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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1352322
異議申立番号 異議2019-700212  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-18 
確定日 2019-06-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6393690号発明「タイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6393690号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6393690号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)7月7日(優先権主張 平成25年10月29日)の出願であって、平成30年8月31日にその特許権の設定登録がされ、同年9月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成31年3月18日に特許異議申立人 佐藤雅彦(以下、「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
1対のビード部間にトロイド状に跨るカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に設けられた、タイヤ周方向に対し傾斜して延びるコードを有する傾斜ベルト層及び、タイヤ周方向に沿って延びるコードを有する周方向ベルト層と、を具えるタイヤであって、
前記周方向ベルト層は、該周方向ベルト層をなすコードのヤング率(GPa)をY、幅50mmあたりの該コードの打ち込み本数をn、及び、該周方向ベルト層の層数をmとして、
X=Y×n×m
と定義するとき、
X≧750
を満たし、
且つ、前記傾斜ベルト層は、タイヤ幅方向幅の異なる2層の傾斜ベルト層を少なくとも含み、最広幅の傾斜ベルト層のタイヤ幅方向幅W_(1)と最狭幅の傾斜ベルト層のタイヤ幅方向幅W_(2)とが、
W_(2)≦0.6W_(1)
を満たすことを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
W_(2)≧0.25W_(1)を満たす、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記最広幅の傾斜ベルト層をなすコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度θ_(1)と、前記最狭幅の傾斜ベルト層におけるコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度θ_(2)とが、
30°≦θ_(1)≦85°、
10°≦θ_(2)≦30°、及び、
θ_(1)>θ_(2)
を満たす、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記傾斜ベルト層が、広幅の傾斜ベルト層と狭幅の傾斜ベルト層の2層のみからなる、請求項1?3のいずれか1項に記載のタイヤ。」


第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として特開2012-171423号公報(以下、「甲第1号証」という。)、特開2011-68215号公報(以下、「甲第2号証」という。)及び国際公開第2011/161854号(以下、「甲第3号証」という。)を提出し、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1ないし4に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張する。


第4 甲第1号証ないし甲第3号証の記載

1 甲第1号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明

(1)甲第1号証に記載された事項

本件特許の優先日前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第1号証には、次の記載(以下、総称して「甲第1号証に記載された事項」という。)がある。なお、下線は当審で付したものであり、他の甲号証についても同様である。

ア 「【請求項1】
一対のビード部間でトロイダル状に跨る、タイヤ赤道面に沿って延びる複数のコードをゴムで被覆したプライの少なくとも1層からなるカーカスのクラウン部の径方向外側に、ベルトおよびトレッドを順に有し、
該ベルトは、
タイヤ赤道面に対して40?60°で傾斜して延びる複数本のスチールコードをゴムで被覆した1層の主傾斜ベルト層の径方向外側に、
前記傾斜ベルト層のトレッド幅方向中央域にてタイヤ赤道面に対して8?20°で傾斜して延びる複数本のスチールコードをゴムで被覆した、1層の副傾斜ベルト層と、
前記主傾斜ベルト層のトレッド幅方向両側域の各々にてタイヤ赤道面に沿って延びる複数本のコードをゴムで被覆した、少なくとも1層の分割周方向ベルト層と、
を配置してなる空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記副傾斜ベルト層の幅方向両端部分と分割周方向ベルト層のタイヤ赤道面側の端部分とを重複させて配置することを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記主傾斜ベルト層の幅:W1および前記副傾斜ベルト層の幅:W2が下記式を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りラジアルタイヤ。

0.25≦W2/W1≦0.6
【請求項4】
前記副傾斜ベルト層の径方向外側に前記分割周方向ベルト層を、前記重複幅:5?15mmの下に配置することを特徴とする請求項1、2または3に記載の空気入りラジアルタイヤ。」

イ 「【背景技術】
【0002】
従来、乗用車用タイヤのトレッド構造としては、タイヤ周方向に対して実質的に90°の角度で延びるコードの多数本をゴムで被覆したカーカスプライの1枚にてカーカスを形成し、このカーカスのクラウン部の外周側に、タイヤ周方向に対して比較的小さい傾斜角度で延びる金属コードの多数本をゴムで被覆したプライによる傾斜ベルト層の二層を該コードが積層間で交差する向きに配置したベルトを、トレッド全幅にわたって設け、このベルトのさらに外周側に、実質的にタイヤ周方向に延びる有機繊維コードをゴムで被覆したプライからなる、例えば前記ベルト全幅より幾分広い幅を有する追加補強層、いわゆるキャップを追加配置したものが知られている。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した1層の傾斜ベルト層の外周に周方向ベルト層を配設したタイヤは、特に加速走行時の通過騒音が大きいことが問題になっていた。ここで、通過騒音とは、車が走行する際に車外に向けて発生する音に起因する騒音である。すなわち、傾斜ベルト層が1層であることから、トレッド幅方向における面外曲げ剛性が低いため、タイヤ幅方向断面の高次の振動モードにおける振動特性が悪化する。また、トレッド部の周方向剛性が高いために、トレッドへの入力がタイヤ周方向に伝播しやすいことも通過騒音を大きくすることの一因になっている。
【0006】
そこで本発明は、軽量かつ省燃費性を維持しつつ、特に加速走行時の通過騒音を低減し得る空気入りラジアルタイヤを提供する。」

エ 「【0020】
主傾斜ベルト層3aに加えて、トレッド幅方向中央域に限って副傾斜ベルト層3bを配置することによって、主傾斜ベルト層3aの全領域にわたって周方向ベルト層を追加配置する従前のタイヤに比し、トレッド中央域の周方向剛性が下がる一方、幅方向剛性が上がる結果、前述したように騒音を低下することができる。
このトレッド幅方向中央域の副傾斜ベルト層3bは、そのコード角度(タイヤ赤道面に対するコード軸の傾斜角度)を大きくするほど周方向剛性は低下し、幅方向剛性は上昇する。このコード角度を大きくしすぎると、中央域の周方向剛性(タガ効果)が低下し、高速耐久性が低下するため、8°以上とする。一方、コード角度が小さすぎると、中央域と両端域の差が小さくなり、騒音低減効果がなくなるため、20°以下とする。」

オ 「【実施例】
【0031】
図1および図2に示すところに従って、表1および表2に示す仕様の下に、サイズ:205/55R16のタイヤを試作した。得られた各試作タイヤを、サイズ:6.5Jのリムに組み込み、230kPaの内圧を付与し、各種試験に供し、転がり抵抗性、騒音特性および高速耐久性をそれぞれ以下のように評価した。なお、表1および表2に示した、ベルト構造を参照する図4?6において、符号30、30aおよび30bは傾斜ベルト層であり、符号40は周方向ベルト層である。」

カ 「【0035】
【表1】

【0036】
【表2】



キ 「【図1】


【図2】


【図3】



ク 「【図4】



(2)甲第1号証に記載された発明

請求項1及び3の記載から見て、甲第1号証には、
「一対のビード部間でトロイダル状に跨る、タイヤ赤道面に沿って延びる複数のコードをゴムで被覆したプライの少なくとも1層からなるカーカスのクラウン部の径方向外側に、ベルトおよびトレッドを順に有し、
該ベルトは、
タイヤ赤道面に対して40?60°で傾斜して延びる複数本のスチールコードをゴムで被覆した1層の主傾斜ベルト層の径方向外側に、
前記傾斜ベルト層のトレッド幅方向中央域にてタイヤ赤道面に対して8?20°で傾斜して延びる複数本のスチールコードをゴムで被覆した、1層の副傾斜ベルト層と、
前記主傾斜ベルト層のトレッド幅方向両側域の各々にてタイヤ赤道面に沿って延びる複数本のコードをゴムで被覆した、少なくとも1層の分割周方向ベルト層と、
を配置してなり、
前記主傾斜ベルト層の幅:W1および前記副傾斜ベルト層の幅:W2が
0.25≦W2/W1≦0.6
を満足する
空気入りラジアルタイヤ。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

2 甲第2号証に記載された事項及び甲第2号証に記載された発明

(1)甲第2号証に記載された事項

本件特許の優先日前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第2号証には、次の記載(以下、総称して「甲第2号証に記載された事項」という。)がある。

ア 「【請求項1】
カーカスのタイヤ半径方向外側に積層された、タイヤ半径方向内層の周方向ベルト及びタイヤ半径方向外層の少なくとも2層の交錯ベルト層からなるベルトを有する空気入りタイヤにおいて、
前記交錯ベルト層の内のタイヤ幅方向に沿うベルト幅が最も広い交錯ベルトのベルト幅を、カーカスラインの最大幅の80%以上とし、
前記交錯ベルト層の内、前記ベルト幅が最も広い交錯ベルトと2番目に広い交錯ベルトのベルト幅の差を、ベルト幅方向の一方側で10?50mmとし、
前記ベルト幅は、前記ベルト幅が最も広い交錯ベルトは前記周方向ベルトより狭くなく、前記周方向ベルトは前記ベルト幅が2番目に広い交錯ベルトより狭くない関係を有し、
前記周方向ベルトと前記交錯ベルト層の両端部間に配置された、タイヤ幅方向外側に行くほど厚くなり厚みが3mm以上になると共に、100%伸張時モジュラスが4Mpa以下で、損失正接が0.3以下(室温、2%歪み50Hz)の間ゴムを有し、
前記周方向ベルトの端部横、且つ、下に配置された、前記周方向ベルトを被覆しているコーティングゴムの弾性率より大きくない弾性率の横下ゴムを有する
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記周方向ベルトの端部でのタイヤ内圧充填時におけるタイヤ径方向の成長割合が0.3%以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記横下ゴムは、100%伸張時モジュラスが4Mpa以下で、損失正接が0.3以下(室温、2%歪み50Hz)であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記周方向ベルトは、波状に癖付けしたベルトやハイエロンゲーションコードからなることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。」

イ 「【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、特に、周方向ベルトを採用している、トラック・バスに用いて好適な重荷重用の空気入りラジアルタイヤに関する。」

ウ 「【0009】
この発明の目的は、周方向ベルトを適用した構造にあって、ベルト周辺に配置したゴムを硬くすることによる発熱耐久性の低下や転がり抵抗の悪化をもたらすことなく、操縦安定性の低下や偏摩耗の進行を招くことのない空気入りタイヤを提供することである。」

エ 「【0015】
カーカス11は、環状構造を有する左右一対のビードコア(図示しない)間に、トロイダル状に架け渡されている。
ベルト12は、周方向ベルト14と、周方向ベルト14のタイヤ径方向外側に位置する、少なくとも2枚の交錯ベルト15を層状に重ねた交錯ベルト層とを積層して形成されている。周方向ベルト14及び交錯ベルト15は、例えば、スチール繊維材或いは有機繊維材からなる複数のベルトコードを圧延加工することにより形成される。なお、周方向ベルト14を2枚以上層状に重ねて周方向ベルト層としてもよい。
【0016】
周方向ベルト14は、ベルトコードの繊維方向がタイヤ周方向に対し略平行になるように配置されており、波状に癖付けしたベルトやハイエロンゲーションベルトにより形成することが望ましい。また、交錯ベルト15は、ベルトコードの繊維方向をタイヤ周方向に対し所定のベルト角度を有して傾斜配置されており、複数の交錯ベルト15は、ベルトコードの繊維方向をタイヤ周方向に対して相互に異なる方向に傾斜させて積層されている。
【0017】
複数(ここでは、一例として2枚の場合を図示)の交錯ベルト15は、タイヤ幅方向の長さ、即ち、ベルト幅が異なっており、ベルト幅が最も広い第1交錯ベルト15aは、タイヤ幅方向に沿うカーカスラインの最大幅Lの80%以上のベルト幅を有し、平坦形状に形成されていることが望ましい。」

オ 「【実施例】
【0024】
この発明に係る空気入りタイヤ10を二種類(実施例1,2)試作し、間ゴム16と横下ゴム17の100%伸張時モジュラス(mod.)及び損失正接(tanδ)について、二種類の従来例(従来例1,2)及び比較例との比較試験を行った。
図2は、試作した空気入りタイヤのベルト構造を概念的に示す説明図である。図2に示すように、試作した空気入りタイヤは、3層構造(第1交錯ベルト15a,第2交錯ベルト15b,第3交錯ベルト15c:実施例1)或いは2層構造(第1交錯ベルト15a,第2交錯ベルト15b:実施例2)の交錯ベルト層と、波状に癖付けしたベルトを用いた周方向ベルト14を設けた、タイヤサイズが495/45R225の超扁平の重荷重用ラジアルタイヤである。
【0025】
以下、従来例1,2、比較例1、実施例1,2の諸元について説明する(表1参照)。
第3交錯ベルト15cのベルト幅:
実施例2(実施例2のみに形成)が200[mm]。
第2交錯ベルト15bのベルト幅:
従来例1が220[mm]、従来例2が390[mm]、比較例と実施例1,2が400[mm]。
第1交錯ベルト15aのベルト幅:
従来例1が420[mm]、従来例2が430[mm]、比較例と実施例1が440[mm]、実施例2が450[mm]。」

カ 「【0028】
【表1】



(2)甲第2号証に記載された発明

請求項1には、「カーカスのタイヤ半径方向外側に積層された、タイヤ半径方向内層の周方向ベルト及びタイヤ半径方向外層の少なくとも2層の交錯ベルト層からなるベルトを有する空気入りタイヤ」が記載され、段落【0015】には、カーカスは、「左右一対のビードコア(図示しない)間に、トロイダル状に架け渡されている」ものであることが記載されている。
そして、具体例である実施例2には、第1交錯ベルト幅が450mmであり、第3交錯ベルト幅が200mmであるものが記載されており、第1交錯ベルト幅に対する第3交錯ベルト幅の比は概ね0.44と算出できる。
そうすると、甲第2号証には、
「左右一対のビードコア間に、トロイダル状に架け渡されているカーカスと、カーカスのタイヤ半径方向外側に積層された、タイヤ半径方向内層の周方向ベルト及びタイヤ半径方向外層の少なくとも2層の交錯ベルト層からなるベルトを有し、
交錯ベルト層のうち最も幅が広いベルト層の幅に対する最も幅が狭いベルト層の幅の比が0.44である
空気入りタイヤ。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

3 甲第3号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された発明

(1)甲第3号証に記載された事項

本件特許の優先日前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第3号証には、次の記載(以下、総称して「甲第3号証に記載された事項」という。)がある。

ア [請求項1] 一対のビード部間でトロイダル状に跨る、ラジアル配列コードのプライからなるカーカスのタイヤ径方向外側に1層以上のベルト層からなるベルト、トレッドを順に備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、
前記タイヤの断面幅Wと外径Lとの比W/Lが0.25以下であり、
前記ベルトとトレッドとの間に、高剛性のベルト補強層を有することを特徴とする、乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
[請求項2] 前記比W/Lは、0.24以下であることを特徴とする、請求項1に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
[請求項3] 前記ベルト補強層は、タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層からなり、前記コードのヤング率をY(GPa)、打ち込み数をn(本/50mm)とし、前記ベルト補強層をm層として、
X=Y×n×m
と定義するとき、
X≧750
であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
[請求項4] タイヤのエアボリュームは、15000cm^(3)以上であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
[請求項5] 前記ベルト層は、タイヤ周方向に対して、50°?70°の角度で傾斜して延びるベルトコードからなり、層間で前記ベルトコードが互いに交差する、複数の傾斜ベルト層であることを特徴とする、請求項1?4のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」

イ 「課題を解決するための手段
[0006] 発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。
その結果、ラジアルタイヤにおいて、タイヤの断面幅Wと外径Lとを適切な比の下に規制することが低燃費性及び居住性の向上に極めて有効であることを見出した。
また、発明者は、さらに上記の比の下に規制したラジアルタイヤの、タイヤの耐偏磨耗性及び最大コーナリングフォース、コーナリングパワーを向上させるべく鋭意検討を重ねたところ、上記の比の規制と共に、ラジアルタイヤのリング剛性を高めることによって、タイヤの耐偏磨耗性の低下を抑制することができることを知見した。
[0007] さらに、発明者は、ラジアルタイヤのリング剛性を高めつつも、タイヤ周方向の面外曲げ剛性を低減させることにより、タイヤの接地長を増大させて、最大コーナリングフォース及びコーナリングパワーを向上させることができることの新規知見も得た。」

ウ 「[0039] ここで、「ベルト補強層が高剛性」とは、さらに具体的には、上記の評価方法及び定義に基づくパラメータXが750以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。
なぜなら、750未満だと、タイヤのリング剛性を向上させる効果が十分に得られないからであり、一方1000以上とすることで、踏面からの入力がタイヤ反直下まで伝播し、環状のベルトが全体的に変形するようになることで、踏面近傍の局所変形を最小化できるからである。
また、上記のパラメータXは1500以下であることが好ましい。
なぜなら、パラメータXが1500より大きいと、タイヤ周方向の剛性が高くなりすぎて、後述するコーナリングフォース低下の問題を生じるからである。」

(2)甲第3号証に記載された発明

請求項1、請求項3及び請求項5の記載から見て、甲第3号証には、
「一対のビード部間でトロイダル状に跨る、ラジアル配列コードのプライからなるカーカスのタイヤ径方向外側に1層以上のベルト層からなるベルト、トレッドを順に備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、
前記タイヤの断面幅Wと外径Lとの比W/Lが0.25以下であり、
前記ベルトとトレッドとの間に、高剛性のベルト補強層を有し、
前記ベルト補強層は、タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層からなり、前記コードのヤング率をY(GPa)、打ち込み数をn(本/50mm)とし、前記ベルト補強層をm層として、
X=Y×n×m
と定義するとき、
X≧750
であり、
前記ベルト層は、複数の傾斜ベルト層である、
乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。


第5 対比・判断

1 本件特許発明1について

(1)甲1発明を主引用発明とする場合

本件特許発明1と甲1発明を対比する。

甲1発明において、「主傾斜ベルト層の幅:W1および前記副傾斜ベルト層の幅:W2が0.25≦W2/W1≦0.6」であることから、「主傾斜ベルト層」と「副傾斜ベルト層」は幅が異なるものであり、かつ、「主傾斜ベルト層」の幅が「副傾斜ベルト層」の幅よりも大きいことは明らかである。
してみると、甲1発明の「主傾斜ベルト層」、「副傾斜ベルト層」はそれぞれ、本件特許発明1の「最広幅の傾斜ベルト層」、「最狭幅の傾斜ベルト層」に相当する。
また、甲1発明の「分割周方向ベルト層」は、本件特許発明1の「周方向ベルト層」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、
「1対のビード部間にトロイド状に跨るカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に設けられた、タイヤ周方向に対し傾斜して延びるコードを有する傾斜ベルト層及び、タイヤ周方向に沿って延びるコードを有する周方向ベルト層と、を具えるタイヤであって、
且つ、前記傾斜ベルト層は、タイヤ幅方向幅の異なる2層の傾斜ベルト層を少なくとも含み、最広幅の傾斜ベルト層のタイヤ幅方向幅W_(1)と最狭幅の傾斜ベルト層のタイヤ幅方向幅W_(2)とが、
W_(2)≦0.6W_(1)
を満たすタイヤ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)周方向ベルト層(分割周方向ベルト層)について、本件特許発明1は、「該周方向ベルト層をなすコードのヤング率(GPa)をY、幅50mmあたりの該コードの打ち込み本数をn、及び、該周方向ベルト層の層数をmとして、X=Y×n×mと定義するとき、X≧750を満た」すものであるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。

相違点1について検討する。
甲第3号証には、乗用車用空気入りラジアルタイヤに関して、「タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層からなり、前記コードのヤング率をY(GPa)、打ち込み数をn(本/50mm)とし、前記ベルト補強層をm層として、X=Y×n×mと定義するとき、X≧750である」ベルト補強層(本件特許発明1の周方向ベルト層に相当するもの)が記載されており([請求項3])、さらに段落[0039]には、パラメータXが750未満だと、タイヤのリング剛性を向上させる効果が十分に得られないので、タイヤのリング剛性を向上させる観点からパラメータXの下限が設定されていることが記載されている。
これに対して、甲1発明は、分割周方向ベルト層(周方向ベルト層)を有するものであるが、甲1号証の段落【0020】には、「主傾斜ベルト層3aに加えて、トレッド幅方向中央域に限って副傾斜ベルト層3bを配置することによって、主傾斜ベルト層3aの全領域にわたって周方向ベルト層を追加配置する従前のタイヤに比し、トレッド中央域の周方向剛性が下がる一方、幅方向剛性が上がる結果、前述したように騒音を低下することができる。」と記載があるとおり、トレッド中央域の周方向剛性を下げることを目的とするものである。
してみると、トレッド中央域の周方向剛性を下げることを目的とする甲1発明において、周方向ベルト層の剛性をあげるとの動機付けがあるとはいえないから、甲1発明の分割周方向ベルト層に甲第3号証のベルト補強層に関する上記技術を適用することは、当業者にとって容易になし得たこととはいえない。

仮に、甲1発明の分割周方向ベルト層に甲第3号証のベルト補強層に関する上記技術を適用することについて動機付けがあるとしても、「本発明によりコーナリングパワーを増大させつつ、その荷重依存性を低減したタイヤを提供することができる」(【0014】)との本件特許発明1の効果は、甲第1号証、甲第3号証の何れにも記載も示唆もされておらず、当業者が予測し得たものとは認められない。

したがって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲2発明を主引用発明とする場合

本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「周方向ベルト」、「交錯ベルト層」がそれぞれ、本件特許発明1の「周方向ベルト層」、「傾斜ベルト層」に相当する。また、甲2発明の交錯ベルト層のうち、「最も幅が広いベルト」、「最も幅が狭いベルト」がそれぞれ、本件特許発明1の「最広幅の傾斜ベルト層」、「最狭幅の傾斜ベルト層」に相当する。また、甲2発明の「周方向ベルト」、「交錯ベルト層」は、カーカスのクラウン部においてタイヤ半径方向外側に積層されていることも自明である。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明は、
「1対のビード部間にトロイド状に跨るカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に設けられた、タイヤ周方向に対し傾斜して延びるコードを有する傾斜ベルト層及び、タイヤ周方向に沿って延びるコードを有する周方向ベルト層と、を具えるタイヤであって、
且つ、前記傾斜ベルト層は、タイヤ幅方向幅の異なる2層の傾斜ベルト層を少なくとも含み、最広幅の傾斜ベルト層のタイヤ幅方向幅W_(1)と最狭幅の傾斜ベルト層のタイヤ幅方向幅W_(2)とが、
W_(2)≦0.6W_(1)
を満たすタイヤ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点2)周方向ベルト層(周方向ベルト)について、本件特許発明1は、「該周方向ベルト層をなすコードのヤング率(GPa)をY、幅50mmあたりの該コードの打ち込み本数をn、及び、該周方向ベルト層の層数をmとして、X=Y×n×mと定義するとき、X≧750を満た」すものであるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。

相違点2について検討する。
甲第3号証には、上記(1)で述べたとおりの技術事項が記載されている。
これに対して、甲2発明は、段落【0001】、【0009】に記載されているように、重荷重用の空気入りラジアルタイヤに関し、周方向ベルト(周方向ベルト層)を適用した構造にあって、ベルト周辺に配置したゴムを固くすることによる発熱耐久性の低下や転がり抵抗の悪化をもたらすことなく、操縦安定性の低下や偏摩耗の進行を招くことのない空気入りタイヤとするため、交錯ベルト層と周方向ベルト層の幅を特定の関係とするものであり、周方向ベルト層の剛性を高めようとする動機がない。しかも、甲第3号証は、乗用車用空気入りラジアルタイヤに関するものであるのに対して、甲2発明は、段落【0001】に記載されているように、トラックやバスなどの重荷重用の空気入りラジアルタイヤに関するものであり、その用途も大きく異なるものであるから、甲2発明の周方向ベルトに甲第3号証の上記技術を適用することは、当業者にとって容易になし得たこととはいえない。

仮に、甲2発明の周方向ベルトに甲第3号証のベルト補強層に関する上記技術を適用することについて動機付けがあるとしても、「本発明によりコーナリングパワーを増大させつつ、その荷重依存性を低減したタイヤを提供することができる」(【0014】)との本件特許発明1の効果は、甲第2号証、甲第3号証の何れにも記載も示唆もされておらず、当業者が予測し得たものとは認められない。

したがって、本件特許発明1は、甲2発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲3発明を主引用発明とする場合

本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明の「ベルト補強層」は、タイヤ周方向に延びルコードのゴム引き層であるから、本件特許発明1の「周方向ベルト層」に相当する。また、甲3発明の「ベルト補強層」、「傾斜ベルト層」は、カーカスのクラウン部においてタイヤ半径方向外側に積層されていることも自明である。
そうすると本件特許発明1と甲3発明は、
「1対のビード部間にトロイド状に跨るカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に設けられた、タイヤ周方向に対し傾斜して延びるコードを有する傾斜ベルト層及び、タイヤ周方向に沿って延びるコードを有する周方向ベルト層と、を具えるタイヤであって、
前記周方向ベルト層は、該周方向ベルト層をなすコードのヤング率(GPa)をY、幅50mmあたりの該コードの打ち込み本数をn、及び、該周方向ベルト層の層数をmとして、
X=Y×n×m
と定義するとき、
X≧750
を満たすタイヤ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)本件特許発明1は、傾斜ベルト層が、「タイヤ幅方向幅の異なる2層の傾斜ベルト層を少なくとも含み、最広幅の傾斜ベルト層のタイヤ幅方向幅W_(1)と最狭幅の傾斜ベルト層のタイヤ幅方向幅W_(2)とが、W_(2)≦0.6W_(1)を満たす」ものであるのに対して、甲3発明ではそのような特定がない点。

相違点3について検討する。

甲第1号証の請求項3には、空気入りラジアルタイヤにおいて、主傾斜ベルト層と副傾斜ベルト層を有し、かつ、主傾斜ベルト層の幅:W1および前記副傾斜ベルト層の幅:W2が0.25≦W2/W1≦0.6を満足するものとすることが記載されている。しかしながら、甲第1号証は、段落【0020】に「主傾斜ベルト層3aに加えて、トレッド幅方向中央域に限って副傾斜ベルト層3bを配置することによって、主傾斜ベルト層3aの全領域にわたって周方向ベルト層を追加配置する従前のタイヤに比し、トレッド中央域の周方向剛性が下がる一方、幅方向剛性が上がる結果、前述したように騒音を低下することができる。」と記載されているように、周方向ベルト層が分割して設けられた構成(分割周方向ベルト層)を有するタイヤにおける傾斜ベルト層の幅を検討したものといえる。
してみると、このような分割周方向ベルト層を有する構造ではない甲3発明に、甲第1号証に記載の、分割周方向ベルト層を有する前提での主傾斜ベルト層、副傾斜ベルト層の幅条件を適用することは、当業者にとって容易になし得たこととはいえない。

また、甲第2号証の段落【0025】、【0028】の従来例1、実施例2には、周方向ベルトと複数の交錯ベルトを有する空気入りタイヤに関して、最も幅の広い交錯ベルトの幅と最も幅の狭い交錯ベルトの幅の比が0.52、0.44と計算される例が記載されている。しかしながら、甲第2号証は、段落【0001】に記載されているように、「トラック・バスに用いて好適な重荷重用の空気入りラジアルタイヤに関する」ものであり、請求項1に記載されているように、ベルト幅が最も広い交錯ベルトと周方向ベルトとベルト幅が2番目に広い交錯ベルトのベルト幅の関係を特定するものであって、最も幅の広い交錯ベルトの幅と最も幅の狭い交錯ベルトの幅の比を特定の範囲とすること及びその技術的意義について何ら記載するものではない。 してみると、甲第2号証に、「タイヤ幅方向幅の異なる2層の傾斜ベルト層を少なくとも含み、最広幅の傾斜ベルト層のタイヤ幅方向幅W_(1)と最狭幅の傾斜ベルト層のタイヤ幅方向幅W_(2)とが、W_(2)≦0.6W_(1)」との条件を満たす例が記載されていたとしても、甲3発明において、甲第2号証の従来例1、実施例2の条件を採用する動機付けがあるとはいえないから、甲3発明に、甲第2号証記載の従来例1、実施例2の、最も幅の広い交錯ベルトの幅と最も幅の狭い交錯ベルトの幅の比の条件を適用することは、当業者にとって容易になし得たこととはいえない。

仮に、甲3発明の傾斜ベルト層に、甲第1号証の傾斜ベルト層あるいは甲第2号証の交錯ベルト層に関する上記技術を適用することについて動機付けがあるとしても、「本発明によりコーナリングパワーを増大させつつ、その荷重依存性を低減したタイヤを提供することができる」(【0014】)との本件特許発明1の効果は、甲第1号証ないし甲第3号証の何れにも記載も示唆もされておらず、当業者が予測し得たものとは認められない。

したがって、本件特許発明1は、甲3発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、甲3発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4はそれぞれ、本件特許発明1に対してさらに、
・W_(2)≧0.25W_(1)を満たすことを特定したもの(本件特許発明2)、
・最広幅の傾斜ベルト層をなすコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度θ_(1)と、最狭幅の傾斜ベルト層におけるコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度θ_(2)の範囲及びθ_(1)とθ_(2)の大小を特定したもの(本件特許発明3)、
・傾斜ベルト層が、広幅の傾斜ベルト層と狭幅の傾斜ベルト層の2層のみからなることを特定したもの(本件特許発明4)、
である。
上記1のとおり、本件特許発明1は、甲1発明、甲2発明あるいは甲3発明のいずれかを主引用発明としたとき、それら主引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明2?4も同様に、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 結論
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-05-30 
出願番号 特願2015-544763(P2015-544763)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鏡 宣宏  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 植前 充司
加藤 友也
登録日 2018-08-31 
登録番号 特許第6393690号(P6393690)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 タイヤ  
代理人 杉村 憲司  
代理人 伊藤 怜愛  
代理人 冨田 和幸  

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