリングK1を含み、これら三つのコイルは磁気的に連結されている。
本願システム10は、第1及び第2一次コイルLP1、LP2の二端が、電気スイッチSW1、SW2により自動車のシャシアース等共通アースに交互に切換できる構成としている。電気スイッチSW1、SW2はそれぞれ、IGBT(絶縁ゲートバイポラートランジスター)またはその他の適当な半導体切換装置形式を採用できる。」)

イ 「[0043] A coil tap ・・・ provide desired sparks.」(段落[0043]ないし[0046])
(仮訳:「コイルタップ16は、二つの一次コイルLP1、LP2を分離し、これらのコイルを、例えば、図1ではバッテリー18の正電圧として表わされる名目12ボルトまたは14ボルトの自動車電気系統内の従来の自動車系統電圧のような共通励起電位へ接続することを可能とする。
二つの一次コイルLP1、LP2は、図1に示されるように、同一方向において巻回されることが好ましい点に留意されたい。センタータップ16は、同一方向の巻回パターンと共に、磁気回路を介し所望の磁極を生み出す。事実、LP1/LSECペア及びLP2/LSECペアの巻回指向性並びにその電気接続は、一次コイル双方からLSECに伝達されたエネルギーが単極電流となって点火用プラグに入り、また、単極電圧が点火用プラグ電極を横切る結果となるように実現される。
電流インダクター感知は、二次コイルLSECを共通アースに接続するラインに連続的に配設される小型抵抗器(シャント)RSにより達成される。シャントRSを横切る電圧は、二次コイルLSECを通流する電流ISECの関数である。この電圧は、以下に説明のように、制御目的のため、ライン21を介し制御回路20に供給される。
荷電流は、本発明の点火手順に従い、スイッチSW1、SW2の状態を制御する電子制御回路20により監視される。従来エンジンでの運転については、制御回路20は、所望のスパークを提供するため、スイッチSW1、SW2を介し一次コイルLP1、LP2の制御を調整すべくいわゆる「電子スパークタイミング(EST)」に応答する。」)

ウ 「[0048] Referring now more ・・・ enabled signal (EN).」(段落[0048]ないし[0050])
(仮訳:「ここで、本実施形態について更に具体的に述べると、制御回路20は、内燃機関のシリンダー一筒の1燃焼サイクルに必要な点火事象を実行すべく以下の手順を提供する構成とする。一回の点火事象(またはサイクル)は、第1一次コイルLP1を荷電することにより開始される。LP1/LSECペアは従来の点火を表し、また、電流がバッテリーから流れ出るようにスイッチSW1を閉じることで変圧器12内に最初の初期段階の貯蔵エネルギーを提供する(図2には、スイッチSW1のON状態が示されている。)。第1一次コイルLP1の励起と荷電滞留期間それぞれの点火事象開始は、上述したように、従来のEST信号に基づくことが好ましい。第1一次コイルLP1を介した所定の滞留時間満了時点で、その中の電流は遮断されて、間隙電極を横切る第1アーク放電開始を引き起こす。事実、スイッチSW1を解除(開放)することで、誘電破壊への遷移が開始、二次コイルLSECからのエネルギー枯渇に至る。
二次コイルLSECからエネルギーが枯渇すると、制御回路20は、シャントRSを横切る電圧を介して、二次電流ISECを監視する。二次電流ISECが閾値ISEC_TH未満に降下するとすぐ、制御回路20は、第2一次コイルLP2を繰り返し励起しかつ無励起する工程から成る第2段階を実行する。この目的のため、制御回路20は、図2に示されるように、スイッチSW2を起動するパルス幅変調ON/OFFシーケンスを惹起する。その結果、第2一次コイルLP2は、バッテリーから電流を供給され、出力回路において、LP2及びLSECの巻回率に応じて電圧が誘発される。スイッチSW2のON/OFFタイムシーケンスは、OFFタイムがスイッチSW2のOFF状態からON状態への点火を維持するために十分短くなるように設定されていると有利である。実際の運用上、当該OFFタイムは5μsから50μsの間とする。スイッチSW2のONタイムは、許容可能な有効エネルギー遷移がLP1からLSECへ発生しかつ点火プラグ14内に遷移するように設定されることが好ましい。当該ONタイムは、5μsから500μsの間とする。この第2段階において、エネルギーは更に初期のアーク放電及びその後のアーク放電内に押し込まれ、このため、閾値ISEC_THは0でないことが好ましい。所望の場合、当該ONタイム及びOFFタイムは、単一の点火事象の間、例えば、エネルギー配分を変化させる目的で、力学的に変化させることもできる。
スイッチSW2のOFFタイムの間、点火自体は、点火プラグに平行な荷電出力回路容量24(二次コイルLSECに備わる容量挙動)の存在並びに残留余地電荷及び遷移アフターグローにより維持されることに留意されたい。従って当該OFFタイムは、アフターグローよりも短く設定されることが好ましい。スイッチSW2の起動は専用イネーブル信号(EN)により制限されることが好ましい。」)

エ 「[0052] The principle of ・・・ the thermal losses.」(段落[0052]及び[0053])
(仮訳:本発明に基づく点火事象の原理は、図2において大まかに要約されており、一燃焼事象に必要な点火に対応する一点火サイクルについて、点火事象は、一次コイルが一回のみの荷電放電を経る初期段階と、これに続く二次コイルが複数の荷電放電サイクルを経る第2段階(二次電流ISECの閾値が充足される場合開始)から構成されることが容易に理解できる。既に説明したように、初期段階は、電気破壊後直ちに点火をもたらすように構成されている。第2段階における着想点は、エネルギーを二次コイルLSECに伝達することで燃焼段階を維持することにある。エネルギーは、スイッチSW2のON状態の間、即ち、電流が実際に第2一次コイルを通流する場合に伝達される。
既に説明したように実行される本発明に基づくシステムは、連続燃焼段階を可能とする単極電流ISECを提供する点につき留意されたい。当該単極二次電流ISECの結果としての形状を図3に示す。第2段階において(第2ピークで開始)スイッチSW2のPWM起動を契機とした第2一次コイルLP2の重置による第1一次コイルLP1を起源とする二次コイルLSECへの典型的な減衰電流放電特性が認知できる。既に説明したように、第2段階の電流ピークはスイッチSW2のONタイムに対応し、図3の例では、連続燃焼段階は、t=2ms後に開始すると共に点火はt=3ms辺りで停止する(イネーブル信号ENの終了)。点火事象の期間全体を、熱損失を分散させる点火システムの能力により一般的には制限できる。」)

オ 上記ウの「二次コイルLSECからエネルギーが枯渇すると、制御回路20は、シャントRSを横切る電圧を介して、二次電流ISECを監視する。二次電流ISECが閾値ISEC_TH未満に降下するとすぐ、制御回路20は、第2一次コイルLP2を繰り返し励起しかつ無励起する工程から成る第2段階を実行する。(中略)スイッチSW2のON/OFFタイムシーケンスは、OFFタイムがスイッチSW2のOFF状態からON状態への点火を維持するために十分短くなるように設定されていると有利である。」という記載、及び上記エの「点火事象は、一次コイルが一回のみの荷電放電を経る初期段階と、これに続く二次コイルが複数の荷電放電サイクルを経る第2段階(二次電流ISECの閾値が充足される場合開始)から構成されることが容易に理解できる。(中略)初期段階は、電気破壊後直ちに点火をもたらすように構成されている。第2段階における着想点は、エネルギーを二次コイルLSECに伝達することで燃焼段階を維持することにある。エネルギーは、スイッチSW2のON状態の間、即ち、電流が実際に第2一次コイルを通流する場合に伝達される。」という記載から、電子制御回路20は、シャントRSの二次電流ISEC検出値に基づいて、点火用プラグ14の放電が継続し得る二次電流ISECを保持するようにスイッチSW2のオン・オフを制御して、第2一次コイルLP2による磁束を増減させる放電期間延長制御を行うようにしたことが分かる。

(2)甲2発明
これらの記載によれば、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という)が記載されている。

「通電により正方向の通電磁束が生じ、電流を遮断することにより逆方向の遮断磁束が生じる第1一次コイルLP1と、通電により前記遮断磁束と同方向の重畳磁束が生じる第2一次コイルLP2と、一端側が点火用プラグ14と接続され、前記第1一次コイルLP1と第2一次コイルLP2に生じた磁束が作用して放電エネルギーが発生する二次コイルLSECと、を有する点火用コイル12と、
前記点火用コイル12の第1一次コイルLP1への通電・遮断を切り替えるスイッチSW1と、
前記点火用コイル12の第2一次コイルLP2への通電・遮断を切り替えるスイッチSW2と、
前記スイッチSW1のオン・オフを制御して二次コイルLSECに高電圧を発生させ、燃焼サイクルの所定のタイミングで点火プラグに放電火花を発生させる電子制御回路20と、
前記電子制御回路20により二次コイルLSECへ高電圧を発生させた後に、スイッチSW2のオン・オフを制御することで、第2一次コイルLP2に流す電流を調整し、第2一次コイルLP2から二次コイルLSECに作用させる磁束を制御する電子制御回路20と、を備えた内燃機関用点火装置において、
前記点火用プラグ14の放電に伴い二次コイルLSECを流れる二次電流ISECを検出するシャントRSを設け、
前記電子制御回路20は、前記シャントRSの二次電流ISEC検出値に基づいて、点火用プラグ14の放電が継続し得る二次電流ISECを保持するようにスイッチSW2のオン・オフを制御して、第2一次コイルLP2による磁束を増減させる放電期間延長制御を行うようにした、イグニッションシステム10。」

第5 当審の判断
1 特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「一次側巻き線部分16B」は、その機能からみて、本件発明1の「主一次コイル」に相当し、以下同様に、「一次側巻き線部分16A」は「副一次コイル」に、「点火プラグ10」は「点火プラグ」に、「スイッチS2」は「主スイッチ手段」に、「スイッチS1」は「副スイッチ手段」に、「インバーター制御回路36」は「主点火制御手段」に、「交流電流点火システム」は「内燃機関用点火装置」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「スイッチS3」は、本件発明1の「副スイッチ手段」と、「スイッチ手段」という限りにおいて一致する。
また、甲1発明の「誘導子31」は、本件発明1の「重畳電流急減抑制手段」と、「電気部品」という限りにおいて一致する。
また、甲1発明の「一定電流コントローラ30」は、本件発明1の「副点火制御手段」と、「点火制御手段」という限りにおいて一致し、甲1発明の「前記インバーター制御回路36により二次側巻き線12へ高電圧を発生させた後に、スイッチS3のオン・オフを制御することで、一次側巻き線部分16A及び一次側巻き線部分16Bに流す電流を調整し、一次側巻き線部分16A及び一次側巻き線部分16Bから二次側巻き線12に作用させる磁束を制御する一定電流コントローラ30」は、本件発明1の「前記主点火制御手段により二次コイルへ高電圧を発生させた後に、副スイッチ手段のオン・オフを制御することで、副一次コイルに流す重畳電流を調整し、副一次コイルから二次コイルに作用させる重畳磁束を制御する副点火制御手段」と、「前記主点火制御手段により二次コイルへ高電圧を発生させた後に、スイッチ手段のオン・オフを制御することで、一次コイルに流す電流を調整し、一次コイルから二次コイルに作用させる磁束を制御する点火制御手段」という限りにおいて一致する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「通電により正方向の通電磁束が生じ、電流を遮断することにより逆方向の遮断磁束が生じる主一次コイルと、通電により前記遮断磁束と同方向の重畳磁束が生じる副一次コイルと、一端側が点火プラグと接続され、前記主一次コイルと副一次コイルに生じた磁束が作用して放電エネルギーが発生する二次コイルと、を有する点火コイルと、
前記点火コイルの主一次コイルへの通電・遮断を切り替える主スイッチ手段と、
前記点火コイルの副一次コイルへの通電・遮断を切り替える副スイッチ手段と、
前記主スイッチ手段のオン・オフを制御して二次コイルに高電圧を発生させ、燃焼サイクルの所定のタイミングで点火プラグに放電火花を発生させる主点火制御手段と、
前記主点火制御手段により二次コイルへ高電圧を発生させた後に、スイッチ手段のオン・オフを制御することで、一次コイルに流す電流を調整し、一次コイルから二次コイルに作用させる重畳磁束を制御する点火制御手段と、
を備え、
前記スイッチ手段は、直流電源から副一次コイルへの給電経路に設け、
前記副一次コイルと副スイッチ手段との間の給電経路には、電気部品を設けた、内燃機関用点火装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)本件発明1は、「前記主点火制御手段により二次コイルへ高電圧を発生させた後に、副スイッチ手段のオン・オフを制御することで、副一次コイルに流す重畳電流を調整し、副一次コイルから二次コイルに作用させる重畳磁束を制御する副点火制御手段」を備え、「前記副スイッチ手段は、直流電源から副一次コイルへの給電経路に設け」たのに対し、
甲1発明は、前記インバーター制御回路36により二次側巻き線12へ高電圧を発生させた後に、「スイッチS3」のオン・オフを制御することで、「一次側巻き線部分16A及び一次側巻き線部分16B」に流す電流を調整し、「一次側巻き線部分16A及び一次側巻き線部分16B」から二次側巻き線12に作用させる磁束を制御する一定電流コントローラ30」を備え、「前記スイッチS3」は、直流電源から一次側巻き線部分16B及び一次側巻き線部分16Aへの給電経路に設けた点。

(相違点2)本件発明1は、「前記副一次コイルと副スイッチ手段との間の給電経路には、副スイッチ手段による急峻な給電遮断を緩和して、副一次コイルに流れる重畳電流を緩やかに低減させる重畳電流急減抑制手段を設けた」のに対し、
甲1発明は、「前記一次側巻き線部分16B及び一次側巻き線部分16A」と「スイッチS3」との間の給電経路には、「誘導子31」を設けた点。

事案に鑑み、上記相違点1について検討する。
甲1発明においては、本件発明1の副スイッチ手段に相当するスイッチS1とは別にスイッチS3が設けられている。
請求人は、特許異議申立書において、「時間T2と時間T3との間の期間では、スイッチS3が、一次側巻き線部分16Aを流れる一次側巻き線電流IP1を遮断するスイッチになっている。このため、甲1第1発明の「スイッチS3」は、本件特許発明1の「副スイッチS3」に相当する。」(第20ページ第10行ないし第13行)と主張するが、該「時間T2と時間T3との間の期間」に続く、時間T3と時間T4の期間においては、スイッチS3が、一次側巻き線部分16Bを流れる一次側巻き線電流IP2を遮断するスイッチになっていることから、スイッチS3が本件特許発明1の「副スイッチS3」に相当するということはできない。
そうすると、上記相違点1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1発明と実質的に相違する。
すなわち、本件発明1は、甲1発明と同一ではない。

また、異議申立ての理由ではないが、本件発明1の進歩性についても検討する。
相違点1について検討する。甲1発明において、本件発明1の副スイッチ手段に相当するスイッチS1に、「前記主点火制御手段により二次コイルへ高電圧を発生させた後に、副スイッチ手段のオン・オフを制御することで、副一次コイルに流す重畳電流を調整し、副一次コイルから二次コイルに作用させる重畳磁束を制御する副点火制御手段」という機能を持たせ、かつ「前記副スイッチ手段は、直流電源から副一次コイルへの給電経路に設け」るようにすることは、当業者が容易に想到できたこととはいえない。
また、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲第2号証にも記載されておらず、本件の出願前に周知の技術でもなく、当業者が適宜なし得る設計的事項ということもできない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件発明1は、上記発明特定事項を有することにより、本件明細書に記載された優れた作用効果を奏するものである。

(2)本件発明4ないし6について
本件発明4ないし6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、本件発明4ないし6は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明7について
本件発明7と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記相違点1及び相違点2と同様の相違点を有する。
そして、相違点1に係る本件発明7の発明特定事項は、甲第1号証及び甲第2号証には記載されておらず、本件の出願前に周知の技術でもなく、当業者が適宜なし得る設計的事項ということもできない。
したがって、本件発明7は、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明8及び本件発明9について
本件発明8及び本件発明9は、本件発明7を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明7の発明特定事項をすべて備えるものであるから、本件発明8及び本件発明9は、本件発明7と同様に、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明と同一ではない。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当するものではなく、申立てがされた理由によって取り消すことができない。
また、本件発明4ないし9は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、請求項4ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当するものではなく、申立てがされた理由によって取り消すことができない。

2 特許法第36条第6項第1号について
(1)「重畳電流急減抑制手段」について、明細書の段落【0055】及び【0056】には、
「【0055】
逆に、比較器出力信号Voutがオフになったタイミングで副スイッチ122をオフにすれば、重畳電流I1bが遮断されて、副一次コイル111bの重畳磁束が二次コイル112に作用しなくなり、二次電流I2を低減させることができる。このとき、副スイッチ122がオフになることで直流電源4からの給電が遮断されても、重畳電流急減抑制手段14のキャパシタ141によって重畳電流I1bが急減することを抑制し、二次電流I2を緩やかに低減させることができる。
【0056】
すなわち、本実施形態の内燃機関用点火装置1においては、重畳電流急減抑制手段14を設けることで、二次電流I2が二次電流上限値IthHに達したタイミングで重畳電流I1bを遮断したとたん、二次電流I2が瞬時に二次電流下限値IthLよりも下がってしまうことを防ぎ、適切な時間経過に伴って二次電流I2が二次電流下限値IthLまで下がるように調整できる。しかも、キャパシタ141は、数μFから数十μF程度の比較的低容量のもので十分である。」
と記載されている。
したがって、「重畳電流急減抑制手段14」は、発明の詳細な説明に記載されているから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
同様に、本件発明4ないし9についても、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(2)まとめ
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
したがって、請求項1及び4ないし9に係る特許は、同法第113条第4号に該当するものではなく、申立てがされた理由によって取り消すことができない。

3 特許法第36条第6項第2号について
(1)申立人は、
「本件の請求項1,7において「急峻な給電遮断を緩和」との記載は、範囲を曖昧にし得る表現である。」(異議申立書第26ページ第26行及び第27行)
「本件の請求項1,7において「重畳電流を穏やかに低減」との記載は、範囲を曖昧にし得る表現である。」(異議申立書第27ページ第13行及び第14行)
と主張している。
この点に関して、本願の明細書を参照すると、段落【0001】ないし【0006】には、以下のように記載されている。
「【0001】
本発明は、自動車両に搭載される内燃機関用の点火装置およびその点火制御方法に関し、点火コイルの二次側に発生させる放電エネルギーを重畳的に増大させて、良好な放電特性を得るものである。
【背景技術】
【0002】
車両搭載の内燃機関として、燃費改善のために直噴エンジンや高EGRエンジンが採用されているが、これらのエンジンは着火性があまり良くないため、点火装置には高エネルギー型のものが必要になる。そこで、古典的な電流遮断原理により発生する点火コイル二次側出力に、さらにもう一つの点火コイルの出力を加算的に重畳する位相放電型の点火装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の点火装置によれば、主点火コイルの一次電流を遮断することでその二次側に発生する数kVの高電圧により、点火プラグの放電間隙に絶縁破壊を起こして点火コイルの二次側から放電電流を流し始めた後に、主点火コイルと並列に接続された副点火コイルの一次電流を遮断し、その二次側に発生する数kVの直流電圧を加算的に重畳する。すなわち、主点火コイルと副点火コイルの一次電流を時差的に遮断することにより、比較的長い時間にわたって点火プラグに大きな放電エネルギーを与える制御を行えば、点火プラグに生じた放電火花による燃料への着火性が向上し、延いては燃費も向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-140924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された点火装置のような方式では、2つの点火コイルの点火位相を大きくして点火プラグの放電時間を長くすることで、安定した燃焼を維持し、エンジン出力の安定化を図れる反面、複数の点火コイルを必要とするために、相当のコストアップとなってしまう。加えて、複数の点火コイルを用いることから、装置が大型化することとなり、搭載スペースの確保が問題となる。
【0006】
そこで、本発明は、点火コイルの大型化およびコスト増を抑制しつつ、安定した燃焼を維持できる内燃機関用点火装置およびその点火制御方法の提供を目的とする。」
また、段落【0055】及び【0056】には、以下のように記載されている。
「【0055】
逆に、比較器出力信号Voutがオフになったタイミングで副スイッチ122をオフにすれば、重畳電流I1bが遮断されて、副一次コイル111bの重畳磁束が二次コイル112に作用しなくなり、二次電流I2を低減させることができる。このとき、副スイッチ122がオフになることで直流電源4からの給電が遮断されても、重畳電流急減抑制手段14のキャパシタ141によって重畳電流I1bが急減することを抑制し、二次電流I2を緩やかに低減させることができる。
【0056】
すなわち、本実施形態の内燃機関用点火装置1においては、重畳電流急減抑制手段14を設けることで、二次電流I2が二次電流上限値IthHに達したタイミングで重畳電流I1bを遮断したとたん、二次電流I2が瞬時に二次電流下限値IthLよりも下がってしまうことを防ぎ、適切な時間経過に伴って二次電流I2が二次電流下限値IthLまで下がるように調整できる。しかも、キャパシタ141は、数μFから数十μF程度の比較的低容量のもので十分である。」

これらの記載から、本願発明における「急峻な給電遮断を緩和」及び「重畳電流を穏やかに低減」とは、「二次電流I2が二次電流上限値IthHに達したタイミングで重畳電流I1bを遮断したとたん、二次電流I2が瞬時に二次電流下限値IthLよりも下がってしまう」ような「急峻な給電遮断」を緩和して、「比較的長い時間にわたって点火プラグに大きな放電エネルギーを与える制御を行」うことにより、「重畳電流I1bが急減することを抑制」して、「点火プラグに生じた放電火花による燃料への着火性が向上」するようなものであることが分かる。

したがって、「急峻な給電遮断を緩和」及び「重畳電流を穏やかに低減」という発明特定事項の技術的意義は明らかであるから、本件発明が明確でないとはいえない。

(2)まとめ
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
したがって、請求項1及び4ないし9に係る特許は、同法第113条第4号に該当するものではなく、申立てがされた理由によって取り消すことができない。

第6 むすび
上記第5のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び4ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び4ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-05-23 
出願番号 特願2017-544066(P2017-544066)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (F02P)
P 1 652・ 121- Y (F02P)
P 1 652・ 537- Y (F02P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 勝広  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 齊藤 公志郎
金澤 俊郎
登録日 2018-07-27 
登録番号 特許第6375452号(P6375452)
権利者 日立オートモティブシステムズ阪神株式会社
発明の名称 内燃機関用点火装置および内燃機関用点火装置の点火制御方法  
代理人 水崎 慎  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 内藤 和彦  
代理人 福田 伸一  
代理人 高橋 克宗  
代理人 江口 昭彦  
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