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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E02D
審判 全部申し立て 2項進歩性  E02D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02D
管理番号 1352329
異議申立番号 異議2019-700239  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-27 
確定日 2019-06-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6400315号発明「既製杭の埋設構造、既製杭の埋設方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6400315号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6400315号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成26年3月26日に出願され、平成30年9月14日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成31年3月27日に特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6400315号の請求項1?3の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
外径D01の上部大径部を有し、該上部大径部の下方を径D02(D02<D01)の小径部としてなる既製杭を、杭穴内に埋設して、以下のように構成することを特徴とする既製杭の埋設構造。
(1) 前記杭穴は、杭穴小径部が所定径D1(D02<D1<D01)で形成され、前記杭穴小径部の所定高さから上方に径D2(D1<D2)の杭穴大径部を形成し、前記杭穴小径部の上端に段差部を形成する。
(2) 前記既製杭の大径部下面外周部を前記杭穴の段差部上面に係止した状態で、かつセメントミルクなどの固化材料が充填された前記杭穴内に前記既製杭を埋設する。
【請求項2】
杭穴の段差部を、地盤強度が大きな深さ位置に設定することを特徴とする請求項1記載の既製杭の埋設構造。
【請求項3】
杭穴内に、既製杭を以下のように埋設して基礎杭構造を構築することを特徴とした既製杭の埋設方法。
(1) 前記既製杭を、外径D01の上部大径部を有し、該上部大径部の下方を径D02(D02<D01)の小径部として構成する。
(2) 所定径D1(D02<D1<D01)で杭穴小径部を必要深さまで掘削する。
(3) 前記杭穴小径部を所定深さまで掘削した後に、あるいは、前記杭穴小径部の下端部の掘削と同時に、前記杭穴小径部の所定深さから上方に、径D2(D01<D2)の上部大径部を掘削し、前記杭穴小径部の上端に段差部を形成する。
(4) 前記杭穴内にセメントミルクなどの固化材料を注入すると前後して、あるいは同時に、前記既製杭を挿入する。
(5) 前記既製杭の大径部下面が前記杭穴の段差部上面に係止した状態を維持して、前記杭穴内に前記既製杭を埋設する。
(6) 前記固化材料が固化したならば、基礎杭構造を構成する。」

3 申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、請求項1に係る特許を取り消すべきものである。
また、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、請求項3に係る特許を取り消すべきものである。
(2)特許法第29条第2項
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1に係る特許を取り消すべきものである。
本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明、又は甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項2に係る特許を取り消すべきものである。
本件発明3は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項3に係る特許を取り消すべきものである。
(3)特許法第36条第6項第1号
本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから、請求項1?3に係る特許を取り消すべきものである。
(4)特許法第36条第6項第2号
本件発明1及び2は明確ではなく、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであるから、請求項1及び2に係る特許を取り消すべきものである。

[証拠方法]
・甲第1号証:特開昭62-253817号公報
・甲第2号証:特許第376031号公報
・甲第3号証:特開2007-315027号公報

4 文献の記載
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「本発明は地盤を掘削泥土化した穴に既製コンクリート杭を回転埋設する工法(通称RODEX工法)において、上杭または中杭として拡頭杭(ST杭)を使用した施工法に関するものである。」(第1頁右下欄第3?6行)

イ 「従来の技術
一般に既製コンクリート杭は全長にわたつて各断面の外径と厚さがほぼ一定の製品を現場で接続して施工される。ところが埋設した杭に水平力が作用すると特に上杭部分に曲げモーメントが生ずるのでこの部分を補強する必要がある。」(第1頁右下欄7?12行)

ウ 「本発明の拡頭杭(ST杭:Step Tapered杭)を用いた既製コンクリート杭の埋設工法は上記問題点を解決するための手段として下記の工程を具えている。
(1)拡大ピツトおよび攪拌翼を有する特殊な掘削ロツドを用いて水等の掘削液を注入しなからプレボーリングを行ない施工地盤に泥土化させた掘削穴を設け、さらに所定支持層を掘削ロツドの先端部に取り付けてある拡大ピツトによつて拡大掘削し根固め液を注入しながら支持層中の砂礫を混合攪拌して拡底根固め球根を築造し、次で該掘削穴内に既製コンクリート杭を建て込み杭の自重沈設および回転埋設によつて埋設する工法において、該既製コンクリート杭を拡頭杭(ST杭)を上部または上方の大径の杭と接続される中間部分として下方の小径の杭に接続したこと、」(第1頁右下欄第20行?第2頁左上欄第16行)

エ 「拡頭杭を使用した埋設工法は、中掘方式も考えられるが、中掘方式の場合は下部沈設時に上杭(大径)用の穴径で掘削しておくと崩壊等があると杭沈設が困難となる。また中空部の径が異なるため同一のオーガ径のもので施工するとき排土効率が悪く施工速度が遅いという欠点がある。本発明の方法は前記中掘方式の欠点を避け、しかも水平力に対する補強を自動的に実現させるものである。」(第2頁左上欄第18行?右上欄第6行)

オ 「第1図は本発明によつて埋設したコンクリート杭の1例を示す一部断面図で、この場合は拡頭杭を大径杭の下方に接続したものであり、図示してないが、拡頭杭の下方には小径杭が接続される。」(第2頁右上欄第8?12行)

カ 「第2図は本発明方法の1例を工程順に説明したもので、各工程は下記の通りである。
(A)掘削:掘削ロツドによるプレボーリング。
(B)拡大掘削:掘削ロツドを逆回転させ拡大ピツトにより下端に拡大穴を作る。
(C)根固め液注入:掘削ロツドの先端から根固め液を注入する。
(D)ロッド引抜
(E)上部拡大掘削:掘削ロツド引抜の途中に上部において逆転して上部拡大掘削する。
(F)杭沈設:キヤツプを介して拡頭杭を掘削穴内に降下させる。
(G)定着(回転):降下した拡頭杭を回転して定着させる。」(第2頁右上欄第13行?左下欄第7行)

キ 「発明の効果
(1)水平力および支持力を大きくとれる。
(2)上杭又は中杭として拡大頭を使用したので泥水等の排土量を小さくできる。
(3)掘削穴は同一軸上の連続作業のため拡頭部と途中部との芯ずれかない。
(4)施工速度が早く、かつ経済的である。」(第2頁左下欄第8?14行)

ク 第3頁の第1図から、埋設したコンクリート杭における拡頭杭が、上部の大径部分と下部の小径部分とを備え、前記大径部と前記小径部との間には、下方から上方に向けて径が大きくなる接続部を有することが見て取れる。また、掘削穴とコンクリート杭の間には、杭周固定液が存在することが見て取れる。また、前記掘削穴が径が大きい上方の部分と径が小さい下方の部分とからなり、それらの部分の間に段差を有し、前記拡頭杭における前記大径部の径(D01)及び前記小径部の径(D02)と、前記掘削穴の径が小さい下方の部分の径(D1)との間には、D02 < D1 < D01との関係が見て取れる。また、前記拡頭杭における前記接続部が前記掘削穴の前記段差の近傍に位置する状態であることが見て取れる。

ケ 第3頁の第2図から、工程Aでは、掘削ロツドによるプレボーリングで掘削穴の掘削が行われ、工程Eでは、掘削穴に上部拡大掘削を行うことが見て取れる。また、前記上部拡大掘削を行うことにより、掘削ロツドによるプレボーリングで掘削された部分と上部拡大掘削が行われた部分との間に段差が形成されていることが見て取れる。また、工程Gにおいては、前記拡頭杭における大径部の下端が前記掘削穴の前記段差の近傍に位置する状態であることが見て取れる。

コ 上記ア?ケから見て、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「上部に大径(D01)の大径部分を備えるとともに下部に小径(D02)の小径部分を備える拡頭杭を備える既製コンクリート杭を掘削穴内に埋設した既製コンクリート杭の埋設構造であって、
前記掘削穴は、掘削ロツドによるプレボーリングで所定径(D1)(D02<D1<D01)で掘削された掘削穴の下方の部分と、上部拡大掘削された掘削穴の上方の部分とを有し、前記掘削ロツドにより掘削された掘削穴の下方の部分と前記上部拡大掘削が行われた掘削穴の上方の部分との間に段差が形成され、
前記拡頭杭の前記大径部分と前記小径部分との間には、下方から上方に向けて径が大きくなる接続部を有し、
前記拡頭杭における前記接続部が前記掘削穴の前記段差の近傍に位置する状態で、根固め液及び杭周固定液が注入された掘削穴内に前記既製コンクリート杭を沈設及び定着(回転)により埋設した埋設構造。」

サ また、上記ア?ケから見て、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1方法発明」という。)が記載されているものと認める。
「掘削穴内に既製コンクリート杭を埋設して既製コンクリート杭の埋設構造を施工する方法であって、
前記既製コンクリート杭を、上部に大径(D01)の大径部分を備えるとともに下部に小径(D02)の小径部分を備える拡頭杭を備える構成とする工程と、
掘削ロツドによるプレボーリングで掘削穴を所定径(D1)(D02<D1<D01)で掘削する工程と、
前記掘削ロツド引抜の途中に上部において上部拡大掘削を行い、当該上部拡大掘削によって、前記掘削ロツドにより掘削された掘削穴の下方の部分と前記上部拡大掘削が行われた掘削穴の上方の部分との間に段差が形成される工程と、
前記掘削穴内に根固め液及び杭周固定液を注入するとともに、前記既製コンクリート杭を沈設する工程と、
前記拡頭杭における前記大径部分と前記小径部分との間で下方から上方に向けて径が大きくなる接続部が前記掘削穴の前記段差の近傍に位置する状態で、前記拡頭杭を定着(回転)して埋設する工程と、
を含む、既製コンクリート杭の埋設構造を施工する方法。」

(2)甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、中間打撃式杭及びその施工方法に関するものである。」

イ 「【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る中間打撃式杭は、杭体の下部を形成する中空状の下部杭体と、該下部杭体の上部側に配置された該下部杭体より大径の中空状の上部杭体とを備え、
前記下部杭体と前記上部杭体とを、前記下部杭体と前記上部杭体の内部が全長を通じて貫通し、かつ前記上部杭体の内側に挿入した錘で前記下部杭体の上端部を直接打撃可能な状態で接続したものである。」

ウ 「【0015】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
<イ>基本構成
図1は本発明の一実施の形態の中間打撃式杭の断面図である。
本実施形態の中間打撃式杭は、図1に示すように、杭体の下部を形成する中空状の下部杭体1と、該下部杭体1の上部側に配置された該下部杭体1より大径の中空状の上部杭体3とを備え、下部杭体1と上部杭体3とを、下部杭体1と上部杭体3の内部が全長を通じて貫通し、かつ上部杭体3の内側に挿入した錘5で下部杭体1の上端部を直接打撃可能な状態で接続したものである。
・・・
【0017】
<ハ>上部杭体
上部杭体3は、杭頭部近傍を形成する杭体である。
杭頭部近傍には、通常、杭体の下部よりも大きな水平力が作用するため、この水平力に抵抗できるだけの断面を確保する必要がある。そこで、本実施形態においては、上部杭体3の杭径を下部杭体1の径より大きくすることで水平力に抵抗させている。
なお、上部杭体3には、下部杭体1と同様に内空が長手方向に貫通した鋼管、中空状のコンクリート製(RC)杭、プレストレストコンクリート製(PC、PHC)杭、鋼管とコンクリート複合(SC)杭などが使用できる。
上部杭体3も、必要に応じて継ぎ足すことが可能である。」

エ 「【0019】
接続部7の外周部は、テーパー状に形成して上部杭体3と下部杭体1の外面が滑らかに繋がるようにしている。
接続部7の外周部をテーパー状に形成することで、上部杭体3の圧入時に接続部周辺の土砂がテーパー状の外面に沿って上方へ移動する。これによって、上部杭体3の外径が下部杭体1の外径より大きいことに起因する地盤から受ける抵抗を低減することができる。」

オ 「【0021】
図3は上記のように構成した本実施の形態の中間打撃式杭の施工方法の説明図である。以下、図3に基づいて施工方法を説明する。
中間打撃式杭の構成部材として次のものを用いる。
例えば上部杭体3には外径が800mm、長さ6m、肉厚9mmの鋼管を用い、これに外径が600mm、長さ6m、肉厚9mmの鋼管からなる下部杭体を接合したものを上杭とする。また、外径が600mm、長さ15m、肉厚9mmの鋼管からなる下部杭体を下杭とする。
<イ>中掘りによる中間打撃式杭の沈設(図3(a)、(b))
中間打撃式杭の中空部に、スパイラルオーガ13を挿入してセットする。その後に、中間打撃式杭を公知の杭打設装置(図示せず)に取り付ける。
次いで、スパイラルオーガ13で排土しながら、地盤15を掘り下げつつ、下杭を沈設する。途中で前記上杭と前記下杭を接続する。
そして、下杭側の下部杭体1の先端を予定の支持層17手前まで貫入する(図3(b)参照)。
【0022】
<ロ>スパイラルオーガの引き上げ
中掘り掘削後に、スパイラルオーガ13を引き上げる。
ここで、下部杭体1の頭部に掘削土21が予想以上に残留されている場合は、アースドリル用ケリーバー等で下部杭体1の頭部付近の掘削土21を地上へ排土し、下記打撃作業が可能な状態にする。
【0023】
<ハ>下部杭体の打撃(図3(c))
次に、上部杭体の中空部に錘5を挿入し、必要に応じて上部杭体3の頭部を消音用の防音蓋などで閉塞する。
そして、中間打撃式杭内で錘5を落下させて下部杭体1の頭部を直接打撃し、その先端部を予定の支持層17内に貫入させる。
この際、下部杭体1を打撃することによって、動的支持力理論に基づく支持力算定式に必要なリバウンド量を計測すれば、杭の施工品質等をより適切且つ迅速に評価することができる。
その後、必要に応じて、杭頭を打撃し沈下量を測定し、支持力を確認する。
また、杭体の先端には、セメントミルク等の固化材を注入して、固化部23を構築することもできる。」

カ 「【0025】
図4は、上記のように施工された中間打撃式杭の支持力の説明図である。以下、図4に基づいて杭の支持力について説明する。
杭の支持力は、杭先端の面積及び杭体の周面に作用する摩擦力によって算定できる。
本実施の形態の中間打撃式杭の支持力として共通して期待できるのは、下部杭体1の底面積による支持力と、杭体の周面摩擦力である。
上部杭体3の周囲には、下部杭体1によって形成された杭径を押し広げて形成された地盤の塑性域27が存在する。このため、上部杭体3と地盤の塑性域27間の高摩擦力が期待できる。また、テーパー状に形成された接続部7の外周面積も中間支持力Rmとして期待できる。」

キ 図1及び図4から見て、上記杭体の貫入により、前記下部杭体及び前記上部杭体が、それぞれ前記地盤の小径領域及び前記大径塑性域と接触するとともに、前記接続部が前記接続領域に係止した状態で埋設されることが見て取れる。

ク 上記ア?カから見て、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認める。
「小径(D02)の下部杭体と該下部杭体より大径(D01)の上部杭体とをテーパー状の接続部で接続した杭体を中掘り及び錘による中間打撃により地盤に貫入して埋設する杭体の埋設構造であって、
前記地盤には、前記下部杭体の中空部に挿入したスパイラルオーガで排土して中掘により形成された地盤の小径部分と、前記下部杭体によって形成された杭径を押し広げて形成された大径塑性域と、前記地盤の小径部分と前記大径塑性域との間に形成された接続領域が形成され、
上記杭体の貫入により、前記下部杭体及び前記上部杭体が、それぞれ前記地盤の小径領域及び前記大径塑性域と接触するとともに、前記接続部が前記接続領域に係止した状態で埋設され、前記杭体の先端にセメントミルク等の固化剤を注入して支持層に固化部が構築されている、
杭体の埋設構造。」

(3)甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
この発明は、中間支持層を有する地盤で、杭穴を掘削して既製杭を埋設する基礎杭工法、基礎杭の構造、基礎杭の設計方法で、合理的に支持力を発揮させることを目的とする。
【0002】
先端支持杭では、支持層まで掘削した杭穴内に、単独の既製杭又は複数の単位杭を連結した既製杭を埋設して、基礎杭構造を構成していた。この場合、支持杭では、一体の既製杭を杭穴内に埋設して、杭穴と既製杭の間に根固め液又は杭周固定液を介在させて構成していた。
【0003】
このような基礎杭では、1本の基礎杭で負担すべき鉛直荷重、引抜力、水平荷重を考慮して、先端支持層で総ての鉛直荷重を負担するように設計していた。また、中間で発揮される既製杭の周面での摩擦力については無視され、仮に摩擦力がゼロでなかったとしても、既製杭の先端で、杭頭の総ての荷重を負担するように、設計しなければならなかった。
【0004】
前記従来の先端支持杭の場合、先端支持層に至る中間で、やや硬い中間支持層があった場合でも、中間支持層で支持力を負担させることができなかった。
【0005】
また、中間支持層の地盤を支持力として有効に取り込める構造も提案されていなかった。」

イ 「【0008】
然るにこの発明は、中間支持層を有する地盤で、最上部の中間支持層に根固め部を形成する杭穴上端部を掘削し、杭穴上端部内に引抜力及び水平荷重を負担できる上端部杭を埋設したので、上端部杭により中間支持層の支持力を有効活用して、下端部杭が負担する鉛直荷重を軽減できるので、前記問題点を解決した。」

ウ 「【0025】
地盤は、
・地面1から「H1+H3」程度の深さに、N値(30)の下端支持層2(支持地盤層)
・地面1からH1程度の深さにN値(15)の中間支持層3
が存在している。
【0026】
(2) 負担すべき水平荷重、引抜力を総て上端部杭12、12で負担すると想定して、上端部杭12の構造(外径、等を)を決定する(図1(b)(c)。
・上端部杭12:長さL1、外径D1
下端部に外径D01の環状突部15を形成する
下端外周に筒状のカバー19を固定する
・杭穴上端部21:長さH1、外径D11
中間支持層3に根固め部22を形成する」

エ 「【0038】
(1) 杭穴20の掘削;
・杭穴上端部21:地上1?深さH1:径D11
・杭穴下端部23:深さH1?深さH3:径D33(D33<D11)
で杭穴20を掘削する。杭穴下端部23の根固め部24に根固め液を充填し、杭穴下端部23の他の深さには杭周固定液を充填しておく。」

オ 「【0043】
(5) 下端部杭13の環状突部16が、杭穴下端部23の根固め部24に位置し、下端部杭13の下面13bが杭穴下端部23の下面23aより長さD3程度上方に位置している状態で、下端部杭13及び上端部杭12を地上1で保持する。
【0044】
この際、下端部杭13の上面13aは、杭穴上端部21の根固め部22(中間支持層3)内に位置し、上端部杭12の下面12bが杭穴上端部21の下面21aより長さD1程度上方に位置し、環状突起15が杭穴上端部21の根固め部22内に位置している。
【0045】
この状態で、杭穴上端部21の下端部に根固め液を注入して、根固め部22を形成して上端部杭12の環状突起15を含む下端部を根固め部22内に位置させる。
【0046】
杭穴上端部21で、根固め部22の上方には杭周固定液が充填されている。」

カ 図1から見て、杭穴の径が大きい杭穴上端部と径が小さい杭穴下端部の間に段差を有するように杭穴を形成する構造が見て取れる。

キ 上記ア?カから見て、甲第3号証には、次の技術事項(以下「甲3技術事項」という。)が記載されているものと認める。
「中間支持層を有する地盤で、杭穴を掘削して既製杭を埋設する基礎杭構造において、先端支持層に至る中間で、やや硬い中間支持層があった場合に、前記中間支持層に根固め部を形成して支持力を負担させる構造とし、前記中間支持層において、杭穴の径が大きい杭穴上端部と径が小さい杭穴下端部の間に段差を有するように杭穴を形成する構造。」

5 当審の判断
(1)申立理由(1)及び(2)について
ア 本件発明1について
(ア)甲1発明を主引用発明とした検討
a 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両発明は、
「外径D01の上部大径部を有し、該上部大径部の下方を径D02(D02<D01)の小径部としてなる既製杭を、杭穴内に埋設して、以下のように構成する既製杭の埋設構造。
(1) 前記杭穴は、杭穴小径部が所定径D1(D02<D1<D01)で形成され、前記杭穴小径部の所定高さから上方に径D2(D1<D2)の杭穴大径部を形成し、前記杭穴小径部の上端に段差部を形成する。
(2) 前記既製杭の大径部下面外周部を前記杭穴の段差部上面に近傍に位置する状態で、かつセメントミルクなどの固化材料が充填された前記杭穴内に前記既製杭を埋設する。」
の点で一致するものの、以下の点で相違する。

・相違点1
本件発明1が、既製杭の大径部下面外周部を杭穴の段差部上面に係止した状態で既製杭を埋設するのに対し、甲1発明においては、既製杭の大径部下面外周部を杭穴の段差部上面に係止した状態で既製杭を埋設する点は特定されていない点。

b 判断
甲1発明は、埋設した杭に水平力が作用することで特に上杭部分に曲げモーメントが生ずるのでこの部分を補強することを技術的課題とし、拡頭杭を用いて既製コンクリート杭の埋設工法を行うものであって、甲第1号証には、拡頭杭の大径部下面外周部を杭穴の段差部上面に係止した状態で既製杭を埋設することの説明も示唆もない。また、拡頭杭の大径部下面外周部を杭穴の段差部上面に係止した状態で既製杭を埋設することが、自明であることや設計事項であるとの証拠はない。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点であり、甲1発明は、相違点1に係る本件発明1の構成を備えていない。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る構成を備えることにより、本件明細書に記載された作用効果を奏するものである。
そうすると、甲1発明において、拡頭杭の接続部を掘削穴の段差に係止させた状態とする構成とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。

したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

なお、上記相違点1について、申立人は、次のように主張する。

「また、拡頭杭の段差部を掘削穴の段差部に係止するとの文言による明示的な記載はないが、「(G)定着(回転):降下した拡頭杭を回転して定着させる。」(2頁左下欄6-7行、第2図(G))との記載において、「定着させる」とは、拡頭杭の段差部を掘削穴の段差部に係止することを意味するものと思料する。なぜならば、第2図(G)からは、拡頭杭のテーパー状の段差部の下端が掘削穴の段差部よりも下方に位置し、拡頭杭の段差部のテーパー面が掘削穴の段差部の角に当接していることを明らかに看取できるからである。従って、拡頭杭の段差部を掘削穴の段差部に係止していることは、当業者にとって自明な事項であると思料する。更に、「(1)水平力および支持力を大きくとれる。」(2頁左下欄9行)との記載からも、拡頭杭の段差部を掘削穴の段差部に係止していることは、当業者にとって自明な事項であると思料する。
なお、第1図においては、拡頭杭の段差部のテーパー面は掘削穴の段差部に直接当接していないが、第1図と第2図はそれぞれ別の一例を示しているためと思料する。また、たとえ第1図のように、拡頭杭の段差部が直接当接していなくても、杭周固定液が固化することで、「拡頭杭の段差部を掘削穴の段差部に係止した状態」が実現されるものと思料する。」(異議申立書第10頁第22行?第11頁第11行)

「なお仮に、甲第1号証において、「既製コンクリート杭を定着させる」ことが、「拡頭杭のテーパー状の外周部を掘削穴の段差部に当接させる」ことと同一ではないとしても、杭周固定液が固化すれば、拡頭杭のテーパー状の外周部が掘削穴の段差部上面に係止された状態となることに違いはない。
また仮に、甲第1号証において、「既製コンクリート杭を定着させる」ことが、「拡頭杭のテーパー状の外周部を掘削穴の段差部に当接させる」ことと同一ではないとしても、甲第1号証には、拡頭杭のテーパー状の外周部を掘削穴の段差部に当接させることを否定する記載や、当接させることが困難であるとする記載はなく、当業者にとって、拡頭杭のテーパー状の外周部を掘削穴の段差部に当接させることを選択することは容易であり、本件出願時に、甲1発明(1)に基づいて本件特許発明1に想到することは当業者にとって容易であったと思料する。
その外、たとえ両者の間に相違があったとしても、当該相違は微差にすぎず、本件出願時に、甲1発明(1)に基づいて本件特許発明1に想到することは当業者にとって容易であったと思料する。」(異議申立書第17頁第9?24行)

しかしながら、甲第1号証には、以下のとおり、拡頭杭の接続部を掘削穴の段差に係止させることについての説明も示唆もない。
甲第1号証の第2図は既製コンクリート杭の埋設方法の例を工程順に示す模式図であって、第2図(G)は「定着(回転):加工した拡頭杭を回転して定着させる。」工程を示すが、拡頭杭の接続部を掘削穴の段差に係止させる工程を示しているかどうかは不明であり、また、拡頭杭の接続部を掘削穴の段差に係止させることを説明する記載もない。また、甲1発明の施工法である「地盤を掘削泥土化した穴に既製コンクリート杭を回転埋設する工法(通称RODEX工法)」が、杭を回転して定着させる際に掘削穴のいずれかの面に前記杭を係止するものであるという説明も示唆もない。さらに、拡頭杭の大径部下面外周部を杭穴の段差部上面に係止した状態で既製杭を埋設することが、自明であることや設計事項であるとの証拠はない。
また、甲第1号証に記載された「水平力および支持力を大きくとれる」という効果は、甲第1号証に記載された発明の効果であって、第1図に示されるように拡頭杭の段差部が直接当接していない場合であっても奏する効果であるから、当該記載が拡頭杭の段差部を掘削穴の段差部に係止していることを示唆するものと解することはできない。そして、第1図のように、拡頭杭の段差部が直接当接していなくても、杭周固定液が固化することで、水平力および支持力を大きくとれると言うことはできても、「拡頭杭の段差部を掘削穴の段差部に係止した状態」が実現されると解することはできない。

(イ)甲2発明を主引用発明とした検討
a 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、両発明は、
「外径D01の上部大径部を有し、該上部大径部の下方を径D02(D02<D01)の小径部としてなる既製杭を、杭穴内に埋設して、以下のように構成する既製杭の埋設構造。
(1) 前記杭穴は、杭穴小径部が所定径D1で形成され、前記杭穴小径部の所定高さから上方に径D2(D1<D2)の杭穴大径部を形成し、前記杭穴小径部の上端に段差部を形成する。
(2) 前記既製杭の大径部下面外周部を前記杭穴の段差部上面に係止した状態で前記既製杭を埋設する。」
の点で一致するものの、以下の点で相違する。

(a)相違点2
本件発明1が、杭穴は、杭穴小径部が所定径D1(D02<D1<D01)で形成されるのに対して、甲2発明は、杭体を地盤に貫入して杭穴を形成しており、下部杭体の径と中掘により形成された地盤の小径部分の径とは同一(D02=D1)である点。

(b)相違点3
本件発明1が、セメントミルクなどの固化材料が充填された杭穴内に既製杭を埋設して構成するのに対して、甲2発明においては、錘による中間打撃により地盤に貫入した杭体の先端に、セメントミルク等の固化材を注入して支持層内に固化部を形成しており、杭穴内に固化材が充填されていない点。

b 判断
(a)相違点2について
甲2発明においては、下部杭体を中掘により地盤に貫入して埋設している以上、下部杭体の径(D02)と中掘により形成された地盤の小径部分の径(D1)とが同一となることは必至であり、下部杭体の径よりも中掘により形成された地盤の小径部分の径を大きくするとの説明も示唆もなく、また、下部杭体の径よりも中掘により形成された地盤の小径部分の径を大きくする動機付けとなり得る記載もない。
そうすると、甲2発明において、下部杭体の径よりも中掘により形成された地盤の小径部分の径を大きくする構成とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。

(b)相違点3について
甲2発明においては、錘による中間打撃により支持層内に貫入した杭体の先端にセメントミルク等の固化材を注入して前記支持層に固化部を構築する以上、杭体の貫入により形成される杭穴内に固化材が充填されることはなく、杭穴内に固化材が充填されるとの説明も示唆もない。
そうすると、甲2発明において、杭体の貫入により形成される杭穴内に固化材を充填する構成とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。

そして、本件発明1は、上記相違点2及び3に係る構成を備えることにより、本件明細書に記載された作用効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

イ 本件発明2について
(ア)甲1発明を主引用発明とした検討
a 対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると、両発明は、上記相違点1に加え、下記の点で相違する。

・相違点4
本件発明2が、杭穴の段差部を、地盤強度が大きな深さ位置に設定するのに対して、甲1発明においては、前記掘削ロッドにより掘削された部分と前記上部拡大掘削が行われた部分との間に段差が、地盤が大きな深さ位置に設定されることは特定されていない点。

b 判断
本件発明2が引用する本件発明1は、上記ア(ア)に示したとおり、甲1発明に基づいて容易に発明できたものではない。
そして、甲3技術事項を勘案しても、甲1発明において、上記相違点1に係る構成を備えるようにすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、本件発明2は、相違点4を検討するまでもなく、甲1発明及び甲3技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

(イ)甲2発明を主引用発明とした検討
a 対比
本件発明2と甲2発明とを対比すると、両発明は、上記相違点2及び相違点3に加え、上記相違点4の点で相違する。

b 判断
本件発明2が引用する本件発明1は、上記ア(イ)に示したとおり、甲2発明に基づいて容易に発明できたものではない。
そして、甲3技術事項を勘案しても、甲2発明において、上記相違点2及び相違点3に係る構成を備えるようにすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、本件発明2は、相違点4を検討するまでもなく、甲2発明及び甲3技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

ウ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲1方法発明とを対比すると、両者は
「杭穴内に、既製杭を以下のように埋設して基礎杭構造を構築することを特徴とした既製杭の埋設方法。
(1) 前記既製杭を、外径D01の上部大径部を有し、該上部大径部の下方を径D02(D02<D01)の小径部として構成する。
(2) 所定径D1(D02<D1<D01)で杭穴小径部を必要深さまで掘削する。
(3) 前記杭穴小径部を所定深さまで掘削した後に、あるいは、前記杭穴小径部の下端部の掘削と同時に、前記杭穴小径部の所定深さから上方に、径D2(D01<D2)の上部大径部を掘削し、前記杭穴小径部の上端に段差部を形成する。
(4) 前記杭穴内にセメントミルクなどの固化材料を注入すると前後して、あるいは同時に、前記既製杭を挿入する。
(5) 前記既製杭の大径部下面が前記杭穴の段差部上面に近傍に位置する状態で、前記杭穴内に前記既製杭を埋設する。
(6) 前記固化材料が固化したならば、基礎杭構造を構成する。」
である点で一致するものの、以下の点で相違する。

・相違点5
本件発明3が、既製杭の大径部下面が杭穴の段差部上面に係止した状態を維持して、前記杭穴内に前記既製杭を埋設する工程を備えるのに対して、甲1方法発明においては、既製杭の大径部下面が杭穴の段差部上面に係止した状態を維持して、前記杭穴内に前記既製杭を埋設することは特定されていない点。

(イ)判断
甲1方法発明は、埋設した杭に水平力が作用することで特に上杭部分に曲げモーメントが生ずるのでこの部分を補強することを技術的課題とし、拡頭杭を用いて既製コンクリート杭の埋設工法を行うものであって、甲第1号証には、拡頭杭の大径部下面外周部を杭穴の段差部上面に係止した状態で既製杭を埋設することの説明も示唆もない。また、拡頭杭の大径部下面外周部を杭穴の段差部上面に係止した状態で既製杭を埋設することが、自明であることや設計事項であるとの証拠はない。
よって、上記相違点5は、実質的な相違点であり、甲1方法発明は、相違点5に係る本件発明3の構成を備えていない。
そして、本件発明3は、上記相違点5に係る構成を備えることにより、本件明細書に記載された作用効果を奏するものである。
そうすると、甲1方法発明において、既製杭の大径部下面が杭穴の段差部上面に係止した状態を維持して、前記杭穴内に前記既製杭を埋設する工程を備えるようにすることは当業者が容易に想到し得たことではない。

したがって、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1方法発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

なお、上記相違点5について、申立人は、次のように主張する。

「なお仮に、甲第1号証において、「既製コンクリート杭を定着させる」ことが、「拡頭杭のテーパー状の外周部を掘削穴の段差部に当接させる」ことと同一ではないとしても、甲第1号証には、拡頭杭のテーパー状の外周部を掘削穴の段差部に当接させることを否定する記載や、当接させることが困難であるとする記載はなく、当業者にとって、拡頭杭のテーパー状の外周部を掘削穴の段差部に当接させることを選択することは容易であり、本件出願時に、甲1発明(2)に基づいて本件特許発明3に想到することは当業者にとって容易であったと思料する。
その外、たとえ両者の間に相違があったとしても、当該相違は微差にすぎず、本件出願時に、甲1発明(2)に基づいて本件特許発明3に想到することは当業者にとって容易であったと思料する。」(異議申立書第20頁第23行?第21頁第5行)

しかしながら、甲第1号証には、甲1方法発明において、拡頭杭の接続部を掘削穴の段差に係止させることについての説明も示唆もなく、また、拡頭杭の大径部下面外周部を杭穴の段差部上面に係止した状態で既製杭を埋設することが、自明であることや設計事項であるとの証拠はないことは、上記ア(ア)bに示したとおりである。

(2)申立理由(3)について
ア 申立人の主張
申立人は、「本件特許明細書の【発明の効果】の欄には、「セメントミルクが固化するまで、地上で既製杭を保持せずに、既製杭の段差部を杭孔の段差に直接当接させることのみによって既製杭を保持する」という旨の記載があるが、本件請求項1-3では、「セメントミルクが固化するまで、地上で既製杭を保持しない」という事項、及び、「杭穴の段差のみによって、既製杭を保持する」という事項が特定されていない。
このため、本件特許発明1-3は、既製杭の段差部を杭孔の段差に直接当接させながら、且つ、地上で既製杭を保持するという実施態様をも含むものとなっているが、そのような発明は本件特許明細書には記載されていない。」と主張する。(異議申立書第21頁第11?20行)

イ 判断
本件特許の明細書には、発明の効果として、以下のように記載されている。
「【0010】
この発明は、既製杭の上部大径部の下面、すなわち下に向けた段差部を、杭穴の上方に向けた段差部に係止するので、地上で、既製杭を保持しなくても杭穴内で既製杭は安定して保持される効果がある。したがって、特別な治具を用意して途上で既製杭を保持する必要がなく、かつ杭打ち機の効率的な運用ができる効果がある。
また、既製杭の段差部と杭穴の段差部が直接に接するので、根固め部での先端支持力に加えて、段差部で既製杭から地盤へ荷重を伝達できる。したがって、段差部では摩擦支持力以上の大きな支持力を発揮できる効果がある。」

そして、本件発明1?3は、本件特許明細書の段落[0012]?[0027]に実施形態として具体的に記載されており、また、本件発明1?3により、「地上で、既製杭を保持しなくても杭穴内で既製杭は安定して保持される」という効果や、「特別な治具を用意して途上で既製杭を保持する必要がない」という効果を奏することは明らかであるから、本件発明1?3は、本件特許明細書に記載されたものである。
よって、本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて請求するものではなく、特許法第36条第6項第1項の要件を満たすものである。

(3)申立理由(4)について
ア 申立人の主張
申立人は「本件特許発明1は、既製杭の埋設構造であり、物の発明である。
その一方で、本件請求項1には、「(2)前記既製杭の大径部下面外周部を前記杭穴の段差部上面に係止した状態で、かつセメントミルクなどの固化材料が充填された前記杭穴内に前記既製杭を埋設する。」と記載されている。
この「係止した状態で・・・埋設する」という記載は、製造方法を表しており、本件特許発明1を製造方法によって特定している。従って、本件請求項1はプロダクト・バイ・プロセス・クレームであり、不明確である。
なお一見、「係止した状態で・・・埋設する」という記載は、製造方法ではなく物の構成を表しているようにも解釈できるが、そのよう解釈は妥当ではないと思料する。
なぜならば、平成30年2月16日付けの意見書(以下、本件意見書という)にて、本件特許権者は、本件特許発明1の作用効果として、「したがって、「既製杭の段差部と杭穴の段差部とが直接に接し」(本件明細書段落0010)、かつ、その他の部分では、当然ながら、既製杭の外面と杭穴の内面との間に固化材料が介在した構造とすることができ、段落0010などに記載した効果を奏する。」と主張している。
仮に、「係止した状態で・・・埋設する」という記載が物の構成を表しているのであれば、当該記載により、「既製杭の段差部と杭孔の段差部とが直接接触し」という出願人が主張するような直接接触状態を直接的且つ一義的に特定することはできないはずである。なぜならば、セメントミルクが固化した後であれば、「固化したセメントミルクを介して既製杭の大径部下面外周部を杭穴の段差部上面に係止した状態(以下、間接係止状態という)」とすることもできるからである。
本件特許明細書、特許請求の範囲、図面、及び本件意見書における本件特許権者の主張には、本件特許発明1が間接係止状態を含む物であることを示唆する記載はなく、「係止した状態で・・・埋設する」という記載が製造方法を表しているのは明確である。
かくして上述したように、本件特許発明1は、本件特許明細書、特許請求の範囲、図面、及び本件意見書の特許権者の主張を考慮すれば、物の発明であるにもかかわらず、「係止した状態で・・・埋設する」という記載により製造方法によって特定されており、本件請求項1がいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームであることは明らかである。」(異議申立書第21頁第24行?第23頁第5行)

イ 判断
特許請求の範囲に、製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合であっても、明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載並びに当該技術分野における出願時の技術常識を考慮し、当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか明らかである場合や単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているに過ぎない場合は、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合に該当しない。
そして、本件発明1及び2は、杭穴の構造や既製杭の構造は明確であるとともに、前記既製杭の大径部下面外周部を前記杭穴の段差部上面に係止した状態で、かつセメントミルクなどの固化材料が充填された前記杭穴内に前記既製杭を埋設することにより、既製杭の大径部下面外周部を杭穴の段差部上面に係止した状態で、かつセメントミルクなどの固化材料が充填された前記杭穴内に前記既製杭を埋設した構造の埋設構造を表していることは明らかである。
よって、本件発明1及び2は明確であるから、特許法第36条第6項第2項の要件を満たすものである。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-05-27 
出願番号 特願2014-64845(P2014-64845)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (E02D)
P 1 651・ 113- Y (E02D)
P 1 651・ 121- Y (E02D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 須永 聡  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
秋田 将行
登録日 2018-09-14 
登録番号 特許第6400315号(P6400315)
権利者 三谷セキサン株式会社
発明の名称 既製杭の埋設構造、既製杭の埋設方法  
代理人 山本 典弘  
代理人 涌井 謙一  
代理人 鈴木 一永  
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