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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1352340
異議申立番号 異議2019-700130  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-15 
確定日 2019-06-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6373933号発明「窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6373933号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6373933号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成28年11月2日に出願され、平成30年7月27日に特許権の設定登録がされ、同年8月15日に特許掲載公報が発行され、その後、それらの特許のうちの請求項1?6に係る特許に対し、平成31年2月15日付けで特許異議申立人 廣瀬妙子(以下「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明6」ということがあり、また、これらを、まとめて、「本件特許発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
窒化アルミニウムと平均粒子径が2μm以下の焼結助剤相とからなり、前記焼結助剤相の粒子が、鏡面研磨面において400μm^(2)あたり10個以上析出し、前記焼結助剤相がYAG及び/又はYALのみからなり、その含有量がY_(2)O_(3)換算で2.5?5重量%であり、熱伝導率が160W/m・K以上であり、且つ、曲げ強度が500MPa以上である窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
窒化アルミニウムと平均粒子径が2μm以下の焼結助剤相とからなり、前記焼結助剤相の粒子が、鏡面研磨面において400μm^(2)あたり10個以上析出し、前記鏡面研磨面において、ボイドの個数が、10000μm^(2)あたり3個以下であり、前記焼結助剤相がYAG及び/又はYALのみからなり、その含有量がY_(2)O_(3)換算で2.5?6重量%である窒化アルミニウム焼結体。
【請求項3】
熱伝導率が160W/m・K以上である請求項2に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項4】
曲げ強度が450MPa以上である請求項2又は3に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項5】
窒化アルミニウムと平均粒子径が2μm以下の焼結助剤相とからなり、前記焼結助剤相の粒子が、鏡面研磨面において400μm^(2)あたり10個以上析出し、前記鏡面研磨面において、ボイドの個数が、10000μm^(2)あたり3個以下であり、曲げ強度が450MPa以上であり、熱伝導率が160W/m・K以上である窒化アルミニウム焼結体。
【請求項6】
少なくとも一方の表面が鏡面研磨されていることを特徴とする請求項1乃至5に記載の窒化アルミニウム焼結体。」



第3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証?甲第3号証を提出して、本件特許発明1?6は、甲第2号証および甲第3号証の記載事項を参照すれば、甲第1号証の実施例1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張している。

[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:特開2000-327430号公報
甲第2号証:特開平10-25160号公報
甲第3号証:特開2003-81676号公報

なお、甲第1号証?甲第3号証を、以下では、それぞれ、「甲1」?「甲3」ということがある。


第4 甲各号証の記載事項(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)、及び、甲1発明
1. 甲1の記載事項、及び、甲1発明
1ア. 「【請求項1】窒化アルミニウムと焼結助剤とからなる焼結体において、粒界相結晶粒子が均一に分布し、かつ、焼結体の任意の切断面における粒界相結晶粒子の累積値75%粒子径と窒化アルミニウム結晶粒子の累積値50%粒子径との比が0.5?1.5であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。」

1イ. 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高い機械的強度と高い熱伝導率とを併せ有する窒化アルミニウム焼結体に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、半導体の高集積化に伴ない、従来のアルミナに代わる放熱特性の優れた半導体実装用基板用材料が求められている。その中でも窒化アルミニウム焼結体は、優れた電気絶縁性と、アルミナと比較して十数倍も高い熱伝導率を有する材料であることから、半導体実装用基板をはじめ、各種放熱部品材料及び絶縁用基板として利用範囲が広がっている。」

1ウ. 「【0013】
【発明の実施の形態】本発明の窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウムと焼結助剤とからなる焼結体であり、かつ以下の性質を有していることが必要である。
【0014】本発明の窒化アルミニウム焼結体は、粒界相結晶粒子を有していることが必要である。
【0015】上記粒界相は、窒化アルミニウム結晶粒子の粒界に存在する相である。
【0016】また、粒界相結晶粒子は、上記粒界相を構成する、焼結助剤単独、焼結助剤同士の反応生成物、または焼結助剤と窒化アルミニウム中の不純物酸素との反応生成物等よりなる結晶粒子である。例えば、焼結助剤が酸化イットリウムの場合、一般的に窒化アルミニウム原料粉末中に含まれる不純物酸素と反応して3Y_(2)O_(3)・5Al_(2)O_(3)(YAG)、Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)(YAL)、2Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)(YAM)等からなる粒界相結晶粒子を形成する。」

1エ. 「【0027】また、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、粒界相結晶粒子が均一に分布していることが必要であり、とくに重心間距離法における分散度が、0.40?0.60の範囲である均一分布が好適である。」

1オ. 「【0061】なお、以下の実施例及び比較例における各種の物性の測定は次の方法により行なった。

2)窒化アルミニウム結晶粒子径及び粒界相結晶粒子径
焼結体微構造の写真から、画像解析システム(IP-1000PC、旭化成工業製)を使用して以下の方法により各粒子径を求めた。
【0062】まず、評価する焼結体の任意の断面を鏡面に研磨し、窒化アルミニウム結晶粒子の粒成長が起こらない温度である、1600?1650℃で数分間熱処理した。この処理により、結晶粒界でのエッチング速度が他の部分に比べて大きいため結晶粒界部分のみがエッチングされて、窒化アルミニウム結晶粒子及び粒界相結晶粒子の一つ一つが識別できる表面を得ることができる。
【0063】次いで、その表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、なるべく平均的な組織であって、観察粒子200?300個が一つの視野に入るような倍率で微構造の写真を得て、観察粒子数が1000?2000個になるように複数枚の写真を用意した。微構造の写真では、図1および図2に示すように、窒化アルミニウム結晶粒子がグレー?黒色、粒界相結晶粒子が白色で表されるので、これらの粒子の識別は容易に行なうことができる。
【0064】最後にこれらの微構造の写真を画像を、コンピューターによる画像解析システムを使って窒化アルミニウム結晶粒子の1000?2000の個々の粒子の面積と円相当径を求めた。前記微構造の写真における粒界相結晶粒子についても、窒化アルミニウム結晶粒子と同様に、面積と円相当径を求めた。なお、窒化アルミニウム結晶粒子や粒界相結晶粒子はほぼ等軸状であり、粒子径は円相当径であらわすことができる。また、解析の際、解析画像端部で粒子が切れている結晶粒子については評価の対象から外した。さらに、2つ以上の粒界相結晶粒子が接触している場合、2つの結晶粒子の境界の長さがそれら粒子の平均粒子径より大きい場合にはそれらの結晶粒子を合わせた粒子を1粒子として扱った。
3)粒界相結晶粒子の分散度の測定
上記結晶粒子径の測定に使った微構造の写真を使い、上記画像解析システムを使って、重心間距離法(近接する粒子の重心間距離より分散度を求める方法)により粒界相粒子の焼結体中の分散度を求めた。分散度は粒子間距離の平均偏差と平均粒子間距離の比で表され、値が小さいほうが分散が良好である。
4)曲げ強度の測定
JIS R1601に従い、クロスヘッド速度0.5mm/分、スパン30mmで3点曲げ試験を行なった。試験片の幅は4mmで、焼結体を6mm幅に切り出し、両端を1mm研削加工して所定の幅にした。また、厚みはシート加工した試料は焼結体そのものの厚みとし、試験片の上下面は研削及び研磨加工しない焼結体の表面とした。」

1カ. 「【0065】実施例1
内容積が2.4Lのナイロン製ポットに、直径10mmのアルミナ製ボール(表面硬度1100kgf/mm^(2)、密度3.6g/cm^(3))を入れ、次いで、平均粒径が1.5μm、比表面積2.6m^(2)/g、酸素濃度0.8wt%の窒化アルミニウム粉末100重量部、焼結助剤として比表面積12.5m^(2)/gの酸化イットリウム粉末を5重量部、表面活性剤として、ソルビタントリオレート2重量部及び溶媒としてトルエン、エタノール、ブタノールを合わせて35重量部(それぞれの体積比が75:20:5)を加えて湿式混合した。この時、前記アルミナ製ボールはポットの内容積の40%(見かけの体積)充填した。混合はポットの回転数70rpmで24時間行なった。さらに、得られたスラリーに、有機バインダーとしてポリビニルブチラールを11重量部、可塑剤としてジ-n-ブチルフタレート3.5重量部及び溶媒としてトルエン、エタノール、ブタノールを合わせて45重量部(それぞれの体積比が75:20:5)を加えて、さらに2回目の湿式混合を18時間行ない、得られたスラリーを10000?25000cpsの粘度になるまで脱溶媒し、ドクターブレード法によりシート状の0.75mmの厚みのグリーン体を作製した。さらに、シート状グリーン体を、打ち抜きプレス加工機により、長辺63mm、短辺44mmのグリーン体に加工した。
【0066】得られたグリーン体を乾燥空気中で600℃の温度で240分間脱脂処理し、酸素濃度が2.2wt%の脱脂体を得た。
【0067】さらに、上記脱脂体を窒化ホウ素製の焼成容器に入れ、窒素ガス雰囲気中で1740℃の温度で4時間焼成し、密度3.28g/cm^(3)以上の緻密で透光性の焼結体を得た。焼結体の作製条件を表1に、焼結体の微構造と特性を表2に示した。」

1キ. 「【0076】

【表2】



1ク. 「【0031】本発明の窒化アルミニウム焼結体の一態様例を図1に…に示す。なお、黒色部分が窒化アルミニウム結晶粒子、白色部分が粒界相結晶粒子を示す。」

1ケ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の窒化アルミニウム焼結体の微構造SEM写真(倍率2000倍)である。」

1コ. 「【図1】



1サ. 上記1ア.によれば、甲1には、窒化アルミニウムと焼結助剤とからなる焼結体において、粒界相結晶粒子が均一に分布し、かつ、焼結体の任意の切断面における粒界相結晶粒子の累積値75%粒子径と窒化アルミニウム結晶粒子の累積値50%粒子径との比が0.5?1.5である窒化アルミニウム焼結体に係る発明が記載されていると認められる。

1シ. 上記1イ.によれば、窒化アルミニウム焼結体は、優れた電気絶縁性と、アルミナと比較して十数倍も高い熱伝導率を有する材料であることから、半導体実装用基板をはじめ、各種放熱部品材料及び絶縁用基板として利用範囲が広がっているところ、1サ.に示した窒化アルミニウム焼結体は、高い機械的強度と高い熱伝導率とを併せ有するものとされている。

1ス. 上記1ウ.?1エ.によれば、窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウムと焼結助剤とからなる焼結体であり、粒界相結晶粒子を有していることが必要とされ、また、粒界相結晶粒子が均一に分布していることが必要であり、とくに重心間距離法における分散度が、0.40?0.60の範囲である均一分布が好適とされている。

1セ. 上記1カ.によれば、実施例1では、平均粒径が1.5μm、比表面積2.6m^(2)/g、酸素濃度0.8wt%の窒化アルミニウム粉末100重量部、焼結助剤として比表面積12.5m^(2)/gの酸化イットリウム粉末を5重量部、表面活性剤2重量部及び溶媒35重量部を加えて湿式混合を24時間行なって得られたスラリーに、有機バインダー11重量部、可塑剤3.5重量部及び溶媒45重量部を加えて、さらに2回目の湿式混合を18時間行ない、得られたスラリーを10000?25000cpsの粘度になるまで脱溶媒し、ドクターブレード法によりシート状の0.75mmの厚みのグリーン体を作製し、さらに、シート状グリーン体を、打ち抜きプレス加工機により、長辺63mm、短辺44mmのグリーン体に加工し、得られたグリーン体を乾燥空気中で600℃の温度で240分間脱脂処理し、酸素濃度が2.2wt%の脱脂体を得、さらに、上記脱脂体を窒化ホウ素製の焼成容器に入れ、窒素ガス雰囲気中で1740℃の温度で4時間焼成し、密度3.28g/cm^(3)以上の緻密で透光性の窒化アルミニウム焼結体を得たとされている。

1ソ. そして、上記1キ.によれば、実施例1の窒化アルミニウム焼結体は、上記1サ.に示した、焼結体の任意の切断面における粒界相結晶粒子の累積値75%粒子径(以下、「D_(50粒界相)」という。)と窒化アルミニウム結晶粒子の累積値50%粒子径(以下、「D_(50AlN)」という。)との比が1.1であり、また、D_(50AlN)には2.3μmであり、当該D_(50AlN)に対する、粒界結晶粒子の累積50%の粒子径(以下、「D_(50粒界相)」という。)の比率が0.9であり、分散度が0.57であり、曲げ強度が56.7kgf/mm2であり、熱伝導率が180W/mKであったとされている。

1タ. 上記1サ.?1ソ.の検討を踏まえ、実施例1の窒化アルミニウム焼結体に注目すると、甲1には、次のような発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「窒化アルミニウムと焼結助剤とからなる窒化アルミニウム焼結体であって、粒界相結晶粒子が均一に分布し、かつ、焼結体の任意の切断面におけるD_(75粒界相)/D_(50AlN)が1.1であり、平均粒径が1.5μm、比表面積2.6m^(2)/g、酸素濃度0.8wt%の窒化アルミニウム粉末100重量部と焼結助剤として比表面積12.5m^(2)/gの酸化イットリウム粉末を5重量部とを用いて、湿式混合し脱溶媒してから作製したシート状グリーン体を脱脂処理し、窒素ガス雰囲気中で1740℃の温度で4時間焼成して得たものであり、D_(50AlN)が2.3μmであり、D_(50粒界相)/D_(50AlN)が0.9であり、分散度が0.57であり、曲げ強度が56.7kgf/mm^(2)であり、熱伝導率が180W/mKである、窒化アルミニウム焼結体。」


2. 甲2の記載事項
2ア. 「【請求項1】 窒化アルミニウムよりなる主相と2Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)或いはY_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)或いは3Y_(2)O_(3)・5Al_(2)O_(3)のいずれかの単一成分よりなる副相とから構成され、熱伝導率が200W/m・K以上で、且つ曲げ強度が40kg/mm^(2)以上である窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】 該主相を構成する窒化アルミニウム結晶粒子の平均粒径が2?10μmである請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項3】 Y_(2)O_(3)の含有量が1.0?4.6重量%である請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体。」

2イ. 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規な、窒化アルミニウム焼結体に関する。詳しくは、ハロゲンを含有しない焼結助剤を使用して得ることができる、高熱伝導性と高い機械強度とを併せ持つ窒化アルミニウム焼結体である。」

2ウ. 「【0028】Y_(2)O_(3)の添加量は、焼成により実質的にY_(2)O_(3)が焼結体外へ揮散することがなく、窒化アルミニウム焼結体中のY_(2)O_(3)の含有量と同じ1.0?4.6重量%であることが好ましく、1.0?4.2重量%であることが更に好ましい。
【0029】本発明の効果である高熱伝導性と高い機械強度を有する窒化アルミニウム焼結体を製造するにあたっては、副相がアルミン酸イットリウムの単一成分となるよう、Y_(2)O_(3)の添加量を調整しなければならない。

【0033】本発明におけるY_(2)O_(3)添加量は、該反応不純物酸素濃度をAl_(2)O_(3)のモル数に換算した後、副相を構成せしめる2Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)又は3Y_(2)O_(3)・5Al_(2)O_(3)のいずれかの目的とするアルミン酸イットリウムとの化学量論比より求めることができる。」

2エ. 「【0044】…窒化アルミニウムグリーン体は、脱脂、焼成される。…脱脂後の窒化アルミニウムグリーン体は、非酸化性雰囲気中1700?1900℃の任意の温度で1?15時間焼成されるが、焼結助剤として添加したY_(2)O_(3)と窒化アルミニウムの不純物酸素とを緻密化前に、十分に反応させ、窒化アルミニウム焼結体の副相を単一相とするためには、昇温途中の1350?1600℃で20分?5時間保持することが好ましい。
【0045】上記製造方法の最も好ましい態様を具体的に示せば、酸素含有量0.8重量%以下の窒化アルミニウム粉末に対して、Y_(2)O_(3)を1?4.6重量%及び結合剤よりなる組成のグリーン体を、300?700℃の空気或いは窒素雰囲気中で脱脂後、非酸化性雰囲気中で1350?1600℃の温度で20分?5時間保持し、次いで、1700?1900℃の温度で1?15時間焼成する方法である。」

2オ. 「【0062】実施例1
表1に示す窒化アルミニウム粉末Aを使用して、窒化アルミニウム粉末100重量部に対して、Y_(2)O_(3)を2.0重量部、表面活性剤としてテトラグリセリンモノオレート1.0重量部、溶剤としてトルエン40重量部を添加してボールミル混合を十分に行った後、この混合物に結合剤として、ポリn-ブチルメタクリレート12重量部を加え、可塑剤としてジブチルフタレート4.2重量部、トルエン10重量部、酢酸ブチル5重量部を加えて、更に、ボールミル混合を行い、白色の泥しょうを得た。
【0063】
【表1】

【0064】こうして得られた泥しょうを脱溶媒し、粘度を10000?20000cpsに調整した後、ドクターブレード法によりシート成形を行い、室温で1時間、65℃で3時間、100℃で1時間乾燥して、幅30cm、厚さ1.1?1.2mmのグリーンシートを作製した。
【0065】その後、グリーンシートを65mm角の金型で所定の形状に打ち抜いた後、空気中560℃で3時間脱脂し、脱脂体の酸素濃度を測定した。次いで、封止性の良い窒化アルミニウム製るつぼに入れ、窒素雰囲気中1780℃で6時間焼成し、焼結体を得た。焼結体中のY_(2)O_(3)の含有量は、Y_(2)O_(3)の添加量と同じであることが確認された。焼結体の副相の同定は、X線回折法により行い、いずれも、単一相であり、その組成と焼結体の熱伝導率、曲げ強度を、平均粒径の測定結果を表2の実験No.1に示した。
【0066】実施例2、3
実施例1において、Y_(2)O_(3)の添加量を表2に示す量に変更したこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を得た。焼結体の副相の同定、熱伝導率、曲げ強度、平均粒径の測定結果を表2に示した。
【0067】実施例4、5
実施例1において、窒化アルミニウム粉末として表1のB、Cを使用し、Y_(2)O_(3)の添加量を変更したこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を得た。焼結体の副相の同定、熱伝導率、曲げ強度、平均粒径の測定結果を表2に示した。
【0068】実施例6、7
実施例1において、焼成時間を表2に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を得た。焼結体の副相の同定、熱伝導率、曲げ強度、平均粒径の測定結果を表2に示した。
【0069】比較例1、2
実施例1において、Y_(2)O_(3)の添加量を表2に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を得た。焼結体の副相の同定、熱伝導率、曲げ強度,平均粒径の測定結果を表2に示した。
【0070】
【表2】



3. 甲3の記載事項
3ア. 「【請求項1】 焼結助剤成分として希土類酸化物を含む窒化アルミニウム焼結体を具備する窒化アルミニウム基板であって、
前記窒化アルミニウム基板は算術平均粗さRaが0.5μm以下となるように加工された表面を有し、かつ前記加工表面に存在する前記焼結助剤成分の凝集体の大きさが20μm以下であると共に、前記加工表面の単位面積当りに占める前記凝集体の面積の総和が5%以下であることを特徴する窒化アルミニウム基板。

【請求項15】 窒化アルミニウム結晶粒の平均粒径が3?5μmの範囲で、かつ粒径分布の標準偏差が2μm以下である窒化アルミニウム焼結体を作製する工程と、
前記窒化アルミニウム焼結体の表面を、加工後の表面のスキューネスRskが-1以上となるように、ダイヤモンド砥石で中仕上げ加工する工程と、
前記中仕上げ加工された前記窒化アルミニウム焼結体の表面を、算術平均粗さRaが0.05μm以下となるように鏡面加工し、加工表面のスキューネスRskを0以上1以下に仕上げ加工して、窒化アルミニウム基板を作製する工程と、
前記窒化アルミニウム基板の前記加工表面上に金属薄膜を形成する工程とを具備することを特徴とする薄膜基板の製造方法。」

3イ. 「【0024】上述したAlN基板1においては、図2の拡大模式図に示すように、Raが0.5μm以下となるように加工した後の表面1aに存在する焼結助剤成分の凝集体4の大きさが20μm以下とされている。これによって、鏡面加工後や酸洗い後に大きな凹部(陥没部)が基板表面1aに発生することを防止している。なお、図2において、符号5はAlN結晶粒を示している。
【0025】すなわち、希土類酸化物などの焼結助剤は、例えばAlNもしくはAlN粉末中の不純物アルミナ(不純物酸素)と反応して、希土類元素-Al-O(-N)系化合物などとして粒界相に存在する。そして、希土類酸化物を含む焼結助剤成分は、粒界相を構成する化合物の形態で、もしくはそれより希土類元素がリッチな化合物などとして、AlN焼結体の表面に析出して凝集体4を形成する。このような焼結助剤成分の凝集体4の大きさが20μmを超えると、鏡面加工時や酸洗い工程時に凝集体4の脱落や溶解が起こりやすくなる。特に、上記した粒界相を構成する化合物は酸に溶けやすいため、鏡面加工後の酸洗い工程時に凝集体4が溶解することで大きな凹部(陥没部)が発生してしまう。焼結助剤成分の凝集体4が脱落や溶解することで、AlN結晶粒5の脱粒なども生じやすくなる。
【0026】そこで、本発明においては、AlN基板1の加工表面1aに存在する焼結助剤成分の凝集体4の大きさを20μm以下に制御している。ここで言う焼結助剤成分の凝集体4の大きさとは最大径を示すものである。このように、AlN焼結体の表面における焼結助剤成分の凝集を抑え、AlN基板1の加工表面1aに存在する凝集体4の大きさを20μm以下に制御することによって、鏡面加工工程や酸洗い工程における凝集体4の脱落や溶解に起因する凹部(陥没部)の発生を抑制することができる。AlN基板1の加工表面1aに存在する焼結助剤成分の凝集体4の大きさは10μm以下であることがより好ましい。
【0027】さらに、AlN基板1は加工表面1aの単位面積(例えば100×100μm)当りに占める焼結助剤成分の凝集体4の面積の総和を5%以下としている。凝集体4の個々の大きさを小さくすることに加えて、加工表面1aの単位面積当りに占める凝集体4の総面積の比率を小さくすることによって、凝集体4の脱落や溶解に起因する凹部の発生量を低減することができる。AlN基板1の加工表面1aの単位面積当りに占める焼結助剤成分の凝集体4の総面積の比率は3%以下とすることがより好ましい。」

3ウ. 「【図2】



3エ. 「【0060】
【実施例】次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。

【0076】実施例15?19、比較例10?12
上述した実施例3と同様にして、複数のAlN焼結体を作製した。ただし、焼成温度は1730?1840℃、焼成時間は3?6時間の範囲で変化させた。得られた各AlN焼結体の平均結晶粒径、結晶粒径分布の標準偏差、および熱伝導率は表6に示す通りである。これらは実施例1と同様して測定した。
【0077】次に、上記した各AlN焼結体に対して、表6に示す条件でそれぞれダイヤモンド砥石による中仕上げ加工(第1の加工工程)と鏡面加工(第2の加工工程)を施し、鏡面加工面の表面状態が異なる複数のAlN基板を作製した。このようにして得た各AlN基板について、鏡面加工面に存在する焼結助剤成分の凝集体およびポアの数や面積比、さらに鏡面加工面のスキューネスRsk、ポア(AlN結晶粒および凝集体の脱粒痕)の最大径を測定した。これらの測定結果を表7に示す。
【0078】なお、スキューネスRskは表面粗さ測定器・フォームタリサーフS4C(テーラーボブソン社製)を用いて測定した。焼結助剤成分の凝集体およびポアの存在形態については、鏡面加工面の任意の3箇所をSEMおよびEPMAにて観察し、これらの観察結果から大きさ10μm以上の凝集体およびポアの単位面積(100×100μm)当りの存在数、さらに大きさ10μm未満の凝集体およびポアの単位面積(100×100μm)当りの存在比率(面積比)を、それぞれ平均値として求めた。ポアの最大径については、鏡面加工面の任意の3箇所について測定し、そのうちの最大径の大きさで示した。
【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【0081】表6および表7に示したように、実施例15?19による各AlN基板は、いずれも160W/m K以上の熱伝導率を有すると共に、鏡面加工面のスキューネスRskが0以上1以下という値を示している。このような表面状態に基づいて、AlN結晶粒の脱粒痕の最大値が小さいことが分かる。このことはAlN結晶粒の脱粒が抑制されていることを示す。」


第5 当審の判断
上記第3に示した、本件特許発明1?6は、甲第2号証および甲第3号証の記載事項を参照すれば、甲第1号証の実施例1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の申立理由につき、以下に順次検討する。
1. 本件特許発明と甲1発明との対比・検討
(1) 本件特許発明1と甲1発明との対比・検討
ア. 本件特許発明1と上記第4の1タ.に示した甲1発明とを対比する。
甲1発明における「窒化アルミニウムと焼結助剤とからなる」ことは、本件特許発明1における「窒化アルミニウムと」「焼結助剤相とからな」ることに相当し、また、甲1発明における「曲げ強度が56.7kgf/mm^(2)であ」ること、「熱伝導率が180W/mKである」ことは、それぞれ、本件特許発明1における「曲げ強度が500MPa以上である」こと、「熱伝導率が160W/m・K以上であ」ることに相当する。
また、甲1発明における「窒化アルミニウムと焼結助剤とからなる窒化アルミニウム焼結体であって、」「窒化アルミニウム粉末100重量部と焼結助剤として比表面積12.5m^(2)/gの酸化イットリウム粉末を5重量部とを用いて」「窒素ガス雰囲気中で1740℃の温度で4時間焼成して得た」窒化アルミニウム焼結体は、当該焼結体における焼結助剤の含有割合が、5/(100+5)=4.76重量%と算出できるところ、その含有割合は、酸化イットリウムの含有量、すなわち、Y_(2)O_(3)換算での含有量であるから、本件特許発明1における「焼結助剤相」「の含有量がY_(2)O_(3)換算で2.5?5重量%であ」ることに相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。
<一致点>
「窒化アルミニウムと焼結助剤相とからなり、前記焼結助剤相の含有量がY_(2)O_(3)換算で2.5?5重量%であり、熱伝導率が160W/m・K以上であり、且つ、曲げ強度が500MPa以上である窒化アルミニウム焼結体」の点。

<相違点>
相違点1-1: 焼結助剤相が、本件特許発明1では「平均粒子径が2μm以下の焼結助剤相」という発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点1-2: 焼結助剤相について、本件特許発明1では「前記焼結助剤相の粒子が、鏡面研磨面において400μm^(2)あたり10個以上析出し」ているという発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点1-3: 焼結助剤相について、本件特許発明1では「前記焼結助剤相がYAG及び/又はYALのみからな」るという発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

イ. そこで、まず、上記相違点1-1について検討するに、「焼結助剤相の平均粒子径」について、本件特許の明細書には、2000倍のSEM写真をImageJを用いて画像解析して算出するとの手法によって求めたところ、実施例1?6の窒化アルミニウム焼結体における「焼結助剤相粒子の平均粒子径」は1.15?1.46μmと小さかった旨記載されている(【0036】、【0054】?【0055】)のに対し、甲1全体の記載を参照しても、そのような手法によって「焼結助剤相の平均粒子径」を求めた旨の記載は見当たらない。
甲1発明においては、一応、上記第4の1タ.に示したとおり、D_(50AlN)が2.3μmであり、D_(50粒界相)/D_(50AlN)が0.9であるため、D_(50粒界相)=0.9×2.3μm=2.07μmと求まるところ、このD_(50粒界相)が「焼結助剤相の平均粒子径」を表しているとすると、焼結助剤相の平均粒子径は2.00μmを越えているから、2μm以下とはいえない。
また、上記第4の2ア.?2オ.等の甲2の記載を参照してみても、窒化アルミニウムの結晶粒子の平均粒径を2?10μmにすることが記載されている(【請求項2】、【0070】)だけであり、焼結助剤相の平均粒子径についての記載は見当たらないし、上記第4の3ア.?3エ.等の甲3の記載を参照してみても、窒化アルミニウム結晶粒の平均粒径を3?5μmの範囲にすることが記載されている(【請求項15】、【0079】)だけであり、焼結助剤相の平均粒子径についての記載は見当たらない。
してみると、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、上記相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えたものとはなり得ない。

ウ. 次に、上記相違点1-2について検討するに、「焼結助剤相の個数」について、本件特許の明細書には、1000倍のSEM写真に対し、400μm^(2)の正方形の枠を20ヵ所、範囲が重ならないように選び、それぞれの内側にある焼結助剤相の粒子の個数を数えて平均化するとの手法によって求めたところ、実施例1?6の窒化アルミニウム焼結体における「焼結助剤相粒子の個数」は12.8?16.1個であった旨記載されている(【0036】、【0054】?【0055】)のに対し、甲1全体の記載を参照しても、そのような手法によって「焼結助剤相の個数」を求めた旨の記載は見当たらない。
また、甲1には、上記第4の1エ.によれば、粒界相結晶粒子が均一に分布していることが必要であるとされ、上記第4の1ク.?1コ.によれば、窒化アルミニウム焼結体の一態様例としての2000倍のSEM写真が、図1(上記第4の1コ.)に示されているものの、上記第4の1オ.の「3)」によれば、粒界相結晶粒子が均一に分布しているとは、粒子間距離の平均偏差と平均粒子間距離の比で表される分散度の値が小さいことを意味しているのであって、個数の観点で、粒界相結晶粒子が均一であることを意味しているわけではないし、そして、この図1は実施例1のSEM写真というわけでもないし、また、この図1を見ても、400μm^(2)の正方形の枠を複数箇所、範囲が重ならないように設定したときに、焼結助剤相である白色部分が平均して10個以上析出していることまでの技術事項を把握できるともいえない。
また、上記第4の2ア.?2オ.等の甲2の記載を参照してみても、焼結助剤相の個数についての記載は見当たらないし、上記第4の3ア.?3エ.等の甲3の記載を参照してみても、焼結助剤相の凝集体とポアについて、大きさ10μm以上の単位面積当たりの数(個)と大きさ10μm未満の単位面積当たりの面積比(%)とが記載されている(上記第4の3エ.)だけであり、400μm^(2)の正方形の枠を複数箇所、範囲が重ならないように設定したときに、焼結助剤相である白色部分が平均して10個以上析出していることまでの技術事項を把握できるとはいえない。
してみると、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えたものになり得るとはいえない。

エ. 次に、上記相違点1-3について検討するに、焼結助剤相の成分について、本件特許の明細書には、窒化アルミニウム焼結体を粉砕してX線回折を行うという手法によって求めたところ、実施例1?6の窒化アルミニウム焼結体における焼結助剤相の成分YAG及び/又はYALのみからなっていた旨記載されている(【0038】、【0054】)のに対し、甲1全体の記載を参照しても、そのような手法によって焼結助剤相の成分を求めた旨の記載は見当たらない。
ところで、甲1には、一応、窒化アルミニウム焼結体は、粒界相結晶粒子を有していることが必要であり、例えば、焼結助剤が酸化イットリウムの場合、一般的に窒化アルミニウム原料粉末中に含まれる不純物酸素と反応して3Y_(2)O_(3)・5Al_(2)O_(3)(YAG)、Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)(YAL)、2Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)(YAM)等からなる粒界相結晶粒子を形成するとの記載があり(上記第4の1ウ.)、甲2には、窒化アルミニウムよりなる主相と2Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)(以下、「YAM」という。)或いはY_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)(以下、「YAL」という。)或いは3Y_(2)O_(3)・5Al_(2)O_(3)(以下、「YAG」という。)のいずれかの単一成分よりなる副相とから構成され、熱伝導率が200W/m・K以上で、且つ曲げ強度が40kg/mm^(2)以上である窒化アルミニウム焼結体についての記載もある(上記第4の2ア.)。
しかしながら、甲2に記載されているのは、酸素含有量0.8重量%以下のAlN粉末に添加するY_(2)O_(3)の添加量を、AlN焼結体の副相を構成せしめるYAM、YAL、又はYAGのいずれかとの化学量論比を満たす量にすると、単一成分よりなる副相を構成できるという技術事項であり(上記第4の2ア.?2エ.)、その技術事項が実施例1?7と比較例1?2とによって実証されているというものである(上記第4の2オ.)。具体的には、例えば、酸素含有量0.61重量%のAlN粉末を用いた、実施例1?3、実施例6?7、比較例1?2においては、当該AlN粉末に添加するY_(2)O_(3)の添加量(wt%)を、化学量論比を満たす2.0にするとYALよりなる副相を構成でき、化学量論比を満たす1.2にするとYAGよりなる副相を構成でき、化学量論比を満たす4.0にするとYALよりなる副相を構成できるのに対し、化学量論比を満たさない2.8にすると副相はYALとYAMとで構成され、化学量論比を満たさない1.6にすると副相はYAGとYALとで構成されるという技術事項が甲2に開示されている。
そして、甲2開示のこのような技術事項に対して、甲1発明は、上記第4の1タ.に示したように、酸素含有量0.8重量%のAlN粉末100重量部にY_(2)O_(3)を5重量部添加したものであるから、Y_(2)O_(3)の添加量が5/(100+5)=4.76重量%のAlN焼結体であるところ、その含有量が化学量論比を満たす量であるのかは定かではないが、甲1発明におけるY_(2)O_(3)の添加量は、甲2において、その添加量が最大量である実施例2よりも多いのであるから、必然的に、副相はYAMを含むもので構成されることとなる。
また、上記第4の3ア.?3エ.等の甲3の記載を参照してみても、焼結助剤相の成分についての記載は見当たらない。
してみると、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、上記相違点1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えたものとはなり得ない。

オ. 上記イ.?エ.の検討によれば、本件特許発明1は、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(2) 本件特許発明2と甲1発明との対比・検討
カ. 本件特許発明2と上記第4の1タ.に示した甲1発明とを対比する。
甲1発明における「窒化アルミニウムと焼結助剤とからなる」ことは、本件特許発明2における「窒化アルミニウムと」「焼結助剤相とからな」ることに相当し、また、甲1発明における「窒化アルミニウムと焼結助剤とからなる窒化アルミニウム焼結体であって、」「窒化アルミニウム粉末100重量部と焼結助剤として比表面積12.5m^(2)/gの酸化イットリウム粉末を5重量部とを用いて」「窒素ガス雰囲気中で1740℃の温度で4時間焼成して得た」窒化アルミニウム焼結体は、当該焼結体における焼結助剤の含有割合が、5/(100+5)=4.76重量%と算出できるところ、その含有割合は、酸化イットリウムの含有量、すなわち、Y_(2)O_(3)換算での含有量であるから、本件特許発明1における「焼結助剤相」「の含有量がY_(2)O_(3)換算で2.5?5重量%であ」ることに相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。
<一致点>
「窒化アルミニウムと焼結助剤相とからなり、前記焼結助剤相の含有量がY_(2)O_(3)換算で2.5?5重量%である窒化アルミニウム焼結体」の点。

<相違点>
相違点2-1: 焼結助剤相が、本件特許発明2では「平均粒子径が2μm以下の焼結助剤相」という発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点2-2: 焼結助剤相について、本件特許発明2では「前記焼結助剤相の粒子が、鏡面研磨面において400μm^(2)あたり10個以上析出し」ているという発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点2-3: 焼結助剤相について、本件特許発明2では「前記焼結助剤相がYAG及び/又はYALのみからな」るという発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点2-4: ボイドの個数について、本件特許発明2では「鏡面研磨面において、10000μm^(2)あたり3個以下であ」るという発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

キ. そこで、上記相違点2-1?2-3について検討するに、これらの相違点は、それぞれ、上記相違点1-1?1-3と同じ相違点であるから、上記(1)のイ.?エ.での検討と同様にして、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、上記相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えたものとはなり得ないし、また、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えたものになり得るとはいえないし、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、上記相違点1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えたものとはなり得ない。

ク. 念のため、上記相違点2-4についても検討してみるに、「ボイドの個数」について、本件特許の明細書には、1000倍の倍率で10000μm^(2)の範囲を任意に5箇所選び、その範囲内のボイドの数を数えるという手法によって平均個数を求めたところ、実施例1?6の窒化アルミニウム焼結体におけるボイドの個数は、0.8個?2.6個であった旨記載されている(【0037】、【0054】?【0055】)のに対し、甲1全体の記載を参照しても、そのような手法によってボイドの個数を求めた旨の記載は見当たらない。
また、上記第4の2ア.?2オ.等の甲2の記載を参照してみても、「ボイドの個数」についての記載は見当たらないし、上記第4の3ア.?3エ.等の甲3の記載を参照してみても、焼結助剤相の凝集体とポアについて、大きさ10μm以上の単位面積当たりの数(個)と大きさ10μm未満の単位面積当たりの面積比(%)とが記載されている(上記第4の3エ.)だけであり、「ボイドの個数」について、1000倍の倍率で10000μm^(2)の範囲を任意に5箇所選び、その範囲内のボイドの数を数えて、平均個数を求めると、3個以下であることまでの技術事項を把握できるとはいえない。
してみると、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、上記相違点2-4に係る本件特許発明2の発明特定事項を備えたものになり得るとはいえない。

ケ. 上記キ.?ク.の検討によれば、本件特許発明2は、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(3) 本件特許発明3?4と甲1発明との対比・検討
本件特許発明3?4は、請求項2を引用するものであり、本件特許発明2の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(2)での検討と同様にして、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(4) 本件特許発明5と甲1発明との対比・検討
サ. 本件特許発明5と上記第4の1タ.に示した甲1発明とを対比する。
甲1発明における「窒化アルミニウムと焼結助剤とからなる」ことは、本件特許発明5における「窒化アルミニウムと」「焼結助剤相とからな」ることに相当し、また、甲1発明における「曲げ強度が56.7kgf/mm^(2)であ」ること、「熱伝導率が180W/mKである」ことは、それぞれ、本件特許発明5における「曲げ強度が450MPa以上である」こと、「熱伝導率が160W/m・K以上であ」ることに相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。
<一致点>
「窒化アルミニウムと焼結助剤相とからなり、曲げ強度が450MPa以上であり、熱伝導率が160W/m・K以上である窒化アルミニウム焼結体」の点。

<相違点>
相違点4-1: 焼結助剤相が、本件特許発明5では「平均粒子径が2μm以下の焼結助剤相」という発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点4-2: 焼結助剤相について、本件特許発明5では「前記焼結助剤相の粒子が、鏡面研磨面において400μm^(2)あたり10個以上析出し」ているという発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点4-3: ボイドの個数について、本件特許発明2では「鏡面研磨面において、10000μm^(2)あたり3個以下であ」るという発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

シ. そこで、まず、上記相違点4-1?4-2について検討するに、これらの相違点は、それぞれ、上記相違点1-1?1-2と同じ相違点であるから、上記(1)のイ.?ウ.での検討と同様にして、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、上記相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えたものとはなり得ないし、また、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、上記相違点4-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えたものとはなり得るとはいえない。

ス. 次に、上記相違点4-3についても検討してみるに、この相違点は、上記相違点2-4と同じ相違点であるから、上記(1)のイ.?ウ.での検討と同様にして、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、上記相違点4-3に係る本件特許発明5の発明特定事項を備えたものになり得るとはいえない。

セ. 上記シ.?ス.の検討によれば、本件特許発明5は、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(5) 本件特許発明6と甲1発明との対比・検討
本件特許発明6は、請求項1?5を引用するものであり、本件特許発明1?5の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(1)?(4)での検討と同様にして、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


2. 補足
(2-1) 異議申立人の主張
異議申立人は、特許異議申立書において、甲1発明に甲2?甲3の記載事項を組み合わせることに関し、以下の主張をしている。
1a. 甲1に記載の「D_(50粒界相)」は本件特許発明における「(焼結助剤相の)平均粒子径」に相当し、甲1の実施例1は、D_(50AlN)が2.3μmであり、D_(50粒界相)/D_(50AlN)が0.9であるため、D50_(粒界相)は0.9×2.3μm≒2μmである、すなわち、甲1記載の「窒化アルミニウムと、焼結助剤の結晶粒子により構成されD50粒界相が約2μmである粒界相と、からなる」構成は、本件特許発明1における「窒化アルミニウムと平均粒子径が2μmの焼結助剤相とからなる」構成に相当する。

1b. 本件特許発明1における「焼結助剤相の粒子が、平面において400μm^(2)あたり10個以上析出する」構成は、甲1の図1に対し、20μm×20μm=400μm^(2)の単位面積の枠を設定すると、その枠内の比較的大きな白色部の個数は16個以上であるので、甲1の図1には、「粒界相結晶粒子が、平面において400μm^(2)あたり16個以上析出する」構成は、本件特許発明1における「焼結助剤相の粒子が、平面において400μm2あたり10個以上析出する」に相当する。

1c. 甲1に記載の「YAG,YAL等からなる粒界相結晶粒子」は、本件特許発明1における「焼結助剤相がYAG及び/又はYALのみからなる」構成に相当する。
仮に、本件特許発明1における「焼結助剤相がYAG及び/又はYALのみからなる」構成が甲1に開示されていない場合であっても、焼結助剤相をYAG及び/又はYALのみで構成することは甲2記載の周知技術であるし、甲2の実施例1における脱脂、焼成条件は、甲1の実施例1における脱脂、焼成条件と実質同1条件であり、甲2の実施例1における副相がYAL単相であることから、甲1の実施例1における粒界相がYAL単相であることは明らかである。

1d. 甲3の表7の実施例18は10μm以上の凝集体およびポアの合計値が0個であり、10μm未満の凝集体およびポアは0.8%と非常に小さいので、本件特許発明2における「鏡面研磨面において、ボイドの個数が、10000μm^(2)あたり3個以下である」構成を、甲1および甲3に基づいて想起することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2-2) 当審の判断
2a. 異議申立人の上記(2-1)の1a.の主張については、上記1.(1)イ.で検討したとおり、「焼結助剤相の平均粒子径」とは、本件特許の明細書によれば、2000倍のSEM写真をImageJを用いて画像解析して算出するとの手法によって求めたものであるところ、甲1?甲3には、そのような手法によって求めた「焼結助剤相の平均粒子径」についての開示はないし、また、仮に、甲1記載のD_(50粒界相)が「焼結助剤相の平均粒子径」を表しているとしても、甲1記載のD_(50粒界相)は2.00μmを越えており、2μm以下とはいえない。
異議申立人の前記1a.の主張は、本件特許の明細書の記載を正解しないことに基づく主張であって、採用できない。

2b. 異議申立人の上記(2-1)の1b.の主張については、上記1.(1)ウ.で検討したとおり、「焼結助剤相の個数」について、本件特許の明細書によれば、1000倍のSEM写真に対し、400μm^(2)の正方形の枠を20ヵ所、範囲が重ならないように選び、それぞれの内側にある焼結助剤相の粒子の個数を数えて平均するとの手法によって求めたものであるところ、甲1?甲3には、そのような手法によって求めた「焼結助剤相の個数」についての開示はないし、また、甲1の上記第4の1ク.?1コ.によれば、窒化アルミニウム焼結体の一態様例としての2000倍のSEM写真が、甲1の図1(上記第4の1コ.)に示されているが、この図1は実施例1のSEM写真というわけではないし、また、この図1を見ても、400μm^(2)の正方形の枠を複数箇所、範囲が重ならないように設定したときに、焼結助剤相である白色部分が平均して10個以上析出していることまでの技術事項を把握できるともいえない。
また、特許異議申立書において甲1の図1に対して異議申立人によって設定された赤枠内を見ても、その枠内の比較的大きな白色部の個数が16個以上であるということは、客観的には認められない。
異議申立人の前記1b.の主張は、本件特許の明細書の記載を正解しないことに基づく主張であるし、客観性を欠く主張であって、採用できない。

2c. 異議申立人の上記(2-1)の1c.の主張については、上記1.(1)エ.で検討したとおりであり、異議申立人の前記1c.の主張は、甲2の記載事項を正解しないことに基づく主張であって、採用できない。

2d. 異議申立人の上記(2-1)の1d.の主張については、上記1.(2)ク.で検討したとおり、「ボイドの個数」について、1000倍の倍率で10000μm^(2)の範囲を任意に5箇所選び、その範囲内のボイドの数を数えて、平均個数を求めると、3個以下であることまでの技術事項は甲1?甲3の記載から把握できるとはいえないことからして、異議申立人の前記1d.の主張は、本件特許の明細書の記載を正解しないことに基づく主張である。
また、上記第4の3.の3エ.によれば、甲3の表7の実施例18は10μm以上の凝集体およびポアの単位面積(100×100μm)当りの合計値が0個であり、10μm未満の凝集体およびポアの単位面積(100×100μm)当りの面積比は0.8%であり、すなわち、80μm^(2)であり、鏡面加工面の任意の3箇所について測定した脱粒痕の大きさの最大径が5μm、すなわち最大のポアの面積が15.7μm^(2)であったとされていることからして、甲3の表7の実施例18のAlN焼結体における、任意の1箇所の単位面積(100×100μm)当りのポア(ボイド)の数でさえ、3個以下であるとの特定事項を満たしていたかは疑問であるところ、この実施例18のAlN焼結体のAlN結晶の平均粒径は、甲3の表6によれば、4μmであり、AlN結晶のD_(50AlN)が2.3μmである、甲1の実施例1のAlN焼結体とは、直ちには、組み合わせることができないものである。
したがって、異議申立人の前記1d.の主張は、本件特許の明細書の記載を正解しないことに基づく主張であるし、また、甲1の記載事項と甲3の記載事項とを正解しないことにも基づく主張であって、採用できない。


第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-06-04 
出願番号 特願2016-215593(P2016-215593)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神▲崎▼ 賢一  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 櫛引 明佳
小川 進
登録日 2018-07-27 
登録番号 特許第6373933号(P6373933)
権利者 株式会社MARUWA
発明の名称 窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法  
代理人 特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所  

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