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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A23L
管理番号 1352708
審判番号 不服2018-12620  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-21 
確定日 2019-07-01 
事件の表示 特願2017-171113「香気成分含有水溶液を含む液状製品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月22日出願公開、特開2019- 41725、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年9月6日の出願であって、平成29年10月17日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月21日付けで手続補正書及び意見書が提出され、平成30年2月7日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月19日に意見書が提出され、同年6月7日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年9月21日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年6月7日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?5に係る発明は、以下の引用文献1?14に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.北海道新聞, 2015.06.17, 朝刊地方, p.25, 釧B
2.日刊工業新聞, 2017.05.03, p.18
3.日刊工業新聞, 2015.10.09, p.30
4.特開2007-155172号公報
5.特開2010-131536号公報
6.特表2017-509623号公報
7.特開平01-153042号公報
8.実開平05-039296号公報
9.特開2005-126616号公報
10.特許第6024060号公報
11.特開2007-282550号公報
12.特開2002-88391号公報
13.特開2002-69479号公報
14.特開2001-64668号公報

なお、引用文献5?9、12?14は、本願出願時の技術常識を示すために引用された文献である。

第3 本願発明
本願請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、平成29年12月21日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
香気成分を含有する水溶液を含む飲用以外の液状製品の製造方法であって、
前記水溶液の溶媒となる水の一部又は全体を加える工程を有し、
前記水として、炭酸ガス溶存量及び酸素溶存量を低減又は零としかつ窒素を溶存させた窒素溶存水を用いることを特徴とする、香気成分含有水溶液を含む液状製品の製造方法。
【請求項2】
前記液状製品が、化粧品、整髪剤、洗濯用洗剤又は医薬品であることを特徴とする請求項1に記載の液状製品の製造方法。
【請求項3】
前記水を加える工程が、少なくとも香気成分と水とを混合する工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の、香気成分含有水溶液を含む液状製品の製造方法。
【請求項4】
前記水を加える工程が、香気成分を含む濃縮液又は原液を水で希釈する工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の、香気成分含有水溶液を含む液状製品の製造方法。
【請求項5】
前記水を加える工程が、懸濁液又は乳濁液を調製するために、少なくとも香気成分と水と懸濁物質又は乳濁物質とを混合する工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の、香気成分含有水溶液を含む液状製品の製造方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献1には、次の事項が記載されている。
(1a)「酸化防ぎ香りや風味維持*窒素氷 飲み物にも使おう*釧路のメーカー研究開始*ロックアイスに活用へ
・・・
窒素氷は水に窒素を注入して酸化の原因となる酸素を除去し、水産物の鮮度を保つことができる。・・・コーヒーやお茶などの飲み物はできたてのときは香りがあるが、時間がたつとともに水分が酸素と結びつき酸化して風味が失われる。酸素や不純物を取り除いた窒素氷を飲み物に入れることでふれる酸素の量を減らし、香りを維持できる可能性があるという。」

したがって、上記引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。
「水に窒素を注入して酸素を除去した窒素水を凍らせた窒素氷を加える工程を有する、香気成分を含有する飲料の製造方法。」(以下、「引用発明1」という。)

2.引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献2には次の事項が記載されている。
(2a)「”窒素氷”で香りまろやか-昭和冷凍プラントなどが変動評価-飲料に付加価値
【札幌】昭和冷凍プラント(・・・)は釧路工業技術センター(・・・)と共同で、飲料などの香りに関する変動評価を実施し、独自の窒素氷を使うと香りがまろやかになるなど変化することが分かった。窒素氷は水に窒素を注入し酸素を減らした窒素水をつくり、これを凍らせる。窒素氷技術が新たな付加価値を生み出す商品開発につながるとみており、数年内の事業化を目指す。

昭和冷凍プラントと釧路工業技術センターが実施した評価試験は、ウイスキーやコーヒー、リンゴなど8種類の試料を用意し、窒素氷と市販のロックアイス、水道水を使った氷の3種類を試した。それぞれ3グラムと試料2ミリリットルを容器に入れ、成分変化を分析した。

この結果、ウイスキーはカプリン酸が増えるなど香りがまろやかになったほか、リンゴ果汁は酢酸アミルが増加し、香りがより甘く感じられたなど、各試料で何らかの変化があったという。

釧路工業技術センター技術開発課の土居幹生主任は「窒素氷そのものとして利用するだけではなく、食品加工技術として窒素氷を生かしていける可能性がある」と話す。昭和冷凍プラントは結果を基に、大学などとの連携も図り、食品業界に訴求していきたい考えだ。

窒素氷は2005年に開発した。生鮮食品の酸化と好気性細菌の増殖を抑制する効果があるとされ、鮮度維持期間の延長につながるとしている。」

したがって、上記引用文献2には次の発明が記載されていると認められる。
「水に窒素を注入して酸素を除去した窒素水を凍らせた窒素氷を加える工程を有する、香気成分を含有する飲料の製造方法。」(以下、「引用発明2」という。)

3.引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献3には次の事項が記載されている。
(3a)「【新たな利用法】
水産物の鮮度維持に資する独自の「窒素氷」には、まだまだ新たな応用の可能性があると社長の若山敏次は考えている。現在、実用化に向けて研究を進めているのが、飲み物向けと臓器保存向けの利用方法だ。

飲み物向けの窒素氷については、氷の中に酸素がなくなり、コーヒーやお茶、ジュースなどの風味が落ちるのを防ぐのに役立つとみている。需要の伸びが期待される飲料用ロックアイスに生かしたいとして取り組んでいる。

2015年6月に窒素氷を飲み物向けに応用する研究を開始した。釧路工業技術センターに実験を依頼。アイスコーヒーやお茶などに水道水でつくった氷と窒素氷をそれぞれ入れ、同センターが昨年導入した装置を使い、香りの成分の変化を比較する。飲み物は時間がたつとともに水分と酸素が結びつき、酸化することで風味が失われる。

【連携も必要】

だが、窒素氷を入れることで酸素に触れる量を減らし、香りが維持できるとみている。最初の実験として、お茶では違いがみられたという結果が出たが、他の飲料でもデータを集計している最中だという。

臓器保存向けでは、窒素水を利用することで、肝臓の保存時間の延長につながるかどうかを調べた。第1段階の実験を釧路市内の病院で実施。ブタの肝臓を用いた実験では、窒素水を用いた保存液には一定の効果があるという結果が出た。一方で「今後、本格的に取り組みには、病院の医師の都合に加えて、大手企業との連携も必要になってくる」という。」

したがって、上記引用文献3には次の発明が記載されていると認められる。
「窒素氷を加える工程を有する、香気成分を含有する飲料の製造方法。」(以下、「引用発明3-1」という。)
「窒素水を用いて臓器を保存する方法。」(以下、「引用発明3-2」という。)

4.引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献4には次の事項が記載されている。
(4a)「【請求項1】
水中に窒素ガスを溶解させて、酸素溶存量を減少させた水を凍らせてなる窒素ガス封入氷。」

(4b)「【0001】
本発明は、魚介類、青果物、畜肉など生鮮食品の保存・輸送の際に起こりえる雑菌の発生、酸化を抑制し、鮮度を保持するために用いる、氷に窒素ガスを溶解させた窒素ガス封入氷、及びその製造装置、製造方法に関するものである。」

(4c)「【0013】
本発明の窒素ガス封入氷を用いれば、水槽内の水の水温を下げるのみならず、二つの意味で酸素溶存度を下げる効果を期待できる。一つは、窒素ガス封入氷がとければ、酸素溶存殿低い水となることであり、もう一つは、窒素ガス封入氷が水に浮くために水槽内の水の表面を覆い、大気中の酸素が水槽内の水に溶け込むことを防止することである。さらに、本発明に係る窒素ガス封入氷製造装置及び製造方法によれば、大気中の窒素を取り込んで、それを水に溶解して、窒素ガス封入氷を製造することが可能である。」

5.引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献5には次の事項が記載されている。
(5a)「【0001】
本発明は、ボイラー等へ供給する原水中の酸素成分及び炭酸成分を事前に除去する脱酸素脱炭酸装置に関し、特に被処理水のpH調整と窒素ガスとの接触処理とにより脱酸素脱炭酸処理を行う脱酸素脱炭酸装置に関する。」

(5b)「【0004】
pH調整と窒素ガスとの接触処理とによる従来の脱酸素脱炭酸処理は次のようにして行われる。原水中の酸素成分及び炭酸成分としては、溶存酸素、炭酸ガスの他、重炭酸イオン、炭酸イオンが存在している。溶存酸素、炭酸ガスは窒素ガスとの接触により除去されるが、イオン類は窒素ガスとの接触によっても除去されない。
【0005】
そこで先ず、原水を窒素ガスによる脱気処理塔に送る前に、その原水をpHが6.5以下の酸性に調整する。そうすると、化学式1に示すように原水中の重炭酸イオン及び炭酸イオンが遊離の炭酸ガスとなる。
【0006】
【化1】

【0007】
この状態で原水を窒素ガスによる脱気処理塔に送る。脱気処理塔では、原水に大量の窒素ガスが接触させられる。その結果、原水中の炭酸ガス及び溶存酸素が窒素ガスと置換され、原水中から除去される。特許文献1、2に記載された脱酸素脱炭酸処理では、この手順で脱酸素・脱炭酸処理が行われている。」

6.引用文献6
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献6には次の事項が記載されている。
(6a)「【0118】
緩衝液は、異なるやり方で調製することができる。例えば、脱気緩衝液を得るための脱気に基づいて調製することができる。「脱気緩衝液」とは、液体(特に水または水溶液)から溶存ガス(例えば酸素)が除去されていることを意味する。溶液に不活性ガスを吹き込むことで、酸素および二酸化炭素などの有害で反応性の溶存ガスが置換される。窒素、アルゴン、ヘリウム、および他の不活性ガスが一般的に使用される。置換を完了させるには、溶液を激しく攪拌し、溶液に長時間吹き込むべきである。いくつかの態様では、酸素含有量が1.0ppm未満(百万分率)になるまで緩衝液が窒素で脱気される。」

7.引用文献7
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献7には次の事項が記載されている。
(7a)(1頁左下欄下から5行?右下欄11行)
「コーヒ豆は炭水化物・蛋白質・脂質・カフェイン等の天然成分を有しているが、焙煎によって各種成分が熱分解して揮発性成分を喪失することが知られている。焙煎豆の揮発性成分は独特の香りや風味(flavour)と、香り(aroma)とから主に構成されているが、焙煎直後の焙煎豆に含まれている炭酸ガスが飛び出す際にフレーバーとアロマに富む揮発性成分が一諸に飛び出し、代わりに酸素が侵入して酸化が始まるものと考えられている。
上記炭酸ガスは、生豆中のクロロゲン酸、クエン酸或いは酢酸等の有機酸類や、分解して有機酸を生成する糖類等の分解によって発生するが、半分程度が焙煎時に放出され、残りの約1.5%?2.0%程度が焙煎豆の組織に揮発性成分とともに保有されている。」

8.引用文献8
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献8には次の事項が記載されている。
(8a)「【0002】
【従来技術とその課題】
開放型の醗酵タンクにおいては、例えば、清酒醪の醗酵中に、アルコールや香気成分などの揮発成分が炭酸ガスと共に揮発飛散されるという不都合がある。」

9.引用文献9
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献9には次の事項が記載されている。
(9a)「【0053】
表9より、アルコール抽出区と比較した場合、麹を使用したいずれの試験区においても、香気成分増強効果がある。ただしこの効果は麹の使用量が少ないほど大きく、麹の使用量が加える水に対して60重量%を超えると効果が得られない可能性がある。これは、麹の使用量が増えると、香気成分増強に効果のある酵素群の活性が過剰な糖分の存在により抑制されたか、あるいは発酵が過度に進むため、それに伴い遊離した香気成分が発酵中に炭酸ガスとともに揮散してしまうためと推察される。このことから麹の使用量は加える水に対し、60重量%以下であることが適していると言える。通常焼酎の仕込みの場合、麹の使用量は加える水に対し60重量%を超えており、このことから通常の焼酎の仕込み方法でハーブを加えた場合は、ハーブ由来の香気成分増強効果は小さいことが予想される。」

10.引用文献10
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献10には次の事項が記載されている。
(10a)「【0014】
窒素水は、酸素を含む通常の水に比べて酸化防止、化学反応抑制等の効果がある。本発明による窒素水は、飲用、調理用の水として有効である。また、洗顔用の水や化粧水など美容関連の水にも有効である。さらに、生鮮食品の洗浄用及び噴霧用の水にも有効である。またさらに、工業用水としての活用、土壌へ撒布する農業用水としての活用も可能である。またさらに、放射性廃棄物の処理及び土壌改良において利用される水としての活用も可能である。」

11.引用文献11
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献11には次の事項が記載されている。
(11a)「【請求項1】
生鮮食品の加工漬けに用いる加工水であって、該加工水中に窒素ガスを溶解させて、酸素溶存量を減少させた加工水。」

12.引用文献12
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献12には次の事項が記載されている。
(12a)「【請求項1】下記一般式(1)で表される化合物を用いることを特徴とする香料の香り立ち及び持続性を高める方法。
【化1】

(式中、AはH又はOH基を、BはH又はメチル基を、nは0?2の整数を表す。)
【請求項2】請求項1の一般式(1)で表される化合物からなる、有香成分及び/又は調合香料の香り立ち及び持続性強化剤。
【請求項3】請求項1の香料の香り立ち及び持続性を高める方法により有香成分及び/又は調合香料の香り立ち及び残香性が高められた香粧品、トイレタリー製品、入浴剤、飲食品又は医薬品。
【請求項4】請求項2に記載される有香成分及び/又は調合香料の香り立ち及び持続性強化剤を含むフローラル、シトラス、フルーティー、グリーン、ミント、ハーブ又はマリン調香粧品、トイレタリー製品、入浴剤、飲食品又は医薬品。」

13.引用文献13
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献13には次の事項が記載されている。
(13a)「【請求項1】下記式
【化1】

で表される(6R)-(-)-8,9-デヒドロテアスピロンからなる香質改善剤。
【請求項2】請求項1記載の(6R)-(-)-8,9-デヒドロテアスピロンが添加されていることを特徴とする香料組成物。
【請求項3】請求項2記載の香料組成物が添加されていることを特徴とする香粧品または食品。」

14.引用文献14
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前公知の頒布された刊行物である上記引用文献14には次の事項が記載されている。
(14a)「【0002】
【従来の技術】香料は、芳香剤、オーデコロン、香水などの芳香製品、クリーム、化粧水、制汗剤などの化粧品、リンス、コンディショナーなどのヘアケア製品、入浴剤、食品などの製品、衣料用洗浄剤、人体用洗浄剤、住居用洗浄剤、シャンプーなどの洗浄剤にも幅広く配合されている。このような香料関連分野では、従来から賦香目的以外に香粧品香料や食品香料等調合香料全体の揮発度を遅延し、初期の香調をバランス良く持続させる効果の目的で使用されるものがあった。調合香料は揮発性の高いものから揮発性の低いものまで多種類の有香成分によって構成されるが、そのままの状態で放置すれば揮発性の高い有香成分ほど早期に揮散し、やがて初期の香調のバランスが崩れ、その価値をなくすことになる。このような状態になるのを防ぐ目的で香料中並びに香料関連物質の中には保香剤として使用される物質が必要であり、このような保香剤が各種研究されてきた。このような保香剤として、ハーコリン、アルキレングリコール、アルキルシトレート、ベンジルベンゾエートなどの溶剤類や、ペルーバルサム、ベチバーベンゾイン、ラブダナム、オークモス、パチョウリ等の香料類がなどが使用されてきた。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明1又は引用発明2との対比・判断
ア 対比
本願発明1と引用発明1又は引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明1又は引用発明2における「水に窒素を注入して酸素を除去した窒素水」は、本願発明1における「酸素溶存量を低減しかつ窒素を溶存させた窒素溶存水」に相当する。
(イ)引用発明1又は引用発明2における「飲料」は、本願発明1における「飲用以外の液状製品」との対比において、「液状製品」である限りにおいて一致している。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「酸素溶存量を低減しかつ窒素を溶存させた窒素溶存水に関連する液状製品の製造方法。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明1は、「香気成分を含有する水溶液を含む飲用以外の液状製品の製造方法」であるのに対し、引用発明1又は引用発明2は、香気成分を含有する飲料の製造方法である点。
(相違点2)
本願発明1は、「香気成分を含有する水溶液の溶媒となる水の一部又は全体を加える工程」を有し、前記水として、「炭酸ガス溶存量及び酸素溶存量を低減又は零としかつ窒素を溶存させた窒素溶存水」を用いるのに対し、引用発明1又は引用発明2は、「水に窒素を注入して酸素を除去した窒素水を凍らせた窒素氷を加える工程を有する」ものである点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
引用発明1又は引用発明2は、飲料を冷却することに加えて、飲料自体に含まれる香気成分の酸化防止を目的として、飲料に窒素氷を加えるものである。そして、引用文献1には、窒素氷を加える対象として、飲料以外のものは記載も示唆もなされていない。
この点、引用文献2及び4には、窒素氷を、生鮮食品の保存のために用いることが記載されているものの(上記摘記事項(2a)及び(4b))、窒素氷を液状製品を製造するために用いるものではない上に、香気成分を含有する窒素を溶存する水溶液については何ら記載されていないから、引用発明1又は引用発明2の窒素氷を窒素溶存水に手段を変更して「香気成分を含有する水溶液を含む飲用以外の液状製品の製造方法」に用いることは、当業者といえども容易に想到できるものではない。
また、窒素水の用途としては、化粧水(引用文献10の上記摘記事項(10a))、臓器保存(引用文献3の上記摘記事項(3a))、食品用の加工水(引用文献11の上記摘記事項(11a))は知られているが、これらは窒素氷の用途として示されたものではないことに加えて、香気成分を含有する窒素を溶存する水溶液を含むものでもないから、これらの引用文献の記載から、本願発明1の相違点1に係る構成を当業者が容易に想到し得るものともいえない。
さらに、出願時の周知技術を示す引用文献5及び6は、窒素溶存水において、炭酸ガス溶存量が低減していることを示すだけであり、引用文献7?9は、特定の食品において、香気成分は炭酸ガスと共に揮発することを示すだけであり、引用文献12?14は、香りに関する技術の適用分野として化粧品及び食品がたまたま並列に記載されていることを示すだけであり、引用発明1又は引用発明2の窒素氷の用途に関する記載や窒素氷と窒素溶存水との関係に関する記載は全くないから、これらの引用文献の記載事項から、本願発明1の相違点1に係る構成を当業者が容易に想到し得るものともいえない。
したがって、引用文献1?14の記載事項を考慮しても、飲料の製造方法である引用発明1又は引用発明2を、香気成分を含有する水溶液を含む飲用以外の液状製品の製造方法とすることは、当業者といえども容易なことではない。

(イ)効果について
本願発明1は、香気成分を含有する水溶液の溶媒として窒素溶存水を用いることにより、通常の水を溶媒として用いる場合に比べて水溶液に溶解している香気成分が気相に放出され難くなり、より多くの香気成分が水溶液中に保持されるという効果を奏するものであって、この効果は、いずれの引用文献の記載からも当業者が予測できるものではない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、引用文献1又は引用文献2、及び引用文献3?14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)引用発明3-1との対比・判断
ア 対比
本願発明1と引用発明3-1とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明3-1における「窒素氷」は、窒素溶存水を凍らせたものと認められる。
(イ)引用発明3-1における「飲料」は、本願発明1における「飲用以外の液状製品」との対比において、「液状製品」である限りにおいて一致している。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「窒素溶存水に関連する液状製品の製造方法。」

(相違点)
(相違点3)
本願発明1は、「香気成分を含有する水溶液を含む飲用以外の液状製品の製造方法」であるのに対し、引用発明3-1は、香気成分を含有する飲料の製造方法である点。
(相違点4)
本願発明1は、「香気成分を含有する水溶液の溶媒となる水の一部又は全体を加える工程」を有し、前記水として、「炭酸ガス溶存量及び酸素溶存量を低減又は零としかつ窒素を溶存させた窒素溶存水」を用いるのに対し、引用発明3-1は、「窒素溶存水を凍らせた窒素氷を加える工程を有する」ものである点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点3について
引用発明3-1は、引用発明1及び2と同様に、飲料を冷却することに加えて、飲料自体に含まれる香気成分の酸化防止を目的として、飲料に窒素氷を加えるものである。そして、引用文献3には、窒素水の用途として臓器保存は記載されているものの、これらは窒素氷の用途として示されたものではない上に、香気成分を含有する窒素を溶存する水溶液を含むものでもない。また、引用文献1には、窒素氷を加える対象として、飲料以外のものは記載も示唆もなされていない。
この点、引用文献2及び4には、窒素氷を、生鮮食品の保存のために用いることが記載されているものの(上記摘記事項(2a)及び(4b))、窒素氷を液状製品を製造するために用いるものではない上に、香気成分を含有する窒素を溶存する水溶液については何ら記載されていないから、引用発明3-1の窒素氷を窒素溶存水に手段を変更して「香気成分を含有する水溶液を含む飲用以外の液状製品の製造方法」に用いることは、当業者といえども容易に想到できるものではない。
また、窒素水の用途としては、化粧水(引用文献10の上記摘記事項(10a))、食品用の加工水(引用文献11の上記摘記事項(11a))は知られているが、これらは窒素氷の用途として示されたものではないことに加えて、香気成分を含有する窒素を溶存する水溶液を含むものでもないから、これらの引用文献の記載から、本願発明1の相違点3に係る構成を当業者が容易に想到し得るものともいえない。
さらに、出願時の周知技術を示す引用文献5及び6は、窒素溶存水において、炭酸ガス溶存量が低減していることを示すだけであり、引用文献7?9は、特定の食品において、香気成分は炭酸ガスと共に揮発することを示すだけであり、引用文献12?14は、香りに関する技術の適用分野として化粧品及び食品がたまたま並列に記載されていることを示すだけであり、引用発明3-1の窒素氷の用途に関する記載や窒素氷と窒素溶存水との関係に関する記載は全くないから、これらの引用文献の記載事項から、本願発明1の相違点3に係る構成を当業者が容易に想到し得るものともいえない。
したがって、引用文献1?14の記載事項を考慮しても、飲料の製造方法である引用発明3-1を、香気成分を含有する水溶液を含む飲用以外の液状製品の製造方法とすることは、当業者といえども容易なことではない。

(イ)効果について
本願発明1は、香気成分含有水溶液の溶媒として窒素溶存水を用いることにより、通常の水を溶媒として用いる場合に比べて水溶液に溶解している香気成分が気相に放出され難くなり、より多くの香気成分が水溶液中に保持されるという効果を奏するものであって、この効果は、いずれの引用文献の記載からも当業者が予測できるものではない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、引用文献3、並びに引用文献1、2及び4?14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)引用発明3-2との対比・判断
ア 対比
本願発明1と引用発明3-2とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明3-2における「窒素水」は窒素溶存水を意味するものと認められる。
(イ)引用発明3-2における「臓器を保存する方法」は、飲用以外の用途である。
したがって、両者は、窒素溶存水を飲用以外の用途に用いる方法である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
(相違点5)
本願発明1は、「香気成分を含有する水溶液を含む飲用以外の液状製品の製造方法」であるのに対し、引用発明3-2は、臓器を保存する方法である点。
(相違点6)
本願発明1は、「香気成分を含有する水溶液の溶媒となる水の一部又は全体を加える工程」を有し、前記水として、「炭酸ガス溶存量及び酸素溶存量を低減又は零としかつ窒素を溶存させた窒素溶存水」を用いるのに対し、引用発明3-2は、窒素水を用いることは記載されているものの、窒素水について「炭酸ガス溶存量及び酸素溶存量を低減又は零としかつ窒素を溶存させた窒素溶存水」という特定がなく、かつ、「香気成分を含有する水溶液の溶媒」として「水の一部又は全体を加える工程」の特定がない点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点5について
引用発明3-2は、臓器の鮮度維持を目的として、窒素水を使用して臓器を保存する方法に係る発明であって、液状製品の製造方法ではない上に、香気成分を含有する窒素を溶存する水溶液を含むものでもないから、窒素水を「香気成分を含有する水溶液を含む飲用以外の液状製品の製造方法」に用いることは、当業者といえども容易に想到できるものではない。
また、上記したとおり、引用文献1、2、4?14には、窒素水の用途として、本願発明1の「香気成分を含有する水溶液を含む飲用以外の液状製品の製造」については記載も示唆もないから、これらの引用文献の記載事項から、本願発明1の相違点5に係る構成を当業者が容易に想到し得るものともいえない。
したがって、引用文献1?14の記載事項を考慮しても、引用発明3-2において、本願発明1の相違点5に係る構成を想到することは、当業者といえども容易なことではない。

(イ)効果について
本願発明1は、香気成分含有水溶液の溶媒として窒素溶存水を用いることにより、通常の水を溶媒として用いる場合に比べて水溶液に溶解している香気成分が気相に放出され難くなり、より多くの香気成分が水溶液中に保持されるという効果を奏するものであって、この効果は、いずれの引用文献の記載からも当業者が予測できるものではない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、引用文献3、並びに引用文献1、2及び4?14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2?5について
本願発明2は、本願発明1を引用して、液状製品が、化粧品、整髪剤、洗濯用洗剤又は医薬品であることを限定した発明であり、本願発明3?5は、本願発明1又は2を引用して、水を加える工程をさらに限定した発明である。
このように、本願発明2?5は本願発明1を引用した上で、さらに技術的に限定した発明であるから、本願発明1の、「香気成分を含有する水溶液を含む飲用以外の液状製品の製造方法」の発明特定事項を備えるものであり、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?5は、当業者が引用発明1?14に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-10 
出願番号 特願2017-171113(P2017-171113)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平林 由利子  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 中島 芳人
冨永 みどり
発明の名称 香気成分含有水溶液を含む液状製品の製造方法  
代理人 小島 高城郎  

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