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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1352313
異議申立番号 異議2019-700085  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-06 
確定日 2019-05-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第6369783号発明「加水分解フィブロインを含む軟膏及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6369783号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6369783号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年6月12日に特許出願され、平成30年7月20日にその特許権の設定登録がなされ、同年8月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成31年2月6日に特許許異議申立人 株式会社 オードレマン(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6369783号の請求項1?5に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりものである(以下、特許第6369783号の請求項1?5に係る発明を、請求項に付された番号順に、「本件発明1」等という。)。

「【請求項1】
創傷治療に用いる、創傷部位に塗布するための外用剤であって、分子量分布がMw/Mn=2.0?5.0である加水分解フィブロイン2?10wt%と、油性成分と、水性成分とを含み、
前記油性成分として、オリーブオイル20?30wt%及びミツロウ5?10%を含み、
前記水性成分として、水及び1,3-ブチレングリコールを55?65wt%含む、
外用剤。
【請求項2】
軟膏又はクリームである、請求項1に記載の外用剤。
【請求項3】
界面活性剤を含まない、請求項1又は2に記載の外用剤。
【請求項4】
(1)沸騰した塩化カルシウム又は臭化リチウムの40?60wt%水溶液中で、セリシンを除去したシルク材料を40?70分間加熱する工程、
(2)(1)で得られた溶液を透析により脱塩する工程、
(3)(2)で得られた溶液の濃度を調整した後、静置し、分子量分布がMw/Mn=2.0?5.0である加水分解フィブロインペーストを得る工程、及び、
(4)(3)で得られた加水分解フィブロインペーストと、オリーブオイル及びミツロウである油性基剤とを撹拌混合して、加水分解フィブロイン2?10wt%、オリーブオイル20?30wt%、ミツロウ5?10wt%、及び、水性成分55?65wt%を含む軟膏製剤を得る工程、を含む、軟膏製剤の製造方法。
【請求項5】
軟膏製剤が、創傷治癒促進剤である、請求項4に記載の製造方法。」


第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1 申立理由の概要
申立人は、甲第1号証及び参考資料1?8を提出し、下記の申立理由を挙げ、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するので、それらの特許は取り消すべきものである旨主張している。

(1) 申立理由1(新規性)
本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2) 申立理由2(進歩性)
本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(参考資料1?8に記載された事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 証拠方法
(1) 甲第1号証: 特開2004-250405号公報
(2) 参考資料1: 特開2003-226614号公報
(3) 参考資料2: Cosmetic-info.jpの全成分リスト 商品名 ケイト マジカルロングジェルマスカラN BK-1ブラック(発売日2009-02-01)、インターネット(URL:https//www.cosmetic-info.jp/prod/detail.php?id=11786、検索日2019年2月5日
(4) 参考資料3: Cosmetic-info.jpの全成分リスト 商品名 ポ-ル&ジョー ウォータープルーフマスカラ(01 ブラック)(発売日2009-06-05)、インターネット(URL:https//www.cosmetic-info.jp/prod/detail.php?id=12520、検索日2019年2月5日
(5) 参考資料4: Cosmetic-info.jpの全成分リスト 商品名 ポ-ル&ジョー ウォータープルーフマスカラ(02 ブラウン)(発売日2009-06-05)、インターネット(URL:https//www.cosmetic-info.jp/prod/detail.php?id=12521、検索日2019年2月5日
(6) 参考資料5: Cosmetic-info.jpの全成分リスト 商品名 ポ-ル&ジョー マスカラ デュオ N(04 ゴールド)(発売日2009-06-05)、インターネット(URL:https//www.cosmetic-info.jp/prod/detail.php?id=12517、検索日2019年2月5日
(7) 参考資料6: Cosmetic-info.jpの全成分リスト 商品名 ポ-ル&ジョー マスカラ デュオ N(05 スプルース)(発売日2009-06-05)、インターネット(URL:https//www.cosmetic-info.jp/prod/detail.php?id=12518、検索日2019年2月5日
(8) 参考資料7: Cosmetic-info.jpの全成分リスト 商品名 ポ-ル&ジョー マスカラ デュオ N(06 コバルト)(発売日2009-06-05)、インターネット(URL:https//www.cosmetic-info.jp/prod/detail.php?id=12519、検索日2019年2月5日
(9) 参考資料8: Cosmetic-info.jpの全成分リスト 商品名 リサージ モイスト クリームクレンジング(発売日2010-10-16)、インターネット(URL:https//www.cosmetic-info.jp/prod/detail.php?id=16687、検索日2019年2月5日

(以下、甲1号証を「甲1」、参考資料1?8を「参考1」等と略記する。)


第4 甲1及び参考1?8の記載事項並びに甲1に記載された発明
1 甲1の記載事項
(1) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパク、および
b)水溶性高分子化合物、油性物質、保湿剤、抗炎症剤、美白剤および紫外線吸収剤または紫外線散乱剤からなる群から選択される、1以上の物質を含有する化粧料。
【請求項2】
さらに非結晶性絹フィブロイン以外の界面活性剤を含有する、請求項1記載の化粧料。
【請求項3】
非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクを化粧料全体の0.1?15重量%含有する、請求項1または2記載の化粧料。
【請求項4】
非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクが、
1)絹物質を中性塩で溶解させる、
2)溶解された絹タンパクを透析する
工程を含む方法により得られるものである、請求項1?3いずれかに記載の化粧料。
【請求項5】
絹物質が、セリシンを除いたものである、請求項4記載の洗浄剤組成物。
【請求項6】
非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクが、水性ゲルとして配合されてなる、請求項1?5いずれかに記載の化粧料。
【請求項7】
非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水性ゲルが、非結晶性絹フィブロインを3?10重量%および残部水を含むものである請求項6記載の化粧料。
【請求項8】
非結晶性絹フィブロインが、以下の式(I):
【化1】

n=約5000
R=H 約45%
CH_(3) 約30%
CH_(2)OH 約12%
CH_(2)-φ-OH 約5% (φはアリーレン基)
その他 約8%
で示される、請求項1?7いずれかに記載の化粧料。
・・・
【請求項11】
b)成分が油性物質を含む、請求項1?10いずれかに記載の化粧料。
【請求項12】
b)成分が保湿剤を含む、請求項1?11いずれかに記載の化粧料。
・・・
【請求項17】
クリーム状である、請求項1?16いずれかに記載の化粧料。」

(2) 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、絹フィブロインを界面活性剤として用いる、新たな組成の化粧料を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は従来の絹由来のタンパク質由来にみられる繊維状のかすが発生せず、伸びがよく、シットリする一方、べたべたしたり、肌へ刺激を与えたりすることのない化粧料を提供することを目的とする。」

(3) 「【0014】
本発明の化粧料には、非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパク質を、化粧料全体の0.01?15重量%、好ましくは1?15重量%含有する。特に好ましくは、非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水性ゲル、より好ましくは非結晶性絹フィブロインの水性ゲルを用いて調製される。
【0015】
水性ゲルとしては、水中に絹タンパクを1?15重量%、好ましくは3?10重量%、より好ましくは4?8重量%含有するものが好適に用いられる。
【0016】
非結晶性絹フィブロインの水性ゲルを用いることにより、増粘剤等の成分を添加せずにクリーム状の化粧料を調製することが可能である。
【0017】
本発明の化粧料においては、上記a)成分に加えてb)成分の水溶性高分子化合物、油性物質、保湿剤、抗炎症剤、美白剤および紫外線吸収剤または紫外線散乱剤からなる群から選択される、1以上の物質が配合される。本発明の化粧料にはさらに、非結晶性フィブロイン以外の界面活性剤を含有していてもよい。」

(4) 「【0020】
本発明の化粧料に配合される油性物質としては、通常化粧料や医薬部外品等の皮膚外用剤に用いられるものがいずれも好適に用いられ、例えば、・・・オリーブ油、・・・などの油脂類またはこれら油脂類の水素添加物(硬化油等)、ミツロウ、・・・などの炭化水素類、ラウリン酸・・・、等の脂肪酸類が例示される。
【0021】
さらに、・・・ベヘニルアルコール、・・・、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)、・・・等もまた配合することができる。
【0022】
油性物質を配合する場合、その配合量は化粧料の目的によって適宜選択すればよいが、典型的には化粧料全体の0.1?90重量%、好ましくは1?90重量%配合する。本発明のa)成分である非結晶性絹フィブロインは乳化剤として作用することから、乳液、クリーム等の乳化化粧料が提供される。」

(5) 「【0023】
本発明において添加される保湿剤としては、通常化粧料や医薬部外品等の皮膚外用剤に用いられるものがいずれも好適に用いられ、例えばグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、・・・を例示することができる。
【0024】
本発明の化粧料における保湿剤の配合量は限定的ではなく、保湿剤の種類、化粧料の目的、剤形、化粧料に配合される他の成分等によって適宜決定すればよい。典型的には保湿剤は化粧料全体の0.01?50.0重量%、好ましくは0.5?30.0重量%配合する。」

(6) 「【0035】
一般に蚕は体内の絹糸腺腔に絹を分泌し、この絹は液状絹と言われる。
液状絹はフィブロインとセリシンから成り(これらを絹タンパクという。)、液状フィブロインは分子量約37万である(・・・)。
また分子量約37万のフィブロインは分子量約35万(H鎖)と約2.5万(L鎖)に分けられる。
蚕は営繭時に液状絹を吐糸して繭(繭糸と蛹で構成)を作る。
繭糸には中心部にフィブロイン、周囲にセリシンが存在し、存在比は(70??80%フィブロイン):20?30%(セリシン)であることが知られている。
・・・
繭糸、生糸又は生織からセリシンを除去する工程を精練といい、精練後の繊維が絹糸又はフィブロイン繊維である。
絹糸は、まず、養蚕農家で生産された繭を乾繭、煮繭後に繰糸して生糸を作製し、次いで、生糸又は生織の精練を行い、絹糸また絹織物とする。
これらの工程で生じる屑が残糸である。
乾繭は繭を115?120℃の温度から5?6時間かけて80℃程度の温度に徐々に下げて行う。煮繭では100?105℃の水蒸気及び熱水で10分間処理される。
【0036】
B.精練
精練方法としては、アルカリ性ナトリウム塩や石鹸を含む水溶液中で煮沸する場合(アルカリセッケン精練)が最も一般的な方法である。
その他、アルカリ性ナトリウム塩のみで精練する場合(アルカリ精錬)、加圧熱水(例えば120℃の熱水)に浸漬して精練する場合(高圧精練)、酵素で精練する場合(酵素精練)等がある。
水のみで煮沸精練する場合もあるが、セリシンの残留が多く一般的ではない。
このような精練によって絹糸を得る。
ここで精練を行っていない場合は未精練、精練が完全でない場合は半精練といわれる。
半精練で得られた物も絹糸というが、フィブロイン繊維とはいわない。
ここでは99%以上フィブロインである場合をフィブロイン繊維という。
原料を精練する時に用いるアルカリ水溶液としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ性ナトリウム塩の水溶液が挙げられる。
アルカリ精練の場合、炭酸ナトリウム水溶液は適度なバッファー効果があるため、特に、好ましい。精練によって原料は脱セリシンされる。」

(7) 「【0041】
C.絹タンパク水溶液の作成
精練のような加工工程で、絹はアルカリを含む高温高湿処理を受けるため、絹タンパクは分解して分子量が低下され易い。
絹タンパクは、酸、アルカリ、高温(特に湿熱)、光(特に紫外線、放射線)で分解し分子量を低下し易い。
中性塩による溶解の場合にも分子量を低下し易い。
絹タンパクの分子量低下は絹タンパクの細胞生育促進性の低下に関係しているので、極端な分子量低下は好ましくない。
【0042】
本発明の非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクを得るには、上記絹物質を以下のように溶解する。
非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水溶液;
絹の溶解剤である中性塩としては、例えば塩化カルシウム、銅エチレンジアミン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸リチウム、臭化リチウム、硝酸マグネシウム等の中性塩が挙げられる。
当該中性塩においても飽和水溶液又は50%[重量(g)/容量(mL)]飽和以上の濃度が好ましい。
【0043】
絹を中性塩溶液に溶解する工程では、中性塩にメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルコールを添加し、94℃以下の温度で、望ましくは75?85℃程度の温度で行うとよい。
この場合、攪拌することにより溶解を促進することができる。
溶解温度が低いと溶解しにくい。
溶解温度が高いと溶解し易いが、分子量低下が激しく起きる。
【0044】
絹を中性塩で溶解した溶解液には、フィブロインあるいはフィブロインとセリシンの混合物、中性塩、アルコール等が含まれている。
この溶解液から、まず不溶物を除去し、次いで透析膜や透析装置を用いて分子量約5,000以下の低分子物を除去する。このような透析によって絹タンパク水溶液を得る。この絹タンパク水溶液には、塩化カルシウムが0.001?0.1M程度残されていてもよい。
一方、水溶液における絹タンパクは高分子量であるほど震動や攪拌時のずり(shear)により繊維化し易い。
繊維化物は水不溶性の塊状物となるので、洗浄料としての使用感(手触り)を低下させる原因となる。
そのため、絹タンパクの分子量はある程度低下しているほうが好ましいが、配合法や使用方法を緩やかにすることで繊維化が起こりにくくなることから、高分子量の絹タンパクが含まれていてもよい。」

(8) 「【0045】
本発明の非結晶性絹フィブロインは、平均分子量(重量平均)5,000以上で界面活性剤として作用する。非結晶性絹フィブロインには細胞生育作用が有ることも知られており、5,000?20,000では細胞生育作用はほとんど無いが、化粧料へ配合する乳化剤としての使用には差し支えない。平均分子量2万?4万でもまだ細胞生育作用は少ないが、本発明の乳化剤として利用可能である。細胞生育促進性の十分あるフィブロインの平均分子量としては、4万?37万である。
したがって、例えば皮膚ケア用素材として用いる場合には平均分子量6?30万の範囲のものが特に好ましい。
【0046】
Cにより得られる非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水溶液は、これをそのまま配合しても、これを一旦乾燥して粉末状としたものを配合しても、あるいは水溶液もしくは粉末状非結晶性絹フィブロインを水性ゲルとしたものを配合してもよい。」

(9) 「【0052】
具体的な非結晶性絹フィブロインの製造例としては、例えば以下のような手法を用いることができる:
まず、絹繊維を精練し、表層のセリシンを除去する。次に、塩化カルシウムとエチルアルコールと水とをモル比で塩化カルシウム:エチルアルコール:水=1:2:8となるように混合した溶液を作成する。全体の重量が500gになるようにすると、各成分の重量は次の通りとなる。
塩化カルシウム:エチルアルコール:水=160g:132.5g:207.5g
【0053】
水と塩化カルシウムとの混合により熱が発生し、上記比率で混合した場合には溶液の温度は約80℃程度まで上昇する。そこに精練済みの絹繊維(フィブロインから成る)を入れて攪拌を行うと、絹繊維が溶解する。上記溶液500gに対し絹繊維を50g程度入れると、約30分程で全量が溶解する。なお、絹繊維を予め適宜の長さに切断して短くしておくことにより、溶解時間を短縮することができ、また、ヒーター等により積極的に加熱して温度を維持することや溶液に対する絹繊維の量を変えることにより、溶解時間や溶解濃度を変えることができる。
【0054】
次に、溶解液を濾過して残渣を除去し、フィブロイン溶解液を得る。このフィブロイン溶解液を透析膜で形成した袋に入れ、その袋を純水中に入れることにより、フィブロイン溶解液中の塩化カルシウムとエチルアルコールを純水中に排出する。透析膜の袋としては、例えば、三光純薬株式会社製透析膜を用いることができる。数時間毎に純水に交換して、このような透析を10?30回程度繰り返すことにより、塩化カルシウムはほぼ完全にフィブロイン溶解液から除去される。なお、塩化カルシウム等の低分子物質が十分除去されたことを確認するには、数時間程度透析を行った後の水に硝酸銀を入れ、それが白濁しないことで判定する。
【0055】
得られるフィブロイン溶解液に含まれるフィブロインは、非結晶性であり、以下の式(I):
【化3】

n=約5000
R=H 約45%
CH_(3) 約30%
CH_(2)OH 約12%
CH_(2)-φ-OH 約5% (φはアリーレン基)
その他 約8%

で示される非結晶性タンパク質を主成分とする。
・・・
【0058】
E. 絹タンパク水溶液のゲル化
非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパク水溶液は、そのまま放置するとゲル化する。ゲル化は絹タンパク水溶液の濃度が高いほど速い。
ゲル化のための絹タンパク水溶液としては、上記Cにて透析して得られた水溶液そのまま、あるいは上記Dのごとく一旦乾燥させた絹タンパクを再度水に溶解したものであってもよい。
【0059】
絹タンパク濃度3%の場合、室温(25℃±5℃)ではゲル化に一週間程度必要であり、室温以下に温度を下げるとゲル化時間は急激に長くなる。同じ濃度の絹タンパク水溶液を室温以上、特に40℃以上に置くとゲル化は2日程度以内で起きる。さらに、120℃とするとゲル化は1?2時間程度で達成される。
本発明の化粧料に用いる、絹タンパク質の水性ゲルを得るためには、50?80℃の温度で静置してゲル化させることが好ましい。
【0060】
絹タンパクの水性ゲルは、フィブロイン濃度が一定以上になると、フィブロイン鎖中の-C=O-と-NH-とが、互いに近隣の他のフィブロイン分子との間で水素結合をつくり、緩く絡み合って三次元網目状を形成することにより現出するものと推定される。
【0061】
この水性ゲルは、非常に脆い状態であるために、外力で容易にゲル状態は壊れる。
そこで、フィブロインを主成分とする4.5%の絹タンパク水溶液の水性ゲルに油性分を入れないで攪拌し、遠心分離機で攪拌物を分離(8,000rpm、10分)したところ、その上澄み液の絹タンパク濃度は、0.1?2.0%であった。
【0062】
上澄液を除いた沈殿物に、上澄み液の分の水を加え、再攪拌し(30秒)、遠心分離(8,000rpm、10分)したところ、上澄み液の絹タンパク水溶液の濃度は、同様に0.1?2.0%であった。
このようなゲルの一部は攪拌によって、容易に水に溶解する性質があり、これを水性ゲルという。
【0063】
このようにして得た絹タンパク水溶液またはその水性ゲルは、界面活性剤として作用する。界面活性剤として使用できる絹タンパクの水性ゲルは、本発明以外の方法、例えば等電点法等によっても得ることができる。
【0064】
次に、上記非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクを用いた本発明の化粧料の具体例を以下に示す。上記の通り、本発明の化粧料に配合される各成分の配合量は限定的ではなく、以下に示す各実施例はいかなる意味においても本発明を限定するものではない。」

(10)「【0065】
【実施例】
・絹タンパクの水性ゲルの作成
家蚕の繭層300gを炭酸ナトリウム6g、水121の沸騰液(約100℃)に浸漬し、70分で精練した。
この絹糸150gを塩化カルシウム392g、水508g、エタノール325gの液に溶解した。
溶解の温度は75?85℃、時間は2時間である。
透析は、始め2日間は水道水、その後は純水で2日間8回にわたり取り替えた。
絹タンパク水溶液の電気泳動像からフィブロインのH鎖は確認できないが、L鎖はわずかに確認できた。
ゲルクロマトグラフィーによる平均分子量は約13万であった。
【0066】
得られた9.41%濃度の絹タンパク水溶液を水で希釈し、固形分濃度7.0%のタンパク水溶液を作成した。
これらの絹タンパク水溶液をビーカーに入れ、60℃にて72時間放置して水性ゲルを得、以下の実施例および処方例において「フィブロインゲル」として用いた。
【0067】
【表1】
クリーム


製法:1?6の成分を加熱し、均一にしたところへ、加熱溶解させた7?11の成分を添加し均一になるまで攪拌し、攪拌しながら室温まで冷却して実施例および比較例のクリームを得た。
【0068】
官能評価
パネラー5名で使用テストを行い、各種の使用感についての評価を行った。下記4項目について評価をし、5名の平均点で評価を行った。
各評価項目と評価点
しっとり感:
しっとり感がある[5点]、
普通 [3点]、
しっとり感がない [1点]
【0069】
べたべた感:
べたべた感がない [5点]、
普通 [3点]、
べたべた感がある [1点]
【0070】
伸び:
伸びが良い [5点]、
普通 [3点]、
伸びが悪い [1点]
【0071】
かすの発生:
かすの発生がない [5点]、
かすの発生がある [1点]
【0072】
結果を表2に示す。比較例1に比べ実施例1、2および3はいずれも使用感がよく、特にかすの発生が少なかった。
【0073】
【表2】

【0074】
以下本発明の化粧料の処方例を示す。
処方例1
【表3】
抗炎症クリーム



2 参考1の記載事項
(1) 「【請求項1】非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水溶液からなる乳化剤。
【請求項2】非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水溶液からなる化粧料用乳化剤。
【請求項3】非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水溶液からなる乳化剤を
用いて油性分を乳化させることからなる乳化化粧料の製造方法。
【請求項4】非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水溶液からなる乳化剤を用いて油性分を乳化させることにより得られる乳化化粧料。
【請求項5】非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水性ゲルからなる乳化剤。
【請求項6】非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水性ゲルからなる化粧料用乳化剤。
【請求項7】非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水性ゲルを用いて油性分を乳化させることからなる乳化化粧料の製造方法。
【請求項8】非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水性ゲルを用いて油性分を乳化させることにより得られる乳化化粧料。
【請求項9】非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水溶液が、蚕の吐糸した繊維(繭糸)の未精練物、半精練物、精練物等を中性塩で溶解し、次いで透析して得られる絹タンパクの水溶液である請求項2に記載の化粧料用乳化剤。
【請求項10】非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水性ゲルが、蚕の吐糸した繊維(繭糸)の未精練物、半精練物、精練物等を中性塩で溶解し、次いで透析して得られる絹タンパク水溶液をゲル化させてなる絹タンパクの水性ゲルである請求項6に記載の化粧用乳化剤。」

(2) 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、蛋白質系乳化剤および該乳化剤を用いて乳化化粧料を製造する方法に関する。」

(3) 「【0008】一方、本発明者らは、長年絹に関する研究を行ってきた中で、絹フィブロインにはヒトの細胞を生育促進する作用があることをつきとめ、これを創傷被覆材等に利用することを提案した(特開平9-192210号公報、特開平11-253155号公報)。その作用は、絹フィブロインを構成するフィブロインのH鎖とL鎖にあることを明らかにした(特開2001-163899号公報、特願2001-180169号)。しかし、絹タンパクは細胞生育促進作用はあるものの、その水溶液またはそのゲル化物が乳化剤として利用できることは知られていなかった。主な理由として、フィブロイン水溶液やそのゲル化物は攪拌などの強い剪断力のもとで繊維化しやすく、繊維化物(水不溶性の塊状物)が分離してくることによるものと考えられる。」

(4) 「【0023】本発明の乳化剤を使用して製造することができる乳化化粧料または医薬部外品としては、例えば、清浄用化粧品(化粧石けん,洗顔料,シャンプー,リンス等)・頭髪化粧品(染毛料,頭髪用化粧品等)・基礎化粧品(一般クリーム・乳液,ひげそり用クリーム,化粧水・オーデコロン,ひげそり用ローション,化粧油,パック等)・メークアップ化粧品(ファンデーション,眉墨,アイクリーム・アイシャドウ・マスカラ等)・芳香化粧品(香水等)・日焼け・日焼け止め化粧品(日焼け・日焼け止めクリーム,日焼け・日焼け止めローション,日焼け・日焼け止めオイル等)・爪化粧品(爪クリーム等)・アイライナー化粧品(アイライナー等)・口唇化粧品(口紅・リップクリーム等)・口腔化粧品(歯みがき等)・入浴用化粧品(浴用化粧品等)等が挙げられる。以下に本発明を実施する場合の詳細について説明する。」

(5) 「【0033】C.絹タンパク水溶液の作成
精練のような加工工程で、絹はアルカリを含む高温高湿処理を受けるため、絹タンパクは分解して分子量が低下され易い。絹タンパクは、酸、アルカリ、高温(特に湿熱)、光(特に紫外線、放射線)で分解し分子量を低下し易い。中性塩による溶解の場合にも分子量を低下し易い。絹タンパクの分子量低下は絹タンパクの細胞生育促進性の低下に関係しているので、極端な分子量低下は好ましくない。本発明の乳化剤としての絹タンパクを得るには、上記の原料を以下のように溶解して得る。
【0034】非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水溶液;本発明において、絹タンパクのセリシン含量が約50%未満の場合において絹フィブロインを主成分とする絹タンパクという。絹の溶解剤である中性塩としては、例えば塩化カルシウム、銅エチレンジアミン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸リチウム、臭化リチウム、硝酸マグネシウム等の中性塩が挙げられる。当該中性塩においても飽和水溶液又は50%〔重量(g)/容量(mL)〕飽和以上の濃度が好ましい。
【0035】絹を中性塩溶液に溶解する工程では、中性塩にメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルコールを添加し、94℃以下の温度で、望ましくは75?85℃程度の温度で行うとよい。この場合、攪拌することにより溶解を促進することができる。溶解温度が低いと溶解しにくい。溶解温度が高いと溶解し易いが、分子量低下が激しく起きる。絹を中性塩で溶解した溶解液には、フィブロインあるいはフィブロインとセリシンの混合物、中性塩、アルコール等が含まれている。この溶解液から、まず不溶物を除去し、次いで透析膜や透析装置を用いて分子量約5,000以下の低分子物を除去する。このような透析によって絹タンパク水溶液を得る。この絹タンパク水溶液には、塩化カルシウムが0.001?0.1M程度残されていてもよい。
【0036】一方、水溶液における絹タンパクは高分子量であるほど震動や攪拌時のずり(shear)により繊維化し易い。繊維化物は水不溶性の塊状物となるので、化粧料としての使用感(手触り)を低下させる原因となる。そのため、絹タンパクの分子量はある程度低下しているほうが好ましいが、乳化の方法や使用方法を緩やかにすることで繊維化が起こりにくくなることから、高分子量の絹タンパクが含まれていてもよい。フィブロインは、平均分子量(重量平均)5,000以上で乳化剤として作用する。しかし、5,000?20,000では細胞生育作用はほとんど無い。2万?4万では細胞生育作用は少ないが、本発明の乳化剤として利用可能である。細胞生育促進性の十分あるフィブロインの平均分子量としては、4万?37万である。したがって、皮膚ケア用素材としては平均分子量6?30万の範囲のものが特に好ましい。」

(6) 「【0041】E.絹タンパク水溶液による油性分の乳化
油性分としてはオリーブ油、椿油、アボガド油、カカオ油,サンフラワー油、パーシック油、パーム油、ヒマシ油等の植物性油やその他動物性油、さらにホホバ油、ミツロウ等のロウ類等、化粧品原料基準に収載されている油やロウ等の油性分を使用する。油性分の種類によって乳化物の性状に大差がない。
【0042】絹タンパク水溶液の濃度と絹タンパク水溶液量に対する油性分の割合を適宜調整することにより目的とする化粧料を作成する。絹タンパク水溶液と油性分を混合し、乳化させる方法としては攪拌法、すりまぜ法等があるが、いづれでもよい。乳化用の機械は絹の濃度や油の割合によって使い分けることが望ましい。乳化物の粘性は絹水溶液の濃度によって変わり、絹水溶液の濃度が薄いと絹タンパクによる細胞生育性が低い。したがって、濃度は0.1%以上、好ましくは0.5%以上である。
【0043】一方、絹タンパク水溶液の濃度が高いと皮膚上での伸びが低下し、使用感が低下する。従って、その濃度は15%以下、好ましくは10%以下がよい。セリシンの割合が50%を越えるとセリシンの性質が強くなり、ゲル化が起き易くなるために好ましくない。より好ましくは30%以下である。乳化物は絹タンパク水溶液の濃度が低い(3%程度以下)場合は液状となるので、乳液として使える。濃度が高くなる(3%程度以上)に従って、粘性を帯びクリームや軟膏として使える。絹フイブロイン濃度が低いと細胞生育率が低いこと、絹タンパク水溶液の濃度が高いと伸びが低下することなどは、次に述べる水性ゲルの乳化の場合にも同様である。」

(7) 「【0049】本発明の乳化化粧料には、本発明の作用・効果を損なわない範囲で、必要に応じて、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、保湿剤、殺菌剤、抗炎症剤、色素,香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ビタミン、有機もしくは無機の粉体、アルコール、糖類等の化粧料に通常に使用される成分を適宜配合することができるこというまでもない。」

(8) 「【0050】
【実施例1】・絹タンパク水溶液による油性分の乳化
平成13年春産の家蚕繭の繭層を、通常の方法で乾繭、煮繭、繰糸した生糸を原料とし、この生糸300gを12lの水と6gの炭酸ナトリウム中で40分煮沸して精練した。練減は25.7%であり、フィブロインが99%以上の絹糸を得たと考えられる。この絹糸(150g)を塩化カルシウム、エタノール、水のモル比1対2対8の割合の液(絹糸の10倍量)で溶解した。溶解は75?80℃、60分で行い、透析した。
【0051】透析は溶解液を透析膜〔三光純薬(株)、UC36-32-100〕に入れ、これを純水に浸漬して透析した。透析後のフィブロインの電気泳動像ではフィブロインのH鎖はわずかに確認でるが、L鎖は確認でき、クロマトグラフィーによる重量平均分子量は約24万であった。また、透析後の絹タンパク水溶液の濃度は8.2%であった。この濃度を純水で希釈し、8.2%の他に4.0%、2.0%、1.0%、0
.2%の絹タンパク水溶液を作成した。また、濃度8.2%の絹水溶液を透析膜に入れた状態で、5℃の室内で乾燥し、濃度13.2%の絹水溶液を得た。これらの濃度の違う絹タンパク水溶液にオリーブ油を加えて攪拌し(コーヒーミキサー、約20秒)、乳化した。
【0052】攪拌後に乳化物を腕に0.1?0.3g量をのせ、約100cm^(2)の広さに指を使ってよく伸ばし、塗布した。皮膚に塗っているとき、乳化物の伸び易さ(展延性)および乳化物から小さな塊状物の出やすさ(ボロボロ感)から化粧料としての利用できる範囲を調べた。その結果を図1に示す。図1の横軸は絹タンパク水溶液のタンパク濃度(%)である。縦軸は、油性分率=100×油性分(g)/{絹タンパク水溶液(g)+油性分(g)}を示す。乳液またはクリームとして使える範囲は実線Aで囲まれる部分、好ましくはBで囲まれる部分である。
【0053】
【実施例2】
・乾燥非結晶性絹タンパク(フィルムまたは粉末)からの絹タンパク水溶液からの乳化物
実施例1で作成した濃度4.0%の絹タンパク水溶液を25℃、40%RHの室内のプラスチック板上に流し、送風しながら乾燥して絹フィルムを作成した。得られた非結晶性絹フィルムを、20℃の水に浸漬し、溶解させて濃度が6.0%、4.0%、2.0%、1.0%の絹タンパク水溶液を作成した。これらを実施例1と同様にオリーブ油を加え攪拌し、乳化させた。得られた乳化物の化粧料として利用できる絹タンパク水溶液の濃度と油性分率の関係は、図1に示されと同様な結果となった。
【0054】
【実施例3】・絹タンパクの水性ゲルによる油性分の乳化
家蚕の繭層300gを炭酸ナトリウム6g、水12lの沸騰液に浸漬し、100分で精練した。この絹糸195gを塩化カルシウム392g、水508g、エタノール325gの液に溶解した。溶解の温度は75?85℃、時間は3時間である。
【0055】透析は、はじめの2日間は水道水、その後は純水で2日間8回替えた。絹水溶液の電気泳動像からフィブロインのH鎖は確認できない。L鎖は明確には確認できず、ゲルクロマトグラフィーからは平均分子量は約6.5万であった。この絹水溶液の濃度は14.1%であった。他に、濃度6.0%、3.0%、1.0%、0.2%を作成し、これらを70℃に放置してゲル化させた。得られた絹タンパクの水性ゲルにオリーブ油を加えて攪拌し(コーヒーミキサー、約30秒間攪拌)、乳化させた。
【0056】得られた乳化物を腕に0.1?0.3gの量をのせ、約100cm2の広さに指を使ってよく伸ばし(20?200cm/秒程度の速度、20?200g程度の荷重)、皮膚に塗布した。この時の乳化物の伸び易さ、および乳化物から小さな塊の出やすさ(ボロボロ感)を調べ、化粧料としての利用できる範囲を決定した。その結果を図2に示す。 図2の横軸は絹タンパク水溶液のタンパク濃度(%)である。縦軸は、油性分率=100×油性分(g)/{(絹タンパク水溶液(g)+油性分(g)+W(g)}を示す。Wはゲル化物の濃度が濃いとき、攪拌時に加えた水の重量である。乳液またはクリームとして使える範囲は実線Aで囲まれる部分、好ましくはBで囲まれる部分である。
【0057】
【実施例4】・絹タンパクの水性ゲルの作成:家蚕の繭層300gを炭酸ナトリウム6g、水12lの沸騰液(約100℃)に浸漬し、70分で精練した。この絹糸150gを塩化カルシウム392g、水508g、エタノール325gの液に溶解した。溶解の温度は75?85℃、時間は2時間である。透析は始め2日間は水道水、その後に純水で2日間8回にわたり取り替えた。
【0058】絹タンパク水溶液の電気泳動像からフィブロインのH鎖は確認できないが、L鎖はわずかに確認できた。ゲルクロマトグラフィーによる平均分子量は約13万であった。得られた9.41%濃度の絹タンパク水溶液を水で希釈し、他に3.12%、0.20%の絹タンパク水溶液を作成した。これらの絹タンパク水溶液をビーカーに入れ、恒温室に置いてゲル化時間を調べた。120℃についてはオートクレーブを用いた。」

(9) 「【0067】・(試験例3) フィブロインの分子量と細胞生育促進性
水1, 000cc中に炭酸ソーダ0.5gを入れ、煮沸(100℃)し、煮沸中に家蚕の繭層10.0gを浸漬、攪拌して精練した。精練時間は(1)5分、(2)20分、(3)60分、(4)130分、(5)180分とした。それぞれの練減は(1)22.3%、(2)24.5%、(3)25.1%、(4)25.5%、(5)26.2%であった。(4)と(5)は99%以上がフィブロインと考えられる。
これらの絹タンパクについて分子量(重量平均)と細胞生育性との関係を調べた。平均分子量測定はゲルクロマトグラフィーカラムを用い、試料を8Mウレア/40mM Tris-H2SO4(pH8)で溶出し(0.6ml/min)、275nmでモニターした。分子量測定用のカラムはSuperdex 200 Prep grade(ファルマシア)を使用した。
【0068】次に、(1)?(5)の細胞生育性については次のように測定した。 まず、絹の細胞培養容器へのコートは次のように行った。(1)?(5)の絹タンパク各0.01gを9M LiSCN1mlに溶解し、各溶解液を50倍量の水で4回透析し、絹タンパク水溶液とした。これら各絹タンパクの0.0025%溶液1mlを細胞培養用のシャーレ(35mmφ、ファルコン)に入れ、風乾し、PBS2mlで3回洗ったのち再度風乾し、70%エタノールで浸漬して滅菌した。
【0069】細胞はクラボウ(株)から購入したヒト皮膚線維芽細胞を使用した、培地はクラボウから購入した皮膚線維芽細胞増殖用低血清培地を使用した。培養は絹タンパクをコートしたシャーレ1枚につき培地2mlを入れ?7万の細胞を接種して3日間培養した。細胞数の測定はシャーレ1枚につき培地2ml、アラマブルー(IWAKI)0.1mlを入れ、37℃で2時間後に570nm、600nmの吸光度から計算した色素の還元量を生育細胞数とした。絹タンパクをコートしなかったシャーレを対照区(100%)とし、絹タンパクをコートしたシャーレの細胞生育数を図4に示した。フィブロインの分子量が低下するにしたがって、細胞生育性も低下したが、フィブロインの分子量約4万以上では細胞生育促進性を有している。
【0070】以上、本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、明細書記載の作用効果を得れる限り種々の変更例が可能である。例えば、食品用(チョコレート乳化剤等)、医療用(軟膏等)、洗浄用(洗剤等)及びその他の分野への利用も可能なことはいうまでもない。
【0071】
【発明の効果】本発明の、非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水溶液又は水性ゲルからなる化粧料用乳化剤は、単に乳化力や使用感を改善するのみならず、乳化剤自体が皮膚細胞生育促進性を有している。そのために、この乳化剤を用いて油性分を乳化させて得られる乳化物は、広範
囲の油─水組成の乳化化粧料に使用することができると共に、皮膚ケアの上で極めて優れている。
【0072】
【表1】
絹クリームの混合割合



(10) 「【図面の簡単な説明】
・・・
【図4】
図4は、絹タンパク(重量)平均分子量と細胞生育率(%)を示す図である。」(第10頁左欄第1行?右欄第5行)

(11) 「【図4】



3 参考2?8の記載事項
参考2?7には、水、ミツロウ、BG(1,3-ブチレングリコール)、オリーブ油、加水分解シルクを含有するマスカラが記載されている。
参考8には、水、ミツロウ、BG(1,3-ブチレングリコール)、オリーブ油、加水分解シルクを含有するクリームクレンジングが記載されている。

4 甲1に記載された発明
甲1の記載事項(1)?(10)、特に(8)の【0045】、(10)の【0065】?【0073】、表1の実施例1を踏まえると、甲1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「平均分子量約13万の絹タンパク質の固形分濃度7.0%の水溶液からなるフィブロインゲル 40.0%、1,3-ブチレングリコール 15.0%、グリセリン 12.0%、メチルパラベン 0.3%、スクワラン 18.0%、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・オクチルドデシル) 3.0%、ベヘニルアルコール 3.0%、トコフェロール 0.2%、精製水 残量からなる化粧料であるクリーム。」(以下、「甲1発明a」という。)

また、甲1には、以下の発明も記載されているものと認められる。
「家蚕の繭層300gを炭酸ナトリウム6g、水12l(12リットル)の沸騰液(約100℃)に浸漬し、70分で精練し、
この絹糸150gを塩化カルシウム392g、水508g、エタノール325gの液に溶解し、溶解の温度は75?85℃、時間は2時間であり、
透析をして、ゲルクロマトグラフィーによる平均分子量約13万である絹タンパクの水溶液を得、得られた9.41%濃度の絹タンパク水溶液を水で希釈し、固形分濃度7.0%のタンパク水溶液を作成し、これらの絹タンパク水溶液をビーカーに入れ、60℃にて72時間放置して水性ゲルを得、
該水性ゲルであるフィブロインゲル40.0%、精製水 残量、1,3-ブチレングリコール15.0%、グリセリン12.0%、メチルパラベン0.3%を加熱し、均一にしたところへ、加熱溶解させたスクワラン18.0%、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)3.0%、ベヘニルアルコール3.0%、トコフェノール0.2%を添加し均一になるまで攪拌し、攪拌しながら室温まで冷却して得られる、化粧料であるクリームの製造方法。」(以下、「甲1発明b」という。)

なお、甲1発明a及び甲1発明bにおける「%」は、甲1全体の記載からみて、重量%(wt%)であると認める。


第5 当合議体の判断

1 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と甲1発明aを対比する。
甲1発明aにおける「平均分子量約13万の絹タンパク質」は、精錬とそれに続く塩化カルシウム、水及びエタノール中75?85℃での溶解処理により平均分子量約37万のフィブロインが平均分子量約13万となったものであるから、本件発明1でいう「加水分解フィブロイン」に相当する。また、甲1発明aにおける「スクワラン」、「N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)」、「ベヘニルアルコール」は、本件発明1における「油性成分」に相当し、甲1発明aにおけるフィブロインゲル中の水、「精製水」、「1,3-ブチレングリコール」及び「グリセリン」は、本件発明1における「水性成分」に相当する。
そして、以下のとおり、甲1発明aにおける、「平均分子量約13万の絹タンパク質」の配合量は2.8重量%であり、水(フィブロインゲル中の水及び「精製水」)の含有量は45.7重量%であり、水と「1,3-ブチレングリコール」の合計含有量は60.7重量%であるから、それらの含有量は両発明において重複する。
絹タンパク質: 40.0重量%×0.07=2.8重量%
水: 100重量%-2.8重量%-15.0重量%-12.0重量%-0.3重量%-18.0重量%-3.0重量%-3.0重量%-0.2重量%=45.7重量%
水及び1,3-ブチレングリコールの量: 45.7重量%+15重量%=60.7重量%

さらに、甲1発明aの「化粧料であるクリーム」は、皮膚の表面に適用されるものであるから「外用剤」の限りにおいて、本件発明1に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明aは、
「外用剤であって、加水分解フィブロイン2?10wt%と、油性成分と、水性成分とを含み、
前記水性成分として、水及び1,3-ブチレングリコールを55?65wt%含む、
外用剤。」の発明
である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
「外用剤」の用途について、本件発明1は、「創傷治療に用いる、創傷部位に塗布するための」ものであるのに対し、甲1発明aは、「化粧料」である点。

(相違点2)
本件発明1では、「加水分解フィブロイン」の分子量分布がMw/Mn=2.0?5.0に特定されるのに対し、甲1発明aでは、「平均分子量約13万の絹タンパク質」の分子量分布が不明である点。

(相違点3)
本件発明1は、油性成分として、オリーブオイル20?30wt%及びミツロウを5?10%(なお、「5?10%」は「5?10wt%」の意味と認める)を含むのに対し、甲1発明aは、油性成分として、スクワラン 18.0重量%、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・オクチルドデシル) 3.0重量%、ベヘニルアルコール 3.0重量%を含む点。

(2) 判断
ア 申立理由1(新規性)について
(相違点1について)
甲1には、絹タンパク質を界面活性剤として用いる、新たな組成の化粧料の提供を目的とし、より詳細には、従来の絹由来のタンパク質由来にみられる繊維状のかすが発生せず、伸びがよくシットリする一方で、べたべたしたり肌への刺激のない化粧料を提供することを目的とするものであること(【0006】)、化粧料の用途として、化粧水、乳液、クリーム、パックなどの基礎化粧料、口紅、アイシャドウ等のメイキャップ化粧料、ヘアトニックなどの頭髪用化粧料などの化粧料、および医薬部外品に用いることができること(【0031】)、配合成分について、水溶性高分子、油性物質、保湿剤、抗炎症剤、美白剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤や、通常化粧料や外用医薬品に添加される他の成分(防腐剤、増粘剤、無機顔料等、無機粉体、有機粉体、香料等)を配合できること(請求項1,【0032】)が記載されるに止まり、該化粧料を創傷部位に塗布することの記載もなければ、化粧料の成分として創傷治療剤を配合するなど創傷治療を示唆する記載もない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点である。

(相違点2について)
甲1には、甲1発明aの「平均分子量約13万の絹タンパク質」の分子量分布(Mw/Mn)が2.0?5.0であることは記載されていないし、そのような分子量分布を推認させる記載もない。
したがって、相違点2も、実質的な相違点である。

以上のとおり、本件発明1は、相違点1及び2において相違するから、相違点3について検討するまでもなく、甲1に記載された発明ではない。

イ 申立理由2(進歩性)について
(相違点1について)
参考1の記載事項(1)?(11)のとおり、参考1には、参考1の非結晶性絹フィブロインを主成分とする絹タンパクの水溶液からなる乳化剤について、皮膚細胞生育促進性を有すること(【0021】、【0069】、図4)、乳化化粧料や医薬部外品に乳化剤として用いること(【0023】)、食品用、医療用(軟膏等)、洗浄用等の他の分野へ利用可能なこと(【0070】)の記載はあるものの、創傷治療に係る用途への使用についての記載や示唆はない。また、参考2?8は、マスカラ又はクリームクレンジングの化粧品に関するものであって、創傷治療の用途とは関連しないものである。
よって、甲1発明aの化粧料クリームを創傷治療に用いることは、甲1又は参考1?8の記載から当業者が容易になし得たことではない。

(相違点2について)
甲1及び参考1?8には、加水分解フィブロインの分子量分布を特定の範囲に調節することについて記載も示唆もないから、甲1発明aにおける「平均分子量約13万の絹タンパク質」を分子量分布Mw/Mn=2?5のものとするのは、甲1及び参考1?8の記載から当業者が容易に想到し得ることではない。

そして、本件発明1の効果について、実施例の記載をみるに、所定の分子量分布を有する加水分解フィブロインと、オリーブ油及びミツロウの油性成分、1,3-ブチレングリコール及び水の水性成分とを所定の割合で含む軟膏(外用剤)が、肉芽組織の形成と上皮の再生といった創傷の治療のための効果を有し、かつ、刺激性、安定性、取扱性などの実用的条件を満たすことが理解でき、これらは、甲1及び参考1?8の記載から当業者が予期し得る効果ではない。

以上のとおり、相違点1及び2は、甲1及び参考1?8の記載から当業者が容易に想到し得るものではなく、本件発明1は、甲1及び参考1?8の記載からは予測できない効果を奏するものであるから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明a及び周知技術(参考1?8に記載された事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 申立人の主張について
ア 主張の概要
申立人は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、上記相違点1、2について概略以下の主張をしている。

(相違点1について)
a 甲1の化粧料の用途として記載された「皮膚ケア素材」は、細胞生育促進性があるのものであるから、これを付与する行為は、本件発明における「創傷治療」に相当する(第13頁第5?7行)。
b 化粧料はそもそも皮膚のダメージを埋め合わせる(メイクアップする)ものであるから、創傷治療の一環である(第13頁第8?10行)。

(相違点2について)
c 分子量分布について、本件特許明細書において、単なる目安に過ぎないと記載され、分子量分布をMw/Mn=2.0?5.0の範囲とする臨界的意義は示されておらず、実施例も1例のみで、範囲を外れた場合との比較もなく、分子量分布を特定の範囲とする特段の効果が記載されていない。
これらのことから、分子量分布を請求項に記載の範囲とすることは、何ら特徴がなく、当業者が適宜選択できる範囲である(第15頁第1?12行)。
d 本件特許明細書では、一般的な加水分解フィブロインの製造方法のみが記載され、分子量分布を作為的に特定の範囲とする製造方法の記載もない。
したがって、通常の加水分解フィブロインの製法によれば、分子量分布が請求項に記載の範囲内となるから、分子量分布をMw/Mn=2.0?5.0とすることは、甲1に記載されているに等しいといえる(第15頁第13?23行)。

イ 申立人の主張に対する判断
(相違点1について)
主張a、bについて
化粧料における「皮膚ケア素材」とは、肌荒れ等の皮膚のダメージのケアを意味するものであり、本件発明1が対象とする裂傷、擦過傷、外科的切開創、皮膚潰瘍、火傷のような「創傷」を意味するとは到底いえないから、甲1発明aが創傷治療に用いられるというのには無理がある。また、メイクアップは、皮膚のダメージを改善するものではないから、当然創傷治療には相当しない。
よって、これらの主張は採用できない。

(相違点2について)
主張cについて
分子量分布Mw/Mnを2.0?5.0とすること自体が、甲1及び参考1?8の記載から当業者が容易に想到し得たことでないことは、上記(2)で述べたとおりであるから、上記特定範囲の臨界的意義や特定範囲外との比較の記載がないから当該分子量分布は当業者が適宜選択し得るものということはできない。
よって、この主張は採用できない。

主張dについて
申立人がいう「通常の加水分解フィブロインの製法」がどのような条件で行われるものをいうのか明らかではないが、一般に、高分子量の物質を加熱によって加水分解し、より低分子量の物質を得る場合、その加水分解の条件が異なれば、得られる低分子量の物質の分子量分布も異なるのが技術常識であるところ、本願明細書において、本件発明1の加水分解フィブロイン(分子量分布Mw/Mn=3.65)を調製するためにシルク材料を加水分解する工程((1)の工程)において採用された条件と甲1発明aの「平均分子量約13万のフィブロイン」を調製するために絹糸を溶解(加水分解)する工程で採用される条件が異なるのは明らかであり、特に、前者は沸騰状態(100℃)の水中で加水分解が行われるものであるのに対し、後者は94℃以下望ましくは75?85℃のエタノール等のアルコールと水との混合液中で処理するものである(甲1の記載事項(7)、(10))点で顕著に異なるものであるから、甲1に分子量分布Mw/Mn=2.0?5.0とすることが記載されているに等しいということはできない。
したがって、この主張は採用できない。

(4) 小括
本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法第29第2項の規定に違反して特許されたものではないから、その特許は同法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

2 本件発明2?3について
本件発明2?3は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、これをさらに限定するものであって、本件発明1と同様に相違点1?3を有するものであるから、本件発明1と同様に判断される。
よって、本件発明2?3は、甲1発明aではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲1発明a及び周知技術(参考1?8に記載された事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、同法第29条第2項の規定に違反するものではないから、それらの特許は同法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

3 本件発明4について
(1) 対比
本件発明4と甲1発明bを対比する。
甲1発明bの「家蚕の繭層300gを炭酸ナトリウム6g、水121の沸騰液(約100℃)に浸漬し、70分で精練し」た絹糸は、本件発明4の「セリシンを除去したシルク材料」に相当する。
甲1発明bにおける「この絹糸150gを塩化カルシウム392g、水508g、エタノール325gの液に溶解し、溶解の温度は75?85℃、時間は2時間」なる工程は、絹糸(セリシンを除去したシルク材料)を塩化カルシウムを含む溶液中で一定時間加熱するとの限りにおいて、本件発明4の(1)の工程と一致する。
甲1発明bにおける「透析をして」との工程は、本件発明4の(2)の工程と一致する。
甲1発明bにおける「水性ゲル」は「ペースト」といえるものであるから、甲1発明bにおける「平均分子量は約13万である絹タンパク質の水溶液を得、得られた9.41%濃度の絹タンパク水溶液を水で希釈し、固形分濃度7.0%のタンパク水溶液を作成し、これらの絹タンパク質水溶液を・・・60℃にて72時間放置して水性ゲルを得」なる工程は、加水分解フィブロインの溶液の濃度を調整した後、静置し、加水分解フィブロインペーストを得るとの限りにおいて、本件発明4の(3)の工程と一致する。
また、本件発明4の軟膏製剤にはクリームも含まれるから(本件特許明細書の段落【0026】)、甲1発明bの「該水性ゲルであるフィブロインゲル 40.0重量%、精製水 残量、1,3-ブチレングリコール 15.0%重量%、グリセリン 12.0重量%、メチルパラベン 0.3重量%を加熱し、均一にしたところへ、加熱溶解させてスクワラン、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・オクチルドデシル) 3.0重量%、ベヘニルアルコール 3.0重量%、トコフェノール 0.2重量%の成分を添加し均一になるまで攪拌し、攪拌しながら室温まで冷却して得られる・・・クリーム」なる工程は、加水分解フィブロインペーストに油性基材を混合して、加水分解性フィブロイン、油性基材及び水性成分を含むクリーム(軟膏製剤)を得るとの限りにおいて、本件発明4の(4)の工程に一致する。
そして、甲1発明bにおける「平均分子量約13万である絹タンパク質」の配合量は、以下のとおり2.8重量%であり、本件発明4の「加水分解フィブロイン」の配合量2?10wt%と重複する。
絹タンパク質: 40.0重量%×0.07=2.8重量%

そうすると、本件発明4と甲1発明bとは、
「(1)塩化カルシウム又は臭化リチウムの溶液中で、セリシンを除去したシルク材料を加熱する工程、
(2)(1)で得られた溶液を透析により脱塩する工程、
(3)(2)で得られた溶液の濃度を調整した後、静置し、加水分解フィブロインペーストを得る工程、及び、
(4)(3)で得られた加水分解フィブロインペーストと、油性基剤とを撹拌混合して、加水分解フィブロイン2?10wt%、油性基材、及び、水性成分を含む軟膏製剤を得る工程、を含む、軟膏製剤の製造方法。」の発明
である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点4)
本件発明4は、沸騰した、すなわち約100℃である、塩化カルシウム又は臭化リチウムの濃度が40?60wt%の水溶液中で、セリシンを除去したシルク材料を40?70分間加熱するものであるのに対し、甲1発明bは、75?85℃である、塩化カルシウムの濃度は32wt%(=[392g/(392g+508g+325g)]×100%)のエタノールと水との混合溶液中で2時間加熱するものである点。

(相違点5)
本件発明4では、「加水分解フィブロインペースト」の分子量分布がMw/Mn=2.0?5.0に特定されるのに対し、甲1発明bでは、「平均分子量約13万の絹タンパク質フィブロインゲル」の分子量分布が不明である点。

(相違点6)
油性基材及びその配合量が、本件発明4は、オリーブオイル20?30wt%、ミツロウ5?10wt%であるのに対し、甲1発明bは、スクワラン 18.0重量%、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・オクチルドデシル) 3.0重量%、ベヘニルアルコール 3.0重量%である点。

(相違点7)
水性成分の配合量が、本件発明4では、55?65wt%であるのに対し、甲1発明bでは、以下のとおり、72.7重量%である点。
水: 100重量%-2.8重量%(絹タンパク質)-15.0重量%-12.0重量%-0.3重量%-18.0重量%-3.0重量%-3.0重量%-0.2重量%=45.7重量%
水性成分(水、1,3-ブチレングリコール及びグリセリンの量):45.7重量%+15重量%+12重量%=72.7重量%

(2) 判断
ア 申立理由1(新規性)について
上述のとおり、本件発明4と甲1発明bは、相違点4?7において相違するから、本件発明4は、甲1に記載された発明ではない。

イ 申立理由2(進歩性)について
(相違点4について)
甲1には、シルク材料(絹糸)の溶解について、【0043】において、「中性塩にメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルコールを添加し、94℃以下の温度で、望ましくは75?85℃程度の温度で行うとよい」と記載されており、この記載からすると、100℃の水中でシルク材料(絹糸)の溶解を行うことはむしろ避けられているものと認められる。また、参考1についても、【0035】の記載からみて、同様と認められる。さらに、参考2?8には、シルク材料の溶解について何も記載されていない。
してみると、その余の条件について検討するまでもなく、本件発明4の(1)の工程における加水分解のための条件は、甲1及び参考1?8の記載から当業者が容易に想到し得るものではない。

(相違点5について)
相違点2について述べたところと同様に、相違点5は、甲1及び参考1?8の記載から当業者が容易に想到し得るものではない。

そして、本件発明4の方法で製造された軟膏製剤は、本件発明1について述べたところと同様に、甲1及び参考1?8の記載からは当業者が予測し得ない効果を奏するものである。

以上のとおり、相違点4及び5は、甲1及び参考1?8の記載から当業者が容易に想到し得るものではなく、本件発明4は、甲1及び参考1?8の記載からは予測できない効果を奏するものであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明b及び周知技術(参考1?8に記載された事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 申立人の主張について
ア 主張の概要
申立人は、申立書において、相違点4の「沸騰した塩化カルシウム又は臭化リチウム溶液」について以下の主張をし、また、相違点5について相違点2と同様の主張をしているが、前者の主張は下記のとおり採用できず、そして、後者の主張は上記1(3)で述べたところと同様に採用できない。

(相違点4について)
甲1では、アルコールを添加して、アルコールの沸点より高い94℃以下で加熱しているから、中性塩溶液は沸騰状態となっており、本件発明4と沸騰状態の水溶液という点では同じである。そして、沸騰させることは溶解性を向上させる観点から周知慣用技術である(第17頁第11?15行)。

イ 申立人の主張に対する判断
本件特許明細書には、本件発明4の(1)の工程における溶液について「水溶液」と記載され、「水溶液」が、甲1や参考1のように、エタノール等の他の溶媒を含むことなどの特段の記載はなく、実施例においても、水のみが用いられていることから、本件発明4の「水溶液」は溶媒が水であるものをいい、甲1や参考1のような水とアルコールとの混合液を溶媒とするものではないと解される。そして、そのような溶液の違いにより沸騰温度が異なるのは技術常識であり、本件発明4と甲1発明bとの間でシルク材料の加水分解(溶解)の温度が異なることは、上記のとおりである。
したがって、甲1で塩化カルシウム等の溶液が沸騰状態にあるという点が申立人主張のとおりであるとしても、本件発明4におけるシルク材料の加水分解(溶解)の条件は、甲1発明bにおけるそれと異なるものであり、容易に想到し得るものではない。

(4) 小括
本件発明4は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから、その特許は同法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

4 本件発明5について
本件発明5は、本件発明4を引用し、これをさらに限定するものであり、本件発明4と同様に相違点4?7を有することに加えて、軟膏製剤の用途において、本件発明5は創傷治療促進剤であるのに対し、甲1発明bは化粧料である点でも異なるものである。
よって、本件発明5は、甲1発明bではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲1発明b及び周知技術(参考1?8に記載された事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、同法第29条第2項の規定に違反するものではないから、その特許は同法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1?5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、特許法第114条第4項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-05-21 
出願番号 特願2014-121441(P2014-121441)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 潔  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 吉田 知美
岡崎 美穂
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6369783号(P6369783)
権利者 国立大学法人 鹿児島大学 株式会社アーダン
発明の名称 加水分解フィブロインを含む軟膏及びその製造方法  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  
代理人 阿部 綽勝  
代理人 岡崎 紳吾  
代理人 勝木 俊晴  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  
代理人 白崎 真二  
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