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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23K
審判 査定不服 特39条先願 取り消して特許、登録 B23K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B23K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 B23K
管理番号 1352611
審判番号 不服2018-12607  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-20 
確定日 2019-07-02 
事件の表示 特願2017-153952「接合構造部」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月21日出願公開、特開2019- 25540、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年 8月 9日(優先権主張 平成29年 7月25日)の出願であって、平成30年 3月16日付けで拒絶理由通知がされ、同年 4月23日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年 6月18日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年 9月20日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年11月 2日付けで当審より拒絶理由通知がされ、同年12月25日付けで意見書(以下「意見書1」という。)及び手続補正書が提出され、平成31年 3月11日付けで当審より拒絶理由通知がされ、同年4月16日付けで意見書(以下「意見書2」という。)及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」といい、これらをまとめて「本願発明」ということがある。)は、平成31年4月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
SnおよびCuからなる金属間化合物結晶、並びに、SnおよびCuからなるSn合金母相を含み、金属体または合金体を接合する接合構造部であって、
前記金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造を有し、
前記Sn合金母相及び/または金属間化合物結晶が、前記金属体または合金体とエピタキシャル接合している、
ことを特徴とする接合構造部。
【請求項2】
前記金属間化合物結晶が単斜晶系、立方晶系または六方晶系である請求項1に記載の接合構造部。
【請求項3】
前記Sn合金母相と前記金属体または合金体との接合が、エピタキシャル接合であることを特徴とする請求項1または2に記載の接合構造部。
【請求項4】
前記金属体または合金体が、Sn、Cu、Al、Ni、Si、Ag、Au、Pt、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、CrおよびCoから選択された少なくとも1種の金属、合金体または金属間化合物であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の接合構造部。
【請求項5】
前記接合構造部は、前記金属間化合物結晶を3?85体積%含むことを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の接合構造部。」


第3 拒絶理由について
1 原査定(平成30年 6月18日付け拒絶査定)の概要(特許法第29条第2項)

ア 本願請求項1?9に係る発明は、下記の引用文献1?3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献>
引用文献1:特開2009-141197号公報
引用文献2:特開2001-342549号公報
引用文献3:特開2013-143243号公報

2 当審拒絶理由の概要
(1)平成30年11月 2日付け拒絶理由通知(特許法第36条第6項第1号及び第2号、同法第39条)の概要

ア 本願請求項1?9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

イ 本願請求項1?9に係る発明は明確でないから、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

ウ 本願請求項1に係る発明は、その出願日前の出願である特願2017-31841号(特許第6174830号公報)に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない。

(2)平成31年 3月11日付け拒絶理由通知(特許法第36条第4項第1号)の概要

ア 本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項3?7に係る発明を実施することができる程度に記載されたものでないから、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


第4 当審の判断
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)引用文献の記載事項及び引用発明
ア 引用文献1について
本願の優先日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。「・・・」は記載の省略を表す。)。

(1a)「【請求項1】
はんだ合金が鉛フリーの接合用材料であって、元素Aと元素Bからなり、かつ常温平衡状態で安定相であるAmBnと、元素Bからなる組成であって、急冷凝固により元素Aを元素Bからなる常温安定相中に過飽和固溶させることを特徴とする合金で、はんだ付けによる溶解・凝固過程を経た後に平衡状態であるAmBnと、元素Bからなる組成に戻り、再度加熱するときにははんだ付け温度であっても安定相のAmBnにより強度を確保できる合金を用いてはんだ付けすることを特徴とする鉛フリー接合用材料を用いてはんだ付けしてなる電子機器。
【請求項2】
請求項1に記載の元素AがCu,Mn,Ni、元素BがSn,In,Biであることを特徴とする鉛フリー接合用材料を用いてはんだ付けしてなる電子機器。 」

(1b)「【0013】
そこで、本発明に係る一例であるSn-Cu系はんだ合金を用いてはんだ付けする回路について詳細に説明する。発明者らは平衡状態図的には存在し得ないSn固溶体が急冷プロセスによって製造できることに着目して鋭意検討を重ねた結果、アトマイズ法やメルトスパン法などの急冷プロセスによって合金を作製することにより、本来Cu_(6)Sn_(5)金属間化合物を生成するはずのCuがSn中に強制固溶され、結果的にSn固溶体としてSnと同様の相を構成し、急冷された合金中では高融点相であるCu_(6)Sn_(5)金属間化合物の量は合金中のSnとCuの比率から計算される理論量よりも大幅に少なくなる。また、逆に、はんだ付けに寄与するSn相はSn固溶体相として存在するため理論量より大幅に増える。」

イ 引用発明について
上記記載事項(1a)及び(1b)から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「はんだ合金が鉛フリーの接合用材料であって、CuとSnからなり、かつ常温平衡状態で安定相であるCu_(6)Sn_(5)金属間化合物と、Snからなる組成であって、急冷凝固によりCuをSnからなる常温安定相中に過飽和固溶させてSn固溶体相として存在する合金を用いてはんだ付けする鉛フリー接合用材料を用いてはんだ付けしてなる電子機器。」

ウ 引用文献2について
本願の優先日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。

(2a)「【請求項14】質量%で、C:0.01?0.25%、Cr:0.5?8%、V:0.05?0.5%、Si:0.7%以下、Mn:1%以下を含み、残部はFe及び不純物からなり、透過電子顕微鏡を用いて加速電圧100kv以上で鋼の断面を観察した場合に確認される直径30nm以下の整合析出物が結晶粒内に1個/μm^(3)以上の密度で存在し、且つ、結晶粒界にセメンタイト、M_(7)C_(3)炭化物及びM_(23)C_(6)炭化物のうちの1種以上の粒界析出物が存在し、これらの粒界析出物を構成する金属元素M中のV量がいずれも2質量%以上で、その短径と長径の比である「短径/長径」の値が0.5以上である高温強度に優れた低・中Cr系耐熱鋼。」

(2b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ボイラ、化学工業、原子力などの分野で使用される熱交換器や配管用鋼管、耐熱バルブ及び溶接が必要な部材といった用途に好適なCr含有量が8質量%以下の低・中Cr系耐熱鋼に関し、特に400℃以上の高温におけるクリープ強度と高温強度に優れるとともに靱性にも優れた低・中Cr系耐熱鋼に関する。」

(2c)「【0047】本発明の「整合析出物」とは、金属元素をMとし、C又はNをXとした場合にMXで表され、V、Nb、Ti、Taなどを主成分とするVC、VN、NbC、NbN、TiC、TiN、TaC、TaNなどと、M_(2)X で表され、Mo、Crを主成分とするMo_(2)C 、Cr_(2)N などの、結晶粒内に析出する微細な炭化物、窒化物又は炭窒化物及びこれらの複合析出物を総称するものである。以下、本明細書においては、上記の整合析出物を単にMX型の析出物ということもある。なお、素地(以下、母相ともいう)と析出物との界面が部分的に整合であって、そこに界面転位が存在する場合の析出物も整合析出物に含むものとする。」

(2d)「【0071】
・・・
(B)析出物
(B-1)結晶粒内の析出物
結晶粒内に微細な析出物が存在すると析出強化に寄与し、特に、平均直径が30nm以下の析出物の存在密度が1個/μm^(3)以上である場合に析出強化能が大きく、高温強度及びクリープ強度の向上が可能となる。」

(2e)「【0077】
・・・
ここで、結晶粒内には、平均直径で30nmを超える析出物が存在していてもよいことはいうまでもないが、これはできるだけ少ない方がよい。なお、前記結晶粒内における平均直径30nm以下の析出物が整合析出物(すなわちMX型の析出物やM_(2)X型の析出物)であれば一層大きなクリープ強度が得られるので、結晶粒内の析出物は整合析出物であることが好ましい。
【0078】既に述べたように、本発明の「整合析出物」は、素地と完全整合の状態にある析出物に限らず、析出物との界面が部分的に整合であって、そこに界面転位が存在する場合の析出物も含むものである。
【0079】なお、整合析出物の周りには整合歪みが生じているので、析出物が整合析出物であるか否かは、透過電子顕微鏡観察により整合歪の有無を調べることにより判定できる。具体的には、透過電子顕微鏡を用いて倍率が20000倍以上の高倍率で二波近似回折条件になるように電子線の入射方向を選ぶことで整合歪コントラストが現れて、整合歪の有無が確認できる。したがって、整合析出物であるか否かの判定が行える。」

(2f)「【0087】既に(A)の項で述べた化学組成を有する鋼を素材鋼とする鍛鋼及び鋳鋼に、例えば下記の熱処理を施すことによって、比較的容易に、結晶粒内析出物、結晶粒界析出物を所定のサイズ、存在密度、組成、形状にすることができる。
(D)熱処理
(D-1)焼ならし:オーステナイト変態開始温度以上で、しかも、結晶粒内析出物が固溶する温度と、結晶粒の粗大化を生じない温度との間の温度で焼ならしを行い、焼ならし後は、200℃/時間以上の冷却速度で冷却すればよい。焼ならしの温度は、具体的には、素材鋼の化学組成によって異なるものの、ほぼ900?1100℃とすればよく、920?1050℃とすれば一層よい。焼ならし後の冷却速度は、速ければ速いほどよいが、実用的には水冷に相当する冷却速度(つまり、5℃/秒程度の冷却速度)以下で十分である。
【0088】(D-2)焼戻し:結晶粒内に所定の析出物を析出させるために、上記焼ならし後の冷却に続いて焼戻しを行えばよい。焼戻しによって、結晶粒界析出物中にVが固溶する(つまり、結晶粒界析出物を構成する金属元素中にVが含まれる)ようにもなる。この焼戻しの温度は、例えば、550℃?A_(C1)変態点とすれば十分である。なお、焼戻しは、(A_(C1)変態点-50℃)?A_(C1)変態点の温度域で行うのが好ましい。」

エ 引用文献3について
本願の優先日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。

(3a)「【0018】
また上記目的を解決する他の側面として、ここに開示される発明は、セラミック電子デバイスを提供する。かかるセラミック電子デバイスは、セラミック電子材料を含む少なくとも二つの電子材料が、上記のいずれか1つに記載の導電性接合材の焼成物(接合部)によって相互に接合されていることを特徴としている。上記のナノ導電性粒子を含む導電性接合材によると、上記接合部には有機物の保護膜等が残存し難く、典型的にはナノ導電性粒子同士が金属結合により接合するため、接合部は高い導電性を有し、さらに高耐熱性および高放熱性を備え得る。また、導電性接合材中のナノ導電性粒子は互いの凝集が抑制されて被接合材である電子材料の表面に特定の方位を以て緻密に配列し得るため、得られる接合部は緻密で高強度となり得る。さらに、被接合材である電子材料の構成材料によっては、例えば、該構成材料に対してエピタキシャルな接合界面を形成し得るため、より高い接合強度および導電特性を備え得る。」

(3b)「【0029】
このようなナノ導電性粒子としては、導電性を示す各種の材料の粉末を用いることができる。このような導電性粒子については、その組成等に特に制限はなく各種の導電性材料から構成されてよい。例えば、代表的には、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、または白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)に代表される白金族元素、チタニウム(Ti)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)等の各種の金属およびこれらの金属間化合物あるいは複合体、ないしはこれらの混合物であってよい。なかでも、ここに開示する導電性ナノ粒子としては、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)または白金族元素からなることが好ましく、例えば、これらのいずれかの単体からなることが好ましい。なお、かかるナノ導電性粒子が、上記導電性を示す材料以外の不純物等を微量に含むものであっても、全体として導電性を示す材料の粉末であれば、ここでいう導電性粒子とすることができる。また、このような金属材料からなるナノ導電性粒子は、焼成により互いに金属結合するため、より導電性等に優れた接合部を形成することが可能となる。また、ナノ導電性粒子と被接合材である電子材料との組み合わせによっては、ナノ導電性粒子は電子材料の表面に特定の方位を以て緻密に配列し得るため、この接合部を電子材料に対してエピタキシャルな構造とすることができ、接合界面が良好で、接合強度および導電性により優れた接合を実現することができる。」

(2)対比・判断
ア 本願発明1について
(ア)対比・相違点
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「Cu_(6)Sn_(5)金属間化合物」及び「Sn固溶体相」は、本願発明1における「SnおよびCuからなる金属間化合物結晶」及び「SnおよびCuからなるSn合金母相」にそれぞれ相当する。

また、引用発明は、「はんだ付けしてなる電子機器」であるところ、はんだ付けは、電子機器の電極である金属体または合金体に対して行われることが技術常識であるから、引用発明も、当然に「金属体または合金体を接合する接合構造部」を有するものといえる。

してみると、本願発明1と引用発明とは、「SnおよびCuからなる金属間化合物結晶、並びに、Sn合金母相を含み、金属体または合金体を接合する接合構造部。」である点で一致し、次の相違点1及び2で相違する。

<相違点1>
本願発明1は、「金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造を有」するものであるのに対し、引用発明は、当該結晶構造を有しているのか不明である点。

<相違点2>
本願発明1は、「Sn合金母相及び/または金属間化合物結晶が、前記金属体または合金体とエピタキシャル接合している」ものであるのに対し、引用発明は、当該接合をしているのか不明である点。

(イ)相違点についての判断
A 上記記載事項(2a)?(2e)のとおり、引用文献2には、熱交換器や配管用鋼管、耐熱バルブ及び溶接が必要な部材といった用途に好適な低・中Cr系耐熱鋼(以下「耐熱鋼」という。)において、V等の金属元素の炭化物等(以下「炭化物等」という。)を直径30nm以下の整合析出物として存在させて析出強化し、特に400℃以上の高温における強度及びクリープ強度の向上が可能となること、整合析出物は、素地(母相)と析出物の界面が完全整合の状態にある析出物に限らず、析出物との界面が部分的に整合であって、そこに界面転位が存在する場合の析出物も含むこと及び整合析出物であるか否かは、透過電子顕微鏡観察により整合歪の有無を調べることにより判定できることが記載されている。

B しかしながら、引用発明において、電子機器のはんだ付け用の鉛フリー接合用材料は、はんだ付け温度が高々300℃であり、大きな外力がかかることもないのであるから、引用文献2に耐熱鋼において炭化物等が整合析出する技術が記載されているとしても、熱交換器や配管用鋼管等の400℃以上の高温における強度及びクリープ強度に優れた耐熱鋼に関するものである引用文献2に記載の技術を引用発明に採用しようとする動機付けは認められない。

C なお、引用発明に引用文献2に記載の整合析出に係る技術を採用すべきとする動機付けがあると仮定した場合について、予備的に検討する。

D 本願発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

(A)「【0011】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
先に、本明細書における用語法は、特に説明がない場合であっても、以下による。
・・・
(3)エント゛タキシャル接合とは、金属・合金となる物質中に他(金属間化合物)の物質を析出させた、対象となる物質間との結晶格子レベルでの接合状態にて結晶粒を構成する構造(例えば合金間、金属間、金属間化合物間)である。」

(B)「 【0013】
本発明の金属粒子は、例えば、8質量%Cuおよび92質量%Snを組み合わせた原材料(以下8Cu・92Snと称する)から製造することができる。例えば、8Cu・92Snを溶融し、これを窒素ガス雰囲気中で高速回転する皿形ディスク上に供給し、遠心力により該溶融金属を小滴として飛散させ、減圧下で冷却固化させる等、析出単斜晶系、六方晶系等の金属間化合物等の結晶構造を呈してSn合金母相とエンドタキシャル接合構造で固化するよう環境条件を適切に制御することによって、本発明の金属粒子を得ることができる。」

E 本願発明1における「エンドタキシャル接合」の定義についての上記D(A)の記載によれば、そもそも、これが引用文献2に記載の「整合析出」に相当するものであるのか直ちには明らかでない。

F そこで、本願発明1における「エンドタキシャル接合」と引用文献2に記載の「整合析出」について、それぞれの製造方法を検討すると、本願発明1は、上記D(B)に記載のとおり、溶融金属を「窒素ガス雰囲気中で高速回転する皿形ディスク上に供給し、遠心力により該溶融金属を小滴として飛散させ、減圧下で冷却固化させる」ものであるのに対し、引用文献2に記載のものは、上記記載事項(2f)のとおり、鋼が溶融しない温度範囲である900?1100℃、550℃?A_(C1)変態点における熱処理によるものである点で異なっていることから、「エンドタキシャル接合」が引用文献2に記載の「整合析出」に相当するものでないことは明らかである。

G また、仮に、「エンドタキシャル接合」が「整合析出」に相当するものであるとしても、引用発明とは合金組成が全く異なる引用文献2に記載の技術を、どのような熱処理条件とすれば引用発明の合金組成に対して適用できるのかが不明であるから、直ちに「整合析出」を引用発明に適用することができるものではない。

H そして、引用文献2には「整合析出」とすることにより、カーケンダルボイドの発生を防ぐことができるという効果を奏する点について、何ら記載も示唆もされていないので、本願発明は、いずれの引用文献にも記載のない異質な効果を奏するものである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1?3に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明できたものであるとはいえない。

イ 本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1を引用するものであるから、上記Eと同様に、本願発明2?5は、当業者であっても、引用文献1?3に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明できたものであるとはいえない。


2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 本願発明の詳細な説明における【0006】の記載から、本願発明が解決しようとする課題は、「従来技術よりも高い耐熱性、接合強度および機械的強度を有する接合構造部を提供すること」であると理解できる。

イ そして、当該課題を解決する手段は、同【0007】の記載から、「高温相の金属間化合物である単斜晶系、六方晶系等の結晶構造を金属粒子中に析出させ亦析出界面は母相金属とエンドタキシャル接合にて構成された粒子」「を用いて形成される接合構造部」とすることであると認められる。

ウ ここで、同【0013】及び【0023】には、金属粒子の原材料について、「本発明の金属粒子は、例えば、8質量%Cuおよび92質量%Snを組み合わせた原材料(以下8Cu・92Snと称する)から製造することができる。」及び「実施例1
原材料として8Cu・92Snを用い、図3に示す製造装置により、直径約3?13μmの金属粒子を製造した。」とそれぞれ記載され、さらに、同【0019】には、「接合構造部300は、金属間化合物結晶およびSn合金母相とを含み、前記金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造を有し、前記Sn合金母相が、前記金属体または合金体101、501と接合している。金属間化合物は、例えばCu_(6)Sn_(5)(その他Cu_(3)Sn)である。」と記載され、具体的に本件発明の課題を解決することができるものとして実証されているのは、CuとSnからなる合金及び金属間化合物であると認められる。

エ そして、本願発明も、「Sn合金母相」及び「金属間化合物結晶」は、CuとSnからなるものであることが特定されていることから、本願発明が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているということはできない。


3 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
ア 本願請求項1には、「金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造」と記載されている。

イ ここで、前記1(2)ア(イ)Dで摘示したとおり、本願発明の詳細な説明の【0011】において、「エント゛タキシャル接合とは、金属・合金となる物質中に他(金属間化合物)の物質を析出させた、対象となる物質間との結晶格子レベルでの接合状態にて結晶粒を構成する構造(例えば合金間、金属間、金属間化合物間)である。」と定義されているところ、意見書1の第3頁第1?7行の記載により、図2B(b)が示すエンドタキシャル接合について、0.30nmの格子定数で整合していることが理解できる。

ウ そして、意見書1において、エンドタキシャル接合とエピタキシャル接合とは、結晶格子レベルで接合していることは同じであると説明しつつ、同意見書1の第5頁図5において、エンドタキシャルについて「合金内で、金属結晶格子と金属間化合物結晶格子が格子整合を取りながら金属間化合物結晶が金属結晶に沿って界面成長を形成する(接合界面:エンドタキシャル接合)」とされ、また、同第7頁図7において、エピタキシャルについて「結晶面上で格子整合を取りながら成長面を形成する(接合界面:エピタキシャル接合)」とされていることから、エンドタキシャル接合とエピタキシャル接合は区別されていると認められる。

エ また、金属間化合物とSn合金母相の界面における「エンドタキシャル接合」の存在割合について、一義的には、一定量の存在で足りると解されるところ、意見書1の第5頁下から14行?7行における「エンドタキシャル接合とは、Sn合金母相中に金属間化合物が析出し、この析出の最中にSn合金母相と金属間化合物とが結晶格子レベルで接合し、結晶粒を構成するものでありますから、理論的にはエンドタキシャル接合は両者の界面全体にわたり形成され得ますが、実際にはエンドタキシャル接合を形成しないアモルファスな接合面が僅かに観察され得るものであって、【0014】?【0015】に記載の製造条件によれば、金属粒子の内部でSn合金母相と金属間化合物とが再現性良くエンドタキシャル接合が形成され、前記アモルファスな接合面はSEM像の観察から10%以下程度である」との記載からも、上記存在割合について理解できる。

オ 以上のとおりであるから、本願発明が明確でないということはできない。


4 特許法第39条第1項(先願)について
ア 本願出願前の出願である特願2017-31841号(特許第6174830号公報)には、以下の発明が記載されている(以下「先願発明」という。)。

「【請求項1】
CuおよびSnからなる金属粒子であって、
前記金属粒子は、SnおよびCuからなる金属間化合物とSn-Cu合金を含む金属マトリクスとを有し、
前記Sn-Cu合金は、γ-斜方晶を含み、
前記γ-斜方晶であるSn-Cu合金は、前記金属間化合物と接合し、かつ
前記γ-斜方晶であるSn-Cu合金と前記金属間化合物との接合が、エンドタキシャル接合である
ことを特徴とする金属粒子。」

イ 本願発明1と先願発明とを対比すると、先願発明が「金属粒子」に係るものであるのに対し、本願発明1が「接合構造部」に係るものであって、両者はまったく相違するものである。

ウ したがって、本願発明1と先願発明が同一であるということはできない。


5 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
ア 本願発明1?5は、接合構造部において、「SnおよびCuからなる金属間化合物結晶」が「SnおよびCuからなるSn合金母相」と「エンドタキシャル接合した結晶構造を有」するものである。

イ そして、本件の発明の詳細な説明における接合構造部の製造については、「SnおよびCuからなる金属間化合物結晶がSnおよびCuからなるSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造を有する金属粒子」を用いて、具体的には「8質量%Cuおよび92質量%Snを組み合わせた原材料(以下8Cu・92Snと称する)」により、「製造された金属粒子は、シート状あるいはペースト状に加工し、これを接合対象物に接した状態で不完全に溶融させた上で固化させることにより、良好な接合を形成する」(【0016】)として、「上記シートを金属体としてのCu電極間に挟み溶解接合を行った。上記本発明の金属粒子を用い、Snのもつ融点(231.9℃)で初期融解させ、接合構造部を形成した。」(【0029】)とされている。

ウ ここで、周知のCu-Snの平衡状態図によれば、8Cu・92Snの231.9℃における固溶体ηと液相の量比は、液相が約8割を占めることになるものと認められる。このように、多くが液相状態になる場合には、「窒素ガス雰囲気中で高速回転する皿形ディスク上に供給し、遠心力により該溶融金属を小滴として飛散させ、減圧下で冷却固化させる」ことによって得られた金属粒子のエンドタキシャル接合が、接合構造部を溶融・固化によって形成した後においても、その構造を維持し続けることができるのかについて検討を加える。

エ この点に関し、意見書2の第4頁第33?34頁において、「接合構造部の製造においては、・・・接合工程での加熱が平衡状態ではなく、平衡状態図のとおりに多くの割合が液相となるものではありません。」と補足的に説明がなされたところ、本願発明の詳細な説明の【0009】において、「金属粒子を含む接合材を接合工程で加熱する際に、当該接合材を完全には溶融させない半溶融状態」と記載されていることに鑑みれば、「SnおよびCuからなる金属間化合物結晶」周囲の「SnおよびCuからなるSn合金母相」の少なくとも一部は溶融せず、金属粒子が有していたエンドタキシャル接合をそのまま維持する部分があるものと理解することができる。

オ なお、意見書2の第4頁第34?40頁において、「例えば本願明細書段落0029に記載のようにSnのもつ融点(231.9℃)で初期融解させた場合、金属間化合物の融点が350?415℃程度であるため金属間化合物は溶融しません。一方、金属間化合物とエンドタキシャル接合したSn合金母相は溶融します。しかし、金属間化合物は、金属粒子のときの結晶格子を維持していますので、再凝固の際にSn合金母相は再度、金属粒子と同様のエンドタキシャル接合を形成します。したがいまして、接合構造部においても金属粒子誕生時の結晶格子の整合接合を維持できます。」と説明しているが、溶融・再凝固における結晶格子の整合接合は、前記3ウのとおり、意見書1の記載に基づいて、エピタキシャル接合と解されるものであることから、この説明は採用しない。

カ したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1?5に係る発明を実施することができる程度に記載されたものでないとまでは認められない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明1?5は、当業者が引用文献1?3に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものではないし、発明の詳細な説明に記載したものでないとも、明確でないとも、先願発明と同一であるとも認めることはできない。さらに、発明の詳細な説明が、実施可能要件に違反するとも認めることはできない。
したがって、原査定の理由及び当審が通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-17 
出願番号 特願2017-153952(P2017-153952)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B23K)
P 1 8・ 121- WY (B23K)
P 1 8・ 4- WY (B23K)
P 1 8・ 536- WY (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
板谷 一弘
発明の名称 接合構造部  
代理人 野田 茂  

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