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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1352323
異議申立番号 異議2019-700158  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-27 
確定日 2019-06-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6380131号発明「絶縁基板の反り量の調整方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6380131号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6380131号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成27年1月28日に出願され、平成30年8月10日にその特許権の設定登録がされ、平成30年8月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成31年2月27日に特許異議申立人 青木 眞理により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6380131号の請求項1ないし10の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
辺X及び辺Yからなる矩形のセラミックス基板と、
前記セラミックス基板の一方の面に接合された第一の金属板に、前記第一の金属板を任意の形状及び任意の数に分割するスリットを設けてなる回路板と、
前記セラミックス基板の他方の面に形成された第二の金属板からなる放熱板とからなる絶縁基板の反り量を調整する方法であって、
前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のX方向(前記セラミックス基板の辺Xに平行する方向)の反り能力WX1(前記放熱板側に凸)を求める工程、及び
前記放熱板のY方向(前記セラミックス基板の辺Yに平行する方向)の長さを、前記第一の金属板のY方向長さよりも短く形成することによって、前記絶縁基板のX方向の反り能力WX2(前記回路板側に凸)を付与する工程を有することを特徴とする絶縁基板の反り量の調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁基板の反り量を調整する方法において、
さらに前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のY方向の反り能力WY1(前記放熱板側に凸)を求める工程、及び
前記放熱板のX方向の長さを、前記第一の金属板のX方向長さよりも短く形成することによって、前記絶縁基板のY方向の反り能力WY2(前記回路板側に凸)を付与する工程を有する
ことを特徴とする絶縁基板の反り量の調整方法。
【請求項3】
請求項2に記載の絶縁基板の反り量を調整する方法において、
前記反り能力WX2が前記反り能力WX1を打ち消すように、前記放熱板のY方向の長さを調節し、
前記反り能力WY2が前記反り能力WY1を打ち消すように、前記放熱板のX方向の長さを調節することを特徴とする絶縁基板の反り量の調整方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の絶縁基板の反り量を調整する方法において、
前記回路板によって生じる反り能力WX1及びWY1が、前記第一の金属板と同じ形状の前記第二の金属板を前記セラミックス基板の他方の面に、前記セラミックス基板に対して対称な位置に形成したときのX方向の反り量及びY方向の反り量に相当することを特徴とする絶縁基板の反り量の調整方法。
【請求項5】
請求項2?4のいずれかに記載の絶縁基板の反り量を調整する方法において、
前記放熱板によって付与する反り能力WX2及びWY2が、前記セラミックス基板の一方の面にスリットを有さない前記第一の金属板を形成したときのX方向及びY方向の反り量に相当することを特徴とする絶縁基板の反り量の調整方法。
【請求項6】
請求項5に記載の絶縁基板の反り量を調整する方法において、
前記反り能力WX1及びWX2の差が0.1 mm以下になるように前記放熱板のY方向の長さを調節し、
前記反り能力WY1及びWY2の差が0.1 mm以下になるように前記放熱板のX方向の長さを調節することを特徴とする絶縁基板の反り量の調整方法。
【請求項7】
請求項2?6のいずれかに記載の絶縁基板の反り量を調整する方法において、
前記反り能力WX1及びWY1を求める工程が、
(a)前記回路板を構成するスリットを、n本の線分からなる部分スリットS(i)[iは1からnの整数]に分割する工程、
(b)前記各部分スリットS(i)によって生じるX方向の反り能力Wx(S(i))及びY方向の反り能力Wy(S(i))(共に前記放熱板側に凸)を求める工程、及び
(c)反り能力Wx(S(i))及びWy(S(i))を全ての部分スリットS(i)について合計し、それぞれWX1及びWY1を求める工程からなることを特徴とする絶縁基板の反り量の調整方法。
【請求項8】
請求項2?7のいずれかに記載の絶縁基板の反り量を調整する方法において、
(a)前記セラミックス基板の厚さをtc、
(b)前記第一の金属板の厚さをtm1、
(c)前記第二の金属板の厚さをtm2、
(d)前記第二の金属板のX方向及びY方向の長さをそれぞれx及びy、及び
(e)前記放熱板のX方向及びY方向の長さをそれぞれ(x-a)及び(y-b)、
としたとき、
前記反り能力WX2[mm]及びWY2[mm]が、
WX2=-0.0557+0.0211*Bx+0.000652*Cx-0.0143*Dx+1.171*Ex-0.0569*Hx(ただし、Bx=tm2/tc、Cx=x/tc、Dx=y/x、Ex=b/y、Hx=Ex/2)で表され、
WY2=-0.0557+0.0211*By+0.000652*Cy-0.0143*Dy+1.171*Ey-0.0569*Hy(ただし、By=tm2/tc、Cy=y/tc、Dy=x/y、Ey=a/x、Hy=Ey/2)で表されることを特徴とする絶縁基板の反り量の調整方法。
【請求項9】
請求項8に記載の絶縁基板の反り量を調整する方法において、
前記第一の金属板の厚さをtm1及び前記第二の金属板の厚さtm2のうち厚い方の厚さtmと
、前記セラミックス基板の厚さtcとの比tm/tcが1.875以上であることを特徴とする絶縁基板の反り量の調整方法。
【請求項10】
請求項1?9に記載の絶縁基板の反り量を調整する方法において、
前記セラミックス基板が窒化珪素セラミックスからなり、前記第一の金属板及び前記放熱板が銅からなることを特徴とする絶縁基板の反り量の調整方法。」

第3 申立理由の概要
1.申立理由1
特許異議申立人は、請求項1ないし2に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき旨主張している。

2.申立理由2
特許異議申立人は、請求項1に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1に係る特許を取り消すべき旨主張している。

3.申立理由3
特許異議申立人は、証拠として、下記の甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

記(証拠一覧)

甲第1号証:特開2006-245436号公報
甲第2号証:特開2013-42165号公報
甲第3号証:特開2003-309210号公報

第4 甲各号証の記載
1.甲第1号証(特開2006-245436号公報)
甲第1号証には、「窒化珪素配線基板」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素基板と、この窒化珪素基板の一方の面に接合された複数個の金属回路板と、前記窒化珪素基板の他方の面に接合された金属放熱板と、からなる窒化珪素配線基板において、前記窒化珪素基板の厚みが0.2mm以上、前記金属回路板および金属放熱板の厚みが0.4mm以上であり、前記窒化珪素基板の一方の面の面積をS、厚みTとした場合、10T^(2)S^(1/2)で表される値以上の面積をもつ金属回路板パターンの角部には曲率半径1.0mm以上2.5mm以下のRを形成するが、10T^(2)S^(1/2)以下の面積である金属回路板パターンのうちさらにその面積が13mm^(2)以下の金属回路板パターンの角部にはRを形成しない(但し、不可避的に付く曲率半径0.5mm以下のRは除く)ことを特徴とする窒化珪素配線基板。
【請求項2】
前記窒化珪素基板の外縁部から金属回路板の外縁部までの沿面距離aと窒化珪素基板の外縁部から金属放熱板の外縁部までの沿面距離bとの比a/bが0.5以上2以下であり、かつa-bの値が-0.5mm以上0.5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素配線基板。」

(2)「【0005】
しかしながら、高い機械的強度を有する窒化珪素基板をセラミックス基板に用いた場合でも、銅板を接合することによる熱応力や半導体モジュール稼動時の加熱冷却サイクルによる熱衝撃でクラックが発生する可能性があった。
このクラックは、金属回路板のパターンの外周部、特に角部に発生することが多く、セラミックス配線基板の絶縁耐圧および強度を劣化させ、搭載した半導体素子に電圧を印加した場合、セラミックス基板が絶縁破壊することもあった。従って、セラミックス配線基板に半導体素子を搭載した半導体モジュールの信頼性が十分ではなかった。」

(3)「【0016】
以下、本発明の具体的な実施例を説明する。ただし、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
[実施例1]
図1は本発明の一実施例を示す窒化珪素配線基板1であり、図1(a)は上面図、図1(b)は底面図、また、図1(c)は側面図である。
窒化珪素基板11の一方の面(上面)には、半導体素子を搭載するための銅板からなる金属回路板12が接合されており、この金属回路板12は図1(a)に示すように所定の回路パターンの形状に加工されており、それぞれ面積の異なる回路パターンA(121)、回路パターンB(122)および回路パターンC(123)の3種類の回路パターンから構成されている。一方、窒化珪素基板11の他方の面(下面)には、これも銅板からなる金属放熱板13が接合されている。また、窒化珪素基板11の外縁部から金属回路板12の外縁部までの沿面距離aおよび、窒化珪素基板11の外縁部から金属放熱板12の外縁部までの沿面距離bは共に1.5mmである。」

(4)「【0040】
実施例1、4および5の結果から、図1のように窒化珪素基板11の面積をS、厚みTとした場合の10T2S1/2の値より、大きい面積の回路パターンA121および回路パターンB122の角部にはRが形成され、13mm2より小さい面積の回路パターンC123の角部にはRが形成されていない金属回路板12から構成された窒化珪素配線基板1で、窒化珪素基板11の外縁部から金属回路板12の外縁部までの沿面距離a、および窒化珪素基板11の外縁部から金属放熱板13の外縁部までの沿面距離bとしたとき、a/bが0.5以上2以下であり、かつa-bの値が-0.5mm以上0.5mm以下とすることで窒化珪素基板11に発生する応力を緩和した構造とすることができ、ヒートサイクル試験の前後で共にクラックの発生のない窒化珪素配線基板とすることができることが分かった。
一方、比較例8?10のように、沿面距離aと沿面距離bの関係がa/bが0.5以上2以下、もしくはa-bの値が-0.5mm以上0.5mm以下の範囲から外れる場合、金属回路板および金属放熱板の外周部、特には角部周辺により大きな応力が加わり、金属回路板の面積及び形状が同じである比較例3よりもヒートサイクル試験の前後で共にクラックが発生した窒化珪素配線基板が多くあった。」

(5)【図1】



・上記(1)、(3)によれば、窒化珪素配線基板1は、窒化珪素基板11と、前記窒化珪素基板11の一方の面に接合された金属回路板12と、前記窒化珪素基板11の他方の面に接合された金属放熱板13とからなるものである。

・上記(5)によれば、窒化珪素基板11の形状は、矩形であることが読み取れる。

・上記(1)、(3)によれば、金属回路板12は、所定の回路パターンの形状に加工されてそれぞれ面積の異なる回路パターンA(121)、回路パターンB(122)、回路パターンC(123)の回路パターンから構成されるものである。また上記(5)によれば、回路パターンA(121)、回路パターンB(122)、回路パターンC(123)は、異なる形状であり、かつ互いに隙間を介して配置されることが読み取れる。したがって、金属回路板12は、互いに隙間を介して配置された異なる形状及び面積の複数の回路パターンから構成されるものである。

・上記(2)によれば、窒化珪素基板を用いたセラミックス配線基板は絶縁性を有するものである。

・上記(1)、(4)によれば、窒化珪素基板の外縁部から金属回路板の外縁部までの沿面距離aと窒化珪素基板の外縁部から金属放熱板の外縁部までの沿面距離bとの比a/bは0.5以上2以下であり、かつa-bの値が-0.5mm以上0.5mm以下である。

したがって、上記(1)ないし(5)の記載事項及び図面の記載を総合勘案すると、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「矩形の窒化珪素基板11と、前記窒化珪素基板11の一方の面に接合され、互いに隙間を介して配置された異なる形状及び面積の複数の回路パターンから構成された金属回路板12と、前記窒化珪素基板11の他方の面に接合された金属放熱板13と、からなる絶縁性を有する窒化珪素配線基板1であって、前記窒化珪素基板11の外縁部から前記金属回路板12の外縁部までの沿面距離aと前記窒化珪素基板11の外縁部から前記金属放熱板12の外縁部までの沿面距離bとの比a/bが0.5以上2以下であり、かつa-bの値が-0.5mm以上0.5mm以下である窒化珪素配線基板1。」

2.甲第2号証(特開2013-42165号公報)
甲第2号証には、「回路基板」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性セラミックス基板と、該絶縁性セラミックス基板の一面に接合された金属回路板と、前記絶縁性セラミックス基板の他面に接合された金属放熱板とからなる回路基板において、
前記絶縁性セラミックス基板の面内方向の破壊靭性値が5.5MPa・m^(1/2)以上、かつ厚みが0.2?1.0mmであり、
前記金属回路板及び前記金属放熱板がいずれも0.5mm?5.0mmの厚さの銅板であり、前記金属回路板の総面積の前記金属放熱板の総面積に対する比率が5/9以上であり、
前記絶縁性セラミックス基板と前記金属回路板との接合および前記絶縁性セラミックス基板と前記金属放熱板との接合が、ろう付け温度600?900℃の活性金属ろう材を介して行われており、
さらに前記絶縁性セラミックス基板の内部の破壊靱性値が5.5?7.5MPa・m^(1/2)であり、
加えて前記絶縁性セラミックス基板の厚さをt_(c)(mm)、前記金属回路板の厚さを t_(1)(mm)、前記金属放熱板の厚さをt_(2)(mm)とし、前記絶縁性セラミックス基板の内部の破壊靱性値をK(MPa・m^(1/2))としたとき、
(t_(1)^(2)-t_(2)^(2))/t_(c)^(2)/K<0.62、
の関係にあり、
前記回路基板の面内方向の見かけの破壊靭性値が3.0?6.5MPa・m^(1/2)であり、
さらに前記絶縁性セラミックス基板の面内方向の破壊靭性値(K_(H))と前記回路基板の面内方向の見かけの破壊靭性値(K_(H1))との差(K_(H)-K_(H1))が1.7MPa・m^(1/2)以下であることを特徴とする回路基板。
【請求項2】
前記回路基板のそり量の絶対値が54μm/inch以下であることを特徴とする請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記絶縁性セラミックス基板が窒化珪素セラミックスであることを特徴とする請求項1または2に記載の回路基板。
【請求項4】
前記回路基板の内部の見かけの破壊靱性値(K_(1))が4.8MPa・m^(1/2)以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項5】
前記絶縁性セラミックス基板の内部の破壊靱性値(K)と前記回路基板の内部の見かけの破壊靱性値(K_(1))との差(K-K_(1))が1.7MPa・m^(1/2)以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項6】
請求項1に記載の回路基板の製造方法であって、
前記絶縁性セラミックス基板の面内方向の破壊靭性値を5.5MPa・m^(1/2)以上、かつ厚みを0.2?1.0mmとし、
前記金属回路板及び前記金属放熱板をいずれも0.5mm?5.0mmの厚さの銅板とし、前記金属回路板の総面積の前記金属放熱板の総面積に対する比率を5/9以上とし、
さらに前記絶縁性セラミックス基板の内部の破壊靱性値を5.5?7.5MPa・m^(1/2)とし、
加えて前記絶縁性セラミックス基板の厚さをt_(c)(mm)、前記金属回路板の厚さを t_(1)(mm)、前記金属放熱板の厚さをt_(2)(mm)とし、前記絶縁性セラミックス基板の内部の破壊靱性値をK(MPa・m^(1/2))としたとき、
(t_(1)^(2)-t_(2)^(2))/t_(c)^(2)/K<0.62、
の関係とし、
前記絶縁性セラミックス基板と前記金属回路板との接合および前記絶縁性セラミックス基板と前記金属放熱板との接合を活性金属ろう材を介して行い、そのろう付け温度を600℃?900℃としたことを特徴とする回路基板の製造方法。」

(2)「【0018】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る回路基板は、特に異方性の強い絶縁性セラミックス基板を用いた場合に有効である。この回路基板1の平面図およびそのI-I方向における断面図が図1である。この回路基板1においては、絶縁性セラミックス基板2の一方の面に金属回路板3が、他方の面に金属放熱板4が、それぞれろう材5を介して接合されている。絶縁性セラミックス基板2としては、例えば窒化珪素セラミックスが用いられる。金属回路板3および金属放熱板4としては例えば銅が用いられる。ろう材5は、例えばTiが添加されたAg-Cu系合金に代表される活性金属であり、これを用いて金属回路板3および放熱板4は750℃程度の温度で絶縁性セラミックス基板2に接合される。なお、この回路基板1を用いた半導体モジュールは、金属回路板3上に半導体チップ(図示せず)がはんだで接続されて搭載されることによって形成される。」

(3)「【0025】
さらには、回路基板1のそり量の絶対値を80μm/inch(1inchは0.0254m)以下とし、絶縁性セラミックス基板2にかかる残留応力を小さくした。この場合に回路基板1の面内方向の見かけの破壊靭性値K_(H1)が3.0?6.5MPa・m^(1/2)となり、絶縁性セラミックス基板2に接合した金属回路板3の外周部から絶縁性セラミックス基板2へ入るクラックが伸展して破壊に至ることがなかった。図4に、金属回路板3の厚さ等を変えた回路基板1を複数作成し、これらにおけるそり量と前記のK_(H1)との関係を調べた結果を示す。また、これらの回路基板については、冷熱サイクルを3000サイクル印加し、絶縁性セラミックス基板2におけるクラックの発生を調べた。図4中の白丸はクラックの発生が見られなかった回路基板に対応し、×印はクラックが発生した回路基板に対応している。この結果より、K_(H1)とそり量には強い相関があり、K_(H1)が3.0?6.5MPa・m^(1/2)の範囲の場合には、そり量が80μm/inch以下となり、冷熱サイクル特性が向上することが確認できる。」

(4)「【0053】
得られた回路基板の金属回路板および金属放熱板が接合されている部分の断面を取り出し、JISR1607に準拠して、窒化珪素セラミックス基板の断面にビッカース圧子を所定荷重(例えば、2kgf)で押し込むIF法で見かけの破壊靱性値を測定した。このとき、ビッカース圧子はビッカース圧痕の一方の対角線が基板の厚さ方向と垂直になるように押し込んだ。そして、ビッカース圧痕の面内方向の対角線の長さ、左端部及び右端部から伸びるクラックの長さ、および上端部及び下端部から伸びるクラックの長さによりこの回路基板における面内方向の見かけの破壊靱性値KH1および内部の見かけの破壊靭性値K1を求めた。測定は任意の5箇所について行い、その平均値をこれらの見かけの破壊靭性値とした。また、回路基板のそりは3次元測定器を用いて対角線上で測定し、そのそりの大きさの最大値を対角線の長さで割った値をそり量とした。測定したこれらの見かけの破壊靭性値及びそり量は表1に示す。」

(5)【図4】


・上記(1)、(2)によれば、回路基板1は、窒化珪素セラミックスである絶縁性セラミックス基板2と、前記絶縁性セラミックス基板2の一面に接合された金属回路板3と、前記絶縁性セラミックス基板2の他面に接合された金属放熱板4とからなるものである。

・上記(1)、(2)によれば、金属回路板3及び金属放熱板4は、銅板である。

・上記(3)、(5)によれば、金属回路板の厚さ等を変えた回路基板1を複数作成し、これらにおけるそり量を測定している。

・上記(4)によれば、回路基板のそりは3次元測定器を用いて対角線上で測定し、そのそりの大きさの最大値を対角線の長さで割った値をそり量としている。

したがって、上記(1)ないし(5)の記載事項及び図面の記載を総合勘案すると、甲第2号証には以下の技術事項が記載されている。

「窒化珪素セラミックスである絶縁性セラミックス基板2と、前記絶縁性セラミックス基板2の一面に接合された銅板である金属回路板3と、前記絶縁性セラミックス基板2の他面に接合された銅板である金属放熱板4とからなる回路基板1であって、前記金属回路板3の厚さ等を変えた回路基板1を複数作成し、これらにおけるそり量を測定し、前記そり量を測定するにあたっては、回路基板のそりを3次元測定器を用いて対角線上で測定し、そのそりの大きさの最大値を対角線の長さで割った値をそり量とすること。」

3.甲第3号証(特開2003-309210号公報)
甲第3号証には、「セラミックス回路基板」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 セラミックス基板の表面にろう材を介して金属回路板を、および前記セラミックス基板の裏面にろう材を介して金属放熱板をそれぞれ設けた接合体であって、該接合体は-110℃以下で冷却処理されて、室温における反り量が50mm当り100μm以下であることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項2】 前記セラミックス基板に加わる残留応力が650MPa以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】 前記セラミックス基板の厚みが0.2?0.9mm、前記金属回路板の厚みが3.0mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】 前記金属回路板の厚み(tc)と、金属放熱板の厚み(tr)との関係がtc>trであり、更に金属回路板のろう付けされた面積(sc)と金属放熱板のろう付けされた面積(sr)との関係がsc<srであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のセラミックス回路基板。
【請求項5】 前記セラミックス基板が窒化珪素または窒化アルミニウムまたはアルミナであり、前記金属回路板および金属放熱板が銅または銅を主成分とする銅合金またはアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のセラミックス回路基板。」

(2)「【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明例のセラミックス回路基板の断面図である。本発明のセラミックス回路基板10は、セラミックス基板11の表面に活性金属を含むろう材、またはAl合金ろう材14を介して金属回路板12を設け、他方セラミックス基板11の裏面には活性金属を含むろう材、またはAl合金ろう材14を介して金属放熱板13を夫々設けた接合体となし、この接合体を-110℃以下で冷却処理して得たものである。この接合体によれば室温におけるセラミックス基板11の反り量(tw)は50mm当り100μm以下、またセラミックス基板11に加わる残留応力が650MPa以下とすることが出来る。尚、反り量は金属回路板、あるいは金属放熱板のどちら側のものでも良い。そして、残留応力の集中を防止するためには、金属回路板12および金属放熱板13の端面および端部コーナー部にはテーパー及び/又はアールが設けられていることが望ましい。」

(3)「【0014】本発明で使用されるセラミックス基板11としては、窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ等があげられ、その厚みとしては、薄すぎると強度および耐久性が小さくなり、厚すぎると熱抵抗が大きくなるので、0.2?0.9mm程度であることが好ましい。また、金属回路板12および金属放熱板13としては、銅、銅を主成分とする銅合金、アルミニウム、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金等があげられ、金属回路板12の厚みは3.0mm以下であることが好ましい。この理由については後述する。」

(4)「【0015】更に、本発明のセラミックス回路基板において、ろう付け接合で接合体に発生する残留応力の緩和による接合体の破損および反り防止、並びに温度サイクル寿命向上のためには、金属回路板12の厚み(tc)と金属放熱板13の厚み(tr)との関係がtc>trであり、更に金属回路板12のろう付けされた面積(sc)と金属放熱板13のろう付けされた面積(sr)との関係がsc<srであることが好ましい。この理由は以下のように考えられる。
【0016】ろう付け接合後の接合体の反り方は、金属回路板12の厚み(tc)と金属放熱板13の厚み(tr)との関係で変わる。例えば、上記面積がsc=srの条件で、上記厚みがtc=trの場合では反りが発生しない。上記厚みがtc>trの場合では金属回路板12側が凹(金属放熱板13側が凸)に反る。上記厚みがtc<trの場合では金属回路板12側が凸(金属放熱板13側が凹)に反る。更に上記面積がsc<sr条件で、上記厚みがtc=trか、またはtc<trの場合では金属回路板12側が凸(金属放熱板13側が凹)に反る。上記厚みがtc>trの場合では、反りが発生しないか、または金属回路板12側が凸(金属放熱板13側が凹)に反るか、または金属回路板12側が凹(金属放熱板13側が凸)に反るかのいずれかの状態になる。尚、反り量は、前記厚みtcとtrとの差が大きくなればなるほど、また前記面積scとsrとの差が大きくなればなるほど増加傾向を示す。即ち、少なくとも金属回路板12側が凹(金属放熱板13側が凸)に反るように、かつ反り量を少なくコントロールするためには、必要条件としてのsc<sr、およびtc>trの条件の中から最適な定数を選定すれば良い。」

・上記(1)、(2)によれば、セラミックス回路基板10は、セラミックス基板11の表面にろう材14を介して金属回路板12を設け、セラミックス基板11の裏面にはろう材14を介して金属放熱板13を夫々設けた接合体となし、この接合体を-110℃以下で冷却処理して得たものである。また、前記冷却処理して得たセラミックス回路基板10は、室温における反り量が50mm当り100μm以下となるものである。

・上記(1)、(3)によれば、セラミックス基板11は窒化珪素であり、金属回路板12及び金属放熱板13は銅である。

・上記(1)、(4)によれば、金属回路板12の厚み(tc)と、金属放熱板13の厚み(tr)との関係がtc>trであり、更に金属回路板のろう付けされた面積(sc)と金属放熱板のろう付けされた面積(sr)との関係がsc<srである。また、少なくとも金属回路板12側が凹に反るように、かつ反り量を少なくコントロールすることは、必要条件としてのsc<sr、およびtc>trの条件の中から最適な定数を選定することによって行われる。

したがって、上記(1)ないし(4)の記載事項及び図面の記載を総合勘案すると、甲第3号証には以下の技術事項が記載されている。

「セラミックス基板11の表面にろう材14を介して金属回路板12を設け、セラミックス基板11の裏面にはろう材14を介して金属放熱板13を夫々設けた接合体が-110℃以下で冷却処理されて、室温における反り量が50mm当り100μm以下であるセラミックス回路基板10において、前記金属回路板12の厚み(tc)と、前記金属放熱板13の厚み(tr)との関係、及び金属回路板のろう付けされた面積(sc)と金属放熱板のろう付けされた面積(sr)との関係を、sc<sr、およびtc>trとすることを必要条件とし、その条件の中から最適な定数を選定することによって、少なくとも金属回路板12側が凹に反るように、かつ反り量を少なくコントロールすること。」

第5 当審の判断
1.申立理由1(サポート要件)
(1)本件発明1ないし2について
特許異議申立人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「前記放熱板のY方向(前記セラミックス基板の辺Yに平行する方向)の長さを、前記第一の金属板のY方向長さよりも短く形成することによって、前記絶縁基板のX方向の反り能力WX2(前記回路板側に凸)を付与する工程」という発明特定事項は、請求項3に記載の発明特定事項を勘案すると、「本件特許請求項1は、反り能力WX2が反り能力WX1を助長するように、放熱板のY方向の長さを調節する構成についても含み得る」から、「出願時の技術常識を鑑みても、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を、かのような構成についてまで拡張ないし一般化することはできないし、そもそも、温度変化時の反りの小さい絶縁基板を提供するという課題(段落0013)に反することにな」り、したがって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではないと主張する。
また、請求項2の「前記放熱板のX方向の長さを、前記第一の金属板のX方向長さよりも短く形成することによって、前記絶縁基板のY方向の反り能力WY2(前記回路板側に凸)を付与する工程」という発明特定事項についても同様であるから、本件発明2は発明の詳細な説明に記載されたものではないと主張する。

上記主張について検討する。
請求項1に「前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のX方向(前記セラミックス基板の辺Xに平行する方向)の反り能力WX1(前記放熱板側に凸)を求める工程」、及び「前記放熱板のY方向(前記セラミックス基板の辺Yに平行する方向)の長さを、前記第一の金属板のY方向長さよりも短く形成することによって、前記絶縁基板のX方向の反り能力WX2(前記回路板側に凸)を付与する工程」(下線は当審で付与した。)と記載されているとおり、本件発明1において、反り能力WX1は放熱板側に凸であり、反り能力WX2は回路板側に凸である。したがって、反り能力WX2の方向は反り能力WX1の方向と逆であるから、本件発明1において、「絶縁基板のX方向の反り能力WX2(回路板側に凸)」を付与することが、反り能力WX1を助長するように、放熱板のY方向の長さを調節することを含むことにはならない。
そして、反り能力WX1の方向と逆の方向の反り能力WX2を付与することによって、本件特許明細書の段落【0013】の【発明が解決しようとする課題】の欄に記載された「温度変化時の反りが小さい絶縁基板を提供する」という課題を解決できることは明らかである。

また、請求項2の記載についても同様で、「さらに前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のY方向の反り能力WY1(前記放熱板側に凸)を求める工程」、及び「前記放熱板のX方向の長さを、前記第一の金属板のX方向長さよりも短く形成することによって、前記絶縁基板のY方向の反り能力WY2(前記回路板側に凸)を付与する工程」(下線は当審で付与した。)と記載されているとおり、本件発明2において、反り能力WY1は放熱板側に凸であり、反り能力WY2は回路板側に凸である。したがって、反り能力WY2の方向は反り能力WY1の方向と逆であるから、本件発明2において、「絶縁基板のY方向の反り能力WY2(回路板側に凸)」を付与することが、反り能力WY1を助長するように、放熱板のX方向の長さを調節することを含むことにはならない。
そして、反り能力WY1の方向と逆の方向の反り能力WY2を付与することによって、本件特許明細書の段落【0013】の【発明が解決しようとする課題】の欄に記載された「温度変化時の反りが小さい絶縁基板を提供する」という課題を解決できることは明らかである。

よって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。

2.申立理由2(明確性)
(1)本件発明1について
特許異議申立人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のX方向(前記セラミックス基板の辺Xに平行する方向)の反り能力WX1(前記放熱板側に凸)を求める工程」とは、「絶縁基板の反り量を測定(実測)することを示しているのか、銅回路板のみが設けられたセラミックス基板を測定(実測)することを示しているのか、予め反り量を特別な計算方法で測定することを示しているのか不明である。」と主張する。

上記主張について検討する。
ア.請求項1の「セラミックス基板と、・・・回路板と、・・・放熱板とからなる絶縁基板」との記載、及び「前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のX方向(前記セラミックス基板の辺Xに平行する方向)の反り能力WX1(前記放熱板側に凸)を求める工程」(下線は当審で付与した。)との記載を参照すると、反り能力WX1とは「絶縁基板」の反り能力であり、かつ「絶縁基板」は「セラミックス基板と、回路板と、放熱板とからなる」ものである。

イ.本件特許明細書の段落【0033】には、「回路板12によって生じるX方向の反り能力WX1及び放熱板13によって生じるX方向の反り能力WX2は、それぞれ実験的に求めることも可能ではあるが、以下に示すように、経験式から求めることができる。」と記載されており、この記載を参酌すれば、反り能力WX1は実験的に求めてもよいし、経験式から求めてもよいと解することができる。

そうすると、上記アによれば、本件発明1における「前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のX方向(前記セラミックス基板の辺Xに平行する方向)の反り能力WX1(前記放熱板側に凸)を求める工程」は、「セラミックス基板と、回路板と、放熱板とからなる絶縁基板」の反り能力を求める工程であると明確に解することができる。したがって、反り量WX1を求める工程は、異議申立人が主張するような「銅回路板のみが設けられたセラミックス基板を測定(実測)すること」であると解し得るものではない。
また、上記イによれば、反り能力WX1は、実験的に求めてもよいし、経験式から求めてもよいものであるから、請求項1において絶縁基板の反り量を実験的に求めるのか経験式から求めるのかが特定されていないことをもって、本件発明1が明確でないということにはならない。
よって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

なお、特許異議申立人は、「反り能力WX1を求める工程が、絶縁基板(銅回路板/窒化珪素基板/銅放熱板)の反り量を測定していることを示しているとすれば、後述するように、第一の金属板(回路板)の沿面距離よりも第二の金属板(放熱板)の沿面距離が大きい窒化珪素回路基板の反り量を単に測定しているにすぎないことになる。」と主張する(第12頁第1行ないし第5行)。

しかしながら、請求項1には「前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のX方向(前記セラミックス基板の辺Xに平行する方向)の反り能力WX1(前記放熱板側に凸)を求める工程」と記載されており、第一の金属板(回路板)の沿面距離よりも第二の金属板(放熱板)の沿面距離が大きい旨の記載はない。
また、本件発明1は、「絶縁基板のX方向の反り能力WX1を求める工程」の後に「放熱板のY方向の長さを、第一の金属板のY方向長さよりも短く形成することによって、絶縁基板のX方向の反り能力WX2を付与する工程」を行うものである。したがって、本件発明1において、絶縁基板のX方向の反り能力WX1を求める工程は、まだ「放熱板のY方向の長さを、第一の金属板のY方向長さよりも短く形成」していない状態で行われる工程であるから、第一の金属板(回路板)の沿面距離よりも第二の金属板(放熱板)の沿面距離が大きい絶縁基板の反り量を単に測定しているにすぎないものではない。

よって、上記主張は妥当でない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。

3.申立理由3(進歩性)
(1)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「矩形の窒化珪素基板11」の各辺のうち、図1(a)において水平方向の辺は、本件発明1の辺Xと辺Yのうちの一方に相当し、図1(a)において垂直方向の辺は、本件発明1の辺Xと辺Yのうちの他方に相当する。また、窒化珪素基板はセラミックス基板であることは明らかである。(必要であれば、「第4」の「2.(2)」を参照。)
したがって、甲1発明の「矩形の窒化珪素基板11」は、本件発明1の「辺X及び辺Yからなる矩形のセラミックス基板」に相当する。

(イ)甲1発明の「絶縁性を有する窒化珪素配線基板1」は、本件発明1の、「絶縁基板」に相当する。

(ウ)甲1発明は、複数の回路パターンの間にそれぞれ「隙間」が設けられることにより、1枚の金属板が異なる形状に分割され、かつ複数に分割されて金属回路板12が構成されるものである。
したがって、甲1発明の「窒化珪素基板11の一方の面に接合され、互いに隙間を介して配置された異なる形状及び面積の複数の回路パターンから構成された金属回路板12」は、本件発明1の「セラミックス基板の一方の面に接続された第一の金属板に、前記第一の金属板を任意の形状及び任意の数に分割するスリットを設けてなる回路板」に相当する。

(エ)甲1発明の「前記窒化珪素基板11の他方の面に接合された金属放熱板13」は、本件発明1の「前記セラミックス基板の他方の面に形成された第二の金属板からなる放熱板」に相当する。

(オ)甲1発明は、「前記窒化珪素基板11の外縁部から前記金属回路板12の外縁部までの沿面距離aと前記窒化珪素基板11の外縁部から前記金属放熱板12の外縁部までの沿面距離bとの比a/bが0.5以上2以下であり、かつa-bの値が-0.5mm以上0.5mm以下である窒化珪素配線基板1」という発明特定事項を備えているが、aとbの大小関係についてみてみると、a/bが0.5以上1未満である場合は、沿面距離aが沿面距離bよりも短く、a/bが1より大きく2以下である場合は、沿面距離aが沿面距離bよりも長いことは明らかである。してみると、「前記窒化珪素基板11の外縁部から前記金属回路板12の外縁部までの沿面距離aと前記窒化珪素基板11の外縁部から前記金属放熱板12の外縁部までの沿面距離bとの比a/bが0.5以上2以下であり、かつa-bの値が-0.5mm以上0.5mm以下である窒化珪素配線基板1」には、沿面距離aが沿面距離bよりも短い構成も含まれており、上記構成では、金属放熱板12のY方向(窒化珪素基板11の辺Yに平行する方向)の長さは、金属回路板12を構成する金属板のY方向長さよりも短いことになる。
したがって、本件発明1の「絶縁基板」と、甲1発明の「窒化珪素配線基板1」とは、「放熱板のY方向の長さが、第一の金属板のY方向長さよりも短い」という点で共通している。
ただし、甲1発明は、「窒化珪素配線基板1」の発明であって、「絶縁基板の反り量を調整する方法」の発明ではなく、「セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のX方向(前記セラミックス基板の辺Xに平行する方向)の反り能力WX1(放熱板側に凸)を求める工程、及び前記放熱板のY方向(前記セラミックス基板の辺Yに平行する方向)の長さを、第一の金属板のY方向長さよりも短く形成することによって、前記絶縁基板のX方向の反り能力WX2(前記回路板側に凸)を付与する工程」をという発明特定事項を備えていない。

よって、本件発明1と甲1発明とは、発明特定事項に
「 辺X及び辺Yからなる矩形のセラミックス基板と、
前記セラミックス基板の一方の面に接合された第一の金属板に、前記第一の金属板を任意の形状及び任意の数に分割するスリットを設けてなる回路板と、
前記セラミックス基板の他方の面に形成された第二の金属板からなる放熱板とからなり、
前記放熱板のY方向(前記セラミックス基板の辺Yに平行する方向)の長さが、第一の金属板のY方向長さよりも短く形成された絶縁基板。」
を含む点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本件発明1は、「絶縁基板の反り量を調整する方法」の発明であって、「セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のX方向(前記セラミックス基板の辺Xに平行する方向)の反り能力WX1(放熱板側に凸)を求める工程、及び前記放熱板のY方向(前記セラミックス基板の辺Yに平行する方向)の長さを、第一の金属板のY方向長さよりも短く形成することによって、前記絶縁基板のX方向の反り能力WX2(前記回路板側に凸)を付与する工程」を有するのに対し、甲1発明は、「窒化珪素配線基板1」の発明であって、それらの工程は備えていない点。

上記相違点について検討する。
「第4」の「2.」で説示したとおり、甲第2号証には、「窒化珪素セラミックスである絶縁性セラミックス基板2と、前記絶縁性セラミックス基板2の一面に接合された銅板である金属回路板3と、前記絶縁性セラミックス基板2の他面に接合された銅板である金属放熱板4とからなる回路基板1であって、前記金属回路板3の厚さ等を変えた回路基板1を複数作成し、これらにおけるそり量を測定し、前記そり量を測定するにあたっては、回路基板のそりを3次元測定器を用いて対角線上で測定し、そのそりの大きさの最大値を対角線の長さで割った値をそり量とすること」という技術事項が記載されている。しかしながら、甲第2号証には、単に回路基板1を作成した後に回路基板1のそり量を測定することが記載されているだけであり、放熱板のY方向の長さを第一の金属板のY方向長さよりも短く形成する前に、絶縁基板のX方向の反り能力WX1を求めることによって、絶縁基板の反り量を調整することは記載されていない。
また、「第4」の「3.」で説示したとおり、甲第3号証には、「セラミックス基板11の表面にろう材14を介して金属回路板12を設け、セラミックス基板11の裏面にはろう材14を介して金属放熱板13を夫々設けた接合体が-110℃以下で冷却処理されて、室温における反り量が50mm当り100μm以下であるセラミックス回路基板10において、前記金属回路板12の厚み(tc)と、前記金属放熱板13の厚み(tr)との関係、及び金属回路板のろう付けされた面積(sc)と金属放熱板のろう付けされた面積(sr)との関係を、sc<sr、およびtc>trとすることを必要条件とし、その条件の中から最適な定数を選定することによって、少なくとも金属回路板12側が凹に反るように、かつ反り量を少なくコントロールすること」という技術事項が記載されている。しかしながら、甲第3号証には、セラミックス回路基板10の反り量を少なくコントロールすることが記載されているだけであり、「セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のX方向(前記セラミックス基板の辺Xに平行する方向)の反り能力WX1(放熱板側に凸)を求める工程、及び前記放熱板のY方向(前記セラミックス基板の辺Yに平行する方向)の長さを、第一の金属板のY方向長さよりも短く形成することによって、前記絶縁基板のX方向の反り能力WX2(前記回路板側に凸)を付与する工程」を有することは記載されていない。
したがって、甲第2号証及び甲第3号証のいずれにも、「セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のX方向(前記セラミックス基板の辺Xに平行する方向)の反り能力WX1(放熱板側に凸)を求める工程、及び前記放熱板のY方向(前記セラミックス基板の辺Yに平行する方向)の長さを、第一の金属板のY方向長さよりも短く形成することによって、前記絶縁基板のX方向の反り能力WX2(前記回路板側に凸)を付与する工程を有する、絶縁基板の反り量を調整する方法」という事項は記載されていない。また、甲1発明に甲第2号証、甲第3号証記載の技術事項を組み合わせても、上記事項は得られない。

したがって、甲1発明、及び甲第2号証、甲第3号証記載の技術事項から、上記相違点に係る本件発明1の「セラミックス基板の一方の面に形成された回路板によって生じる絶縁基板のX方向(前記セラミックス基板の辺Xに平行する方向)の反り能力WX1(放熱板側に凸)を求める工程、及び前記放熱板のY方向(前記セラミックス基板の辺Yに平行する方向)の長さを、第一の金属板のY方向長さよりも短く形成することによって、前記絶縁基板のX方向の反り能力WX2(前記回路板側に凸)を付与する工程を有する、絶縁基板の反り量を調整する方法」という事項を当業者が容易に想到することはできない。

よって、本件発明1は、甲1発明、及び甲第2号証、甲第3号証記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記ア.で述べたのと同様の理由で、甲1発明、及び甲第2号証、甲第3号証記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-05-28 
出願番号 特願2015-14256(P2015-14256)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 黒田 久美子  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 宮本 秀一
井上 信一
登録日 2018-08-10 
登録番号 特許第6380131号(P6380131)
権利者 日立金属株式会社
発明の名称 絶縁基板の反り量の調整方法  

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