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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C21D
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する C21D
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C21D
審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正する C21D
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C21D
管理番号 1352529
審判番号 訂正2019-390049  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2019-04-16 
確定日 2019-06-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4997832号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4997832号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯

本件訂正審判に係る特許第4997832号(以下、「本件特許」という。)は、平成18年5月30日を出願日とする特願2006-150375号の請求項1?2に係る発明について、平成24年5月25日に特許権の設定登録がされたものであり、その後、平成31年4月16日付けで本件訂正審判の請求がされたものである。

第2 請求の趣旨及び訂正事項

1 請求の趣旨

本件訂正審判の請求の趣旨は「特許第4997832号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。

2 訂正事項

本件訂正審判の請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?13のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示すために当審が付したものである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2

(2a)請求項1において、「転動体の表面窒素濃度を0.2wt%以上」という記載を「転動体の表面窒素濃度を0.5wt%以上」という記載に訂正し、「転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率を2.0%以上」という記載を「転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率を3.8%以上」という記載に訂正し、
(2b)その上で、請求項1を引用する請求項2を以下のように独立形式に訂正する。
「内周面に軌道面を有する外方部材と、外周面に軌道面を有する内方部材と、前記外方部材の軌道面と内方部材の軌道面との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受において、前記内方部材及び外方部材の軌道面の表面窒素濃度を0.05wt%以下、転動体の表面窒素濃度を0.5wt%以上、転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率を3.8%以上とし、前記転動体材料のSi含有量+Mn含有量が1.0wt%以上であることを特徴とする転がり軸受。」

(3)訂正事項3

明細書の【0009】の「具体的な数値限定理由は後述するが、軌道輪と転動体の組合せにおいて最も長寿命となる特徴として請求項1に示すように、内外輪、転動体からなる転がり軸受において、その軌道輪軌道面の表面窒素濃度が0.05wt%以下、転動体の表面窒素濃度が0.20wt%以上となるような軌道輪と転動体の組合せ、更には請求項2に示すように、軌道輪軌道面の窒素濃度が0.05wt%以下、転動体の表面窒素濃度が0.20wt%以上、転動体材料のSi含有量+Mn含有量が1.0wt%以上であるような軌道輪と転動体の組合せが寿命に最も有効であることを見出した。」という記載を
「具体的な数値限定理由は後述するが、軌道輪と転動体の組合せにおいて最も長寿命となる特徴として、内外輪、転動体からなる転がり軸受において、その軌道輪軌道面の表面窒素濃度が0.05wt%以下、転動体の表面窒素濃度が0.5wt%以上、転動体材料のSi含有量+Mn含有量が1.0wt%以上であるような軌道輪と転動体の組合せが寿命に最も有効であることを見出した。」という記載に訂正する。

(4)訂正事項4

明細書の【0014】の「而して、本発明のうち請求項1に係る転がり軸受によれば、内周面に軌道面を有する外方部材と、外周面に軌道面を有する内方部材と、外方部材の軌道面と内方部材の軌道面との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受において、内方部材及び外方部材の軌道面の表面窒素濃度を0.05wt%以下、転動体の表面窒素濃度を0.2wt%以上、転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率を2.0%以上としたことにより、従動側に相当する軌道輪表面には圧痕がつきやすいが、駆動側に相当する転動体表面には圧痕がつきにくく、全体としての耐圧痕性を向上することができるので、異物混入潤滑環境下でも長寿命を達成することができる。
また、本発明のうち請求項2に係る転がり軸受によれば、転動体材料のSi含有量+Mn含有量を1.0wt%以上ですることにより、より硬度の高いSi・Mn系窒化物の析出量を増加させ、より一層、耐圧痕性を向上することができる。」という記載を
「而して、本発明の転がり軸受によれば、内周面に軌道面を有する外方部材と、外周面に軌道面を有する内方部材と、外方部材の軌道面と内方部材の軌道面との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受において、内方部材及び外方部材の軌道面の表面窒素濃度を0.05wt%以下、転動体の表面窒素濃度を0.5wt%以上、転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率を3.8%以上としたことにより、従動側に相当する軌道輪表面には圧痕がつきやすいが、駆動側に相当する転動体表面には圧痕がつきにくく、全体としての耐圧痕性を向上することができるので、異物混入潤滑環境下でも長寿命を達成することができる。
また、本発明の転がり軸受によれば、転動体材料のSi含有量+Mn含有量を1.0wt%以上とすることにより、より硬度の高いSi・Mn系窒化物の析出量を増加させ、より一層、耐圧痕性を向上することができる。」という記載に訂正する。

(5)訂正事項5

明細書の【0019】の【表1】において、「実施例1」?「実施例9」を、それぞれ、「参考例1」?「参考例9」に訂正する。
「【表1】



第3 当審の判断

1 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

(1)訂正事項1について

訂正事項1に係る本件訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定にも適合する。

(2)訂正事項2について

ア 訂正の目的の適否

(ア)訂正事項2に係る本件訂正のうち、前記(2a)の訂正は、請求項1における「転動体の表面窒素濃度」及び「転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率」の各数値範囲を、それぞれ、本件訂正前の範囲内でさらに狭い範囲に限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)訂正事項2に係る本件訂正のうち、前記(2b)の訂正は、請求項1を引用する請求項2を独立形式に訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無

(ア)本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表し、下線は当審にて付与した。

a 「本発明では・・・転動体表面の窒素濃度を0.2wt%以上とし、より好ましくは0.35wt%以上とする。また・・・転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率を2%以上とすることが好ましい。」(【0011】)

b 表1(訂正事項5)の「実施例10」では、「転動体」の「表面窒素濃度(%)」の値が「0.5」と記載され、「転動体のSi+Mn系窒化物面積率(%)」の値が「3.8」と記載されている。

(イ)前記(ア)によれば、訂正事項2に係る本件訂正のうち、前記(2a)の訂正は、「0.2wt%以上」とする必要のある「転動体の表面窒素濃度」の下限値を「実施例10」に基づいて「0.5wt%」とした上で、「2%以上」とすることが好ましい「転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率」の下限値を「実施例10」に基づいて「3.8%」としたものである。
したがって、訂正事項2に係る本件訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項2に係る本件訂正は、前記アのとおり、各数値範囲を本件訂正前の範囲内でさらに狭い範囲に限定するものであって、前記イのとおり、新規事項を追加するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項3,5について

訂正事項3,5に係る本件訂正は、本件訂正後の請求項2の記載と整合させるために、【0009】(訂正事項3)及び【0019】の【表1】(訂正事項5)の記載をそれぞれ訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、訂正事項2に係る本件訂正と同様の理由により、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定にも適合する。

(3)訂正事項4について

ア 訂正事項4に係る本件訂正のうち、「本発明のうち請求項1に係る転がり軸受」という記載を「本発明の転がり軸受」という記載にする訂正、「転動体の表面窒素濃度を0.2wt%以上」という記載を「転動体の表面窒素濃度を0.5wt%以上」という記載にする訂正、「転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率を2.0%以上とした」という記載を「転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率を3.8%以上とした」という記載にする訂正、及び「本発明のうち請求項2に係る転がり軸受」という記載を「本発明の転がり軸受」という記載にする訂正は、【0014】の記載を本件訂正後の請求項2の記載と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、訂正事項2に係る本件訂正と同様の理由により、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定にも適合する。

イ 訂正事項4に係る本件訂正のうち、「転動体材料のSi含有量+Mn含有量を1.0wt%以上でする」という記載を「転動体材料のSi含有量+Mn含有量を1.0wt%以上とする」という記載にする訂正は、【0014】における明らかな誤記を訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであり、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内においてされたものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定にも適合する。

2 独立特許要件

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである理由は見いだせないから、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

第4 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第1号?第4号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第5?7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
転がり軸受
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり軸受に関するものであり、特に自動車、建設機械、農機、鉄鋼設備等の潤滑条件の厳しい環境下で使用される玉軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、自動調心ころ軸受、ニードル軸受などの転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような環境下で使用される転がり軸受は、潤滑油に異物等が混入し、軌道面に異物の噛み込みによる圧痕が発生し、その圧痕を起点として早期剥離を生じる可能性が高い。これらを解決する方法として、下記特許文献1では、内外輪、転動体に浸炭又は浸炭窒化処理を施し、残留オーステナイトを所定量析出させることにより、軌道面表面に生じた圧痕による応力集中を緩和することで、剥離寿命の延長化を図る方法が提案されている。また、下記特許文献2では、高濃度浸炭により軌道面の硬さを高め、材料強度を向上させることにより、長寿命化を計る方法が提案されている。但し、これらの方法は、内外輪、転動体夫々を個々の部品として考え、個々の部品を夫々強化するものである。従って、軌道輪の寿命を向上したい場合には、軌道輪に所定の長寿命化処理を施すという考え方がなされるのが一般的である。
【特許文献1】特開昭64-55423号公報
【特許文献2】特開平7-41934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、市場における軸受を取り巻く環境は、昨今の機械の小型化、高速化に伴って厳しくなってきており、従来の長寿命化技術だけでは短寿命の問題を解決できないケースも増えてきている。そうした問題を解決するためには、更に材料強度を向上させるために高合金化や特殊熱処理、表面処理等を施す方法が挙げられるが、これら特殊材及び特殊処理を施すことは大幅なコスト増大につながり、最良の方法とは言えない。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、コストの増大を抑制しながら、異物混入潤滑環境下でも長寿命化が可能な転がり軸受を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明では、従来の長寿命化技術とは異なり、軌道輪、転動体の寿命を考える場合に、夫々の部品の強度向上だけに着目するのではなく、夫々の部位の寿命に及ぼす相乗効果について考えた。例えば、軌道輪の寿命を向上させるために、従来は軌道輪材料の強度だけを考えていたが、本発明では軌道輪の寿命を延ばすために、転動体はどうあるべきかを考えた。その結果、夫々の部品の寿命は相手側の表面状態(粗さ及び圧痕等によ形状崩れ)に大きく影響を受けることが分かった。例えば、軌道輪の寿命を向上させるには、転動体の表面状態を良好にすることにより長寿命化が図れることが分かった。従って、軸受製造時に双方の部品の表面状態を良好にすることで、夫々接触相手側の寿命を向上し、軸受としての寿命を向上させることができる。
【0005】
しかしながら、前述した厳しい潤滑条件下では、異物の混入は避けがたく、使用中に異物を噛み込むことによって圧痕が形成され、表面状態が劣化していく。この圧痕の形成を防ぐには、異物に対して圧倒的な硬さを有する特殊材料を用いることで達成できるが、コストが大幅に高くなり、現実的でない。
そこで、本発明は、軌道輪と転動体の耐圧痕性(圧痕のつきにくさ)を異なる組合せにし、どちらか一方に圧痕が優先的に形成されるような仕様にすることを特徴としている。どちらか一方に圧痕をつけることにより、圧痕がつきにくい部材は、圧痕による応力集中が発生しないため、長寿命化することができる。一方で、圧痕のつきやすい部材は圧痕による応力集中は大きくなるが、それによる短寿命作用よりも相手側(圧痕のついていない部材)の表面状態が良好であることにより長寿命効果の方が大きくなることによって、長寿命化が図れる。
【0006】
以下に、軌道輪、転動体のどちらに優先的に圧痕を形成した方が軸受全体の寿命延長効果があるかについて考察する。接触する相手部材の表面状態が悪いと、自身の圧痕縁に作用する接線力が大きくなり、寿命が低下する。その場合、従動側(周速が遅い側)の表面状態より、駆動側(周速が速い側)の表面状態が寿命に顕著に影響を及ぼす。従って、従動側より駆動側の耐圧痕性を向上させ、圧痕をつきにくくした方が効果的である。
【0007】
実際の転がり軸受では、玉軸受や自動調心ころ軸受は、面圧が高い領域において、転動体(玉)が駆動側である。また、円筒ころ軸受や円錐ころ軸受は面圧が高い領域では駆動輪と転動体との間で基本的に滑りが生じない(純転がりである)ため、駆動側と従動側は存在しないが、エッジロードを抑制する目的でころにクラウニングを設けることが多く、その場合には、玉と同様、ころが駆動側となる。従って、玉軸受、ころ軸受共に、転動体の耐圧痕性を向上させ、圧痕をつきにくくする方が転がり軸受全体の寿命延長に効果的である。従って、本発明では軌道輪を圧痕のつきやすい仕様、転動体を圧痕のつきにくい仕様としている。
【0008】
材料的に圧痕のつきやすさ、つきにくさをコントロールする手法としては、一般的に硬さの差を持たせることが考えられる。しかし、軸受鋼は通常でHRC60以上の硬さを有しており、転動体、軌道輪部品の全部がこれ以上の硬さを有している。そのため、硬さのみで転動体と軌道輪との間に差をつけることはHRCで2?3程度が限界であり、この程度の硬さの差では耐圧痕性に大きな差が出ない。一方(軌道輪)をHRC60以下にし、差をつけることは可能であるが、その場合、軌道輪の基本的な強度が低下してしまい、短寿命になる問題が生じる。
【0009】
そこで、本発明では、硬さ以外に、耐圧痕性に大きな影響を及ぼす因子として表面窒素量に着目した。窒素量が多いほど、耐圧痕性が向上するため、どちらか一方に表面窒素量の多いもの、どちらか他方に表面窒素量の少ないものを用いることによって部材毎の耐圧痕性を変えることができる。
具体的な数値限定理由は後述するが、軌道輪と転動体の組合せにおいて最も長寿命となる特徴として、内外輪、転動体からなる転がり軸受において、その軌道輪軌道面の表面窒素濃度が0.05wt%以下、転動体の表面窒素濃度が0.5wt%以上、転動体材料のSi含有量+Mn含有量が1.0wt%以上であるような軌道輪と転動体の組合せが寿命に最も有効であることを見出した。
【0010】
また、本発明を効果的に実施し、前記効果を得るための軌道輪、転動体素材の主要化学成分は、軌道輪が、C:0.15?1.2wt%、Si:0.1?1.5wt%、Mn:0.2?1.5wt%、Cr:0.1?2.0wt%、転動体が、C:0.3?1.2wt%、Si:0.3?2.2wt%、Mn:0.2?2.0wt%、Cr:0.5?2.0wt%である。
【0011】
数値の臨界的意義は以下の通りである。
[軌道輪軌道面の表面窒素濃度が0.05wt%以下、転動体の表面窒素濃度が0.2wt%以上]
窒素は、炭素と同じようにマルテンサイトの固溶強化及び残留オーステナイトの安定確保に作用するだけでなく、窒化物又は炭窒化物を形成して耐圧痕性、耐摩耗性を向上させる作用がある。後述するように、表面窒素濃度が0.05wt%を超えると徐々に耐圧痕性が上昇し、0.2wt%を超えると大幅な向上が見られる。そこで、本発明では、軌道輪軌道面に圧痕がつきやすくするため、軌道輪表面の窒素濃度を0.05wt%以下とし、転動体表面に圧痕がつきにくくするため、転動体表面の窒素濃度を0.2wt%以上とし、より好ましくは0.35wt%以上とする。また、耐圧痕性向上のためには、転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率を2%以上とすることが好ましい。
【0012】
[転動体材料のSi含有量+Mn含有量が1.0wt%以上]
前述したように、表面の窒素濃度が高いほど、材料の耐圧痕性、耐摩耗性が向上することが明らかになった。しかし、本発明者らは更に、窒素濃度が同じ場合でも、材料内部の窒素の存在状態によって耐圧痕性が変わるという知見を得た。窒素は、材料内部に固溶して存在する場合と、窒化物として析出して存在する場合がある。Si・Mnを多く含む材料を窒化若しくは浸炭窒化処理した場合には、同じ窒素濃度でも材料中に固溶して存在する窒素量より、表面にSi・Mn系の窒化物を析出して存在する窒素量が多くなる。後述するように、素材のSi+Mn量が増大することにより耐圧痕性が向上し、Si+Mnが1.0wt%を超えると顕著に耐圧痕性が向上する。これは同じ窒素濃度でも、窒素が基地組織に固溶して存在するよりも、より硬度の高いSi・Mn系窒化物を形成して存在する方が、より耐圧痕性が向上するためである。従って、本発明では、Si+Mn量を1.0wt%以上とした。
【0013】
[転動体表面の面積375μm^(2)中における0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物の個数が100個以上]
析出強化の理論において析出物粒子間距離の小さい方が強化能に優れるので、窒化物の面積率が同じであっても、面積375μm^(2)の範囲の、平均粒径0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物を100個以上とすることで、析出数を増やし、析出物粒子間距離を小さくして強化することが好ましい。また、0.05μm以上のSi・Mn系窒化物のうち、0.05?0.50μmのSi・Mn系窒化物の個数比率を20%以上にすることにより、更に強化することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
而して、本発明の転がり軸受によれば、内周面に軌道面を有する外方部材と、外周面に軌道面を有する内方部材と、外方部材の軌道面と内方部材の軌道面との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受において、内方部材及び外方部材の軌道面の表面窒素濃度を0.05wt%以下、転動体の表面窒素濃度を0.5wt%以上、転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率を3.8%以上としたことにより、従動側に相当する軌道輪表面には圧痕がつきやすいが、駆動側に相当する転動体表面には圧痕がつきにくく、全体としての耐圧痕性を向上することができるので、異物混入潤滑環境下でも長寿命を達成することができる。
また、本発明の転がり軸受によれば、転動体材料のSi含有量+Mn含有量を1.0wt%以上とすることにより、より硬度の高いSi・Mn系窒化物の析出量を増加させ、より一層、耐圧痕性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の転がり軸受の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の転がり軸受の断面図である。この転がり軸受は、内方部材である内輪1、外方部材である外輪2、転動体3、保持器4を備えた、呼び番号L44649/610の円錐ころ軸受である。
まず、耐圧痕性に及ぼす窒素の影響を調査するため、図2に示す耐圧痕性試験を行った。耐圧痕性試験は、直径2mmの鋼球を試料に5GPaで押し付けた後、圧痕の深さを測定した。表面窒素量の測定は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いた。表面窒素濃度と圧痕深さとの関係を図3に示す。図3に示すように、表面窒素濃度が0.05wt%を超えると徐々に耐圧痕性が上昇し、0.2wt%を超えると大幅な向上が見られる。このことから、圧痕をつきにくくするためには表面窒素濃度を0.2wt%以上とすればよく、圧痕をつきやすくするためには表面窒素濃度を0.05wt%以下とすればよいことが分かる。
【0016】
次に、耐圧痕性に及ぼすSi+Mn量の影響を調査するため、前述した図2に示す耐圧痕性試験を、Si+Mn量を変えた試料に対して行った。図4には、Si+Mn量と圧痕深さとの関係を示す。窒素濃度は、0.3wt%程度でほぼ一定である。図4に示すように、素材のSi+Mn量が増大すると耐圧痕性が向上し、Si+Mn量が1.0wt%を超えると顕著に耐圧痕性が向上する。このことから、圧痕をつきにくくするためには、素材のSi+Mn量を1.0wt%以上とすればよいことが分かる。
【0017】
次に、前述した呼び番号L44649/610の円錐ころ軸受を用い、異物混入潤滑環境下での寿命試験を行った。試験条件は以下の通りである。
試験荷重:ラジアル荷重Fr=12kN、アキシアル荷重Fa=3.5kN
回転数:3000min^(-1)
潤滑油:VG68
異物の硬さ:Hv870
異物の大きさ:74?134μm
異物混入量:0.1g
内外輪には高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)又はクロム鋼(SCr420)を用い、転動体には、Si+Mn量以外は、SUJ3相当の化学成分である鋼を用いた。熱処理に関しては、SUJ2、SUJ3相当の材料は830?850℃のRxガス雰囲気で焼入れ、又は830?850℃のRxガス+エンリッチガス+アンモニアガス(アンモニアガスは浸炭窒化時)雰囲気中で1?20時間の浸炭又は浸炭窒化処理を施した後、180?240℃で焼戻しを行った。また、SCr420については、850?900℃で浸炭又は浸炭窒化処理を施した後、800?850℃で二次焼入れ、150?200℃で焼戻しを行った。
【0018】
下記表1には、試験に用いた軌道輪、転動体の品質と寿命試験結果を示す。軌道輪、転動体の表面窒素濃度の測定には電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用い、定量分析を行った。寿命試験は、各サンプルn=12行い、剥離が発生するまでの寿命時間を調査してワイブルプロットを作製し、ワイブル分布の結果からL10寿命を求め、寿命値とした。寿命は最も短寿命であった比較例1の値を1として比率で表した。
【0019】
【表1】

【0020】
表1から明らかなように、軌道輪がSUJ2の場合とSCr420の場合とで比較すると、SCr420を用いた場合の方が本発明の効果が大きい。これは、SCr420の方が心部硬さが軟らかいため、SCr420を軌道輪に用いるとより軌道輪に圧痕がつきやすく、転動体に圧痕がつきにくくなるため、寿命延長効果が得られたと考えられる。
なお、試験では、軌道輪に高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)又はクロム鋼(SCr420)、転動体に素材炭素量1.0wt%の鋼を適用し、焼入れ、焼戻し若しくは浸炭又は浸炭窒化した事例を挙げたが、完成品軌道面、転動面の表面硬さがHRC55より大きく、本発明の範囲であれば、同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の転がり軸受の一実施形態を示す円錐ころ軸受の断面図である。
【図2】耐圧痕性試験の説明図である。
【図3】表面窒素濃度と圧痕深さとの関係を示す説明図である。
【図4】Si+Mn量と圧痕深さとの関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1は内輪
2は外輪
3は転動体
4は保持器
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
内周面に軌道面を有する外方部材と、外周面に軌道面を有する内方部材と、前記外方部材の軌道面と内方部材の軌道面との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受において、前記内方部材及び外方部材の軌道面の表面窒素濃度を0.05wt%以下、転動体の表面窒素濃度を0.5wt%以上、転動体表面のSi・Mn系窒化物の面積率を3.8%以上とし、前記転動体材料のSi含有量+Mn含有量が1.0wt%以上であることを特徴とする転がり軸受。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-05-23 
結審通知日 2019-05-27 
審決日 2019-06-07 
出願番号 特願2006-150375(P2006-150375)
審決分類 P 1 41・ 857- Y (C21D)
P 1 41・ 856- Y (C21D)
P 1 41・ 853- Y (C21D)
P 1 41・ 854- Y (C21D)
P 1 41・ 851- Y (C21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 永一  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 平塚 政宏
長谷山 健
登録日 2012-05-25 
登録番号 特許第4997832号(P4997832)
発明の名称 転がり軸受  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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